癌と化学療法
Volume 40, Issue 8, 2013
Volumes & issues:
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総説
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がん治療における費用対効果(分子標的治療薬を中心に)
40巻8号(2013);View Description Hide Description抗がん剤をはじめとする医療技術は医療の進歩に貢献する一方で,医療費増加の主因とみなされている。医療経済評価は,意思決定者に対して医療資源の効率的な利用法についての示唆を与えることができる。医療経済評価では,複数の代替的な診断・治療技術について費用と効果の両面から比較を行う。用いる効果指標の違いにより,費用最小化分析,費用効果分析,費用効用分析,費用便益分析の4 種類に分類される。費用効用分析は費用対効果の効果指標として質調整生存年(QALY)を用いる。QALYは生存年の変化とQOLの変化の両方を統合した指標であり,QOLの変化については死亡を0,完全な健康を1 とする効用値とによって表す。費用効用分析の結果は,評価対象とした複数の医療技術の費用の差をQALYの差で除した「増分費用効果比(ICER)」によって評価する。費用効用分析は様々な病態や治療法を相互比較できるというメリットがあり,分子標的治療薬についても広く利用されている。
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特集
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- 治せる再発がん・治せない再発がん
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再発胃癌に対する外科的治療―治せる癌と治せない癌―
40巻8号(2013);View Description Hide Description根治術後の再発胃癌に対する治療は困難であり,多くが姑息的治療になるため治せない癌である。しかし,外科的治療を加味した集学的治療によりまれに治癒する再発胃癌が散見される。そこで,各々の再発形式別に外科治療の可能性について検討した。腹膜再発ではP0CY1 やP1(胃癌取扱い規約第12 版)程度では病巣切除を付加することにより治癒する可能性があるが,遠隔転移としての腹膜播種が成立したP2,P3 では制御する治療法がないため臨床試験にて開発中である。異時性肝再発およびNo. 16 再発に対しては原発巣が制御されており,複合因子がなく再発巣が単発または同一区域内に限局した少数個である場合,肝切除またはNo. 16 郭清の適応となり長期生存も期待できる。再発胃癌に対しては根治的切除ができない場合には非手術例と差はなく,根治手術可能な場合にのみ延命効果が期待できる。したがって,再発胃癌の治療は化学療法が中心となるが,根治の可能性がある場合は外科的切除も集学的治療の一選択肢としたい。 -
再発胃癌の標準化学療法と治癒をめざした試み
40巻8号(2013);View Description Hide Description再発胃癌は原則「治らない癌」として全身化学療法の対象とされ,フッ化ピリミジン系とプラチナの併用(HER2 陽性胃癌にはさらにtrastuzumab併用)が標準治療とされる。また,近年のエビデンスの蓄積からsalvage治療の有用性も広く認識されている。しかし実際,長期生存が得られる患者は全体の1〜3%と報告されている。さらなる治療成績の改善をめざして,殺細胞性抗癌剤3 剤併用療法レジメンも検討されている。また,少数例の検討ではあるが肝切除後の長期生存例も報告され,この有用性を前向きに検証する試験も始まっている。胃癌という多彩な病態を示す疾患のなかで治療選択肢の幅が広がり,それぞれの患者に最適な治療戦略が立てられるよう今後の進歩に期待したい。 -
外科治療で治る大腸癌肝転移再発とは?
40巻8号(2013);View Description Hide Description大腸癌肝転移再発において,外科的治療が最適で治癒を期待できる治療である。肝転移の切除のためにスコア化やgrade 分類がなされているが,術前に厳密に画像診断を行い肝切除を行えば治癒が十分に期待できる。肝切除後の残肝再発に対しても早期発見で再切除を行うことで,予後の改善につながる。肝切除の至適最大個数については議論の分かれるところであり,今後の検討課題である。 -
内科的加療により再発大腸癌は治せるか?
