癌と化学療法
Volume 31, Issue 9, 2004
Volumes & issues:
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総 説
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癌抑制遺伝子p53と癌治療
31巻9号(2004);View Description Hide Description癌抑制遺伝子p53は放射線などによるDNA 損傷時に転写因子として様々な標的遺伝子を活性化し細胞の運命を決定するゲノムの番人である。野生型p53は不可逆的な損傷時に細胞自らを細胞死に導くかあるいは細胞増殖において最も不安定なDNA 合成期を免れるために細胞周期を停止させゲノムの変異欠損を防ぐように働く重要な分子である。したがってp53の変異が起こるとアポトーシス誘導や正常な細胞周期の調節が破綻するため細胞の異常増殖を惹起する。癌治療においてはこのp53の機能を復活させる目的で様々な手法がとられている。一つは癌細胞に強制的に野生型p53を発現させ細胞死を誘導するアデノウイルスを用いた遺伝子治療である。また変異したp53を正常に回復させる薬剤も開発されつつある。いずれの手法においても癌細胞特異性の点や耐性の問題などのため満足すべき結果が得られていない。p53を標的とした癌に対する分子標的治療は魅力ある手法であるが解決すべき問題点も残されている。本稿ではp53による遺伝子治療を概説しその問題点を明らかにするとともに現在進行中のあるいは開発中のp53を分子標的とした新規薬剤についても言及する。
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特 集
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- 【骨軟部肉腫の治療】
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骨軟部肉腫の手術療法
31巻9号(2004);View Description Hide Description腫瘍を周囲の正常組織とともに一塊として切除する手術を広範囲切除と呼ぶが周囲健常組織の性格や切除範囲によりその根治性は様々である。そのため腫瘍と切除線の間にどれほどの長さの正常組織が存在するかあるいは筋膜など腫瘍の浸潤を妨げる組織が介在しているかなど切除縁評価の概念を考慮した広範囲切除が必要である。局所再発の原因としては㈰ 切除縁不足㈪ スキップ転移㈫ 腫瘍塞栓㈬ リンパ節転移などがある。㈪〜㈬ の原因による再発を防ぐには手術だけでは不十分であり化学療法の助けが必要である。一方㈰ による再発は十分な切除範囲を設定すれば防ぐことが可能でありこれを安全な切除縁と呼ぶ。安全な切除縁は腫瘍の局所浸潤性術前療法の効果によって決定される。たとえば浸潤性発育を示す悪性線維性組織球腫ではcurative procedureが必要であるが非浸潤性の肉腫や術前療法が著効した骨肉腫ではadequate wide procedureで局所コントロールを得ることができる。腫瘍が骨神経血管に近接して存在する場合これらを合併切除するか否かの判断が術前の画像診断では難しい場合がある。そのような時にin situ preparation法を用いれば術中に切除縁を判定することが可能であり不必要な治療を防ぐことができる。広範切除後の合併症には感染深部静脈塞栓人工関節の緩み皮膚壊死動脈閉塞などがある。より多くの健常組織を残すことは感染緩みなどの合併症を防ぐのに有効でありそのためには安全な切除縁の縮小が不可欠である。 -
肺転移症例に対する外科治療成績
31巻9号(2004);View Description Hide Description骨軟部肉腫肺転移切除例の術後成績(1990〜2002年)について検討した。男性57例女性48例骨肉腫44例滑膜肉腫21例MFH 16例平滑筋肉腫4例ASPS 4例その他(chondrosarcoma liposarcomaなど)16例の計105例を対象とした。転移切除数の症例当たりの平均は8.6(0〜49)で計904個開胸数は平均2.3回計244回であった。初回転移数の平均は3.7個(0〜26) DFI:13.8月(0〜96)腫瘍の平均最大径は20.4mm(5〜90)であった。