癌と化学療法
Volume 41, Issue 9, 2014
Volumes & issues:
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総説
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認知症患者のがん診療
41巻9号(2014);View Description Hide Description超高齢化社会を迎えるとともに高齢がん患者が増加している。高齢がん患者の増加とともに,認知症を合併したがん患者を治療する機会も増えてきた。認知症を合併した場合,がん治療を遂行する上で意思決定能力の有無の確認やアドヒアランスの確保,緊急時の判断が困難になる問題があり,その背景には認知症に伴う短期記憶障害と遂行機能障害が関与する。認知症のがん患者の治療を考える上で,遂行機能障害の有無,社会的支援の有無を評価することは重要であり,高齢者総合的機能評価(CGA)の実施など包括的なアセスメントの確立・普及が望まれる。
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特集
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- がん免疫抑制・免疫疲弊と新規治療
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制御性T 細胞によるがん抗原特異的T 細胞の抑制
41巻9号(2014);View Description Hide DescriptionCD4+CD25+FOXP3+ 制御性T 細胞(Treg)は自己反応性のT 細胞を抑制することで,生体内に自己寛容を形成し免疫調整に重要な役割を果たしている。一方,腫瘍微小環境では多くの腫瘍で腫瘍細胞がケモカインなどを産生し,Tregを引き寄せることで免疫抑制環境を形成し,抗腫瘍活性を有するエフェクターT細胞の活性化や増殖を抑制し,自らを宿主の攻撃から守っている。よって効果的ながん治療を行うためには,腫瘍微小環境の免疫抑制を是正するため効果的にTreg の免疫抑制機能をコントロールし,抗腫瘍免疫応答を回復することが肝要である。現在,Tregを含む免疫修飾作用をもった薬剤(抗CTLA-4抗体,抗 PD-1/PD-L1 抗体,抗 CCR4 抗体など)の臨床試験が複数進行中である。そのなかでも免疫チェックポイント阻害剤である抗CTLA-4抗体は,腫瘍局所に存在するTregを減少させることで抗腫瘍効果を示すことが報告されている。従来の抗腫瘍効果をもったエフェクターT細胞を活性化,増殖させる治療に加えて,腫瘍微小環境の免疫抑制で重要な役割を果たしているTreg を除去する,あるいはTreg の抑制能を弱める治療を併用していくことが,今後のがん免疫治療を成功に導く上での重要な要素である。 -
がん免疫逃避機構を標的とした新規治療法の開発
41巻9号(2014);View Description Hide Descriptionがん免疫療法は従来の治療法に抵抗性である進行がんに対する革新的な治療法として研究,開発が進められている。近年の基礎的な腫瘍免疫学の発展と多くの臨床研究の蓄積により,がんと免疫システムの相互作用に関する分子機構が明らかとなってきた。免疫システムはがん細胞が発生する段階では免疫監視機構として,また顕在化したがん組織においては腫瘍抗原に対する免疫応答としてがんをコントロールする。これらの免疫反応に対し,がん細胞は自身の免疫原性を変化させることや腫瘍微小環境における免疫抑制メカニズムを誘導することで,極めて巧妙に免疫システムから逃避し,生存増殖していることが明らかとなった。このことから,効果的ながん免疫療法の樹立には,いかに効率的にがん反応性免疫細胞を誘導するかという点に加えて,がん微小環境での免疫逃避機構や免疫抑制メカニズムをいかに制御するか,という観点が重要であることが判明してきた。このようなパラダイムシフトに基づき,がん免疫逃避機構を標的とした新しいがん免疫療法が次々と開発されている。本稿では近年特に注目され,臨床開発が急速に進展している免疫チェックポイント阻害療法について解説する。 -
T 細胞の免疫疲弊制御とがん免疫治療