40巻8号(2013);View Description Hide Description結腸・直腸癌は本邦において近年増加傾向にあり,その治療は内視鏡治療から外科手術,薬物療法と多岐にわたっている。根治切除後stage Ⅰ-Ⅲの5 年生存率は高いものの,再発した際には約70%が切除不能となる。切除不能再発大腸癌の多くは薬物療法の適応となり,近年分子標的薬の登場によりその効果は大きく改善している。しかしながら薬物療法開始後も,根治的局所再発切除や転移巣切除が行えなかった症例における予後は厳しく,薬物療法あるいは化学放射線療法のみでの病理学的完全奏効(pathological complete response: pCR)や治癒はまれである。現時点では内科的治療のみによって再発大腸癌を完治させることは不可能であり,新たな薬物療法の開発と集学的治療の展開が不可欠である。 -
再発肝細胞癌
40巻8号(2013);View Description Hide Description近年,肝細胞癌に対する肝切除,局所療法の生存率は改善しているものの治療後の再発率は高く,再発後の治療効果が患者の予後を左右する。再発肝細胞癌に対しては初回肝細胞癌に対するのと同じ基準で治療方針を決定することが望ましく,肝機能良好例で3 個以内では再肝切除が推奨される。 -
再発肝細胞癌
40巻8号(2013);View Description Hide Description肝細胞癌は慢性ウイルス性肝疾患に好発することから,スクリーニング対象としての患者群の絞り込みが容易であり,早期発見が可能である。このため根治療法に持ち込めることが多いが,その反面,再発を繰り返すことが特徴である。根治後は,初発時の高危険群に対するサーベイランスと同様の厳重なフォローが必要である。また,再発時には初発時と同様,肝機能を十分に考慮しアルゴリズムに沿った治療選択を行う。 -
前立腺癌で治せる再発癌とは,治せない再発癌とは
40巻8号(2013);View Description Hide Description平均寿命の延長,食事の欧米化,前立腺特異抗原(PSA)検診の普及により,わが国の前立腺癌の罹患数は近年増加している。一方,この10 年で前立腺癌の治療法は大きく進展した。根治療法としてロボット支援手術や強度変調放射線治療,粒子線治療により,制癌効果のみならず排尿や性機能の回復などのQOL も良好とされる。手術後の再発では放射線治療やホルモン療法,放射線治療後の再発ではホルモン療法を行うことで一定の治療効果が得られている。ホルモン療法はすべての病期に適用可能であり,特に転移を有する進行癌の初回治療として用いられることが多い。しかしながら,ホルモン療法後の再発(再燃)は予後不良である。本稿では,前立腺癌の現在の治療法や治療における前立腺癌で治せる再発癌・治せない再発癌について述べる。
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Current Organ Topics:Thorax/Lung and Mediastinum, Pleura Cancer 肺癌 肺癌治療における癌免疫療法の進歩
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特別寄稿
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Nab-Paclitaxelが誘発する乳癌患者の筋骨格系疼痛に対するOxycodone徐放錠の有用性
40巻8号(2013);View Description Hide Descriptionpaclitaxel 製剤は筋骨格系疼痛を引き起こすことがある。痛みの原因は筋肉や関節の損傷によるものではなく,神経障害に起因する可能性が指摘されている。今回,nab-paclitaxel による高度の筋骨格系疼痛が発現した乳癌患者4 例にoxycodone徐放錠を投与し,疼痛強度の改善が認められ,忍容性にも問題はなかった。4 症例とも末梢神経障害の症状は軽微であり,末梢神経障害に対するoxycodoneの予防効果,治療効果も示唆された。oxycodoneは神経障害性疼痛の要素を含む乳癌患者の治療関連痛に対して有効かつ安全に使用できると考えられる。
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原著
