癌と化学療法
Volume 39, Issue 3, 2012
Volumes & issues:
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総説
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サイコオンコロジーの重要性
39巻3号(2012);View Description Hide Descriptionがん患者は治療のみならず,心理,社会,実存面における様々な問題を有している。これらはストレス因子となり,精神疾患が誘発されても不思議ではない。精神症状は患者にとって苦痛であり,また治療にも負の影響を及ぼすため適切な介入が必要である。看病を行う家族も心身に負荷を受けており,「第二の患者」と呼ばれる状態にあるため医療とケアの対象である。このように,がんという病気は生物学的な側面以外に,多くの人間学的な側面を併せ持っている。サイコオンコロジー(精神腫瘍学)はがんの人間学的な側面を扱い,患者負担軽減に貢献している。死別は人生で最も大きなストレスの一つで,遺族は精神,身体,社会面で影響を受けることから,介入が必要となることもある。遺族へのケア「後治療」はストレス軽減に有効である。
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特集
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- 膵癌診療の最新トピックス
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Borderline Resectable Pancreatic Cancer―定義および治療戦略―
39巻3号(2012);View Description Hide Description膵癌に対するいわゆる予防的拡大手術の意義は四つのrandomized controlled trial の結果により否定された。しかし切除できるかどうかぎりぎりの膵癌(いわゆるborderline resectable pancreatic cancer)をどのように扱うべきなのかについては,未だ一定の見解がない。近年borderline resectable pancreatic cancer の定義およびそれに対する治療戦略につき様々な議論が展開され,数多くの論文も発表されている。しかしながら,borderline resectable pancreatic cancerの定義が論文により微妙に異なり,治療戦略もいろいろである。さらにこれらの研究はいずれもPhaseⅠ/Ⅱ trial あるいは後ろ向き研究で,未だ大規模なPhaseⅢtrialが行われていないのが現状である。今後はborderline resectableの国際定義をできるだけ早く定め,これに対する適切な治療戦略についての研究を進めるべきである。 -
膵癌の画像診断
39巻3号(2012);View Description Hide Description膵管癌の患者においては根治的切除の可否が生存期間に影響する一つの因子である。根治的切除を行う,また不必要な切除を避けるためには,正確な質的および病期診断が重要であり,この目的にてCT が広く一般的に使用されている。本稿においては,膵癌検出のための効果的なCT プロトコールや切除可否にかかわる重要なCT 所見について述べたい。また,CT 以外のモダリティの利点や欠点,膵管癌以外の特殊な膵癌の画像所見にも触れたい。 -
IPMN に合併する通常型膵癌
39巻3号(2012);View Description Hide Description膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm: IPMN)はslow growingで予後のよい膵腫瘍として認識されているが,高率に通常型膵癌を合併する。一方,通常型膵癌はIPMNに比し進行も早く,予後は極めて不良である。しかし,IPMNに合併する通常型膵癌はIPMN非合併膵癌に比し予後良好である。これは早期発見のためなのか,通常型膵癌よりも悪性度が低いのかは不明である。多くは同時性でありIPMNの診断をきっかけに膵癌の合併が診断された可能性が高いことが示唆されるが,これらの症例の分子生物学的研究による悪性度の解明は今後必要であろう。IPMN 合併膵癌は予後良好であるからこそ,IPMN 症例に対しては,膵全体をくまなく観察し,膵癌合併を常に念頭において診療に当たる必要がある。 -
膵癌に対する腹腔鏡下手術の現況
39巻3号(2012);View Description Hide Description腹腔鏡下膵体尾部切除は手技の簡易性から普及しはじめているが,腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術は再建の問題もあり,未だ限られた施設で行われているのみである。しかしいずれも膵癌に対する手術としてはコンセンサスを得た手技とはいえないのが現状である。その理由として膵癌は診断時にすでに進行癌であることが多く,広範囲リンパ節郭清や神経叢郭清を伴う拡大手術を腹腔鏡下に行うことは極めて難易度が高いことがあげられる。恐らく膵癌においてもその適応は拡がるものと思われるが,腹腔鏡下手術の有用性の検討は症例の蓄積と長期成績を含めて今後の課題である。 -
