癌と化学療法
Volume 35, Issue 4, 2008
Volumes & issues:
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総説
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胃癌の家族集積性について
35巻4号(2008);View Description Hide Description本邦のような胃癌の好発地域では,生殖細胞系列の遺伝的変化単独で胃癌の家族集積を招くような状況は極めてまれで,散発的な症例を時間をかけて収集解析するしかないと思われる。一方で,genome wide analysis が高価ながらもavailableになってきており,ひとつひとつ候補遺伝子をlabor intensive につぶしていくという作業ばかりではない。また,genome wide association(GWA)研究に,環境要因を加味した大規模な(場合によっては前向きの)解析が進むと思われる。ただ,現在のところそのような研究で得られた結果は1.5 以下のリスクのようなものが多く,実際の医療現場や,人々の生活を変えるようなものかどうかは疑問であるとする向きもある(Hunter DJ, et al: N Engl J Med 358: 105-107, 2008)。
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特集
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- 変貌するわが国の癌治療・II—癌診療と資格制度—
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がん薬物療法専門医
35巻4号(2008);View Description Hide Descriptionがん薬物療法専門医には,がん薬物療法に精通し,緩和ケアやセカンドオピニオンにも対応し,臨床試験を実施できるなどの高い能力が要求される。日本臨床腫瘍学会により2006 年から認定が開始され,現在までに126 名が認定されている。各施設のがん診療の中心的役割を果たしつつ,がん診療連携拠点病院整備,がんプロフェッショナル養成プランなどを通じ,施設の充実,後輩の育成に活躍することが期待されている。 -
腫瘍専門医 放射線治療認定医—がん治療の専門医とは?—
35巻4号(2008);View Description Hide Description日本がん治療認定医機構が発足し「がん治療認定医」制度が開始された。今後はこのがん治療に関する認定医を基礎として,診療科単位・臓器単位の専門医との2 段階でがん治療の専門医が標榜されることとなった。全国で質の高いがん医療の均てん化がめざされているが,現状では放射線治療の専門医は少なく,がん患者の急増には対応できない。そのため,放射線腫瘍学の医学部講座の独立などによる,育成が急務な課題となっている。放射線治療の専門医の現状について概説した。 -
がん治療認定医
35巻4号(2008);View Description Hide Description有効な薬剤の開発やバイオ医学研究の急速な進化は,がん治療に大きな進歩をもたらすと同時にその内容をさらに複雑なものにした。がん治療は今や実に多彩な相からなり,それらすべての治療相において最善の治療を求められる。内科,放射線,外科といった各領域の専門医よりなるがん治療チームなくしてこの状況に対応することは難しくなった。しかしながら,本邦の縦割り型のがん治療医の教育システムには限界があり,時代の要求には十分に応えることはできない。(欧米の)がん治療専門医はそれが腫瘍内科医であれ,小児腫瘍医であれ,放射線腫瘍医であれ,外科腫瘍医であれ,他のスタッフと協力し多彩な治療相に対応できる共通の知識基盤をもっている。がん治療体制の確立は危急的課題であり,日本がん治療認定医機構はその基盤整備に資する第一段階の資格認定制度,すなわち全診療科に共通するがん治療の知識・技術を習得し,(がんチーム医療に貢献し得る)医師,「がん治療認定医」の育成・認定制度の構築を急いできた。同制度は,各領域のがん専門医の質の向上と標準化にも貢献する。同認定医は基盤的診療科の認定医・専門医資格の取得後に基盤的がん治療医となるために定められた研修を行い,筆記試験に合格する必要がある。その試験が2008 年1 月に行われ,初めてのがん治療認定医が誕生することとなる。同認定医制度について概説した。 -
がん看護領域における専門看護師/認定看護師制度
