癌と化学療法
Volume 35, Issue 3, 2008
Volumes & issues:
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総説
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粒子線治療—新しいシステム医療—
35巻3号(2008);View Description Hide Description粒子線治療は,装置と医療のシステムからなる。装置は,照射装置,治療計画装置,治療確認装置から構成され,医療は,粒子線治療の適応,日常の治療を含んだクリニカルパスと,日常の患者のケアから構成される。兵庫県立粒子線医療センターは,2001 年4 月に陽子線と炭素イオン線の治療ができる世界初の施設として開院した。現在までに,いろいろな部位のがんで1,300名を超える治療をしてきた。局所制御が非常によいことと,副作用が少ないことがこの治療の特徴である。両方のビームの違いを明らかにするため,2007 年秋から比較試験を行うので違いが明らかになると思われる。将来,両ビームの混合照射も行いたいと考えている。
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特集
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- 変貌するわが国の癌治療 ・ I
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がん対策基本法とがん対策推進協議会
35巻3号(2008);View Description Hide Descriptionがん対策基本法が施行され,同法に規定されているがん対策推進協議会が,がん対策推進基本計画をまとめた。今後,わが国のがん対策は同法と同計画に基づいて進められる。わが国のがん対策が元年を迎えたことになる。今後数年は極めて重要な時期となる。 -
がん診療連携拠点病院と均てん化—がん対策基本法の成立とがん対策推進基本計画の策定—
35巻3号(2008);View Description Hide Descriptionがん対策基本法の成立,がん対策推進基本計画の策定と我が国のがん対策は新たな局面を迎えた。がん医療に関する分野においては,従前より進めているがん診療連携拠点病院の整備を更に推進することなどにより,均てん化を進め,各々の地域全体のがん医療水準を向上させることを大きな目標としている。基本計画で掲げた各分野の目標に向けて着実に前進することにより,「がん患者を含めた国民が,がんを知り,がんと向き合い,がんに負けることのない社会」の実現を目指していく。 -
がんプロフェッショナル養成プランによるがん専門医療者の育成
35巻3号(2008);View Description Hide Descriptionがんは死亡率第1 位の疾患で,わが国では一生涯のうち3 人に1 人ががんで死亡するが,がん診療の専門家が全国的に少なく,その養成が急務とされている。わが国のがん医療水準向上のためには,不足する放射線治療医,がん薬物療法専門医,緩和ケアなどがん治療の専門家の育成が不可欠であり,国のがん対策の一つである文部科学省の平成19 年度予算・がんプロフェッショナル養成プランに,医学部を有する大学を中心に,医療系学部学科を有する大学が連携する全国18 拠点の「がんプロフェッショナル養成プラン」が採択された。この養成プランは,大学が協定大学と連携してがん専門医療人を養成する広域連携プランで,大学院を中心として,各大学の資源を生かした時間・空間を越える教育システムを構築し,都道府県の大学病院と多くのがん診療連携拠点病院が参加してがん医療人を育成するほか,大学,病院,自治体,職能団体が一体となって臨床試験・がん登録を推進する地域の枠組みを構築する計画である。 -
がん診療に携わる医療者に求められる5 つの義務
35巻3号(2008);View Description Hide Descriptionインフォームドコンセント運動開始から20 年有余,米国には遅れること36 年,2007年4 月がん対策基本法施行によりわが国もようやく真っ当ながん医療の時代に入った。がんは全身病である。診断確定,標準治療施行,危険の予見とその回避はクリティカルである。腫瘍内科医が全体を監督する体制がない限り,患者の経過を全身病として管理する責任ある医療の提供は困難である。今日,腫瘍内科医の実践の場は外来化学療法部門である。病院経営上はもちろん,安全管理上も教育と研究上も,がん医療の中心的なシステムとしてどのような外来化学療法システムをつくるかがカギとなる。本稿では,がん医療においてそれらの観点から特に心すべき諸点について述べる。 -
