癌と化学療法

Volume 36, Issue 9, 2009
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総説
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幹細胞学とがん生物学の接点
36巻9号(2009);View Description
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発がん仮説は複雑化の一歩をたどり,混沌の様相すら呈している。こうした状況のなかで,がん細胞と幹細胞との類似性に着目した新しい仮説である「がん幹細胞説」が注目を浴びている。「がん幹細胞説」が正しいならば,二つの発想の転換が必要だ。一つは,発がん仮説の複雑化の多くが単なる見かけであって,少なくとも一部は発がんの原因でなく結果にすぎないという可能性であり,もう一つは新しいがん治療法の発想だ。新しいがん治療法は,これまでのがん療法の目的である「がん細胞を根絶やしにする」ものではなく,たとえば,「がん細胞の休眠化や正常(または類似状態)化を薬物で促す」というような,患者とがん細胞との長期の共生を図る穏やか方法になるのではないだろうか。
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特集
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- がんの適切なフォローアップ計画
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胃癌の適切なフォローアップ計画
36巻9号(2009);View Description
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治癒切除胃癌術後の再発形式,再発時期および定期的なフォローアップ計画につき文献的な考察を加え検討した。対象は初発単発治癒切除胃癌3,861例中,術後再発が認められた307 例(8.0%)である。再発形式は血行性再発が最も多く,腹膜再発,リンパ節再発,局所再発の順であった。低分化型腺癌は腹膜再発が多く,分化型腺癌では血行性再発が3/4 を占めた。pT1 では90%が血行性再発,10%がリンパ節再発であった。腹膜再発はpT3 から急に増加した。1 年以内では血行性再発と腹膜再発がほぼ同数であった。早期胃癌では2 年以内に50.0%が再発し,3 年以内に88.9%が再発していた。一方,進行胃癌では2 年以内に79.2%が再発し,3年以内に90.7%が再発していた。術後の50%生存期間は,リンパ節再発,血行性再発,腹膜再発に差はなく,再発後の生存期間にも差はみられなかった。この結果を踏まえて,また今後地域連携パスが普及することを考慮して,StageI 胃癌および StageII〜IIIB 胃癌に対する術後フォローアップ計画を作成した。進行胃癌は術後5 年まで,早期胃癌は術後10 年まで続けるが,5 年以降は毎年基本検診,職場検診や人間ドックを積極的に受けるよう指導することとした。定期的な術後フォローアップによる胃癌再発例の延命効果についてはいまだcontroversial である。今後,術後フォローアップが延命に寄与しているか否かについては科学的に検証していく必要がある。 -
大腸癌
36巻9号(2009);View Description
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大腸癌治療において術後のフォローアップにより予後延長に寄与したという明らかなエビデンスはない。しかし大腸癌の治療において,再発しても切除できれば延命につながることは明らかであり,そのような点を考慮すると,再発を早期に発見し,切除できる時期に発見することは重要であり,術後のフォローアップ計画を規定することは意味があると思われる。ASCO およびESMO の推奨するフォローアップ計画を日本のガイドラインと比較した。日本のフォローアップ計画は欧米のものに比べ緊密であることが明らかとなり,再発を早期に発見できる計画であると思われた。 -
肝臓癌
36巻9号(2009);View Description
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肝細胞癌術後の症例は肝癌再発の「超超高危険群」と認識するとともに,術後2 年間は肝癌診療ガイドラインで推奨されているサーベイランスよりも短い間隔で,注意深くフォローアップすることが肝要である。また,再発が認められた時には肝機能の許すかぎり解剖学的切除をめざすことが,予後を改善する外科側の使命であると考える。 -
肺癌術後フォロー
36巻9号(2009);View Description
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肺癌根治治療後のフォロー法については,いまだ確立されたものはない。術後患者についても同様で,わが国のガイドラインでは,「手術後の患者をどのように経過観察するのが最適かという点について確立されたものはない」との記載となっている。このような現状において,いくつかの欧米のガイドライン上にて推奨されている術後フォロー法は,「術後2年目までは,6 か月後毎の問診および身体所見の確認,胸部単純写真あるいはCT。術後2 年目以降は,6 か月〜1 年毎の問診および身体所見の確認,1 年毎の胸部単純写真あるいはCT」とされている。近年,肺癌外科領域は多様化しており,術後フォローに関しても現在推奨されている方法を基本として,患者ごとに臨機応変に対応していくことが重要である。肺癌術後患者の至適なフォロー法の確立が急務である。 -
