癌と化学療法

Volume 40, Issue 6, 2013
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総説
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固形癌に対する寛解導入化学療法
40巻6号(2013);View Description
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いわゆる固形癌に対する基本的標準治療は切除術であるが,進行癌ではしばしば外科的手術のみでは治癒させることはできない。近年,進行固形癌に対して化学・放射線療法を加味した集学的治療が一般的になってきた。寛解導入化学療法(induction chemotherapy)の目的は,術前に化学療法によって原発性局在性の腫瘍の縮小を図って外科的手術を行いやすく,かつ根治的に切除できるようにすることであるが,進行癌の場合はdown stagingにもっていき切除可能とし,さらに化学・放射線療法などを追加することが考えられる。また,抗腫瘍効果の状況から次の治療戦略の構築に役立つであろう。induction chemotherapyに関しては,induction,primary,initial,basal,preoperative,そしてneoadjuvantなどが用いられているが,inductionが適当な用い方ではないだろうか。induction chemotherapyには大別してintra-arterial inductionchemotherapyとsystemic induction chemotherapyとがある。術前動注化学療法ではsystemic に比べて奏効率は20〜30%高いが,生存率は必ずしも延びなかった。動注方法には種々の方法があるが,煩雑でskilled な技術が必要で様々なリスクも多いために一般的には受け入れられず普及していないが,肝癌など一部の腫瘍に対しては試みられている。一方,systemic induction chemotherapyは抗癌剤の改良・進歩が著しく,StageⅡないしはStageⅢの進行癌症例に応用して外科的治療成績の向上がみられている。乳癌症例などでは術後の乳房温存率が高くなることが認められている。しかし,DFSあるいはOSの著明な改善は認められていない。だが,systemic induction chemotherapyにてpCR が得られた症例は著明にDFSの改善が認められている。したがって,術後に補助化学療法の必要性が認められ,術後化学療法を加えることによって延命効果が承認されている。そこで,今やprimary systemic therapyのためのpredictive markerの探索がgenomicあるいはproteomicになされている。これによって初めてpersonalized therapyが可能となり,不必要な薬剤も選別できるであろう。induction chemotherapyによる副作用は薬剤のタイプ・投与量・投与期間などで決まってくるので,十分に注意する必要がある。これからはadjuvant(術後補助化学療法)だけでなく,積極的に術前にinduction chemotherapyを行って抗腫瘍効果を上げて切除にもっていきRO operation をめざすことが大切であり,さらに術後にadjuvant chemotherapy を行うperioperativechemotherapyの時代になっていくのではないだろうか。
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特集
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- 発熱性好中球減少症の診療
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発熱性好中球減少症の病態と診断
40巻6号(2013);View Description
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発熱は「急性期反応」と呼ばれる非特異的な生体防御反応の一つである。生体内に外因性発熱物質が入ると様々なサイトカインが産生され,免疫系賦活とともに体温上昇を引き起こす。わが国のガイドラインでは「腋窩温37.5℃以上」かつ「好中球数が500/mL 未満,もしくは1,000/mL 未満で48 時間以内に500/mL未満に減少すると予測される状態」を発熱性好中球減少症(febrile neutropenia: FN)と定義している。診断に際しては,好中球減少を伴うために症状・所見が明確でない場合が多く,注意深い診察が必要である。初期血液検査では,a) 好中球減少やリンパ球減少の程度,b) 一般的な肝・腎機能,電解質,c) 真菌の血清学的検査,d) 血液培養による菌血症の有無などを確認する必要がある。また,感染症の病巣の同定を目的とした画像診断は重要である。加えて,FN 発症頻度の予測やMASCC スコアを用いた重症化リスクの評価も重要である。 -
