癌と化学療法

Volume 36, Issue 3, 2009
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総説
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白血病における造血幹細胞移植の最近の進歩
36巻3号(2009);View Description
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Thomas らが最初の骨髄移植を施行してからすでに半世紀,この間に治療成績は大幅に向上したが,同時に移植の内容は複雑化,多様化している。本稿では移植治療における最近の話題として,imatinibに代表される分子標的治療薬の出現による移植適応の変化,臍帯血や母子間移植に代表されるドナーソースの拡大,そして白血病患者におけるミニ移植について紹介する。
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特集
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- ナノテクノロジーの癌医療への応用
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高分子ミセル型抗癌剤の開発
36巻3号(2009);View Description
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ナノテクノロジーの医療応用の一つとして,ドラッグデリバリーシステム(drug delivery system: DDS)が大きな注目を集めている。そのなかで,高分子ミセルは,性質の異なる高分子鎖が連結されたブロック共重合体の自己組織化によって形成される粒径数十nm のナノ粒子であり,内核に様々な薬剤を内包させることができる一方で,固形癌に集積し,優れた抗癌活性を示すことが実証されており,adriamycin,paclitaxel,cisplatin,SN-38を内包したシステムの臨床治験が国内外で実施されている。本稿では,高分子ミセル型抗癌剤の設計理論について解説し,最近の進展について紹介したい。 -
がん治療におけるペプチド・アプタマーとナノキャリアの役割
36巻3号(2009);View Description
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ペプチド・アプタマーとは進化分子工学的手法で取得される小さな特異的結合ペプチド分子である。生体内で悪性腫瘍を特異的に認識するようなペプチド・アプタマーを創製し,これを抗癌剤やイメージング分子を担持したナノ粒子と組み合わせることで,特異性の高いがん治療,がん診断ナノデバイスを開発することができる。ペプチド・アプタマーの人工蛋白質研究における位置付けと,いくつかのナノ粒子について紹介したい。 -
分子イメージング—イメージングで機能をみる—
36巻3号(2009);View Description
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20 世紀に起こった技術革新により,人類は非侵襲的に生体内部の微細な構造までも鮮明に描出する画像診断技術を確立した。21世紀は,ヒトゲノム解読後(ポスト・ゲノム)の研究に象徴されるように,分子レベルで生体を解析する時代であるといえる。イメージングにおいても,形態情報に機能情報を加えた「機能を画像化する時代」である。すなわち,21 世紀は形態をみる「形態イメージング」から,機能をみる「機能イメージング」へ画像診断が進化する時代である。形態画像の中心であるMRI,CT といったモダリティに加えて,「光」がマルチモダリティの一つとして加わることで,「機能の画像化」は加速度的に進んでいる。画像診断において「光」のできることは,現時点では限られているが,「光」の多様性は,分子イメージングに新たな革命を起こしつつある。 -
ナノテクノロジーを用いたがん治療の現状
36巻3号(2009);View Description
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近年飛躍的に発展してきたナノテクノロジーをがんの診断・治療に応用する試みが進んでいる。固形がん治療では腫瘍脈管系の特性からenhanced permeability and retention(EPR)effectによりナノスケールの高分子製剤はより効率的に腫瘍にdeliveryされることを利用している。このようなナノデバイスには,リポソーム製剤,アルブミン付加製剤および高分子ポリマーミセル製剤などがあり,それぞれで臨床開発が進んでいる。DXR 内包リポソーム(Doxil)のようにすでに実地臨床で使用されているものもある。本稿ではこれらナノデバイスの特徴および現在進行中の臨床試験を紹介する。
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Current Organ Topics:骨軟部腫瘍
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原著
