癌と化学療法
Volume 35, Issue 2, 2008
Volumes & issues:
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総説
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カプセル内視鏡の有用性
35巻2号(2008);View Description Hide Description近年まで小腸疾患の診断は,臓器の特徴から困難であった。2000年にカプセル内視鏡が登場し,これらの問題は解決しつつある。カプセル内視鏡の最もよい適応は原因不明の消化管出血で,診断率も他の画像診断と比較して優れており,診断のアルゴリズムも完成されつつある。また,小腸腫瘍の精査に有用であり当施設における診断率は84.1%であった。ただし,見逃し例があることや質的診断に関してやや難があることは現状の限界であり,それらを認識して検査を行うことが望ましい。VCE の合併症は誤嚥と滞留がある。誤嚥はまれであるが,滞留は約1%で起こるため十分な注意が必要である。VCE は,同時期に導入された治療機能を備えたダブルバルーン内視鏡とともに活用されれば,今後小腸疾患診療の中心となることは間違いない。
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特集
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- 抗癌剤効果・副作用予測法の現況
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抗がん剤感受性試験
35巻2号(2008);View Description Hide Description本邦における抗がん剤感受性試験の正診率は74%である(第30 回制癌剤適応研究会)。われわれは胃がん術後に適応抗がん剤を投与すれば症例の生存期間の延長が図れるのではないかとの仮説を立て,補助化学療法選択における抗がん剤感受性試験の有用性を明らかにしてきた。一方,2007年になりACTS-GC研究によりStageII, III胃がんの補助化学療法にはS-1が有効であること,JCOG9912,SPIRITS研究の成績から進行・再発胃がんに対してはS-1+cisplatinが有効であることが報告された。しかし,これらの臨床試験における有効アームにおいても,メリットを受けない耐性群が存在することも予測され,適応群と耐性群の弁別には現在のところ抗がん剤感受性試験が最も有用と考えられる。標準的治療が開発されていくなかで,抗がん剤感受性試験はRCTにより評価される必要があり現在臨床試験が進行中である。 -
フッ化ピリミジン系抗癌剤の薬理遺伝学
35巻2号(2008);View Description Hide Descriptionフッ化ピリミジン系抗癌剤の治療応答性予測に関して,薬理遺伝学的視点から検討が行われている。検討が行われた遺伝子発現,遺伝子多型は,フッ化ピリミジン系抗癌剤の代謝経路から“候補”として選択された数種類にすぎず,いわゆるcandidate approachによるものである。しかし,これらの検討は少数例を対象とした後ろ向き研究であり,前向き研究での検証がないため,実地臨床の現場でバイオマーカーとして用いられるに至っていない。代謝経路全体を俯瞰するpathway approachやアレイを用いたglobal approachに関しては,今後の研究課題である。 -
CPT-11(Irinotecan)
35巻2号(2008);View Description Hide DescriptionCPT-11 の活性型であるSN-38 の代謝は主に肝臓におけるグルクロン酸抱合酵素であるUGT1As により行われていることから,毒性ならびに効果の予測因子としてUGT1As の遺伝子多型が注目されている。毒性や効果を予測することにより効果的で安全なテーラーメード治療が可能となる。毒性予測に関しては,人種による差はあるものの,UGT1A1*28をもつ患者では重篤な血液毒性の頻度が高いというのが結論であろう。一方,効果予測に関してはいくつかの報告があるものの,決定的な因子はまだ見いだされていないのが現状である。 -
プラチナ系薬剤
35巻2号(2008);View Description Hide Descriptionプラチナ系薬剤の抗癌剤効果予測因子に関しては多くの知見が得られているが,治療法をランダム化した上で真の抗癌剤効果予測因子として報告されているものはない。ここではプラチナ系薬剤の耐性機序から推定され,検討されている効果予測因子の候補について記載する。薬剤の腫瘍内蓄積の変化にかかわる因子として,Na+,K+ -ATPase,multidrug resistance protein 1 などはcisplatin 耐性との相関が報告されている。薬物代謝の変化に関連するものとして,glutathione S-transferase-π,metallothionein など,DNA 修復の亢進にかかわる因子として,excision repair cross-complementing 1/2,アポトーシスの阻害と関連してp53 などとの相関も検討されている。これらの因子の検討法は,従来のcandidate or pathway approachから,より包括的な“-omic approach”へ発展しつつあるが,より効率よく,かつ経済的に診断するためには,ハイ・スループットにより得られた因子群のなかからターゲットを限定していく必要がある。また真の効果予測因子は,測定法や評価法を統一した大規模前向き比較試験でのみ証明されるものであり,これらの候補因子が臨床試験のなかでvalidationされていくことが必要である。 -
