癌と化学療法
Volume 45, Issue 9, 2018
Volumes & issues:
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総説
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がんゲノム医療における中核拠点病院と連携病院の役割
45巻9号(2018);View Description Hide Descriptionがんゲノム医療を実診療で提供することをめざし,国主導で制度設計が進んでいる。特に施設整備に関しては,2018年4 月に11 のがんゲノム医療中核拠点病院と100 のがんゲノム医療連携病院が指定された。連携病院ではゲノム医療を希望するがん患者に説明・同意を取り,検査機関に検体を提出し,中核拠点病院で開催されるエキスパートパネルに担当医が出席して治療法を決めること,そして患者の同意の下,実際に推奨治療を行うことが求められている。中核拠点病院にはこれらに加え,遺伝子パネル検査ができること(外注でも可),アノテーション情報を基にエキスパートパネルを開催し推奨治療を決めること,治験・先進医療を主導的に実施すること,ゲノム医療に関与する人材を育成すること,連携病院がゲノム医療を実施する際に必要に応じて診療支援することが求められている。ゲノム情報やこれに関連する診療情報は,これら施設からがんゲノム情報管理センターに集められ,日本人の知識データベースを造るとともに新規治療の開発に役立てられる予定である。
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特集
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- 免疫腫瘍学(Immuno-Oncology)の夜明け
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Immuno-Oncologyの系譜―がん免疫療法の歴史と現況―
45巻9号(2018);View Description Hide Description1970 年代よりがん治療の一つの戦略として免疫療法が取り上げられるようになり,生体反応修飾物質(biological responsemodifiers: BRM)やサイトカインを用いた非特異的なアプローチ,細胞移入療法・がんワクチン療法・モノクローナル抗体を用いた分子標的療法などの特異的な免疫療法も検討されてきた。しかし臨床腫瘍医からは懐疑的な視線が向けられていた。ところが,免疫チェックポイント分子を制御するというアイディアが臨床現場に登場し,臨床試験が迅速に進められて,様々な種類のがんにおいて効果が認められ,かつ奏効期間も長いことが判明した。まだ解決すべき課題は山積しているものの,免疫チェックポイント阻害剤が奏効する症例が存在すること自体が,生体内でがんに対する免疫応答が生じていることの証拠であることは論を待たない。がん免疫療法は2010 年以降ににわかに脚光を浴びるようになり,その効果に疑義を挟む臨床家は皆無となった。そして外科的切除,抗がん剤を用いた化学療法および放射線治療とともに有用な治療戦略として確固たる地位を得るまでに至っている。 -
Immuno-Oncologyにおけるバイオマーカー検索―腸内環境と免疫チェックポイント阻害薬の関係―
45巻9号(2018);View Description Hide Description現在,非小細胞肺癌に対する抗PD-1 阻害薬としてnivolumab とpembrolizumab が使用されているが,効果を予測するためのバイオマーカーは未だ十分に解明されていない。腫瘍中のPD-L1発現陽性はpembrolizumabのバイオマーカーとして確立されているが,nivolumab やその他の臨床試験中の免疫チェックポイント阻害薬ではPD-L1 が陰性でも一定の効果が得られており,他のバイオマーカーが存在する可能性がある。腫瘍のmutation burdenや腫瘍浸潤リンパ球の高い症例などで効果が得られることがわかっているが,近年,腸内細菌叢についてもその関連性が期待されるようになった。まだ日本での報告はみられないものの,海外からは悪性黒色腫を発症させたマウスに免疫チェックポイント阻害薬を投与した時には,ある種の菌の存在下でその効果が得られやすくなることが報告されている。また,実際に免疫チェックポイント阻害薬を投与した症例でも,特定の菌種の存在下で免疫チェックポイント阻害薬の効果が得られやすく,CD8 陽性T細胞の数も増加していた。一方,抗生剤併用下では抗PD-1 抗体の効果が減弱するものの,マウスではある菌種を一緒に投与することで効果が得られており,腸内細菌叢の操作が効果を促す可能性も示唆されてきている。自験例では現在までnivolumabを投与した進行再発非小細胞肺癌12 例について解析している。それぞれの症例について,投与前と投与開始後で大きな変化はなかった。投与前の状態に関してクラスター解析を行ったが,口腔内細菌叢について有意な傾向は得られなかった。腸内細菌叢については現在解析中である。腸内細菌叢と免疫チェックポイント阻害薬に関する報告はまだ非常に少ないが,効果が得られやすい腸内環境が解明されつつある。免疫チェックポイント阻害薬の効果が得られるような腸内環境の調整を最終目標として,今後さらなる検討を続けていきたい。 -
