癌と化学療法
Volume 31, Issue 6, 2004
Volumes & issues:
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総 説
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RNAiに関する基礎研究とその応用
31巻6号(2004);View Description Hide DescriptiondsRNA により遺伝子の発現を抑制する技術であるRNAiが近年話題を呼んでいる。生体に導入されたdsRNA はDicerと呼ばれる酵素によるプロセッシングを受け21〜23塩基の断片(siRNA)となりRISC と呼ばれる蛋白複合体をつくる。RISC はその後siRNA と相補的な配列をもつmRNA を認識し切断する。RNAiを誘導する方法には化学合成または試験管内で転写されたdsRNA を直接細胞に導入する方法とベクターを細胞に導入し細胞内でsiRNA を発現させる方法の2種類がある。哺乳動物細胞においても適用が可能となった現在RNAiは簡便で強力な遺伝子発現抑制ツールとして広く使われるようになった。遺伝子の機能解析や遺伝子治療などその応用は幅広い。しかしRNAiのメカニズムは完全には解明されておらず標的配列の選定方法など実用面においてクリアすべき課題もある。また生体に内在するmiRNA と呼ばれる同じく小さなRNA も自身と相同性の高いmRNA を標的とするが切断はせずmRNA に結合して翻訳を阻害する。miRNA は遺伝子発現制御に極めて重要に関与し細胞の分化個体の発生を調節していることが示唆されている。
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特 集
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- 【がん疫学の最新情報 】
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わが国のがん死亡動向
31巻6号(2004);View Description Hide Description日本のがん死亡について全死因死亡との比較部位別年齢階級別の比較を中心に概説した。日本の全がん死亡は他死因による死亡の改善に伴い特に幼年と中壮年層でその割合が増加している。死亡数では高齢化の影響を受け増加傾向にあるが年齢調整率では男女とも男性では増加傾向から近年頭打ち女性では減少傾向から近年減少傾向が軽減しつつある。日本のがん死亡は人口の高齢化社会状況の変化の影響ががん死亡の推移にも反映され特に部位別にみると特徴的な様相を呈していることがうかがえた。肺や肝臓では前後の出生コホートより死亡率の低いあるいは高い出生コホートの存在が示唆されている。こうした出生コホート効果は喫煙や肝炎ウイルスなど強い関連要因の動向の影響が表れている。日本におけるがん死亡の将来の動向を予測するにはそうした影響について考慮することが重要であると考えられる。 -
わが国のがん罹患動向
31巻6号(2004);View Description Hide Description「地域がん登録」研究班が推計した全国がん罹患数率の推計値に基づきわが国のがん罹患の動向を記述し分析した。1975〜1998年に全がん罹患数は男性では111,000から290,000人へと2.6倍女性では96,000から208,000人へと2.2倍に増大した。部位別には男女の大腸(結腸直腸) 肺肝臓膵臓胆?胆管男性の前立腺女性の乳房などで増加比が大きく一方男女の胃子宮で小さかった。罹患数増加の主要因はわが国の高齢者人口の増大にあるが男女の大腸前立腺女性乳房の各がん年齢調整罹患率はこの間の増加傾向が顕著であった。一方男女の胃子宮がんでは減少傾向にあった。がん罹患率を性別年齢階級別出生年代別に分析することによりわが国のがん罹患が世代の影響を強く受け大きく変化してきたことを明らかにした。「5大陸におけるがん罹患(第8巻)」に基づき米国白人日系人でのがん累積罹患リスク(0〜79歳)を算出し日本の6登録での値と比較することによりわが国のがん罹患の特徴に言及した。 -
食事要因(肥満・運動)に関するエビデンス