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当院におけるHIV 感染合併非ホジキンリンパ腫の臨床的検討
40巻8号(2013);View Description Hide Description対象は2002年4 月〜2012年10 月までの間に当院で診断,治療を行ったhuman immunodeficiency virus(HIV)感染合併非ホジキンリンパ腫8 症例である。症例は全例男性,非ホジキンリンパ腫発症時の平均年齢は46(30〜61)歳であった。組織型はdiffuse large B cell lymphoma(DLBCL)4例,plasmablastic lymphoma(PBL)2 例,primary effusion lymphoma(PEL)1例およびBurkittʼs lymphoma(BL)1 例であった。3例が非ホジキンリンパ腫発症前にHIV感染が判明していた。6 例でhighly active anti-retrovirus therapy(HAART)が施行された。そのうち4 例で化学療法を施行した。化学療法が施行されなかった3 例は診断後1 か月以内に死亡した。化学療法が施行された症例のうち1 例は完全寛解になったが,BK virus関連腎炎により死亡した。残りの3 例は完全寛解となり生存中(6〜9か月)である。HIV感染合併非ホジキンリンパ腫はHAARTを導入し,その後,化学療法を積極的に施行することによって治療成績の向上が期待できるものと考えられた。 -
CDDP 化学療法における吃逆発現因子の探索と制吐療法の評価―クラスター分析を用いて―
40巻8号(2013);View Description Hide Descriptionシスプラチン(CDDP)を含む化学療法の副作用として,高頻度に吃逆が生じることが知られている。その危険因子としては,CDDP 投与量,制吐剤や性別など様々な因子が報告されている。しかし,制吐薬適正使用ガイドライン(以下,ガイドライン)に推奨されている,アプレピタント(APR),セロトニン3(5-HT3)受容体拮抗薬,ならびにデキサメタゾン(DEX)の3 剤併用療法(以下,3 剤併用療法)施行時の吃逆発現因子についての統一された見解は得られていない。本研究では,CDDP を含む化学療法を受けた患者229 例についてクラスター分析を行い,対象を系統分けすることで,3 剤併用療法施行時に伴う吃逆の発現因子について調査した。また,ガイドライン制定前の高用量DEX と5-HT3受容体拮抗薬による制吐療法(以下,2 剤併用療法)施行時と3 剤併用療法施行時との吃逆発現率ならびに制吐効果について比較・検討を行った。その結果,高用量CDDP(≧70 mg/m2)投与患者における吃逆発現率は,3 剤併用療法施行時が2 剤併用療法施行時に比べ低かった。一方,制吐効果については,3 剤併用療法が2 剤併用療法に比べ高かった。本研究から,高用量CDDP 投与時においてガイドラインに推奨されている3 剤併用療法施行時のAPR 併用は,吃逆発現に影響しないことが示唆された。また,制吐療法として3 剤併用療法は2 剤併用療法よりも有効であることが示された。 -
Opioid導入時の制吐薬としてのProchlorperazineとPerospironeの制吐作用と錐体外路症状についての比較検討
40巻8号(2013);View Description Hide Descriptionopioid による悪心の予防としてしばしばprochlorperazine が使用されているが,prochlorperazine は錐体外路症状を生じることが問題となる。錐体外路症状が生じると患者の苦痛は著しく,生命に危険を及ぼすこともあるため,その発現率を知り対策を考えることは重要である。本研究の目的はoxycodone 徐放錠10 mg/day でopioid を開始する時に,予防的な制吐薬としてprochlorperazine あるいはperospirone を用いた場合の悪心・嘔吐と錐体外路症状の発現率を調査し,両薬剤の有用性について比較検討することである。2007 年5 月〜2008 年9 月の間に当センター緩和ケア科医師が診療を行ったがん患者のうち,入院または外来でoxycodone 10 mg/day 開始と同時にprochlorperazine(10 or 15 mg/day,経口投与)またはperospirone(4 or 8 mg/day,経口投与)を開始された患者を各群50 名,合計100 名を連続的に対象とし,後ろ向きのカルテ調査を行った。