癌と化学療法
Volume 35, Issue 9, 2008
Volumes & issues:
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総説
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胃がん発がんと酸化ストレス
35巻9号(2008);View Description Hide Description胃がんの死亡率はここ数年低下傾向ではあるが,依然として高い死亡率を示している。胃がんとピロリ菌との関係が明らかにされるにつれ,ピロリ菌に対する研究はますます盛んになってきている。今回われわれは,ピロリ菌と酸化ストレスという観点から胃がんの発症機序について文献学的考察を加えた。また,最近の研究で明らかになってきた胃噴門部がんと窒素酸化物との関係についても言及した。その他,がん予防という観点から野菜や果物などの抗酸化食品の果たす役割などについても,最近の知見を交えて考察した。
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特集
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- 固形がんにおける薬物療法の進歩
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乳がん薬物療法における最近の知見
35巻9号(2008);View Description Hide Description乳がんに対する薬物療法の進歩は著しく,初期治療においては化学療法が術後中心から術前中心に移ってきたとともに,治療の内容も従来の細胞傷害性化学療法に加えて分子標的治療が積極的に取り入れられるようになってきた。内分泌治療に関しても,閉経後患者に対するアロマターゼ阻害剤の位置付けや,閉経前患者に対する抗エストロゲン剤に追加するLH-RH analog などを中心に日々進歩している。進行再発治療においては,内分泌治療に細胞傷害性化学療法と分子標的治療をうまく使い分けることにより長期の生存が期待できる機会が増えてきたといえる。乳がん薬物療法の今後の流れとして,quality of life(QOL)低下を伴う細胞傷害性薬物治療から長期のQOL 維持が期待できるtrastuzumabや,今後保険適応が期待されるbevacizumab,lapatinib,sunitinibなどの分子標的治療中心に移ってゆくことが予想される。本編では,乳がん薬物治療について初期治療と進行再発治療について既存の概念と最近の知見につき報告する。 -
胃癌薬物療法の進歩
35巻9号(2008);View Description Hide Description治癒切除胃癌(StageII/III)に対する術後補助化学療法の標準治療がACTS-GC試験において確立され,切除不能再発進行胃癌に対しても複数の第III相臨床試験の結果,標準治療が確立された。切除不能再発進行胃癌では,JCOG9912 試験で,CPT-11+CDDP 療法の5-FU に対する優越性は証明されなかったが,S-1 の5-FU に対する非劣性が証明された。そしてSPIRITS試験では,S-1単剤に対するS-1+CDDP 療法の優越性が証明された。続くGC0301/TOP-002試験では,S-1+CPT- 11(IRI-S)療法は生存期間中央値においてS-1 単剤を上回るものの優越性は証明されなかった。これより本邦では,治癒切除胃癌症例の術後補助化学療法にはS-1 単剤,治癒不能再発胃癌症例にはS-1+CDDP 療法が標準治療となった。胃癌治療ガイドライン(2004 年4 月改訂第2 版)の次回改訂時には標準治療の記載内容が変更されることになる。さらに将来に向けて,二次治療の確立,分子標的薬剤治療の確立の臨床開発が続けられている。 -
切除不能進行・再発大腸癌に対する薬物療法
35巻9号(2008);View Description Hide Description切除不能進行・再発大腸癌に対する化学療法は,ここ数年で急速な進歩を遂げている。1957 年の5-fluorouracil(5-FU)の開発以来,5-FU の投与方法やLeucovorin(LV)との併用によるbiochemical modulationに基づいた治療戦略が中心的存在であり,生存期間中央値(MST)は12 か月程度であったが,1990 年代のirinotecan(CPT-11)と2000 年以降のoxaliplatin(L-OHP)の臨床導入,さらに分子標的薬である血管内皮増殖因子に対するモノクローナル抗体であるbevacizumab(BV),上皮増殖因子受容体に対するモノクローナル抗体であるcetuximabやpanitumumabの臨床応用によりMSTは2 年を超えるまで進歩を遂げている。しかし,日本においては2007 年6 月にBV が承認されたものの,cetuximab は2008 年の承認が待たれている状況であり(本原稿を投稿後,2008 年7 月16 日に製造販売承認されたとの情報を得た。BVと同様,市販後全例調査の対象となる),大腸癌の化学療法は海外の後追いになっている状況は否めない。本稿では,現段階での標準治療について現状と展望について論じる。 -
