癌と化学療法
Volume 35, Issue 5, 2008
Volumes & issues:
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総説
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抗原特異的同種免疫療法—GVL効果の選択的増強—
35巻5号(2008);View Description Hide Description化学療法の進歩,分子標的薬・抗体医薬の導入によって造血器腫瘍や固形癌の予後は向上しつつある。しかし治療抵抗性の造血器腫瘍に対しては,同種造血幹細胞移植だけが治癒を期待し得る治療法であることに変わりはない。特にドナーの免疫細胞を生着させれば十分な移植片対白血病・リンパ腫(GVL)効果が得られることが判明してからは,拒絶反応の抑制に主眼をおいた患者に負担の少ない移植前処置法が開発され,高齢者なども移植対象となった。結果として移植症例数は増えつつあるが,治療抵抗性腫瘍に対する成績はあまり改善されていないのが現状である。再発防止のために移植後のドナー免疫細胞によるアロ免疫を漠然と強化するだけでは,移植片対宿主病(GVHD)の危険が高まるだけである。本稿ではGVHD を悪化させずにGVL 効果を選択的に高めるような治療戦略について,これまでの流れと現在の臨床研究の最前線を紹介する。
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特集
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- 分子標的薬剤と化学療法または放射線治療併用の現況
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非小細胞肺癌
35巻5号(2008);View Description Hide Description非小細胞肺癌において分子標的薬と化学療法あるいは胸部放射線療法との併用療法が検討されている。標準的化学療法に対するgefitinib・erlotinib 併用の生存期間延長への上乗せ効果は複数の第III相比較試験で示されていない。一方,標準的化学療法とbevacizumabの併用療法は,扁平上皮癌を除く進行非小細胞肺癌において,明らかな延命効果を示している。マルチターゲット・チロシンキナーゼ阻害薬についても標準的化学療法との併用療法が臨床試験されている。放射線療法との併用についても,抗EGF 受容体モノクローナル抗体やEGF 受容体チロシンキナーゼ阻害薬で安全性と有効性が検証されている。 -
大腸癌における分子標的薬剤と化学療法
35巻5号(2008);View Description Hide Description切除不能・再発大腸癌の治療は,これまでのkey drugである細胞障害性抗癌剤の5-FU,irinotecan,oxaliplatin に加え,分子標的治療薬の登場で新たな展開を迎えることとなった。現在,大腸癌に対するbevacizumab(ベバシズマブ),cetuximab(セツキシマブ),panitumumab(パニツムマブ)の有効性が示され,欧米では日常診療への導入が進んでいる。本邦ではbevacizumabが2007年に承認され,cetuximab,panitumumabも国内臨床試験が終了しcetuximab は承認申請中,panitumumab も承認申請予定である。本稿では,これらの分子標的薬剤における治療成績を中心に大腸癌における化学療法について解説する。 -
乳癌に対する分子標的薬剤と化学療法併用治療
35巻5号(2008);View Description Hide Description乳癌に有効性が確立された分子標的治療薬はtrastuzumab,lapatinib,bevacizumab である。trastuzumab はHER2陽性転移乳癌に対しては単剤またはpaclitaxel,docetaxel,vinorelbine との併用で有効性と安全性が示されている。HER2陽性早期乳癌術後療法においてもその有用性は証明された。併用療法,順次療法どちらが優れるのかは明らかでない。lapatinibはHER2 陽性転移乳癌に対してcapecitabine との併用で有効である。lapatinib とpaclitaxel の併用治療の有効性も示唆された。bevacizumab は転移乳癌に対してpaclitaxel と併用で有効である。これら分子標的薬剤は化学療法との併用によって乳癌治療の重要な役割を担っている。 -
GIST
