癌と化学療法
Volume 39, Issue 5, 2012
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総説
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NASH における肝発癌
39巻5号(2012);View Description Hide Description近年,肥満人口の増加に伴いメタボリックシンドロームが増加している。メタボリックシンドロームの肝臓における表現型である脂肪肝は死に至る疾患ではないため,これまであまり注目されてこなかったが,近年非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)のなかでも慢性肝炎から肝硬変に至る非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)が増加し注目されている。慢性肝疾患の問題点は長期にわたり肝炎症が持続することで肝硬変になり,やがて肝不全に至ることである。しかし最大の問題は肝病態の進行に伴い肝発癌を来すことである。これまでの報告により,C 型慢性肝炎は病態が進展していくにつれ肝発癌率が上昇し,肝硬変に至った場合は年率約8%と高率に肝発癌を来すことが報告されている。一方,NASH からの肝発癌はこれまでにはっきりとした報告がなかったが,最近はNASH由来の肝硬変からも年率約2%肝発癌を来すとの報告がある。今後メタボリックシンドロームの増加に伴いNASHを背景とした肝発癌増加が予想され,本稿ではその疫学,性差,危険因子,病態について概説する。
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特集
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- 比較的まれながんの化学療法―私の勧める化学療法―
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超進行上咽頭癌に対する導入化学療法→化学放射線療法という治療戦略
39巻5号(2012);View Description Hide Description上咽頭癌は頭頸部原発の悪性腫瘍で,本邦では10 万人当たり1 人未満の発生率のまれな癌である。他の頭頸部癌に比べて放射線治療や化学療法に対する感受性が高く,その治療は放射線治療を中心に開発されてきた。現在,早期癌には放射線治療,進行癌には化学放射線治療を行うのが標準的である。進行癌のなかでもStage ⅣA,ⅣB,N2-3のかなり進行した症例は化学放射線治療を行っても制御困難な場合があった。このような進行例に対して1996〜2008 年まで我々は標準治療である化学放射線治療を行ってきた。治療成績を後方視的に調査したところ2 年生存率83%,完全奏効率68%の成績だった。さらなる治療成績の改善をめざし,われわれは2009 年よりdocetaxel(DOC),cisplatin(CDDP),S-1 の3 剤を併用した導入化学療法に続いてCDDP と放射線治療を同時併用する化学放射線治療を行う戦略をとっている。この戦略の治療成績は2年生存率95%,完全奏効率81%と著明に改善している。このように導入化学療法→化学放射線治療は非常に効果的な治療法であるといえるが,一方で毒性も強く出現するため実臨床で行う場合は適応の慎重な検討と十分なバックアップ体制が必要不可欠である。 -
胸腺癌に対する化学療法
39巻5号(2012);View Description Hide Description胸腺上皮性腫瘍は胸腺上皮から発生するまれな腫瘍であり,胸腺腫,胸腺癌,胸腺神経内分泌癌よりなる。胸腺癌および胸腺神経内分泌癌は胸腺腫よりも頻度はさらに少なく,前縦隔腫瘍の1〜4%程度である。このようなまれな腫瘍は「rarecancer(希少がん)」と呼ばれ,大規模臨床試験が実施できないため,化学療法を含めた標準的な臨床的管理の取り決めがない。進行期(Masaoka-Koga Stage Ⅳa/Ⅳb期)に対する緩和目的の化学療法は胸腺腫に準じ,cisplatin(CDDP)を基軸とした第二世代との多剤併用療法(ADOC療法,CAP 療法,VIP療法など)が行われてきた。しかし,EGFR やc-KIT といった細胞表面マーカーの発現の違いなど,生物学的背景が異なるため妥当性は低い。胸腺癌に限れば,CDDP と第三世代抗がん剤との併用化学療法(carboplatin/paclitaxel療法,CDDP/irinotecan療法)も多剤併用療法と同様の臨床的効果が期待され,毒性も少なく,有用な選択肢として考えられる。既治療例に対する化学療法についても定まったものはないが,単剤化学療法が適していると考えられる。近年は分子生物学的探索も行われているものの,有用な分子標的薬は研究中である。 -
GIST(消化管間質腫瘍)の化学療法