35巻4号(2008);View Description Hide Description日本看護協会で専門看護師/認定看護師制度が開始され,初のがん看護専門看護師(がん看護CNS)が誕生したのが1996 年であった。専門看護師はある特定の専門看護分野において卓越した看護実践能力を有することが認められた者であり,卓越した実践,相談,調整,倫理調整,教育,研究の六つの役割を遂行する。専門看護師の認定取得のためには看護師または保健師,助産師の国家資格取得後,大学院修士課程の修了と最低5 年間の実務経験が必要であり,その後の認定審査に合格しなくてはならない。また,認定看護師は特定の看護分野において,熟練した看護技術と知識を用いた水準の高い看護実践,指導,相談の役割を遂行するものであり,看護師(または保健師,助産師)の資格,最低5 年の実務経験,6 か月の教育機関での教育を受けた後,認定審査に合格する必要がある。また,専門看護師,認定看護師ともに5 年ごとの更新制となっている。2007 年現在,がん看護CNS は104 名,がん看護領域の認定看護師は942 名(がん化学療法204 名,緩和ケア420 名,がん性疼痛看護267名,乳がん看護51 名)となった。がん看護専門看護師は職位や活動内容も様々であり,人数も少ないため,その実態は広く知られていない状況にある。しかし,組織変革者としてがん医療の質を向上させるものであり,活動の場も広がるものと考えられている。今後,看護系大学院の増加により,がん看護CNS も増加するものと考えられるが,同時に大学院での教育内容・方法の充実や,資格認定制度の再検討が課題となるものと考える。 -
がん専門薬剤師とがん薬物療法認定薬剤師
35巻4号(2008);View Description Hide Descriptionがん治療を有効かつ安全に実施するためには,患者および家族を中心として様々な医療スタッフからなるチーム医療の充実が必要である。薬剤師は抗がん剤の投与量,投与方法の確認,抗がん剤の調製,副作用対策,患者への服薬指導,医療スタッフへの医薬品情報提供,緩和ケアへのかかわりなど様々な役割を担っている。高度な知識と技術を学んだ薬剤師を育成するため,専門薬剤師認定制度が開始された。平成19 年11 月現在,56名のがん専門薬剤師が輩出されている。
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Current Organ Topics:メラノーマ・皮膚癌
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原著
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進行・再発胃癌化学療法における長期および短期生存例の特徴
35巻4号(2008);View Description Hide Description胃癌の化学療法は,1999年にS-1が登場して以来,単剤もしくは併用による奏効率,腫瘍コントロール率が高くなってきた。そのため,MSTも20 か月を超えるようになった。一方,ある症例では長期生存を認めるものの,一部の症例では依然短期予後しか望めないことが現実に存在する。今回,当院における進行・再発胃癌症例の予後に対する解析の結果,少数例ではあるものの再発胃癌症例に比べ進行胃癌症例に長期予後が認められた。また,再発胃癌症例のみの解析では,再発までの期間がその後の予後に相関した。今回の結果を基に,進行・再発症例における各症例での化学療法計画をどのように立てるべきかを中心に述べたいと思う。 -
転移性膵癌に対するGemcitabine/UFT 併用化学療法の多施設による第 I / II 相臨床試験
35巻4号(2008);View Description Hide Description遠隔転移を有する膵癌を対象に,gemcitabine(GEM)+UFT 併用療法の効果と安全性を明らかにする目的で多施設共同の第 I/ II相試験を行った。第 I 相試験でGEMはday 1,8に投与し,投与レベルを800,900,1,000 mg/m2の3 段階とした。UFT はday 1〜14 まで400 mg/m2に用量固定し連日投与した。day 15〜21 は両剤とも休薬とし,21 日間を1 コースとした。第1 コース目における用量制限毒性の発現状況から投与レベルを移行し,推奨用量をGEM 1,000 mg/m2,UFT400 mg/m2と決定し,この用量で第 II 相試験を行った。第 II 相試験には27 例が登録された。奏効率は17.6%で生存期間中央値は221 日,生存曲線は当科のGEM 単剤群と有意差は認めなかった。有害事象が原因で試験中止となった例が12 例あった。本併用療法はGEM 単剤の成績を凌駕しないこと,肝障害をはじめとする有害事象が高率に生じることから,転移性膵癌の第一選択の化学療法に値しないと考えられた。 -
子宮頸癌におけるIrinotecan HydrochlorideとNedaplatin併用化学療法
