癌と化学療法

Volume 45, Issue 3, 2018
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総説
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新たながん医療の創生をめざして―Trans-OMICS Approach―
45巻3号(2018);View Description
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近年の高速シーケンサーを用いた包括的がんゲノム・トランスクリプトーム解析により,種々のがんドライバー変異が同定されている。それらを標的とした分子標的薬開発はがん治療に目覚ましい進歩をもたらしたが,多様性に富む難治性固形がんにおいて,そのようなdruggableな変異をもつ症例は一部にすぎず,その疾患・病態を規定する決定的な分子基盤は未だ明らかではない。また,総じて分子標的治療には獲得耐性という大きな問題が存在する。標的遺伝子および関連経路の獲得変異,組織学的特徴の転換など,複数の原因が知られているが,その克服には腫瘍内不均一性や腫瘍微小環境における腫瘍・間質相互作用,それに伴う生体ネットワーク再構築などをも考慮する必要がある。腫瘍細胞のみを,またゲノム解析データのみを対象とした治療標的・バイオマーカーの探索には限界がある。こうしたなか,よりフィノタイプを反映する代謝産物や蛋白質の網羅的(メタボローム,プロテオーム)解析情報をゲノム・トランスクリプトーム解析と組み合わせ,多階層縦断的に結合させることで生体分子グローバルネットワークを同定するTrans-OMICS解析という概念が登場した。このアプローチは新たながん医療の創生においても大きな可能性をもっている。本稿では,Trans-OMICS 解析の概要と有用な公共データベース,がん領域におけるこれまでの研究について自験例も含めて紹介する。
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特集
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- 新規抗癌剤と放射線治療
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抗がん剤併用放射線治療―現在の標準治療について―
45巻3号(2018);View Description
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根治的放射線治療は,抗がん剤と併用することで治療効果が増強されることが知られるようになってから実臨床で広く行われている。頭頸部領域ではCDDP 単剤との併用療法が切除不能症例,喉頭温存希望,そして術後補助療法としても標準的である。婦人科領域も沿うようにCDDP 単剤が頻用されている。食道領域では5-FU+CDDP との併用が標準的であり,放射線治療の適正な線量などが議論されてきた。肛門管がんでは5-FU+マイトマイシンC(MMC)との併用で人工肛門造設を回避できるとして,5-FU+MMC+RT が実臨床でも標準化している。2000 年代になり分子標的薬剤が臨床腫瘍学の中心となったが,放射線治療との併用で成功した分子標的薬剤は少ない。頭頸部領域ではcetuximabが唯一,放射線単独療法(RT alone)への上乗せ効果をランダム化第Ⅲ相試験で示したが,再現性を示唆する試験はまだでておらず,エビデンスレベルはⅠbである。現在,免疫療法をはじめとして有望な新規薬剤が承認され,現在の標準治療を優越しその領域の治療成績を飛躍的に向上させてほしいというのが望みであるが,エビデンスがないと理論だけでは信用できないということは過去の歴史が示している。 -
分子標的治療薬と放射線治療の併用
45巻3号(2018);View Description
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細胞傷害性薬剤を用いた放射線治療との併用に代わって,分子標的治療薬を用いる化学放射線治療が臨床試験において検討されている。これまでの報告では放射線治療と組み合わせることで有害事象が増加することもあり,注意が必要である。肺癌ではEGFR遺伝子変異陽性例に対してゲフィチニブと胸部放射線治療が行われており,結果が待たれる。 -
頭頸部癌における分子標的薬と放射線療法との併用
45巻3号(2018);View Description
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局所進行頭頸部扁平上皮癌に対する標準治療はシスプラチンと放射線治療(RT)の併用療法(chemoradiotherapy:CRT)である。一方,Bonner試験ではRT 単独に対するbioradiotherapy(BRT)の優越性が証明され,分子標的薬であるセツキシマブとの併用BRT も治療オプションとなり得る。しかしBRT のCRT に対する非劣性を証明した試験はなく,BRT による皮膚炎や粘膜炎といった有害事象は必ずしもCRT より軽度とはいえない。BRT を行う際には,患者背景や併存疾患を考慮し,十分な支持療法や患者教育を行うことが重要である。現在,ヒトパピローマウイルス陽性中咽頭癌に対して,BRT とCRT を比較する第Ⅲ相試験が進行中である。BRTが適切な患者を選別する新たなバイオマーカーが望まれる。 -
新規抗がん剤と放射線治療の併用による有害事象
45巻3号(2018);View Description
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がん薬物治療として,永らく化学療法剤(細胞傷害性抗がん剤)が中心的な役割を担ってきた。2000 年代以降は,分子標的薬ががん細胞特異的に標準を合わせる治療法として開発が進み,固形がんでは上皮成長因子受容体(epidermalgrowth factor receptor: EGFR)と血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor: VEGF)を標的にした薬剤を中心に承認されてきた。分子標的薬と放射線治療との併用治療は化学放射線治療の有害事象が多いという問題点を解決すべく開発が進められてきた。しかしながら,代表的な併用療法であるcetuximab併用放射線治療は急性期の皮膚炎・粘膜炎を中心として決して有害事象の少ない治療ではなく,症例を適切に選択することが重要である。同様に血管新生阻害剤と放射線治療との併用治療では特有の消化管障害に注意を払う必要がある。免疫チェックポイント阻害剤と放射線治療との併用療法の多数の前向き臨床試験も現在進行中である。どのような薬物を併用するにしても,効果と有害事象のバランスに留意して治療開発を進めていく必要がある。
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Current Organ Topics:Musculoskeletal Tumor 骨・軟部腫瘍 悪性骨軟部腫瘍に対する補助化学療法(2018)
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原著
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副作用・疼痛改善を軸に据えた薬剤師介入の意義
