癌と化学療法
Volume 39, Issue 4, 2012
Volumes & issues:
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総説
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バイオバンクの倫理的・社会的側面への対応とガバナンスについて
39巻4号(2012);View Description Hide Description本稿は,バイオバンクの倫理的・社会的側面への対応について,ガバナンスの視点から概観を試みたものである。バイオバンクとは,ヒト試料とその提供者に関するデータ(遺伝学的情報やカルテ情報あるいは生活習慣情報などを含む)を,一定の品質基準でもって一元的に管理するシステムのことである。とりわけ昨今では,ゲノム医科学研究分野を中心に癌や糖尿病などのいわゆるcommon-diseasesなどの研究において,バイオバンクが不可欠な研究インフラとなっている。そのことは同時に,バイオバンクが公共性の高い利益の実現と強く結び付いた存在であることも意味している。そこで,バイオバンクの運営も,医科学研究の推進だけでなく,その倫理的・社会的側面あるいは公共的側面にも視野を広げて実践される,すなわちガバナンスされる必要がある。本稿では,バイオバンクの倫理的・社会的側面の具体的課題として,① 包括同意の問題,② 試料とデータの取り扱いに関するリスクの問題,そして,③ 偶発的所見のフィードバックの三つを取り上げた。いずれも,ゲノム医科学研究の急速な発展に付随する問題であり,既存の生命倫理の原則やルールを用いても十分解決できない複雑さを含んだ問題である。そのため,バイオバンクを運営する側には,コンプライアンスだけでなく,研究参加者や社会の反応にも配慮しながら「倫理的・社会的に妥当な運営」を実現する努力が求められる。そして,そのような広い視野で組織運営が実践されるためのガバナンスの体制整備が急がれる。
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特集
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- 遺伝性乳癌卵巣癌診療の新時代
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BRCA1 とBRCA2 遺伝子産物の機能―基礎から臨床―
39巻4号(2012);View Description Hide DescriptionBRCA1とBRCA2は「ゲノムの管理人(caretaker)」としてゲノム安定性の維持に機能している。BRCA1 は多機能を有する蛋白で,ATM/ATR およびその器質と相互作用し様々な細胞機能に関与している。BRCA1 はDNA 損傷反応におけるS 期およびG2/M 期チェックポイント機能に重要で,同時にGADD45 やRNA poly Ⅱなどの転写調節を行うとともに,SWI/SNF,BACH1などと相互作用しクロマチンリモデリングに機能する。BRCA2 も多機能で,MRN複合体やRPA と共同でDNA二本鎖切断の修復準備およびRad51と相互作用しDNA損傷部位に直接作用し修復する。さらにBRCA2 蛋白は,細胞質分裂(cytokinesis)制御や,中心体の複製制御機能を有する。このようなBRCA 機能を欠損した細胞または癌に対し,ポリADP-リボース合成酵素[poly(ADP-ribose)polymerase: PARP]阻害剤による新しい治療が展開されている。PARPは一本鎖DNA 切断時の修復に機能し,その阻害は複製フォークを壊しDNA 切断性の抗癌剤の効果増強作用があると推測されていた。PARP1を阻害すると一本鎖切断は修復されないが,その損傷は二本鎖切断へと変化し,相同組み換え(HR)によって修復される。しかし,BRCA1 またはBRCA2 の欠損細胞のように相同組み換え修復が行えない細胞においてPARP機能を阻害すると,高度のゲノム不安定性が生じ死に至る(synthetic lethality)。この知見に基づき,PARP 阻害剤による治療法開発が進められ,BRCA1またはBRCA2が不活化された細胞に対して,PARP 阻害剤を単独で投与したところ高い感受性が得られたことが報告された。 -
家族性乳癌の臨床―わが国の現状と課題―
39巻4号(2012);View Description Hide Description家族性乳癌の臨床的特徴は,若年発症,両側乳癌や他臓器重複癌であり,家族歴から遺伝要因の関与が強く示唆される。現在同定されている原因遺伝子はBRCA1,2であり,これらの遺伝子変異が認められる家系には乳癌や卵巣癌が集積するので,遺伝性乳癌卵巣癌症候群と呼ばれる。BRCA 関連乳癌でも若年発症や両側乳癌の頻度が高い。また,BRCA1関連乳癌では組織学的悪性度が高く内分泌反応性が低い。家族性乳癌における遺伝子診断は,遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)の確定診断であり,手術や薬物治療あるいは変異保有者のサーベイランスなどに有意義な情報をもたらす。わが国ではこれまで研究としてBRCA 遺伝子診断が行われてきたが,近年臨床応用されるに至り,検査費用が高額なこと,臨床医のHBOC への理解が少ないこと,遺伝カウンセリング体制が整っていないことなど,解決するべき課題も多い。 -
家族性卵巣癌の臨床―わが国の現状と課題―
