Volume 44,
Issue 11,
2017
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総説
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癌と化学療法 44巻11号, 963-966 (2017);
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2006年に成立したがん対策基本法は,がん患者団体からの要望も取り入れつつ,国会の超党派議連により2016 年12月に改正された。「基本理念」の章では,がん患者が円滑な社会生活を営むことができる社会環境の整備を進めるとされ,がん患者の就労支援やがん教育の推進などが新たに記載された。「基本的施策」の章では,緩和ケアやリハビリテーション,希少がんや難治がんに対する研究,小児がん患者に対する治療と教育環境の整備,民間団体やがん患者団体への支援などが新たに記載された。がんゲノム医療に関しては,新たな法整備が待たれる。
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特集
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がん局所微小環境と免疫療法
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癌と化学療法 44巻11号, 967-971 (2017);
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近年,抗PD-1/PD-L1抗体が様々ながん腫に対して有効であることが示されて,がん免疫療法が脚光を浴びている。しかし未だにがん細胞が免疫を回避するために主要な役割を果たすPD-L1 の発現制御メカニズムの理解は不十分であり,特にその遺伝学的機構については不明な点が多かった。最近,著者らはPD-L1 の3′-UTR 異常が様々ながん腫に存在し,免疫回避を引き起こすことを明らかにした。本稿では,PD-L1 3′-UTR異常を中心として,悪性腫瘍におけるPD-L1高発現をもたらすメカニズムについて概説する。
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癌と化学療法 44巻11号, 972-976 (2017);
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代謝はT 細胞応答に密接に関与しており,感染やがんなどの生体防御においても重要である。特に解糖系(糖代謝)はエフェクター T 細胞機能に不可欠な代謝経路である。近年,がん微小環境下は低酸素/低栄養状態であり,このような環境下ではエフェクターT 細胞は本来の機能が発揮し難いことが明らかにされている。このような環境におけるT 細胞の機能を制御するために,様々な代謝薬を用いたがん免疫療法に関する研究が展開されつつある。本稿では,がん微小環境における代謝競合とそれに伴う腫瘍浸潤T 細胞の機能低下について言及する。
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癌と化学療法 44巻11号, 977-980 (2017);
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癌微小環境の一つとして近年,低酸素環境が注目されてきた。われわれが通常,実験を行っている環境は20%酸素環境であるから,生体内の癌細胞にはわれわれが実験で解析するものとは異なったシグナル経路が活性化している可能性がある。われわれは,その一つとしてHedgehog(Hh)シグナルに焦点を当てた。膵癌細胞では低酸素環境でHhシグナルが活性化し,それに伴い膵癌悪性形質が誘導されることがわかってきた。したがって,Hh 阻害剤が抗腫瘍効果を発揮するはずだが,「全人的癌治療」を考慮すればHh シグナルが免疫細胞諸機能に及ぼす役割を検証する必要がある。本稿では,低酸素環境/Hhシグナル/癌細胞・免疫細胞機能についてわれわれの行った解析結果を中心に概説する。
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癌と化学療法 44巻11号, 981-983 (2017);
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抗 PD-1/抗 PD-L1 抗体単剤での奏効率は 20〜30%程度であり,その適応を知るためにバイオマーカーの開発が重要である。今までの報告とわれわれの研究結果から抗 PD-1/抗 PD-L1 抗体のバイオマーカーの基本的な候補は,がん細胞上のPD-L1 とHLA classⅠの発現,かつ腫瘍微小環境へのCD8 陽性T細胞の浸潤と想定される。さらにこれらの条件に加え,腫瘍微小環境に浸潤した制御性T 細胞やPD-L1 を発現している免疫担当細胞,がん細胞のマイクロサテライト不安定性についても今後検討を要すると考えられる。
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原著
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癌と化学療法 44巻11号, 1001-1005 (2017);