発熱性好中球減少症の治療戦略
40巻6号(2013);View Description
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2012年に日本臨床腫瘍学会から発熱性好中球減少症(FN)の診療ガイドラインが発刊された。それを基にFNの治療戦略を,① 経験的治療,②初期治療における抗MRSA薬の併用投与,③重症化したFN 患者に対する治療法,④外来治療,⑤抗菌薬治療の継続期間,⑥初期治療(経験的治療)で解熱したものの好中球減少が持続する場合のその後の治療,⑦ FNが遷延する場合の抗真菌薬の経験的治療の7 項目について考察した。 -
発熱性好中球減少症時のG-CSF製剤投与法―使用の際のヒント―
40巻6号(2013);View Description
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がん化学療法に伴う発熱性好中球減少症(febrile neutropenia: FN)は重篤感染症を引き起こすリスク因子であり,抗がん剤の最大耐用量(maximum tolerated dose: MTD)の決定にも重要な因子となる。また,FN により抗がん剤減量や治療間隔を延長せざるを得ない場合も生じる。それらを防ぐために,G-CSF製剤を投与することは大切である。現在,G-CSF製剤にはフィルグラスチム,レノグラスチム,ナルトグラスチムの3 種類があり,これらG-CSF製剤の特性を把握して使用すべきである。高度骨髄抑制を発症するレジメンでは,初回から予防投与が必要である。その他のレジメンでは,初回がん化学療法において好中球数の推移や感染徴候をきめ細かく観察し,必要に応じてG-CSF 製剤を使用し,次回以降における予防投与について検討する。 -
発熱性好中球減少症診療ガイドラインの概要
40巻6号(2013);View Description
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がん薬物療法を行う場合,最も問題となる dose-limiting toxicity は好中球減少である。好中球減少時に発熱した場合(発熱性好中球減少症: FN),適切な抗菌薬治療を速やかに開始しないと重症化して感染症死する危険がある。アメリカ感染症学会(IDSA)をはじめ,海外からFN の治療および予防に関するガイドラインが公表されている。しかし,記載されている治療薬の用法・用量は必ずしも日本の保険診療に適合していない。日本の日常診療の実態に適したFN の対処方法を明らかにすることを目的に,日本臨床腫瘍学会では「FN 診療ガイドライン」を作成した。その概要を紹介する。FN とは,好中球数が500/mL 未満または1,000/mL 未満で48 時間以内に500/mL 未満に減少すると予想される状態で,かつ腋窩温37.5℃以上(口腔内温38℃以上)の発熱を生じた場合と定義する。FN を発症した場合は,経験的治療として緑膿菌を抗菌スペクトラムに含むb-ラクタム薬単剤の経静脈投与を開始する。FN の抗菌薬治療は,原則として解熱が得られ好中球数が500/mL以上に回復するまで継続する。高リスク患者で4〜7日間広域抗菌薬を投与してもFN が遷延する場合は,抗真菌薬の経験的治療が推奨される。FN の発症率が20%以上(高リスク)のがん薬物療法を受ける患者では,初回がん薬物療法時からGCSFの予防投与が推奨される。
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Current Organ Topics:Central Nervous System Tumor and Glioma 脳腫瘍,グリオーマ
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原著
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進行・再発胃癌に対する化学放射線療法の治療成績
40巻6号(2013);View Description
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遠隔病変のない局所進行・再発胃癌20 例に対して化学放射線療法(CRT)を行った。男性16 例,女性4 例で,局所病変は原発巣11 例,リンパ節転移5 例,吻合部再発4 例であり,17 例で化学療法が行われていた。根治照射が12 例,自覚症状の緩和目的の照射が8 例に行われた。併用する化学療法は低用量CDDP+5-FU 持続投与が4 例,低用量CDDP+S-1内服が16例であった。主な有害事象はgrade 3 の白血球減少,好中球減少および食欲不振であり,75%の症例で化学療法の減量,中止を余儀なくされた。RECISTの評価が可能であった症例は9 例で,CRT による奏効率はCR 1 例(11%),PR 3 例(33%)であった。緩和照射症例のうち吻合部再発4 例中2 例(50%)で狭窄症状が軽快した。奏効した4 例に根治目的に手術を行い,全例で組織学的にわずかな腫瘍の残存が認められ,追加手術の有用性が示唆された。2 年生存率は35%であるが,根治照射群に限ると91%と良好であった。遠隔転移のない進行・再発胃癌に対するセカンドラインの治療法として,CRT は有用であると考えられた。今後,ランダム化比較試験による大規模試験が望ましい。 -
