癌と化学療法
Volume 40, Issue 4, 2013
Volumes & issues:
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総説
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がん幹細胞を支えるニッチ
40巻4号(2013);View Description Hide Descriptionがん幹細胞は正常幹細胞と同様に,薬剤耐性能,自己複製能,分化能,組織形成能といった性質を持っていると考えられている。正常幹細胞は,ニッチ依存的に幹細胞性を維持している。そしてがん幹細胞も同じように,ニッチによって幹細胞性が維持されている可能性がある。がん幹細胞は従来のがん治療法に対して抵抗性を持っていないため,腫瘍の治療を困難にしていると考えられている。そのため,がん幹細胞を標的とした治療法の確立が重要になってくる。今後,がん幹細胞を直接的治療する方法だけでなく,がん幹細胞の周囲のニッチを標的とした間接的な治療法の確立が重要である。
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特別寄稿
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Report on the 10th International Conference of the Asian Clinical Oncology Society(ACOS 2012)
40巻4号(2013);View Description Hide DescriptionThe 10th International Conference of the Asian Clinical Oncology Society(ACOS 2012)in conjunction with the 38th Annual Meeting of the Korean Cancer Association,was held on June 13 to 15(3 days)2012 at COEX Convention and Exhibition Center in Seoul,Korea. ACOS has a 20-year history starting from the first conference in Osaka,Japan,which was chaired by Prof. Tetsuo Taguchi and the ACOS conferences have since been conducted in Asian countries every 2 years. Under the theme of “Work Together to Make a Difference for Cancer Therapy in Asia”,the 10th ACOS was prepared to discuss various subjects through a high-quality academic program,exhibition,and social events. The ACOS 2012 Committee was composed of the ACOS Organizing Committee,Honorary Advisors,Local Advisors,and ACOS 2012 Organizing Committee. The comprehensive academic program had a total of 92 sessions(3 Plenary Lectures,1 Award Lectures,1 Memorial Lectures, 9 Special Lectures,15 Symposia,1 Debate & Summary Sessions,1 Case Conferences,19 Educational Lectures,1 Research & Development Session,18 Satellite Symposia,9 Meet the Professors,14 Oral Presentations)and a total 292 presentations were delivered throughout the entire program. Amongst Free Papers,462 research papers(110 oral presentations and 352 poster presentations)were selected to be presented. This conference was the largest of all ACOS conferences in its scale with around 1,500 participants from 30 countries. Furthermore, despite strict new financial policies and requirements governing fundraising alongside global economic stagnation,a total of 14 companies participated as sponsors and an additional 35 companies purchased 76 exhibition booths. Lastly,the conference social events provided attendees with a variety of opportunities to experience and enjoy Koreaʼs rich culture and traditions during the Opening Ceremony,Welcome Reception,Invitee Dinner, Banquet,and Closing Ceremony. Overall,ACOS 2012 reinforced and promoted Koreaʼs world-class medical research for cancer treatment and prevention. Furthermore,participants recognized that it is more valuable to clarify the current statistics of cancer in Asia and its cure and prevention as peopleʼs attention has been gradually growing from ACOS 2009 and ACOS 2012. Also,ACOS 2012 gave us an opportunity to reconsider the vision of ACOS and its core values by closely examining the role of ACOS headquarters for an effectively organized system.