膵癌の化学療法・化学放射線療法
39巻3号(2012);View Description Hide Description現在進行膵癌に対しては,gemcitabine(GEM)以外にGEM+erlotinibやS-1 といった複数の治療が選択可能になっており,FOLFIRINOX の治験も進行中である。また,局所進行膵癌に対しては化学放射線療法も選択肢の一つとされている。本稿ではこれらの非切除治療について,最近の臨床試験の話題を中心に解説する。 -
膵癌の集学的治療―術前化学療法とペプチドワクチン療法の臨床的インパクトについて―
39巻3号(2012);View Description Hide Description膵癌は悪性度の極めて高い癌であり,未だにその生命予後は不良であるため,集学的治療が必要である。NationalComprehensive Cancer Network(NCCN)ガイドラインにおけるborderline resectable症例では高率にR1/2 となり,必ずしも切除が予後改善に貢献しないことがある。術後の補助療法は必須であるが,術前治療を含めた集学的治療に期待がかかる。borderline resectable症例に対する化学放射線療法は高率にR0手術が可能であり,borderline resectable症例の予後が改善する可能性がある。切除不能膵癌では化学療法が中心的な役割となるが,切除可能な状態まで縮小し奏効する症例も少ないながらも散見される。このような症例に対し,adjuvant surgeryという新たな概念での切除術も考慮されるべきである。一方,CD8 陽性T細胞を活性化することにより抗原特異的なCTL が誘導される。現在,OV-101,OCV-105,OTS-102の3 ペプチドにおける臨床治験が進行中である。世界初のペプチドワクチン療法剤として承認されるようPEGASUS-PC 試験の結果が待たれる。
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Current Organ Topics:Musculoskeletal Tumor 骨・軟部腫瘍 薬物療法の基盤的研究の現状
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原著
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非小細胞肺癌の術後補助化学療法におけるPredictive Factorとしてのp53とRas Mutationの意義
39巻3号(2012);View Description Hide Description目的: 2007 年のJBR.10 試験のsubset analysis ではp53 変異陰性例,ras mutation 陽性例では術後補助化学療法による予後改善効果がないことが示されたが,詳細は不明である。われわれは以前より肺癌切除組織を用いて組織培養法抗癌剤感受性試験(HDRA 法)を施行している。今回当施設で手術を施行した非小細胞肺癌症例において,p53,ras mutation とHDRA 結果を比較し,抗癌剤感受性の観点からp53とras mutationのpredictive factorとしての意義を再検討した。対象と方法: 対象は2007年以降,当科で切除手術を施行した非小細胞肺癌症例のうちcisplatin(CDDP)とvinorelbine(VNR)の感受性を測定し得た27 例。これらの切除検体を用い,HDRA を行いCDDP とVNR の感受性を測定した。p53 は免疫組織化学染色で,K-ras はdirect sequence 法で評価した。結果: K-ras mutation は27 例中4 例で陽性であった。HDRA の結果,CDDP の抑制率はK-ras mutation陽性例で54±5%,陰性例で50±13%,VNRの抑制率は陽性例で39±10%,陰性例で35±18%であり,両群間に有意な差を認めなかった。p53 は27 例中14 例で陽性であった。CDDP の抑制率はp53 陽性例で50±12%,陰性例で50±12%,VNR の抑制率はp53陽性例で36±17%,陰性例で33±14%であり,両薬剤とも両群間で有意差を認めなかった。組織別にみると,腺癌ではCDDP の抑制率はp53 陽性例で59±8%,陰性例で45±9%と有意にp53 陽性例でCDDP の抑制率が高かった(p=0.018)。p53陽性例は全例HDRA でCDDP 陽性であり,HDRA でCDDP 陰性例は全例p53陰性であった。考察:腺癌ではCDDP の抑制率とp53 の発現状況に関連性が認められた。JBR.10 ではp53 陰性例でのCDDP+VNR による術後補助化学療法の予後改善効果が示されなかったのは,p53 陰性例でCDDP が無効であった可能性が示唆される。腺癌において,p53発現はCDDP の感受性を予測するマーカーとなり得る可能性がある。 -
