Volume 40,
Issue 11,
2013
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総説
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癌と化学療法 40巻11号, 1429-1435 (2013);
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エピジェネティック治療は,分子標的薬の次の治療法として期待される。エピジェネティック異常は体細胞分裂に際して保存され,発癌の原因になり得る。また,最近の大規模シークエンス解析の結果,既知遺伝子の突然変異のみでは発癌機構が説明できない癌が多数あり,エピジェネティック関連遺伝子の突然変異も高頻度に存在することが明らかになった。すでに,DNA脱メチル化剤・ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤が骨髄異形成症候群・リンパ腫に対して実用化されており,その他の薬剤も多数臨床開発中である。固形腫瘍への応用も試みられており,非小細胞肺癌では有望な結果も報告されている。今後は作用機序に基づいた,症例の選択,投与量の決定,併用薬剤の選択などが重要と思われる。
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特集
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環境による発ガン
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癌と化学療法 40巻11号, 1436-1440 (2013);
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職業や事故などの高用量曝露により明らかになった発がん因子は多数あり,多くは低用量ながら一般環境にも存在する。そのような発がんハザードがリスクになるか否かについては,用量反応関係と当該集団の曝露レベルを照らし合わせる科学的なリスク評価が,がん予防のためには必要である。そして,社会的,経済的,政治的,その他技術的要素を加味して,さらに規制などによる利益と不利益のバランスを考慮して,現実的なリスク管理が求められる。アスベストと環境たばこ煙については,低用量レベルでも発がんリスクであることが明らかになっている因子の例である。食品・飲料からのヒ素・カドミウム,医療や自然環境などからの放射線,大気中のディーゼル排ガスなどは,低用量レベルでのさらなるエビデンスが求められる。一方で,校正印刷業務作業者の胆管がんにおいて原因化学物質として示唆されている1,2-ジクロロプロパンやジクロロメタンのように,高用量曝露の事例が顕在化していなかったために,ヒトの発がん性が未知であったような因子も想定される。環境発がんの予防のためには,職域や地域におけるがんの通常でない発生をがん登録により継続的にモニタリングするとともに,予防原則としてハザードの疑いがある因子は,可能なかぎり曝露を抑えることによる対応が望まれる。
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癌と化学療法 40巻11号, 1441-1445 (2013);
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大気環境の悪化は,主として増大した化石燃料の燃焼が原因である。大気中の汚染粒子の発生源は,都市部においては主としてディーゼル車の排気ガス,工場からの煤煙,木材の燃焼などがあげられるが,それには二酸化硫黄,窒素酸化物などの気体状のものと,大気中に浮遊する粒子状物質(particulate matter: PM)がある。粒径が2.5 mm以下の微小粒子状物質をPM2.5と呼ぶが,長期曝露を受けると心血管疾患のみならず肺癌の死亡率が高くなる可能性がある。PM2.5吸入による肺癌発生のメカニズムは明確ではないが,死亡率が高くなることの根拠が示されている。一方,アスベスト粉塵は呼吸器癌の発生に関係することが知られ,特に肺癌と中皮腫との関係は明らかである。アスベスト繊維は職業性の高濃度曝露だけではなく,極めて低濃度の環境曝露での発癌が知られている。わが国では,アスベストは2006 年に禁止されたが,地震・津波などの大規模災害時には,アスベスト建材を含む家屋が多く破壊され,損壊家屋や瓦礫からのアスベスト飛散が起こる可能性がある。トルコのカッパドキアには住民の過半数が中皮腫で死亡している村が存在する(Tuzkoy,Karain,Sarihidir)。原因は,この地方を覆う火山灰由来の繊維状ゼオライトであるエリオナイトの環境曝露であるが,これらの村の調査で中皮腫が多発している家系と発生していない家系が明らかになり,中皮腫発生にかかわる遺伝的素因の存在が示唆されている。最近,中皮腫が多発する米国の2家系に,germline BAP1 mutationの存在が明らかにされている。
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癌と化学療法 40巻11号, 1446-1450 (2013);