39巻4号(2012);View Description Hide Description家族性卵巣癌全体でのBRCA1/2遺伝子変異は65〜75%,Mismatch Repair(MMR)遺伝子変異[Lynch症候群あるいはHereditary Non-Polyposis Colorectal Cancer(HNPCC)]は10〜15%とされている。BRCA2の関与はBRCA1より明らかに少なく,BRCA1変異が全体の約半数に認められる。乳癌患者を含む乳癌卵巣癌家系では,BRCA1変異を有する頻度がさらに高い。BRCA関連卵巣癌の臨床的特徴として漿液性腺癌,進行例が多いとされる。予後に関して一定の見解は得られていないが,散発性に比べ抗癌剤感受性が高い可能性が示唆されている。わが国では,近年になってBRCA 遺伝子解析が臨床の場で積極的に行われはじめ,遺伝子変異型のプロファイルがアシュケナジユダヤ人を除いた欧米人とも明らかに異なることがわかり,日本人に対する効率的な遺伝子検査が提唱されている。わが国における卵巣癌全体での家族性の頻度は1〜5%と低いものの,家族性乳癌卵巣癌でのBRCA 遺伝子変異検出率は欧米人と比較して有意に高いことが示されている。欧米でのBRCA 関連卵巣癌は発症年齢が低いとされるが,本邦では有意差を認めないとする報告があることからも,遺伝的・臨床的両面において欧米との差違が推測される。これらの基礎データをどのようにして薬剤による化学予防や予防手術に発展させ,遺伝子変異を有する未発症キャリアでの予防医療に結び付けていくかがこれからの大きな課題となるであろう。 -
わが国におけるTriple Negative乳癌治療の現状と課題
39巻4号(2012);View Description Hide Descriptionホルモン感受性(ER/PgR)と上皮増殖因子のHER2 発現のすべて三つのマーカーが陰性のtriple negative 乳癌(TNBC)は,原発性乳癌の約15%を占める。一般的に他のサブタイプに比べ,再発高危険群,つまり予後不良である。TNBC は内分泌療法と抗HER2 療法が不適であるという治療反応性から規定される集団であり,化学療法が著効し予後が良好な群,化学療法が無効で予後不良な群,元来予後良好で化学療法が不要な群,といった様々な性格を有するheterogeneousな疾患群である。今後はTNBC のなかでも予後と治療反応性に基づく細分化が課題である。組織免疫染色法を用いたCK5/6,EGFR によるbasal vs non-basalの分類に加え,Ki-67 が抗癌剤感受性を予測し,またその治療前後での変化が予後予測に有望な可能性がある。術前化学療法無効(non-pCR)例は早期の再発危険性が高く,その対策が望まれる。現在,最も標準的な周術期化学療法はアントラサイクリン系とタキサン系の順次併用療法であろうが,術前でのpCR 率は30〜40%と限界がある。これを卓越するレジメンの開発も急務である。BRCA 遺伝子異常に関連し,DNA障害性抗癌剤の感受性が期待されるが,残念ながらわが国ではcisplatin,carboplatinなどの薬剤が保険未承認である。細胞増殖系因子をターゲットにした様々な新規の分子標的治療薬の今後の開発に期待される。本稿ではTNBC の診断および治療の臨床的経験から,その現状と課題をまとめた。 -
PARP 阻害剤の臨床開発
39巻4号(2012);View Description Hide Description腫瘍細胞は,化学療法や放射線によって生じるDNA 傷害をDNA 修復機構で修復することによって生存している。poly(ADP-ribose)polymerase(PARP)は,DNA の一本鎖切断を修復する経路において塩基除去修復を担っている酵素である。PARP 阻害薬は,相同組み換えが欠如した腫瘍において合成致死を起こす作用や,化学療法や放射線治療における殺細胞効果を増強する作用があり,臨床開発されている。相同組み換えの欠如は,BRCA 関連の腫瘍に限られたものではなく,他の腫瘍においてもPARP 阻害薬の効果が期待される。PARP 活性の阻害は,DNA 傷害作用を有するアルキル化剤,プラチナ製剤,トポイソメラーゼ阻害剤や放射線などの作用を増強することがin vitro/in vivoで示されている。現在までに少なくとも九つの製薬企業がPARP阻害剤の臨床試験を行っている。最近の研究では,BRCA 変異を有するような相同組み換えの欠如した腫瘍において,PARP 阻害剤の有効性が示されている。本稿では,PARP 阻害剤の知見や概念を概説し,臨床開発について要約する。PARP阻害剤の効果予測因子を発見することが今後の研究の課題であろう。 -
遺伝性乳癌卵巣癌における遺伝子診断とリスク低減手術の現状と課題
39巻4号(2012);View Description Hide Description遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)に対する認識はここ数年徐々に高まっている。本稿ではHBOC における遺伝学的検査の留意点とリスク低減手術の意義と実際について述べる。HBOC の遺伝子検査は,原因遺伝子であるBRCA1およびBRCA2の二つの遺伝子をPCR-direct sequenceで塩基配列を解析することが基本である。最近,わが国でもBRCA1 に遺伝子再構成の異常の報告がみられ,さらにMLPA 法によりexon単位の欠失や重複を検討する必要がある。遺伝子検査では,uncertain significanceという病的意義が明らかでない変異がみつかる可能性があるが,現在は検査を行った症例の3%程度に減少している。さらにBRCA1/2 以外にも新たにHBOCの原因遺伝子の候補として,RAD51C,PALB2,BRIP1 などが報告されている。これらは二本鎖DNAを切断して相同組み換え修復に関与しているという共通点をもつ。将来はHBOC の遺伝子診断の対象にこれらの遺伝子も組み込まれる可能性がある。HBOC の外科的予防介入には,リスク低減外科両側卵巣卵管切除術(RRSO)およびリスク低減乳房切除術(RRM)がある。これまでわが国ではRRSO およびRRMは保険適用ではないことや閉経前の女性の生殖器あるいは乳房を切除するという不利益もあり実施されていなかった。しかし,RRSO は卵巣癌および乳癌の発生率を減少させる他に,総死亡率を低下させるという報告もみられ,その予防的な意義が確立しつつある。そこでわれわれもHBOC 症例にRRSO実施ができるよう準備を進めた。その結果,当院ではRRSOを臨床試験として実施することとして施設内倫理委員会(IRB)で承認された。一方,乳房においては放射線治療を伴う温存療法についてNCCN ガイドラインでは,HBOC の場合相対的な禁忌とされているが,10 年前後の観察期間では,変異陽性群と対照群では同側乳房の腫瘍発生の頻度は差がないという報告もみられる。今後,さらに長期にわたる経過観察に基づくデータが必要ではあるが,特にBRCA1変異陽性例で悪性度の高い乳癌が発症する可能性を考慮しておくべきである。RRM については,乳癌の発症率を90%程度下げることは判明しているが,生命予後を改善するかは明らかではない。しかし,本人の精神的な負担も考慮し,RRMを対策の選択肢の一つとして実施できる体制の整備は必要であると思われる。
