癌と化学療法
Volume 40, Issue 2, 2013
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総説
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アイソトープ内用療法(内照射療法)の進むべき方向
40巻2号(2013);View Description Hide Description放射性医薬品による選択的病巣集積を利用した治療を,アイソトープ内用療法(内照射療法)という。甲状腺分化癌に対する放射性ヨウ素内用療法などの既存の内照射療法のニーズは徐々に高まりをみせ,現在,新規内用療法製剤の導入が図られている。本稿では,現在行われている内用療法の今後の方向性,現状の問題点・解決策などを概観する。
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特集
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- 家族性腫瘍に関する新知見
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遺伝カウンセリング―四国がんセンターの遺伝性腫瘍への取り組みと今後の展望―
40巻2号(2013);View Description Hide Descriptionがん領域における分子遺伝学の発展とともに,遺伝性腫瘍への臨床応用も進んでいくことが予想される。しかし,遺伝カウンセリングを含む本領域の診療が日本で普及しているとはいい難いのが現状である。四国がんセンターでは,2000 年11 月に家族性腫瘍相談室が開設された。遺伝性腫瘍の診療に複数の診療科がかかわっていること,家族性腫瘍相談室のメンバーが多職種から構成されること,2009年から遺伝カウンセラーが加わり役割を担っていることが特色としてあげられる。遺伝性腫瘍の診療はがんの一般診療と独立して行われるものではなく,がん患者にかかわるすべての医療専門職と連携を取りながら進められることが求められている。当院では,乳腺外科,消化器外科・消化器内科,婦人科の医師をはじめとした各部署と協力しながら高リスク患者を拾い上げ,患者およびその血縁者の継続的なフォローアップとリスク低減治療をめざしている。ここでは当院の診療体制を例に,遺伝性腫瘍診療の全体的な流れと各要素を紹介する。日本における遺伝性腫瘍の遺伝カウンセリングのあり方や今後の発展について考察する一助となれば幸いである。 -
Lynch症候群の新しい原因遺伝子異常―EPCAM遺伝子欠損―
40巻2号(2013);View Description Hide DescriptionLynch syndrome(Lynch 症候群)は,遺伝性非ポリポーシス大腸癌(hereditary non-polyposis colorectal cancer:HNPCC)とも呼ばれ,家族性大腸腺腫症(familial adenomatous polyposis: FAP)と並ぶ代表的な遺伝性大腸癌である。その定義は,ミスマッチ修復(mismatch repair: MMR)系の異常を背景とする常染色体優性遺伝形式の癌症候群であり,その原因としてMLH1,MSH2,MSH6,PMS2の4 種のMMR遺伝子の生殖細胞変異germline mutationが知られていた。以前からこれらMMR 遺伝子のメチル化による不活性化などが報告され,epigenetic な異常による新たな発癌機構として注目されたが,近年,MSH2 遺伝子の不活性化の原因としてMSH2 遺伝子の上流に位置するepithelial cell adhesion molecule(EPCAM)遺伝子の部分欠損の存在が明らかとなり,本疾患の遺伝子診断や遺伝カウンセリングに際しても留意する必要がある。本稿では,Lynch 症候群における新しい原因遺伝子異常として近年注目されているこのEPCAM 遺伝子欠損について,その報告の経緯や臨床的意義などの概略を紹介することにする。 -
Li-Fraumeni症候群の新知見
40巻2号(2013);View Description Hide DescriptionLi-Fraumeni 症候群(LFS)は常染色体優性遺伝形式を取る家族性腫瘍症候群の一つである。診断基準はすでに定義され,その原因の多くが生殖細胞系列のTP53異常と判明している。また,最近では発がんに対するサーベイランスの臨床的意義も認められつつある。しかしながら,発がんに対する予防方法や治療方法,さらには患者支援体制などについては,未だに十分な対策が施されているとはいえない。LFS の患者および家族は多くの医学的問題や心理社会的負担を抱えており,今後さらなる医学や医療の発展が必要不可欠である。 -
