癌と化学療法
Volume 40, Issue 3, 2013
Volumes & issues:
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総説
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医薬品の安全対策について―Risk Management Plan(RMP)の取り組み―
40巻3号(2013);View Description Hide Description2012 年4 月に医薬品リスク管理計画(RMP)に関する通知が発出された。RMP は,医薬品のリスクが安全性検討事項として要約され,それを踏まえた安全対策の具体的内容を医薬品安全性監視活動および医薬品リスク最小化活動の計画として一つの計画書にまとめたものである。本稿では,抗悪性腫瘍剤の具体事例を交えながら,医薬品医療機器総合機構(PMDA)における製造販売後の医薬品安全対策業務を概説し,その上でRMPについて概説する。 -
肺がんのドライバー遺伝子変異と分子標的治療
40巻3号(2013);View Description Hide Descriptionがんには多くの遺伝子異常があってもがん化にかかわるドライバー遺伝子は少数であり,この機能の阻害は大きな抗腫瘍効果をもたらす(oncogene addiction)。この現象を応用した,上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異を有する肺がんに対するEGFR チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)であるゲフィチニブやエルロチニブによる分子標的治療は,肺がんの治療体系を一変させた。いくつかの臨床試験は,EGFR-TKI によって得られる無増悪生存期間は従来の標準治療であるプラチナ2 剤療法のそれを有意に延長させることを証明している。さらに2012 年には,未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)遺伝子転座を有する肺がんに対する分子標的薬クリゾチニブが承認され,ROS1,RET,HER2 などにaddict した肺がんの治療も開発されている。このような治療の個別化によって肺がんはより慢性的な疾患に変貌を遂げつつあり,さらには治癒をもたらすことができるようになるかもしれない。
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特集
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- がんにおける画像診断の進歩
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新しい超音波造影剤を用いた分子診断治療
40巻3号(2013);View Description Hide Description近年,超音波造影剤を活用した新しい,がん分子イメージング法が注目されている。将来的には分子標的機能をもつ超音波造影剤を使い,安価で,ベッドサイドで手軽に使える可能性がある。リアルタイムに超音波画像情報を入手できることから,がんなど病変部位の組織学的変化を追跡できる。近年,超音波診断装置の性能が向上し,超音波造影剤と超音波照射条件を最適化することで音響反射信号の検出感度が高められ,画像解像度も非常によくなってきた。次世代の超音波造影剤を利用すれば,がん,動脈硬化,血管新生など,分子レベルでの診断が容易になり,がんの早期発見にもつながると予想される。また,超音波造影剤は薬物のキャリアーとしてのdrug delivery system(DDS)の機能ももたせられることから,診断のみならず薬物治療の一手段としても期待できる。 -
CT,MRI,FDG-PET などの画像診断機器によるがん治療の効果判定
40巻3号(2013);View Description Hide Descriptionがん治療の効果判定は,現在は臨床試験の標準的な指標であるRECISTが普及し,臨床試験の効果判定のみならず,日常臨床にも外挿され広く利用されている。しかし,この規準は主に腫瘍の大きさの変化をとらえ,分子標的治療薬などによる腫瘍壊死や空洞化などの形状や性状変化,機能的あるいは代謝的変化に対応しているわけではない。今後も高分解・高機能のCT が,腫瘍の効果判定の画像診断機器として重要な役割を担っていくことに変わりはないが,それに加えMRI,FDG-PET などのimaging biomarkerと呼ばれる機器によっても,形態的,機能的,代謝的評価ができるため,効果判定や予後予測の検討に利用されるようになっている。がん治療が分子標的治療薬などによる個別化医療に向かおうとしている現状においては,それら機器を用いて治療効果判定を行う場合,その時期や測定法,評価方法などをさらに検討し,簡便化・標準化を行っていくことで,客観的で科学的ながん治療の効果判定が可能となる。 -
