癌と化学療法
Volume 35, Issue 6, 2008
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総説
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間質性肺炎—診断と治療—
35巻6号(2008);View Description Hide Description間質性肺炎は肺胞間質を病変の主座とし,線維化の進展により呼吸不全を来す疾患群である。特発性間質性肺炎は,臨床画像病理的に七つの型が鑑別診断の対象として分類されてきた。このなかでも特発性肺線維症は予後不良であり,線維化の質が他の間質性肺疾患とは異なることが強調されてきた。しかし,間質性肺炎の背景が違うとその病理組織所見のもつ予後因子としての意義も異なってしまうことや,複数の組織所見が同一肺に存在することなど,解決すべき問題も明らかになっているのが現状である。ここでは,総論的に,分類,鑑別診断,予後因子,治療の問題について紹介を試みた。
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特集
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- 抗がん剤の腔内投与の現状と問題点—エビデンス不足,しかし日常診療では常に悩むこと—
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腹腔内(IP)化学療法のエビデンスと標準化への問題点
35巻6号(2008);View Description Hide Description抗癌剤の腹腔内(IP)投与は,腹膜転移に対して,非常に高いdose intensityを保つことで局所(regional)効果を期待する。よって,IP 病変が予後規定因子である場合,または同病変による合併症がQOL を最も損なう癌腫に対して適応となる。卵巣癌においては,IP 化療のエビデンスが最も豊富であるが,同時に標準化が進んだとはいい難く,NCI による普及・教育とGOG などによるより毒性の低いIP 投与法が研究されている。胃癌におけるIP の優位性を示すエビデンスは少なく,cytoreductionの意義も同時に検討するような,治験レベルによる第 I 相から第 III 相比較試験を行う必要がある。 -
卵巣癌に対する抗癌剤腹腔内投与
35巻6号(2008);View Description Hide Description現在の進行卵巣癌に対する標準治療は,初回の腫瘍摘出手術と術後のTC療法【paclitaxel(T),carboplatin(C)の経静脈投与(IV)】である。1994年以降も腹腔内投与(IP)とIVとの比較試験が行われていたが,IP療法はあまり顧みられることはなかった。ところが2006 年にGOG172 の臨床試験の結果が報告されてからは,状況は変わってきている。そのIP例の生存期間は有意に延長しており,過去の七つの静脈内投与と腹腔内投与のランダム化比較試験のメタアナリシスからも,IP 例はIV 例に比べて生存期間が有意に延長していた。2006年には,NCI(national cancer institute)は,IP 療法を進行卵巣癌の治療の選択肢に入れるように提言している。ただし,主な臨床試験の薬剤投与法が複雑に設定されているためにIP,IVとの比較が単純にできないこと,コントロールの治療法が現在の標準治療(TC 療法)ではないこと,IP 治療の完遂率の低いなどの問題点もある。しかし,IP 療法が見直されたことは事実であり,新たな臨床試験の実施により,その使用薬剤,投与回数などのIP 療法の標準化が期待される。 -
胃癌腹膜播種に対する抗癌剤腹腔内投与の現状と問題点
35巻6号(2008);View Description Hide Description胃癌の腹膜播種に対して様々な化学療法が行われてきたが,いまだ標準治療は存在しない。直接播種巣と接することによる効果の増強と副作用の減弱を期待して腹腔内投与法は生みだされ,これまで様々な抗癌剤で試されてきた。特にcisplatin(CDDP)を用いた腹腔内投与が多く行われてきたが,臨床試験でもその有効性は実証できなかった。胃癌領域でも最近新規抗癌剤であるtaxane による腹腔内投与法が生みだされ,その高い効果が報告されており,従来の化学療法を上回る成績を認めるため期待されている。taxane 腹腔内投与が標準治療となるためにはエビデンスレベルの高い臨床研究を行う必要があり,これを目的として胃癌腹膜播種研究会が結成され,現在,多施設第 I / II 相臨床試験を施行している。本研究は胃癌腹膜播種に対する初回治療を対象にしており,客観的に効果を評価するために写真判定を含めた厳格な判定基準を設けている。S-1 による全身化学療法に加えて,docetaxelの隔週腹腔内投与を行うレジメンとなっている。本治療法が新規抗癌剤による全身化学療法単独より腹膜播種の治療に優れるかどうかは将来第III相試験を行う必要があり,周囲の理解と協力による円滑な研究の進行が望まれる。 -
