癌と化学療法

Volume 42, Issue 5, 2015
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総説
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糖尿病とがん―疫学研究からのエビデンス―
42巻5号(2015);View Description
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近年,国内外において多くの疫学研究が蓄積され,糖尿病は様々な部位のがんリスクを増加させることが明らかとなっている。システマティック・レビューやメタ・アナリシスの流行により,より客観的そして量的尺度も含んだ評価が盛んに行われている。これらの結果から糖尿病とがんとの関連は,特に肝がん,子宮内膜がん,肝内胆管がん,膵がんで強く,肝外胆管がん,胆囊がん,腎がん,膀胱がん,食道がんの他,大腸がん,胃がん,非ホジキンリンパ腫,卵巣がん,乳がん,肺がんでも有意にリスクの増加が示されている。一方,前立腺がんについては負の関連がみられているのが特徴である。日本人における糖尿病とがんとの関連については,最近,日本人を対象とした大規模コホートの統合解析により,糖尿病既往により全部位のがんの発生リスクは約20%上昇することが報告されている。糖尿病に関連するがんでは,高血糖,インスリン抵抗性,そして高インスリン血症が重要な役割を果たしているというのが最有力の仮説である。一方,糖尿病とがんとの関連はこの両疾病に共通する関連要因である肥満,運動などの影響も受けていると考えられる。
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特集
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- 生活習慣からみたがん発生・予防
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やせ・肥満と乳がん発生リスク―女性のライフステージ別に異なる可能性について―
42巻5号(2015);View Description
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すべての疫学研究結果が必ずしも一致しているわけではないが,欧米をはじめとした数多くの疫学研究でBMI と乳がん発生リスクとの関連について閉経前と閉経後では結果が異なる可能性があることを報告している。閉経前の女性において,体重と乳がんリスクとの「弱い負の関連」を示唆した報告が欧米の疫学報告では多くみられる。一方,閉経後女性では体重と乳がんリスクとの「正の関連」が数多く報告されている。ライフステージ全体で女性ホルモン曝露積算量が乳がんのリスク要因の一つである。特に,閉経後は体脂肪が女性ホルモンの主源である。これらから閉経後の体重増加が乳がんリスクを上げる可能性は,疫学研究でも統合解析レベルで報告され認知されている。今後,乳腺発達における体脂肪の役割などを考慮し特に乳腺の発達が著しい20 代前後や授乳期など女性のライフステージをより細分化して,体重と乳がんリスクとの関連についてさらなる研究・検討する必要がある。 -
ヘリコバクター・ピロリ感染・糖尿病と胃癌
42巻5号(2015);View Description
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わが国では胃癌の死亡率は着実に低下しているが,その罹患率は依然として高いレベルにある。Helicobacter pylori(H. pylori)感染は胃癌の最も強力な危険因子と認定されているが,感染者の多くが胃癌に罹患しないことからH. pylori 感染下に胃癌発症のリスクを増大させる他の要因が存在することが示唆される。一方,わが国では生活習慣の欧米化に伴い糖尿病の有病率が急増している。糖尿病は様々な合併症を引き起こすが,近年の疫学研究の結果から癌もその一つと考えられるようになった。しかし,高血糖や糖尿病と胃癌との関係については十分な議論がなされていない。そこで福岡県久山町で継続されている胃癌の疫学調査の成績より,空腹時血糖値およびヘモグロビン(Hb)A1c値と胃癌発症との関係についてH. pylori感染を考慮して検討した。その結果,H. pylori感染を含めた胃癌の他の危険因子を調整しても,胃癌発症のハザード比は糖尿病域よりも低い血糖レベルから有意に上昇した。また,この関係は高血糖にH. pylori感染が併存することで相乗的に強くなった。胃癌の罹患率が高く糖尿病が急速に増加しているわが国では,高血糖/糖尿病の早期発見と適切な治療・管理が胃癌の予防にも有効と考えられる。 -
大腸がんの化学予防―アスピリンによる大腸がん発生防御の実現化に向けて―
42巻5号(2015);View Description
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増加する大腸がん患者数に対して有効な先制医療の確立は,非常に重要な研究課題/政策課題であり,その一つが大腸がん化学予防剤を薬として確立することだといえる。服用者としては大腸がんの高危険度群が想定されるが,新規あるいは既存の薬剤を大腸がん化学予防剤として有効に活用することにより予防の手段/方策が増え,大腸がん罹患者数の減少,それに伴い大腸がん死亡者数の減少,さらには医療費が削減されることが期待される。そこで,大腸がん超高危険度群であり散発性大腸発がん過程を模倣していると考えられている家族性大腸腺腫症(familial adenomatous polyposis: FAP)患者および大腸前がん病変と考えられる大腸腺腫の既往者における,がん化学予防剤(特にアスピリン)による大腸がん発生防御の実現化に向けた研究を紹介する。 -