45巻3号(2018);View Description
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近年,がん患者に対して各職種が専門性を発揮して緩和的介入を行うことで,がん患者の不安・抑うつが改善し,生存期間が延長することが報告されている。また,薬剤師の介入により,がん患者の不安・抑うつの改善を示唆する報告もあるが,患者利益を据えた薬剤師の姿勢・行動に着目した報告はない。そこでわれわれは,副作用・疼痛改善を軸に据えた薬剤師介入の意義について検討した。薬剤師介入群,非介入群に無作為割り付けを行い,がん患者の不安・抑うつ,QOL の改善を検討した。2015年7 月〜2017年2 月の期間に,横須賀共済病院の外来化学療法室で初回化学療法を受けた患者,また継続治療後にレジメンが変更された患者を対象とした。薬剤師介入群,非介入群に対してACD尺度を用いてQOLを評価し,HAD 尺度を用いて不安・抑うつを評価した。ACD尺度,HAD尺度は化学療法実施前と4 コース目の2 回評価し,それぞれ差を求めて検定を行った。薬剤師介入群は非介入群に対してHAD 抑うつ(−1 versus 0.5,p=0.024),HAD 合計(−3versus 0.5,p=0.011)のみ有意に減少しており,副作用・疼痛改善を軸に据えた薬剤師介入により不安・抑うつが改善することが示された。
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症例
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腹腔鏡下に診断し治療方針を決定し得た肝浸潤を伴うびまん性悪性腹膜中皮腫の1 例
45巻3号(2018);View Description
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症例は69 歳,男性。発熱と炎症反応を伴う右側腹部痛にて当院に受診となった。腹腔内膿瘍の診断で加療するも軽快乏しく,審査腹腔鏡を施行した。散在する白色結節性病変が肝右葉を取り囲むように発育し,腫瘤を形成していた。腫瘤生検・免疫染色を施行し上皮型悪性腹膜中皮腫の診断を得,pemetrexed(PEM)+cisplatin(CDDP)での全身化学療法の方針となった。悪性腹膜中皮腫の確定診断と治療方針決定には腹腔鏡が有用であった。 -
Irinotecan+Cisplatin療法が奏効し原発巣を切除した食道内分泌細胞癌の1 例
45巻3号(2018);View Description
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症例は71 歳,女性。2015年1 月はじめより嚥下困難を自覚していた。4 月に上部消化管内視鏡検査を施行したところ胸部中部食道に隆起性病変を認め,生検でシナプトフィジンおよびCD56 陽性のため食道内分泌細胞癌と診断した。CT で転移を認めず,PET-CT で原発巣の他はFDG の異常集積はなかった。5 月よりirinotecan+cisplatin(IP)療法を開始した。6 コース後の内視鏡検査では,腫瘍は著明に縮小していた。CT で明らかな転移は認められなかったため,11 月食道亜全摘術を行った。切除標本で腫瘍は残存していたが,リンパ節転移はなかった。2016 年3 月のCTで左坐骨転移を認めたため,4 月よりetoposide+carboplatin 療法を開始した。しかし,食欲不振のため2 コースで中止となり,10 月に死亡した。食道内分泌細胞癌のfirst-lineとしてIP 療法は有効である。再発した場合のレジメンは確立しておらず,今後検討すべき課題である。 -
Trastuzumab+Pertuzumab療法で3年CR を維持しているHER2 陽性乳癌肝転移の1 例
45巻3号(2018);View Description
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症例は48 歳,女性。間質性肺炎に対して加療中であった。右乳癌(invasive ductal carcinoma,T1aN1M0,ER+,PgR−,HER2 3+)に対して右乳房切除術および腋窩リンパ節郭清術を施行した。術後にtamoxifenによる内分泌療法を行っていたが,術後1 年目に多発肝転移を認めた。間質性肺炎への影響を危惧し,docetaxel を除いたtrastuzumab,pertuzumabによる治療を開始した。開始7 か月で肝転移は消失し画像上complete response(CR)を得た。2 年後の時点でもCR を維持していたためtrastuzumab単剤に変更した。再発治療を開始して3 年経過したが,肝転移はCR を維持している。
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特別寄稿
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集学的治療としてConversion Therapyを施行し治癒切除に至ったStage Ⅳ胃癌の1例
45巻3号(2018);View Description
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今回われわれは,腹膜播種および他臓器直接浸潤を来した切除不能胃癌に対して,集学的治療により治癒切除に至った症例を経験した。まず横行結腸への直接浸潤と全周性狭窄に対してステント留置と経管栄養管理の下,3 剤併用化学療法(DCS療法)を2 コース施行した。続いてconversion therapyとして幽門側胃切除術,結腸右半合併切除術を施行してR0切除に至った。術後補助療法としてS-1内服療法を1 年間施行し,術後13 か月無再発生存中である。本症例より,Stage Ⅳ胃癌の治療戦略としてconversion therapyが予後延長に重要な役割を果たすと考えられた。 -
大腸癌Oncologic Emergency症例の検討
45巻3号(2018);View Description
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大腸癌のoncologic emergencyの病態としては,出血,穿孔,閉塞などがあり,特に閉塞性大腸癌は臨床上経験することが多い。閉塞性大腸癌に対する大腸ステント留置は比較的安全かつ簡便で,術前に良好な腸管減圧が得られ,一期的切除可能となる有効な手段である。また,緊急手術と比較して入院期間の短縮,合併症の低下や人工肛門造設の回避などが期待できる。2009年1 月〜2016年12 月に閉塞性大腸癌に対して手術を施行した68 例について比較検討した。術前ステント留置群(S群)と術前ステント非留置群(NS群)の2 群間比較では,短期予後に有意な差はなかった。S 群ではほぼ全例一期的吻合が可能であったが,NS 群では1/3 の症例で人工肛門造設を行った。S 群では有意にリンパ節郭清個数が増加し,術後在院日数が短縮した。 -
S-1/CDDP 療法後に手術を施行し長期予後を得ている胃癌腹膜播種の1 例
45巻3号(2018);View Description
