癌と化学療法

Volume 44, Issue 2, 2017
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総説
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老年腫瘍学
44巻2号(2017);View Description
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超高齢社会を迎え,多くのがん患者を高齢者が占めている。高齢者の治療法決定の際,疾患の評価に加え,身体,精神機能などを多次元的に評価する高齢者機能評価(geriatric assessment: GA)の活用が,がん診療においても期待されている。高齢がん患者を対象とした臨床研究の現状を踏まえ,多様性の高い高齢者へGA を実施,その結果を多職種でサポートすることが重要である。今後は腫瘍学と老年医学が関係を深め,老年腫瘍学として研究や診療体制を整えていく。
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特集
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- HBOC症候群の診断と治療の現況
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HBOC 症候群の分子診断と治療
44巻2号(2017);View Description
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遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)は,BRCA1,BRCA2 遺伝子の変異によって発生する遺伝性腫瘍である。BRCA 遺伝子検査はHBOC 診断の遺伝子検査として始まり,VUS 頻度の低下など進歩を続けている。また,HBOC 診療においては遺伝診療とがん診療の連携によりサーベイランス法が構築され,BRCA 遺伝子診断に基づく治療法の選択肢が増えるなど大きな進展を認めている。さらに,BRCA1,BRCA2 機能の解析が進み,PARP阻害剤など合成致死理論に基づく新規治療法が開発され,BRCA 遺伝子検査が薬剤選択のPGx 検査として使用されようとしている。一方,家系内に乳がんまたは卵巣がんが集積する家族性乳がんや卵巣がんは,HBOC のように単一遺伝子により発症するものから多因子によるものまで多様で,それぞれの原因遺伝子が高度・中等度・低度浸透性遺伝子として同定され,さらに原因遺伝子が不明な症例が少なからず存在し,それらの解明と新たな診療体制の構築が求められている。 -
HBOC における遺伝カウンセリングの留意点とHBOC 総合診療制度
44巻2号(2017);View Description
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遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)の診療には,乳腺部門,婦人科腫瘍部門だけではなく遺伝カウンセリングを行う臨床遺伝部門との連携が必要である。これら3 部門の連携を中心とするHBOC の診療体制を全国的に整備拡充させるため,日本乳癌学会,日本産科婦人科学会および日本人類遺伝学会が中心となり,2016 年に日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構(Japanese Organization of Hereditary Breast and Ovarian Cancer: JOHBOC)を発足させ,HBOC の包括的医療の推進を図っている。 -
乳腺外科の立場から
44巻2号(2017);View Description
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遺伝性乳癌卵巣癌症候群は乳癌全体の5〜10%を占め,その特性を正確に理解した上で,既存の乳癌への治療計画と,今後新たに発症し得る乳癌・卵巣癌へのリスク低減を含めた治療戦略が必要になる。乳癌への術式選択として BRCA1/2 変異乳癌への乳房温存療法後の局所再発率は,散発性乳癌の場合と比べ明らかな有意差が示されているわけではなく,術式により生命予後の差は認められていない。よって絶対的禁忌ではないが,長期観察下での新規発生癌のリスクについてよく患者と話し合った上で術式決定すべきである。対側乳房へは,サーベイランス,薬物療法による予防,リスク低減手術の選択肢がある。リスク低減手術により90%以上の新規乳癌を予防できるが,それぞれ長所・短所があり,選択に当たって丁寧な遺伝カウンセリングが必須である。本稿では,遺伝性乳癌卵巣癌症候群に対する手術方針および薬物療法について,最新のエビデンスに基づいて乳腺外科医の立場から検討する。 -
