癌と化学療法
Volume 39, Issue 6, 2012
Volumes & issues:
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総説
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EGFR阻害剤の耐性とその克服
39巻6号(2012);View Description Hide Description上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor: EGFR)チロシンキナーゼ阻害剤(tyrosine kinase inhibitor:TKI)がわが国で非小細胞肺がん患者に臨床応用されてから10 年が経過している。2004 年にEGFR遺伝子変異が発見され,この遺伝子変異を有する非小細胞肺がんに対しEGFR-TKIs は驚くことに70〜80%もの奏効率を認めることも明らかとなった。しかしながら,わが国で行われた臨床試験では,治療後約10 か月で約半数の症例は耐性を獲得して再発する。また遺伝子変異を認めながら効果のもたらされない自然耐性を示す患者も存在する。本稿では,これまでに集積されたEGFRTKI治療における自然耐性(一次耐性),獲得耐性(二次耐性)に関する知見に焦点を絞り,これらの分子機構と現在鋭意進められている耐性克服への試みについて紹介する。
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特集
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- 術前化学療法の新展開
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食道癌
39巻6号(2012);View Description Hide Description食道癌の術前治療は欧米では化学放射線療法が主役であるが,本邦では手術による局所性制御率が高いことから,また,周術期合併症回避の観点から,切除可能症例に関しては放射線療法を術前に適用する施設は少ない。JCOG9907 の結果を受け,術前化学療法にFP 療法を導入する施設が増加しており,今後標準治療となる可能性がある。しかしながら,術前化学療法の適応となる病期に関してはまだ論議が続けられそうである。そして,より局所性制御率の高いDCF レジメンが今後術前化学療法に導入される可能性が高く,本邦の諸施設よりその治療成績の報告がみられはじめた。 -
胃癌に対する術前補助化学療法―海外のEvidence と本邦における治療開発―
39巻6号(2012);View Description Hide Description手術で切除する範囲の外に転移した微小な癌を死滅させることを目的として行うのが補助化学療法である。海外で行われたPhase Ⅲの結果を考慮すると,強度の高い術前補助化学療法を数コース行うことはD2 を標準とする本邦においても期待できる。本邦では主にJCOG で治療開発が進められている。二つのJCOG のPhase Ⅱ試験結果からは,bulkyなリンパ節転移を有する胃癌に対する術前化学療法は有効であることが示されている。また,スキルス胃癌に対してはS-1+CDDPの有効性を検証するJCOG のPhase Ⅲ試験が進められている。JCOG 外では,術前化学療法のレジメンとコース数を比較する二つのランダム化Phase Ⅱ試験も進行中である。これらの試験結果から,今後の補助化学療法開発の方向性が示されると思われる。 -
大腸癌に対する術前化学療法
39巻6号(2012);View Description Hide Description消化器癌の根治的治療は未だに外科治療である。近年,化学療法や放射線療法は格段の進歩を遂げた。特に,大腸癌の化学療法はFOLFIRI,FOLFOX 療法らの多剤併用化学療法によって生存期間の延長をもたらした。さらに,分子標的薬の出現により治療効果の上乗せがもたらされた。しかし,治癒をもたらす治療は根治的切除であり,これを凌駕することはない。一方,手術治療のみでのこれ以上の生存率の向上も困難である。このため,切除不能・再発大腸癌で高い治療効果のある治療法を切除可能な症例へいかに応用できるかが課題となる。 -
乳癌