Immuno-Oncologyにおけるトランスレーショナルリサーチ―大腸癌手術検体の網羅的解析による各種免疫細胞の形質・機能の解析―
45巻9号(2018);View Description Hide Description大腸癌は患者数の増加している癌種の一つであり,新規治療法の開発が不可欠である。近年,免疫チェックポイント阻害薬は様々な癌種において優れた臨床効果を示しているが,大腸癌ではその臨床効果が限られている。この大腸癌での低い治療効果は,患者の体内で様々な免疫抑制機構が存在するためと考えられる。すなわち免疫チェックポイント以外の免疫抑制機構が大腸癌の進行に関与することが予想される。ゆえに,生体内での免疫環境を網羅的に把握することは,癌患者において非常に重要と考えられる。われわれは,初発大腸癌患者の腫瘍組織や所属リンパ節を含む様々な組織から分離した免疫細胞の表現型および機能を総合的に評価する研究を開始している。これまでのフローサイトメトリー分析法を用いた予備解析から,特に局所リンパ節における免疫抑制が大腸癌の進行と関連している可能性が示唆されている。今後の研究により,免疫抑制機構をより詳細に解明することで大腸癌における新規の免疫療法の開発が期待される。
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Current Organ Topics:Upper G. I. Cancer 食道・胃癌
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特別寄稿
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アジアにおけるがん医療のUniversal Health Coverage(UHC)実現に向けた産官民の取り組みの在り方に関する議論―アジア健康構想へのアプローチ―
45巻9号(2018);View Description Hide DescriptionUICC-Asia Regional Office(UICC-ARO)は,東京,青山の国連大学にて,議員,WHOの代表者,日本政府機関,NGOs,関連企業の代表者,日本のがん関連研究者からなる意見交換会を主催した。この会議にて,アジアにおけるがん医療の推進とUniversal Health Coverage(UHC)の達成に,各セクターが,どのように貢献できるのかが議論された。司会進行はUICC-AROの赤座英之とJPMAの平手晴彦が務めた。はじめに,がんという疾患が国際保健の重要な課題であることが共有され,WHACancer Resolutionに対応し,がんの予防と治療における共同体制を構築することの重要さが確認された。今回の議論は,そのための調査研究や研究体制構築に向けた第一歩であり,今後の行動に繋がるものとなった。 -
癌関連線維芽細胞が及ぼす腫瘍免疫逃避の解明
45巻9号(2018);View Description Hide Description近年,免疫チェックポイント阻害薬をはじめがん免疫療法の発展により,飛躍的に予後の改善を認める癌腫が散見される。しかしながら,致命的な有害事象の発生や効果の得られる症例が限定的であることなど,克服すべき問題点も指摘されている。免疫チェックポイント阻害薬の治療効果予測因子として腫瘍浸潤リンパ球が注目されており,特に細胞傷害性T細胞の腫瘍内浸潤の程度が抗腫瘍効果に影響を与えていると報告されている。リンパ球の腫瘍浸潤においては,癌とがん微小環境の相互作用によって制御している可能性が指摘されている。そのなかで中心的な役割を担っている癌関連線維芽細胞(cancer-associated fibroblasts: CAFs)が注目されている。以前よりわれわれは,がん微小環境の強い関与を推測し,特にCAFsの作用に注目して癌の増殖・浸潤・血管新生・治療抵抗性について報告してきた。この度CAFsと腫瘍免疫に着目し,CAFsが寄与する腫瘍免疫抑制について検討している。今後,検討結果を随時報告する予定である。
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原著
