癌と化学療法
Volume 39, Issue 7, 2012
Volumes & issues:
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総説
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リン酸化プロテオミクスとがん治療・診断
39巻7号(2012);View Description Hide Description蛋白質の代表的翻訳後修飾の一つであるリン酸化はプロテインキナーゼおよびホスファターゼにより可逆的に制御され,様々な細胞内シグナル伝達パスウェイを通じて細胞機能を幅広く制御している。これらのシグナルはがんをはじめとする様々な疾病とも密接に関係しており,特にリン酸化異常が,がんの発症や進行の直接の原因となる場合も多い。細胞内の蛋白質リン酸化修飾の状態を網羅的に解析するリン酸化プロテオミクスの登場により,シグナル伝達ネットワーク全体の動きを見極めることが可能となりつつある。本稿では発展著しいリン酸化プロテオミクスの最前線を概説するとともに,がん分子標的創薬・治療および診断への可能性について述べる。
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特集
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- ロボット技術のがん医療への応用
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手術支援ロボットを用いた前立腺癌手術
39巻7号(2012);View Description Hide Descriptionロボット支援下根治的前立腺摘除術は,従来の開放手術や腹腔鏡手術双方の利点を有し,欠点を補い,癌根治性,機能温存,周術期合併症において満足な成績が得られ,ここ10 年ほどで限局性前立腺癌に対するゴールドスタンダードな手術法になろうとしている。さらなる問題としては,コストや触角の欠如があげられる。 -
消化器がんにおけるロボット支援手術
39巻7号(2012);View Description Hide Descriptionダヴィンチ手術システム(da Vinci Surgical System: DVSS)によるロボット支援手術は,本邦でも急速に認知されつつある。2012 年4 月から前立腺全摘において内視鏡下手術用ロボット支援加算が保険収載された。藤田保健衛生大学では,2009 年にDVSS の導入後2012 年4 月までに347 件のロボット支援手術を行ってきた。そのうち,消化器領域の手術が204例と高い比率を占めている。特に,上部消化管外科ではロボット胃切除111 例,ロボット食道切除26 例と積極的にロボット支援手術に取り組んでいる。その結果,手術の定型化が進み,通常の内視鏡手術に対してロボット支援手術は出血量が少なく,術後入院期間が短いなどの低侵襲性が明らかになりつつある。また,食道切除においては,反回神経周囲リンパ節郭清における神経愛護的な効果も確認された。DVSS は高額医療であるが,消化器がんの治療においてDVSS の有用性をさらに検討する必要性が示唆された。消化器がん領域でも高精度・低侵襲なロボット支援手術の発展が期待される。 -
力触覚を伝える技術の開発
39巻7号(2012);View Description Hide Description今後,難度の高い手術や介護・福祉において重要となる力触覚フィードバック技術について,その原理と実装を紹介する。これまでの力覚センサーを搭載した制御方法では,安定性と性能が二律背反であると考えられ,その実現が難しいとされていた。われわれは加速度に着目したバイラテラル制御をモード空間に写像する新しい制御方式を考案し,6 自由度アームに開発した3 自由度ロボット鉗子を取り付け,実装実験を行い高い性能を得た。 -
類似症例検索システム―画像診断支援ロボットの開発とその実用性,将来展望―