31巻6号(2004);View Description Hide Description米国での推計では食習慣や肥満そして運動不足の改善によりがんの約35%が予防可能であるとされている。2003年の世界保健機関と食糧農業機関による評価では食事要因とがんとの関連で確実といえるエビデンスがそろっているのは運動(結腸) 肥満(食道<腺がん> 結腸直腸乳房<閉経後>) 子宮腎臓) 飲酒(口腔咽頭喉頭食道肝臓乳房) アフラトキシン(肝臓) 中国式塩蔵魚(鼻咽頭)。また可能性が高いと思われる関連は野菜果物(口腔食道胃結腸直腸) 運動(乳房) 貯蔵肉(結腸直腸) 塩蔵品および食塩(胃) 熱い飲食物(口腔咽頭食道)などである。これらは主として欧米人からのエビデンスであるので今後は日本人を対象とした疫学研究に基づいて日本人に適したがん予防のための食事指針などを作成する必要がある。 -
遺伝子多型とがん発生リスク
31巻6号(2004);View Description Hide Description遺伝子多型は遺伝病遺伝子とは異なり生涯累積発生率(浸透率)は高くはない。がん発生に関連する遺伝子多型は① 発がん物質を代謝する酵素(CYPs GSTs NQO1など) ② DNA 修復酵素(OGG 1 XRCC 1 XPD など) ③ DNA合成とメチル化に関与する酵素(MTHFR MS など) ④ サイトカインおよび炎症に関する酵素(IL-1B TNF-A MPOなど) ⑤ 性ホルモンの代謝酵素と受容体(CYP 19 SRD 5A 2 ER など)に大別される。遺伝子型は変えることができないことから予防の対象となる要因ではないが生活習慣と疾病発生との関連の強さが遺伝子型により影響を受けるという知見(遺伝子環境交互作用)は予防活動での利用に道を開くものである。 -
タバコ・コントロール対策
31巻6号(2004);View Description Hide Description日本において喫煙の健康影響に関する疫学研究は欧米先進国に比べて質量ともに劣っていないにもかかわらずタバココントロールの取り組みは大きく立ち遅れている。このためがん罹患率死亡率の減少という成果は上がっていない。これはたばこ業界の利益を国民の健康に優先させる日本政府の態度によるものと思われる。このような困難を切り開く役割は医師組織団体医学会が担わなければならない。2004年3月10日日本政府がようやく98番目に署名したWHOたばこ規制枠組み条約の趣旨を十分生かすように国内法などの整備に向けて医師組織団体医学会は政府国会メディアに働き掛ける必要があると考える。 -
肝炎・肝がん対策
31巻6号(2004);View Description Hide Descriptionわが国における肝がん死亡はこの30年間増加の一途をたどってきており現在ではそのほとんどがC 型肝炎ウイルスの持続感染に起因することが明らかとなっている。過去10年以上にわたり蓄積してきたウイルス肝炎肝がんの疫学的データを基に「病因論にもとづいた肝炎肝がん対策」を全国規模で具現化すべく2002年度から肝炎ウイルス検診が5年計画で実施に移された。この検診を実効あるものにするために正しい検査の普及を図ること検診受診率の向上を図ることそして検診により発見されたHCV キャリアの医療機関受診率の向上とフォローアップ率の向上を図ることさらに肝炎の活動度病期に応じた治療を組織的に行うことができるネットワークをそれぞれの地域の実情に合わせた形で作りあげることが求められる。 -
がん検診の有効性評価と勧告—欧米の現状とわが国での最近の見直し—
31巻6号(2004);View Description Hide Description検診によるがん対策はいわゆるEvidence Based Healthcare(EBH)の一環として有効性すなわち死亡率減少効果の確立した検診を基本としてがん死亡の低下をめざすのが世界の標準的な戦略である。これとは異なりわが国ではこれまで事前に有効性の評価なしにがん検診が多く行われてきた。しかし最近になってわが国でも有効性に基づいてがん検診を行うべきことへの理解が生まれがん検診の見直しが始まりつつある。EBH による世界のがん検診の取り組みを米国がん協会(ACS)のガイドラインを例にとり要約して紹介し併せて最近行われたわが国の乳がん検診と子宮がん検診の見直しについてごく簡単に述べる。
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原 著