39巻5号(2012);View Description Hide Description本邦の実地臨床に即した,根拠に基づく診断・治療方針を構築することを目的に,独自のGIST診療ガイドライン(2010年11 月改訂,第2版補訂版)が公表されている。GIST の治療には,多領域にわたる集学的な治療(病理科,放射線科,外科,腫瘍内科医)を要する。薬物療法の適応は,初診時に転移を有し切除不能である場合,あるいは切除後転移再発を来しかつ切除不能である場合,そして,切除後の補助化学療法として選択される。現在日本で保険適応のある薬剤は,imatinib(グリベック®)およびsunitinib(スーテント)のみである。imatinib 400 mg/日投与が第一選択薬としての標準治療となる。さらに,imatinib耐性GISTに対してはsunitinibの投与が承認されている。一方,本邦では高用量imatinibは承認されていない。 -
肛門扁平上皮癌の治療―主に化学放射線療法について―
39巻5号(2012);View Description Hide Description米国National Comprehensive Cancer Network(NCCN)のガイドラインでは肛門平上皮癌の治療方針を肛門管癌と肛門辺縁癌に分けて述べている。T1,N0,高分化型癌の条件を満たす肛門辺縁癌では局所切除術が選択されるが,他の条件の腫瘍に対する欧米の標準治療は,現時点では放射線治療(総線量45〜59 Gy/25〜32 回)にmitomycin C(10 mg/m2,day 1,day 29に静注)と5-FU(1,000 mg/㎡day,day 1〜4,day 29〜32に持続静注)を併用した化学放射線治療(CRT)であり,CRT 後の癌遺残や再発例に対して腹会陰式直腸切断術が施行されている。遠隔転移例に対しては肛門病変に対する放射線療法に5-FU(1,000 mg/㎡ /day,day 1〜5に持続静注)とcisplatin(CDDP)(100 mg/m2,day 2 に静注)を4 週間ごとに繰り返す化学療法が推奨されている。本邦では腹会陰式直腸切断術が施行されることが多かったが,化学放射線治療の割合が増加することが予想される。今後,現在進行中の臨床試験によりCDDP を用いたCRT の位置付けの明確化や経口抗癌剤を使用した治療法の開発が期待される。 -
腹膜悪性中皮腫の化学療法
39巻5号(2012);View Description Hide Description腹膜悪性中皮腫は比較的まれな予後不良な疾患であり,標準治療が確立されていない。実臨床の現場では胸膜悪性中皮腫に準じて治療選択されることが多い。われわれは本邦で報告された症例の集積研究を行った。化学療法を選択した症例の生存期間中央値は12 か月,1 年生存率は47.3%であった。われわれの検討では白金製剤+代謝拮抗剤が有効であると思われた。従来,gemcitabine(GEM)+cisplatin(CDDP)療法が多く選択されてきた。その後,2007 年にpemetrexed(MTA)が胸膜悪性中皮腫に保険適応され,現在の標準治療はMTA+CDDP 療法である。しかしながら胸膜悪性中皮腫ではGEM+CDDP 療法とMTA+CDDP 療法の比較試験はされていない。今後,これらの比較試験を行う必要性がある。当センターでは腹膜悪性中皮腫の第一選択はMTA+CDDP 療法とし,第二選択はGEM+CDDP 療法としている。治療に際しては積極的にパロノセロトンおよびアプレピタントを使用すべきである。また腎機能低下症例にはcarboplatin(CBDCA)もCDDPの代替療法として有効であるが血液毒性に注意が必要である。 -
子宮肉腫に対する薬物療法
39巻5号(2012);View Description Hide Description子宮肉腫は子宮体部悪性腫瘍の8%と比較的まれで予後不良な疾患である。抗癌薬の奏効率も低く,確立された治療方法はないため,その役割は姑息的であることが多い。従来子宮肉腫は癌肉腫,平滑筋肉腫および内膜間質肉腫に分類されてきた。癌肉腫に対してはイホスファミド,シスプラチン,パクリタキセル単独投与の有効性が認められた。多剤併用療法としてはイホスファミド/シスプラチン併用療法がイホスファミド単独療法に対して無増悪生存期間の延長が認められたが,毒性の増強が問題となった。現在パクリタキセル/イホスファミド併用療法が生存期間延長効果の確認された唯一の治療法である。平滑筋肉腫についてはドキソルビシン,イホスファミド,ゲムシタビン単独投与の有効性が報告されている。多剤併用療法ではドセタキセル/ゲムシタビン併用療法の有効性について複数の報告が認められている。また,内膜間質肉腫のうち,高悪性度内膜間質肉腫(undifferentiated endometrial sarcoma)は平滑筋肉腫と同様の管理が推奨されているが,低悪性度内膜間質肉腫(endometrial stromal sarcoma)についてはプロゲスチンやアロマターゼ阻害薬といったホルモン療法が奏効する。 -