乳癌におけるDocetaxelの感受性予測
35巻2号(2008);View Description Hide Descriptiondocetaxel(DOC)は第二世代のタキサン系抗癌剤で,乳癌領域で最も強力な抗癌剤の一つである。最近では,再発乳癌に対してのみならず補助化学療法や術前化学療法としても広く使用されるようになってきた。しかしながら,すべての患者に奏効するわけではなく,その奏効率は第一次治療として用いた場合でも40〜60%であり,第二あるいは第三次治療になると20〜30%へと低下する。したがって,不必要な治療を避けるためには,精度の高い感受性予測が必要である。DOC はβ-tubulin に結合し,微小管の過重合を促進させ,結果として細胞分裂を阻害する。しかし,DOC の感受性や耐性機構については現在まで十分には分かっていない。最近,この分野の研究により,(1)薬剤排泄(P糖蛋白),(2)薬剤代謝(CYP3A4),(3)β-tubulin(アイソタイプclass I,class III),(4)細胞周期(HER2,BRCA1),(5)アポトーシス(p53,Bcl-2,チオレドキシン),(6)細胞増殖(MIB-1,核異型度)などの様々なメカニズムがDOC の抗腫瘍効果に関係することが明らかになってきた。さらに,最近では遺伝子発現プロファイリングにより,乳癌に対するDOC の感受性予測を行う検討がなされている。本稿では,これらの生物学的マーカーとDOC の感受性の相関について検討を行った最近の知見を,われわれの研究結果を含めて解説する。 -
ゲノム・遺伝子解析
35巻2号(2008);View Description Hide Descriptionゲノム科学の進歩は,医学の領域にも大きなインパクトを与えた。薬剤の代謝,分解,作用標的などの遺伝子多型が個々の薬剤応答(効果や有害事象)に大きく影響することが明らかとなり,ここにそれらのゲノム情報をマーカーとして症例個々で至適薬物療法を選択するオーダーメードがん化学療法の戦略が生まれてきた。ゲノミック・マーカーの同定研究は急速に進展し,多くの有力なマーカー(候補)が示されてきた。すでにその一部は臨床実践に取り入れられ,分子標的薬を含むレジメにおいてはバイオマーカーないしはゲノム薬理学的解析は必須のものとなりつつある。しかしながら,薬剤応答は複雑系であり,その正確な予測には限界がある。薬剤の代謝や効果の発現には実に多くの因子が関与しており,責任因子(群)も一定ではない。マイクロアレイを用いて包括的指標(遺伝子発現プロフィール)を求める試みにも限界がある。いかにして複数の重要因子を同定しその相互作用を理解して有害事象や効果を予測していくか,ゲノミック・マーカー研究の複雑系に対する挑戦が始まっている。ゲノミック・マーカー研究の現況とがん薬物療法への貢献,その直面する課題について概説した。 -
逆相蛋白ライセートアレイを用いた蛋白定量解析の癌治療への応用
35巻2号(2008);View Description Hide Description定量的ハイスループット技術を用いた蛋白レベルでの解析は癌治療に新たな知見をもたらすものと考えられている。また,時間軸や濃度差など様々な因子について詳細かつ定量的に観察することで,癌細胞がどのように薬剤に反応するかが明らかとなり得る。従来までは,膨大なサンプル数が必要となることから,これらのアプローチは技術的に困難とされてきた。われわれは多数のサンプルを用いて分子群の挙動を詳細かつ定量的に観察するため,2 万以上の蛋白ライセートスポットを1 枚のスライド上で処理できる高密度「逆相」蛋白ライセートアレイを開発した。総分画蛋白ライセートから特異的抗体を用いた抗原の定量的検出により,複数の細胞株から多種類の蛋白発現を時間または薬剤の濃度の関数としてモニターすることが可能である。このシステムから得られる定量的蛋白発現データは,蛋白ネットワークの理論モデルの実験的検証において格好のリファレンスとなることが明らかとなっている。理論・実験を組み合わせたこれらのデータを基に臨床的薬剤効果を評価することは,癌治療の効果を正確に予測するための新たな手段となると思われる。
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Current Organ Topics:婦人科 癌
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原著
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高齢者急性白血病の治療成績—単一施設における全61例の臨床的検討—
35巻2号(2008);View Description Hide Description高齢者白血病における臨床的特徴や治療方針について明らかにするために,1995 年10 月から2006 年9 月までに当科を受診した65 歳以上の高齢者急性白血病61 例(年齢中央値72 歳)について,その治療成績を後方視的に検討した。症例内訳は,ALL 6 例,AML 55 例で,大部分がAML であった。全61 例のうち,51 例において化学療法を施行できたが,10 例は対症療法のみであった。化学療法の行われたAML 46 例では,完全寛解率50%,生存期間中央値237 日であった。この治療成績について解析を行い,以下の結果を得た。より強力な化学療法が行われた群やMDS などの先行疾患がない群が,寛解率と生存率ともに有意に優れており,染色体やPS,併存疾患の有無による有意差はみられなかった。初期高齢者(65〜74歳)のde novo AML症例には,より強力な化学療法が有効であることが示唆された。今後は臓器予備能の低下した高齢者に対して,個々の症例に適したオーダーメイド治療を幅広い選択肢のなかからエビデンスに基づいた層別化により行うことで,高齢者白血病の予後改善がもたらされると考える。 -