シスプラチン分割投与を受けた肺癌患者でのNK1受容体拮抗薬使用前後の制吐効果の比較
40巻6号(2013);View Description
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NK1受容体拮抗薬であるアプレピタントは,CINV に対する新規作用機序の予防薬として国内外のガイドラインにおいて使用が推奨されている薬剤である。しかしながら,国内の臨床試験ではシスプラチン(CDDP)を一括投与する患者のみを対象として試験を行っているため,分割投与に関するエビデンスは存在しない。そこで今回,CDDP 分割投与の一種であるCIC 療法を行う患者を対象として,5-HT3受容体拮抗薬およびデキサメタゾンの予防投与によりCINV を発現した症例に対し次コースからアプレピタントの追加投与を行い,制吐効果を検討した。その結果,「嘔吐なし」の患者割合が25〜83%と有意に改善し,「悪心のあった日数」についても有意な改善がみられた。以上のことから,CDDP 一括投与症例のみならず分割投与症例においても,これまでの制吐療法にアプレピタントを追加することで,より優れた制吐効果を示すことが示唆された。 -
市販後臨床における進行再発乳癌に対するエリブリン単剤療法の有効性と安全性―単施設の経験―
40巻6号(2013);View Description
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エリブリンメシル酸塩は新規メカニズムによる微小管阻害剤であり,2011 年4 月に本邦で進行再発乳癌に対する適応が承認された。今回,当院でエリブリン単剤療法を行った27例を対象に治療効果と安全性の検証を行い,背景因子別の治療効果につき検討した。多くが高度な前治療歴を有する症例であったが,奏効率25.9%,臨床的有用率29.6%,無増悪生存期間中央値は9.9週であった。毒性はおおむね忍容可能であり,外来での通院治療が可能であった。トリプルネガティブでは治療奏効例を認めず,前治療でのタキサン系薬剤への応答が良好であった症例で,よりエリブリンの奏効率が高かった。relative dose intensityは奏効症例でも低い結果であり,必要に応じた減量・休薬がエリブリン治療の継続に重要である可能性が示唆された。 -
マグネシウム投与による食道癌および下咽頭癌のFP 療法の腎障害予防効果の検討
40巻6号(2013);View Description
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目的: cisplatin(CDDP)施行時にMg 投与を行うことによりクレアチニン・クリアランスの低下を抑制する海外報告があるが,国内におけるMg投与の有用性を検討した報告は限定されている。そこでMg投与によるCDDP の腎障害予防効果について後方視的に検討した。方法: 2010 年6 月〜2012 年5 月の期間に虎の門病院消化器外科に入院し,食道癌および下咽頭癌に対してFP(800/80)療法を行った患者のうち,① 初回化学療法,② 投与量100%,③ 1 コース目の患者を対象とした。本レジメンによるMg 投与以外にMg を含む薬剤を投与されている患者は除外した。Mg は硫酸マグネシウム20 mEqをCDDP 投与直前に点滴静注することとした。day 1(or−1)からday 14 の期間でCr 値が0.5 mg/dL以上の上昇を腎障害と定義した。結果: Mg投与群10 例,非投与群13 例であった。腎障害発現率は,Mg投与群0%(0/10 例),非投与群38.5%(5/13 例)で統計的有意差を認めた(p=0.038)。Mg 投与群と非投与群のFP 療法施行後の最大Cr 値の中央値はそれぞれ0.8 mg/dL,1.3 mg/dL で統計的有意差を認めた(p=0.018)。Mg 非投与群の腎障害の重症度は,gradeⅠ 4 例,gradeⅡ1 例,gradeⅢ以上の発現はなかった。考察:本研究におけるMg投与群と非投与群の腎障害発現率は,国内学会発表と同程度であり,食道癌および下咽頭癌患者に対する初回FP 療法においてMg投与はCDDP による腎障害を有意に予防できる可能性が示唆された。 -