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80歳超および70歳台乳癌切除例の術後予後の後ろ向き比較解析による高齢者乳癌の手術と補助療法の適応に関する検討
45巻9号(2018);View Description Hide Description80 歳超乳癌(O-80BC)手術症例の治療と予後を70 歳台乳癌(70sBC)と後ろ向きに比較検討した。対象は,1996〜2015 年のO-80BC切除54 例と70sBC切除157例で,両群のStage,subtypeに差はなかった。温存手術(BCS)率に差はなく,腋窩郭清省略は70sBCで12.1%に対し,O-80BC では約半数(48.1%)であった。術後無治療は70sBCで3.2%に対しO-80BC では18.5%であった。内分泌療法は両群ともER(+)例では大半が投与され,静注化学療法(化療)は両群とも投与頻度が低く,経口化療は70sBCで80.3%に対し,O-80BCで64.8%であった。術後放射線療法(RT)は70sBCが75.2%に対し,O-80BCは11.1%と少なかった。無再発生存率,全生存率とも両群に差がなかったが,死因は70sBCではBC 関連死が最も多く(57.1%),O-80BCは老衰死が最も多かった(57.1%)。多変量解析は70sBCではBCS,静注化療が有意予後不良変数で術後RT が有意予後改善変数であった。O-80BCではBCS が有意予後改善変数であった。以上,O-80BCの治療では手術療法はBCS が基本,腋窩郭清やRT は省略可能,術後の内分泌療法は問題なく投与できるが,術後化療は省略可能で,進行例でも経口化療の投与で十分と思われた。 -
前治療Conventional Transcatheter Arterial Chemoembolization (C-TACE)に反応しない肝細胞癌症例に対してBalloon-Occluded Transcatheter Arterial Chemoembolization(B-TACE)は有効か?
45巻9号(2018);View Description Hide Descriptionわれわれはballoon-occluded transcatheter arterial chemoembolization(B-TACE)のほうが,conventional transcatheterarterial chemoembolization(C-TACE)と比較して標的結節の抗腫瘍効果は良好であることを報告してきた。しかし前治療のC-TACE で反応しない症例に対して,同じ薬剤を使用してB-TACE を行った症例の治療効果は検討されていない。2011年1 月〜2015年8 月までに,当科で前治療C-TACEで反応しない症例に対するB-TACEを行ったのは14 例であった。なお,「前治療C-TACE に反応しない」の定義は,C-TACE を1 回実施後の1〜3 か月後の画像評価で標的結節の壊死率≦50%,または肝内に新規病変の出現とした。年齢中央値は76(70〜79)歳で,男性は9 例(64.3%)であった。肝機能は,Child-Pugh分類A/B がそれぞれ9 例(64.3%)/5 例(35.7%)であった。最大腫瘍径の中央値は30(四分位18〜40)mmで,治療前の腫瘍個数は,1 個が4 例(28.6%),2 個が3 例(21.4%),3 個が0 例(0.0%),4 個以上が7 例(50.0%)であった。抗腫瘍効果は,complete response(CR)が6 例(42.9%),partial response(PR)が1 例(7.1%),stable disease(SD)が3 例(21.4%),progressive disease(PD)が4 例(28.6%)で,奏効率は50.0%,病勢コントロール率が71.4%であった。C-TACE で反応しない肝細胞癌(HCC)患者に対するB-TACEは有効である可能性が示唆された。 -
進行再発大腸癌治療における新規経口抗がん薬Regorafenib,Trifluridine and Tipiracil Hydrochlorideは長期生存に寄与し得る
45巻9号(2018);View Description Hide Description進行再発大腸癌において,近年三次治療以降で使用される薬剤regorafenib,trifluridine and tipiracil hydrochloride(TFTD)が発売となり,さらなる生存期間延長が期待されている。両薬剤の臨床試験における無増悪生存期間(progressionfree survival: PFS)は2 か月弱とされているが,実臨床での使用経験や両薬剤ともに使用した場合の全生存期間(overallsurvival: OS)の報告は少ない。当院の使用成績では臨床試験結果以上の延命効果が得られており,進行再発大腸癌診断後からの生存期間中央値(median survival time: MST)はいずれか単剤投与群で37 か月,逐次投与群では45 か月であった。また,単剤のみで最長3年6 か月病勢コントロールされている症例を経験した。regorafenib,TFTD それぞれの有害事象を理解しつつ適切な時期に使用することで,予想以上の生存期間延長に寄与する薬剤になり得ると考える。 -