抗癌剤の胸腔内投与
35巻6号(2008);View Description Hide Description癌性胸水に対する胸腔内抗癌剤投与の位置付けはいまだ定まっておらず,最適な治療プロトコールも決定していない。本邦では抗癌剤のなかではbleomycinおよびcisplatinの使用が多いが,投与量,投与方法は施設ごとに異なっているのが現状である。これまで様々な抗癌剤の胸腔内投与が検討されているが,対象疾患にばらつきがある,sample size が小さい,奏効率の定義が統一されていないなどの問題点があり,エビデンスの確立のためには比較試験での検討が望まれる。JCOG9515 では非小細胞肺癌悪性胸水例を対象にbleomycin,OK-432,cisplatin+etoposide の3 剤が比較され,大きな差ではないが胸水制御効果はOK-432 が良好であったと報告された。抗癌剤は他剤(特にOK-432)との併用で優れた効果が期待されており,今後さらなる検討が待たれる。 -
抗癌剤髄腔内投与
35巻6号(2008);View Description Hide Description中枢神経系の悪性腫瘍の特異な進展形態として,髄腔内播種があげられる。これは腫瘍細胞が脳脊髄液を介して脳表やクモ膜下腔,さらには脳室内や脳槽内に進展・浸潤した病態である。原発性および転移性脳腫瘍でともに発症し,その頻度は原発性脳腫瘍で4.2%,転移性脳腫瘍で5.1%といわれている。原発性脳腫瘍では胚芽腫,髄芽腫,上衣腫,膠芽腫などに好発し,転移性脳腫瘍では乳癌,肺癌,胃癌などで好発し,癌性髄膜炎ともいわれている。髄腔内播種の予後は不良であり,従来の全身化学療法や放射線療法では難治性である。このため特異的な治療法として,抗癌剤の髄腔内投与が行われている。髄腔内化学療法の利点としては,速やかに髄腔内に分布し,そのクリアランスが遅く分解も遅いため作用時間が長い,といった点があげられる。投与経路については,側脳室内にOmmaya reservoirを留置して,これを頭皮上より穿刺して脳室内に投与する方法,腰椎穿刺下に腰部クモ膜下腔内に投与する方法,また,両者を交互にあるいは同時に行う方法などがあり,また投与方法もbolus injection や灌流療法などが行われている。現在汎用されている薬剤としては,methotrexate(MTX),cytarabine(Ara-C),3-[(4-amino-2-methyl-5- pyrimidinyl)methyl]-1-(2-chloroethyl)-1-nitrosourea hydrochloride(ACNU)があげられ,その他,最近は新薬の臨床応用も行われはじめている。治療成績に関しては,腫瘍の組織型や投与薬剤や投与法により差異はあるものの,response rate は40〜80%程度であり,平均生存期間も約4.25 か月である。抗癌剤独自の副作用は全身化学療法と同様の対処でよいと思われるが,特異的な副作用として,非特異性薬物反応性髄膜炎ないし脳室炎,一過性または持続性不全麻痺や脳症があげられる。これらは投与量の減量や中止により軽快することが多く,場合によっては髄注時に少量の副腎皮質ホルモンも追加投与する。また,髄注に際し,刺入部よりの細菌性髄膜炎の併発も認められ,抗癌剤の投与中止,Ommaya reservoir などの抜去や抗生剤の全身および髄腔内投与を行う。このように髄腔内播種は特異な転移形式であり,極めて予後不良な病態ではあるが,本治療法による有効例も散見され,今後有用な治療法の一つとなり得ると考えられる。 -
抗癌剤心膜腔内投与
35巻6号(2008);View Description Hide Description癌性心膜炎により心タンポナーデもしくはそれに近い状況になった場合は,緊急に心膜液の排液が必要となる。一時的な心膜液の排液だけでは再貯留する可能性が高く,再貯留を予防するための様々な治療が行われてきた。現在までに行われている癌性心膜炎に対する薬剤心膜腔内投与の比較試験としては,1996 年に報告されたbleomycin とdoxycycline とを比較した試験と,JCOG が報告したbleomycin 群と非投与群との比較試験がある。これらの試験ではいずれもbleomycinを推奨する結果であった。薬剤の心膜腔内投与は比較的安全とされているものの,薬剤を投与するためのカテーテル留置や心膜腔穿刺は,致死的な合併症を引き起こすことが報告されている。これらの合併症は,経験豊富な循環器専門医がエコーガイド下に行ったとしても3%前後に起こるとされている。現時点での心膜腔内に投与すべき薬剤はbleomycin と考えられるが,実際の臨床では症例ごとに状態,予後を検討し,癌性心膜炎に対する処置,薬剤投与を考慮すべきである。