当科におけるHBOC診療の実際
44巻2号(2017);View Description
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遺伝性乳癌卵巣癌(hereditary breast and ovarian cancer: HBOC)は,常染色体優性遺伝の疾患であり,BRCA1 およびBRCA2 の遺伝子変異によって引き起こされる。70〜75歳までに卵巣癌に罹患する頻度はBRCA1変異保有者39〜40%,BRCA2変異保有者で11〜18%と報告されており,卵巣癌に関してはその大部分が腹膜播種を伴う漿液性腺癌として発症する。以下に当科で行っているHBOC診療について述べる。HBOC診療を行うに当たり,必要なことはハイリスク症例の拾い上げに始まり,十分なカウンセリング後の遺伝子検査前のカウンセリング,検査後のカウンセリングを行うことである。当院では,外来で卵巣腫瘍の診断で入院する症例に対して家族歴調査票の記入を依頼しており,ここからHBOCのリスクを有する症例を拾い上げている。検査前には,なぜ検査を受ける必要があるのか,そして検査の結果に基づいた管理方法,癌のリスク評価について十分な説明を受ける必要があり,検査後にはその結果による管理方法,精神的な変動に対する対応,管理する施設についても話し合う必要がある。サーベイランスで予後を改善するという明確なエビデンスに乏しく,死亡リスクを低下させるために最も有効な手段はリスク低減卵管卵巣摘出術(risk-reducing salpingo-oophorectomy: RRSO)である。これまでに当院では40 例にRRSO を施行しており,浸潤オカルト癌や上皮内オカルト癌は認めていないが,4 例(10%)において卵管采にp53の過剰発現が認められている。また,RRSOの際に子宮摘出を行った36 例のうち,1 例に子宮内膜異型増殖症を,4 例に異型腺管が認められている。これまでの観察期間において腹膜癌の発生はないが,今後も追跡が必要であると考えている。
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Current Organ Topics:Gynecologic Tumor 婦人科腫瘍 婦人科がん領域における化学療法の現状と将来像
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原著
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腎機能低下患者におけるネダプラチンの投与量に関する解析
44巻2号(2017);View Description
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ネダプラチン(NDP)は白金錯体抗がん剤で,その用量制限毒性(DLT)は血小板減少を主とする骨髄抑制である。日本人の非高齢者における NDP の推奨投与量は 4 週ごと 100 mg/m2である。NDP による血小板減少の発現は腎機能とよく相関することが報告されているが,現在のところ腎機能低下患者における投与量は明確に示されていない。本研究では,腎機能低下患者におけるNDP の投与量を評価するためにレトロスペクティブに調査し,NDPによる血小板減少および好中球減少に対するリスク因子について解析した。2011年4 月〜2014年3 月までに,当院においてNDP の単剤療法を受けた患者83 例を対象とし,腎機能に基づいてクレアチニン・クリアランス(Ccr)B60 群とCcr<60 群の2 群に分けた。Grade 3 以上の血小板減少および好中球減少の発現頻度は,CcrB60 群よりもCcr<60 群において有意に高かった(それぞれ3.4% vs32.0%; p=0.001,6.8% vs 32.0%; p=0.005)。また,Ccr<60 群において,Grade 3 以上の血小板減少および好中球減少の発現頻度は,NDPを標準量(100 mg/m2)で投与された群よりも減量して投与された群のほうが低かった(どちらも41.7%vs 23.1%; p=0.410)。多重ロジスティック回帰分析では,NDP 投与量および血清クレアチニン値は,Grade 3 以上の血小板減少および好中球減少に対するリスク因子であることがわかった。これらの結果から,Ccr<60 を示す腎機能低下患者で安全な薬物治療を実施するためにはNDP の投与量を減量すべきであることが示唆された。 -