前立腺がんの予防
42巻5号(2015);View Description
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前立腺がんでは,食生活を中心とする生活環境要因が重要な役割を果たしている。これまでの研究では危険因子として脂肪,カルシウムなど,防御因子としてリコペン,セレン,大豆イソフラボン,ビタミンEなどがあげられている。ただし,これまでの報告の多くは観察研究やin vitroおよびin vivoの研究であり,大規模無作為化比較試験では十分なエビデンスが得られていない。食品の研究では,摂取量のみでなく代謝に関する研究も重要であり,大豆イソフラボンではエコールへの代謝に関する腸内細菌の分析が進んでいる。 -
個別化がん予防をめざした分子疫学コーホート研究
42巻5号(2015);View Description
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分子疫学の目的の一つは,疾患発症に関する遺伝子環境交互作用を探索し,そこから得られた知見をその疾患の個別化予防法の開発につなげることにある。国内ではこれまでに愛知県で行われた症例対照研究などにより,アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)の活性を規定する遺伝子多型は,肺がん発症に関し喫煙と交互作用を示すことが報告された。一般健常人を対象とした大規模なゲノムコーホート研究の主な目的は,これらの疾患関連要因を確認・検証するとともに,個別化リスク予測に基づく個人への指導・介入に役立つ生活環境要因の曝露閾値を設定することにある。「日本多施設共同コーホート研究(J-MICC Study)」は2005年に活動を開始し,2014 年末までに100,600 人をリクルートした。厚生労働省の「多目的コホート研究」や東北メディカル・メガバンク機構が運営する「地域住民コホート」など,国内のゲノムコーホート研究と将来のデータ統合を見据え連携することが重要である。
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Current Organ Topics:HematologicMalignancies/PediatricMalignancies 血液・リンパ系腫瘍造血器腫瘍における新規薬剤-分子標的薬-とその位置付け
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原著
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口腔癌患者におけるS-1隔日投与法適用に関する検討
42巻5号(2015);View Description
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頭頸部癌化学療法におけるS-1投与法は,通常4 週投与2 週休薬である。しかし,有害事象のため中止せざるを得ない症例を経験する。ピリミジン系抗癌薬の隔日投与法は抗腫瘍効果を損なうことなく有害事象を軽減できるという理論に基づき,S-1隔日投与法を試み,その適用について検討した。口腔平上皮癌症例15 例(男性3 例,女性12 例,平均81.3歳)に対しS-1 を連日投与した。0.5〜10 コース後,grade 2 以上の骨髄機能低下,肝・腎機能異常,電解質異常およびgrade 1の消化器症状が出現し休薬した。8〜168日後,有害事象から回復したため,隔日投与法によりS-1 投与を再開した。再開後の有害事象はgrade 2 の白血球数低下,総ビリルビン上昇が数例に認められたが,連日投与法と比較し軽度であった。10 例は継続投与が可能であったが,腎機能障害,電解質異常の再発,肺炎発症,病変進行の5 例は中止となった。S-1 隔日投与法は連日投与法による有害事象を軽減し,投与継続が可能になるものと考えられた。また,80 歳以上の女性で投与前の白血球数,血小板数がgrade 1 となっている症例に対しては,QOL維持が可能な投与法として隔日投与法を適用できるものと考えられた。 -
乳がん周術期内分泌療法アンケート調査―地域での検討と有用性―
42巻5号(2015);View Description
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エストロゲン受容体(ER)陽性乳がん症例に関する周術期治療方針については,医師により方針が統一されていない事項が存在する。方法: 2013 年1 月,北海道地区の日本乳癌学会認定15 施設および関連30 施設の乳がん治療に携わる医師53 名に,15問からなるアンケート調査を依頼した。初期治療(術前内分泌療法),閉経前術後内分泌療法,閉経後術後内分泌療法に関して質問した。結果: 27 施設35 名の乳がん治療に携わる医師から回答を得て,それを集計した(回収率66%)。術前内分泌療法を実施している施設は71%あった。骨粗鬆症の症例では,閉経後術後治療としてタモキシフェン投与が考慮されていた。アンケートで施設間の治療指向の違いを確認できた。結論:アンケート調査を通じた地域施設間の情報共有は,医療の均てん化に貢献する。 -
