癌と化学療法
Volume 35, Issue 8, 2008
Volumes & issues:
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総説
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乳癌と分子マーカー
35巻8号(2008);View Description Hide Description乳癌の分子マーカーは長年研究され,その一部は予後予測や治療選択に用いられてきた。現在,ホルモン受容体陽性早期乳癌の予後を予測し,術後補助療法の治療方針を決定し得る新しい分子マーカーの開発が期待されている。最近の乳癌の分子マーカーの研究の進歩により,米国臨床腫瘍学会(ASCO)は2007 年に乳癌における腫瘍マーカーのClinical Practice Guidelines を改訂した。この改訂では,新たに六つのカテゴリーが追加されたが,そのなかで遺伝子発現解析は注目されている。この総説では,ASCOの改訂ガイドラインの概略と,二つの革新的な遺伝子発現解析法について最近の知見をまとめる。
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特集
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- がん分子イメージングの新展開
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分子マーカーを標的とするIn Vivoイメージング法の開発
35巻8号(2008);View Description Hide Description分子イメージングは生体内の分子や細胞の機能を画像としてとらえる。腫瘍診断における分子イメージングでは,その特徴を生かし,治療効果のモニタリング,治療効果の予測などを通して,より治療に貢献する情報を提供すべく開発が進められている。分子イメージング法の開発においては,ターゲットの選択,イメージングプローブのデザインと合成,in vivoにおける検証が重要である。いかにターゲットを選択し,それに対するイメージングプローブをデザインするかについて概説し,また,細胞増殖を標的とするFLT,低酸素を標的とするCu-ATSM,血管新生を標的とするRGD ペプチド,受容体プロテインキナーゼを標的とするキナーゼ阻害剤や抗体を用いるイメージング法について解説を加えた。 -
がんのin vivoイメージングに向けた蛍光プローブの開発
35巻8号(2008);View Description Hide Description蛍光は,PETやMRI,CTと比較して感度や形態描出力では劣るものの,安全性,簡便性,経済性,迅速性に優れ,何より同時に複数のプローブからの情報を入手できるという多様性を特徴とする。そのため,機能情報イメージングのための次世代モダリティとして期待が高まっている。これまで,低い組織透過性や分散性,さらには自家蛍光の問題から,光は生体イメージングへの応用が遅れていた。しかし近年,高感度CCD カメラの開発や光の分散を補正するソフトウェアの開発などが進み,小動物においては生体イメージングの進歩は著しい。また,より組織透過性が高い近赤外蛍光色素を利用することで,蛍光を用いたプローブ開発も急速に進んでいる。今後光イメージングはその特性を生かして,単独で,また他のモダリティと融合した形で臨床応用が進んでいくと期待される。本稿では,最近の光イメージングプローブに関する知見と,われわれが行っている腫瘍の悪性度と関連の深い腫瘍内低酸素領域を可視化する近赤外蛍光プローブ開発研究を紹介する。 -
がん分子イメージングの新展開
35巻8号(2008);View Description Hide Description現在様々な機能をもつナノ粒子が作製されつつあり,その多くは医療応用が期待されている。われわれはナノ粒子を利用した分子イメージングに取り組み,蛍光ナノ粒子に抗体治療薬を結合させることにより抗体治療薬であるtrastuzumabの体内動態を検出することに成功した。従来1 分子レベルでin vivo 計測できた例はなく,高感度な計測システムを併用することでこれまでにない,薬物のDDS を計測する手法が確立されつつある。今後,この手法により新たなDDS が開発されることが期待される。 -
ポジトロン断層法(PET)によるがんの生物特性イメージング