新規蛍光プローブによるIn Vivo微小がん検出の実現
40巻3号(2013);View Description Hide Description筆者らが最近確立することに成功した,光誘起電子移動を原理とする蛍光プローブの設計法から,その活用による種々の蛍光プローブの開発事例をまず概説する。さらにごく最近開発することに成功した,γ-グルタミルトランスペプチダーゼ活性検出蛍光プローブの局所散布による,1 mm以下のin vivo微小がん部位イメージング技法を紹介する。筆者らの考える“activatable”蛍光プローブという新たな化学的アプローチによる,新たながん医療の可能性を感じていただければ幸いである。
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Current Organ Topics:Musculoskeletal Tumor 骨・軟部腫瘍
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原著
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4型胃癌に対する術後補助化学療法S-1/CDDP 療法の検討
40巻3号(2013);View Description Hide Description当院での4 型胃癌に対する術後補助化学療法S-1/CDDP 療法を後ろ向きに検討した。2000 年1 月〜2010 年12 月までに外科的切除を行った胃癌のうち,病理組織学的に4 型胃癌と診断され術後補助化学療法S-1/CDDP 療法(A群)を行った9 例と,同期間にS-1 単剤療法(B 群)を行った9 例をその治療効果について比較検討を行った。S-1/CDDP 療法(S-1 80〜120 mg/day を3 週間投与2 週間休薬,day 8 にCDDP 60 mg/m2投与)は,5 コース施行後にS-1 単剤(S-1 80〜120mg/dayを4 週間投与2 週間休薬)を1 年半内服した。S-1 単剤療法は,前述と同様のスケジュールで2 年間継続した。患者背景では,A 群はB 群に比較し有意に若年であった。A群はB 群に比較し統計学的に有意差を認め(p=0.02),全生存率は良好であった。4 型胃癌に対する術後補助化学療法S-1/CDDP 療法は,S-1 単剤と比較し有望な治療法である可能性が示唆された。 -
結腸癌術後補助化学療法におけるCapecitabine投与の忍容性について
40巻3号(2013);View Description Hide Description目的: capecitabine はX-ACT 試験の結果から結腸癌術後補助化学療法の標準治療の一つとなったが,本邦では忍容性についての報告はほとんどない。今回,治癒切除が行われた結腸癌34 例を対象として,capecitabineによる術後補助化学療法8 コースの治療継続性や有害事象について後方視的に検討した。結果: capecitabine の8 コース完遂率79.4%(27/34例),相対用量強度中央値94.4(13〜106)%,相対用量強度60%以上の割合82.4%(28/34 例)であり,Grade 3 以上の有害事象は手足症候群11.8%(4/34 例),口腔粘膜炎2.9%(1/34 例),下痢2.9%(1/34 例),亀頭部潰瘍2.9%(1/34 例)であった。結語:当院におけるcapecitabine はX-ACT 試験と同等の高い治療継続性が得られており,日常診療においても忍容性が高いと考えられた。 -
上腕中心静脈ポートの長期成績と合併症
40巻3号(2013);View Description Hide Description目的: 進行再発大腸癌に対する化学療法では,中心静脈ポート(CV ポート)を長期に使用することが多い。本研究は上腕CV ポートの長期成績と留置後の合併症について検討し,より安全で長期使用に耐える留置手技を確立することを目的とした。方法:上腕よりCV ポートを留置した90 例を対象としてretrospective に検討を行った。結果:留置時の合併症はなかったが,長期使用中の合併症を20 例(22.2%)に認めた。内訳は感染10 例,閉塞7 例,血栓4 例,疼痛1 例(重複あり)。観察期間の中央値は160(30〜1,167)日であった。合併症に関連する因子を解析すると,カテーテル先端が気管分岐部より頭側にある群が,尾側にある群に比べ有意に合併症発生率が高かった。結論: 上腕CVポートは安全に留置可能であるが,カテーテル先端を気管分岐部よりも尾側にすることで合併症を減少させることができる可能性がある。 -
