癌と化学療法
Volume 35, Issue 12, 2008
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特集【第29回癌免疫外科研究会,第30回日本癌局所療法研究会】
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進行胃癌に対するAdjuvant としてのMTX-5-FU 腹腔内化学療法
35巻12号(2008);View Description Hide Description抗癌剤腹腔内投与は理論上,胃癌再発予防に対しての理想的な投与ルートである。対象は1993 年から9 年間に胃癌手術時に肉眼的癌遺残なしと判断され,術後にMTX-5-FU 腹腔内化学療法を行った60 例である。Stage II 18 例,Stage III A 19例,Stage III B 13 例,Stage IV 10 例で,化学療法の回数は平均19.1 回であった。5 年生存率はStage II 66.2%,Stage III A 60.7%,Stage III B 46.5%,Stage IV 18.8%であった。同期間の他施設の各Stage別胃癌術後生存率と比較し,Stage III A,III B で成績が良好の傾向がみられた。42 例の漿膜浸潤陽性胃癌のうち再発は24 例で,そのうち17 例(71%)は腹膜再発であり,腹腔内化学療法は漿膜浸潤陽性胃癌の再発形式には影響を与えていないと考えられた。 -
腹膜播種性胃癌に対する局所全身術前化学療法の臨床試験
35巻12号(2008);View Description Hide Description進行胃癌において腹腔洗浄液細胞診陽性は予後不良因子であり,われわれは術前にこれを診断して抗癌剤治療を行い,その後の治療方針を決定してきた。手術を前提とした治療であり,非治癒因子である腹膜播種を重点的に治療するため腹腔内化学療法を併用した。使用薬剤は,S-1(経口)とdocetaxel(腹腔内投与)を用い,3 週間を1 クールとし2 クール終了後腹腔鏡検査により効果判定を行った。第 I 相試験として行い,docetaxel 量をdose escalation させた。12 例の検討により推奨用量は60 mg/m2 となり,12 例中9 例で腹膜病変が消失した。本レジメンは,有効性,安全性に優れていることが示唆された。 -
遠隔転移を有する食道癌に対する化学療法,化学放射線療法の意義
35巻12号(2008);View Description Hide Description目的: 遠隔転移を有する高度進行食道癌に対する化学療法, 化学放射線療法の臨床的意義を明らかにする。対象と方法:化学放射線療法(CRT)または化学療法(CT)単独治療を行った他臓器転移(n=16)あるいは大動脈周囲リンパ節転移(n=10)を有する食道癌26 例を対象に, 治療効果, 入院期間,治療前後のperformance status(PS)の変化,生存期間などについてretrospective に検討した。結果: CRT,CT の奏効率は76%,20%で, 入院期間中央値は2.9 か月,2.3 か月であった。全体の69%(18 例)では,治療前後のPS の変化は認められなかった。生存期間中央値は各々5.6 か月,5.8 か月であった。結語: 余命がかぎられた高度進行食道癌の大部分の症例では,PS の悪化を来さずに化学療法あるいは化学放射線療法を行い得ることが示唆された。 -
同時性肝転移を伴う胃癌症例に対して肝動注化学療法と手術療法の併用による長期生存例
35巻12号(2008);View Description Hide Description胃癌の同時性肝転移に対して全身化学療法が標準的な治療の一つであるが,その成績は決して良好とはいえない。一方で,当院で実施した胃癌の肝転移に対する肝動注化学療法が良好な成績を示したため,同時性肝転移症例の長期生存例について1 例を報告する。症例は39 歳の女性。多発肝転移を伴った進行胃癌を認めた。5-FU/CDDP/DOC の併用療法を2 サイクル実施後,胃,肝以外の臓器に新たな病変を認めず,肝病変が縮小傾向を示したため幽門側胃切除術を実施した。術後に全身化学療法を再開したが,肝病変の増悪を示したため肝動注化学療法を実施した。以後約2 年間,病変が縮小を示した状態で経過したため肝部分切除術を実施し,現在まで生存中である。本症例は初回治療開始後33 か月経過した長期生存例であり,切除不能な胃癌同時性多発肝転移に対して胃切除術と肝動注化学療法の併用が有効な治療法の一つになり得ることが示唆された。 -
胃癌腹膜播種モデルにおける薬物動態を考慮した抗VEGF 療法
35巻12号(2008);View Description Hide Description腹膜播種においてVEGF は癌細胞の増殖,血管新生,血管透過性の亢進などにおいて重要な役割を果たしている。今回,われわれは胃癌腹膜播種モデルにおける薬物動態を考慮した抗VEGF 中和抗体の治療の有効性を検討した。高度腹膜転移胃癌細胞株OCUM-2MD3 を用いヌードマウス皮下腹膜播種モデルを作製し,I-125 で標識したbevacizumab の腹腔内投与群と全身投与群での薬物動態を比較した。bevacizumab は,腹腔内投与群では正常マウスと比較して腹水内に長く停滞し,血中への移行が低い傾向がみられた。一方,全身投与群では血中への移行が高く,皮下腫瘤や腹膜結節への集積が腹腔内投与に比べ高くみられた。bevacizumab の腹腔内投与は腹水中のVEGF と結合・中和すると考えられ,全身投与では腹膜における血管透過性や癌細胞の増殖に作用すると考えられた。胃癌腹膜播種モデルにおいて抗VEGF 療法は局所投与に比較し,全身投与がより有効な治療法である可能性が示唆された。 -
P0CY1 胃癌症例に対する術後S-1+CDDP 療法─ CDDP の全身療法と腹腔内投与─
35巻12号(2008);View Description Hide Description手術時に腹膜播種を伴わない洗浄細胞診陽性(P0CY1)胃癌に対する術後S-1+CDDP の全身投与療法と術後S-1+腹腔内CDDP 投与療法について比較検討した。手術時に他の非治癒因子を認めない8 例のP0CY1 胃癌例に対し,術後にS-1経口投与+CDDP 60 mg/m2 の静注による全身化学療法群(IV 群4 例)と術後にS-1経口投与+CDDP 60 mg/m2 を腹腔内に留置したリザーバーより反復投与する腹腔内化学療法群(IP 群4 例)の2 群に割り付け,両群を比較検討した。平均投与回数はIV 群で3.5 回(1〜7 回),IP 群で4.8 回(1〜11 回)。grade 3 以上の副作用はIV 群3 例,IP 群1 例に認められた。予後はIV 群2 例,IP 群3 例が癌性腹膜炎により死亡した。平均生存期間はそれぞれ731 日,561 日であった。リザーバー留置による合併症は認めなかった。腹腔内化学療法はP0CY1 胃癌切除例に対し安全に施行でき,効果も期待できる局所療法となる可能性がある。 -
胃癌に対する術前化学療法施行例からみた局所療法の位置付け
35巻12号(2008);View Description Hide DescriptionS-1 など全身療法の進行胃癌に対する効果について術前治療例を対象として検討し,腹腔内投与など局所療法の可能性について検討した。術前未治療の進行胃癌25 例を対象としS-1+CDDP 併用の術前化学療法を試みた。縮小効果はPR 13 例,SD 10 例,PD 2 例で奏効率52%であった。13 例に対しては根治度A,B の切除を行い11 例が無再発生存中でMST は682 日であった。12 例に対してはN 因子5 例,P 因子11 例により非治癒切除となり1 例のみが無再発生存中でMST は377 日であった。S-1+CDDP 併用術前化学療法は奏効率52%であり,十分な腫瘍縮小効果を発揮したが治癒切除を行い得なかった例では生存期間の延長には寄与していなかった。全身療法としてのS-1+CDDP 併用化学療法によってもコントロールし得ないcy(+)症例に対しては,taxane 系薬剤の腹腔内投与など何らかの局所療法の介入が必要であると考えられる。 -
切除不能大腸癌転移性肝腫瘍に対するOxaliplatin(L-OHP)およびIrinotecan(CPT-11)療法後,肝動注療法(HAI)の検討
35巻12号(2008);View Description Hide Description切除不能大腸癌肝転移に対する標準治療はFOLFOX,FOLFIRI 療法である。それに続く三次治療として,HAI+全身化学療法を施行した6 例について検討したので報告する。6 例の一次治療はmFOLFOX6 3 例,FOLFIRI 2 例,CPT-11+5′-DFUR が1 例であった。二次治療はFOLFIRI 3 例,mFOLFOX6 が3 例であった。三次治療の奏効率は13%でPR が1例であった。その他はSD 症例4 例で,PD が1 例であった。HAI による有害事象はgrade 3 以上の重篤なものは認めず,全例で安全に行うことが可能であった。HAI 施行後PR の1 例に対して切除術を施行した。予後は肺転移3 例,腹膜播種1 例,局所再発に2 例を認めた。HAI 開始後のMST は9 か月で全例が原病死していた。HAI は局所制御には優れているが,肝外病変の制御には不十分である。今後は分子標的治療薬との併用療法の開発が必要だと思われる。 -
他臓器浸潤した直腸癌に対して化学放射線療法を施行した7 例の検討
35巻12号(2008);View Description Hide Description骨盤内他臓器に浸潤した直腸癌に対して,化学放射線療法後に手術を施行した7例の治療成績を検討した。放射線療法は,総照射量を40〜45 Gy とし1 回照射量1.8〜2.0 Gy を20〜25 回に分割して週5 回照射した。化学療法は5-FU 500 mg/body 静注4 例,UFT 300 mg/m2+l-leucovorin 75 mg/body 2 例,S-1 80 mg/m2 1 例であった。grade 2 以下の有害事象を3 例に認めたが,全例が治療を完遂した。化学放射線療法終了1 か月後の奏効率は57.1%(4 例)で,いずれも浸潤所見が消失した。4 例で他臓器合併切除されたが,5 例で根治度A またはB の手術が可能であった。組織学的には4 例で他臓器浸潤なく,このうち1 例は腫瘍の遺残を認めなかった。術後全例に縫合不全1 例を含む合併症を認めたが,いずれも保存的に改善した。根治度A の手術を施行し得た4 例中1 例に肝および局所再発を認めたが,3 例は無再発生存中である。化学放射線療法は他臓器浸潤した直腸癌に対して安全に施行が可能で,切除率および予後の向上が期待された。 -
キチン/Cisplatin─新剤形─
35巻12号(2008);View Description Hide Descriptioncisplatin(CDDP)に局所停留能を付与し,癌局所療法に適した剤形作製を試みた。70%脱アセチル化キチン(DAC-70)をベースに担体を調製,CDDP 溶液を担持させ粘性流体の剤形とした。新規剤形の組織接着力,CDDP 放出動態,組織反応性をそれぞれ基礎的に検討した。組織接着力は37℃の場合,25℃のそれより強力で,DAC 濃度依存性を示した。新規剤形からCDDP は徐放性を示した。このうちfree Pt は,担体の調製方法により高濃度に放出させることが可能となった。その剤形をラット腹腔内に注入した場合,CDDP は腹腔内にとどまり,血中移行は微量であった。また,胸腔内投与の場合には局所的に胸膜癒着を誘導した。新剤形DAC-CDDP 粘性流体は,局所停留能とCDDP 徐放性を示した。新規癌局所療法の選択肢の一つとして,本剤形臨床利用の可能性が示唆された。 -
T3 症例に対するPaclitaxel の腹腔内投与とS-1 による術前化学療法の試み
35巻12号(2008);View Description Hide DescriptionT3 胃癌症例は,腹膜播種性再発の頻度が高く予後不良である。今回CT でT3 が疑われ,腹腔鏡検査でP0,CY0 のT3症例に対する術前化学療法(NAC)について報告する。対象: 2002 年12 月から2003 年3 月までの5 症例。NAC はPTX(60mg/m2 day 1,8)の腹腔内投与と,S-1(80 mg/m2 2 週投与1 週休薬)の併用療法で,1 コース後手術を行った。2 症例でPTX の経時的血中濃度測定を行った。結果: 37〜74歳,男性の5 症例。NAC による癒着などもなく,手術・術後経過に特に問題はなかった。血中濃度はip 後1 時間から6 時間にかけて100 ng/mL 程度となった。4 例に胃全摘術を,1 例に幽門側切除を行い,最終診断はStageIB: 1 例,II: 1 例,IIIA: 1例,IIIB: 1 例,IV(N3): 1 例であった。2 例が無再発生存中(64 か月,62 か月)であるが,3 例が腹膜再発,肝転移,リンパ節転移で死亡した(10 か月,11 か月,16 か月)。考察: 今回の治療は安全に施行可能で,NAC の候補としてさらに検討が必要である。 -
肝細胞癌に対するIA Call/Lipiodol による肝動脈化学塞栓療法と部分的脾塞栓術併用の意義
35巻12号(2008);View Description Hide Descriptionはじめに: 部分的脾塞栓術(PSE)の血球増加作用や肝機能の改善作用が報告されている。肝細胞癌に対してPSE と肝動脈化学塞栓療法(TACE)を同時に施行する意義を検討した。対象と方法: 2004 年1 月〜2007 年12 月にTACE とPSE を同時に施行した肝細胞癌8 例(併用群)と同時期の年齢,血小板数,IA call の使用量,肝障害度をマッチングさせたTACE単独施行15 例を用いた。ヘモグラム,肝機能における術前値,術後最不良値,術前値に復帰するまでの日数を検討した。結果: 1. TACE 単独群で血小板数はより低下し(術後最不良値4.1±1.3×10 4 vs 4.5±1.3×10 4),最終的な血小板数はPSE 併用群で有意に高値となった(4.5±0.8×10 4 vs 11.7±4.5×10 4)。2. 肝障害や合併症においては有意な差を認めなかった。まとめ: IA call/Lipiodol を用いたTACE にPSE を同時に併用することにより,血小板減少の頻度が軽度で,最終的に血小板数を高値に安定化させることができる。 -