35巻8号(2008);View Description Hide DescriptionPET によるがんの診断では,一般に増殖能の指標となる糖,アミノ酸,核酸などの標識化合物が用いられる。18F-FDGはその代表的な標識化合物である。一方,がん細胞のもつ特異的生物学的特性,たとえば特異的形質発現(蛋白,mRNA),転移・浸潤能,低酸素細胞の存在などを指標とする診断の方向性がある。後者に属するポジトロン標識化合物として東北大学で開発された,18F-fluorodeoxygalactose(18F- FDGal),18F-SAV03M,18F-FRP170 がある。18F-FDGalは肝に特異的なガラクトース代謝酵素で代謝されて組織に取り込まれるが,肝細胞由来の高分化型肝細胞がんはガラクトース代謝活性を維持しているためHCC に高集積を示す。18F-SAV03M はmatrix metalloproteinase-2 の活性を反映する化合物で,がんの浸潤能や転移能を画像化するために開発された。18F-FRP170 は放射線・化学療法抵抗性の原因となる低酸素細胞の可視化を目的として開発された。さらに,PET によるがん分子イメージングの新たな方向性として,導入された遺伝子の発現の可視化,アンチセンスオリゴヌクレオチドによるmRNA 発現の可視化,アプタマーによる特異的蛋白発現の可視化についても紹介する。 -
腫瘍分子イメージングプローブの開発
35巻8号(2008);View Description Hide Description腫瘍のPET イメージングを目的に開発され臨床利用されている分子プローブについてレビューする。現在腫瘍診断においては18F-標識FDGは最も有用とされているが,脳腫瘍や炎症部位では使用が制限され万能ではない。FDGを補完するプローブとして,アミノ酸輸送と蛋白合成,DNA合成,膜脂質合成,低酸素細胞などで代謝を反映させた分子プローブ,FET,FLT,FMAU,フルオロコリン,FMISOなどについて,われわれが開発した独自のプローブであるFMTとFRP-170を交えて紹介する。
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Current Organ Topics:肺癌
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I.肺癌診療におけるコンベックス走査式超音波気管支鏡ガイド下針生検(EBUS- TBNA)—肺門・縦隔リンパ節転移診断,さらに治療への今後の展望—
35巻8号(2008);View Description Hide Description -
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原著
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再発頭頸部扁平上皮癌に対するDocetaxel・Irinotecan療法の試み
35巻8号(2008);View Description Hide Description頭頸部扁平上皮癌に対する標準的化学療法は,5-fluorouracilとcisplatin製剤の併用(以下CF)であるが,CF が使用不能,無効の場合やCF 使用後の再発に対して使用する化学療法は確立されていない。今回われわれは,このような症例18例にdocetaxel(TXT)とirinotecan(CPT-11)を併用(TXT・CPT)した。投与法はTXT(50〜60 mg/m2,day 1),CPT-11(60〜90 mg/m2,day 1,8,15)を基本としたが,症例により変更した。白血球数減少は比較的強く,13 例(72.2%)でgrade 3 以上であり,1例は腫瘍崩壊による頸動脈出血で死亡されたが,それ以外の副作用は重篤ではなかった。腫瘍縮小効果の評価可能症例は17 例で,complete response(CR)は2 例(11.8%),partial response(PR)は6 例(35.3%)で奏効率は47.1%であった。TXTがすでに投与されていた例は4 例あったが,PR 1 例,progressive disease(PD)3 例であった。TXT・CPT は再発頭頸部扁平上皮癌に対するsecond-lineの化学療法として有用である可能性が示唆された。 -
再発・進行乳癌におけるCapecitabineの有用性およびポジショニングの検討
35巻8号(2008);View Description Hide Description再発・進行乳癌に対するcapecitabine の治療効果について検討した。対象は2003 年11 月〜2007 年7 月までに経験したanthracycline およびtaxane を含む治療歴を有する再発例18 症例である。再発部位の内訳は,肝転移7 例,骨転移6例,肺転移5 例であった。これら18 症例に対し投与を行った結果,治療効果はPR 4 例,long SD 6例,SD 3 例,PD 5 例で,奏効率は22%であり,clinical benefitは56%であった。再発部位別には肝転移症例3 例に著効を認めた(いずれもPR)。投与時期別の検討ではthird-,fourth-line での投与に比べ,second-line での奏効率が高かった。有害事象は手足症候群を4例(25%)に認めた。投与中止となった症例は悪心・嘔吐による1 例のみであった。治療抵抗性の再発乳癌に対する治療としてcapecitabineはup frontでの治療の一つを担うものとして期待される。 -
