癌と化学療法
Volume 40, Issue 9, 2013
Volumes & issues:
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総説
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がん治療とリハビリテーション
40巻9号(2013);View Description Hide Description超高齢化社会となったわが国においてがん罹患者数およびがん生存者は年々増加しており,がん患者に対するリハビリテーションの必要性も増している。がんのリハビリテーションにはその病期に応じて予防的,回復的,維持的,緩和的の四つの段階がある。進行したがん患者に対してもQOL 維持のためのリハビリテーションの適応がある。がんによる障害の例としては,脳腫瘍(脳転移)に伴う片麻痺・高次脳機能障害,脊髄・脊椎腫瘍(脊髄・脊椎転移)に伴う四肢麻痺・対麻痺,腫瘍の直接浸潤による神経障害,外科治療後の合併症,化学療法後の末梢神経障害,放射線療法後の嚥下障害などがあげられる。障害やリハビリテーションに伴うリスクを的確に把握することが重要である。
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特集
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- 免疫療法の新展開
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がん免疫療法の歴史と新展開−特集に当たって−
40巻9号(2013);View Description Hide Description過去半世紀,がん免疫療法は期待と衰退の歴史を繰り返してきたが,今また世界的に注目されている。2010年以降,米国を筆頭に次々と新規免疫療法が承認され,第四のがん治療として認知された。この背景には,基盤的な免疫学の理解と,その科学的根拠に基づく探索的臨床試験の展開および免疫療法ならではの検証的臨床試験デザイン,すなわち腫瘍縮小にとらわれない生命予後を指標とした臨床評価,これらの進歩があった。本特集を一読いただき,がん免疫療法の進歩と近未来に迫る大きな潮流,がん治療の革新の息吹を感じていただきたい。 -
抗CTLA-4 抗体Ipilimumab
40巻9号(2013);View Description Hide Descriptionipilimumab(MDX-010,BMS-734016)は活性化T 細胞に発現している負の補助刺激受容体human cytotoxic Tlymphocyte antigen 4(CTLA-4,CD152)に特異的な完全ヒト型免疫グロブリン(IgG1k)である。CTLA-4の阻害は腫瘍に対する免疫応答を増強し,持続的な抗腫瘍効果を発現すると考えられている。実際,ipilimumabはメラノーマを対象とした二つの海外第Ⅲ相試験において,全生存期間の有意な延長を示した。その結果,ipilimumab はメラノーマ患者に対しsurvival benefitを証明した初めての薬剤として2011年に欧米で承認(Yervoy TM)され,現在,世界40 か国以上で実臨床に用いられている。本邦ではメラノーマ,肺癌,胃癌を対象に臨床試験が進行中である。ipilimumabはこれまでに13,000 例以上の癌患者に投与されており,癌に対する免疫療法としての位置付けが確立されつつある。本稿ではipilimumabの作用機序,有効性および安全性の特徴を紹介し,さらに今後の課題などについても述べてみたい。 -
抗PD-1抗体:基礎と臨床応用
40巻9号(2013);View Description Hide Descriptionこれまで種々のモノクローナル抗体を用いた癌治療が試みられてきたが,T細胞を標的とした免疫療法に関しては余りよい成績が得られていなかった。最近になって,PD-1シグナル経路を遮断することにより,癌に対する免疫反応を惹起する試みが注目を集めている。T 細胞上に発現するPD-1はCD28スーパーファミリーに属する受容体であり,そのリガンドであるPD-L1 あるいはPD-L2 と会合することにより負の副刺激シグナルを誘導する。これまでの研究から,PD-1 システムは自己免疫,移植免疫,感染免疫,癌免疫の制御に関与していることが示唆されている。PD-1 とそのリガンドとの相互作用は,末梢においてキラーT 細胞応答のエフェクターフェーズで起こるため,抗PD-1抗体や抗PD-L1抗体はT 細胞の癌応答性を増強するには理想的な薬剤といえる。PD-1システム遮断の特徴は,リンパ節内でT 細胞のプライミング応答の際に重要な役割を果たすCTLA-4シグナルを遮断する手法と比較して,重篤な副作用がでにくいことである。最近発表された第Ⅰ相臨床試験の結果によると,抗PD-1 抗体投与により悪性黒色腫,腎臓癌,非小細胞肺癌で,また抗PD-L1抗体投与により悪性黒色腫,腎臓癌,非小細胞肺癌,卵巣癌で奏効性が確認された。今後,PD-1 を標的とした癌免疫療法を確立するために,バイオマーカーによる患者選択基準の標準化と養子免疫療法との組み合わせなどが重要な研究課題となる。 -