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Current Organ Topics:Melanoma and Non-Melanoma Skin Cancers メラノーマ・皮膚癌
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原著
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前立腺癌患者に対するDocetaxel の安全性および有効性:日本人患者を対象とした製造販売後調査
39巻4号(2012);View Description Hide Description特定使用成績調査のデータを用いて,前立腺癌患者に対するdocetaxel の安全性および有効性を評価した。2008年9月〜2010年5 月にかけて,149名の患者が登録された。初回投与量は75 mg/m / 2が53 名(36%),70 mg/m2が55 名(37%),60 mg/m2以下が41 名(28%),投与サイクル数の中央値(範囲)は8(1〜10)で,初回投与量や投与サイクル数に年齢による差は認められなかった。主なグレード3 以上の副作用は,好中球数減少(71%)および白血球減少(51%)で,初回投与量70 mg/m2以上の患者に多かったが,多変量解析ではグレード3 以上の副作用と初回投与量との間に有意な相関は認められなかった。グレード3 以上の感染関連事象は15%,間質性肺炎は1%の患者に認められた。評価が可能な95 名(19%)に認められたprostate-specific-antigen(PSA)フレア現象の出現時期の中央値は26 日,持続期間の中央値は39.5 日であった。評価可能例のPSA 50%奏効割合は37%(95%CI: 27-47)で,初回投与量60 mg/m2以下の奏効率は18%と低かった。初回投与量75 mg/m / 2と70 mg/m2の間に特記すべき違いは認められず,今後はより長期間の検討が必要と考えられる。 -
ペメトレキセド単剤レジメンの管理とメインテナンス―既治療非小細胞肺がんに対する初期治療経験より―
39巻4号(2012);View Description Hide Descriptionわれわれは登録したレジメンを使用頻度,アドヒアランス,コンプライアンス,毒性,治療効果に着目して,メインテナンスを行うことを目標としている。今回ペメトレキセド(PEM)が進行・再発非小細胞肺がん(NSCLC)に適応拡大されたことを受け,二次以降の治療として,PEM単剤のレジメン登録を行い,その妥当性を検討するため,登録初期の連続した21 例の背景,投与状況,毒性について後方視的にデータを集積し解析をした。重篤な血液毒性は,grade 3 の好中球(白血球)減少が1 例のみで非血液毒性はgrade 1-2の悪心,ö怠感,皮疹,肝障害の頻度が高く,grade 3 の肺臓炎が1 例,低ナトリウム(低Na)血症が2 例認められた。非ステロイド性消炎鎮痛剤併用例(NSAIDs)で毒性が増強することはなかった。PEM はNSCLC の二次治療以降での使用において,忍容性はあるが非重篤な毒性で継続困難となることもあり,レジメンの支持療法の検討を行った結果,デキサメタゾンの投与日数の延長が必要と考えられた。 -
超高齢者(80歳以上)の進行・再発膵,胆道癌症例における化学療法の検討
39巻4号(2012);View Description Hide Description80 歳以上の超高齢者への化学療法の検討は少なく,GEMで化学療法を行った80 歳以上の進行・再発膵,胆道癌の10例を超高齢者群とし,79 歳以下を対照群として化学療法の有用性と安全性を検討した。結果:超高齢者群では効果あり2 例,変化なしまたは悪化7 例で奏効率22.2%,死亡までの期間12 か月であり,治療効果に対照群との差を認めなかった。化学療法施行理由は多発性肝転移が多く,治療期間は8.0か月と差がなかった。プロトコールに従ったdrug intensity(DI)と実際に行われたDI の比は両群間で差がなかったが,超高齢者群では初回から有意にfull dose を投与しておらず,逆に対照群では抗癌剤の減量が必要であった症例を多く認めた。副作用としてgrade 3 以上の食欲不振は有意に多く,ドロップアウト(50%)が超高齢者群で有意に多かった原因と考えられた。抗癌剤による死亡例はなかった。結論:超高齢者に対し,初回より減量などの適切な処置がなされた場合,抗癌剤は安全に使用可能でかつ有用であった。 -
StageⅢ結腸癌に対する補助化学療法としてのUFT/LV+PSK 療法の検討
39巻4号(2012);View Description Hide Description目的: Stage Ⅲ結腸癌の補助化学療法としてのUFT/LV+PSK 療法を後ろ向きに検討した。対象: 2003 年12 月〜2009年12 月までに治癒切除したstage Ⅲ結腸癌273 例のうちUFT/LV+PSK 療法が施行された156 例。結果: 男性87 例,女性69 例で,年齢の中央値は72 歳で,stage Ⅲaは119例,stage Ⅲb は37 例であった。3 年無病生存率はstageⅢ全体で73.9%,stage Ⅲaで80.6%,Ⅲbで51.4%であり,3 年の全生存率は全体で97.6%であった。有害事象の発現率は肝機能障害が9.6%と最も多く認めたが,grade 3 以上の有害事象は認められなかった。結論: stage Ⅲ結腸癌に対する補助化学療法としてのUFT/LV+PSK療法は忍容性が良好で特にstageⅢaによい適応である。 -