抗がん剤の剤型変更(液剤化)による有用性の検討
40巻3号(2013);View Description Hide Description凍結乾燥製剤の液剤化の利点は様々いわれているが,その利点を定量化した報告は少ない。今回われわれは,液剤化による薬剤調製上の利点を定量化する目的で,オキサリプラチンの凍結乾燥製剤である「エルプラット注射用」と液剤である「エルプラット点滴静注液」の調製時間を比較検討する実験を実施した。調製時間には剤型だけでなく調製用量や調製者の熟練度など複数の要因が影響しているため,各々の要因をラテン方格で割り付け検討した。その結果,液剤の平均調製時間は62.39秒と,凍結乾燥製剤の171.22秒と比べて約2 分の短縮(p<0.0001)が認められた。さらに各々の要因を線形モデル化し検討した結果,複数の要因を考慮しても液剤は調製時間の短縮に寄与していることが確認できた。また,液剤では調製者の熟練度が上がることにより調製時間が有意に短縮されたが,凍結乾燥製剤では全体の調製時間が長いため有意差を認めず,液剤において熟練度がよく反映される結果であった。以上より,オキサリプラチンの液剤化の利点の定量化をとおして,凍結乾燥製剤の液剤化の有用性が示された。
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医事
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東日本大震災後のがん薬物療法における地域連携の試み
40巻3号(2013);View Description Hide Description2011年3 月に起こった東日本大震災は,わが国でがん薬物療法の主たる実施場所が外来となってから初めて経験する大災害となった。大災害を経験した宮城県の医療機関で共同し,災害後の患者動向調査,患者アンケート調査,医療スタッフへのアンケート調査を行った結果を示す。これらの研究結果から,今後大災害発生時にがん薬物療法にかかわる医療者が「災害時多職種オンコロジーチーム」を結成し,がん患者の支援を行う必要性,災害に備えた平常時からの地域医療連携ネットワークの構築,災害に強い複数の連絡方法の確立,そして患者を化学療法チームの一員と考えた患者教育の必要性を提案する。
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薬事
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外来がん化学療法室でのチーム医療における薬剤師の役割:診察前患者面談の有用性評価
40巻3号(2013);View Description Hide Description岐阜大学医学部附属病院では,2008 年4 月から外来がん化学療法室に薬剤師2 名を専任配置し,安全かつ有効ながん化学療法を提供すべく,医師および看護師と連携して業務を行っている。2010 年4 月から薬剤師3 名体制とし,全患者への服薬指導を開始している。さらに2011 年5 月からは,医師の診察までの待ち時間を利用した「診察前患者面談」(以下,診察前面談)を開始した。その結果,患者1人当たりの指導時間は39.7±3.2 分から48.0±2.6 分と有意に増加,処方提案件数も開始前1 年間と比較して大幅に増加した。提案採択率も94%と高く,抗がん剤の副作用である悪心・嘔吐や末梢神経障害の改善,座瘡様皮疹の出現抑制など様々な有害事象の軽減や予防に寄与していることが明らかになった。以上の結果より,薬剤師による診察前面談は外来がん化学療法の推進に有用であることが示唆された。
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調査
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Carboplatin併用化学療法時における悪心・嘔吐の発現に関する実態調査
40巻3号(2013);View Description Hide Description初期化学療法としてcarboplatin を含む中等度催吐性リスク化学療法が予定された患者で,aprepitant 未使用時におけるchemotherapy-induced nausea and vomiting(CINV)発症頻度の実態調査を行った。化学療法施行から1 週間,患者からのMultinational Association of Supportive Care in Cancer(MASCC)制吐に関する質問票antiemesis tool(MAT)によりCINV の状況を評価した。悪心は48.4%の患者に認め,carboplatin週分割投与に比し一括投与で有意に高かった(63.6%vs11.1%,p=0.016)。また,CINV の発症頻度は若年者であるほど有意に高値であった(odds比: 0.355,95% CI: 0.132-0.951,p=0.039)。この結果より,carboplatin併用化学療法,特に一括投与時ではaprepitantやpalonosetron使用も含めた予防的CINV対策を考慮するべきと考えられた。