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放射線による発癌は,放射線によるDNA 損傷とその不完全な修復による突然変異による。放射線に特有なDNA 損傷はないが,DNA 二重鎖切断が相対的に高頻度に起こる点が特徴である。中国の高自然放射線地域での疫学調査の結果では,4 mSv/年程度の放射線被曝により末梢血リンパ球の染色体異常頻度が有意に上昇することが明らかになっている。放射線被曝による発癌リスクは臓器・組織により異なり,発癌の潜伏期間に関しても白血病や若年被曝による甲状腺癌と他の固形癌とでは大きく異なる。全身均等被曝した場合に最も発癌の絶対リスクが高いのは白血病ではなく,胃癌,乳癌,結腸癌,肺癌の順であることに注意が必要である。
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癌と化学療法 40巻11号, 1451-1454 (2013);
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2012 年5 月,印刷事業場で比較的若年の元あるいは現従業員に胆管癌が高率に発生している事例が報告された。これらの従業員は当事業場のオフセット校正印刷部門に勤務しており,有機溶剤を含む多くの化学物質に曝露されていた。なかでもジクロロメタンや1,2-ジクロロプロパンなどの化学物質に高濃度に曝露されていたことが推定されている。原因物質の特定は困難な状況ではあるものの,化学物質が原因と推測される胆管癌であり,環境因子による新たな職業癌と考えられる。本件は胆管癌発癌の要因やメカニズムを検討する際に,種々の化学物質などの環境因子を考慮する必要があることを示している。
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特別寄稿
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癌と化学療法 40巻11号, 1475-1487 (2013);
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PubMedと医学中央雑誌のデータベースなどを用いて,原著論文および学会発表などの抄録論文に掲載されたがんの自然退縮症例を検索した。まず,2011年に日本から論文として発表された自然退縮の63 症例について検討した。がんの種類としては,リンパ腫,肝癌,肺癌が多かった。自然退縮の頻度としては,日本で1 年間に新たにがんと診断される患者数から算定すると,日本ではがん患者の約12,000人に1 人という割合で自然退縮が発生していると推定された。次に,2006〜2011年までの6 年間に,日本をはじめ世界各国から報告された肝癌の自然退縮84 例,肺癌の退縮40 例,がん肺転移巣の退縮37 例を検討した。自然退縮した原因としては,全般に,免疫学的機作が関与していたとされた症例が多かった。これ以外に,肝癌では腫瘍への血流障害が,肺癌では腫瘍随伴症候群の合併が,肺転移巣では原発巣の摘除が,自然退縮の原因と推定される症例が多かった。
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癌と化学療法 40巻11号, 1489-1495 (2013);
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ゲムシタビンの悪性リンパ腫における治療について要約した。ゲムシタビンはデオキシシチジン誘導体としてAra-Cとは異なる特徴をもつ薬剤で,これまでの臨床試験の結果からすでに海外のガイドラインにおいて,特に再発および難治性悪性リンパ腫に対し,単剤ならびに併用での使用が推奨されている。2012 年までに報告された単剤療法の臨床試験結果からは,末Ì性T 細胞性リンパ腫,皮膚T 細胞性リンパ腫で51〜75%の奏効率が示されている。併用療法としては,シスプラチン,デキサメサゾンとの併用レジメン(GDP)では再発難治性ホジキンリンパ腫で62〜70%,再発難治性非ホジキンリンパ腫で45〜53%の奏効率を示し,既存の救援化学療法と比較しても遜色のない有効性が報告されており,良好な安全性プロファイルや自家移植への移行可能率から自家移植への導入化学療法としての可能性も示唆されている。なお,臨床上で注意すべき副作用として,ブレオマイシンを含むレジメンとの併用で27 例中8 例(30%)に肺障害がみられたという報告があり,注意が必要と考えられる。
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原著
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癌と化学療法 40巻11号, 1497-1501 (2013);