ラットにおける壊死性抗がん剤の漏出性皮膚障害に関するステロイド局所注射の効果
39巻4号(2012);View Description Hide Description壊死性抗がん剤の漏出時に施行されるステロイド局所注射の有効性は不明である。そこで,本研究ではラットを用いてDXR,VNR,PTX の漏出実験を行い,肉眼的および組織学的にステロイド局所注射の有効性を検討した。肉眼的な検討では,DXR,VNR による皮膚病変はステロイド局所注射により縮小を認めた。PTX は,ステロイド局所注射の有無にかかわらず病変がほとんど観察されなかった。一方,組織学的にはDXR,VNR,PTXのすべてに皮膚深部組織の浮腫,炎症,壊死などの病変を認め,ステロイド局所注射による効果は小さいと思われた。特にDXR は皮下組織と筋組織に広範囲な壊死を呈し,VNR はDXR より軽度であるが皮膚全層に病変が及んでいた。また,PTXは最も軽度な病変を示した。よって,ステロイド局所注射の役割は抗がん剤の希釈およびステロイドの抗炎症作用に起因した肉眼的な皮膚障害の軽減が主体であり,経過的に進展する深部組織の障害を抑制する効果に乏しいことが示唆された。 -
成分栄養製剤エレンタール投与による大腸癌化学療法誘発口内炎の予防効果
39巻4号(2012);View Description Hide Description成分栄養剤エレンタールの大腸癌化学療法による口内炎予防効果を検討した。前コースの化学療法によりgrade 1-3の口内炎を認めた23 例が前向きに登録された。FOLFOX,FOLFIRIやXELOXベースの同レジメンの化学療法を施行し得た22 例を対象にエレンタール80 g 以上/日を化学療法期間中(2 週または3 週間)可能な限り服用した。エレンタール治療は原則2 コース施行した。前コースでgrade 2-3の口内炎を認めた5 例に5-FU,capecitabineまたはS-1 の減量を行った。エレンタール治療1 コース目では22 例中18 例に,2 コース目では20 例に口内炎が消失または軽減した。また,口内炎予防効果はエレンタール服用量依存性であった。同様に,前コースでみられた好中球減少は11 例中10 例で消失または軽減した。以上より,エレンタールの大腸癌化学療法による口内炎予防効果が示唆された。 -
加温法によるオキサリプラチン末Q静脈内投与における血管痛軽減の試み
39巻4号(2012);View Description Hide Description目的: XELOX療法の際,末Q静脈から投与するオキサリプラチン(L-OHP)の血管痛に対し輸液ルートを加温することで軽減可能か検討した。方法:①実験: 5%ブドウ糖注射液を36℃,40℃に加温した場合の点滴による温度の低下を測定した。②XELOX 療法中の大腸癌症例5 例に対し,40℃加温による血管痛の発生について検討した。結果:① 実験:点滴ルートを通過する際36℃に加温した場合25℃に,40℃に加温した場合31℃に注射液温度は低下していた。② 症例: 5 症例全例に血管痛が発生しなかった。血管痛発生により治療継続困難であった2 例も加温法により血管痛を認めず治療が完遂できた。結論: 輸液ルート加温は,L-OHP 静脈内投与の血管痛を軽減するため,L-OHPの血管痛対策として有用と考える。 -
Oxaliplatinによるアレルギー反応発現に関する検討
39巻4号(2012);View Description Hide Description白金錯体系抗悪性腫瘍薬のオキサリプラチン(L-OHP)は結腸・直腸癌の治療におけるキードラッグである。しかしながらアレルギー反応の発現により,それらの治療の継続が困難になることがある。本研究はL-OHP 投与によるアレルギー反応の発現に関する検討を行ったので報告する。順天堂大学医学部附属浦安病院において,2009 年4 月〜2010年11 月までにL-OHP を含むレジメンを実施した症例について後ろ向きに解析を行った。その結果,アレルギー反応を発現した患者は81 例中15 例(18.5%)であった。アレルギー反応が発現するまでの時間と投与サイクル数に高い相関が得られた(r=−0.521,p=0.047)。また,アレルギー発現群と非発現群の患者背景を比較すると,レジメンによる違いや薬物の代謝に関係すると思われる肝転移の有無は影響因子にならないことが示唆された。有意差が得られた項目として,性差(p=0.022)およびL-OHPの剤形変更による影響(p=0.003)が見いだされた。アレルギー反応発現後も6 症例においてL-OHP 投与による治療の継続が可能であった。ステロイド薬や抗ヒスタミン薬の追加投与によるアレルギー対策が治療を継続する上で有用であることが示唆された。 -
転移乳癌患者におけるフェンタニルパッチによるモルヒネとオキシコドンに起因する副作用の軽減効果に関するパイロット研究
39巻4号(2012);View Description Hide Description背景:フェンタニルパッチは経口モルヒネ徐放剤からローテーションした場合,これに起因する副作用の軽減効果が臨床試験で確認されているが,オキシコドン徐放剤を含めた試験はない。目的:フェンタニルパッチによるオキシコドンおよびモルヒネに起因する副作用の軽減効果をパイロット試験として前向きに検討する。対象と方法:オキシコドンまたはモルヒネで何らかの副作用を有する転移乳癌患者9 例。文書で同意の後,フェンタニルパッチ開始前4 日間と開始後28 日間の症状(疼痛,悪心,嘔吐,便秘,ふらつき,眠気など)をスコア化し,排便回数とともに患者自身が日誌に記載した。個々の症例そして全体で開始前平均値と1,2,3,4 週目平均値をt検定で比較した。結果:年齢の中央値は57.5 歳,前治療は7 例がオキシコドンで2 例がモルヒネであった。8 例が化学療法中,6 例が放射線照射中,7例がビスフォン酸投与中であった。疼痛は4 週目に有意にスコアが低下した。悪心,嘔吐,便秘,ふらつき,眠気の各スコアは経時的に有意な低下を示した。排便回数は有意ではなかったが経時的に上昇していた。考察: フェンタニルパッチはモルヒネのみならず,オキシコドンからのローテーションでもこれに起因する副作用軽減効果を有することが示唆された。 -