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Current Organ Topics:脳腫瘍 グリオーマ
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III.悪性グリオーマ治療における薬剤耐性機構の最近の知見—temozolomide 耐性・分子標的薬・脳腫瘍幹細胞—
35巻6号(2008);View Description Hide Description -
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原著
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進行非小細胞肺癌に対するGemcitabineとCarboplatin併用療法の第 II 相試験(中間解析報告)
35巻6号(2008);View Description Hide Description進行非小細胞肺癌患者24 例を対象にgemcitabineとcarboplatin併用療法の有効性と安全性を検討する第 II 相試験を実施し,その中間検討を行った。投与法はgemcitabine 1,000 mg/m2(第1,8 日),carboplatinAUC 2(第1,8 日)を3 週間隔で2 サイクル以上投与し評価した。奏効率は37.5%(9/24)(95%信頼区間: 18.8〜59.4%)であった。無増悪期間は21週で,平均生存期間は48 週であった。1年生存率は45.8%であった。投与サイクル数の中央値は3(1〜8)サイクルであった。主な副作用は血液毒性であり,24 例中(76 サイクル中)grade 3 以上の好中球減少,血小板減少症は各々58.3%(35.1%),45.8%(18.2%)であった。非血液学的副作用はgrade 3 以上のものはなかったが,grade 2 の発疹8.3%,発熱8.3%,悪心4.2%,嘔吐4.2%が認められた。その他,重篤な副作用はみられなかった。本試験併用療法は高い奏効率が得られ,安全性の面から十分に認容性がある治療法と考えられ,さらに本試験を継続することとした。 -
膵癌切除例における術後補助化学療法としてのGemcitabine投与の安全性と有効性
35巻6号(2008);View Description Hide Description膵癌切除例に対する術後補助化学療法としてのgemcitabine(GEM)投与の安全性と有効性について検討した。1998年9月〜2007年6月までのstage III 以上の膵癌切除例のGEM 投与群10 例,非投与群11 例を対象とした。GEM の投与は術後34.8 日目より可能であり,比較的安全に平均15.4 か月間と長期投与ができた。GEM 投与による有害事象は骨髄抑制が主で,grade 3 以上の有害事象は認められなかった。無病生存期間(DFS)においてGEM投与群と非投与群の間で有意差はなかったが,累積生存率においてはGEM 投与群が非投与群に対して有意差を認めた(p=0.037)。GEM を用いた術後補助化学療法は安全であり,累積生存率を改善できる可能性があると考えられた。 -
乳がんFEC 療法,AC療法における悪心・嘔吐の予測因子に関する研究
35巻6号(2008);View Description Hide Descriptionはじめに:がん化学療法における悪心・嘔吐の原因には薬剤による因子と患者による因子があると考えられている。悪心・嘔吐のリスクファクターをモニタリングすることで事前に悪心・嘔吐の予測ができないかと考えた。方法: 2006 年4 月〜2007 年6 月の間,外来化学療法室において,FEC 療法,AC 療法を受ける乳がん患者を対象にした。初回投与前に,「年齢」「乗り物酔い」「習慣的飲酒」「つわりの有無」「心配性」の5 項目のリスクファクターに対し聞き取りを行い,3週間後当室利用時に悪心・嘔吐それぞれに対しCTCAEで評価を行った。統計学的分析法はFisher’s exact probabilitytestを用いて検定を行った。結果:対象患者は49 名であった。嘔吐と各リスクファクターの相対危険率は「年齢」1.57,「乗り物酔い」2.15,「習慣的飲酒」0.97,「つわりの有無」1.54,「心配性」3.15 という結果となり,心配性のみ有意差あり(p=0.019)という結果となった。また悪心と各リスクファクターの相対危険率は「年齢」2.00,「乗り物酔い」1.57,「習慣的飲酒」1.04,「つわりの有無」1.37,「心配性」2.28という結果となり,心配性のみ有意差あり(p=0.018)という結果となった。またリスクファクターの数と悪心・嘔吐の関係においては,有意差はでなかった。考察:心配性というリスクファクターのある患者においては重篤な悪心・嘔吐になる可能性があることが証明された。 -