FEC100療法翌日のペグフィルグラスチム投与が好中球数に与える影響
44巻2号(2017);View Description
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FEC100 療法(5-fluorouracil 500 mg/m2,epirubicin 100 mg/m2,cyclophosphamide 500 mg/m2)において,ペグフィルグラスチムを化学療法翌日に投与した際の好中球減少と発熱性好中球減少症(FN)の発症率,平均相対治療強度についてレトロスペクティブに調査を行った。また,レノグラスチムを投与した場合と比較した。その結果,ペグフィルグラスチムを投与した場合91.7%に,レノグラスチムを投与した場合63.2%にGrade 3〜4 の好中球減少を認めた。FN の発症率については使用するG-CSF 製剤間で有意な差は認められず(p=0.741),平均相対治療強度はそれぞれ0.98,0.97 と良好であった。日本人乳癌患者においてFEC100 療法を施行する場合,ペグフィルグラスチムを化学療法翌日に投与することはレノグラスチムを投与した場合とFN の発症率は変わらないが,FN のリスクを考慮すると避けることが望ましいことが示唆された。FEC100療法におけるペグフィルグラスチムの投与のタイミングについては今後の検討が必要である。
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症例
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集学的アプローチが有効であった小細胞肺癌の髄膜癌腫症の1 例
44巻2号(2017);View Description
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症例は65 歳,男性。小細胞肺癌,cT4N2M1b,StageⅣ(肝転移,膵転移)と診断された。化学療法にて部分奏効が得られていたが,経過観察中に脳転移が出現し全脳照射を行った。その後,下肢脱力と膀胱直腸障害が出現し,髄液検査より髄膜癌腫症と診断した。メトトレキサート+シタラビン+デキサメタゾンの髄注と全脊髄放射線照射を行った後,オンマイヤーリザーバーを留置して抗癌剤の髄注を継続した。全身化学療法を併用し,リハビリテーションも施行し,症状は改善して退院可能となった。髄膜癌腫症に対して集学的アプローチが有効であったと考えられた。 -
エベロリムス/エキセメスタンが奏効した乳癌術後骨転移の1 例
44巻2号(2017);View Description
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今回われわれは,エベロリムス/エキセメスタンを投与した乳癌術後骨転移の1 例を経験した。症例は58 歳,女性。41 歳時,左乳癌にBt+Ax が施行され5 年間タモキシフェンが内服投与された。2014 年10 月中旬より背部痛が出現し当科へ紹介となった。PET-CT で第7〜8胸椎に異常集積が認められ,エベロリムス/エキセメスタンを開始した。また,ゾレドロン酸を併用し疼痛に対してオキシコドン,フェンタニル口腔錠でコントロールした。Grade 2 の皮疹・かゆみが出現したが,抗ヒスタミン剤にて軽減し内服は中止しなかった。治療開始後4 か月後には,胸椎部の集積範囲は右側が縮小していた。疼痛もほぼ消失し,オキシコドン,フェンタニル口腔錠は中止とした。その後エキセメスタン単独で投与したところ,6 か月後には胸椎への集積範囲は増大しPD となった。そこでエベロリムス/エキセメスタンで再開したところ,その 4 か月後にはPET で胸椎への異常集積はほぼ消失していた。他の局所再発や転移を疑わせる新規病変も認められず,治療効果はCR と判定された。エベロリムスには骨吸収抑制効果,骨保護効果がある可能性があるものの,その至適投与期間の決定や治療効果をいかに長期継続できるかが課題であり,今後の症例を蓄積した検討が望まれる。 -
胃Gastrointestinal Stromal Tumor術後肝転移の縮小維持にイマチニブの減量・間欠投与が有効であった1 例
44巻2号(2017);View Description
