癌と化学療法
Volume 35, Issue 7, 2008
Volumes & issues:
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総説
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Chemopreventionの基礎と臨床
35巻7号(2008);View Description Hide Descriptionchemoprevention は,発癌を防ぐ薬剤を積極的に摂取することにより癌を予防するという考え方であり,cost-benefitの観点から米国で提唱されたものである。最近の分子生物学の進歩により,発癌にかかわるシグナル伝達経路が解明されつつあることから,細胞増殖やアポトーシスに関与する分子を標的とした予防薬の開発が進められている。大腸癌,前立腺癌,乳癌など,多くの癌を対象に臨床試験が行われている。一方,肝炎ウイルスやヘリコバクターピロリなどのウイルスや細菌を駆除して発癌を抑制することも重要なchemopreventionである。
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特集
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- 遺伝子多型とがん薬物治療薬
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がん薬物療法と遺伝子多型—日本人と外国人との違い—
35巻7号(2008);View Description Hide Descriptionシチジンデアミナーゼの遺伝子多型とgemcitabine による血液毒性およびgemcitabine の薬物動態の相関を検討した。CDA*3 の遺伝子型をもつ患者では,クリアランスの低下,AUC の上昇がみられ血液毒性が有意に増強した。CDA*3をホモでもつ患者では強い血液毒性を認めた。日本人と米国人を対象としたCommon arm trial では効果と毒性に人種差を認め,今後薬理遺伝学的検討が重要と示された。 -
EGFR とGefitinib(Iressa)
35巻7号(2008);View Description Hide Descriptiongefitinib(Iressa)とEGFR の遺伝子多型および遺伝子変異との関係について,概説した。感受性や毒性にかかわる遺伝子多型として,プロモータ領域やイントロン1 の多型があげられる。感受性の予測に関する研究は,特に多くの検討がなされているがEGFR 遺伝子変異,増幅のみでは説明しきれない奏効例が数多く存在するため,EGFR 遺伝子などのSNPsの解析も重要な情報と考えられる。一方,毒性の面では,ILDに関して米国では0.3%にすぎないが,本邦では3.98%と約13倍の危険度があった。今後,その出現予測の研究が重要であり,EGFR をはじめ,関連因子のSNPs 解析などを進める必要があると思われる。 -
Irinotecanの副作用発現に対するUGT1A1*28とUGT1A1*6の役割
35巻7号(2008);View Description Hide Descriptionirinotecanは,肺がん,胃がん,大腸がんなどに幅広く使用され,世界における標準的治療薬となっている。しかしながら,irinotecan が投与された一部の患者では重篤な下痢と白血球減少を発症し,副作用に関連した死亡例も報告されている。irinotecan はプロドラッグであり,肝臓内のカルボキシルエステラーゼによって活性代謝物であるSN-38 に変換される。その後UDP-グルクロニルトランスフェラーゼ(UGT)によりグルクロン酸抱合体であるSN-38 G となり,主に胆汁中から排泄される。これまでの多くの研究により,UGT1A1 遺伝子多型が副作用の発現に関与することが明らかとなり,特にUGT1A1*28 についてはその重要性が指摘されている。しかしながら,UGT1A1 遺伝子多型には人種差が存在し,UGT1A1*28 のアレル頻度は,欧米人では高いのに対して日本人では低い。最近,アジア人ではUGT1A1*28 に加えてUGT1A1*6 が,副作用発現の個人差に関連することが報告されている。今回,日本人におけるirinotecan の副作用発現に対するUGT1A1*28とUGT1A1*6の役割について概説する。 -
Vinca AlkaloidとMDR1