35巻4号(2008);View Description Hide Description子宮頸癌9 症例(術前補助化学療法として施行した症例5 例および再発症例4 例)に対し,nedaplatin(254-S)80mg/m2(day 1)とirinotecan(CPT-11)50 mg/m2(day 1,8,15)との併用療法を4週間1 コースとして施行した。平均投与コースは3.8(2〜6)コースであった。grade3 以上の有害事象として,白血球減少4 例,血小板減少1 例,嘔吐1 例を認めた。奏効率は術前補助化学療法としては40%(5 例中2 例にPR),再発例では75%(4 例中3 例にCR)であった。 -
癌化学療法に重点をおいた病院でのS-1の使用状況の検討
35巻4号(2008);View Description Hide DescriptionS-1 の投与量は体表面積を基準とすることが推奨されるが,現場での個別の適正用量の設定は副作用の発現などを考慮し減量されることが多い。今回,がん専門薬剤師の研修カリキュラムの一環としての臨床研究を考えた結果,癌化学療法に重点をおく一病院においてS-1 の使用状況を検討した。1 日用量は高年齢者での減量が認められるが,基本的には体表面積を基準としていた。樹形図を作成することで減量基準を調査したところ,注射剤の化学療法・放射線療法併用,腎機能障害・高齢,performance statusの低下,副作用にて減量され,医学的根拠のない減量は90 例中4 例のみであった。癌化学療法に重点をおく病院では,日々の診療にて医学的根拠の下,減量し個別の用量を服用させることで適正使用を推進していることが判明した。 -
がん化学療法に伴う5-HT3受容体拮抗剤の薬剤経済学的検討
35巻4号(2008);View Description Hide Description近年,外来化学療法センターの開設・規模の拡大が著しく進んでおり,効率的な治療体系を整備していくことが重要である。治療時間を短縮させることは,患者側にとって待ち時間を短縮させるなど,患者のquality of life(QOL)を向上させるだけでなく,医療機関側にとってもベッドの占有時間が短縮され,人件費やランニングコストの効率化にもつながる。5-HT3受容体拮抗剤は,嘔吐リスクの高い化学療法剤を投与する際に使用されているが,薬剤費が高価であることに加えて,点滴静注法にて投与すると治療時間が長くなるなど治療体系の効率化を進める上での課題の一つである。本研究では,azasetron注とgranisetron 注の国内開発治験時の結果を基にシミュレーションモデルを作成し,両薬剤における薬剤経済学的検討を行った。費用・効果分析の結果,社会の立場では,患者1 人当たりazasetron注10 mg で8,219円,granisetron注1mg 2 A で10,193円であった。この差額は,投与方法の違いによる「時間の損失」に起因するものであり,患者だけでなく医療従事者の「時間の損失」は薬価差以上に大きな損失であることが示唆された。本結果より,azasetron注を静注にて投与する方法が薬剤経済学的に優位であると考えられた。外来化学療法において,治療時間を短縮させ治療体系の効率化を推進させるために,各種化学療法治療レジメンにおいて5-HT3受容体拮抗剤の適切な投与方法を実施していくことが望まれる。 -
Opioid投与時の嘔気予防としてのPerospironeの有用性
35巻4号(2008);View Description Hide Description当科ではこれまでopioid導入時の嘔気予防として,D2受容体拮抗薬であるprochlorperazineを使用してきたが,錐体外路症状に対する注意が常に必要であった。そこで2006 年8 月より経口opioid を開始する患者全例に,嘔気予防としてperospirone を試みている。今回,perospirone の嘔気予防薬としての有用性を検討した。oxycodone 10 mg/日でopioid を導入する患者全例にperospirone(1日1回4 mgまたは8mg)を併用し,1 週間以内の嘔気の有無をretrospectiveに調査した。25 例中,oxycodone による嘔気が出現したのは1 例であった。錐体外路症状などの有害事象はみられなかった。これらの結果より,opioid導入時の嘔気予防としてperospironeの有用性が示唆された。
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症例
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FAP 療法が著効した両葉多発肝転移を有する進行食道癌の1 例