肺癌薬物療法の進歩
35巻9号(2008);View Description Hide Description肺癌の薬物療法はプラチナ製剤との併用療法が現在でも中心を占めている。未治療非小細胞肺癌に対しては,1990 年代に保険適要・市販された抗癌剤とプラチナ製剤との併用の第三世代レジメンが現在の標準的治療である。プラチナ製剤としてはcisplatin もしくはcarboplatin が使用され,carboplatin と比較してcisplatin 併用療法のほうが抗腫瘍効果が高いことが知られているが,その差はわずかであり,副作用などとのバランスを考えるとどちらを使用しても大きな差がないと考えている。最近では,2000 年以降に開発された,pemetrexed やS-1 などとプラチナ製剤との併用療法の臨床試験が行われている。再発症例に対してはdocetaxelが標準的治療として確立されていたが,最近の比較試験の結果により,pemetrexedや分子標的治療薬であるEGFR-チロシンキナーゼ阻害剤(gefitinib,erlotinib)についても延命効果があることが示されており,複数の抗癌剤のなかから治療方法を選択することが可能となった。EGFR-チロシンキナーゼ阻害剤は,EGFR 遺伝子変異を有する肺癌に非常に高い腫瘍縮小効果を示すことが示されている。また,EGFR 遺伝子変異の頻度は日本を含む東アジアでは高頻度であるのに対し欧米では非常に頻度が少ない。そのため,今後の非小細胞肺癌に対する薬物療法の開発方針は,欧米とアジアでは異なってくる可能性があり,アジアにおいてはEGFR チロシンキナーゼ阻害剤の使用方法が大きな意味をもつことになると予想される。 -
腎がん
35巻9号(2008);View Description Hide Description進行性腎がんに対する薬物療法は,interferonやinterleukin-2といったサイトカイン療法が中心であったが,分子標的薬の登場により治療体系が大きく変革している。標的分子は血管内皮細胞増殖因子およびその受容体が主流であるが,別経路の阻害剤も開発されている。今後さらに新規分子標的薬が臨床導入していくと思われるが,個々の病態に応じた最適な薬剤を選択していくことが重要と考える。 -
婦人科がん
35巻9号(2008);View Description Hide Description婦人科がん治療の主幹をなすのは手術療法と放射線治療であったが,近年薬物療法は進歩し婦人科がん治療に占める範囲は徐々に広くなってきている。上皮性卵巣がんに対する化学療法はcisplatinの導入以降頻繁に行われてきたが,現在ではプラチナ製剤とタキサン製剤の併用療法が標準治療として定着している。子宮体がんでは,以前よりCAP 療法が術後補助化学療法として日本で施行されていた。現在では世界中で化学療法(AP療法)が標準治療として行われようとしている。子宮頸がん治療において初回治療時放射線療法とcisplatin が同時に併用される治療法は,1999 年以降日本でも標準治療として推奨されている。このように,婦人科がん治療における薬物治療は,世界ではGOG やSWOG,EORTC など,そして日本でもJCOG やJGOGなどの様々な臨床試験グループによる臨床試験の結果を受け目覚ましい進歩をみせて発展し,その守備範囲を広げている。今後もこの傾向は続いていくものと考えられる。
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Current Organ Topics:食道・胃癌
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原著
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進行乳癌に対するWeekly Paclitaxel Followed by FEC100 療法開始時の治療効果の予測に関する検討