国際標準のがん治療を求めて—「がん対策基本法」成立に至った患者たちの活動を振り返って—
35巻3号(2008);View Description Hide Descriptionがん対策基本法が2006 年6 月に成立した。その背景には,「もう治療法はありません」として,適切な化学療法や緩和ケアが提供されないまま切り捨てる日本のがん医療のあり方に対し異議を唱え,行動した患者たちの存在があった。彼らは「世界標準のがん治療の実現」を訴え,医薬品の早期承認の要請や専門的な化学療法を担える医師の育成を求め,がんに関する正しい情報提供のあり方の提案を行った。それが社会の共感を呼び,今回のがん医療改革へとつながった。ただ,医薬品の適応外使用に関する制度化など課題も残る。さらに,治癒が期待できない患者を切り捨てず,各人の価値観を尊重して支えることができる医療体制と医療者の姿勢が求められる。
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Current Organ Topics:骨軟部腫瘍
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原著
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頭頸部癌におけるS-1を用いたAdjuvant Chemotherapyの経験
35巻3号(2008);View Description Hide Description頭頸部癌治療のさらなる治癒率向上のためには,化学療法の併用は必須と考える。化学療法の目的としては,根治治療後の補助としていかに生存率を上げるか,そして進行再発例に対していかに生存期間を延長させるかという二つが考えられるが,現在のところ明確な答えはない。当科では上記二つの目的に対して,S-1 による化学療法を行っている。また2005年までのS-1投与の特徴として,3週投与後2週休薬,2 週投与後2 週休薬という変法を用いており,これらの投与法の服薬完遂性や安全性,治療効果を検証することは至適投与方法を検証する意味においても意義深いと考えた。そこで,2005年までに頭頸部癌のadjuvant chemotherapy としてS-1 の投与を行った68 例を対象とした。その結果,どちらの投与法も服薬完遂率,安全性が高いと考えた。生存率の向上に寄与するかについては今後,精度の高いrandomized controlled trial が行われることが望まれる。 -
乳癌再発予測におけるPyNPase値およびDPD 値の意義
35巻3号(2008);View Description Hide Description当科にて手術を施行した乳癌症例120 例を対象に組織中のPyNPase 値およびDPD 値をenzyme-linked immunosorbent assay(ELISA)法にて測定し,予後予測因子としての意義および乳癌の生物学的悪性度との関連を臨床病理学的因子を用いて検討した。乳癌腫瘍部におけるPyNPase値とDPD 値は正常乳腺組織(非癌部)に比較して有意に高値を示し(p<0.0001),臨床病理学的因子との関連をみるとPyNPase 活性値はどの因子とも関連がなかったが,DPD 活性値はHER2 が免疫染色で2+以上の症例において低値を示した(p=0.014)。予後因子との関連をみるとPyNPase 値が100 U/mg protein 未満の症例では再発を認めなかった。またPyNPase/DPD 比が4以上の高値群で4 未満の低値群より再発までの期間が有意に短かった(p=0.014)。今回の検討で,PyNPaseに加えPyNPase/DPD比は新たな再発予測因子となる可能性が示唆された。 -
栄養製剤(ラコール)による食道癌に対する化学放射線療法施行時の副作用の軽減効果
35巻3号(2008);View Description Hide Description半消化態栄養剤であるラコールはω3 系必須脂肪酸を豊富に含み,近年その免疫能の賦活作用や消化管障害の軽減作用が報告されている。今回,食道癌患者を対象として化学放射線療法施行(CRT)時におけるラコール摂取の与える効果について検討を行った。初発の頸部または胸部食道癌10例に,CRT 施行開始3日前からCRT 終了後7 日目までラコールの投与を行った。同時期にCRT 施行された食道癌症例10 例のラコール非投与群を対照として,CRT による有害事象の発生について比較検討した。血液障害については,血小板減少に差はなかったが,grade 2 以上の白血球減少はラコール非投与群の全例でみられたのに対して,ラコール投与群では4 例のみであり,ラコール投与群で有意に少なかった(p=0.0043)。消化器症状では,grade 2 以上の下痢がラコール非投与群の5 例に対して,ラコール投与群では1 例もみられなかった(p=0.0118)。またgrade 2 以上の口内炎咽頭炎の発生も減少する傾向がみられた(p=0.0812)。以上の結果より,食道癌に対するCRT 施行時のラコール投与はCRT による副作用を軽減する有効な方法であると考えられた。 -
