癌と化学療法

Volume 39, Issue 2, 2012
Volumes & issues:
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総説
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がん・生殖医療の実践に基づいた化学療法後の妊孕性温存の可能性について
39巻2号(2012);View Description
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近年,がんに対する集学的治療の進歩によって,多くの患者が「がん」という病気を乗り切ることができるようになってきた。しかし,若年患者に対するがん医療は性腺機能不全,妊孕性の消失,そして早発閉経などを引き起こすこととなる。妊孕性温存とは,若年のがんや免疫疾患患者などに対する治療によって将来妊娠の可能性が消失しないように生殖機能を温存する考え方である。1978年に世界初の体外受精児が出生してから30 数年が経過し,本邦でも約60 人に1 人が体外受精(顕微授精,凍結胚移植を含む)により出生する時代となっている。顕微授精によって少数の配偶子から妊娠・出産が可能となり,さらに凍結保存技術の進歩に伴って,妊孕性温存の一つに受精卵の凍結保存という選択肢が増えることとなった。現在,若年がん患者における治療寛解後の妊孕能温存法として,未受精卵(卵子)凍結,胚(受精卵)凍結,精子凍結,卵巣遮蔽や卵巣位置移動術,そして卵巣凍結などがあげられる。特に女性がん患者は,生殖細胞(未熟あるいは成熟した卵子)または卵巣組織を外科的に採取しなければならず,月経周期によってはそのタイミングがベストとはならないこともあることから,がんの診断後可能なかぎり早急にがん治療開始前に妊孕性温存の可能性を検討しなければならない。若年がん患者が妊孕性を温存した治療を選択する機会が増加しつつあることから,治療寛解後の男性としての,あるいは女性としてのQOL向上を志向して,症例によっては治療開始前から妊孕性温存に対する十分な対策を練る必要性がある。
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特集
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- がん治療と感染症対策
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がん治療における感染症対策と感染対策チーム(ICT)
39巻2号(2012);View Description
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がん治療患者の感染症に対するリスクは一般に高いと考えられる。その予防を考える時,内因性感染症の防止は難しいが,外因性感染症の防止は可能であり,経路別予防策や標準予防策などの一般的な医療関連感染対策がこれらの患者にも適用される。そしてその実践において,感染対策チーム(ICT)を結成し,感染対策担当者が一丸となっての取り組みが,医療現場に十分な人的資源が配置されていない日本における効率的かつ効果的な医療関連感染対策のあるべき方向性であると考える。 -
耐性菌に対する院内感染対策
39巻2号(2012);View Description
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多剤耐性菌が院内感染対策上問題となっている。これは,がん患者という易感染状態にあり,なおかつ感染の重篤化しやすい患者を対象としているがん診療の領域では,極めて重要な問題である。多剤耐性菌に対する院内感染対策は手指衛生および接触感染対策を中心に行われる。耐性菌の潜在的な供給源となる環境の整備,抗菌薬適正使用を推進することで耐性菌発生リスクを低下させることも重要である。 -
血管カテーテル感染対策
39巻2号(2012);View Description
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カテーテル関連血流感染症は死亡率も高く,椎体炎など重篤な合併症を起こす。2011 年に血管内カテーテル関連感染予防のためのCDC ガイドラインが改訂され,様々なデバイスが紹介されている。しかし忘れてはならないのは手指衛生や清潔操作など基本的な手技の遵守であり,これらの基本的な取り組みを継続して行うことが最も重要である。予防を中心に早期発見のポイント,治療について述べたい。 -
担癌患者における尿路留置カテーテルと感染制御
39巻2号(2012);View Description