がん患者の筋・筋膜性疼痛に対するトリガーポイント療法の調査(第二報)―ネオビタカイン®注の特定使用成績調査の分析結果から―
39巻4号(2012);View Description Hide Descriptionがん患者にみられる筋・筋膜性疼痛に対するネオビタカイン®注を用いた日常診療におけるトリガーポイント療法の有効性と安全性を検討し,解析結果を第一報として報告した。今回,「投与部位」,「VASとFS の相関関係」および「患者満足度」について考察を加えたので追加報告する。①投与部位:脊椎両側に集中しており,患者が仰臥した際に体を支える点やその周辺にトリガーポイントができやすいことが示された。② VASとFS の相関関係: いずれの測定時期においても正の相関が得られた。③患者満足度:多くの患者から本治療に対する満足感を表すと考えられるコメントが収集できた。これらのコメントには患者の率直な気持ちが反映されていると思われたので,満足感の程度を患者満足度として分類した。患者の声に適切に対処することで満足度を高められると考えられた。本調査より,がん患者にみられる筋・筋膜性疼痛に対してネオビタカイン®注のトリガーポイント療法を施行することで,がん患者のトータルの痛みが緩和され,患者の高い満足度を得られる可能性が示唆された。 -
Evaluation of Safety in Clinical Use of Generic Paclitaxel[NK]for Injection
39巻4号(2012);View Description Hide Description目的: ジェネリック医薬品の導入は医療費削減対策の一つではあるが,情報不足のために導入に慎重な声もある。パクリタキセル「NK」はクエン酸を含有しているため,低pHによる血管痛,静脈炎が懸念された。また,純度の高いヒマシ油を使用しているため,過敏症,肝機能障害が軽度であることが期待された。今回,添加物の違いによる副作用の発現状況に関する情報不足を補うことを目的として,ジェネリックのパクリタキセル「NK」注の副作用を調査した。方法: 2008 年4 月〜2009 年3 月までに当院で,先発品であるタキソール®とジェネリックのパクリタキセル「NK」両剤による治療を施行された患者を対象に,レトロスペクティブに副作用を調査した。結果:血管痛,静脈炎,過敏症は,先発品と変わらず,肝酵素上昇については,後発品のほうが高値であったが,統計学的有意差はみられなかった。調査した他のすべての副作用の発現率,程度についても有意差はみられなかった。考察:クエン酸によりpHが低いことによる血管痛,静脈炎の増加はみられなかった。純度の高いヒマシ油を使用していることによる過敏症,肝機能障害の発現状況に対する影響はみられなかった。先入観を捨て,科学的根拠に基づいた公正な目でジェネリック医薬品を評価することが重要である。
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特別寄稿
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医師主導の多施設共同臨床試験におけるUMIN インターネット症例登録センター(UMIN-INDICE)の活用:日本腫瘍IVR 研究グループ(Japan Interventional Radiology in Oncology Study Group:JIVROSG)での評価
39巻4号(2012);View Description Hide Description前向き研究として行われる臨床試験においては,研究の科学的信頼性を担保するために症例の事前登録が必須である。日本腫瘍IVR 研究グループ(Japan Interventional Radiology in Oncology Study Group: JIVROSG)は,画像ガイド下に経皮的治療を行うinterventional radiology(IVR)のがん治療におけるエビデンスを確立することを目的に2002 年に発足した多施設共同臨床試験組織であり,開始当初より大学病院医療情報ネットワーク(University hospital Medical Information Net work: UMIN)が提供する共同利用型のインターネット・データセンター(Internet Data and Information Center for MedicalResearch: INDICE)を用いて症例登録を行ってきた。本研究では,UMIN-INDICEの安全性と有用性をJIVROSGにおける運用実績に基づき検証した。2002〜2010年の間に行われた27 本の臨床試験において,85施設から736 症例が登録され,研究遂行に支障を来す運用トラブルやセキュリティに関連するトラブルはみられなかった。また,研究者を対象に行ったアンケート調査では,90%という高い頻度で「UMIN-INDICEを用いた症例登録は容易ないしは比較的容易」との回答であった。UMIN-INDICEは多施設共同臨床試験における症例登録システムとして安全性が高く,かつ研究者にとって有用であり,臨床研究のインフラストラクチャーとしてエビデンス生成に寄与すると考えられた。
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症例
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メルファラン大量療法を前処置とした自家末=血幹細胞移植を施行した原発性AL アミロイドーシスの3 例