S-1長期投与後の尿中ウラシル値の変動と再発との関係の検討
35巻6号(2008);View Description Hide DescriptionS-1 は胃癌に対し良好な結果が報告されている。しかし,1 年以上腫瘍の不変状態が継続したにもかかわらず再発するケースも散見され,DPD 活性の変動が一因と報告されている。そこでS-1 を長期に投与した後の再発時にDPD 活性を簡便に予測できる尿中ウラシル値を測定し,再発の指標として尿中ウラシル値がなり得るかを健常人5例を対照として検討した。その結果,健常人の尿中ウラシル値の月差変動は小さいが,S-1 を6 か月以上投与され,そして再発した患者は,健常人に比べて尿中ウラシル値が有意に低下していた。5-FU によるDPD の誘導や癌の転移によりDPD 活性が変動したことで再発し,尿中ウラシル値にも反映したと考えた。全身のDPD活性に反映する尿中ウラシル値は,S-1 の長期投与時の再発の指標になる可能性がある。さらに尿中ウラシル値の測定は,治療法の検討に役立つと示唆された。 -
Lactobacillus casei Strain Shirota投与によるIrinotecan Hydrochloride誘発下痢の予防に関する研究
35巻6号(2008);View Description Hide Descriptionirinotecan hydrochloride(CPT-11)は,DNAトポイソメラーゼⅠ阻害作用を有するカンプトテシン誘導体であり,重篤な下痢が用量規定因子となっている。下痢は腸内細菌叢の著しい乱れに起因するものと考えられるが,近年プロバイオティクスによる腸内細菌叢の維持効果に関するいくつかの報告がなされている。そこで今回われわれは,CPT-11 により誘発される下痢に対するLactobacillus casei strain Shirota(LcS)の効果について,ラットを用いて検討した。LcS 投与群においては,LcS(1.64×10 11cfu/0.5 g/3 mL生理食塩液)を28 日間経口投与し,LcS投与開始より14 日後,CPT-11 を4 日間腹腔内投与した(100 mg/kg)。コントロール群は,生理食塩液3 mLを28 日間経口投与し,CPT-11 の投与はLcS 群と同様に行った。その結果,LcS 群では,コントロール群に比してCPT-11投与による体重減少が有意に抑制され,餌摂取量もコントロール群に比して多かった。また,遅発性下痢に関しても,LcS 投与群では,その重症度,回復期間ともに改善傾向にあった。これらのことから,CPT-11 誘発の下痢抑制には,医療用医薬品としても存在するLcSの内服が極めて効果的であると考えられた。 -
胸部悪性腫瘍治療中の味覚障害における亜鉛の関与とポラプレジンク口腔内崩壊錠の効果—レトロスペクティブスタディ—
35巻6号(2008);View Description Hide Descriptionがん化学療法中の肺がん29 例,悪性胸膜中皮腫1 例で血清中亜鉛値と味覚障害の相関,患者背景と血清亜鉛値あるいは味覚障害の相関,味覚障害に対するポラプレジンク口腔内崩壊錠の効果について検討した。30例中11 例(36.7%)に味覚障害が発症し,血清亜鉛値と味覚障害は有意(p=0.0227)な相関を認めた。また,男性に血清亜鉛値の有意な低下(p=0.0235)と高頻度に味覚障害の出現する傾向(p=0.0625)を認めた。味覚障害が発症した8 例中5 例でポラプレジンクにより味覚障害が改善した。
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症例
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薬剤管理指導業務が効果的でCPT-11,CDDP 併用化学療法でCR となった肺小細胞癌の1 例
35巻6号(2008);View Description Hide Description64 歳,男性の肺小細胞癌(Stage IIIA)に対してCPT-11,CDDP 併用化学療法を施行し,薬剤管理指導業務中にgrade 4 の好中球減少を来した1 症例を経験した。そこで遺伝子解析を行ったところUGT1A1*28 ヘテロ型の遺伝子多型を認めた。治療効果は良好であり,CPT-11 の投与量のみを約1/3 に減量することで化学療法を安全に4 コース施行しCRが得られた。この間,薬剤師として好中球減少時の抗生剤の選択やCPT-11 の投与計画への参画を行った。また,排便コントロールや血液毒性などに対する細かな患者モニタリングおよび遺伝子検索の際,患者と倫理委員会に対する資料などの情報収集を行った。CPT-11 に対する遺伝子多型の解析は重篤な副作用の予知に有用であるが,臨床の場では容易に判定できない。CPT-11投与患者において1 コース目から好中球減少が著明な場合には遺伝子多型患者であることを考慮し,症状や検査成績の十分なモニタリングおよび投与量の減量が重要であると考えられた。 -