原発不明がんの治療
39巻5号(2012);View Description Hide Description原発不明がんは全悪性腫瘍の3〜5%を占め,まれな疾患ではないものの臨床的に不均一な集団であり,臨床試験の実施や結果の解釈が難しい疾患である。原発不明がんには,特定の治療が可能で,かつ比較的良好な予後が期待できるいくつかのサブグループが含まれる。このグループの臨床経過や治療反応性と予後は,原発が同定された従来の転移性腫瘍(乳癌や頭頸部癌など)と同等の成績であるとされる。よって正確な組織診断や病期決定からなる診断過程は重要である。一方で,原発不明がん患者の多くはこれらのサブグループに属さず,予後不良とされている。これらのグループの治療は,一般に組織型や病変の分布,臨床病期に応じて個別に実施されるが,一般に施行される白金製剤やタキサン製剤,その他の新世代殺細胞薬からなる併用療法の効果は大きいものではないとする報告もみられる。また近年では分子マーカーによる診断や分子標的治療薬による新規治療戦略の開発なども興味深く,今後の動向が注目される。
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Current Organ Topics:HematologicMalignancies/PediatricMalignancies血液・リンパ腫瘍新規薬剤を用いた造血器腫瘍の治療法の現況と展望
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原著
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進行・再発乳癌に対するドセタキセル,エピルビシン併用療法の多施設共同第Ⅱ相臨床試験
39巻5号(2012);View Description Hide Description進行・再発乳癌の初回治療例を対象にドセタキセル(DOC)60 mg/㎡,エピルビシン(EPI)60 mg/m2の併用化学療法を多施設共同で行い有効性と安全性を検討した。2002 年7 月〜2005 年7 月までに56 例が施行され,抗腫瘍効果はRECIST基準で39 例を,安全性の評価と生存解析は56 例を対象に行った。年齢中央値は53(32〜71)歳で進行乳癌86%,再発乳癌が14%。転移部位は骨54%,局所リンパ節43%,遠隔リンパ節34%,肺27%,肝23%で転移臓器数は3 か所以上が38%。ER+例は59%。投与コースの中央値は6 コース。用量強度はDOC 18.7 mg/㎡week,EPI 18.7 mg/m2week。相対用量強度はそれぞれ93.5%と93.3%であった。治療延期39%,減量が20%に認められた。臨床効果はCR 5%,PR 54%,SD 33%,PD 3%でORR(CR+PR)は59%,SD 以上の病勢コントロール率は92%。1 年次無増悪生存率は78.3%,1 年次全生存率91.9%であった。grade 3-4の有害事象は,好中球数減少82%,白血球数減少71%,発熱性好中球減少16%,食欲不振9%,貧血が7%。DOC とEPI の併用療法(各々60 mg/m2)は,高い奏効率と病勢コントロール率を有した忍容性の高いレジメンである。進行乳癌に対する一次治療の選択肢の一つとなり得る。 -
進行・再発乳癌に対するアロマターゼ阻害剤耐性後の二次ホルモン療法としての高用量トレミフェン治療の検討
39巻5号(2012);View Description Hide Description背景: ホルモン感受性を示す閉経後の進行・再発乳癌では,一次ホルモン療法としてアロマターゼ阻害剤(AI)が選択される場合が多いが,一次ホルモン療法耐性後の二次ホルモン療法以降の薬剤選択については,一定の見解が得られていない。対象と方法:当院において,ホルモン感受性を示す閉経後の進行・再発乳癌で,一次ホルモン療法としてAIを使用するも耐性となり,高用量トレミフェン(HD-TOR: 120 mg/日)を投与された5 例を対象とし,抗腫瘍効果および安全性を評価した。結果: 対象症例は全例ホルモン受容体陽性で,HER2 強陽性は1 例のみであり,一次ホルモン療法は全例アナストロゾール(ANA)を使用していた。抗腫瘍効果は全5 例中,部分奏効(PR)3 例,長期安定(L-SD)1 例,進行(PD)1 例で,全奏効率(RR)60.0%(3/5 例),臨床的有用率(CB)80.0%(4/5 例)であった。無増悪期間(TTP)中央値14.2 か月,全生存期間(OS)中央値は33.8か月であった。有害事象はgrade 1 の口内乾燥を1 例のみに認めた。結語:ホルモン感受性を有する閉経後の進行・再発乳癌においては,一次ホルモン療法のAIが耐性になった場合,HD-TOR療法が二次ホルモン療法としての有用性が高いことが示された。 -
下咽頭癌に対するS-1,VitaminA,放射線併用療法(TAR療法)の治療成績