高度進行胃癌に対するSecond-LineとしてのS-1/CPT-11併用療法の経験
35巻2号(2008);View Description Hide Descriptionわれわれは2002 年より,根治切除困難高度進行胃癌27 例に対し初回治療として化学放射線療法S-1/low-dose CDDP/radiation(TSLDR)を施行し,このうち12 例にsecond-line chemotherapyとしてS-1/CPT-11療法を施行した。本稿ではTSLDR 後second-line therapy としてのS-1/CPT-11 に焦点を当て,S-1 継続下でのCDDP からCPT-11 への変更の意義を考察する。second-line chemotherapy としてのS-1/ CPT-11 療法では,外来設定にて,S-1 80〜120 mg/day を1日2 回に分割経口投与し,CPT-11 60 mg/m2を2〜3 週に一度,点滴静注した。治療効果は奏効率30.0%であった。S-1/CPT-11療法開始後の1 年生存率は66.7%でMSTは1 年を超えている。副作用としてgrade3 の血液毒性を4 例(33.3%)に認めたが,いずれも休薬やG-CSF 投与により回復し治療継続可能であった。自覚症状を伴う毒性の頻度・程度は比較的低く,QOL の維持をめざすことを第一義的とする外来治療として有用性が示された。second-line 導入以降においても,適切なregimenを適切な時期に施行することにより,良好なQOLと生存期間の延長が達成されることが示唆された。 -
胃癌に対する低濃度Paclitaxelの効果
35巻2号(2008);View Description Hide Descriptionpaclitaxel(PTX)は卵巣癌,乳癌,非小細胞肺癌,胃癌に対し,210 mg/m2を3 週ごと投与の用法用量で保険適応が認められている。しかしこの方法は好中球減少症,および末梢神経障害を主とする非血液毒性が比較的高頻度に認められることが問題であった。そこでPTX の毎週投与法(80 mg/m2をday 1,8,15 に投与,day 22 は休薬。28日で1 コース)が開発され,卵巣癌,肺癌においては毎週投与法が3 週ごと投与法と直接比較され,有害事象が少なく,かつ有効性は等しいことが報告された。胃癌に対するPTX の3 週ごと投与法(210 mg/m2)の奏効率は第 II 相試験において23.3〜28.0%と報告されており, PTX 毎週投与法(80 mg/m2)の奏効率はやはり第 II 相試験において24.0〜25.8%と報告された。有害事象が少なく,外来治療が行いやすいという点からか,PTX 毎週投与法は一般臨床において広く行われるようになったが,胃癌において毎週投与法と3 週ごと投与法の直接比較は行われていない。われわれは胃癌に対するPTX 毎週投与法の妥当性を裏付ける基礎的研究として,AUCが同等である高濃度短時間の条件と低濃度長時間の2 条件にて胃癌7 症例に対し,抗癌剤感受性試験CDDSTを行った。その結果,AUC が同等である二つの条件においてPTX による細胞障害率には差を認めなかった。長時間作用させることにより,低用量PTX の胃癌に対する効果がin vitroの実験系において示された。 -
治癒切除不能の進行・再発結腸・直腸癌に対するOxaliplatin(L-OHP)+Infusional 5-FU/l-LV 療法(FOLFOX4レジメン)の安全性確認試験
35巻2号(2008);View Description Hide Description目的:本邦におけるFOLFOX4 法の安全性と実施可能性を確認するため,企業主導の治験として初の安全性確認試験を実施した。対象および方法:治癒切除不能の進行・再発結腸・直腸癌患者に対して実施されたFOLFOX4 法の安全性を最長3 サイクルまで調査した。結果: 2005 年4 月〜2006 年1 月までに39 例を集積し,市販薬が使用された1 例を除き38 例(男性/女性: 17 例/21 例; ECOG PS 0/1: 31 例/7 例;年齢中央値62 歳,範囲32〜75 歳)を解析対象とした。3 サイクル投与実施例は34 例であり,減量も延期もせずに完遂した症例は18 例であった。本試験後もFOLFOX4 法で治療された症例は35 例であった。出現頻度5%以上の副作用(grade 3 以上)は,白血球減少(21.1%),好中球減少(42.1%),悪心(5.3%)および食欲不振(5.3%)であった。末梢神経症状は高頻度(78.9%)に認められたが,grade 3 以上のものは認められなかった。治療関連死も認められなかった。結論: FOLFOX4 法は,本邦でも少なくとも3 サイクルまでは安全に実施可能であった。 -
進行・再発乳癌に対するAnastrozoleからExemestaneとExemestaneからAnastrozoleの逐次治療効果比較