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目的: 好中球数/リンパ球数比(NLR)は免疫能の指標および消化器癌の予後因子として有用とされており,NLR 低値の症例では予後が良好とされている。切除不能大腸癌の化学療法実施中のNLR がレジメン変更の指標として有用か否かを検討した。方法: 5-FUのTDMを併用した大腸癌化学療法施行中に,NLR値を測定した切除不能大腸癌30 例を対象とした。男性22例,女性8 例,年齢は61〜82(中央値71)歳であり,結腸癌14 例,直腸癌が16 例であった。化学療法前および最良腫瘍縮小時のNLR 値を測定し,生存に影響を与える因子を検討した。「NLR値2.5 以下の期間」を化学療法実施中にNLR値が2.5以下であった期間の総計と定義した。NLR を横軸,CEAを縦軸にとった十字グラフ(原点NLR: 2.5,CEA: 5)を作成し,1 か月ごとのNLR と腫瘍マーカー(TM)をプロットしてレジメン変更のタイミングを検討した。結果:期間は3〜120(中央値17)か月であった。second-lineへの移行24 例,third-line 11 例,fourth-lineへは2 例であった。最良腫瘍縮小時のNLR が2.5以下の群(22例)ではMST 27 か月,2.5 以上の群(8 例)ではMST 11 か月であり,前者で生存期間が有意に延長した(p=0.0002)。「NLR 値2.5以下の期間」は全生存期間と有意な正の相関を示した(相関係数0.888,p<0.001)。多変量解析では化学療法前CA19-9値(p<0.0001)と「NLR値2.5 以下の期間」(p=0.001)が有意な独立予後因子であった。3 年以上生存例では全例NLR≦2.5でsecond-lineへレジメン変更していたこと,NLR>5 がNLR≦5 となった症例は3例しかないことより,長期生存を得るためには NLR/TM のベクトルを考慮して NLR>2.5 となる前にレジメン変更することが有用と考えられた。結論:化学療法中のTMとNLR値の推移はレジメン変更のタイミングの指標となる。
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薬事
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癌と化学療法 44巻11号, 1007-1010 (2017);
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パクリタキセルは婦人科がん,乳がん,胃がんなどにおいてキードラッグである。後発医薬品であるパクリタキセル注「NK」と先発医薬品タキソール®注の安全性の比較はweekly 投与の報告がほとんどであり,tri-weekly 投与の報告はサンプル数の少ない報告しかない。今回,サンプル数を増やしパクリタキセル注「NK」のtri-weekly投与における安全性を評価した。先発医薬品と後発医薬品の両群においてall grade の便秘のみ有意差が認められた(p=0.037)。その他の有害事象において有意差は認められず,パクリタキセル注「NK」はtri-weekly 投与においても先発医薬品と同様に安全性が保たれていることが示唆された。
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癌と化学療法 44巻11号, 1011-1015 (2017);
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体表面積算出式は複数報告されている。まず,各抗がん剤においていずれの体表面積算出式の使用が推奨されているかを調査した。体表面積に基づき投与量が調整される抗がん剤62 品目のうち,添付文書もしくはインタビューフォーム中に体表面積算出式に関する記載があるものはなく,適正使用に関する資料中に記載があったものが8 品目であった。また,各体表面積算出式間の算出値差を計算し,用いる算出式により経口抗がん剤投与量に少なくない差が生じることを示した。医療関係者は,使用する体表面積算出式の種類を適切に認識している必要があることが示唆された。
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症例
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癌と化学療法 44巻11号, 1017-1020 (2017);
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症例は72 歳,女性。食物つかえ感の精査で胃癌と診断され,当科に紹介受診した。cT4bN2M0,cStage ⅢCの食道浸潤,膵浸潤を伴う胃癌と診断し,neoadjuvant chemotherapy(NAC)の方針とした。docetaxel,cisplatin,5-fluorouracil(DCF)療法3 コース施行したところ原発巣・転移リンパ節ともに縮小したため,膵体尾部脾合併切除を伴う胃全摘術(D2)を施行し,病理組織学的にはpathological complete response(pCR)と診断された。
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癌と化学療法 44巻11号, 1021-1023 (2017);
