Volume 46,
Issue 10,
2019
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「癌と化学療法」投稿ならびに執筆規定
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癌と化学療法 46巻10号, 0-0 (2019);
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総説
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癌と化学療法 46巻10号, 1467-1472 (2019);
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がん抗原は,その発現パターンもしくは免疫原性から共通抗原とがん特異抗原に分別される。ネオ抗原は様々な遺伝子異常に基づくがん特異的な抗原であり,免疫原性は非常に高く,その発現パターンから胸腺における免疫寛容を免れており,抗腫瘍活性を有するCD8+ T 細胞が誘導できる。そのため,ネオ抗原は宿主の免疫応答を惹起できるがん抗原であると同時に,それらの発現を解析することでがんに対する免疫応答を推測できる可能性がある。がんの遺伝子異常のタイプには一塩基置換を伴う遺伝子変異や欠失挿入変異,融合変異などがあり,それらの遺伝子異常を基にしたネオ抗原の免疫原性が現在解析されている。上記のネオ抗原を用いたがん治療は,ネオ抗原ワクチンをはじめTCR-T 細胞療法などに応用されようとしている。また,ネオ抗原の質と量は免疫チェックポイント阻害剤の奏効バイオマーカーとして注目を浴びている。
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特集
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がん患者の就労問題−今までの成果と今後の展望−
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癌と化学療法 46巻10号, 1473-1477 (2019);
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がん治療の進歩により日本におけるがん患者の5 年相対生存率は62.1%に達している。生涯で1/2 の人はがんに罹患し,がん患者の1/3 が 20〜65歳までの就労世代に属する。がん治療と就労の両立に向けて,わが国では短期間に様々な政策が展開されている。2017年に制定された第3 期がん対策推進基本計画では,がん患者の離職防止や再就職支援の必要性,医療機関,職場,地域におけるさらなる連携の必要性が明記されている。しかし国民ががん患者の就労に対して抱くイメージは依然厳しい。がん患者の就労支援はがんサバイバーシップのなかでも重要トピックとされており,国内外で様々な知見が蓄積されている。がん発病が患者の就労に及ぼす影響は医学的要因に加えて,個人要因,健康状態,心理社会的要因,就労意欲,職場関連要因などの多要因に影響され,状況は個別性が極めて高い。これらの要因を踏まえた上で研究と支援のあり方を検討することが必要である。がんと就労の両立支援における留意点として,第一に働くがん患者本人に関係する登場人物が多いこと,第二に医師は労働契約を踏まえた患者の就労の全体像を把握しにくい点がある。医療機関・職場・地域のそれぞれにおける適切な情報共有,環境整備,相互連携は不可欠である。
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癌と化学療法 46巻10号, 1478-1481 (2019);
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がんは,1981年からわが国における死因の第1 位であり,「がん=死」を連想させる病気のイメージは根強い。がん治療を受けながら働く人々は病気や治療の困難感を自己受容するとともに,自分自身の置かれているコミュニティーのなかで病気に対する正しい理解を発信していくことが求められているといえる。わが国では,2012 年に施行された第2 期がん対策推進基本計画を契機に人的支援を中心に体制が整い,実際に就労支援が行われるようになってきた。しかし明らかな離職予防効果が検証された支援方法は少なく,今後の検討課題である。なお,がん治療を実施する立場である医療機関に求められる支援としては,個々の患者がそれぞれの時期に必要とするものに応じたきめ細かい支援であり,多職種・多組織間の連携で支援の輪をつなぎ,事業所とも情報共有して離職予防を目標とすることが求められている。これらの就労支援は,最終的には患者の治療に対するアドヒアランスを上げ,精神的苦痛を取り除き,quality of life(QOL)や予後の改善にもつながる可能性があることを忘れてはならない。
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癌と化学療法 46巻10号, 1482-1485 (2019);
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がん患者の仕事と治療の両立支援には,「職業人生の再構築」という視点が欠かせない。治療によって心身の変化を抱えた患者が,自己受容,自己理解,情報の整理を踏まえ,どのように働き,職場環境と折り合うかというプロセスを丁寧に紡ぐことで復職後の関係性の悪化を防ぎ,ひいては離職を食い止めることができるのである。復職を目的とするだけでは真の意味での両立支援にはならない。国家資格キャリアコンサルタントは労働者が様々な転機でキャリアを選択し,自力で課題を乗り越え,環境と協調して機能するようにカウンセリングにより側面支援をする専門家である。現在,医療機関と連携して行っている企業への復職に至るまでの一連の調整支援を紹介する。
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癌と化学療法 46巻10号, 1486-1490 (2019);
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医療現場における積極的ながん患者への就労支援活動としてがん告知時に「仕事を早まって辞めないように」と告げ,がん相談支援センターを案内した。さらに時間軸を重視した治療計画書を提示し,患者自身が職場へ就業上の配慮を求める際の一助とした。これらの取り組みで早期離職者は減少傾向を示したが,離職者の大幅な低下には至らず医療現場だけでの支援には限界があった。がん患者の仕事と治療の両立支援では,臨床・産業保健・就労支援専門職ならびに企業関係者など多業種での連携が不可欠である。東海地区では2015 年に「がん就労を考える会」を設立し,地域のがん就労支援ネットワークの構築に努めている。
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癌と化学療法 46巻10号, 1491-1496 (2019);