35巻9号(2008);View Description Hide DescriptionStage II・III乳癌58 例に対してweekly paclitaxel(PTX)followed by FEC100 による術前化学療法(primary systemic chemotherapy: PSC)を行ったところ,PD が2 例,有害事象による中断が4 例に認められ,完遂できたものは52 例(89.7%)であった。臨床効果はCR 12 例(23.1%),PR 33 例(63.5%),組織学的効果はgrade 3(pCR)7 例(13.5%),grade 2 が13 例(25.0%)であった。PTX 4 回終了の時点でSDは52 例中34 例であるが,PTX 8 回終了時28 例,PTX 12回終了時では19例に,FEC4 回終了時では7 例まで減少した。組織学的効果がpCR の症例7 例をみると,PTX 4 回終了の時点でSD は3 例であり,PTX 8 回終了時でも2 例にみられた。以上より,PSCの過程でPD にならない限りpCR となる可能性があるために治療を続行すべきと考えられた。 -
リンパ節転移陽性乳癌に対する術後補助化学療法—Epirubicin,Cyclophosphamide(EC)療法後週1 回Paclitaxel 治療,逐次療法の忍容性の検討—
35巻9号(2008);View Description Hide Descriptionリンパ節転移陽性乳癌に対する術後補助化学療法としてのepirubicin,cyclophosphamide(EC)療法後毎週paclitaxel(wPTX)投与,逐次療法の忍容性を多施設共同研究にて検証した。ECは75 mg/m2,600 mg/m2(E75C600群22 例)もしくは90 mg/m2,600 mg/m2(E90C600群10 例)を3 週ごとに4 コース,wPTX は80 mg/ m2を1 週ごと3 回投与,1 週休薬を1 コースとし,4 コース施行した。grade 3 以上の血液毒性は,EC で白血球減少11 例(E75C600群5例,E90C600群6例),好中球減少14 例(E75C600群6例,E90C600群8例),発熱性好中球減少1 例(E90C600群1例),wPTX で白血球減少2 例,好中球減少4 例,ヘモグロビン減少1 例,肝機能障害1 例であった。grade 3 以上の非血液毒性は認めなかった。プロトコール治療完遂率78.1%,EC完遂率90.6%,wPTX完遂率89.3%であった。本療法は安全に施行できると考えられた。 -
外来化学療法におけるVinorelbineの静脈炎予防の検討—乳癌症例を対象とした—
35巻9号(2008);View Description Hide Description2005 年7 月〜2006 年8 月に当院の外来化学療法室において,乳癌治療にvinorelbine(VNR)を投与し静脈炎を発症した10 例を対象に,静脈炎発症の予防方法を検討した。予防対策として実施,検討したのは,VNR 投与中にホットパックを用いて刺入部より体躯側の静脈を暖める温罨法,および投与後のウォッシュアウトで使用する生理食塩水を250 mL から500 mL に増量する方法である。静脈炎対策施行により,静脈炎のgrade は施行前に比して施行後では有意な低下がみられた(p=0.039)。静脈炎対策施行前後における投与中の血管痛の変化に関する検討でも,施行により10 例すべてに除痛効果があり,発症数の有意な低下が認められた(p<0.0005)。同様に帰宅後の血管痛に対しても発症数の有意な低下が認められた(p=0.001)。VNRの静脈炎対策として,温罨法とウォッシュアウトで使用する生理食塩水の増量の組み合わせは有効であった。また,VNR 以外の要因で静脈炎を惹起する因子はないか,ベースラインの比較を行ったが,投与回数,穿刺する静脈の太さ,前治療歴に関しては関連を認めなかった。 -
切除不能乳癌局所病巣へのMohs Paste外用の試み
35巻9号(2008);View Description Hide Description乳癌局所再発や皮膚浸潤を伴う局所進行乳癌は病巣部からの多量の滲出液,悪臭,出血によりQOL を著しく阻害する病態である。今回Mohs paste外用により良好な局所コントロールを得られた3 例を報告する。症例1 は45 歳,女性。左乳癌全摘術後の胸壁再発巣は多量の滲出液,出血を認めた。2回のMohs paste外用により再発病巣表面は乾燥し,ガーゼ交換回数が大幅に減少した。症例2 は55 歳,女性。右進行乳癌は多量の滲出液,悪臭,および辺縁からの持続性出血により重度の貧血を認めていた。2回のMohs paste外用によりほぼ止血を得られ,患者自らの使用も可能であった。症例3 は69 歳,女性。右乳癌全摘術後で,腹部に巨大な再発病巣を認め多量の滲出液,悪臭,出血を認めていた。1回のMohs paste外用で悪臭,出血は消失し,非常に著しいQOL 改善を認めた。3例ともに特に副作用もなく施行可能であった。乳癌局所病巣へのMohs paste外用は有効な方法であると思われた。 -