105例全体の術後成績は44.9%(5年生存率)32.0%(10年生存率)で骨肉腫(OS)は45.8%。38.5% 軟部肉腫44.2% 25.5%であった。軟部肉腫のうちではASPS Leioが75%(5 10年生存率)で最もよく次いでその他の51.6% 38.7% 滑膜肉腫(Syno)42.9% 12.4%の順でMFH は30.9%(5年生存率)と最も予後不良であった。組織型と転移数最大径の比較では転移数の最も多いのはASPS(16) Syno(13.8) OS(9.0)でMFH(4.2) others(2.8)は少なかった。最大径ではMFH(27.1) Leio(27)で大きく反対にASPS(12.7) others(12.6)では小さかった。根治度:治癒切除42.2%(10年生存率) 非治癒切除4.2%(6年生存率)。転移個数:2個以下53.0%(10年生存率) 3個以上25.1%(10年生存率)。最大径:10mm 以下46.5%(10年生存率) 11mm 以上15.7%(10年生存率)。以上の項目では有意差を認めたがDFI 開胸数では差は認められなかった。 -
術後化学療法
31巻9号(2004);View Description Hide Description高悪性度骨軟部腫瘍に対しては遠隔転移の予防を目的として補助化学療法が行われることが多い。化学療法の有効性は組織型により様々である。骨肉腫Ewing 肉腫横紋筋肉腫は手術療法のみでは生命予後が極めて悪いが化学療法の感受性が高いため補助化学療法により生命予後は著しく改善される。一方悪性線維性組織球腫などの高悪性度非円形細胞肉腫では生存率の改善という意味での化学療法の有効性は統計学的に証明されていない。今日では補助化学療法として数種類の抗悪性腫瘍剤が用いられることが多い。諸家により種々のプロトコールの治療成績が報告されているが通常用いられる薬剤にはadriamycin ifosfamide cisplatin methotrexate cyclophosphamide dacarbazine vincristineactinomycin-D などがある。最近では通常の化学療法に反応せずに予後が悪いと考えられる症例には自家末梢血もしくは骨髄の幹細胞移植による救援療法を併用した超大量化学療法が行われ始めており治療成績の改善が期待されている。 -
進行再発骨軟部肉腫に対する化学療法の現状
31巻9号(2004);View Description Hide Description再発進行性骨肉腫悪性軟部腫瘍の予後は極めて不良で一次化学療法肺転移切除が積極的に試みられているが大きなブレークスルーとなっていない。骨肉腫においては高用量ifosfamide(IFM) etoposide(ETP)に併用carboplatin(CBDCA)併用が検討されているが第㈼相試験の報告ばかりで再発例での有用性については不明である。悪性軟部腫瘍に対して高用量IFM とdoxorubicin(DXR)併用療法がG-CSF を併用して50%以上の奏効率を上げ著効例で長期生存例も観察されるようになっている。最近10年間新規薬剤として臨床効果が証明されたものはないのが現状である。最近10年の情報をまとめて今後の問題点を検証する。 -
軟部肉腫の病理診断と治療
31巻9号(2004);View Description Hide Description軟部肉腫はまれな腫瘍で病理組織学的および臨床的には多彩な像を示す。診断に当たっては従来の形態学的評価に加え最近発達してきた免疫組織化学分子生物学の応用が重要である。さらに治療の質を向上させるためには正確な組織診断だけでなく信頼度の高い悪性度分類や病期分類が必要である。また最近腫瘍細胞に特異的に発現している抗原を特異的抗体で同定しそれを治療に応用しようとするいわゆる分子標的治療の試みが行われてきてすでに一部の腫瘍で有効性が確認された薬剤が市販されている。軟部肉腫におけるこれらの治療法の臨床応用はまだ行われていないがわれわれが検索したEGFR の過剰発現結果から軟部肉腫に対する分子標的療法は今後期待できる治療法の一つと考えられる。
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原 著
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胃癌細胞株におけるチミジル酸合成酵素の発現・遺伝子型と5-Fluoro-5′-Deoxyuridine感受性の検討