35巻7号(2008);View Description Hide Descriptionチュブリンに結合して微小管重合を阻害し,抗腫瘍効果を示すvinca alkaloid はvincristine,vinblastine,vindesineおよびvinorelbine の4 種類が一般臨床で使用されている。ATP-binding cassette トランスポータの一つであるP 糖蛋白はMDR1 遺伝子の遺伝子産物で,細胞内外の薬物およびその代謝物の輸送に関する蛋白質である。腫瘍細胞に発現し,抗癌剤耐性機序として働くとともに,肝,消化管,腎などの正常組織にも広く分布し生体防御機能をもつ。MDR1 遺伝子はexon 12 の1236 位,exon 21 の2677位およびexon 26 の3435 位の多型がよく研究されている。C1236TおよびC3435T はアミノ酸置換を生じないが,G2677TはAla893Ser,G2677AはAla893Thrと置換される。MDR1遺伝子多型とvinca alkaloid の薬物動態の報告では,ハプロタイプとvincristineの半減期との相関が認められている。また,MDR1および他の遺伝子多型と化学療法の効果あるいは予後との関連を示した臨床研究が次々に展開されており,ますます興味深い領域である。 -
サイクロフォスファミドとCYP2B6
35巻7号(2008);View Description Hide Description肝のチトクロームp450(CYP)スーパーファミリーは,多くの薬物代謝において主要な役割を果たしている。CYPによる薬物代謝活性は個人差が大きく,その要因の一つはCYP の遺伝子多型である。CYP の遺伝子変異は基質となる薬物の代謝動態に影響し,個人間の薬剤に対する反応性や副反応の違いにつながる。サイクロフォスファミド(CPA)は肝のCYPによって4-ヒドロオキシサイクロフォスファミドに変換されることで抗腫瘍活性を発揮している。この代謝にはいくつかのCYP が関与しているが,なかでもCYP2B6 は中心的な役割を果たしている。CYP2B6 には多くの遺伝子多型が存在し,日本人と白人との間にもその遺伝学的背景に差が認められている。日本人に比較的よくみられる遺伝子多型であるCYP2B6*6 は,in vitro でCYP2B6 の発現やCPA に対する活性に影響することが示されている。悪性リンパ腫や乳がん患者に対するCPA 治療においてCYP2B6*6 のホモ接合体を有する患者はCPA に対する薬物代謝が亢進していると報告されている。また,増殖性ループス腎炎の患者に対するCPA のパルス治療においても,CYP2B6*5 のホモ接合体を有する患者は,腎障害を来す頻度が高いことも報告されている。また,in vitroの検討ではそれ以外の遺伝子変異でもCPAの代謝に影響があることが示されている。しかしながら,現時点でのCYP2B6 遺伝子多型に関する情報では,CPA 治療における有効性・安全性を予告するには至っていない。臨床での使用には,今後さらなる検討が期待される。 -
Oxaliplatinを用いた化学療法におけるGSTP1の塩基多型の関与
35巻7号(2008);View Description Hide Descriptionoxaliplatin は大腸癌化学療法における中心的薬剤であるが,感受性や副作用発現にかかわる因子については明らかにされていない部分が多い。GST(glutathione S-transferase)は細胞内の解毒にかかわる酵素の一群であり,GST-α,μ,π,θ,ζ の五つのクラスがある。そのうちのGST-πについては,プラチナ系薬剤やdoxorubicinの感受性や副作用と関係することが報告されていた。最近,GST-π をコードする遺伝子であるGSTP1 の一塩基多型がoxaliplatin の感受性や副作用と関係していることが指摘されている。 -
TrastuzumabとFcγ
35巻7号(2008);View Description Hide DescriptiontrastuzumabはHER2(human epidermal growth factor receptor 2)受容体に対するヒト化抗体で,ADCC(anitibodydependent cellular cytotoxicity)活性はその作用機序のなかで非常に重要である。エフェクター細胞のFcγ 受容体のサブタイプや遺伝子多型によって抗体のFc 部分に対する親和性が異なり,惹起されるADCC 活性にも差があることがtrastuzumabの抗腫瘍効果の差となって現れている可能性がある。これらの知見は今後の治療薬開発や治療効果予測の観点から重要と思われる。 -
フッ化ピリミジンと遺伝子多型
35巻7号(2008);View Description Hide Description5-fluorouracil(5-FU)をはじめとするフッ化ピリミジン系抗癌剤は生体内で代謝を受けて抗腫瘍効果を発揮する。本稿では,5-FU の効果や毒性と関連のある代謝・標的酵素の遺伝子多型について解説する。5-FU の標的酵素であるthymidylatesynthase(TS)の発現はエンハンサー領域に存在する28 bp の繰り返し配列の回数によって調節されており,2Rは3R に比べ有意にTS 活性が低く,臨床的に5-FUによる抗腫瘍効果も高い。また,この繰り返し配列内に存在する一塩基多型やLOH と5-FU による効果との関連も報告されている。さらに,3'-UTR に存在する6 bp の欠失が認められる症例では5-FU の抗腫瘍効果が高い。5-FU の分解酵素の遺伝子多型も5-FU の毒性に影響を及ぼすことが知られている。