子宮頸癌 Ib2-IIIb期に対する術前化学療法—手術(NAC-S)とConcurrent Chemoradiation(CCRT)の比較—
35巻9号(2008);View Description Hide Description局所進行子宮頸癌(Ib2-IIIb期)に対する治療法は国や医療施設により異なり,本邦では主治療として手術が選択されることが多い。今回,2001〜2005 年に当院で初回治療を行った子宮頸癌 Ib2-IIIb 期を対象にNAC とCCRT の治療成績を後方視的に検討した。NACの奏効率は12/19(63%)であり,手術完遂率は16/19(84%)であった。CCRTのCDDP 投与完遂率は20/27(74%)であった。骨盤内制御率はNAC-S群で17/19(89%),CCRT 群で25/26(96%),PAN再発を含めた骨盤外再発は各々7/19(37%),7/26(27%)と有意差を認めなかった。3年PFS やOS についてはCCRT が有効な傾向を示したが有意差は示されなかった。CCRT群は有意に高齢であり,進行した症例が多いにもかかわらず治療成績に有意差を認めず,CCRTの有用性が示唆された。 -
子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)の診断精度および経時的変化に関する検討
35巻9号(2008);View Description Hide Description子宮頸部細胞診にて子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)が疑われた765 例に対し,細胞診,コルポスコピー下狙い組織診,手術摘出物病理および経時的変化について検討した。細胞診においてはCIN 3 以上の病変の検出率に関してClass IIIa とIIIbの間に有意差を認めた。狙い組織診と手術摘出物病理の一致率は79.8%であったが,原則として治療を要するCIN 3 以上と診断する精度は96.1%と高かった。CIN 114例にコルポスコピー下狙い組織診による経過観察が行われ,軽い病変への退縮例が26.3%,高度の病変への進行例が19.3%,病変の不変例が54.4%であり,CIN 2 では経過観察開始後2 年以内にCIN3 に進行するものが多かった。初回検査時から後の病変の変化の推定では,CIN 1,2 でClass IIIb 以上のものがClass IIIa 以下のものに比較して有意に進行するものが多いことが判明した(p<0.05)。
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症例
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S-1/CDDP 療法が著効し治癒切除可能となった術後19か月無再発胃癌の1 例
35巻9号(2008);View Description Hide Description症例は46 歳,男性。2005 年11 月,左臍部に径1 cm 程度の腫瘤に気付き近医を受診。精査で腹壁転移を呈する3 病変からなる同時多発胃癌と診断。治癒切除不能であり,S-1/CDDP 療法を開始。3 コース施行後,腹壁転移巣の消失と原発巣の縮小を認め,4 コース施行後に胃全摘術を施行。手術時の評価ではpStage IB,cur A と治癒切除できた。術後S-1 単独療法を再開し,術後19 か月の時点で無再発である。 -
化学療法と姑息手術が奏効し胃全摘術後に長期生存を得た食道浸潤と腹膜播種を伴ったスキルス胃癌の1例
35巻9号(2008);View Description Hide Description症例は54 歳,女性。腹膜播種を伴う食道浸潤スキルス胃癌に対し,胃全摘術を施行した後,少量CDDP 反復腹腔内投与/S-1併用療法,paclitaxel/5-FU 併用療法(FT 療法),docetaxel/S-1 併用療法などを駆使し,手術後4 年5か月の長期生存を得た。また,癌性腹膜炎による腸閉塞に対し姑息手術(バイパス手術)を施行することで,初回手術後4年2か月の間,経口摂取可能な状態を保ち,外来化学療法を継続することが可能であった。 -
低用量CDDP+CPT-11を用いた外来化学療法が奏効した高度進行・再発胃癌症例—ことに分化型癌症例における効果について—