Phase Ⅱ Clinical Trial of High-Dose Toremifene as Primary Hormone Therapy in Aromatase Inhibitor-Resistant Breast Cancer
40巻6号(2013);View Description
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背景: 第三世代アロマターゼインヒビター(AIs)は閉経後乳癌に対するホルモン療法薬として広く用いられているが,AI 投与中または投与後に再発を来した症例に対する治療法は未だ確立しておらず明確な指針はない。方法: AI 投与中または投与後の閉経後再発乳癌症例23 例に対し初期治療としてトレミフェン120 mg/日の経口投与を行い,その効果と安全性を前向き試験にて評価した。結果:奏効率13.0%(partial response 3 例),臨床的有用率78.3%(partial response 3 例,long stable disease 15例),無増悪期間中央値8.1か月であった。Grade 1 有害事象として食欲不振,多汗症,皮膚潮紅と顔面浮腫を認めた。結論:トレミフェン120 mg/日の経口投与はAI耐性再発乳癌に対する一次治療として有効かつ安全であった。 -
胃癌HER2 検査: 一次抗体による陽性率の差違について
40巻6号(2013);View Description
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107 例の原発進行胃癌に対して3 種の抗体(SV2-61g,Dako HercepTest,4B5)を用いたHER2検査を行い,その判定結果を比較した。HER2 検査は免疫染色を先行し,いずれかの抗体でHER2 score 2+と判定されるか,いずれかの抗体間でHER2 score が2 段階以上異なる症例についてはfluorescence in situ hybridization(FISH)解析を行った。各抗体のHER2 score 2+あるいは3+の割合は,SV2-61g で16.8%(18/107),Dako HercepTestで29.9%(32/107),4B5では34.6%(37/107)であり,FISH解析を加えた最終的なHER2 検査陽性率はSV2-61g で14.0%(15/107),Dako HercepTestで19.6%(21/107),4B5 では22.4%(24/107)であった。使用する一次抗体によってHER2検査の結果が異なる場合があり,その要因と今後の課題について考察した。
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症例
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BevacizumabとPaclitaxelの併用療法が著効した進行乳癌の1 例
40巻6号(2013);View Description
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症例は55 歳,女性。左乳房の出血・自壊する腫瘤を主訴に当院を受診した。針生検にて左乳癌(ER+,PgR−,HER2−)と診断,FDG-PET/CT にて多発リンパ節転移,多発肺転移,多発骨転移,肝転移と診断した。bevacizumab とpaclitaxel(PTX)にて治療を開始した。途中で腫瘍の脱落を認めたが,治療を継続することで露出部分の上皮化を認め,残存腫瘍も縮小傾向である。bevacizumab とPTX による治療はOS の有意な改善は認めていないが,本症例のように局所の良好な制御を得ることができ,早期に適用することでQOL の向上を得られるような例では有意義と考えられる。 -
胸骨転移から乳癌が発見された乳癌の1 例
40巻6号(2013);View Description
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症例は32 歳,女性。胸骨部の膨隆および痛みで当院を受診した。左乳房のしこりおよび左腋窩リンパ節の腫大が発見され,胸骨転移を伴う浸潤性乳管癌でT2N1M1(OSS),Stage Ⅳ,ホルモン受容体陽性,HER2陰性と診断された。primary systemic chemotherapyとして,EC およびtaxane療法がそれぞれ4 コース施行された。同時にzoledronic acid が投与された。胸骨溶解病変は石灰化,乳癌腫瘤も縮小し,部分奏効(partial response: PR)と判定された。8 か月後,乳房温存+腋窩リンパ節郭清術が施行された。術後,左乳房と胸骨に放射線治療を追加した。zoledronic acid の投与は継続され,術後ホルモン療法が開始されている。初診から4 年4か月を経過して,胸骨病変は石灰硬化し他部位にも再発をみていない。 -
S-1(隔日投与),VNR,MPA 併用療法が奏効した乳癌多発性肝転移の2 例