胃癌術後補助化学療法としてのS-1隔日経口投与法の治療経験
39巻3号(2012);View Description Hide DescriptionS-1 を用いた術後補助化学療法は胃癌において標準的な治療法である。今回,われわれは根治的切除を行ったpatho-logical stage Ⅱ/Ⅲの胃癌の症例で,S-1隔日投与法を行った31 症例に関して,副作用,完遂率,再発,生存率に関して検討した。1 年間S-1投与可能であった症例は28 例であった(90.3%)。副作用の発現を認めたのは4 例であった(13%)。grade3 以上の副作用は認めなかった。stage別にみると,3 年経過時点での生存率は,stage Ⅱ 91%,stage Ⅲ 67%であった。再発例は4 例であった(13%)。S-1の経口隔日投与法では,標準投与法に比べて副作用は低減されており,高い完遂率が得られることが期待できる。 -
ステージⅢ大腸癌に対する術後補助化学療法としてのカペシタビン(Xeloda)内服療法の検討
39巻3号(2012);View Description Hide Descriptionカペシタビン(Xeloda)は大規模無作為比較試験により有効性と安全性が証明され,大腸癌治療における世界的標準治療薬となっている。本邦におけるカペシタビンの使用成績の報告は少ないため,当院にてステージⅢ大腸癌術後補助化学療法としてカペシタビン内服療法を行った50 例の有害事象の発現状況,8 コース治療完遂割合,内服コンプライアンスを評価した。有害事象の発現は46 例(92%)に認められた。hand foot syndrome(HFS)が39 例(78%)と高頻度であった一方,骨髄毒性は2 例(4.0%),下痢は3 例(6.0%)と頻度が低く症状も軽度であり,入院加療を要した症例や治療関連死亡は認めなかった。投与コースの中央値は8 コース(3〜8コース),8 コース治療完遂割合は96%であった。内服コンプライアンスの指標として用いた相対用量強度(実内服量/治療開始時予定投与量)の中央値は100%(37〜100%),平均は93%であった。カペシタビン内服療法は高頻度のHFS というデメリットがあるものの,骨髄毒性や下痢の頻度が低く,また軽度であり,安全性が高かった。消化管術後の補助化学療法という観点からは特筆すべき長所であり,HFS を適切な処置・休薬・減量で対処することで十分な投与量を保ちながら高い治療完遂率を得ることができた。 -
乳癌化学療法(FEC100)における口腔粘膜炎の発症率に関する検討
39巻3号(2012);View Description Hide Description背景:乳癌治療で汎用されるアンスラサイクリン系抗癌薬を含むレジメンの口腔粘膜炎発生率は高いことが知られているが,詳細な発生率や程度は明らかでない。目的: 乳癌化学療法FEC100における口腔粘膜炎の発症状況を明らかにすることを目的とした。対象・方法: 2007 年6 月〜2008 年7 月までにFEC100(5-FU 500 mg/m2,epirubicin 100 mg/m2,cyclophosphamide 500 mg/m2)療法を受けた61 名を対象に,口腔粘膜炎の発症に関する後ろ向き調査を行った。結果:口腔内膜炎の累積発生率は,1 コース目で24.6%,4 コース目には50.8%に達した。発熱性好中球減少症を認めない症例は44.9%に口腔粘膜炎を認めるのに対し,発熱性好中球減少症を認めた症例は75.0%と高い発症率であった(p=0.12)。口腔粘膜炎に対し,ステロイド軟膏・含嗽水による治療が行われた22 例のうち,gradeの軽減を認めたのは3 例(13.6%)のみであった。まとめ: FEC100 療法における口腔粘膜炎の発生率は50%と高く,また通常行われるステロイド軟膏や含嗽水では治療効果が不十分であることから,今後有効な予防法・治療法の確立が必要であると考えられる。 -
乳癌薬物治療に伴う妊孕性への影響に関する情報提供の実態調査