39巻6号(2012);View Description Hide Description術前化学療法は最初,局所進行乳癌の集学的治療の一部として確立された。これまでの多数の臨床試験の結果,手術可能乳癌にはアンスラサイクリン含有の術前化学療法の有用性が確立されてきた。それは大多数の臨床試験で術後補助療法と同等の生存率と乳房温存率の上昇を証明し,術前化学療法により病理学的完全奏効(pCR)になると生命予後がおしなべて改善することが示された。そしてタキサンが臨床試験に導入されpCR 率の向上が認められた。しかし,術前のアンスラサイクリンにタキサンを追加しても有意に生存率を延長させることには成功していない。本稿では,これまでのneoadjuvant chemotherapy(NAC)の問題点とレジメンの新展開について述べ,以前のNACの根本を揺るがすかもしれないNACの新たなコンセプトについても概説する。 -
卵巣癌
39巻6号(2012);View Description Hide Description進行卵巣癌に対する現在の標準治療は初回腫瘍縮小手術(PDS)と術後化学療法であり,PDS で残存腫瘍1 cm 未満のoptimal手術が達成できれば予後の改善が期待できる。術前化学療法(NAC)は,全身状態不良の症例や明らかに切除不能な腫瘍を有する症例に対して,標準治療の代替治療として行われてきた。その後方視的検討や無作為ではない比較試験により,NAC および中間期手術(IDS)からなる治療は,進行例や全身状態不良例を対象としているにもかかわらず,標準治療施行例と遜色ない治療成績が示された。2 本のメタアナライシスの報告でも,NAC療法は進行卵巣癌の治療成績を損なうものではないことが示された。現在までに,NAC 療法と標準治療を比較する第Ⅲ相比較試験が少なくとも4 本行われており,最初の試験であるEuropean Organization for Research and Treatment of Cancer(EORTC)の試験結果は2010 年に発表された。結果,NAC療法では標準治療と遜色のない治療成績(生存期間中央値30 か月と29 か月)と手術関連の有害事象が低頻度であることが示された。今後,他の第Ⅲ相試験により同様の結果が再現されれば,NAC療法は進行卵巣癌の標準治療あるいは標準治療の一つの有効な選択肢となることが期待される。
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Current Organ Topics:Central Nervous System Tumor 脳腫瘍 中枢神経系原発悪性リンパ腫
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原著
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幽門狭窄を伴う切除不能胃癌におけるS-1療法導入のための胃空腸吻合術の有用性
39巻6号(2012);View Description Hide DescriptionS-1を用いた化学療法を導入する目的で胃空腸吻合術を施行した幽門狭窄を伴う切除不能胃癌症例14 例を対象とし,胃空腸吻合術の有用性について検討した。患者の年齢中央値は64(43〜81)歳で,全例が他臓器浸潤により切除不能であった。胃空腸吻合術の合併症は2 例(14.7%)で,手術関連死亡は認められなかった。経口摂取,化学療法開始時期の中央値はそれぞれ術後4 日,31 日であった。全例で経口摂取開始直後より固形物の摂取が可能となり,6か月以上経口摂取状況の有意な改善が認められた。化学療法の奏効率は41.7%で,全生存期間中央値は12.3 か月であった。胃空腸吻合術はS-1 を用いた化学療法を可能にするのみならず経口摂取を可能にし,患者のQOL を改善できるという点からも有用な治療手段の一つであると考えられた。 -
心機能に基づいたトラスツズマブの投与プロトコール
39巻6号(2012);View Description Hide Descriptionトラスツズマブにより心機能が低下した7 例の乳癌患者を検討した。左室駆出率(ejection fraction: EF)をMモード心エコー法にて求めた。7 例の臨床経過とトラスツズマブに関する文献から,われわれはEF に基づいたトラスツズマブの投与プロトコールを提案する。EF が60%以上なら3 か月ごとに心エコー法を行う。53%以上60%未満なら2 か月ごとに行う。53%未満ならより頻回に行う。もし,EF が前と比較して10%以上低下したら3 週間後に心エコー法を行う。そして,EFが45%未満に低下したらトラスツズマブを中止する。40%未満に低下したら一般的な心不全治療を開始する。中止後は2 週間ごとに心エコー法を行う。EFが50%以上に回復したら本剤の投与を再開してもよい。 -