乳癌の適切なフォローアップ計画
36巻9号(2009);View Description
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乳癌患者の増加とともに乳癌診療はエビデンスベースで進み,手術以外の多くの診療が外来で行われるようになってきている。手術手技や薬物療法の専門化に伴い患者の集中化もみられ,補助化学療法などの初期治療を終えた患者のフォローアップが専門病院では困難となり,フォローアップ計画の見直しの必要性が増している。乳癌診療ガイドラインの推奨は問診・視触診とマンモグラフィの実施であるが,実際は各施設で独自の内容で実施しており,その間に乖離がみられている。今回,ガイドラインの推奨内容を吟味し,実臨床に適応した場合の問題点を抽出することで現行の乳癌診療の特徴を考察するとともに,メタアナリシスなどから理解されつつある乳癌の特異的な自然史や術後ホルモン療法の実施の影響,患者の意向を反映させた理想的なフォローアップのあり方について診療連携の実践も視野に入れて検証を試みた。
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Current Organ Topics:食道・胃 癌
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原著
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頭頸部癌初回治療例における放射線併用 5-FU 先行型 MTX Enhanced 5-FU CDGP 療法の効果
36巻9号(2009);View Description
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われわれは頭頸部扁平上皮癌に対し,2000年からMTX・5-FU・CDGP に放射線を併用した治療を行っている。今回,主に初回治療患者につき,これらを集計した。対象症例は45 例で,男性40 例,女性5 例,年齢は47〜86歳,平均66.4歳であった。ステージ分類では1期3例,2 期6 例,3 期9 例,4 期27 例であった。MTXは150 mg/bodyを投与後,投与終了1 時間後から5-FU 500 mg/ m2を2 時間かけて投与,引き続いて5-FU 3,000 mg/m2を72 時間かけて投与,引き続いてCDGP 100 mg/m2を投与した。MTX 終了6 時間後からLV 15 mg を17 回静注した。投与回数は1〜5 で平均2 コースであった。放射線治療は,遠隔転移例などを除く42 例で同時照射されていた。45 例中,grade 3 以上の白血球数減少は22 例(48.8%),血小板数減少は24 例(53.3%)であった。効果判定可能42 例中,CR 26 例(61.9%),PR 15 例(35.7%),SD 1 例であり,奏効率は97.6%であった。SD の1 例は原発不明頸部転移の症例であり,原発巣に関しては評価可能40 例中34例(85.0%)がCR,6 例がPR であった。 -
アロマターゼ阻害剤に不応性の進行・再発乳癌に対する高用量Toremifeneの治療成績
36巻9号(2009);View Description
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背景: 近年,乳癌の術後補助療法にはアロマターゼ阻害剤(aromatase inhibitor: AI)が広く用いられているが,その後の再発症例に対する治療戦略はいまだ十分に明らかにされていない。対象と方法:当科で2003 年6 月〜2007 年4 月までに高用量toremifene(TOR)を投与した第三世代AIに不応性の閉経後進行・再発乳癌12 例に対する治療成績を後ろ向きに解析した。対象症例の観察期間中央値は16.1(4.0〜40.9)か月であった。対象症例は全例ホルモン感受性で,human epidermal growth factor receptor type 2(HER2)蛋白過剰発現症例は12 例中1 例であった。直前のAI 治療はexemestane(EXE)が9 例,anastrozole(ANA)が3 例であった。結果:全奏効率は16.7%(2/12),clinical benefit率は58.3%(7/12),無増悪期間(TTP)の中央値は33.8 週であった。tamoxifen(TAM)治療歴や化学療法治療歴の有無は抗腫瘍効果に影響しなかった。転移再発部位別にみると,肺,胸膜,軟部組織などのnon-life-threatening 症例に対し良好な治療効果が得られた。grade 2 以上の有害事象はなく,主なものはほてりと発汗であった。結語: AI 不応性の閉経後進行・再発乳癌に対するより早い治療段階での高用量TOR の臨床的有用性が期待された。 -
乳癌症例に対するUFT 単独療法およびホルモン剤併用療法の安全性と投与継続性の検討
36巻9号(2009);View Description