35巻9号(2008);View Description Hide Descriptionはじめに:分化型胃癌進行・再発症例に対し,副作用の軽減,長期生存をめざして,低用量CDDP とCPT-11 療法を行い,その効果について検討した。対象:分化型胃癌進行・再発症例7 例を対象とした。内訳は,初発進行胃癌非切除症例1例,手術後再発胃癌6 例であり(進行度 Ib: 1 例,II: 3 例,IIIb: 1 例,IV: 1 例),全例男性,平均年齢は,64.8 歳(52〜76 歳)であった。評価病変(重複あり)は,原発巣1 例,腹腔内リンパ節4 例,肝転移3 例,肺転移1 例であり,first-lineとして投与した症例は2 例,second-line 以降の症例は5 例であった。方法: CPT-11 65 mg/m2を1 時間で点滴静注後,低用量CDDP 20 mg/bodyを30 分で点滴静注し,2 週ごとに繰り返すことをめざした。初回投与は入院管理下に行い,副作用の程度により投与量を調整した。結果: 全7 例中,CR 1 例,PR 2 例で,奏効率は43%であった。first-lineとして投与した2 症例は,ともにPR と奏効を得たが,second-line以降の5 例では,CR 1 例,SD 3 例,PD 1 例と奏効例は1 例にとどまった。また,second-line 以降の5 症例の先行療法の期間はCR 1 例が2 か月であったのに対し,SD,PD 4 症例は5〜10 か月であった。したがってPR およびCR 症例では,本療法がfirst-lineないし比較的早い時期に導入される傾向にあった。副作用は,悪心・嘔吐,骨髄抑制が主で,各々4 例,5 例であった。1例で,初回投与時grade 3 の骨髄抑制が出現したため,2 回目投与以後減量した。他症例では,副作用はすべてgrade 1〜2 であった。結語: 1. 7 例中CR 1例,PR 2 例の奏効を得た。また,PD 1 例を除く6 例で10〜23 回の外来投与が可能であった。その間,重篤な副作用もなく全例で外来療法に移行でき,患者のQOL 向上に寄与したものと考えられた。 2.有効症例は,いずれも比較的早い時期に本療法が導入される傾向にあった。したがって先行療法が無効であった症例では,プロトコールの切り替えを早めに適切に検討することが必要と考えられた。 -
胃癌による癌性リンパ管症,腹部大動脈周囲リンパ節転移に対しS-1+Irinotecan併用療法が奏効した1 例
35巻9号(2008);View Description Hide Description症例は,70 歳,女性。癌性リンパ管症ならびに腹部大動脈周囲リンパ節転移を伴った切除不能進行胃癌に対し,S-1+irinotecan(CPT-11)の併用療法を施行し,1コースにて癌性リンパ管症,腹部大動脈周囲リンパ節転移に対する奏効ならびに食事摂取上昇,癌性疼痛の改善を得た。胃原発巣は明らかな改善がみられなかったため,胃全摘術+膵体尾部切除術+摘脾術を施行した。術後,癌性リンパ管症が再燃し永眠された。胃原発の癌性リンパ管症に対し,S-1+CPT-11併用療法は有効な治療法の一つであるが,原発巣切除には慎重を期する必要があると思われた。 -
術前S-1/Paclitaxel併用療法が奏効し長期生存が得られた進行胃癌の1 例
35巻9号(2008);View Description Hide Description症例は61 歳,男性。X線写真,胃内視鏡検査にて4 型進行胃癌,腹部CT 検査にて上腸間膜動脈起始部のリンパ節腫大および膵浸潤を認めたため根治切除困難と判断,S-1/paclitaxel(PTX)による導入化学療法を施行した。S-1 120 mg/body/day(3週投与1 週休薬),PTX 80 mg/m2(day 1,8,15)を4 週間1 コースとして,計2 コース施行した。2 コース終了後の胃X 線写真にて腫瘍の縮小を認めCT にてリンパ節は縮小し,膵との境界も明瞭となったため胃全摘術,D1+β郭清,Roux-en Y 再建を施行した。術中所見としては,腫瘍は漿膜に露出,小弯のリンパ節の腫大を認めたが,膵浸潤は著明ではなくリンパ節も瘢痕巣となっており,術前化学療法の効果はgrade 2 であった。術後,外来にて同化学療法を3 コース施行したが,化学療法による副作用は認めなかった。初診より5年経過し生存中であり,同療法は術前化学療法として有効であった。 -
高度リンパ節転移陽性胃癌に対し術前化学療法が著効し根治術が可能であった1 例
35巻9号(2008);View Description Hide Description症例は66 歳,男性。胃幽門部に壁外浸潤を認める進行胃癌と,6 cm 大の巨大なNo. 6 リンパ節を認めた。手術単独では根治不能と判断し,S-1/CDDP による術前化学療法(S-1 120 mg/bodyを21 日間連続経口投与し14 日間休薬,day 8,15,22にCDDP 40 mg/bodyを点滴静注=1 コース)を2 コース施行した。内視鏡検査で腫瘍は瘢痕化し生検で癌は存在せず,CT ではNo. 6 リンパ節は著明な縮小効果を認めた。腫瘍マーカーはすべて正常化し,効果判定partial response(PR),治癒切除可能と判断し,D2郭清を伴う幽門側胃切除術を施行。組織学的効果判定で原発巣はGrade 3 で,No. 4d およびNo. 6 リンパ節のみ癌細胞を認めた(3/30 個)。術後補助療法としてS-1 内服を1 年間行った。現在術後1 年4 か月経過しているが,再発の徴候はない。S-1/CDDP 療法は進行胃癌に対して極めて有効な治療法と考えられた。 -