家族性胃癌
40巻2号(2013);View Description Hide Description胃癌の遺伝連鎖解析国際コンソーシアムが,遺伝性びまん性胃癌(HDGC)のCDH1のスクリーニングをするための診断基準を提案して以来,胃癌の頻度が高く,また集団検診も確立されている本邦での探索は,実り多かったとはいえず,そのことが日常診療で胃癌の遺伝的要因への追求があまりなされなくなった理由なのではと思われる。2011 年の,典型的なCDH1 の欠損蛋白を生じるタイプの変異例とさらにCDH1 のエクソン3 の欠失例が本邦にも存在したという報告は,改めて,日常診療の上で若年発症,家族性発症,特異な組織像といったまれな胃癌例に遭遇する実地診療家や病理医の胃癌の遺伝的要因についての関心を呼び起こすと思われる。本邦における胃癌の遺伝的要因の歴史を概観し,本邦のHDGC の組織像を呈示する。 -
家族性前立腺癌の臨床と基礎
40巻2号(2013);View Description Hide Description前立腺癌の一部に家族性・遺伝性前立腺癌家系が存在する。若年発症が最大の特徴であり,米国ではそれぞれ約5%および20%と報告されている。臨床的には,前立腺癌の家族歴が発症の高リスク因子として認識されており,リスクに応じたスクリーニングプログラムが提唱されている。責任遺伝子を同定することが試みられ,多数の遺伝子変化が前立腺癌発症に関係していると考えられる。近年GWASにより8q24領域の遺伝子多型が発症に関係している報告がなされ,本邦の症例でも確認した。頻度は少ないが,前立腺癌発症メカニズムの解明と高リスク群の点から,さらに基礎的・臨床的な研究が期待される。
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Current Organ Topics:Gynecologic Cancer 婦人科がん 妊孕性に配慮した婦人科がんの予防と治療
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原著
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AFP 産生胃癌についての後方的検討
40巻2号(2013);View Description Hide Descriptiona-fetoprotein(AFP)産生胃癌はAFP 高値を示す予後不良の胃癌の一群であり,切除不能や早期の肝転移の出現により治療に難渋する場合も多い。今回われわれは,当科で経験したAFP産生胃癌について検討したので報告する。2008 年7月〜2010 年7 月の2年間に当科へ紹介された12 例中,治療開始前のAFP値の中央値は16,038(96.1〜167,360)ng/mL であり,12例全例に肝転移が認められた。うち4 例はECOG performance status(PS)3 の症例であり,化学療法導入不可能であった。8 例に化学療法を施行し,シスプラチン+パクリタキセル療法(CDDP+PTX 療法)を行った2 例にpartial response(PR)を認めたが,生存期間中央値(MST)は5.6 か月であり,一般の胃癌のMSTと比較して明らかに不良であった。最大治療効果(RECIST)と生存期間について検討を行ったところ,PR・SD群とPD群の2 群間に有意差を認め,病勢コントロールのついた症例の生存期間が長い傾向が認められた。治療効果と血液データの変化について検討したところ,治療開始後3 週間目の血清LDH 値変化率においてPR・SD群とPD群の2 群間に差のある傾向(p=0.11)が認められたため,血清LDH 値の変化は早期に治療効果を推定することに役立つ可能性がある。 -
肝細胞癌に対する経カテーテル的肝動脈化学塞栓術における制吐剤の術前投与と急性嘔吐の発現頻度に関する後方視的調査
40巻2号(2013);View Description Hide Description当施設にて,肝細胞癌に対する経カテーテル的肝動脈化学塞栓術(TACE)を施行した症例のうち,エピルビシン,リピオドール,多孔性ゼラチン粒を使用した536例を対象に,制吐剤の術前予防的投与と急性嘔吐発症の関係について後方視的解析を行った。TACE術前の5-HT3受容体拮抗剤投与群では367 名中23 名(6.4%)が,また非投与群では179 名中18 名(10.1%)が発症した。患者因子16 項目と嘔吐発症に関する多重ロジスティック解析を行ったところ,得られた嘔吐予測モデルの的中率は92.4%であり,影響を与える有意な因子として,女性(オッズ比3.73),病変数(オッズ比1.29),ペンタゾシン投与(オッズ比11.70)が含まれていた。一方,制吐剤の術前投与については予測モデルに含まれず,ゆえに嘔吐発症に有意な影響を与えているとはいえなかった。本研究の対象症例においては,5-HT3受容体拮抗剤による術前の制吐療法の有効性は示されなかった。 -
