癌と化学療法

Volume 44, Issue 8, 2017
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総説
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SCRUM-Japanの現状と将来展望
44巻8号(2017);View Description
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SCRUM-Japan(産学連携全国がんゲノムスクリーニング事業)は,製薬企業15 社と全国240 の医療機関との共同研究として,先端的な多遺伝子パネル診断に基づいた肺・消化器がんの企業・医師主導治験(35 試験)への紹介・登録促進を行う全国的な組織である。2015 年2 月から登録を開始し,2017 年3 月末の第Ⅰ期終了時点で4,805例が登録。各がんでのゲノム疫学データを明らかにし,RET 融合遺伝子陽性非小細胞肺がんに対するバンデタニブの医師主導治験をはじめとした各種治験結果を基に承認申請作業に入っている。また,臨床ゲノムデータの企業および参加施設とのオンラインデータ共有や新薬承認審査に活用するための疾患レジストリ構築も開始し,わが国全体での新薬開発促進につなげている。2017 年4 月から第Ⅱ期へ移行し,より治験への登録推進を明確化するとともに最先端のリキッドバイオプシーや免疫ゲノムパネルを用いた個別研究も行い,国際的にもリードする開発研究グループへの成長をめざしている。
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特集
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- がんサバイバーシップ支援活動
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がんサバイバーの体験を社会に生かすために
44巻8号(2017);View Description
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2016年にがん対策基本法が改正され,がんと向き合いながら生きる人々への支援,がん患者に対する国民の理解に重点が置かれ,がん患者の雇用継続やがん教育などが基本施策に追加された。施策を有効なものにしていくためには,社会ががん体験者の声に耳を傾け,彼らが向き合う課題の現状を知る必要がある。われわれキャンサーネットジャパンは,2007 年より「乳がん体験者コーディネーター(Breast cancer Experienced Coordinator: BEC)養成講座」,2013 年より「OverCancer Together(OCT)―がんを共にのりこえよう―キャンペーン」の二つの事業をとおして,がん体験者が患者支援やがん啓発において自らの体験を活用していくために必要な知識やスキルを伝えてきた。二つの講座の修了者は合計で400 名を超え,病院や地域でピアサポーターとして相談支援活動に従事したり,自治体においてがん対策推進委員を務めたり,講演活動などに取り組んでいる。これらのサバイバーシップ支援はアドボカシーを高め,サバイバーが正しい知識を得て自らの力で立ち,それに基づき自らの体験・課題を発信し,解決に向けたアクションに取り組むプロセスを支援するものである。 -
国のがん対策におけるサバイバーシップ支援の今までとこれから
44巻8号(2017);View Description
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2006年に成立したがん対策基本法と国のがん対策推進基本計画に基づき,がん患者の経済的負担の軽減と自立支援という観点から,がん患者を含む厚生労働省のがん対策推進協議会においてがんのサバイバーシップが議論され,特にがん患者の就労支援を中心として対策が進められてきた。一方で,がんのサバイバーシップはがんと診断された後のがん患者の生活全般にかかわるテーマであり,国内でのがんのサバイバーシップに関する対策の推進のためには,がん患者の就労支援のみならず多面的な領域に対する研究と支援が進むことが必要である。 -
膵臓がん患者支援団体パンキャンジャパンのサバイバーシップ支援―2020 年膵臓がんサバイバー倍増計画(Double Survival 2020)―
44巻8号(2017);View Description
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膵臓がんサバイバーを増やすためには,早期発見診断法の開発とstage Ⅳの進行がんでも抑えられる新しい治療法の開発が急務である。そして少しづつ増えてきている膵臓がんサバイバーをがんサバイバーコミュニティの一員としてあたたかく迎えてもらいたい。 -
マギーズ東京のヒューマンサポート―Cancer Journey とWhere Now ?―
44巻8号(2017);View Description
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造園家のマギー・ジェンクス氏は乳がんが再発し余命数か月と告げられた時に「自分を取り戻す」居場所が欲しいと考えた。その遺志を継いだ夫で建築評論家のチャールズ・ジェンクス氏により,1996 年英国エジンバラに「マギーズキャンサーケアリングセンター」第1 号がオープンした。マギーズ東京センター長の秋山正子は,2008 年の国際がん看護セミナーでマギーズエジンバラセンター長アンドリュー・アンダーソン看護師の発表を聴き,マギーズセンターを知り,「自分の力を取り戻す」支援は日本のがん患者と家族に必要な「場」と「支援」だと感じた。人はがんと診断されると大きな衝撃と孤独を感じる。突然明日がみえなくなり,日常すべてが不確かになる。その影響は就学や就業,役割の喪失や変化など人生全般に及ぶ。また,家族や友人,同僚など周囲の人にも影響する。がん診療の変化により,初期治療終了後に遷延していた実存的な悩みが出現する。がんサバイバーシップをマギーズ流には,「Cancer journey」という。