抗CCR4 抗体と制御性T 細胞
40巻9号(2013);View Description Hide Description進行または再発がんの予後は不良であり,これまでの外科,放射線,化学療法に次ぐ新規がん治療法の開発が求められている。ヒト化抗CCR4 モノクローナル抗体(モガムリズマブ,ポテリジオ(R))は,脱フコシル化技術により飛躍的に高められたADCC 活性によって,CCR4+細胞を除去することができる抗体薬である。種々のヒト固形がんにおいて制御性T 細胞(regulatory T cell: Treg)は,抗腫瘍免疫を抑制している可能性が指摘され,このTreg細胞表面にCCR4分子が発現していることが明らかとなった。その結果に基づいて,現在これらCCR4+ Treg細胞をヒト化抗CCR4 モノクローナル抗体で除去し,抗腫瘍免疫の抑制を解除することを目的としたがん免疫療法の開発が行われている。
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Current Organ Topics:Upper G. I. Cancer 食道・胃癌
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原著
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再発乳癌に対するS-1とCyclophosphamide逐次療法の第Ⅰ相臨床試験
40巻9号(2013);View Description Hide Description再発乳癌に対するS-1とcyclophosphamide(CPA)を用いた逐次療法レジメの確立をめざし,S-1 の至適用量決定と安全性および有効性を検討した。12人の再発乳癌患者が登録され,S-1(40〜80 mg/m2)を14 日間,その後CPA(100 mg/body)を14日間投与した。28 日間を1 コースとし,2コースでの投与制限毒性(DLT)を検討し,推奨用量(RD)を決定した。S-1を40〜80 mgまで4段階に増量したがDLT は認められず,S-1(80 mg/m2)をRDとした。奏効率は50%であった。以上より,再発乳癌に対するS-1およびCPAの逐次療法は安全かつ有効であり,S-1 のRD は80 mg/m2と決定された。 -
大腸癌におけるPregabalinのOxaliplatin起因性末梢神経障害に対する効果
40巻9号(2013);View Description Hide Description進行・再発大腸癌でoxaliplatin 投与中もしくは投与歴のある末梢神経障害を認める13 症例につき,pregabalin 投与前後でのGrade を比較検討した。13 例とも一次治療もしくは術後補助療法にoxaliplatin を投与していた。使用レジメンはmFOLFOX6 が3 例,CapeOX が10 例であった。平均投与回数はFOLFOX 8 回,CapeOX では5 回であった。pregabalin投与時の末梢神経障害はGrade 3 が2 例,Grade 2 が8 例,Grade 1 が3例であり,平均投与量は237(150〜450)mg。投与後はほぼ2 週間以内に効果が認められ,改善を認めたものは8 例(61.5%)であった。副作用は肝機能異常1 例,眠気1 例,ふらつき2 例,下痢を1 例認めたが,いずれも軽度であった。今回の検討では,pregabalinはoxaliplatin使用後の末梢神経障害に効果があり,oxaliplatinの長期使用を可能にすることが示唆された。 -
外来化学療法施行中の大腸がん患者に対するMalnutrition Universal Screening Tool(MUST)を用いた栄養評価