食道癌化学療法中に腫瘍崩壊症候群を来した1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description食道癌患者でTLS を来した症例を報告する。症例は57 歳,男性。食道癌に対し手術を施行した。術後,CT で頸部および上縦隔リンパ節再発および多発性骨転移,多発性肺転移を認めたため化学療法を行うこととなった。化学療法(docetaxel 30 mg /m2+nedaplatin 30 mg/m2 を隔週投与)施行後11 日目には,血清クレアチニン8.57 mg/dL,尿酸値11.0 mg/dL,血清カリウム6.3 mEq/L,血清リン7.18 mg/dL まで上昇したため,TLS と診断した。補液および利尿剤の投与,アロプリノールおよびクエン酸カリウム・クエン酸ナトリウムの内服を行ったところ,非常に奏効した。食道癌化学療法によるTLS 発症報告例は1 例もなく,極めてまれなので報告する。 -
放射線単独療法によりCR を得た多発食道癌術後異時性頸部進行食道癌の1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description肝硬変,糖尿病を合併した多発食道癌術後異時性頸部進行食道癌症例に対し放射線単独療法を行い,complete response(CR)を得たので報告する。症例は69 歳,男性。63 歳時食道癌に対し食道切除術を施行され,外来経過観察中であった。特に愁訴はなかったが,定期検査として上部消化管内視鏡を施行。頸部進行食道癌を認めた。全身状態が不良のため放射線単独療法とした。計59 Gy 完遂しCR を得た。特に合併症は認めなかった。その後30 か月経過した現在においても再発なく経過中である。全身状態が不良な患者においては放射線単独療法も有効な治療法であることが示唆された。 -
食道癌気管浸潤に対して気管ステントを留置した4 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description食道癌の気管浸潤に対してしばしば気管ステントが留置されるが,一時的な病態の改善を目的とする処置であり挿入後の経過は良好とはいえない。今回われわれは,食道癌気管浸潤を認め気管ステント留置を施行した4 例を経験した。症例1〜3 は放射線化学療法(CRT)後の再発症例で,気管ステント挿入後の予後は18〜55 日と不良であった。症例4 はCRT が未施行の症例で,ステント挿入後の放射線化学療法が奏効しステントを抜去でき,さらにQOL の改善と今後の長期予後が期待できた。以上より,CRT 未施行症例に対しては積極的に気管ステント留置を考慮するべきと考えられた。しかしながら,呼吸困難という致死的な病状の回避に極めて迅速で有効な処置であり,救命という観点からは生命予後のいかんにかかわらずステント挿入を試みる意義は十分にあると思われる。 -
縦隔鏡下食道切除術後のリンパ節再発に対し化学放射線療法が著効した1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description症例は63 歳,男性。深達度T1b の食道癌で紹介となったが,肺結核で右開胸の既往があるため縦隔鏡下食道切除術を施行した。術後3 年目に上縦隔リンパ節再発を来し5-FU 500 mg/日(連日),nedaplatin 5 mg×5 日/週による化学療法を4週間施行した。同時に放射線を44 Gy(2 Gy×22 回)照射しPR が得られたため16 Gy(2 Gy×8 回)を追加した。現在まで再発なく経過している。食道癌において開胸困難例では縦隔鏡下食道切除術を選択せざるを得ない場合があるが,厳重なfollow up により早期に再発を確認し治療を行うことが重要である。 -
胃全摘後再発による再建空腸狭窄に対しダブルステント留置が有効であった1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description目的: われわれは胃全摘後再発による再建空腸狭窄に対し,ステント留置が奏効し良好なQOL が得られた1 例を経験したので報告する。症例: 70 歳,女性。2000 年7 月,胃癌の診断にて胃全摘術,Roux-en Y 再建術を施行。病理診断はU-Post,Type 3,por 1,T3,N1,H0,P0,CY0,M0,Stage IIIA であった。術後9 か月より嚥下困難が出現し,再建空腸に狭窄を認めた。狭窄部の生検組織より,胃癌の術後再発と診断した。low-dose FP 療法を2 コース行ったが著効せず,約4 か月間在宅IVH 管理で過ごした。2001 年6 月,患者の希望によりステント留置目的に入院となった。方法: 内視鏡下にガイドワイヤーを挿入し狭窄部より肛門側の通過が良好であることを確認の上,ステントを留置した。ステントはSelf Expandable Metallic Stent(SEMS)を使用した。経過: ステント留置により経口摂取可能となったが,約6 か月半後に狭窄症状が出現し,再びステントを留置(stent in stent)した。結語: ステント留置は比較的簡便かつ低侵襲に行えるため,再発症例に対してもQOL の改善に有用である。 -
術前S-1/Paclitaxel 併用療法を施行しpCR が得られた高度進行胃癌の1 切除例
35巻12号(2008);View Description Hide Description腹腔洗浄細胞診(CY)陽性の高度進行胃癌に対してS-1/paclitaxel(PTX)併用化学療法を施行後,標準的胃切除術を施行し,pCR を確認し得たまれな1 例を経験した。症例は63 歳,男性。診断的腹腔鏡にてCY 陽性でStage IV と診断し,S-1/PTX 併用療法を施行した。その結果,CY 陰性となり胃全摘術+D2 郭清術を施行した。主病巣,リンパ節ともに癌細胞は消失しており,病理組織学的判定基準ではGrade 3 でありpCR を得られた。S-1/PTX 併用療法は大阪消化管がん化学療法研究会のphase II 試験でも高度進行胃癌に対する有用で安全な治療であると報告されており,CY 1 胃癌の術前治療として今後期待される。 -
大動脈周囲リンパ節再発に対し放射線療法が著効したAFP 産生胃癌の1 例
35巻12号(2008);View Description Hide DescriptionAFP 産生胃癌は肝,リンパ節転移が多く,予後不良で平均生存期間は1 年前後という報告が多い。再発に対して放射線療法の有効性の報告はほとんどみられない。今回,大動脈周囲リンパ節転移再発に対し放射線療法が著効したAFP 産生胃癌の1例を経験した。症例は75 歳,女性。3 型胃癌に対し胃全摘,肝部分切除術(術中に肝転移が判明)を施行。pT2N1M0P0CY0H1,stage IV,AFP 産生胃癌であった。術後,肝転移が出現し,RFA,肝切除,5-FU,CDDP による肝動注化学療法,docetaxel,paclitaxel,CPT-11 による静注化学療法を行い肝転移は消失するも大動脈周囲リンパ節転移が出現し,化学療法では制御不可能となった。これらの再発リンパ節に対し放射線療法50 Gy を行ったところ腫瘍は消失し,腫瘍マーカーも正常化した。現在術後3 年6 か月経過したが無再発生存中である。AFP 産生胃癌に対し放射線療法が有効な治療となり得る可能性が示唆された。 -
術後S-1/CDDP 併用療法を実施した胃未分化癌の1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description67 歳,女性。主訴は全身倦怠感。上部消化管内視鏡検査にて胃幽門部に全周性の潰瘍性病変が存在。腫瘍マーカーはNSE のみ高値。生検組織では上皮配列のみられないmonotonus な小型異型細胞の増殖がみられた。幽門側胃切除術D2 郭清実施。病理組織診断はundifferentiated adenocarcinoma,pT3(SE),INF β,ly3,v2,pN1(+)。外来化学療法としてS-1(100 mg/日,2 週投与1 週休薬)を開始。3 か月後にNSE は正常化したがCEA が上昇。この変化に対してCDDP 併用(day 3,10; 30 mg 静注)を開始。小康状態を得た後,CEA がさらに上昇したためCPT-11 併用療法(day 1,8; 70 mg 静注)に変更。しかし術後6 か月後に永眠された。胃未分化癌はまれで免疫組織染色が診断に有用である。予後は悪いが,補助化学療法としてS-1/ CDDP 併用療法が有用な可能性がある。 -
四次治療としてS-1+CDDP+放射線治療が有効であった胃癌の1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description症例は69 歳,女性。2006 年5 月の胃内視鏡検査にて体下部から前庭部に2 型胃癌を認めた。6 月に幽門側胃切除,十二指腸水平脚合併切除,D2 リンパ節郭清,Roux-en Y 再建術を施行した(s-T4N0M0H0Cy0P0,f-Stage IIIA)。膵浸潤に対してpEM(+)であったため,術後にS-1+docetaxel 併用療法を開始した。しかし12 月に膵頭部に24 mm の局所再発を認め,二次治療としてCPT-11+CDDP 併用療法,三次治療としてpaclitaxel 単剤治療を施行したが,2007 年11 月に同部位は38 mm に増大した。他には再発所見を認めなかったため,12 月から四次治療としてS-1+CDDP+放射線治療を開始し,2008年1 月に同部位は25 mm に縮小した。四次治療中にgrade 3 の好中球減少以外にgrade 3 以上の有害事象は認められなかった。本症例は化学療法に多剤耐性であったが局所再発なので,化学放射線療法も治療選択の一つであった。 -
S-1 単剤,Paclitaxel 単剤によりそれぞれ肝転移,肺転移がCR になった胃癌の1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description症例: 65 歳,男性。胃癌に対し2000 年6 月に根治手術を施行後,2003 年12 月に肝S6 に転移を認め,2004 年2 月に肝部分切除術を施行した。10 月に再度肝S6 に転移を認め,一次治療としてS-1(80 mg/m2,4 週投与2 週休薬)を開始したところ3コース後にCR となり,2007 年1 月までCR を継続した。その間,grade 2 の非血液毒性を認め,S-1 を減量,2 週投与1 週休薬とし,非血液毒性はgrade 1 に改善した。1 月多発性肺転移を認め,2 月より二次治療としてpaclitaxel 単剤(80mg/m2,day 1,8,15/28 days)療法を開始した。4 コース後に肺転移はCR となり,14 コース後の2008 年5 月現在,肝転移,肺転移ともにCR を継続している。その間,grade 3 の血液毒性を認めたため10%の減量を3 回施行し,その結果,血液毒性は消失した。 -
Grade 4 血液毒性を生じたS-1+CPT-11 併用療法をDose Down 行い継続し著効を得た切除不能進行胃癌の1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description症例は73 歳,男性。心窩部痛を主訴に2007 年6 月近医を受診し,7 月当院にて精査を施行した。幽門前庭部全周性2型胃癌,リンパ節転移,多発肝転移: cT3N1H1P0M0,Stage IV と診断した。performance status(PS)0,経口摂取可能であり,8 月よりS-1+CPT-11 併用療法(IRIS regimen)を開始した。S-1 投与量は120 mg /body/day でday 1〜21,CPT-11はday 1,15 に80 mg/m2: 124 mg/body を投与し5 週間を1 コースとした。1 コース目に発熱を伴うgrade 4 血液毒性(WBC 440/Neut 200)を呈したため緊急入院となった。G-CSF 投与,クリーンルーム管理,広域スペクトル抗生物質投与にて管理し,grade 3 の腹痛,下痢,倦怠感を認め対症療法を施行した。1 コース終了後,原発巣・肝転移の縮小を認めたため同一regimen をdose down し継続することとした。S-1 は2 level dose down とし80 mg/body/day,CPT-11 は10% dose down:100 mg/body 投与とし2 コース目を施行した。さらに肝転移の縮小を認めたが,grade 2 好中球減少症が持続したためdose down を繰り返し,CPT-11 は40% dose down: 74 mg/body にて投与継続し,リンパ節転移,肝転移,原発巣はCR となった。現在9 コース目を施行中である。 -
胃切除術と術後化学療法にて長期生存中のCY1,Stage IV 胃癌の2 例
35巻12号(2008);View Description Hide DescriptionStage IV 胃癌の予後は極めて不良であるが,CY1,Stage IV 胃癌に対し手術と術後化学療法にて長期生存中の2 例を経験したので報告する。症例1: 30 歳台,男性。心窩部痛にて当院を受診し,GIS にて胃角から前庭部小弯の3 型病変を認め,tub 1 と診断された。2002 年3 月に胃亜全摘術(D2),Roux-en Y 再建術を施行(fT3N2M0H0P0CY1,Stage IV)。術後にS-1 を120 mg/日で2 投1 休とし,38 か月間服用。術後6 年2 か月で無再発生存中である。症例2: 20 歳台,男性。黒色便を主訴にGIS を施行し胃体中部小弯に3 型病変を認め,por と診断された。2004 年6 月に胃亜全摘術(D2),Roux-en Y 再建術を施行(fT3N2M0H0P0CY1,Stage IV)。術後にS-1 を120 mg/日で4 投2 休とし,13 か月間服用。術後3 年11 か月で無再発生存中である。Stage IV 胃癌であってもCY のみが非治癒因子の場合,標準手術と術後の化学療法を組み合わせることで根治できる可能性が示唆された。 -
