Volume 40,
Issue 10,
2013
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総説
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癌と化学療法 40巻10号, 1269-1273 (2013);
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腹膜播種陽性胃癌に対して高いエビデンスを有する標準治療は存在せず,その病態を考慮した新規治療法の開発が急務である。強力な局所療法であるpaclitaxel(PTX)腹腔内投与と全身化学療法,胃切除を組み合わせた集学的治療は有望な治療法の一つである。当科ではS-1+PTX経静脈・腹腔内併用療法を考案し,第Ⅰ相試験により推奨投与量を決定し,第Ⅱ相試験において1 年全生存割合78%,生存期間中央値(MST)23.6 か月という成績を得た。また,2011 年までに本療法を実施した100 例の初発例のうち,腹膜播種に著効が確認された62 例に対して胃切除を施行し,安全性を確認するとともに,MST 34.5 か月という成績を得た。現在,本療法をS-1+CDDP 併用療法と比較する第Ⅲ相試験(PHOENIX-GC 試験)を実施中である。全生存期間における優越性が証明され,PTX腹腔内投与の保険収載につながることが期待される。
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特集
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脳腫瘍に対する治療の現状と展望
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癌と化学療法 40巻10号, 1274-1277 (2013);
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悪性グリオーマの予後は不良であり,特に膠芽腫の5 年生存割合は未だに10%に満たないのが現状である。この治療困難な疾患に対しては,単一の治療法での治癒は見込めず,手術,放射線,化学療法を効率的に組み合わせた集学的治療が必須といえる。元来,浸潤性に発育するために手術的に全摘することは不可能であるが,切除割合が高いほど予後の改善を認めるため,悪性グリオーマに対しても可及的最大限の摘出をめざすことは重要である。一方,脳機能温存の工夫も行われており,術前検査のみならず,術中のナビゲーション,誘発電位,光線力学診断,術中MRIさらには覚醒下手術などにより,言語機能,運動機能などの保護を図っている。手術的に摘出不能な腫瘍浸潤部に対しては放射線治療が有効である。EORTCからの発表に基づき,テモゾロミド併用の化学放射線治療が現在の標準治療となり,ニトロソウレアを用いていた時代に比べ,膠芽腫の治療成績は確実に改善されたが,その生存期間中央値は14.6 か月とまだまだ不十分である。より有効な治療法を確立していくためには,国内においても多施設共同臨床試験を進めていく必要があり,今後導入されてくる分子標的薬などの新規治療薬なども積極的に取り入れていく必要がある。
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癌と化学療法 40巻10号, 1278-1282 (2013);
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悪性グリオーマに対して,放射線治療により生存期間の延長は得られているものの,生存率はまだ低く,そのさらなる向上をめざした試みが行われてきた。三次元原体照射や定位放射線照射,強度変調放射線治療,粒子線治療といった高精度照射技術を用いた線量分布の改善および線量増加がその一つの手段として試みられており,期待される結果はでてきているものの,明らかな有用性を証明するには至っていないのが現状である。さらなる照射技術の改善や画像診断の進歩による照射範囲設定や線量分布の最適化,また一方で中性子捕捉療法の発展に期待がもたれる。
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癌と化学療法 40巻10号, 1283-1287 (2013);
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2006年9 月に本邦にて使用可能となったテモゾロミド(temozolomide: TMZ,テモダール)は悪性神経膠腫に対して有効率の高い薬剤であるが,有効症例でも治癒には至らず,再発はほぼ必発である。TMZへの耐性を示す症例は腫瘍組織におけるO6-methylguanine-DNA methyltransferase(MGMT)遺伝子プロモーターのメチル化と関連性があり,今後,TMZを中心とする併用化学療法を展開するに当たり,MGMT を有効に不活化させる戦略やMGMT を枯渇させる方法などが検討されている。たとえば,TMZ 150 mg/m2/dayの7 日間連続投与7 日間休薬(dose dense regimen),75〜100 mg/m2/dayの21 日間連続投与7 日間休薬(metronomic regimen)など,低容量で長期間投与し,総投与量を1.4〜2.1倍に増加させて,MGMTを枯渇させ効果を高めようとする試みがされている。