Survivin活性の乳がんに対する術前化学療法の効果予測因子としての検討
35巻8号(2008);View Description Hide Description2005年1 月より2006年1 月まで,当科で術前化学療法としてTE regimen(EPI 60 mg/ m2,iv,day 1,TXL 175 mg/m2,iv,day 2,3 週を1 クールとする)4 cycles の投与を行った76 例の局所進行乳がん患者を対象に,腫瘍内のsurvivin 活性の抗腫瘍効果予測因子としての意義について検討した。全例が女性で,本regimen を4 cycles 投与した76 例の局所進行乳がん患者では,19 例にcCR,36 例にcPR,21 例にNC が認められ,そのなかで9 例はpCR であった。総奏効率は72%(55/76)であった。術前化学療法前にcore needle biopsy(CNB)で取った腫瘍組織内のsurvivin の発現をSDS-PAGE,western-immunoblotting ならびにimmunohistochemistry 法で調べた結果,全例においてsurvivin の発現がみられた。その発現の強弱と抗腫瘍効果(腫瘍縮小: down staging)に強い逆相関がみられ,survivin の発現が弱いほど腫瘍縮小(down staging)効果が高くなる傾向がみられた。pCR が得られた9 例中1 例のみにsurvivin の発現が強かった。apoptosis index(AI)はsurvivinの強く発現した例に比べてsurvivinの弱く発現した例で高値を示した。以上より,腫瘍内のsurvivin活性は局所進行乳がんにおいて,TE regimen による術前化学療法の抗腫瘍効果を左右する重要な因子であり,術前化学療法を施行する前に抗腫瘍効果を予測できる因子の一つとなり得ると考えられる。 -
下部進行直腸癌における術前放射線化学療法の試み
35巻8号(2008);View Description Hide Description下部進行直腸癌14 例に術前放射線化学療法(全骨盤腔に30 Gyの照射とtegafur 300 mg/日相当の内服)を施行した。占拠部位はRaRb: 5 例,RbRa: 2 例,Rb: 3 例,RbP: 4 例,腫瘍長径は1.8〜7.0 cm,リンパ節転移はcN0: 8 例,cN1: 5 例,cN3: 1 例であった。原発巣への直接効果はPR: 9 例,SD: 5 例で腫瘍肛門側から肛門縁までの距離は7例で平均 0.81cm延長した。病理学的な原発巣への効果は Grade0: 9例,Grade 1: 5 例であった。本療法は括約筋温存率の増加と自律神経障害の低さの面からは有用であるが,より適切な照射線量,化学療法,至適リンパ節郭清域について検討中である。 -
FOLFIRI 療法の副作用調査に基づいた患者向け説明書の作成
35巻8号(2008);View Description Hide Description2005 年9 月〜2006 年8 月までにFOLFIRI 療法を導入した患者67 名を対象として,発現した副作用と治療が中止となった理由を検討した。早期に発現する有害事象は,嘔吐20.9%,食欲不振53.7%,便秘14.9%,下痢23.9%であった。また,コリン作動性症状が25.3%に認められた。慢性的な有害事象は血液毒性が72.0%(grade 3 以上24.0%)と多く,そのうち32%の患者で治療延期が行われていた。脱毛は71.6%に認められた。調査結果から血液毒性による感染を予防するため,および消化器毒性の発現時期やirinotecanに起因する症状の予防および軽減を図るための患者向け説明書を作成した。 -
早期胃癌術後の二次癌発生について—二次癌発生に術後経口抗癌剤投与は関連があるか?—
35巻8号(2008);View Description Hide Description早期胃癌術後死亡の原因は他病死と二次癌(異時性重複癌)であり,再発は少ない。抗癌剤による二次癌発生の要因を検討するため,術後化学療法としてフッ化ピリミジン系経口抗癌剤tegafur(ftorafur)単剤を投与し,投与後10 年以上経過した症例と非投与の症例について二次癌発生の要因を統計学的に検討した。多変量解析では二次癌の発生に有意であった事象は一親等における癌の家族歴のみであり,術後経口抗癌剤による補助化学療法は二次癌発生の要因にはなり得ず,一親等内に癌の家族歴を有する胃癌患者は残胃新生癌のみならず他臓器重複癌も念頭におき,術後経過を追う必要があると考えられた。 -
Paclitaxel 注の急性過敏症反応に対する d-マレイン酸クロルフェニラミン注を用いたShort-Time Premedication の検討