ラジオ波焼灼療法(RFA)が奏効した胃癌肝転移の1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Descriptionラジオ波焼灼療法(RFA)が奏効した胃癌肝転移の1 例を経験したので報告する。症例は63 歳,男性。2004 年4 月2 型進行胃癌に対しD2 リンパ節郭清を伴う幽門側胃切除術を施行した。術後病理学的所見は,pT2N1M0,Stage II で根治度A の手術であった。術後補助療法は行わずに経過をみていたが,術後11 か月のCT 検査にて肝S7 にSOL が出現し,胃癌の肝転移と考えられた。肝転移巣に対しRFA を施行し,完全消失が得られた。施行後30 か月経過後も再発の徴候はなく健在である。胃癌肝転移の局所療法として,RFA は有効な治療法の一つとなり得る可能性が示唆された。 -
術後長期生存を得られているP1CY1 胃癌の1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description57 歳,男性。2004 年当院にて胃癌に対して胃全摘術を施行(f-T3N2H0P1CY1M0,Stage IV)した。術後に化学療法をseventh-line まで施行し,最終的に46 か月の長期生存を得られた。腫瘍の増大傾向が認められた場合,なるべく早期にレジメを変更することで長期生存を得られる可能性がある。 -
胃癌術後の脾臓転移再発の1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description76 歳,女性。2006 年2 月に体中部後壁2 型胃癌に対し,胃全摘術および2 群リンパ節郭清を施行した。術後の定期的検査にて2008 年1 月に腫瘍マーカー(CEA 10.7 ng/mL,CA19-9 110 U/mL)の上昇あり。腹部造影CT 検査所見では脾臓に約60 mm 大の低吸収域を認めたが,他に明らかな転移再発所見を認めなかったため胃癌の脾臓転移再発と診断。2 月5 日に脾臓摘出術を施行した。術後病理組織診断では脾臓内に最大径約65 mm の充実性腫瘤を認め,前回手術した原発巣と類似した中分化型管状腺癌の胃癌脾臓転移再発と診断された。胃癌術後の異時性脾臓転移を切除した報告は極めてまれであり,文献的考察を加えて報告した。 -
術後に重篤な合併症を併発し術前化学療法を施行した胃癌の2 症例
35巻12号(2008);View Description Hide Description術前化学療法(NAC)が原因と考えられる重篤な術後合併症を併発した進行胃癌の2 症例を報告する。症例1 は60 歳,男性。体下部小弯中心の2 型胃癌で大動脈周囲リンパ節転移を認め,CA19-9 が217.5 U/mL と上昇していた。NAC の効果なく,胃全摘術+膵体尾部脾切除+胆摘+肝部分切除術を施行した。術後左横隔膜下に腹腔内膿瘍を認めたため,CT ガイド下ドレナージを施行した。培養でCandida albicans,Candida glabrata が検出された。症例2 は58 歳,男性。胃角小弯中心の2型胃癌で胃周囲リンパ節腫大を認め,CA19-9 が116.1 U/mL と上昇していた。NAC の効果なく,幽門側胃切除術を施行した。術翌日腹部緊満症状が出現し再開腹を行ったが,腸管閉塞の所見は認めなかった。術後2 日目の検査でβ-D-グルカン値の上昇を認めた。2 例とも抗真菌薬の投与で軽快退院した。 -
活動性出血を伴う進行胃癌の保存的治療
35巻12号(2008);View Description Hide Description進行胃癌において,活動性の腫瘍出血は患者のQOL を低下させることがある。高齢や遠隔転移などによる手術不適応の進行胃癌からの活動性出血に対して,保存的治療を施行した。2 例の患者に腫瘍血管に対する塞栓術やS-1 による放射線化学療法を施行した。治療後は特に副作用もなく経過し,治療後も活動性出血の再発や貧血の極端な増悪もなく余命を経過し,胃癌以外の他疾患にて死亡された。 -
短期間に急速な増大傾向を示した胃GIST の1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description症例は75 歳,男性。吐血を主訴に当院内科外来を受診。上部消化管内視鏡検査にて胃噴門部前壁に約30 mm 大の頂部に潰瘍形成を伴った粘膜下腫瘍を認めた。腹部造影CT 所見では,胃噴門部に壁外に突出した27 mm 大のlow density massを認めた。生検結果から胃GIST と診断し,胃局所切除術を予定した。しかしながら,術前に再度内視鏡検査を施行したところ病変は肉眼的に増大しており,腹部CT 所見では50 mm 大に明らかに増大していた。腫瘍は噴門に近接して存在したため,術式を噴門側胃切除術に変更した。術後病理診断は高悪性度GIST であった。短期間に急速に増大したGIST 症例の報告はまれである。今回,術前の1 か月間で急速に増大した胃GIST の1 例を経験したので報告する。 -
S-1+CDDP 療法による術前化学療法が奏効した原発性十二指腸癌の1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description原発性十二指腸癌はまれな腫瘍で,治癒切除が可能であれば切除が原則である。治癒切除困難と考えられた局所進行十二指腸癌に対して,S-1+CDDP 療法の術前化学療法により治癒切除可能となった1 例を経験したので報告する。症例は60歳台の男性。初診時bulky なリンパ節転移を伴う原発性十二指腸癌と診断された。非治癒切除となる可能性があると判断し,術前化学療法を施行した。S-1 80 mg/m2 をday 1〜21 で経口投与し,day 8 にCDDP 60 mg/m2 を5 週ごとに投与した。有害事象は認めず,2 コースの投与でPR の効果が得られ,膵頭十二指腸切除を施行した。術後,吻合部出血と膵液漏を生じたが術前化学療法に関連する有害事象はなかった。病理組織学的効果判定はGrade 2 であった。術後補助化学療法としてS-1 投与中である。術後6 か月,明らかな再発はなく生存中である。局所進行十二指腸癌に対する術前S-1+CDDP 療法は安全に治療可能で,治癒切除率・生存率を上げる可能性がある。 -
肝細胞癌合併非代償性肝硬変に対する肝移植後の肺転移再発5 例の治療経験
35巻12号(2008);View Description Hide Description肝細胞癌合併非代償性肝硬変に対する肝移植後の肺転移再発5 例に対する治療経験について報告する。当院にて2007年12 月までに施行した肝細胞癌合併非代償性肝硬変に対する肝移植34 例(ミラノ基準内/外: 17/17)のうち,初発再発部位として肺転移再発を来した症例は5/11 例(46%)と最も多く認められた。うち2 例は経過観察のみで,2 例に肺切除を施行,1 例にはS-1/IFN を用いた化学療法を施行した。再発後の生存期間は中央値で18.9 か月(7.5〜43.0)で肺切除を施行した症例で新たな再発を認めず,長期生存する1 例を認めている。 -
胆嚢転移を来した肝細胞癌の1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description症例は74 歳,男性。1998 年から他院で肝細胞癌に対して内科的治療を施行。2007 年4 月肝S6 の再発に対しTAE を計4 回行ったが,CT 上門脈内腫瘍栓を認め手術目的で当院を受診。画像所見ではS5/S6 から右肝門部付近に至る境界不明瞭な腫瘍を認め,門脈右本幹まで腫瘍栓が充満。また胆嚢壁の浮腫性肥厚を認めたが,明らかな腫瘍性病変や浸潤像はなし。2007 年9 月肝拡大後区域切除術,門脈内腫瘍栓摘出術,胆嚢摘出術を施行した。胆嚢壁は肥厚し,周囲に高度の炎症を伴い易出血性であったが,明らかな腫瘍の浸潤は認めなかった。摘出標本で主病変から門脈内腫瘍栓へ続くviable な部分を伴い,また胆嚢粘膜面にびまん性に広がる隆起性病変を認めた。明らかな主病変との連続性はなく,病理組織学的に主病変と同様の低分化型肝細胞癌が粘膜固有層から筋層中心に存在し,脈管内に腫瘍成分が充満した所見も認めたため,胆嚢転移と診断した。 -
生体肝移植後の肝癌再発に対し集学的治療にて長期生存を得ている1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description脈管侵襲を伴うミラノ基準外肝癌への生体肝移植後肝癌再発に対し,集学的治療にて長期生存している1 例を経験したので報告する。症例は61 歳,男性。両葉多発肝細胞癌合併のアルコール性肝硬変に対し右葉グラフトを用いた生体部分肝移植を施行した。腫瘍個数は約50 個,最大径は3.3 cm,組織型は低分化でVp2 の脈管侵襲を認めた。術後12 か月目に腹膜播種再発を認め,肝・横隔膜合併腫瘍切除術を施行。術後17 か月にはグラフト内の再発を認め,以降はRFA,PEIT,TAE を繰り返し施行している。術後33 か月にも腹膜播種切除を行った。現在,移植後5 年7 か月経過し,脾臓転移や肺転移も認めているが,集学的治療を施行しつつ外来経過観察中である。肝癌に対する肝移植においては有効な再発治療が確立されておらず,特に早期再発した症例の予後は極めて悪いとされてきた。しかしながら,本症例のように進行肝癌症例に対しても化学療法や積極的な再発巣切除,RFA やTAE などの局所療法を駆使することで長期生存できる症例もある。 -
外科治療と放射線療法でTumor Free となった肝細胞癌多発リンパ節転移の1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description外科治療と放射線療法でtumor free となった肝細胞癌多発リンパ節転移の1 例を経験した。症例は71 歳,女性。前医で肝S8 の肝細胞癌に対して2002 年5 月から2 回の肝動脈化学塞栓療法を施行されたが,治療部位再発を認めたため当科紹介となった。2003 年5 月に肝前区域切除術を施行した。術後に残肝再発,リンパ節転移を認め局所凝固療法3 回,リンパ節摘除術2 回,放射線療法を2 回施行した。その後外来経過観察中であるが,初回肝切除から5 年,2 回目のリンパ節摘除術から2 年10 か月経過した現在,無病生存中である。 -
IFN-α/5-FU 併用動注化学療法治療後に無効病巣の出現および他臓器浸潤に対して切除術を施行した混合型肝癌の1 例
35巻12号(2008);View Description Hide DescriptionIFN-α/5-FU 併用動注化学療法(FAIT)施行後に,無効病巣の出現および他臓器浸潤に対して切除術を施行した混合型肝癌の1 例について報告する。症例は63歳,女性。肝左葉の不均一な造影効果を伴う腫瘍と門脈内腫瘍栓に対しFAIT を施行した。腫瘍は著明に縮小,2 年4 か月間化学療法を継続施行し,腫瘍は制御し得ていた。しかしながら無効病巣の出現および他臓器浸潤を認めたため,手術(肝外側区域切除術,横隔膜・左肺部分切除術,胆嚢摘出術)を施行した。病理組織診断は,横隔膜への浸潤を伴う混合型肝癌であった。IFN レセプターの免疫組織学的検査結果において,肝細胞癌成分で陽性部位と陰性部位の混在を認めた。胆管細胞癌成分は陰性であった。本症例において,FAIT が奏効しなくなった原因として,FAITの感受性のない腫瘍細胞の増殖や肝動脈以外からの血流の供給などが推察された。 -
混合型肝癌に対して肝動脈塞栓化学療法,肝動脈注入化学療法およびラジオ波焼灼療法を併用した1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description症例は78 歳,男性。2007 年7 月に心筋梗塞後の胸部CT にて偶然に肝腫瘍を指摘され,8 月腹部ダイナミックCT 検査を施行したところ,肝S8: 5.5 cm 大と4.0 cm 大,S5: 1.8 cm,S6: 1.4 cm と計4 個の多発する腫瘍が認められた。これらは,乏血性腫瘍と多血性腫瘍が混在しており,Allen の分類による重複癌型の混合型肝癌であると診断した。7 月に心筋梗塞を発症した直後であるため手術は困難であると判断し,まず8 月にvascularity の高いS8: 4.0 cm,S5,S6,計3 個の多血性腫瘍に対して,合計epirubicin 40 mg およびLipiodol 2 mL にて肝動脈塞栓化学療法を施行した後,9 月に同部位にラジオ波焼灼療法を施行した。次いで,S8: 5.5 cm の乏血性腫瘍についてはCDDP 70 mg および5-FU 500 mg を動注した。施行後8か月を経過した現在,4 個の腫瘍のうち,S8: 4.0 cm,S5,S6 の腫瘍についてはLipiodol の集積は良好でサイズの変化はなく,S8: 5.5 cm の腫瘍は4 cm と縮小効果がみられている。重複癌型の混合型肝癌に対して,それぞれの特性に対応した局所療法が有効であったと考えられた。 -
同時性三重複癌を認めた進行肝細胞癌の1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description今回われわれは,進行肝細胞癌に胃癌,直腸癌を伴った同時性三重複癌の切除症例を経験した。症例は68 歳,男性。進行肝細胞癌,胃癌の診断で当科を紹介された。肝細胞癌に対するTACE 後のCT で直腸癌が指摘され,同時性三重複癌の診断に至った。出血・閉塞の可能性のため,直腸癌に対しては低位前方切除術を施行した。その後,肝細胞癌に対しTACE を3 回施行し一部に無効病巣の出現を認め,胃癌はこの間増大傾向にあったが根治切除可能であった。同時切除にて長期生存の可能性もあると判断し,肝S7 部分切除術,幽門側胃切除術を同時に施行し得た。進行肝細胞癌を含む同時性重複癌症例に対しては,それぞれの進行度と病勢を考慮した集学的な治療が肝要であると考えられる。 -