35巻5号(2008);View Description Hide Description消化管に最も多く発生する間葉系腫瘍GISTは,c-kit,PDGFRa遺伝子の機能獲得性遺伝子異常が原因と考えられている。選択的チロシンキナーゼ阻害作用をもつimatinib(gleevec)は,KIT レセプターのキナーゼ活性部位に存在するATP 結合部位と競合的に阻害することでKIT を介するシグナルを抑制する。imatinib の登場により切除不能進行再発GISTの治療は,長期予後をめざせるようになった。c-kit遺伝子の解析から治療抵抗性の原因も明らかにされ,sunitinib他2 次治療薬の開発も加速的にすすめられている。 -
頭頸部癌に対する分子標的薬剤併用療法の現況
35巻5号(2008);View Description Hide Description頭頸部癌に対するconcurrent chemoradiotherapy(CCRT)は高いエビデンスが証明され,進行頭頸部癌に対する標準的治療の一つとなっており,多剤併用療法では従来のCDDP と5-FU にdocetaxelを加える3 剤併用療法が高い奏効率を示し,生存率の向上と機能温存治療をめざした集学的治療のなかで見直しが検討されている。しかし,CCRT や多剤併用療法によってもいまだ十分な治療成績は得られておらず,再発転移癌に対する効果も不十分である。欧米では多くの分子標的薬剤の治験が進んでおり抗癌剤や放射線療法との併用が行われている。CDDP とcetuximab の併用は基礎実験において相乗効果が示されており,臨床では,様々な第II相試験でその有用性が検討され,さらに第III相試験が報告されている。CDDP と5-FU 併用にcetuximab を加える比較試験ではcetuximab 併用によって再発・転移癌症例の生存期間が7.4〜10.1 か月と有意に延長したと報告され注目されている。放射線療法では化学放射線療法にcetuximab を併用する試みも報告されている。CDDPと放射線同時併用にcetuximabを加えた第II相試験では3 年全体生存率,無増悪生存率,局所制御率はそれぞれ76,56,71%と良好な成績を報告し,さらに第III相試験が行われている。頭頸部癌に対する分子標的薬剤併用療法は,今後cetuximabを中心に臨床応用が進むと考えられる。進行頭頸部癌に対する化学放射線療法に分子標的薬剤を上乗せしたレジメンが検討されるとともに,再発・転移癌に対しては分子標的薬剤併用療法が標準的治療の一つとして検討される可能性が大きい。 -
頭頸部癌における分子標的薬剤の現況
35巻5号(2008);View Description Hide Description放射線療法と化学療法の併用は,放射線療法単独と比較して局所進行頭頸部扁平上皮癌の予後および局所制御の向上,さらに喉頭温存などの機能温存を向上させてきたが,これらの約半数が再発するといわれており,さらなる治療開発を必要としている。また化学療法,放射線療法による粘膜炎,骨髄毒性,口腔内乾燥,嚥下障害などの毒性も問題となっている。これらの治療の限界から,頭頸部扁平上皮癌にも骨髄毒性,粘膜炎が少ない分子標的薬剤を導入することで,さらなる患者の予後の改善と同時に毒性の軽減もめざして治療開発が行われている。cetuximab はEGFR に特異的に結合するIgG1 キメラ抗体である。局所進行頭頸部扁平上皮癌を対象とした放射線療法vs放射線療法+cetuximabの無作為化比較試験にて,cetuximabの局所制御,生存への上乗せ効果が示され,遠隔転移再発頭頸部扁平上皮癌に対する5-FU+CDDP 併用療法±cetuximab の比較試験にてcetuximab の生存への上乗せ効果が示された。これら結果から,様々な分子標的薬剤が頭頸部癌の治療開発に導入されており,さらなる患者のベネフィットの向上が期待されている。
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Current Organ Topics:造血器腫瘍 再発・治療抵抗性造血器腫瘍の治療の現況
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原著
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切除不能肝細胞癌に対する微粉末Cisplatinを用いた肝動脈塞栓化学療法の効果および有害事象の検討