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尿路感染症(urinary tract infection: UTI)は最も高頻度にみられる細菌感染症である。一方,本邦において癌はcommon disease であると同時に最も死亡率が高い疾患であり,各種尿路閉塞に伴うドレナージならびに手術や全身管理の目的で尿路留置カテーテルを利用する頻度が高い。尿路留置カテーテルは複雑性UTIにおける難治性基礎疾患(異物)となり,細菌の定着colonization とバイオフィルムの形成の場となる。尿路留置カテーテルに関連したUTI であるcatheter-associatedurinary tract infection(CAUTI)は最近特に注目されつつある病態概念であり,最近CDC がガイドラインを改訂した他,わが国でも「泌尿器科領域における感染制御ガイドライン」が発刊され,その取り扱いについての指針を示している。CAUTI の発生によって癌治療に影響がでることも少なくないため,ガイドラインの指針に則って尿路留置カテーテル管理やCAUTIの予防,治療を行うことが重要である。 -
医療関連施設におけるアウトブレイク対応
39巻2号(2012);View Description
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医療関連施設においてアウトブレイクが与える影響は極めて大きく,対応の全体像を把握しておくことは重要である。感染制御に難渋する事例もあり,医療関連感染のリスクが高い悪性腫瘍患者では,より慎重な対応が必要とされる。アウトブレイクとは,予想される頻度を越えて医療関連感染が増加することと定義され,適切なサーベイランスと院内事例の情報収集を通して,早期探知をめざすことが端緒となる。アウトブレイクの確認後は,感染拡大防止策の速やかな実施に加えて,全体像把握,感染源・感染経路の推定と対策の提言を目的とした実地疫学調査を並行して実施する。感染対策の介入効果と実地疫学調査の結果を踏まえて事例対応全体の評価を行い,終息確認と再発防止に向けた改善点の提言で一連の対応は完結する。アウトブレイク対応の関連事項として,医療関係者のストレス,行政とのかかわり,リスクコミュニケーションについても留意しておく必要がある。アウトブレイク対応は多くの医療資源を必要とするため,通常は実施可能な疫学調査の範囲は限られている。したがって,最も効果的な手段である基本的な感染予防策の実践と早期対応を意識することが望まれる。
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Current Organ Topics:Gynecologic Cancer 婦人科がん 婦人科領域の希少がんに対する治療戦略
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特別寄稿
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前立腺癌における抗RANKL 抗体デノスマブの有用性
39巻2号(2012);View Description
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前立腺癌は,骨転移率が高く骨転移後の生存期間も比較的長いため,QOL 維持のために骨転移治療が重要である。さらに,進行性前立腺癌の標準療法であるアンドロゲン遮断療法は骨密度減少を惹起することから,骨折リスクに対するマネージメントが必要である。新規薬剤デノスマブは,骨代謝の中心的役割を担う破骨細胞の分化,活性化,生存を促進するサイトカインであるreceptoractivator of nuclear factor kappa-B ligand(RANKL)に対するヒト型モノクローナル抗体である。ホルモン不応性前立腺癌骨転移患者を対象とした第III相臨床試験で,デノスマブ120 mgの4週に1回皮下投与は,ゾレドロン酸4 mgの4週に1 回静脈内投与と比較して,初回骨関連事象(skeletal-related events: SRE)と初回および初回以降のSRE の発現リスクをそれぞれ有意に18%低下させた。また,骨転移のないホルモン不応性前立腺癌患者を対象とした第III相臨床試験では,デノスマブ120 mgの4週に1回皮下投与は,プラセボと比較して有意に骨転移発現を遅らせた。さらに,骨転移のないホルモン感受性前立腺癌患者を対象とした第III相臨床試験では,デノスマブ60 mg の6 か月に1 回皮下投与は,プラセボと比較して,アンドロゲン遮断療法による骨密度減少を有意に改善し,有意な椎体骨折予防効果を示した。このように,デノスマブは進行性前立腺癌の様々な病状進行ステージで有効であるといえる。米国では,デノスマブは2010 年に固形癌骨転移によるSRE の発現予防の適応で承認されている。デノスマブは4 週に1回の皮下注射であり,時間をかけた静脈点滴や腎機能障害患者における用量調整が不要で,利便性においても優れていることから,前立腺癌治療に大きく貢献することが期待できる。
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原著
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EGFR-TKI による既治療肺腺癌に対するEGFR-TKI と殺細胞性抗癌剤による併用療法の効果
39巻2号(2012);View Description