膵癌肝転移に対して肝切除と術後補助化学療法を施行し良好な経過をたどった1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description膵癌再発の治療は困難である。われわれは膵癌根治術後に補助化学療法を行い,経過中に肝転移を来し肝切除を施行し,その後再度化学療法を行い良好な経過をたどっている症例を経験したので報告する。2006 年3 月浸潤性膵管癌の診断で膵頭十二指腸切除術を施行,高〜中分化型管状腺癌pT4,pN0,sM0,fStage IVa であった。合併症はなく術後23 日で退院した。術後30 日目からgemcitabine(GEM)1,000〜1,400 mg/body 隔週投与による補助化学療法を施行した。術後8 か月より血清CA19-9 値の上昇がみられた。約10 か月後に肝転移(S6 に単発)が判明したため,GEM 投与を1,200〜1,400 mg/body 3 投1 休に変更し投与したが,血清CA19-9 値の上昇が続いたのでPD 後13 か月で肝部分切除(S6)を施行した。合併症はなく術後21 日からGEM の再投与を開始し,PD 術後27 か月経過しているが血清CA19-9 値は基準値にあり,画像診断上再発の所見なく外来観察中である。 -
放射線化学療法後に発生した膵体尾部癌のSister Mary Joseph’s Nodule(SMJN)の1 切除例
35巻12号(2008);View Description Hide Description症例は68歳,男性。上腹部痛を認めて当院を受診。膵体部癌(cT4N1M0/stageIVa)の診断で非手術適応と判断し,入院の上,放射線化学療法(3 Gy×15 日+GEM 1,000 mg×3 回)を施行。その後は外来でUFT-E 2 g/週+GEM 1,000 mgを施行していたが,約2 cm の臍部腫瘤を認めたため腹部CT 検査を施行,肝S3 に約2 cm の転移巣と臍転移を指摘された。本人の腹部違和感が強く,手術による切除を希望したため肝転移巣をMCT で焼灼,臍腫瘍切除術を施行。最終切除標本は膵癌の臍転移の診断であった。術後化学療法を再開するも,4 か月目(治療開始14 か月目)に死亡となった。悪性腫瘍の臍転移はSister Mary Joseph’s nodule(SMJN)といわれて,予後不良の兆候とされている。今回,進行膵癌に対して放射線化学療法後に肝臓転移と臍転移を認めたSMJN の1 例を経験したので文献的考察を加えて報告する。 -
術中照射が奏効した切除不能膵体部癌の1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description当院では1995 年以来,切除不能膵癌症例などに対し約40 例の術中放射線治療を行っている。今回,術中照射が奏効した切除不能膵体部癌の1 例を経験したので報告する。症例は57 歳,女性。2007 年4 月心窩部痛を主訴に近医受診。精査の結果,門脈,脾動脈および総肝動脈に浸潤する4 cm 大の膵体部癌(T4N1M0,Stage IVa)と診断され,6 月当院に治療目的に入院。6 月18 日手術施行。開腹するも腹腔動脈から上腸間膜動脈へ高度に浸潤し外科切除不能であり,腫瘍生検および術中照射(5 cm照射筒を用いて12 MeV,20 Gy)のみを施行した。膵生検の結果は,中分化型管状腺癌であった。術後は体外照射を追加することなく疼痛が消失し,gemcitabine 1,000 mg 週1 回投与を開始した。外来にてgemcitabine 4 クール後10 月のCT 検査では,腫瘍は著明に縮小しPR と判断した。 -
同時性肝転移,肺転移を有する膵管癌に対して全身化学療法,動注療法,放射線療法を施行し1 年以上外来でコントロールできた症例
35巻12号(2008);View Description Hide Description予後不良の肝,肺同時転移のある切除不能膵管癌症例に対して,全身化学療法と局所療法の集学的治療をすることで,副作用をできるだけ抑えて予後の延長を図ったので報告する。症例は74 歳の女性で,主訴は背部痛と食欲不振。来院時すでに小肝肺転移を有していたため,膵炎治療ならびに全身化学療法を施行した。5-FU 1 g/body とgemcitabine 1 g/body を交互に隔週ずつ外来で投与するものである。1.5 か月後放射線療法を総量40 Gy で照射開始。終了後化学療法を元に戻し,主腫瘍は縮小。4.5 か月後肝転移が増大増量したため,肝動注療法の併用を開始した(1 回目のみ5-FU 3 g/3 day その後0.5〜0.75 g/週)。これにより肝転移は著明に縮小したが,肺転移が増大,胸腹水も出現し化学療法開始後15 か月目に呼吸困難で入院され,17 か月目に死亡された。進行性膵管癌に対する全身化学療法を主体とする局所療法併用療法は,QOL を保ちながら予後延長を図れると思われた。 -
S-1+Gemcitabine(GEM)療法が奏効した切除不能膵頭部癌の1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description目的:膵癌の治療成績は極めて不良であり,特に切除不能例に関して長期生存を得ることは非常に困難である。今回,切除不能膵頭部癌に対しS-1+gemcitabine(GEM)療法が奏効した1 例を経験したので報告する。症例: 70 歳,男性。心窩部痛を主訴に初診。黄疸も認め精査にて膵頭部癌,門脈・総肝動脈浸潤,十二指腸浸潤の診断。Phb,TS2 浸潤型(infiltrative type)T4,CH(+),DU(+),S(+),RP(−),PV(+),Ach(+),PLX,OO(−),N0,M0,Stage IVa の術前診断にて胃空腸吻合術,胆摘術を施行。術中所見としては,肝転移(−),腹膜転移(−)であった。術後S-1+GEM(S-1 100mg/day,day 1〜14,GEM 1,000 mg/m2 day 8,15,2 週投与1 週休薬)を開始。2 コース目までは腫瘍の著変はなかったが,6 コース終了後には明らかに腫瘍の縮小を認め,10 コース終了後にはさらに縮小を認めた。14 コース終了後では画像上腫瘍を同定し得なくなった。初診から1 年5 か月経過した現在も,腫瘍の再燃なく化学療法を継続中である。本症例においてS-1+GEM 療法は重篤な副作用もみられず,切除不能膵癌における安全性とQOL を損なわない治療法であり生存期間延長の可能性が期待された。結論: S-1+GEM 療法は,切除不能膵癌に対しても長期予後を期待できる可能性が示唆された。 -
Gemcitabine Hydrochloride(GEM),S-1 およびNedaplatin 併用療法が有効であったと考えられる再発膵癌の1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description症例は57 歳,男性。2006 年6 月上旬より褐色尿,眼球黄染および食思不振を認め,閉塞性黄疸の診断で入院。精査で膵頭部癌と判明し,7 月中旬に幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した。切除標本ではPh,pTS3(40 mm),pT3,pN1,sM0,f stage IIIであった。11 月の腹部CT 検査および12 月のSPIO-MRI 検査にて肝S6 に転移巣を認め,GEM 1,400 mg/body を3 週投与1 週休薬で開始した。当初はSD であったが,2007 年4 月の腹部CT 検査では肝転移巣はPD となりGEM 単独でのコントロールは困難と判断,4 月下旬よりGEM 1,400 mg/body(days 8,15)+S-1 80 mg/body(days 1〜14),days 16〜20 は休薬としてsecond-line の治療を開始した。6 月上旬のCA19-9 は一時低下したがその後再上昇し,2008 年2 月の腹部CT 検査では肝転移巣の増大および局所再発巣の出現を認めた。そのため2008 年3 月より,third-line としてGEM およびnedaplatin(CDGP)の併用療法を開始しSD を維持している。切除不能・再発膵癌ではGEM 耐性となった場合は治療に難渋するが,S-1 やCDGP の併用により病勢コントロールが可能な場合もあり,今後のさらなる検討が必要であると考えられた。 -
各種局所療法を施行したMixed Acinar-Endocrine Carcinoma肝転移の1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description膵併存癌はまれであり,その報告は極めて少ない。今回,腺房細胞癌と島細胞癌の混在するmixed acinar-endocrine carcinoma 肝転移の1 例を経験したので報告する。症例は60 歳台の女性。膵腫瘤の精査目的に紹介となる。腹部CT,MRI上膵頭部の腫瘍と肝腫瘤を血管造影検査で上腸間膜静脈の腫瘍塞栓を認めた。穿刺吸引生検法にて膵腺房細胞癌と組織診断された。以上,膵腺房細胞癌の診断の下,幽門輪温存膵頭十二指腸切除術および門脈合併切除術を施行した。病理組織学的検査の結果,mixed acinar-endocrine carcinoma と診断された。術後肝転移に対しTAE 施行およびS-1 投与を行うも,腫瘍の増大を認めたため5-FU,CDDP の肝動注を施行した。肝動注開始後約4 か月no change(NC)の状態を保っている。 -
胆管癌術後4 年後局所再発に対し腔内・体外照射,化学療法,T-チューブステントを行った1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description症例は73 歳,男性。2001 年胆管癌に対しPPPD-IIA-1 が施行された。2005 年7 月肝内胆管の拡張と肝機能障害を認めPTBD を行った。胆汁細胞診にてadenocarcinoma が検出され,左胆管吻合部の局所再発と診断した。十分なinformed consent 後に放射線化学療法を行った。2005 年9 月,30 Gy の体外照射施行後に25 Gy の腔内照射を追加した。併用薬剤はUFT 200 mg が用いられた。その後,局所再発による肝内胆管拡張に対してT-チューブによる内瘻化を行った。2006 年腹部造影CT で肝転移を認めた。GEM 600 mg/body を隔週で開始し,再発後24 か月の生存が得られた。今回,再発胆管癌に対し集学的治療で良好な結果が得られたので報告する。 -
術前化学療法(mFOLFOX6)が奏効し切除可能となった高度浸潤直腸癌の1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Descriptionはじめに: 近年,大腸癌化学療法の進歩に伴い,他臓器浸潤を有する高度進行直腸癌に対する術前化学療法が工夫されている。今回われわれは,術前にmFOLFOX6 が奏効し切除可能となった巨大直腸癌の1 例を経験したので報告する。症例:患者は74 歳,男性。便通異常の精査で2007 年1 月30 日大腸内視鏡検査にて進行直腸癌(3 型,全周性,tub 1>tub 2)を指摘された。腸閉塞解除のために横行結腸双孔式人工肛門を造設。その後外来にて化学療法(mFOLFOX6)を6 回施行した。初回受診時,骨盤内腫瘍は小児頭大で仙骨膀胱浸潤陽性のため切除不能と考えられていたが,mFOLFOX6 施行後には直径約5 cm となり(効果判定PR),切除可能と判断され,9 月28 日ハルトマン手術を施行した。病理組織学的検査では術前化学療法の組織学的効果判定はGrade 2,中分化型腺癌,腫瘍組織内に高度の線維化とリンパ球浸潤を認めた。考察: 遠隔転移のない高度進行直腸癌における切除困難例に対して術前化学療法は有効な補助療法となる可能性が示唆された。 -
若年者・高度進行直腸癌に対する集学的治療の経験
35巻12号(2008);View Description Hide Description40 歳未満の若年者大腸癌患者の発生頻度は5〜10%といわれ,高度進行癌もしばしば経験する。年齢を考えると積極的な治療が必要であるが,子供が小さいことも多く家族と過ごす時間も重要である。今回,37 歳,男性の会陰膿瘍を伴った直腸癌・同時性肝転移に対して集学的治療を経験したので報告する。2006 年11 月15 日に高度貧血で受診(Hb 4.7 g/dL)。CT にて骨盤後方へ広がる直腸腫瘍を認め,肝前区域に6 cm 大の転移巣を認めた。家族歴は認めず。栄養状態不良で臀部の感染著明,広範な壊死を伴っていたため,S 状結腸ループストマ造設,膿瘍ドレナージ術を施行。全身状態改善の後mFOLFOX6 を開始,whole pelvis RT を併用し(40 Gy/4 週)計6 回施行した。原発巣の縮小がみられたため,2007 年5 月18 日骨盤内臓全摘術,腹直筋皮膚脂肪弁,回腸導管造設術を施行。8 月10 日よりmFOLFOX6+bevacizumab を計7 回施行。肝転移巣はやや縮小,他の再発巣が出現しなかったため,2008 年1 月8 日肝部分切除術を施行した。腫瘍は49 mm 大,門脈に腫瘍塞栓を認めた。2 月29 日よりFOLFIRI+bevacizumab を投与中である。 -
肝門部リンパ節転移による閉塞性黄疸に対しmFOLFOX 6 療法を導入し得た直腸癌多発肝転移の1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description肝障害患者に対する化学療法には潜在的な危険を伴う。FOLFOX 療法は切除不能大腸癌肝転移に対する標準治療であるが,多発肝転移に関連する閉塞性黄疸患者に対する安全性は確立されていない。肝門部リンパ節転移による閉塞性黄疸に対して経皮経肝胆道ドレナージ(PTBD),胆管ステント留置を行いながら,mFOLFOX6 療法を導入・続行し得た直腸癌切除不能肝転移の1 例を経験したので報告する。患者は32 歳,女性。出産5 日後に多発肝転移を伴う直腸癌穿孔に対しHartmann手術を受けた。術後35 日目にT-Bil 値が上昇していた(3.9 mg/dL)ため,PTBD を施行。その後速やかに減黄されなかったため,70% dose でmFOLFOX6 療法を開始した。胆管ステントを留置し,5 コース目からは100% dose で行った。8 コース終了後の評価はSD であるが,grade 1 の末梢神経障害以外の有害事象は認めていない。 -