35巻8号(2008);View Description Hide Descriptionpaclitaxel(PTX)は卵巣癌,非小細胞肺癌,乳癌,胃癌,子宮体癌に用いられ,良好な治療成績が報告されている。しかし,PTX は投与直後に血圧低下および呼吸困難などの重篤なアレルギー症状が比較的高率に発現するため,アレルギー予防のためにリン酸デキサメタゾンナトリウム注,塩酸ジフェンヒドラミン錠,塩酸ラニチジン注射液(または注射用ファモチジン)の3 剤による前投薬(以下,プレメディケーション)の施行が添付文書上で定められている。この際,塩酸ジフェンヒドラミンのみが内服であるため管理が煩雑になっており,特に外来化学療法で行う場合,医師が塩酸ジフェンヒドラミン錠の処方を確実に行い,患者が化学療法の当日に必ず持参することが前提となる。また,それに伴い薬剤師,看護師などの医療スタッフによって確認が必要となり業務が複雑化しているのが現状である。このような背景から,当院では塩酸ジフェンヒドラミン錠をd-マレイン酸クロルフェニラミン注に変更し,プレメディケーションに要する時間を15 分に短縮した short-time premedication 法を実施している。今回,当院で実施している short-time premedication 法の安全性および有用性について検討する目的で,アレルギー発現率を調査した。対象患者に施行された化学療法レジメンは PTX+carboplatin 9 例,biweekly-PTX 6 例,weekly-PTX 5例であった。PTX注の総投与回数は67 回で,そのなかで初回投与は15 回であった。アレルギー反応/過敏症の発現率は10.0%(2 症例/20 症例)であった。d-マレイン酸クロルフェニラミン注を用いた short-time premedication 法は,アレルギー反応および過敏症予防については従来の方法と大差がなく,患者にとって簡便な投与方法であり治療時間が短縮され経済的であること,医師,薬剤師,看護師の業務軽減につながり安全管理という点からも有用な投与法になり得ると考えられた。 -
堺市医師会における在宅医療情報システムの構築
35巻8号(2008);View Description Hide Description高齢化社会が進むなか,今後在宅医療の必要性はますます増大すると考えられる。それに伴い各医療機関は在宅医療のさらなる充実に,新たな取り組みが要求されている。堺市医師会では,病診ならびに診診連携を中心とした在宅医療のいっそうの効率化を図る目的で,インターネットを利用した新しい在宅医療情報システムを構築した。 -
Capecitabine投与患者における手足症候群のマネジメント
35巻8号(2008);View Description Hide Descriptioncapecitabine は進行・再発乳癌に対し,経口投与で効果の期待できる薬剤の一つである。さらに今後は結腸癌にも適応拡大され,より多くの患者に使用されることが予想され,QOL を保つ抗癌剤としてさらに期待されている。しかしながら約50%にHand-Foot syndrome(HFS)が発現するためにQOL にしばしば影響を及ぼし,発現gradeにより休薬・減量を余儀なくされるケースがある。今回われわれは,capecitabine 投与患者におけるHFS の予防と症状軽減を目的に,保湿剤やビタミンB6製剤を投与し,HFS の発生率および発生時期について検討した。治療開始時から予防対策を実施することにより grade 1 以上のHFS 発生率の低下および発生時期を遅延させることができ,その有用性が示唆された。予防対策の実施により休薬および減量を余儀なくされるgrade 2 以上の発生率を有意に低下させた。このことにより,特に再発治療においては,副作用の発現を最小限に抑えつつ,長期に治療を継続する目的が果たせた。治療完遂と患者のQOL の確保にはHFS などの様々な副作用対策が必須であり,より効果的な副作用の管理をするためにはチーム医療の充実が必要不可欠である。 -
胃癌術後補助化学療法におけるS-1の地域連携クリニカルパスの導入
35巻8号(2008);View Description Hide Description2007年にACTS-GCにより,StageII,IIIの胃癌根治手術後の1 年間のS-1 による術後補助化学療法の有効性が報告され,胃癌の化学療法を受ける患者数が今後急激に増加することが予想される。一方,がん対策基本法の具体的数値目標としての「がん対策推進基本計画」のなかで,5 大がんに対する地域連携クリニカルパスを整備することが掲げられている。このような二つの背景から,当院では2007年11 月から胃癌術後補助化学療法におけるS-1 の地域連携クリニカルパスを導入している。その作成や運営においては院内の医師,看護師,薬剤師の連携だけでなく,連携診療所の医師との綿密なコミュニケーションが重要である。現在までに3 名の患者に実施したが,本クリニカルパスは,患者に基幹病院とかかりつけ医との綿密な連携に支えられた安心感が得られると好評を得ている。
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症例
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S-1とWarfarinの併用により出血傾向となった1症例