がんと診断され,突然地図もなく日程もわからないCancer journeyが始まる。そしてしばしば「心」が取り残される。Cancer journeyには後戻りできないたくさんの別れ道が連続し,選択を迫られる。「Where now ?」は案内パンフレットのフレーズで,自分がCancer journeyのどこにいるのかを認識できるようサポートすることを意味している。マギーズセンターには「建築・環境」と「ヒューマンサポート」という重要な二つの柱がある。病院とわが家の間にある「家庭的な居場所」として,建物が「癒しの空間」となっている。ヒューマンサポートは無料で提供され,予約なしに立ち寄ることができる。経験を積んだがん専門の医療従事者が常駐している。これまでの相談支援の情報提供や問題解決思考による指導と異なり,「一人一人に寄り添う」,「対等な立場」,「自分らしさをエンパワメント」を大切にしている。マギーズの医療専門職を相手に語ることで,自分の「心」や本来もっていた力に気付くことができる。
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Current Organ Topics:Thorax/Lung and Mediastinum, Pleura: Cancer 肺癌 肺癌免疫療法―新時代の幕開け―
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特別寄稿
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腎細胞癌の新たな治療選択―免疫チェックポイント阻害薬を中心に―
44巻8号(2017);View Description
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進行性腎細胞癌に対する薬物療法では,チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)やmTOR 阻害薬などの分子標的治療薬が相次いで臨床導入され,無増悪生存期間(PFS),全生存期間(OS)が大幅に改善された。しかし,これらの薬剤によっても長期にわたり完全奏効を得ることは困難で,多くの症例が再発・進行を来す。こうしたなか,免疫チェックポイント阻害薬の一つである抗PD-1 抗体ニボルマブは,TKI 治療歴のある進行性腎細胞癌を対象とした第Ⅲ相試験において有意なOS 延長効果が確認され,わが国でも根治切除不能・転移性腎細胞癌に対する適応を取得した。ニボルマブ奏効例では効果が長期間持続する可能性が示されている一方で,効果発現までに時間がかかることなども示唆されている。また,有害事象は全体として比較的少ないものの,TKIなどとは異なる免疫関連有害事象が発現することから,これらの特徴を十分理解するとともに,その対処法についても精通しておく必要がある。
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原著
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卵巣癌Ⅲ〜Ⅳ期に対するPrimary Debulking SurgeryとNeo-Adjuvant Chemotherapy後のInterval Debulking Surgeryの比較
44巻8号(2017);View Description
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進行卵巣癌に対する現在の標準治療はprimary debulking surgery(PDS)であり,肉眼的残存腫瘍なしのcompletesurgery が達成できれば予後の改善が期待できる。ただし,病巣の存在部位や患者の全身状態を加味してPDS 時にcompletesurgery が困難と予想される例には,neo-adjuvant chemotherapy(NAC)を行うことも選択肢となる。NAC 後にinterval debulking surgery(IDS)を行い,complete surgeryをめざすこととなる。当科で2012 年1 月〜2016年1 月までに初回治療を行った卵巣癌Ⅲ〜Ⅳ期の51 例(PDS 群: 22 例,NAC-IDS 群: 29 例)を対象とし,progression free survival(PFS),overall survival(OS),complete surgery達成率,手術内容や合併症を後方視的に検討した。NAC-IDS群はPDS 群と比較して,PFS,OS に有意差を認めなかった(PFS: p=0.467,OS: p=0.685)。手術出血量がPDS 群で有意に多く(p=0.013),complete surgery 達成率はNAC-IDS 群で有意に高かった(p=0.016)。卵巣癌Ⅲ〜Ⅳ期に対し,患者の状態を勘案したNAC-IDSは許容される治療選択肢である。 -
卵巣に限局した上皮性卵巣癌(pT1)の系統的後腹膜リンパ節郭清に関する後方視的検討
44巻8号(2017);View Description
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背景:系統的後腹膜リンパ節郭清を行った卵巣癌pT1 のリンパ節転移頻度は5〜21%とされるが,その多くは漿液性癌であり,粘液性癌ではまれであると報告されている。そのため,粘液性癌Ⅰ期が想定される症例では系統的リンパ節郭清を省略することを提唱する動きが一部にある。今回われわれは,卵巣癌pT1での組織型に応じたリンパ節郭清の省略が許容できるかを自験例で検討した。方法: 2002年1 月〜2015年12 月までに当院で,初回手術時に系統的後腹膜リンパ節郭清を行いpT1 と診断された上皮性卵巣癌59 例を対象とし,院内倫理委員会の承認を得て後方視的に検討を行った。結果: 59 例の内訳は漿液性癌5例,明細胞癌31 例,類内膜癌14 例,粘液性癌9 例であった。これらのなかでリンパ節転移を認めた症例は明細胞癌31 例中2 例(6.5%),粘液性癌9 例中2 例(22.2%)であった。これら4例中,術前に画像診断でリンパ節転移を疑い得たのは明細胞癌の1 例のみであった。結論: 少数の自験例での検討ではあるが,pT1 の卵巣粘液性癌にも22.2%のリンパ節転移を認めており,組織型による系統的後腹膜リンパ節郭清の省略は慎重に行うべきである。