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背景: 腎細胞癌の骨転移は溶骨性変化を来し,病的骨折が問題となる。当研究の目的は腎細胞癌の骨転移症例に対して,放射線療法とゾレドロン酸の併用療法の効果を検討することである。対象と方法:腎細胞癌骨転移12 例について後ろ向きに調査した。放射線単独療法を行ったのは7 例(RT 群),ゾレドロン酸との併用療法を行ったのは5 例(RT+Z 群)であり,各群における骨転移のX 線学的評価による奏効率(PR,CR/全例),生存期間,骨関連事象(skeletal related events: SRE)の発現率について検討を行った。結果: X 線評価は,RT 群がPD 2 例,SD 3 例,PR 1 例,CR 1 例で奏効率は28.6%であり,RT+Z 群がPD 1 例,PR 3 例,CR 1 例で奏効率は80%であった。初診時からの平均生存期間はRT 群が46.1(5〜164)か月,RT+Z 群が48.8(14〜108)か月で有意差はなかったが,骨関連事象はRT+Z 群で少ない傾向があった。結論:ゾレドロン酸との併用により生存期間の延長にはつながらなかったが,転移骨のX 線学的評価による奏効率やSRE 発現率は放射線療法単独よりも有効であった。
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癌と化学療法 40巻11号, 1503-1506 (2013);
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切除不能胃癌には幽門狭窄やびまん浸潤による経口摂取困難な症例がある。このような症例に対して患者のQOL の改善の有無とS-1 を含めた治療効果・有用性を検討した。S-1 投与例は13 例で,S-1 をキードラッグとして使用した症例(MST: 310日)は,S-1非使用例(MST: 105日)より有意にMSTの延長を認めた。また,胃空腸吻合術を施行した25 例のうち,S-1投与例は10 例(MST: 384日)で,S-1以外の化学療法例(MST: 121 日)より有意にMSTの延長を認めた。単変量解析による予後因子は,術後経口摂取,PS,BSC,化学療法の有無,S-1 投与の有無が予後に関与していた。これらの因子での多変量解析では,経口摂取とS-1が独立した生存期間規定因子であった。経口摂取不良を伴う切除不能胃癌に対する治療は,積極的に胃空腸吻合術を施行し経口摂取を可能とするとともに,術後にS-1 単独またはS-1 をベースとした化学療法の追加が予後を延長させる可能性が示唆された。
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癌と化学療法 40巻11号, 1507-1509 (2013);
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われわれは,高度進行固形癌に対して副作用がなく,耐性もできず,QOL を良好に維持しながら“がんと共生しよう”という発想の下,CD56 陽性リンパ球を中心とした新免疫細胞BAK(BRM activated killer)療法を考案した。前報にて,肝動注による転移性肝癌への治療を行い,肝転移PET-CT 画像の消失を報告した。今回は,患者の希望により腹壁腫瘍へのBAK リンパ球の局注療法を試みた。BAK 療法とは,患者から末梢血20 mL を採取し,リンパ球を固相化CD3 抗体とIL-2で活性化,増殖させ,E(bina)培地と無血清ALyS 培地で2 週間培養し,100 億個の自己リンパ球を得る。培養最終日にIFN-a を1,000 単位/mL,15 分間処理しキラー活性を増強させる。2 週間目に100 億個の自己リンパ球だけを200 mL のリンゲル液に入れ,1 時間かけて点滴静注で患者に戻す方法である。60 歳,女性の2 cm大の腹壁腫瘍に100 億個のBAK リンパ球を50 mL のリンゲル液に入れ,3 週間ごと3 回超音波検査下腫瘍内投与を行った。3 回投与終了後に生検を行い,PAS染色により鏡検した。その結果,腫瘍はばらばらになり,1 個の癌細胞を10 個のリンパ球が取り囲んで殺している像をとらえることができた。すなわちBAKリンパ球の局注療法は,BAKリンパ球が癌組織に到達することができれば確実に癌細胞を殺していることを確かめたことになり,BAK療法の有効性が示唆された。
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薬事
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癌と化学療法 40巻11号, 1511-1514 (2013);
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がん患者は健常人と比べ感染症によるリスクが高く,そのコントロールは非常に重要である。大阪医科大学附属病院感染対策チーム(以下,ICT)は,診療報酬改定による感染防止対策加算の新設により,2011 年度からICTのメンバーを充実させ,感染症診療の介入を実施している。ICT は感染症診療介入の一環として,血液培養提出の推進を掲げており,血液培養が陽性となった患者すべてに介入を行っている。今回,ICTによる感染症診療介入の効果を検討すべく,感染症のリスクが高いとされるがん患者のなかで,血液培養が陽性となった感染症例を対象に評価を行った。調査期間は2011 年4 月〜2012 年7 月。期間中の介入対象患者は37 例,そのうち34 例(92%)にICT の推奨する治療内容が主治医に受け入れられた。また,受け入れられた34 例中22 例(65%)において感染症の改善が認められた。臨床現場において,がん患者の感染症コントロールは重要であり,感染リスクの高いがん患者に対するICTの寄与は大きいと考える。
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医事