35巻8号(2008);View Description Hide Description症例は82 歳の男性。十二指腸乳頭部癌切除後,gemcitabine(GEM)補助化学療法中,左内頸静脈血栓症のため warfarin を投与。その後,化学療法はS-1/GEM 併用療法へ変更し,2 クール目に両下肢浮腫・陰嚢浮腫が発現したため中止した。S-1/ GEM併用療法中止後11 日目に出血傾向を示したため(international ratio of prothrombin time: INR;測定上限値を超え測定不能),warfarinは休薬した。翌日INRは1.7 と改善したが,その後悪化傾向を示し,13 日目には肺塞栓を発症。ヘパリンナトリウム持続注射によってINR はコントロールされていたが,その後INRの低下傾向のため同注射に加え,warfarin の投与量を増減し加療を行った。36 日目に薬物動態試験,薬物代謝酵素CYP2C9 と標的分子VKORC1 の遺伝学的検討を行ったが,いずれも本症例の血液凝固異常を示唆する結果ではなかった。その後,呼吸困苦が強くなり,43 日目に原病死された。S-1とwarfarinの併用時は,きめ細かい凝固系のモニタリングが必要であると考えられた。 -
緩和ケア領域における精神科医の役割
35巻8号(2008);View Description Hide Description日本ではがんは死因の第一位であり,がん患者の9 割以上が病院で死を迎える。緩和ケアを実践する時,医療者は個人としても「死」と向き合う必要に迫られるが,その時,精神科医は何ができるであろうか。今回,緩和ケアチームにおける精神科医としての臨床経験を紹介し,がん診療におけるチーム医療と精神科医の役割と課題について再考する。 -
Docetaxel/Cisplatin/5-FU併用療法が著効した多発肝転移を伴う切除不能進行食道癌の1 症例
35巻8号(2008);View Description Hide Description症例は46 歳,女性。多発肝転移と傍腹部大動脈周囲リンパ節転移を伴う胸部下部中部食道癌(T3N4M1,Stage IVB)に対してdocetaxel/cisplatin/5-FU 併用療法(DCF療法)を用いて,著明な腫瘍縮小と軽微な副作用という良好な結果を得た1 症例を経験した。regimen は5-FU 500 mg/m2をday 1〜5,docetaxel 60 mg/m2とcisplatin 50 mg/m2をday 2 に投与して3 週間休薬を1 コース(4週)とし,10 コース施行した。4コースで原発巣(CR)の消失,8 コースでCT 肝転移巣(CR)の消失,腹部大動脈周囲リンパ節転移(PR)の縮小が認められた。10コース終了後に原発巣の局所再発が認められ,DCF療法を2 コース併用した化学放射線療法を施行した。その後,腹部大動脈周囲リンパ節と鼠径部リンパ節に再発を認めDCF療法を2 コース追加した。治療開始から3 年経過しSD の状態である。有害事象はgrade 3 の血液毒性と非血液毒性が認められた。進行食道癌に対するDCF 療法は有効性が期待できると考えられた。 -
術前S-1/Paclitaxel 化学療法が奏効し根治術可能となった進行胃癌の1 例
35巻8号(2008);View Description Hide Description症例は59 歳,男性。膵浸潤(T4)と脾門リンパ節転移(N3)を伴うStage IV進行胃癌で,術前化学療法として当初S-1/CDDP を1 コース行った。しかし,腫瘍マーカーが増大したため,S-1/paclitaxel に変更し合計4 コース施行した。その結果,CT 上腫瘍の縮小と脾門リンパ節腫大の消失が認められPR と判断された。血清CEA値も1,092から77 ng/mLと著しく低下したため,幽門側胃切除術(Billroth II)+リンパ節郭清(D2)+胆嚢摘出術を施行した。病理検査の結果はpT2(SS),pN1,CY0,ly1,v2,StageIIであった。術後1 年6か月を経過した現在,再発の徴候はなく栄養状態も良好である。進行胃癌に対する術前化学療法としてS-1/paclitaxel は有効であると考えられた。 -
Paclitaxel/CDDP 併用術前化学療法によりPathological CR が得られた進行胃癌の1 例
35巻8号(2008);View Description Hide Description症例は74 歳,男性。上部消化管内視鏡検査で噴門直下からの巨大3型胃癌を認めた。腹部CT 検査では,小弯側胃壁の著明な肥厚と1群リンパ節転移を認め,cT3N1M0H0P0CY0,cStage IIIAと診断し,paclitaxel 80 mg/m2とCDDP 25 mg/m2の併用術前化学療法を2 コース施行した。2コース施行後,原発巣,転移リンパ節の著明な縮小を認め胃全摘術,脾摘術,D2 郭清を施行した。病理組織検査結果は原発巣,リンパ節のすべてにおいて癌細胞を認めなかった。化学療法の組織学的効果判定はGrade 3 でpathological CR と判断した。術後9 か月現在,再発なく健在中である。paclitaxel/CDDP 併用術前化学療法は,高度進行胃癌に対する有用な治療法と考えられる。 -