40巻6号(2013);View Description
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症例1 例目はStageⅡB(T2,N1,M0)と診断され術後LH-RH アゴニストとタモキシフェン(TAM)を,2 例目はStage ⅢB(T4b,N2,M0)と診断され術後CE 療法を施行した。いずれの症例も,再発後の初回治療としてS-1,VNR,MPAの3 剤併用療法を実施することで,腫瘍マーカーの正常化とともに肝転移巣の著明な縮小を認めた。本併用療法は,重篤な有害事象を認めずQOL を高く維持しながら長期にわたって継続実施可能なことから,転移・再発乳癌患者に対して有用なレジメンであると考える。 -
Trastuzumabが著効し人工呼吸器を離脱し外来通院が可能となったHER2 陽性多発肺転移乳癌の1 例
40巻6号(2013);View Description
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乳癌多発肺転移による呼吸不全のため人工呼吸器管理を要していたが,trastuzumab 単独療法により人工呼吸器管理を脱し,外来通院可能となった1 例を経験した。症例は47 歳,女性。左乳癌にて4 年間,開業医で民間療法を受けていたが,徐々に呼吸状態が悪化し,救急搬送された市民病院で人工呼吸器管理となった。同病院にて胸壁・皮膚浸潤を伴う左乳癌,多発肺転移と診断された。組織診ではinvasive ductal carcinoma,nuclear grade 1(2+1),ER(+),PgR(−),HER2(3+)であった。当院に転院後,trastuzumab単独療法(初回4 mg/kg/weekly,2 回目以降2 mg/kg/weekly)を開始したところ徐々に呼吸状態は改善し,治療開始より53 日後に人工呼吸器を離脱できた。CT 上,肺転移やリンパ節転移は残存しているものの著明に縮小し,胸水も減少していた。trastuzumab単剤を計12 回投与し,治療開始より80 日目に退院した。治療開始から約2 年半経過した現在も,外来にてtrastuzumabと化学療法剤併用療法を継続中である。 -
化学療法中に血清G-CSF 異常高値を伴う出血性小腸転移を来した原発性肺癌の1 例
40巻6号(2013);View Description
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症例は83 歳,男性。2008年5 月より血痰が出現し,精査にて右肺癌(T4N3M0,Stage ⅢB)と診断した。vinorelbine療法を開始したが,効果判定PD であったためUFT 療法およびweekly paclitaxel 療法を継続した。効果判定SD で経過していたが,2010 年5 月から貧血が進行した。便潜血陽性であり,CT 検査で小腸腫瘍を認めた。血液検査では白血球増多,GCSF高値を認め,G-CSF 産生を伴う小腸腫瘍による消化管出血を疑い手術を施行した。近位空腸に出血を伴う8 cm大の腫瘍を認め,腹腔鏡補助下小腸部分切除術を施行した。病理組織学的所見は低分化型腺癌の像を呈し,免疫組織化学染色ではthyroid transcription factor-1(TTF-1)およびcytokeratin 7(CK7)が陽性を示しており,肺腺癌の小腸転移と診断した。術後は貧血の進行なく白血球数も正常範囲内で経過し,化学療法を再開した。その後,腫瘍は徐々に増大し,2011 年になり再び貧血および白血球増多が進行したため緩和ケアに移行し,小腸転移診断から9 か月後に死亡した。 -
S-1単剤治療が奏効したPemetrexed抵抗性肺癌の1 例
40巻6号(2013);View Description
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pemetrexed(PEM)とS-1は,ともにthymidylate synthase(TS)を標的とする殺細胞性抗腫瘍薬である。今回われわれは,PEM 抵抗性ながらもS-1 単剤治療が奏効した肺癌の1 例を経験したので報告する。症例は50 歳台,男性。StageⅢB(T4N2M0)の原発性肺癌(腺癌,EGFR 遺伝子変異陰性)に対する三次治療としてPEMを用いたところ,縦隔の転移リンパ節が増大した。GEMに変更したが,転移リンパ節がさらに増大し血清CEAが増加したため,S-1 単剤による治療(120mg/body/日分2: 4 週間投薬,2 週間休薬)を導入した。6 コースの治療により,リンパ節が縮小しCEAは正常化した。S-1 はPEM 同様,TS を標的としているが,腫瘍細胞が耐性を示す機序は同一ではない。また,S-1 はfluoro-uridine monophosphate(FUMP)を介したRNA の機能阻害作用も有するため,PEM 抵抗性となった場合でも有効な選択肢であり得ると考えられる。 -