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症例は27 歳,女性。主訴は下腹部痛。当院消化器内科にて胃体中部後壁の2 型進行胃癌を指摘され,当科へ紹介された。CT にて腫瘍の膵浸潤が疑われたため審査腹腔鏡を施行した。原発腫瘍の膵体部浸潤,網嚢内腹膜播種を認め,T4b(SI,pancreas),N1,M1,P1,CY0,StageⅣと診断した。S-1/CDDP 療法を2 コース施行後,画像上はSDと判定したが,腹膜播種の増悪を認めず,手術治療の方針とした。開腹所見では腫瘍の横行結腸間膜前葉浸潤,網嚢内播種の残存を認めたが,膵への直接浸潤は消失しており,幽門側胃切除術,横行結腸部分切除術を施行した。病理診断は,ypT4b(SI,mesocolon),N1,M0,ypStage ⅢB であった。術後,胃十二指腸吻合部の縫合不全を合併したが保存的治療にて改善した。術後補助療法としてDOC/CDDP療法を6 コース施行し,術後6年経過した現在も無再発生存中である。 -
内視鏡的局所療法にて治癒できた直腸癌術後難治性縫合不全の1 例
45巻3号(2018);View Description
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直腸癌術後難治性縫合不全に対し,メッシュを用いた内視鏡的局所療法で治癒できた症例を報告する。症例は73歳,男性。下部直腸半周性2 型直腸癌に対して腹腔鏡下超低位前方直腸切除術を施行した。術後第6 病日に発熱が出現し,第11病日にはCRP 値が12 mg/dL と上昇し,第 13 病日には腹痛が出現した。CT 検査で回腸壊死の疑いとなり,同日緊急腹腔鏡下に観察すると腹腔内全体に膿汁と食物残渣を認め,上部消化管穿孔を疑い開腹へ移行した。穿孔部を確認できず,拡張した回腸を切除,直腸吻合部は直視できず,ダグラス窩にドレーンを挿入した。手術後第7 病日に発熱が出現し,第15 病日にドレーンから便汁の排液を認め,直腸吻合部の縫合不全の診断となった。人工肛門の造設を希望されず保存的療法で対処したが3 か月経過しても治癒せず,第111病日にOTSC®(Over-The-Scope Clip)Systemを試みるも組織が固く失敗した。第114 病日,鼠径ヘルニア手術用メッシュを大腸内視鏡下に穿孔部へ留置した。その翌日よりドレーン排液はなくなり,6 日後にドレーン抜去,第130病日に退院した。この内視鏡的処置は難治性縫合不全に対し有用と考える。 -
当科における過去5年間の腹部大動脈瘤合併消化器癌の治療実態
45巻3号(2018);View Description
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わが国の人口の高齢化および食生活の欧米化に伴い,非心臓手術において循環器疾患を合併している症例数は年々増加している。腹部大動脈瘤の多くは無症状であり,非心臓手術の術前検査において偶然発見されることもまれではない。消化器外科において,消化管の悪性疾患と腹部大動脈瘤との二つの生命予後にかかわる疾患が合併している場合,それぞれの症例ごとに疾患の重篤度や切迫度に応じてその治療の優先順位を決定しなければならない。2012〜2016年の5 年間に当科で手術を行った胃癌手術症例のうち8 例,大腸癌手術症例のうち6 例の計14 例の消化器癌患者は,悪性疾患の手術時に腹部大動脈瘤が合併していた。これらの症例について治療実態を調査した。 -
S-1+CDDP 療法によりConversion Therapyが可能となった多発肝転移を伴った胃癌の1例
45巻3号(2018);View Description
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症例は57 歳,男性。胃角から前庭小弯に2 型進行胃癌を認めた。腹部CT で多発肝転移,固有肝動脈近傍のリンパ節に転移を認め,cT4a,N3,M1,HEP,cStage Ⅳと診断し,S-1+CDDP(SP)療法を開始した。SP 10 コース施行後,内視鏡所見はS1 stage潰瘍,病理所見はGroup 1 となり,PET-CTでは原発巣・転移巣に異常集積を認めなかった。conversiontherapy の方針となり,幽門側胃切除術+胆嚢摘出術+肝部分切除術を施行した。病理組織診断では原発巣および転移巣に腫瘍組織遺残を認めず,化学療法効果はGrade 3 であった。 -
十二指腸原発の神経内分泌癌の2 例
45巻3号(2018);View Description
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乳頭部を除いた十二指腸原発の神経内分泌癌は報告例が少ない。われわれは,球部と下行脚に発生した十二指腸神経内分泌癌をそれぞれ1 例経験した。症例1: 患者は76 歳,男性。径3 cm 大のリンパ節転移を伴う球部後壁の2 型の十二指腸癌の診断で,十二指腸部分切除かつ転移リンパ節切除を施行し,術後に神経内分泌癌と診断された(pT3pN1M0,stage ⅢA,UICC 第 7 版)。術後10 年 3 か月で慢性心不全の増悪により死亡した。症例 2: 患者は45 歳,女性。十二指腸下行脚の1/2 周性の2 型の十二指腸神経内分泌癌であった。亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した(pT4pN0M0,stageⅡB,UICC 第7 版)。術後再発にて術後7 か月で死亡した。 -
超高齢者の直腸癌穿孔に対し腹腔鏡下Hartmann手術を施行した1例
45巻3号(2018);View Description
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超高齢者の直腸癌穿孔に対して腹腔鏡下Hartmann手術を施行し,自宅退院が可能となった症例を経験したので報告する。症例は91 歳,女性。衰弱を主訴として当院へ救急搬送され,直腸穿孔の診断で緊急手術となった。通常の直腸手術に準じた5 ポートで手術を開始した。術中所見により直腸癌穿孔と診断し,腹腔鏡下Hartmann手術+D2リンパ節郭清を行った。手術時間3 時間21 分,出血量は10 g であった。術後5 日目から食事摂取を再開し,術後20 日目に当科としては退院可能な状態となったが地域包括ケア病棟に転棟し,術後89 日目に自宅退院となった。術後120 日目に食欲不振と肛門出血を主訴に外来を受診し,骨盤内局所再発,多発肝転移,癌性腹膜炎と診断された。術後132 日目に緩和ケア病棟に入院となり,術後141日目に死亡した。超高齢者であっても腹腔鏡下手術を選択することで低侵襲となり,自宅退院が可能となったと考えられた。 -
頬粘膜癌の手術術式に関する検討―口角再建を中心に―
45巻3号(2018);View Description
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頬粘膜癌の切除では顔面の軟組織欠損を伴うことがあるため,機能・形態・審美を考慮した再建が必要である。今後の治療成績向上の一助とするべく,これまで当科で行った頬粘膜癌の術式について後方視的に評価した。対象は島根大学医学部附属病院歯科口腔外科において,2007年6 月〜2017年1 月までに腫瘍切除と口角即時再建を行った頬粘膜癌4 例(男性2 例,女性2 例: 平均年齢81.8歳)である。頬粘膜病変の大きさは平均4.9 cm2,腫瘍切除による口角の皮膚欠損は平均3.1cm2であった。口角再建は局所の有茎弁を組み合わせて行った。そのうちの2 例は術後瘢痕拘縮を来し,瘢痕修正術を要した。頬粘膜癌切除後に口角の皮膚欠損を伴う場合,局所弁による再建が有用であるが,術後の瘢痕収縮を考慮した術式の検討が必要である。 -