卵巣顆粒膜細胞腫15例の臨床的検討
40巻2号(2013);View Description Hide Description再発顆粒膜細胞腫は骨盤内を主体とする腹腔内播種であることが多く,化学療法や放射線治療の奏効率は高くないため再発時には手術摘出が重要であるとの考えから,当施設で初回手術を行った卵巣顆粒膜細胞腫症例15 例を検討した。観察期間の中央値は56(22〜286)か月,臨床進行期はⅠ期10 例,Ⅱ期3 例,Ⅲ期2 例であり,全例残存病変なく初回手術を施行した。15例中6 例が再発し,初回治療から再発までの期間の中央値は85(15〜128)か月で初回再発部位は骨盤内播種を全例に認めた他,リンパ節転移2 例・上腹部播種1 例の重複も認めた。2 例が再発を繰り返したが,早期発見・早期治療により全例に残存病巣なく腫瘍を摘出できた。以上より,完全摘出をめざし積極的に手術を行うことで長期生存の可能性がある。 -
外来化学療法における抗がん剤によるアレルギー症状発現に関する検討
40巻2号(2013);View Description Hide Description抗がん剤によるアレルギー症状においては,適切な対応ができるようにアレルギー症状発現状況を把握する必要がある。そこで,外来化学療法において各抗がん剤のアレルギー症状発現について検討した。アレルギー症状発現率は全体で3.9%(76件)であり,プラチナ系およびタキサン系抗がん剤が多くを占めた。プラチナ系抗がん剤とタキサン系抗がん剤のアレルギー症状発現時の投与回数および発現時間は,それぞれ11.7±1.3 回:2.3±0.5 回および43.3±4.8 分:18.1±3.6分であり,両系統別薬剤において有意な差が認められた(いずれもp<0.01)。また,アレルギー症状発現後の再投与の継続性については,29 件(38.2%)中21 件(72.4%)が継続投与可能であった。再投与の継続性について継続投与不可群と投与可群に分け各種要因の影響を検討したが,いずれにおいても有意な差は認められなかった。安全に治療を継続するためにも各抗がん剤のアレルギー症状の特徴を把握し,予防策(予防レジメンの導入)やアレルギー症状発現後における再投与時の適切な対策を検討していく必要があると思われる。 -
セビメリン含嗽液の唾液分泌促進作用に関する研究
40巻2号(2013);View Description Hide Description本研究は,セビメリン含嗽液の唾液分泌効果を明らかにすることを目的とした。健康な成人男女を対象に,実験群と対照群を同一対象とした逐次比較試験を行った。評価は唾液量(サクソンテスト)と口腔水分計(ムーカス),口腔内の潤い状態の主観的反応(4段階)で評価した。被験者10 名で含嗽前,5 分後,90 分後,3時間後にそれぞれ測定した。唾液量は実験群で5 分後に最大となり,90 分後まで有意(p<0.05〜p<0.001)に分泌作用を示した。口腔水分率も5 分後に最大となり,3 時間後まで有意(p<0.05〜p<0.001)に水分保持を示した。安全性が確認されたので,被験者19 名を追加し,唾液分泌量および口腔水分率を測定して唾液分泌促進の持続時間を検討した結果,3時間持続することが明らかとなった。セビメリン含嗽は,健常人の唾液分泌を少なくとも3 時間にわたって増加させるという本研究のデータは,唾液分泌に障害のある患者に対するセビメリン含嗽の臨床試験に有用となる結果である。
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リハビリテーション
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当院におけるがん患者リハビリテーションの現状報告
40巻2号(2013);View Description Hide Description2010年の診療報酬改定において,がん患者リハビリテーション料(以下がんリハ料)が新設された。当院は2011年8月,がんリハ料の施設基準を取得した。当院における予防的リハは2005 年12 月から周術期における包括的呼吸理学療法として介入を開始し,維持的リハおよび緩和的リハ,訪問リハについても介入件数は増えてきている。今後も増え続けるがんリハ患者への対応を強化し,病院全体でより安全で安心ながん医療を提供できるように改善していきたい。