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目的: EGFR-TKI による既治療肺腺癌に対してEGFR-TKI と殺細胞性抗癌剤による併用療法の効果を検討する。方法: 2008年5 月〜2010年12 月にEGFR-TKIと殺細胞性抗癌剤の併用療法が行われた肺腺癌8 例について奏効率,病勢制御率,無増悪生存期間,治療成功期間,全生存期間について後方視的に検討した。結果: EGFR 遺伝子の検索を行った7 例のうちEGFR 遺伝子変異を有していた症例は6 例,なし1 例であった。前治療数の中央値は5 レジメンであり,全症例がgefitinib,erlotinibのいずれもの治療歴を有していた。8 例のうちSD 6 例(うち3 例は血液毒性で後に継続困難),PD 2 例で病勢制御率は75%,治療成功期間中央値は42 日,無増悪生存期間は84 日,併用療法開始後の生存期間中央値は495 日であった。結論: EGFR-TKIと殺細胞性抗癌剤の併用療法は症例によっては有用な治療法の選択肢の一つとなり得ると考えられた。 -
Bevacizumab併用化学療法31例の臨床的検討
39巻2号(2012);View Description
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bevacizumabは切除不能の進行または再発非小細胞肺癌(扁平上皮癌を除く)に対してプラチナ併用療法と併用することで奏効率の向上,無増悪生存期間の延長が認められている。今回われわれは,非小細胞肺癌31 例に対しbevacizumab併用化学療法を行い,安全性と有効性について検討した。有害事象は全例に発現した。grade 3 以上の有害事象は血液毒性が27 例(87.0%),非血液毒性が13 例(41.9%)であった。bevacizumabに特徴的な有害事象として,鼻出血23 例(74.2%),高血圧7 例(22.6%),蛋白尿7 例(22.6%)がみられた。血痰は9 例(29.0%)にみられたが,grade 2 以上の肺出血・喀血はみられなかった。測定可能病変を有する18 例の抗腫瘍効果は,PR 10 例,SD 7 例,PD 1 例であり,奏効率(CR+PR)は55.6%,病勢制御率(CR+PR+SD)は94.4%であった。そのうち,一次治療6 例の奏効率は66.7%であり,二次治療以降12 例の奏効率は50.0%であった。術後再発症例7 例(全例二次治療以降)の奏効率は57.1%であった。既治療例や術後再発症例にもbevacizumab併用化学療法は有効性が高く,かつ安全に投与できた。 -
食道癌に対するSecond-Line化学療法としてのDocetaxel+S-1施行例の検討
39巻2号(2012);View Description
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食道癌に対する標準的化学療法はcisplatin+5-fluorouracil(CF)療法であるが,二次治療のレジメンは決まったものがない。今回,docetaxel(DOC)+S-1を用いた二次治療を試みたので報告する。対象は進行再発食道癌21 例で,全例すでにCF 療法を施行されていた。内訳は,術後再発例11 例と根治的化学放射線療法後8 例と遠隔転移にて化学療法後2 例であった。方法はDOC 30 mg/m2 を2 週ごとに点滴し,S-1 は1 日80 mg/m2 を2 週間服用して2 週間休薬し,4 週間を1 コースとした。そして2 コース後に効果判定し,増悪または中止となるまで継続した。評価可能病変のある14 例中3 例(21%)がPR で,8 例がSD,3 例がPD であった。有害事象はgrade 3/4 の好中球減少が7 例,貧血が1 例,非血液毒性はgrade 3の嘔気が1 例であった。生存期間(中央値)は10 か月で,1 年生存率は38%であった。DOC+S-1 は進行再発食道癌に対する二次治療の候補の一つであると考えられた。 -
切除不能進行・再発大腸癌に対する小野寺式栄養指数の意義について
39巻2号(2012);View Description
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化学療法を施行した切除不能進行・再発大腸癌46 症例の小野寺式栄養指数を血清アルブミン値と末梢血リンパ球数から算出し,その意義を検討した。小野寺式栄養指数の平均値は45.4±6.8(29.7〜56.1)で,performance status(PS),(p=0.002)と化学療法前の手術の有無(p=0.002)で有意差がみられた。これらの症例を小野寺式栄養指数が47.8 以下の群とそれ以上の群に大別し,両者の生存率を比較した。両者の生存率には有意差がみられ,小野寺式栄養指数が47.8 以下の群の生存期間中央値(MST)は548日,47.8以上の群のMSTは902 日であった(p=0.00065)。小野寺式栄養指数は切除不能進行・再発大腸癌症例において生存期間と関連し宿主要因を反映する有用な栄養マーカーであった。 -
進行再発乳癌および術前治療施行乳癌における血清中 Human Epidermal Growth Factor Receptor-2 Extracellular Domain(HER2 ECD)値測定の有用性
39巻2号(2012);View Description