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労働者ががんに罹患する事例は今後ますます増えていくことが予想され,がん治療と就労の両立支援は産業保健の重要課題の一つである。本稿は,日本で初めてのがん患者の就労に関する大規模コホート研究などの結果に基づいて,日本のがん患者の就労支援について報告することを目的とする。がん罹患社員が病休となった場合,フルタイムで復職するまでに要する療養日数はがん全体で201日(約6 か月半)であり,病休日数はがん種別で大きな差異を認めた。病休開始日から6 か月,12 か月までのフルタイム勤務での復職率はそれぞれ47.1%,62.3%であった。復職後の5 年勤務継続率は51.1%であり,復職後の再病休が復職日から2 年間に集中していたことから,復職後2 年間ががん治療と就労の両立上,最も重要な時期であることが示唆された。海外のがんサバイバーシップ研究では,がん治療などによる体力低下(がん関連疲労: cancerrelatedfatigue)が最大の就労阻害因子であることが指摘されており,今後この体力低下を考慮した制度設計が必要である。がん治療と就労の両立支援のキーワードは,「疾病性/事例性に分けた実務対応」,「利害関係の調整」であり,現在,筆者が代表の厚生労働科学研究費遠藤班「がん患者の就労継続及び職場復帰に資する研究」などで実施してきた研究成果・就労支援ツールが公表されつつある。また,企業の病休・復職制度実態調査と国際共同がんサバイバーシップ研究も行っており,今後の展開が期待される。
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特別寄稿
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癌と化学療法 46巻10号, 1513-1523 (2019);
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抗PD-1 モノクローナル抗体であるニボルマブは,これまでの胃癌患者の治療に新たな局面をもたらした。ニボルマブは2017 年9 月に胃癌患者の三次治療およびそれ以降の治療薬として承認され,実臨床の場で1 年以上にわたり広く用いられるようになった。しかしながら,胃癌患者におけるニボルマブ療法については未だに多くのclinical question が存在している現状にある。これらの疑問点を一つずつ解決していくためには,すでにより多くのニボルマブ使用経験がある他癌種から得られたエビデンスの活用が重要であるが,他癌種とは異なる胃癌特有の病態の複雑性が存在するため,疑問点が十分に解消されるまでには至っていない。ニボルマブ単独療法は一部の患者には長期生存をもたらした一方で,半数以上の患者においてニボルマブ治療開始直後に病勢進行を認めることがある。このような患者に対しては,他の治療選択肢を適用する必要があり,個々の患者に対するニボルマブの有効性を予測するバイオマーカーの同定は必須であり,かつ急務であるといえる。現在,各治療段階における免疫チェックポイント阻害薬の様々な臨床試験が,バイオマーカー分析を組み込まれたトランスレーショナル・リサーチとともに試験進行中であり,これらの試験から得られる新たな知見に大きな期待が寄せられている。
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原著
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癌と化学療法 46巻10号, 1525-1529 (2019);
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目的: 転移再発により全身化学療法が必要となった子宮癌肉腫におけるイホスファミド・パクリタキセル併用療法(IT療法)の有効性と安全性を検討する。方法:対象は転移再発子宮癌肉腫でIT 療法を施行した15 例とし,その有効性と安全性について後方視的に検討した。結果:全奏効率38.4%,病勢コントロール率92.3%であった。無増悪生存期間の中央値7.0か月,IT 療法開始後の全生存期間の中央値は9.0か月であった。有害事象はGrade 3 のALT上昇1 例,Grade 1〜2 の白血球減少や好中球減少5 例,Grade 1〜2 の抹消神経障害を5例で認めた。結論: IT 療法は転移再発子宮癌肉腫に一定の効果がみられ,また有害事象も忍容可能なものであり,全身化学療法の選択肢の一つとなり得ることが示唆された。
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癌と化学療法 46巻10号, 1531-1535 (2019);
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大腸がんに対するベバシズマブ(BV)併用化学療法における血栓塞栓症発症の実態を調査し,発症のリスクを高める要因について検討した。2007年7 月〜2014 年4 月にBV併用化学療法の適応となった大腸がん患者250 症例を対象とし,診療録を後方視的に調査した。血栓塞栓症を発症した症例は24 例(9.6%)であった。「血小板数≧350,000個/μL」,「血色素<10 g/dL」,「白血球数>11,000個/μL」,「BMI≧25.3 kg/m2」,「D-dimer≧1.44 μg/mL」の5 項目を血栓塞栓症リスク因子と定めて検討した結果,該当項目数が3 項目以上を満たす症例群において発症率が高まる傾向が示された。多変量解析の結果,「血栓塞栓症リスク因子3 項目以上該当」が有意な危険因子として抽出され,治療管理において特に注意が必要である。
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癌と化学療法 46巻10号, 1537-1541 (2019);
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直腸癌に対する適切なリンパ節郭清については,日本国内においても明確なコンセンサスが得られていない。当科において側方リンパ節転移の頻度やその治療成績を検討し,側方郭清を真に要する症例の絞り込みが可能か否かについて考察した。2003〜2013年までの10 年間に当科で外科的治療を施行した下部直腸癌(RaRbならびにRb 症例)98例で検討した。これら症例の術前診断,術中・術後の臨床病理学的因子について検討し,側方リンパ節転移の有無との相関から危険因子について検討した。術後の予後解析から郭清効果指数(転移陽性率×転移陽性例における5 年生存率)についても検討した。43 例に側方郭清が行われた。外科的剥離面断端(CRM)が1 mm以下の症例は有意に側方リンパ節転移を多く認めた。予後解析では側方リンパ節転移陽性例の5 年生存率は19%で,郭清効果指数は3.5 であった。術前にCRM陽性の患者は側方リンパ節転移のリスクが高いことが示唆された。しかし,今回の検討とJCOG0212試験の結果を合わせて考えると側方リンパ節転移の有無が予後予測因子になる可能性はあるが,側方郭清による予後改善効果は限定的と考えられる。
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癌と化学療法 46巻10号, 1543-1546 (2019);