進行・術後再発非小細胞肺癌に対するCarboplatin/Nanoparticle Albumin-Bound Paclitaxel併用療法の有効性・安全性の検討
45巻9号(2018);View Description Hide Description目的: 非小細胞肺癌に対するcarboplatin(CBDCA)/nanoparticle albumin-bound paclitaxel(nab-PTX)併用療法の有効性・安全性を年齢,治療次数,組織や基礎疾患で分け,後方視的に評価を行った。対象: 2013 年3 月〜2015年12 月の間に,CBDCA/nab-PTX併用療法を一次治療または二次治療で施行した進行・術後再発の非小細胞肺癌患者27 例。結果:全症例の全奏効率は37.0%で,無増悪生存期間中央値5.5 か月,全生存期間中央値は11.4 か月であった。末梢神経障害を3.7%,間質性肺障害を14.8%に認めたが,治療関連死は認めなかった。年齢,治療次数,組織や基礎疾患で治療効果に差はみられなかった。結論: CBDCA/nab-PTX併用療法は高齢者に対しても比較的安全に施行可能であった。また,間質性肺疾患を基礎疾患にもつ症例においても有害事象は忍容し得ると考えられたが,化学療法中は間質性肺障害の発症に注意が必要である。
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医事
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熊本地震におけるがん診療連携拠点病院のがん相談支援センターの状況と課題
45巻9号(2018);View Description Hide Descriptionがん対策推進基本計画の下にがん相談支援センターが整備されるなか,2016 年4 月に熊本地震が発生した。熊本市のがん拠点病院の代表者と県でチームを組織し,医療機関の実態,患者の動向,医療連携の状況などに関して聞き取り調査を行った。がん相談支援体制に関して多くの問題点が明らかになった。大規模災害において,がん相談支援センターの役目は大きく,地域に適合した情報連携・相談支援の体制整備が重要である。 -
熊本地震におけるがん診療連携拠点病院のがん治療の状況と課題
45巻9号(2018);View Description Hide Description2016年4 月に起こった熊本地震は,がん対策推進基本計画の下に整備されてきたがん診療連携体制のなかで経験する災害となった。熊本市のがん拠点病院の代表者と県でチームを組織し,がん拠点病院やその他医療機関の医療従事者に対して聞き取り調査を行った。災害時の情報共有の重要性,医療側および患者側の弱点が明らかになった。災害に強いしっかりとした医療連携と情報共有がとても重要である。大規模災害に対して,地域のニーズに適合した情報共有システムを準備する必要がある。
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薬事
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日本,米国,カナダ,オーストラリアにおける抗がん薬の規格と安定性に関する比較調査
45巻9号(2018);View Description Hide Description最近,分子標的薬をはじめとする高価な抗がん薬が廃棄により浪費されているとの報道があり,drug vial optimization(DVO)について提案がなされている。われわれは,2016 年にInternational Society of Oncology Parmacy Practitionsにて,抗がん薬の規格と安定性に関する国際比較調査を基に本邦とDVO を実践している他国の抗がん薬の規格と安定性について比較した。対象は薬価が高く,使用頻度が高いanticancer monoclonal antibodies(MABs)14 種類およびcytotoxicagents(cytotoxics)26 種類とした。MABsにおいて日本で販売されている抗がん薬の規格について,本邦と比べ他国にて存在する抗がん薬の規格のほうが大きい割合は29%(4/14)であり,cytotoxicsにおいて54%(14/26)であった。一次溶解後の安定性について,本邦と比べ他国が長時間の安定性データを有している割合はMABsにおいて67%(2/3),cytotoxicsにおいて38%(8/21)であった。最終希釈後の安定性について,本邦と比べ他国が長時間の安定性データを有している割合はMABsにおいて29%(4/14)であり,cytotoxicsにおいて50%(13/26)であった。DVOを実践している3か国と比較して,本邦における抗がん薬の規格と安定性データにおいて相違が確認された。