39巻5号(2012);View Description Hide DescriptionS-1(TS-1),vitaminA(パルミチン酸レチノール)併用の化学放射線療法(TAR療法)の下咽頭癌治療,特に術前照射における役割(喉頭温存)について検討を行った。146 例の下咽頭癌症例(stage Ⅰ: 10 例,stage Ⅱ: 22 例,stage Ⅲ: 23例,stage Ⅳ: 91 例)を対象とした。TAR 療法はS-1 を放射線治療開始日より65 mg/m2を朝夕食後1 日2 回投与し,vita-minA 5 万IU/日筋注と同時併用で1.5〜2 Gy/日を週5 日,計30〜40 Gyを照射した。効果判定にて原発巣がCR,PR 例および手術不能・拒否例には60〜70 Gy の根治照射(±頸部郭清術)を,SD,PD 例および根治照射後の再発例には根治手術(咽喉食摘術,遊離空腸による再建術)を施行した。全体での5 年粗生存率は50.5%,5 年疾患特異的生存率は59%であった。3 年喉頭温存率は,stageⅠ: 100%,stageⅡ: 82.5%,stageⅢ: 66.6%,stageⅣ: 35.0%であり,T分類別にみるとT1/T2で81%,T3/T4で21.4%であった。S-1併用のCCRT の最大の利点は,副作用が少なく簡便であることがあげられる。しかしながら下咽頭癌に対する喉頭温存に関しては現時点ではT2N+症例が一つの限界であった。局所進行下咽頭癌症例の喉頭温存を目的とした場合より強度の強い化学放射線療法のプロトコールを検討する必要がある。反面,救済手術のリスク,患者のQOLも視野に入れた対応が重要である。 -
低用量マトリックス型フェンタニルパッチをオピオイド導入に用いた症例の検討
39巻5号(2012);View Description Hide Descriptionマトリックス型フェンタニルパッチは,従来のフェンタニルパッチの最小規格の半量に相当する新規格が追加になり,オピオイド導入の早期より使用が可能となった。これに伴い,様々な理由でマトリックス型フェンタニルパッチをオピオイド導入に用いる症例がみられるようになった。今回,マトリックス型フェンタニルパッチをオピオイド導入に用いた49 例を対象に,その有効性と安全性を検討した。face scale を用いた評価で,有効と判定した症例55%,無効と判定した症例37%,判定不能が8%であった。嘔気を認めた症例20%,眠気16%,怠感4%,呼吸抑制を認めた症例はなく,便秘は2%の症例で認めた。無効例は有効例に比較し,palliative prognostic indexが有意に高く,その予後も不良の傾向を認めた。その理由として終末期の症状変化に対して迅速な増量ができないことが一因と考えられた。したがって,マトリックス型フェンタニルパッチをオピオイド導入に用いる場合,比較的安全に使用できるものと考えられるが,終末期の症例では,他のオピオイドが使用できない場合に限って,適切かつ十分なレスキュー設定を行った上で使用すべきであると考えられた。 -
がん疼痛患者における複方オキシコドン注射液の使用状況に関する調査
39巻5号(2012);View Description Hide Description本邦で使用できるオキシコドン製剤には経口剤と他の成分が配合された複方注射剤がある。複方オキシコドン注射液パビナール®注はオキシコドン塩酸塩とヒドロコタルニン塩酸塩を含有する注射剤であり,実臨床ではオキシコドン単剤の注射剤と同等な薬剤として使用されている。複方オキシコドン注射液の承認されている投与方法は皮下投与のみであり,静脈内投与に関する文献報告はほとんどみられず,有効性や安全性の報告は少ない。そこで,がん疼痛患者における複方オキシコドン注射液の使用実態を調査し,静脈内投与の有効性と安全性を皮下投与と比較し検討することとした。2008 年4 月〜2011年9 月の間にがん疼痛患者に対して複方オキシコドン注射液が使用された症例を,診療録より後方視的に調査した。対象症例は245 例で,うち静脈内投与187例,皮下投与が58 例であった。オキシコドンの1 日最高投与量の平均は,静脈内投与218 mg,皮下投与で59 mgであった。複方オキシコドン注射液の投与開始理由は,経口投与不可能105 例,投与量調整56例,他剤効果不十分37 例,副作用軽減33 例であった。疼痛スコアnumeric rating scale(0〜10)の平均は,静脈内投与で投与開始前3.7,投与中1.8,皮下投与で投与開始前3.4,投与中1.2 であった。複方オキシコドン注射液投与による主な有害事象(静脈内投与,皮下投与)としては,便秘(37%,28%),嘔気(31%,34%),眠気(52%,50%)を認めた。複方オキシコドン注射液投与中の疼痛スコアの改善は両経路で同程度であり,主な有害事象の発現割合も同程度であったことから有効性と安全性に大きな違いはないと考えられる。経口オキシコドンとの変換比率は変更の理由により異なり,当院で目安としている比率(0.75)に対して開始後4 日以内に20〜40%程度の上乗せが必要であった。複方オキシコドン注射液は,投与量や輸液ルートの有無,投与開始の理由など個々の状態を考慮して使用することにより,がん疼痛治療に有効な薬剤であると考えられた。 -