中下咽頭扁平上皮癌に対する化学放射線同時併用療法の検討
39巻6号(2012);View Description Hide Description2000年1 月〜2008年12 月までの9 年間に,中下咽頭扁平上皮癌に対し化学放射線同時併用療法(CRT)を行った53症例の治療成績について検討した。原発巣は中咽頭21 例と下咽頭32 例で,放射線治療は1 例を除く52 例で休止なく70 Gyを完遂した。グレード3 以上の有害事象発生率は,粘膜炎49.1%,白血球減少43.4%であり,治療前後で平均4.1 kg の体重減少を認めた。2 コース目の化学療法は,30 例で有害事象のため施行不能であった。観察期間中央値30.0 か月での進行中下咽頭癌全症例の粗生存率は,3 年で53.0%,5 年で46.4%であった。2 コース目の化学療法が可能であった群で,5 年生存率は67.0%と未施行群の32.8%に比べ高かった。有害事象の発生を最小限に抑え,2 コース目の化学療法の施行率を上げることが本治療の成績向上に重要と考えられた。 -
Pemetrexed投与時の非ステロイド性抗炎症剤併用による有害事象発現頻度への影響
39巻6号(2012);View Description Hide Descriptionペメトレキセドは葉酸代謝拮抗剤であり,悪性胸膜中皮腫や非小細胞肺癌,特に非扁平上皮癌に対して有効性が示されている。ペメトレキセドは,非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)と相互作用があることが報告されている。今回われわれは,ペメトレキセド投与時にNSAIDs の投与の有無での有害事象の発現頻度を比較解析した。血液毒性について,Grade 3以上の重篤な有害事象の発現頻度の有意差は認めなかった。非血液毒性についてGrade 2 以上の重篤な有害事象は,NSAIDs 併用群において血清クレアチニン値上昇の発現頻度が有意に高かった(p=0.018)。その他の有害事象の発現頻度について有意差は認めなかった。Grade 2 以上の血清クレアチニン値上昇の発現は,NSAIDs 併用群のほうが有意に早期に発現し,その中央値は12.7コースであった(p=0.0063)。本研究より,NSAIDs投与下にペメトレキセドを継続していくと腎機能障害の発現が起こりやすいことが示唆された。ペメトレキセドとNSAIDsを使用する場合は,定期的な検査により腎機能障害などの有害事象に注意する必要がある。 -
中等度催吐性がん化学療法を施行した外来患者におけるアプレピタントの制吐効果およびQOL への影響
39巻6号(2012);View Description Hide Description中等度催吐性がん化学療法(moderately emetogenic chemotherapy: MEC)を施行した外来患者に対するアプレピタント(aprepitant: APR)の制吐効果および生活の質(quality of life: QOL)への影響を検討した。APR導入前(2010年2〜4月)14 例を対照群,APR導入後(2010年5〜9月)30 例をAPR群とした。対照群は1 日目にセロトニン受容体拮抗薬(5-HT3受容体拮抗薬)とデキサメタゾンによる制吐治療を行い,APR群は1 日目に上記2 剤にAPR 125 mgを追加し,2〜3 日目にAPR 80 mgを投与した。APR群は対照群に比べ,全期間(0〜96 h),急性期(0〜24 h)および遅発期(24〜96 h)の「嘔吐なし」,「悪心なし」の患者割合,全期間と遅発期の「食欲不振なし」の患者割合を有意に増加させた。また,FunctionalLiving Index-Emesis(FLIE)問診票を用いたQOL評価でも,全期間の「悪心・嘔吐」による「日常生活に影響なし」患者を有意に増加させ,障害の程度も有意に軽減していた。外来でMECを受ける患者では,悪心・嘔吐,食欲不振,QOL障害が多くの患者に潜在しており,APRを含む3 剤併用療法により症状軽減とQOL 改善効果が得られる可能性が示唆された。