肝動注施行中に腹腔内脂肪腫様腫瘤を形成した1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description症例は65 歳,男性。大腸多発癌(下行結腸癌,直腸癌: Stage IIIa)で手術を施行し,術後1 年10 か月で多発肝転移を認めた。肝動注療法を開始し,CR が2 年継続中であった。肝動注開始後7 か月目に左横隔膜下に約10 cm 大の腫瘤を指摘されていた。画像上は脂肪腫疑いであるが増大傾向にあり,肝動注開始後2 年2 か月目に腫瘤切除目的で入院となった。術中所見では,左横隔膜下の腫瘤の他にも大網内に3.5 cm 大の腫瘤を認め,ともに切除した。病理組織学的所見では左横隔膜下の腫瘤は凝固壊死した脂肪組織であり,既存の脂肪組織が壊死し被包化されたものと考えられ,薬剤の血管外漏出が疑われた。大網内腫瘤も同様の所見であった。臨床上は血管外漏出を疑う所見は認めず,術後のポート造影で肝動脈の狭小化と造影剤の脾動脈・下横隔動脈への流出を認めたことより,薬剤分布の変化に伴う血管炎を来したと考えた。 -
術後1 年後に多発肝転移再発を来したS 状結腸sm 癌の1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description症例は55 歳,女性。検診にて便潜血検査陽性を指摘され,近医を受診した。2005 年7 月下部消化管内視鏡検査にてS状結腸に大きさ約2 cm の0-Ip 病変を認め,内視鏡的粘膜切除術を施行された。病理組織学的所見は高分化腺癌,sm2(6,000μm),ly1,v1,cut end(−)であった。sm 深部浸潤あり,脈管侵襲陽性であったため追加治療目的に当院紹介となった。術前精査では遠隔転移を認めず,2005 年10 月4 日にS 状結腸切除術,D2 郭清を施行した。病理組織学的所見はS 状結腸に潰瘍瘢痕を認めるのみで癌は残存しておらず,リンパ節転移も認めなかった。術後1 年後の腹部CT 検査にて,肝S4 とS7 に35 mm と20 mm のLDA を認めた。CEA は7.3 ng/mL と上昇していた。S 状結腸癌肝転移再発と診断し,2006 年11 月17 日に肝内側区域切除術,S7 部分切除術を施行した。病理組織学的所見は高分化型腺癌であり,大腸癌肝転移に矛盾しなかった。術後に補助化学療法としてUFT 300 mg/m2+LV 75 mg/body の内服を計8 コース施行した。その後も再発所見なく,術後2 年7 か月経過した現在も生存中である。大腸sm 癌が術後に肝転移再発を来すことはまれに報告されており,若干の文献的考察を加えて報告する。 -
5-Fluorouracil Bolus 投与による直腸癌術後補助化学療法にて手足症候群を発症した1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description症例は54 歳の男性。直腸癌にて低位前方切除術を施行。fStage IIIa であったため5-FU,levofolinate calcium(l-LV)急速静注療法(RPMI 療法)での術後補助化学療法を開始した。第2 クール開始後から手足症候群が出現し,第2 クール終了時に手足症候群はgrade 2 となり休薬した。その後局所再発し腹会陰式直腸切断術を施行したが,再々発を来し死亡した。手足症候群は5-FU 持続静注療法やcapecitabine 投与例で多いとされているが,RPMI 療法での発症は比較的まれである。RPMI療法においても手足症候群の出現を念頭におき,患者に説明しておくことが手足症候群の早期発見,適切な早期治療につながり,QOL を保ち,抗癌剤の効果が下がるのを防ぐと考えられた。 -
複数回の積極的外科切除により長期生存を得ている再発大腸癌の1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description症例は55 歳,女性。2 型の上行結腸癌,肝転移に対して結腸右半切除術+肝S7 部分切除術(肝の術後診断はadenoma)を施行した。組織学的にはss,n2,ly2,v2,Stage IIIb であった。術後12 か月で腹壁再発による腸閉塞を来し腹壁腫瘤および小腸部分切除術を施行,その後1 年半の間に腹壁および腹腔内リンパ節に3 回の再発を来し,その都度局所切除を施行した。再手術時の摘出標本病理所見はいずれも初回手術の上行結腸癌からの転移であった。以降は本人希望にて化学療法は施行しなかったが,初回手術から約6 年,最終手術から約3 年経過した現在再発なく外来通院中である。再発大腸癌に対する治療においては,有効な化学療法レジメンの台頭により主として手術にて長期生存を得ている症例はまれであり,本症例のように根治切除が施行できれば良好な予後が望めると考えられた。 -
三度の局所切除で長期無再発生存を得ている直腸癌局所再発・肺転移症例
35巻12号(2008);View Description Hide Description症例は67 歳,男性。1993 年他院にて直腸癌に対して腹会陰式直腸切断術を施行された。1999 年臀部痛にて再発が診断され,当科紹介となった。再発腫瘍は,膀胱・前立腺・右内閉鎖筋・右梨状筋に浸潤していたため,骨盤内臓器全摘術を施行した。術前後にlow-dose FP 療法をそれぞれ1 クール(4 w)ずつ施行した。2001 年肺転移(左上葉,2 個)に対し5′-DFUR 600 mg/body /5 投2 休+irinotecan 50 mg/m2/biweekly を行い,新病変の出現がなかったため,2002 年鏡視下に肺部分切除術を施行した。2003 年肺転移(単発性)に対し肺部分切除術を施行した。その後UFT 300 mg/body+PSK 3 g/body everydayにて経過観察し,現在補助療法なく無再発生存中である。大腸癌では局所切除の有効性が証明されており,限局した再発に対してのCur B の切除術は積極的に行うべきである。 -
直腸癌骨盤内再発に対しラジオ波焼灼術(RFA)を行った1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description症例は48 歳,男性。2003 年5 月27 日前医において,直腸癌に対し低位前方切除術を施行された。2004 年11 月吻合部再発の診断で当院を受診し,術前放射線化学療法の後に12 月1 日腹会陰式直腸切断術を施行した。2005 年9 月急性前骨髄性白血病(APL)を発病し,その経過中に骨盤内再発を認め全身状態を考慮し,局所制御を目的としてラジオ波焼灼術(RFA)を施行した。前立腺背側の再発に対しては経過中再燃を認めなかった。仙骨前面への治療後2 週間で膀胱会陰瘻を合併し尿路変更術を施行した。また3 か月には局所再燃を認めた。その後APL の再燃を繰り返し,2007 年8 月27 日白血病死された。重篤な合併症を有する直腸癌骨盤内再発に対し,CT ガイド下RFA により部分的ではあるが局所制御し得た症例を経験し,本法が直腸癌局所再発の治療法になり得る可能性が示唆された。 -
術前化学放射線治療が著効した直腸低分化腺癌の1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description症例は71 歳,女性。肛門痛と出血を主訴に受診し,大腸内視鏡検査にて下部直腸に腫瘍を認め生検により低分化腺癌と診断された。CT およびMRI 検査にて直腸間膜に深く浸潤する径5 cm の腫瘍と骨盤内リンパ節腫大を認めた。初回手術では腫瘍の浸潤が高度で完全切除は困難と判断し,S 状結腸人工肛門造設のみを行った。化学放射線治療(50.4 Gy+5-FU/levofolinate calcium: Isovorin)を行ったところ,腫瘍の縮小と腫大していたリンパ節の著しい縮小を認めた。化学放射線治療終了後6 週目に腹会陰式直腸切断術が行われた。病理組織学的所見では腫瘍は完全に壊死組織に置き換わり癌細胞を認めなかった。大腸低分化腺癌は悪性度が高く,予後不良であることが知られている。術前化学放射線治療は,局所進行直腸低分化腺癌の有望な補助療法の選択肢になり得ると考えた。 -
直腸癌術後の遅発性リンパ漏に対しOK-432 注入が奏効した1 例
35巻12号(2008);View Description Hide DescriptionBRM 製剤であるOK-432 は免疫賦活剤として抗癌剤と併用されており,癌性胸・腹膜炎やリンパ管腫に対する腔内注入でも著明な効果が報告されている。今回われわれは,直腸癌側方郭清後遅発性に骨盤腔に生じた難治性のリンパ漏に対しOK-432 注入が奏効した症例を経験したので報告する。症例は61 歳,男性。2007 年7 月直腸癌に対し超低位前方切除術(D3リンパ節郭清)を施行した。退院後外来通院中であったが,11 月右下腹部腫脹を主訴に来院。腹部CT 検査で2 か所の骨盤膿瘍を認め,経皮的に両側膿瘍ドレナージを施行,排液の性状と量,継続期間から両側側方郭清後の遅発性リンパ漏と診断した。瘻孔化閉鎖目的に両側のドレナージチューブよりそれぞれOK-432 を5 KE 注入したところ,排液は減少し瘻孔は閉鎖した。 -
手術と内服化学療法(UFT/LV)が奏効した頸部・腋窩・大動脈周囲リンパ節転移を伴った高齢者横行結腸癌の1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description大腸癌に対する化学療法には様々な選択肢があるが,80 歳を超える高齢者に対する化学療法については十分なエビデンスが得られていない。今回,頸部・腋窩・大動脈周囲リンパ節転移を伴うstage IV の高齢者高度進行大腸癌に対して,tegafur/uracil(UFT)/Leucovorin(LV)療法が著効した1 例を経験したので報告する。症例は81 歳,男性。左頸部・左腋窩・大動脈周囲にリンパ節転移を伴う横行結腸癌を認めた。腹腔鏡下横行結腸部分切除術を施行した後,UFT/LV 療法(UFT 300 mg/m2/day,LV 75 mg/day)(4 週投与1 週休薬)を開始した。治療開始2 か月後のCT にて,すべての転移リンパ節の著明な縮小を認めた。重篤な有害事象は認められなかった。14 か月のCT でも再燃を認めず投与継続中である。UFT/LV 療法は外来において安全に施行できる治療法であり,高齢者の高度進行大腸癌症例に対しても有用である可能性が示唆された。 -
S-1+CPT-11 併用化学療法にて長期コントロール後に肝転移切除を施行した進行S 状結腸癌の1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description症例は60 歳,男性。進行S 状結腸癌に対しS 状結腸切除術,D3 郭清を施行した。術中所見はSE,P0H1N4M(−),Stage IV であった。術後1 か月よりS-1+CPT-11 併用化学療法を開始した。投与方法は,S-1(120 mg/body/ day)をday1〜day 21 まで内服,CPT-11(80 mg/m2)をday 1 およびday 15 に投与し5 週を1 コースとした。1 コース後の腹部CT 検査で肝転移は著明に縮小し,傍大動脈リンパ節腫脹は消失した(PR in)。8 コース後に患者の希望もありPR のまま投与を中止したが,6 か月後に肝転移再燃のため同メニュー投与を再開した。再開後6 コース投与しCT 検査で肝転移の縮小を認め,PET-CT 検査では肝転移2 か所以外に異常集積を認めず,初回手術から24 か月後に肝部分切除(2 か所),胆摘を施行した。現在術後5 か月で無再発生存中である。 -
直腸癌肝転移に対して放射線療法によりCR となった1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description患者は60 代,男性。2005 年4 月前医にて直腸癌に対して腹腔鏡下低位前方切除術を施行。病期診断は,中分化腺癌,ly0,v0,mp n(−)P0 H0 M(−),stage I であった。術後補助化学療法は施行せずに経過観察となっていた。2005 年10 月超音波検査および腹部CT にて肝転移再発と診断され,加療目的に当院を受診。腹部CT では肝S7 に30 mmの結節影を認めた。PET-CT では他部位に遠隔転移は認めなかった。手術もしくは化学療法を勧めるもこれを拒否。根治的放射線療法の方針とし三次元原体照射(10 門),60 Gy/10 Fr/10 日間を施行した。放射線療法終了後1 か月後のCT にて腫瘍径はφ17 mmと縮小を認め,以降も病変は縮小し照射終了後19 か月目には画像上CR となった。放射線療法施行後25 か月間無再発生存中である。直腸癌肝転移再発についての肝放射線療法が有用である可能性が示唆された。 -
肝嚢胞に隣接する転移性肝癌に対するラジオ波焼灼療法
35巻12号(2008);View Description Hide Descriptionラジオ波焼灼療法(RFA)が奏効した大腸癌肝転移の1 例を経験したので報告する。症例は70 歳台,男性。2006 年2 月にS 状結腸切除術を施行したが,2006 年11 月肝S5 に28 mm 大の転移巣が発見された。全身化学療法を施行したがコントロールし得ず,RFA を行うこととなった。しかし転移巣に隣接して60 mm 大の肝嚢胞があったため,肝嚢胞に対し経皮的エタノール硬化療法を施行してからRFA を行った。RFA 後4 か月経過した時点のCT では十分な焼灼効果が得られている。肝嚢胞に隣接した転移巣に対して経皮的エタノール硬化療法後にRFA を施行する方法は,低侵襲でありながら肝切除と同等の根治性が期待できる治療法の一つになり得ると考えられた。 -