35巻5号(2008);View Description Hide Description肝動脈塞栓化学療法(TACE)施行時に,どの抗癌剤を使用するべきかについて明らかなエビデンスはない。今回われわれは,切除不能肝細胞癌症例に対して最近商品化された微粉末cisplatin とLipiodol の懸濁液を用いたTACE を行い,その効果および有害事象について検討した。対象は年齢75 歳以下でperformance status(PS)0〜2,心・腎機能異常のない,Child-Pugh 分類A もしくはBの24 例であった。TACE による治療効果は肝癌直接治療効果判定基準(2004 年度)に準じて,3 か月後の直接抗腫瘍効果および6 か月後の総合評価にて判定した。有害事象はNational Cancer Institute Common Toxicity Criteria ver. 3 に基づいて評価した。直接抗腫瘍効果におけるTE4,TE3 症例は全体の54%(13 例)と25%(6 例)であった。総合評価ではCR が全体の42%(10 例),PR が4%(1 例)であった。grade3/4 の有害事象としては血小板数低下が全体の13%(3例),食欲低下が8%(2例),悪心が4%(1例)であった。肝不全,腎不全症例および死亡症例は認めなかった。以上より,微粉末cisplatinを用いたTACE は,切除不能肝細胞癌に対し比較的安全に行える,有効な治療法である可能性が示唆された。 -
高齢者進行・再発大腸癌症例に対するFOLFOX4 療法の検討
35巻5号(2008);View Description Hide Description現在,日本においても高齢者の大腸癌患者は増えている。以前は,抗癌剤治療は年齢のみで不適格とされることも多かったが,新規薬剤の開発や支持療法の進歩などによってPS のよい高齢者には治療を施すことが増えてきた。今回われわれは,2005年4 月〜2006 年3 月までにFOLFOX4 療法を導入したPS 0〜1 の70 歳以上75 歳以下の高齢者大腸癌症例32例の治療効果や有害事象をまとめ,70 歳未満の非高齢者大腸癌症例154例と比較して有効性と安全性の検討を行った。奏効率は31.3%, TTF は204日であり,非高齢者と有意な差は認めなかった。有害事象については,grade 3 以上の好中球減少が53.1%と非高齢者より有意に多く認められたが,その他は差を認めなかった。relative dose intensityや治療中止理由についても非高齢者との差は認めなかった。FOLFOX4 療法はPS が良好な75 歳以下の高齢者についても安全かつ有効な化学療法であると考えられた。 -
T2N0声門癌に対するS-1放射線同時併用療法
35巻5号(2008);View Description Hide Description早期声門癌は他の頭頸部癌に比べると予後良好な疾患であるが,治療は喉頭温存もめざさなければならない。T1N0は放射線単独治療で喉頭温存率は良好であるが,T2N0 は施設により治療方針も異なり喉頭温存率も72〜85%と様々で決して高いものではない。今回われわれはT2N0 声門癌に対しS-1 と放射線同時併用療法を行い,その有用性を検討した。2004〜2006 年度に当科を受診したT2N0 喉頭扁平上皮癌・声門型の患者12 例を対象に,放射線60〜70 Gy(2.0 Gy/fr)とともにS-1 内服を通常投与量から1 段階減量(80 or 100 mg/day)して2 週間投与1 週間休薬で繰り返した。grade 3 以上の有害事象は2 例にgrade 3 の粘膜炎,皮膚炎を認めたがS-1,放射線とも中止・中断例はなかった。一次治療後の評価では全例病理学的CRを得,原発部位の再発を認めていない。S-1 と放射線同時併用療法はT2N0 声門癌症例に対し,十分管理可能な有用性の高い治療であることが確認された。今後,症例数を増やして遠隔成績を検討する必要がある。 -
当科におけるCD-DST 法を用いた乳癌に対する抗癌剤感受性試験の検討
35巻5号(2008);View Description Hide Description当科では2002 年より検体採取可能な乳癌に対し,CD-DST 法(Collagen Gel Droplet Embedded Culture-drug Sensitivity Test)を用いた抗癌剤感受性試験を行っている。今回われわれは,その検査成績および問題点について若干の文献的考察を含めて報告する。対象: 2002 年3 月より2005 年8 月までの検体採取可能であった乳癌患者23 例25 検体(乳腺・リンパ節)。方法: CD-DST法を用い5-FU,adriamycin(ADM),docetaxel(DOC),paclitaxel(PTX)について抗癌剤感受性試験を行った。結果:検体は乳腺21 検体,所属リンパ節4 検体。