40巻9号(2013);View Description Hide Description目的: 外来化学療法施行大腸がん患者の栄養状態をmalnutrition universal screening tool(MUST)を用い調査し,その有用性や有害事象との関連性を検討した。方法: 2010 年4〜12 月までの外来化学療法を施行している進行・再発大腸がん患者34 名を対象とし,MUST,有害事象発現率について調査した。結果:栄養療法の介入が必要なhigh-risk 患者は16 名(47.1%)であり,high-riskでは体重,body mass indexが有意に減少した。有害事象発現率は食欲不振,倦怠感において,low-riskに比べhigh-risk では有意に増加した。考察:有害事象の予防対策を行うことで栄養状態の悪化を防ぐと考えられ,外来化学療法患者に対しても積極的な栄養評価を行うことが必要である。また,MUSTは外来化学療法患者の栄養管理上,非常に有用な簡易栄養スクリーニング法であることが示唆された。 -
OxaliplatinおよびPaclitaxelによる末梢神経障害に対するPregabalinの有効性と安全性の検討
40巻9号(2013);View Description Hide Description岩手医科大学附属病院において2011 年4 月〜2012 年7 月の期間にoxaliplatin(L-OHP)およびpaclitaxel(PTX)を含むがん化学療法が施行され,そのうち末梢神経障害の改善を目的にpregabalin,ビタミンB12剤,牛車腎気丸,clonazepam,carbamazepine およびamitriptyline が処方されたがん患者を対象とし,pregabalin が処方された患者(pregabalin 群: L-OHP27 例およびPTX 28 例)と,それ以外の薬剤が処方された患者(non-pregabalin 群: L-OHP 20 例およびPTX 25 例)に分けて有効性と安全性について後ろ向きに比較検討した。その結果,pregabalin群およびnon-pregabalin群において末梢神経障害Grade が1 段階以上の低下を示した患者(改善例)の割合は,L-OHP 投与患者で40.7%および10.0%,PTX 投与患者で28.6%および12.0%であった。pregabalin 群では,pregabalin 投与前後の末梢神経障害Grade を比較したところ有意な低下を認めた[L-OHP: 1.33±0.48(mean±SD)vs 1.00±0.78 およびPTX: 1.46±0.69 vs 1.21±0.88]。pregabalinを投与した患者のうち28〜37%で眠気やふらつきなどの副作用が認められた。pregabalin はがん化学療法の末梢神経障害対策に有用であると考える。
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医事
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当院がん患者サロン「ひだまり」の評価と課題−サロンの現状と参加者へのアンケート調査から−
40巻9号(2013);View Description Hide Description目的:がん患者・家族の支援として,同じ患者や家族によるピアサポートは非常に重要である。当院では2012 年2 月よりがん患者・家族のサポートグループとして,がん患者サロン「ひだまり」を開催している。今回,当サロンの評価を行い今後の課題を検討することを目的に,サロンの現状と参加者へのアンケート調査から分析,考察した。方法:サロンの現状は実施記録から収集。アンケート調査は参加者を対象に,選択式回答・自由回答のアンケートをサロン終了時に実施した。倫理的配慮:対象者にアンケートの目的,プライバシーの保護などについて文書と口頭で説明,アンケートは無記名とし提出をもって同意とした。結果:これまで計4 回隔月で開催し,参加者の延べ数は患者48 名(68%),家族23 名(32%),各回の参加者数は9〜25名で,平均17.7名/回であった。アンケートの回収率は95.8%。「サロンに参加していかがでしたか」の回答は,たいへんよかった63%,よかった37%,あまりよくなかった0%,よくなかった0%であった。「今後も参加したいと思いますか」の回答は,思う94%,思わない0%,わからない2%,無記入4%であった。参加してよかった理由として,「勇気や元気をもらえる」,「参考になる情報を聞ける」,「看護師のアドバイスがよかった」などがあった。考察:参加者全員がサロンに参加してよかったと評価し,ほとんどの参加者から以後の参加希望があることから,参加者は当サロンでよい効果が得られ,今後の参加希望につながっていると考える。今後は,参加者のニーズに応じたテーマの勉強会の実施や対象者の拡大などが課題であると考える。