31巻9号(2004);View Description Hide DescriptionThymidylate synthase(TS)は5-fluorouracil(5-FU)の標的酵素であり癌組織におけるその発現量は5-FU の効果予測因子として期待されている。TS 遺伝子の5′-非翻訳領域(5′-UTR)には多型を伴う反復配列がありその多型が5-FU の効果予測に有用であることが示唆されている。今回10種のヒト胃癌細胞由来の細胞株を用いてTS 遺伝子型TS 蛋白量と5-fluoro-5′-deoxyuridine(5′-dFUrd)への感受性を解析した。TS 遺伝子型はPCR 法にて判定しTS 蛋白量はELISA 法にて測定した。5′-dFUrdに対する感受性はMTT assayを用いIC50値を算出した。TS 遺伝子型は3回反復のホモ接合体である3R/3R が5検体2回反復と3回反復のヘテロ接合体である2R/3R が2検体2回反復のホモ接合体である2R/2R が3検体得られた。遺伝子型と感受性の関係では2R を含む群より3R/3R 群のほうが有意にIC50値が高値であった。TS 発現量とIC50に関連は認められなかったが遺伝子型のsub-groupで解析した場合2R を含む検体群ではTS発現量の多い細胞が有意に高いIC50値を示した。3R/3R の検体群においても同様の傾向が認められた。本研究の結果はTS遺伝子多型とTS 発現量が独立した5-FU 効果予測因子になり得るとの考えを支持し今後この両者を解析に含めた臨床研究が求められる。 -
胃癌大動脈周囲リンパ節転移および術後リンパ節再発に対する放射線治療の意義
31巻9号(2004);View Description Hide Description(目的)胃癌リンパ節転移例に対して行った放射線治療の有用性につき検討する。(対象と方法)胃癌手術症例のうち大動脈周囲転移リンパ節残存例および術後リンパ節再発例のうち放射線治療を施行した10例を対象としその有効性につき検討した。(結果)放射線治療終了後6例(60%)で腫瘍の縮小効果を認めた。リンパ節転移に起因する疼痛上下肢の浮腫などの症状を有する7例全例で症状の軽減または消失が得られた。重篤な副作用は認めず7例(70%)が退院可能であった。放射線治療後の1年および3年累積生存率はそれぞれ20 10%であった。(結語)胃癌リンパ節転移例に対する放射線治療は腫瘍縮小や疼痛軽減など症状緩和の点で有効であった。予後改善の有無についてはさらなる症例の蓄積と検討が必要であるが重篤な副作用も認められず進行再発胃癌に対する集学的治療の一端を担う可能性があると考えられた。 -
大腸癌のThymidine Phosphorylase,Thymidylate Synthase,Dehydropyrimidine Dehydrogenase発現と予後および術後補助療法との関連
31巻9号(2004);View Description Hide Description大腸癌の核酸代謝酵素であるthymidine phosphorylase(TP) thymidylate synthase(TS) dehydropyrimidinedehydrogenase(DPD)を免疫組織学的に測定し大腸癌の臨床病理学的因子および予後と術後補助化学療法との関係を検討した。TP は脈管侵襲および進行度TS は30%では壁深達度進行度において有意に染色陽性例が多く発現し5年生存率でもそれぞれ陽性群が不良であった。TS 40%およびDPD ではその傾向を認めなかった。術後補助化学療法は施行した群間でDPD が陰性の場合にはTP とTS の陰性群が予後が良好であった。以上よりTP およびTS は大腸癌の予後因子として術後補助療法ではDPD とTS またはTP を組み合わせることにより効果が予測されるものと推測された。 -
フッ化ピリミジン系抗癌剤に治療抵抗性の転移性・再発大腸癌に対するIrinotecan Hydrochlorideを用いた化学療法の治療成績