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特別寄稿
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がんの骨病変に対するBone Managementの重要性―多発性骨髄腫,泌尿器癌(腎癌,前立腺癌),肺癌,乳癌におけるBisphosphonate の位置付け―
39巻6号(2012);View Description Hide Description
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症例
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多発骨転移疼痛に対し塩化ストロンチウム-89(Sr-89)が有効であった甲状腺髄様癌の1 例
39巻6号(2012);View Description Hide Description症例は70 歳,男性。甲状腺髄様癌stageⅣ(多発骨転移)に対し甲状腺全摘およびリンパ節郭清を施行。多発骨転移による疼痛があり,外照射およびオピオイドの投与を行うも疼痛緩和を得られなかった。そこで,限局した強い痛みに対しては放射線外照射を,多部位の疼痛に対しては塩化ストロンチウム-89(Sr-89)を使い分けて併用することで長期間の疼痛緩和効果が得られた。患者のQOL を改善し得る全身的な疼痛緩和に有用であったと考えられる。約1 年間の経過で計4 回のSr-89投与を行ったが,副作用として骨髄抑制は生じなかった。甲状腺癌は骨転移が多く,また長い経過をたどることから,Sr-89は疼痛緩和の有効な手段であり得ると考える。 -
器質化肺炎パターンを呈したS-1による薬剤性肺障害の1 例
39巻6号(2012);View Description Hide Description症例は76 歳,男性。胃癌のため当院外科で胃切除術を施行した。進行胃癌であったためCDDP+S-1 を6 コース投与,以降はS-1単剤投与が行われた。胸部に多発する陰影を認めたため当科へ紹介され精査を行った。肺生検の結果は器質化肺炎の病理像であった。S-1に対するリンパ球刺激試験(DLST)では陽性であったこと,S-1 休薬後に胸部陰影は自然軽快したことから,S-1 による薬剤性肺障害と診断した。近年S-1 による薬剤性肺障害の報告は増加しているが,それらは主にびまん性の間質性肺炎である。本症例は,器質化肺炎像を呈した点が興味深いので報告した。 -
CisplatinとDegradable Starch Microspheresを用いた肝動注化学療法がブドウ膜悪性黒色腫肝転移に有効であった1 例
39巻6号(2012);View Description Hide Description症例は37 歳,男性。近医でブドウ膜悪性黒色腫の眼球摘出術後,多発肝転移が出現し当院紹介。肝転移巣が予後規定因子と考えられたためcisplatinを用いた肝動脈化学塞栓療法を施行したが,主病巣である尾状葉の病変の栄養動脈が複数の微細血管であったため,初回治療で塞栓物質として使用したゼラチンスポンジ細片は腫瘍血管への分布が不良であった。そこで,次治療以降では塞栓物質として微小デンプン球製剤を使用し,尾状葉の病変への薬剤分布が改善することで良好な抗腫瘍効果を得ることができた。 -
肝細胞癌門脈腫瘍浸潤にソラフェニブが有効であった1 例
39巻6号(2012);View Description Hide Description症例は73 歳,男性。2004年6 月に肝S8 の肝細胞癌(HCC)に対し経皮的ラジオ波焼灼術(P-RFA)を施行,以後多部位再発を繰り返し肝動脈化学塞栓療法(TACE)を計5 回行った。2010 年1 月に肝左葉のHCC から門脈臍部に進展する腫瘍栓を認め,シスプラチン(CDDP)を用いた肝動注療法を1 月,6 月と2 回行った。肝左葉の主病変は縮小し腫瘍マーカーも低下したものの,門脈腫瘍栓は本幹〜右枝にまで進展したため,7 月よりソラフェニブ内服を開始した。ソラフェニブ投与開始2 か月後の腹部CT では,主病変は著明に縮小し腫瘍栓は左枝内に後退していた。腫瘍栓の消失には至っていないものの,ソラフェニブ内服開始より9 か月経過した現在もその縮小効果は持続している。ソラフェニブ投与が門脈腫瘍栓に対し有効であった1 例を経験したので報告する。 -