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進行再発乳癌56 例と術前治療乳癌21 例で血清中human epidermal growth factor receptor-2 extracellular domain(HER2 ECD)値を測定した。進行再発乳癌において乳癌組織HER2 陽性乳癌ではHER2 陰性乳癌と比較して初回再発時にHER2 ECD 値は有意に高く(p=0.03),75%の症例で高値(≧15.3 ng/mL)であった。術前治療乳癌でもHER2陽性乳癌ではHER2 ECD は50%の症例で高値であり,HER2 陰性乳癌では全例正常範囲内であった(p=0.015)。進行再発乳癌,術前治療乳癌ともにHER2 ECD 値は治療効果とよく相関していた。今回の検討より血清中HER2 ECD 値はHER2陽性乳癌における再発診断,および進行再発乳癌,乳癌術前治療における効果判定の副次的指標として有用と思われた。 -
新規制吐薬導入後の乳癌FEC 療法における悪心および嘔吐の発現調査―MAT Score を用いて―
39巻2号(2012);View Description
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抗がん剤治療に伴う悪心・嘔吐(chemotherapy-induced nausea and vomiting: CINV)は患者にとって精神的・肉体的負担の大きい有害事象の一つであり,QOL 低下を招くだけでなく,場合によっては,がん化学療法自体の中止を余儀なくされる可能性もあることから,これらの発現予防のために適切な支持療法を行うことが重要とされている。急性期および遅発期の悪心・嘔吐を簡便に評価するツールとして,MASCCよりMASCC Antiemesis Tool(MAT)が提唱されており,われわれは以前より日本人患者に対する悪心・嘔吐の実態を評価してきた。以前の調査では,従来の制吐療法でも急性期に対する治療効果は高かったが,遅発期における悪心・嘔吐のコントロールは難しいという結果であった。近年,抗がん剤治療に伴う遅発期の悪心・嘔吐に有効とされる新規5-HT3受容体拮抗薬(パロノセトロン)やNK1受容体拮抗薬(アプレピタント)が登場し,遅発期の悪心・嘔吐に対する治療効果が期待されている。今回の検討では,外来治療としてFEC 療法が施行された乳癌患者12 例(40〜69歳,年齢中央値53 歳)に対して,新規制吐剤(パロノセトロンおよびアプレピタント)導入後の有用性について,MATを用いてプロスペクティブに評価を行った。結果は,急性期および遅発期ともに嘔吐発現は認めず,悪心においても急性期の発現は抑えられ,遅発期の発現も軽度であった。以前のMAT評価との比較により,新規制吐薬導入の登場で急性期および遅発性悪心・嘔吐の発現が軽減されていることが確認された。 -
シスプラチン分割投与に対するアプレピタントの効果に関する検討
39巻2号(2012);View Description
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目的: 神戸大学医学部附属病院では,シスプラチンを分割し(20 mg/m2/day)5 日間連日投与する場合,制吐剤としてアプレピタントも5 日間連投するレジメンを採用している。しかし,シスプラチン分割投与に対するアプレピタントの制吐作用や投与方法については,いまだ検証されていないのが現状である。そこで,シスプラチン分割投与に対するアプレピタントの効果を評価することとした。方法: 2009年6 月〜2010 年5 月までにシスプラチン分割投与を含むレジメンであるTIP,BEP,VIP療法を施行した25 名を対象とした。悪心・嘔吐の観察期間は10 日間(day 1〜10)とし,電子カルテによりレトロスペクティブに調査した。データの解析は,悪心・嘔吐を経験した日数を目的変数,アプレピタント投与の有無を説明変数としてロジスティック回帰分析した。さらに,アプレピタント投与期間であるday 1〜5 を前期,投与終了後のday 6〜10を後期とし,各々の期間においても同様に解析した。結果・考察:アプレピタント投与によって全観察期間における悪心・嘔吐のリスクが低下した。また,これらの効果は化学療法施行サイクル数およびレジメンの違いにより調整した場合においても同様であり,悪心・嘔吐における調整オッズ比は各々0.04(p=0.0001),0.30(p=0.0012)であった。シスプラチンは半減期が非常に長いことから,遅発性の悪心・嘔吐への対応が重要である。後期におけるアプレピタントの効果においても,調整オッズ比は,嘔吐0.07(p=0.0040),悪心0.19(p=0.0083)と算出された。このことからアプレピタント5 日間投与は,シスプラチン5 日間分割投与時における急性および遅発性の悪心・嘔吐を有意に抑制することが示唆された。
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薬事
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肺がん患者の疼痛緩和治療における胃酸分泌抑制薬の使用状況
39巻2号(2012);View Description