35巻4号(2008);View Description Hide Description肝両葉に巨大な転移巣を有する食道癌に対して,5-fluorouracil(5-FU)+doxorubicin(DXR)+cisplatin(CDDP)(FAP 療法)が著効した1 例を報告する。症例は70 歳台の男性。主訴は嚥下障害。前医で食道癌と診断され,2004 年2 月に当院を紹介受診した。治療前の診断は食道類基底細胞癌,Mt領域,2型,T4(大動脈),N2(No.107), M1(肝),Stage IVbであった。3月よりFAP療法による全身化学療法を施行し,4 コースで局所はほぼ腫瘍が消失し,肝転移巣も著明な縮小を得た。その後も化学療法を継続し,2007 年3 月31 日現在局所CR,転移巣PR を維持している。FAP 療法は全身状態や有害事象を厳重にコントロールしつつ,繰り返し施行することでstage IVb 食道癌の局所,転移巣に対して有効な治療になり得ると考えられた。 -
Docetaxel/5-FU/CDDP 療法およびS-1/Docetaxel療法による術前化学療法にて病理学的CR が得られた進行食道癌の1例
35巻4号(2008);View Description Hide Description症例は64 歳,女性。進行胸部食道癌(T3N4M0,stageIVa)の診断でdocetaxel/5-FU /CDDP(DFP)療法を1 コース施行した。腫瘍の縮小が得られたため2 コース目を開始したが,嘔気や全身倦怠感のため治療継続が困難であった。DFP療法を中止し,S-1/docetaxel 療法に変更したところ骨髄抑制は認めたが嘔気などの副作用は軽微であり1 コースの治療を完遂できた。画像上PR と判断し手術を行ったところ切除標本にて悪性所見は認めず,病理学的CR であった。全身疾患である進行食道癌に対し,化学療法と手術の併用によって晩期合併症のない低侵襲治療の可能性が示唆された。 -
経口摂取不能に対して腸瘻からのS-1投与とCDDP 静注の併用化学療法にて長期PR を得られた切除不能進行胃癌の1 例
35巻4号(2008);View Description Hide Description切除不能進行胃癌に対する化学療法は最近の進歩により高い治療効果を示しているが,依然として胃癌に対する標準的化学療法は確立されていない。今回,経口摂取不能の進行胃癌患者(PS 4)に対して,腸瘻からのS-1 投与とCDDP静注の併用化学療法を行い,長期PR を得られた症例を経験したので報告した。経口摂取不能の進行胃癌患者に対して腸瘻を造設し,腸瘻からS-1 投与を行うことにより治療および栄養管理も可能であることから,患者のQOL の改善が見込めると考えられる。 -
糖尿病併発の進行胃癌に対しWeekly Paclitaxel療法が奏効し長期投与された1 例—糖尿病患者への前処置としてのステロイド投与と血糖管理について—
35巻4号(2008);View Description Hide Description症例は69 歳,女性。8年来,糖尿病でインスリン治療中である。今回,進行胃癌(3 type,T2,N2,P0,CY1,M0,StageIV)に対し幽門側胃切除(D2)を行い,術後CA19-9が著増したがS-1(4 週投与2 週休薬: 1 コース)投与により正常化し12コース継続投与されたが肝障害により以後,休薬されていた。しかし,CA19-9 が467 U/mL と再上昇したためsecond-lineでweekly paclitaxel療法を開始し,CA19-9は2 コースで正常に復し,23 コースまで再発なく行われた。一方,paclitaxel は過敏反応の予防策でdexamethasone 20 mg の前投与が課せられているがweekly では総投与量がかさみ,ことに糖尿病患者では血糖に影響を及ぼすため初回12 mg とし,以後8 mg,4 mg,2 mg に減量し,同時に投与当日寝前・翌朝食前のインスリンを2 単位ずつ増量することにより血糖とHbA1cの変動を抑止できた。糖尿病患者においてもWT療法は,ステロイドの減量や投与一両日のインスリン投与の工夫により有用な治療法の選択肢となり得る。 -
S-1+Low-Dose CDDP 肝動注療法が有効であった切除不能進行胆嚢癌の1例
35巻4号(2008);View Description Hide Description症例は64 歳,女性。肝転移と多発性リンパ節転移を伴った切除不能進行胆嚢癌に対し,S-1 の内服とlow-dose CDDP 肝動注療法を行った。化学療法開始後,胆嚢癌,肝転移,リンパ節転移の縮小を認め,2 クール終了時点で転移病巣はほぼ消失した。腫瘍マーカーもいったん陰転した。S-1の内服と,low-dose CDDP 肝動注療法が肝転移と多発性リンパ節転移を伴った進行胆嚢癌に有効であった症例を提示した。 -