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症例
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人工呼吸管理下の化学療法が奏効し抜管に至った縦隔型小細胞肺癌の1 例
45巻9号(2018);View Description Hide Description背景: 人工呼吸管理などの集中治療が必要な肺癌患者に対する化学療法の有効性や安全性は確立していない。症例: 59歳,女性。呼吸困難を主訴に近医を受診し,急激に呼吸状態が悪化したために挿管され,当院に搬送となった。造影CT で縦隔に巨大な腫瘤を認め,気管は高度に圧排されていた。頸部リンパ節生検により縦隔型小細胞肺癌と診断し,挿管人工呼吸管理下にcarboplatinとetoposideによる化学療法を行った。化学療法は奏効し,人工呼吸器離脱に至った。その後,全身状態は徐々に改善したため外来で化学療法を継続することとし,独歩で退院となった。ただし,その後の化学療法は奏効せず,診断から約7 か月後に死亡した。結論:肺癌の進行による呼吸不全で挿管人工呼吸管理を要しても,化学療法の奏効により人工呼吸器を離脱できる症例がある。 -
肝動注化学療法が奏効した下大静脈浸潤および肝外転移を伴うChild-Pugh分類B,肝細胞癌の1 例
45巻9号(2018);View Description Hide Description症例は65 歳,女性。C 型肝硬変にて近医に通院中であったが,肝静脈浸潤,門脈腫瘍浸潤,多発肺転移を伴う肝細胞癌と診断された。下大静脈浸潤が予後に影響すると考え肝動注化学療法を行ったところ,脈管浸潤や肝内病変のみならず,肺転移も含めて著明な縮小を認めた。科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン上は,Child-Pugh 分類B の肝硬変症患者における脈管侵襲を伴う肝細胞癌に対する推奨治療は確立されていないが,下大静脈症候群を来した脈管浸潤症例に対して治療選択の一つになり得ると考え報告する。 -
S-1が有効であったトリプルネガティブ乳癌の1 例
45巻9号(2018);View Description Hide Description患者は73 歳,女性。1 年ほど前より右乳房腫瘤を自覚し,径10 cm ほどに増大したため当院を受診した。局所進行トリプルネガティブ乳癌(TNBC)の診断となった。潰瘍部位が広範であることや患者の社会的背景から,手術不能乳癌としてS-1単剤による外来化学療法を導入した。100 mg/bodyで 4 コース施行後,CTで著明な腫瘍縮小を認めた。投与期間中,爪の変色や倦怠感を認めたが減量なしに継続可能であった。手術可能と判断し,右乳房切除術を施行した。術後は補助療法としてUFTの内服を継続し,術後18 か月,再発なく経過観察中である。TNBC に対するS-1 治療の報告は少ないが,症例によっては術前化学療法として有用である可能性が示唆された。貴重な1 例を経験したため報告する。 -
悪性リンパ腫と乳癌の重複癌に対する治療戦略
45巻9号(2018);View Description Hide Description症例1: 75 歳,女性。右乳癌cT2N0M0 StageⅡA,diffuse large B-cell lymphoma(DLBCL)Stage ⅢA。R-CHOP療法を先行するも,乳癌の増大があり手術を施行した。術後R-CHOP療法を再開し,DLBCL はCR。術後2 年経過し,再発所見なし。症例2: 74 歳,女性。左乳癌cT0N2M0 Stage ⅢA,胃MALTリンパ腫StageⅠ。H. pylori除菌とrituximab投与にて胃MALTリンパ腫は縮小した。docetaxelとFEC 療法後,手術を施行した。術後2 年経過し,再発所見なし。症例3: 62歳,女性。DLBCL 治療歴あり。右乳癌cT1cN0M0 StageⅠ,濾胞性リンパ腫Stage ⅢA。手術を先行し,センチネルリンパ節に乳癌の転移があり,腋窩郭清術を追加した。右乳癌pT3N2M0 Stage ⅢAと診断し,術後TCH 療法を選択した。結論:悪性リンパ腫と乳癌の合併例では血液内科と連携し,症例に応じた治療の組み立てを行うことが重要である。 -