5-FU の最も主要な分解酵素であるdihydropyrimidine dehydrogenase(DPD)遺伝子にはこれまで39 か所の変異ないし多型が報告されている。なかでもIVS14+1G>Aの存在する症例ではDPD 活性の低下により5-FU 投与後重篤な毒性が出現することが報告されている。葉酸プールの調節により5-FU の抗腫瘍効果に影響を与える可能性のあるものとしてmethylenetetrahydrofolate reductase(MTHFR)の遺伝子多型があげられる。C677Tの変異の存在する症例では5-FU/folinic acid の化学療法による抗腫瘍効果が高いことが報告されている。今後は前向きな臨床試験により,5-FU の抗腫瘍効果ならびに毒性を予測可能な遺伝子多型を検証することが重要である。
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Current Organ Topics:頭頸部癌
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原著
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進行非小細胞肺癌に対するCarboplatin+Paclitaxel後Gemcitabine療法とCarboplatin+Gemcitabine後Docetaxel療法の無作為第 II 相試験
35巻7号(2008);View Description Hide Description目的:外来で実施可能で副作用が軽微な進行非小細胞肺癌の治療法を検討するため,carboplatin(CBDCA)+paclitaxel(PTX)後gemcitabine(GEM)(CP 群)およびCBDCA+GEM後docetaxel(DOC)(CG 群)の無作為第 II 相試験を行った。方法: CP 群(n=25): CBDCA AUC 6 day 1,PTX 70 mg/m2 day 1,8,15 に4 週間隔で投与。second-lineはGEM 1.0 g/m2 day 1,8,15 に4 週間隔で投与。CG 群(n=26): CBDCA AUC 2,GEM 0.8 g/m2 day 1,8 に3 週間隔で投与。second-lineはDOC 60 g/m2 day 1 に3 週間隔で投与。結果: first-lineの奏効率はCP 群18.0%,CG 群21.7%,second-lineは各10.0,14.3%。first-lineの無増悪期間中央値は4.0,4.3 か月,second-lineは2.1,2.8 か月。生存期間中央値は10.9,10.3 か月。すべて両群間に有意差はなかった。両群とも血液毒性は軽度で末梢神経障害はCP 群でも認めなかった。結論:CBDCA+PTX 後GEM,CBDCA+GEM後DOC は忍容性が高く,効果に有意差を認めなかった。本試験の投与法は末梢神経障害が少なく,血液毒性が軽微であり外来で積極的に選択し得ると思われた。 -
切除不能肝転移を伴う進行再発大腸癌症例に対する l-Leucovorin併用5-FU 肝動注化学療法の検討
35巻7号(2008);View Description Hide Descriptionはじめに:切除不能肝転移を伴う大腸癌症例に対するl-leucovorin(l-LV)併用5-FU肝動注化学療法の成績につき検討した。対象と方法: 2004年6月〜2006年12月にl-LV 併用5-FU 肝動注化学療法を施行した,切除不能肝転移を伴う再発大腸癌症例15 例を対象とした。初回治療例 7例(A群),既治療抵抗例8 例であった(B群)。肝転移巣に対する奏効率,肝転移巣の無増悪期間,生存期間および有害事象を,同時期に全身化学療法を施行した切除不能肝転移を伴う再発大腸癌症例39 例(初回治療例18 例(C群),既治療抵抗例21 例(D群))と比較検討した。結果:奏効率はA群85.7%,B群35.7%,C 群50.0%,D 群4.8%であった。肝転移巣の無増悪期間中央値はA群12.5 か月,B 群4.7 か月,C 群5.8 か月,D群2.3か月とA 群はC 群に比し,B 群はD 群に比し有意に良好であった。生存期間中央値はA群15.4 か月,B 群9.1 か月,C群11.3か月,D 群8.0か月とA群,C 群間に生存期間の有意差は認められなかったが,B 群の生存期間はD群に比し有意に良好であった。A,B 群においてgrade 3 以上の非血液毒性は認められなかった。まとめ: l-LV 併用5-FU 肝動注化学療法は全身化学療法に比し,肝転移巣のコントロールに優れ,既治療抵抗例では生存期間を延長した。 -
S-1/Cisplatin投与胃癌症例におけるOrotate Phosphoribosyltransferase(OPRT)値の予後予測因子としての意義