39巻4号(2012);View Description Hide Description原発性AL アミロイドーシス3 症例に対して,メルファラン大量療法を前処置とした自家末=血幹細胞移植(autologousperipheral blood stem cell transplantation: auto-PBSCT)を施行した。メルファランの毒性は投与量と関連するため,患者年齢と臓器浸潤がメルファラン大量療法を前処置とするauto-PBSCT を成功させる上で重要な因子となる。われわれは,メルファランを危険因子と適合させた投与量に設定して治療を行った。VAD療法を3 コース施行後,メルファラン大量療法(100〜200 mg/m2)を前処置としたauto-PBSCTを行った。重篤な副作用,移植関連死亡は認められなかった。全例部分寛解ではあるが,中央値68(22〜100)か月生存中である。危険因子と適合させた投与量を用いたメルファラン大量療法を前処置としたauto-PBSCTは,原発性ALアミロイドーシスに対して有効な治療法と考えられる。 -
巨大潰瘍を伴う手術不能Stage ⅢB ホルモン陽性・HER2 陽性乳癌に対しTrastuzumab+AI剤+抗癌剤の3剤併用により長期生存が得られた1 例
39巻4号(2012);View Description Hide Description巨大皮膚潰瘍を伴った手術不能HER2 陽性ER 陽性局所進行乳癌の68 歳,女性に対し,trastuzumab+AI 剤+化学療法の3 剤併用療法を継続し,CR,PR とPD を繰り返しながら,9 年間にわたって長期のコントロールが可能であった。trastuzumab 投与は400 回以上に及ぶも,特に心毒性の発生はみられず安全に施行できた。trastuzumab と抗癌剤の併用は以前よりその有効性が示されているが,近年trastuzumabと内分泌療法の同時併用の効果が示されており,HER2シグナルとER シグナルの二つを同時に遮断することが臨床的に有用な可能性が示唆されている。このことから,このようなHER2陽性ホルモン受容体陽性進行転移性乳癌に対しては,trastuzumab+AI剤+化学療法の3 剤併用の継続が有用であると考えられた。 -
癌性髄膜炎に対してエルロチニブが有効であった肺腺癌術後再発症例
39巻4号(2012);View Description Hide Description症例は53 歳,女性。肺腺癌に対して手術および化学療法を施行された後,経過観察されていた。術後約1 年5 か月経過後,意識障害および幻覚を主訴に入院となった。CTおよびMRIにて癌性髄膜炎・多発肺転移と診断し,エルロチニブでの治療を開始した。症状は速やかに消失し,治療開始後7 か月を経過した現在も再発なく経過している。 -
十二指腸乳頭部癌術後肺転移に対しS-1療法が著効した1 例
39巻4号(2012);View Description Hide Description十二指腸乳頭部癌術後,肺転移再発症例に対しS-1 療法を施行し,著効した症例を経験したので報告する。症例は70歳,女性。2007年3 月乳頭部癌に対して,幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行。stageⅢであった。1 年後のCT 検査において,多発肺転移を指摘。2009 年4 月よりS-1単剤による治療を開始した。治療効果はCR と判定された。有害事象はいずれもgrade 1程度であり重篤な事象は認めず,S-1投与は12 か月継続した。現在,再発なく生存中である。S-1 は十二指腸乳頭部癌の肺転移症例に対し,有効かつ安全に使用可能であると考えられる。 -
Efficacy of Vinorelbine and Zoledronate Combination Therapy against Postoperative Recurrence of Lung Cancer
39巻4号(2012);View Description Hide Description今回われわれは,肺癌術後リンパ節ならびに多発骨転移再発例に対し,ビノレルビン(VNR)ならびにゾレドロネート(ZOL)の長期投与を行い,奏効した症例を経験したので報告する。症例: 70 歳,男性。検診胸部X線異常陰影にて近医初診。CT にて左S10に径28 mm大の腫瘤影を認め,肺癌を疑われ当院初診。術中に肺癌と診断し,左下葉切除を行った。病理病期Ⅲa期にて術後補助化学療法を施行するも,リンパ節ならびに多発骨転移再発を確認した。再発後の治療としてVNRのbiweekly 投与ならびにZOL のmonthly 投与を長期間施行したところ,奏効が得られた。結論:多発骨転移再発を伴う術後再発肺癌に対しVNR とZOL の併用療法が奏効した1 例を経験した。VNR は合併症を有する術後再発高齢者肺癌に対し効果的で,かつ長期間安全に投与が可能であった。ZOL は肺癌に対してもSRE の予防効果が良好であり,本症例では抗腫瘍効果も示唆された。 -
同時性食道胃重複癌に対し術前Docetaxel/CDDP/5-Fluorouracil併用化学療法が奏効し手術を施行した1 例
39巻4号(2012);View Description Hide Description症例は72 歳,男性。嚥下困難を主訴に来院。上部消化管内視鏡検査で胸部中部食道の2 型腫瘍と胃前庭部の0-Ⅰ型腫瘍を認め,生検でそれぞれ中分化型平上皮癌と高分化管状腺癌であった。胸腹部CT 検査ではリンパ節転移,遠隔転移はなく,食道癌(cT2N0M0,cStageⅡ)と胃癌(cT1N0M0,cStageⅠA)の同時性重複癌と診断した。術前docetaxel/CDDP/5-fluorouracil(DCF)併用化学療法を行った。有害事象はgrade 2 の白血球減少と脱毛であった。治療終了後の内視鏡検査では,食道病変は著明に縮小し,胃病変は肉眼的および組織学的に消失した。化学療法終了後1 か月に腹臥位胸腔鏡下食道切除術,腹腔鏡下胃管作製・再建術を行った。切除標本の病理組織検査での,食道癌に対する術前DCF 療法の効果判定はgrade 2 であった。術前DCF 療法は食道癌および胃癌の両癌腫に対して,著明な抗腫瘍効果を認めた。 -