Carboplatin,Paclitaxelによる術後化学療法により長期生存を得ている肺多形癌の1 例—本邦報告例23例の文献的検討—
35巻6号(2008);View Description Hide Description症例は46 歳,男性。血痰を主訴に来院,精査で右肺尖部に腫瘤陰影とその周囲の広範な間質性陰影が認められた。悪性腫瘍を疑い右上葉切除術を施行したところ,術後病理所見では胸壁浸潤を認め,肺多形癌stage IIB と診断された。術後化学療法carboplatin(area under the curve(AUC)5; day 1,every 3 weeks),paclitaxel(200 mg/m2; day 1,every 3 weeks)を3 コース行ったところ,760 日以上もの無病生存を得た。肺多形癌は予後不良といわれているが,術後化学療法が有用な可能性があり報告する。 -
S-1/Irinotecan併用療法中に発症した薬剤性間質性肺炎の1例
35巻6号(2008);View Description Hide Description症例は67 歳,男性。多発肝転移を合併した大腸癌症例に対し,S-1/irinotecan(CPT-11)併用療法を施行した。治療はS-1(120 mg/日)を第1 日から第14 日まで連日経口投与後,14 日間休薬,CPT-11は100 mg/m2を1 日目と15 日目に2時間で点滴静注,4 週を1 コースとした。本症例では2 コース目施行中に発熱が出現し,引き続いて呼吸苦が出現したために入院となった。低酸素血症が著明で,胸部CT 検査では両側性にすりガラス状のびまん性浸潤影を認めた。酸素吸入療法を開始するとともにステロイド・パルス療法を開始したところ,症状は速やかに改善しCT 所見も改善した。S-1/CPT-11併用療法施行中に発熱,呼吸困難が出現した場合は,薬剤性間質性肺炎を鑑別診断にあげ,速やかに適切に対処することが必要である。 -
Trastuzumabを併用した術前療法が奏効した局所進行乳癌の1例
35巻6号(2008);View Description Hide Description53 歳,女性。皮膚浮腫を伴う左乳房硬結と腋窩リンパ節腫大にて初診。針生検で浸潤性乳管癌,T4bN2aM0,stageIIIB,ER・PR陰性,HER2 陽性と診断した。5-fluorouracil+epirubicin+cyclophosphamide(FEC)療法およびpaclitaxel+trastuzumab療法を各々6 コース施行後,腫瘍は消失した。HER2陽性乳癌に対しtrastuzumabを併用した術前療法は有効であった。 -
A Case of Advanced Breast Cancer Associated with Development of Liver Atrophy with Progressive Liver Failure during Treatment
35巻6号(2008);View Description Hide Description症例は44 歳,女性。1991 年に乳癌のため手術,放射線,術後ホルモン療法を施行された。2005 年4 月に腹部膨満感が悪化し当院外来を受診。腹部CT にて多発肝腫瘤を認め,肝生検にて乳癌肝再発の診断となった。5 月13 日からweekly paclitaxel を開始し,2 週間後よりtrastuzumab とtamoxifen を併用した。治療開始6 か月後には肝内の多発腫瘤影は縮小傾向となったが,肝表面の不整が目立つようになった。血液検査において肝障害は改善し,腫瘍マーカー(BCA225)の低下を認めた。治療開始10 か月後に肝表面はさらに結節状に不整となり,変形と萎縮が著明となった。治療開始12 か月後に腹部膨満と下腿浮腫のため再入院。腹水の増加と食道静脈瘤を認めた。血液検査にて肝不全の診断となったが,BCA225 は依然として低値であった。化学療法,ホルモン療法は中止したが,肝不全のため2 週間後に永眠した。治療中に肝萎縮と肝不全が進行しており化学療法,ホルモン療法との関与が疑われたため報告する。 -
DocetaxelとCyclophosphamide併用術前化学療法が著効した乳癌の1例