31巻9号(2004);View Description Hide Descriptionフッ化ピリミジン系抗癌剤に抵抗性の転移性再発大腸癌に対するirinotecan hydrochloride(CPT-11)を用いた化学療法の成績をretrospectiveに検討した。1999年1月から2003年3月までに後治療としてCPT-11単剤あるいはCPT-11/mitomycin C(MMC)併用療法を開始した測定可能病変を有する44例を対象とした。年齢中央値64歳(42〜76歳)男性/女性:21/23例PS 0/1/2:28/13/3例転移部位:肝24例肺22例リンパ節16例腹膜7例その他7例であった。治療方法はCPT-11単独療法(120〜150mg/m2 隔週):22例CPT-11/MMC 併用療法(CPT-11120〜150mg/m2 MMC5mg/m2 隔週)22例であった。腫瘍縮小効果(WHO criteriaにて評価)はCR/PR/NC/PD:1(2.3%)/4(9.1%)/23(52%)/16(37%)例であり奏効率は11%(95%信頼区間:3.8〜25%)であった。2002年10月までに治療を開始した38例の生存期間中央値は12か月2年生存率は13%であった。grade3以上の主な有害反応は好中球減少45% 食欲不振14% 下痢11%であった。治療関連死亡や治療後30日以内の早期死亡は認めなかった。実地臨床においても海外の第Ⅲ相試験と同様に二次治療としてのCPT-11の有用性が示唆された。 -
膵癌の特性を考慮した切除不能な局所進行膵癌に対する補助療法
31巻9号(2004);View Description Hide Description放射線化学療法か緩和療法のみしか治療手段のなかった高度局所進行膵癌(StageⅣ b)患者に対して5-FU+LV+MMC+dipirydamole+gemcitabine療法に加えCT 所見から推測した膵癌周囲間質量に応じてheparinの持続静注投与を付加することにより6例中5例(83%)に腫瘍縮小効果2例のPR 例(33%)を得ることができうち3例(50%)にdownstage operationが可能となった。膵癌細胞は低酸素状態で増殖し腫瘍と正常膵との境界で抗癌剤が流入しにくい状態となっている特性を理解した上で進行膵癌に対する治療手段を選択することが重要と思われた。 -
術後再発・転移性膵癌に対するGemcitabine Hydrochlorideの検討
31巻9号(2004);View Description Hide Description術後再発または遠隔転移を有する膵癌症例に対するgemcitabine hydrochloride(gemcitabine:GEM)の有用性をretrospectiveに検討した。当センターで2001年5月から2003年8月までに治療を開始した全30例を対象とした。年齢中央値61歳(43〜82歳) 男性/女性:17/13例PS 0/1/2/3:8/11/9/2例再発/遠隔転移:4/26例転移部位:肝20例リンパ節14例腹膜11例(腹水7例) 肺4例などであった。原則的にGEM 投与は1,000mg/m2を30分点滴静注週1回3週間投与1週間休薬で行った。投与回数中央値は6回(1〜29回)であった。抗腫瘍効果の評価(response evaluation criteriain solid tumors)が可能であった症例28例で奏効率は11% SD 以上の症例は54%であった。疼痛の軽減PS の改善はそれぞれ40 12%に認められた。GEM 投与中におけるgrade3以上の有害事象は好中球減少が46%と最も多かった。非血液毒性はほとんどがgrade 2以下であった。生存期間中央値は4.8か月1年生存率は15%であった。術後再発転移性膵癌に対するGEM 治療は実地臨床において腫瘍進行の抑制と症状緩和をもたらし有用と考えられた。 -
末期癌患者における消化管閉塞に伴う消化器症状に対するOctreotide Acetateの臨床試験
31巻9号(2004);View Description Hide Description末期癌患者が合併する消化管閉塞は悪心嘔吐などの消化器症状を伴い患者のQOL を著しく低下させる。しかし全身状態が不良であることから手術不能である場合が多く既存の制吐剤では効果が不十分である症例が少なくない。従来から行われている薬物療法では十分な症状緩和効果が得られない症例に対してoctreotide acetate(SMS 201-995)が有用であるとの臨床報告が数多くなされている。今回消化管閉塞を伴う末期癌患者13例(胃管挿入例:8例非胃管挿入例:5例)を対象に本剤300μg/日を24時間持続皮下注にて多施設共同臨床試験を実施した。