G-CSF 産生下部食道癌の1 例
45巻9号(2018);View Description Hide Description症例は42 歳,男性。嚥下時のつかえ感を主訴に近医を受診した。上部消化管内視鏡検査で下部食道に1 型進行癌を認め,精査加療目的に当院を受診した。血液検査にて,白血球数21,200/mL,好中球数87%,CRP 値 4.2 mg/dLと炎症反応は高値を示した。血中G-CSF 値も283 pg/mLと高値であった。cT4N4M0,cStageⅣa の診断で,術前化学療法としてDCS療法を施行した。2 コース行った後に胸腔鏡補助下食道亜全摘・2 領域郭清・胃管再建術を行った。病理診断はpType 2,T2,N4,M0,pStage Ⅳaであった。腫瘍の免疫染色で抗G-CSF 抗体が陽性になった。術後経過は良好で,白血球数,G-CSF 値も正常化した。術後補助化学療法を継続中である。 -
全身照射を用いた同種造血幹細胞移植後に発症した食道癌に対して根治的放射線治療を施行した1 例
45巻9号(2018);View Description Hide Description症例は24 歳,男性。18 歳時に急性リンパ性白血病に対し同種末梢血幹細胞移植を行い,移植4 か月後から慢性移植片対宿主病に対して免疫抑制剤を継続内服中であった。移植6 年後に嚥下時痛の増悪を契機に頸部食道癌(cT1bN1M0,cStage ⅡB)と診断された。免疫抑制剤の長期内服から手術による縫合不全や感染症のリスクが高いことと,喉頭温存の面から化学放射線療法の方針となった。全身照射(12 Gy/6 回)の既往があることから照射野と照射線量を考慮し,予防照射を省略した5-fluorouracil/cisplatin併用の照射(50.4 Gy/28 回)を行った。原発巣,リンパ節転移は消失し,治療 3 年後も有害事象なく無再発生存中である。 -
テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム,シスプラチン,トラスツズマブ併用化学療法で縮小効果が得られている胃印環細胞癌膀胱転移の1 例
45巻9号(2018);View Description Hide Description症例は61 歳,男性。血尿,水腎症にて当院泌尿器科へ紹介となった。膀胱鏡を施行し,膀胱粘膜に平滑な腫瘤を認めた。生検病理にて,粘膜下層に印環細胞癌が検出された。上部消化管内視鏡検査で胃体部に潰瘍性病変を認め,生検病理で印環細胞癌が検出された。他臓器に原発巣を認めず,最終的に胃印環細胞癌の膀胱転移と診断した。テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム,シスプラチン,トラスツズマブ併用化学療法を2 コース施行後,胃,膀胱病変は縮小した。7 コースが終了した現在,生存が得られている。 -
TAS-102投与中に薬剤性間質性肺炎を発症した大腸癌の肝・肺転移の1 例
45巻9号(2018);View Description Hide Description症例は78 歳,男性。下部直腸癌・S 状結腸癌術後の肝・肺転移に対し化学療法を継続しており,四次治療としてTAS-102 を導入した。1コースday 16 に39℃の発熱と呼吸困難を主訴に救急搬送され,胸部X線とCT検査で肺炎と診断した。tazobactam/piperacillin の投与を開始したが,day 20 に急激な呼吸状態の悪化を来した。再度臨床経過と胸部 CT所 見を検討し,間質性肺炎と診断した。methylprednisolone 1,000 mg/day のステロイドパルス療法とBiPAPによる呼吸補助療法を行ったところ,症状・胸部X 線所見ともに改善した。国内臨床試験(TAS102-J003 試験)での間質性肺炎の頻度は0.9%と低いが,本症例のように急激な経過をたどることもあり,注意が必要な有害事象である。発熱・呼吸困難から間質性肺炎を疑うことが重要で,TAS-102使用時には常に念頭に置く必要がある。 -
小細胞肺癌に対するアムルビシン投与により低リン血症を来した1 例
45巻9号(2018);View Description Hide Description症例は50 歳台,男性。小細胞肺癌に対するfourth-lineの治療として201X−1 年8 月よりアムルビシンを実施した。治療前の血清リン値は 2.9 mg/dL と正常であったが,2 コース目開始時に 2.1 mg/dL と grade 2 の低リン血症を認めた。4コース実施後に喉頭形成術を実施した。その後,疾患の進行により201X年6 月に治療を再開した。治療再開後はgrade 3 の低リン血症を来すようになり,10 コース目開始時に 1.1 mg/dL と低値を認めたため,薬剤師より医師にリン酸塩の内服治療を提案し実施したところ2.2 mg/dL へ改善した。リン酸塩を中止したが,血清リン値の再低下(grade 3)のため同薬を再開し改善した。本症例での低リン血症について臨床での一般的な原因は当てはまらず,アムルビシンによると考えられた。 -