実地臨床における胃癌化学療法の現状と展望—外科医の立場から—
35巻3号(2008);View Description Hide Description胃癌の化学療法は1999年にS-1が登場して以来,奏効率も腫瘍コントロール率も高率になり,さらにkey drug を有効に活用して十分な治療計画を立てることが重要と考えられる。今回,2003〜2006 年まで当院において進行・再発胃癌に対し化学療法を施行した32 例を対象とし,その成績を示した。全症例のMSTは21 か月と長期生存が得られ,さらに複次治療になればなるほど予後の延長が認められた。また,S-1 を一次治療で使用した症例のうち,二次治療でCPT-11 とtaxane を比較したところ,その2 剤の間には有意な予後の差を認めなかった。進行・再発胃癌に対する化学療法には各症例の病状と各化学療法剤の特徴を考え,最も有効と考えられる化学療法剤を最初に使用し,その後,複次治療となれば予後はさらに改善すると思われる。 -
同時性多発肝転移胃癌に対するS-1プラス他剤併用療法の治療経験
35巻3号(2008);View Description Hide Description予後の極めて不良である胃癌の同時性肝転移に対し,新規抗癌剤であるS-1,taxane,irinotecan(CPT-11)を用い治療を行った治験例について有用性や安全性について検討した。新規抗癌剤が胃癌の治療に導入されて以来,当院にて治療された胃癌の同時性肝転移症例は9 症例である。いずれも肝転移以外は手術切除可能と診断し,または原発巣による狭窄症状や出血により原発巣切除術を先行させた症例である。化学療法first-line のレジメンはS-1+cisplatin(CDDP)の動注。second-lineはS-1の投与は継続し,CDDP の動注をCPT-11へ変更。さらにthird-lineとしてpaclitaxelの投与とした。投与期間中に認めた有害事象は,血液毒性・非血液毒性ともにgrade 3 以上はなく,治療中止に至る症例はみられなかった。腫瘍縮小効果判定の評価は全例stable disease(SD)で,最良総合効果の判定はprogressive disease(PD)であった。生存期間中央値(MST)は16 か月,新規抗癌剤投与以前の多発肝転移胃癌症例のMST(5.5か月)と比較し有意差を認めた(p=0.002)。治療期間中は全例外来通院での治療継続が可能でありQOL は確保されていた。画像診断上では腫瘍縮小効果としては有効とはいえず効果なしとの判定となるが,以上のような検討結果から,生存への寄与としては一定の効果を上げたと評価できると考える。 -
進行大腸癌に対するFOLFOX4 療法による末梢神経障害の回復の解析
35巻3号(2008);View Description Hide Description背景: FOLFOX4 療法は進行大腸癌に対する標準療法である。oxaliplatin の用量規定因子は末梢神経障害である。目的: FOLFOX4療法での末梢神経障害による休薬,中止後の回復期間について検討する。対象と方法: 2005年4月〜2006年3月までに当院でFOLFOX4 療法を導入された切除不能転移・再発大腸癌に対して,慢性末梢神経障害をCommon Terminology Criteria for Adverse Events v3.0(CTCAE v3.0)にて評価し,2006 年7 月31 日までにgrade(G)3 にて休薬・中止となった症例について,2006 年12 月31 日までの末梢神経障害の回復期間をKaplan-Meier 法にてretrospective に解析する。結果: FOLFOX4 療法を施行した患者は187 例のうちG2 以上の末梢神経障害で休薬,中止となった症例はG2: 39 例(20.8%)/G3: 33 例(17.6%)であった。発現までのサイクル数の中央値はG2: 10(2〜23)/G3:10(4〜14)サイクルであった。G1 への回復期間の中央値はG2 からは56 日で,G3 からは106日であった。休薬された例で治療を再開できたのはG2で15 例(78.9%),G3 で14 例(51.9%)であった。再開ができなかった理由は休薬中の増悪が最も多かった。休薬から増悪までの期間はpartial response(PR)例88.5 日/stable disease(SD)例58 日で,PR 例はSD例と比較して休薬から増悪までの期間が長かった。結語: FOLFOX4療法における機能障害を伴う末梢神経障害が海外の臨床試験と同様にみられた。今後,末梢神経障害への対策が必要であると考えられた。 -