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癌と化学療法 40巻11号, 1515-1519 (2013);
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当院のがんのリハビリテーション(以下,リハ)の取り組みを紹介するとともに,2012 年1 月〜6月まで当科に依頼のあった患者1,028例を対象にがん患者依頼件数,診療科別依頼件数,入院からリハ依頼までの日数を調査した。まず,がん患者に対するリハ依頼件数は2009年の同時期と比較して増加しており,診療科別でも総依頼件数でも,その割合は増えていた。また,治療パスを導入した診療科ではより早期からリハが依頼されるようになった。今後,がん患者へのより早期からのリハ介入のために,がんのリハの重要性の啓蒙や術前後訓練パスの作成などに取り組んでいきたい。
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薬事レポート
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癌と化学療法 40巻11号, 1521-1524 (2013);
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抗がん剤を取り扱う経験が乏しい看護師に2009年と2010 年に曝露予防について2 年にわたって院内集合研修を行った。調査対象は2009 年度新入職看護師108 名,2010 年度入職2 年目看護師111 名うち日常業務において抗がん剤の調製を行っている研修生で,2009年度23 名,2010年度21名であった。それぞれの研修後に曝露予防についてのアンケート調査を実施し,項目ごとに内容を検討した。2009年度研修前後の理解度の比較では,抗がん剤曝露の危険性を認識し,その予防対策についての知識の向上が認められる結果が得られた。しかし,2010年度の研修後では,曝露対策を「常に実践ができている」と回答した割合が低下を示しており,2009年度の研修で得た知識が,1 年後の追跡調査において日常業務で行動に結び付いていないことが明らかになった。その理由として,経験年数の浅い研修生では部署内での発信力が弱く,知識は得られても実践に至りにくいことが考えられた。また,研修生からは防護用具などの必要物品が整っていれば実践可能であること,曝露予防についてのガイドラインの周知がされていないことなどの意見があった。現在の医療現場では,看護師によるベッドサイドでの抗がん剤の投与,管理は必要不可欠であるため,看護師は専門的知識に基づく技術でリスクを回避する必要がある。今後の課題として,①抗がん剤の曝露に対して職種に限らず共通した知識をもち危険性を認識し,現在作成されている「がん化学療法ガイドライン」を有効に活用できるよう,経験年数の浅い看護師だけでなく多くの看護師に周知していくこと,② がん化学療法看護の専門知識を習得したスタッフが自部署において役割モデルになって発信をしていき,抗がん剤の曝露予防行動がとれるスタッフを増やしていくこと,③化学療法委員会による定期的なラウンドなど,多職種が協働して安全な抗がん剤の取り扱いが行えるように連絡・調整を行うことが必要である。
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症例
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癌と化学療法 40巻11号, 1525-1528 (2013);
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肺腺癌新国際分類(2011年,Journal of Thoracic Oncology)で定義された浸潤性粘液腺癌(従来の粘液産生性細気管支肺胞上皮癌)は治療抵抗性で,有効な治療法が確立されていないのが現状である。今回われわれは,プラチナ製剤+ペメトレキセド(PEM)+ベバシズマブ(BEV)併用療法が術後再発の浸潤性粘液腺癌に奏効した2 症例を経験したので報告する。症例1 はT2N0M0,ⅠB 期の浸潤性粘液腺癌で,右下葉切除術を施行後,術後補助化学療法としてUFT を継続していた。術後2 年目に対側肺に再発が出現し,カルボプラチン(CBDCA, AUC 5.0)+PEM(500 mg/m2)+BEV(15 mg/kg)6コース,維持療法としてBEV(15 mg/kg)3 コースを行った結果,ほぼcomplete response(CR)に至った。症例2 の術前診断はc-T3N0M0 ⅡB 期,右下葉切除術施行後,対側肺に転移結節が出現しT3N0M1 Ⅳ期の浸潤性粘液腺癌と診断した。治療としてS-1 1 コース,シスプラチン(CDDP)+S-1,S-1 4 コースまで施行したところで,両肺に多発結節影や斑状影が出現した。そこでCDDP(60 mg/m2)+PEM(500 mg/m2)+BEV(15 mg/kg)4 コース,PEM(15 mg/kg)5 コースを行ったところ,PR を得た。本報告の結果は,プラチナ製剤+PEM+BEV 併用療法が浸潤性粘液腺癌に対し,有効な治療法となり得る可能性を提示した。
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癌と化学療法 40巻11号, 1529-1532 (2013);