十二指腸横行結腸瘻を伴う原発性十二指腸癌の1 例
45巻3号(2018);View Description
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症例は59 歳,女性。体重減少,食欲不振,下腹部膨満感を主訴に当院産婦人科を受診した。骨盤MRI検査で骨盤腔内に17 cm大の多房性嚢胞性の卵巣腫瘍を認め腫瘍摘出術を予定したが,腹部単純CT 検査で十二指腸に異常陰影を認め,消化管内視鏡検査で十二指腸横行結腸瘻を伴う腺癌と診断され当科紹介となった。先行して両側付属器切除術を施行し,病理組織診断で左卵巣転移(消化管由来)を認めた。後日に亜全胃温存膵頭十二指腸切除術および結腸右半切除術を施行した。病理組織検査では腫瘍の大半は低分化型腺癌であったが,十二指腸粘膜の一部で中分化型腺癌があったため十二指腸原発であると診断した。術後合併症なく退院した後,術後化学療法としてFOLFIRI療法を20 コース施行した。現在生存中である。十二指腸結腸瘻を伴う悪性病変を認める場合は,根治切除不能な悪性腫瘍であったとしても栄養改善目的で積極的に膵頭十二指腸切除術および結腸切除術を施行することも考慮に入れるべきである。 -
特発性血小板減少性紫斑病を伴ったS 状結腸癌の1 例
45巻3号(2018);View Description
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症例は80歳,男性。便秘を主訴に当院を受診し,S 状結腸癌(T4aN0M0,StageⅡ)と診断され,手術目的に入院となった。既往歴に2001年から特発性血小板減少性紫斑病(ITP)で加療中であった。術前にITPに対し大量g-グロブリンを投与し,S状結腸切除ならびにITP はステロイド抵抗性であったため同時に脾臓摘出術を行った。悪性腫瘍とITPの合併について血液疾患との合併が多く固形癌との合併は少ないとされていたが,ITPと固形癌の免疫学的な関係からの発癌について研究された報告もあり本例は興味がもたれる。 -
急速な増大が確認され術後早期に再発して急速な転帰をたどった乳腺紡錘細胞癌の1例
45巻3号(2018);View Description
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乳腺紡錘細胞癌は乳癌全体の1%未満といわれ,増殖速度が極めて速い。対側乳癌の術後観察中であったため,3 か月という短期間に増大を確認することができ,術後化学療法中に再発を来して極めて急速な転帰をたどった症例を経験した。症例は76 歳,女性。3 年前に右乳癌に対してBp+SNを施行した。pT1,N0,M0,stageⅠ,ER(+),PgR(+),HER2(0),切除断端(−)で術後残存乳房照射(60 Gy)後,Letrozoleの内服を行っていた。3 年後のマンモグラフィで右乳房に小腫瘤影を認めた。この時点で左乳房には異常所見を認めなかった。3 か月後のフォロー時に右乳房の腫瘤はやや増大し,左乳房にも4 cm 大の腫瘤を認めた。穿刺吸引細胞診で右乳癌の疑い,左乳房腫瘤に関しては針生検で間葉系腫瘍を疑い手術を施行した。術後病理診断の結果,右乳癌,squamous cell carcinoma,f,ly1,v1,NG Ⅱ,sn(−),ER(+),PgR(−),HER2(1+),左乳癌,spindle cell carcinoma,ly1,v1,NG Ⅲ,pNX,ER(−),PgR(−),HER2(0)であった。術後7 か月の化学療法中に胸膜肺転移と骨転移を来し,加療を行ったが術後8 か月で死亡した。 -
胆管腫瘍栓を伴った肝細胞癌の1 例
45巻3号(2018);View Description
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肝細胞癌における胆管腫瘍栓は比較的頻度の少ない病態である。われわれは,胆管腫瘍を伴った肝細胞癌の切除例を経験したので,文献的考察と併せて報告する。症例は61 歳,男性。近医において肝機能異常を指摘され,当科紹介となった。未治療のB 型肝炎があり,CT にて肝右葉後区域にびまん性に広がる腫瘍を認め,随伴する腫瘍栓を確認したが門脈腫瘍栓か胆管腫瘍栓かは判別困難であった。腫瘍栓の先進部は右肝管であり,右葉切除にて根治術が可能と考え手術を行った。しかし開腹すると腫瘍栓は左肝管にまで伸展していたが,術後追加治療の選択肢を確保するため胆管切除を避けるよう右葉切除を行い,腫瘍栓は右肝管から摘出し,治癒切除をし得た。病理組織学的には低分化型肝細胞癌であり,門脈浸潤も合併していた。術後合併症は認めず,第11 病日に軽快退院となった。臨床上遭遇する機会の少ない胆管腫瘍栓を伴う肝細胞癌を経験したので報告する。 -
脾弯曲部まで腸重積を来した盲腸癌に対し腹腔鏡補助下回盲部切除術を施行した1 例
45巻3号(2018);View Description
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症例は93 歳,女性。呼吸苦を主訴に当院に救急搬送された。胸部単純CT 検査にて左下肺に浸潤影があり誤嚥性肺炎と診断されたが,腹腔内の横行結腸左側に腸重積を認めた。腹部造影CT 検査にて腸重積の先進部に腫瘤性病変を認め,盲腸腫瘍による腸重積症を疑い手術を施行した。手術所見では盲腸から横行結腸にかけて重積を認め,腹腔鏡下では整復困難であったため体外にて用手的に整復を行った後,回盲部切除術を施行した。切除標本では盲腸に40×25mmの1型腫瘍を認め,病理検査所見は低分化型腺癌,深達度SSであり,リンパ節転移は認めずfStage Ⅱと診断された。術後は合併症なく経過良好であった。今回われわれは,待機的に腹腔鏡補助下手術を施行でき,重積腸管の整復も可能で腸管切離も最小限にできた盲腸癌による成人腸重積症の1 例を経験したので,文献的考察を加え報告する。 -
S状結腸癌同時性肝転移に対しFOLFOXIRI+Cetuximab療法を施行し根治切除が得られた1例
45巻3号(2018);View Description
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はじめに: StageⅣ大腸癌の治療方針に対して,様々な検討がされている。今回われわれは,RAS 遺伝子野生型S状結腸癌の同時性肝転移に対し,原発巣切除後にFOLFOXIRI+cetuximab 療法を施行し,肝転移巣の根治切除が得られた1 例を経験したので報告する。症例: 40 歳台,男性。腹部CT 検査にて,S 状結腸癌を原発巣とする肝右葉を占める最大径21 cmの転移巣を認めた。S 状結腸に全周性に腸管狭窄を伴う2 型病変を認め,S 状結腸癌,cT4a(SE),cN1,cM1(H2),cStageⅣと診断,S状結腸切除術を施行した。病理組織学的診断はRAS 遺伝子野生型,中分化型腺癌であった。術後6週間後よりFOLFOXIRI+cetuximab療法を計7 コース施行した。Grade 3 以上の副作用は認めず,肝転移巣は最大径15 cm に縮小,二期的に肝右葉切除術を施行した。病理診断はpT4a(SE),pN2(10/38),pM1(H2),pStageⅣであった。肝切除後 1 年 4か月経過した現在,再発なく経過している。結語: RAS 遺伝子野生型切除不能進行・再発大腸癌の一次治療として,FOLFOXIRI+cetuximab療法の有効性が期待できる。 -