35巻2号(2008);View Description Hide Description背景:現在本邦で使用可能な第三世代アロマターゼ阻害剤(以下AI)は3 種類存在する。交差耐性が少ないために逐次投与可能とされているが,最良な投与順序に関しては明らかではない。目的:実地臨床で進行・再発乳癌に対しanastrozole(以下ANA)とexemestane(以下EXE)を逐次投与した場合,順序によって効果に差異があるかを後ろ向きに調査する。対象: 2002年12 月から当院において進行・再発乳癌に対し,アロマターゼ阻害剤の一次治療としてANAが単独投与され,二次治療としてEXE も単独投与されていた22 症例(以下A→E群)と一次治療としてEXE が単独投与された13 症例(以下E→A群)。方法: A → E 群とE→A群における一次治療,二次治療の奏効率,clinical benefit(以下CB)率,time to progression(以下TTP),治療後のoverall survival(以下OS),一次と二次治療効果の連続性を調査した。結果:両群間で患者背景と前治療歴に特記すべき有意差は認められなかった。A → E 群,E → A 群における一次治療の奏効率はそれぞれ31.8,38.5%,CB 率はそれぞれ68.2,53.8%であった。二次治療の奏効率はA→E群(22例),E→A群(3例)でそれぞれ13.6,0%,CB 率はそれぞれ36.4,33.3%であり,大差は認められなかった。A→ E 群において連続してCB が得られた症例は15 症例中5 例(33.3%)であり,ANAでCB の得られなかった7 症例中3 例(42.6%)でEXE によってCB が得られた。E → A 群でもEXE でCB の得られなかった3 症例中1 例でANA によってCB が得られた。両群間でTTP,OSに有意差は認められなかった。結論: ANA とEXE を逐次投与した場合,順序による効果に大差はない。2 剤が連続して効果を示す症例が一部存在する他,一次治療に不応の症例でも二次治療で効果発現が期待できる。以上より両剤の逐次投与は順序にかかわらず臨床上有意義と考えられた。 -
一般病院における乳がん化学療法の均てん化を目指して—EC およびFEC 療法の実態調査—
35巻2号(2008);View Description Hide Description乳がん化学療法の均てん化を目的として,EC75,FEC75およびFEC100療法を例に,3 施設(市立堺病院,宝塚市立病院および国立病院機構大阪南医療センター)における化学療法後の骨髄抑制について評価した。また,multinational associationfor supportive care in cancer スコアリングシステムを用い発熱性好中球減少(FN)について評価した。その結果,nadirにおける好中球数はEC75,FEC75,FEC100 の順に低値を示したが,施設間およびレジメン間に有意差は認められなかった。また,FN 発症リスク評価により,対象患者のほとんど(63 名中61 名)が低リスクと判定され,うち59 名はFN を発症しなかった。さらに,1 病院では発熱時服用のためのシプロフロキサシン錠の処方および患者への啓発が行われていた。このように,化学療法後の安全性について施設間に相違はみられなかったが,施行後のマネジメントが異なっていた。今回の調査から,十分な副作用対策の実施および患者への情報提供を行うことで,強力な化学療法が施行できると考えられた。 -
当科における進展型小細胞肺癌に対するAmrubicin Hydrochloride単剤療法の検討
35巻2号(2008);View Description Hide Description2003 年4 月〜2006 年9 月までの間に当科で30〜45 mg/m2のamrubicin hydrochloride(AMR)単剤を用い治療した進展型小細胞肺癌22 例の治療成績・毒性などについてretrospectiveに検討した。結果,奏効率は全体で59%,初回治療例で50%,sensitive relapse例で100%,refractory relapse例で46%であった。投与量別では30 mg/m2で50%,35 mg/m2で 33%,40 mg/m2で69%,45 mg/m2で100%であった。有害事象として高頻度に重篤な骨髄抑制を認めた。生存期間中央値は既治療例で230 日であった。以上より,AMR 単剤療法はsensitive relapse 例では非常に高い奏効率を認め,初回治療やrefractory relapse 例でも良好な奏効率を示し,進展型小細胞肺癌に対して有用と考えられた。投与量別では40 mg/m2以上でより高い奏効率が期待できるが,骨髄抑制に留意する必要があると考えられた。 -
免疫療法抵抗性進行腎細胞癌に対する Gemcitabine/Capecitabine 併用化学療法の有効性の検討—パイロット試験—
35巻2号(2008);View Description Hide Description免疫療法抵抗性進行腎細胞癌8 例に対しgemcitabineとcapecitabine併用化学療法を行った。患者は男性6 例,女性2 例で年齢の中央値68 歳である。1 例では腎摘除がされておらず,5例で複数の転移臓器を有していた。治療方法はday 1,8 にgemcitabine 1,000 mg/m2を静脈内投与,capecitabine 1,657 mg/m2/day をday 1〜14まで連日経口投与した後,1 週間の休薬期間をおき,これを1 コースとして3 週ごとに繰り返した。中央値で3 コースの治療を行った。抗腫瘍効果はCR,PR を認めず,SD 2 例,SD からPD へ移行したもの3 例,PD 3 例であった。非進行生存期間は中央値9.1 か月,1 年非進行生存率は83%であった。副作用は3 例(37.5%)にみられたが,一般に軽度〜中等度であった。本治療は文献上期待されたほどの抗腫瘍効果は得られなかったが,一部の症例では病勢進行の抑制が認められた。 -