35巻7号(2008);View Description Hide DescriptionS-1 による術前化学療法,術後補助化学療法を施行した胃癌切除症例67 例を対象に胃癌組織中のorotate phosphoribosyltransferase(OPRT)値の予後予測因子としての臨床的意義について多変量解析を用い,その重みについて検討した。OPRT 値のカットオフ値を0.5〜10 ng/mg protein の範囲で高値群,低値群の2 群に分けKaplan-Meier 法を用いて両群の累積生存率を算出した結果,OPRT値のカットオフ値が2.0 ng/mg proteinの場合に両群間の累積生存率の差の有意差検定のp値はp=0.0018と最低値を示した。したがって,OPRT 値のカットオフ値を2.0 ng/mg proteinとして高値群(H群),低値群(L 群)に分け,H 群,L 群における累積生存率は1 年生存率83.5,70.7%,2 年生存率67.5,42.4%,3 年生存率60.0,0%であった。化学療法非施行例では両群の予後に差を認めなかったが,化学療法施行例(n=67)のL群(n=15)における累積生存率はH 群(n=52)に比較して有意に不良であった(p<0.05 by logrank test)。またstage別で,StageII,III にてL 群の予後はそれぞれ有意に不良であった。各臨床病理学的因子とOPRT 値について,Cox比例ハザードモデルを用いた多変量解析にて検討した結果,v2 以上,リンパ節転移5 個以上OPRT 値2.0以下が有意な予後因子であり,胃癌組織中におけるOPRT 値はS-1による化学療法施行例の有用な予後予測因子と考えられた。 -
口腔癌の化学・放射線療法による口腔粘膜炎に対するRebamipide含嗽液の使用経験
35巻7号(2008);View Description Hide Description口腔粘膜炎は口腔癌の化学・放射線療法中の重篤な副作用の一つである。この口腔粘膜炎は,この療法中に産生されるフリーラジカル(活性酸素)によって引き起こされる。rebamipide は活性酸素除去作用やプロスタグランディン産生誘導による潰瘍治癒促進などの多様な組織保護作用を有している。今回われわれは,化学・放射線療法により出現する口腔粘膜炎に対するrebamipide含嗽液の使用経験を報告する。本検討は13 名の口腔癌患者(男性7 名,女性6 名,年齢53〜88歳)に対して行った。30〜60 Gyの放射線照射と化学療法を併用(docetaxel: 11 例,UFT: 1 例,放射線療法単独: 1 例)し,この間1%のrebamipide含嗽液による含嗽を励行させた。WHO の副作用判定基準に基づき9 例がgrade 1,2 の副作用,4 例がgrade 3,4 の副作用と判定され,照射線量が増加しても口腔粘膜炎は重症化しなかった。この結果から,化学・放射線療法により出現する口腔粘膜炎に対するrebamipide含嗽液の有効性が示唆された。 -
Vinorelbine Bolus投与法による静脈炎の予防効果—非小細胞肺癌と乳癌における後方視的検討—
35巻7号(2008);View Description Hide Descriptionvinorelbine(VNR)は非小細胞肺癌と手術不能または再発乳癌に適応を有するビンカアルカロイド系抗がん剤である。静脈炎を起こしやすい薬剤として知られており,当センターでも特に乳癌患者にこの副作用が続出した。そこで,従来行っていた5 分間の急速点滴静注法から1〜2 分のbolus 投与法に切り替え,静脈炎の予防効果をレトロスペクティブに検討した。対象は肺癌58 症例(点滴静注18 例,bolus法40 例)と乳癌51 症例(点滴静注13 例,bolus法38 例)である。それぞれの疾患における静脈炎の発生率は,肺癌で点滴静注の4 例(22.2%)からbolus法の0 例(0%)に,乳癌では点滴静注の6例(46.2%)からbolus法の3例(7.9%)に減少した(それぞれp<0.0006,p<0.0001)。肺癌,乳癌を合わせた総投与回数で比較した場合,点滴静注の195件中10 件(5.1%)に静脈炎が発症したのに対し,bolus法では531件中3 件(0.6%)のみにとどまった。以上より,VNRのbolus 投与法は,肺癌のみならず乳癌においても静脈炎の予防に有効であった。総投与時間も短く,安全性と快適性が求められる通院化学療法に適した方法といえる。 -
婦人科癌化学療法時の悪心・嘔吐に対するインジセトロン塩酸塩の有効性および安全性
35巻7号(2008);View Description Hide Description新しい5-HT3受容体拮抗型制吐剤であるインジセトロン塩酸塩(シンセロンR錠8mg)のタキサン,プラチナ併用化学療法時の有効性,安全性を検討する多施設共同第II相試験を行った。対象はパクリタキセルもしくはドセタキセルとカルボプラチン併用化学療法を行う婦人科悪性腫瘍患者46 名で,抗癌剤投与開始前30 分にシンセロンR錠8 mg を1 回経口投与し,以後24 時間の悪心・嘔吐回数を6 時間ごとに調査した。主要評価項目として,悪心・嘔吐の発現しなかった症例の割合を完全悪心,嘔吐抑制率として算出した。シンセロンR錠8 mg の予防的投与により,治療開始後24 時間の完全嘔吐抑制率は89.1%,完全悪心抑制率は71.7%と良好な結果であり,重篤な副作用は認められず,本薬剤のタキサン,プラチナ併用化学療法時の悪心嘔吐に対する有効性,安全性が示された。 -