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近年,多くの新規抗癌剤やホルモン剤が乳癌に対して使用可能となり,実地臨床においてはこれらの薬剤を組み合わせて投与される機会が増えてきている。乳癌の術後薬物療法として汎用されてきたUFT はホルモン剤と併用される場合がたびたびあるが,アロマターゼ阻害剤(aromatase inhibitor: AI)併用時の安全性と投与継続性については,十分に検討されていないのが現状である。そこで閉経後乳癌症例の術後薬物療法として,UFT 単独およびホルモン剤であるtamoxifen(TAM)あるいはanastrozole(ANA)併用時の安全性と投与継続性を検討した。その結果,UFT単独投与時は初期の有害事象に注意することで安全に長期間術後投与が可能であることが確認された。併用療法時においては,高齢者への投与も含め有害事象の発現頻度に有意な上昇を認めず,投与継続率の低下もみられなかった。今後さらなる臨床試験による検討が必要であるが,UFT+ホルモン剤(特にANA)併用療法は,比較的強くない化学療法が望まれる高度内分泌反応性または不完全反応性のHER2 陰性症例や毒性の低い治療法が望まれる高齢者に対する術後薬物療法の一つとして考えられる。 -
切除不能進行膵癌に対するS-1療法の有用性
36巻9号(2009);View Description
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目的:切除不能進行膵癌に対する化学療法の感受性は極めて乏しいが,近年S-1 などの新たな抗癌剤の有用性が報告されている。今回,S-1 の投与が生存期間の延長に貢献するか臨床的に検討した。対象: 2001 年11 月〜2008 年8 月までに受診した外科的切除不能膵癌患者17 例(男性10名,女性7名)。平均年齢は72.5 歳,治療開始前のperformance statusは全例が0〜2 であった。方法:経過中にS-1 を使用した群をS-1 使用群(9 例),S-1 を使用しなかった群をS-1 未使用群(8 例)とし,平均生存期間,1 年生存率,在院日率を検討した。結果: S-1 未使用群の平均生存期間は173.1 日,1 年生存率は12.5%であったのに比較し,S-1使用群では435.1日,55.6%であった。そのうち在院日率はS-1 未使用群が53.1%であったのに比較し,S-1 使用群では25.6%であった。考察:切除不能進行膵癌におけるS-1 療法は生存期間の延長をもたらし,なおかつ在宅療養期間の延長を可能とすることが示唆された。 -
S-1+CDDP 併用療法後に切除術を施行した高度進行胃癌症例の検討
36巻9号(2009);View Description
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高度進行胃癌に対する治療成績向上をめざし,様々な補助化学療法が試みられている。今回,われわれは術前にS-1とCDDP 併用による化学療法を施行後に手術を施行した進行胃癌症例7 例をretrospective に検討し,その有効性,成績を報告する。化学療法施行サイクル数は中央値2(1〜3 サイクル)で,grade 3 以上の有害事象は好中球減少を2 例で認めた。画像上の抗腫瘍効果はPR 8 例,SD 1 例であった。化学療法終了後4 週間以内に手術が施行され,組織学的抗腫瘍効果は4例でgrade 2 以上であったがCR を得られたものはなかった。組織学的抗腫瘍効果でgrade 2 以上のものとそれ以下のものの全生存期間を比較したところ,grade 2 以上のものでMST が982 日,2 年生存率は50.0%,それ以下のものでMST は443 日で2 年生存率は33.3%であり,無再発生存を得られている2 例はともに組織学的奏効度がgrade 2 以上のものであった。S-1 を中心とした術前化学療法は安全に施行でき,奏効例に対しては予後の向上を望める可能性がある。今後,第III相試験で術前化学療法の有用性が証明されれば,高度進行胃癌に対する治療法の選択肢の一つになるものと思われた。 -
転移性胃癌・大腸癌患者に対するS-1/Irinotecan療法における半夏瀉心湯の臨床効果
36巻9号(2009);View Description
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2007年7 月〜2008 年6 月までに文書で同意が得られた転移性胃癌・大腸癌患者を対象に,半夏瀉心湯の化学療法の抗腫瘍効果と有害事象およびquality of life(QOL)スコアの変化に与える影響について前向きに検討を行った。S-1/irinotecan(CPT-11)療法を行う20 例が半夏瀉心湯併用群(A群)と非併用群(B群)に無作為に割り付けられた。両群間で抗腫瘍効果に有意差は認められなかったが,grade 3 以上の重篤な副作用発生の頻度はA 群で低かった。またday 15 におけるQOL スコアの低下がB 群と比べてA 群で軽減される傾向がみられた。半夏瀉心湯はS-1/CPT-11 併用療法を行う際の有用な支持療法剤である可能性が示唆された。 -
肺癌化学療法時の悪心嘔吐に対するインジセトロン塩酸塩の有効性の検討
36巻9号(2009);View Description