皮下埋め込み式中心静脈カテーテル留置症例の使用成績—HPN と化学療法目的との比較—
35巻2号(2008);View Description Hide Description鳥取大学医学部附属病院病態制御外科における過去10 年間の皮下埋め込み式中心静脈カテーテル(リザーバー)留置107 症例について,その長期成績,合併症の検討を行った。1994 年8 月〜2003 年7 月までに109 例(悪性疾患82 例,良性疾患27 例)に対しリザーバーを留置した。年齢は1〜93 歳までで平均年齢58.1 歳であった。留置は107 例で成功した(98.1%)。ガイドワイヤーの挿入困難であった症例が1 例,ダイレーターの血管外逸脱による縦隔血腫を1 例に認め,この2 症例は留置を断念した。栄養目的は75 例,抗癌剤投与目的は32 例であった。留置期間は平均9.6か月,最短は1 か月,最長は39 か月であった。リザーバー入れ替えを必要とした留置後合併症を32 例に認めた。ポート感染を17 例,閉塞9 例,刺入部潰瘍3 例,ポート破損による皮下注入2 例,刺入部の疼痛1 例であった。静脈栄養目的に使用した75 例のうち28 例(37.3%)に合併症を起こしたが(2.47回/1,000日),抗癌治療目的に使用した症例では32 例中4 例(12.5%)であった(0.1回/1,000日)。合併症のうち感染,閉塞が26 例(81.2%)を占めており,長期のカテーテル留置による血栓形成と頻回の刺入操作による細菌混入が原因と考えられた。リザーバーの使用は患者のQOL の向上に有用であるが,合併症が発生した場合には重篤な状態になることもあり,厳重な管理と適切な対処法が必要と考えられた。
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症例
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S-1+Docetaxel併用療法が奏効した進行胃癌の1 症例
35巻2号(2008);View Description Hide Description症例は70 歳,男性。上腹部痛にて発症し,腫瘍マーカー,上部消化管内視鏡検査(GIF),腹部CT にて,3 型胃癌, 多発性肝転移,癌性腹膜炎と診断。当科入院後,S-1 100 mg/bodyを14 日間内服,docetaxel(DOC)40 mg/m2を1 日目に点滴静注するS-1+DOC 併用療法を施行。GIF,CT 上腫瘍は著明に縮小し,腫瘍マーカーは正常化した。有害事象として,grade 3 の白血球・好中球減少を認めたためG-CSF 投与を行い,S-1,DOC をそれぞれ減量し治療を継続した。その他は比較的軽微であり,外来化学療法が可能であった。21コース終了現在,奏効を維持している。 -
非治癒切除後にS-1+CDDP 併用療法を行い4 年間の長期生存が得られた高度進行胃癌の1 例
35巻2号(2008);View Description Hide Descriptionわれわれは,腹膜播種と大動脈周囲リンパ節に転移を有する高度進行胃癌に対して減量手術を施行した後,S-1+CDDP 併用療法を行い4 年間の長期生存を継続している症例を経験した。症例は72 歳,女性。2003 年4 月に胃上中部前壁中心の5 型胃癌に対して胃全摘術+Roux-en Y 吻合術を施行,主病巣は#3 リンパ節と一塊になって#7〜#9〜#16a1〜#16a2 まで連続しており,これらのリンパ節は切除不能であった。また,腹膜播種巣が肉眼的にも認められ術中洗浄細胞診も陽性であった。病理組織診はpoorly differentiated adenocarcinoma,INF β,pT3(SE),PM(−),DM(−),ly0,v2,sN3(#7,#9,#16a1〜a2),M0,stage IVであった。術後S-1(80 mg /day,2 週投与2 週休薬),S-1 を1 週投与後にCDDP(80 mg)を24 時間持続投与した。1コース終了後,腹部造影CT 上,上記の#7〜#9〜#16a1〜#16a2のリンパ節はほとんど消失していた。しかし,1 コース終了後好中球減少(grade 3)と嘔気(grade 2)が認められたため中止とし,UFT 内服(400 mg/day)に切り替え外来で経過観察していたが(UFT も食欲不振のため約1 か月で中止した),術後4 年を経過した現在も再発の徴候なく外来通院している。過去10 年間のS-1 regimen を用いて化学療法を行った進行・再発胃癌症例のなかで,3 年以上長期生存し得た症例は自験例を含めて22 例であった。その半数が減量手術後にS-1 regimen の化学療法を施行した症例であった。減量手術後にS-1 regimenの化学療法を行う方法は,進行・再発胃癌に対する有効な治療法の一選択肢になり得ると考えられた。 -
手術,化学療法および放射線治療による集学的治療を行ったAFP 産生胃癌の1 例