高度リンパ節転移のStageIV胃癌に対しS-1/CDDP 療法によりCR が得られた1 例
35巻8号(2008);View Description Hide Description症例は53 歳,男性。大動脈,Virchow リンパ節転移の進行胃癌に対してS-1 80 mg/ m2/day(day 1〜21),CDDP は60 mg/m2/day(day 8)を1 コースとし5 週ごとに繰り返す化学療法を2 コース,腎機能障害のため3 コース目は,S-1 64mg/m2/day,CDDP 35 mg/m2/day と減量した。治療前CEA 575 ng/mL が3 コース終了後にCEA は正常化し,腫瘍は完全に消失した。その後S-1 64 mg/m2/day 4 週投与2 週休薬を6 コース施行した。CEA の再上昇がみられたため4 コース目は減量S-1/CDDP 療法,腎機能の回復後に5,6 コース目は初期投与と同量のS-1/CDDP 療法を行った。CEA は正常化し治療開始1 年5か月後の現在でも再発を認めていない。 -
S-1単独内服療法にて3 年間にわたりSDを継続している腹膜播種を伴ったスキルス胃癌の1 例
35巻8号(2008);View Description Hide Description症例は71 歳,男性で腹部膨満感にて来院した。上部消化管内視鏡検査にて,胃体部から前庭部にかけスキルス胃癌を認め開腹手術を施行したが,腹膜播種を認めたため試験開腹術で終わった。術後S-1 単独による化学療法を施行,3 年間にわたりSDを継続している。 -
S-1/CDDP 併用化学療法が奏効した肺癌,胃癌,膀胱癌の同時性三重複癌の1 例
35巻8号(2008);View Description Hide Description症例は77 歳,男性。血痰,全身倦怠と食欲不振を主訴とし入院した。右側胸水,胸壁と右下肺の腫瘤があり,胸水細胞診所見でsquamous cell carcinoma を,上部消化管内視鏡検査での胃体中部大弯の隆起性病変からpoorly-differentiatedadenocarcinoma,膀胱鏡検査でurothelial carcinomaを検出し,肺扁平上皮癌(cT4N0M0,stage IIIB),胃癌(cT2N2M0,stage IIIA)と膀胱癌(cT2bN0M0,stageII)の三重複癌と診断した。S-1の経口投与(100 mg/body bid 3 週投薬2 週休薬)と第8日目にCDDP 60 mg/m2を点滴投与するS-1/CDDP 併用化学療法を合計4 コース行ったところ,重篤な副作用なく腫瘍は著明に縮小し,本併用化学療法がこれらの重複癌に対して有用である可能性が示された。 -
UFT とCyclophosphamideの経口投与が奏効し長期生存中の非切除十二指腸乳頭部癌の1 例
35巻8号(2008);View Description Hide Description症例は69 歳,女性。術中迅速病理組織学的検査にて3 個の大動脈周囲リンパ節転移を認めた十二指腸乳頭部癌に対し根治性なしと判断し,胆管空腸吻合術を施行した。その後,経口的にUFT(300 mg/day)およびcyclophosphamide(50mg/day)の化学療法を施行し,PR に導入し得た。化学療法開始後3 年経過後の現在,元気に外来通院中である。リンパ節転移は十二指腸乳頭部癌の重要な予後規定因子とされ,大動脈周囲リンパ節転移陽性例の長期予後は著しく不良である。本症例のごとく,経口抗癌剤にて著効する症例もありQOL を考慮すると非治癒胆道癌治療の選択肢の一つとなり得る。 -
内視鏡的金属ステント留置後のGemcitabineが有効であった胆嚢癌肝門部再発の1 例
35巻8号(2008);View Description Hide Description症例は71 歳,男性。胆嚢癌に対し,胆嚢摘出術が施行されていた。黄疸を主訴に当院に受診し,胆嚢癌の肝門部再発,閉塞性黄疸の診断に至った。内視鏡を用いて経乳頭的に2 本の金属ステントを留置した後,gemcitabine(GEM)による化学療法を施行した(GEM 700 mg/m2をday 1,day 8 に投与し,3週間を1 コースとする)。3 コース後の腹部造影CT 検査では腫瘍は指摘されず,CA19-9の低下も認められた。有害事象はgrade 2 の食欲不振,grade 3 の好中球減少であった。GEMによる化学療法は,予後が不良である胆嚢癌の再発症例に対しても有効な治療方法であり,閉塞性黄疸を伴う症例に対しても金属ステントを留置し減黄を行うことで安全に施行できると考えられた。 -
胆管癌の術後肝転移再発に対しS-1が著効した1 例