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S-1+Docetaxel(DOC)超選択的動注併用療法の口腔癌症例に対する臨床第I相試験
36巻3号(2009);View Description
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超選択的動注化学療法は,腫瘍支配動脈内に高濃度の薬剤を注入することで高い抗腫瘍効果が得られ,局所制御が期待されている。S-1は5-FU のプロドラッグであるtegafur に,5-FUの分解酵素であるdihydropyrimidine dehydrogenase(以下DPD)に対する阻害剤gimeracilと5-FU による消化器毒性を軽減するoteracil potassiumを配合することにより,高い抗腫瘍効果と副作用,特に消化器毒性の軽減をめざした経口抗癌剤である。docetaxel(DOC)は,従来の抗腫瘍作用とは異なるメカニズムで抗腫瘍効果を発揮するtaxanes の薬剤であり,DOC を含む併用療法として,山口大学においてもDOC+CDDP+5-FU の3 剤併用療法が進行口腔癌治療に対して高い奏効率を得ている。今回,われわれは口腔扁平上皮癌の局所制御を目的としてS-1 併用DOC 超選択的動注化学療法の第I相試験を行った。試験は初日にDOCの動注化学療法を行い,同日から3 週間S-1 を連日投与し,1 週間休薬するスケジュールとした。S-1,DOC の投与量は,S-1を65 mg/m2/日に固定し,DOC を30 mg/ m2/日(レベル1),40 mg/m2/日(レベル2),50 mg/m2/日(レベル3),60 mg/m2/日(レベル4)で検討した。その結果,レベル3 において,dose limiting toxicity(DLT)がみられたため,maximum tolerated dose(MTD)と判断した。本治療法においては,レベル2(S-1 65 mg/m2/日,DOC 40 mg/m2/日)がrecommended dose(RD)と決定した。 -
局所進行乳癌に対するDoxorubicinとCyclophosphamideの併用およびPaclitaxelの順次投与による術前化学療法の臨床病理学的評価
36巻3号(2009);View Description
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術前化学療法の至適レジメンや治療期間は確立されていないが,術後化学療法として推奨されているanthracycline系薬剤とtaxane 系薬剤を併用するレジメンが良好な成績を上げており,これら両薬剤の併用療法が術前化学療法としても推奨されている。今回,山田赤十字病院において2004 年1 月〜2007 年6 月までの期間,術前化学療法としてdoxorubicinとcyclophosphamideの併用,およびweekly paclitaxelの順次投与を行った進行乳癌患者11 名を対象とし,本レジメンの安全性と有効性,および術前化学療法に対する効果予測因子についてretrospectiveに検討し,臨床病理学的評価を行った。調査期間中,本レジメンにて術前化学療法を施行した患者は11 名であった。術前化学療法施行前後において全例で腫瘍縮小が認められ,平均縮小率は64.1%であった。術前化学療法による副作用はgrade 3 の白血球減少が1 例で認められたが,その他はすべてgrade 2 以下であった。主腫瘍やリンパ節に対するresponse rate は高値であった。本レジメンによる術前化学療法の効果予測因子としてestrogen receptor(ER)およびヒト/Her2 発現を調査したところ,ER 陰性例,ヒト/Her2陽性例で抗腫瘍効果が高いことが示唆された。 -
乳癌における腫瘍内TS酵素量およびDPD活性の臨床的意義に関する検討
36巻3号(2009);View Description
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原発性乳癌においてTS(thymidylate synthase)酵素量やDPD(dihydropyrimidine dehydrogenase)活性が予後因子や化学療法選択の指標として有用か否かを検討した。1997 年11 月〜1999 年3 月の間にStageI〜IIIa の原発性乳癌患者57 例を集積した。リスクカテゴリーを用いて当時の標準治療であるTAM 単独群,TAM+経口5-FU 群,TAM+CMF 群に分けて術後補助療法を行った。従来のリスク因子に加え,TS酵素量およびDPD 活性と予後の関係を検討した。腫瘍径,ER 発現,TS酵素量において無再発生存期間に有意差を認めた。閉経状況,n,術式,p53 発現,DPD 活性,HER2発現では有意差は認められなかった。乳癌の予後判定因子としてTS 酵素量が有用である可能性が示唆された。 -
切除不能胃癌におけるSecond-Line化学療法としてのS-1 Based Sequential Chemotherapyの有用性
36巻3号(2009);View Description