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乳癌患者でTLS を来した症例を報告する。症例は59 歳,女性。乳癌に対し1992 年に手術を施行した。術後19 年目(DFI 13 年3 か月)で多発骨転移を認めた。2011 年3 月,多発骨転移が増悪しゲムシタビン(2 投1 休1,250 mg/m2)開始。1 コース目day 16 に意識レベルの低下,高度貧血,高Ca 血症,高尿酸血症,肝・腎機能障害が出現し緊急入院,TLS を疑い治療を行った。高尿酸血症に対しラスブリカーゼが有効であった。固形癌の化学療法によるTLS の発症はまれであるため報告する。
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癌と化学療法 40巻11号, 1533-1536 (2013);
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初回手術時に非切除となり胃空腸吻合を施行したが,bi-weekly S-1/docetaxel(DS)療法後に根治手術を施行し得た局所進行胃癌の1 例を経験したので報告する。患者は73 歳,男性。胃もたれあり前医を受診,幽門狭窄伴う進行胃癌にて手術目的に紹介された。LMU,Circ,150×80 mm,Type 3,T4a(SE),N2,M0,stage ⅢBの診断で手術を施行した。しかし膵,中結腸動脈に浸潤を認め,Devine gastrojejunostomyを施行した。DS療法13 コース施行後画像上 non-CR/non-PD,ycT4a(SE),N1,M0,stage ⅢB と診断し,初回手術から1 年9か月後再手術を施行した。肉眼的に癌は消失し,迅速診断で断端陰性を確認し,Devineの切離ラインを延長し幽門側胃切除術を施行した。胃内容停滞を認めたが保存的に軽快し術後29 日で退院。病理標本では胃壁は全層で線維化し,粘膜筋板および固有筋層に腫瘍が島状に残存し,LM,10×7 mm,10×2.5 mm,pType 4,pT2(MP),pN0,pM0,CY0,p-stageⅠB であり,化学療法の効果判定はGrade 2 であった。術後S-1 を内服し,術後6 か月の現在無再発生存中である。切除不能と判断されても新規レジメンが奏効した症例では,根治切除可能となることがあることを念頭に置き手術を考慮すべきである。
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癌と化学療法 40巻11号, 1537-1540 (2013);
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64 歳,男性。吐血を主訴に受診し,進行胃癌と診断された。精査にて,胃小弯〜腹腔動脈周囲のbulkyなリンパ節転移が認められ,治療前診断は,胃癌cT4aN2M0,Stage ⅢB と診断した。術前化学療法として分割DCS(docetaxel+cisplatin+S-1)療法を2 コース施行した。化学療法は奏効し,PR が得られた後,胃全摘術を施行した。病理学的所見では原発巣,リンパ節ともに腫瘍の残存は認められず,組織学的効果判定はGrade 3 であった。術後経過は良好で,手術11 か月後の現在,経過観察中である。
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癌と化学療法 40巻11号, 1541-1544 (2013);
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症例は75 歳,男性。上腹部不快感を主訴とし,上部消化管内視鏡検査で原発性十二指腸癌と診断された。上行結腸合併切除を伴う膵頭部十二指腸切除術を施行した。病理診断は高分化腺癌で,膵切除断端陽性であったため,術後化学療法を行った。S-1/CDDP 療法を検討したが,腎機能障害が疑われたためS-1/CPT-11併用(IRIS)療法とした。4 コース投与後に肝転移と腹水が出現し,docetaxel療法へ変更した。変更後,2コースで肝転移と腹水が消失した。術後13 か月を経過し,現在外来通院中である。
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癌と化学療法 40巻11号, 1545-1548 (2013);
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われわれはイレウス状態にある広範な腹膜播種を伴う切除不能結腸癌に対しバイパス術を施行した後,bevacizumab+XELOX 療法(以下,本療法)を投与した。本療法が奏効し,腹膜播種が消失し原発巣を切除し得たので報告する。症例は52歳,男性。盲腸癌の診断で手術を施行した。多数の腹膜播種があり,原発巣は後腹膜に固着していたため切除不能と判断し,小腸横行結腸吻合のみ施行した。術後本療法を外来通院下に計6 コース行い,PET/CT で腹水・腹膜播種は消失し,CEA は正常値となった。大腸内視鏡でも原発巣は著明に縮小し,生検でもgroup Ⅰであったが,PET でわずかに異常集積が残存したためsecond look開腹手術を施行した。腹水・腹膜播種はほぼ消失しており,盲腸腫瘤は後腹膜より挙上可能で回盲部切除施行し得た。組織学的効果判定はgrade 2 であった。本療法は腹膜播種を伴う切除不能進行大腸癌に有効と考えられた。