早期胆嚢癌を否定できない隆起性病変に対し腹腔鏡下胆嚢全層切除術を試みた1例
45巻3号(2018);View Description
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腹腔鏡下胆嚢摘出術は低侵襲術式として広く普及し,良性疾患では第一選択となっている。しかし胆嚢癌を疑う症例に対しては,鏡視下ではなく開腹胆嚢摘出術がガイドライン上では勧められている。その理由としてはport site recurrenceや腹膜再発の原因となる胆嚢損傷に伴う胆汁漏出や,切離面にm-RASss癌(漿膜下層に存在するRAS 内の上皮内癌)が露出し遺残することがあげられる。一方,胆嚢全層切除術はm-RASss癌にも対応できるとされる。今回われわれは,早期胆嚢癌を否定できない隆起性病変に対し十分なインフォームド・コンセントを行った上で,根治性と侵襲のバランスを考え腹腔鏡下胆嚢全層切除術を施行した。このような症例に対しては有用な選択肢と思われたので,若干の文献的考察を加え報告する。 -
胆嚢空腸吻合術後50年目に発症した胆嚢癌の1 例
45巻3号(2018);View Description
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胆嚢空腸吻合は,本邦では頻度の少ない胆道消化管バイパス術である。われわれは,50 年前に胆嚢炎に対し胆嚢空腸吻合を施行され,今回,吻合部近傍に胆嚢癌が発生した症例を経験した。症例は76 歳,女性。右季肋部痛を主訴に近医を受診し,胆石症の疑いにて当院に紹介となった。既往歴は26 歳時に胆嚢炎にて入院,手術を施行され,胆嚢と腸を吻合したと説明を受けた。当院では胆嚢癌の疑いにて胆嚢空腸吻合部を含め2 か所で空腸を離断し,胆嚢を摘出,端々吻合にて空腸を再建した。胆嚢空腸吻合という術式は非常にまれであり,その報告例も少ない。臨床上極めてまれな興味ある1 例を経験したので報告する。 -
メシル酸イマチニブの長期内服にてPathological Complete Responseが得られた胃GISTの1例
45巻3号(2018);View Description
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症例は78 歳,女性。5 年前より内視鏡検査で胃粘膜下腫瘍を指摘されていたが,CT 検査にて腫瘍の増大を認め,外科紹介となった。精査により,胃大弯原発で腫瘍径7 cm 超のgastrointestinal stromal tumor(GIST)と診断され,膵体尾部および脾臓への浸潤が疑われた。患者が外科的切除を拒否したことでイマチニブの内服を開始した。その後,眼瞼浮腫・下腿浮腫といった副作用を認めるも6 年間にわたりイマチニブを内服していたが,経過中に早期直腸癌が見つかり,直腸癌と胃GIST に対する同時切除を行うことに同意し切除の方針となった。手術は,腹腔鏡下低位前方切除および胃部分切除を施行し,膵臓・脾臓は温存できた。切除標本の病理組織学的検査では胃GIST に腫瘍細胞は確認できず,pathological completeresponseと判定した。直腸病変も早期癌で根治切除となった。胃GISTに対するイマチニブの術前補助化学療法の有用性は明らかではないが,本症例のように多臓器浸潤を疑うような症例ではイマチニブの術前投与が有効である可能性が示唆された。 -
家族性大腸腺腫症に併存した十二指腸腺腫に対する内視鏡補助下十二指腸局所切除術の1 例
45巻3号(2018);View Description
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大腸全摘後の家族性大腸腺腫症(FAP)患者に発症した十二指腸腺腫に対し,内視鏡を併用し十二指腸局所切除術を行ったので報告する。症例は30 歳台,男性。FAPに対し1997 年に大腸全摘術・回腸嚢肛門吻合術を施行した。2004 年より十二指腸腺腫が生じ,異型度が徐々に上昇したため2013 年に内視鏡補助下十二指腸全層切除術を施行した。病理結果は高分化型管状腺癌(pM,ly0,v0)であった。術後4 年無再発で経過している。十二指腸腺腫に対し,内視鏡補助下の十二指腸局所切除術は侵襲が低く有用と考えられた。 -
Bevacizumab+Xelox 療法が奏効した直腸癌脳・肝・肺転移の1 例
45巻3号(2018);View Description
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症例は57 歳,女性。悪性リンパ腫の加療前精査で肛門縁より20 cm の上部直腸に0-Ⅰsp 型の早期直腸癌を認めた。内視鏡的粘膜切除術が施行され,病理診断で深部断端陽性と診断された。リンパ節郭清を伴う追加腸切除が必要と判断されたが,悪性リンパ腫の臨床病期がStage Ⅲb 以上であることから生命予後を考慮しABVD 療法を開始した。2 か月後にCEA が上昇し,精査でS8 肝転移を認め,また一過性の右上肢脱力を認めたため精査をしたところ,小結節状の多発脳転移を認めた。悪性リンパ腫の化学療法終了後,bevacizumab(BV)+Xelox 療法を開始した。4 コース施行後,多発脳転移の消失,肝転移巣の縮小を認めたため腹腔鏡下肝S8 部分切除を施行した。術後はBV+Xelox 療法を再開したが,8 コース施行後に左下葉肺転移を認めたため胸腔鏡下左下葉部分切除術を施行した。肺切除後はBV+FOLFIRI療法を行い,脳転移を含め治療開始後12か月再発所見は認めていない。 -
膵腺扁平上皮癌の術後再発に対して残膵全摘術を行った1 例
45巻3号(2018);View Description
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症例は70 歳台,男性。肝細胞癌術後3 年目のCT 検査で膵頭部に25 mm 大の腫瘍を認め,精査にて膵頭部癌と診断され,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術,上腸間膜静脈合併切除を施行した。病理診断は腺扁平上皮癌(adenosquamouscarcinoma: ASC),pT4(PV)N2M0,Stage Ⅳbであった。術後補助化学療法を施行したが,術後3 か月目のCT 検査で残膵に18 mm大の腫瘤を認めた。EUS-FNAを施行し,膵ASC 再発と診断した。膵外病変を認めないことなどから,術後約4 か月目に残膵全摘術を施行した。残膵全摘術後2 か月目に肝・傍大動脈リンパ節転移を認めたが,化学療法を継続し初回手術から14 か月生存中である。膵ASCに対する残膵全摘術の報告はほとんどなく,今後症例の蓄積による検討が必要である。 -
長期病勢コントロールされた転移・再発十二指腸GISTの1例
45巻3号(2018);View Description