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特集
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- チーム医療で支えるがん治療
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外科診療におけるチーム医療
40巻4号(2013);View Description Hide Description手術治療を中心とした外科でのがん診療において,安全でミスの少ない医療,説明性・納得性・論理性のある治療,そして迅速で効率的で無駄のない治療が強く求められている。従来の医師を頂点としたピラミッド構造の医療体制ではなく,職種によっての上下のないフラットな関係でチーム医療を進めることが必要であり,この意識変革には電子カルテやパスが重要なツールとなる。外科におけるチーム医療は,手術以外にも,周術期管理,特に感染対策,NST,褥瘡対策,ストーマ管理やリハビリテーション,がん化学療法,退院後の医療連携,さらには終末期の疼痛緩和や看取りなどがある。これらの外科診療の現場で行われている個々のチーム医療の実際を紹介し,チーム医療においては強力なリーダーシップを医師が発揮することが必要であることを強調した。 -
大腸がん化学療法におけるチーム医療の重要性
40巻4号(2013);View Description Hide Description近年,大腸がんに対して有効な新規薬剤が次々に臨床導入され,大腸がん化学療法の治療成績は著しく向上した。従来の抗がん剤ではみられない多彩な副作用をもつ分子標的治療薬の適正使用,患者に複雑な治療レジメンを理解してもらい,内服薬のアドヒアランスを高めてもらうためにも,医師と薬剤師,看護師との連携が必須となってきている。また,肝切除の可能性のある症例では肝臓外科医との連携も必要である。さらに高額療養費の問題,緩和ケアへの移行などではメディカルソーシャルワーカー(MSW)とも連携していかねばならない。このように,大腸がん化学療法を適切に実践していくためにはチーム医療体制が必須となっている。多施設・多職種連携と地域連携をとおしてチーム医療を支援するシステムを立ち上げた愛知県の試みを紹介する。 -
放射線治療におけるチーム医療
40巻4号(2013);View Description Hide Description近年,がん診療領域でのチーム医療の必要性が強調されている。放射線治療の医療現場では,古くから診療放射線技師や看護師が果たす役割が大きく,自然発生的にチーム医療体制を構築してきた病院も少なくない。多職種スタッフが合同でカンファランスを開くことはもちろん,日々の診療のなかでも多職種スタッフ間で情報共有すること,そして何よりも,医師は診療上の重要な業務をコメディカルスタッフに信頼して委譲することによって,各職種が対等な立場で協働するチーム医療が形成される。平成24 年度診療報酬改定で新設された外来放射線照射診療料は,診療放射線技師や看護師の業務として患者の観察を規定しており,放射線治療のチーム医療構築に大きく寄与するものである。放射線治療専門放射線技師,がん放射線療法看護認定看護師といった専門資格を有する者も増えており,彼らを放射線治療部門に専従できる仕組みを病院が整えることによって,チーム医療体制は大きく発展することが期待される。 -
緩和医療におけるチーム医療
40巻4号(2013);View Description Hide Descriptionがん治療において,緩和医療の重要性が強調されてきている。緩和医療はもともと,包括的あるいは全人的視点をベースとした医療であり,患者・家族の苦痛や希望が多彩であることから,よりよい医療を提供するために多くの職種の協働が求められてきた。チーム医療にはmultidisciplinary,interdisciplinaryとtransdisciplinaryの三つの形態があるといわれているが,緩和ケアチームはinterdisciplinary team model であり,緩和ケア病棟のなかでの医療スタッフの働きはtransdisciplinary team modelに近い。最近は,緩和医療においてチーム医療を実践することの臨床的意義も明らかにされてきている。理想的なチーム医療とは何か,チーム医療を実践する理想的な医師像とは何かを問い直し実臨床につなげていくことは,緩和医療の枠組みを越えて医療全般の質の向上に寄与すると考える。 -
チーム医療の教育
40巻4号(2013);View Description Hide Description適切ながん医療とは,患者の予後改善を図るために標準的な治療を安全かつ確実に行うことであり,それには医療チーム内での意思疎通を図り情報を共有することが不可欠である。他の職種の業務をお互いに理解してチーム内の問題点を各職種が多面的に抽出し,チーム全体としてその問題点の解決を図ることが重要である。こうした観点から,チーム医療の教育を行うには双方向性に問題点を認識し,その解決をチーム全体で行う習慣をつけていく必要がある。