一般病院における大腸がん化学療法mFOLFOX6による治療の現状および施設間格差の検討
35巻7号(2008);View Description Hide Description一般病院である市立堺病院(A病院)および宝塚市立病院(B病院)におけるmFOLFOX6療法の現状および施設間格差をレトロスペクティブに比較した。調査期間は2005 年4 月〜2006年11 月とした。対象患者はA 病院およびB 病院でそれぞれ33 名および17 名であった。骨髄抑制および末梢神経障害はそれぞれ,Common Terminology Criteria for Adverse Events v 3.0(CTCAE v 3.0)およびNeurotoxicity Criteria of DEBIOPHARM(DEB-NTC)により評価した。まず,両施設において,投与量の設定が異なっていた。A病院においてはoxaliplatin,5-FU 急速静注および5-FU 持続点滴の投与量は標準投与量の90%以上,副作用発現時にはこれらの用量が同程度減量されていた。一方,B 病院では初回および最終投与時における抗がん剤の減量率は抗がん剤間で異なっており,特に5-FU 急速静注における減量が顕著であった。有害事象のうちgrade 3 以上の好中球減少は,A 病院およびB 病院でそれぞれ21.2%および47.1%であった。1 施設においてgrade 3 以上の好中球減少が顕著であった。末梢神経障害は,両施設において顕著な相違は認められなかった。今回の結果から,抗がん剤の投与量設定および骨髄抑制について施設間に相違がみられたが,非血液毒性についてはみられなかった。
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症例
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Third-Line以降の化学療法としてS-1単剤治療および他剤使用後のS-1再投与が奏効した再発肺扁平上皮癌の1 例
35巻7号(2008);View Description Hide Description症例: 72歳,男性。肺扁平上皮癌の再発症例。carboplatin+paclitaxel(CBDCA+PTX)およびdocetaxel(DOC)の化学療法治療歴あり。third-line 化学療法としてS-1 100 mg/day,4 週投薬2 週休薬のスケジュールによる治療を行った。S-1 開始後3.5 か月で最大の効果が得られ,PR となった。再び腫瘍増大がみられたためS-1 を中止し,gemcitabine+vinorelbine(GEM+VNR)およびgefitinib による化学療法を行ったが効果を認めず。腫瘍はしだいに増大し,右完全無気肺に至った。患者同意の下,S-1 の再投与を行い腫瘍は縮小傾向にあり,無気肺は改善した。現在も患者はS-1 単剤にて化学療法を継続中である。 -
S-1+CDDP+CPT-11投与により穿孔を来し胃全摘術および術後S-1投与により長期生存中の進行胃癌の1 例
35巻7号(2008);View Description Hide Description症例は74 歳,男性。2004 年6 月に体重減少,食思不振が出現したため腹部エコーとCT を施行。傍大動脈リンパ節腫大と胃壁不整を認めたため上部消化管内視鏡検査を施行したが,胃内に腫瘤を認め病理組織検査にて低分化型腺癌の診断となった。リンパ節転移を伴う進行胃癌であったが,PS 良好にて外来でS-1+CDDP+CPT-11 による化学療法を行うこととした。1 コース終了後に激しい腹痛が生じ,上部内視鏡にて胃癌の著明な縮小,穿孔が認められたため胃全摘術を施行。病理組織検査上,摘出検体と郭清リンパ節から悪性細胞は認められなかった。術後のCT で肝門部リンパ節の腫大を認めたためリンパ節転移残存と考え,外来にてS-1の投与を継続した。現在術後40 か月で,CT 上リンパ節腫大は消失し全身状態も良好なまま経過している。 -
S-1/CDDP によりPathological CR を得た高齢者局所進行胃癌の1 例
35巻7号(2008);View Description Hide Description症例は77 歳,女性。噴門から体中部の大弯後壁中心の3 型進行癌の術前診断で開腹したが,横行結腸間膜と膵に広汎な直接浸潤を認めた。高齢,全身状態不良で根治手術には耐えられないとの判断から,S-1/CDDP 併用による化学療法を行う方針とした。レジメンはS-1 80 mg/day を3 週間投与,day 8 にCDDP 75 mg/body の点滴静注を行ったがgrade 2 の悪心,食欲不振を認めたため,2 週間の休薬後,S-1 80 mg/day を2 週間投与2 週間休薬を1 コースとしてS-1 単独療法を9コース行った。全10 コース後,内視鏡的に著明な縮小を示し,単開腹術10 か月後にD2 郭清を伴う胃全摘膵体尾部脾合併切除術を行った。病理検査では,組織学的効果判定Grade 3 との結果であった。S-1/CDDP 併用療法は高度進行胃癌に対する有用な治療であると思われた。 -