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進行・再発胃癌に対するSecond-Line ChemotherapyとしてのWeekly Paclitaxel療法
31巻6号(2004);View Description Hide Description前治療歴を有する進行再発胃癌11例を対象として胃癌治療におけるweekly paclitaxel療法の有用性を検討した。投与法はshort premedication後にpaclitaxel70mg/m??を5%グルコース250ml に溶解して1時間かけて静脈内に投与した。Paclitaxelは1週間に1回3週連続投与1週休薬を1クールとした。1〜23クール(平均5.4クール)の投与が施行され奏効率は33%であった。副作用としてはgrade3以上の好中球減少が27.2%に認められた。全生存期間の中央値は160日無増悪生存期間の中央値は104日であった。Weekly paclitaxel療法はsecond-line chemotherapy以降の胃癌化学療法として有用であることが示唆された。ただしperformance status 2以上の症例ではgrade 3以上の好中球減少が生じやすく注意が必要である。 -
大腸癌腫瘍内Dihydropyrimidine Dehydrogenase発現と5-Fluorouracil+Leucovorin+UFT療法の効果
31巻6号(2004);View Description Hide Description5-fluorouracil(5-FU)の分解経路の律速酵素であるdihydropyrimidine dehydrogenase(DPD)の大腸癌組織内発現程度と5-FU 系抗癌剤の臨床効果の関係を検討した。5-FU+Leucovorin+UFT 療法を受け腫瘍内DPD を定量し得た根治度C あるいは再発大腸癌28例を対象としたCR+PR+NC(time to progression:TTP≧90日)を有効例PD+NC(TTP<90日)を無効例とすると有効例10例と無効例18例のDPD 値に有意差を認めなかった(p=0.58)。DPD 値を高値群(83.2U/mg protein以上n=6) 中間群(20.4〜83.1U/mg protein n=12) 低値群(20.4U/mg protein未満n=10)の3群に分けると上記有効例の比率は各々0 50 40%であった。以上から腫瘍内DPD 発現量が高値である場合には本法の効果は期待できないことが示唆されたがDPD 発現が高くない場合有効例と無効例のDPD 値はoverlapしており本法の効果を予測するのに適切なcutoff値を設定することは困難と考えられた。 -
Danenberg Tumor Profile法による大腸癌におけるTSおよびDPD mRNA発現量の検討
31巻6号(2004);View Description Hide Description5-fluorouracil(5-FU)の抗腫瘍効果は癌組織内の標的酵素thymidylate synthase(TS) 分解酵素dihydropyrimidinedehydrogenase(DPD)の多寡に大きく左右される。最近Danenberg らはホルマリン固定パラフィン包埋切片からlaser captured microdissectionによって採取した細胞を用いた遺伝子レベルの発現を測定するDanenberg Tumor Profile(DTP)法を開発した。そこで大腸癌の原発巣47病巣転移巣12病巣のパラフィン包埋切片についてDTP 法によりTS DPD 遺伝子発現を測定した。原発巣におけるTS 遺伝子の発現は癌細胞で有意に高値であるのに対しDPD 遺伝子では間質細胞で有意に高い発現を示した。また原発巣と転移巣ごとに遺伝子発現を比較するとTS DPD 遺伝子レベルともに原発巣転移巣ごとに発現の差がみられた。パラフィン包埋切片から遺伝子発現の検討が可能なこのDTP 法は今後個別化治療の検証に向けて貴重な情報を提供すると考えられる。 -
進行再発大腸癌に対するCPT-11/5-FU/ l -LV療法の有効性の検討