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REGARD試験,RAINBOW試験の結果から,進行再発胃癌に対する二次治療としてramucirumab(RAM)が導入された。RAMは血管新生を阻害することから創傷治癒遅延の懸念があるが,その詳細については未だ明らかではない。2011〜2016 年までにRAM が投与された進行再発胃癌93 例のうち,RAM 投与後に手術が施行された3 例を経験したので,RAM投与後の術後経過について検討した。症例1 は74 歳,男性。胃癌,肝転移に対してpaclitaxel(PTX)+RAM療法施行中,RAM最終投与3 日目に胃穿孔を認め,大網被覆術を施行した。経過良好で第19 病日に退院した。症例2 は31 歳,女性。胃全摘後腹膜再発,直腸狭窄に対してステント挿入後,PTX+RAM療法施行中,RAM最終投与5 日目にステントの口側に穿孔を認め,回腸双孔式人工肛門造設術を行った。穿孔部の閉鎖は得られずドレナージを継続し,第210 病日に死亡した。症例3 は60 歳,男性。残胃癌に対しPTX+RAM療法施行中,空腸瘻自然抜去のためRAMを6週間休薬の後に腸瘻造設術を施行。経過良好で第4 病日に退院した。RAM 投与後に手術を行う際には可能であれば十分な休薬期間を置くことが望ましく,やむを得ず緊急手術が必要な症例では極力侵襲の小さい術式を選択すべきである。
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癌と化学療法 44巻11号, 1025-1027 (2017);
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症例は81 歳,男性。肺腺癌に対してドセタキセル(docetaxel: DTX)単剤療法を施行し,day 21 より血小板が減少し低値が続いた。経過観察でday 112に基準値内に回復した。本症例では血小板減少の原因検索に苦慮したが,精査にてDTXが関与した薬剤性血小板減少症が考えられた。
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癌と化学療法 44巻11号, 1029-1032 (2017);
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症例は43 歳,女性。左乳癌(cT3N1M0,stage ⅢA)と診断され,術前化学療法[fluorouracil+epirubicin+cyclophosphamide(FEC)4 コース→docetaxel+trastuzumab(DOC+HER)4 コース]を施行する方針となった。DOC+HER1 コース後のday 17 に発熱,下腹部痛が出現したが急性胃腸炎と診断され,経過観察となった。DOC+HER 2 コース目施行日には解熱し,腹痛も軽快したため予定どおり投与した。day 8 に再び下腹部痛が出現したが,WBC 1,530/mL と低値であり経過観察となったが,腹痛の改善が認められず,day 13 には発熱も認め,WBC 21,680/mL と上昇していた。腹部 CT で急性虫垂炎による骨盤内膿瘍と診断され,緊急手術(回盲部切除術)を施行した。化学療法中は副作用である消化器症状,白血球減少や局所炎症所見の欠如などにより,急性腹症の診断が困難となりやすいと考えられる。
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癌と化学療法 44巻11号, 1033-1035 (2017);
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症例は68 歳,女性。5 年前より左乳房のしこりを自覚していたが,放置していた。未治療の糖尿病と高度の貧血を指摘され,貧血の原因は左乳房腫瘤からの出血のため,当科紹介となった。精査の結果,左乳癌,T4bN0M0,stage Ⅲb の診断となった。未治療の糖尿病のため,まずはホルモン療法を開始したが縮小効果が得られず,化学療法(bevacizumab+paclitaxel併用療法)に変更となった。著明な腫瘍縮小が得られたため手術施行となり,病理学的完全奏効が得られた。現在,ホルモン療法を施行中である。
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癌と化学療法 44巻11号, 1037-1040 (2017);
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症例は47 歳,男性。十二指腸水平脚に潰瘍性病変を有する9 cm の後腹膜腫瘍を認め生検を施行した。低分化腺癌と診断されるが,免疫染色にて上皮系・リンパ系・間葉系・神経内分泌系のいずれのマーカーも陰性で原発不明癌と診断された。腹部CT 検査では腫瘍内を大動脈,右腎動脈が貫通,下大静脈内に腫瘍栓も認め完全切除は困難であった。診断確定および治療方針決定のため開腹腫瘍生検を施行し,免疫染色にてseminomaの診断となった。胚細胞腫瘍の国際的リスク分類に準じてbleomycin,etoposide,cisplatin(BEP療法)の化学療法を施行,その後精巣摘出術が行われた。PET-CT で後腹膜腫瘍の集積は,SUVmax値7.17から化学療法後に消失し著効した。術後7 か月生存中である。