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白金錯体系抗悪性腫瘍薬のオキサリプラチン(l-OHP)は,結腸・直腸癌,胃癌の治療におけるキードラッグである。しかしアレルギー反応の発現により,治療の継続が困難になる症例を経験する。当院ではGrade 2 までの軽度のアレルギー発現例に対してアレルギー対策版レジメン(アレルギーレジメン)を登録し使用している。今回,当院アレルギーレジメンの有効性と安全性について後ろ向きに調査を行った。2017 年1〜12 月までにアレルギーレジメンの使用を開始した患者は22例であり,アレルギー発現までの投与回数中央値8 回,l-OHPの累積投与量中央値は700 mg/m2であった。アレルギーレジメン使用により22 例中18 例(82%)でl-OHP の投与継続が可能となった。アレルギーレジメン使用による有害事象は眠気のみであり,当院アレルギーレジメンの有用性が示唆された。
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薬事
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癌と化学療法 46巻10号, 1547-1551 (2019);
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岐阜市民病院薬剤部では電子カルテ変更に伴い,quality control 手法を活用して注射抗がん剤調製時の処方鑑査支援システムを構築した。その結果,(1),(2)の新システムを構築した。(1)注射抗がん剤投与前の患者のレジメン・臨床検査値を簡便にチェックできる「レジメン鑑査シート」,(2)注射抗がん剤投与決定時の直近の臨床検査値を簡便に確認できる「実施確認シート」。これにより,注射抗がん剤投与時の安全性の向上および業務効率化を示すことができた。
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癌と化学療法 46巻10号, 1553-1559 (2019);
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高度および中等度催吐性リスクの抗悪性腫瘍薬による悪心・嘔吐の予防に関しては多くの報告があるが,軽度催吐性リスクの抗悪性腫瘍薬に関する報告は少ない。そこで今回われわれは,多施設共同研究として2015 年9 月〜2017 年8 月までの2 年間において,軽度催吐性リスクの抗悪性腫瘍薬が投与された悪性腫瘍患者77 名を対象に制吐療法の種類とその効果について調査を行った。制吐薬の有効性は,軽度催吐性リスクの抗悪性腫瘍薬の投与開始から120 時間後まで24 時間単位で患者から情報を収集し,悪心・嘔吐の発現頻度ならびにレスキュー薬の投与状況について評価した。最も多く使用されていた制吐薬の組み合わせは,5-HT3受容体拮抗薬(グラニセトロン1 mgまたは3 mg,パロノセトロン0.75 mg)とデキサメタゾン6.6 mg の2 剤を併用した場合であった。5-HT3受容体拮抗薬ごとの有効性には,すべての項目において有意な差はなかった。一方,軽度催吐性リスクの抗悪性腫瘍薬として最も多く使用していたゲムシタビンとナブパクリタキセルを併用した64 名の患者について,悪心嘔吐総制御(totalcontrol:TC)を達成できた患者の要因を解析したところ,患者のperformancestatusが悪いほどTC が達成できず(p=0.0304),また飲酒習慣があると達成しやすい(p=0.0331)ことが示唆された。
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症例
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癌と化学療法 46巻10号, 1561-1563 (2019);
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症例は57 歳,女性。201X-3年に左乳癌と診断された。術前化学療法(FEC→docetaxel+trastuzumab)施行後,左乳房切除術+腋窩リンパ節郭清と術後放射線治療,trastuzumab投与を計1 年間施行した。201X年,右乳頭周囲に皮膚の肥厚が出現し,皮膚生検にてびまん性大細胞型B 細胞リンパ腫(DLBCL)と診断された。PET-CTにて右乳頭周囲,乳腺外側領域に中等度の集積を認め,針生検で皮膚同様のDLBCL と診断された。化学療法,放射線治療,髄注療法を行い,画像上CR を得られた。現在,乳癌・乳腺DLBCL とも無再発生存中である。
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癌と化学療法 46巻10号, 1565-1567 (2019);
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進行胃癌の治療成績向上を目的に術前補助化学療法(NAC)が施行されており,そのレジメンとしてS-1+cisplatin(SP)もしくはS-1+oxaliplatin(SOX)が現状で第一選択とされている。今回NAC としてSOX が無効で,ramucirumab(RAM)+paclitaxel(PTX)が奏効した局所進行胃癌を経験した。症例は68 歳,男性。局所進行胃癌の診断となりNACとしてSOX を開始したが,原発巣の増大を認めたため中止した。引き続きRAM+PTX を施行したところ奏効したため手術を施行,R0 切除が可能となった。血管新生阻害剤の投与は創傷治癒遅延の原因となり,縫合不全などの術後合併症のリスク増加が懸念されるが,本症例は術後合併症なく経過した。NACのレジメンとしてRAM+PTXが有力な候補となり得る。
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癌と化学療法 46巻10号, 1569-1572 (2019);
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進行再発胃癌に対するnanoparticle albumin-bound paclitaxel(nab-PTX)の3 週毎投与は二次治療以後に有用とされていたが,感覚性末s神経障害の有害事象のため,長期投与は困難である症例が多かった。今回われわれは,進行再発胃癌の二次治療としてnab-PTX を3 週毎で1 回投与を60%で減量投与したところ,長期にわたって病勢を制御しながら35cycles 以上施行し得た2 例を経験した。検索し得た限り,症例2 は本邦では最長の投与例と思われる。症例1: 70 歳台,男性。門脈腫瘍栓と遠隔リンパ節転移を伴う根治手術不能胃癌(組織生検,tub2)に対しS-1/CDDP 療法を6 cycles 施行した。奏効したが,食欲不振など有害事象で中止した。以後nab-PTX を上記の減量投与で施行した。36 cycles をGrade 2 の感覚性末s神経障害のみで施行し得た。その後胃の主病巣が進行して出血したため胃全摘を施行し,手術より2 年を経過している。症例 2: 70 歳台,男性。進行胃癌に対し胃全摘後,Virchow リンパ節と傍大動脈リンパ節再発を来した症例に対し,S-1/CDDP 療法を施行した。しかし1 cycle の途中で発熱性好中球減少を来し,以後症例1 と同様な方法でnab-PTX を投与した。41 cycles療法を施行し現在は化学療法を中断しているが,病勢は制御されている。有害事象はGrade 2 の感覚性末s神経障害であった。
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癌と化学療法 46巻10号, 1573-1575 (2019);