エピルビシン投与による静脈炎に対するSub-Route法での軽減効果の検討
39巻5号(2012);View Description Hide Description乳癌治療に広く使用されているepirubicin hydrochloride(EPI)は静脈炎を多く発症する薬剤として知られ,時に重篤な静脈炎を呈することがある。EPI による重篤な静脈炎によるQOL の低下や,静脈炎の疼痛による治療レジメンの変更は乳癌患者に著しい不利益をもたらす。そこで当院の医師・看護師・薬剤師のチームによりEPIの静脈炎を予防する新たな投与方法を考案し,今回,従来の投与方法(EPI main-route法)と新たな方法(EPI sub-route法)における静脈炎の発生頻度およびその程度をvisual infusion phlebitis(VIP)スコアを用いて評価した。VIPスコアGrade 1 以上の静脈炎が発現した割合は,EPI main-route法群で14/15 例(93%),EPI sub-route法群で6/77例(7.8%)であり,EPI sub-route法群で有意に静脈炎の発現が抑制されていた。血管痛を伴う静脈炎により,FEC 療法を中止してレジメンを変更した患者の割合はEPI main-route法群で3/15 例(20%),EPI sub-route法群で0/77 例(0%)であり,EPI sub-route法群が有意に低かった。これは,EPIが前投与薬で希釈されpH が調整されたこと,投与時間が短縮されたこと,終了時に前投与薬でwash outされたことで血管内膜刺激を低減できたことが要因と考えられ,本研究のEPI sub-route法が有効である可能性が示唆された。 -
腎機能に基づいたカペシタビンの副作用評価
39巻5号(2012);View Description Hide Descriptionカペシタビンの血液毒性は軽減されているといわれているが,海外ではクレアチニン・クリアランス(Ccr)低下例で重篤な副作用の発現頻度が高く,75%減量投与が推奨されている。そこで今回,カペシタビン単独服用患者89 例(L 群: Ccr<50 mL/min 6 例,M群: 50 mL/min≦Ccr<80 mL/min 34 例,L 群: 80 mL/min≦Ccr 49 例)を対象として,血液毒性の発現頻度を調査した。副作用発現頻度は,L群6例(100%),M群30 例(88.2%),H群30 例(61.2%)であり,L 群で有意に高く,grade 2 以上の発現頻度はL群5例(83.3%),M群17 例(50.0%),H群18 例(36.7%)であり,腎機能低下例で高い傾向を示した。ヘモグロビン減少では,L群5例(83.3%),M群20 例(58.8%),H群12 例(24.5%),grade 2 以上ではL群5例(83.3%),M群7例(20.6%),H群5例(10.2%)であり,ともにL 群で有意に高かった。さらに,grade3 のヘモグロビン減少を発現すると改善しにくいことから,日本人においても腎機能を考慮して投与量を検討するとともに,薬剤師ならびに医師は積極的に副作用をモニタリングする必要性を示唆した。 -
ゲムシタビン塩酸塩による薬剤性肺障害の危険因子の解析
39巻5号(2012);View Description Hide Descriptionゲムシタビン塩酸塩は安全性が高いため外来でも投与可能で,用量規制因子である骨髄抑制はほとんどの症例で認められるが,軽度にとどまり特別な処置を必要としない。一方,薬剤性肺障害は添付文書記載の発現率と比較して高頻度に発現する可能性があり,時に致命的な状況となるため慎重な対応を要する。ゲムシタビン塩酸塩投与中に薬剤性肺障害を発現した症例の臨床的背景を調査,危険因子を明らかにすることで今後の治療に役立てることを目的に検討した。その結果,性別(男性),年齢(65 歳以上),喫煙歴あり,ファーストライン化学療法治療が,薬剤性肺障害発現に有意に関連する因子となった。抗悪性腫瘍剤の使用に当たって常に薬剤性肺障害の発生を念頭に置き,臨床経過,胸部画像,血液検査などを総合的に診察し,早期発見,早期該当薬剤中止,早期治療開始を行う必要がある。
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症例
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ペメトレキセド単独療法で長期生存が得られた肺癌多発脳転移の1 例