直腸癌術後多発肝転移再発,門脈腫瘍塞栓に対し三次治療としてPanitumumabが著効した1 例
39巻6号(2012);View Description Hide Description症例は64 歳,男性。下部直腸癌に対し直腸切断術,D3郭清を施行。最終診断はrectal cancer,Rb,75×45 mm,tub2,a,ly1,v3,N1,H0,P0,M0,StageⅢa,根治度Aであった。術後より経口剤のUFT /LV 療法を行っていた。術後6か月後のフォローアップCT で門脈腫瘍塞栓と切除不能多発肝転移再発を認めたため,mFOLFOX6 を開始した。mFOLFOX6を18 回終了後に転移巣の増悪を認め,二次治療としてbevacizumab+FOLFIRI を施行するも7 回終了後に転移巣の増悪を認めた。次に三次治療としてpanitumumab+FOLFIRI に変更したところ,6 回施行後のフォローアップCTで門脈腫瘍塞栓の消失と肝転移巣の縮小を認めた。現在,再発後2 年が経過し生存中である。今回われわれは,三次治療としてpanitumumabを上乗せした化学療法を行うことで多発肝転移が著明に改善した症例を経験したので報告する。 -
S-1/Docetaxel併用療法が奏効した腹膜播種を伴う進行胃癌の1 例
39巻6号(2012);View Description Hide Description症例は69 歳,男性。腹膜転移を伴う3 型胃癌に対してS-1/docetaxel療法を施行した。4コース施行後,軽度効果があったがnon CR,non PD であった。Grade 2 の食欲不振を認めたため減量し,さらに4コース施行したところ著明な改善を認め,画像上CR となった。根治手術を勧めたが,化学療法継続を希望された。初回治療から2 年経過した現在もCR を保ちながら外来にて治療継続中である。S-1/docetaxel 併用療法は外来での施行が可能であり,QOL を保ちながら施行できるレジメンと考えられた。 -
S-1単独療法で5 年8か月の長期生存が得られた切除不能進行胃癌の1 例
39巻6号(2012);View Description Hide Description症例は74 歳,女性。近医で施行された腹部超音波検査で多発肝転移が疑われたため当院を紹介受診した。上部消化管内視鏡検査で胃体部癌を認め,腹部CT 検査で多発肝転移を認めた。5-FU+CDDP 療法(FP 療法)を開始したが,有害事象のため継続困難であり,S-1単独療法に変更した。21 か月後の腹部CT 検査で肝転移は消失し,CR となった。その後,S-1 単独療法を継続し,投与開始から気管支拡張症(bronchiectasis: BE)で死亡するまで5 年8か月の長期生存が得られた。 -
肝転移再発後,減量手術および低用量Imatinib投与にて長期生存が得られている十二指腸GISTの1例
39巻6号(2012);View Description Hide Description十二指腸gastrointestinal stromal tumor(GIST)の異時性両葉多発肝転移に対し,肝切除および低用量imatinib投与によって長期無増悪生存中の症例を経験したので報告する。症例は56 歳,女性。下腹部痛で初診し,経膣エコー,CT,MRIで骨盤内に中心壊死を伴う9.7 cm の充実性腫瘍を認めた。開腹すると十二指腸水平部より壁外発育した腫瘍であり,病理診断はKIT 陽性CD34 陰性のGIST であった。2 年後の定期検査で両葉多発肝転移を認め,拡大肝右葉切除および外側区域部分切除による減量手術後,2 週目よりimatinib 400 mg/day 投与を開始したが,有害事象により2 週間で中断した。術後1か月目のMRIで残肝内に三つの転移巣を確認し,術後2 か月目からimatinib 200 mg/day 投与を再開した。8 年経過する現在も無増悪生存中である。減量手術,300 mg/day未満のimatinib投与は推奨されていないが,腫瘍の薬剤高感受性に加え,治療開始時の腫瘍量減量が低用量imatinibによる長期腫瘍制御に寄与した可能性が考えられる。 -
血液透析患者の再発大腸癌にFOLFIRI+Bevacizumab療法を施行した1 例