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症例
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集学的治療と五次化学療法でのS-1単剤が奏効している高齢者非小細胞肺癌術後再発の1 例
40巻9号(2013);View Description Hide Description症例は80 歳,男性。血清CEA高値を契機に非小細胞肺癌(腺癌),c-T2aN0M0,stageⅠB と診断し左下葉切除,リンパ節郭清を行った。術後病理診断で#10 リンパ節転移が認められ,病理病期はp-T2aN1M0 stage ⅡA であった。またEGFR 遺伝子変異は陰性であった。プラチナベース2 剤併用の術後補助化学療法を勧めたが同意を得られず,UFT で術後補助化学療法を行った。その後,肺門・縦隔リンパ節転移,脳転移,肺転移が出現した。化学療法はUFT の後,carboplatin(CBDCA)+paclitaxel(PTX),erlotinib,docetaxel(DOC)が行われ,いずれも効果はprogressive disease(PD)であった。胸部リンパ節照射と定位脳照射の後,五次化学療法としてS-1 単剤が導入され,リンパ節の縮小,肺転移の消失,CEAの低下が認められた。経過中に単発で出現した右鎖骨上リンパ節転移巣切除の後もS-1 単剤療法は継続されているが,術後5 年以上経過した現在,CEA は基準値未満となり新たな転移巣の出現は認められず,performance status(PS) 0 を保ったまま外来通院中である。経口剤であるS-1は既治療非小細胞肺癌治療において,quality of life(QOL)を保ちながら治療効果も十分期待できる薬剤である。 -
IrinotecanとCisplatin(CDDP)の分割併用療法が奏効した高齢者の肺原発大細胞性内分泌腫瘍の1 例
40巻9号(2013);View Description Hide Description大細胞性内分泌腫瘍(large cell neuroendocrine carcinoma: LCNEC)は,分類上は大細胞癌の一亜型とされるものの小細胞癌に準じた治療法が選択される機会が多い。症例は78 歳,男性。左上下肢・左顔面の痙攣を主訴に当院へ救急搬送された。左肺S9 に4 cmの結節陰影を認め,頭部CT では右後頭葉に造影効果を伴う腫瘍を認めた。脳腫瘍を外科的切除し,腫瘍摘出標本の免疫染色にて転移性LCNEC と診断した。術後に,肺の原発巣に対してirinotecanとcisplatin(CDDP)の併用療法を高齢であるため分割で投与した。化学療法の治療を4 コース行い奏効したが,治療後の経過中に腫瘍が増大した。二次治療としてamrubicinによる治療を継続中であり,病勢のコントロールを得た状態で経過している。 -
Radiation併用のNedaplatin/5-FU 療法後に手術を施行しpCR が得られ8年以上無再発である進行食道癌の1 例
40巻9号(2013);View Description Hide Description今回われわれは,進行食道癌に対してcis-diammineglycolatoplatinum(CDGP): Nedaplatin(R)(CDGP)を使用した化学放射線療法を行った後に手術を施行し,8年以上無再発の症例を経験したので報告する。症例は61 歳,女性。嚥下困難で2003 年11 月当院を受診した。上部消化管内視鏡検査で食道入口部より25 cm のMt に9 cm長の3 型腫瘤を指摘され,生検で扁平上皮癌と確定した。CT で腫瘤の大動脈および左房への浸潤が疑われた。原発巣と一塊となったリンパ節も認め,T4,N1,M0: Stage Ⅳa と診断した。CDGP 10 mg iv/body+5-FU 500 mg iv/body; 5 連日投与2 日休薬/コースとして5 コース投与およびradiation を計40 Gy 照射した。画像検査では腫瘍は著明に縮小していたが,狭窄は残存したため2004 年2 月食道亜全摘術を施行した。病理組織学的には明らかな癌細胞の遺残はまったくみられず,治療効果判定はGrade 3 pCR と判断した。補助化学療法は施行しなかったが,術後8 年7か月の長期生存中である。 -
食道癌化学放射線治療中のDIC に対し組換えヒト可溶型トロンボモジュリンが奏効した1 例