FEC100療法における副作用の検討
35巻3号(2008);View Description Hide Description目的: FEC100 療法の日本人における副作用,特に骨髄抑制,悪心・嘔吐について検討した。対象および方法:乳癌患者49 例(再発3 例を含む)を対象とし,初回投与時の副作用について検討した。制吐薬は5-HT3受容体拮抗制吐薬,ステロイド,抗ドパミン薬であるhaloperidol を用いた。また抗生剤をday 10 から5 日間投与した。結果:白血球数の最低値(nadir)の平均は1,492±575/μL,最低値となるのは平均13.0±1.45 日目であった。白血球数が1,000/μL未満(grade 4)の白血球減少は16.3%(8/49)に認められたが,特に多発性骨転移例で発生率が50%(3/6)と高かった。発熱性好中球減少症を呈したのは8.1%(4/49)であり,4例中2 例は多発性骨転移例であった。悪心は30.6%(15/49),嘔吐は6.1%(3/49)に認められた。結語:日本人におけるFEC100療法の副作用は,十分許容範囲内と考えられた。ただし,多発性骨転移例では骨髄抑制が強いので注意を要する。
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症例
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サルベージ療法としてDocetaxel,Doxorubicin,Cyclophosphamide(TAC)療法が有効であった進行再発男性乳癌の1 例
35巻3号(2008);View Description Hide Description症例は56 歳,男性。2001 年9 月前医にて転移性乳癌と診断され,anthracycline 系を含む抗癌剤で加療を受けCR となったが,2005 年1 月に再度広範囲深部リンパ節の転移に伴う腎機能障害と癌性胸水を認め5 月,当科紹介入院となった。TAC療法(docetaxel 75 mg/m2,doxorubicin 50 mg/m2,cyclophosphamide 500 mg/m2,3 週ごと)を計4コース施行したところ著効し退院が可能となった。TAC 療法は,臓器症状を有する進行再発男性乳癌におけるサルベージ療法としても有用性である可能性が示された。 -
Capecitabine+Docetaxel併用療法が奏効したTriple Negative乳癌再発の1 例
35巻3号(2008);View Description Hide Description症例は73 歳,女性。2004 年8 月,左乳癌にて胸筋温存乳房切除術(Bt+Ax: Auchincloss法)を施行した。病理所見は,腺癌(papillotubular carcinoma),f,T2,ly0,v0,N1(21/21),T2N1M0(Stage II B),ER 陰性,PgR 陰性,HER2陰性で,いわゆるtriple negative 乳癌であった。術後AC 療法を4 コース施行後paclitaxel を3 コース施行し,以後は外来にてfollow up 中であったが,2006年2月(無再発期間1年5 か月)に左前胸部の皮膚・胸壁の局所再発を確認した。capecitabine(1,800 mg/ body/day)の単剤投与を開始したが,4 コース施行後PD と判定した。引き続きcapecitabine+cyclophosphamide併用療法を開始したが,6コース施行後増悪した。2006年11 月よりcapecitabine(1,800 mg/body/day)とdocetaxel(60 mg/body,day 8 のみ)の併用療法を2 週連続投与,1 週休薬で3 週を1 コースとして開始した。3コースで奏効し,計6 コースを施行した。施行中重篤な有害事象を認めず,現在も効果は持続している。capecitabine+docetaxel併用療法は,一般に治療が困難とされるtriple negative乳癌の再発にも有効であることが示唆された。 -