有効性においてはJapan Clinical Oncology Group(JCOG)の副作用判定基準における悪心嘔吐のgrade低下が認められた場合に「有効」と判定し解析対象とした10例(胃管挿入例:6例非胃管挿入例:4例)中6例(60.0%)に有効例を認めた。胃管挿入例6例における投与開始前と最終観察時の消化液排出量は中央値で890ml(550〜1,950)から480ml(180〜1,790)へと減少傾向を示した。これら胃管挿入例6例中消化液排出量の減少が著明であった4例(66.7%)においては胃管の抜去が可能となり抜去後の嘔吐回数も数日間にわたって(1〜8日間)grade0にコントロールされた。同様に嘔吐回数の推移を非胃管挿入例4例の投与開始前と最終観察時で比較した結果中央値で4.5回(3〜9)から3.0回(1〜13)へと減少傾向を示した。安全性においては解析対象例13例中2例(15.4%)の症例において本剤との関連が疑われる肝酵素の上昇が認められたものの臨床上特に問題となる有害事象の発現は認められなかった。以上よりoctreotide acetateはすでに胃管を挿入している末期癌の消化管閉塞症例に対して胃管抜去を可能にし抜去後も悪心嘔吐に対して有用な薬剤であると考えられた。
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症 例
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Nedaplatin/5-FU併用療法によりComplete Remission(CR)が得られた進行下顎歯肉癌の1例
31巻9号(2004);View Description Hide Description進行下顎歯肉癌に対してnedaplatin/5-FU 併用療法によりCR が得られた1例を経験したので報告する。症例は63歳男性。下顎歯肉癌(T4N0M0 stageⅣ)の診断で当院入院後5-FU 1,000mg/body/day(700mg/m2)を1〜5日目まで5日間連続投与5日目にnedaplatinを140mg/body(90mg/m2)投与した。その結果化学療法終了後約2週間で腫瘍は消失した。現在化学療法終了後6か月であるが再発の兆候は認めず経過良好である。 -
Medroxy Progesterone Acetate(MPA)を併用した動注化学療法を施行し長期健存中のStage IV 乳癌の1例
31巻9号(2004);View Description Hide Description症例は42歳女性。対側鎖骨上リンパ節転移を伴う右乳癌(StageⅣ)に右内胸動脈と左鎖骨下動脈から術前動注化学療法を行った。medroxy progesterone acetate(MPA)を併用しepirubicin(EPI)を総量210mg 投与した。副作用はgrade2の脱毛以外は特に認めなかった。臨床的効果は主病巣でCR と思われたが右胸筋温存乳房切除術(Bt+Ax+Ic)と左鎖骨上リンパ節郭清術を施行して得られた組織学的効果はGrade 1bであった。現在も外来で経過観察中であるが術後8年たって健在である。MPA を併用した術前動注化学療法は副作用も軽度で長期生存を可能とする有用な治療法と思われた。 -
Docetaxel肝動注とTrastuzumab静注による併用化学療法が奏効した乳癌肝転移の1例
31巻9号(2004);View Description Hide Description症例は43歳女性。多発肝転移を伴った右乳癌にて2002年11月乳房温存手術施行(pT 3N 3aM 1 stageⅣER(−) PgR(−) HER 2(3+))。術後docetaxel(TXT)(40mg/body)を肝動注/週およびtrastuzumab(TZB)(4mg/kg(2週目より2mg/kg))を静注/週による併用化学療法を開始。副作用は軽度の悪心(grade1)を認めたのみであり3クール施行後外来でのbi-weekly投与へと移行した。肝転移巣は治療開始2週目より縮小傾向を示し5か月目のCTでは消失し上昇していた腫瘍マーカーもすべて正常化した。術後14か月経過した現在他臓器も含め新たな転移再発巣は認めていない。本療法は副作用が少なく外来でも施行可能であり乳癌肝転移に対する治療法として有用であると考えられた。 -
Vinorelbine,Carboplatin併用療法により腫瘍縮小を認め長期外来継続投与が可能であった進行非小細胞肺癌の1例