39巻3号(2012);View Description Hide Description背景:薬物治療に関連した不妊は挙児希望を有する乳癌患者にとって重要な問題である。国立がん研究センター中央病院(以下,当院)における2000〜2004年を対象期間とした調査では,40 歳以下の乳癌患者に術前・術後薬物療法が妊孕性に及ぼす影響が伝えられていたのは7%だった。今回,われわれは2007〜2009年における情報提供の実態調査を行った。方法: 2007〜2009年に当院で手術を受けた40 歳以下の女性乳癌患者を対象とした。診療録から,妊孕性に関する医師からの情報提供の有無,患者および担当医師の社会的背景,治療レジメンを後方視的に調査した。結果:対象患者は100 名。年齢[<30歳/30〜35歳/35 歳≦]=[5/15/80],病理病期[0/Ⅰ/Ⅱ/Ⅲ/Ⅳ]=[21/23/43/12/1],パートナー[あり/なし]=[61/39],出産歴[あり/なし]=[29/71]であった。情報提供[あり/なし]=[56/44]であった。情報提供の有無に影響する因子は,患者側の要因として出産歴〔odds ratio(OR): 5.717,95% CI: 1.752-18.66,p=0.004〕や推奨される治療レジメン(OR: 24.22,95% CI: 3.150-186.2,p=0.017)と関連がみられ,年齢やパートナーの有無は関連がみられなかった。また,医師側の背景因子(診療科,性別,医師経験年数)との関連はみられなかった。さらに,化学療法を含む治療方針からの変更割合は,情報提供の有無で差はみられなかった。結語: 2007〜2009 年においても,情報提供率は約60%にとどまり,癌治療に伴う妊孕性への影響について,医療者・患者双方の意識をさらに高める必要がある。 -
オキシコドン速効製剤を用いた3 日型フェンタニル貼付薬への早期タイトレーションの検討
39巻3号(2012);View Description Hide Description目的:オキシコドン塩酸塩散剤を用いた3 日型フェンタニル貼付薬の早期タイトレーション時の有効性および安全性を検討した。対象:オピオイド鎮痛薬を必要とする中等度以上のがん性疼痛を訴える入院患者7 名。方法:オキシコドン塩酸塩散剤(5 mg/回)を1 日4回定期投与し,定期投与の1 日総投与量が2 日間変化しない場合にフェンタニル貼付薬2.1 mgに切り替え,オピオイド投与前後の疼痛強度と副作用について検討した。結果: 7 例全例が2 日間の短期間でオキシコドン塩酸塩散剤からフェンタニル貼付薬への切り換えが完了し,良好な疼痛管理が得られた。重篤な副作用は認められなかった。結語:オキシコドン速効性製剤を用いたフェンタニル貼付薬への早期タイトレーションは安全かつ簡便で,しかも良好な疼痛管理が得られることから非常に有効であると考える。 -
外来化学療法センター通院患者の健康関連Quality of Lifeに関する検討
39巻3号(2012);View Description Hide Description目的: 外来化学療法を受けている患者の健康関連QOLに関する報告はほとんどなく,外来治療患者の身体的・精神的苦痛を明らかにし,健康関連QOL 向上を目的とした調査を行った。対象・方法:患者296 人を対象に,MD AndersonSymptom Inventory を用いて,症状13 項目および日常生活の障害6 項目についてNRS を用いて評価を行った。結果:中等度以上の症状は,倦怠感19.9%,しびれ18.9%,眠気16.2%,悲しい気持ち13.2%,ストレス13.5%,食欲不振12.8%,口渇12.8%,疼痛12.5%,睡眠障害12.5%,息切れ10.5%,嘔気8.1%,嘔吐5.7%,物忘れ4.4%であった。また,日常生活の支障度は,仕事22.0%,歩行18.9%,気持ち17.6%,生活を楽しむこと16.6%,日常生活の全般的活動16.6%,対人関係14.2%であった。一方,NSAIDsは31.4%,オピオイド薬は10.8%,鎮痛補助薬は15.9%の患者で使用されていた。結語: 外来治療患者の身体的・精神的苦痛に対する緩和ケアチームの介入によって,がん患者のQOL 向上が望まれる。 -
外来化学療法センター通院患者の精神症状に関する検討
39巻3号(2012);View Description Hide Description目的: がん患者の精神症状は予後に関与する因子として近年注目されてきている。しかしながら,これまで外来化学療法を受けている患者の精神症状に関する現状を調査した報告はほとんどなく,わが国における外来化学療法中患者の精神症状の現状を明らかにすることは重要である。対象・方法:患者194 人を対象に,うつ性自己評価尺度SDS(日本語版Self-rating Depression Scale)を用いて評価を行い,がんの種類・病期・罹患期間による関連性について検討を行った。結果: 当院外来化学療法センター通院患者において,適応障害(疑)は84 人(43.3%),うつ病(疑)は14 人(7.2%)に認められた。また,抗不安薬は18 人(9.3%),抗うつ薬は2 人(1.0%),睡眠導入薬は50 人(25.8%)の患者で内服されていた。結語:外来化学療法センターに対する積極的な精神腫瘍医および緩和ケアチームの介入によって,精神症状を有するがん患者のquality of life(QOL)向上が望まれる。
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症例
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肺腺癌六次治療3コース目以後Bevacizumabを加え空洞を伴う縮小を認めた1 例