opioid 開始後1 週間以内の悪心・嘔吐および投与期間中の錐体外路症状の発現率について評価した。その結果,悪心・嘔吐の発現率はprochlorperazine群8.0%,perospirone群が4.0%であり,統計学的な有意差は認めなかった。一方,錐体外路症状の発現率はprochlorperazine 群で14%にみられたのに対し,perospirone 群では認めず有意差がみられた。さらにprochlorperazine 群による錐体外路症状は全例アカシジアであり,1 週間以内に出現していた。本研究の結果から,がん患者における制吐薬としてprochlorperazineを使用する際にはアカシジアを見落とさないよう十分留意すること,さらに代替薬としてperospironeなどの非定型抗精神病薬を使用することが有用である可能性が示唆された。 -
Survey on the Incidence and Management of Pseudomyxoma Peritonei in Japan
40巻8号(2013);View Description Hide Description目的:腹膜偽粘液腫(PMP)は,粘液性腫瘍の腹腔内播種によって大量の腹水が貯留するまれな病態である。最近,Sugarbakerによって根治的切除と腹腔内化学療法がPMPに対する標準治療として確立された。この研究の目的は日本におけるPMPの頻度と治療内容について調査することである。方法:消化器外科,婦人科の1,084施設を対象に,2006〜2010年までのPMP症例に関するアンケート調査を行った。結果: 379 施設から回答を得た(回収率: 35%)。1 施設当たり5 年間で経験した広範囲PMPの症例数は0.78であった。広範囲PMP 266 例のうち,232 例(87.2%)に手術が,138 例(51.9%)に化学療法が行われた。しかし,完全切除は手術を行った232 例のうち31 例(13.4%)のみ,腹腔内化学療法は化学療法を行った138例のうち45 例(32.6%)のみであった。結論: 今回のデータは限られているが,PMPが日本においても欧米の報告と同程度にまれであること,Sugarbakerの根治的治療法はわが国では広く受け入れられていないことが示唆された。
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調査研究
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アンケート調査による外来がん化学療法に伴う味覚異常の発生に関する検討
40巻8号(2013);View Description Hide Descriptionがん化学療法は様々な副作用が出現することが知られている。そのなかでも味覚異常は患者からの訴えが多い副作用であるが,その実態については未だ不明な点が多いのが現状である。そこで今回われわれは,外来がん化学療法施行患者における味覚異常の発現状況を明らかにするためアンケート調査を行った。対象は2010 年6 月〜2012 年2 月までに独立行政法人国立病院機構四国がんセンターにおいて外来がん化学療法を施行した患者356 名である。対象患者のうち味覚異常ありと回答があったのは156 例(43.8%)で,男女比は34:122 であった。レジメン別ではoxaliplatin+5-FU(FOLFOX6),docetaxel(DTX),paclitaxel(PTX),docetaxel+cyclophosphamide(TC),epirubicin+cyclophosphamide(EC)で高頻度に味覚異常の発現がみられた。味覚異常の発生は1 サイクル目から認められ,発生時期は抗がん剤投与後1 週間以内とした症例が60.3%と最も多かった。次に,味の感度については塩味,うま味が鈍感になると回答した症例が多くみられたが,二つ以上の味で変化したと回答した症例が87.2%であり,多彩な症状を呈すると考えられた。また,味覚異常が食欲に与える影響では104例(66.7%)の症例で味覚異常により食欲が低下したと回答しており,味覚異常の発生が患者のQOL を著しく低下させる可能性があることが示唆された。以上のことから,味覚異常は外来がん化学療法施行患者の約半数で発生していることが明らかとなり,がん化学療法を行っていく上で十分に留意すべき副作用であると考えられた。また,味覚異常の発生に際しては服薬指導や栄養指導など患者サポートが重要であるとともに,その治療法および対策を確立する必要があると考えられた。