41巻9号(2014);View Description Hide Description感染症やがんでは,CD8 T 細胞は繰り返す抗原刺激により疲弊(exhaustion)する。疲弊の過程で抗原特異的なCD8T 細胞はしだいにサイトカイン産生能を消失し,最終的にはアポトーシスにより死滅する。また,CD8 T細胞は持続的な抗原刺激により,疲弊分子PD-1,CTLA-4,TIM-3,LAG-3を発現する。これら疲弊分子とそのリガンドとの結合により発生する負のシグナルによりCD8 T 細胞はより機能を消失する。2013 年,抗PD-1,抗CTLA-4 抗体により悪性黒色腫患者で劇的な腫瘍縮小効果が報告された。このようなCD8 T細胞疲弊の制御は,今後のがん治療に新たな展開をもたらすと考えられる。 -
免疫チェックポイントPD-1/PD-L1経路を標的とする新しいがん治療
41巻9号(2014);View Description Hide Description近年のがん免疫学研究の発展により,がん微小環境における「がん免疫逃避機構」の存在が明らかとなり,さらにその中心的経路の一つとして,T 細胞性免疫の機能抑制にかかわる免疫抑制性副シグナル(免疫チェックポイントとも呼ばれている)PD-1/PD-L1経路とその阻害薬が注目されている。現在,この PD-1/PD-L1経路の阻害薬は,複数の製薬会社や研究施設によって世界中で多くの固形がんや血液腫瘍を対象に臨床試験が行われており,メラノーマに対しては薬事承認された薬剤もでてきている。そこで本稿では,PD-1/PD-L1経路の基礎的背景と当科での治験ならびに国内外での治験の動向について概説する。 -
腎癌に対するNivolumab(抗 PD-1抗体; ONO-4538/BMS-936558)について
41巻9号(2014);View Description Hide Description進行性腎癌に対する抗 PD-1 抗体 nivolumab(ONO-4538/BMS-936558)の効果が有望視されている。本稿ではこの腎癌に対する新たな薬剤ならびに免疫療法について概説した。
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Current Organ Topics:Upper G. I. Cancer 食道・胃癌
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原著
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頭頸部がん患者に対する放射線併用シスプラチン分割レジメンにおける予防的制吐薬アプレピタントに関する考察
41巻9号(2014);View Description Hide Descriptionシスプラチン(CDDP)分割レジメンに対するアプレピタント(aprepitant: APR)の使用に関して十分な検証が行われていない。本研究は放射線療法と併用し,3 週間ごとに CDDP 20 mg/m2を4 日間連日投与するCDDP 分割レジメンにおけるAPR の使用状況と悪心の実態を調査し,APR の必要性について検討した。CDDP 分割レジメンを施行した頭頸部がん患者のうち,APR を使用していた2010 年1 月〜2010 年6 月までの23 症例をA 群,APR を使用していない2011 年7 月〜2011 年12 月までの34 症例をB 群とした。両群で発現した悪心の最大Gradeについて診療録を用いて後方視的に調査した。対象の年齢中央値は A 群 60(35〜73)歳,B 群 62(31〜71)歳,男性/女性はA群(18/5),B群(30/4),PS 0/1 は A 群(20/3),B群(31/3)であった。発現した悪心の最大Grade(0/1/2)は A群(21/2/0),B群(19/9/6)であった。悪心が発現した頻度は A 群 8%(2/23),B 群 44%(15/34)であり,A群で有意に低かった(p<0.01)。Grade 2 に至ったB 群の6 症例のうち 5 症例に APR が追加処方され,次コースにて 60%(3/5)の症例で悪心が軽減した。CDDP 分割レジメンにAPR を使用することで悪心が制御できる傾向が示唆された。 -
進行・再発胃癌に対しSecond-Line以降で低用量CDDP+CPT-11を用いた外来化学療法症例の検討