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症例
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アナストロゾールが有用であったER 陽性乳癌局所再発の3 例
40巻3号(2013);View Description Hide Description乳癌術後に局所再発した切除不可能な閉経後の3 例を経験した。いずれの症例も局所再発巣を生検し,ER 陽性の乳癌局所再発と診断した。この3 例ともアナストロゾールを投与し,1 例目は安定期間25 か月のstable disease(SD),2 例目は安定期間18 か月のSD,3 例目はpartial responseであった。いずれの症例も,再発巣を生検することでER 陽性の局所再発と診断したのでアナストロゾールの治療効果が高く,長期にわたり病勢が安定していたものと考えられた。 -
進行腎癌に対するmTOR 阻害剤療法が奏効した男性乳癌の1 例
40巻3号(2013);View Description Hide Description症例は43 歳,男性。主訴は背腰部痛と左乳頭のしこり。精査の結果は左乳癌および左腎癌,腎癌肺骨胸膜転移。検討の結果,左乳癌は経過観察とし,腎癌はcT4N0M1-stage Ⅳにより癌化学療法sunitinib を開始した。途中,Grade 3 の有害事象の出現を認めた。腎癌がPD となりtemsirolimusに変更した。この腎癌治療経過のなかで乳癌は腫瘍径の縮小を認めた。sunitinibは血管内皮成長因子などの複数の標的を阻害するチロシンキナーゼ阻害剤である。乳癌についていくつかの報告があるが,未だ従来治療を上回る報告はない。一方mTOR 阻害剤であるtemsirolimus は,ホルモン療法の相乗効果が報告されている。またeverolimusでは閉経後転移性乳癌患者を対象としたSERM単独群対SERM+everolimus併用群の比較試験で,clinical benefit,median TTP で併用群が優れており(TAMRAD trial),現在進行中の臨床試験BOLERO-2(exemestane+/−everolimus)でもよい結果が報告されている。everolimusはホルモン感受性乳癌の治療薬として有望である。 -
放射線療法とシスプラチン+ペメトレキセート併用療法が奏効した晩期再発乳癌の1 例
40巻3号(2013);View Description Hide Description症例は62 歳,女性。右乳癌術後19 年経過し,咳嗽,嗄声の出現があり当院を受診した。PET-CTと気管支鏡検査を施行し,右非小細胞肺癌Stage ⅢB と診断した。放射線療法とシスプラチン+ペメトレキセート併用療法が奏効し,生命を脅かす状態から改善した。経過観察中に右前胸部に皮膚結節を認め,切除生検を行い乳癌の皮膚転移と診断した。再度経気管支肺生検(transbronchial lung biopsy: TBLB)の検体を検討した結果,一連の病変は乳癌の転移と診断した。引き続き内分泌療法を行い,再燃なく奏効している。 -
G719XおよびT790MのEGFR 遺伝子変異を有する髄膜癌腫症に対してエルロチニブが有効であった肺腺癌の1 例
40巻3号(2013);View Description Hide Description症例は68 歳,男性。胸部異常陰影にて当院を紹介受診。左鎖骨上窩リンパ節への経皮的針吸引細胞診で腺癌を検出し,原発性肺腺癌(cT1bN3M1b: BRA OSS)と診断した。同検体での上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異検査でexon 18G719X およびexon 20 T790M 変異を認めた。初回治療としてシスプラチン+ドセタキセル併用療法を4 コース施行し,原発巣および多発脳転移巣の縮小が得られた。約4 か月後に脳転移巣の増悪と髄膜癌腫症を併発,全脳照射後にエルロチニブ(150 mg/日)の投与を開始したところ,髄膜癌腫症について画像所見や意識障害などの軽快が得られた。診断時よりEGFR感受性,耐性遺伝子を同時に有する髄膜癌腫症に対して上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)は有効であると考えられた。 -