肝動注カテーテルにより発生した総肝動脈瘤破裂,十二指腸穿破の1 例
35巻4号(2008);View Description Hide Description症例は64 歳,男性。横行結腸癌術後の肝転移再発に対してGDA-coil法で肝動注カテーテル,リザーバーを留置,持続動注療法を6 コース施行した。2005 年4 月突然の吐血で緊急入院,翌日の上部内視鏡検査では明らかな出血源を認めなかった。入院4 日目に再度多量に吐血したため内視鏡検査を施行したところ,胃十二指腸動脈に留置してあった塞栓用金属コイルが十二指腸球部上壁から突出し出血していた。緊急で血管造影を施行,総肝動脈瘤の破裂,十二指腸穿破による出血と診断した。左右肝動脈から総肝動脈瘤全体を金属コイルにより塞栓し,止血された。肝動注化学療法,カテーテルの長期留置に伴う重篤な合併症として,本症に留意すべきであると考えられた。 -
盲腸癌肝転移,腹膜播種に対して経口UFT/LV(Uzel)療法が有用であった1 例
35巻4号(2008);View Description Hide Description症例は70 歳,女性。肝S5 に肝転移を有する盲腸癌と診断された。一期的手術として右半結腸切除術を施行した。2か月後に肝転移に対する手術を施行したが,開腹所見で横隔膜と肝円索に腹膜播種を認めたため切除不能と判断し,経口UFT/LV 療法(UFT 300 mg/日,LV 75 mg/日: 4 週投与1 週休薬を1 コース)を開始した。4コース終了1 か月後のCT で肝転移はほぼ消失し,腫瘍マーカーのCEA も正常値となり2 か月後のCT でも再発を認めずCR と判定された。施行中にgrade 3 の手足症候群が発生し,休薬期間が長くなったが継続可能であった。経口UFT/LV 療法は経口投与のために簡便であり,優れた抗腫瘍効果を有する治療法である。 -
S-1およびCPT-11の併用療法が奏効した大腸癌の同時性肝転移・卵巣転移の1 例
35巻4号(2008);View Description Hide Description今回われわれは,S-1 およびCPT-11 の併用療法が奏効した横行結腸癌の同時性肝転移・卵巣転移の症例を経験したので報告する。症例は51 歳,女性。多発肝転移を伴う横行結腸癌の診断で手術を施行した。術中に左卵巣転移を認め,横行結腸切除術,左卵巣摘出術を施行した。術後,3 週間を1 コースとしてS-1 120 mg/body(days 1〜14),CPT-11 150 mg/body(day 1)の化学療法を施行した。11コース終了後の腹部CT で肝転移の消失を認め,CR と判断した。重度の有害事象は認めなかった。S-1 とCPT-11 の併用療法は,多発肝転移を伴う進行大腸癌に対する有用な化学療法となり得ると考えられた。 -
Folinate/Tegafur/Uracil(UFT/LV)療法が有効であった再発大腸癌の2 例
35巻4号(2008);View Description Hide Description経口化学療法剤folinate/tegafur/uracil(UFT/LV)投与で良好な経過をたどる2 例の再発大腸癌患者を経験した。症例1 は74 歳,女性。S状結腸癌穿孔で緊急開腹しハルトマン手術を施行した。術後1 年7か月で残直腸に再発をみたため,再手術するも周囲浸潤が強く試験開腹に終わった。入院中に5-fluorouracil/Leucovorin(5-FU/ LV)療法を6 回施行し,その後は外来通院でUFT/LV 内服中である。腫瘍の増大なく,副作用発現なく初回術後3 年間生存中である。症例2 は65歳,女性。直腸癌で腹会陰式直腸切断術を施行した。組織学的病期はstage I であった。術後2 年6 か月に肺右上葉に転移結節を認め,CA19-9 値が上昇した。外来通院でUFT/LV 経口療法を開始したところ,2 か月後に肺結節陰影は消失しCA19-9値も減少した。現在,再発なく生存中である。UFT/LV 経口療法は再発大腸癌に対し,QOLを保ちながら外来通院ができる有効な治療法の一つである。 -
UFT+Leucovorin療法が再発直腸癌腰椎転移に奏効した1 例
35巻4号(2008);View Description Hide Description症例は63 歳,男性。多発性肝転移を伴う直腸癌で低位前方切除術を行った。術後UFT による化学療法を施行した。術後6 か月で吻合部再発による腸閉塞と診断し,緊急で双孔式人工肛門を横行結腸に造設した。造設後すぐに下半身麻痺を呈したが,UFT+Leucovorin(LV)療法により歩行も可能となり,肝転移巣や大動脈周囲リンパ節転移の縮小もみられ,腫瘍マーカーも低下した。UFT+LV 療法が再発直腸癌腰椎転移に3 か月の短期間であったが奏効し,QOL の改善が得られた。その後は急速に悪化し,頸椎転移などを来し2か月後原疾患で死亡した。UFT+LV 療法は高い安全性と抗腫瘍効果を認め,施行する価値があると考えられた。 -