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症例
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Merkel細胞癌術後のCarboplatin/Etoposide併用療法中に著明な血小板減少を来し治療に難渋した1 例
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化学療法中に起こる血小板減少は骨髄抑制によるものが多いが,その他に特発性血小板減少性紫斑病(ITP)や血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)などの病態も原因となることがあり,必要に応じて血小板輸血を行わなければならない。本症例では,Merkel 細胞癌に対する carboplatin/etoposide 併用療法中に著明な血小板減少を来し,血小板輸血を行うも血小板値が上昇せず,治療に難渋した。ITP などを考慮し,ステロイド治療を開始した上で血小板輸血を行い改善が得られたが,その後の検査で免疫学的機序による血小板輸血不応であることがわかった。化学療法後の血小板減少に対して血小板輸血を投与しても血小板値が上昇しない場合は,抗HLA 抗体による血小板輸血不応である可能性も考慮する必要があると考えられた。 -
Lenalidomide・Dexamethasone抵抗性移植非適応骨髄腫におけるClarithromycin の上乗せ(BiRd療法)の有効性
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BiRd はclarithromycin(CAM: Biaxin®)・lenalidomide(LEN: Revlimid®)・dexamethasone(DEX)の併用療法であるが,LEN・DEX(Rd)療法に抵抗性となった骨髄腫におけるBiRd 療法の有効性は明らかにされていない。当院でRd 療法に抵抗性となった移植非適応骨髄腫7 例(男性4 例・女性3 例,年齢中央値76 歳)に対して,当院倫理委員会の承認を経て患者の同意の下,CAM 400 mg/dayを上乗せした。前治療レジメン中央値は3(1〜4)で,CAM追加以前のRd療法中央値は9(6〜27)サイクル(治療期間中央値8 か月)であった。BiRd 療法の中央値は14(2〜36)サイクル(治療期間中央値13.1か月),最大治療効果はPR 1 例,SD 6 例であり,全例でCAMの上乗せにより病勢の進行が制御された。CAMの上乗せによる重篤な有害事象はなかった。Rd 抵抗性移植非適応骨髄腫患者へのBiRd 療法の切り替えは治療選択肢となると考えられた。 -
切除不能甲状腺未分化癌に対するレンバチニブの有効性と安全性の検討
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レンバチニブは国内第Ⅱ相試験(208試験)において,切除不能甲状腺未分化癌(anaplastic thyroid cancer: ATC)に対して高い抗腫瘍効果が示されている。本稿では,2015 年5 月〜2016 年10 月までに当院で切除不能ATC に対してレンバチニブの投与を受けた7 例を対象に,その有効性と安全性について報告する。男女比は2:5,年齢中央値は78(72〜85)歳,診断時Stage ⅣA 1 例,Stage ⅣB 1 例,Stage ⅣC が5 例だった。部分奏効(PR)3 例,安定(SD)1 例,ORR 43%,DCR57%,PFS 中央値は4.1(1.1〜12.2)か月だった。Grade 3 以上の有害事象は消化管出血2 例,食欲不振が1 例に認められた。また,致死的合併症である頸動脈・静脈出血を来す可能性がある瘻孔形成を3 例に認めた。今後さらにデータを集積して,レンバチニブの長期成績を検討していく必要がある。 -
Nab-パクリタキセルによる二次治療により完全奏効に近い効果が維持された再発進行非小細胞肺癌の1 例
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症例は62 歳,女性。左下葉原発肺腺癌,cT2N2M1b,stage Ⅳ(脳転移),EGFR 遺伝子変異陰性の診断で脳転移切除後,カルボプラチン(AUC5)とペメトレキセド(500 mg/m2)併用療法を6 コース施行し,部分奏効(partial response: PR)が得られた。その後,ペメトレキセド単剤による維持療法を14 コース施行後に原発巣の増大を認め,増悪(progressivedisease: PD)と診断した。2014年 1 月より二次治療としてnab-パクリタキセル(100 mg/m2)を開始したところ,完全奏効(complete response: CR)に近い奏効が得られ,約3年間40 コース維持し,重篤な有害事象を認めていない。二次治療としてのnab-パクリタキセル単剤治療のエビデンスは十分ではないが,再発進行非小細胞肺癌に対し有効な治療選択肢の一つとなり得ると考えられた。 -
第二次術前化学療法のゲムシタビン,カルボプラチン併用療法(GC 療法)が奏効し根治手術が可能となったトリプルネガティブ乳癌の1 例
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症例は59 歳,女性。右乳房腫瘤と発熱を主訴に受診した。針生検にてトリプルネガティブ(TN)炎症性乳癌と診断し,ペグフィルグラスチム併用下にドセタキセル,ドキソルビシン,シクロフォスファミド同時併用のTAC 療法を術前化学療法として開始した。一時奏効を認めたものの抵抗性に転じ,ゲムシタビン,カルボプラチン併用のGC 療法に変更した結果,再度奏効し根治手術が可能となった。アンスラサイクリン・タキサンに抵抗性を示すTN 乳癌に対し,プラチナ系抗悪性腫瘍剤への変更が有効である可能性が示唆された。
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