S-1+CPT-11併用療法が奏効した多剤抵抗性肺扁平上皮癌の1 例
35巻3号(2008);View Description Hide Description症例は63 歳,男性。咳,息苦しさを主訴に来院。胸部CT にて,右S1 肺門部にspiculationを伴うφ25 mm大のmass,右肺散在性にnodule,心嚢液貯留を認めた。さらに気管支鏡TBLB にて扁平上皮癌が認められ,肺癌(cT4N3M1,stageIV)と診断し化学療法を開始した。化学療法は,CBDCA(AUC3)+GEM(1,000 mg/m2)→ DOC(60 mg/m2)→ VNR(25 mg/m2)と順次施行するもPD であった。fourth-line治療としてS-1(120 mg/body/day,2 週投与1 休薬)を投与し1 コース終了後,胸部CT にて腫瘍の縮小を認めた。しかし,3 コース終了後の胸部CT にて再度腫瘍の増大を認めたため,amrubicin(35 mg/m2)に変更するも,皮疹を認めたため投与を中止した。S-1にて一度腫瘍縮小効果を認めたため,S-1(100 mg/body/day,day 1〜14)+CPT-11(60 mg/m2,day 1,7,14)併用療法を4 週間隔で施行した。2コース終了後,胸部X線,胸部CTにて腫瘍の縮小を認めた。腫瘍縮小率は40.0%であった。現在,7 コース施行したが,SDの状態を維持できているため治療を継続している。本症例のような多くの抗癌剤に治療抵抗性を示す非小細胞癌に対し,S-1 単剤投与,S-1+CPT-11併用療法の有用性をさらに検討する価値があるものと思われた。 -
非小細胞肺癌に対する外来術後補助化学療法—Carboplatin,Gemcitabine 併用療法の安全性の検討—
35巻3号(2008);View Description Hide Description目的:肺癌術後補助化学療法は,治療効果が高く毒性の少ない外来で施行可能なレジメンを選択すべきであり,今回carboplatin(CBDCA),gemcitabine(GEM)併用療法を施行し,その安全性,認容性を検討した。対象および方法:完全切除術を施行した非小細胞肺癌症例で組織学的リンパ節転移陽性症例5 症例を対象とした。すべて男性で57.75 歳(平均65.8歳)であった。第1 日目にCBDCA AUC 4 とGEM 1,000 mg /m2を投与し,第8 日目にGEM 1,000 mg/m2を投与した。3 週間間隔で6 コース施行した。結果: grade 3 の好中球減少を3 例に,grade 2 の血小板減少を3 例に認めた。1症例において2,3 コースの8 日目にgrade 3 の好中球減少を認め,投与を1 週間延期した。自覚的副作用としての悪心・嘔吐,全身倦怠感,脱毛,末梢神経障害などは認めなかった。術後1 年8か月から2 年11か月を経過したが,いずれの症例も再発を認めていない。結論: 本法は,肺癌術後症例に応用可能で術後補助化学療法として期待される。 -
カルボプラチン,エトポシド併用療法により薬疹が出現した小細胞肺がんの1 例
35巻3号(2008);View Description Hide Description症例は69 歳,男性。小細胞肺がんに対してカルボプラチンおよびエトポシド投与と放射線同時併用療法を施行したところ,治療開始11 日目に中等度の薬疹が出現した。薬剤添加リンパ球刺激試験では,カルボプラチンは陰性,エトポシドは被検材料由来のリンパ球障害により判定不能であった。2 コース目はエトポシドをイリノテカンに変更して施行したところ,薬疹の出現はみられなかった。本症例の薬疹は,エトポシドもしくはその添加物によるアレルギー性の機序により発現した可能性が高いと考えられたが,エトポシドの薬疹を含む過敏症の発現頻度は投与量に依存して高いとする文献もあり,臨床においてさらなる症例の蓄積と検討が必要である。 -
既治療小細胞肺癌に対しAmrubicin投与で著しい骨髄抑制を来した2 例
35巻3号(2008);View Description Hide Description症例は,再発小細胞肺癌(進展型)の59 歳と68 歳の男性。頭部放射線治療後に再治療としてamrubicin(AMR)3 日間投与(40 mg/m2,45 mg/m2)を行ったところ,著しい好中球減少がday 8 から9 日間続いた。感染症を併発したが,両患者ともgranulocyte-colony stimulating factor(G-CSF)と輸血および抗生物質投与で改善した。既治療小細胞肺癌の患者に対してのAMR投与は,骨髄抑制に対して厳重な注意を要するが1 コース目の血液検査を十分に行い,G-CSFなどの早期投与により対処可能である。また,病勢のコントロールには減量などにより繰り返し投与することが望ましい。 -