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背景:切除不能・再発胃癌におけるsecond-line chemotherapy としてS-1 based sequential chemotherapy の有用性を検討した。方法: 2000 年9 月〜2005 年10 月に大阪府立成人病センターにてfirst-line 化学療法としてphaseII・III臨床試験(SPIRITS trial(S-1 vs CDDP+S-1),GC 0301/TOP-002(S-1 vs CPT-11+S-1),OGSG0002(S-1+CPT-11),OGSG0105(S-1+paclitaxel))に登録された切除不能・再発胃癌89 例のうち,second-line化学療法を施行した66 例について, 1.first-line およびsecond-line 化学療法における無増悪生存期間; progression free survival(PFS)in first-line and second-line, 2.first-line 化学療法開始後second-line 化学療法における増悪までの生存期間;time to second progression(TSP), 3.全生存期間(OS)の検討を行った。結果:上記66 例を A)first-line: S-1 単剤,second-line: S-1 と他剤との併用療法(n=7),B)first-line: S-1単剤,second-line: S-1 以外の他剤(n=13),C)first-line: S-1 併用療法,second-line: S-1 と他剤との併用療法(n=33),D)first-line: S-1 と他剤との併用療法,second-line: S-1 以外の他剤(n=13)に分類し,second-lineにおけるS-1 based sequential chemotherapy群(A+C 群)とS-1 以外の他剤使用群(B+D群)を比較検討した。first-lineにおけるPFS は各々157.5 日(A+C 群),130 日(B+D群)(p=0.2749)と有意差を認めなかった。しかしsecond-lineにおけるPFS,TSP およびOS はA+C 群では各々72.5,256.5,473 日であり,B+D群では56,201.5,398.5 日(PFS;p=0.086,TSP: p=0.0718,OS: p=0.0204)であった。S-1 based sequential chemotherapy群(A+C 群)において有意にOSの改善を認めた。有害事象はfirst-lineにおけるA+C 群において,B+D群よりもgrade 3/4 の白血球減少症(10%),発熱性好中球減少症(5%),grade 3 の下痢(10%)が多くみられた。second-line では,B+D 群においてA+C 群よりもgrade 3/4 の白血球減少症(12%),好中球減少症(8%)が多くみられた。なお,治療関連死は1例も認めなかった。結論:臨床試験に登録された切除不能・再発胃癌においてfirst-line のみならずsecond-line にもS-1 based chemotherapy をsequentialに行うことで予後の改善が示唆された。 -
大腸癌原発巣・肝転移巣におけるThymidine Phosphorylase(TP)発現—癌細胞内mRNA 発現と腫瘍組織中蛋白発現量の関係—
36巻3号(2009);View Description
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目的:大腸癌のthymidine phosphorylase(TP)発現をmRNAレベルと蛋白レベルで解析し,両解析法を比較・検討した。対象・方法:大腸癌原発巣(n=84)と同時性肝転移巣(n=15)のパラフィン包埋標本からDanenberg tumor profiling法で大腸癌細胞のTP mRNA 発現を半定量した。また,同一検体の新鮮凍結組織中のTP 蛋白発現をenzyme-linked immunosorbent assay(ELISA)法で定量した。結果:原発巣のmRNAレベルと蛋白レベルの間には弱い相関(p=0.04)を認めたが,肝転移巣ではmRNA レベルと蛋白レベルの間に相関を認めなかった。いずれの解析法においても,肝転移巣と原発巣の発現レベルに差を認めなかった。5-fluorouracil(あるいはUFT)/Leucovorinの効果がPD(n=11),SD(n=3),CR/PR(n=4)の順にmRNAレベルが高かったが(p=0.05),蛋白レベルと治療効果の間に相関を認めなかった。結語:大腸癌のTP 発現に関し,異なる二つの解析法の間に相関はなく,測定の対象・測定法の違いにも留意すべきである。 -
FOLFOX・FOLFIRI 療法施行大腸癌患者における味覚障害の発現状況とQOL への影響
36巻3号(2009);View Description