オランザピン口腔内崩壊錠により在宅緩和ケアが可能となった胃癌術後癌性腹膜炎の1 例
39巻4号(2012);View Description Hide Description症例は30歳台,男性。2009 年5 月,胃癌術後癌性腹膜炎に伴う高度な嘔気と腹部膨満感を主訴に,当院緩和ケア外来を受診した。オクトレオチド酢酸塩の持続皮下投与を開始して腹部膨満感は改善したが,嘔気はメトクロプラミドおよびドンペリドンの追加投与でも改善しなかった。このため,オランザピン口腔内崩壊錠(olanzapine orally disintegrating tablet:OLZ-ODT)10 mg×1 日2 回の投与を行ったところ,嘔気は改善傾向が認められた。症状緩和に伴い在宅緩和ケアへ移行後,嘔気改善を理由にOLZ-ODT を自己中断したところ,嘔気の増悪を認めた。投与再開に伴い嘔気は再度改善し,その後増悪なく約2 か月半の在宅療養が可能であった。良好な嘔気のコントロールは,より質の高い療養につながる。OLZ-ODT は癌性腹膜炎に伴う嘔気の改善に有用な薬剤であり,在宅緩和ケアの普及にも重要な薬剤と思われる。 -
S-1/Cisplatin併用術前化学療法が奏効し根治切除し得たCA19-9産生進行胃癌の1 例
39巻4号(2012);View Description Hide Description患者は66 歳,男性。主訴は嚥下困難。上部消化管内視鏡検査で,胃体上部に3 型の低分化腺癌を認めた。腹部CT 検査では,著明な胃壁肥厚と小弯および腹部大動脈周囲リンパ節が有意に腫大していた。血清CA19-9値は978 U/mL と高値を示した。高度進行胃癌の診断にて,S-1/cisplatin 併用術前化学療法(S-1 120 mg/2×を3 週間内服,cisplatin 108 mg をday 8 に点滴静注)を行った。抗腫瘍効果は腫瘍が著明に縮小し,腫大したリンパ節は消失したためPR であった。治療終了4 週間目に胃全摘術,腹部大動脈周囲リンパ節を含めた従来のD4リンパ節郭清,膵尾部切除術,脾摘出術,Roux-en Y 吻合を施行した。切除標本の病理組織検査では,主病巣の粘膜は正常であったが粘膜下層に癌細胞が散見された(Grade 2)。免疫組織化学的染色にて,腫瘍細胞はCA19-9陽性で術後血清CA19-9値は正常化し,CA19-9産生胃癌と診断した。現在,術後化学療法中である。 -
化学療法によるDown Staging後にAdjuvant Surgeryを施行したStageⅣ胃癌の2 例
39巻4号(2012);View Description Hide Description症例1: 72 歳,男性。近医より胃癌の診断にて当科を紹介された。腹部CT にて肝転移および腹部大動脈周囲リンパ節転移と診断。S-1+CDDP 療法を4 コース行ったところ,肝転移および腹部大動脈周囲リンパ節転移が消失したため,adjuvantsurgeryを施行した。術後16 か月現在,無再発生存中である。症例2: 66 歳,男性。近医より胃癌の診断にて当科を紹介された。腹部CTにて腹部大動脈周囲リンパ節転移と診断。S-1+CDDP 療法を9 コース行ったところ,腹部大動脈周囲リンパ節転移が消失したため,adjuvant surgeryを施行した。術後8 か月目にリンパ節再発を認め,術後13 か月現在,外来にて化学療法中である。Stage Ⅳの進行胃癌に対し,化学療法によるdown staging 後にadjuvant surgery を施行した2 例を経験し,adjuvantsurgeryは高度進行胃癌に対し予後を改善する可能性が示唆された。 -
Docetaxel+S-1療法が奏効した進行胃癌の1 例
39巻4号(2012);View Description Hide Description症例は46 歳,女性。下腹部の膨満感を主訴に初診した。精査で多発肺・リンパ節・両側卵巣・子宮転移をもつ胃癌と診断された。胃亜全摘/両側卵巣・子宮摘出術を施行し術後よりdocetaxel(DOC)+S-1 併用療法を開始した。6 コース投与後のPET/CT にてCR であったため,S-1単剤へ変更し6 か月投与,その後は休薬して経過観察中である。術後15 か月の現在まで画像上CRを維持しており健在である。 -
Dihydropyrimidine Dehydrogenase Inhibitory Fluoropyrimidines (DIF)製剤とPaclitaxelとの併用療法により腹水の消失が得られ 長期に良好なQOL を保つことのできた胃癌腹膜播種の2 症例
39巻4号(2012);View Description Hide Description症例1 は77 歳,男性。体重減少,嘔気,腹部膨満に対して精査が行われ,CT にて多量の腹水および胃壁の著明な肥厚を認め,胃内視鏡検査では易出血性の硬い粗雑な粘膜性病変が認められた。生検結果はgroup 5 であり,残胃癌および腹膜播種の診断となった。根治的手術は困難と判断し,化学療法を行うこととなった。S-1(80 mg/m2)を2 週間投与,1週間休薬,paclitaxel(50 mg/m2)をday 1,8 投与とした。腹部CT にて腹水の消失および経口摂取の改善を認め,1 年2 か月の間,良好なQOL の下,著明な副作用もみられず外来通院可能であった。症例2 は79 歳,男性。胸部不快感に対して胃内視鏡検査を行ったところ,EG junction 直下に病変を認め,生検結果はgroup 5 であった。胃全摘出術,脾臓摘出術を施行,術後補助化学療法としてS-1(80 mg/m2)を開始したが,著明な全身â怠感が出現し,本人の希望もあり休薬となった。術後6 か月のCT にて多量の腹水および腫瘍マーカーの上昇を認め,胃癌腹膜再発の疑いにてUFT-E (1.5 g/body)を開始,paclitaxel (50 mg/m2)を施行したところ腹水の消失を認め,その後腹水の増加を認めていない。DIF 製剤であるS-1およびUFT とtaxane製剤であるpaclitaxelとの併用療法は,腹水を有する胃癌腹膜播種症例に対して,また後期高齢者に対しても良好なQOLを保つことができ,有用である可能性が示唆された。 -