左鎖骨上窩リンパ節転移にて発見され腹腔鏡補助下大腸切除術後にFOLFOX4 療法が著効したS 状結腸癌の1 例
35巻4号(2008);View Description Hide Description症例は69 歳の女性で,左鎖骨上窩リンパ節腫脹を主訴に来院した。リンパ節生検を施行し腺癌の診断であった。消化管の精査にてS 状結腸癌の診断となった。腹腔鏡補助下S 状結腸切除術施行後,FOLFOX4 療法を開始した。術前の腫瘍マーカーは,CEA 128 ng/mL,CA19-9 59.3 U/mLと高値であったが,それぞれ化学療法5コース,4 コース後正常化した。術前CT 検査において傍大動脈周囲リンパ節の著明な腫大を認めたが,5 コース後にはリンパ節腫大を認めなかった。12コース後,PET 検査施行するも異常集積像を認めず,抗腫瘍効果をCR と判定した。今後,FOLFOX 療法によるCR 導入後の維持療法の確立が望まれる。 -
透析患者でのmFOLFOX6 の使用経験
35巻4号(2008);View Description Hide Description血液透析を施行中の慢性腎不全患者に対する抗癌剤治療は,薬物動態が腎機能正常患者と異なるため,抗癌剤の投与量に苦慮することも少なくない。今回われわれは,血液透析中である切除不能再発進行大腸癌患者にmFOLFOX6を行い,oxaliplatin(L-OHP)血中濃度を測定した。L-OHPの血液透析患者での使用の報告例はないためL-OHP の安全評価を行い,L-OHP のdose escalation と各dose による薬物動態を検討した。L-OHP を40 mg/m2から50,60,70,85 mg とdose escalationを行ったがAUCは5.67〜10.21 mg/L・hで,透析除去率は84.0%であり,重篤な副作用は認めず比較的安全に施行できたが,至適投与量や透析のタイミングの決定には今後同様な症例の蓄積により,より詳細な検討が必要と思われる。 -
大網板状肥厚を呈した大網中皮腫の1 例—腹膜中皮腫の画像所見について—
35巻4号(2008);View Description Hide Descriptionアスベストの曝露歴のない60 代男性が,腹部膨満感を主訴として当院に入院してきた。血清と腹水のCA125 値は非常に高値であった。腹部造影CT にて大量の腹水がみられ,腸管は浮遊性に乏しく腸間膜の短縮と大網の板状肥厚が認められた。リゾビスト(SPIO)造影MRI-T1強調画像(T1WI)にて肥厚大網は淡く造影された。この造影T1WIの撮像は,おおよそ造影CT の門脈相に一致する画像である。さらにリゾビストで肝・脾の信号を落とし,fluid-attenuated inversion recovery(FLAIR)にて腹水の信号を抑制することにより肥厚大網の高信号が明瞭に描出された。ガリウム(Ga)シンチグラフィでは,肥厚大網に一致してGa の集積が認められた。化学療法の効果なく肝転移などにて2006 年2 月永眠された。剖検の結果,悪性腹膜中皮腫,二相型と病理診断された。悪性腹膜中皮腫の発生には石綿の関与は明らかである。そのため,この患者は知らぬ間に石綿を吸引した可能性がある。血清・腹水CA125値が高値の場合,血液dataや画像からprimary serous papillary carcinoma of the peritoneum(PSCP)による大網転移との鑑別が最も重要と考えられる。今回,二相型びまん型大網中皮腫症例を経験した。大網由来の腹膜中皮腫の画像に関しては,開腹して大網の板状肥厚を認めた報告はあるものの,大網の板状肥厚をSPIO-MRI にて確認した画像的報告は検索し得たかぎりでは認められなかった。この大網の板状肥厚と腸間膜の退縮は,びまん型腹膜中皮腫の症状出現時の画像的特徴的な所見であるといえる。また,その場合にはGa シンチグラフィやFDG-PETも補助的診断として有用である。今後,上皮型,肉腫型,二相型の画像的特長の区分けが待たれる。 -
Trastuzumab+Gemcitabine併用療法が奏効したHER2 陽性転移性乳癌の1 例