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FOLFOX・FOLFIRI 療法を施行されている大腸癌患者において,味覚障害を訴える患者を多く経験する。今回われわれは,FOLFOX・FOLFIRI療法施行大腸癌患者での味覚障害の発現状況とQOL への影響について調査した。味覚障害の発現状況を調査した結果,58.1%(18 例/31 例)において味覚障害が発現していた。そのうち50.0%(9 例/18 例)で味覚障害が食欲に影響していた。味覚変化の状況としては,鈍感に感じる患者が多かったものの,敏感になったと訴える患者もいた。甘味,塩味,苦み,酸味,うまみのいずれの味覚についても変化を訴える患者がいた。また,QOL 調査票(Quality of Life Questionnaire for Cancer Patients Treated with Anticancer Drugs: QOL-ACD)を用いて味覚障害のQOLに及ぼす影響について調査したところ,味覚障害が食欲に影響すると答えた患者では,味覚障害の発現してない患者と比較して有意にQOL が低下していた。FOLFOX・FOLFIRI施行大腸癌患者においては,味覚障害が高頻度に発現しており,食欲不振による低栄養状態はQOLの低下にもつながる要因になると考えられた。 -
肝動脈塞栓材・多孔性ゼラチン粒(ジェルパート)のマイクロカテーテル通過前後の粒子径と断片化に関する検討
36巻3号(2009);View Description
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多孔性ゼラチン粒(ジェルパート)(GP)を用いた肝動脈塞栓術後の肝膿瘍の発生が最近問題視されており,一つの要因としてGP の粒子径のばらつきや微細断片の混在が考え得る。本研究ではマイクロカテーテル通過前後のGP の粒度分布および断片の頻度について検討した。3 名のIVR 専門医が3 種類の内径の異なるマイクロカテーテルにGP 1 mm 粒および2 mm 粒を注入し,通過前後の粒子をメチレンブルーで染色しデジタルマイクロスコープを用いて粒子2 方向径を測定した。長径にて1 mm 粒300 μm 未満,2 mm 粒600 μm 未満を各々断片とした。GP の粒子径は断片と非断片粒子による幅広い2 峰性分布を示した。平均粒子径は長径・短径とも10%以内の変化にとどまり,短径/長径比もおおむね0.75 前後で一定した。通過前の断片頻度は,1 mm粒で約10%,2 mm粒で約5%であったが,通過後は1 mm粒で約1〜2 倍,2 mm粒で約2〜5 倍の断片増加を認めた。1 mm 粒,2 mm 粒とも粒子径にばらつきを認め,断片が混在した。マイクロカテーテル通過前後で粒子径および形状に大きな変化はないが,特に2 mm粒で通過後に著しい断片増加を認めた。 -
S-1投与患者における消化器毒性軽減の検討—服薬継続および中止患者のカルテ調査—
36巻3号(2009);View Description
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旭労災病院で2000 年11 月〜2006 年2 月までにS-1 が投与された79 例(ほとんどが胃がん)を継続群と中止群に分けて,消化器毒性軽減のための背景因子を調査・検討した。服薬を中止した平均日数はおよそ20 日で,中止理由の約60%が消化器症状であった。S-1の単剤投与における比較では,胃切除ありのほうが胃切除なしよりも服薬を継続できていた(p<0.05)。全例の比較では,2 週投与のほうが3 または4 週投与よりも服薬を継続できていた(p<0.05)。胃切除施行により服薬中止となりにくいことから,胃酸の分泌を抑制することで副作用を軽減できる可能性が示唆された。また,S-1 を中止するまでの平均服薬日数が20 日前後であることから,S-1 の継続投与を考えた場合,添付文書に記載のない2 週投与レジメンの確立が急務であると思われた。 -
がん化学療法時の口腔ケアによる口内炎予防効果
36巻3号(2009);View Description
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口内炎はがん化学療法中によくみられる有害事象である。がん化学療法において,患者への指導と口腔指標を用いた口腔ケアが,がん化学療法を受ける患者の口内炎予防に効果があると仮定した。方法として,効果的なブラッシングを指導し,口腔清掃度指標であるPlaque Control Record(PCR)を用いることや,口腔の全体指標であるOral Assessment Guide(OAG)を用いた患者指導要項を2006 年4 月以降実施した。われわれは食道がんで5-FU 注+CDDP(FP 療法)を受ける患者20 名(10 名は導入前,10名は導入後)の口腔ケアによる口内炎予防効果を検討した。ガイダンス導入後,患者はブラッシング指導を受け,O'LearyのPCR とEilersのOAG を用いて口腔内所見を評価した。口内炎の発生頻度はそれぞれガイダンス導入前60%(6/10),導入後40%(4/10)と減少した。PCR はブラッシング指導後平均82%から46%に減少した。また,指導後のOAG平均値は9.14であり,これは過去の報告例に比べよい結果であった。PCR・OAGなどの客観的な指標を用いることにより,口腔内全体の評価・情報の共有に役立ち,チーム医療として患者指導を行うことができた。さらに,これらの指標は患者の動機付けとして有用であった。 -
アンケート調査からみた再発・進行がん患者の疼痛管理における主治医の役割の重要性
36巻3号(2009);View Description