39巻7号(2012);View Description Hide Description近年の画像診断技術は単純X 線写真,CT,MRI,PET と多岐にわたり,またPACS の普及に伴って放射線診断医の働く環境が大きく変わってきている。すなわち,様々な機器からの画像量が飛躍的に増加しており,その結果,日本では不足している放射線診断医の業務量も増加,危機的な状況に直面している。さらに,機器や撮影方法が多様化,複雑化している現状では,一般医や研修医にとっても十分な画像診断の知識を得ることがより困難になっている。一方,放射線診断医に対する診断支援システムとして,従来からコンピュータ支援診断システムと検出支援システムが提案されている。今回われわれは,構造化されたレポートが付属した肺結節のCT画像の過去症例データベースを用いて,新たな症例の診断に際し,類似症例を自動的に提示することをとおして,診断支援とレポート作成支援ができる新しいコンセプトの画像診断支援ロボットを開発したので紹介する。 -
医療・福祉への先端技術の応用
39巻7号(2012);View Description Hide Description「ジャパンシンドローム」という言葉がメディアをにぎわせている。高齢化が人類史上かつてない高いレベルに達した日本では,在宅介護分野から医療分野に至る様々な問題を解決するための手段としてロボット技術に寄せられる期待は大きい。すでに世の中に普及した産業用ロボットは,ある隔離された環境において硬くて既知の特性をもつ物を対象に特化した作業をすることで大成功を収めた。それと比較し,医療・福祉分野においては環境は常に複雑に変化し,また対象物の人には個体差が存在することが多く,形状や各種特性も変化しやすい。さらに,ロボットには人との直接的なインタラクションが求められる機会が多く,ロボットと人の関係は状況に応じて柔軟に接触すべき関係になり,接触を回避すべき関係にもなる。高齢者とロボット,ロボットと実環境という直接的なインタラクションが求められる生活支援ロボット。また,医師とロボット,ロボットと患者の身体という直接的なインタラクションが求められる手術支援ロボット。いずれも人間とロボットの知的関係の確立が共通の技術課題として取り組みが急がれる。われわれのグループでは,これまでに環境の変化や個体差など複雑な問題に対応した様々なロボットを開発してきた。介護やリハビリテーションを支援するロボットには,特に直観的な操作性と個人個人の残存能力に適応したアシスト方法の追求が求められる。一方で,手術などを支援する医療ロボットには,術者が有する知識,経験則を力学的な定量的数値として置き換えロボットを制御することが求められる。本報では,われわれのこれまでの取り組みについて,具体的な工学的技術論を織り交ぜながら数例の開発事例を紹介する。
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Current Organ Topics:Head and Neck Cancer 頭頸部腫瘍
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原著
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進行肝細胞癌に対するSorafenib治療成績の体格による影響の検討
39巻7号(2012);View Description Hide Description背景:進行肝細胞癌に対するsorafenib 治療は,国内外の第Ⅰ相試験において800 mg 投与についての安全性が確認されているものの,本邦の実臨床においては有害事象が多く報告されている。特に体格が小さい症例において,推奨用量で開始すべきかは議論の余地があると思われる。目的: 進行肝細胞癌に対してsorafenib を推奨用量にて開始した際,体格により治療成績が異なるかを検討する。方法: 2009 年7 月〜2010 年6 月までに神奈川県下4 施設(Kanagawa Liver Study Group)でsorafenib よる治療を開始した進行肝細胞癌患者のうち,800 mg/日で治療開始され,かつ体表面積が評価可能であった64 例を対象とし,体表面積1.6 m2未満とそれ以上の2 群に分けて,両群の治療成績を後ろ向きに比較・検討した(平均観察期間5.9 か月)。治療開始以後は,有害事象に応じて適宜減量・休薬した。