41巻9号(2014);View Description Hide Description進行・再発胃癌に対し,second-line 以降で低用量CDDP+CPT-11 療法を行った症例についてretrospective に検討した。進行・再発胃癌41 例を対象とし,CDDP 20 mg/m / 2,CPT-11 80 mg/m2を各々点滴静注し,2〜3 週間ごとに外来で施行した。初発進行胃癌の非切除症例17 例,術後再発胃癌24 例であった。平均年齢は67.4(42〜81)歳,男性31 例,女性10例。評価病変は,原発巣14 例,腹腔内リンパ節27 例,肝転移9 例,肺転移3 例であり(重複あり),second-line 13 例,thirdline28 例に投与された。CR 0 例,PR 5 例で奏効率は12.0%,SD 11 例であり,病態制御率は40%であった。当レジメン開始からのmedian survival time(MST)は8(2〜36.6)か月,disease free survival(DFS)は3.7 (0.7〜22.4)か月であった。副作用は,grade 4 の有害事象は認めず,grade 3 はアレルギー1 例,脱水1 例,好中球減少2 例であり,重篤な副作用なく外来で安全に使用することが可能であった。低用量CDDP+CPT-11 を用いた外来化学療法は,進行・再発胃癌の今後の治療の選択肢の一つとして考慮される治療であると考えられた。 -
切除不能結腸直腸癌の一次治療においてベバシズマブを初回から併用せず,無増悪のままで途中から併用することの臨床的な意義についての検討
41巻9号(2014);View Description Hide Description根治切除不能・再発結腸直腸癌(mCRC)の一次治療において,様々な理由により初回からのBV 併用が不可能な場合,一次治療途中で無増悪のままBV を追加併用することがある。今回われわれはそのような症例をmidway BV と呼称し,その有効性について検討を行った。2010年1 月〜2012年9 月までに当院でmCRC の一次治療を開始した74 例を,BV 未使用群40例(no BV),初回からのBV 併用群25 例(BV),無増悪のままBV を途中追加した9 例(midway BV)の3 群に分類し,後ろ向き検討を行った。奏効率はそれぞれで27.5%,44.0%,55.6%。無増悪生存期間中央値は9.7 か月,9.3 か月,12.8 か月。生存期間中央値は20.3か月,22.2か月,未到達であった。少数例であり交絡因子もあるが,初回からのBV 併用が不可能であった場合,midway BV として治療することが抗腫瘍効果の面で有用である可能性が示唆された。 -
発熱性好中球減少症に対するGarenoxacinとLevofloxacin予防投与の比較検討
41巻9号(2014);View Description Hide Descriptionlevofloxacin(LVFX)が固形癌患者などに対する化学療法実施時の発熱性好中球減少症(febrile neutropenia: FN)の発症を有意に減少させることが,プラセボ対照無作為化比較試験で示されている。garenoxacin(GRNX)は,高頻度で肺炎の起炎菌となり得るグラム陽性菌,特に肺炎球菌に対する抗菌力がLVFX を凌駕することが示唆されている。当施設では,以前よりFN 発症の高リスクと判断された患者にLVFX の予防投与を行うことがあったが,GRNX 上市以降は同様の患者群に対しGRNX の予防投与を行う症例が増えている。そこで,両薬剤のFN に対する予防投与の効果および副作用を比較検討することにした。2007年8 月〜2012年4 月までに固形癌の化学療法中にFN 発症の高リスクと判断され,GRNX(72例)またはLVFX(55例)が予防投与された127例を後ろ向きに解析した。主要評価項目は発熱エピソードの件数で,腋下体温で38.0℃以上を1回記録した場合とした。副次的評価項目は発熱エピソードが認められた時の起炎菌,感染巣および安全性(薬剤投与に関連する死亡副作用)とした。総投与コース数はGRNX 群106 コース,LVFX 群82 コースで,発熱エピソードはGRNX群2件,LVFX 群が7 件であった(p=0.044)。両群すべての発熱症例において明らかな起炎菌および感染巣は同定できず,好中球の回復とともに速やかに解熱した。副作用に関しては,GRNX 群で皮疹4 例,肝障害が3 例に,LVFX 群で皮疹2 例,肝障害が2 例に認められたが,これら副作用の発現頻度に両群で有意差を認めなかった。両薬剤に関連すると考えられる重篤な副作用は認めず,死亡例もなかった。GRNX はLVFX と比較して有意にFN を抑制し,両薬剤に関連すると考えられる重篤な副作用は認められなかったことから,GRNXはFN 予防における有用な抗菌薬の一つと考えられる。 -