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Current Organ Topics:Melanoma and Non-Melanoma Skin Cancers メラノーマ・皮膚癌
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原著
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急性骨髄性白血病の分子病態の解析
40巻4号(2013);View Description Hide Descriptionde novo AMLおよびMDS overt leukemia(MDS-OL)の患者から得られた白血病細胞を用い,ABCトランスポーターの一つで薬剤排出機能を有するP-gp,細胞の老化や不死化に関与するテロメレース活性とその責任酵素であるTERT およびテロメア長,増殖関連シグナル蛋白であるSTATs,FLT3 の発現とそのリン酸化について検討した。de novo AML(18例)では,P-gpは11 例,TERTは14 例,STAT3は16 例,STAT5は18 例全例,FLT3は14 例に発現を認めた。一方,MDS-OL(7 例)では,P-gpは3例,TERTは1例,STAT3 は1 例,STAT5 は6 例,FLT3は1 例に発現が認められた。シグナル蛋白のリン酸化は,de novo AMLではSTAT3は14 例中10 例,STAT5は18 例中14 例,FLT3は14 例中10例に認められた。de novo AMLにおいてはSTAT5のリン酸化がP-gp,TERT の発現と相関しており,これら分子の転写に関与していることが示唆された。これに対して,MDS-OL ではSTAT5 は7 例中4 例にリン酸化を認めたが,STAT3 やFLT3のリン酸化は認められなかった。テロメア長はde novo AML で2.7〜6.0 kb まで変動がみられたが,MDS-OL では6 例全例が4〜5 kbの範囲であった。またテロメレース活性は,測定可能であったde novoAMLで5例中4例,MDS-OLで4例中2 例に検出された。MDS-OL とde novo AML では分子病態の違いが示唆され,新規薬剤の開発や分子標的薬の選択において考慮する必要があると考えられた。 -
ソラフェニブを用いた肝がん治療の現状と投薬期間に影響を与える因子の解明
40巻4号(2013);View Description Hide Description2009年7 月〜2011 年4 月までに神戸市立医療センター中央市民病院・消化器内科において,肝がんに対しソラフェニブの投与を開始した患者を対象に,ソラフェニブを用いた肝がん治療の現状とソラフェニブ投薬期間に影響を与える因子について検討した。対象患者21 例中12 例は1 か月以上ソラフェニブを投与することができたのに対し,9 例は1 か月未満で病勢進行・全身状態悪化あるいは重度の副作用発現により中止となっていた。倦怠感,下痢,肝性脳症などの副作用による投与中止の割合は,長期投与群よりも早期中止群で高率であった。しかし,手足症候群による投与中止は両群でわずかに1例のみであった。長期投与群および早期中止群での治療開始時におけるPIVKA-Ⅱの中央値はそれぞれ672.5 および14,203 mAU/mLであり,長期投与群での値は早期中止群に比べ有意に低値であった(p<0.05)。今回の結果から,ソラフェニブの治療継続に影響を与える因子として,ソラフェニブ導入前のPIVKA-Ⅱ値があげられた。また,ソラフェニブ投与初期の副作用対策を重点的に行うことで,投薬期間を延長できると考えられた。今後これら因子を考慮することで,ソラフェニブの治療効果が改善されると考えられた。 -
mFOLFOX6 療法における高アンモニア血症発現リスク因子の検討
40巻4号(2013);View Description Hide DescriptionmFOLFOX6療法施行患者において高アンモニア血症(以下,高NH3血症)が発現した群(以下,NH3群)と発現しなかった群(以下,非NH3群)に分けてリスク因子を検討した。その結果,NH3群は非NH3群よりestimated glomerularfiltration rate(eGFR),リンパ球数,ヘモグロビン値,アルブミン値が有意に低く,NH3群は腎機能低下および栄養不良による骨格筋減少群であることが推察された。また,NH3群におけるアミノ酸分画では尿素が高値を示しており,尿素の排泄遅延が生じていた。フルオロウラシル(5-FU)の代謝産物であるフルオロクエン酸はTCAサイクルのアコニターゼを阻害する。また,腎機能低下による腎臓の尿素トランスポーターの機能低下が尿素排泄遅延を引き起こしていると考えられる。これらのことが二次的に尿素サイクルの機能低下を引き起こし,高NH3血症を誘発しているのではないかと考えられた。
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医事
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地域連携クリニカルパスによる胃癌術後S-1補助化学療法の認容性とアウトカム