31巻9号(2004);View Description Hide Descriptionvinorelbine(VNR)とcarboplatin(CBDCA)を用いた外来化学療法が奏効した肺腺癌例を経験した。症例は68歳男性。湿性咳嗽と頭痛全身倦怠感のため近医受診するも症状に変化なく2000年6月加療目的にて当科入院となった。右上葉に塊状陰影脳に多発性転移を認めT3N2M1 clinical stage㈿と診断された。同年7月より全脳照射全身化学療法を開始した。全身化学療法は入院にてvindesine(VDS) cisplatin(CDDP)の併用療法を1クール施行し外来にてpaclitaxel(TXL) CBDCA の併用療法に移行したもののTXL の副作用によりVNR CBDCA の併用療法に変更し外来にて施行した。脳転移は全脳照射にてほぼ消失原発巣は3クール終了後の胸部CT にて腫瘍の縮小を認めその後6クール継続して施行したところ原発巣脳転移巣ともに増大を認めることはなかった。VNR とCBDCA の併用療法は高いQOL を維持することができ外来での長期投与可能であることから有用と考えられた。 -
低用量Nedaplatin/5-FU併用放射線療法によりpCRを得た食道癌の1切除例
31巻9号(2004);View Description Hide Description低用量nedaplatin(CDGP)/5-FU 併用放射線療法によりpCR が得られた食道癌症例を経験したので報告する。症例は76歳男性。健診時の食道造影で中部食道に隆起性病変を認め当科に紹介入院となった。内視鏡検査では上部食道にも病変を認めさらに頸部リンパ節への転移を認めたため低用量CDGP/5-FU を併用した術前放射線化学療法を行った。本療法に伴う副作用としてはgrade 2の口内炎と顆粒球減少がみられた。治療終了後の内視鏡検査では主病巣は著明に縮小し生検では悪性所見は得られなかった。また頸部リンパ節は指摘されなくなった。画像診断上PR と判断し右開胸開腹下に食道癌根治切除術を行った。手術所見はCh R-T3N0M0 Stage㈼ R0D2 Cur A であった。摘出標本では食道にはviableな癌細胞はなくリンパ節転移もなかった。低用量CDGP/5-FU 併用放射線療法は食道癌に対して有用な治療法である。 -
Thalidomide,Celecoxib,Irinotecan併用療法により良好な経過を示した進行膵癌の1例
31巻9号(2004);View Description Hide Description再発または転移性膵癌の予後は非常に悪い。さらに抗癌剤に対する感受性が低い。現在わが国ではgemcitabineが標準治療となっているがその奏効率は10%以下と低い。そのため症状緩和効果(clinical benefit response)という概念を導入し低奏効率を補おうとしている。そこでわれわれは短期間に効果を発揮ししかも画像的にかなりの退縮をみられる方法としてthalidomide celecoxib 低用量irinotecan併用法を提唱した。thalidomideの抗VEGF 作用抗TNF-α作用とcelecoxibのCOX-2阻害作用を利用し血管新生抑制作用を最大限利用する方法である。thalidomide celecoxibにはさらにirinotecanの副作用を抑制する作用と従来の抗癌剤の活性を高める作用もあるという報告がある。 -
UFTが奏効しラジオ波焼灼術を施行し得た巨大肝細胞癌の1例
31巻9号(2004);View Description Hide Description症例は71歳男性。腹痛を主訴に近医を受診した。HCV 陽性CT US により肝右葉全体を占める巨大肝癌を認めた。遠隔転移を認めなかったが肝左葉にも小結節を認め外科的切除焼灼術TAE などの治療が不可能と判断された。UFT300mg/dayを投与されたところAFP PIVKA-㈼の著減と腫瘍の著明な縮小を認めた。1年経過後CT 上S 8に4cm 大S 7に5cm 大の2個を認めるのみであった。AFP PIVKA-㈼の再上昇傾向を認めたため当院へ紹介された。術前ICG K=0.085/min ICG R15=25.9%であった。開腹下ラジオ波焼灼術を施行した。焼灼前に針生検を行ったところS 8の腫瘍は中分化型肝細胞癌であったがS 7の腫瘍は壊死に陥っていた。UFT が有効であった肝細胞癌症例の本邦報告は検索し得た範囲内で19例であった。種々の治療法が困難な場合UFT の内服を試みるべき治療法の一つと思われた。 -