40巻9号(2013);View Description Hide Description症例は70 歳,女性。転移性骨腫瘍を伴う進行食道癌と早期左腎癌の同時性重複癌と診断された。食道癌に対する化学放射線治療中に肺炎による敗血症性ショックを発症し,抗生剤とg グロブリン製剤による治療を開始した。病状は悪化し,急性期DIC診断基準に従ってDIC と診断した。DIC治療として,組換えヒト可溶型トロンボモジュリン(rTM)の投与を開始したところ,翌日には臨床症状と検査結果が改善しDICを早期に離脱した。化学放射線治療中の敗血症性DICにrTMが有効であった。 -
術前化学療法にて組織学的Complete Responseが得られ5年間無再発健存中のVirchowリンパ節,腹部大動脈周囲リンパ節転移陽性進行胃癌の1 例
40巻9号(2013);View Description Hide Description症例は61 歳,女性。左鎖骨上に鶉大の硬い腫瘤を触れ来院した。胃内視鏡検査では胃体上部に肉眼型3 型の腫瘤を認め,低分化腺癌と診断された。CT 検査では腹部大動脈周囲を含む広範なリンパ節腫大,左鎖骨上リンパ節腫大を認めた。切除不能と判断し,S-1/cisplatin(CDDP)による化学療法を施行した。3 コース施行後のRECISTによる評価では,画像検査所見上腫大リンパ節の消失,胃内視鏡検査上,腫瘤の瘢痕化,生検結果は悪性細胞を認めず,完全奏効complete response(CR)と判定した。患者の同意の下,胃全摘,D2+No. 16 sampling郭清を行った。原発巣は瘢痕を残すのみで,病理結果は原発巣,リンパ節転移巣いずれもpathological CR,組織学的効果判定はGrade 3 の結果であった。補助化学療法としてS-1内服,その後CT 検査で腹水貯留が疑われたためweekly paclitaxel療法を行った。すべての休薬から3 年,初診より5年経過しているが,現在再発は認められていない。 -
Docetaxel/Cisplatin/S-1併用療法が奏効し根治切除を行ったStageⅣ胃癌の1 切除例
40巻9号(2013);View Description Hide Description症例は71 歳,男性。進行胃癌に対し,審査腹腔鏡を施行。UME,circ,Type 3,por,sT4a(SE),sN2,sH0,sP1,sCY1,cM0,StageⅣと診断され,docetaxel(40 mg/m2,day 1),cisplatin(60 mg/m2,day 1),S-1(80 mg/m2,day 1〜14)の併用によるDCS 療法を施行した。4 コース終了後の効果判定で原発巣CR,6 コース終了後の効果判定でリンパ節PR,腫瘍マーカーの正常化を認めた。根治切除可能と判断し,胃全摘術,脾臓合併切除,D2郭清を施行した。病理組織学的診断はtub2,pT3(SS),pN1,pStageⅡB,組織学的効果判定はGrade 2 であった。根治切除不能胃癌に対するDCS 療法は有効な治療法の一つであると考えられ,根治切除に対する手術介入の意義については今後検証が必要である。 -
集学的治療が奏効した門脈腫瘍栓を伴う進行胃癌の1 例
40巻9号(2013);View Description Hide Description症例は66 歳,男性。貧血の精査にて著明なリンパ節転移と門脈腫瘍栓を有する4 型胃癌(cT4a,cN3,cM1,cStageⅣ)と診断。治癒切除困難と判断し,S-1+CDDP 療法を開始。1 コース後のCT にて,門脈腫瘍栓の消失と腫大リンパ節の縮小を認めた。5 コース終了後にD2 郭清を伴う胃全摘術を施行した。病理検査所見は,por1,pT3(SS),med,INFa,pN2,pStageⅢAで,組織学的効果判定はGrade 2 であった。術後補助化学療法(S-1)を施行したが,8か月後に門脈腫瘍栓再発を来したため化学放射線療法を施行した結果,門脈腫瘍栓の消失が得られた。 -
Rituximab併用CODOX-M/IVAC 療法で寛解を維持している小腸Burkitt Lymphoma の1 例
40巻9号(2013);View Description Hide Description症例は38 歳,男性。腹痛,腸閉塞で発症。全身CT で右胸水と前胸壁下,横隔膜,腹膜の肥厚および回腸末端に10 cmの腫瘤を認め,大腸内視鏡検査による生検で小腸Burkitt lymphoma(BL)と診断した。臨床病期はstage ⅣA期。病変は進行が速く,また腸管外にも認めたため病変部の腸管を切除せず,病勢コントロールのためcyclophosphamide とdoxorubicin を投与した。腸管穿孔は起こらず,腸閉塞は改善したためrituximabを併用し,CODOX-M/IVAC療法を行った。病変は消失し,その後化学療法を行っていないが8 年間寛解を保っている。小腸BL に対する迅速な対応が予後を改善した1 例と考える。 -