5-FU 23 検体中13 検体(56.5%)が評価可能で,うち4 検体が高感受性であった。ADM 23検体中13 検体(56.5%)が評価可能で,うち3 検体が高感受性であった。DOC 24 検体中13 検体(54.1%)が評価可能で,うち7 検体が高感受性であった。PTX 23 検体中12 検体(52.1%)が評価可能で,うち5 検体が高感受性であった。25 検体中9 検体(36.0%)が検査不能であり,その理由として腫瘍細胞数不足が6 検体,細胞viability 低下2 検体,細胞増殖度低下1 検体であった。結語: CD-DST 法は乳癌化学療法を選択する上で判断材料となり得る検査であるが,今後さらなる検査精度の向上が望まれる。 -
オキシコドン塩酸塩速放製剤(オキノームR散0.5%)の経管投与時における適切な溶解液の選択
35巻5号(2008);View Description Hide DescriptionオキノームR散は本邦初の経口オキシコドン速放製剤である。散剤の経鼻管投与時には薬物によるカテーテル内の閉塞などが問題となり,特にオキノームR散のような医療用麻薬では,薬品管理の面からも正確な薬物量の投与が必要であり,カップ,シリンジおよびカテーテル内の残存薬物が生じることは望ましくない。そこで今回,オキノームR散を経鼻管投与する際の問題点を抽出し,その適正な投与方法を検討した。まず,各種溶解液に対するオキノームR散の溶解性について外観観察を行い,適切な溶解液を選択した上で,材質,形状が異なる3 種のカテーテルを用いて模擬的経鼻管投与を行った。またHPLC によるオキシコドン残存率の測定により,カップ,シリンジおよびカテーテルへの付着性を検討した。その結果,蒸留水,黒酢および牛乳はカテーテルへ容易に注入可能であり,カップ,シリンジおよびカテーテル内のオキシコドン残存率も少なく,オキノームR散の溶解液として使用可能であることが示された。エンシュアR ・H などの半消化態栄養剤に関しては,オキノームR散の溶解液として使用できないことが確認された。 -
薬剤師によるオピオイドレスキュー指導に対する患者満足度調査
35巻5号(2008);View Description Hide Description薬剤師による服薬指導がオピオイド鎮痛薬(以下,オピオイド)のレスキュードーズ(以下,RD)使用や痛みの状況に対してどのような影響をもたらすか,また,がん疼痛治療における服薬指導の要点は何かを明らかにする目的で患者満足度調査を行った。調査対象は,がん疼痛・症状緩和に関する多施設共同臨床研究会(SCORE-G)の所属施設でオピオイド使用のがん患者56 名とした。調査期間は2006年11月1日〜12月31日までの2 か月とし,RD 使用に関する服薬指導は同一患者に計2 回実施し,患者満足度を評価した。RD が処方されている患者の割合は,初回指導時は87.8%,2 回目は80.5%であった。RD が実際に使用された患者の割合は63.8%から87.5%と有意に上昇した。2回目指導時に有意に改善した調査項目は「十分な鎮痛効果」,「現在の治療の満足度」,「RD 使用方法の正しい理解」,「RD に対する安心感」,「RD の適正使用」の5 項目であった。2回目指導後の総合評価では「全体的な満足感」81%,「痛みの治療の手助けになった」が78%を示していた。薬剤師が積極的に指導を重ねることで患者の満足度が高まることが示唆された。指導のポイントはオピオイド製剤の特徴や副作用,RD の必要性を患者に正確に繰り返し確認することであった。
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症例
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Weekly Paclitaxel+CapecitabineとFEC(75)逐次投与法が奏効した進行潜在性乳癌の1 例
35巻5号(2008);View Description Hide Description患者は78 歳の女性。左頸部リンパ節腫大を主訴に受診した。生検にて乳癌の頸部リンパ節転移と診断した。左鎖骨上,腋窩,傍腹部大動脈リンパ節転移を認めたが乳腺に腫瘤を認めず,潜在性乳癌cT0N3cM1,Stage IVと診断した。paclitaxelを毎週2 回投与時点で表在リンパ節が縮小しなかったため,capecitabine を追加投与したところ著明に縮小した。その後FEC(75)を3 クール投与し,PET-CT でリンパ節転移は消失した(cCR)。taxane が無効な症例に対し,早期にcapecitabineを併用したことが有効であったと考えた。 -