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症例
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広範な肝転移を有するトラスツズマブ耐性のHER2 陽性乳癌に対してトラスツズマブとカペシタビンの併用療法が著効した1 例
40巻2号(2013);View Description Hide Description今回われわれは,広範な肝転移に伴う肝機能障害を有するトラスツズマブ耐性HER2陽性乳癌に対して,トラスツズマブとカペシタビンの併用療法が著効した1 例を経験したので報告する。症例は59 歳の閉経後の女性で,初診時に多発肝転移を有していた。初回治療としてアンスラサイクリンベースの化学療法が施行され,病勢進行後,トラスツズマブとパクリタキセルの併用療法が行われた。本治療は当初効果を認めたが,その後多発肝転移は急速に進行した。高ビリルビン血症など肝機能障害も出現したため緩和治療も考慮されたが,次治療としてトラスツズマブの継続ならびにカペシタビンの併用が行われた。本併用療法は著効し,重篤な有害事象もなく良好なQOLが長期間維持された。以上より,トラスツズマブを含む化学療法で病勢進行後した後もトラスツズマブの継続は有用で,また,トラスツズマブとカペシタビンの併用療法は重篤な有害事象のリスクも低く相乗効果を有しており,広範な肝転移に伴う肝機能障害を有するHER2陽性乳癌に対しても行うに値する治療法と考えられた。 -
S-1およびゾレドロン酸が奏効した乳癌術後多発骨転移の1 例
40巻2号(2013);View Description Hide Description乳癌の多発骨転移症例に対し,経口フッ化ピリミジン系抗癌剤であるS-1 および第三世代ビスフォスフォネート製剤であるゾレドロン酸を投与し奏効した1 例を経験した。多発骨転移に対しS-1 を100 mg/day(分2)経口投与で4 週間投薬し2 週間休薬,ゾレドロン酸4 mg を4 週間ごとに点滴投与するレジメンで開始した。S-1 を1 コース終了時,腫瘍マーカーは改善しはじめ以降正常範囲となり,症状は改善した。16 コース終了時PET にて有意な異常集積はなかった。現在21 コース目を終了し投与継続中であるが,病巣の再燃新たな再発巣の出現は認めていない。経過中Grade 1 以上の有害事象は認めなかった。S-1 は再発乳癌に対し有効性と忍容性を有す抗癌剤であると考えられ,さらにゾレドロン酸の併用にても高い効果が期待できると考えられた。 -
Docetaxelが著効し切除可能となった高度進行食道扁平上皮癌の1 例
40巻2号(2013);View Description Hide Description症例は65 歳,男性。主訴はつかえ感および嗄声。精査の結果,食道癌(Lt,cT3N4M0,cStageⅣa)の診断にて術前補助化学療法の方針となった。5-fluorouracil/cisplatin を1 コース施行後,効果判定にて原発巣および転移リンパ節も増大,No. 1 リンパ節が肝に浸潤したため切除不能となった。second-line としてdocetaxel 療法を3 コース施行したところ,部分奏効,No. 1 リンパ節の肝浸潤も解除されたため,手術可能となった。手術は,右開胸開腹胸部食道亜全摘+後縦隔経路胃管再建+両側頸部リンパ節郭清術を施行した。術後経過良好にて術後13 病日で退院となった。病理組織学的所見では原発巣がgrade 3,リンパ節に癌遺残が認められ,部分奏効の評価であった。術後21 か月経過し無再発生存中である。 -
切除不能進行胃癌に対してS-1+CDDP+Trastuzumabによる化学療法を施行した2 例