術後遺残した傍大動脈リンパ節転移に化学療法が著効しその後Virchowリンパ節再発を切除することで長期生存を得ている直腸癌の1 症例
40巻9号(2013);View Description Hide Description症例は55 歳,男性。便潜血陽性を主訴に受診,精査にて著明な傍大動脈リンパ節転移を伴ったStageⅣのRs 直腸癌の診断となった。2007 年12 月に低位前方切除術とD3 のリンパ節郭清を施行するも,傍大動脈にリンパ節転移が遺残した。術後にFOLFOX,FOLFIRI,IRIS,irinotecan+cetuximabによる化学療法を施行し,同リンパ節転移は完全奏効(CR)を示し,術後18か月間維持された。その後Virchowリンパ節に限局した転移が出現,同リンパ節の切除術を追加した。現在,化学療法も中止とし初回術後5 年になるが,再発なく生存中である。化学療法で5-fluorouracil,Leucovorin,oxaliplatin,irinotecan,cetuximabといったkey drugを使い切ったこと,およびVirchowリンパ節転移に対し積極的なサルベージ手術を行ったことが,長期の無再発生存につながったと考えられる。 -
スニチニブにて長期間Stable Diseaseが得られた高分化型神経内分泌腫瘍の1 例
40巻9号(2013);View Description Hide Description症例は52 歳,女性。診断は原発不明の高分化型神経内分泌腫瘍で多発肝転移,腸間膜腫瘍。2011 年当初,保険承認薬剤がなかったため,当院の医療の質倫理検討委員会の承認を得て,スニチニブの投与を実施した。37.5 mg 連日投与を行ったが,血小板減少Grade 3,好中球減少Grade 3 にて,12.5 mg連日投与まで減量して投与を継続した。3 か月目のCT にてstable disease であり,11か月目のCT で増悪となるまで治療は継続できた。非血液毒性では高血圧症Grade 3 を認めたが,降圧薬にてコントロール可能であった。本邦ではスニチニブは未承認であり,今回高分化型神経内分泌腫瘍に対してスニチニブを使用する経験を得たので報告した。 -
スニチニブで長期病勢コントロールし得た消化管間質腫瘍の1 例
40巻9号(2013);View Description Hide Description症例は70 歳,女性。21 か月前他院で同時性多発肝転移を伴う小腸消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor:GIST)に対し,原発巣切除と肝切除が施行されていた。その後肝転移再発に対し,経皮的ラジオ波焼灼療法(radiofrequency ablation: RFA)やイマチニブ投与されるも病勢コントロールできず当院へ紹介受診された。当院初診時には肝転移,骨転移,肺転移を呈しており,スニチニブ投与(1 日1 回50 mg で4週間内服・2 週間休薬)を開始した。有害事象によりスニチニブ投与量を1 日25 mg まで減量し,また治療中に骨転移の悪化がみられたため,放射線療法を付加するなどしてスニチニブ投与を21コース施行し,138週という長期にわたって病勢コントロールし得た。当施設では7 例のGISTに対しスニチニブ治療を施行したが,無増悪期間(time to tumor progression: TTP)は30 週で国内外の臨床試験で報告されている成績と同等であった。切除不能のイマチニブ耐性GISTに対するスニチニブ治療は,重要な治療選択肢と思われた。 -
血液透析中の去勢抵抗性前立腺癌に対しDocetaxel/Prednisolone併用療法が奏効した1 例
40巻9号(2013);View Description Hide Description症例は血液透析中の71 歳,男性。2006年にリンパ節転移を有する前立腺癌に対して内分泌療法が開始されたが,約6か月で治療を自己中断した。2009 年に治療再開後はいったん奏効したが,去勢抵抗性となり化学療法を目的に2011 年9 月に当科紹介となった。docetaxel(DOC 60 mg/m2 3週ごと)+prednisolone(PDL 10 mg連日内服)併用療法を開始した。重篤な有害事象は認めず,2 コース目以降は外来化学療法に移行した。4 コース終了時にはPSA は治療開始時と比較して56%減少していた。血液透析患者に対する化学療法は推奨される投与量やレジメンが確立していないが,本例においては去勢抵抗性前立腺癌に対する標準プロトコールであるDOC,PDL 併用療法をDOC の投与量を低用量とすることにより安全に施行でき,治療効果が得られた。 -