アファチニブの下痢に対する半夏瀉心湯の使用
42巻5号(2015);View Description
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EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌患者に対し,アファチニブ(afatinib,商品名:ジオトリフ)は化学療法群(PEM+CDDP 群)に対する無増悪生存期間の延長効果を示したが(Lux-Lung 3 国際共同第Ⅲ相臨床試験),高頻度の下痢が発生した(全Grade 95.2%)。当院で2014 年5 月〜12 月の間に,16 名のEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌患者に対しアファチブを使用した。そのうち12 名に下痢予防として半夏瀉心湯が併用された。うち7 名(58%)では内服開始後28 日以内に下痢を発症しなかった。一方,半夏瀉心湯を併用しなかった4名全例でアファチニブ内服開始から6 日以内にGrade 1 以上の下痢を認めた。半夏瀉心湯併用の有無で下痢発症に有意差を認めた(p=0.042)。アファチニブによる下痢に対し半夏瀉心湯の併用は,有効な予防法である可能性がある。 -
大腸癌症例におけるCPT-11の有害事象とUGT1A1 遺伝子多型についての検討
42巻5号(2015);View Description
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イリノテカン(CPT-11)は大腸癌治療において有効な薬剤である。一方,CPT-11による好中球減少とその代謝酵素であるUGT1A1遺伝子多型の関連性が報告されている。今回,当院における大腸癌25 例においてCPT-11の有害事象と,UGT1A1遺伝子多型について後方視的に検討した。UGT1A1遺伝子多型解析では,ワイルド群(*1/*1)52%(13/25),ヘテロ群(*1/*28,*1/*6)40%(10/25),ホモ群(*28/*28,*6/*6)が8%(2/25)の頻度であった。好中球減少は,ワイルド群15.4%(2/13),ヘテロ群(*28 ヘテロ型や*6 ヘテロ型)30%(3/10),ホモ群(*28 ホモ型や*6 ホモ型)で100%(2/2)の頻度であった。grade 4 の発熱性好中球数減少はホモ群でのみ認めた。今回の結果よりホモ群では重篤な好中球減少を招く可能性があり,UGT1A1遺伝子検査実施の上でCPT-11の減量も考慮すべきと思われた。 -
去勢抵抗性前立腺癌患者に対するドセタキセル+プレドニゾロン併用療法による骨髄抑制の予測因子の検討
42巻5号(2015);View Description
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本研究の目的は,去勢抵抗性前立腺癌患者に対してドセタキセル+プレドニゾロン併用療法(DP 療法)によるGrade≧3 の白血球(WBC)減少症の危険因子を抽出することであった。Grade≧3 のWBC 減少は59%であり,発熱性好中球減少症は11%であった。多変量解析では,治療前のWBC(OR=0.502,95%CI: 0.292-0.862,p=0.01)が有意にDP 療法による重篤なWBC減少と関連していた。また,単変量解析において治療前の血小板数(Plt),骨転移の程度(EOD)およびビリルビン(Bil)もまた重要な要因であった。われわれは,これらのリスクを有する患者では早期のG-CSFサポートが必要であると考える。
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特別寄稿
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ティーエスワン(R)配合カプセルの副作用として発現した間質性肺炎の特徴とリスク因子の検討―非小細胞肺癌症例に対する使用成績調査および自発報告症例からの考察―
42巻5号(2015);View Description
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非小細胞肺癌症例を対象にティーエスワン®配合カプセル使用成績調査を実施した。1,784例が登録され,安全性評価症例数は 1,669 例であった。副作用発現率は 67.9%(1,134/1,669 例),間質性肺炎発現率は調査全体で 1.38%(23/1,669例),単剤例では1.34%(14/1,046例)であった。間質性肺炎の発現リスク因子としてアレルギー体質,合併症(間質性肺炎あり),既往歴(間質性肺炎あり),併用抗癌剤(シスプラチン以外)が抽出された。一方,医師より自発的に間質性肺炎の副作用として報告され,かつ画像が入手できた39 例について外部医学専門家により組織された間質性肺炎判定委員会で画像判定を行い,間質性肺炎の画像パターンと発現状況および患者背景などを検討した。39 例のなかから間質性肺炎の可能性ありと判断した25 例において,10 例のdiffuse alveolar damage(DAD)画像パターンが確認された。以上のことから,本剤の投与前には問診,画像検査による肺障害などの病歴確認が重要であると考えられた。
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症例