Gemcitabine+Erlotinib療法により長期PR 期間が得られた多発性肝転移を伴う膵体部癌の1 例
40巻6号(2013);View Description
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gemcitabine(GEM)+erlotinib 併用の国内第Ⅱ相臨床試験において,295 日の長期PR 期間が得られた多発性肝転移を伴う膵体部癌を経験したので報告する。症例は64 歳,男性。2007 年5 月,上腹部痛と体重減少を主訴として来院した。腹部CT 検査,経皮的肝腫瘍生検の結果,肝転移・腹部大動脈周囲リンパ節転移を伴う進行膵体部癌(Stage Ⅳb)と診断された。GEM+erlotinib投与を開始したところ,6 コース終了時PR と判定され,CA19-9の著減が認められた。17 コース開始時に新病変が確認されるまでの長期間,PR が継続した。GEM+erlotinib 療法は膵癌遠隔転移例に対して,長期予後が期待できる治療法となり得る可能性が示唆された。 -
S-1療法によりFDG-PET で治療効果が得られたG-CSF 産生退形成性膵癌の1 剖検例
40巻6号(2013);View Description
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症例は70 歳台,女性。G-CSF 産生退形成性膵癌(Stage Ⅳb)と診断し,S-1 療法(S-1 alone)を行った。1 コース後のFDG-PET で,病変のFDG 集積は化学療法前に比べ著明に低下していた。S-1 療法2 コース後,治療開始88 日目に癌性胸腹膜炎で死亡した。G-CSF 産生退形成性膵癌は極めてまれで,FDG-PETによるS-1療法の効果判定を行った報告はなく,貴重な症例と考えられた。 -
S-1/CDDP による術前補助化学療法で縮小手術が可能となり巨大リンパ節転移が組織学的CR となったことを確認できた進行胃癌の1 例
40巻6号(2013);View Description
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症例は53 歳,男性。上部消化管内視鏡で胃体中部に胃癌を認め,腹部CT 上最大径72 mm の巨大なリンパ節転移をNo. 3 に認めた。さらにNo. 11pの転移リンパ節は脾動脈に浸潤していた。cT4aN2M0,Stage ⅢBと診断し,術前補助化学療法としてS-1/CDDPを施行した。2 コース終了後,画像診断上有意な転移リンパ節と原発巣の縮小(cPR)を得られたため,D2 郭清を伴う胃全摘術および脾摘出術を施行した。No. 11p の転移リンパ節は脾動脈から剥離可能で膵体尾部は温存できた。摘出標本では肉眼的には潰瘍が残存しており,いわゆるT3(SS)とみえたが,病理所見ではすべてのリンパ節には癌の遺残は認めず,胃病変でも胃の粘膜に極少数の遺残を認めるのみで,術後病理診断はpT1aN0M0,StageⅠAで著明なdown-staging が得られた。S-1/CDDP 併用による術前化学療法は進行胃癌に対する治療戦略として,有用である可能性が示唆された。 -
急激な経過をとったG-CSF産生胃腺扁平上皮癌の1 例
40巻6号(2013);View Description
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症例は60 歳,男性。上腹部痛を主訴に受診。上部消化管内視鏡で胃体下部から前庭部の小弯後壁に易出血性の5 型胃癌を認め,画像所見で傍大動脈・腸間膜リンパ節転移を認めた。生検にて腺癌成分と扁平上皮癌成分の混在を認めた。来院時より白血球数が著明に増多し,血清G-CSF 高値,生検組織の免疫組織染色で腫瘍組織のG-CSF 発現を認めた。以上よりG-CSF産生胃腺扁平上皮癌と診断し,化学療法[DCS(docetaxel/cisplatin/S-1 併用)療法]を1 コース行ったところ原発巣の縮小を認めたが,転移リンパ節の増大を認めた。急激な病状悪化により3 か月の経過で死亡した。 -
イマチニブ100 mg/日投与にて良好なコントロールが得られている再発GISTの2例
40巻6号(2013);View Description
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症例1 は,胃GISTの肝・腹壁転移に対しイマチニブ200 mg/日でPR が得られ,100 mg/日でPR を維持している。症例2 は,空腸GIST の肝転移に対しイマチニブ200 mg/日でPR が得られたが治療中断で再増大し,イマチニブ200 mg/日投与で再びPR が得られ,100 mg/日でPR を維持している。2 症例とも副作用はほとんど認めない。再発GIST に対するイマチニブ投与は,低用量で効果が期待できる症例も少なくない。 -