Capecitabineによる高トリグリセリド血症発現の現状認識調査
41巻9号(2014);View Description Hide Descriptionわれわれは日常診療において比較的まれではあるが,capecitabineにより血中トリグリセリド(TG)値が上昇する症例を経験している。capecitabineによる高トリグリセリド血症(capecitabine-induced hypertriglyceridemia: CI-HTG)については海外の文献報告は散見されるものの,本邦における報告は見当たらず詳細は明らかになっていないのが現状である。そこで日常診療における有益な知見を得るため,CI-HTG に関する後方視的な調査を実施した。対象患者56 名のうち,capecitabine投与前のTG 値が150 mg/dL 未満でかつ投与後に150 mg/dL以上に上昇した症例は14 名(25.0%)であった。また,有害事象共通用語規準v4.0日本語訳JCOG版(CTCAE v4.0-JCOG)を用いてGrade評価を行った結果,Grade 3 以上の重篤な上昇を来した症例も2 名(3.6%)存在した。以上のことから,CI-HTGは比較的低頻度ではあるものの,本邦においても存在していることが明らかとなった。今後,より多くの施設で詳細な検討を行われることが望まれる。
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薬事
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第一世代セロトニン拮抗薬とリン酸デキサメタゾン2 剤による乳がんAC 療法点滴投与開始時刻に合わせた薬剤師内服指導による悪心・嘔吐の報告―第2報―
41巻9号(2014);View Description Hide Description乳がんドキソルビシン+シクロホスファミド療法を施行する患者は,第一世代セロトニン受容体拮抗薬(5-HT3a),リン酸デキサメタゾンとアプレピタントが推奨されている。アプレピタントは高い制吐効果があるが,高価であることと相互作用があることが欠点とされている。われわれは乳がんAC 療法患者に対して,第一世代5-HT3a とリン酸デキサメタゾンを化学療法の点滴開始時間に合わせて薬剤師が介入した悪心・嘔吐を検証した。主要評価項目は,嘔吐なし,救済処置なしの完全嘔吐抑制(CR)率とした。2010年11 月〜2011年12 月の46 名の対象患者のうち,全期間(0〜120時間)のCR 率は85%,急性期(0〜24時間),遅発期(24〜120時間)のCR 率はそれぞれ85%と93%であった。アプレピタントが服用できない患者に対しての第一世代5-HT3a早期内服が有用な可能性がある。
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薬事レポート
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電子カルテでの化学療法レジメンの運用について
41巻9号(2014);View Description Hide Description安全で確実ながん薬物療法実施のためには,化学療法レジメンの院内での一元管理が必要である。今回,電子カルテ導入に伴い,レジメン管理を従前のオーダリングシステムと紙での運用から電子カルテシステムでの運用に移行した。稼働後1年が経過したが,ほぼ順調に運用できている。しかし,稼働後もメンテナンス作業が繁雑であること,薬剤の投与剤型が異なる場合には同一レジメンとして管理できないなど,システム上の問題点も明らかになってきた。電子カルテ稼働後の運用状況や問題点を検討した結果,安全かつ円滑なレジメン管理のためには,現有のシステムの機能を十分に理解し,施設の状況に合わせてうまく利用することが良策と考えられる。
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症例