40巻4号(2013);View Description Hide Description地域連携クリニカルパス(連携パス)によるS-1 の胃癌術後補助化学療法の認容性とアウトカムを,連携パス導入前と後ろ向きに比較検討した。連携パス導入前の26 例(非連携群)/導入後の18 例(連携群)の再発例を除いた1 年間のS-1の服薬継続率,1 年間S-1を内服できた症例のRP 値70%以上の割合,Grade 3 以上の有害事象発現割合は,それぞれ88.5%(23/26例)/87.5%(14/16 例)(p=0.93),87.0%(20/23 例)/92.9%(13/14 例)(p=0.56),26.9%(7/26 例)/5.6%(1/18例)(p=0.07)であり,両群間に差は認めなかった。当院で併存症に対し処方を行った患者割合は,非連携群/連携群において53.8%(14/26 例)/0%(0/18 例)(p=0.0002)であり,連携群では併存症に対する処方をすべて診療所に移行できていた。さらに,連携群の遠方からの通院患者14 例のうち,9 例(64.3%)において自宅近隣の診療所との連携が可能であった。結語:地域連携パスによるS-1 補助化学療法は認容性があり,併診性のメリットを活用でき,患者の通院距離の負担軽減にもつながっていた。 -
子宮頸がん予防ワクチンの経済効果について―被用者健康保険組合や企業の立場からの検討―
40巻4号(2013);View Description Hide Description目的:被用者健康保険組合による子宮頸がん予防ワクチンの接種費用助成のための意思決定を促すために,被用者健康保険組合ならびに企業への財政影響を推計した。方法:外資系製造業に勤務する20〜34 歳の日本人女性社員および男性社員の配偶者や女児を分析の対象とした。Prevalence-based modelを用いて非接種および接種のシナリオにおける期待費用を推計し,費用便益分析により接種後の10 年間の財政に与える影響を評価した。対象集団において子宮頸がんが発生する割合は,A 社の子宮頸がん患者数にJMDC社のデータを加味し,ベイズ推定法により推定した。死亡率,検診受診率,要精検率ならびに精検受診率などの疫学的パラメータは,国内で入手可能な疫学統計や公表論文より数値を得た。費用項目は,保健関連費用(直接医療費,検診費と精検費ならびに接種費用とした。ただし,副反応関連費用は考慮せず)および間接費用(社員ならびに社員の家族に対する死亡損失費用)とし,国内で入手可能な疫学統計や公表論文より数値を得た。結果:被用者健康保険組合の立場から,保健関連費用に関する検討を行った結果,非接種では10 年間で約1.29 億円の支出が見込まれたが,社員ならびに家族に100%接種させた場合約0.55 億円と支出が約7,300 万円に抑制された。そして,1 人10,000 円の補助費用を必要とした場合,約180万円の損失と推計される。企業の立場から間接費用に関する検討を行った結果,非接種に対して100%接種率の場合,10 年間で約5.63 億円の損失抑制が見込まれた。また,家族の場合損失は約2,600 万円の抑制が見込まれた。感度分析の結果,先の分析結果は保険組合の立場ではワクチン助成費用,ワクチン接種率,そして分析期間に企業および社員家族の立場では死亡損失費用に影響することが示唆された。結論:公費助成の対象者以外の女性に被用者健康保険組合による接種費用助成は,子宮頸がんの発生予防に意義のあることである。またその場合,被用者健康保険組合として10,000円程度の接種補助が妥当と考える。
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症例
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剖検で肝内胆管癌による肺腫瘍塞栓症が明らかになった肺高血圧症の1 例
40巻4号(2013);View Description Hide Description症例は70 歳,女性。約1 か月前より徐々に増強する呼吸困難を主訴に来院した。既往歴は47 歳時胆石症の手術のみで,喫煙歴があった。CT 画像上,気腫性変化と蜂巣肺に加えて両側胸膜直下に浸潤影が認められ,心臓超音波検査にて肺高血圧を認めた。抗生剤治療,ステロイド治療,抗凝固療法を行ったが奏効せず,呼吸不全が進行し人工呼吸管理となったが死亡した。剖検により肝内胆管癌が血行性に広がり,肺動脈枝内に多数の腫瘍塞栓を形成して,重篤な肺高血圧と肺梗塞を来していたことが判明した。 -
自家末梢血幹細胞移植が奏効したPOEMS 症候群