腸重積で発症した原発性小腸癌の1 例
45巻9号(2018);View Description Hide Description症例は60 歳台,女性。約11 か月前から慢性的な心窩部痛,腹部膨満を認め,時々近医を受診し上部消化管内視鏡検査,腹部CT 検査,腹部超音波検査など施行されたが明らかな原因は特定されなかった。その後も症状が継続し,嘔吐が頻回となり当院受診となった。腹部造影CT 検査で小腸腫瘍による腸重積の所見を認めた。診断と治療目的で審査腹腔鏡,小腸部分切除術を施行した。病理組織学的診断の結果は,小腸癌tub1>tub2>pap,pT4(SE),pN1,pPM0,pDM0,pStageⅢAであった。術後補助化学療法として1年間のS-1 内服を施行しており術後7か月現在,再発を認めていない。腸重積を呈した小腸癌に対して審査腹腔鏡は有用であった。 -
直腸癌術後に肺転移と同時発症した原発性小腸癌の1 例
45巻9号(2018);View Description Hide Description症例は56 歳,女性。直腸癌,同時性肝転移に対して低位前方切除術,二期的腹腔鏡下肝部分切除術を施行した。術後補助化学療法としてmFOLFOX6を24 週で完遂した。術後11 か月に両側肺転移が出現し切除予定であったが,腸閉塞にて入院した。腹部CT 検査で腫瘍による小腸狭窄を認め,腹膜播種を疑った。開腹手術を施行し,腹膜播種は認めず閉塞起点の小腸腫瘍を切除した。病理は原発性小腸癌の診断であった。術後経過は良好で,両側肺転移に対し肺部分切除術を施行した。Stage Ⅳ大腸癌の術後小腸狭窄では通常は腹膜播種を疑うが,単発の場合は小腸癌の重複もまれではあるが存在する。mFOLFOX6 治療後に両側肺転移と同時に原発性小腸癌を認めたまれな症例を経験した。 -
原発不明乳癌による骨髄癌腫症に対しFulvestrantが著効した1 例
45巻9号(2018);View Description Hide Description症例は63 歳,女性。左頸部リンパ節腫大を認め,PET-CTで腋窩や左頸部のリンパ節などに集積を認めた。左頸部リンパ節生検はmetastatic carcinomaであったが,臓器に腫瘍性病変を認めず原発不明癌と診断した。本人の希望で約1 年間無治療であったが,感染症と貧血で入院した際の骨髄生検で骨髄癌腫症と診断した。estrogen receptor(ER)・progesteronereceptor(PgR)陽性,CA15-3高値,腋窩リンパ節腫大から転移乳癌と考えfulvestrant(FUL)とzoledronic acid(ZOL)を開始した。以降CA15-3は低下,画像上もpartial response(PR)を維持し,約20 か月間FULを継続することができた。
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薬事レポート
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地域一般病院の外来化学療法におけるレジメン管理と治療手順
45巻9号(2018);View Description Hide Description外来化学療法の運用においてレジメン管理と治療手順の遵守は,エビデンスに基づいた治療の実践と医療安全の観点から重要である。地域一般病院の当院で実施している化学療法のレジメン管理と外来化学療法の運用手順について報告する。外来化学療法開始に際し,化学療法レジメン,副作用対策,外来化学療法手順,看護,薬剤調整を記載した化学療法マニュアルを作成し,電子カルテで閲覧可能とした。化学療法レジメンは登録制とし,レジメン審査は月1 回開催される化学療法委員会で行っている。運用には,薬剤投与量の計算,投与日が自動入力されるレジメン登録票シートを作成し電子カルテ上で操作可能とした。レジメン登録票は外来化学療法室で看護師が一元管理している。2017 年10 月現在のレジメン管理総数は122 であった。外来化学療法は2006 年12 月〜2017 年10 月までに延べ5,835 人に施行された。使用可能な化学療法レジメンを登録制とし,化学療法マニュアルを作成することで安全な外来化学療法が実施できた。地域一般病院において標準的な化学療法を安全に施行するためには,施設の状況に合ったレジメン管理と外来化学療法の運用を工夫する必要がある。
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