35巻8号(2008);View Description Hide Description上中部胆管癌術後3 か月目に腫瘍マーカーの上昇とCT 検査で肝転移再発を認めたが,S-1(100 mg/body/day)単剤投与により,画像上肝転移巣は消失した。以後S-1 内服継続中で再燃徴候を認めていない。本療法は低侵襲かつ外来通院で可能な化学療法であり,胆管癌術後再発治療の第一選択薬として適していると考えられた。 -
膵癌による癌性疼痛のS-1化学療法が有効であった1 例
35巻8号(2008);View Description Hide Description症例は59 歳,男性。切除不能膵癌の診断でgemcitabineによる化学療法を行っていたが,閉塞性黄疸と疼痛の増悪を認めたために胆管十二指腸吻合術と麻薬性鎮痛剤の増量を行った。黄疸は改善したが,癌性疼痛はコントロール困難であった。S-1による化学療法を開始したところ,疼痛は劇的に改善し退院可能となった。 -
術後再発に対し化学療法が著効し長期生存が得られた肺癌の1 例
35巻8号(2008);View Description Hide Description症例は63 歳,女性。肺腺癌にて左上葉切除術を施行。中分化型腺癌,pT2N2M0,pStage IIIAの診断であった。術後cisplatin(CDDP)+etoposide(ETP)を1 コース施行し,UFT 内服にて経過観察を行った。術後9 か月目よりリンパ節再発を認め放射線照射を施行。その後多発肺転移が出現し,CDDP+vinorelbine(VNR)を3 コース施行しCR となった。以後,肺転移の再発,化学療法,転移縮小を繰り返し,carboplatin(CBDCA+VNR)を計9 コース施行。また,右肺部分切除術を施行した。その後gefitinib 内服としたが再度増大。術後8 年経過した現在,S-1 を内服しCR を維持している。本症例のように長期に術後化学療法を行わなければならない場合,経口抗癌剤であるS-1 による治療は外来治療が可能であり重篤な副作用は少なく,またQOL を損なわずに継続できる点で意義があると考えられた。 -
Gemcitabine/Carboplatin併用化学療法が奏効した多発性骨転移,肝転移,右副腎転移を伴う左尿路上皮癌の1 例
35巻8号(2008);View Description Hide Description症例は53 歳,男性。左坐骨神経痛にて近医入院後,精査および治療目的に当院へ紹介受診した。腹部骨盤CT や腫瘍生検での組織診などの結果から多発性骨転移,肝転移および右副腎転移を伴う左尿路上皮癌と診断され,gemcitabine(GEM)/ carboplatin(CBDCA)併用化学療法が開始された。隔週投与を9 コース施行後,原発巣および肺,肝,副腎,リンパ節,骨を含む多発転移部での腫瘤の著明な縮小を認めた。grade 3 以上の有害事象の発生はなく,外来にて現在も治療継続できている。われわれは,進行性尿路上皮癌に対してGEM とCBDCA の併用化学療法が有効であった1 例を経験したので報告した。 -
子宮頸部原発びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫の1 例
35巻8号(2008);View Description Hide Description女性生殖器原発の悪性リンパ腫はまれである。子宮頸部原発のリンパ腫症例について報告する。症例は68 歳,女性。2002 年5 月不正性器出血にて近医を受診。膣鏡診にて頸部腫瘤が認められた。MRI 検査では7.5×8 cm 大の腫瘤,さらに子宮傍組織,右肛門挙筋への浸潤,腸骨領域リンパ節腫脹が検出された。腫瘤はT1強調像で低信号,T2強調像で等〜高信号を呈した。CT,Ga シンチグラフィ,骨髄検査にて他に病変を認めず。頸部細胞診では診断に至らなかったが,パンチ生検でリンパ球様細胞のびまん性増生を示した。腫瘍細胞はCD19,CD20,CD30,к鎖が陽性であった。以上より,びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫,臨床病期IIE と診断した。治療はcyclophosphamide,doxorubicin,vincristine,prednisone(CHOP)療法を6コース施行後に局所放射照射を追加した。以後,診断から5 年以上無病生存中である。 -
再発・難治性CD33陽性急性骨髄性白血病に対するGemtuzumab Ozogamicinによる再寛解導入療法