下口唇扁平上皮癌に対する化学放射線同時併用療法の経験
35巻3号(2008);View Description Hide Description近年,頭頸部癌領域において化学放射線同時併用療法の高い有効性が報告されているが,下口唇扁平上皮癌(SCC)に対して本治療を行った報告はない。われわれは,手術の適応ではないと判断した下口唇SCC 2 症例に対して,化学放射線同時併用療法を行い良好な結果を得たので報告する。 -
S-1/CDDP 療法による術前化学療法が著効し根治手術が得られた進行胃癌の1 例
35巻3号(2008);View Description Hide Description症例は77 歳,男性。心窩部痛を主訴に上部消化管内視鏡検査を施行したところ,胃体上部大弯から前壁に及ぶ2 型胃癌(por 1,por 2)を認めた。腹部造影CT 検査にて胃小弯側にBulkey N2 のリンパ節腫大を認め,診断的腹腔鏡検査にてsT3 sN2 sH0 sP0 CY0,sStage III Bと診断。術前化学療法の方針とし,S-1 100 mg/body/day を3 週投与2 週休薬,day 8 にCDDP 74 mg/body/day 点滴静注を1 クールとしたレジメンで3 クール施行。化学療法後,原発巣の縮小およびリンパ節腫大の縮小を認め,PR と判定した後,脾合併胃全摘術,D2リンパ節郭清を施行した。病理組織学的検査では原発巣にごく少量の癌細胞の遺残(30 μm)を認めるのみで,リンパ節転移は認めなかった。最終的にStageは,T2 N0 H0 P0, fStageI Bでdown-stagingしており根治度Aであった。術後の経過は順調で現在外来通院中である。 -
多発肝転移を伴う胃癌に対し胃切除とS-1および動注用CDDP の動注によりCR となった1 例
35巻3号(2008);View Description Hide Description症例: 70歳,女性。5日間続く発熱を主訴に近医を受診し,貧血と高血糖を指摘され当院へ紹介入院となった。上部消化管X 線検査および内視鏡検査で胃中部大弯に1 型進行胃癌を認めた。CT,MRI で右葉に多発転移巣を認めた。リンパ節郭清を伴う幽門側胃切除と肝動注用リザーバーを挿入した。術後S-1(80 mg/day,4 週投与1 週休薬)とCDDP の動注療法(4 週ごと)を開始した。術後2 か月で腫瘍マーカー(CEA,CA19-9)は正常になり,肝転移巣はほとんど認められなくなった。術後8 か月目のCT,MRIではまったく認められなくなり,術後12 か月目のFDG-PET でも異常集積を認めなかった。術後18 か月目の現在もCR の状態が続いている。多発肝転移を伴う胃癌に対し胃切除とS-1 および動注用CDDP 肝動注の著効例を経験したので報告した。 -
mFOLFOX6 療法不応後に二次治療としてのFOLFIRI 療法が奏効し切除し得た大腸癌同時性肝転移の1 例
35巻3号(2008);View Description Hide Description症例は60 歳台の男性。食欲不振,腹部腫瘤を主訴に当院を受診した。大腸内視鏡,CT検査にてS 状結腸癌,多発性肝転移と診断した。neoadjuvant chemotherapy(NAC)として,mFOLFOX6療法を2 コース施行後CEA,CA19-9の上昇を認めたためFOLFIRI 療法に変更した。FOLFIRI療法を2 コース施行後CEA,CA19-9 が半減し,5コース施行後CEA,CA19-9 のさらなる著明な低下および大腸内視鏡,腹部CT にてpartial response の効果が得られ根治手術を施行した。大腸癌取扱い規約第7版による切除標本の組織学的効果判定はGrade 1b であった。切除不能の転移性大腸癌にNAC を施行し,根治切除率を高めることで予後が改善する可能性がある。 -
CPT-11+S-1療法が奏効し長期生存が得られている大腸癌肺転移,癌性胸膜炎の1例
35巻3号(2008);View Description Hide Description症例は71 歳,男性。2001 年9 月,上行結腸癌に対して結腸右半切除術を施行(stage II,CurA)。術後,tegafur/uracil による補助化学療法を施行したが,2003 年5 月,肺転移,癌性胸膜炎と診断され,LV+5-FU(RPMI regimen)療法を施行するもPD と判断された。2004 年5 月よりCPT-11(100 mg/day,day 1,15)+S-1(100 mg/ day,day 1〜21)にregimen を変更,6 courses 終了の時点でPRと判断した。その後も約3 年間にわたり外来通院にて治療継続中で,PR を維持している。経過中grade 3以上の有害事象は認めず,CPT-11+S-1 療法はQOL を維持しつつ外来通院で安全に継続でき,有用性の高い化学療法であると思われた。 -