S-1 併用放射線療法+FOLFIRI 療法にてCR を得られた手術不能直腸癌の1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description64 歳,男性。排便困難を主訴に近医を受診。大腸内視鏡検査で下部直腸癌と診断され,加療目的で当科紹介となった。肝転移を認めていたものの,腫瘍出血による貧血と狭窄症状コントロールの必要性を考慮し,開腹手術先攻の治療方針とした。術中所見は多発の肝転移を認めた。また,局所は小骨盤腔で側方リンパ節と一塊になっていた。この時点で局所の切除を断念し,S 状結腸人工肛門造設とした。手術1 か月後より,まずは局所コントロールに主眼をおいてS-1 併用放射線療法を施行した。S-1 は120 mg/day 2 週投薬1 週休薬とした。放射線療法は2 Gy/day 5 日照射2 日休で合計60 Gy の照射を行った。1 か月後のCT でPR in であった。さらに全身化学療法を行うため,CRT 約1 か月後よりFOLFIRI 療法を開始した。6 コース後の画像診断でCR となり,現在6 か月経過しているがCR を続行中である。手術不能直腸癌において,局所療法+全身療法により高い効果が得られる症例があることが示された。 -
全身化学療法CR 後に再燃した大腸癌肝転移に対してラジオ波焼灼療法にて根治が得られた1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description症例は60 歳台,男性。Ra にほぼ全周性の2 型病変あり。造影CT にて肝S6 に23 mm 大の腫瘍を認めた。直腸低位前方切除術を施行し,術後16 日目よりmFOLFOX6 を開始した。8 コース目でCR を得,12 コースで休止とした。経過観察していたところ,約6 か月後のCT にて肝S6 に再発を認めたためRFA を施行。明らかな合併症はなく,施行後8 か月経過も再発を認めていない。当院では大腸癌肝転移に対する戦略として,全身化学療法を先行した後,必要に応じて手術を含めた局所療法を施行することとしている。全身化学療法後のRFA は,切除に比べ局所療法の侵襲を最小限にすることができ,化学療法を休薬する期間をほとんど必要としないことから,大腸癌肝転移に対する戦略の一つとして有用であると考える。特にmFOLFOX6 療法の肝への影響が報告されているため,部位と大きさ,個数によっては切除に替わる局所制御法となる可能性がある。 -
肝転移Grade 分類からみた大腸癌同時性肝転移症例における肝所属リンパ節転移
35巻12号(2008);View Description Hide Description目的: 大腸癌肝転移Grade 分類(大腸癌取扱い規約第7 版)からみた肝所属リンパ節転移の頻度と臨床的意義について検討した。対象・方法: 原発巣の切除が行われ,肝所属リンパ節転移が組織学的に検索し得た大腸癌同時性肝転移61 例を対象とした。肝転移のGrade 別に肝所属リンパ節転移の頻度を検討した。結果: 肝所属リンパ節転移の頻度はGrade A 8%(1/13),Grade B 20%(3/15),Grade C 36%(12/33)で(p=0.09),全体では26%であった。Grade A,Grade B のうち,肝所属リンパ節転移陽性例(n=4)のほうが陰性例(n=24)より生存期間が短かった(p<0.01)。Grade C では肝所属リンパ節転移陽性例(n=12)と陰性例(n=21)の間で生存期間に差を認めなかった(p=0.59)。結語: 肝転移のGrade にかかわらず,肝所属リンパ節転移の頻度について考慮すべきである。 -
大腸癌肝・肺転移切除例の検討
35巻12号(2008);View Description Hide Description大腸癌肝・肺転移に対する積極的切除の妥当性について検討した。1991 年1 月から2008 年1 月までの間に,大腸癌肝・肺転移をともに切除した14 例を対象とした。転移に対する初回切除時の年齢は48〜73 歳(中央値59 歳)。男性8 例,女性6 例。肝転移切除先行が10 例,肺転移切除先行が4 例であった。転移巣に対する第2 回目切除後のrelapse-free survival(RFS)は11.2 か月,overall survival(OS)は20.4 か月であった。初回転移巣切除後のRFS と第2 回目転移巣切除後のOSには正の相関の傾向がみられた(rs=0.55,p=0.08)。初回転移巣切除後のRFS が短い症例では第2 回目転移巣切除後の予後はかぎられており,切除には慎重な態度が必要である。 -
大腸癌同時性肝転移に対する肝動注化学療法の有用性に関する検討
35巻12号(2008);View Description Hide Description大腸癌肝転移症例に対する肝動注化学療法の有用性を検討するため,同時性肝転移症例に対する肝動注化学療法の治療成績を検討した。過去10 年間に肝転移のみの非治癒切除因子を認め,術後に肝動注化学療法を行った症例は21 例(肝転移巣切除例7 例,肝転移巣非切除例14 例)であった。肝転移巣切除症例7 例では,5 年以上の無再発生存を2 例に認め,生存期間中央値(MST)は49 か月,平均生存期間は56.3 か月,5 年生存率は43%であった。一方,肝転移巣非切除例14 例(H3: 10,H2: 2,H1: 2)では,CR 2 例,PR 8 例,SD 4 例であり,奏効率71%,治療効果別の予後には有意差が認められ,MSTは27 か月,平均生存期間は38.5 か月であった。大腸癌同時性肝転移症例に対する肝動注化学療法の成績は良好であり,今後,併用全身化学療法を強化することにより,治療成績はさらに向上するものと考えられた。 -
全身化学療法不能,不応例消化器癌に対して肝動注化学療法を行った3 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description近年,消化器癌化学療法に関しては多剤併用療法の開発や分子標的治療薬の登場により新しいエビデンスが生まれ,標準治療が確立されてきた。消化器癌の肝転移に対しては,全身化学療法が標準治療となっている。たとえば,大腸癌肝転移切除不能症例ではFOLFOX 療法やFOLFIRI 療法などが選択され,肝動注化学療法はsecond-line 以下である。しかしながら,症例によっては全身化学療法が無効である場合,高齢や副作用のため全身化学療法が行えない場合も存在する。そのような際には肝動注化学療法も選択されるべき治療であると考えられる。今回,大腸癌および胃癌の肝転移に対して全身化学療法を施行した後,肝動注化学療法を症例に応じて実施したので報告する。 -
進行大腸癌閉塞症例に対するステント治療の経験
35巻12号(2008);View Description Hide Description当院での閉塞性大腸癌に対する自己拡張型金属ステント(EMS)留置術施行例について治療成績を検討した。対象: 2001年より2008 年までのステント留置施行成功例13 例(留置試行14 例,成功率93%)。男性6 例,女性7 例,平均年齢69.1 歳(44〜87 歳)。留置部位は直腸癌8 例,S 状結腸癌5 例。全例食道用Ultraflex TM non-covered type を留置した。7 例で開腹手術を行い,根治手術は3 例で可能であった。11 例で治療後食事可能となった。治療後7 例が退院可能となった。治療後生存期間は平均14 か月(0〜40.8 か月)であった。合併症は穿孔,逸脱を1 例ずつ認めた。EMS 留置術は狭窄解除率が高く,また侵襲が少ないため進行大腸癌閉塞症例において有用であると考えられた。 -
新規抗癌剤導入時代の大腸癌肺転移に対する外科治療における諸問題
35巻12号(2008);View Description Hide Description背景・目的: 切除可能な大腸癌肺転移には外科的治療が推奨されているが,両側開胸や繰り返し肺切除は患者のQOL を低下させる可能性があり,新規抗癌剤の登場以降,その適応を見直す必要がある。この点を明らかにするためにretrospective study を行った。対象・方法: 大腸癌肺転移切除を行った39 例を対象。同時期両側開胸群(n=5),繰り返し肺切除群(n=6),片側単回切除群(n=28)の3 群に分け,あるいは肺切除前後に新規抗癌剤(5-FU,S-1,CPT-11,L-OHP)を使用した群(n=11)と非使用群(n=28)に分け,予後を比較検討した。結果: 両側同時期開胸群は他の2 群に比べ,最終肺切除からの無再発生存期間が有意に短かった(p=0.03)。新規抗癌剤使用群と非使用群の肺切除後の生存期間中央値は各々56.3 か月,51.6 か月で有意差は認められなかった(p=0.58)。結語: 同時期両側切除は慎重な態度が望まれる。新規抗癌剤の導入の是非について結論を得るにはさらなる症例の集積が必要である。 -
当院における大腸癌肺転移に対する外科的治療
35巻12号(2008);View Description Hide Description大腸癌肺転移は肝転移に次いで多くみられる。以前より積極的に肺転移巣切除が行われているが,肺部分切除術では術後の肺局所再発が散見される。当院におけるこれまでの肺切除標本を検討したところ,同定された肺転移巣に隣接して,一部の症例では連続性のない癌胞巣が認められることがわかった。肺局所再発の原因は,このような連続性のない癌胞巣の残存と胸腔鏡下手術の場合の自動縫合器による切除範囲の不十分性が考えられた。その反省から2004 年以降,2 cm 以下の末梢型肺転移巣の場合は,三次元CT 画像を導入して肺転移巣の存在区域をあらかじめ同定しておき,標準的に区域切除術を行うようにした。1986〜2003 年までの大腸癌肺転移18 症例については全術式をとおして肺局所再発率が25〜64%であった。一方,2004〜2007 年までの間では肺局所再発率が0〜16%であった。大腸癌肺転移巣の切除において2 cm 以下の末梢型の場合は,肺機能温存の目的からも存在区域を確認し,区域切除術を行うのがよいと考える。 -
肺悪性腫瘍に対するラジオ波焼灼療法12 例の検討
35巻12号(2008);View Description Hide Description肺悪性腫瘍に対するラジオ波焼灼療法(RFA)の意義を検討した。対象はCT 透視下経皮穿刺にてRFA を行った12 症例(原発性肺癌4 例,転移性肺腫瘍8 例)17 病変。主な合併症は気胸6 例でうちドレナージを要したのが2 例。転帰は,4 例(3〜17 か月後)が肺外病変の進展により死亡,担癌生存が8 例で観察期間は6〜39 か月(中央値12 か月)。生存率は,6 か月75%,1 年63%,2 年で43%。局所再発は4 例5 病変(4〜17 か月後)でいずれも気管やSVC,肺内の血管・気管支などに近接していたため焼灼不十分となったものと思われる。局所制御率は6 か月92%,1 年64%,2 年で35%。結論として肺悪性腫瘍に対するRFA は安全かつ低侵襲で,十分な焼灼が行えれば良好な局所制御が望めるので,高リスク症例や多発症例では有益な治療選択肢になり得るものと考える。 -
二度の胸腔鏡下肺切除が奏効した肝細胞癌切除後肺転移の1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description症例は73 歳,女性。肝右葉を占める約18 cm 大の腫瘍を指摘され当院紹介。肝細胞癌と診断し,2004 年3 月に肝右葉切除術を施行した。2006 年3 月ごろからAFP の上昇あり。胸部CT にて左肺舌区に約2.5 cm 大の腫瘤を認め肺転移と診断した。2006 年4 月に胸腔鏡下肺部分切除術を施行した。2007 年2 月には再びAFP の上昇あり。胸部CT にて右肺のS8 に約1 cm 大の腫瘍を認め同様に肺転移と診断した。2007 年3 月に2 回目の胸腔鏡下肺部分切除術を施行した。現在,初回手術から4 年3 か月経過したが,新たな再発なく生存中である。残肝再発がないか,あっても治療によりコントロール可能で,肺転移が切除可能ならば複数回の肺転移に対しても繰り返し切除を行うことで長期生存が期待できると考えられた。 -
Cisplatin+Vindesine により完全奏効が得られた肺癌術後多発性肺内転移の1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description症例は69 歳,男性。右肺扁平上皮癌の診断で2000 年10 月右肺上葉切除術,ND2a を施行した。病理診断は腫瘍長径2.5 cm,中分化型扁平上皮癌,ly0,v0,n0,pT1N0M0,stage IA であった。術後補助療法は行わず経過観察していたが,2001 年6 月のCT で両肺に多発性の肺内転移を認めた。cisplatin+vindesine(day 1: cisplatin 100 mg/body,day 1,8,15:vindesine 3 mg/body)を4 クール行ったところ,2001 年12 月のCT では完全に転移巣は消失し完全奏効となった。以後追加治療はなく経過観察している。2008 年2 月現在,再燃はなく6 年2 か月間臨床的完全奏効を継続している。 -
甲状腺癌リンパ節再発と思われた悪性リンパ腫の1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Descriptionはじめに: 甲状腺癌術後,頸部リンパ節腫大を認めた場合にリンパ節転移と考えることが多い。今回われわれは,甲状腺癌再発頸部リンパ節転移と考え手術を施行したところ,悪性リンパ腫を認めた症例を経験したので報告する。症例: 59 歳,女性。1994 年に甲状腺癌にて右葉切除およびリンパ節郭清術を施行。1995 年に残存甲状腺に腫瘤を認めた。細胞診では,class IIIa であった。2007 年2 月になり残存甲状腺の腫瘤が増大し,超音波検査でも形状不整,同時に両側頸部リンパ節腫大も認めたことから,甲状腺癌再発リンパ節転移と判断し残存甲状腺全摘術および頸部リンパ節郭清術を施行。病理組織診断では甲状腺乳頭癌再発であったが,頸部リンパ節は甲状腺癌の転移像はなく悪性リンパ腫の診断であった。まとめ: 甲状腺癌再発での急激な頸部リンパ節腫大を認めた時は,転移と判断せずにリンパ性疾患も念頭におくことが必要と考えられた。 -
当院における乳癌局所再発症例に対する外科的治療および化学内分泌療法の有効性の検討