S-1/CDDP 術前化学療法中に重篤な骨髄抑制を生じた進行胃癌の1 例
35巻9号(2008);View Description Hide Description進行胃癌に対するS-1/CDDP 併用術前抗癌化学療法の有効性が近年注目されている。一般に重篤な有害事象は少なく安全であるとされるが,われわれは重篤な骨髄抑制を来した症例を経験した。患者は74 歳,女性。S-1/CDDP 術前化学療法1 コース目にはほとんど有害事象を認めなかったが,2 コース目day 18 に食思不振,脱水のため緊急入院。腎機能障害を発症,続いてgrade 4 白血球減少,好中球減少,菌血症,DICを生じた。精力的な加療により無事回復し,胃切除術を実施することができた。S-1/CDDP 化学療法において,消化器系有害事象の出現は脱水より腎機能障害を来し,血液中のS-1 の成分5-chloro-2,4-dihydroxypyridine(CDHP)濃度高値,5-FU 濃度高値となり,重篤な骨髄抑制を誘発する前兆となることに留意する必要がある。 -
S-1+CPT-11併用療法でCR の得られた胃癌および結腸癌の肝転移の3 症例
35巻9号(2008);View Description Hide Description今回われわれは,胃癌および結腸癌の肝転移症例にS-1+CPT-11併用療法を施行し,complete response(CR)の得られた3 例を経験したので報告する。症例1: 胃前庭部から体上部の全周性3 型胃癌に対して,胃全摘術を施行(T3(SE),N2,H0,P0,por 2,stage IIIB)。術後4 か月で腹部CT 検査にて肝S8 に孤立性肝転移を認めたため,S-1+CPT-11併用療法を施行した。5コース終了後CR となった。症例2: 小腸浸潤と腹壁浸潤を伴う3型S状結腸癌に対して,S 状結腸切除術,小腸部分切除術と腹壁合併切除術を施行(Si,N1,H1,P0,M0,tub 1,stageIV)。術中肝左葉に転移巣を認めた。術後S-1+CPT-11併用療法を施行し,5 コース終了後CR となった。症例3: 上行結腸癌に対して,腹腔鏡下右半結腸切除術を施行(SE,N1,H0,P0,M0,tub 1,stage IIIa)。術後3 か月で腹部CT 検査にて肝S6 に孤立性転移を認めたため,S-1+CPT-11 併用療法を開始した。3コース終了後CR となった。3症例とも現在再発の兆候はなく生存中である。 -
Gemcitabine+S-1の併用療法が著効した高齢者非小細胞肺癌の1 例
35巻9号(2008);View Description Hide Description症例は86 歳,女性。進行非小細胞肺癌(cT4N3M1,StageIV)に対して,初回治療としてgemcitabine+S-1 併用療法が施行された。この併用療法は第 I 相試験として施行された。治療効果はPR であった。重篤な毒性は認められず,外来治療が可能であり良好なQOLが得られたものと考える。 -
慢性腎不全合併肺小細胞癌に対してAmrubicinを投与した1 例
35巻9号(2008);View Description Hide Description約10年前より糖尿病性腎症による慢性腎不全にて当院通院中の64 歳,男性。左S10の腫瘤影の精査目的にて入院,諸検査にて左S10原発の肺小細胞癌T2N0M1,extensive disease と診断した。通院中より腎障害を認め,今回入院後精査中に血液透析を導入,amrubicin による化学療法を行い,薬剤の血中濃度を測定した。その結果,透析前後の大きな血中濃度の変化は認められなかった。本例は副作用としてgrade 4 の好中球減少を認めたものの,効果は部分奏効を得た。 -
上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異が認められた肺多形癌の1 例
35巻9号(2008);View Description Hide Description症例は70 歳,女性。咳嗽にて受診。左上肺野に異常陰影あり,経気管支生検で肺癌と診断。cT2N0M0,stage IB で左上葉切除術,リンパ節郭清を施行した。病理組織検査でpT2N2M0,stage IIIA の多形癌と診断され,術後化学療法cisplatin+docetaxel を計6 コース施行した。5 か月後両肺・骨転移が出現し,gefitinib投与で約7 か月SD を維持している。組織検体で上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異を認め,多形癌であってもgefitinib が有効な症例を経験したので報告する。 -