進行直腸癌に対して放射線治療とS-1内服化学療法によりCR が得られた1 例
35巻3号(2008);View Description Hide Description手術を拒絶された72 歳の進行直腸癌患者に対して,放射線治療(40 Gy)に引き続いてS-1 内服による化学療法を行った。放射線治療により腫瘍からの出血も軽減し,S-1 内服化学療法により治療開始から1年後に肉眼的,画像的に腫瘍は消失し,生検の結果も腫瘍は認めなかった。副作用もほとんどなく,治療開始から2年以上経過した現在も再発を思わせる自覚症状や画像所見は認めず,良好な経過が持続している。 -
肛門管扁平上皮癌に対する同時化学放射線療法—4 症例の検討—
35巻3号(2008);View Description Hide Descriptionわれわれは,肛門管扁平上皮癌4 症例に対してmitomycin C(MMC)/5-fluorouracil(5-FU)を用いた同時化学放射線療法を行った。化学療法は,MMC 10 mg/m2/day のボーラス静注(day 1),5-FU 700 mg/m2/day(1例では1,000 mg/m2/day)の96 時間持続点滴静注(days 2〜5)を1〜2コース行い,放射線治療は40〜54 Gyを施行した。治療中の有害事象については,1 例でgrade 4 の血液毒性が認められた。現在,治療後それぞれ55 か月,14 か月,7 か月,5 か月が経過しているが全例とも無再発生存中であり,肛門括約筋機能も良好に温存されている。以上より,肛門管扁平上皮癌の治療としての同時化学放射線療法は,日本人においても安全で有効であることが示唆された。 -
外科切除およびPaclitaxel,S-1を用いた集学的治療により2年後にCR が確認された腹膜偽粘液腫の1例
35巻3号(2008);View Description Hide Description症例は74 歳,男性。微熱を契機に腹水の存在を指摘され,腹腔鏡検査にてゼラチン状粘液性腹水を認め腹膜偽粘液腫が疑われた。2004 年5 月回盲部切除術,大網切除術,ゼラチン状粘液性腹水の可及的摘出術を行った。虫垂原発の低悪性度粘液産生性腺癌による腹膜偽粘液腫と診断された。腹腔内化学療法用ポートを留置し,術当日からpaclitaxel(Taxol,PTX)60 mg/m2を計6 回腹腔内投与し,さらにPTX 60 mg/m2を計4 回静脈内投与した。その後,2005 年6 月までS-1 100 mg/日を2 週間投与1 週間休薬の方法で計12 クールを36 週間投与した。この間重篤な有害事象は認めず,術前高値であったCEA,CA19-9は術後正常化し,現在に至るまで正常範囲内で推移している。また,2005 年1 月のCTでは右腎下極の小腸周囲に少量の腹水を認めたが,10 月のCT では腹水の完全消失をみた。2006 年4 月癒着性腸閉塞の診断にて回腸部分切除術を施行。検索した腹腔内に再発病変を認めなかった。以後,現在まで腫瘍の再燃を認めていない。 -
膵臓癌または胆嚢癌骨転移の疑いで用いたS-1/GEM 併用が著効,剖検にて胃癌術後23年の播種性骨髄癌症と診断された1例
35巻3号(2008);View Description Hide Description症例は70 歳,女性で,主訴は体動時痛。1980 年46 歳時に胃癌(低分化腺癌)に対して胃切除術を施行され,StageIII B であった。2003 年11 月ごろから臀部に動作時疼痛が出現し,2004 年4 月に当院を受診した。CA19-9 18,625 U/mL,DUPAN-II 15,000 U/mL と上昇を認め,CT などの画像所見から膵臓癌または胆嚢癌の骨転移と考えた。performance status(PS)4 と全身状態は悪かったが,gemcitabine(GEM)+cisplatin(CDDP)を施行した。2クール後PS は2 に改善したが,CA19-9は上昇しておりS-1+GEMに変更したところCA19-9は低下し,PS も1 となった。CTでの骨病変の改善および骨シンチグラフィでのuptakeの減弱を認め経過良好であったが,2005年4月DIC の悪化から永眠された。剖検では播種性骨髄癌症であり,病理所見から切除23 年後に再発した胃癌による骨髄癌症と診断した。 -