結果: 両群間の比較を行うと,1.6 m2未満の群が有意に高齢であり,Child-Pugh 5 点の割合が有意に少なかったが,その他の背景については有意差を認めなかった。また,1.6m2未満/1.6 m2以上の群でそれぞれ,Grade 3 以上の有害事象発生割合64.3%/55.3%,有害事象による中止38.5%/24.2%,総投与量33,111 mg/63,146 mg であり,1.6 m2未満の群で忍容性が低い傾向であった。抗腫瘍効果はRECIST による病勢制御率33.3%/37.8%,画像上の無増悪期間(TTRP)2.1 か月/3.6 か月,生存期間中央値6.6 か月/11.2 か月であり,TTRPは1.6 m2未満の群で有意に短かった(p=0.003)。TTRP に影響を及ぼす因子の検討では,PS 1 以上,1.6 m2未満であることが予後不良因子として抽出された。結論: 進行肝細胞癌におけるsorafenib 治療を推奨用量で開始した場合,体表面積が小さい症例では忍容性が低く,予後不良であると考えられた。 -
進行・再発乳癌に対する高用量Toremifeneの有効性の検討
39巻7号(2012);View Description Hide Description近年,術後補助療法あるいは再発治療としてアロマターゼ阻害剤(AI)が多くの症例に使用されている。本研究では,直前治療としてAI が使用された12 例を含む,進行・再発乳癌患者18 例を対象にtoremifene の高用量投与(HD-TOR)の有効性と安全性を検討した。clinical benefit 率は56%(PR 28%,long SD 28%),無増悪生存期間中央値は5.5 か月であった。有害事象はいずれも軽度であり,忍容性は良好であった。HD-TOR は,AI 耐性乳癌の二次治療以降の選択肢の一つとして,より早い段階から検討されるべきと考えられる。 -
炎症性乳癌に対するEpirubicin・Docetaxel(ET)併用療法による術前化学療法の多施設共同試験
39巻7号(2012);View Description Hide Description炎症性乳癌に対する術前化学療法として,転移性乳癌に対する強力な化学療法の一つであるepirubicin・docetaxel(ET)併用療法の有効性と安全性を検討した。19 人の患者が登録され,病変の進行がなければET(60,60 mg/m2)療法を3 週毎4 コース行い,適応となる症例には手術を施行した。17 例がET 療法を完遂したが,1 例は皮膚のびまん性発赤を認めず,不適格症例として解析より除外した。血液毒性は,Grade 3 以上の好中球減少15 例(79%),発熱性好中球減少症8 例(42%),貧血が3 例(16%)であった。発熱性好中球減少症を呈した症例のうち6 例(63%)はG-CSF の投与を受けたが,発熱性好中球減少症の出現はすべて1 コースのみで,感染症の併発はなかった。Grade 3 以上の非血液毒性は,便秘3 例,嘔気2 例,食欲不振2 例,倦怠感1 例,嘔吐1 例,下痢1 例,胃炎が1 例であった。16 例(89%)の患者に予定コースが完遂できた。投与コース中央値は4(2〜4)コースであった。臨床的奏効率44%で,無増悪期間中央値9 か月,全生存期間中央値は26 か月であった。炎症性乳癌に対する術前化学療法として,ET 療法の有効性と忍容性が確認された。 -
転移再発乳癌9例に対するNab-Paclitaxelの治療経験
39巻7号(2012);View Description Hide Description9 例の転移再発乳癌に対してnab-paclitaxel の投与を行った。nab-paclitaxel は3 週ごと投与で,治療サイクル数の中央値4(1〜8)。総投与量の中央値775(260〜2,000)mg/m2,dose intensity の中央値は66.7(58.3〜86.7)mg/m2/weekであった。その治療効果はCR 1 例,PR 2 例,SD 1 例,PD 4 例という結果で奏効率は33%であった。1例についてはgrade 3の末梢神経障害により治療が中断された。PD症例は2〜4 サイクルの後レジメンを変更し全例生存中である。