39巻6号(2012);View Description Hide Description血液透析患者における化学療法は薬物動態が不安定であり,その安全性は確立されていない。今回われわれは,血液透析中の再発大腸癌患者に対しFOLFIRI+bevacizumab 療法を行い,腫瘍制御が可能であった症例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する。症例は47 歳の女性で,37 歳時より慢性腎不全のため血液透析が導入された。45歳時,直腸癌(pStage Ⅱ)に対して,当科で腹会陰式直腸切断術を施行した。術後4 か月目に肝再発を認めたため,肝切除術が施行された。肝切除後の補助化学療法としてUFT(400 mg/body)/UZEL(75 mg/body)療法を行った。肝切除後1 年6か月目に両肺野に多発肺転移を認めたため,FOLFIRI(CPT-11: 90 mg/m2)+bevacizumab(2.5 mg/m2)療法を外来で開始した。grade 3 以上の有害事象として好中球数減少を認めたが,下痢などの非血液毒性やbevacizumab 関連の有害事象は認めなかった。好中球数減少が遷延したため,投与量の調整を行い有害事象の改善に努めた。投与ペースは4 週1回程度となったが,8コース投与後の奏効度はstable diseaseであった。血液透析患者では,投与量を適宜調節して有害事象の改善に努め,休薬することなく治療を継続することが重要と考える。 -
Bevacizumab/FOLFOX6療法にて組織学的CRが得られた多発肺・肝転移,左水腎症を伴うStage Ⅳ進行S状結腸癌の1例
39巻6号(2012);View Description Hide Description症例は61 歳,女性。食欲不振,全身倦怠感を主訴に近医を受診した。精査目的に当科紹介となった。精査の結果,S状結腸癌および多発肺・肝転移,左水腎症と診断した。根治手術は不可能と判断し,bevacizumab/FOLFOX6(2 週間ごと点滴投与)による化学療法を行った。6 コース施行後の大腸内視鏡検査では,腫瘍は著明に縮小し瘢痕化していた。CTでは,肺・肝転移は消失には至らないものの著明に縮小していた。S 状結腸切除術を施行し,切除標本では腫瘍細胞は認めなかった。術後経過良好にて術後第13 病日目に軽快退院した。その後bevacizumab/XELOX による化学療法へ変更し,現在まで4か月外来通院継続中である。進行結腸癌に対する術前化学療法で組織学的CR 例はまれであり,切除不能・進行結腸癌に対してbevacizumab/FOLFOX6 は有用な選択肢であると考える。 -
腹膜播種を伴う進行結腸癌にmFOLFOX6 療法が奏効し切除し得た1 例
39巻6号(2012);View Description Hide Description症例は50 歳,女性。上行結腸癌,リンパ節転移,両側卵巣転移,癌性腹膜炎,癌性胸膜炎の診断で当科に紹介された。手術適応はなく,mFOLFOX6療法を開始した。画像上,胸腹水はしだいに減少し消失した。原発巣および転移巣の縮小も認めた。9 コース後,右半結腸切除術D3,子宮全摘術,両側付属器切除術を施行した。組織学的効果判定はgrade 2 であった。術後も化学療法を継続し,診断後28か月生存した。 -
UFT/Leucovorin内服にて同時性肺転移が消失した直腸癌の1 例
39巻6号(2012);View Description Hide Descriptiontegafur-uracil(UFT)/Leucovorin(LV)内服療法は切除不能・進行大腸癌に対する標準的化学療法の一つである。今回われわれは,UFT/LV 内服療法による直腸癌肺転移の完全消失が組織学的に確認された症例を経験したので報告する。症例は56歳,男性。下部直腸癌の診断にて当科を受診,入院時の胸部CT にて両側肺転移を指摘された。低位前方切除術による原発巣切除の後,UFT/LV 内服療法を2 コース行い,胸部CT 再検にて腫瘍の縮小を認めた。腫瘍の完全切除の目的にて,鏡視下に両側の肺部分切除を行い,病理組織学的に腫瘍細胞の完全消失を認めた。以後,外来にてUFT/LV 内服を3 か月,UFT 単剤内服を1 年間行い,術後4 年,無再発生存中である。UFT/LV 内服療法は,切除可能な遠隔転移を有する大腸癌症例において,安全性,有用性の点から選択肢の一つとなり得るものと考える。 -
XELOX+Bevacizumab療法と放射線療法により病理学的CR を得た局所進行直腸癌の1 例