31巻6号(2004);View Description Hide Description当院にて過去1年8か月間に進行再発大腸癌に対しCPT-11/5-FU/l-LV 療法を施行した10例について治療結果や有害性をまとめ本療法の有効性と安全性の検討を行った。10例の背景は平均年齢64.3歳男性7例女性3例で原発部位は結腸2例直腸8例であった。再発転移部位は肝肺転移5例リンパ節転移1例骨髄転移1例骨盤内再発3例であった。化学療法はCPT-1150mg/m2/週+5-FU 400mg/m2/週+l-LV 20mg/m2/週を3週1休のレジメンにて施行した。初回治療として行われた症例(first-line群)が5例で前治療として5-FU/l-LV 療法が施行された後に本療法を施行した症例(second-line群)が5例であった。本療法の効果はfirst-line群でCR が1例PR が4例で平均奏効期間は6.8か月平均生存期間は10.0か月であった。second-line群では奏効例はなかった。有害事象としては4例にgrade1〜2の白血球減少を認めるのみで全例外来通院で治療可能であった。本療法は進行再発大腸癌に対し初回治療として有効な化学療法と考えられた。 -
進行・再発乳癌に対する多施設共同でのWeekly Taxol(TXL)投与の効果と安全性の検討
31巻6号(2004);View Description Hide Descriptiontaxol(TXL)の外来治療の可能性を目的とし前投薬としてshort-premedication法を取り入れTXL weekly投与法の効果安全性について多施設共同研究を行った。対象は進行再発乳癌患者でTXL 投与量は60mg/m??とし投与スケジュールは毎週1回連続投与または3週投与1週休薬のどちらかの方法を選択することとした。最終登録症例数は36例で再発部位は局所8例肺胸膜24例肝9例骨16例リンパ節15例心外膜2例脳転移2例であった。CR 2例PR 12例NC 9例PD 8例NE 5例であり奏効率は45.2%であった。副作用では非血液毒性としてgrade 4の食欲不振が認められたがその他は筋肉関節痛末梢神経障害などでいずれもgrade1〜2の軽微なものであった。血液毒性でもgrade 3の白血球減少が5例に好中球減少が4例にヘモグロビン減少が1例に認められただけであった。 -
上皮性卵巣癌におけるDocetaxel,Carboplatin(DJ)療法の検討
31巻6号(2004);View Description Hide Description今回上皮性卵巣癌患者に対しdocetaxelとcarboplatin(DJ)併用療法を施行しその安全性と一次効果について検討した。FIGOⅠc〜Ⅳ期の上皮性卵巣癌患者15例に対しdocetaxel(70mg/m2)+carboplatin(AUC=5)を3週ごとに施行した。初発症例11例再発症例4例であった。判定可能であった7例の一次効果についてCR は6例PR は1例であった。また測定病変のない症例のCA 125について2例に有効な効果が認められた。血液毒性では86.7%にgrade3または4の好中球減少症を認めた。また非血液毒性ではdocetaxelの過敏症および脱毛をそれぞれ13.3%に認めた。浮腫は認められなかった。DJ 療法は過敏症に対しての考慮の余地があるものの高率に出現した骨髄抑制はG-CSF にてコントロールが容易であり卵巣癌患者に対し有用な治療法と考えられた。
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症 例
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TrastuzumabとPaclitaxel併用療法でCRが得られた転移性乳癌の1症例
31巻6号(2004);View Description Hide Description症例は60歳女性。1997年3月他院で左乳癌の診断で乳頭温存乳腺全切除術が施行された。病理診断はductalcarcinoma in situ であった。2000年1月左乳房に局所再発し当科に紹介された。局所再発乳癌の診断で残存乳房切除術を施行した。術後はUFT とCPA を投与していたが同年9月に左鎖骨上リンパ節に転移しCPA THP-adriamycine5-FU の点滴静注を行った。2001年4月に左上腕左胸壁右乳房の皮膚と右腋窩リンパ節に転移しdocetaxel 続いてmitoxantrone 5′-DFUR MPA の複合療法を行ったが無効であった。HercepTest が強陽性であったので同年9月よりtrastuzumabを投与しPR を得た。しかし2002年1月に左胸壁に多数の腫瘤が出現したためtrastuzumabとpaclitaxelの併用療法に変更した。3か月後にはCR が得られ2003年6月現在CR を維持している。 -