35巻2号(2008);View Description Hide Description症例は70 歳,男性。上腹部膨満感を主訴に近医にて精査したところ,胃前庭部に3 型進行癌を認めた。腹部CT 検査上,総肝動脈幹後部リンパ節(8p)に巨大な転移を認め,根治術不能と診断され当院紹介となった。化学療法としてS-1+低用量分割CDDP 静注併用療法を行ったが,著明な効果を認めなかったためCPT-11 点滴静注に変更した。しかしながら本療法も著効せず,発病4 か月後より幽門狭窄症状を認めたため,幽門側胃切除術を施行した。術後病理組織学的検査にてAFP 産生胃癌と診断された。術後補助化学療法としてS-1 内服を行った。術後2 か月目,腹部CT 検査上,大動脈周囲リンパ節の腫大を認め,放射線治療を行った。その後,肝S6,S8に門脈腫瘍栓を伴う転移巣が出現したため,経皮的ラジオ波焼灼術,さらにCDDP肝動注療法を行った。術後6 か月目には肝右葉切除術まで施行したが,骨髄抑制により化学療法を継続できず,残肝再発に対して放射線治療を行ったものの,発病1 年5か月後,癌死に至った。 -
多発肝転移を伴う高度進行胃癌に対して5-FU/LV 持続肝動注とWeekly Paclitaxel療法の併用が奏効した1 例
35巻2号(2008);View Description Hide Description症例は,66 歳,女性。食欲不振,貧血精査のための上部消化管内視鏡検査で,胃幽門部大弯に2 型胃癌を指摘された。腹部超音波,CT 検査で幽門部周囲のリンパ節腫大と肝両葉の多発肝転移を認め,根治切除不能と判断しS-1 内服を開始した。しかし3 クール終了後も効果を認めず,特に肝転移の急速な増大がみられたことより,5-FU+Leucovorin 持続肝動注(day 1〜7)とweekly PTX 3 週連続投与1 週休薬(day 8,15,22)の併用療法に変更した。腫瘍マーカーは急速に低下,4コース終了時には原発,リンパ節転移と同時に肝転移病巣の著明な縮小を認めた。有害事象は軽微であり,現在,治療変更後6 か月でQOLを良好に保ちながら治療継続中である。本法は,肝転移を伴う切除不能進行胃癌に対して有効な治療戦略の一つとなり得ると考えられた。 -
Multi-Line Chemotherapyが奏効しながらも癌性髄膜炎で死亡したStageIV胃癌の1 例
35巻2号(2008);View Description Hide Description症例は60 歳,男性。幽門閉塞を伴うStageIV胃癌に対し,first-lineとしてlow dose FP 療法を開始した。1クールで経口摂取可能となったため,second-line としてS-1+CDDP 療法に変更した。1 クール終了後PR となったが,3 クール目開始時点から腹水が急速に増加したため,third-lineとしてS-1 とpaclitaxel(PTX)の腹腔内投与併用療法を開始した。S-1(80 mg/body/day)を2 週間服用し2 週間休薬,PTX(60〜100 mg/body)はday 1,14 に腹腔内投与した。2クール目を開始した時点では腹水は消失しており,以後,全経過を通じ腹水は認めなかった。計5 クールを施行したが,原発巣が悪化してきたため,fourth-lineとしてS-1とbiweekly PTXの併用療法を開始した。しかし,ふらつきや意識消失発作を来し,髄液検査で癌性髄膜炎と診断され,この後急速に病状が悪化し死亡した。今回fourth-lineに及ぶ化学療法が,原発巣や癌性腹膜炎については奏効したが,癌性髄膜炎を併発し死亡した。癌性髄膜炎に対する新たな治療戦略が期待される。 -
S-1/CDDP 投与にて3年間PR 継続中の胃癌多発脊椎骨転移の1 例
35巻2号(2008);View Description Hide Description66 歳,男性。体中部小弯の5 型腫瘍にて胃全摘を施行した。術後10 か月からCEA(正常値2.5 ng/mL 以下,2004 年4 月から正常値5 ng/mL以下)が漸増し,再発の疑いでS-1 80 mg/day,day 8 のCDDP 80 mg/body を2 回投与しCEAが低下した。病的脊椎骨折にて再入院し,MRI 検査にて胸腰椎多発骨転移と診断。S-1 80 mg/ day,day 8 のCDDP 60 mg/body を2 回行いCEA は正常化,胸腰椎の溶骨性変化は消失した。2004 年2 月〜2006 年1 月までの24 か月間はCEA 低値のため治療なしで経過観察した。しかしCEA の漸増傾向があり,2006 年2 月からS-1 40 ないし80 mg/day の2 週投与2週休薬で経過観察中である。 -
S-1が有効であったS 状結腸癌多発肝転移の1 例
35巻2号(2008);View Description Hide Description症例は74 歳,女性。便秘,腹部膨満感を主訴に発見された両葉多発肝転移を伴うS 状結腸癌。腸閉塞予防目的でS状結腸切除術を施行し,第15 病日より肝転移に対してS-1 の投与を開始した。第26 病日の退院後は外来で投薬した。4 週投与2 週休薬を1 コースとしたが,1 コースの4 週目にgrade 2 の食欲不振が出現したため,2 コース目より2 週投与1 週休薬に変更した。7 コース終了時のCT 検査で肝転移は著明に縮小した。有害事象はgrade 2 の皮膚症状を認めたが,外来通院で投薬が可能であった。8コース以降に腫瘍マーカーの上昇,右大腿骨転移が出現し,術後12 か月で原病死となった。S-1 は,進行大腸癌における抗癌剤化学療法の選択肢の一つとなり得ると思われた。 -
TrastuzumabとCapecitabine併用療法が奏効した進行・再発乳癌の2 例