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症例は74 歳,女性。貧血精査目的の上部消化管内視鏡検査で胃癌と診断された。開腹手術を施行するも膵浸潤を認めたため,切除不能と判断し胃空腸吻合術のみ施行した。S-1(60 mg/day)を 2 週投与 1週休薬で開始した後,1 週投与 2 週休薬に変更して治療を継続した。投与開始64週後にcomplete response(CR)となり,それ以降は7 週間で14日分のS-1を60 mg/dayで体調に合わせて可能な時に内服しながら5 年以上CR を継続している。
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癌と化学療法 46巻10号, 1577-1580 (2019);
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症例は64 歳,男性。2009年6 月に上部消化管内視鏡検査にて進行胃癌と診断された。生検の組織学的検査では低分化型腺癌であった。CT では多発肝転移とLN#7 のbulky なリンパ節転移を認めた。肝転移巣は切除不能と判断したため,2009年7 月よりS-1/CDDP の投与を開始した。6 コース施行後,肝,リンパ節転移はPR であったが,主病巣はPD であった。2010年3 月から化学療法をbi-weekly CPT-11/CDDP に変更した。しかし主病巣はさらに増大し,出血を起こしてきたため幽門側胃切除術を行った。切除標本の組織学的検査は大細胞型内分泌細胞癌であった。術後 CPT-11/CDDP を再開したが,腎機能障害を認めたため2011年6 月からCPT-11単独投与に変更した。その後,肝S4-5の転移巣が増大してきたため同年11月よりweekly PTX に変更した。2コース施行したが,さらに増大を認めたため肝S4-5 部分切除術を施行した。術中検索ではその他の肝転移および再発は認めなかった。肝切除後は化学療法を行わずに経過観察を行っているが,現在も再発を認めていない。
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癌と化学療法 46巻10号, 1581-1585 (2019);
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症例は68 歳,男性。2011 年10 月に膵頭部癌に対して膵頭十二指腸切除を施行した(T3N1M0,Stage Ⅲ)。術後はgemcitabineとS-1による補助化学療法を6 か月間行い,S-1 の内服を1 年間行った。2016 年1 月,胸部CT検査にて右S7,S10の2 か所に腫瘍性病変を指摘され,胸腔鏡下肺部分切除を施行した。病理では両病変ともに管状腺癌で,4 年前に切除した膵癌組織と同一であり膵癌の転移と診断された。術後,S-1 の内服を再開するも癌性腹膜炎を発症し,2018 年6 月死亡した。膵頭十二指腸切除後,6 年8 か月,肺切除後2 年5 か月の経過であった。膵癌術後4 年目に肺転移を来し,切除にて生存期間の延長が得られた1 例を報告する。
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癌と化学療法 46巻10号, 1587-1590 (2019);
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症例は74 歳,男性。誤嚥性肺炎の診断で内科に入院となる。CT 検査などでRS〜Ra の進行癌が見つかり,肺炎軽快後に手術の方針となった。通常歩行が可能になり一時退院した。手術目的で再入院しリハビリテーションを開始した。当院では,癌患者の周術期に体圧分布データを取って離床方法の指導・環境設定に役立てている。体圧分布はリハビリテーションにおいて有用なツールである。肺炎で入院後に直腸癌が見つかり,興味深い経過を追ったケースを経験した。体圧分布は併存疾患により修飾される可能性があり,注意が必要である。
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癌と化学療法 46巻10号, 1591-1593 (2019);
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症例は82 歳,男性。高尿酸血症,脂質異常症などで近医に通院中,ルーチンで施行した腹部エコーで肝腫瘤を指摘され当院を紹介された。CT で肝外側区域に径3 cm 大の乏血性腫瘤を認め,肝内胆管癌と診断された。2012 年11 月に肝左葉切除術を施行した。術後フォローアップ中,2013 年8 月に施行したCT で膵上縁と胃大弯側リンパ節腫大を指摘された。EUS-FNA を行い,肝内胆管癌リンパ節転移と診断した。腎機能障害があるためGEM+CDDP ではなくS-1 を選択して投与を開始した。2014年7 月に施行したCT では縮小しており,その後もS-1 を継続していたが,2015 年1 月に本人の希望により投与を中止した。しかし中止後4 年を経過した現在も,CTで腫瘍を認識できずCR と判定している。
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癌と化学療法 46巻10号, 1595-1597 (2019);
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症例は8 歳,女児。6 歳時に右上腕に発生した軟部肉腫の腫瘍切除術が行われたが,16 か月後に局所再発を起こした。初発時の腫瘍検体を用いたRNA seqデータよりLMNA-NTRK1融合遺伝子が検出されていたことから,larotrectinibの治験への参加を検討した。しかし当時小児を対象とした国内での治験が行われておらず,院内倫理委員会での承認を経て,米国食品医薬品局(FDA)のSingle Patient Expanded Access制度に申請し,larotrectinibによる治療を開始した。投薬開始3か月後には画像上の完全寛解(complete remission: CR)が得られ,さらに6 か月治療を継続した後,試験切除を行い組織学的CR(pCR)を確認した。今回この症例の治療経過を報告するとともに,今後日本でも普及していくゲノム医療により同定されたまれなドライバー変異に対する治療法へのアクセス方法の課題について考察を加えて報告する。
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癌と化学療法 46巻10号, 1599-1601 (2019);
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症例は40歳台,男性。鼻閉感と発熱を主訴に受診した。鼻粘膜生検の結果,節外型NK-T細胞リンパ腫,両側鼻型と診断された。化学療法を目的に右前胸部にCV ポートを造設したが,4 か月後にポート造設部に発赤と腫脹が出現した。当初は感染を疑いポート抜去し創部処置をしたが,創治癒は遷延した。創部の生検によりNK-T細胞リンパ腫の皮膚浸潤と診断された。ポート造設部に皮膚のびらんや潰瘍が出現し,創治癒が遷延する場合は腫瘍再発の可能性も念頭に入れて治療に当たる必要があると考えられた。
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特別寄稿
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第40回癌免疫外科研究会