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症例は69 歳,女性。胃体部の巨大な粘膜下腫瘍(gastrointestinal stromal tumor: GIST)に対し,噴門側胃切除,膵体尾部・脾臓合併切除を行った。腫瘍の長径は17 cm であり,術後化学療法としてイマチニブ(300 mg/日)内服を1 年間行った。術後2 年の腹部CT 検査で,肝S8 に約7 mmの転移巣を認めた。イマチニブ内服を再開し,4 か月後と8 か月後の腹部CT 検査では肝転移巣は約5 mmに縮小していた。内服再開1 年後,手指に硬直様の症状が出現し,イマチニブによる副作用を否定できず休薬とした。その後,4 週間ごとの間欠内服で再開継続した。肝転移治療開始後1 年4か月の腹部CT 検査では転移巣は同定されなかった。減量・間欠投与を継続し,肝転移治療開始後3 年8か月の腹部CT 検査ではcomplete response(CR)を維持していた。その後,脳梗塞発症によりイマチニブ内服は中止した。内服中止後4 か月に肝転移の再増大を認めたため,内服を再開している。イマチニブ減量・間欠投与中止後に腫瘍の再増大を来した症例を経験した。減量・間欠投与が腫瘍縮小維持に有効であったと考えられ,腫瘍縮小後の維持療法における投与法の候補の一つとなる可能性がある。 -
胃癌術後再発病変に対する複数回の放射線療法が奏効し長期生存が得られた1 例
44巻2号(2017);View Description
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胃癌術後再発に対しての第一選択は化学療法であるが,胃癌術後複数箇所のリンパ節転移に対して,3 回の放射線療法(radio therapy: RT)により長期の病勢制御が可能であった症例を経験したので報告する。症例は70 歳,男性。胃癌に対して幽門側胃切除を行い,Stage ⅢC であった。S-1の補助化学療法を行ったが,3 年経過後に膵頭後部リンパ節再発を来した。他に再発病巣なくRT を行い,奏効が得られた。その後,化学療法中に出現した腹部大動脈周囲リンパ節,縦隔リンパ節再発に対してもそれぞれRT を施行し,再発から4 年7か月間,化学療法抵抗性であった再発病巣は良好に制御されている。胃癌術後再発におけるRT は,その多くが多発病巣を呈するため適応にはなりにくく,胃周辺臓器への有害事象も考慮する必要があるが,本症例のような化学療法抵抗性の単発病変再発の局所制御には有効性を発揮することがあり,治療の選択肢として重要である。 -
直腸癌に対する化学療法中に発症した会陰部壊疽性筋膜炎の2 例
44巻2号(2017);View Description
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直腸癌に対する化学療法施行中に発症した会陰部壊疽性筋膜炎を2 例経験した。いずれの症例も切開排膿,デブリドマン,抗生剤投与,洗浄処置にて救命,軽快した。症例1: 66 歳,男性。傍大動脈リンパ節,鼠径リンパ節に転移を伴う直腸癌に対し人工肛門造設術,XELOX+bevacizumab療法を施行した。病状が進行し,さらに放射線照射(30 Gy)後,IRIS+bevacizumab を投与し,14日目に肛門痛,発熱を主訴に来院,会陰部壊疽性筋膜炎と診断した。症例2: 63 歳,男性。仙骨浸潤を伴う直腸粘液癌に対し,人工肛門造設術,化学療法を施行したが病状の進行を認め,五次治療のregorafenib 投与後16日目に腰痛,臀部腫脹,発熱を来し来院,会陰部壊疽性筋膜炎と診断した。直腸癌に対する化学療法中の会陰部壊疽性筋膜炎の報告はまれであり,文献的考察も含めて報告する。 -
Gemcitabine+Nab-Paclitaxel併用療法後に根治切除が可能となった切除不能膵癌の1 例
44巻2号(2017);View Description
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gemcitabine(GEM)+nab-paclitaxel(PTX)併用療法後に根治切除が可能となった切除不能膵癌の1 例を経験したので報告する。症例は68 歳,男性。黄疸を主訴に受診し,精査の結果,高度門脈浸潤を伴う局所進行切除不能膵癌と診断した。GEM+nab-PTX併用療法を9 コース施行後,著明な腫瘍縮小効果を認め,切除可能と判断した。亜全胃温存膵頭十二指腸切除術,門脈合併切除術を施行しR0 切除が得られた。現在,外来にて術後補助化学療法としてS-1 の内服を行い,無再発生存中である。今後,切除不能膵癌に対してGEM+nab-PTXのような強力な化学療法を施行することで,切除可能となる症例が増えることが考えられる。
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