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肺癌患者にcarboplatin(CBDCA)を含む抗悪性腫瘍剤を投与した際の悪心嘔吐作用に対して,インジセトロン塩酸塩の有効性を検討した。対象はCBDCA を含む多剤併用癌化学療法で,制吐剤としてインジセトロン塩酸塩を投与した群(インジセトロン群)32 例と,その他の注射用5-hydroxytryptamine 3(5-HT3)受容体拮抗剤を投与した群(コントロール群)24 例を後ろ向きに検討した。主要評価項目は完全嘔吐抑制率とし,副次評価項目は完全悪心抑制率とした。急性の完全嘔吐抑制率はインジセトロン群100%,コントロール群95.8%,遅延性の完全嘔吐抑制率はそれぞれ97.1%と95.8%であった。急性の完全悪心抑制率はインジセトロン群87.5%,コントロール群95.8%,遅延性での完全悪心抑制率はそれぞれ56.3%と70.8%であった。インジセトロン群とコントロール群の比較では完全嘔吐抑制率および完全悪心抑制率に統計学的有意差は認めなかった。以上よりインジセトロン塩酸塩は急性,遅延性の悪心嘔吐を抑制し,その抑制率は注射用5-HT3受容体拮抗剤と比して同等であり,CBDCAを含む多剤併用肺癌化学療法時の優れた経口制吐剤の一つであると考えられた。 -
間質性肺炎合併肺癌の化学療法後の急性増悪例の臨床的検討
36巻9号(2009);View Description
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目的:間質性肺炎(以下IP)合併肺癌の化学療法後のIP 急性増悪例の臨床像を明らかにする。方法: 2004 年1 月〜2006 年12 月の期間に化学療法を受けたIP 合併肺癌41 例を対象に急性増悪例の臨床像と化学療法の薬剤について後ろ向きに検討した。結果: 41 例(男性/女性40/1 例,平均年齢71.0±7.0 歳,非小細胞肺癌/小細胞肺癌30/11 例)中4 例(9.8%)に急性増悪を来し,3 例が呼吸不全で死亡した。急性増悪を来した群と来さなかった群間では,IPの病型や臨床的指標および化学療法の薬剤の差は認めなかった。結語:肺癌化学療法においてはIP 合併を厳密に検索するとともに,IP 合併例についてはIP 急性増悪の予測が困難であり,かつ高率であるので,十分な説明を行った上での方針決定が重要である。 -
がん疼痛治療における適切なオピオイドローテーション法—オピオイド鎮痛薬の全国使用実態調査—
36巻9号(2009);View Description
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WHO 方式がん疼痛治療法の普及により,がん疼痛へのオピオイドの使用が一般的となったが,その使用法はいまだ適切であるとはいえない。われわれはオピオイド鎮痛薬の使用実態を把握するため,がん疼痛治療に携わる医師を対象に郵送法による全国アンケート調査を実施した。その結果,効果不十分を理由にフェンタニルパッチへオピオイドローテーションする際に,切り替え後のオピオイド量が等鎮痛用量付近またはそれ以下で変更されるために効果不十分であることが多いことが示された。前薬が効果不十分の場合は,レスキューの使用量を考慮し,等鎮痛用量よりも30〜50%増量した量を目安にオピオイドローテーションを行うことが重要であると考える。 -
Irinotecanの副作用を予測する指標—総ビリルビン値とSN-38/SN-38G 濃度比の指標としての可能性—
36巻9号(2009);View Description
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本研究はCPT-11 の毒性発現の予測における総ビリルビン値の指標としての可能性,およびSN-38/SN-38G とAUC SN-38/AUC SN-38Gとの相関性の評価を目的とした。対象は14 名の小細胞,および非小細胞肺がん患者,CPT-11,SN-38およびSN-38G の血中濃度はHPLC 法で測定した。その結果,総ビリルビン値とAUC SN-38/AUC SN-38Gの対数値との間に,有意な相関性が認められた。総ビリルビン値とAUC SN-38/AUC SN-38Gがともに高値の症例において,grade 3 の下痢が発現した症例は認められなかったが,grade 3〜4 の好中球減少の症例は多くなる傾向が観察された。SN-38/SN-38G とAUC SN-38/AUC SN-38Gの相関性を検討した結果,2,4時間のSN-38/SN-38G はAUC SN-38/AUC SN-38Gの優れた指標となることが示された。したがって,総ビリルビン値と2,4時間のSN-38/SN-38G は,CPT-11の好中球減少の予測指標となることが示唆された。これらはCPT-11の個別化医療に寄与する可能性があり,今後のさらなる研究が期待される。 -
サイコオンコロジー専門外来の報告と課題
36巻9号(2009);View Description