転位右肝動脈に留置したマイクロカテーテルから動注化学療法を継続し得た大腸癌多発肝転移の1例
31巻9号(2004);View Description Hide Description症例は78歳男性。大腸癌術後に多発肝転移出現し総肝動脈にカテーテルを留置し動注化学療法を開始PR を維持していた。しかしその後総肝動脈閉塞によりリザーバーを抜去し全身化学療法を継続するも肝転移の増大を認めた。そこで転位右肝動脈(replaced right hepatic artery)にマイクロカテーテルを留置し動注化学療法を開始した。腫瘍は著明に縮小しまた血栓症などの合併症もなく開始から1年たった現在主に外来にて治療継続中である。 -
Weekly Paclitaxel療法がQOLの改善に有効であった5-Fluorouracil耐性術後再発胃癌の1例
31巻9号(2004);View Description Hide Description今回大動脈周囲リンパ節転移を伴うstageⅣ切除不能進行胃癌で術前化学療法が著効し根治度B 手術が可能であった症例で術後の再発に対してweekly paclitaxel(TXL)療法がQOL の改善に非常に有効であった症例を経験したので報告する。症例は65歳男性。術前化学療法(PMFE 療法)でCEA は68.1から0.8ng/ml にCA19-9は15,000から190U/mlに低下し大動脈周囲リンパ節は消失原発巣も腫瘍縮小率70%でpartial response(PR)と判定し胃亜全摘術(D 3)を行った。術後TS-1を内服していたが後腹膜およびリンパ節再発し経口摂取も不能となった。5-FU 耐性と考えweeklyTXL 療法に変更したところ1クール目の途中から食欲と体重の増加がみられCEA は28.2から4.9ng/ml にCA19-9は15,000から2,000U/ml に低下し腹部CT 上も腫瘍は縮小した。初診から1年8か月後に原病死したがTXL 療法開始から10か月の間経口摂取も良好でQOL も良好に保つことが可能であった。全経過を通じて副作用はgrade1の脱毛と白血球減少がみられたのみであった。TXL 療法は5-FU 耐性胃癌にも効果がみられ全身状態が不良な場合でも効果発現が早く副作用も軽微で早期にQOL の改善が期待できる可能性が示唆された。 -
腹水の抗癌剤感受性試験に基づく腹腔内化学療法により切除可能となった腹膜播種胃癌の1例
31巻9号(2004);View Description Hide Description症例は57歳男性。閉塞性黄疸と膵炎で発症し精査で胃癌と診断される。開腹術を施行し癌性腹膜炎と診断され切除不能と判断した。このため腹水を用いた抗癌剤感受性試験を施行しこの結果に基づき腹腔内化学療法を含んだPMUE 変法(CDDP MMC ETP UFT-E)を4クール施行した。本治療はよく奏効し腹水細胞診は化学療法前後でclass㈸から㈼となった。切除可能と判断し再開腹術を行い根治度B 切除を施行し得た。初回手術より17か月生存したが腹膜外の骨盤底に癌再発し亡くなった。癌性腹膜炎を伴う進行胃癌の治療は効果的な治療法が確立していないため現在でも容易ではない。化学療法施行前に個々の癌の抗癌剤感受性が判明することは治療上有効と考えられる。現在の腹水を用いた抗癌剤感受性試験は技術的にいまだ完全ではないが今後癌性腹膜炎の治療成績向上に寄与できると思われる。 -
Weekly Low-Dose CPT-11/CDDP外来投与が有用であった5-FU抵抗性再発大腸癌の1例