有害事象では好中球減少を6 例(grade 3 以上4 例)に認めたが,発熱性好中球減少症はなかった。末梢神経障害を3 例(grade 3 以上1例)に認めた。その他grade 3 以上の副作用は肝機能障害1 例に,筋肉痛を1 例に認めるのみであった。grade3 の末梢神経障害で治療を中断した症例を除き,いずれも重大な副作用なく休薬などでコントロールは良好であった。またtrastuzumabとの併用においても安全に治療が可能であった。以上より,転移再発乳癌に対してnab-paclitaxel は安全に投与でき,生存期間の延長に寄与できる可能性があると考えられた。 -
Modified OPTIMOX1+Bevacizumabによる術前化学療法を施行した高度進行直腸癌9 例の検討
39巻7号(2012);View Description Hide Description根治手術が困難な高度進行直腸癌9 例に対し,近年施行した術前化学療法の有効性および安全性を評価した。中心静脈ポートを挿入後,modified OPTIMOX1(mFOLFOX6 とsLV5FU2 の交代投与)+bevacizumab による術前化学療法を施行した。化学療法は1 コースから最長21 コース施行(中央値10 コース)。術式は内括約筋合併直腸切除術(ISR)4 例,超低位前方切除術(vLAR)2 例,骨盤内臓全摘術(TPE)1 例,後方骨盤内臓摘出術(後方PE)1 例,ハルトマン手術1 例で一期的肝切除1 例,二期的肝臓,副腎切除1 例であった。RM1 を2 例に認めたが,他は組織学的にも根治手術が施行された。組織学的治療効果はgrade x/1a/1b/2 が1/4/2/2 例であった。術後観察期間の中央値650(356〜874)日において,鼠径リンパ節再発1 例,局所再発2 例,多発肝転移2 例と計5 例に再発を認めている。高度進行直腸癌に対するmOPTIMOX1+bevacizumab による術前化学療法は,根治切除および肛門温存に有用である可能性が示唆された。 -
ゾレドロン酸の投与量調査と腎機能状態による有害事象発現の検討
39巻7号(2012);View Description Hide Descriptionゾレドロン酸(ZA)は,腎機能障害のリスクからクレアチニン・クリアランス(Ccr)が60 mL/min 未満の患者への投与を考慮し,AUC に基づいた計算により投与量が設定され,推奨されている。しかし,計算により定められており,臨床試験が行われていないため有用性に疑問が残る。また,Ccr は尿細管からのクレアチニン分泌により実際のGFR より高い値を示すことが報告されており,腎機能を適切に評価できない可能性がある。日本腎臓学会は日本人の腎機能評価にeGFR の使用を推奨していることから,Ccr およびeGFR を用いて,ZA 投与前の腎機能状態と有害事象発現の関連性についてレトロスペクティブに調査した。投与状況調査の結果,Ccr が60 mL/min 未満の患者で3 名は投与量を調節されており,44 名は調節されていなかった。3 コース投与期間での臨床検査値の有害事象発現状況の比較では,非推奨投与量群でBUN 上昇,K低下を多く認めたが,全体的な有害事象発現に差はなかった。また,Ccr およびeGFR に基づく腎機能評価を用いて腎機能低下度別に有害事象の発現状況を検討した結果,全体的な有害事象発現についてCcr,eGFR ともに差を認めなかった。以上のことから,3 コース投与期間でのZA 投与による有害事象発現は投与前腎機能に依存しない可能性が示唆された。
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特別寄稿
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シイタケ菌糸体エキスの肝保護効果