Tailored S-1/CPT-11併用療法が奏効した肝転移・腹膜播種を伴うStageIV胃癌の1 例
35巻7号(2008);View Description Hide Description症例は75 歳の男性。胃前庭部の3 型胃癌で幽門側胃切除術,D1 リンパ節郭清を施行した。病理組織学的診断は,低分化腺癌,StageIV(T3N3P1CY1M1)でCur C であった。術後第24 日目にS-1 100 mg/bodyを開始したが,食欲不振(grade3)が出現し継続できなかった。術後2 か月後の腹部CT 検査で,多発肝転移巣,腹水を認めた。再入院しS-1 80 mg/body(5 日間投与2 日間休薬で2 週間内服投与9 日間休薬),CPT-11 60 mg/body(day 1,8)の静脈内投与とし2 週間休薬した。5 コース終了後,腹部CT で,肝転移,腹水は消失しcomplete response(CR)と診断した。本治療による有害事象は,grade1 の倦怠感のみであった。以後S-1のみ投与し,12 か月間CR を継続中である。tailored S-1/CPT-11併用療法は,推奨投与量のS-1の継続した内服投与が困難な進行・再発胃癌症例に対して有効な治療法の一つになり得ると考えられた。 -
隔週Paclitaxel+S-1併用療法にて長期の完全寛解が得られた肝転移陽性胃癌の1 例
35巻7号(2008);View Description Hide Description症例は46 歳の女性。心窩部痛を主訴に近医を受診し,胃上部に2 型の腫瘍を指摘された。腹部CT 検査にて肝両葉に多発肝転移を認めたため根治切除不能と判断し,隔週paclitaxel(PTX)+S-1 併用療法を開始した。3 コース終了後に施行したCT 検査にて肝転移は著明に縮小,胃内視鏡上も原発巣は著明に縮小し,生検で癌陰性となった。5 コース終了後,PTX によるgrade 2 のしびれがありPTX の投与を中止し,S-1 単剤にて治療を継続した。治療開始後5 年を経過し,造影MRI 検査にて肝転移の消失と診断された。現在S-1 を継続内服中であるが,腫瘍の増大は認めていない。 -
S-1によりDIC から離脱し得た胃癌術後播種性骨髄癌症の1 例
35巻7号(2008);View Description Hide Description胃癌の骨髄転移による播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation: DIC)は発症と進行が急激であり,極めて予後不良である。また,発症時すでに全身状態が不良のことが多く,palliative care を選択されることが多い。症例は70 歳の女性で,5 年前にスキルス胃癌にて胃全摘術を施行された。最近になり,歯肉出血を自覚し紹介となった。精査の結果,胃癌術後の播種性骨髄癌症であり,それに起因するDICを引き起こしていた。血小板,新鮮凍結血漿などの輸血にて一時的な止血効果を得た後,S-1 を投与しDIC から離脱し得た。S-1 治療は内服薬であり,外来化学療法への移行のしやすさから有効な治療と考えられた。 -
UFT/Leucovorin内服療法が著効した大腸癌術後肺転移の1 例
35巻7号(2008);View Description Hide Description症例 78 歳,男性。S状結腸癌に対しS 状結腸切除術を施行。se,p1(+),n1,Stage IVであった。UFT内服を行っていたが,術後1 年6 か月後にS-1 内服に変更した。その3 か月後の胸部CT で肺右S10a とS5bにそれぞれ2.0×1.5 cm,0.6×0.6 cm の肺転移を認めた。切除を希望しなかったため,UFT/Leucovorin(LV)内服療法(UFT 300 mg/LV 75 mg,4 週間投与1 週間休薬)に再変更した。2コース終了後の胸部CT では2 か所の肺転移は消失しており,CR と判定した。UFT/LV 内服療法は内服ということで利便性に優れている。副作用は少なく,治療効果は静注の5-FU/LV 療法と同等との報告もある。本症例でも副作用は認められなかった。UFT/LV 内服療法開始31 か月後他病死するまでCRを維持した。 -
直腸癌術後の多発性肺転移,臀部局所再発に対しmFOLFOX 6,FOLFIRI 2化学療法,臀部局所外科切除および局所放射線照射が奏効した1 例