また,各種薬剤との併用では,cisplatin,carboplatinum,BCNU,CCNU,CPT-11,thalidomide,cis-retinoic acid,tamoxifen,marimastat,IFN-a,IFN-b などが試みられている。特に最近は,分子標的薬剤との併用療法が注目されつつあり,2013 年6 月に本邦でも認可された血管新生因子阻害剤bevacizumab(抗VEGF 製剤)との併用に期待がかかっており,現在,全世界での第Ⅲ相国際共同治験の結果報告待ちの状態である。また,2013年1 月にはニトロソウレア系薬剤[カルムスチン(carmustine,BCNU)]の脳内留置型wafer(Gliadel:ギリアデル)の初発および再発悪性神経膠腫への適応が本邦で認可され,現在,手術現場で多用されている。しかし脳内留置型BCNU は,その有効性を示す報告はまだ少なく,今後,膠芽腫を含む悪性神経膠腫に対する前方視的な臨床試験の実施が必要である。
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癌と化学療法 40巻10号, 1288-1294 (2013);
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近年の切除不能進行癌に対する化学療法の進歩,分子標的薬の導入による進行癌患者の予後の改善とMRI をはじめとする画像診断の進歩により,転移性脳腫瘍の発見頻度は増加していると考えられる。本稿では,転移性脳腫瘍に対する放射線治療,手術,化学療法に関するガイドラインとエビデンスを概説する。単発脳転移で3 か月以上の予後が想定される場合,3〜4 cm 以上の場合は手術+全脳照射(level 1)あるいは摘出腔のブースト照射(level 3)を,3〜4 cm 未満の場合は定位放射線治療単独あるいは全脳照射+定位放射線治療を考慮する(level 1)。多発転移に対しては,3 か月以上の予後が予想される場合,少数個の転移で3〜4 cm未満の場合は,定位放射線治療単独あるいは定位放射線治療+全脳照射,全脳照射単独のいずれかを考慮する。ただし近年の臨床試験で,手術および定位放射線治療後の全脳照射の追加により頭蓋内制御は改善するものの,生存期間だけでなくPS が低下するまでの期間も差がないことが明らかになった。脳転移に対する分子標的薬の有効性が多く報告されている。無症候性の非小細胞肺癌でEGFR 変異陽性の患者に対してはgefitinib またはerlotinibを,またHER2 陽性の乳癌の患者に対してはlapatinib の使用を考慮すべきである。現在,症候性放射線壊死に対するbevacizumab静脈内投与の臨床試験がわが国で進行中である。
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原著
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癌と化学療法 40巻10号, 1325-1329 (2013);
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目的:当院緩和ケア病棟(以下PCU)に入院した肺癌症例の臨床像を明らかにする。方法:当院PCU に入院した肺癌症例を対象に臨床像を調査し,肺癌以外の悪性腫瘍症例の臨床像と比較する。結果: PCU 入院患者に占める肺癌症例の割合は24%で,原発部位別では最多であった。肺癌以外の悪性腫瘍症例との比較では,肺癌症例において酸素吸入とターミナル・セデーションを行ったものが有意に多かった。一方,処置を要したものは少なかった。ターミナル・セデーションを要した理由としては呼吸困難感が多かった。結論: 肺癌症例の終末期の特徴は高度な呼吸困難感の出現にあると思われた。
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癌と化学療法 40巻10号, 1331-1335 (2013);
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S-1+weekly low-dose CDDP による術前化学療法後に切除術を施行した高度進行胃癌症例をretrospectiveに検討した。2007〜2009 年に術前診断にて非根治切除あるいは切除不能となり得る因子をもつ進行胃癌症例27 例を対象とした。術前化学療法はS-1 80 mg/m2/dayの21 日間連続投与と開始1,8,15 日目のCDDP 20 mg/m2投与,S-1 投与終了後2 週間の休薬期間を設け1 コースとし,原則外来通院での3 コースを施行した。5 例にGrade 3 の副作用(好中球減少3 例,消化器症状2 例)を認め外来治療完遂率は81.5%(22/27)であったが,腎機能障害の出現はなく外来化学療法として比較的安全に施行された。治療前診断では全例で深達度T4 であったが,術後病理結果では4 例がT3 以下であった。またN0症例・M0症例も増加し,down stagingを12 例(44.4%)で認め,治癒切除率は66.6%(18/27)であった。総合評価ではpartial responses(PR)13例,stable diseases(SD)12 例で奏効率は48.1%であった。生存期間中央値は580 日,1 年生存率は72%であった。S-1+weekly low-dose CDDP による術前化学療法は外来通院においても可能なレジメンであり,予後不良な進行胃癌に対して有望な治療法であると考えられる。