a-Fetoprotein産生直腸癌の1 例
39巻4号(2012);View Description Hide Description症例は73 歳,男性。多発肝転移を伴う直腸癌に対し高位前方切除術を施行し,術後の免疫組織学的検査にてAFP 産生直腸癌と診断した。術後血清AFP 値は721 ng/mL であった。多発肝転移に対しmFOLFOX6 を開始したが,AFP は9,521 ng/mLと著増しCT 上も肝転移の増大を認めた。second-lineとして著効例の報告のある肝動脈化学塞栓療法(TACE)を選択し2 コース施行したところ,AFPは130 ng/mL と著明に減少し肝転移の縮小を認めた。その後,AFPは再上昇し肝転移の増大と肺転移を認めた。予後規定因子は肝転移と判断しTACE 3 コース目を施行したが,病状は進行し肝不全のため術後9 か月で死亡した。本疾患は高率に肝転移を認めることから,肝転移の制御が予後改善の重要な因子であることは間違いない。確立した化学療法はないが,TACEが有効な治療法の選択肢の一つとなり得ることが示唆された。 -
直腸癌術後再発に対するBevacizumab投与中に発症した下部消化管出血の1 例
39巻4号(2012);View Description Hide Description進行・再発大腸癌において,bevacizumab(BV)併用化学療法は標準治療の一つとされているが,重篤な有害事象を合併することがあり緊急の対応を要することがある。今回,BV 併用化学療法中に高度の下部消化管出血を合併し,interventionalradiology(IVR)にて止血し得た1 例を経験した。症例は81 歳,男性。上部直腸癌術後,局所再発の診断で当科を紹介受診。切除困難のため双孔式人工肛門造設後,化学放射線療法を施行した。遺残腫瘍に対しXELOX+BV を施行したが,BV 初回投与後27 日目に多量の下血を認め,ショック状態で救急外来を受診となった。下部消化管内視鏡検査では腫瘍の縮小に伴う陥凹を認め,クリップによる閉鎖を行うも,その後も間欠的な出血によるショック症状を繰り返したため腹部血管造影を施行。陥凹部より口側に出血点を同定し,コイル塞栓を行い止血した。止血1 週間後の下部消化管内視鏡検査でも,陥凹部以外に異常所見を同定できず,BV による消化管出血が最も疑われた。BV 併用化学療法では投与回数にかかわらず,緊急止血を要する消化管出血を合併する可能性がある。内視鏡的止血が困難な場合にはIVRが有効であり,BV 併用化学療法を行う際には,IVRを含めた緊急処置の体制を構築しておく必要がある。 -
術前mFOLFOX6 療法が著効しPathological CR を得られた進行直腸癌の1 例
39巻4号(2012);View Description Hide Description症例は78 歳,女性。腹部膨満・便秘を主訴とし,肛門縁より12〜15 cm の全周性2 型直腸癌にて紹介受診。病理所見はadenocarcinoma(tub1+tub2)であった。CT 上T4 およびN2以上が疑われ,CEA高値であったため術前補助化学療法としてmFOLFOX6を計7 コース施行後,salvage surgery(低位前方切除D3)を施行した。切除検体では潰瘍形成を伴う組織球を含む慢性炎症細胞浸潤がみられ,線維化をSSまで認めた。viable cancer cell は認めず,pathological CR と判断した。mFOLFOX6は進行直腸癌に対する術前補助化学療法として有効と考えられた。 -
XELOX 療法が著効しPathological Complete Responseとなった巨大直腸癌の1 例
39巻4号(2012);View Description Hide Description症例は62 歳,男性。腸閉塞で入院し,直腸癌と診断された。入院翌日に緊急手術を施行,骨盤内を占める巨大な直腸癌は膀胱へ浸潤しており,根治切除不能と判断しS 状結腸人工肛門造設術を施行した。術後XELOX療法を4 コース施行した。CT で腫瘍径は著明に縮小(−46.1%)し,膀胱浸潤も認めなくなり,化学療法の効果判定はPR であった。化学療法終了後3 週間あけて低位前方切除術,一時的回腸人工肛門造設術を施行した。切除標本の病理組織学的検査は癌全体が消失しており,化学療法の効果はgrade 3,pathological complete response(pCR)となった。XELOX 療法はポートを必要とせず,外来で行いやすく術前化学療法に適している。切除不能局所進行癌の場合,奏効すれば根治切除かつ臓器温存が可能となり,pCR が得られれば予後改善も期待され,積極的に試みてよい治療と思われた。 -
放射線治療後S-1投与が奏効した多形癌の1 例
39巻4号(2012);View Description Hide Description肺多形癌はまれな疾患であり,治療抵抗性である。今回われわれは,プラチナ製剤に治療抵抗を示した肺多形癌にS-1 が奏効した1 例を報告する。症例は68 歳,男性。検診で胸部異常影を指摘され受診。気管支鏡検査で診断に至らず,胸部CT ガイド下経皮的肺針生検にてpleomorphic carcinoma の診断。病期分類はstage Ⅳa,T3N2M1a,化学療法cisplatin(CDDP)+docetaxel(DOC)を開始。2 コース後の評価はPD のため放射線治療後S-1 を開始し,縮小効果が得られたので報告する
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