40巻4号(2013);View Description Hide Description患者は44 歳,男性。2010年3 月に両側下腿の浮腫を自覚,6 月から歩行困難となったため,当院に入院となった。精査の結果,多発ニューロパチー,血清vascular endothelial growth factor-3高値,M蛋白血症,浮腫,心嚢液貯留,うっ血乳頭,血小板増加および皮膚病変を認めたため,われわれは本症例をPOEMS 症候群と診断した。9 月よりステロイド剤ならびにフロセミドの投与を開始したところ,浮腫は著明に改善,下肢近位筋の筋力も軽度回復した。しかしながら下肢遠位筋の筋力は改善せず,歩行困難が続いた。10 月にcyclophosphamide 大量療法を行った後,顆粒球コロニー増加因子を用いて末梢血幹細胞採取を行った。11 月にmelphalan 大量療法を施行した後,自家末梢血幹細胞移植を施行した。移植後13 日目に好中球は500 以上に回復した。2011 年2 月には自立歩行が可能となった。8月にはM 蛋白は免疫固定法で陰性化した。自家末梢血幹細胞移植はPOEMS 症候群に対して有用な治療法であるものと考えられる。 -
Modified DCS 療法(Docetaxel plus Cisplatin plus S-1)が著効した84歳の高度進行胃癌の1 例
40巻4号(2013);View Description Hide Description症例は84 歳,男性。CT で偶発的に胃壁肥厚を指摘された。上部消化管内視鏡検査にて胃角部に2 型胃癌(tub2-por2)を指摘された。当科紹介受診後,肝転移および肺転移を指摘され,手術を断念しmodified DCS 療法を開始した。有害事象としてgrade 4(CTCAE v4.0)の好中球減少を認めたが,G-CSF の併用および減量しながら9 コース施行した。原発巣CR,肝転移,肺転移巣はPR を維持しながら化学療法開始後28 か月経過した現在,元気に外来通院加療中である。 -
TrastuzumabとS-1を中心とした化学療法が著効した腹膜転移を伴うAFP 産生胃癌の1 例
40巻4号(2013);View Description Hide Description症例は71 歳,男性。嘔吐の精査で幽門狭窄を伴う進行胃癌と診断され,当科紹介となった。造影CT では膵浸潤,傍大動脈リンパ節転移を認め,血液検査でAFPが1,465.3 ng/mL と高値を示した。切除不能進行胃癌と診断し,胃空腸吻合術を行った。腹腔内全体に著明な腹膜転移を認め,播種巣の病理検査でHER2 が過剰発現を示した。S-1+CDDP+trastuzumabを開始したところ,早期にAFPは7.6 ng/mLと正常化した。その後,S状結腸狭窄に対し人工肛門造設術を施行。以後S-1+DOC+trastuzumabを行い,狭窄が改善したため人工肛門閉鎖術を施行した。腹腔内に播種巣はみられず,瘢痕を認めるのみであった。治療開始後8 か月経過した現在は,外来でS-1+trastuzumab を行っている。腹膜転移陽性胃癌,AFP 産生胃癌はともに予後不良とされるが,今回われわれはS-1 とtrastuzumab を用いた化学療法が著効した1 例を経験したため報告する。 -
上腸間膜静脈リンパ節(14v)に再発を認め再手術にて長期予後が得られた早期胃癌の1 例
40巻4号(2013);View Description Hide Description症例は63 歳,男性。前庭部後壁のⅡc型早期胃癌に対して幽門側胃切除,D1+b 郭清術を施行した。術後5 か月目に腫瘍マーカー値の上昇とともに上腹部に腫瘤が出現し,腹部CT にて上腸間膜静脈の前面に4 cm 大の腫瘤を認めた。上腸間膜静脈に沿うリンパ節(No. 14v)での再発と診断し,他の部位に明らかな再発を認めないことから手術の方針とした。横行結腸とともにリンパ節の切除を行い,術後はS-1+cisplatinを用いた化学療法を5 コース施行した。再手術後38 か月以上経過したが,現在まで新たな再発はなく生存中である。胃癌の再発に対しては一般的に化学療法が第一に選択されるが,限局した再発で切除が可能であれば手術を行うことも選択肢の一つと思われる。 -
胃癌術後S-1補助化学療法中の縦隔リンパ節再発に対する二次治療としてCapecitabine+CDDP 療法が著効した1 例
40巻4号(2013);View Description Hide Description根治術後のpStage Ⅱ/Ⅲ胃癌に対するS-1 の術後補助化学療法が標準治療として行われているが,S-1 内服中の再発に対する治療に関する報告はわずかである。今回われわれは,S-1 内服中の再発に対してcapecitabine+CDDP(XP)療法が奏効した1 例を経験したので報告する。症例は72 歳,男性。2010 年5 月,胃癌に対して幽門側胃切除,D2郭清を施行。S-1 による術後補助療法4 コース終了後に縦隔リンパ節再発を認めた。CDDP+CPT-11療法を2 コース施行したが,治療効果はPD であった。二次治療としてXP 療法を行ったところ,2 コース後に病変の縮小を認め,5 コース後はPR となった。6コース後,腎機能低下を認めcapecitabine(Cape)単剤投与としたが,術後2 年5 か月経過しているがADL を落とさずCape 単剤による外来化学療法中である。 -
Capecitabineが著効した再発大腸癌の1 例