Ewing肉腫に対して施行したIfosfamideが原発性肺腺癌に著効した1 例
35巻5号(2008);View Description Hide DescriptionEwing肉腫に原発性肺腺癌を合併した症例に対して行ったifosfamide大量単独投与が,原発性肺腺癌に著効した1 例を経験した。症例は56 歳の男性。臀部痛,尿閉,排便困難などの膀胱直腸障害を主訴に当院整形外科を受診し,腰椎MRI上仙骨部腫瘍を指摘された。生検の結果,Ewing肉腫(T2N0M0G4,Stage II B期)と診断された。また胸部CT にて左肺下葉(S10)に腫瘤性病変を認め,気管支鏡検査にて原発性肺腺癌(cT2N0M0,Stage I B期)と診断された。臀部の疼痛が著しく,肺切除前にEwing肉腫に対するifosfamide大量単独投与(day 1: 4 g/m2/day → day 2〜7: 2 g/ m2/day: total 14 g/m2)を1 コース施行したところ,肺腺癌は縮小し空洞化した。縮小率は26.5%であった。有害事象はgrade 2 の白血球減少と軽度の肉眼的血尿を認めたのみであった。 -
S-1/CDDP 併用療法により根治的切除可能となった胃内分泌細胞癌肝転移の1 例
35巻5号(2008);View Description Hide Description胃内分泌細胞癌は悪性度が高く予後不良であることが知られており,現在治療法は確立していない。われわれは,肝・リンパ節転移を伴う進行胃内分泌細胞癌に対しS-1/CDDP 施行後,根治的切除が可能であった1 例を経験した。症例は59歳,男性。検診目的の内視鏡検査で胃体下部大弯に径30 mm 大の腫瘍を認め,生検で内分泌細胞癌と診断された。CT,MRIなどにより,肝S5/S6転移およびNo. 4 リンパ節転移と診断した。S-1/CDDP を3 コース施行したところ,原発巣は瘢痕化,肝・リンパ節転移は消失した。幽門側胃切除,肝部分切除術を施行し病理組織で原発およびリンパ節に癌細胞残存を認めず,硝子瘢痕化した肝転移巣内に数腺管の癌細胞の遺残を認めるのみであった。 -
S-1/Paclitaxel併用療法が著効し根治術が可能になった腹膜播種性胃癌の1 例
35巻5号(2008);View Description Hide Description症例は54 歳の女性。心窩部痛を主訴に来院,胃内視鏡検査にて胃体部後壁に潰瘍性病変を認め,生検の結果,低分化腺癌と診断された。開腹時に広汎な腹膜播種を認めたため単開腹とし,S-1 80 mg/m2(2 週投与1 週休薬)とpaclitaxel(PTX)50 mg/m2(day 1,8)を開始した。化学療法5 コース後に内視鏡検査で腫瘍の縮小を認め,PET-CT でも転移所見を認めないため,胃全摘術,Roux-en Y再建術,D2郭清を行った。腹膜播種は消失し,主病巣の効果判定はGrade 2。総合所見はfT1,fN0,fH0,fP0,CY0,fM0,fStage IAとなり,総合的根治度はAであった。副作用はgrade 1 の口内炎のみであり,手術後11 か月を経過したがCT 検査で再発を認める所見はない。S-1/PTX 併用療法は,胃癌腹膜播種に対して有効で根治術を可能にした。 -
化学療法の継続により術後19か月生存した腹膜播種を伴う進行胃癌の1 例
35巻5号(2008);View Description Hide Description腹膜播種を伴う進行胃癌に対し,非治癒切除後,化学療法の継続により術後19 か月生存した症例を経験したので報告する。症例は75 歳,女性。2005 年6 月,胃癌に対し胃全摘術を施行したが,腹膜と大網に播種を認めた。術後化学療法としてS-1 内服,次いでmethotrexate(MTX)/5-FU 交代療法を経て腫瘍マーカーが異常値を示したため,術後9 か月でbiweekly paclitaxel(PTX)へ変更した。腫瘍マーカーはその後,頭打ち傾向を示しPTX を計18 回投与し得た。術後18 か月で腫瘍マーカーのいちだんの上昇がみられS-1+CPT-11へ変更したが,術後19 か月に脳梗塞を発症し永眠された。腹膜播種を伴う進行胃癌であっても切除後,粘り強く各種化学療法を継続することで長期生存が得られる症例も存在する。可能なかぎり,いわゆるkey drugを用いて化学療法を継続することが肝要であると思われた。 -
Paclitaxel・S-1併用療法が著効したSchnitzler転移を有する進行胃癌の1 例