39巻3号(2012);View Description Hide Description症例は65 歳,男性。2007年に健康診断の胸部X線で肺野異常影を指摘された。精査により進行肺腺癌と診断され,cisplatin+docetaxel→CPT-11+S-1→amrubicin →gemcitabine+vinorelbine→pemetrexed と五次治療まで行った後に増悪したが,PS 良好であり2010 年3 月より六次治療carboplatin(AUC6,day 1)+paclitaxel(200 mg/m2,day 1)(Q3W)を行った。2 コース後,原発巣はSD であるも増大傾向であり,3 コース目からbevacizumab(15 mg/kg,day 1)を併用したところ空洞を伴う腫瘍縮小を認めた。進行非小細胞肺癌の二次治療以降におけるbevacizumab の位置付けは定まっていないが,六次治療の途中からbevacizumabを加えることで良好な抗腫瘍効果を認めた症例を経験したので報告する。 -
Pemetrexed/Carboplatinが著効した悪性胸水を伴う高齢者肺腺癌の1 例
39巻3号(2012);View Description Hide Description症例は83歳,男性。2009 年6 月,胸部痛と呼吸困難を主訴に当院紹介受診した。胸部CT で左肺舌区に3.6 cm 大の造影効果のある病変と左胸水を認めた。転移を思わせる腫大リンパ節や遠隔転移の所見なし。審査胸腔鏡では,血性胸水で壁側胸膜や臓側胸膜に広範な播種を認め,胸腔内蒸留水曝露を施行した。胸水細胞診検査にて腺癌と確定診断し,以上から左肺腺癌(pT2aN0M1a,StageⅣ)と診断,pemetrexed(PEM)/carbopratin(CBDCA)を4 コース施行した。施行後胸部CT では胸水/主病変ともに消失,PET-CT を施行したがFDG の異常集積なく再発所見を認めなかった。治療施行後22 か月経過するも再発の所見を認めない。まれではあるが,PEM/CBDCA が著効した癌性胸膜炎を伴った肺腺癌を経験した。PEM/CBDCAは高齢者においても安全に治療が施行できた。 -
CDGP/S-1併用療法が奏効した高齢者進行肺扁平上皮癌の1 例
39巻3号(2012);View Description Hide Description症例は74 歳,男性。健診で胸部異常影を指摘されて紹介受診。2010 年1 月のCTにて左上葉S1+2 に39×32 mm 大の腫瘤影を認め,生検にて肺扁平上皮癌の診断を得た。縦隔に25 mm大の大動脈下リンパ節を含む多発リンパ節転移を認め,cT2aN2M0のStageⅢAと診断した。扁平上皮癌であることを考慮し,nedaplatin(CDGP)/S-1 による化学療法を行った。3 か月後の画像評価で原発巣長径は39→18 mmと縮小し,縮小率は54%であり,RECISTによる効果判定は部分奏効(PR)であった。有害事象は1 コース目においてgrade 2の食思不振,4 コース目にgrade 3 の好中球減少(967/mL)とgrade 2 の血小板減少であった。近年,非扁平上皮癌に対して様々な新規抗癌剤が登場するなか,扁平上皮癌に対する治療の進歩は少なく,新たな治療戦略が切望されている。今回われわれは,CDGP/S-1併用療法が奏効した肺扁平上皮癌の1 例を経験した。今後,肺扁平上皮癌に対する本治療法の有効性と安全性の検討が重要と考えられる。 -
Erlotinibの低用量,隔日投与においても抗腫瘍効果が確認された細気管支肺胞上皮癌の1 例
39巻3号(2012);View Description Hide Descriptionerlotinibは上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor: EGFR)の選択的阻害薬であり,特にEGFR 遺伝子変異を有する症例に対して良好な抗腫瘍効果を示す。今回,われわれは標準用量erlotinib 150 mg/日 連日内服に対し低用量の100 mg/日で開始,偶発的に隔日内服となり,酸素化およびperformance status(PS)の改善が得られた症例を経験した。症例は77 歳,男性。bronchioloalveolar carcinoma(BAC)の診断にて,初回治療としてcarboplatin,pemetrexed併用療法を行ったが,抗腫瘍効果を認めず,呼吸状態の増悪のため在宅酸素療法導入となりPS 2 となった。そのため,次治療としてerlotinib 100 mg/日 連日内服を開始したが,皮疹が出現し強い加掻痒感のため患者の自己判断にてフォローアップ再診までの約3週間,隔日投与となっていた。本症例はRECISTによる測定不能病変に相当し,腫瘍径による抗腫瘍効果の判定は困難であったが,酸素化の改善からPS 0 にまで全身状態良好となり,血清CEA 値も正常値化した。これらのことから抗腫瘍効果が得られたと判断した。偶発的ではあるが,低用量,隔日投与においてもerlotinibの効果が得られる可能性が示唆された。 -