乳腺脂質分泌癌(Lipid-Secreting Carcinoma of the Breast)皮膚転移に対しCapecitabineが有効であった1例
35巻9号(2008);View Description Hide Description乳腺脂質分泌癌(lipid-secreting carcinoma of the breast: LSC)の皮膚再発に対し,capecitabine が有効であった1 例を経験したので報告する。症例は50 歳台,女性。左乳癌にて2002 年12 月胸筋温存乳房切除術(Bt+Ax)を施行。臨床病期はT2N1M0(stage IIB),ER(−),PgR(−),HER2(1+)であった。切除標本の病理組織検査にて腫瘍細胞の細胞質は微細顆粒状を呈し,脂肪染色では胞体内に微細顆粒状の陽性物質を認め,乳腺脂質分泌癌と診断された。術後monthly docetaxel(60 mg/m2)を2 コース施行した。2004 年3 月左胸壁再発を認め,放射線照射治療を行った。計50 Gy 施行するも効果はなく,2004 年6 月よりcapecitabine(2,400 mg/ day)3週間投与1 週間休薬治療を開始した。2 コースで皮膚転移は消失し,2006 年5 月で投薬を終了したが2008 年1 月現在,再発の徴候は認めていない。 -
多剤耐性の乳癌肝転移に対してS-1が著効した2 症例
35巻9号(2008);View Description Hide Description多剤耐性の乳癌肝転移に対して,S-1 が有効であった2 症例を経験したので報告する。症例1 は59 歳,女性。HER2陽性。再発後の化学療法としてtrastuzumab+weekly paclitaxel 療法やtrastuzumab+vinorelbine 療法などを実施するも肝転移が増悪してきたため,trastuzumab+S-1療法を開始したところ,投与開始1 か月後より肝転移の著明な縮小を認め,その効果は5 か月間持続した。症例2 は67 歳,女性。HER2 陰性。再発後にtaxane やvinorelbine などの化学療法剤を使用したがいずれもPD となり,S-1 単独による治療を開始したところ,症例1 と同様に肝転移の著明な縮小を認め,14 か月後の現在でも奏効を維持している。両症例とも副作用は軽微であり,QOL の低下も認めなかった。S-1 は有効性のみならず,安全性やQOL の面からも有用な薬剤であると思われる。 -
Paclitaxel+Trastuzumab耐性となった乳癌肝転移にS-1が奏効した1 例
35巻9号(2008);View Description Hide Descriptionpaclitaxel+trastuzumab 耐性となった乳癌肝転移にS-1 が奏効した1 例を経験したので報告する。症例は76 歳,女性。左乳癌のため2004 年3 月,乳房切除術および腋窩リンパ節郭清を行った。術後CEF を6 コース施行したが,術後12か月で左鎖骨上リンパ節および肺転移を認めたためweekly paclitaxel(80 mg/m2)+trastuzumab を施行。2 コースでCRとなり,以後trastuzumab 単剤で治療していたが,7 か月後に肝転移を認めた。再度paclitaxel を併用し一時PR となったが,1 か月後に肝転移と腫瘍マーカーの増悪を認めS-1 を併用した。2 コース終了後,腫瘍マーカーの改善と肝転移の縮小を認めた。有害事象はgrade 1 の発疹のみであった。今後,taxane耐性症例におけるS-1 の有用性が期待された。 -
骨髄転移の治療にPaclitaxelを使用した再発乳癌の1 例
35巻9号(2008);View Description Hide Description骨髄転移により汎血球減少を来した再発乳癌に対し,weekly paclitaxel 療法を施行した症例を経験した。症例は44歳,女性。2003 年4 月に右乳癌(T2N1M0, StageIIB)の診断で胸筋温存乳房切除術を施行した。術後にleuprorelinを2年間投与したが,2005年11 月に骨転移を認めたため放射線治療の後にbisphosphonate製剤を投与した。その後,骨転移が増悪したためtamoxifenを併用したが,2006 年9 月より汎血球減少が進行し,骨髄生検で骨髄転移と診断された。播種性血管内凝固症候群(DIC)となり,適宜輸血およびG-CSF製剤を投与しながらweekly paclitaxel療法を施行した。一時は汎血球減少の改善と腫瘍マーカーの減少を認め,weekly paclitaxel 療法は骨髄転移に対して有効と考えられたが,化学療法開始3か月後に腫瘍マーカーの再上昇を認めた。化学療法開始4 か月後,消化管出血による出血性ショックで死亡した。 -