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新規薬剤を含む多剤治療抵抗性の再発多発性骨髄腫に対するClarithromycin-Lenalidomide-Low-Dose Dexamethasone(BiRd)とMelphalan-Prednisolone(MP)による救援療法
42巻5号(2015);View Description
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われわれは,新規薬剤や化学療法に対して不応となった再発・難治性多発性骨髄腫に対して,clarithromycin,lenalidomide,low-dose dexamethasone(BiRd)療法とBiRd+melphalan,prednisolone(MP)療法の併用が有効であった3 症例を経験した。これらの症例はいずれもlenalidomide に不応となっていたので,clarithromycinとmelphalanの併用がlenalidomideの治療抵抗性を解除することが示唆された。本治療は次世代新規薬登場までの有用なsalvage療法と考えられる。 -
大量メトトレキサート療法後に乏尿性急性腎不全を来し血液透析濾過および血液吸着を施行し救命し得た1 例
42巻5号(2015);View Description
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症例は64 歳,男性。脳転移のある悪性リンパ腫に対し大量メトトレキサート(MTX)療法を行った。MTX開始12 時間後より乏尿性急性腎不全を合併し,MTX開始26時間後のMTX血中濃度は163 mMであった。MTX開始45 時間後より血液透析濾過(HDF)+血液吸着(DHP)を計7 回施行し,さらにその後HDFを単独で2 回施行した。平均MTX除去率はそれぞれ68.2%,74.3%であった。重篤な呼吸不全,発熱性好中球減少症,骨髄抑制および口腔粘膜炎を認めた。尿量はMTX開始7 日後より回復し,腎機能も改善した。MTX血中濃度が0.04 mMに低下したのはMTX開始23 日後であった。本症例では大量MTX 療法直後に乏尿性急性腎不全を来したが,HDF+DHPを早急に導入し救命することができた。 -
p53遺伝子点突然変異を伴った精巣原発びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫の1 例
42巻5号(2015);View Description
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症例は52 歳,男性。2013年1 月に陰囊腫大のため当院泌尿器科へ受診した。両側除睾術後に精巣原発びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma: DLBCL)と診断した。免疫染色ではp53 強陽性であり,さらにp53遺伝子exon 7 の点突然変異を認めた。rituximab併用CHOP(R-CHOP)療法と抗がん剤髄注を施行後に,高用量cytarabine療法による末¶血幹細胞採取とBEA を前処置とした自家末¶血幹細胞移植を行った。精巣原発リンパ腫はまれであり,進行が早く中枢神経系(central nervous system: CNS)浸潤が高率である。また大部分がDLBCL であるが,p53 遺伝子変異を伴うDLBCL はR-CHOP 療法に対して予後不良とされている。本症例は,CNS 移行性の高い抗がん剤を組み合わせた自家末¶血幹細胞移植後17 か月間,寛解を維持している。 -
Paclitaxelによる末8神経障害にDuloxetineが奏効し投与を再開し得た1 例
42巻5号(2015);View Description
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paclitaxel(PTX)により生じた疼痛を伴う感覚性末8神経障害に対してduloxetine が奏効した乳がんの1 例を経験したので報告する。症例は60 歳,女性。乳がんの多発肝転移に対しtrastuzumab(TZM)+PTX 併用療法を開始したが,4コースday 15にCTCAE(v4.0)grade 3 の末8神経障害が出現し,PTX投与が休止となった。その後も末8神経障害が遺残していたためduloxetineを開始,漸増したところ,末8神経障害がgrade 1 まで軽減した。患者の希望もありPTX 投与を再開し,末8神経障害はgrade 2 を維持したままTZM+PTX 療法を継続している。duloxetine の有用性を確認するため,今後さらなる臨床研究が必要である。 -
小腸転移による穿孔性腹膜炎が初発症状となった肺癌の1 例
42巻5号(2015);View Description
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患者は82 歳,男性。8 年前に胃癌に対して胃全摘術(Roux-en-Y再建)を施行した。左下腹部痛を主訴に当院紹介となり,消化管穿孔による汎発性腹膜炎と診断し,緊急手術を施行した。胃全摘時の空腸空腸吻合部近傍に4×3 cm大の2型腫瘍が存在し,穿孔していた。病理検査で平上皮癌と診断した。入院時のCT 検査で右肺下葉に腫瘤影を認めており,術後PET-CT 検査では同部位にFDG の高集積を認めた。術後約6 か月に死亡し,手術・剖検の結果から肺平上皮癌の小腸転移と診断した。急性腹症の患者では,肺および他臓器からの小腸転移も念頭に置いた全身検索が必要である。 -