Hyper-CVADで寛解に到達し自己末梢血幹細胞移植術後に微小残存病変が定性的PCR 法で陰性化した形質細胞白血病
35巻3号(2008);View Description Hide Descriptionhyper-CVAD(HCVAD)療法にて寛解が得られ,自己末梢血幹細胞移植(autoPBSCT)併用大量化学療法を施行した原発性形質細胞白血病を報告する。症例は69 歳,男性。VAD療法を2 コース施行したが寛解に至らず,救援療法としてHCVAD 療法を施行した。本法にて完全寛解が得られ,3 コース終了後にautoPBSCT 併用melphalan 大量投与を行った。本症例の腫瘍性形質細胞はt(11;14) (q13;q32)を有し,これを微小残存病変として経過を追った。FISH 法による本転座はHCVAD療法により正常内となった。さらに,定性的PCR 法にて残存していたcyclin D1はautoPBSCT後に消失した。従来,治療抵抗性で寛解導入が困難とされる本疾患において,HCVAD とautoPBSCT により深い寛解が得られた。しかしながら移植6 か月後に再発し,生命予後の延長には至らなかった。予後不良の本疾患に対して,従来の化学療法のみではその効果は不十分であり,bortezomibなどの作用機序の異なる新規薬剤を組み合わせた治療戦略が必要であると考えられた。 -
安全装置付きヒューバー針“Huber Plus”の在宅化学療法への導入の試み
35巻3号(2008);View Description Hide Description皮下埋め込み型中心静脈ポート(CV ポート)による在宅化学療法(FOLFOX)を受けた3 名の在宅管理指導をとおして,安全装置付きヒューバー針(Huber Plus)の有用性と問題点について検討した。対象患者のうち,2 名は従来使用していたヒューバー針からHuber Plusへ変更した。1名は,初回からHuber Plusを使用して在宅管理指導を実施した。患者指導と管理では,1)モデル皮膚とヒューバー針を用いた自己抜針体験。2)ヒューバー針の固定方法は,透明フィルムタイプのドレッシング剤に加えフィクソムルストレッチで3方向を追加貼用で統一した。結果トラブルは皆無であり,安全装置は3 名ともに作動していた。また,対象者の主観的評価では自己抜針時の操作性,疼痛に問題はなかった。Huber Plusは在宅化学療法に有用であり,われわれが施行しているCV ポートの管理方法,患者指導体系は標準となる可能性がある。
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新薬の紹介
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Temozolomide(Temodal)
35巻3号(2008);View Description Hide Descriptiontemozolomide(Temodal: TMZ)は経口のアルキル化剤であり,phase III study で放射線治療と併用してglioblastoma(GBM)の生存率を改善すると認められた唯一の抗がん剤である。TMZの薬物動態に関しては,脳脊髄液は血清の20〜40%の濃度であり,腫瘍内にも高濃度移行しており,TMZ が脳腫瘍に対して効果的な一因であろう。様々な臨床研究によると,TMZ はmalignant およびlow-grade glioma のみならず,他の種類の腫瘍たとえばprimary CNS lymphoma,metastatic melanoma,neuroblastoma にも有効である。TMZと放射線治療併用療法の効果を予見する分子マーカーに関しては,methylguanine methyltransferase(MGMT)promoter のメチル化があればGBM への治療効果が高く,chromosomes 1p/19q の消失があればanaplastic oligodendroglioma,low-grade glioma への治療効果が高い。TMZ の副作用に関しては,骨髄抑制,嘔気,便秘が比較的多い。重篤な合併症であるカリニ肺炎の予防を考慮すべきである。TMZ と他の抗がん剤の併用でより治療効果の上がる方法はこれからのテーマである。本論文にて上記に関して詳述する。
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用語解説
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