35巻5号(2008);View Description Hide Description症例は70 歳,女性。Schnitzler 転移を認めた腹膜播種を有する胃癌と診断し,化学療法としてpaclitaxel(PTX)・S-1 併用療法を施行した。投与スケジュールはdays 1,15 にPTX を120 mg/m2を静脈投与,days 1〜14 にS-1 を80 mg/m2の経口投与を1コースとし,4 週間ごとに施行した。化学療法前には水分摂取のみであったが1 コース終了後,全粥摂取が可能になった。2 コース終了後では効果判定はPR であり,腹水もほぼ消失した。化学療法期間中,重篤な副作用を認めなかった。PTX・S-1 併用療法は,腹膜播種を有する胃癌症例に対し治療効果およびQOL の面からも有望な治療法と考えられた。 -
化学療法が奏効し長期生存中の切除不能悪性膵内分泌腫瘍の1例
35巻5号(2008);View Description Hide Description多発性肝転移を伴い切除不能であった悪性膵内分泌腫瘍に対して化学療法が奏効し,長期生存が得られている症例を経験しているので報告する。症例は55 歳,男性。1999年10 月発熱を主訴に来院。画像上,多発性の肝腫瘤および膵尾部の腫瘤を認め,当初,多発性肝転移を伴う切除不能膵体尾部癌と診断され,UFTによる化学療法が開始となった。肝転移巣は軽度縮小し,腫瘍マーカー(CEA,CA19-9)は正常化した。2001 年4 月肝転移巣に対する針生検にて,多発性肝転移を伴う非機能性膵内分泌腫瘍と診断された。以後UFT にてlong NC が続いたが,2003 年10 月ごろより徐々に腫瘍の増大傾向を認め,gemcitabine(GEM)続いてS-1 による化学療法を行った。現在,外来通院にてS-1/GEMの併用療法を継続し,7 年5 か月生存中である。 -
再発胆嚢癌に対するGemcitabine+CPT-11+S-1 3 剤併用化学療法—肝転移巣に著明な石灰化を来した1 奏効例—
35巻5号(2008);View Description Hide Description症例は74 歳,女性。gemcitabine(GEM)無効の胆嚢癌根治術後肝転移再発例に対し,GEM+CPT-11+S-1 の3 剤併用化学療法を行った。3 か月後に症状が消失,腫瘍マーカーは正常化した。CT では肝転移巣内部の石灰化を認めた。石灰化は徐々に進行し,肝転移巣を置換する形となった。15か月間継続投与を行い,再発確認後22 か月間PS 1 を維持している。この化学療法は比較的安全に投与可能であり,胆嚢癌進行例の予後改善に有用である可能性が示唆された。 -
超高齢者に対し5-FU の肝動注療法が奏効した大腸癌同時性肝転移の1 例
35巻5号(2008);View Description Hide Description症例は85 歳,男性。上行結腸癌,多発肝転移の診断で2004 年9 月に回盲部切除術を施行した。多発肝転移に対して胃十二指腸動脈固定法による動注カテーテルを留置後,5-FU 750 mg/body/5 hr を隔週で肝動注療法を施行した。開始後23 か月間合併症,副作用なく病巣もSDで経過した。病勢の進行を認めた後はCPT-11の肝動注療法や内服抗癌剤を投与したが,副作用が強く中止となり術後31 か月で永眠された。世界有数の長寿国である本邦では,高齢者悪性疾患患者に対する化学療法は今後の重要課題である。現在,大腸癌肝転移に対する標準治療はFOLFOX など持続静注療法であるが,肝動注療法はシステムトラブルの問題があるものの副作用は軽度であり,高齢者に対する治療の選択肢の一つとして検討されるべきと考える。 -
S-1が奏効した超高齢者のS 状結腸癌の1例
35巻5号(2008);View Description Hide Description症例は88 歳,男性。近医にて貧血を指摘され本院紹介となる。諸検査によりS 状結腸癌と診断,開腹手術を行ったが後腹膜浸潤および高度なリンパ節転移を認め,切除不能と判断し人工肛門造設術を施行した。本人,家人より十分なinformed consentを得た後,S-1(80 mg/body/day)を2 週投与1 週休薬投与法にて開始した。開始3 コース後の大腸内視鏡検査および5 コース後の腹部CT 検査にて腫瘍の縮小傾向を認め,切除可能と判断しS 状結腸切除術,人工肛門閉鎖術を行った。術後15 コースのS-1 療法を行ったが,その間副作用もなく入院が必要となることも認めなかった。本療法は簡便でコンプライアンスの高い方法で患者のQOL 向上にも寄与すると考えられた。今後,S-1 療法は高齢者進行大腸癌における化学療法の選択肢の一つになり得ると思われた。 -
Modified FOLFOX6 療法が奏効した癌性リンパ管症を合併した再発直腸癌の1 例