35巻8号(2008);View Description Hide Description再発・難治性CD33 陽性急性骨髄性白血病の7 例を対象にgemtuzumab ozogamicin(GO)による再寛解導入療法の有効性と安全性を検討した。GOの投与方法として9 mg/m2をday 1,15 に点滴静注した。3例にCR を得たが4 例はPDであった。全例にgrade 3〜4 の好中球減少や血小板減少が出現し,4 例に発熱性好中球減少症と1例に新たな肺炎を合併した。一方,臓器毒性はgrade 1 の消化器症状(悪心,食思不振)とgrade 1 のGPT上昇のみで,GO に特異的な合併症とされる肝中心静脈閉塞症の合併は認めなかった。GO は比較的安全に投与できると考えるが,血液毒性に対しては通常の化学療法と同様に十分な支持療法が必要である。GO 単剤による再寛解導入療法の効果は限定的であり,今後,症例や投与時期の適切な選択や抗腫瘍剤との併用など,より有効な投与方法を臨床試験によって検討していく必要がある。 -
血球貪食症候群を併発したHHV-8関連Multicentric Castleman Disease の1 例
35巻8号(2008);View Description Hide Description血球貪食症候群(HPS)を併発したhuman herpes virus-8(HHV-8)関連multicentric Castleman disease(MCD)の本邦症例を報告する。患者は60 歳,男性。2004 年6 月発熱,汎血球減少のため当院紹介となった。理学所見で貧血,黄疸,肝脾腫,全身性リンパ節腫大,検査所見で血清フェリチン,可溶性interleukin-2 受容体,interleukein-6 の上昇,骨髄検査で血球貪食組織球の増加を認めた。human immunodeficiency virus(HIV)抗体は陰性。頸部リンパ節生検ではplasmablastic type MCD の組織像を示し,さらにPCR 法にてリンパ節病変でHHV-8 DNA が検出された。以上よりHPS を併発したHHV-8 関連MCD と診断した。治療として免疫抑制療法,化学療法が施行されたが,診断から1 か月後に敗血症で死亡した。本例は,HIV陰性の本邦MCD症例においてもHHV-8がその病因となり得ることを示すものである。 -
消化器癌化学療法に伴う口内炎にLafutidine が著効を示した3 症例
35巻8号(2008);View Description Hide Descriptionフッ化ピリミジン系抗悪性腫瘍剤であるS-1 単独もしくはS-1 併用癌化学療法時に生じた口内炎に対して口腔用triamcinolone acetonide(Kenalog)やallopurinol などで改善しなかった3 症例を対象に,histamine H2-receptor antagonists(H2RA)であるlafutidineを経口投与した。その結果,3 症例ともに効果を示し,lafutidineを併用することで口内炎の再発はなく化学療法を継続することができた。lafutidine は,癌化学療法の治療継続に対して影響を与える口内炎治療の選択肢の一つになり得る。
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新薬の紹介
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Doxil(Pegylated Liposomal Doxorubicin)
35巻8号(2008);View Description Hide Descriptionpegylated liposomal doxorubicin(Doxil: PLD)はAIDS 関連カポジ肉腫の治療薬として承認された,doxorubicin のpolyethyleneglycol 修飾リポゾーム製剤である。PLD の特徴は,従来のdoxorubicin 製剤と比較して,重篤な副作用である心毒性と骨髄抑制が軽減されたこと,腫瘍組織内濃度が選択的に高く維持されることによる抗腫瘍効果が高まったことである。カポジ肉腫の治療はすべての症例に対してPLD を使用するわけではなく,皮膚病変のみで分布が局所にとどまっている場合はhighly active antiretroviral therapy(HAART)のみで改善する例もある。PLDを使用する正確な基準は定まっていないが,急速進行例,浮腫や疼痛の強い例,肺病変合併例,広範囲な内臓病変合併例,HAART単独で進行が抑えられない例などでHAART と併用する。副作用は骨髄抑制や消化器症状が多いが,HAART 併用下では治療中断につながるような重篤なものは少ない。PLDの使用上の利点は,骨髄抑制が少ないこと,薬物相互作用が少ないこと,外来投与への移行が可能なことである。今後はその安全性,忍容性,治療効果の高さからHAARTとの積極的な併用の検討が可能であり,他の固形腫瘍への適応拡大も期待される。
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特別寄稿
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Journal Club
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用語解説
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