単独Toremifene高用量で多発性骨転移の著明な改善をみた再発乳癌の1例
31巻6号(2004);View Description Hide Description単独toremifene高用量で多発性骨転移の著明な改善をみた再発乳癌の1例について報告する。症例は64歳女性。右乳癌術後内分泌化学療法としてCA 療法(cyclophosphamide500mg/m?? ADM 50mg/m2 3週ごと)を6サイクル実施tamoxifen 20mg/日を投与されていた。術後1年6か月目に多発骨転移と腫瘍マーカーの上昇が認められた。toremifene120mg/日投与を開始した。6か月後骨転移像は消失し腫瘍マーカーも正常化した。toremifene高用量治療は再発乳癌の内分泌療法として有用であると思われた。 -
TS-1投与が著効した胃癌術後肝転移の1例
31巻6号(2004);View Description Hide Description症例は72歳男性。2001年7月3日リンパ節転移を伴う4型胃癌に対し根治度B の胃全摘術が他院にて施行された。術後3か月目の腹部CT 検査にて肝S 8に直径4cm の転移巣が認められた。TS-1(100mg/day)を4週投与後患者の希望にて当科へ紹介転院となった。当院受診時コントロール不可の糖尿病を認めたためTS-1投与を中止し糖尿病の治療を優先した。血糖管理後術後6か月目よりTS-1(100mg/day)の経口投与を3週投与2週休薬にて開始した。2クール終了時点でのCT 検査で肝転移巣はPR となった。6クール目の途中にgrade 2の発熱が出現したため投与方法を2週投与1週休薬に変更した。2週投与1週休薬6クール終了後にgrade2の皮膚症状が出現したため休薬とした。投与開始後21か月目のCT 検査にて肝転移巣はCR となった。投与開始後23か月目の現在再発の徴候なく通院加療中である。 -
TS-1投与が奏効した進行胃癌の1例
31巻6号(2004);View Description Hide Description症例は73歳女性。食思不振の精査にてリンパ節腫大を伴うBorrmann 2型胃癌と診断された。2000年11月に手術施行したが大動脈周囲リンパ節が拇指頭大に腫大し根治的切除は困難と診断し胃切除術のみ行った(N 3 Stage㈿)。術後TS-1を100mg/日にて4週投与2週休薬を1クールとして投与を開始した。1クール終了時の腹部CT にて大動脈周囲リンパ節腫大は著明に縮小し有意な転移リンパ節は認められなかった。その後副作用のため投与量を減量して投与を続けている。術後34か月現在再発兆候を認めていない。 -
化学療法が著効し根治切除可能となった腹膜播種陽性胃癌の1例
31巻6号(2004);View Description Hide Description症例は66歳男性。胃前庭部の3型進行胃癌で高度な他臓器浸潤と腹膜播種のため他院でバイパス術を施行した後化学療法を目的に当院に紹介入院となった。以後当院において5-FU 470mg/body(day1〜5) Leucovorin 30mg/body(day 2〜5) cis-platinum 20mg/body(day 1〜5) methotrexate 50mg/body(day 1)を1コースとする治療を4週ごとに施行したところCT 検査所見において2コース終了後には腫瘍と浸潤臓器との境界が明瞭となり7コース終了後には腫瘍陰影は消失した。切除可能と判断し膵頭十二指腸切除と横行結腸合併切除術を施行した。病理診断は中分化型腺癌pT 3 pN 1(No.4d No.6) pP 0 stage㈽ A 根治度B であった。術後9か月後に腹膜再発により永眠したがその間比較的高いQOL を保つことができた。腹膜播種症例に対し化学療法を施行した結果根治切除が可能となったまれな症例であり生存期間の延長のみならずQOL 改善の観点より腹膜播種症例に対するNAC の有用性が示唆された。 -
低用量Irinotecan Hydrochloride/Cisplatinにより腹膜播種陰性となり根治手術が可能となった進行胃癌の1例