35巻5号(2008);View Description Hide Description症例は56 歳の女性。多発肺転移および癌性リンパ管症を合併した直腸癌術後再発症例に対し,modified FOLFOX6(mFOLFOX6)療法を施行した。治療はl-leucovorin(l-LV)200 mg/m2,oxaliplatin(L-OHP)85 mg/m2を2 時間で点滴静注後,5-FU 400 mg/m2を急速静注し,引き続いて5-FU 2,400 mg/m2を46 時間で持続点滴静注するのを1 コースとし,2週ごとに繰り返した。本症例では1 コース終了後より呼吸困難の改善がみられ,4コース終了後にはpartial response(PR)が得られ,5コース投与後には外来通院が可能となった。 -
冠状動脈バイパス術後に術前化学療法としてCPT-11/5-FU/l-LV 併用療法を施行し有効であった進行直腸癌の1例
35巻5号(2008);View Description Hide Description症例は75 歳,男性。頻便を主訴に前医を受診し,大腸内視鏡検査で狭窄の強い下部直腸癌が見つかり当院を紹介された。入院後,不安定狭心症を発症し心臓カテーテル検査で冠状動脈3 枝の強い狭窄が判明したため,人工肛門造設後に冠状動脈バイパス術を施行した。手術侵襲,体外循環,輸血などにより免疫能が低下し再発のリスクが増大する可能性があるため術前化学療法としてCPT-11/5-FU/l-LV 併用療法を施行し,その後腹会陰式直腸切断術を行った。本療法は35 日を1 コースとしてCPT-11(80 mg/m2),5-FU(500 mg/m2),l-LV(250 mg/m2)をday 1,8,15 に投与するレジメンで2コース施行し,腫瘍縮小と腫瘍マーカーの低下がみられた。腹会陰式直腸切断術を施行し,術後3 年経過した現在まで再発を認めていない。 -
Medroxyprogesterone Acetate(MPA)投与により長期担癌生存している再発子宮内膜間質肉腫の2 症例
35巻5号(2008);View Description Hide Description子宮内膜間質肉腫は子宮体部悪性腫瘍中,約0.5%,非上皮性悪性腫瘍のなかでも約10%と非常にまれな腫瘍であり,現在でもその治療法が確立されていない。諸家により,MPA 療法は低悪性度子宮内膜間質肉腫に有効な治療方法の一つである可能性があると報告されている。今回われわれは,初回手術療法後,転移,再発した症例に対しmedroxyprogesterone acetate(MPA)の投与により,担癌状態で現在まで生存している低悪性度子宮内膜間質肉腫の2 例を経験したので報告する。症例1 では手術後3 年で骨盤内局所再発,肺転移を認め化学療法施行したが完全奏効を得られなかった症例に対し,化学療法後MPA の投与を行い腫瘍の縮小が得られ現在まで腫瘍径の増大なく経過している。症例2 では症例1 の経験を基に,初回手術後よりMPA の投与を開始していた。経過観察中に合併症のリウマチの悪化により一時的にMPA を中止したところ,骨盤内リンパ節,傍大動脈リンパ節腫大が生じ再発を認めた。再発後,化学療法と放射線療法に加え,いったん中止したMPA の投与を再開した。治療により転移病変は縮小し,現在MPA の投与のみ持続しているが,これまで再度増大する傾向は認めていない。 -
牛車腎気丸によるOxaliplatin関連末梢神経障害の軽減効果についての検討
35巻5号(2008);View Description Hide Description目的: oxaliplatin(L-OHP)を含むFOLFOX 療法は,切除不能進行・再発大腸癌の標準治療である。L-OHPによる末梢神経障害は用量制限毒性の一つであり,治療中止の主たる要因となる。この神経毒性予防のため,牛車腎気丸の神経障害軽減の報告例を参考にFOLFOX 施行時に神経毒性軽減が可能であるかを検討した。対象:切除不能進行・再発大腸癌14 例(男性5 例, 女性9 例)。年齢中央値は67(42〜84)歳。化学療法の前治療あり8 例,前治療なし6 例。方法:全例に初回FOLFOX 開始日より連日,牛車腎気丸7.5 g/日を内服させた。結果:投与コース中央値8.5(1〜16)施行。神経毒性はgrade 1 が7 例,grade 2 が3 例の合わせて71.4%に認められた。神経毒性の発現は当初ほとんど認められず,コースが進むにつれて発現頻度が増加した。しかし,grade 3 以上の症例は認めなかった。結語: L-OHP による末梢神経障害のうち,急性神経毒性の軽減効果があることが示唆された。
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