40巻4号(2013);View Description Hide Description今回S 状結腸癌術後多発肝転移,多発脾転移を認めた症例に対し,capecitabine 療法を施行したところ約2 年間にわたりcomplete response(CR)を維持している症例を経験したため報告した。症例は60 代,女性。2005 年8 月,S状結腸癌に対しS 状結腸切除術を施行した後,Leucovorin/5-fluorouracil(LV/5-FU)療法を術後補助療法として2 コース施行した。2008 年2 月,経過観察CT にて多発肝転移,多発脾転移を認めた。そのためFOLFOX 療法を20 コース施行。末ý神経障害を認めたため,FOLFIRI療法に変更した。FOLFIRI 療法を2 コース施行したが著明な吐気,嘔吐,食欲不振にて中止した。その後capecitabine 療法を施行し経過観察したところ,CT 所見上多発肝転移および多発脾転移の消失を認めCR と判断された。以後2 年間にわたりCR を維持している。 -
同種骨髄移植後に急性横断性脊髄炎を合併した急性リンパ性白血病
40巻4号(2013);View Description Hide Description症例は40 歳,女性。分子学的寛解を得たPhiladelphia染色体陽性急性リンパ性白血病に対して,非血縁者間骨髄移植を実施した。day 90 ごろより知覚異常,膀胱直腸障害および下肢筋力低下を認め,MRI所見も含めて急性横断性脊髄炎と診断した。ステロイドパルスおよび免疫グロブリン製剤投与を行い,症状の改善を得た。横断性脊髄炎は運動,知覚および自律神経系に異常を来す炎症性疾患であるが,造血幹細胞移植での合併例は比較的まれである。早期の診断および治療開始が機能的予後に影響するため,移植後の脊髄症には急性横断性脊髄炎を鑑別診断として念頭に置く必要性がある。 -
塩化ストロンチウムによって癌性疼痛が軽減し帰宅できた肺癌患者の1 例
40巻4号(2013);View Description Hide Description塩化ストロンチウム(89Sr)は多発性骨転移の癌性疼痛緩和に使用する放射線性医薬品である。症例は64 歳,男性。肺癌に対して右上葉切除および第6 肋骨切除術を施行された。大細胞癌,pT3N0M0,stage ⅡB であった。3 か月後に局所再発し放射線療法と化学療法を施行した。10 か月後には骨転移による激しい左腸骨部疼痛のため麻薬鎮痛薬で治療するも起居困難となった。長期入院となり14 か月後に89Srを投与。投与1 週間後に疼痛はほぼ消失。2 週間後にモルヒネ点滴終了とフェンタニル貼付剤を減量し食事を開始。3 週間後にリハビリ開始。89Sr投与2 か月後に自宅へ退院することができた。有害事象として2 か月後をピークにgrade 2 の白血球減少,好中球減少,血小板減少を認めた。 -
オキサリプラチン投与時の血管痛に対する加温ならびに温罨法の試み
40巻4号(2013);View Description Hide Description実地臨床では,CapeOXにおけるオキサリプラチン(L-OHP)の血管痛は治療継続の大きな障害となる。そのためわれわれは,看護介入すなわち加温投与ならびに温罨法にてL-OHP による血管痛の予防効果を介入前後で比較した。2010 年1 月〜2011 年1 月に,末梢静脈よりL-OHP の投与を受けた患者15 名総64 コースを評価対象とした。L-OHP は5%ブドウ糖液500 mL に希釈後,2 時間で末梢血管より投与した。血管痛と,血管痛のなかでも症状に応じて疼痛と急性の末梢神経障害に分け比較した結果,血管痛の発現率は対照群72.2%に対し介入群56.5%,疼痛の発現率は対照群38.9%に対し介入群32.6%,急性の末梢神経障害の発現率は対照群54.5%に対し介入群25.8%であり,すべての評価項目とも低下を認めた。以上より,加温投与ならびに温罨法は,L-OHPによる軽度の血管痛の症状緩和に有効である可能性が示唆された。
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薬事
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フェンタニルパッチからモルヒネ注へのオピオイドローテーションの有用性について
40巻4号(2013);View Description Hide Description疼痛コントロール不良のためフェンタニルパッチから塩酸モルヒネ注にオピオイドローテーション(opioid rotation:OR)を実施した症例について,OR 施行前のオピオイドの塩酸モルヒネ注換算量と施行後の塩酸モルヒネ注の至適維持量の差異とその他の影響因子について後方視的に調査した。その結果,対象の9 例のうち8 例においてOR 後の疼痛効果に改善がみられた。また,OR 施行前1 か月間のフェンタニルパッチの増量回数が2 回以上の患者は1 回以下の患者より,施行後の換算量に対する至適維持量が有意に低かった(p<0.05)。このことから,フェンタニルパッチの増量を頻回に行う疼痛コントロール不良例に対して,塩酸モルヒネ注へのOR が疼痛コントロールとオピオイドの減量という両面から有効であると考えられた。
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