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症例は59 歳,男性。腹痛の精査の結果,十二指腸水平部に4.5 cm 大のGISTを認め外科切除を行った。病理所見より高リスク症例であったため術後補助化学療法としてイマチニブが投与されたが,術後6 か月目に多発肝転移を来した。当時,臨床使用できる他の分子標的薬が存在せず,全病巣切除が可能であったため肝切除を行い,術後はイマチニブ投与を継続した。その後の再発に対しては切除可能であれば外科切除を第一選択とし,再発巣の局在や残肝機能の制約により切除不能な場合は肝動脈化学塞栓療法やラジオ波焼灼術を行い,転移巣に対する局所療法を継続した。スニチニブが保険収載されてからは同薬への変更も試み,全身療法も継続した。これらの治療によりイマチニブ耐性出現後99 か月の長期生存を得ることができ,転移・再発十二指腸GISTに対する外科切除,肝動脈化学療法,ラジオ波焼灼術の有用性が示唆された。 -
Etoposide/Cisplatin(EP)療法施行後Conversion Surgeryが可能となった巨大膵神経内分泌癌の1 切除例
45巻3号(2018);View Description
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神経内分泌癌(neuroendocrine carcinoma: NEC)は高悪性度の癌で増殖速度が速く,予後は極めて不良である。今回われわれは,etoposide/cisplatin(EP)療法後にconversion surgeryが可能となった巨大膵NEC の 1 例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。症例は70 歳,女性。食思不振を主訴に前医を受診し,左季肋下に巨大腫瘤を指摘され当院紹介となった。入院時のCT 所見では膵に径15 cm 大の巨大な腫瘍を認め,主要血管への浸潤が疑われ,腹膜播種,傍大動脈リンパ節転移も認めたため当初切除不能と判断した。EUS-FNAにてNEC(Ki-67 index 100%)と診断され,EP 療法を開始した。6 コース後腫瘍は縮小し,切除可能な状況となった。7 コース後腫瘍は再増大し,腎機能障害も認めたためconversion surgery を施行した。本邦のガイドラインではNEC に対する外科治療に特化された記述はないが,化学療法に関しても二次治療として現在確立されたものはない。今後症例が蓄積し,NEC に対する集学的治療がさらに発展されることに期待したい。 -
腋窩リンパ節腫大で診断されたHER2 陽性潜在性乳癌の1 例
45巻3号(2018);View Description
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潜在性乳癌は転移巣で発症し,乳房内に原発巣を認めないまれな乳癌である。症例は68 歳,女性。右腋窩腫瘤を主訴に当院を初診した。右腋窩に腫瘤を触知するも,触診・エコー・MRIで乳腺に所見を認めなかった。針生検で浸潤性乳管癌の診断で,腫瘤に対して乳房温存円状部分切除および腋窩リンパ節郭清を行った。病理学的検討で腫瘤の周囲に乳腺組織はなく,潜在性乳癌の診断であった。ER 陰性,HER2陽性のため,FEC・ドセタキセル・トラスツズマブを行い,右鎖骨上窩と右全乳房に放射線治療を行った。現在まで再発や乳腺の腫瘤は指摘されていない。潜在性乳癌における乳腺に対する治療は,一般的に放射線や手術などの局所療法を行うべきとの見解が多い。本症例においては右全乳房と右鎖骨上窩に放射線照射を行い,非切除として経過観察している。HER2 陽性であったため抗癌剤とトラスツズマブの治療を十分に行えば,局所のコントロールは可能と考えられた。 -
ESD 後の追加外科切除で高度のリンパ節転移を認めた粘膜下層浸潤胃癌の1例
45巻3号(2018);View Description
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症例は74 歳,男性。近医で施行された腹部超音波検査で膵体部嚢胞性病変を指摘され,精査目的に当院へ紹介受診となった。精査にて膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)と診断された。手術目的の術前精査で施行した上部消化管内視鏡検査にて胃体上部大弯側にtype 0-Ⅱc 病変を指摘された。超音波内視鏡検査で粘膜内癌と診断し,endoscopic submucosal dissection(ESD)が施行された。術後の病理組織診断にて粘膜下層浸潤を伴う高分化型腺癌と診断され,リンパ節郭清を伴う追加外科切除の適応となった。本症例に対し腹腔鏡補助下噴門側胃切除術,D1+リンパ節郭清および膵体尾部切除術,脾摘を施行した。病理組織診断にて膵体部膵管内乳頭粘液性腺腫(IPMA),胃病変については癌遺残を認めなかったが,計7 個のリンパ節転移を認め(pN3a),そのうち3 個は同時に摘出された膵実質に隣接する組織内に偶発的に認められた。N3の粘膜下層浸潤早期胃癌はまれであり,文献的考察を加え報告する。 -
術前S-1単剤化学療法後の手術で長期生存が可能となった高齢者局所進行膵癌の1例
45巻3号(2018);View Description
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症例は 80 歳,女性。2010 年 10 月に紹介医での血液検査で CA19-9 が 58 U/mL であったため,精査目的に当院紹介となった。精査にて腹腔動脈に接触浸潤が疑われるborderline resectable(BR)膵体部癌と診断した。術前化学療法の方針としたが,年齢を考慮しS-1単独(100 mg/day,2週投与1 週休薬)での治療を開始した。開始 2 か月後には腫瘍マーカーが基準値以下になり,3 か月後のCT 検査で腫瘍の縮小を認めた。切除可能と判断し,化学療法開始6 か月後に膵体尾部切除,脾臓摘出術を施行した。病理結果はPb,TS1(10 mm),tubular,well differentiated adenocarcinoma,int,INF b,ly0,v0,ne0,mpd0,yT1c,ypCH0,ypDU0,ypS0,ypRP0; ypPV0,ypA0,ypPL0,ypOO0,pN0,ypPCM0,ypBCM0,ypDPM0,TNM 分類: ypT1,ypN0,M0,ypStageⅠで組織学的効果判定はgrade 2(膵癌取扱い規約第7 版)であった。術後1年6か月S-1 による補助化学療法を継続し,終了している。現在術後5年9か月経過し,無再発生存中である。 -
CapeOX療法により治癒切除し得た高度局所進行S 状結腸癌の1例
45巻3号(2018);View Description
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症例は68 歳,男性。W怠感と下腹部膨隆を主訴に受診した。S 状結腸に全周性type 2 病変を認め,CT 検査にてS 状結腸に長径約11 cmの腫瘤と膀胱内浸潤と腹壁浸潤による腹壁膿瘍も認めた。現時点での切除は局所浸潤が高度で剥離面の癌遺残が危惧されるため,人工肛門を造設後,capecitabine+oxaliplatin(CapeOX)+bevacizumab(Bmab)療法を開始した。2 コース施行後,腹壁膿瘍の増悪のため穿刺ドレナージを施行し,4 コース施行後,腹壁膿瘍は縮小したため根治切除の方針とした。手術はS 状結腸切除・膀胱全摘・腹壁切除・人工肛門閉鎖・回腸導管造設・大腿筋膜皮弁を施行した。最終診断はtub1,T4b,ly2,v2,PN0,N0,M0,StageⅡ,切離断端は陰性で治療効果判定はGradeⅠa であった。今回,CapeOX療法により治癒切除し得た膀胱・腹壁浸潤を伴う高度局所進行S 状結腸癌の1 例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する。 -