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症例
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p53染色陽性を呈した形質転換濾胞性リンパ腫に対してRituximab併用Bendamustine療法が奏効した1 例
40巻8号(2013);View Description Hide Description濾胞性リンパ腫(follicular lymphoma: FL)から形質転換したp53 陽性リンパ腫に対してrituximab 併用bendamustine(BR)療法が奏効したので報告する。症例は64歳,女性。2007 年7 月に右下腹部痛・体重減少のため初診となり,末端回腸の腫瘤と頸部・縦隔・腹部リンパ節腫脹を認めstage ⅣのFL と診断した。rituximab 併用CHOP 療法により完全寛解(CR)を得たが,2 年半後に縦隔リンパ節に再発した。ibritumomab tiuxetanでCR を得たが,その10 か月後に胃粘膜下腫瘍として再発した。胃粘膜下腫瘍の生検でびまん性大細胞型への形質転換を確認し,リンパ腫細胞はCD20 とp53 染色はともに陽性であった。局所放射線照射を行ったが,2011 年9 月に腹部大動脈・腸骨動脈周囲リンパ節腫脹を認めた。p53欠失B細胞性腫瘍におけるbendamustineの有効性が示されており,本症例にBR 療法を施行したところCR が得られた。 -
小細胞肺癌患者におけるセロトニン症候群の1 例
40巻8号(2013);View Description Hide Description症例は67 歳,男性。うつ病のため数年前よりフルボキサミンマレイン酸塩150 mgで治療していた。X年8 月より右上肢腫脹と呼吸困難を主訴に来院。精査の結果,進展型小細胞肺癌(T4N3M0),stage ⅢBと診断された。10 月1日よりカルボプラチン/エトポシド(CBDCA/VP-16)療法を1コース施行した。腫瘍の縮小と胸水の消失,上大静脈症候群が軽快したため,10 月23日よりシスプラチン/イリノテカン(CDDP/CPT-11)療法に変更となり,11 月22 日に3 コース目を開始したところ,投与後4日目に不安,振戦を認めた。投与後38 日目に不安と振戦が増強し,ミオクローヌスよりセロトニン症候群と診断されフルボキサミンマレイン酸塩を中止とした。中止後に症状は改善し,4コース目が施行可能となった。本症例はCDDP 投与によりセロトニン分泌が促進され,serotonin selective reuptake inhibitor(SSRI)により脳内のセロトニンが過剰に増加した結果,セロトニン症候群を惹起した可能性が示唆された。 -
肺癌と鼻腔癌の重複が疑われた1 例
40巻8号(2013);View Description Hide Description症例は77 歳,男性。2011年9 月に腰痛を認め当院受診。精査にて肺内と鼻腔に腫瘤を認めた。両部位での生検を施行し高分化型扁平上皮癌の診断となった。鼻腔の腫瘤に対しては放射線治療(36 Gy)を施行し著明な縮小効果が得られた。原発巣の同定が困難であったため肺癌と頭頸部癌の両者に有効とされるdocetaxel による化学療法を行った。その結果,肺内の結節において治療効果の解離がみられ重複癌が示唆された。腺癌領域における原発巣の同定に有用な免疫染色マーカーは扁平上皮癌においてはないのが現状である。本症例は化学療法における治療経過から重複癌であることが類推された症例である。 -
エクソン19とT790Mを有したがゲフィチニブ・エルロチニブにより初回・二次治療ともに奏効した肺腺癌の1 例
40巻8号(2013);View Description Hide Description症例は83 歳,女性。胸部X 線で右下葉に腫瘤陰影と胸水を認めた。胸水細胞診より肺腺癌(Stage Ⅳ多発肺内転移)と診断し,EGFR 遺伝子変異はエクソン19 欠失変異とT790Mの両者を認めた。2011 年3 月より初回治療として,ゲフィチニブの投与を行った。胸水の減量と腫瘍マーカーの改善を認め,13 か月の投与を行った。その後胸水の増量と肺内転移の増悪を認め,2012年5 月からエルロチニブに変更した。変更後,肺内転移の縮小を認め現在も投与継続中である。 -