35巻12号(2008);View Description Hide Description乳癌局所再発または腋窩リンパ節再発後の手術および化学内分泌療法とその後の経過を検討した。対象は乳癌治癒切除後の遠隔転移のない局所再発または腋窩リンパ節再発21 例で,13 例に手術が施行された。13 例中,乳房温存術後の残存乳房再発巣切除6 例,腋窩リンパ節再発4 例,乳房切除後の胸壁再発が3 例であった。生存例は残存乳房切除5 例,腋窩リンパ節切除4 例,胸壁再発巣切除が2 例であり,死亡例は残存乳房切除,胸壁再発巣切除に各1 例であった。手術非施行例8 例中5 例が死亡し,3 例が生存中である。手術施行例の無再発期間中央値は24 か月,非施行例は27 か月であった。再発後生存期間は手術施行例で中央値29 か月に対し,非施行例で12 か月と手術施行例にて生存期間が延長される傾向にあった。局所および腋窩リンパ節再発に対して,症例選択により化学内分泌療法に併用した外科的治療にて再発巣のコントロールが可能であると考えられた。 -
Paclitaxel とToremifene 併用投与により良好なQOL が得られた進行乳癌の1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description切除不能のStage III C 乳癌に対してpaclitaxel とtoremifene の投与を行い,切除可能となった進行乳癌を経験した。症例は38 歳,女性。2 年前より左乳房腫瘤に気付くも放置していた。腫瘤の増大と出血を認めたため当科を受診。左乳房には直径16 cm の辺縁不整な腫瘤を触知した。胸筋固定と左腋窩,左鎖骨下にリンパ節転移を認めた。針生検の病理組織所見は,乳頭腺管癌,ER(+),PgR(+),HER2 score 2 であった。脳,肺,肝臓,腹腔内リンパ節,骨には転移を認めなかった。FEC を6 サイクル投与した後,paclitaxel を16 サイクルとtoremifene(120 mg/day)を投与したところ鎖骨下リンパ節の腫大は消失し,原発巣は2 cm に縮小して大胸筋浸潤もなくなり切除可能となった。手術は胸筋温存乳房切除術+腋窩リンパ節郭清術+皮膚移植術を施行。治療経過中,重篤な副作用は認められず手術時を除いて,すべての治療が外来で行うことができたことから良好なQOL が保てたと思われた。 -
放射線治療,Paclitaxel,Toremifene 投与による集学的治療によりCR が得られた異時性重複乳癌術後再発の1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description異時性重複乳癌術後の皮膚転移,鎖骨上下リンパ節転移に対してpaclitaxel とtoremifene の投与および放射線治療による集学的治療を行い,良好な結果を得たので報告する。症例は49 歳,女性。37 歳時に右乳癌,47 歳時に左乳癌でBt+Ax を施行されている。術後2 年目の検査で左前胸部に直径1 cm の皮膚の発赤部を3 か所認め,穿刺吸引細胞診を施行したところClass V の診断であった。超音波検査では左鎖骨上下リンパ節が多数腫大しており,乳癌の転移と診断された。paclitaxel とtoremifene の併用投与を開始した。7 サイクル終了した時点で鎖骨上下のリンパ節腫大は消失した。一部皮膚の発赤が残っており,生検したところ皮膚転移が残存していたため局所に放射線治療(total 30 Gy)を施行した。再び皮膚を生検したところ癌細胞がみられないとの結果であった(CR)。治療経過中,すべての治療は外来で行うことができ,重篤な副作用は認められず良好なQOL が保てたと思われた。 -
乳癌術後に発生した悪性線維性組織球腫(MFH)の切除例
35巻12号(2008);View Description Hide Description症例: 40 歳,女性。主訴: 左乳房腫瘤触知。現病歴: 2000 年に左乳癌で乳房扇状切除術およびリンパ節郭清術を施行。病理組織診断ではscirrhous type,T2N0M0,stage IIA,ER(−),PgR(−)であった。以後,外来にて放射線治療を施行。2006 年になり,左乳房創部直下に硬結を認めた。そのまま放置していたが,増大傾向を認め穿刺吸引細胞診を施行したところclass V であり,針生検ではsarcoma の診断であったため手術目的に入院。経過: 2007 年3 月に胸筋合併乳房切除術および広背筋皮弁による胸壁再建術を施行した。病理組織診断では,malignant fibrous histiocytoma(MFH)であった。現在,外来加療中であるが,再発・転移は認めていない。結語: 乳癌における乳房温存手術後,残存乳房に放射線治療を施行しているが,今回の症例のようにMFH を発生することもあるので若干の文献的考察を加えて報告した。 -
PST としてAC-T 施行後のS-1+TAM で長期NC を得られたStage IV 乳癌の1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description症例は40 歳,女性。左乳房の潰瘍を伴う腫瘤を主訴に受診した。左乳房は変形し乳頭外側に潰瘍を認め,左腋窩リンパ節は硬く腫大していた。多発肝転移,肺転移,骨転移を認めるStage IV 乳癌と診断した。AC-T(AC×4 コース+weekly paclitaxel×4 コース)を施行し,それと同時にTAM 投与,AC-T 終了後に左乳房,腋窩に対して放射線照射を施行した。AC-T により原発巣・転移巣はともに縮小し,放射線治療により潰瘍は消失した。その後QOL の維持を考えS-1+TAM を継続し,約3 年経過するも重篤な有害事象もなく長期NC が得られている。 -
乳癌の眼窩転移に対して放射線療法が奏効した1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description乳癌の眼窩転移は比較的まれである。今回われわれは,乳癌の眼窩転移に対して放射線療法が奏効した1 例を経験したので報告する。症例は50 歳台の女性。2000 年10 月に左乳癌に対して胸筋温存乳房切除術(Bt+Ax)を施行した。組織型は浸潤性小葉癌で,Stage IIB(T2N1M0)であった。2005 年11 月に乳癌の後腹膜および膀胱転移が確認され,12 月より化学・内分泌併用療法を施行していた。2006 年7 月に右眼瞼腫脹が出現し,MRI 検査にて乳癌の右眼窩転移と診断された。眼窩転移に対して放射線療法(総線量30 Gy)を施行したところ,症状は速やかに消失した。2008 年1 月のMRI 検査では画像上は確認できないまでに縮小し,効果判定は著効(CR)と判定された。放射線照射後2 年経過した現在,再発の兆候もなく,良好な局所のコントロールを得ている。 -
Trastuzumab/Paclitaxel 併用療法により長期生存が得られた乳癌肝転移の1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Descriptiontrastuzumab/paclitaxel 併用療法により長期CR が得られている乳癌肝転移症例を経験したので報告する。患者は50 歳台,女性。左乳房腫瘤を主訴に来院した。精査にて左乳癌(AC 領域55×50 mm),肝転移(S3,S7)と診断し,胸筋温存乳房切除術(Auchincloss 法)を施行した。病理組織学的検査はpapillotublar carcinoma,f,T3,ly3,v2,N2(24/34),histological grade III,ER(−),PgR(−),HER2(3+),T3N2M1,Stage IV であった。術後にtrastuzumab およびweekly paclitaxel を開始した。術後1 年目の腹部CT で肝転移巣は消失した(cCR)。その後も化学療法を継続しており,肝転移後7 年経過する現在も無増悪生存中である。乳癌肝転移はlife threatening であり,より早い段階で適切な治療がなされるべきである。HER2 過剰発現乳癌の場合,trastuzumab/paclitaxel 併用療法はその一選択肢になると考えられた。 -
卵巣癌による癌性胸腹膜炎にCDDP+CPT-11 の胸腔内投与が奏効した1 例
35巻12号(2008);View Description Hide Description症例は58 歳,女性。既往歴の脳幹出血と2 型糖尿病によりPS 4 の状態。2007 年4 月から腹部膨満が出現,6 月に本院を受診し10×15 cm 大の卵巣腫瘍,多量の右胸水および腹水を認め,卵巣癌による癌性胸腹膜炎と診断された。右胸腔チューブからのCDDP+CPT-11 の胸腔内投与を開始(CDDP 10 mg,CPT-11 10 mg を1 週間隔で交互に投与,4 週投与1 週休薬を1 クール),10 クール(総投与量: CDDP 310 mg,CPT-11 250 mg)行い,胸腹水はほぼ消失し腫瘍も3×4 cm 大に縮小するまでに改善した。重篤な有害事象は認めなかった。CDDP+CPT-11 の胸腔内投与は,卵巣癌による癌性胸腹膜炎に対して有効で安全な局所療法であると考えられた。 -
胃癌に対するLentinan を用いた非特異的免疫療法の臨床試験
35巻12号(2008);View Description Hide Description進行・再発胃癌に対するS-1 単独療法vs S-1+Lentinan(LNT)併用療法による第 III 相試験が,がん集学的治療研究財団を事務局として2007 年2 月よりスタートした。目的は進行・再発胃癌患者を対象として,S-1 単独療法に対するS-1+LNT 併用療法の生存期間における優越性の検証である。プライマリー・エンドポイントは生存期間であり,セカンダリー・エンドポイントは治療成功期間(TTF),有害事象のgrade および発現率,QOL 評価(FACT-BRM 日本語版),抗腫瘍効果(RECIST)である。また免疫学的指標として,血清補体価(CH50),血清補体値(C3)および単球へのβ-1, 3-グルカン結合率を検討する。予定症例数は各治療群150 例の計300 例であり,登録期間が2 年間,総試験期間が4 年間である。本試験は日本において非特異的免疫賦活剤の有効性を証明する最後のチャンスであり,ぜひとも成功させなければならない。 -
温熱免疫細胞療法─その基礎と臨床─
35巻12号(2008);View Description Hide Description基礎: 温熱療法が免疫機能や免疫細胞を増加,増強することはすでに報告されているが,今回われわれは免疫細胞療法にハイパーサーミアを併用して相乗効果が得られる結果を動物実験で初めて確認した。臨床: 2005 年7 月〜2007 年12 月に526 例の悪性腫瘍患者に免疫細胞療法または温熱療法を施行した。そのうち温熱療法472 例,活性化リンパ球療法384 例,樹状細胞療法は94 例であった。有効例(PR 以上および長期NC)は67 例で,そのうち8 例に全病変の完治CR を認めた。 -
大腸癌におけるToll-Like Receptor 4 発現の検討
35巻12号(2008);View Description Hide Description自然免疫系においてToll-like receptors(TLRs)は病原体を認識し,免疫系の賦活化に重要な役割を果たしている。今回,発癌に自然免疫系の応答異常が関与しているのではないかといった仮説を立て,TLRs のなかでも特にToll-like receptor 4(TLR4)についてその発現の有無を癌罹患大腸組織中で確認した。手術検体での大腸癌の癌部および非癌部組織を用い,reverse-transcription PCR 法(RT-PCR)でTLR4 の発現を調べた後,さらにreal-time PCR 法で発現の定量化を行い2 群間の比較検討を行ったところ,非癌部組織においてTLR4 の発現が有意に高く認められた。今回,癌組織に比し非癌組織にTLR4 が有意に多く発現したという結果は,非癌部のTLR4 が過剰発現もしくは癌部のTLR4 がdown regulation を起こしていた可能性が考えられ,興味深い結果が得られた。 -
癌間質細胞の腫瘍血管新生への影響
35巻12号(2008);View Description Hide Description癌組織の間質に浸潤するマクロファージや線維芽細胞は,癌細胞の遊走,生存,増殖のみならず血管新生を促進させ,癌の悪性化に関与することが報告されている。われわれは,高転移性株であるB16BL6 メラノーマ腫瘍に基底膜成分を含むMatrigel とともに同系マウスに移植し,腫瘍増殖ならびに転移を左右する微小循環系と,その間質の変化を形態的・機能的に解析した。その結果,このモデルにおいては腫瘍の微小環境を形成する間質細胞が腫瘍血管の新生パターンに影響を与えることが示唆された。 -
消化管癌手術における小野寺式栄養指数の意義について
35巻12号(2008);View Description Hide Description血清アルブミン値と末梢血リンパ球数から算出される小野寺式栄養指数は,術前の栄養状態を反映する宿主要因の一つである。本研究では消化管癌手術における小野寺式栄養指数の意義について,術後合併症との関連から検討した。対象と方法: 2005 年1 月から2007 年4 月までに切除された消化管癌324 例(食道癌42 例,胃癌107 例,大腸癌175 例)を対象とした。これら症例の術前の小野寺式栄養指数を算出し,40 以下の危険域とそれ以外の非危険域に大別し,両者の術後合併症発生率をみた。さらに,進行度(早期癌/進行癌)や年齢(75 歳未満/以上)別に,両者の術後合併症発生率を比較した。結果: 術後合併症発生率は,危険域57%,非危険域44%で,危険域で高率であった(p=0.04)。進行度別,年齢別にみると75 歳未満の進行癌で危険域の発生率が非危険域に比べ高率であった(p=0.02)。結論: 小野寺式栄養指数は,消化管癌の術後合併症発生率と関連し,消化管癌治療における宿主要因を反映する有用な指標であった。 -
A-L Score によるStage IV 大腸癌の予後予測