Pagetoid Spreadを伴う肛門腺由来粘液癌に対し腹腔鏡下直腸切断術を施行した1 例
45巻3号(2018);View Description
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症例は69 歳,男性。増大する肛門部腫瘤を主訴に皮膚科生検で腺癌と診断され,当科を受診した。肛門縁に約40 mmの1 型腫瘤を認め,周囲の皮膚に変化は認めなかった。生検で真皮深層に間質への粘液産生が旺盛な腺癌を認め,腫瘍細胞は表皮にPagetoid spread 様に浸潤する像を認めた。術前に会陰部の切除範囲を決定し,腹腔鏡下腹会陰式直腸切断術,D2郭清を施行した。肛門管重層扁平上皮に最大径41 mmの1 型腫瘤を認め,肉眼的には歯状線より遠位に存在し,直腸粘膜との連続性は認めなかった。組織学的には豊富な粘液産生を示す粘液癌で,肛門管粘膜下組織への浸潤を認めたが,筋層には達していなかった。重層扁平上皮内には,Pagetoid spread様に進展する腺癌細胞を認め,口側は直腸腺上皮との境界まで達していた。肛門周囲の切除断端は陰性で,リンパ節転移は認めず,術後補助化学療法は施行しなかったが,術後1年6か月後に左鼠径リンパ節再発を認め,リンパ節郭清術を施行した。以後1 年間無再発で経過している。 -
後腹膜由来巨大脂肪肉腫に対し外科的切除および化学療法により治療中の1例
45巻3号(2018);View Description
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症例は64 歳,男性。2015年12 月,食道違和感などがあり,精査目的にて当院紹介となった。上部消化管内視鏡検査では,胃体部および前庭部にて前壁側よりの壁外圧迫を認めた。CT 検査では,腹部左側を占拠する巨大な脂肪性腫瘤を認めた。内部は不均一で索状物や分葉構造を伴い一部には増強効果がみられる部分を認め,腫瘤により膵や左腎など後腹膜臓器が右方へ偏位し,左後腹膜由来の脂肪肉腫が疑われた。術前診断として脂肪肉腫と考え手術を選択した。初回手術では,総重量約4.0 kgの腫瘍を摘出したが,サイズが大きく分割切除となった。摘出時,腎周囲の脂肪織は腫瘍と正常腎前筋膜との境界が不明瞭であった。病理学的診断では,脱分化型脂肪肉腫と考えられた。術後3 か月目のCT 検査では,膵体部腹側に3cm 程度の再発が疑われ,確認のため2 か月後に再度CT 検査したところ病変は17 cm と急速に増大し,2 回目の摘出手術となった。2 回目の術後は,術後補助化学療法としてエリブリンやドキソルビシン+イホスファミド(AI)療法を使用した。しかし,その後腹膜播種として再発,3 回の手術による摘出を要し,現在,再度補助化学療法を検討中である。脂肪肉腫に対する治療は奏効する化学療法が決まっておらず,局所療法としての手術療法が中心となる。今回,巨大な脂肪肉腫で腫瘍自体も均一ではなく,比較的ゆっくり増大する部分と急速に増大する悪性度の高い部分があり,外科的切除と化学療法による治療を組み合わせながら治療を継続している。後腹膜腫瘍としての脂肪肉腫の治療について文献的考察を加え報告する。 -
分化型胃癌の臨床病理学的検討
45巻3号(2018);View Description
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目的: 胃癌取扱い規約では一般型の分化型癌は,乳頭腺癌(pap),高分化型管状腺癌(tub1),中分化型管状腺癌(tub2)の3 群に分類される。各組織型での悪性度を評価した。対象と方法:当院で施行された2000 年1 月〜2016年1 月までの胃癌手術症例のうち,分化型癌1,412 例の臨床病理学的特徴を後方視的に比較検討した。結果:検討症例数はpap 55 例,tub1639例,tub2 718例であった。深達別リンパ節転移の有無で比較すると,T1b,T2,T4(a+b)においてtub2とpap がtub1に比してリンパ節転移を来しやすい結果となった。また,tub2とpap はtub1に比してリンパ節転移個数が多く,5 年生存率においても悪化を認める結果となった。結語: tub2とpap はtub1に比して悪性度が高く,早期にリンパ節転移を来す可能性が示唆された。内視鏡治療などで個別化を図る場合は,tub1とtub2,papの分別は必要と思われる。 -
当院における大腸悪性狭窄に対する大腸ステント留置症例の検討
45巻3号(2018);View Description
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2012 年より自己拡張型金属ステント(self-expandable metallic stent: SEMS)が保険収載され,大腸悪性狭窄に対する治療戦略は変遷しつつある。2014 年4 月〜2017 年3 月までにわれわれが経験した,手術までの待機期間(bridge to surgery:BTS)としてのSEMS留置10 例,他臓器癌転移による大腸狭窄に対する緩和目的としてのSEMS留置4 例を対象に,その問題点について検討した。留置成功率は100%であったが,留置後のステント逸脱を1 例(7%)認めた。BTS としてのSEMS留置例の留置から手術までの待機期間は7〜34(中央値16)日であり,Clavien-Dindo分類grade Ⅲa 以上の術後合併症は認めなかった。緩和目的のSEMS留置例では全例で姑息的手術を回避できた。SEMS留置は多くの利点が報告されており,偶発症の予防に留意すれば短期的には患者の大幅なQOL改善が図られる。長期的予後に関しては今後症例の蓄積,検討が必要と考えられる。 -
胃神経内分泌細胞癌の術後再発に対してRamucirumabが有効であった高齢者の1例
45巻3号(2018);View Description
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症例は84 歳,男性。Stage ⅢB の胃神経内分泌細胞癌に対して2015 年12 月に胃全摘術,D1+郭清,Roux-en-Y 再建を施行した。2016 年5 月,腹部CT 検査において大動脈周囲リンパ節および左副腎の腫大を指摘され,CA19-9 の上昇も認めたことから再発と診断された。6 月よりramucirumab(RAM)単剤療法を開始した。CA19-9は徐々に低下し,大動脈周囲リンパ節および左副腎は縮小傾向でPR が得られた。全身倦怠感のため治療休止期間を要したが,2017 年1 月に全身倦怠感の増強を理由に投与を中止するまでの間,総じて大きな有害事象なく経過し,良好な治療効果が得られた。胃神経内分泌細胞癌の予後は極めて不良であるが,有用な化学療法について一定の指針はない。特に高齢者では有害事象が懸念されるため,治療薬の選択には慎重な判断が求められる。本例ではRAMは安全に投与可能であり,RAMは胃神経内分泌細胞癌に対して有用な治療法の一つである可能性が示唆された。 -
遠位胆管癌術後肝転移の1切除例
45巻3号(2018);View Description