35巻2号(2008);View Description Hide Description急速悪化を示した進行・再発乳癌の2 例に対しtrastuzumab とcapecitabine の併用療法を行った。PR 期間は症例1は7か月間,症例2 は12 か月間であった。両薬剤とも単剤としての標準量を用いたが,有害事象は軽度であった。capecitabineは経口剤であることから,治療時間の短縮が得られた。したがってこの併用療法はQOLに優れ,高い奏効率の得られる可能性がある。 -
乳癌術後23年後の胸壁再発に対する治療経験
35巻2号(2008);View Description Hide Description症例は77 歳,女性。23年前(1984年)に右乳癌の診断にて乳房切除術を施行。1997 年1 月より左前胸壁正中側の術創近傍の隆起に気付くも症状なく放置していたが,大腸ポリープに対する治療時に指摘される。血液生化学検査は特に異常なく,明らかな遠隔転移巣もなかった。腫瘤は右胸壁正中側の術創に一致しており発赤と隆起がみられ,超音波検査と胸部CT においては一部肋骨浸潤所見も認められた。画像所見および局所所見より,本症例は乳癌術後無再発23 年経過後の局所再発と診断した。初回治療は右前胸壁の腫瘤に対し,局所治療として放射線治療(60Gy/30fr)を行い,同時tamoxifen(TAM)20 mg/dayおよび5'-DFUR 600 mg/dayを併用した。以後TAMをtoremifene 80 mg/day に変更し,局所の発赤は消失,画像上腫瘍も縮小傾向がみられた。3 年経過後,局所の発赤の再燃を認めたため,5'-DFUR 1,200 mg /day とcyclophosphamide 100 mg/dayを2 週投薬1 週休薬で使用し,放射線治療(10 Gy/5 fr)および温熱療法4 回(週2 回)を併用。その後寛解増悪を繰り返すため,anastrozole 1 mg/day と5'-DFUR 600 mg/day に変更し,さらに5'-DFUR をcapecitabine 900 mg/day に変更して加療し,QOLを落とすことなく外来通院加療が可能であった。 -
複数の化学療法後にCisplatin,S-1併用療法が奏効した再発非小細胞肺癌2 例
35巻2号(2008);View Description Hide Description複数の抗癌剤治療後にcisplatin,S-1併用療法が奏効した再発非小細胞肺癌2 例を経験した。症例1 は64 歳,女性。プラチナ製剤,docetaxel,gefitinibなどによる治療後にsixth-lineとして本治療を2 コース施行しpartial response(PR)が得られた。症例2 は56 歳,女性。プラチナ製剤,docetaxel,gefitinibの治療後にfourth-lineとして本治療を4 コース施行しPR が得られた。また,同時期に複数の抗癌剤治療後に本併用療法を施行した8 例を合わせ,10 例をretrospective に検討した。10例の毒性は,grade 3/4 の好中球減少30%,血小板減少20%,貧血を60%に認め,grade 3 の低Na 血症と高血糖を20%に認めたが,重篤な副作用を認めなかった。以上より,再発進行非小細胞肺癌に対し,本併用療法は選択肢の一つになると考えられた。 -
化学療法,全脳照射,定位手術的照射の併用治療により長期生存が得られた小細胞肺癌術後脳転移の1例
35巻2号(2008);View Description Hide Description症例は63 歳,女性。肺癌に対して右上葉切除術(pT1N1M0,stage IIA,small cell lung cancer)および術後補助化学療法(carboplatin+etoposide,2 コース)が施行された。術後1 年目に腫瘍マーカー値(CEA,ProGRP)上昇のため頭部CT検査を行ったところ,右前頭葉に径3.5 cm の腫瘍が指摘された。転移性脳腫瘍と診断し,cisplatin+irinotecan hydrochloride療法を4 コースおよび全脳照射をtotal 40 Gy 施行した。治療後CR となったが,10 か月目の頭部MRI 検査にて腫瘍の再増大が指摘されたため,定位手術的照射(辺縁線量22 Gy,中心線量44 Gy)を行った。治療後の腫瘍縮小効果は良好であり,FDG-PET 検査においても同部位の集積低下-欠損像が認められた。全治療期間をとおしてコントロール不良な有害事象は認められなかった。治療開始から5 年1か月経過した現在,腫瘍の再増大は認められず,元気に社会生活を送っている。 -
PTX/S-1併用療法によって腫瘍マーカーSCC の低下を認めた進行子宮頸癌の2 例
35巻2号(2008);View Description Hide Description症例1: 35 歳,女性,子宮頸癌IIIb期。来院時腫瘍マーカーSCC の値は50 ng/mL であった。2005年11 月より化学療法(CDDP)併用放射線療法を施行し,2006 年2 月にはSCC 0.9 ng/mL に低下した。4月,PET にて再燃を認め再び化学療法を施行したが,マーカーの低下を認めなかった。9月よりpaclitaxel(PTX)/S-1 を開始し,SCC 1.3 ng/mL まで低下を認めた。現在治療継続中である。症例2: 78 歳,女性,子宮頸癌IIIb 期。2004 年8 月より化学療法併用放射線療法を施行し,腫瘍マーカーの低下を認めた(SCC 25.4 → 1.8 ng/mL)。しかし,その後上昇傾向となり化学療法を施行するも,骨髄抑制,下肢の麻痺など副作用が強く,継続が難しかった。2006年4月よりPTX/S-1 を開始し,腫瘍マーカーの著しい低下を認めた(SCC120 →10ng/mL)が,骨髄抑制が強く途中中断した。7月,死亡退院となった。 -