集学的治療が奏効した広範な皮膚浸潤と多発性肝・骨転移を伴った進行乳癌の1 例
39巻3号(2012);View Description Hide Description症例は58歳,女性。2005 年2 月,左乳癌にて入院となった。腫瘍は皮膚浸潤,肋骨浸潤を認め,多発性肝・骨転移を認めた(生検では,充実腺管癌,ER(+),PgR(±),HER2(3+),T4NxM1,stageⅣ)。放射線化学療法(paclitaxel+trastuzumab)を開始したところ,骨転移,肝転移は不変であったが,原発巣は約30%縮小した。外来通院中biweeklypaclitaxel療法のみ再開したが,肝転移が増悪したため,vinorelbine+capecitabine療法に変更した。6 コース施行後,肝転移は消失し,腫瘍マーカーは正常化した。以後capecitabine単剤に変更し,18 か月間NC であったが,肝転移の再発を認めた。経口抗癌剤cyclophosphamideを併用したところ,再び腫瘍マーカーは正常化し,治療開始より約6 年経過した現在も生存中である。 -
多剤耐性となった脳転移を伴う再発性乳癌に対してVinorelbineおよびAnastrozoleが著効した1 例
39巻3号(2012);View Description Hide Description多剤に耐性となった脳転移を伴うホルモン感受性再発乳癌に対して,vinorelbine(VNR)およびanastrozole(ANA)が著効した1 例を経験した。症例は49 歳,女性。左乳癌に対する胸筋温存乳房切除術後8 年目に肺転移を来した。docetaxel,tamoxifenなどが効果あるも,術後約10 年目に多発脳転移を来した。2 か所の転移巣(ER 陽性,HER2陰性)の摘出術後,残りの病変に対してgamma-knifeを施行し,CAF,capecitabineを使用したが,胸膜・骨に加え,脳に二度再発した。追加のgamma-knife に加えVNR およびANA を投与したところ,すべての転移巣の著明な縮小を認め,副作用も少なく,3 年にわたり再燃を認めていない。 -
TrastuzumabとVinorelbine併用療法によりPSが向上しQOL の著しい改善を認めたHER2 陽性多発転移局所進行乳癌の1 例
39巻3号(2012);View Description Hide Description症例は39 歳,妊娠歴のない閉経前女性。右乳房の強い疼痛を伴う出血と排膿を主訴に当科を受診した。右乳房は自壊し,径18 cm ほどの深い潰瘍を形成していた。CT で,対側乳房内転移,両側腋窩リンパ節転移,多発肺転移と骨転移を認めた。組織は浸潤性乳管癌,ホルモン感受性あり,HER2 蛋白過剰発現あり。卵巣癌術後,化学療法の副作用で治療を中断した既往をもち,右乳房は自壊していたが,脱毛などのbody image 低下を回避するため,疼痛コントロールと平行してfirstlineにtrastuzumab(Tr)とvinorelbine(VNR)併用療法を施行した。潰瘍を形成していた右前胸部が完全に上皮化し,PSは3 から0 へ改善。5 か月後には,疼痛および出血や強い臭気を伴う排膿は完全に消失し,QOL は著しく改善した。肺転移はCR となった。12.5 か月後にPD となり治療変更となるまで,血液毒性および脱毛を含む非血液毒性は認めなかった。second-line,third-line の治療を行ったが,脳転移が出現し原因不明の腸閉塞の発生などで全身状態が低下し,初診から21か月で永眠された。TrとVNR 併用療法は,すべて外来通院で可能であった。安全性や忍容性に優れた治療法であり,HER2蛋白過剰発現のある転移進行乳癌に対するfirst-lineとして検討されるべき治療の一つと考えられた。 -
二つの異なった化学療法後の化学放射線同時併用療法により著効が得られた子宮頸癌Ⅳb期の1例
39巻3号(2012);View Description Hide Description子宮頸癌Ⅳb 期に対する標準的治療は確立されておらず,治療は困難を要する。なかでも肺転移は頻度が少なく,治療は化学療法による全身治療が主流であるが,その予後は極めて不良である。この度,われわれは肺に多発性転移病変を認める子宮頸癌Ⅳb 期症例で,TC〔paclitaxel(PTX)+carboplatin(CBDCA)併用〕療法と化学放射線同時併用療法(concurrentchemoradiotherapy: CCRT)が奏効し,治療後6 年以上の無再発生存を得た症例を経験したので報告する。症例は57歳,女性。5経妊3 経産で,2型糖尿病,狭心症の既往があった。喫煙歴は40 本/日×45 年であった。不正性器出血を主訴に近医産婦人科を受診し,骨盤壁まで達する子宮頸部腫瘤を認め,精査加療目的に当科紹介受診となった。精査にて肺への遠隔転移を指摘され子宮頸癌Ⅳb 期の診断にて,治療開始となった。子宮頸部原発巣,肺転移病変に対する全身化学療法(POMP療法)の後にCCRT を予定したが,副作用症状のためTC 療法に変更し1コース施行したが,その後,原発巣からの出血増加を認めたため局所治療に重点をおくこととし,CCRT(全骨盤照射45 Gy+weekly CDDP 20 mg/m2)を開始した。子宮頸部病変はpathological CR となり,肺病変もRECISTでPR となった。CCRT終了後,引き続きTC 療法を2 コース施行したところで急性心筋梗塞を発症し,その後の積極的治療は断念した。初回治療終了後,肺腫瘍生検術を施行したが,悪性所見は指摘されなかった。初回治療後6年経過した現在まで再発を認めていない。 -