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わが国におけるがん疼痛治療の現状を明らかにすることで,疼痛治療をより早期から,かつ適切に行うための改善点を明確にできると考え,痛みを有する再発・進行がん患者を対象に,疼痛治療の実態についてのアンケート調査を実施した。その結果, 1.主治医が,がん患者の痛み治療をもっと重要視して患者に対して痛みの有無を常に知りたがっているという態度を明確に示すこと, 2.主治医自身が,患者に医療用麻薬に対する適切な知識を提供することが,がん疼痛治療において重要であることが明らかになった。がん治療におけるチームアプローチの重要性が増しつつあるが,その中心的な役割を担う主治医は,がん治療とともに,痛みなどの症状についても患者の声に耳を傾けること,さらには,患者は主治医との良好な信頼関係を構築することを切に願っていることを銘記すべきである。
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症例
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術前化学療法後に拡大広背筋皮弁で一期的乳房再建術を行った1 例
36巻3号(2009);View Description
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術前化学療法(NAC)の適応症例で強く乳房の温存を望む患者に対してNAC後に乳房切除と同時に一期的再建術を行った。症例は34 歳,独身女性。2007 年3 月,左乳房の腫瘤を自覚し当院を受診。精査にて径3 cmの充実腺管癌の診断を得た。EC(epirubicin 90 mg/m2, cyclophosphamide 600 mg/m2)×4 コース,followed by 3w-paclitaxel 175 mg/m2×4 コースでNAC を行い,その後乳房切除,腋窩郭清,拡大広背筋皮弁による一期的再建術を行った。病理学的にはpCR が得られていた。この術式は乳癌の外科治療,整容性の両方で利点が多いと考える。患者の満足度は大きかったが,現時点ではevidenceが十分とはいえないので今後の症例の蓄積とさらなる検討が待たれる。 -
Trastuzumab/Capecitabine併用療法が奏効した高齢者乳癌の1例
36巻3号(2009);View Description
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trastuzumab/capecitabine 併用療法が奏効した高齢者乳癌の1 例を報告する。症例は83 歳,女性。2007 年4 月に手術を受け,術後に腋窩リンパ節転移を認めた。ホルモン感受性がなかったことから化学療法を選択し,capecitabine 1,800mg/日(分2)で経口投与およびtrastuzumab の併用投与を開始した。6 コース終了時の胸部CT では腋窩リンパ節転移巣はすべて消失した。明らかな副作用の発現はなかった。trastuzumab/capecitabine 併用療法は高齢者の進行乳癌に対して安全かつ有用な治療であると考えられた。 -
術前TrastuzumabとWeekly Paclitaxelの併用により手術が可能となりpCR が得られたHER2 陽性StageIIIB 局所進行乳癌の1 症例
36巻3号(2009);View Description
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症例は63 歳,女性。右乳房全体に12 cm 大の腫瘤および皮膚発赤,皮膚衛星結節があり,右腋窩にも8 cm大の腫大癒合したリンパ節があった(T4bN2aM0,StageIIIB)。乳房腫瘍針生検組織診では浸潤性乳管癌(硬癌)であり,ホルモンレセプターは陰性(ER-,PgR-)でHercepTest score は3+であった。手術適応がない局所進行乳癌と判断しweekly paclitaxel(80 mg/m2,4 週連続投与1 週休薬,計3 コース)とtrastuzumab(初回4 mg/ kg,2 回目以降2 mg/kg,毎週投与,計11 回)を投与したところ,臨床的に乳房と腋窩腫瘤が完全に消失(cCR)したので乳房全摘,腋窩リンパ節郭清をした。病理学的に腫瘍の浸潤巣は完全に消失し,乳房内に2×1 mm の乳管内成分の残存を認めるのみであった。郭清された腋窩リンパ節には強い線維化のみを認め,癌細胞が完全に消失していることが確認された。病理学的治療効果はgrade 3(DC+)と判定した。HER2 陽性,ホルモンレセプター陰性の手術適応外進行乳癌に対してtrastuzumab とweekly paclitaxel の併用による術前療法の有用性が示唆された。 -
CYVADIC 療法が奏効した肉腫型腹膜悪性中皮腫の1例
36巻3号(2009);View Description