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がん患者における抑うつや不安は珍しくないが,精神科への偏見などにより適切に対応できているとはいい難い現状がある。そこでがん患者の抑うつや不安に積極的に対応するために,われわれはサイコオンコロジー外来という専門外来を設置した。がん患者は主治医から予後や今後の治療可能性などについて十分に説明を受けていないことがあり,そのために今後の治療や生活に対する不安が強くなり,サイコオンコロジー外来を受診することもある。今回症例を呈示し,どのように患者に「悪い知らせ」を伝えるべきだったかについて提議し,患者-医療者間のコミュニケーションや医療者間のコミュニケーションの重要性について検討したい。
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症例
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癌化学療法,特にVinorelbine,S-1,Trastuzumabによって良好に制御された炎症性乳癌の1 例
36巻9号(2009);View Description
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炎症性乳癌で一連の化学療法,特にvinorelbine,S-1,trastuzumab が奏効した1 例を経験したので報告する。症例は54 歳,女性。左乳房痛と皮膚の発赤を認め,2005 年10 月20 日に初回受診。主病巣からの生検にて浸潤性乳管癌,硬癌,ER(−),PgR(−),HER2(3+),皮膚の生検から癌性リンパ管症の診断が得られた。皮膚の浸潤範囲は広く,後腋窩線を越え背部に至るため,化学療法の適応と考えた。FEC followed by DOCにてPR が得られ,vinorelbine+trastuzumabにて1 年9 か月PRが維持された。その後,皮膚の発赤が増強したため,治療薬をS-1 +trastuzumabに変更したところ,それまで認め続けられた背部の皮膚発赤の改善を認めた。予後不良な炎症性乳癌に対し,3 年以上良好なQOLを保ちながら,臨床的なPR が維持されている。今後,手術療法も含め,癌化学療法により良好な予後を期待したい。 -
Primary Therapyとしての進行乳癌に対するTrastuzumab+Paclitaxel併用療法の経験
36巻9号(2009);View Description
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目的:近年,乳癌の治療に対するtrastuzumab の有用性が数多く報告されているが,併用薬剤やその位置付けについてはまだ議論の余地がある。今回われわれは,進行乳癌患者にtrastuzumab+paclitaxel を用いた併用療法を行ったので報告する。対象と方法:進行乳癌患者でHER2 陽性の3 例に対し,trastuzumab+paclitaxel の併用療法をprimary therapy として施行し,その効果を画像所見や腫瘍マーカー,摘出標本などにて検討した。結果: 3 例とも原発巣はclinically complete response(cCR)であった。手術を行った2 例の原発巣は,病理検査でわずかな癌細胞が乳管内に残存するnear pathologically complete response(pCR)で,組織学的治療効果はGrade 2b であった。また,肝転移のあった2 例は画像上転移巣が消失した。初診時より腫瘍マーカーの上昇がみられた2 例では,著明な数値の低下を認めた。infusion reaction や心機能障害はいずれの症例にも認めなかった。結語:進行乳癌患者であってもHER2 陽性であれば,trastuzumab を含むレジメンをprimary therapy として行うことで,著明な治療効果を期待することができる。さらに,pCR の可能性もあると思われることから,乳癌患者の予後の改善に貢献することが考えられる。また,重篤な有害事象の可能性も低く外来でも安全に治療を遂行できることから,患者QOL も高いレベルで維持することが可能である。以上より,HER2 陽性進行乳癌のprimary therapyとしてtrastuzumab+paclitaxelによる併用療法を行うことは有効な治療であると思われた。 -
Capecitabine+Medroxyprogesterone Acetate+Cyclophosphamide 併用療法が局所制御に有用であったStageIV乳癌の1 例
36巻9号(2009);View Description
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症例は53 歳,女性。嘔気,嘔吐を主訴に当院を受診した。左前胸壁から右側胸壁に至る広範囲な潰瘍があり,生検で乳癌,硬癌と診断された。免疫染色ではER 陽性,PR 陽性,HER2 score 1+であった。子宮転移を認め,T4bNxM1(OTH),StageIVと診断した。子宮転移病巣による尿管圧迫で両側水腎症,腎不全を併発していた。尿管ステントを留置し,腎不全改善後に5-FU+epirubicin+cyclophosphamide(FEC)療法を6 コース施行し,次いでdocetaxel療法を5 コース施行したがstable disease(SD)であった。三次治療としてcapecitabineとmedroxyprogesterone acetate(MPA)の併用療法を施行したところpartial response(PR)となった。その後cyclophosphamideを追加し,19 か月PR を維持できたが,癌性腹膜炎,癌性胸膜炎を発症し死亡した。capecitabine+MPA+cyclophosphamide 併用療法は重篤な副作用がなく,抗腫瘍効果とquality of life 改善の面から有用と考えられた。 -