40巻2号(2013);View Description Hide DescriptionToGA 試験の結果より,HER2 陽性進行胃癌に対してfirst-line の化学療法としてcapecitabine+CDDP あるいはfluorouracil+CDDPにtrastuzumab(T-mab)を追加したレジメンが推奨される。しかし日本での進行胃癌に対する標準治療はS-1+CDDP(SP)であり,今回そのレジメンにT-mabを追加し,早期から著明な腫瘍縮小効果を認めた2 例を経験したため報告する。症例1 は77 歳,男性。嘔吐,体重減少があり,2011 年6 月上部消化管内視鏡検査を施行され胃癌と診断された。当院紹介となり精査を施行し,cStage Ⅳ; MUL,4 型,Circ,cT4a(SE),N3,M1(LYM)と診断した。HER2陽性(3+IHC 法)であり,SP+T-mabのレジメンで化学療法を行うこととした。2 コース終了後のGIF,CT ではPR と判断されたが,6 コース終了後のGIF,CT ではPD と判断され,レジメンをweekly paclitaxelに変更した。症例2 は68 歳,女性。黒色便,全身倦怠感があり,2011年8 月近医を受診され著明な貧血を認め精査加療目的で当院紹介入院となり,cStage Ⅳ; ML,3 型,Less,cT4a(SE),N3,M1(LYM)と診断した。HER2陽性(3+IHC法)でありSP+T-mabのレジメンで化学療法を行うこととした。3 コース終了後のGIF では腫瘍は著明に縮小しておりPR と判断した。現在,化学療法開始6 か月でPR を維持している。 -
S-1/Docetaxel療法が有効であったDIC を伴った胃癌多発骨転移の1 例
40巻2号(2013);View Description Hide Description症例は63 歳,女性。咳嗽を主訴に来院した。癌性リンパ管症を合併した胃癌,播種性骨髄癌症と診断した。入院後,DICを合併したが,S-1/docetaxel(DOC)併用療法(S-1 80 mg/m2 2 週間投与1 週休薬,DOC 40 mg/m2 day 1,3 週ごと)を施行しDIC から離脱。4 コース施行後,呼吸困難感,全身状態の改善を得て退院し,外来化学療法に移行ができた。S-1/DOC 併用療法は胃癌,播種性骨髄症によるDIC に対し有効な治療法の選択肢と考えられる。 -
セツキシマブによる薬剤性肺障害を発症した切除不能進行大腸癌の1 剖検例
40巻2号(2013);View Description Hide Description症例は60 代,女性。切除不能進行大腸癌に対する二次治療としてセツキシマブ単剤療法を実施したが,初回投与後に薬剤性肺障害を発症。ステロイドパルス療法を行ったが効果なく,呼吸不全のためセツキシマブ投与後9 日目に永眠された。病理解剖所見ではびまん性肺胞障害の組織像であった。セツキシマブによる薬剤性肺障害の詳細は現在のところ明らかとなっていないが,過去の剖検例3 例においてもびまん性肺胞障害と報告されており,セツキシマブによる薬剤性肺障害の病理組織像はびまん性肺胞障害である可能性が推察された。 -
結腸癌術後多臓器再発に対して化学療法にて長期CR 継続中の1 例
40巻2号(2013);View Description Hide Description再発結腸癌に対してmFOLFOX6療法とFOLFIRI療法を行い,長期間のcomplete response(CR)が継続している症例を経験したので報告する。症例は60 歳,女性で,進行下行結腸癌(tub2,pT3,pN2,cM0,fStageⅢb)術後18 か月目に腹部膨満感が出現した。positron emission tomography-computed tomography(PET-CT)でダグラス窩,肝,右卵巣,右鼠径リンパ節に転移,再発を認めた。mFOLFOX6 療法を8 コース施行したところ,重篤な末梢神経障害が出現したためFOLFIRI 療法に変更した。4 コース施行時点のcomputed tomography(CT)にてCR を確定した。さらに4 コース追加して化学療法を終了した。現在まで4 年4か月間にわたってCR が継続している。FOLFOX 療法,FOLFIRI療法によってCR となった症例は,文献検索し得た範囲では本症例を含めて18 例を認めた。それらのうち本症例は最も長期間CR を継続し得た症例であると考えられた。 -
直腸癌多発性肝転移に対し末梢神経障害の増悪なく長期にわたりFOLFOX でCR を得た1 例