35巻6号(2008);View Description Hide Description症例は67 歳の女性。2007 年6 月に右乳癌を疑われ当科を受診した。針生検の結果,浸潤癌,ER とPR は陽性,HER2 は陰性であった。腫瘍径が3 cm あり,患者の乳房温存希望があったため術前化学療法を選択した。高齢であったためanthracycline系は使用せずに,docetaxel(75 mg/m2)とcyclophosphamide(600 mg/m2)併用化学療法(TC療法)(3週ごとに投与)を6 サイクル施行後,乳房温存術を施行した。好中球減少を除いて,grade 3 以上の有害事象は認めず,外来通院で安全に施行できた。6サイクル後の乳房超音波とマンモグラフィは腫瘍の残存が示唆されたが,乳房造影MRIでは病変は消失した。病理結果はabsence of invasive tumor or only focal residual tumor cells(QpCR)であった。早期乳癌に対する術前化学療法としてのTC 療法は効果を十分に期待できる治療であると思われた。 -
妊娠中の乳癌に対する治療経験
35巻6号(2008);View Description Hide Description今回われわれは妊娠期乳癌に対し,妊娠中に化学療法を行った症例を経験したので報告する。症例は30 歳,女性。妊娠第9 週で乳癌と診断され,乳房切除,腋窩リンパ節郭清が施行された。腫瘍は5.8×6×6.5 cm 大,高度なリンパ節転移を認め,ER,PgR,HER2/neuいずれも陰性であった。妊娠を継続しながら化学療法を行うこととなり,妊娠19 週よりEC 3コースを施行した。妊娠32 週目に前置胎盤による切迫早産のため帝王切開にて分娩,経過中母子ともに問題は認められなかった。分娩後にEC 1 コース,docetaxel を4 コース追加し,左胸壁・鎖骨上への放射線照射を行った。現在のところ再発は認めていない。妊娠期乳癌の管理においては,個々の症例に応じた治療戦略と多職種による医療チームのサポートが不可欠である。 -
癌性リンパ管症による術後再発に対しS-1/Low-Dose CDDP/Lentinan併用療法が奏効した胃癌の1 例
35巻6号(2008);View Description Hide Description症例は78 歳,女性。1997年11 月に幽門狭窄を来した3 型胃癌に対して胃切除術を施行した。術後5 年までは定期的に胸部,腹部CT 検査などを施行したが,再発を認めず順調に経過した。2005 年5 月初旬から労作時の呼吸苦が出現し,急速に増強するために呼吸器科を受診。胃癌再発による肺の癌性リンパ管症+腹腔内リンパ節転移と診断され,緩和ケア目的で当院紹介となる。強い呼吸苦に対して酸素吸入,オピオイド投与を行い,呼吸苦の改善を待ってS-1 80 mg/日,CDDP 10mg×1 回/週,Lentinan 1 mg×2 回/週の併用療法を開始した。投与開始約2 週間で呼吸苦は消失し,4 週間×2 コース施行後には,胸部,腹部ともにCT 上明らかな腫瘍陰影は消失した。S-1/low-dose CDDP/Lentinan併用療法は明らかな副作用を認めず,高齢者や全身状態不良な進行胃癌,緩和医療においても有力な選択肢の一つになり得ることが示唆された。 -
経口フッ化ピリミジンとWeekly Paclitaxelが奏効した胃癌腹膜播種の1 例
35巻6号(2008);View Description Hide Description症例は44 歳,女性。上腹部不快感にて精査の結果,3 型進行胃癌と診断され胃全摘術を施行したが,開腹時に大網に腹膜播種を認めた。術後は外来でdoxifluridine とweekly paclitaxel による補助化学療法で1 年間は再発徴候を認めなかった。術後13 か月目に腹部鈍痛を訴え,腹水を認めたため癌性腹膜炎と診断した。S-1 とweekly paclitaxel による化学療法を開始したところ,3 コース終了後に腹水は減少した。grade 1 の貧血とgrade 2 の脱毛を認めたが重篤な過敏症や副作用を認めず,術後18 か月の現在も外来化学療法を継続している。 -
A Three-Year Survivor Case of Gastric Cancer with Peritoneal Dissemination—An Outpatient with Second-Line Weekly Paclitaxel