39巻7号(2012);View Description Hide Descriptionシイタケ菌糸体抽出物(Lentinula edodes mycelia: LEM)は糖質,蛋白質,フェノール性化合物,リグニン分解物を含み,様々な生理作用を有している。LEM はコンカナバリンAやD-ガラクトサミン誘発実験的急性肝障害動物に対して肝保護効果を示した。また,四塩化炭素を長期投与したマウスに対しては肝線維化抑制および抗炎症作用を有していた。LEMに含まれるフェノール性化合物であるバニリン酸,シリンガ酸がLEM と同様に急性,慢性肝障害を抑制し,低分子量リグニンも肝細胞保護効果を示すことを明らかとした。LEM は抗酸化活性,抗炎症作用を有する有効成分が含まれ,薬物治療時の副作用軽減,持続的炎症から肝がんへの進行を抑制する効果が期待できる。
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症例
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非血縁者間同種骨髄移植後に乳房の腫瘤形成で再発した急性リンパ性白血病
39巻7号(2012);View Description Hide Description症例は28 歳,女性。急性リンパ性白血病(ALL)。第二寛解期に非血縁者間同種骨髄移植施行。寛解を維持していたが,移植後23 か月後に右乳房再発。骨髄検査では,完全ドナー型で寛解を維持していた。ALL の髄外再発(乳房)と診断した。再寛解導入療法を施行し第三寛解期に2 回目の非血縁者間同種骨髄移植を施行したが,合併症で亡くなった。ALL の中枢神経系(CNS),リンパ節,脾臓,肝臓,性腺以外の髄外病変はまれであり,診断時,もしくは再発時のALL の乳房浸潤もまれである。同種造血幹細胞移植後の成人白血病の髄外再発は再発した症例の約50%にみられ,CNS が最も多く乳房はまれである。再発後様々な治療が試みられているが,推奨されるものは定まっていない。移植後乳房に再発したALL はまれであり,症例の蓄積が求められる。 -
低用量S-1単独療法が奏効した超高齢者の進展口腔癌の3 例
39巻7号(2012);View Description Hide Description超高齢者口腔癌患者に対し,低用量S-1 単独投与によりQOL を改善した症例を経験したので報告する。症例1 は90歳,女性。上顎歯肉癌T4N0Mx。全身疾患も多く,家族も根治的治療は希望しなかったため,S-1(40 mg/m2)を2 週投与1 週休薬で投与開始した。副作用も認めず腫瘍が縮小したため,50 mg/m2に増量した。現在外来にて腫瘍は縮小傾向にあり担癌生存中である。症例2 は96 歳,女性。下顎歯肉癌T4N0Mx。重篤な全身疾患は認めなかったが,高齢のため家族は姑息的治療を希望した。S-1(40 mg/m2)を開始したところ著効し,2 週投与1 週休薬のペースで投与したが,2 コースを終了した時点でCR となった。現在外来にて経過観察中だが再発の兆候はない。症例3 は94 歳,女性。上顎歯肉癌T3N0M0。家族は手術を希望しなかったため,S-1(50 mg/m2)2 週投与1 週休薬の投与を開始した。投与後から腫瘍の縮小を認め,大きな副作用もなく3 か月間5 コース投与したが,そのころから腫瘍が再び増大傾向を認めた。8 コースS-1 の投与を終了した時点で全身状態を考慮し,S-1 は中止した。超高齢者の進行口腔癌に対し,低用量S-1 の単独投与でも効果が得られ,QOL を維持,改善することができ有用で安全な治療法であると考えられた。 -
術前化学療法により組織型が変化した乳腺扁平上皮癌の1 例
39巻7号(2012);View Description Hide Description今回われわれは,術前化学療法により組織型が腺癌から扁平上皮癌に変化したと考えられる1 例を経験したので報告する。症例は66 歳,女性。左乳房腫瘤を主訴に受診。マンモグラフィでカテゴリー5,CT で左乳腺CDE 領域に40 mm大の腫瘤と左腋窩リンパ節の腫大を認めた。本人より乳房温存の希望があり,core needle biopsy を施行し,充実腺管癌cT2cN1cM0,cStage ⅡB と診断された。術前化学療法としてCEF×4 コース,paclitaxel×3 コースの投与を施行したが,腫瘍増大傾向を認め,胸筋温存左乳房切除術+腋窩リンパ節郭清を施行した。切除標本では腫瘤は60 mm 大の嚢胞性腫瘍であり,病理組織学的に低分化扁平上皮癌pT3pN0pM0,pStage ⅡB と診断された。術後6 か月で左腋窩リンパ節に再発を来し,放射線療法,抗癌剤療法を施行したが脳転移のため術後6 年で死亡した。 -