S-1単独療法で根治切除可能となり,かつpCR が得られた進行胃癌の1 例
39巻3号(2012);View Description Hide Description症例は74 歳,男性。腹痛を主訴に当院を受診した。内視鏡検査で2 型進行胃癌と診断した。CT 検査で肝転移と多数の腹腔内リンパ節転移を認めた。なかでもNo. 8a リンパ節は長径7 cm 大と大きく,膵頭部に浸潤していた。切除不能と判断し,S-1単独療法を4 週間投与2 週間休薬で開始した。2 コース施行後の内視鏡検査で腫瘍の著明な縮小,CT 検査で肝転移巣の消失およびリンパ節の縮小を認めた。8 コース施行後には原発巣は白色瘢痕化し,リンパ節はさらに縮小していた。幽門側胃切除術ならびにD2 郭清を行い,病理組織検査にて原発巣,リンパ節ともに癌細胞の遺残なく,化学療法の効果判定基準Grade 3 と判定した。S-1単独の化学療法によって切除不能胃癌が根治切除可能となり,さらにpCR が得られた症例はまれであり今回報告する。 -
S-1抵抗性進行胃癌術後リンパ節再発に対しBi-Weekly CPT-11+CDDP が奏効した1 症例要
39巻3号(2012);View Description Hide Description症例は64歳,男性。2006 年2 月,進行胃癌(cT3N2M0,Stage ⅢB)に対し胃全摘+D2(一部をD3含む)リンパ節郭清+脾・胆合併切除を施行(pT2N3M0,StageⅣ)した。進行胃癌術後,N3M0症例に対する補助化学療法としてweeklypaclitaxel+S-1を選択し,2 コース施行後S-1単剤にて経過観察していたが,術後10 か月目に血清CEA値の上昇を伴う傍腹部大動脈リンパ節転移が認められた。転移再発胃癌の一次療法としてweekday low-dose CDDP+S-1 を3 週間施行したが,再発リンパ節の増大を認めS-1不応と判断し,二次療法としてbi-weekly CPT-11+CDDP を選択した。3 コース後に血液毒性(grade 3 の貧血)のため治療中断を要したが,20%減量にて再開し計7 コースを施行した。腫大リンパ節の消失(CR)とCEA 低値持続を認め,現在術後5 年を経て再発の兆候はなく外来通院中である。S-1 不応進行胃癌術後再発症例の化学療法において,bi-weekly CPT-11+CDDP 療法は有用であると思われた。 -
mDCF 療法が奏効し治癒手術を施行し得た経口摂取不能胃癌の1 例
39巻3号(2012);View Description Hide Description経口摂取困難な胃癌症例にはS-1+CDDP 併用療法は適応となりにくく,新たな治療レジメンが検討されている。通過障害を伴う幽門狭窄を来し,肝転移のため治癒切除不能胃癌に対してmDCF 療法を施行した症例を報告する。有害事象として好中球減少に処置を要したが,mDCF 療法3 コースにより著明な腫瘍縮小が得られ,Grade 2 以上の組織学的効果を認め治癒切除を施行することが可能となった。経口摂取困難症例には治療早期からの緩和手術も考慮されるものの,mDCF療法による化学療法を先行し手術を行っていく選択肢も検討すべきと考えられた。 -
S-1隔日投与にて長期間QOL を維持できた切除不能残胃癌の1 例
39巻3号(2012);View Description Hide Description症例は81 歳,男性。既往歴として,40 歳時,胃潰瘍にて胃切除術。80 歳時,泌尿器科にて前立腺癌,骨転移の診断。抗男性ホルモン療法にて治療中。貧血を指摘され,精査にて残胃体上部前壁の低分化型腺癌と診断された。cT3,N3,M1,cStageⅣであり,根治手術不可能と判断した。高齢であること,貧血を認めること,PS 2 と全身状態が不良であることを考慮し,S-1隔日投与法(50 mg/回,1 日2 回,隔日投与)を開始した。治療開始3 か月で残胃の腫瘍は消失,生検にて癌陰性。腹部大動脈周囲リンパ節の著明な縮小を認め,cPRを得た。その後もcPR の状態とQOL が維持可能で,治療に伴うgrade 1以上の有害事象を一切認めず,安全に治療継続可能であった。治療開始早期より食事摂取量の増加,全身状態の改善,QOLの向上を認め,治療効果は満足のいくものであった。胃癌に対するS-1 隔日投与は,抗腫瘍効果を維持しながら有害事象の発現を激減させる長期投与法として有望な治療であると考えられた。S-1 隔日投与開始より16 か月後,前立腺癌により永眠された。 -