Carboplatinの血中濃度モニタリングに基づいた血液透析スケジュール設定が有用であった慢性腎不全合併肺癌患者の1 例
36巻9号(2009);View Description
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症例は69 歳,女性。ANCA関連腎炎に伴う慢性腎不全のため血液透析を受けていた。原発性肺癌(腺癌,pT4N0M0,stageIIIB)の術後再発に対し,carboplatin(CBDCA)とdocetaxel 併用化学療法を施行した。初回化学療法時はCBDCA(150 mg/m2)投与終了1 時間後から血液透析を開始し,以後週3 回の維持透析を継続したが,grade 3 の悪心・嘔吐が治療12 日目まで遷延した。この時,化学療法直後の血液透析により血清中蛋白非結合型CBDCA濃度は低下するものの,投与翌日の時点では腎機能正常な肺癌患者の約15〜20 倍の高値を示し,その高い血中CBDCA 濃度が化学療法後2 回目の透析を施行するまで持続することが判明した。この結果から,2 回目の化学療法時にはCBDCA 投与終了直後に加えて治療翌日,翌々日と3 日間連続で透析を行ったところ,2 日目以降の血中CBDCA 濃度は低下し,悪心・嘔吐も軽減した。血中CBDCA 濃度モニタリングのデータから,血液透析症例においてCBDCA を含む化学療法を施行する場合,化学療法後の3日間連日透析が有用であることが示された。 -
複数の化学療法後にS-1+CBDCA が奏効した進行肺腺癌の1 例
36巻9号(2009);View Description
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症例は51 歳,男性。2007 年1 月に頭痛と左上肢の痙攣を主訴に当院を受診した。CEA 104.1 ng/mL と上昇,精査にて左上葉原発性肺癌c-T2N0M1(脳,副腎転移)と診断した。脳腫瘍摘出術後に全身化学療法を開始。CDDP+GEMは縮小率33.3%とわずかに腫瘍の縮小効果を認めたが肝機能障害のため中止。GEM+VNR はNC。CBDCA+DOC は蕁麻疹のため中止。fourth-lineとしてS-1(75 mg/m2,day 1〜28)+CBDCA(AUC=5,day 8)による外来化学療法を施行。3コース施行後,原発巣は径1 cmに縮小(縮小率66.7%),脳および副腎の転移巣は画像上消失,CEAは正常化し著明に奏効した。2008 年1 月左上葉切除+ND2a を施行,術後病理診断はyp-T1N0M0,治療効果判定はEf1a。術後S-1+CBDCAを3コース施行後にS-1 単剤投与を続行しており,2008年12 月現在無再発で外来通院中である。S-1+CBDCAによる化学療法は,進行非小細胞肺癌に対する化学療法として有用で,高度な有害事象を伴わず外来加療が可能であることが示唆された。 -
表在型食道小細胞癌の1 例
36巻9号(2009);View Description
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症例は69 歳,男性。嚥下痛を主訴に近医を受診し,上部消化管内視鏡検査にて門歯より35 cm に丈の低い病変を指摘され当院紹介受診となった。前医で指摘された部位にヨード不染の0IIa 型病変を認め,生検にて扁平上皮癌の成分を伴う小細胞癌と診断された。胸腹部造影CT 検査所見ではリンパ節転移,遠隔転移は認められなかった。以上の結果より,右開胸開腹食道亜全摘,後縦隔経路胃管再建術を施行した。手術は食道小細胞癌の予後を考え,外科的根治術ではなく局所療法の立場に立ち2 領域リンパ節郭清にとどめ低侵襲とし,早期に術後化学療法へ移行した。病理組織学的診断は小細胞型未分化癌,infβ,pT1b(pSM),ie(−),ly0,v1,pIM0,pN0 であった。化学療法は肺の小細胞癌に準じCDDP+CPT-11 療法を施行し,術後2年3か月経過した現在,無再発生存中である。 -
S-1+Docetaxel併用療法が奏効し根治切除可能であった進行胃癌の1 切除例
36巻9号(2009);View Description
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症例は73 歳,男性。進行胃癌(U Less Ant Post Type 3, cT3, cN3(No. 16a2 lat), cH0, cP0, cM0, cStageIV)に対して,S-1(120 mg/body day 1〜7, day 15〜21),docetaxel(45 mg/m2: day 1, 15)併用療法を施行した。4コース投与終了後の効果判定で原発巣CR,リンパ節PR,治療前に309.3 ng/dLと高値であったCEAの正常化を認めた。根治切除可能と判断し,胃全摘術(D1+No. 7, 8a, 9, 11p)を施行した。病理組織結果は,粘膜・粘膜下層に低分化型腺癌が一部残存しているのみで組織学的効果はGrade 2 であった。郭清リンパ節は,著明な線維化のみで悪性細胞を認めず根治切除可能であった。術後7か月で無再発生存中である。 -