食道癌術前FP 療法中に低Na血症による可逆性白質脳症を発症した1 例
40巻3号(2013);View Description Hide Description症例は52 歳,女性。食事のつかえ感を自覚し,近医を受診した。上部消化管内視鏡検査で胸部中部食道に潰瘍性病変を指摘され,扁平上皮癌と診断された。当科紹介受診し,食道癌Mt-Lt,type 2,cT2N1M0,stage Ⅱと診断した。治療に関して手術を希望され,術前化学療法としてFP 療法を開始したところ,day 4 に意識不明,発語困難,両四肢筋肉痙攣などの中枢神経の異常症状を認め,精査の結果,白質脳症と診断した。原因として,renal sodium wasting syndromeによる低Na血症が考えられたので若干の文献的考察を加え報告する。 -
術前化学放射線療法が奏効し切除可能となったNo. 7リンパ節転移を伴った食道胃接合部扁平上皮癌の1 例
40巻3号(2013);View Description Hide Description患者は59 歳の男性で,内視鏡検査で食道胃接合部に不整形の潰瘍性病変を認め,生検で扁平上皮癌と診断された。腹部CT でNo. 7 リンパ節の腫大を認め(直径40 mm),膵浸潤が強く疑われた。cStageⅣa で根治切除が困難である可能性を考慮し,術前化学放射線療法として5-FU およびCDDPによる化学療法2 コースと40 Gyの放射線外照射を行った。化学放射線療法後の内視鏡検査では原発巣は浅い陥凹性病変となり,CT ではNo. 7 リンパ節は著明な縮小を認めた。化学放射線療法後35 日目に経裂孔的下部食道噴門側胃切除を行った。病理組織学的検査所見では,原発巣,リンパ節転移巣ともにpCRで,術後3 年を経過して無再発生存中である。食道胃接合部の扁平上皮癌に対する術前化学放射線療法のエビデンスは少ないが,本例のような進行癌症例に対してtrimodality therapyは有用な治療選択肢となり得ると考えられた。 -
皮下埋め込み型中心静脈ポート関連の敗血症性肺塞栓症と考えられた1 例
40巻3号(2013);View Description Hide Description症例は32 歳,女性。胃癌術後再発に対するS-1+シスプラチン(CDDP)療法5 コース投与後に腹水が出現し増悪。癌性腹膜炎による経口摂取不良のため,右鎖骨下静脈に皮下埋め込み型中心静脈ポートを留置した。ポートから5-FU/ロイコボリン/パクリタキセルと高カロリー輸液を開始。癌性腹膜炎は改善し高カロリー輸液は1 か月で終了したが,2 か月後に左肺野に多発結節影が出現。中心静脈ポート関連の敗血症性肺塞栓症を疑い,直ちにポート抜去を行い,抗生剤投与で速やかに改善を認めた。 -
長期生存を認めている小腸癌の1 例
40巻3号(2013);View Description Hide Description小腸癌は診断が困難なことから局所進行あるいは遠隔転移を伴う状態で発見されることが多く,予後は不良である。治療の基本は外科的切除であり,進行・再発小腸癌に対する化学療法の有用性も報告されている。今回,われわれは小腸癌再発に対し手術および化学療法を施行し,長期生存が得られている1 例を経験したので報告する。症例は47 歳,女性。2005年2 月に腸閉塞を伴う小腸腫瘍に対し小腸部分切除を施行した。病理組織検査の結果,中分化型腺癌でありリンパ節転移を認めた。術後補助化学療法としてS-1 を1 年間内服したが,2006 年3 月右卵巣への再発を認め右付属器摘出術を施行した。腹水細胞診がclass Ⅴであったため,術後化学療法を施行した。2008 年12 月CA19-9の上昇があり,MRIで子宮背側に腫瘤を認め再発と診断。直腸浸潤もみられ2009 年2 月に直腸低位前方切除,子宮全摘,左付属器摘出術を施行した。術後UFT/UZEL を半年間内服した。2010 年7 月のCTで多発肺転移を認めたため再度化学療法を施行。その後も腫瘍マーカーが上昇傾向であったためレジメンを変更した。現在biweekly CPT-11+CDDP施行中である。 -
FOLFIRI+Panitumumab療法が奏効し切除可能となった他臓器浸潤S 状結腸癌の1 例
40巻3号(2013);View Description Hide Description症例は72 歳,女性。腹痛と発熱を主訴として来院した。精査の結果,膀胱・子宮浸潤を伴うS 状結腸癌および骨盤内膿瘍と診断した。KRAS遺伝子は野生型であった。根治切除は困難と判断し,S 状結腸人工肛門造設術,膿瘍ドレナージを施行した。術後FOLFIRI を1 コース,FOLFIRI+panitumumab を5 コース施行した。腫瘍は著明に縮小したため,panitumumab単剤を2 コース施行後にS 状結腸切除および膀胱部分切除術を施行した。術後FOLFIRI+panitumumab を6 コース施行し,手術から7か月経過した現在,無再発生存中である。KRAS遺伝子野生型の切除不能大腸癌に対する術前化学療法としてFOLFIRI+panitumumab療法が有効である可能性が示された。 -