HER2 陽性乳癌脳転移に伴う水頭症に対してVP シャントおよびLapatinib+apecitabine療法が奏効した1 例
39巻7号(2012);View Description Hide DescriptionHER2 陽性乳癌では,trastuzumab 投与により,原発巣,肝肺転移が制御できても脳転移を来すことがある。今回われわれは,脳転移に伴う水頭症に対しVP シャントを施行,症状を改善し,lapatinib+capecitabine 療法が著効し,QOL を改善できた症例を経験したので報告する。高度の頭痛,嘔吐を伴う脳転移症例に対してもVP シャントは侵襲が少なく,高い症状緩和効果が見込まれる。さらにHER2 陽性乳癌では,lapatinib など脳転移に対する直接的抗癌剤治療の有効性が報告されている。HER2 陽性乳癌脳転移に伴う水頭症では,VP シャントにより症状を緩和し,lapatinib+capecitabine 療法を継続することによりQOL を維持し得ると考えられた。 -
食道小細胞癌に対して放射線併用化学療法が有効であった1 例
39巻7号(2012);View Description Hide Description食道小細胞癌,多発肝転移病巣を有する60 歳台,男性に対してFP 療法(CDDP 40 mg/m2をday 1,8,5-FU 400mg/m2をday 1〜5,8〜12)と食道病巣への放射線療法(50 Gy)を施行したところ,食道,肝転移病巣は化学療法5 コース後に画像上消失した。治療開始13 か月に肝転移が再発し死亡したが,原発病巣の再発による食道閉塞,気管浸潤などは認めず,ADL の低下は認めなかった。食道小細胞癌に対して放射線療法の併用が有効である可能性が考えられた。 -
First-LineにS-1+Docetaxel,Second-LineにIrinotecan+Cisplatin療法を行い2 年間以上腹水がコントロールできた胃癌の癌性腹膜炎の1 例
39巻7号(2012);View Description Hide Description癌性腹膜炎を伴う切除不能な進行胃癌に対し,first-line としてS-1+docetaxel(TXT),second-line としてirinotecan(CPT-11)+cisplatin(CDDP)併用療法を行い長期生存を得られた症例を報告する。症例は66 歳,男性。胃癌の腹膜播種による腹水貯留と閉塞性黄疸を来した症例で閉塞性黄疸に対する減黄処置後,2008 年2 月よりS-1(80 mg/m2 2 週投与1週休薬)とTXT(40 mg/m2)をday 1 に投与する化学療法を開始した。腹水は3 コース終了ごろより消失し,2009 年6 月まで投与。腹水再燃のため,7 月よりCPT-11(60 mg/m2)とCDDP(30 mg/m2)による化学療法(隔週投与)に変更し,2 コースで腹水は再び消失し2010 年2 月まで投与できた。切除不能腹膜播種性胃癌に対するfirst-line としてのS-1+TXT,そのsecond-line としてのCPT-11+CDDP 併用療法はQOL を維持したまま外来化学療法可能なレジメンであり,有力な選択肢になり得ると考えられた。 -
大腸癌の標準的化学療法(FOLFOX)が著効した早期胃癌の1 例
39巻7号(2012);View Description Hide Descriptionわれわれは,進行上行結腸癌(cStage Ⅳ: cT3N1H3)と早期胃癌(cStage 0: cTisN0M0)の併発患者に対し結腸癌の治療レジメンであるmFOLFOX6 を用いて化学療法を行い,mFOLFOX6 レジメンの胃癌に対する効果を評価した。患者は食思不振を主訴に来院した72 歳,女性。上部・下部内視鏡で早期胃癌および進行上行結腸癌,CTで多発肝転移と診断した。化学療法としてmFOLFOX6 レジメンを6 か月間で10コース施行した。化学療法により腫瘍マーカー値(CEA,CA19-9)は著明に低下し,大腸癌に対しては有効(PR)と診断した。治療6 コース終了後の上部消化管内視鏡検査では病理組織学的にcomplete response(CR)が得られ,胃癌に対してもmFOLFOX6 レジメンは有効であったと考えられた。 -