35巻6号(2008);View Description Hide Descriptionmethotrexate/5-FU 時間差療法に不応となった胃癌の癌性腹膜炎に対し,paclitaxel 毎週投与法にて3年生存中の症例を経験したので報告する。症例は62歳,女性。2004 年1 月,T3N3M1P1CY1 胃癌に対し単純胃全摘術を施行し,術後methotrexate/5-FU 時間差療法を施行するも,術後7 か月目に腹水貯留,腹痛,食事摂取困難を来し癌性腹膜炎と診断した。2004年9 月から,70 mg/m2のpaclitaxelを週1 回3週投与し,1 週休薬するpaclitaxel 毎週投与法を開始した。paclitaxelは1 時間で投与し前投薬はその30 分前に施行した。一過性のgrade 3 の白血球減少を認めたが特に治療を必要とせず,また過敏症や末梢神経障害は認めなかった。腹水,腹痛は急速に消失し食事摂取量も改善したため,それまで施行していた中心静脈栄養を中止し退院可能となった。以後同療法を外来で継続し,paclitaxel 治療開始後3 年経過した現在再燃を認めていない。paclitaxel毎週投与法は,paclitaxel投与を定期的に繰り返し行うことで従来の3 週毎投与法より,より高い抗腫瘍効果が得られるというdose-dense concept に基づいている。本症例は,これまでの胃癌癌性腹膜炎治療の症例報告と比較しても長期生存例と思われ,その効果が外来投与で得られていることは患者のQOL 維持にも寄与していると思われた。paclitaxel毎週投与法は胃癌の腹膜播種に対し,有効な治療法と思われた。 -
腹膜播種を伴う膵尾部癌・胃癌同時性重複癌に対して抗癌剤感受性試験に基づいた化学療法が著効を認めた1例
35巻6号(2008);View Description Hide Description症例は63 歳,男性。腹膜播種を伴う膵尾部癌および胃癌に対して,小腸バイパス術を施行。同時に腹膜播種の一部を抗癌剤感受性試験へ提出。感受性試験の結果,腫瘍抑制率はCPT-11 76%,5-FU 72%,CDDP 25%,paclitaxel 24%,gemcitabine 23%であったため,化学療法としてCPT-11 50 mg,5-FU 750 mg,Leucovorin 375 mg を週1 回投与(3 週投与,1 週休薬を1 コース)にて開始した。計9 コース継続可能であった。約1 年3か月の間,原発巣および腹膜播種巣に対してstable disease(SD)が得られ,CA19-9は化学療法前1,357 U/mL より81 U/mL まで著明に低下。1 年3 か月もの間社会復帰し良好なQOL を維持できた。初診から2 年2 か月に腹膜播種により死亡した。腹膜播種を伴う膵癌あるいは胃癌の生存期間が通常6 か月程度であることを考慮すると,感受性試験に基づいた化学療法が個別化治療として極めて有効に作用したことが示唆された。 -
Gemcitabine個別化最大継続可能量とS-1併用療法が奏効した進行膵癌の1 例
35巻6号(2008);View Description Hide Description症例は70 歳,男性。膵癌,多発性肝転移と診断し,gemcitabine(GEM)/S-1 併用療法を開始した。治療開始後,全身倦怠感,食欲不振,悪心を強く認めたため,1 コースday 8 よりGEM は有害事象を指標にして個別化最大継続可能量(individual Maximum Repeatable Dose; iMRD)を決定して投与する方法に従い,1,000 mg/m2から500 mg/m2に減量した。その後,全身状態は著明に改善し,外来化学療法を継続できた。腫瘍マーカーは著明に低下し,腹部CT 上原発巣,肝転移巣ともに縮小を認めた。治療開始後7 か月経過し,現在も腫瘍は縮小している。進行膵癌に対しGEM(iMRD法)/S-1 併用療法が奏効した1 例を経験した。 -
CPT-11/5-FU/l-Leucovorin療法によって治癒切除可能となった腹部大動脈周囲リンパ節転移を有するS 状結腸癌の1例
35巻6号(2008);View Description Hide Description症例は54 歳,女性。下腹部痛と下血を主訴に大腸内視鏡検査を施行し,S 状結腸癌と診断した。CT上,左腎静脈までの傍大動脈リンパ節転移を認め,cStageIVのS状結腸癌と診断し,横行結腸人工肛門造設を施行した。術後2 週間目よりCPT-11を併用したAIOレジメンの変法で,CPT-11 80 mg/m2,5-FU 2,000 mg/m2,l-LV 250 mg/m2を週1 回,3 週連続投与1 週休薬のレジメンで化学療法を施行した。3 か月後の効果判定で原発巣と傍大動脈リンパ節の著明な縮小を認め,さらに2 か月追加療法(計20 回)を施行した。全経過中に有害事象は発生しなかった。投与開始後5 か月後のCT および大腸内視鏡検査にて根治切除可能と判断し,S 状結腸切除術,D3郭清,傍大動脈リンパ節郭清を行った。病理組織学的には,原発巣と郭清したリンパ節に明らかな癌遺残は認めなかった。以上より,術前化学療法にて病理学的にCR と判断した。術後経過は良好で現在まで無再発生存中である。AIO レジメンをベースとしたCPT-11 併用5-FU/l-LV 持続療法は,根治切除不能進行大腸癌に対する化学療法の選択肢の一つとなると思われた。 -