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癌と化学療法 46巻10号, 1605-1607 (2019);
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2015 年6 月〜2019 年4 月に,123 例の悪性腫瘍に樹状細胞と免疫チェックポイント阻害薬の併用投与を施行した。3回以上投与した症例の有効率は51.5%であった。温熱療法は放射線,抗癌剤,分子標的治療,免疫療法の効果を増強する。複合免疫療法においても温熱療法が効果を増強することが認められた。臨床例の癌組織と動物実験の免疫組織学的検索の結果,温熱によりPD-L1,MHC classⅠの発現増強とCD8 細胞の浸潤増強が認められた。
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癌と化学療法 46巻10号, 1608-1610 (2019);
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近年,がんゲノム医療への関心が高まっており,多数の遺伝子変異が同定可能な次世代シーケンサー(next-generationsequencing: NGS)の高速化,低コスト化により遺伝子解析技術が実臨床に導入されつつある。固形癌においてTP53変異は高頻度に認められ,とくに食道扁平上皮癌(esophageal squamous cell carcinoma: ESCC)においては,その頻度は90%以上ともいわれている。しかしながら臨床導入されている標的治療は存在しない。われわれは,ESCC患者の検体よりDNA,RNA を抽出しNGS を用いて解析を行ったところ,mRNA発現量の異なるTP53 変異が認められた。頭頸部扁平上皮癌においてTP53 変異の詳細により予後が異なることが報告されており,ESCC においても機能,ひいてはその表現型である患者予後が異なる可能性が考えられる。さらにTP53変異の異なるESCC細胞株と2 種類のp53 標的治療薬を用いて細胞毒性試験を行ったところ,増殖抑制効果に違いが認められた。遺伝子相互作用ならびに患者背景などを考慮したTP53 標的治療の開発が期待される。
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癌と化学療法 46巻10号, 1611-1613 (2019);
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目的: 胃癌術後予後予測における術前好中球リンパ球比(NLR)の重要性について検討した。対象および方法: 2008 年1 月〜2013 年5 月に胃癌に対する根治切除が行われた447 例を対象とし,術前NLR 値と術後短期・長期成績との関連を後方視的に検討した。結果:術後5 年全生存予測のROC 曲線でAUC 値が最も高値となるNLR 値1.6 をcut off 値とし,NLR高値群(n=313)と低値群(n=134)に分類した。臨床因子との相関解析では,NLR高値群で未分化型腺癌,cT2 以深,cN+症例を有意に多く認めた。短期成績について,2 群のClavien-Dindo分類Ⅱ以上の合併症発生率に有意差を認めなかった。長期成績に関して,NLR高値群では術後5 年全生存が有意に不良であり,多変量解析ではperformance status,腫瘍局在,cT とともに,術前NLR は独立予後規定因子であった(ハザード比: 2.77,95%信頼区間: 1.39-6.33,p=0.003)。結語:胃癌手術症例において,術前NLR 値は有用な予後予測因子となり得る。
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癌と化学療法 46巻10号, 1614-1616 (2019);
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抗PD-1 抗体治療をはじめとする免疫チェックポイント阻害薬は多様な癌種に対して一定の治療効果を示し,外科的切除,化学療法,放射線療法に加え新たな癌治療として大きな注目を集めている。今回われわれは,nivolumabによる切除不能進行胃癌三次治療後にconversion surgeryを施行し得た1 例を経験したので報告する。症例は68 歳,男性。上部消化管内視鏡で前庭部に3 型腫瘍を認めた。胃癌,cT4aN2(bulky N,切除不能)M0,cStage ⅢAの診断にて標準的一次,二次化学療法を施行するも,いずれもPD であった。三次治療としてnivolumabを開始後,腫瘍の著明な縮小を認め,14コース施行後conversion surgeryを施行し,R0 切除を達成し得た。現在無再発生存中である。
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癌と化学療法 46巻10号, 1617-1619 (2019);
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直腸癌肺転移に対し,サルベージライン終了後の終末期にFOLFIRI+ramucirumab(Ram)療法を導入し,長期施行可能であった症例を経験したので報告する。症例は44 歳,女性。直腸癌術後15 か月後,左閉鎖リンパ節転移でmFOLFOX6+bevacizumab(BV)療法を開始した。対象病変は縮小した(PR)が消失はしなかった。術後36 か月に左肺転移(下葉S89 mm)が出現し,胸腔鏡下左肺部分切除術施行,左閉鎖リンパ節に対しては重粒子線治療(73.6 Gy)を施行した。しかし両側多発肺転移が出現したため,術後42 か月よりmFOLFOX6+BV 療法を再開した。その後FOLFIRI+BV,TAS-102+BV,regorafenib を施行するも再PD となった。BSC も考慮されたが患者の強い希望もあり,術後64 か月よりFOLFIRI+Ram療法を開始した。Grade 3 の血液毒性は認めたが,強い消化器症状はなく休薬しながら長期投与(約1 年,計21 コース)が可能であった。最終的には肺転移の増悪により再発後66 か月で原癌死した。サルベージライン後のFOLFIRI+Ram 療法を比較的長期に施行可能であった症例を経験した。患者が許容可能であれば,ターゲットが異なる抗VEGF 薬は後方治療でも予後改善する可能性が示唆された。
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癌と化学療法 46巻10号, 1620-1622 (2019);
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大腸癌術後の炎症反応の指標として,治癒切除後第3 病日の血清CRP 値(POD3 CRP)について検討し,術後の炎症状態が予後に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。2000〜2015 年までに当科で治癒切除した大腸癌症例のうちStageⅠ〜Ⅳ症例の916例を対象とした。対象例のPOD3 CRP は 75%ile値 12.16(0.06〜33.78)mg/dLで,これを基に高値例と低値例の2 群に分けて予後を検討した。結果,癌特異的5 年生存率は高値例80.6%,低値例90.5%で高値例の予後が有意に不良であった。また,POD3 CRP は多変量解析でも独立した予後因子であった。大腸癌治癒切除後の炎症状態の程度が大腸癌治癒切除後の予後に影響を及ぼす可能性が示唆された。