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遠位胆管癌術後肝転移に対し転移巣切除を施行し,初回手術後3 年10 か月無再発生存中の症例を経験したので報告する。症例は70 歳,男性。2014年8 月に膵頭部癌の診断で亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した。病理診断は遠位胆管癌[pT3a(panc,du),pN1,pStageⅡB]であった。術後1 年6か月目のCT で,肝S8 に25 mm大の腫瘤性病変を認め,FDG-PET で同部に異常集積を認めたため,肝転移と診断した。gemcitabine(GEM)/cisplatin(CDDP)併用療法を2コース施行後,新規病変がないことを確認した上で2016 年5 月に肝S8 部分切除術を施行した。病理組織学的には既知の胆管癌と類似しており,胆管癌肝転移と診断した。術後補助化学療法としてS-1 療法を6 か月施行した。現在,初回手術後3 年10か月,再発は認めていない。胆管癌術後肝転移に対し,症例を選び外科的切除を行うことは予後を改善する可能性があると考えられた。 -
非切除膵体部癌(Stage Ⅳb)に対しGemcitabine+Nab-Paclitaxel併用療法が奏効している1 例
45巻3号(2018);View Description
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症例は61 歳,女性。頻回の嘔吐を主訴に紹介受診となった。腹部CT にて大きさ約40 mmの膵体部癌が存在し,十二指腸水平部から空腸にかけての浸潤狭窄,上腸間膜動脈浸潤,門脈・脾静脈閉塞,リンパ節腫大,少量の腹水を認めた(stageⅣb)。膵体部癌の十二指腸水平部から空腸にかけての浸潤狭窄による通過障害と診断し,十二指腸・空腸バイパス術を施行した。癌性疼痛に対してはオピオイド鎮痛薬にてコントロールし,一次化学療法はS-1 療法を選択された。5 コース施行した時点で腫瘍の増大傾向と癌性疼痛が増悪し,Grade 3 の有害事象により続行困難となったため,二次化学療法としてgemcitabine+nab-paclitaxel(GEM+nab-PTX)併用療法を選択した。1 コース終了後より癌性疼痛が軽減したためオピオイド鎮痛薬を漸減した。5 コース終了時には画像診断上はstable diseaseだが,オピオイド鎮痛剤を必要としないほど疼痛が軽減した。初診時から約18 か月,S-1を5 コース,現在10 コース目のGEM+nab-PTX併用療法を外来継続治療中である。 -
IPMN とITPN との鑑別が困難であった膵管内悪性腫瘍の1 例
45巻3号(2018);View Description
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症例は60 歳台前半,男性。6 か月前より糖尿病が悪化し,精査目的で当院紹介となった。造影CT で膵全体に拡張した主膵管の内腔を満たす造影効果を伴う腫瘤影を認めた。EUS-FNA ではadenocarcinoma の診断であった。以上より主膵管型IPMNを疑い,膵全摘出術を行った。切除標本の肉眼所見では腫瘍は主膵管内に充実性に増生しており,膵管内の粘液貯留は乏しかった。病理組織学的には乳頭状・管状に増殖する腫瘍を認め,adenocarcinomaの診断であった。膵全体で間質浸潤を示唆する所見を認めた。免疫染色ではMUC5AC が部分的に陽性であり,IPMC とITPC の鑑別が困難な膵管内悪性腫瘍と診断した。ITPN は臨床病理学的に不明な点も多く,今後さらなる症例を集積し病態の検討を重ねていく必要がある。 -
急速に増悪し胃・横行結腸に穿破した膵管内乳頭粘液性腫瘍の1 例
45巻3号(2018);View Description
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症例は71 歳,女性。発熱・腹部膨満感を主訴に当院を受診した。4 年前に膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)を指摘され経過観察されていたが,造影CT で膵前面に80 mm大の嚢胞性病変を指摘された。病変は主膵管との境界が不明瞭で,胃・横行結腸と隣接していた。内視鏡検査では壁外からの病変による異常所見を認めたが,悪性所見は指摘されなかった。主膵管型IPMN(T4N0M0,cStage Ⅳa)の診断の下,膵全摘・胃全摘,横行結腸部分切除術を施行した。病理学的には乳頭粘液性腺癌であったが,胃・横行結腸には腫瘍細胞の浸潤は認められなかった。IPMNは時に隣接臓器へ浸潤し,他臓器に穿破することがある。今回われわれは,胃・横行結腸に穿破したIPMNの1 例を経験したので文献的考察を加えて報告する。 -
オクトレオチド・エチレフリン併用療法が奏効した膵体尾部切除術後の難治性乳糜腹水の1 例
45巻3号(2018);View Description
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症例は81 歳,女性。2016年2 月に検診でCA19-9高値を指摘され,当院を紹介受診した。精査にて脾静脈への浸潤を伴った膵体部癌の診断となり,膵体尾部切除術を施行した。傍大動脈リンパ節に腫大を認め,サンプリングで摘出した。術後2 日目のドレーン排液のアミラーゼ値は288 IU/L と上昇を認めなかったが,排液が白濁し,排液量が2,000 mL/dayと多く,排液中のTG 値が201 mg/dL と上昇していたことから乳糜腹水と診断した。食事は脂肪制限食とし,オクトレオチドの投与を開始した。ドレーンの性状に変化なく,排液量も減少しなかったため術後8 日目より絶食とした。1 日300 mL 以上の排液が持続したため,術後18 日目よりエチレフリンの投与を開始した。排液量は速やかに減少し,術後22 日目にはドレーンを抜去した。難治性乳糜腹水に対するオクトレオチド・エチレフリンの併用は保存的治療の一つとして有用であると考えられた。 -
下大静脈浸潤を来した膵頭部癌に対し5-ALA併用光線力学診断が有用であった1例
45巻3号(2018);View Description
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癌手術において癌遺残のない切除術(R0)をすることが絶対条件であるが,病理診断で切離・剥離断端が陽性と診断されるケースもある。そこで術中迅速病理検査で断端を評価する必要がある。一方,5-aminolevulinic acid(5-ALA)は代謝産物である蛍光物質のprotoporphyrin Ⅸ(Pp Ⅸ)が癌に特異的に集積する。この性質を用いて膵癌の剥離断端に対する術中診断が可能かについて検討した。症例は73 歳,男性。膵頭部癌の診断で手術を施行した。術中,下大静脈(IVC)への浸潤が疑われたため剥離面を蛍光腹腔鏡で観察すると,Pp Ⅸ由来の赤い蛍光を認めたため術中迅速病理へ提出したところadenocarcinoma の診断を得た。5-ALAを用いた蛍光診断は,IVCなどの周囲組織への浸潤を認めた膵癌に対して,剥離面での癌遺残を診断できる可能性が示唆された。
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