経口UFT/Leucovorin療法が奏効した高齢者結腸癌肝転移の1 例
39巻3号(2012);View Description Hide Description症例は83 歳,男性。多発肝転移を伴う上行結腸癌で入院し,上行結腸癌を切除後,術後15 日目より経口UFT/LV 療法(UFT 400 mg/日,LV 75 mg/日,4 週投薬1 週休薬)を開始した。3 コース終了後のCT にて肝転移は著明に縮小しており,10 コース終了後には画像上消失した転移巣も認められた。治療開始後24 か月が経過したが,肝転移巣の増大は認めず,新規病変もみられていない。経過中,重篤な有害事象はみられず,現在も治療継続中である。高齢者の切除不能大腸癌に対するUFT/LV 療法は,安全で優れた抗腫瘍効果を有する治療法であると考えられた。 -
術前Modified FOLFOX6 療法とsLV5FU2 療法により根治切除し得た肝門部リンパ節および多発肝転移を伴った直腸癌の1 例
39巻3号(2012);View Description Hide Description症例は55 歳の男性で,下血の精査をしたところ2 型の直腸癌を認めた。CT により肝門部リンパ節転移と多発肝転移を認めた。以上よりstage Ⅳの直腸癌と診断し,まず原発巣に対し低位前方切除術を行った。RsRa,circ,type 2,tub2,pSS,pN1,sH3,cHN1,sP0,cM0: fstage Ⅳであった。術後mFOLFOX6 を10 コース,sLV5FU2 を4 コース行いpartialresponseとなった。sLV5FU2は合計10 コース施行し肝門リンパ節腫大は消失した。有害事象はgrade 4 の顆粒球減少を認め,化学療法の続行が困難となり肝転移は増大した。しかし,肝門リンパ節腫大の増悪はなく,肝切除の方針とし右門脈塞栓術を行った。1 か月後に肝右葉切除術,肝門部リンパ節郭清術を行った。mFOLFOX6療法が肝門部リンパ節転移を伴う大腸癌多発肝転移に対しても有効な治療法となり得る可能性が示唆された。 -
膵癌同時性肝転移に対して抗癌剤感受性試験に基づく化学療法と定位体幹放射線治療を用いた集学的治療により良好な腫瘍制御効果が得られた1 例
39巻3号(2012);View Description Hide Description症例は55 歳,女性。肝転移を有する膵癌の加療目的にて当科紹介となった。膵頭十二指腸切除術,D2郭清,肝部分切除術を施行し,肝転移巣の一部を抗癌剤感受性試験(histoculture drug response assay: HDRA)に提出した。paclitaxel(PTX)とgemcitabine(GEM)の感受性が陽性と判定された。術後の肝転移および肺転移再発に対してPTX全身化学療法,GEM 肝動注療法を施行し,さらに再増大する肝転移巣に対して定位体幹放射線治療(stereotactic body radiotherapy: SBRT)(48 Gyを3 か所)を施行した。再発後2年5 か月間の腫瘍増大制御が可能であり,その間社会復帰可能であった。術後3 年1 か月後に腹膜播種により死亡した。膵癌の非切除化学療法症例の生存期間が通常5〜8 か月であることを考慮すると,遠隔転移を有する膵癌に対して,HDRA に基づく化学療法とSBRT の組み合わせによる集学的治療が有効な治療手段の一つになる可能性が示唆された。
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薬事レポート
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外来患者における内服抗がん剤の服用状況について
39巻3号(2012);View Description Hide Descriptionがん化学療法には,臨床的効果が同等ということで持続点滴静注から内服へ置き換えたレジメンも導入されている。利点として,持続点滴静注より患者の身体的,時間的および精神的負担などの軽減があげられる。しかし,内服抗がん剤の遵守が悪い場合,有効な治療法があっても期待される効果が得られなくなる。そこで,外来患者の内服抗がん剤の服用率調査を服薬手帳を用いて行った。服薬手帳導入時,抗がん剤の説明を行った患者のうち14 名から結果が得られた。各レジメンでの平均治療期間は8.9±6.2 コース,服薬手帳の平均記載期間は4.6±2.4 コース,平均服用率94.7±6.9%であり,文献で報告されている数値より高かった。治療期間の長期化に伴う服用率の低下はみられなかった。内服抗がん剤開始前の患者への直接的指導などが,高い服用率を維持している理由の一つと考えられ,内服抗がん剤治療を行っていく上で重要であると考えられた。
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