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癌と化学療法 46巻10号, 1623-1625 (2019);
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目的: 胃癌根治切除後の長期予後予測における術前C-reactive protein(CRP)値の有用性について検討した。対象および方法: 2008〜2013年に当院で胃癌根治切除を施行した446 例を対象とし,術前CRP 値と術後長期予後との関連を後方視的に検討した。結果: 5 年全生存予測のROC 曲線でAUCが最も高値となるCRP 値 0.13 mg/dLをカットオフとし,CRP高値群(n=147)と低値群(n=299)に分類した。CRP 高値群では,65 歳以上,BMI 25 kg/m2以上,performance status(PS)不良,cT2 以深,cN+症例を有意に多く認めた。長期予後に関して,CRP 高値群では術後5 年全生存および癌特異的生存が有意に不良であり,胃癌再発,特に血行性再発を多く認めた。5 年全生存に対する多変量解析では,PS,腫瘍局在,cT とともに,術前CRP 値は独立した予後規定因子であった(ハザード比: 1.95,95%信頼区間: 1.15-3.36,p=0.0129)。結語: 術前CRP 値は,胃癌根治切除後の長期予後予測マーカーとして有用である。
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癌と化学療法 46巻10号, 1626-1628 (2019);
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症例は76 歳,男性。既往歴および家族歴に特記事項はない。現病歴は,2017 年11 月に検診目的の上部消化管内視鏡検査で胃前庭部後壁に半周性の隆起病変を認め,生検で胃癌が検出された。胃癌,cT1aN0M0の診断で,12 月に内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を施行した。ESD 施行後の病理結果では粘膜下層への浸潤を認め非治癒切除であった。このため,2018 年3 月に追加切除として腹腔鏡下幽門側胃切除(D1郭清)およびBillroth Ⅰ再建を施行した。経過良好にて術後10 病日に自宅退院,以降外来フォローの方針となった。術後14 病日に上腹部痛,炎症増悪で再入院となった。抗菌薬投与などの内科的治療を行ったが,炎症反応高値遷延,腎機能障害,尿潜血を認めた。血管炎関連の腎炎などを疑い精査の結果,抗GBM 抗体型急速進行性腎炎の診断となった。今回,早期胃癌に対して腹腔鏡下幽門側胃切除術後に急速進行性糸球体腎炎を発症した1 例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。
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癌と化学療法 46巻10号, 1629-1631 (2019);
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症例は69 歳,女性。2018年8 月ごろより全身倦怠感・食欲不振が出現し近医を受診,便潜血陽性のため精査目的にて紹介となった。下部消化管内視鏡検査にて直腸内にLST 病変を認めたため,同部位に対してESD を施行した。術後1 日目に腹痛および発熱が出現し,腹部造影CT を施行したところ回腸に腸重積を認めた。術後2 日目に下部消化管内視鏡にて整復を試みるも改善せず,同日緊急手術となった。術中所見として前回の開腹手術の影響と考える癒着を回腸の腸間膜に認め,その部位で絞扼となり腸重積を併発したと考えられ,同部位を含め約30 cm の腸管切除を施行し内腔確認したところ有茎性ポリープを認めた。以上のことから,有茎性ポリープを起点とし腸重積を発症したが癒着のため絞扼状態となり,下部消化管内視鏡による整復が困難となったと考えられた。術後術前より認めていた低Alb血症・神経因性膀胱の治療を要したが,術後28日にて退院した。
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癌と化学療法 46巻10号, 1632-1634 (2019);
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腎機能障害を併存した再発大腸癌患者に対するFOLFIRI+bevacizumab 療法により高アンモニア血症および意識障害を来した症例を経験したので報告する。症例は76 歳,男性。直腸癌術後,左縦隔リンパ節転移に対するthird-lineの化学療法として治療を開始した。投与当日帰宅後より下痢を認め,3 日目に意識障害があり当院に救急受診となった。来院時のJCSは 200であり,血中アンモニア値は800 mg/dL 以上と異常高値を認め,高アンモニア血症に伴う意識障害と診断した。ICUに入室し人工呼吸器管理を行い,高アンモニア血症に対して分枝鎖アミノ酸製剤,ラクツロース投与および高度代謝性アシドーシスに対して血液透析を開始した。透析後,血中アンモニア値は 37 mg/dL と速やかに改善を認めた。翌日にはJCS10まで意識レベルは改善し,第19 日目に自宅退院となった。腎機能障害を伴う症例に対して5-fluorouracil併用療法は慎重に投与すべきと考えられ文献的考察を併せ報告する。
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癌と化学療法 46巻10号, 1635-1637 (2019);
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原発性小腸悪性腫瘍は消化管悪性腫瘍の0.2%と報告されており,このなかでも小腸未分化癌は6.3%と極めてまれな疾患である。このため,診断および標準治療法は確立されていない。今回われわれは,原発性小腸未分化癌の1 例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。症例は55 歳,男性。2018 年12 月心窩部痛を主訴に当院に来院した。来院時の血液検査で高度貧血(Hb 6.0 g/dL)を認め,精査目的に施行した腹部造影CT 検査で骨盤内小腸の壁肥厚,肝臓に最大30 mmまでの散在する腫瘤結節影を認めた。上下消化管内視鏡検査では明らかな異常所見は認めなかった。小腸カプセル内視鏡で出血を伴う腫瘍を認めた。診断目的に肝臓腫瘍に対してエコーガイド下肝生検を施行し,病理所見は癌腫の診断となった。以上より,小腸癌の肝転移の診断となり,小腸腫瘍からの出血コントロール目的に原発巣切除の方針となった。手術は小腸部分切除および領域腫大リンパ節摘出を行った。術後病理検査で原発性小腸未分化癌の診断であった。術後経過は良好で,外来にて化学療法を導入予定である。今後さらなる症例の集積により,至適な診断および治療方法の開発が必要と考えられた。
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癌と化学療法 46巻10号, 1638-1640 (2019);