Paclitaxel,Carboplatin療法を施行した卵巣癌肉腫の4 例
40巻9号(2013);View Description Hide Description卵巣癌肉腫は悪性卵巣腫瘍のなかでもまれな高悪性度腫瘍で高齢者に多い。多くの癌肉腫において肉腫成分は癌腫成分と同一起源であると考えられており,癌肉腫は表層上皮性・間質性腫瘍に分類される。進行癌肉腫に対しては上皮性卵巣癌と同様にpaclitaxel,carboplatin療法(PC 療法)が施行されることが増えているが,最適な化学療法のregimenに関しては議論がある。われわれは卵巣癌肉腫4 例にPC 療法を施行したので報告する。年齢は64〜72(中央値67)歳で,進行期はⅡc 期2 例,Ⅲc 期1 例,Ⅳ期1例。Ⅱc 期例の術後残存腫瘍径はmicroscopic,1 cm未満の各1 例で,いずれも術後にPC 療法を施行した。Ⅲ/Ⅳ期例では術前化学療法でPR を得た後に手術を施行(残存腫瘍1 cm未満)し,術後にさらにPC 療法を追加した。残存腫瘍がmicroscopicで無病生存中(53+か月)のⅡc 期1 例を除く3 例が再発し,再発までの期間は3〜15か月で,再発部位はいずれも骨盤内であった。Ⅱc 期の1 例ではPC 療法中に病変の進行がみられた。再発例の全生存期間は6〜41か月であった。TC 療法は副作用も軽度で計画どおりに施行可能であった。卵巣癌肉腫に対してTC 療法は有効なfirstline化学療法であり,高齢者でもQOL を維持した治療が可能だが奏効期間が短いことから,より有効なregimen の開発が必要である。 -
全身の皮膚に浸潤した芽球型形質細胞様樹状細胞腫瘍の1 例
40巻9号(2013);View Description Hide Description症例は81 歳,男性。2011年2 月初旬,右背部に皮下腫瘤を自覚して当院を受診。腫瘤生検ではN/C 比の高い大型異型細胞が表皮直下から皮下組織にかけて,びまん性に増生していた。皮膚生検で悪性リンパ腫が疑われたが,確定診断には至らなかった。4 月,右腋窩リンパ節腫脹が出現し,同部位のリンパ節生検を行った。免疫染色はCD4+,CD56+,CD3−,CD5−,CD20−,CD138−,MPO−,granzyme B−であった。免疫グロブリンとT細胞受容体のモノクローナルな遺伝子再構成を認めず,TCL1+であり芽球型形質細胞様樹状細胞腫瘍と診断した。シクロホスファミド,ビンクリスチン,プレドニゾロン(COP)療法を施行し,治療効果を認めた。3 コース終了後に再び皮下腫瘤が出現し,骨髄浸潤も認めた。シクロホスファミド,エトポシド,プロカルバジン,プレドニゾロン(CEPP)療法,フルダラビン,ミトキサントロン,デキサメタゾン(FMD)療法を施行するも効果なく,腫瘍病変は全身に拡がり永眠された。芽球型形質細胞様樹状細胞は,新WHO 分類で急性骨髄性白血病の特殊な亜型として取り扱われるようになった疾患である。非常にまれで治療法が確立していない予後不良な疾患であり,本論文では過去の文献を基に,病態,臨床経過と治療法について考察を行う。 -
デスモイド術後再発病巣に動注塞栓術が著効した1 例
40巻9号(2013);View Description Hide Descriptionデスモイド腫瘍は良例腫瘍に分類されるが,局所再発を来した場合,治療に難渋することが多い。今回われわれは,局所動注塞栓術により再発病巣が縮小し,症状の緩和を得た症例を報告する。症例は19 歳,男性。右肩デスモイド腫瘍の診断にて二度摘出術を施行,その後局所再発を認めた。再発病変は腕神経叢浸潤により手術不能と判断され,塞栓術目的で紹介された。塞栓術を試みるも効果なく,抗癌剤による局所動注と塞栓術を行った。抗癌剤はepirubicin 20 mg,cisplatin 50mg,5-FU 250 mg使用し,塞栓物質はSAP-MS(HepaSphere)を用いた。計4 回の治療により腫瘍の縮小と疼痛症状の緩和が得られた。デスモイド腫瘍の化学療法については報告が散見している。われわれは本腫瘍の局所コントロールが重要と判断し,抗癌剤の局所濃度を高めるとともに阻血効果を期待できる動注塞栓術を選択した。デスモイド腫瘍難治例に対し本治療は効果が期待でき,再発症例の治療選択肢に加えるべきと考える。
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書評
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