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転移性乳癌治療中にMicroangiopathic Hemolytic Anemiaを合併しEribulinが奏効した1 例
41巻9号(2014);View Description Hide Description症例は48 歳,女性。2004年に乳癌stageⅣ(多発骨転移,脳転移)と診断。骨転移,脳転移の増悪を繰り返すが,化学療法,ホルモン療法にて病態は安定していた。2013 年に高度貧血を呈し,精査の結果,細小血管障害性溶血性貧血と診断された。eribulin(1.4 mg/m2)にて治療を開始したところ貧血は改善し,治療開始後8 か月経過した時点で再燃を認めていない。細小血管障害性溶血性貧血はまれな病態であり予後不良とされているが,eribulin が有効な治療法になる可能性がある。 -
集学的治療によりQOL の改善が得られた腰椎転移併発Stage Ⅳb進行肝細胞癌の1例
41巻9号(2014);View Description Hide Description肝細胞癌の治療の進歩に伴い長期の予後も期待できることになってきた一方で,骨転移症例は近年増加傾向にある。肝細胞癌の骨転移を来し著明な疼痛を来した症例に対して集学的な治療を行ったことにより,良好なQOL を得られた症例を経験したので報告する。症例は44 歳,男性。腰痛を主訴に当院紹介受診となった。当院受診後,画像検査を施行し,肝細胞癌および腰椎転移と診断した。腰椎転移巣に対してzoledronate 点滴静脈投与,放射線外照射,肝動脈塞栓療法(transcatheterarterial embolization: TAE),腰椎固定術を施行した。施行後は著明な疼痛は消失し,内服していたoxycodoneを中止することが可能となった。肝細胞癌の骨転移の患者に対しては,良好なQOL を維持するためにも集学的治療は有効である。 -
肝細胞癌切除後の下大静脈内腫瘍栓・多発肺転移再発にLow-Dose FP 全身化学療法が著効した1 例
41巻9号(2014);View Description Hide Description肝細胞癌(HCC)に対する肝切除術後に下大静脈(IVC)内腫瘍栓,多発肺転移で再発し,low-dose FP 全身化学療法と肺切除によりcancer freeとなった症例を経験したので報告する。症例は66 歳,男性。右側腹部痛を主訴に近医受診し,US・CT で肝後区域に径13 cm の腫瘍を指摘され,当科紹介入院。HCC の診断で拡大後区域切除を受けた。病理診断は中分化型HCC[vp1,vv1,sm(−,1.5 mm),ch,f1,T3N0M0,stageⅢ]であった。術後3 か月目に,CT でIVC内に腫瘍栓と両側肺に合計20 個以上の腫瘤を認めた。HCC 再発の診断でlow-dose FP 全身化学療法を開始した。画像上腫瘍の縮小を認めたが,術後13 か月目に左肺S3 にnew lesion が出現しこの病変のみ増大したため,術後26 か月目で左肺上葉部分切除施行。病理診断はHCC の肺転移であった。肝切除術後46 か月の時点でcancer free となっている。HCCに対する肝切除後のIVC内腫瘍栓,多発肺転移再発に対しlow-dose FP 全身化学療法は考慮すべき治療法と考えられるが,新病変にも注意が必要である。 -
Gemcitabine+S-1療法が奏効しR0切除可能となった多発肝転移を伴う膵臓癌の2 例
41巻9号(2014);View Description Hide Descriptiongemcitabine(GEM)+テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤(S-1)療法が奏効し,多発肝転移を伴う膵癌が根治切除可能となった2 例を報告する。症例1: 40 歳,男性。黄疸を契機に多発肝転移を伴う膵頭部癌を指摘された。根治切除不能と判断し,GEM(1,000 mg/m / 2,day 1,8)+S-1(100 mg/day 1〜14 days)療法を施行した。7 コース後,転移巣はCR となった。腫瘍残存を考慮し,SSPPD-ⅡAを施行した。病理結果では原発巣に腫瘍残存がみられたが,R0切除であった。現在GEM+S-1療法を再開し,無再発である。症例2: 65 歳,男性。閉塞性黄疸にて多発肝転移を伴う膵頭部癌と診断された。根治切除不能と診断し,GEM+S-1 療法を11 コース施行。転移巣は1 か所のみとなり,根治切除可能と判断しPpPD-ⅡA を施行した。病理結果では原発巣およびNo. 13a リンパ節に腫瘍残存がみられたが,肝の結節は線維化のみでありR0 手術であった。現在GEM+S-1 療法を再開し,無再発である。GEM+S-1 療法はGEM単独療法より奏効率が高く,術前治療の有効な選択肢であると考える。 -