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虫垂粘液産生腫瘍は良性腫瘍に分類されるが,穿破を契機に腹膜偽粘液腫を来すリスクがあり,腹腔鏡下手術の安全性は確立されていない。当科関連施設で虫垂粘液産生腫瘍に対して腹腔鏡下手術を行った4 例を後ろ向きに調査した。年齢の中央値は69.5(49〜85)歳,男性3 例,女性1 例であった。術式は盲腸部分切除3 例,リンパ節郭清を伴う回盲部切除が1 例。1 例で腹腔内観察時,すでに穿破および周囲への腹膜偽粘液腫を認めたが,その他の症例において術中操作による穿破はなかった。病理診断は全例で低異型度虫垂粘液性腫瘍(low-grade mucinous neoplasm)であった。術後合併症(Clavien-Dindo分類Grade 3以上)は認めず,在院日数の中央値は6 日であった。長期成績は,手術時すでに穿破していた1 例を除き再発を認めなかった(観察期間中央値14.8か月)。虫垂粘液産生腫瘍に対する腹腔鏡下手術は,選択肢の一つになり得ると考えられる。さらなる症例集積が必要である。
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癌と化学療法 46巻10号, 1641-1643 (2019);
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症例は63 歳,男性。便通異常を主訴に当院を受診し,直腸診で骨盤内に腫瘤を触知した。腹部造影CT で骨盤内に内部は均一で周囲の浸潤はみられず,辺縁部で強い造影効果を示す長径10 cm の巨大腫瘤および肝門にも長径3 cm の同様な腫瘤を認めた。下部消化管内視鏡検査で粘膜病変は認めず,直腸の壁外圧迫による狭窄を認めた。MRIで骨盤内に巨大な分葉状腫瘤を認めT2 強調で淡い低信号であり,内部に不均一な高信号域やビロード状の低信号域を認めた。直腸原発のgastrointestinalstromal tumor(GIST)疑いで,症状緩和と診断目的に骨盤内腫瘤切除術を施行した。摘出した検体の病理結果は悪性腹膜中皮腫であった。肝門部の腫瘤が増大傾向を認めたため初回手術より6か月後に肝門腫瘤切除術を施行し,同様に悪性腹膜中皮腫の診断であった。その後,腹膜中皮腫の再発を繰り返し,初回手術より1 年後に小腸間膜,4 年後に肝S7に再発を認めそれぞれ腫瘤切除を行った。現在,最終手術より2年経過しているが再発なく外来通院中である。悪性腹膜中皮腫は腹膜中皮細胞に発生する悪性腫瘍で,比較的まれな腫瘍である。確立した治療法はなく,予後不良な疾患とされている。今回われわれは,複数回の再発腫瘍切除により長期生存を得ている悪性腹膜中皮腫の1 例を経験したため報告する。
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癌と化学療法 46巻10号, 1644-1646 (2019);
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原発性虫垂癌は比較的まれな疾患であり,未だ治療法は確立されていない。今回われわれは,原発性虫垂癌の8 例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。対象は2007〜2017 年までに当院で外科手術を施行した原発性虫垂癌8例である。年齢の中央値は60.5(範囲: 45〜82)歳,男性6 例,女性は2 例であった。結腸右半切除術1 例,回盲部切除術が7 例に施行され,術後病理組織学的病期はpStage Ⅱ 5 例,pStage Ⅲa 2 例,pStage Ⅳが1 例であった。術後再発を3 例に認め,術後全生存期間中央値は45 か月であった。病変長径が20 mm 以下の3 症例は全例無再発生存が得られていたが,病変の長径が21 mm 以上の症例は5 例中3 例に術後再発を認め,1 例は腹膜播種を認めpStage Ⅳであった。また,術後補助化学療法を行った症例は3 例中pStage Ⅲaの1 例が再発し,行わなかった症例は4 例中pStage Ⅱを含む2 例に再発を認めていた。
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癌と化学療法 46巻10号, 1647-1649 (2019);
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症例は74 歳,男性。盲腸癌の術後1 年10 か月後に臍部近傍の腹壁再発を認めたため,CapeOX+bevacizumab(Bev)療法を開始した。9 コース目施行翌日から鮮血便が出現し精査加療目的に入院した。Bev 由来による出血を疑い,消化管精査を行ったが出血源を特定できなかった。小腸浸潤を伴う腹壁再発による消化管出血の可能性が高いため,出血予防と腸閉塞予防目的にBev を約6 週間休薬し腹壁腫瘤切除術,小腸部分切除術を施行した。腹壁が一部欠損したため,腹直筋前鞘と皮下を十分剥離し,皮弁を形成し全層の結節縫合で閉鎖した。術後に創部筋膜の離開を認めたため,腹壁の再閉鎖術を施行した。しかし,術後麻痺性イレウスによる腹部膨満と嘔吐により創部が再離開した。創部に小腸が露出し腹壁に強固に癒着していたため再々手術はせず,肉芽の増生による閉鎖を期待し創部洗浄と栄養状態改善を図った。創部感染の鎮静化とともに陰圧閉鎖療法を導入し,再手術後約3 か月弱で治癒した。
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癌と化学療法 46巻10号, 1650-1652 (2019);
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症例は77 歳,女性。肺高血圧症に対して抗凝固薬の内服中である。2018 年8 月より黒色便が出現し,腹部造影超音波検査で胆嚢底部に広基性腫瘍を認めた。上部・下部消化管内視鏡検査では明らかな消化管出血病変は認めず,胆嚢腫瘍からの出血が疑われた。胆嚢癌(cT2N0M0,cStageⅡ)の疑いで胆嚢摘出の方針となったが,手術5 日前にめまいを主訴に当院救急搬送となり,高度の貧血を認めた。出血コントロールを目的に腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した。摘出肉眼標本所見では,胆嚢底部に腫瘍性病変と凝血塊の付着を認め,出血源であると考えられた。病理組織診断は乳頭腺癌であった。
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癌と化学療法 46巻10号, 1653-1655 (2019);
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症例は64 歳,女性。遺伝性球状赤血球症で30 年前に脾臓摘出の既往がある。今回,S 状結腸癌[cT3N3M1(LYM),H1,Stage Ⅳ]の診断で,開腹S 状結腸切除術を施行した。術後7 日目に40℃の発熱と炎症反応の高値を認め,翌日に意識障害が出現し急速に敗血症性ショック・DIC に至った。人工呼吸器管理の下,敗血症性ショック・DICの治療を行ったが離脱できず,術後17日目に多臓器不全により死亡した。経過中に施行したCT 検査・尿検査では感染巣は見当たらず,静脈血培養よりCitrobacter spp. が三度検出されたことにより,Citrobacter spp. による脾臓摘出後重症感染症(overwhelming postsplenectomy infection: OPSI)と診断した。Citrobacter spp. によるOPSIで急激な経過をたどった報告は,われわれが検索し得た範囲で本症例が第1 例目となる。若干の文献的考察を加えて報告する。