31巻6号(2004);View Description Hide Description腹腔鏡下観察による腹水迅速細胞診にてCY 1が確認された46歳女性の3型胃癌症例で中等量methotrexate/5-FU 時間差療法を施行したがCY 陰性化が得られなかった症例に対し低用量irinotecan hydrochloride(CPT-11)/cisplatin(CDDP)併用療法を施行した。外来にて2週間に1回の頻度で合計8回投与した後再度腹腔鏡下観察にて腹水迅速細胞診を施行したところCY 陰性化が確認されD 3郭清を伴う胃全摘術脾臓摘出術胆?摘出術を施行し根治度B の手術が達成可能であった。CPT-11/CDDP 併用療法中の有害事象はgrade 1の白血球減少で術後経過は順調であった。本報告は低用量CPT-11/CDDP 併用療法前後でCY 因子の陰性化が組織学的に確認されている点が他報告にはない特徴でありさらに本治療法はその作用機序からフッ化ピリミジン系薬剤に抵抗性を示す再発進行胃癌症例にも有効であることが示唆された。 -
TS-1による術前化学療法が奏効したBulky N2転移胃癌の1例
31巻6号(2004);View Description Hide Description症例は62歳男性。胃内視鏡検査で噴門部から体上部の3型胃癌と診断され腹部CT 検査で小弯側から総肝動脈周囲に腫大したリンパ節の集塊を認めた(cT 3N 2H 0P 0M 0 StageⅢB)。手術根治性を高める目的でTS-1120mg/dayを4週間連日投与したところ重篤な有害事象を認めることなく原発巣リンパ節ともに縮小効果を認めた。2週間休薬後に胃全摘脾合併切除術D 2リンパ節郭清を施行した。病理組織学的所見はpor pT 2(SS) pN 1(#1 3) ly3 v 0 pPM(−) pDM(−) StageⅡ 根治度B で化学療法の組織学的効果は原発巣リンパ節ともにgrade 2と判定された。術後経過は極めて良好で11か月経過の現在転移再発の徴候を認めない。進行胃癌に対するTS-1単剤による術前化学療法は簡便であり有効な治療法となり得ることが示唆された。 -
Weekly Paclitaxel+5-FU投与(FT療法)が有用であった黄疸を伴う切除不能胃癌の1例
31巻6号(2004);View Description Hide Descriptionweekly paclitaxel(TXL)+5-fluorouracil(5-FU)投与(FT 療法)が有用であった切除不能胃癌の1例を経験したので報告する。投与法は5-FU 600mg/m2/day持続静注day 1〜5およびTXL 90mg/m2/day day 8 15 22を28日1コースとして繰り返した。TXL の前投薬はshort premedication法として外来にて投与し5-FU 投与期間中のみ入院治療を原則とした。本症例の治療前は腹水貯留閉塞性黄疸がみられperformance statusも2と不良の状態であったが治療開始後QOL が向上しPS も0となった。腫瘍マーカーは正常化しCT 上認められた腹水は消失標的病変であった傍胃リンパ節もPR となった。有害事象も脱毛以外にgrade2以上のものを認めず1年4か月を経過した現在も治療継続中(18コース目)である。本治療法は全身状態不良の症例にも比較的安全に施行可能でありかつ治療効果としても有用な治療法であると思われた。 -
胃癌由来転移性卵巣腫瘍に対するUFT,Cisplatin併用化学療法
31巻6号(2004);View Description Hide Description胃癌由来の転移性卵巣腫瘍であるKrukenberg 腫瘍は非常に予後不良な疾患で診断から2年以上生存することはまれである。卵巣腫瘍摘出後の化学療法が奏効したことによって長期に良好な予後が得られたと考えられる症例を経験した。本症例にはUFT とCDDP との併用療法を行ったが5-FU とCDDP とは併用による抗腫瘍効果増強が注目されFP 療法として諸家によってその投与方法が検討されている薬剤である。本症例に対する治療は5-FU の投与をUFT の経口投与で行ったことに特徴がある。本症例は本治療法が安全性が高く長期予後の改善にも寄与し得る有効な治療法であることを示唆する重要な症例であると考えられる。 -
Paclitaxel・Carboplatin(TJ)化学療法が奏効した子宮体癌の肺転移症例