肺癌小脳転移に対しCyberKnife®による定位放射線治療を行ったOncology Emergency症例
40巻8号(2013);View Description Hide Description背景: 小脳転移は,時に失調や眩暈などの症状や第4 脳室の圧排による水頭症を引き起こし,緊急的な治療が必要となる。今回,緊急に定位放射線治療を行い,腫瘍の縮小や症状の改善を認め,化学療法が施行可能となった症例を経験したので報告する。症例1: 58 歳,男性。2008年12 月小細胞肺癌と診断され,前医にて化学放射線治療が施行された。2010 年3 月より歩行困難,嘔気が出現。前医の頭部CT 検査にて小脳虫部に腫瘍性病変を認め,当院紹介。速やかにCyberKnifeによる定位放射線治療を行い,症状の改善を認めた。小細胞肺癌再発と考え,引き続き化学療法を行った。症例2: 73 歳,女性。2010年7 月に激しい頭痛と眩暈,歩行困難が出現。前医を受診し,左小脳半球に腫瘤性病変を認め,当院入院。胸部X線検査にて左中肺野に腫瘤影を認め,喀痰細胞診より肺扁平上皮癌と診断。速やかにCyberKnifeによる定位放射線治療を行い,症状の改善を認め,引き続き化学療法を行った。結論: CyberKnife による定位放射線治療は侵襲が少なく,緊急時においても一つの治療選択肢であると考えた。 -
テガフール・ウラシル内服により完全寛解が得られた肝細胞癌肺転移の1 例
40巻8号(2013);View Description Hide Description症例は70 歳台,男性。肝細胞癌(HCC)にて肝左葉切除術を施行したが,術後3 か月目より肝内再発を認め,術後6か月目には肝内再発とともに多発肺転移が出現した。肝内病変に対しては肝動脈塞栓化学療法(TACE),ラジオ波焼灼療法(RFA)を施行し,多発肺転移に対してはテガフール・ウラシル(UFT)(300 mg/day)投与を開始した。UFT 投与開始4 か月後,多発肺転移巣は消失し,腫瘍マーカーも正常化した。2 年後に残肝再発を来したため,肝部分切除術を施行した。現在UFT 投与開始から4 年経過したが,肺転移についてはCR を維持している。遠隔転移を伴うHCC の治療成績は不良であるが,本症例のようにUFT 内服治療が奏効する例も存在するため,選択肢の一つであると考えられた。 -
根治切除と肝動注補助化学療法にて術後8 年間無再発生存中の進行胆嚢癌の1 例
40巻8号(2013);View Description Hide Description症例は60 歳台,女性。2003年12 月より心窩部痛にて近医を受診され,胆石胆嚢炎と診断された。開腹胆囊摘出術を施行され,術後病理診断にて胆囊癌と診断された。病理診断にて肝浸潤が疑われたため追加手術目的にて当院紹介となり,2004 年2 月に追加切除を行った。術後病理組織診では切除肝被膜直下に癌細胞の増殖を認めた。進行胆囊癌肝転移に対して根治術とlow-dose FP 療法による肝動注補助化学療法を施行し,術後8 年間無再発生存中である症例を経験した。補助療法として肝動注療法を行い,かつ癌遺残なく根治手術を施行し得たことが長期間無再発生存中の一助であった可能性が示唆された。 -
乳癌胃転移,癌性腹膜炎に対しステント留置,ゲムシタビン投与を行いQOL を改善し得た1 例
40巻8号(2013);View Description Hide Description症例は73 歳,女性。左乳癌術後1 年で骨転移を来しホルモン療法を施行していた。術後7 年で心窩部不快感が出現し,内視鏡にて胃皺壁の巨大化と胃角から幽門に及ぶ狭窄を認めた。当初原発胃癌が疑われたが,内視鏡再検,画像所見から乳癌胃転移と診断した。その後,飲水困難となったため消化管ステント留置を行った結果,少量の経口摂取が可能となった。同時期より腫瘍マーカー上昇と黄疸の出現があり,癌性腹膜炎に伴う胆道狭窄と診断した。内視鏡的,経皮的減黄を試みたが施行できず,黄疸増強,腹水増加がみられ,全身療法としてゲムシタビンを投与したところ黄疸は消失,腹水も減少し退院可能となった。乳癌胃転移は経口摂取困難や嘔吐などQOL の低下がみられ,癌性腹膜炎の合併頻度が高く予後不良である。今回,低侵襲な消化管ステント留置により経口摂取が可能となり,その後ゲムシタビン投与が奏効しQOLを改善し得た1 例を経験したため報告する。 -