39巻5号(2012);View Description Hide Description症例は61 歳,女性。右肺腺癌,cT2N1M0の診断で2007 年7 月に右中葉切除+2 群リンパ節郭清術施行。pN2陽性にて術後化学療法としてカルボプラチン+パクリタキセルを施行した。その後,2008 年7 月に肺内再発を認め,first-lineとしてゲフィチニブを投与した。外来で経過観察していたが,2009 年3 月に味覚障害と頭痛が出現,造影CT にて多発脳転移を認め,全脳照射(3 Gy×10回: 計30Gy)施行。その後,performance status(PS)が化学療法可能なまで改善したため,secondline化学療法としてペメトレキセド単独療法を開始した。以後,外来化学療法に移行し,現在21コース継続中,無再発生存期間中である。ペメトレキセドは忍容性が高くQOL を保ちながら長期治療が可能であり,また脳転移に対して有効である可能性が示唆された。 -
迅速な集学的治療により長期生存が得られた致死的気管狭窄を伴った進行肺癌の1例
39巻5号(2012);View Description Hide Description症例は61歳,女性。他院にて気管分岐部周囲の腫瘤と気管の狭窄,および上大静脈の狭窄の精査中に呼吸困難と顔面浮腫の急激な増悪を認め,当科を受診。緊急的に硬性鏡下気管ステント留置術による気道確保を施行し,腫瘍生検を施行した。病理学的に未分化な非小細胞肺癌と診断された。シスプラチンとエトポシドによる全身化学療法と56 Gy の放射線療法を直ちに開始した。腫瘍は治療開始後に速やかに縮小した。気管ステント留置6 か月後に骨転移が出現し,ゲフィチニブを開始した。2 年10か月後にステントは抜去でき,気管ステント留置より6 年以上経過した現在,腫瘍の増大なく生存している。 -
間質性肺炎併存下に広範腹膜切除,腹腔内化学療法を施行し得た腹膜偽粘液腫の1 症例
39巻5号(2012);View Description Hide Description症例は62 歳,女性。膠原病に伴う間質性肺炎に対し20 年間,ステロイドと免疫抑制剤にて加療中であった。2 年前,CT で腹膜偽粘液腫と診断され,減量手術を施行されたが1 年後に再発した。腹部症状悪化のため,当科を受診した。Hugh-JonesⅡ〜Ⅲの呼吸機能障害と,CT で間質性肺炎,大量の腹腔内粘液性腫瘍を認めた。腹膜偽粘液腫の再発に対して,腹膜切除による腫瘍完全切除,cisplatin 50 mgによる腹腔内化学療法を施行した。手術時間は14 時間12 分,出血量は7,000 mLであった。術後,ステロイド補充療法を行い,間質性肺炎の急性増悪や他の重篤な合併症はみられなかった。術後3 年経過した現在,腫瘍再発やQOL の低下を来すことなく経過している。 -
Once-Weekly Bortezomib Plus Dexamethasone療法にて消化管有害事象を軽減し完全反応を得た多発性骨髄腫再発例
39巻5号(2012);View Description Hide Description多発性骨髄腫の74 歳,女性。MP療法でプラトーを得たが早期に再増悪した。twice-weekly BD 療法でgrade 3 の麻痺性イレウス,便秘が出現したが,3 コース目以後をonce-weekly BD 療法に変更したところ,消化管有害事象は軽減された。BD 療法は合計8 コース施行しcomplete responseが得られた。現在,BD 療法終了後2 年経過しているが再増悪はなく,化学療法なしで経過観察中である。once-weekly BD 療法は,治療効果を維持しながら消化管などの有害事象を軽減させる投与スケジュールとして有用であると考えられる。 -
びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫に対するR-CHOP 療法にPregabalinを併用し神経毒性の軽減をみた1 例
39巻5号(2012);View Description Hide Descriptionびまん性大細胞型B 細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma: DLBCL)に対するR-CHOP 療法では,vincristine(VCR)の神経毒性が用量規制因子の一つとなっている。一方,pregabalinは多くの国で糖尿病性末神経障害を伴う疼痛に対する第一選択薬になっている。今回われわれは,R-CHOP療法を施行したDLBCL 症例にpregabalinを使用し,VCRの有害作用である感覚性神経毒性の軽減をみた症例を経験した。症例は49 歳,男性。腎臓原発DLBCL(stage ⅡB)に対して,開腹根治的左腎摘除術およびリンパ節郭清術を施行した。術後,R-CHOP 療法が導入されたが,VCR によるCTCAE(v4.0)grade 3 の感覚性神経毒性の出現を認めたため,その軽減を目的に2 コース目のday 8 よりpregabalinを併用した。神経毒性の重症度は,pregabalinの投与後7 日目にはgrade 1 に軽快した。pregabalinの使用でVCR の感覚性神経毒性は軽減される可能性があり,今後同剤における臨床試験の必要があると考える。 -