31巻9号(2004);View Description Hide Description5-fluorouracil(5-FU)抵抗性となった再発進行結腸癌患者に対しlow-dose CPT-11/CDDP の外来投与により良好なquality of life(QOL)とperformance status(PS)を保ち再発33か月後の現在通院治療中である1例を報告する。症例は42歳男性で進行結腸癌術後の補助化学療法としてpharmacokinetic modulating chemotherapy(PMC 経口tegafur/uracil (UFT)+5-FU 静注)を施行したが術後27か月で脾転移リンパ節再発を認めたためCPT-11(50mg/m??)を週1回CDDP(6mg/m??)を隔週で投与した。局所再発巣は9か月にわたりNC を保ちその後新たな腹膜播種再発巣が出現したためCDDP を毎週投与とし5′-DFUR やTS-1の併用を追加することにより腫瘍の再増殖を抑制できPS 0の状態を再発確認より33か月間保っている。治療をとおして重篤な副作用は認めていない。low-dose CPT-11/CDDP 療法が5-FU 抵抗性となった再発進行結腸癌患者に対するsecond-line chemotherapyとして良好なQOL とPS の長期維持に有用であった。
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短 報
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膀胱癌におけるOrotate Phosphoribosyl Transferase(OPRT)活性の検討
31巻9号(2004);View Description Hide Descriptionこの論文は英文抄録のみ存在します。抄録部分は原則的に和文抄録のみ表示しております。(本文はご覧いただけます)
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連載講座
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- 【センチネルリンパ節の研究最前線 】
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肺癌における見張りリンパ節ナビゲーション手術の現状と新しい展開
31巻9号(2004);View Description Hide Description肺癌に対する見張りリンパ節ナビゲーション手術はいまだ確立していない。色素による見張りリンパ節(SN)同定放射線同位元素によるSN 同定が試みられている。色素法はSN 同定率が低くRI は施設による制限が多いために普及するには至っていない。CT 用造影剤やMRI 用造影剤を使用した新しいSN 同定の試みに期待が寄せられる。またSN における局所腫瘍免疫能の変動も興味深い検討課題である。 - 【臨床検査,診断に用いる腫瘍マーカー】
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膵癌・胆道癌
31巻9号(2004);View Description Hide Description胆膵癌の腫瘍マーカーは糖鎖抗原のCA 19-9 DUPAN-2 CA 50 Span-1 癌胎児蛋白のCEA 膵酵素のエラスターゼ1などが汎用されている。外科的切除や化学療法などの治療後の腫瘍マーカーの変化は治療効果や予後の予測に有用であり日常臨床において利用されている。しかしいずれの腫瘍マーカーも早期癌では特異度および陽性率が低いことから早期癌のスクリーニングにおける有用性は低いのが現状である。膵癌胆道癌は画像診断の進歩が認められる現在においても切除不能な進行癌で発見されることが多く極めて予後不良である。治療成績の向上のためには早期発見が不可欠であり診断補助の手段として膵癌胆道癌に特異性の高い腫瘍マーカーの開発が望まれる。
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国際がん情報
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Journal Club
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用語解説
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多段階発癌、増殖因子、細胞接着分子(Cell Adhesion Molecule)、癌にまつわる症候群:Eato n-Lambert syndrome、小線源治療、抗体医薬、ノーザンブロット法とサザンブロッティング法
31巻9号(2004);View Description Hide Description
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