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症例は66 歳,女性。腹部膨満を主訴に2005 年2 月当院を受診した。検査上,炎症所見の上昇を認め,腹部CT にて腹腔内に巨大腫瘍を認めた。腹腔内腫瘍切除術,胃分節切除術,空腸切除術,横行結腸切除術,左卵巣嚢腫切除術および胃瘻設術を施行した。免疫組織染色により,肉腫型の腹膜悪性中皮腫と診断された。術後22 日目より腫瘍の再増大を認めたため,cyclophosphamide(CPA),vincristine(VCR),adriamycin(ADM)およびdacarbazine(DTIC)を用いた多剤併用化学療法(CYVADIC療法)を施行した。2コース施行後の腹部CT にて腫瘍は著明に縮小していた。その後,paclitaxel(PTX)およびcarboplatin(CBDCA)静脈内投与を行ったが,腫瘍の急速な増大と汎発性血管内血液凝固症の併発のため術後132 日目に死亡した。肉腫型悪性中皮腫は予後不良な疾患であるが,積極的に化学療法を行うことで予後の改善が期待される。 -
Three(3)Cases of Advanced HepatocellularCar cinoma(HCC)Treated Successfully by Transcatheter Arterial Chemoembolization(TACE)Using Lipiodol and a Fine-Powder Formulated Cisplatin(DDPH)
36巻3号(2009);View Description
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肝動注用微粉末化cisplatin製剤(以下,アイエーコールTM)を用いてLipiodol 混和液を作製後,動注併用肝動脈塞栓術(TACE)を施行し,著明な治療効果を認めた3 症例を経験したので報告する。症例1 は64 歳,男性。以前から多発性肝細胞癌に対してdoxorubicin(ADM)を用いたTACE(ADMTACE)を複数回施行していたが治療効果を認めず,再発を繰り返していた。そこでアイエーコールを用いたTACE(CDDPTACE)を1回施行したところ,腫瘍は縮小または消失し,その後再発は認めていない。症例2 は71 歳,男性。以前よりADMTACEを施行していたが腫瘍は増大し,下大静脈に腫瘍栓を伴う60 mm 大の腫瘍となった。同腫瘍に対してCDDPTACE を施行したところ,下大静脈の腫瘍栓の消失および腫瘍の縮小を認めた。症例3 は52 歳,男性。初発多発肝細胞癌に対してCDDPTACEを施行した。治療後,腫瘍は縮小または消失し,その後再発は認めていない。アイエーコールを用いたTACE は進行肝細胞癌やADMTACE での治療に対して抵抗性である症例に対してだけではなく,多発肝細胞癌の初回治療に対しても有効である可能性があり,今後さらなる検討が必要と思われた。 -
UFT-E 投与開始後,急速に再発巣・門脈内腫瘍栓が消失した肝細胞癌の1 例
36巻3号(2009);View Description
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症例は82 歳,男性。初回手術後7 年で再発した肝細胞癌に対し手術後,計4 回のchemo-lipiodolization(C-LPD)およびTAE,引き続いて動注ポートからのCDDP 持続肝動注を2 コース施行するも奏効せず,再発巣は増大し門脈内に腫瘍栓を来した。外来でtegafur/uracil(UFT-E TM)1.5 g/日(tegafur 300 mg/日)を投与開始したところ,1 か月で急速な腫瘍の退縮,腫瘍栓の消失を認め2 か月で再発巣は消失した。重篤な消化器症状,骨髄抑制などの有害事象もなく,本症例にUFT-E は特に有効であった。 -
Methotrexate/5-Fluorouracil交代療法中にゾレドロン酸で著明な低カルシウム血症を起こした胃癌骨髄癌腫症の1 例
36巻3号(2009);View Description
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症例は64 歳,男性。胃癌,リンパ節転移,脳転移,骨髄癌腫症,DIC の診断に対し,methotrexate(MTX)/5-fluorouracil(5-FU)交代療法(MTX 100 mg/m2 急速静注,3 時間の間隔を空けて5-FU 600 mg/m2 急速静注週1 回)を行った。DIC は改善傾向となり,腫瘍マーカーは著明に低下した。4 週後,骨合併症予防のためゾレドロン酸4 mg を投与した。翌日から倦怠感,食欲不振が出現。6 日後,血清カルシウム値の著明な低下を認めた(Ca(補正)5.5 mg/dL,Pi 2.1 mg/dL)。同日からグルコン酸カルシウム3.4 g/日の連日投与を開始した。カルシウム値は12 日目に正常化し,自覚症状も改善した。その後,MTX/5-FU 療法を継続し外来通院も可能となったが,9 回目の投与後倦怠感,腰痛が出現し,DICも再燃。paclitaxel に変更して治療を行ったが効果なく,10 日後に死亡した。化学療法中の骨髄癌腫症に対するゾレドロン酸の投与に当たっては,低カルシウム血症への十分な注意が必要と考えられた。 -
低用量S-1投与にて長期間奏効を得た超高齢再発胃癌の1 例
36巻3号(2009);View Description