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癌と化学療法 40巻11号, 1549-1552 (2013);
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フッ化ピリミジン系抗癌剤(以下,5-FU)の不活性化代謝の律速酵素であるdihydropyrimidine dehydrogenase(DPD)を欠損した患者に5-FU を投与した場合,重篤な副作用を生じることが報告されているが,非常にまれであり,またその診断確定には難渋することが多い。症例は70 歳,男性。直腸癌の術後補助化学療法としてcapecitabine 3,600 mg/day 内服を開始した。内服開始12 日目に口腔粘膜炎(grade 3),手足症候群(grade 3)にて外来受診し,入院加療を開始。その後,好中球減少(grade 4),血小板減少(grade 4)も認め,治療に奏効せず,内服開始後25 日目に死亡された。末梢血中単核球中のDPD測定,また尿中uracil,尿中dihydrouracilの測定を行ったところ,DPD欠損症の診断は確定できなかったが,臨床経過より部分欠損症を強く疑った。
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癌と化学療法 40巻11号, 1553-1555 (2013);
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症例は出血性内痔核を有する58 歳,女性。大腸癌切除不能肝転移にてFOLFOX6 を施行中であった。6 コース施行後の効果判定はSD であったが,副作用のためregimen変更が必要となった。また,痔核からの出血が増悪したためALTA(ジオン注射)による痔核硬化療法を行った。術後は出血を認めず経過したため,ベバシズマブを導入し化学療法を再開した。治療再開後も出血は認めず,現在も化学療法を継続中である。コントロール不良な出血性内痔核を有する進行癌患者において,ALTA注射療法は,限られたregimenにて治療を行わざるを得ない症例ではベバシズマブ導入が可能となり,治療バリエーションの一つとして有用と考える。
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癌と化学療法 40巻11号, 1557-1560 (2013);
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oxaliplatin(L-OHP)は切除不能進行大腸癌,大腸癌術後補助化学療法のkey drugの一つである。まれな副作用として,著明な血小板減少を来すことが報告されている。L-OHP に起因する血小板減少の機序としては,①肝類洞障害によるもの,②免疫反応によるもの,③ 骨髄抑制によるものと分類されている。その他にもTTP,ITP,HIT,偽性血小板減少症など,化学療法に直接関与していないが血小板減少を来す病態も考慮しなければいけない。当院で経験したL-OHP を含む化学療法中に著明な血小板減少を来した3 症例をとおして,血小板減少を来す原因を検証し,文献的考察を含め報告する。
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癌と化学療法 40巻11号, 1561-1563 (2013);
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近年,がん化学療法によるB 型肝炎ウイルス(HBV)の再活性化が問題となっている。しかし,HBs抗原陰性でHBs抗体もしくはHBc 抗体陽性の既往感染例における報告は造血器腫瘍が大半であり,固形がんについては極めて少ないのが現状である。今回,HBV 既往感染の直腸がん患者において,bevacizumab+FOLFIRI療法施行中にHBV が再活性化する症例を経験したので報告する。患者は74 歳,男性でHBs抗原(−),HBs抗体(−),HBc 抗体(+),HBe 抗原(−),HBe抗体(−),HBV-DNA(検出感度未満)のHBV 既往感染患者であった。21 サイクル目のbevacizumab+FOLFIRI療法を施行した42日後から,ASTおよびALTが上昇した。また,その後の検査でHBs抗原(+),HBs抗体(−),HBc 抗体(+),HBe 抗原(+),HBe抗体(+),HBV-DNA 9.0 log copies/mL 以上となり,HBVの再活性化が明らかとなった。治療としてはentecavir(0.5 mg/day)の投与や血漿交換が行われたが,bevacizumab+FOLFIRI療法最終投与から82 日後に患者は肝不全のため永眠された。本症例から,HBV 既往感染の直腸がん患者においてもbevacizumab+FOLFIRI療法施行期間中にHBV が再活性化することが示された。過去に同様の症例は報告されておらず,本症例は今後,HBV 既往感染例における再活性化を議論する上での貴重な報告になり得ると考えられる。今後,より多くの施設において詳細な検討を行われることが望まれる。