35巻7号(2008);View Description Hide Description症例は61 歳,男性。2005 年4 月,Rb の直腸癌で直腸切断術を施行した。術後にUFT-E 顆粒を投与していたが,2006 年4 月より臀部疼痛が出現しCEA の軽度上昇を認め,PET 検査で多発性肺転移病変および臀部局所再発を認めた。7月よりmFOLFOX 6 を8 コース投与後,FOLFIRI 2 へ変更し,4 コース投与した。多発性肺病変は縮小したが,12 月のCEAは著明に上昇,発熱が持続し,臀部の腫瘤は増大した。2007 年1 月臀部腫瘤を外科的に切除したが,その後も臀部痛と臀部創から滲出液が持続した。2007 年3 月より臀部および骨盤腔内への放射線照射を追加した。FOLFIRI 2 を計12 コースまで投与した。同年5 月のCEAは著明に低下し,PET検査では肺転移病変は指摘困難となり肛門管領域に集積が残存するのみであった。現在,月1 回のFOLFIRI 2 を継続中であり,2007 年7 月よりCEA 値は正常となり,QOL も良好に維持されている。 -
維持透析患者における直腸癌の多発性肝転移に対し5-FU/l-LV 療法が奏効した1 例
35巻7号(2008);View Description Hide Description進行・転移性大腸癌に対する化学療法はFOLFOX 療法とFOLFIRI 療法にほぼ標準化されつつあるが,その一方で維持透析患者に対する癌化学療法はその適応が難しく,使用できる薬剤も限られている。症例は維持透析中の57 歳,男性。多発性肝転移を契機として発見された直腸癌に対し直腸高位前方切除術を行い,その後5-FU/l-LV 療法を施行した。3コース終了時点で肝転移巣数の著減(PR)と腹水も消失し(CR),腫瘍マーカーもCEA 837 ng/mL → 29 ng/mL,CA19-9 79.6 U/mL → 14.2 U/mL,CA72-4 33.3 U/mL → 7.4 U/mL と減少した(SD)。総合効果PR が得られた。RPMI 法による5-FU/l-LV 療法を用いたが,grade 2 の下痢と手足症候群を認めた以外は重篤な副作用を認めることなく,安全に施行し得た。 -
S-1投与が著効を示した腹膜播種,肝転移を伴うS 状結腸癌の1 例
35巻7号(2008);View Description Hide Description症例は73 歳,男性。2004 年10 月にS 状結腸癌,腹膜播種,肝転移の診断で切除不能と判断し,ileostomy を造設した。術後S-1内服(S-1 80 mg/dayを4 週投与2 週休薬で4 コース施行)により原病巣の縮小,腹膜播種,肝転移の画像上消失を認めた。本人のストーマに対する受け入れが悪く2005 年5 月に原病巣切除,ストーマ閉鎖を行った。術後1 年で原癌死するまでの間ストーマのない生活を送ることが可能であった。S-1 は患者のQOL を損なうことが少なく,外来で用いることのできる経口抗癌剤であり,結腸癌に対する有効なレジメンの一つとなり得ることが示唆された。 -
上行結腸癌の原発巣切除後,同時性肝転移に対しホリナート・テガフール・ウラシル療法が著効した1例
35巻7号(2008);View Description Hide Description症例は肝転移を伴う上行結腸癌の81 歳,女性。結腸右半切除術を施行後,肝転移巣に対しては,高齢のため家族が肝切除を希望せず,ホリナート・テガフール・ウラシル(UFT/Leucovorin(LV))療法を施行。早期より著効を示して暫時縮小し,治療を開始してから2 年9か月後にはSPIO-MRI上complete response(CR)となった。UFT/ LV 療法は有害事象も比較的少なく,進行大腸癌に対する化学療法の第一選択の一つとなり得ると思われた。 -
肝門部胆管癌術後腹腔内再発に対しCDDP 腹腔内投与およびGemcitabine,Docetaxel全身化学療法が著効した1 例
35巻7号(2008);View Description Hide Description症例は72 歳,男性。肝門部胆管癌にて肝左葉切除D2(病期IIA)の治癒切除3 年2か月後,直腸腫瘍にて入院。再手術にて多数の腹膜播種を認め,胆管癌再発による直腸狭窄と診断。腹腔内にCDDP を散布し,化学療法目的のポートを留置した。外来化学療法でgemcitabine を静脈内投与,CDDP を腹腔内投与するレジメで32 クール(24 か月)施行した。その後gemcitabine をdocetaxel に変更し23 クール(18 か月)投与した。総投与量は,gemcitabine 28.0 g,CDDP 12.2 g,docetaxel 920 mg であった。CA19-9の上昇が認められたため,現在はS-1 およびdocetaxel(ip)を投与中である。再発後3 年7 か月を経過しPS の変化はなく良好な社会生活を送っている。腹膜再発は予後不良で治療に難渋するが,多剤を併用した腹腔内ポートによるCDDP 注入は重篤な副作用もなく有効な治療法の一つであると思われる。 -
胆管癌非治癒切除後にGemcitabineを投与し遺残腫瘍の消失を得た1 例