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症例は88 歳,女性。StageIIIA の進行胃癌に対して幽門側胃切除術を受けたが,術後11 か月目に腹腔内リンパ節転移を認めた。Cockcroft-Gault 式による推定クレアチニンクリアランス(Ccr)値は44 mL/min であり超高齢であることから,S-1を基準投与量より2 レベル少ない1 回25 mg,1日2回投与で開始した。投与開始から1 週間でgrade 2 の消化器毒性が出現したため,1 週投与1 週休薬のスケジュールで投与を行ったところ有害事象は消失した。投与開始2 か月目にはリンパ節転移は縮小し,投与開始から約4 年間partial response(PR)が持続している。高齢者胃癌に対するS-1 治療において,有害事象,特に消化器毒性は投与の継続を困難にするため,投与量のみならず投与スケジュールも個々の症例で柔軟に対応することが重要である。 -
腹膜原発漿液性乳頭状腺癌の1 例
36巻3号(2009);View Description
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78 歳,女性。食欲不振で受診し,著明な腹水を認めた。腹水細胞診では確定診断できず,開腹生検を行った。砂粒体を認め,免疫染色ではBer-EP4陽性,卵巣における乳頭状腺癌と同一像で,卵巣に病変を認めないことから腹膜原発漿液性乳頭状腺癌と診断した。腹腔内少量CDDP 投与で腹水は著明に減少し,CA125 も正常化した。以後4 週ごとに治療を継続し,3 年間無再発であったが左鎖骨上窩リンパ節転移が出現した。しかしその後も治療を継続し,1 年間増悪を認めていない。 -
FOLFOX 療法後切除可能となった大腸癌肝転移の1 例
36巻3号(2009);View Description
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症例は41 歳,男性。S状結腸癌,多発性肝転移と診断。原発巣切除を施行し,肝転移に対しては肝動注リザーバーを留置して肝動注療法を施行した。weekly high-dose 5-FU(WHF)療法を16 コース施行したが,SDのためCVポートを挿入して全身化学療法mFOLFOX6 を施行した。14 コース施行したところ肝転移は縮小し,切除可能になったため肝切除術を施行した。mFOLFOX6に伴う肝機能障害のため切除範囲が限定されラジオ波凝固療法(RFA)を併用したが,肝切除後の病理にて癌遺残は認めなかった。 -
上行結腸癌術後の局所再発に対しmFOLFOX6 とFOLFIRI の交代療法(mFIREFOX 療法)が奏効した1例
36巻3号(2009);View Description
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症例は58 歳,女性。進行上行結腸癌に対し,右半結腸切除術(D2)を施行。術後6 か月後にCEAとCA19-9値の上昇を認め,胸腹部CT 検査,上部下部消化管内視鏡検査を施行するも再発所見はなかった。その後も腫瘍マーカーの値は上昇し,腹部CT 再検査でも明らかな再発はなかったが,術後9 か月目のPET-CT検査で右側腹部に集積の上昇を認め,結腸癌再発と診断した。modified-FOLFOX6 とFOLFIRI を2 週ごとに4 回交互に投与するmodified- FIREFOX 療法を施行した。経過中にgrade 3 の白血球減少とgrade 2 の消化器毒性を認めた時点で化学療法は中断したが,腫瘍マーカー値は徐々に正常化した。現在,治療終了後12 か月経過したが,PET-CT での異常集積は消失(CR)し,再燃・再発の所見はない。 -
化学療法にて長期生存が得られたが髄膜播種にて死亡したStageIV直腸癌の1 例
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症例は65 歳,男性。直腸癌の診断で当科紹介となった。初診時,すでに肝転移,肺転移がありStageIVであった。局所コントロール目的に低位前方切除術を行い,術後FOLFOX4 にて抗癌剤治療を開始した。3 クール終了後のCT による評価ではPR であった。しかし,末梢神経障害の出現により術後9 か月目よりFOLFIRIに変更した。術後19 か月目に,左腸骨リンパ節転移のため尿管閉塞となりステントを挿入した。その後,FOLFOX4 に再度変更したが,L-OHP に対するアレルギー反応が出現したため使用を中止し,術後21 か月目よりFOLFIRI に変更した。術後25 か月目にふらつき,歩行困難が出現したため入院し,CT にて髄膜播種の診断であった。入院後グリセオール,ステロイドなどの保存的治療で一時軽快し退院した。しかし約1 か月後,全身状態の悪化,意識障害のため入院し,術後26 か月で死亡した。今回,化学療法が奏効し長期生存が得られたが,最終的には髄膜播種にて死亡した直腸癌症例を経験した。今後,直腸癌でも中枢神経への転移に対する治療法の確立が期待される。 -
VeIP療法が奏効したPEP(BEP)療法抵抗性卵巣未分化胚細胞腫の1例