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非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)やステロイド薬はがん疼痛の緩和治療薬として頻用されているが,胃腸障害を惹起しやすい薬物として知られている。そのため実地臨床ではNSAID やステロイド薬による胃腸障害に対して予防的に胃酸分泌抑制薬が経験的に使用されているが,その使用方法は医師による個人差が大きい。本研究では,肺がんの疼痛緩和治療を目的としてNSAID およびオピオイドを定期的に処方されていた入院患者83 名を対象として,緩和治療における胃酸分泌抑制薬の使用状況について解析し,呼吸器内科医師25 名に胃酸分泌抑制薬の処方に関する意識調査を行った。レトロスペクティブ調査の結果,NSAID+ステロイド薬併用群において胃酸分泌抑制薬が予防的に処方されていた割合は,NSAID 単独群のそれに比べて有意に高かった。医師の意識調査では,NSAIDを単独で処方する場合には,患者の全身状態や胃腸障害の既往歴が胃酸分泌抑制薬を処方するかどうかを判断する要因となっていた。ステロイド薬を処方する場合には,それらの要因にかかわらず,意識的に胃酸分泌抑制薬を処方することが示唆された。今後,緩和治療における胃酸分泌抑制薬の効果についても調査し,その適正使用について検討していきたい。
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症例
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Letrozoleが奏効した乳癌肝転移の1 例
39巻2号(2012);View Description
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症例は68 歳,女性。1987年に右乳癌(T1N0M0)に対して,他院にて定型的乳房切除術を受けた。病理組織学的診断は乳頭腺管癌,ER(−),PgR 不明,HER2 不明。術後補助療法としてtamoxifen を5 年間服用した。2007 年1 月に腹痛のため近医を受診し,肝腫瘍を認めたため当院に紹介受診となる。当院で肝生検を行い免疫染色などの結果,乳癌肝転移の診断ER(+),PgR(+),HER2(0)。life threateningの状況ではないためホルモン治療を行ったところ,良好な抗腫瘍効果を認めた。本症例のように遠隔転移巣と原発巣との間でER,PgR,HER2の不一致を認める場合があるため,遠隔転移巣で再度生検を行うことで治療法が変わる場合がある。またlife threatening でなく,disease-free survivalが長い乳癌症例ではホルモンレセプターの再評価をすることで,ホルモン治療が有効な治療手段となる可能性がある。乳癌肝転移症例に,第三世代アロマターゼ阻害剤であるletrozole投与を行い有効であった症例を経験したので文献的考察を加えて報告する。 -
PaclitaxelとCapecitabineとの併用療法が奏効した乳癌脳転移の1 例
39巻2号(2012);View Description
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転移性乳癌に対してpaclitaxelとcapecitabineの併用投与が著効した症例を経験したので報告する。症例は31 歳,女性。背部から腰部にかけての疼痛を訴え,当院の整形外科を受診した。精査の結果,乳癌の多発骨転移,多発肝転移,脳転移と診断された。化学療法としてcapecitabineを628 mg/m2(2/day)で3週間経口投与し1 週間休薬,paclitaxelを80 mg/m2(days 1,8,15)で投与し4 週ごとのコースで開始したところ,2 コース終了時には乳癌原発巣,脳転移巣の消失を認めた。さらに6 コース終了時には腫瘍マーカーも正常値となり,肝転移巣も著明に改善した。paclitaxelとcapecitabineの併用療法は,脳転移を有する転移性乳癌に対して有効な治療法の一つとなることが示唆された。 -
慢性腎不全に対し乳癌術後補助化学療法としてTC 療法を施行し得た1 例
39巻2号(2012);View Description
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症例は49 歳,女性,閉経前。左乳房腫瘤を主訴に受診され,左乳癌(T2N0M0,stageIIA)と診断。同時に,無自覚の慢性腎不全の指摘を受けた。乳癌に対し,乳房温存術およびセンチネルリンパ節生検を施行。術後病理診断でhistologicalGrade 3 を認め,術後補助化学療法としてTC 療法を施行した。1コース目にgrade 3 の好中球減少が5 日間継続したため,4 週間間隔で施行した。cyclophosphamideは尿路系障害を避けるため,通常の半量で施行した。重篤な有害事象は認めず,クレアチニン(Cr)値の悪化も認めず2 コース目からは外来にて4 コースの投与完遂ができた。 -
A Case of Choroidal Metastasis of Lung Cancer Successfully Treated with Erlotinib