Docetaxel/Cisplatin/S-1+Trastuzumab療法が著効した食道胃接合部癌の1 切除例
40巻8号(2013);View Description Hide Description症例は51 歳,男性。2011年9 月よりつかえ感を自覚し,2012 年1 月に近医で食道病変を指摘された。2 月に当科紹介となり,食道胃接合部腺癌,EG,2 型,cT3,cN2(No. 3,7,8a),cM0,cStage Ⅲと診断した。docetaxel/cisplatin/S-1+trastuzumab療法を2 コース行い原発巣,リンパ節ともに著しい縮小効果を得た。5 月,左開胸開腹下部食道胃全摘術を施行した。病理組織学的には,病変中心部の食道粘膜下層から固有筋層にかけて6 mm大の癌蜂巣を認めるのみであった。低分化腺癌,pT2,pN0(0/40),ly0,v0,pStage Ⅱ,治療効果はGrade 2 と診断された。術後は大過なく経過し,第15 病日に軽快退院となった。本レジメンによる術前化学療法は,HER2 陽性の進行食道胃接合部癌に対する集学的治療の重要な選択肢である。 -
S-1/Docetaxel併用療法にて同時性肝転移が病理学的完全奏効となった胃癌の1 例
40巻8号(2013);View Description Hide Description症例は68 歳,男性。右下腹部痛を主訴に来院し,精査の結果,胃癌および多発転移性肝癌と診断された。全身化学療法としてS-1/docetaxel併用療法(1コース=28 days,S-1 120 mg/body day 1〜14,docetaxel 35 mg/m2 day 1,day 15)を4 コース行ったところ肝転移がPR となり,新たな病変の出現を認めなかった。原発,肝転移巣を含めて完全切除が可能であったため,本人と相談の上,化学療法開始から27 週目に胃全摘術および肝部分切除術を施行した。主病変の化学療法の効果判定はGrade 1bであったが,肝病変は癌細胞の遺残を認めない病理学的CR の状態であった。術後228 日目となるが現在無再発生存中である。 -
抗凝固薬としてダビガトランを使用し安全にmFOLFOX6 療法を施行できた進行大腸癌の1 例
40巻8号(2013);View Description Hide Description症例は77 歳,男性。大腸癌多発肝肺転移と診断され原発巣切除術,D3郭清が施行された。また,慢性心房細動を合併していたため抗凝固療法において当初ワーファリンカリウム(ワーファリン®)を使用したが,化学療法としてフッ化ピリミジン系抗悪性腫瘍薬(5-fluorouracil: 5-FU)の投与が必要であったためダビガトランエテキシラート(ダビガトラン)に変更し抗凝固療法を開始した。投与後凝固能の過度な低下や合併症は認められず,安全に化学療法を継続することができた。ダビガトランはワーファリン®と異なり腎排泄であるため,5-FU との相互作用を示すことなく安全に抗凝固療法を施行することが可能である。今後,フッ化ピリミジン系抗悪性腫瘍薬を使用する癌患者に対しては第一選択の抗凝固薬となる可能性が考えられた。 -
FOLFOX4/Bevacizumabが奏効したS 状結腸粘液癌による播種性骨髄癌腫症の1 例
40巻8号(2013);View Description Hide Description症例は68 歳,男性。腰背部痛の精査で播種性骨髄癌腫症を伴うS 状結腸粘液癌と診断した。disseminated intravascular coagulation syndrome(DIC)を併発し,DIC 治療と並行してFOLFOX4 の投与を2 コース施行。DICの改善を確認し,bevacizumabを追加併用して治療を継続した。治療前CEA 11,432 ng/mL であったが,計9 コース施行後CEA 245 ng/mLまで低下し,QOLも改善した。現在発症後6か月の経過であるが治療継続中である。 -
手術治療および化学療法により長期生存している大動脈周囲リンパ節転移を伴うS 状結腸癌の1 例