急性骨髄性白血病再発後Anthracycline拡張型心筋症を発症し長期寛解後に心機能の改善をみた1例
35巻6号(2008);View Description Hide Description初回寛解導入4 年後に再発した急性骨髄性白血病の1 例は,再発後の維持療法中に心不全を合併したが,通常の心エコーとは異なる高周波ドプラ信号を解析する位相差トラッキング法で心機能評価を続けながら化学療法の継続が可能で,維持療法を終了した。再発後10 年を経過し無病生存を維持している。腫瘍効果に優れているが,薬剤使用総量の増加とともに発症率が増加するanthracycline の心筋症をモニタリングする精度の高い検査法として位相差トラッキング法は優れている。 -
硫酸モルヒネ徐放錠の副作用である便秘が肝性脳症の誘引となった1例
35巻6号(2008);View Description Hide Description便秘傾向を有する肝癌疼痛患者に硫酸モルヒネ徐放剤を投与し,便秘の増悪が誘引となったと考えられる肝性脳症例を経験したので報告した。患者は,HCV(+)の慢性肝硬変から多発性肝細胞癌を発症し便秘傾向にあったが,右季肋部痛を訴えたことから硫酸モルヒネ徐放剤を投与したところ,2 日後に病院の前で倒れているのが発見された。血中アンモニア濃度が118 μg/dL と高値のため,肝性脳症を疑い緊急入院となった。アミノレバン点滴と坐薬により便秘は改善し,血中アンモニア値も基準値範囲に落ち着いたところで退院した。患者は疼痛管理前から便秘傾向があり,そこにモルヒネ投与が重なって便秘を増悪させ血中アンモニア値が高値となり,肝性脳症を発症したと考えられた。オピオイドによる疼痛管理に当たっては,患者のQOLを考慮した投与開始時からの積極的な副作用対策の重要性を再認識させられた症例であった。
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新薬の紹介
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多発性骨髄腫に対するBortezomibの臨床的役割
35巻6号(2008);View Description Hide Description多発性骨髄腫は従来の治療戦略では難治性であったが,最近,既存の薬剤と異なった作用機序を有する新薬が次々と登場し,治療成績の大幅な向上が期待できるようになった。bortezomibは細胞内に存在する酵素複合体「プロテアソーム」を阻害することで抗骨髄腫細胞作用を発揮する新規薬剤で,現在の適応は「再発または難治性の多発性骨髄腫」であるが,病初期から治療に組み込んでいくことで生存率・寛解率とも改善できることがわかってきている。本稿では,初発骨髄腫の患者に対するbortezomibを含んだ化学療法の治療成績を概説したい。 -
新規抗癌剤ペメトレキセド(Alimta R)
35巻6号(2008);View Description Hide Descriptionpemetrexed(Alimta R)はチミジル酸シンターゼ,ジヒドロ葉酸レダクターゼ,グリシンアミドリボヌクレオチドホルミルトランスフェラーゼなど複数の酵素を阻害することにより,抗腫瘍効果を発揮する新規葉酸代謝拮抗剤で,非小細胞肺癌を含む多くの癌腫で有効性が報告されている。海外では悪性胸膜中皮腫および非小細胞肺癌に承認されており,日本では2007 年1 月に悪性胸膜中皮腫に対して承認された。初回化学療法の悪性胸膜中皮腫ではcisplatin との併用でcisplatin 単独よりも有意に生存期間を延長させることが証明され,悪性胸膜中皮腫に対する標準的化学療法として位置付けられるようになった。また,既治療非小細胞肺癌においても第III相試験でdocetaxel と比較して同等の有効性があり,好中球減少や発熱性好中球減少,脱毛などの副作用はdocetaxel よりも軽度であり,second-line の標準療法の一つとして考えられるようになった。pemetrexedの副作用は葉酸とビタミンB12を併用することにより血液毒性や消化器毒性が軽減でき,今後高齢者やPS 不良といったハイリスク症例への使用にも期待されている。
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特別寄稿
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用語解説
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