S-1+Cisplatin 療法(SP 療法)が奏効した早期胃癌術後の播種性骨髄癌症の1 例
39巻5号(2012);View Description Hide Description胃癌播種性骨髄癌症は,高率に播種性血管内凝固症候群(DIC)を合併する。抗凝固薬や血小板輸血による治療効果は乏しく,予後は不良である。症例は50 歳,男性。10 年前に早期胃癌に対して幽門側胃切除術を施行された。切除標本の病理組織診断はpoorly differentiated adenocarcinoma,M,ly0,v0,pT1N0M0,stage ⅠA。術後の経過観察中に再発を認めなかったが,今回腰痛を主訴に受診し胃癌術後の播種性骨髄癌症と診断された。S-1+cisplatin(S-1 80 mg/body,po,day 1〜21 and cisplatin 50 mg/body,iv,day 8)の投与を行い,1 コース施行後にはDICから離脱し腰痛の改善を認めた。その後,化学療法を継続することで約9 か月の生存が得られた。播種性骨髄癌症に対する治療法は確立されていないが,S-1+cisplatinは有効な治療法の一つであると思われた。 -
CPT-11+CDDP 療法により長期の無増悪生存期間が得られた血液透析中の進行胃癌の1 例
39巻5号(2012);View Description Hide Descriptionわれわれは,肝転移を伴う胃癌(cT2N1P0H1M0)の血液透析(HD)患者に対しCDDP 血中濃度測定下でCPT-11+CDDP 療法を施行した。CPT-11はday 1 とday 14 に90 分で,CDDP はday 1 に2時間でそれぞれ点滴静注し,1 コース4週間とした。透析日は月曜日と金曜日で,金曜日をday 1 とした。1 コース目のCDDP 血中濃度測定で,抗腫瘍効果を示すfree-platinum(f-Pt)の血中濃度はHD 直後に測定限界値近くまで低下し,CDDP 投与終了24 時間後にはHD 直前の1/2 値まで再上昇した。15 コース目のtotal-platinumおよびf-Ptの血中濃度値は,1 コース目と比較して上昇しており,維持透析を継続したにもかかわらずCDDP の体内蓄積が示唆された。腫瘍マーカーは2 コース以降から低下し,以後12 か月を経てもstable disease の状態を保ち,18コース終了後にprogression diseaseと判定した。治療中に発現したgrade 3 以上の有害事象は白血球減少,好中球減少,血小板減少,貧血であったが,投与量の減量や輸血療法により管理できた。HD 併用下でCDDP を投与する場合には,変動するCDDP 血中濃度に注意する必要がある。血中濃度モニタリングを行い,患者個々の忍容性を検討しながら個別化治療を遂行することで,CPT-11+CDDP 療法がHD 患者に対する治療選択肢の一つになると考える。 -
S-1+Paclitaxel/Lentinan併用療法にて切除可能となった高度進行胃癌の1 例
39巻5号(2012);View Description Hide Description47 歳,男性。右頸部および傍大動脈リンパ節転移を伴う胃癌の診断にて紹介受診。治癒切除は不可能と判断し,S-1+paclitaxel/Lentinan による併用化学療法を3 コース施行した。治療後のPET-CT では頸部リンパ節と傍大動脈リンパ節のhot spotは認めず,治癒切除可能と判断しD3 郭清を伴う胃全摘術,Roux-en Y再建術を施行した。病理検査所見ではリンパ節転移は認めず,主腫瘍の効果判定はgrade 2 であった。今回の免疫化学療法は有害事象も認めず外来通院が可能であり,高度進行胃癌に対する治療としては有用であると考える。 -
画像上CR を得たが胃切除により癌遺残が確認された高度進行胃癌の1 例
39巻5号(2012);View Description Hide Description症例は72 歳,女性。肝門部リンパ節および腹部大動脈周囲リンパ節転移を伴った進行胃癌に対し,S-1/CDDP による化学療法を5 コース施行し,画像上CR を得た。患者は手術を希望せず化学療法継続を希望したため,さらに3 コースを施行した。再評価判定の画像検査にてCR は維持していたものの,胆嚢癌合併を疑われ胆嚢切除手術に併せて胃切除を行った。病理組織学的検査にて胆嚢は黄色肉芽腫性胆嚢炎(XGC)と診断され,胃原発巣粘膜下層の癌遺残が確認された。進行胃癌が化学療法でCR と判断された場合の手術治療について考察を加えた。 -
S-1/CDDP による化学療法が奏効したRhabdoid Gastric Cancer の1 例