39巻2号(2012);View Description
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脈絡膜転移による視野異常で発症し,エルロチニブが著効した肺癌再発の1 例を経験したので報告する。症例は49 歳,女性。右肺の2.0 cmの腺癌で右上葉切除術を施行した。術後2 か月目,右目のぼやけを自覚した。視力は0.1 に低下。右鼻側の視野欠損あり。眼底検査で黄斑耳側にドーム状脈絡膜病変を認め,網膜剥離を伴っていた。フルオレセイン蛍光眼底所見で,造影早期の蛍光ブロック,中期以降の腫瘍境界に一致した輪状の低蛍光領域と,びまん性蛍光漏出あり。光干渉断層計で漿液性網膜剝離あり。EGFR 遺伝子変異陽性であり,エルロチニブ100 mg/日を開始し,4 日後に視力は1.2 まで回復し,4か月後も視力の改善は継続している。 -
Gemcitabine+S-1療法により動脈浸潤が改善しR0 切除が可能となった局所進行膵癌の1 切除例
39巻2号(2012);View Description
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症例は59 歳,女性。上腹部痛を主訴に当科に紹介受診となった。精査の結果,腹腔動脈から脾動脈と総肝動脈に及ぶ広範囲の動脈浸潤と,脾静脈と上腸間膜静脈浸潤を伴った局所進行膵体部癌と診断した。手術適応はなく化学療法を選択し,gemcitabine(GEM)1,000 mg/m2 day 1,8+S-1 120 mg/body day 1〜14(1 コース21 日)を開始した。副作用のため3コース目よりS-1を100 mg/bodyに減量し,合計11 コース施行した。その結果,腫瘍は著明に縮小し,動脈浸潤の所見が改善したため切除可能と判断し,膵体尾部切除リンパ節郭清を行った。 -
腕神経叢浸潤による神経障害性疼痛に対しプレガバリンを含む薬物療法と放射線療法で著効が得られた食道癌の1 例
39巻2号(2012);View Description
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症例は60 歳台,男性。進行食道癌に対し5-FU/CDDP 療法1 コース施行後,外来通院中に右肩甲骨から右上腕にかけて疼痛としびれが出現した。MRIで第1 胸椎に骨転移およびリンパ節転移がみられたため,骨転移による疼痛と腕神経叢浸潤による神経障害性疼痛と診断した。放射線療法およびロルノキシカムとオキシコドン徐放製剤による薬物療法を開始した。しかし夜間の突出痛が特に著明で,numerical rating scaleは9〜10/10 であった。鎮痛補助薬としてプレガバリン75 mg/日の投与を開始し,徐々に増量して300 mg/日としたところ,夜間の突出痛はまったくみられなくなり,患者は疼痛なく5-FU/CDDP 療法2 コース目を受けることができた。自験例では薬物療法と放射線療法を併用し,神経障害性疼痛は消失した。薬物療法では,神経障害性疼痛に有効なプレガバリンは選択肢の一つであると考えられる。 -
化学療法により部分寛解が得られた出血性巨大胃GISTの1例
39巻2号(2012);View Description
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症例は80 歳,女性。吐血にて当院に救急搬送され入院となる。腹部CT 検査で,胃底部〜脾上極〜左横隔膜下に不均一で血流に富む約11 cm の巨大腫瘍を認めた。上部消化管内視鏡検査では,胃底部に表面平滑な5 cm 大の露出血管を有する粘膜下腫瘍を認めた。病理組織検査にて,c-kit 陽性の胃gastrointestinal stromal tumor(GIST)と診断した。消化管出血に対して内視鏡的止血後,imatinib mesilate(imatinib)による化学療法を開始した。腫瘍は著明に縮小し,腫瘍内血流は減少し露出血管は消失した。治癒切除には,胃全摘出,膵体尾部脾および横隔膜合併切除を必要とし,高齢のため手術リスクは高いと考えられ,手術治療は施行せず化学療法にて部分寛解(partial response: PR)を維持している。imatinibによりPRが得られた出血性巨大胃GIST の1 例を経験したので報告する。 -
Hepatoid Adenocarcinoma of the Stomachの1例
39巻2号(2012);View Description
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症例は76 歳,男性。主訴はなし。貧血の精査目的に当院内科紹介受診。上部消化管内視鏡検査で胃体中部から噴門小弯にかけての2 型病変を認めた。血液検査でAFP 2,328 ng/mL と上昇を認めたものの,CT では肝臓などに有意所見なく,胃腫瘍部からの生検の結果,AFP産生胃癌と考えられた。当科入院の上,胃全摘術,脾臓摘出術,胆嚢摘出術(D2郭清)を施行した。病理検体の免疫組織染色では,腫瘍細胞はAFP陽性であり,最終診断はhepatoid adenocarcinoma,pT3(SS),INFβ,ly1,v2,pN1(3/42),pStageIIB であった。抗hepatocyte抗体,抗HER2抗体は陰性であった。術後直ちにAFPは正常化した(7 ng/mL程度)。退院後,S-1(80 mg/day)の術後補助化学療法を開始した。術後14 か月経過した現在も,無再発生存中である。胃肝様腺癌は予後不良で,有効な化学療法も確立されていない。今後,症例集積を行い,さらなる分子生物学的検討を加え,その治療法を模索していく必要がある。 -