Second-LineとしてのS-1+Biweekly Paclitaxel療法により比較的長期の生存が得られた切除不能進行胃癌の1 例
39巻7号(2012);View Description Hide Description今回われわれは,second-line としてのS-1+biweekly paclitaxel 療法により比較的長期の生存が得られた切除不能進行胃癌の1 例を経験したので文献的考察を加えて報告する。症例は59 歳,男性。胃角部後壁に3 型印環細胞癌を認め,手術を施行したが腹膜播種のため単開腹となった。術後S-1+CDDP 療法を開始したが2 コース終了後にGrade 2 の黄疸が出現したため,second-line としてS-1+biweekly paclitaxel 療法を開始した。重篤な有害事象もなく,およそ2 年1 か月間にわたり計14 コースが施行された。生存期間は初診時より2 年8 か月であった。本療法は腹膜播種患者に有効であり,有害事象も少なく患者QOLを保ちながら長期間継続可能であることより,今後second-line 以降の選択すべきレジメンの一つと考えられた。 -
S-1/Paclitaxel併用化学療法が奏効し長期生存が得られている胃癌肝転移の1 例
39巻7号(2012);View Description Hide Description症例は54 歳,男性。早期胃癌に対し2002 年9 月に幽門側胃切除術を施行した。6 か月後のCT で肝転移が出現し肝部分切除術を施行,その後再発予防目的で5-FU の肝動注化学療法を施行したが2003 年10 月のCT で多発肝転移が出現した。5-FU/CDDP 併用肝動注化学療法を行ったが肝転移が増悪したため,2004 年2 月よりS-1/paclitaxel 併用全身化学療法を開始した。その後stable disease が長期間継続し,最終的に2009 年8 月まで計67 コース施行した。その後S-1 単剤投与に変更したが肝転移の増悪を認めず,2010 年8 月に化学療法を中止した。現在外来で経過観察中であるが病状の悪化を認めていない。 -
Bevacizumab+Levofolinate+5-FU が著効した大腸内分泌細胞癌の1 例
39巻7号(2012);View Description Hide Description症例は76 歳,女性。2007 年2 月ごろより下痢,体重減少が出現し当院を受診した。CT で腹腔内腫瘤を認め,精査を行ったが確定診断がつかず,診断的治療として4 月に手術を施行した。腫瘍は横行結腸原発と考えられ他臓器に浸潤しており,横行結腸切除術に回腸部分切除,膀胱部分切除,腹膜部分切除を追加した。病理組織診断は大腸内分泌細胞癌であった。5 月よりFOLFOX4 を3 コース施行したが,6 月のCT で骨盤右側に再発巣を認め,8 月に右側結腸切除術,右卵巣摘出術を行った。9 月のCT で右骨盤部に再々発を認めたが,bevacizumab+levofolinate+5-FU を開始し再々発巣は消失した。以後,2010 年8 月まで同化学療法を継続し,画像上CR となっている。大腸内分泌細胞癌は予後不良とされているが,今回われわれはbevacizumab+levofolinate+5-FU が著効した大腸内分泌癌の1 例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。 -
三次治療Panitumumab単剤投与で腫瘍縮小を認め切除可能になった直腸癌多発肝転移の1 例