Bevacizumabを併用したXELOX およびIRIS療法により病勢がコントロールできた著明な肝転移を伴う大腸癌の1 例
40巻6号(2013);View Description
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症例は78 歳,女性。2010年7 月に右側腹部痛のため当院を受診した。大腸内視鏡検査で上行結腸に半周性の1 型進行癌を認め,生検にて高分化型腺癌と診断された。CT 検査では肝右葉はほぼ腫瘍に占められ,左葉内側区,外側区にもそれぞれφ10 cmに及ぶ転移性腫瘍を認めた。Stage Ⅳの大腸癌と診断しXELOX(capecitabine+oxaliplatin)+bevacizumab療法による治療を開始した。9 か月後の評価ではpartial response であった。17 コース施行後には末梢神経障害と手足症候群で継続困難になり,診断13 か月後よりIRIS(irinotecan+S-1)+bevacizumab療法に変更した。その後,stable disease(SD)で経過し,診断24 か月後の評価でもSD を維持している。XELOX やIRIS療法はポート留置や48 時間の拘束から解放されるため,QOL維持の一助となると考えられた。 -
直腸癌局所再発による排便時痛に対して人工肛門造設が著効し抗癌治療を継続した1 例
40巻6号(2013);View Description
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症例は60 歳,女性。2008年8 月に直腸癌に対して低位前方切除術を施行した。術後補助療法を施行したが,肝転移および局所再発が出現した。化学療法および放射線療法を施行したが病状は進行し,2009 年10 月から局所再発による排便時痛が出現した。非オピオイド鎮痛薬およびオピオイドによる疼痛治療を行ったが,しだいに薬物療法に抵抗性となりQOLが低下した。排便時の接触刺激が疼痛を誘発していると考え,癌性疼痛に対する緩和手術として2010 年3 月に人工肛門造設術を施行した。術後は疼痛が改善し,薬物療法は不要となり抗癌治療を再開できた。薬物療法に抵抗性の癌性疼痛に対して,疼痛の誘発因子を除去することが期待できる病態においては緩和手術も考慮されるべきである。 -
FOLFOX 療法後の脾腫に伴う血小板減少に対し腹腔鏡下脾摘術が奏効した進行直腸癌の1 例
40巻6号(2013);View Description
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FOLFOX 療法中,進行する脾腫に伴う血小板減少に対し腹腔鏡下脾摘術を行い,化学療法を継続し得た進行直腸癌の1 例を報告する。症例は56 歳,男性。両側肺転移を有するRbの直腸癌に対し,Hartmann手術施行。術後mFOLFOX6 療法が肺転移巣に対し奏効したが,その間,血小板減少を伴う脾腫が進行した。45 コースで肺転移巣が増大したためFOLFIRI bevacizumab療法に変更し,これも奏効した。しかし,血小板減少を伴う脾腫は改善せず,化学療法継続は困難となった。そこで,脾腫に対し腹腔鏡下脾摘を施行したところ,血小板数の増加が得られ化学療法の再開が可能となった。oxaliplatinは肝類洞障害を起こし,門脈圧亢進により脾腫を来すと考えられている。脾腫を伴う血小板減少に対する腹腔鏡下脾摘は,化学療法の機会を広げることから有用と思われた。 -
Paclitaxelによる眼部の有害事象に関する現状調査と早期発見のための後方視的検討
40巻6号(2013);View Description
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われわれは,日常診療におけるpaclitaxel 投与患者の有害事象として視力障害や流涙などが多いことを実感しているため,その発現状況を調査し初期症状,発現時期などを後方視的に検討した。対象患者22 名のうち8 名(36.4%)の患者で,視力低下や流涙などの眼部の有害事象が発現していた。そのうち3 名(13.6%)については,眼科医によりpaclitaxelとの因果関係が否定できないと診断された。眼部の有害事象が発現した患者群は発現しなかった患者群に比較して,眼疾患の既往または合併のある患者の頻度が有意に高かった。また,眼部の有害事象の発現時期については一定の傾向を示さなかった。本検討から,paclitaxel 投与時における眼部の有害事象は初期症状として視力低下や流涙の訴えが多く,眼疾患の既往または合併を有する患者に対してより注意が必要であることが示唆された。paclitaxel の眼部の有害事象は,骨髄抑制や末梢神経障害などとともに注意すべき有害事象の一つである可能性が示された。
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