35巻7号(2008);View Description Hide Description胆管癌非治癒切除例に対してgemcitabine(GEM)を投与し,遺残腫瘍の消失を認めた1 例を経験した。症例は77歳,男性。中部胆管癌に対してD2 郭清を伴う肝外胆管切除術を施行したが,術中迅速病理診断で十二指腸側断端が陽性となった。術前の説明で膵頭十二指腸切除術の同意を得られなかったため,根治切除を断念した。術後第7 病日からGEM 1,200 mg/bodyによる全身化学療法を開始,2コース終了後のCTでは遺残腫瘍を認めたが,10コース終了後から腫瘍は不明瞭化し,術後28 か月のCTで遺残腫瘍消失と診断した。現在もGEM投与を継続しているが腫瘍の再燃はなく,この間,有害事象はgrade 1 の白血球減少のみで重篤なものは認めていない。 -
進行膵癌に対するS-1/Gemcitabine併用療法の有用性
35巻7号(2008);View Description Hide Description進行膵癌患者に対しS-1とgemcitabine(GEM)との併用化学療法を行い,良好な成績が得られたので報告する。症例は77歳(Stage IVa),68 歳(Stage IVb),64 歳(Stage IVb)の男性患者。S-1 80〜100 mg/day を2 週間投与,その間8日目と15日目にGEM 1,000〜1,200 mg/body を投与し,2 週間休薬を1 コースとして繰り返し行った。それぞれ診断後1年5か月,1 年3 か月,9 か月を経過しているが,Stage IVa の症例では原発巣は縮小傾向を認め他臓器転移もみられず,Stage IVb の2 例は原発巣,肝転移巣ともに著明に縮小した状態が続いている。いずれもQOL は良好である。われわれの S-1/GEM併用療法は副作用が少なく,外来長期投与が可能である。また腫瘍マーカーの推移からみた腫瘍抑制効果は強く,その効果は長期投与可能なことにより持続すると考えられる。S-1/GEM 併用療法は,進行膵癌に対する第一選択の化学療法として期待される。 -
S-1/Gemcitabine併用療法が奏効した進行膵癌の1 例
35巻7号(2008);View Description Hide Description症例は71 歳,女性。2007 年3 月より腹痛が出現。当院内科を受診し経過をみていたが,症状が改善せず当科外来を受診。精査の結果,膵頭部腫瘍,多発性肝腫瘍を指摘され,化学療法を目的に当科入院となった。入院後よりS-1/gemcitabine併用療法を施行した。指標としては腫瘍マーカー,腹部CT 検査を用いともに効果が認められた。全治療期間中にgrade 3 以上の有害事象は認めなかった。外来治療も可能でありQOLも良好に得られた。 -
CPT-11およびCDDP 併用維持療法中に脳転移を起こした卵巣明細胞腺癌(Ovarian Clear-Cell Carcinoma)の1 例
35巻7号(2008);View Description Hide Description症例は57 歳,女性。卵巣癌の診断で準広汎子宮全摘術,両側付属器切除術,骨盤リンパ節郭清術,大網部分切除術および直腸表面の腫瘤切除を施行した。術後病理診断で卵巣明細胞腺癌IIIb 期の下,術後導入・維持療法としてirinotecan(CPT- 11)とcisplatin(CDDP)の併用療法を施行した。投与方法はCPT-11,CDDP とも60 mg/m2としCPT-11をday 1,15 にCDDP をday 1 に投与し,休薬期間を設け周期的に行った。局所再発が多いといわれる明細胞腺癌では珍しく,術後約4 年後に初めて脳転移を認めたがCPT-11,CDDP の併用療法は卵巣明細胞腺癌の予後を考えると有用な術後導入・維持療法であると思われた。また,長期にわたる維持療法では脳転移のチェックが必要であると考えられた。 -
Docetaxel+Zoledronic Acid 療法によりPSA 値が低下したホルモン・Docetaxel抵抗性前立腺癌の1 例
35巻7号(2008);View Description Hide Description症例は63 歳,前立腺全摘術後に再発,骨転移出現,ホルモン抵抗性前立腺癌と診断。その後docetaxel療法にてPSA値が低下するも徐々に上昇し,ホルモンおよびdocetaxel 療法抵抗性の前立腺癌骨転移と診断。docetaxel+zoledronic acid療法を開始したところPSA 値の低下を認めた。zoledronic acid は前立腺癌骨転移症例に対し,SRE の予防のみならず治療にも効果がある可能性がある。
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Journal Club
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用語解説
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ヘテロクロマチン(heterochromatin)、アペリン(Apelin)、短鎖干渉RNA(siRNA)
35巻7号(2008);View Description Hide Description
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