S-1+Docetaxel併用療法が有効であった腹膜播種を伴う進行胃癌の1 例
36巻9号(2009);View Description
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症例は62 歳,女性。食欲不振,嘔気を主訴に来院。胃内視鏡検査で胃体上部から下部にかけて3 型胃癌を認め,腹部CT 検査では腹腔内に多量の腹水が貯留していた。また,腫瘍マーカーCA72-4 は143.8 U/mL と異常高値を示した。以上より腹膜播種を伴う進行胃癌と診断し,S-1 とdocetaxel(DOC)併用による全身化学療法を施行した。投与法はDOC 40 mg/m2(day 1),S-1 80 mg/m2(day 1〜14)を投与後7 日間休薬とし,これを1 コースとした。4コース終了後,原発巣の縮小傾向を認め,さらに腹水は消失し,腫瘍マーカー値も正常化した。臨床症状においても改善傾向を認め,経口摂取が可能となった。2コース終了後退院可能となり,以後は外来で治療を継続した。本法は進行・再発胃癌に対しQOL の向上,維持が期待できる治療法の一つと考えられた。 -
S-1+Docetaxel併用療法により病理学的にCR が得られた進行残胃癌の1 例
36巻9号(2009);View Description
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症例は60 歳台,男性。残胃の4 型癌で開腹手術を行ったが,膵臓および後腹膜へ浸潤があり試験開腹に終わった。その後,S-1+docetaxel 併用療法を施行した。2 コース後の上部消化管内視鏡検査と腹部CT 検査で腫瘍は縮小したが,その時は患者が手術を希望されなかった。6 コース後の内視鏡検査では浅くて小さな潰瘍性病変が残存するのみで,生検では陰性であった。しかし癌が完全に消失したとは判断できず,残胃全摘および膵体尾部合併切除を施行した。残胃と膵臓は剥離できず癌の残存を疑ったが,術後の病理組織学的検査で癌は完全に消失していた(CR)。 -
Paclitaxel+S-1併用療法で後縦隔リンパ節転移が消失し手術が可能になった進行胃癌の1 例
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今回われわれは,paclitaxel+S-1併用療法で縦隔内リンパ節が消失し,手術が可能であった症例を経験したので報告する。症例は73 歳,男性。後縦隔リンパ節転移および肝転移を有する進行胃癌で入院となった。後縦隔リンパ節転移により根治手術が困難と判断し,low-dose S-1+CDDP 併用療法(S-1 80 mg/m2を4 週間投与2 週間休薬+CDDP 10 mg/m2 5 日投与2 日休薬を4 回)を1 コース行った。しかし縮小効果がないため,さらにpaclitaxel+S-1 併用療法(paclitaxel 60 mg/m2を第1,第8,第15 日目投与+S-1 80 mg/m2を4 週間投与2 週間休薬)に切り替え,計2 コース行った。その後の評価では,同リンパ節転移の消失と肝転移の縮小および消失を認め,手術で根治度B が得られると判断し,胃全摘術+D3郭清および肝ラジオ波焼灼を行った。術後,2 年間再発なく経過している。進行胃癌に対するpaclitaxel+S-1 併用療法は有効な化学療法であり,StageIV症例でも手術が施行できる可能性が示唆された。 -
胃癌による心タンポナーデに対してS-1が奏効した1 例
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症例は56 歳,男性。胃癌の診断にて手術目的で入院となったが,入院前より呼吸困難が出現し胸部CTでは心嚢液,胸水が多量に貯留していた。心嚢ドレナージを施行し,心嚢液の細胞診はclassVであった。mitomycin C 10 mg を心嚢内に注入した。S-1 100 mg/日投与にて呼吸困難は改善し退院となった。その後,呼吸困難が再度出現し診断後9 か月で死亡した。比較的まれな胃癌による心タンポナーデに対してS-1 が奏効した1 例を経験したので文献的考察を加えて報告する。 -
S-1投与によってコントロールに難渋したWarfarinによる抗凝固療法を施行した胃癌の1 例
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症例は72 歳,男性。脳梗塞後,warfarinが処されていた。その後,不安定型狭心症に対して経皮的冠動脈インターベンション(PCI)施行後,アスピリンと硫酸クロピドグレルを追加処方されていた。そして,貧血の精査目的で当科を紹介され受診した。上部消化管内視鏡検査において胃癌を認めたため,warfarinを中止後,幽門側胃切除術を施行した。術後早期よりwarfarin は再開,本人および家族と相談の上,術後補助療法としてS-1 による化学療法を選択した。S-1 のインタビューフォームでwarfarin との併用注意が記載されていたため,注意深く投与を開始した。併用開始6 日目にPT-INR は6.84 と異常高値を示した。明らかな出血傾向が認められないため,warfarin の減量のみで経過観察とした。減量後7 日目には,PT-INR は2.17 と改善を認めた。S-1の休薬期間においてもPT-INR の変化は少ないものの,S-1 の継続投与によってPT-INR の変動が大きく,warfarin 投与量の調整が必要となっている。PT-INR の異常高値はwarfarin とS-1 の併用早期から出現することもあり,十分な説明やコメディカルを含めた連携による早期の対応が必要であろう。 -