S-1/CDDP 併用療法が著効し治癒切除し得た肝転移を伴う胃癌の1 例
39巻2号(2012);View Description
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症例は67 歳,男性。上部消化管内視鏡検査で胃体上部小弯前壁から噴門部にかけて3 型胃癌を認め,生検にて高分化〜中分化型管状腺癌と診断された。腹部CT 検査で肝S8 に転移性腫瘍を認めた。臨床病期T2N0M0H1,StageIVと診断し,S-1 120 mg/body/day とCDDP 60 mg/m2の併用による化学療法を開始した。2 コース施行後,原発巣の著明な縮小と転移性肝腫瘍の消失を認めたため,胃全摘術,脾臓摘出術,胆嚢摘出術,D2郭清を施行した。病理結果はP0,M0,N0,H0,化学療法の組織学的効果判定はGrade 1bでStage Ⅰb,根治度Aの手術となった。S-1/CDDP 併用療法は,根治手術が困難と考えられる高度進行胃癌に対して有用な治療法であると考えられた。 -
S-1/CDDP 療法無効例にWeekly PTX が奏効した肝転移胃癌の1 例
39巻2号(2012);View Description
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症例は65 歳,男性。多発性肝転移と高度のリンパ節転移を伴う進行5 型胃癌に対し,S-1/CDDP 療法を2コース施行したが肝転移の増大と多量の腹水出現を認め,さらに通過障害を認めるようになったため,症状緩和目的に胃全摘術を施行した。その後化学療法をweekly PTX に変更し,2 コース施行したところ肝転移巣が縮小し腹水も消失したため,肝部分切除術を施行した。術後もweekly PTX を継続し,初診後2 年経過するも無再発である。 -
術前化学療法が有効であった腹壁膿瘍で発症した盲腸癌の1 例
39巻2号(2012);View Description
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症例は63 歳,女性。右下腹部の腫瘤および疼痛を主訴に来院した。腹部CT 検査で右下腹部に手拳大の腫瘤と,それに連続する腹壁膿瘍を認めた。膿瘍ドレナージを施行後に精査のため,下部消化管内視鏡を施行した。盲腸に亜全周性の2型腫瘍を認め,生検では高〜中分化腺癌の診断であった。腫瘍縮小を目的に術前化学療法としてIRIS療法を施行し,腫瘍縮小を得て,腹壁合併切除を伴う結腸右半切除術を行った。術後5 年を経過した現在,無再発生存中である。腹壁浸潤を伴う大腸癌では,合併切除による腹壁欠損が問題になる。本例は化学療法により腫瘍縮小を認め,皮切りを工夫したことで腹壁再建を行うことなく,一期的切除が可能となった。腹壁膿瘍を併存した大腸癌における術前化学療法の有用性が示唆された。 -
mFOLFOX6 が奏効し膀胱温存手術が可能となったS 状結腸癌の1 例
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症例は69 歳,男性。下血,貧血を主訴に当院を受診した。下部消化管内視鏡検査でS 状結腸癌を認め,CT 検査にて孤立性肝転移と膀胱浸潤を伴うS 状結腸癌と診断した。根治にはS 状結腸切除,肝部分切除,尿路変更を伴う膀胱全摘が必要な状況であった。臓器温存を目的とし,術前化学療法としてmFOLFOX6 療法を6 コース施行したところ,CT 検査で原発巣の縮小,肝転移巣の消失を認めた。膀胱浸潤は完全に否定できず2 コースを追加し,計8 コースの術前化学療法後,手術を施行した。原発巣と膀胱の間に癒着を認め膀胱筋膜を一部切除し,S 状結腸切除,リンパ節D3 郭清を行った。病理組織学検査の結果,tub1,pSS,ly0,v0,pN0,pStageIIであり,組織学的効果判定はGrade 2 であった。膀胱浸潤を伴うS 状結腸癌に対する術前mFOLFOX6が奏効し,膀胱温存手術が可能となった1 例を経験したため報告する。 -
FOLFIRI+Panitumumab療法中に発症した薬剤性肺障害に対してステロイド・パルス療法が奏効したS 状結腸癌の1 例
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58 歳,男性。進行S 状結腸癌・肝転移に対しS 状結腸切除術および肝左葉外側区域切除を施行した。術後化学療法としてmFOLFOX6+bevacizumab(BV)療法を15 コース施行したが,CEA およびCA19-9 上昇を認めたためFOLFIRI+panitumumab療法に変更した。2 コース目開始時に呼吸不全を認めたため胸部CT検査を施行したところ両側にすりガラス影を認め,irinotecan(CPT-11)もしくはpanitumumabによる薬剤性肺障害と診断した。ステロイド・パルス療法を2 コース施行し,後遺症なく第19病日に退院した。panitumumabによる薬剤性肺障害はEGFRチロシンキナーゼ阻害薬と同様に欧米と本邦とで発生頻度が異なる可能性があり,十分な注意が必要である。 -