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癌と化学療法 46巻10号, 1656-1658 (2019);
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症例は66 歳,男性。30 年前に外傷性胸髄損傷のため両下肢麻痺となり,23年前に膀胱瘻を造設した。仙骨部褥瘡の悪化による敗血症で加療後に当院に転院となった。膀胱瘻の挿入部に粘液分泌を有する径4 cm の腫瘤があり摘出したところ,粘液産生性高分化腺癌の診断となった。他に腫瘍性病変はなく,膀胱鏡検査では瘻孔部に腫瘍の遺残を認め,膀胱頂部に局在することより尿膜管癌を疑い,膀胱部分切除術を施行した。病理組織学的に残存した尿膜管上皮細胞から連続する高分化腺癌を認め,尿膜管癌の確定診断に至った。本疾患は非常にまれであり,膀胱瘻挿入部に発生した尿膜管癌の報告は本邦初である。
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癌と化学療法 46巻10号, 1659-1661 (2019);
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症例は52 歳,男性。便潜血陽性の精査目的で施行した下部消化管内視鏡検査でS 状結腸癌と診断された。注腸検査では上行結腸が腹部正中を走行し,造影CT でSMV rotation sign を認めた。non rotation型の腸回転異常症を伴うS 状結腸癌,cT3N0M0,StageⅡAの診断で腹腔鏡下S 状結腸切除術を施行した。腹腔内を観察すると小腸は右側に存在し,上行結腸は腹部正中を走行し盲腸は骨盤内に落ち込んでいた。上行結腸間膜とS 状結腸間膜の間に膜性癒着を認めたため癒着を剥離しS 状結腸間膜を全体的に露出した後,通常の内側アプローチでS 状結腸切除術を開始した。下腸間膜動脈根部の郭清を行い腹腔鏡下に手術を完遂した。腸回転異常を伴う大腸癌に対する腹腔鏡手術では腸間膜どうしの癒着と血管走行に留意すべきだが,術前の画像診断により安全に施行可能であったという報告が散見され,自験例を踏まえ若干の文献的考察を加え報告する。
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癌と化学療法 46巻10号, 1662-1664 (2019);
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症例は42 歳,女性。既往歴に特記事項はない。今回,検診で施行した上部消化管造影検査で胃体部前壁に潰瘍性病変を指摘された。上部消化管内視鏡検査を施行し,胃体下部前壁に潰瘍病変を伴う最大径50 mmの粘膜下腫瘍を認めた。内視鏡下穿刺吸引細胞診で神経鞘腫の診断となり,手術目的に当科紹介受診となった。手術は,腹腔鏡下胃部分切除術および胃小弯のリンパ節を摘出した。術後経過良好で7 日目に退院した。術後病理所見は神経鞘腫の診断で核分裂像や異型性を認めず,リンパ節転移も認めなかった。胃神経鞘腫は胃壁筋層のアウエルバッハ神経叢のシュワン細胞から生じ,全胃腫瘍の0.1〜0.2%とまれな疾患である。術前診断が極めて困難な場合が多くまた悪性の報告もあり,治療,手術方式は慎重に検討すべきである。今回,胃原発の巨大神経鞘腫を腹腔鏡下手術で切除した1 例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する。
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癌と化学療法 46巻10号, 1665-1667 (2019);
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肝原発神経内分泌腫瘍はまれである。われわれは,以前に肝原発カルチノイド症例を報告した。原発巣切除後9 年目以降に二度の再発を来し,再肝切除を施行したので報告する。症例は55 歳,男性。2007 年に拡大肝右葉切除術を施行し,肝カルチノイドと診断された。2016年2 月に肝S3 への再発を認め,肝部分切除術を施行した。2018 年8 月にも肝S4 に再発所見を認め,再度肝切除術を施行した。いずれも病理組織学的検査において,再発性肝神経内分泌腫瘍G2に相当するとの診断であった。神経内分泌腫瘍の既往がある患者においては,本症例のように術後長期間経過後の再発や転移を生じる可能性があり,長期的な術後観察が必要であると考えられる。
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癌と化学療法 46巻10号, 1668-1670 (2019);
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症例は60 歳,男性。IgG4関連腎臓病と自己免疫性膵炎に対して,ステロイド内服加療中であった。盲腸癌の診断で,腹腔鏡下回盲部切除術を施行した。術前CT では後腹膜線維症の所見は認めなかったが,間質性腎炎のため右腎前面で後腹膜-結腸間膜間に限局的な脂肪織濃度上昇を認めた。術中所見はCT 所見に一致した範囲で,十二指腸前面の限局的な癒着を認めた。本症例において,術前CT と実際の手術で線維化の程度や範囲が一致していたことから,IgG4 関連疾患患者の手術における組織の線維化は術前CT で予測できる可能性が示唆された。
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癌と化学療法 46巻10号, 1671-1674 (2019);
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はじめに:近年,様々な悪性腫瘍において骨格筋量の低下がその予後を悪化させるという報告が散見される。cStageⅡ,Ⅲ大腸癌において骨格筋量の低下が予後に与える影響について検討した。対象と方法: 2007〜2013年に根治的手術を行ったcStageⅡ,Ⅲ大腸癌の症例196例を対象とした。L3下縁領域での大腰筋面積を身長で補正したpsoas muscle index(PMI)を測定,男性6.36 cm / / 2m2,女性3.92 cm2m2をcut off値とし,cut off値以上をH群,未満をL群に分類した。全生存期間(OS),無再発生存期間(RFS)について後方視的に検討した。結果: すべて開腹手術で,H群119 例,L群77 例であった。性別,年齢,術前Alb 値,BMI,術後補助化学療法の有無において両群間で有意差を認めた。OS ではH 群の5 年OS が82.8%,L 群70.3%(p<0.01)と有意差を認めたがRFS では有意差を認めなかった。単変量,多変量解析では年齢(OR1.90,p<0.01),CEA高値(OR 0.012,p<0.05),深達度(OR 2.19,p<0.05),リンパ節転移の有無(OR 2.21,p<0.01)および術前PMI 低下(L 群)(OR 2.05,p<0.01)がOS 低下の独立予測因子であった。結論:術前の大腰筋面積はcStageⅡ,Ⅲ大腸癌において再発率には影響せず,全生存期間に影響することがわかった。