40巻2号(2013);View Description Hide Description症例は61 歳,男性。2008年10 月より多発性肝転移を伴う直腸癌に対して,カルシウム/マグネシウム(Ca/Mg)療法併用でmodified FOLFOX6(mFOLFOX6)療法を5コース施行した。肝転移巣と原発巣ともにPR を得,2009 年2 月原発巣を切除した。術後,bevacizumab併用にてmFOLFOX6を再開した。15 コース施行後の2009 年8 月より牛車腎気丸7.5 g/日を併用し,服薬コンプライアンスは69%である。18 コースの2009 年10 月よりglutathione 200 mg を前投薬に追加している。35 コースの2010年11 月よりブシ末1.5 g/日を追加し,漸増して現在4.5 g/日で継続中であり,服薬コンプライアンスは73%である。Grade 4 の好中球減少が2010年12 月にみられ,37 コースよりoxaliplatinを65 mg/m2に減量した。2011年10 月まで計50 コースを施行し,oxaliplatin総投与量は3,970 mg/m2に達したが,末梢神経障害はGrade 2 に止まっている。Ca/Mg 療法と牛車腎気丸の併用は,各々単独ではFOLFOX の奏効を減弱しないことが示され,副作用が少なく,oxaliplatinによる末梢神経障害の予防対策として考慮してよいと思われた。 -
Gemcitabine,S-1併用療法が奏効した切除不能胆管癌の1 例
40巻2号(2013);View Description Hide Description症例は63 歳,男性。2007年10 月閉塞性黄疸,急性腎不全のため入院。下部胆管癌と診断し,胆管ステント留置,血液透析にて黄疸,腎不全は改善した。開腹所見にて肝両葉漿膜面に散在する転移を認め,肝門部空腸吻合術のみ施行。その後gemcitabine(GEM),S-1併用による全身化学療法を開始。GEM 1,000 mg/m2(day 1),S-1 60 mg/m2day(day 1〜7),2 週1 コースの投与を繰り返した。その後のCT では原発巣,肝転移巣ともに描出されないまま経過した。化学療法開始1 年4 か月経過後,PET-CT にて肝門部に集積を認め,原発巣の残存と考え,同部に40 Gyの放射線療法を施行。化学療法は変更なく継続したが,その後もCT では病変は描出されないままであった。化学療法開始2 年5 か月経過後,原発巣の増大による十二指腸狭窄を生じ,肝左葉内に転移巣の出現あり。その後癌性腹膜炎,肝転移巣の増大による肝不全症状の出現を認め,全経過2年8か月で死亡した。本症例の経験より,切除不能胆管癌に対するGEM,S-1 併用療法は,有用な選択肢となり得ると考えた。 -
Cisplatin+Gemcitabine療法が著効した再発胆嚢癌の1 例
40巻2号(2013);View Description Hide Description再発胆嚢癌に対してcisplatin(CDDP)+gemcitabine 療法を行い著効した1 例を経験したので報告する。患者は,2007年に胆囊癌(T2N1M0,Stage Ⅲ)に対して根治術を受け,補助化学療法としてtegafur/uracil を1 年間内服した。2009年9 月にCA19-9 の上昇とCT にて大動脈周囲リンパ節の腫大を指摘された。Valle らの報告に準じて,CDDP+GEM 療法を開始した。2 コース終了時点で大動脈周囲リンパ節は著明に縮小しCA19-9は正常化した。4 コース以降でgrade 4 の好中球減少とgrade 3 の血小板減少が出現した。毒性の出現に合わせて投与量を減量した。化学療法が著効している状態で,いつ治療を中止するかどうかについては指標がなく治療中止の判断に難渋した。減量(CDDP 25 mg/body,GEM 600 mg/body)にもかかわらず毒性からの回復が困難になってきたことと,CT 上,著効状態が維持されていたことから,最終的に28コースで治療を終了した。患者は治療開始から2 年4か月を経過し無増悪生存中である。 -
アナストロゾール内服中に急速進行性糸球体腎炎を発症し半月体形成性糸球体腎炎と診断された1 例
40巻2号(2013);View Description Hide Description症例は69 歳,女性。68 歳時に右側乳癌に対して乳房部分切除術が施行され,その後アナストロゾールの内服加療が開始された。69 歳時の12 月2 日に検診での検尿で蛋白尿(3+)と尿潜血(3+),および血清クレアチニン値の上昇(2.4 mg/dL)を指摘されたため,同年12 月8 日に当科に紹介された。急性腎不全と診断され,12 月14 日に当科に入院した。12 月17日に腎生検が施行され,半月体形成性糸球体腎炎による急速進行性糸球体腎炎と診断された。ステロイドパルス療法およびプレドニゾロンの内服治療が開始され,腎機能障害は改善した。アナストロゾールによる腎機能障害は非常にまれであるが,本例は同剤を内服中に半月体形成性糸球体腎炎を合併,急性腎不全を呈したと考えられた1 例であり,腎機能障害の合併にも今後は注意が必要と思われた。
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