Panitumumabを用いた化学療法で病理学的CR が得られた切除不能StageIV直腸癌の1 例
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切除不能StageIV直腸癌に対し,新規分子標的治療薬の抗上皮成長因子受容体(endothelial growth factor receptor:EGFR)薬であるpanitumumabを用いた化学療法を行い,病理学的完全寛解(complete response: CR)が得られた1 例を報告する。症例は56 歳,男性。局所浸潤と肺転移を伴う切除不能直腸癌に対して,一次治療としてFOLFOX とpanitumumabの併用化学療法を行った。FOLFOX を計6 回(そのうちpanitumumabとの併用を3 回)行った後,末梢神経障害の予防目的にFOLFIRI とpanitumamb の併用治療に変更した。同治療を5 回施行した後,CT 検査で骨盤内の周囲直接浸潤所見は改善し,肺転移は消失した。最終化学療法から20 日後に自律神経全温存の超低位前方切除および結腸嚢-肛門吻合術を施行した。肉眼的に腫瘍様にみえる部分を全割して病理学的検索を行ったが,大部分が肉芽組織に置換され,わずかに残る癌細胞もすべて変性・壊死しており,病理学的CR と診断した。術後経過は良好で,手術5 か月後の時点で再発を認めていない。抗EGFR 薬はKRAS遺伝子に変異のない大腸癌に対して,良好な治療成績が報告され,特に腫瘍量の多い症例に対しては,一次治療として有効な選択肢の一つと考えられる。 -
FOLFIRI+Bevacizumab療法により長期安定期間を継続している同時性多発肝転移を伴う直腸癌の1 例
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今回われわれは,FOLFIRI+bevacizumab(BV)による全身化学療法で28 か月のSD を継続している直腸癌の同時性多発肝転移の1 例を経験したので報告する。症例は60 歳,男性。塊状型の多発肝転移を伴う直腸癌の診断で肝臓の全区域に転移性腫瘍を認めたため,治癒切除不能と判断し,FOLFIRI+BV による全身化学療法を施行した。8 コース終了の腹部CT で肝転移の縮小を認め,PR と判定した。全経過を通じてgrade 2 以上の有害事象は認めず,現在42 コース施行しSD を継続中である。 -
WarfarinとGemcitabine+Cisplatin療法の併用により著明なPT-INR の延長を来した膀胱癌の1 例
39巻2号(2012);View Description
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症例は74 歳,女性。膀胱癌術後の外来フォロー中に右下肢の浮腫が出現し,右下腿の深部静脈血栓症と診断され,warfarinを服用していた。膀胱癌再発に対してgemcitabine(GEM)+cisplatin(CDDP)(GC)療法を施行したところ,施行6 日目のPT-INR が測定不能にまで延長した。このため直ちにwarfarin を中止し,menatetrenone を静脈内投与した。warfarin 中止1 日後のPT-INR は1.36 に回復した。GC 療法2 コース目は,化学療法剤投与前後のwarfarin を休薬して実施したところ,PT-INR に変動はみられなかった。本症例ではGC 療法施行後早期にPT-INR の異常高値を認めており,warfarinとの併用の際には投与直後から慎重に血液凝固能のモニタリングを実施することが必要と考えられた。 -
Paraneoplastic Syndromeによる高度の低リン血症を併発した悪性リンパ腫に対するCHOP 療法後に高リン血症を来した1 例
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症例は51 歳,男性。フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病に対し2006 年4 月,臍帯血移植を施行後に完全寛解を達成した。2008 年6 月,腎機能障害の進行と下血で再入院しB 細胞性の悪性リンパ腫と診断された。CHOP 療法前の血清リン値は,0.1 mg/dL と高度低値を示していたが,腫瘍崩壊症候群に伴う血清リン値の上昇を予測して,CHOP 療法翌日以降のリン酸2 カリウムによる低リン血症の補正を中止した。CHOP 療法後3 日目には血清リン値は11.6 mg/dL まで上昇したが,5 日目には3.8 mg/dL まで低下した。paraneoplastic syndrome による高度の低リン血症を呈している患者においても,腫瘍崩壊症候群に伴う高リン血症に注意して電解質補正を行う必要があることを再認識させる症例を経験したため報告する。
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