35巻12号(2008);View Description Hide Description目的: 血清アルブミン値(Alb)と末梢血白血球リンパ球比(Lym)をscore 化(A-L score)し,Stage IV 大腸癌の予後との関連を検討した。対象と方法: 対象はStage IV 大腸癌手術例79 例。Alb(cut off 値3.5 g/dL)とLym(cut off 値20%以上)で,正常値を1 点,他を0 点とし,不良例0 点,低下例1 点,正常例A-L score 2 点として,各々の臨床病理学的因子,予後を検討した。結果: 不良例+低下例は正常例に比べ高齢で,Cur C 例,緊急手術例が多くみられ,2 年生存率は正常例40%,低下例18%,不良例8%とA-L score と関連し,多変量解析で独立した予後因子であった。結語: Stage IV 大腸癌ではA-L score は患者の全身状態を反映し,重要な予後因子と考えられる。 -
消化器癌患者におけるCCR4+/CXCR3+ 細胞比率の解析
35巻12号(2008);View Description Hide Descriptionわれわれは,化学療法もしくは免疫療法を施行中の消化器癌患者31 症例において末梢血リンパ球のCCR4 およびCXCR3 発現を解析して,生体内のTh1/Th2 バランスを検討した。Th1 細胞に発現するCXCR3 は化学療法群6.8%,免疫療法群24.2%であった。これに対してTh2 細胞および制御性T 細胞に発現するCCR4 は化学療法群25.6%,免疫療法群15.4%であり,CCR4+/CXCR3+ 細胞比率は化学療法群4.45,免疫療法群0.72 と有意差が認められ,化学療法群ではTh2 優位に,免疫療法群ではTh1 優位になっていることが示唆された。 -
胃癌患者の血清グラニュライシンによる活性化リンパ球治療の効果
35巻12号(2008);View Description Hide Descriptionグラニュライシンは活性化リンパ球が分泌する細胞障害性顆粒で,胃癌stage II,stage III の有効な予後因子である。活性化リンパ球は大量のグラニュライシンを含み,この細胞を大量に投与することで患者の血清が上昇するかを検討し,stage IV と再発例の生存率を解析した。Stage IV と再発胃癌症例はそれぞれ29 例と13 例,血清グラニュライシン値の平均は3.3ng/mL であり,標準治療に活性化リンパ球治療を併用した。性差,年齢差なく,stage IV のlogrank 検定で血清グラニュライシン値が高い群が高い生存率を示した。活性化リンパ球治療前後による変化13 例を比較したが平均値は0.2 ng/mL 上昇した。血清グラニュライシンは予後因子として有用であり,体内腫瘍免疫のパラメーターとして注目している。 -
乳癌化学療法中のIDO の変化について
35巻12号(2008);View Description Hide Descriptionweekly paclitaxel 療法とtri-weekly docetaxel 療法施行による生体への侵襲程度を,indoleamine 2,3-dioxygenase(IDO)とimmunosuppressive acidic protein(IAP)の発現程度から検討した。4 症例は転移・再発時にpaclitaxel(80 mg/m2)(3 週投薬1 週休薬)を施行した。また,4 症例はdocetaxel(75 mg/m2)(3 週に1 回)を施行した。化学療法施行前,1 サイクル終了時,2 サイクル終了時に採血した。得られた血漿について,HPLC を用いてtryptophan(Trp)とkynurenine(Kyn)を測定し,Trp/Kyn を測定してIDO のactivity を計測した。同時に免疫能の指標としてIAP を測定し,Trp/Kyn ratio と比較した。paclitaxel を使用した群は化学療法施行中にTrp/Kyn 値とIAP 値に統計学的な差を認めなかった。docetaxel 使用群は化学療法施行中のIAP 値に差は認めなかったが,施行前よりも施行後のほうが有意にTrp/Kyn 値が高かった。weekly paclitaxel 療法はtri-weekly docetaxel 療法に比べて免疫学的ダメージが少なくなる可能性が示唆された。 -
大腸癌に対する癌ワクチンと抗癌剤併用療法の第 I 相臨床試験
35巻12号(2008);View Description Hide Description切除不能進行・再発大腸癌に対する癌ワクチンとS-1/CPT-11 の併用療法に関する第 I 相臨床試験を臨床担当施設として開始している。本稿では,その経過報告と長期間SD を継続中の1 例を提示する。本試験は,網羅的ヒトゲノム解析で抽出したRNF43 のHLA-A24 拘束性エピトープペプチドとS-1/CPT-11 併用による進行・再発大腸癌に対する第 I 相臨床試験で,HLA-A24 陽性の切除不能進行・再発大腸癌患者を対象に,安全性(毒性)と免疫反応を評価することを目的としている。ペプチド投与量を0.5/1.0/3.0 mg の3 段階にdose escalation し,primary endpoint は全有害事象発現割合,secondary endpoints は特異的免疫能増強割合,奏効割合,無増悪生存期間とし,レベル3 まで症例登録を終了した。有害事象は,局所反応としてgrade 1 の発赤と硬結,全身的には抗癌剤由来と考えられるgrade 2 以下のものを認めた。症例はS 状結腸癌術後の傍大動脈リンパ節再発で本治療を施行し,13 か月間の長期にわたりSD を継続中の1 例を提示する。切除不能進行・再発大腸癌に対する癌ワクチンとS-1/CPT-11 併用療法の第 I 相臨床試験を施行中であるが,有害事象はgrade 2 までと比較的軽微で,現時点において本療法の忍容性は高いと考えられる。 -
切除不能・再発膵癌に対するペプチドワクチンとGemcitabine 併用療法の第 I 相臨床試験
35巻12号(2008);View Description Hide Description切除不能・再発膵癌患者を対象に,腫瘍新生血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR1 およびVEGFR2)由来のHLA-A*2402 拘束性エピトープペプチドを用いたワクチン療法に,標準的化学療法であるgemcitabine を併用する新規ワクチン化学療法の安全性を検証することを目的とした第 I 相臨床試験を報告する。gemcitabine は標準的投与量である1,000 mg/m2 を3 週投薬1 週休薬で投与し,ワクチンはペプチドおよびアジュバントをday 3,10,17,24 に患者鼠径部皮下に投与して28 日を1 コースとした。ペプチド投与量は0.5 mg, 1.0 mg, 3.0 mg のドーズエスカレーションを3 patients cohort で行い,安全性を主要評価項目,臨床的有効性および免疫反応を副次的評価項目とした。現時点での登録症例は6 例で,レベル2 までの登録を終了しており,重篤な有害事象は認めていない。 -
進行再発大腸癌に対するBevacizumab の使用経験
35巻12号(2008);View Description Hide Description進行再発大腸癌に対し使用可能となった抗VEGF 抗体製剤のbevacizumab は,消化管穿孔や出血,血栓症,蛋白尿など特有の有害事象が知られ,併用化学療法の有害事象に加えて注意が必要である。本稿では,われわれの進行再発大腸癌に対するbevacizumab の使用経験を報告する。対象は2008 年4 月までにbevacizumab を2 回以上投与した切除不能・進行再発大腸癌6 例。抗腫瘍効果はmFOLFOX6 併用の1 例にPR を認めた。有害事象はFOLFIRI 併用の1 例にgrade 3 の好中球減少をみたのみで,他はすべてgrade 2 以下であった。またbevacizumab に特有な有害事象はみられず,本治療法の忍容性はおおむね良好であった。 -
末期悪性腫瘍症例へのエコーガイド下中心静脈カテーテル挿入の検討
35巻12号(2008);View Description Hide Description当院では末期悪性腫瘍症例に対してエコーガイド下に中心静脈カテーテル挿入を施行しており,その有用性について検討した。末期悪性腫瘍41 症例にエコーガイド下中心静脈カテーテル挿入を,入れ換え症例も含め連続112 挿入行った。エコーガイド下法として皮膚マーキング法30 挿入,リアルタイムエコーガイド下法82 挿入行った。内頸静脈穿刺24 挿入,経鎖骨上(鎖骨下静脈)穿刺4 挿入,経鎖骨下(鎖骨下静脈)穿刺37 挿入,大腿静脈穿刺を47 挿入施行し,留置成功率は85.7%(96/112)であった。成功例での挿入時間(試験穿刺から輸液セット接続まで)は平均2.2 分で,合併症発症頻度は4.5%(動脈誤穿刺3 挿入,位置異常2 挿入)であった。本検討の結果より,エコーガイド下中心静脈カテーテル挿入法は末期悪性腫瘍症例に対して安全かつ短時間に中心静脈カテーテル挿入を施行できることが確認された。 -
周術期の宿主免疫能低下に及ぼすPSK の術前投与の影響
35巻12号(2008);View Description Hide Description手術侵襲による宿主免疫能低下に及ぼすPSK の術前投与の影響について検討した。BALB/c マウスを用い対照群,手術侵襲群,手術侵襲+PSK 投与群の3 群で免疫能の検討を行った。術後腫瘍増殖の検討を行うために,Meth A を皮下移植し手術侵襲を加え経日的に対照(無処置)群,手術侵襲群,手術侵襲+PSK 投与群の3 群間で腫瘍の最大径を測定した。PSK は術前腹腔内投与した。この結果,手術侵襲で血清IL-6 濃度は上昇し,IFN-γ/IL-4 濃度比は低下し,腫瘍増殖が促進された。PSK 術前投与によって手術侵襲により血清IL-6 濃度は上昇するもののIFN-γ 産生が低下し,IFN-γ/IL-4 濃度比の低下が軽減された。また手術侵襲による腫瘍増殖も抑制された。この結果を踏まえ,消化器癌患者に術前2 週間のPSK 投与を行って根治手術を施行した。 -
実地臨床におけるStage III 結腸癌に対するPSK 投与状況
35巻12号(2008);View Description Hide Description目的: 実地臨床におけるstage III 結腸癌に対するpolysaccharide K(PSK)の使用状況と効果についてretrospective に検討した。対象・方法: 2000 年4 月から2006 年12 月の間に実地臨床として,UFT(n=44),UFT/LV(n=4),5-FU/LV(n=7)の補助化学療法が行われたstage III 結腸癌55 例を対象。PSK の投与状況とPSK 併用群,PSK 非併用群の無病生存期間,全生存期間について検討した。結果: PSK は45 例(82%)に投与されていた。両群間で無病生存期間,全生存期間に有意差は認められなかったが,stage III a ではPSK 併用群のほうが全生存期間が長い傾向が認められた(p=0.15)。結語: stage III 結腸癌に対するPSK の選択性は高かったが,PSK の5-FU 系抗癌剤に対する上乗せ効果を検討するにはさらに症例を集積することが必要と考えられた。 -
高齢者大腸癌に対するmFOLFOX6 療法の有効性と安全性
35巻12号(2008);View Description Hide Description目的: 高齢者大腸癌に対するFOLFOX 療法の効果や安全性について明らかにすることを目的に,retrospective に検討した。対象・方法: 2005 年12 月から2008 年3 月の間に経験した切除不能大腸癌92 例を,75 歳以上と75 歳未満に分け,mFOLFOX6 療法を行った63 例の導入率,relative dose intensity(RDI),有効性,有害事象について検討した。結果: mFOLFOX6 導入率は,高齢者群36%(8 例),非高齢者群79%(55 例)で高齢者群は低かった(p<0.01)。RDI は各々平均68.0%,79.9%で高齢者群は低い傾向であった(p=0.10)。response rate,disease control rate,無増悪期間はいずれも両群間で差はなかった。grade 3 以上の有害事象の発現頻度も各々50%,51%で両群間に差はなかった。結語: mFOLFOX6 が導入された高齢者群にかぎると非高齢者群と比べて減量が必要であるが,安全に施行可能で効果も遜色ないことが判明した。 -
切除不能・再発大腸癌に対する5-Fluorouracil,Irinotecan,Oxaliplatin 3 剤投与の妥当性
35巻12号(2008);View Description Hide Description目的: 5-fluorouracil(5-FU),irinotecan(CPT-11),oxaliplatin(L-OHP)の3 剤をすべて使用することが,切除不能・再発大腸癌の生存期間の延長に寄与するかという点について,retrospective に検討した。対象・方法: 2000 年4 月から2008 年3 月の間に5-FU の他にCPT-11 および,あるいはL-OHP による化学療法を施行した切除不能・再発大腸癌145 例を対象とし,一次治療開始からの生存期間を検討した。結果: 3 剤を使用した72 例と,5-FU+CPT-11 あるいは5-FU+L-OHP の2 剤を使用した73 例の生存期間中央値は各々31.6 か月,18.4 か月で,3 剤使用症例のほうが有意に長かった(p<0.01)。3 剤使用症例において,CPT-11 使用後にL-OHP を使用した18 例と,L-OHP 使用後にCPT-11 を使用した54 例の生存期間中央値の間には有意差を認めなかった(p=0.67)。結語: 5-FU,CPT-11,L-OHP の3 剤使用は,CPT-11 とL-OHP の投与順にかかわらず,5-FU+CPT-11,5-FU+L-OHP の2 剤使用よりsurvival benefit が得られることが示唆された。
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