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癌と化学療法 40巻10号, 1337-1340 (2013);
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後期高齢者切除不能・進行再発胃癌患者に対するS-1+DOC 療法を10 例の患者に対して施行した結果,奏効率20%,部分奏効2 例,安定4 例で,Grade 3 以上の有害事象は3 例に認められた。performance status(PS)1 であった3 例ではいずれも病勢阻止が得られ,Grade 3 以上の副作用も認められなかったが,PS 2 であった7 例では治療効果,有害事象の発現に個人差がみられた。PS 2 であった症例において高齢者脆弱性評価ツールであるVulnerable Elders Survey(VES-13)で治療効果と有害事象発現の関係を検討してみると,治療効果不良群,有害事象発現群でVES-13 が高い傾向がみられた。後期高齢者切除不能・進行再発胃癌に対するS-1+DOC 療法を施行する際にVES-13 は治療効果,有害事象発現のスクリーニングツールとして有用である可能性が示唆された。
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癌と化学療法 40巻10号, 1341-1345 (2013);
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切除不能進行再発大腸がん化学療法のfirst-lineにFOLFOX±bevacizumab(BV)療法,second-lineにFOLFIRI±BV 療法を施行した患者において,BV 併用によるレジメンの施行コース数と中止事由の関係について検討した。first-lineにおいてBV を併用した場合[BV(+)]と併用しなかった場合[BV(−)]のコース数は,それぞれ12(2〜46)コースと10(2〜60)コースであり両者間に差は認められなかった(p=0.60)。first-lineにBVを併用しsecond-lineへ移行した場合,BV(+)は11(1〜23)コース,BV(−)の場合は3(1〜12)コースであり,両者間に有意差が認められた(p<0.01)。有害事象による中止は,second-line(6.2%)に比べてfirst-line(34.9%)にて多かった(p<0.01)。first-lineでの有害事象による中止事由は,BV(+)はBV 関連の事象が多く,BV(−)は末梢神経障害によるものが大半であった。結論として,first-line からsecond-line に移行した場合でもBV の継続が推奨されるが,first-line では有害事象の早期発見と対策が大切であり,薬剤師も有害事象のモニタリングとマネジメントに積極的にかかわっていくことが重要であると考える。
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癌と化学療法 40巻10号, 1355-1359 (2013);
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転移・再発乳癌において治癒は困難であり,可能な限りquality of life(QOL)を維持した加療が行われることが重要である。gemcitabine は,2010 年2 月より手術不能または再発乳癌に対して使用可能となった。われわれの施設では,2010年2 月〜2012 年3月までに39 例の手術不能・再発乳癌患者に対し,症例に応じてgemcitabine単剤もしくはtaxaneもしくはtrastuzumabとの併用療法を行った。ほとんどの症例で化学療法またはホルモン療法の既治療があった。投与時の患者の年齢中央値は61(33〜82)歳で,既治療の化学療法のレジメン数の中央値は3(0〜6)であった。全体の奏効割合は15.4%で,病勢制御割合は56.4%,臨床的有効割合が33.3%であった。主な血液毒性は好中球減少で,非血液毒性は疲労であった。好中球減少に対しては投与量の減量や投与期間の延長で対応可能であった。入院を要するような有害事象は認めなかった。転移・再発乳癌に対するgemcitabine による治療は,QOLの維持をしつつ治療を行うことが可能であると思われる。
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医事
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癌と化学療法 40巻10号, 1361-1363 (2013);
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保冷剤を用いた皮膚冷却による酢酸ゴセレリン投与時の疼痛緩和効果を検討した。皮膚冷却(以下,冷却法)は,保冷剤を用いて注射投与前の1 分間穿刺部位を冷却した後に投与を行う方法である。酢酸ゴセレリンの投与を受けている患者40 例を対象とし,その疼痛緩和に関してアンケート調査を行った。いずれの患者も,無処置で投与する方法(以下,非冷却法)と冷却法の両方を受けていた。穿刺時痛の疼痛評価はnumerical rating scale(NRS)を用いた。冷却法のNRS は1.69±1.94,非冷却法の6.23±2.55で,冷却法にて有意に軽減されていた(p<0.001)。また疼痛持続時間は,まったくなかった人が冷却法では60%であったが,非冷却法では25%であった。冷却法は比較的簡便であり,酢酸ゴセレリンの投与時の疼痛緩和に有用であると思われた。