TrastuzumabおよびPaclitaxel併用療法が著効した進行副乳癌の1 例
35巻9号(2008);View Description Hide Description症例は53 歳,女性。左腋窩の腫瘤を主訴に2007 年5 月当院を受診した。CT にて腋窩深部へ浸潤する腫瘍および左鎖骨上リンパ節転移を認めた。組織検査にて左副乳癌と診断した。ホルモン受容体陽性,HER2 強発現であった。trastuzumabおよびpaclitaxel 併用化学療法を施行した。4 コース終了後のCT では原発巣および鎖骨上リンパ節のいずれも消失し,臨床的にcomplete response(CR)と判断した。 -
Pulmonary Toxicity Associated with Vinorelbine-Based Chemotherapy in Breast Cancer
35巻9号(2008);View Description Hide Description症例は41 歳,女性。3 年前に乳癌と診断され左乳房切除を受けたが,6か月前に右乳房と皮膚に再発を認めた。乳癌再発に対し,first-lineおよびsecond-lineの化学療法を施行したが,いずれも効果は認めなかった。その後,vinorelbineとtrastuzumab の併用化学療法開始1 か月後に,微熱と乾性咳嗽が出現した。胸部CT では,右肺に非特異性の間質影を認めた。気管支鏡検査を施行したところ,肺胞洗浄液はリンパ球優位で,経気管支的肺生検は間質に線維増加とリンパ球などの炎症性細胞浸潤が認められた。vinorelbine中止後,患者の症状は改善した。われわれは,乳癌患者に対するtrastuzumabとvinorelbineの併用投与による薬剤性間質性肺炎と考えられた1 症例を経験したので報告する。 -
血球貪食症候群を合併した肝脾γδ T 細胞リンパ腫の1 例
35巻9号(2008);View Description Hide Description症例は56 歳,女性。39℃台の発熱を自覚し前医を受診。著明な肝機能障害を認め入院となる。入院後よりLDH 高値を伴う汎血球減少が出現。検査値からhemophagocytic syndrome(HPS)を疑い,methylprednisoloneによる治療を行ったが反応性が悪く当科に転院。転院後も高LDH 血症,高ferritin 血症を伴う汎血球減少が続いたため,etoposide,prednisolone,cyclosporine による治療を開始した。また,入院後のFDG-PET 検査で肝脾に非常に強い集積亢進像を認めた。肝生検で軽度のリンパ球浸潤を認め,免疫染色,PCR 解析にてhepatosplenicγδ T-cell lymphomaが示唆された。その後も検査値のさらなる増悪を認めたため,再度化学療法を併用したが治療抵抗性であり,入院後約1 か月で死亡した。剖検所見では,脾臓,肝臓,骨髄,周囲リンパ節に血球を貪食した組織球の著しい増生を認めた。
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新薬の紹介
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急性骨髄性白血病治療におけるGemtuzumab Ozogamicinの役割
35巻9号(2008);View Description Hide Descriptiongemtuzumab ozogamicin(GO)は,カリケアマイシンが結合したモノクロナル抗体で,CD33 抗原を表出した急性骨髄性白血病(AML)細胞を特異的に攻撃する。わが国でも2005 年再発・難治の急性骨髄性白血病(AML)に単剤での使用が保険で認められている。これまで単剤投与による研究報告では,成人再発AMLの約30%に有効である。また,併用療法も含めてAML の寛解導入療法や地固め療法にも有用性が示されている。本剤が移植の115 日以内に投与されると肝中心静脈閉塞症の発生率が高くその使用には注意が必要であるものの,欧米ではミニ移植の前処置として用いる研究も進んでいる。現時点ではGO の最適な使用法は確定しておらず,副作用を軽減しつつ,治療効果を増す投与法を大規模臨床研究を通して確立してゆく必要がある。
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Journal Club
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用語解説
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