39巻7号(2012);View Description Hide Description症例は67 歳,男性。切除不能多発肝転移を伴う直腸癌に対し,低位前方切除術後に化学療法を導入した。mFOLFOX6 を10 コースおよびsLV5FU2 を14 コース施行時点で肝切除可能と判断し,肝拡大後区域切除および外側区域切除+S4 部分切除,中肝静脈合併切除再建を予定し,経皮経肝的門脈枝塞栓術を行った。しかし,手術待機中に肝転移巣再増大のため,根治切除不能と判断し手術を断念した。二次治療のFOLFIRI もPD となり,三次治療としてpanitumumab 単剤を導入した。5 コース施行後には肝転移の著明な縮小を認め,肝拡大後区域切除およびS4 部分切除を行った。術中は切離面からの止血に極めて難渋したが,術後経過は良好であった。三次治療としてのpanitumumab 単剤で肝転移が切除可能になった症例の報告は未だなく,また一次治療から三次治療後の肝切除まで多岐にわたる問題点や反省点を含む貴重な症例と考えられたので報告する。 -
腹膜播種を伴う横行結腸粘液癌に対してPanitumumabを併用したFOLFOX4 療法を中心とした集学的治療が奏効した1 例
39巻7号(2012);View Description Hide Description症例は63 歳,女性。腹部膨満感,嘔吐を主訴に2010 年5 月当院を受診し,穿孔性腹膜炎と診断され緊急手術となった。術中所見は高度の腹膜播種を伴った横行結腸癌であったため,原発巣は非切除とし,洗浄ドレナージおよび横行結腸人工肛門造設術とした。病理組織学的検査へ提出した一部の大網は粘液癌の大網播種で,Kras 遺伝子野生型であった。panitumumabを上乗せしたFOLFOX4 療法を術後1 か月より全17 コースを施行し,有害事象としてはgrade3 の好中球減少やgrade 2 の皮膚障害がみられた。血清CEA 値は5.5 ng/mL まで低下した。腹部CT 上では原発巣の腫瘍径は著変なく,非常に厳しい症例であったものの状態は安定しており,治療開始から1 年後の現在も化学療法を継続中である。腹膜播種を伴う結腸粘液癌に対して,panitumumab を併用したFOLFOX4 療法を中心とした集学的治療が有用であった1 例を経験した。 -
血液透析患者に対しテガフール・ウラシル/ホリナートカルシウム療法が有効であったStageⅣ結腸癌の1 例
39巻7号(2012);View Description Hide Description患者は糖尿病による慢性腎不全に対して血液透析中の61 歳,男性。スクリーニング目的に行われた腹部CT で,肝S8 に8×7 cm,S6 に5×4 cm の腫瘤をはじめ,多数の肝腫瘤を認めた。下部消化管内視鏡で上行結腸に2 型腫瘍を認めたため,大腸癌,多発肝転移と診断し,透析中の出血予防目的に腹腔鏡補助下右結腸切除術およびD2 リンパ節郭清を施行した。肝転移巣に対して,術後17 日目よりUFT(300 mg/日),ユーゼル(75 mg/日)の内服を開始した。3 コース終了後には肝S8 が4×3.5 cm,肝S6 が2.5×2.5 cm と肝転移巣の縮小を認めた。7 コース終了までの約9 か月間,重篤な副作用なく化学療法を施行し得たが,肝転移巣増大のため二次治療としてCPT-11,セツキシマブを現在投与中である。 -
肝動注化学療法により切除し得た細胆管細胞癌の1 例
39巻7号(2012);View Description Hide Description症例は78 歳,男性。前立腺癌のフォローアップの際に行われた腹部CT で肝に腫瘍性病変を指摘され,当科を紹介された。C 型肝炎ウイルスマーカーは陽性で,精査で肝S4/S8 にCTHA で濃染され,CTAP でwash out される直径8 cm の腫瘍を認めた。腫瘍は右肝静脈・中肝静脈根部への浸潤が認められた。肝生検で胆管細胞癌(cholangiocellular carcinoma)または細胆管細胞癌(cholangiolocellular carcinoma)と診断された。まずgemcitabine とcisplatin による肝動注化学療法を行ったところ,腫瘍は直径6 cm にまで縮小し,右肝静脈への浸潤が消失したため,化学療法開始から3か月後に肝中央2 区域切除術を施行した。病理組織検査は,cholangiolocellular carcinoma,T2N0M0,StageⅡであった。化学療法の効果が目立つ壊死領域が全体の約50%を占めており,化学療法が奏効したと考えられた。現在術後3 か月で無再発生存中である。
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