35巻4号(2008);View Description Hide Description症例は60 歳,女性。左大腿部痛を主訴として来院。5 年2 か月前に右乳癌(T3N2M0)に対して手術(Bt+Ax+Ic)を受けた。病理所見はinvasive ductal carcinoma with axillary node metastases,ER 陰性,PgR 陰性,HER2陽性(3+)であったため,術後補助療法ならびに放射線治療が行われた。術後18 か月目に骨転移を認めたため,trastuzumab+taxane+/−capecitabine を含む化学療法を受けたが,10か月前に胸椎骨転移による両下肢不全麻痺を来し,胸腰椎固定術を受けた。PET/CT では胸腰椎骨転移に加え,左大腿骨にも転移を認め,CEA は著明に上昇していた。大腿骨に対して放射線治療を行い,全身化学療法としてbisphosphonateに加えtrastuzumab単独療法を行った。一時CEAは低下傾向を示したが,治療開始8 か月後に鎖骨上窩ならびに縦隔内に再発巣を認めたため,trastuzumab+vinorelbine 併用療法に変更した。CEA は治療開始3 か月後著明に低下したが,6 か月後に再び上昇傾向を示した。S-1 との併用療法が無効であったため,trastuzumab+gemcitabine(1 g/週,2 週投与1 週休薬)併用療法を開始した。4サイクル終了時にはCEAは著明に低下し,再発部位へのFDG 集積も著明に改善した。治療経過中の有害事象は軽度であり,PS は十分保たれていた。trastuzumab+gemcitabine併用療法は,HER2陽性転移乳癌に対して有効な治療法であると考えられた。 -
術前内分泌療法としてAnastrozoleにてStable Disease,LetrozoleにてPartial Responseが得られた閉経後乳癌の1 例
35巻4号(2008);View Description Hide Description高齢者のホルモンレセプター陽性乳癌に対して非ステロイド系アロマターゼ阻害剤2剤を順次用い,letrozoleで奏効した症例を経験したので報告する。症例は85 歳,女性。右乳房に多発の腫瘤あり。針生検にて充実腺管癌,ER(+),PgR(−),HER2 scoreは1+,腋窩リンパ節および遠隔転移は認めなかった。手術を希望されなかったため,anastrozoleを開始したが投与7 か月後の時点では腫瘍はやや増大していた(臨床学的効果判定はSD)。そのためletrozoleに変更したところ,投与10 か月後には臨床学的効果はPR と判定された。現在letrozole を継続投与中である。2 剤ともに副作用はみられなかった。今回使用した薬剤は,どちらも非ステロイド系アロマターゼ阻害剤でありcross-resistance があると思われるが,一般にletrozole はanastrozole よりアロマターゼ阻害作用が強いとされ,このことが効果の差に影響した可能性がある。anastrozole無効例に対するsecond-line にletrozoleが有効な場合があることが示唆された。 -
Rituximab併用化学療法により長期生存しているHuman Herpesvirus-8陰性Primary Effusion Lymphoma の1 例
35巻4号(2008);View Description Hide Descriptionprimary effusion lymphoma(PEL)は腫瘤形成を欠き,体腔内滲出液を初発として発症するまれなリンパ腫で予後は不良である。通常human immunodeficiency virus(HIV)陽性患者に発症し,human herpesvirus-8(HHV-8)の重複感染が認められる。今回われわれは,心タンポナーデで発症しrituximab併用化学療法で完全寛解となり,30 か月の長期にわたり無病生存中のHIV 陰性,HHV-8陰性のPEL の症例を経験した。HIV陰性,HHV-8陰性のPEL では,B 細胞性抗原を高頻度に発現しており,この場合rituximab を治療戦略に組み入れることが可能となる。rituximab の至適投与法は不明であるが文献報告上,本例を含めHIV 陰性,HHV-8陰性のPEL の5 例に対しrituximabが投与されているが,いずれも特異な副作用はなく長期生存が得られており,比較的予後良好な新たな疾患概念として区別され得る可能性がある。今後のさらなる症例の蓄積が必要であると考えられる。 -
5-FU/l-Leucovorin療法が奏効し3年間Complete Response(CR)を維持している直腸癌多発性肝転移の1例
35巻4号(2008);View Description Hide Description今回われわれは,従来から標準的治療として行われている5-FU/l-LV 療法を多発性肝転移の伴う進行直腸癌に施行しCRを得た後,3年間無再発生存している症例を経験したので報告する。
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用語解説
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