術前にS-1+CDDP+Trastuzumabによる化学療法を行い手術を施行した胃癌の1 例
41巻9号(2014);View Description Hide Description症例は79 歳,男性。前庭部小弯に進行胃癌を認め,腹部CT ではNo. 8aリンパ節が著明に腫大しており,総肝動脈,膵臓との境界が不明瞭であった。cT3,N1,M0,cStageⅡB と診断した。術前にS-1+CDDP+trastuzumab(T-mab)を2コース施行した。S-1は 80 mg/m / / 2day分2 を3週間投与し2 週間休薬した。CDDP は60 mg/m2を8日目に投与した。T-mabは初回を 8 mg/kg,2 回目以降6 mg/kg で 3週ごとに投与した。原発巣とリンパ節の著明な縮小を認め,幽門側胃切除術(D2)を施行した。病理所見では原発巣,リンパ節に線維化を認め,根治切除ができた。HER2陽性進行胃癌に対するS-1+CDDP+T-mabによる術前化学療法の有用性が示唆された。 -
S-1,capecitabineの少量・長期投与で5 年10か月生存した腹膜播種を伴った胃癌の1 例
41巻9号(2014);View Description Hide Description腹膜播種を伴う胃癌の予後は極めて不良であり,5 年を超える長期生存例になると極めてまれである。今回われわれは,腹膜播種を伴った胃癌手術症例に対してS-1,capecitabineを長期投与,かつ少量投与で術後5 年10 か月の長期生存が得られた症例を経験したので報告する。症例は78 歳,男性。2007 年9 月に胃癌に対して幽門側胃切除を施行し,術中所見で腹膜播種を認めた。S-1+CDDP を施行するが有害事象にて脱落のため,S-1 を 40〜50 mg/body/day,2 週投薬2 週休薬で38コース施行した。その後capecitabineへ変更し,1,800 mg/body/day にて 2 週投薬1 週休薬で26 コース施行し,2013 年6 月に84歳で癌死した。 -
イマチニブによる術前化学療法後,切除し得た胃巨大GISTの1例
41巻9号(2014);View Description Hide Description症例は73 歳,男性。便潜血陽性の精査にて高度貧血,腹部CT で胃体下部に18×11 cm の巨大腫瘍を認め入院となった。上部内視鏡検査による生検でGISTと診断された。低栄養,全身状態不良のため,中心静脈栄養と経管栄養を行って状態の改善を図る必要があり,この間術前化学療法としてイマチニブ 300 mg/day を投与した。約 4 週間投与後の腹部 CT で腫瘍の縮小を認めPR と判定,貧血と全身状態は改善し手術施行となった。胃部分切除,膵体尾部脾切除,横行結腸部分切除を施行した。退院後,1年間のイマチニブによる術後補助化学療法を行っており,術後10 か月の現在再発は認めていない。 -
S-1+CDDP+Trastuzumabが有効であった多発性肝・肺・リンパ節転移を伴う進行胃癌の1 例
41巻9号(2014);View Description Hide Description症例は58 歳,男性。診断は噴門部の2 型腫瘍で同時性に多発性肝・肺・リンパ節転移を伴っており,Stage Ⅳ進行胃癌であった。生検の結果は低分化型腺癌で,HER2 が3+(IHC法)と陽性であった。そこでS-1+CDDP+trastuzumabの3剤併用による化学療法を適用した。3 コースにて22.5%の縮小率が得られ,6 コース後の再検にてPR(36.2%縮小)となった。有害事象はgrade 1 の発熱,嘔気,嘔吐,下痢のみであった。右上腹部痛および腹部膨満の症状も著しく改善した。結果的に肝転移に対しては著効したが,リンパ節転移には効果なく11 コース後の9 か月目に原病死した。HER2陽性進行胃癌,特に肝転移を有する例に対してS-1+CDDP+trastuzumabによる化学療法は,有効なレジメンである可能性が示唆された。 -