40巻8号(2013);View Description Hide Description症例は66 歳,男性。前医で大動脈周囲リンパ節に転移を伴うS 状結腸癌に対し,S 状結腸切除D1郭清術を施行した。術後化学療法で腫大した大動脈周囲リンパ節は画像上消失した。しかしNo. 252,No. 273 lt に再発リンパ節を認め,化学療法でSD の状態が継続するため外科的に切除を施行した。術後化学療法を施行していない状態で,約2 年再発なく経過している。化学療法および再発リンパ節の切除により長期生存している大動脈周囲リンパ節転移を伴うS 状結腸癌を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。 -
FOLFOX・Bevacizumab療法が著効を示した多発肝転移による高度黄疸のある進行直腸癌の1 例
40巻8号(2013);View Description Hide Description症例は64 歳,男性。倦怠感と黄疸を主訴に当院へ紹介された。多発肝転移を伴う進行直腸癌で,生検では中分化型腺癌でKRAS 変異は認められなかった。治療開始直前の血清総ビリルビン値は15.6 mg/dL と高値であったため,5-fluorouracilとoxaliplatinを標準量の80%に減量した上で,直ちにmFOLFOX6 療法を開始した。4コース終了時に血清総ビリルビン値は2.3 mg/dL まで低下し,以後は標準量としbevacizumab(5 mg/kg)を追加して,さらに3 コース投与して血清総ビリルビン値は0.8 mg/dL と正常化した。明らかな有害事象はなく就業も再開して良好なQOL を維持することができた。 -
長期無症状生存中の癌性腹水を伴うS 状結腸リンパ節転移を来した原発不明癌の1 例
40巻8号(2013);View Description Hide Description症例は63 歳,男性。S 状結腸間膜の腫瘍に対し開腹手術を施行。癌性腹水を伴っており,姑息的にリンパ節を含むS状結腸を切除した。病理診断では低分化型腺癌であった。病理学的にも臨床的にも原発は特定できなかったが,免疫染色にてCA19-9 が陽性を示したことなどを総合的に判断し,膵癌に準じた治療を行うこととした。gemcitabine をベースとした化学療法で術後24 か月間無症状,無再発で経過したが,尿管剥離面より局所再発を来したため,paclitaxel+carboplatinに切り替え治療を継続した。しかし術後38 か月でprogressive disease(PD)となり以後無治療にて経過観察しているが,術後48 か月現在無症状にて生存中である。原発不明癌の原発巣推定,治療方針の決定に免疫組織化学的検索が極めて有用であり,予後不良群の原発不明癌に対しても腫瘍減量手術と適切な化学療法の選択にて,長期生存を得られる可能性があることを示唆する症例である。
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介護
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在宅ホスピスケアにおける統合失調症を有する家族への支援
40巻8号(2013);View Description Hide Description末期がん患者を介護する家族形態は様々であり,そのケアはあくまで個別的でなければならない。統合失調症を抱える家族が末期がん患者を在宅で看取る場合,家族に精神的な負担が大きくかかると予測されるためケアを提供するチームには特別な配慮が求められる。このような視点に立ち,統合失調症の家族をもつ二人の末期がん患者について在宅緩和ケアの経過を振り返り,統合失調症を有する家族のケアの重要なポイントを検討した。その結果,通常の在宅緩和ケアよりも濃厚な内容のdeath education,かかわるチームメンバーの拡大とより緊密な連携をとる形のチームアプローチ(精神科医の参加,介護サービスとの連携など),さらに看取る家族の精神状態を経過中継続して評価し必要なケアを行うこと,在宅での看取りに関する本人と家族の意思確認,死別期における家族ケアを専門家につなぐことなどの重要性が示唆された。これらの結果は今後,統合失調症を有する家族に在宅ホスピスケアを提供する際,一つの指標になると考えられた。
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