パクリタキセル起因の末梢神経障害にラフチジンが有効であった胃癌の1 例
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パクリタキセルにより生じたしびれや疼痛などの末梢神経障害に対して,H2ブロッカーのラフチジンが奏効した1 例を経験したので報告する。症例は75 歳,女性。胃癌術後の骨盤内腹膜播種病巣に対し,S-1 単剤療法が治療抵抗性であったため,2007年12 月より二次治療としてパクリタキセル単剤療法(80 mg/m2 day 1,7,14/28 days)を開始した。2コース終了後CR となったが,しびれと痛みを中心とした末梢神経障害が出現した。6 コース目には末梢神経障害がgrade 3 まで増悪し,通院加療が困難になってきた。そこで7 コース目の6 月20 日からラフチジン(10 mg/day)の投与を併用したところ,投与開始7 日目からしびれと痛みの軽快とその範囲の著明な縮小を認め,14 日目にはgrade 1 に軽減した。その後ラフチジンの投与は2008 年7 月末まで継続し,ラフチジン中止後も神経障害の悪化は認められなかった。パクリタキセル単剤療法は9 コース施行したが,grade 2 の倦怠感が継続したため患者の希望もあり,2008 年9 月末に中止した。 -
高度リンパ節転移に対しS-1+CDDP 療法が奏効した原発性十二指腸癌の1 例
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症例は48 歳,女性。左鎖骨上窩および腹部大動脈周囲リンパ節転移を有する原発性十二指腸癌と診断し,胃空腸吻合を行った後にS-1+CDDP 療法を施行した。5 コース投与にてリンパ節転移病変の著明な縮小を認め,再手術にて原発巣切除を行った。組織学的化学療法効果判定はGrade 1a であった。その後腹膜転移を来し,S-1+CPT-11 療法,modified FOLFOX6(mFOLFOX6)療法を行ったが,治療開始15 か月で死亡された。原発性十二指腸癌は頻度が少ないため有効な化学療法は確立されていないが,S-1+CDDP 療法は有効である可能性が示唆された。 -
S-1による化学療法と十二指腸空腸バイパスにより長期生存を得た非切除原発性十二指腸癌の1 例
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52 歳,女性。心窩部痛を主訴に来院。精査にて十二指腸第4 部の進行癌と診断。切除の同意が得られずS-1(4 週間内服,2 週間休薬)を開始したが,1 コース終了後に十二指腸狭窄により経口摂取困難となり手術を施行した。開腹すると腫瘍は下大静脈に浸潤していたため,十二指腸空腸吻合術を行った。術後にS-1 を再開し,術後2 年11 か月,初診からは3 年2 か月という長期生存を得た。術後在宅通院期間は2年5か月,経口摂取期間は2 年8 か月であった。根治切除不能で狭窄を呈する十二指腸癌に対し,バイパス手術とS-1投与を行うことは経口摂取期間や在宅通院期間,生存期間の延長に寄与する可能性があると考えられた。 -
Modified FOLFOX6 にて直腸癌肝転移巣のPathological CR を得た1 例
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症例は71 歳,男性。肛門痛にて当院を受診。Rb-P 進行直腸癌および径4 cm 大の肝外側区域転移巣と診断。腹会陰式直腸切断術後,modified FOLFOX6(mFOLFOX6)を10 コース施行。肝転移巣の著明な縮小が認められ肝切除術を予定していたが,活動性肺結核に罹患し治療を開始,さらにmFOLFOX6 療法に伴う末梢神経障害もみられたため同期間にsLV5FU を7 コース追加した。肺結核の化学療法終了後に外側区域切除術を施行。病理組織学的検査にてpCR と診断した。初回手術後1 年8か月,無再発生存中である。 -
術後FOLFOX4 療法,Tegafur/Uracil(UFT)+経口Leucovorin(LV)療法により無再発生存中の大腸癌同時性両側卵巣転移の1例
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症例は41 歳,女性。突然の腹痛のため来院し,卵巣腫瘍破裂の診断で子宮全摘術,付属器切除術を施行した。術後1か月,同時性卵巣転移を伴う上行結腸癌と最終診断し,右半結腸切除術(R0)を施行した。術後にFOLFOX4 療法を10 コース施行した。FOLFOX4療法後に再発は認めず,その後tegafur/uracil(UFT)+経口Leucovorin(LV)療法を12 コース施行した。術後2 年現在,無再発生存中である。R0 手術症例に対しFOLFOX4 療法に続く標準治療は確立されていないが,UFT+経口LV 療法は有用と考える。
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