S-1単独投与にて再発後6 年に及ぶ長期生存が得られている肝内胆管癌の1 例
42巻5号(2015);View Description
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肝内胆管癌は予後不良な癌として知られ,再発後長期生存の報告は少ない。今回われわれは,S-1 単剤で再発後6 年の生存をみた症例を経験したので,若干の文献的考察とともに報告する。症例は60 歳,男性。HBs 抗原陽性にて無症候性キャリアとしてフォロー中,エコーで肝S5-6に腫瘤性病変を指摘された。CT・MRIから肝細胞癌と診断し肝拡大後区域切除術を施行したが,切除断端陰性ながら病理所見は肝内胆管癌だった。腎機能障害などに鑑み術後補助化学療法は行わず経過観察としていたが,術後2 年6か月目にMRIで再発が疑われた。追加切除術を試みたが,腫瘍のグリソン浸潤が門脈臍部にまで及んでいたため,試験開腹術に終わった。その後,S-1(100 mg/body/day)を開始したが容易にビリルビン値が上昇するため,減量や休薬などの工夫をしつつも投与を継続した。おおむね75 mg/body/day の継続で総量42 g が投与できたなか,再発肝内胆管癌ではまれといえる6 年という長期生存が得られている。 -
FOLFIRINOX 療法の標準投与量の実施のためにG-CSF の予防投与を施行した膵臓癌の2 症例
42巻5号(2015);View Description
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全身状態のよい切除不能な膵臓癌患者に対して,最近FOLFIRINOX 療法が一次治療として推奨されている。gemcitabineおよびS-1 に不応性の膵臓癌に対して,G-CSF の予防投与により標準治療量でFOLFIRINOX 療法を投与できた2症例を経験したので報告する。FOLFIRINOX療法では,多くの患者でグレード3〜4 の好中球減少症が起こることが知られている。FOLFIRINOX療法の適正使用において,G-CSFの予防投与による投与量の増強は推奨されていない。しかし一般的に,G-CSF の予防投与は好中球減少症のリスクの高い患者には推奨されている。一方,5-FU の急速静注のないmodifiedFOLFIRINOX療法は安全性の改善されたレジメンであり,その有効性を示す報告もある。今後,FOLFIRINOX 療法における好中球減少症に対して,modified FOLFIRINOX 療法の生存期間とG-CSF の予防投与を伴っての標準治療量を行った患者の生存期間を比較した臨床試験の結果に期待したい。 -
化学療法により切除可能となったStage Ⅳb膵頭部癌の1 例
42巻5号(2015);View Description
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症例は50 歳,女性。上腸間膜静脈浸潤および多発性肝転移を疑うStage Ⅳb 膵頭部癌に対しS-1 による化学療法を施行したところ,3 か月後に上腸間膜静脈浸潤は軽減,肝腫瘤は消失,切除可能と判断し上腸間膜静脈合併切除を伴う亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した。術後S-1 による化学療法を継続するも肺転移が出現し術後46 か月目に原病死したが,化学療法が奏効後に切除を行うことにより,Stage Ⅳb 膵頭部癌にもかかわらず長期生存が得られた。 -
術前2週間のS-1投与によりGrade 2 の治療効果が得られた進行胃癌の1 例
42巻5号(2015);View Description
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当院では,進行胃癌に対して術前2 週間のS-1投与を行い,組織学的な効果と各種蛋白発現の相関を検証する臨床試験を実施している。症例は75 歳,男性。胃幽門前庭部に2 型を呈する低分化型腺癌を認めた。腹部CT にて幽門下リンパ節腫大あり,c-T2(MP),N1,M0,Stage ⅡA(胃癌取扱い規約第14 版)と診断し,S-1(100 mg/日)を 14 日間投与した。15日目に腹腔鏡下幽門側胃切除術,D2 郭清を施行した。切除標本では30×20 mmの2 型胃癌を認め,原発巣と転移リンパ節ともにGrade 2 の治療効果が確認でき,yp-T1b(SM),N1,Stage ⅠB でdown stageが得られた。周術期S-1 による有害事象は認めず術後経過は良好で,6年以上経過した現在も再発を認めていない。 -
残存卵巣囊腫の癌化が疑われた高度腹膜癒着・凍結骨盤を伴う頻回開腹手術症例に対する経腟超音波ガイド下針生検
42巻5号(2015);View Description
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症例は40 代,2 経妊2 経産2 回の帝王切開歴あり,子宮筋腫卵巣囊腫の手術で強度癒着,凍結骨盤が確認されていた。その後,残存した卵巣囊腫の悪性が疑われ卵巣癌の標準治療として試験開腹術を検討したが,経腟超音波ガイド下針生検を先行すると病理組織診で悪性が確定した。術前化学療法を行うことで,術後の腸管尿路系合併症を最小限に抑えた。このような症例に対して,経腟的卵巣囊腫針生検は試験開腹術の代替え検査法として有用である。
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