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特別寄稿
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癌と化学療法 40巻10号, 1365-1376 (2013);
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近年,がん薬物療法においては,低分子の殺細胞性抗がん剤とともに,抗体医薬などのバイオ医薬品が治療の大きな柱へと成長している。その一方で,高額な薬剤費が医療経済を圧迫し,患者個々人においても経済上の理由から抗がん剤治療を中断,あるいは断念するなどの弊害が指摘されるようになった。この問題を解決するため,バイオ医薬品を代替するものとして開発されたのが「バイオ後続品」である。本座談会では,各領域のがん医療のエキスパートにお集りいただき,バイオ後続品に関する率直なご意見を伺うとともに,今後のがん医療におけるバイオ後続品の位置付けについてご討議いただいた。
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症例
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癌と化学療法 40巻10号, 1377-1380 (2013);
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症例1 は50 歳台,女性。左肺腺癌,胸膜播種,悪性胸水,cT4N0M1に対し,当院へ加療目的に転院となった。当院first-lineとしてcisplatin(CDDP)+S-1による化学療法を施行し,2 コース終了後には胸腔ドレーンが抜去できPS 0 となった。しかし3 コース終了後,突然のめまい,頭痛により脳転移が判明。一時はPS 4 までADL の低下を認めた。EGFR mutationは不明であったが,erlotinib 150 mg/day の投与により脳転移は著明に縮小,現在PS 0 へ改善した。症例2 は50 歳台,男性。咳嗽を主訴に当院受診。左肺上葉肺腺癌,縦隔浸潤cT4N2M0に対し,cisplatin+pemetrexed を4 コース,局所放射線照射66 Gy,docetaxel を4 コース施行したがPD であり,脳転移も出現した。EGER mutation はnegative であったが,後療法としてerlotinib 150 mg/day内服を開始した。以後,局所病変はコントロールされた。度重なる腫瘍による閉塞性肺炎によりQOL の低下を認めたため,症状緩和目的に左肺全摘除を施行した。現在PS 0 の状態で,引き続きerlotinibを内服し良好なQOL を保っている。erlotinib は脳転移に対する効果が期待できるとともに,EGFR mutation を確認できない状況での緊急避難としての投与,またEGFR mutation negative症例をsalvage surgeryへ導くという非常に有用性の高い役割を果たした。
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癌と化学療法 40巻10号, 1381-1383 (2013);
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症例は47 歳,日本人女性。薬剤耐性HIV に対してsalvage のCART を施行中の2010 年11 月に原発性肺腺癌(cT3N3M1,stage Ⅳ)を発症。EGFR 遺伝子変異は陰性であり,first-lineとしてcarboplatin+pemetrexed併用療法を開始し,6 コース実施。second-line としてgemcitabine 単独療法を3 コース実施。third-line としてerlotinib の維持療法を実施し,在宅医療へ移行。原発性肺腺癌発症後1 年となる2011 年10 月に永眠された。化学療法に伴う有害事象はgrade 1 の好中球減少を除いて確認されず,肺癌治療中のHIV-RNA 量は十分に抑制されており,PS も保たれていた。結論として,darunavir+ritonavir+raltegravir+tenofovir/emtricitabine によるCART は忍容性が高く,肺癌化学療法に影響を及ぼさなかったことから,肺癌合併HIV 感染症患者の治療戦略として有効な選択肢となり得るものと考える。
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癌と化学療法 40巻10号, 1385-1387 (2013);