集学的治療が奏効し4年間PR を維持し得たStageⅣ胃癌の1 例
41巻9号(2014);View Description Hide Description症例は63 歳,男性。幽門部3 型胃癌cT3,cNX,cM1(LYM)にてStageⅣと診断,S-1+paclitaxel(PTX)(2 コース)による化学療法施行後,PR が得られ幽門側胃切除術施行。術後もS-1+PTXを継続するも,#16リンパ節の腫大を再度認めたため,術後7 か月目に放射線療法を行った。10 か月後,左鎖骨上窩から頸部リンパ節転移を認め,頸部リンパ節郭清術を施行。術後S-1+cisplatin(CDDP)療法に変更するも,脳梗塞を発症したためS-1 単剤に変更。PR を維持していたが,1 年後に右総腸骨動脈前面および左頸部のリンパ節腫大を認めたため,再度可及的リンパ節郭清術を施行した。左耳下腺内および深部リンパ節転移残存部に対しては,放射線療法を行った。半年後,右鼠径部リンパ節再発を認め放射線療法施行,irinotecan(CPT-11)単剤療法を行うも腹膜転移の増悪を認め,治療開始後約4 年2か月で永眠された。 -
術前補助化学放射線療法後に切除した局所進行S 状結腸癌の1 例
41巻9号(2014);View Description Hide Description症例は38 歳,女性。主訴は悪心と腹痛。精査にて転移リンパ節の左腸腰筋および左尿管浸潤を伴うS 状結腸進行癌と診断された。遠隔転移を認めなかったが,一期的切除による外科的剝離面陽性が危惧されたため,人工肛門造設後,FOLFOX4 による術前補助化学療法を行った。その結果,原発巣,リンパ節ともに縮小したが,依然剝離面への癌遺残が危惧された。そこで,強力な局所制御効果の期待できる術前補助化学放射線療法として,左腸骨内側領域への放射線照射(総量45 Gy)と UFT/LV の内服を行った。治療効果はPR であり,開腹 S 状結腸切除,左尿管部分切除を行った。組織学的効果はGrade 2 で,組織学的に切除断端はすべて陰性でR0手術となった。局所進行結腸癌に対して,術前補助化学放射線療法は適応を選べば有効な選択肢の一つになり得ると考えられた。 -
クラリスロマイシンの上乗せにより再奏効したレナリドミド抵抗性IgA骨髄腫の3 例
41巻9号(2014);View Description Hide DescriptionBiRd は,clarithromycin(CAM: Biaxin®)・lenalidomide(LEN: Revlimid®)・dexamethasone(DEX)の併用療法であり,新規に診断された症候性骨髄腫患者において高い奏効率が報告されている。しかし,LEN・DEX(Rd)療法に抵抗性となった骨髄腫症例においてBiRd 療法の効果は不明である。今回,Rd療法に抵抗性となった移植非適応IgA骨髄腫の3 症例に対して,CAMを上乗せしたBiRd 療法へ切り替えたところ,全例で再度IgA値が低下した。一方,CAMの上乗せによる有害事象はなかった。Rd抵抗性骨髄腫患者へのBiRd療法への切り替えは治療選択肢となると考えられた。 -
Bevacizumabにより無再発長期生存が得られた脂肪肉腫の1 例
41巻9号(2014);View Description Hide Description後腹膜原発の脱分化型脂肪肉腫は予後不良であり,また確立した化学療法はない。今回,bevacizumab(BV)療法が奏効し6 年以上の長期生存が得られた1 例を経験したので報告する。症例は65 歳,男性。発熱,腹痛により当院受診。腹部CT 検査にて後腹膜腫瘍を認め腫瘍摘出術および右腎,副腎合併切除を施行。病理所見にて脱分化型脂肪肉腫と診断された。初回手術後から11 か月で局所再発を認め摘出術施行。その後も繰り返す再発のため摘出術を施行し,初回手術を含め10 回の腫瘍切除を行った。初回手術より5 年9 か月に局所再発および肩甲骨近傍,腋窩に転移性腫瘍を認めたためinformedconsent を得てBV 療法を開始。開始後再発腫瘍と遠隔転移巣は縮小し,現在初回手術後6 年7 か月が経過したが無再発であり,外来化学療法通院中である。
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