39巻6号(2012);View Description Hide Description症例は70 歳,男性。便秘を主訴に当院を受診した。術前検査で肛門縁よりすぐの全周性の直腸癌と診断され,前立腺および骨盤壁への浸潤が疑われた。S 状結腸人工肛門造設術後,放射線療法(合計40 Gy)とXELOX+bevacizumab療法を6 コース施行した。放射線化学療法後,腫瘍は著明に縮小したため超低位前方切除,肛門直腸吻合術を施行した。病理検査で病理学的CR が確認された。XELOX+bevacizumab療法および放射線療法は,局所進行直腸癌に対してdown stagingや機能温存手術を可能とする有用な治療方法と考えられた。 -
Letrozoleが奏効した皮膚潰瘍を伴う高齢者局所進行乳癌の1 例
39巻6号(2012);View Description Hide Description症例は84 歳,女性。右乳房に2.5 cm大の皮膚潰瘍を伴う腫瘤を認めた。画像上は遠隔転移を認めず,cT4bN2aM0,stage ⅢBの乳癌と診断した。組織診ではinvasive ductal carcinoma,nuclear GradeⅠ,ER(allred-score 8),PgR(allred-score 0),HER2(0)であった。化学療法・手術ともに同意を得られず,letrozoleによる内分泌療法を選択した。治療1年後には腫瘍は1.5 cmに縮小,皮膚潰瘍は完全に消失した。治療2 年後現在,腫瘍は1.7 cm と若干増大したが,皮膚潰瘍は消失のままである。高齢者の局所進行乳癌では,内分泌療法単独も治療の選択肢となる可能性が考えられた。 -
多発肺転移を有するPerformance Status不良右乳癌患者に対してTrastuzumabにより長期にわたり病勢コントロールが可能であった1 例
39巻6号(2012);View Description Hide Description症例は60 歳,女性。55 歳時に脊髄小脳失調症と診断され,進行する神経症状のためperformance status(PS)2〜3 の状態。来院時右乳房に皮膚浸潤を伴う4 cm大の腫瘤および右腋窩リンパ節腫大を認め,乳腺針生検にて浸潤性乳管癌・硬癌(ER 中等度陽性,HER2 2+,遺伝子増幅あり)と診断。造影CT 検査にて両側肺野に最大1 cm大の結節影を計6 個認め,また骨シンチグラフィにて右坐骨転移を認めた。脊髄小脳失調症にてPS 不良であることを考慮しanastrozole によるホルモン療法で治療を開始したが,原発巣・肺転移巣ともPD のためtrastuzumab 投与を追加したところ原発病変は引き続きPD の状態であり,肺転移巣は縮小傾向でSD の状態となった。その後capecitabineも追加投与しSDを維持したが,治療開始後18 か月目よりPD となり,最終的に多発肺転移による呼吸不全により治療開始後33 か月目に永眠された。病理解剖の所見では,原発巣のHER2 発現量スコアが1+に対して肺転移巣では2+であり,原発巣と肺転移巣の間でHER2 発現量の差を認めた。本例のように原発巣と予後を決定する転移巣の間でHER2 発現量の差を認める場合にtrastuzumab の薬剤効果が期待できる場合があり,PS 不良例でもADL を維持しつつ30 か月以上病勢コントロールが可能であった症例として価値があると考えられた。 -
PTX+CBDCA 併用療法を術前投与した卵巣癌合併乳癌の1 例
39巻6号(2012);View Description Hide Description症例は62 歳,女性。卵巣腫瘍の精査中に左乳癌(ホルモン陽性・HER2陰性)を指摘された。卵巣腫瘍の手術を先行した結果,卵巣癌の診断となり術後のアジュバントとして化学療法とリンパ節郭清が必要と判断された。乳癌の治療は卵巣癌の治療が終了してから開始の予定とし,センチネルリンパ節生検を施行後に引き続きPTX およびCBDCA のTC 療法を6 コース乳癌の治療前に施行した。センチネルリンパ節には転移を認めなかった。TC 療法により乳癌についてはclinical PRの奏効が得られ乳房部分切除を施行した。本邦ではCBDCAの乳癌に対する投与例が少なく,かつ術前投与された症例の報告も少ない。CBDCA はホルモン陽性・HER2陰性乳癌においても有効である可能性がある。
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