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多発性肝転移を有する再発乳癌に対してS-1+trastuzumab併用療法を行い,完全奏効(CR)を得た症例を経験した。症例は54 歳,女性。Stage ⅢA の左乳癌で初期治療として,乳房切除後にepirubicin hydrochloride+cyclophosphamide hydrate(EC)療法4 コースとpaclitaxel(T)療法4 コースを施行した。術後10 か月にCEA値が79.0 ng/mL と上昇し,精査にて多発性肝転移を認めた。S-1+trastuzumab併用療法を行ったところ,2 コース後にCEA値は正常となり,5 コース後に肝転移巣も消失し,治療開始1 年3か月後の現在もCR の状態が続いている。本療法は忍容性・安全性にも優れており,再発乳癌の治療に際し有効な選択肢の一つと考えられた。
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癌と化学療法 40巻10号, 1389-1392 (2013);
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症例は50 歳台,男性。膵浸潤の可能性がある進行胃癌と診断。腫瘍によると思われる発熱も認められ,手術は困難と判断し,術前化学療法の方針とした。経口摂取が不能であったため,weekly paclitaxel単独療法を開始した。3 か月後の上部消化管内視鏡検査とCT で胃腫瘍とリンパ節の著明な縮小を認めたため,開腹幽門側胃切除(D2)の根治切除術が施行可能となった。術後病理診断ではpT2,pN2,pStage ⅢA(胃癌取扱い規約第13版に準拠)であり,術後補助化学療法としてS-1 を1 年間内服とした。現在術後3年経過し,再発は認めていない。
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癌と化学療法 40巻10号, 1393-1395 (2013);
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症例は72 歳,男性。下行結腸癌,切除不能肝転移に対し,左半結腸切除術(D3),ならびに肝転移巣には全身化学療法: mFOLFOX6,抗anti-vascular endothelial growth factor(VEGF)抗体+FOLFIRI,抗anti-epidermal growth factor receptor(EGFR)抗体+CPT-11を順に施行した。全身化学療法は有効性を示したが,最終的に薬剤耐性を示し肝転移巣が増悪する結果となった。インフォームド・コンセントの後,5-FU,LV による肝動注化学療法施行したところ,6 回終了後には腫瘍マーカーは著明に低下し,現在12 回終了(肝動注療法開始後3.5 か月経過)しているが,腫瘍マーカーは横ばい状態でCT 画像においても腫瘍の増大は抑えられ,SD 状態を保っている。また,performance statusは良好で新病変の出現もなく,外来化学療法を継続している。今回,全身化学療法による分子標的薬,mFOLFOX6,FOLFIRI治療に抵抗性を示した切除不能大腸癌肝転移巣に肝動注療法が有効であった症例を報告する。
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癌と化学療法 40巻10号, 1397-1400 (2013);
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症例は血液透析を導入している68 歳,男性。S 状結腸癌,肝転移切除後再発に対して化学療法を導入した。FOLFOX4,FOLFIRI,FOLFIRI+BV,cetuximab+CPT-11と三次治療まで行った。各種薬剤は適宜減量し,cetuximabは通常量で投与した。cetuximab+CPT-11投与期間中にMRSA髄膜炎で死亡したが,因果関係は認めなかった。いずれのレジメンも投与可能であったが,特にcetuximab+CPT-11療法は著明な抗腫瘍効果を認め,今後有力な選択肢になると考えられる。
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癌と化学療法 40巻10号, 1401-1404 (2013);
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症例は49 歳,女性。上腹部不快感,腹満を主訴に当科を受診し,上行-横行結腸癌,大動脈周囲リンパ節〜総腸骨リンパ節転移の診断がなされた。肝・肺転移なし。狭窄症状を認めたため,2007 年10 月下旬に拡大右半結腸切除術を施行。術後約1 か月後に全身化学療法の一次治療としてベバシズマブ(bevacizumab: BV 5 mg/kg)+mFOLFOX6を開始。腫瘍マーカーは減少,遠隔リンパ節転移も縮小しPR を得た。2009 年7 月に右肺門部リンパ節転移が出現しPD となり,cetuximab+FOLFIRI に変更するも,3 か月後に両側鼠径リンパ節転移出現を認めBV(10 mg/kg)+FOLFIRI に変更。2 か月半後に腹部リンパ節はわずかに縮小したが,鼠径リンパ節が増大したためBV を10 mg/kg に増量したBV+mFOLFOX6 に変更した。その2 か月後に皮膚転移が出現するも,鼠径リンパ節,腹部リンパ節には変化を認めなかった。その後,癌性腹膜炎などを生じ死亡したが,30 か月を超える生存期間が得られた。一次治療でPD となったBV+FOLFOX 療法でも,二次治療以降でBV を増量し再投与することで,長期生存が得られる可能性が示唆された。
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癌と化学療法 40巻10号, 1405-1407 (2013);