31巻6号(2004);View Description Hide Description背景:進行子宮体癌患者の予後は不良である。さらに進行子宮体癌に対する確立した治療法も存在していないのが現状である。症例:症例は32歳0回経妊0回経産不正性器出血あり2001年8月10日当科初診した。子宮内膜細胞診子宮内膜組織検査にて類内膜癌であった。また胸部X 線にてcoin lesionがあり胸部CT にて転移性肺腫瘍と診断された。MRIにて子宮内腔にtumorを認めjunctional zoneの消失があり子宮筋層および頸部への浸潤が疑われた。9月12日子宮体癌㈿b期の診断にて広汎性子宮全摘出術両側付属器切除術骨盤リンパ節郭清術を行った。術後組織診断にてendometrioidadenocarcinoma, grade 1で子宮頸部浸潤があり筋層浸潤は1/2以内であった。骨盤リンパ節転移はなかった。術後のpostsurgical staging はpT4N0M1であった。術後の追加治療は肺転移もありpaclitaxel carboplatin化学療法を選択した。10月2日よりpaclitaxel300mg/bodyとcarboplatin(AUC 5)600mg/bodyを3クール施行した。胸部X 線と胸部CT所見より肺転移巣が消失した。その後2002年11月11日に再び胸部CT 所見より肺転移巣が出現しpaclitaxel 300mg/bodyとcarboplatin(AUC 5)600mg/bodyを6クール施行した。2003年8月1日現在胸部CT 所見にて痕跡を認めるのみで経過観察中である。結論:本症例の臨床経過からTJ 併用療法は進行子宮体癌に対しての寛解導入療法や術後補助療法として有用である可能性が示唆された。 -
2年生存を得たGemcitabine投与切除不能進行膵癌の2例
31巻6号(2004);View Description Hide Descriptiongemcitabine(GEM)は進行膵癌治療の基準薬として広く使用されている。当科では30例の根治不能膵癌に対し使用し生存期間2年以上の症例を2例経験した。症例1:82歳女性。高齢および腹腔動脈に浸潤しており非切除とした。GEM 使用中は腫瘍の増大を認めなかった。副作用として心不全貧血出現したため総量16,800mg で中止。以後経過観察しているが腫瘤の増大を認めるようになった。症例2:39歳男性。閉塞性黄疸で発症。肝リンパ節転移を認めた。metallic stentにより減黄した。GEM 投与中腫瘍の増大は認めなかったが副作用として発疹が出現し総量51,800mg で中止した。なお本例はtumor ingrowthやsludgeによる再閉塞を認めそのつど内視鏡的治療で対応した。進行膵癌でもGEM 治療により生存期間の延長が期待できるが長期生存例の増加に伴い膵癌に伴う合併症やGEM の長期使用に伴う副作用が多く認められるようになると推測される。今後は閉塞性黄疸をはじめとする合併症や副作用の管理がより重要な問題になると考えられた。 -
Thalidomide,Celecoxib,Gemcitabineが奏効した切除不能進行膵癌の1例
31巻6号(2004);View Description Hide Description症例は65歳男性。2002年1月11日臍部より悪臭を伴った汚泥物質の分泌があり近医を受診。肺肝転移を伴った手術不能膵癌の診断を受ける。2002年2月18日よりthalidomide:200mg/日就寝前celecoxib:400mg/日朝夕gemcitabine:1g/回10日ごと点滴静注の併用療法を施行した。併用療法開始1か月後(gemcitabineとして3g 投与)には著明な腫瘍縮小CA19-9の低下と臍部分泌物の消失をみ1年3か月にわたり経過観察し得た1例を経験したのでここに報告する。 -
Cladribineの投与により寛解導入および骨髄線維化と皮疹に改善が得られたHairy Cell Leukemia