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卵巣胚細胞性腫瘍はまれな疾患であるが,化学療法(bleomycin+etoposide+cisplatin 併用療法: BEP 療法)が有効であることが知られている。しかしながら,BEP 療法抵抗性の卵巣胚細胞性腫瘍に対するsecond-line chemotherapy は確立されていない。今回われわれは,pepleomycin+etoposide+cisplatin 併用療法: PEP(BEP)療法抵抗性の卵巣未分化胚細胞腫に対し,second-line chemotherapyとしてvinblastine+ifosfamide+cisplatin 併用療法(VeIP療法)が奏効した1 例を経験したので報告する。症例は初診時14歳,右腰背部痛を主訴に近医総合病院を受診した。超音波検査にて右卵巣腫瘍茎捻転(直径11 cm)の診断で右付属器摘出術を施行された。術後の病理検査で卵巣未分化胚細胞腫と診断され,当科紹介となった。初診時から2 年2 か月の時点でhCG-CTP が1.4 mIU/mLに上昇し,骨盤造影MRIにて左卵巣の腫大(6.0×4.0×4.7 cm)を認め,卵巣未分化胚細胞腫の再発(左卵巣転移)と診断した。初回化学療法としてPEP(BEP)療法を4 コース施行し,CR となった。初回化学療法後6 か月でhCG-CTP が14.5 mIU/mL に再上昇し,骨盤造影MRI で左卵巣腫大(4.0×2.5×3.0 cm),PET-CT検査でも左卵巣にup take を認めたため,卵巣未分化胚細胞腫の再々発と診断した。左卵巣部分切除術を施行,迅速病理組織診断にて再発と確定し,術中CDDP 腹腔内投与(100 mg/body)を施行した。術後VeIP療法を6 コースを施行,SLLにて左卵巣生検を施行し,pathological CR を確認した。VeIP療法後2 年経過した現在,無病生存である。腫瘍径10 cm以上の卵巣未分化胚細胞腫は悪性度が強く,治療抵抗性を示すことがあると考えられ,本症例のようなPEP(BEP)療法に抵抗性を示す卵巣未分化胚細胞腫に対しVeIP療法が有効である可能性が示された。
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通信
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市中病院における臨床研究の導入
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当院はOGSG などの臨床研究グループに参加し,積極的に臨床研究に取り組んでいる。しかし,当院は一般市中病院であり臨床研究には参加したことがなかった。そのようななかで,スタッフと協力して臨床研究を浸透させていった経過を報告する。当初は医師のみで臨床研究を開始したが,いろいろな問題点が生じ,多職種の協力なしには臨床研究を進めていくことが困難であることが判明した。その後,臨床研究を進めていくためにスタッフと勉強会を開き理解を深め合った。それにより化学療法室の看護師を中心に臨床研究に対する工夫が積極的に提案されるようになった。また,放射線科でも様々な協力を得ることができるようになった。OGSG0603(FOLFOX 療法に伴う末梢神経症状に対するcarbamazepinの有効性および安全性を検討する第II相臨床試験)というアンケート込みの研究が開始されたころには,医師よりも看護師・薬剤師が中心となり積極的に研究を進めることができ,最多登録施設になることも可能であった。市中病院でも多職種が協力することにより,臨床研究を推進することが可能であった。また,臨床研究を行うことで各部門のシステム向上も行うことができた。
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新薬の紹介
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ベバシズマブ(Bevacizumab,アバスチン(Avastin))
36巻3号(2009);View Description
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血管新生は腫瘍増殖において重要な役割をもち,血管内皮細胞増殖因子(VEGF: vascular endothelial growth factor)は,中心的な役割をもっている。VEGFは多くの癌腫で発現していることが知られており,腫瘍の増殖や予後に関連するため,抗癌剤の標的分子として研究がなされてきた。VEGFに対する抗体であるbevacizumab(Avastin)が初のVEGF ターゲット・ドラッグとして誕生し,特に大腸癌領域において,細胞傷害性抗癌剤との併用による多くの臨床試験が展開され,生存期間,無増悪生存期間の延長が証明されてきた。わが国では2007 年4 月に大腸癌の適応承認を受け,現在標準的治療薬として用いられている。本稿においては,現在までの臨床試験の成績,有害事象報告を踏まえながら,bevacizumabの現状について概説する。
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Journal Club
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用語解説
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