カルボプラチンを含めた化学放射線療法にて長期寛解を得た臀部巨大扁平上皮癌の1 例
40巻3号(2013);View Description Hide Description症例は72 歳,男性。初診18 か月前から仙骨部の発赤とびらんが出現。その後病変はしだいに拡大し隆起していったため当院皮膚科受診。仙骨部に10×7 cmの巨大な皮膚腫瘍を認め,生検にて扁平上皮癌と診断された。手術不能と判断されたため,当科でweeklyカルボプラチン(AUC 2)+パクリタキセル(30 mg/m2)と2 Gy×24 回の合計48 Gyおよび電子線2 Gy×10 回合計20 Gy の総線量68 Gy 併用による根治的な化学放射線療法を施行した。放射線照射10 Gy 時に臀部蜂窩織炎を起こしたため,次コースからパクリタキセルをS-1 80 mg/body/day に変更し治療を完遂した。化学放射線療法終了直後には病変の縮小を認めたが,かなりの量が残存していた。その後放射線照射部の上下に腫瘍の伸展を認めたため,4 週おきのカルボプラチン(AUC 5)-5-FU(1,000 mg/m2 day 1〜4)を4 コース追加し終了した。以後,外来で経過観察を続けたが長期にわたり腫瘍の進展を認めなかった。初診から39 か月目に菌血症で永眠された。手術不能の皮膚扁平上皮癌に化学放射線療法が有効である可能性が示唆された。 -
イマチニブ間欠投与によりMajor Molecular Responseを維持し得た慢性骨髄性白血病
40巻3号(2013);View Description Hide Description慢性骨髄性白血病慢性期と診断された57 歳の女性に対して,イマチニブ(IM)400 mg投与を開始した。IM投与開始3 か月目,complete cytogenetic responseを達成,IM投与1 か月目,major molecular response(MMR)相当となった。IM開始12 か月目,grade 1 の嘔気のためIM を300 mg へ減量し,22 か月目から経済的理由によりIM 300 mg を5 日間/週内服へ減量した。IM開始77 か月目の時点で,IM 300 mg を3 日間/週内服を継続しながらMMR相当を維持している。IM 標準量の投与が困難な症例に対して,IMの間欠投与が有用である可能性が示唆される。 -
長期生存している切除7 年後に骨転移で再発した縦隔悪性奇形腫の1 例
40巻3号(2013);View Description Hide Description悪性胚細胞性腫瘍において腫瘍マーカーが異常値を認めた前縦隔に上大静脈を圧排する8×6 cm の縦隔悪性奇形腫に対し,術前化学療法(PEB 療法)を施行した。その後に胸骨正中切開,前縦隔腫瘍切除+心嚢,右側胸膜合併切除+上大静脈部分切除術を施行し,腫瘍マーカーは正常値となった。術後同レジメンで化学療法1 コースを追加施行した。7 年後に腫瘍マーカーが正常値にもかかわらず骨転移で再発し,第9 椎体切除+脊椎固定術を施行した。術後5 年経過した後,再発なく生存している。腫瘍マーカーを産生しない縦隔悪性奇形腫の一部分が再発したまれな症例と思われた。 -
メスナの投与方法変更によりイホスファミドが起因した排尿障害を回避できた1 症例
40巻3号(2013);View Description Hide Description症例は39 歳,女性。2011年9 月から再発子宮頸癌に対して,イホスファミド(IFM)+シスプラチン(CDDP)療法(IFM 5,000 mg/m2点滴静注24 時間,CDDP 50 mg/m2点滴静注1 時間)を施行した。IFMの出血性膀胱炎予防として,メスナ1 日3 回1 回3,200 mg/bodyを30 分かけて点滴静注で投与した。day 2 夜から残尿感が出現し,day 3 から排尿後に痛み(尿路痛: Grade 1 CTCAE v4.0)を感じるようになった。両症状はday 6 まで持続した。2 コース目からはメスナの投与方法をIFMと同様の24 時間持続投与に変更したところ,前コースでみられた残尿感,排尿時の疼痛はまったく出現せず,患者のQOL を低下させることなく治療を継続することが可能となった。本症例ではメスナの投与方法を変更することにより,IFM の代謝物アクロレインとメスナの結合能が高くなり,その結果としてIFM による排尿障害の出現を回避することができたと考える。
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