31巻6号(2004);View Description Hide Description症例は45歳男性。1998年の職場健診にて血小板減少を指摘されidiopathic thrombocytopenic purpura(ITP)として経過観察されていたが2002年の血算で異型リンパ球を認めたため精査の目的で2002年4月当科へ紹介受診となった。入院時汎血球減少脾腫骨髄線維化結節性紅斑を認め末梢血リンパ球の表面マーカーtartrate resistant acidphosphatase(TRAP)染色走査電子顕微鏡所見からhairy cell leukemia(欧米型)と診断し2002年7月よりcladribine0.09mg/kg/dayを7日間投与したところ骨髄末梢血ともに腫瘍細胞が著減し完全寛解となり骨髄線維化および結節性紅斑も消失した。
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連載講座
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- 【センチネルリンパ節の研究最前線 】
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口腔癌におけるセンチネルリンパ節生検
31巻6号(2004);View Description Hide Description頭頸部癌の治療において最も重要な因子の一つは頸部リンパ節転移の制御である。そのなかで特に口腔癌での臨床的頸部転移陰性症例(N0症例)に対する治療戦略はいまだに議論の多い問題である。近年センチネルリンパ節生検の精度や有用性に関して多くの報告がある。そのなかで口腔癌領域でのその診断法の妥当性が明らかにされつつある。われわれの施設で行っているセンチネルリンパ節生検の方法とともにその診断精度の結果を報告した。その成績は舌癌T2 T3N0:10例では同定率100% 敏感度100%(4/4) 偽陰性率0%(0/6) 正診率100%(10/10)であり頸部郭清症例の的確な選択の可能性が示唆された。センチネルリンパ節の同定が特に口腔癌や中咽頭癌のN0症例のうちT1 T2症例では適していることを示すいくつかの報告を文献的に検討を加え現在の頭頸部癌に対するセンチネルリンパ節生検研究の現況を示した。今後センチネルリンパ節生検が頭頸部癌において標準的な診断法となり得るかを決定するには多施設による検討が必要である。
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新薬の紹介
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光線力学的治療法に用いる新しい光感受性物質Talaporfin Sodiumについて
31巻6号(2004);View Description Hide Description新規レーザ光増感剤talaporfin sodium(タラポルフィン販売名は注射用レザフィリン100mg)が明治製菓(株)により開発され光線力学的治療法(photodynamic therapy:PDT)に利用できることになった。東京医科大学を中心とした肺癌治療グループの臨床試験で内視鏡的早期肺癌に対しては40mg/m?? レーザ照射エネルギー密度100J/cm?? 間隔4時間よりの設定の第㈼相試験で病変別で著効率84.6%(33/39病変) 奏効率94.9%(37/39病変)となった。症例別で著効率82.9%(29/35例) 奏効率94.3%(33/35例)となった。重篤な副作用(薬物有害反応)はみられず皮膚の光線過敏性も投与後2週間までに消失した。この試験と同時に小型軽量消費電力の少ない半導体レーザ装置Panalas6405(販売名はPD レーザ)が松下電器産業(株)により開発されて利用された。わが国の癌死因の1位を占める肺癌に対し早期癌への新しい優れた治療法が増えたことの意義は大きい。
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Journal Club
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用語解説
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ケモカイン、G蛋白質、Gastrointestinal Stromal Tumor(GIST)、血管内皮細胞培養
31巻6号(2004);View Description Hide Description
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