39巻5号(2012);View Description Hide Descriptionrhabdoid cell を伴う胃癌は予後不良といわれ,現在までに報告された症例の半数以上は6 か月以内に死亡しており,有効な化学療法の報告例も認めていない。今回われわれはS-1/CDDP 療法が奏効し,治療開始から13 か月まで延命可能であったrhabdoid cell を伴うStageⅣ胃癌症例を経験したので報告する。症例は75 歳,男性。心窩部痛を主訴に来院。胃低分化腺癌T3,N3,H0,P0,M1(lym),cStageⅣと診断し,S-1/CDDP 療法を6 コース行い,6 か月目までは原発巣の著明な縮小と遠隔転移の消失を認めていた。8 か月目に原発巣の再増悪を認めたが,遠隔転移は消失したままであったため切除の適応と判断し,胃切除術を行った。切除標本の病理検査により,rhabdoid cells を伴う低分化腺癌と診断した。術後S-1/docetaxel療法を行ったが肝・腹膜転移を来し,治療開始から13 か月で原病死した。 -
原発性小腸癌に対しXELOX 療法が有効であった1 例
39巻5号(2012);View Description Hide Descriptionわれわれは多発腹膜転移を伴う小腸癌に対しXELOX療法が奏効した1 例を経験した。症例は58 歳,男性。多発性腹膜転移を伴った小腸癌に対し,XELOX 療法を開始し計4 コースを施行してPR となった。XELOX 療法が小腸癌に対する有効な治療法になる可能性が示唆された。 -
メシル酸イマチニブ投与により長期生存し得た小腸悪性GISTの異時性肝・肺転移の1 例
39巻5号(2012);View Description Hide Description症例は68 歳,男性。臍下部に腫瘤を触知し,当院外来を受診した。腹部CT にて左下腹部に約6 cm大の腫瘤を指摘され,開腹術を施行した。病理組織学的検査にて小腸GISTと診断した。術後2 年後の胸腹部CT にて左肺野に1 cm大の結節性病変と,肝S4/8 に3 cm 大,S6 に2.5 cm 大の低吸収域の腫瘍性病変を認めた。異時性肝・肺転移と診断し,メシル酸イマチニブの投与を開始した。その後,胸腹部CT にて大きさの著変なく新病変の出現もみられず,術後6 年間経過し得た。 -
大腸癌化学療法中に高アンモニア血症を合併した2 例
39巻5号(2012);View Description Hide Description大腸癌化学療法中に高アンモニア血症を合併した2 例を経験した。症例1: 69 歳,男性。膀胱浸潤を伴ったS 状結腸癌に対し骨盤内臓全摘術を施行後,術後補助化学療法としてSOX 療法を行っていた。3 コース目より全身á怠感,手指の振戦を訴え,高アンモニア血症による肝性脳症と診断された。症例2: 60 歳,女性。高度肝転移を伴う進行大腸癌に対して右半結腸切除を姑息的に行った後,全身化学療法としてmFOLFOX6 を施行したところ,昏睡状態に陥った。画像検査では器質的な異常は認めず,血中アンモニア濃度の高値を認めた。両症例ともに分枝鎖アミノ酸製剤投与により症状は改善した。大腸癌化学療法による高アンモニア血症はまれな合併症であるが,臨床的に重要な合併症であり注意が必要であると考える。 -
5-FU,L-OHP,CPT-11,3剤の治療歴を有する直腸癌肝転移切除後の残肝再発に対してCetuximab+S-1療法が著効した1 例
39巻5号(2012);View Description Hide Description切除不能進行・再発大腸癌に対する化学療法は,FOLFOX あるいはFOLFIRIを一次または二次治療で使用するのが一般的である。それにbevacizumabあるいはK-ras野生型に対してはcetuximab(Cmab)またはpanitumumab(Pmab)の分子標的治療薬を加えるのが主流となってきている。現時点での一般的な三次治療は,K-ras 野生型に限られるがCPT-11+CmabあるいはCmab/Pmab単独療法である。今回われわれは,5-FU,L-OHP,CPT-11,3 剤の治療歴を有するEGFR陽性,K-ras 遺伝子野生型の直腸癌残肝再発に対しcetuximab(Cmab)+S-1 併用療法を施行した。腫瘍マーカーは著明に低下し,7 か所の肝転移巣は6 コース治療後に消失(CR in),9 コース後にCR が確定した。10 コース施行後,肝S5 に新規病巣を認め,経皮的RFAを施行した。 -
進行再発膵癌に対する三次化学療法としてのCPT-11+CDDP 併用療法の治療経験
39巻5号(2012);View Description Hide Description進行再発膵癌2 例に対する三次化学療法としてCPT-11+CDDP 併用療法を行い,その安全性と有効性が示唆されたので報告する。CPT-11を60 mg/㎡day,CDDP を30 mg/m2day で隔週投与にて行った。2 例ともgrade 2 以上の有害事象は認めず,腫瘍マーカーの改善,画像上PR,SDの効果判定を認めた。進行再発膵癌に対する三次化学療法として,CPT-11+CDDP 併用療法が有用かつ安全に使用可能であることが示唆された。
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