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症例は58 歳,男性。右下腹痛を主訴に近医受診し,肝右側全体を占める巨大腫瘍を指摘され当院内科紹介された。精査にて肝右葉から中肝静脈を越えS4 に浸潤する腫瘍径15 cm のHCC を認めた。HCV 陽性,肝障害度B,初診時の腫瘍マーカーはPIVKA-Ⅱ 4,340 mAU/mL,AFP 15.3 ng/mL であった。右三区域術後の予定残肝率20%のため切除不能と判断し,low-dose FP+Leucovorinによる肝動注化学療法を4 コース施行した。内側区域の腫瘍がほぼ消失し,腫瘍縮小率71%,予定残肝率51%となり,切除可能と判断した。術前全身検索にて早期胃癌を認め,同時切除が必要と判断され,手術侵襲を考慮し,門脈右枝塞栓術施行した。塞栓3 週間後,肝拡大右葉切除,幽門側胃切除,D2郭清,Billroth-Ⅰ再建を施行した。術中所見で肝の腫瘍は一部内側区域に及んでいたものの,中肝静脈根部は温存可能であった。術後経過良好にて退院し,現在外来フォロー中であり,術後9 か月無再発生存中である。肝動注化学療法は,集学的治療の一部として高度進行肝細胞癌の術前治療として有用であることが示唆された。
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癌と化学療法 40巻10号, 1409-1412 (2013);
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症例は75 歳,女性。2007年10 月,閉塞性黄疸発症を契機に発見された膵頭部癌に対して膵頭十二指腸切除術(D2 リンパ節郭清)を施行した。術後病理診断はT3N1M(−)→StageⅢ,cur Aであった。術後塩酸ゲムシタビン(GEM 11,000mg/m2 3 週投与,1週休薬)による術後補助化学療法6 コース完了後は経過観察としていたが,化学療法中止3 か月後に傍大動脈リンパ節再発を来したため,second-line 化学療法としてS-1/GEM+PSK 併用療法(S-1 80 mg/m2 2週投薬2週休薬,GEM 1,000 mg/m2 1 and 15日目点滴,PSK 3 g/連日投与)を開始。30 コース目でPDと判断するも39 コース目まで同regimenで治療継続していた。2011年11 月から患者の治療継続希望もあり,IRIS療法(S-1+CPT-11)+PSK によるthird-line 化学療法(S-1 80 mg/body 2 週投与2 週休薬,CPT-11 100 mg/body 1 and 15日目点滴,PSK 3 g/連日投与)を開始したところ4 コース目でPR となり,現在12 コース終了しているがSDを保っている状態であり,2012 年8 月現在,治療継続中である。IRIS 療法は,GS療法無効膵癌に対して効果が期待できるregimenの一つであると考えられた。
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癌と化学療法 40巻10号, 1413-1417 (2013);
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PAX8は腎臓,甲状腺,ミュラー管由来の臓器の発生段階で不可欠な遺伝子翻訳因子である。また,それらの臓器に発生する腫瘍にも発現することが知られており,組織診断において,その有用性が期待されている。今回,われわれは重複癌との鑑別にPAX8の免疫染色が有用であった子宮頸部腺癌の1 例を経験したので報告する。症例は55 歳,女性。咳嗽および不正出血の訴えがあり,CT,MRI,PET-CT で両側乳腺腫瘤,全身リンパ節腫大,多発する皮下結節,子宮頸部腫瘤を認めた。子宮頸部腫瘤の生検で低分化型腺癌と診断された。乳腺腫瘤の穿刺吸引細胞診で硬癌が考えられたため,重複癌もしくは子宮頸部腺癌の転移を診断するために,子宮頸部腫瘤および乳腺腫瘤についてPAX8 の免疫染色を行った。両者ともにPAX8陽性であったため,子宮頸部腺癌の転移と診断した。TC 療法を行い,partial responseを得た。5 か月後に子宮体部腫瘤を認め手術を施行したが,子宮頸部腺癌は消失しており,新たに発生した子宮体部類内膜腺癌と診断された。TC 療法終了後15 か月経過したが,再発を認めず転移巣も増大なく経過している。
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癌と化学療法 40巻10号, 1419-1421 (2013);
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症例は41 歳,女性。間質性腎炎後の慢性腎不全で8 年前から週3 回の血液透析を受けている。左側卵巣癌疑いの術前診断にて,卵巣癌基本手術およびstaging laparotomy を施行した。術後病理診断は卵巣癌Ⅰc(b)期(明細胞腺癌)であるも,術後補助化学療法は行わなかった。その後9 か月後に腹腔内に再発し,パクリタキセル・カルボプラチン(TC)療法を6 コース施行した。パクリタキセル175 mg/m2とカルボプラチンAUC5を開始した。血液透析は約24 時間後に行った。重篤な有害事象は認めず,TC療法6 コース施行し,再発病変はcomplete responseを得られ,無病生存状態を確認した。