UFT/ユーゼル投与により重篤な副作用を来したDihydropyrimidine Dehydrogenase(DPD)欠損症を強く疑った1例
35巻2号(2008);View Description Hide Descriptionフッ化ピリミジン系抗癌剤(以下,5-FU)は,消化器領域の悪性腫瘍に対して頻用される薬剤であるが,DPD 欠損症に対し使用した場合,重篤な副作用を生じることが報告されている。症例は75 歳,男性。UFT/ユーゼルによる術後補助化学療法開始後より悪心・嘔吐を認めた。さらに高度の血小板減少,grade 4 の好中球減少を認めたため,血小板輸血,G-CSF製剤の投与を行った。その後,経過とともに白血球数,血小板数,好中球数は回復した。本症例は尿中ピリミジン分析の結果,DPD 欠損症を強く疑った。
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特別寄稿
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胃癌の組織型,組織発生と遺伝子異常
35巻2号(2008);View Description Hide Description胃癌は病理組織学的に分化型腺癌と未分化型癌に大別され,腸上皮化生粘膜を母地として分化型腺癌が発生し,固有胃粘膜を母地として未分化型癌が発生すると考えられている。分化型腺癌の多くはp53 遺伝子変異に代表される癌抑制遺伝子の不活化を背景に発生し(suppressor pathway),2 割程度がhMLH1遺伝子メチル化によるDNAミスマッチ修復機構の破綻で発生している(mutator pathway)。未分化型癌ではE-cadherin 遺伝子のメチル化が最も特徴的な遺伝子異常であり,分化型腺癌にみられる遺伝子変異(DNA構造異常)が検出されることは少ない。p16遺伝子やRUNX3遺伝子をはじめとする多くの癌抑制遺伝子のメチル化が分化型腺癌,未分化型癌の発生早期から検出される。分化型腺癌の進行の過程でE-cadherin遺伝子に変異が生じると組織型が未分化型癌に変化する。したがって,未分化型癌のほとんどはE-cadherin遺伝子がメチル化あるいは変異によって不活化している。胃癌が進行すると染色体欠失や遺伝子変異が蓄積し,さらにはMAGE(melanoma antigen)遺伝子やSynucleinγ遺伝子の脱メチル化など多種多様な遺伝子異常が検出されるようになる。胃癌の組織型,組織発生に対応した分子発生経路が存在し,特異的遺伝子異常を検出することによってリスク評価,良悪性診断,予後予測などに応用が可能と考えられる。 -
今後の抗がん剤開発の方向性
35巻2号(2008);View Description Hide Description第13 回Oncology Forum では日本の抗癌剤開発の方向性について討議がなされた。1990 年頃の抗癌剤開発はtotal cell kill のコンセプトであったが,いまや分子標的薬の開発が主流である。その分子標的薬や抗体薬は残念ながらほとんどが外国製品であり,日本のトランスレーショナルリサーチは現状として貧弱である。今後の抗癌剤開発の方向性として国際共同開発が必須と考えられるが,国際共同試験の実施においては様々な障害がある。これらを乗り越えていくため企業,医療機関,規制当局は協力して努力していく必要がある。日本における各癌領域での今後の抗癌剤開発を考えたとき,胃癌ではS-1の登場により大きく進歩しつつあり,今後は分子標的薬を含む多剤併用療法の開発が期待される。大腸癌では近年のエビデンスの蓄積により大きな進歩を遂げている。海外で進んでいる多剤化学療法に抗体薬を組み入れる治療が現在日本で導入されつつある。今後は本邦創薬された化合物を含め治療係数の優れた併用療法の臨床開発が期待される。乳癌では従来ホルモン治療を第1 に考え化学療法と組み合わされてきたが,近年抗体薬の登場によりHER2 感受性が治療のアルゴリズムに大きな変化を与えている。今後の分子標的薬開発やcDNA アレイなどの個性診断により治療の個別化が進んでくるものと考えられる。一方ではアジュバント治療などにおける小さな差異を証明するため試験は大規模化しており国際試験が必須といえる状況である。泌尿器科癌では,腎癌に対する分子標的薬の効果が証明されており,今後前立腺癌,精巣腫瘍などに対する分子標的薬の開発が望まれる。その際,分子標的薬の作用機序解明とさらには,その有効性の増強も標的とした戦略的な薬剤開発が期待される。今後の抗癌剤開発の方向性として日本が国際共同試験に参加可能な癌腫は多い。前立腺癌,腎細胞癌は可能であり,卵巣癌,膵臓癌は国際化が必須である。Phase III は国際共同試験で実施すべきであり,癌腫や薬剤の種類によってはアジア地域による共同試験も有効である。国際共同試験へ参加する場合,世界の症例組み入れスピードと同等に実施していく必要があるが,治験を含めた医療環境の差があり問題である。この問題を解決するためには,ただ欧米的環境を追いかけるだけではなく看護師やCRCなどのスタッフを充実させることが効果的に思える。Phase III で必要な日本人患者数については個々の開発戦略であるとともに,さらに企業と行政が共に検討していく必要がある。
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