癌と化学療法

Volume 47, Issue 5, 2020
Volumes & issues:
-
投稿規定
-
-
-
総説
-
-
がん診療の現場からの働き方改革
47巻5号(2020);View Description
Hide Description
医師の働き方改革は2024年4 月からの法改正施行とされ,待ったなしでがん診療の現場にも入ってくる。がん診療の現場には働き方改革実現のための三つの力がすでに備わっている。① チーム医療を行ってきた現場だからこそ進めていける業務の効率化とタスクシフト/タスクシェア,②患者との協働に力を入れてきた現場だからこそ得られる患者の理解,国民の上手な医療のかかり方,③ ICT 導入が進めやすい現場だからこそ実現できるICT導入による業務の効率化,医療へのAI導入である。この三つの力をうまく活用し,がん診療の現場からの働き方改革を進めていければと思う。
-
-
特集
-
- 癌化学療法と感染症
-
ウイルス肝炎
47巻5号(2020);View Description
Hide Description
ウイルス肝炎で慢性化するのはHBV とHCV の感染によるものであり,どちらも非代償性肝硬変の状態では癌化学療法が禁忌になる。HBV 感染患者で化学療法などによりHBV が再増殖することをHBV 再活性化と呼び,キャリアからの再活性化と既往感染者からの再活性化に大別される。HBV 再活性化による肝炎は重症化しやすいだけでなく,肝炎の発症により原疾患の治療を困難にさせることから,発症そのものの阻止が重要である。強力な化学療法を行う際のHBV 再活性化対策は,日本肝臓学会の「B 型肝炎治療ガイドライン」に準拠する。HBV再活性化のリスクは,ウイルスの感染状態と免疫抑制の程度で規定される。ウイルスの感染状態は,慢性活動性肝炎,非活動性キャリア,既往感染者の三つに分類されるが,HBV 再活性化のリスクはこの順に高い。化学療法の施行時にはHBV 感染をスクリーニングする必要がある。治療開始前には全例でHBs 抗原を測定する。HBs抗原陽性の場合には,HBe 抗原,HBe 抗体,HBV DNA量を測定する。HBs抗原陰性の場合には,HBc 抗体とHBs 抗体を測定する。HBc 抗体またはHBs 抗体が陽性の既往感染者ではHBV DNA 量を測定する。HBV DNA量が20 IU/mL以上の既往感染者では,非活動性キャリアと同様に治療開始前に核酸アナログを予防的に投与する。既往感染者のうち治療開始前にHBV DNA量が 20 IU/mL 未満の場合,化学療法中および治療終了後にHBV DNA量を定期的にモニタリングし,HBV DNA量が20 IU/mL 以上になった時点で直ちに治療を開始する。 -
肺炎・呼吸器感染症
47巻5号(2020);View Description
Hide Description
癌患者での感染症としての肺炎・呼吸器感染症の頻度は高い。呼吸器の腫瘍の存在そのものが気道閉塞,粘膜障害をもたらし,感染症が引き起こされる。さらに放射線化学療法に伴い呼吸器における感染防御能が低下し,種々の呼吸器感染症が惹起されることも知られている。また,わが国での抗悪性腫瘍薬に伴う薬剤性肺障害の発症頻度と死亡率は高いとされ,その診断,治療においては感染症としての肺炎との鑑別が重要である。免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpointinhibitors: ICIs)が種々の癌の治療に導入されている。ICIs 治療に伴い感染症のリスクが大幅に増すとは考えられていないが,免疫関連有害事象(immune-related adverse events: irAEs)発生時には免疫抑制剤投与を要することから日和見感染が起こり得る。さらにirAEsを伴わず免疫抑制剤も投与されていない場合での結核の報告もあり,感染予防も含めて今後の対策が求められる。 -
HIV 感染症
47巻5号(2020);View Description
Hide Description
近年,HIV 感染者における悪性腫瘍が新たな問題としてクローズアップされるようになってきた。抗HIV 薬の進歩によってHIV 感染者の予後が劇的に改善したことが大きな要因といわれている。HIV 感染者は非HIV 感染者と比べて悪性腫瘍を発症しやすい。発癌ウイルスの共感染,慢性炎症に伴うB 細胞の刺激,免疫学的監視の低下など複数の因子が関与している。HIV合併悪性腫瘍の治療を行う際には,抗癌剤と抗HIV薬の相互作用や日和見疾患に留意する必要がある。禁煙などの一次予防,検診などによる早期診断,専門家の連携による質の高い治療が,非HIV 感染者と同様にHIV 感染者の悪性腫瘍において重要なポイントである。 -
真菌感染症
47巻5号(2020);View Description
Hide Description
がん患者において真菌感染症はまれなイベントではある。一方,発症した場合は化学療法や手術の遅れを来す原因ともなり,早期の診断治療が重要である。「カンジダ」,「アスペルギルス」,「クリプトコッカス」,「ニューモシスチス」ががん患者で問題となることの多い真菌感染症であるが,今回は誌面の関係上,カンジダとアスペルギルスについて取り上げる。それぞれのリスク因子と感染臓器について理解することが早期診断につながる。また,近年固形腫瘍の治療が大きく変わり,免疫チェックポイント阻害薬の登場に伴い,ステロイドや免疫抑制薬を使用する機会も増えている。今後,国内でもこれら細胞性免疫不全に伴う真菌感染症が増加してくる可能性がある。
-
Current Organ Topics:HematologicMalignancies/PediatricMalignancies 血液・リンパ系腫瘍 多発性骨髄腫に対する治療戦略Update
-
-
-
原著
-
-
化学療法誘発性末<神経障害を有する乳がん患者に対するハンドセラピー施術後の改善効果の検討
47巻5号(2020);View Description
Hide Description
乳がん患者に用いられるタキサン系抗がん剤は正常な神経細胞の微小管を傷つけ,化学療法誘発性末<神経障害(CIPN)の手指のしびれを引き起こすため,しびれ改善に有効な対処方法が強く望まれている。2017 年,マッサージの物理的刺激は手指の血流量を改善し傷ついた神経を再生させることが報告されたことから,われわれは抗がん剤投与によりしびれを感じる乳がん患者を対象にマッサージ法であるハンドセラピー施術を独自に考案し,しびれの改善効果について検討を行った。ハンドセラピーは,一般社団法人日本フィトセラピー協会直営校のソフィアフィトセラピーカレッジにて講習を受けたセラピスト1名が行い,指先から手首,くるぶし,中手骨,手のひら,肘まで両腕手指で15分間さする手法で実施した。日常生活への影響(Support Team Assessment Schedule-Japan: STAS-J),年齢,BMI,しびれの強さと部位,しびれの性状,治療薬の種類,乳がん発病経年,しびれ発症経年,リンパ節郭清の有無を調べ,しびれの強さは10 cm のVisual AnalogScale(VAS)によって評価した。対象は手指のしびれを訴える乳がん患者51名,平均年齢59 歳,ハンドセラピー施術前後のVAS 評価はしびれの度合いが比較的軽度なSTAS-J 1 で4.7±1.8 から1.9±1.3,STAS-J 2 で4.9±1.4 から2.1±1.3と有意に低下し,しびれの度合いが軽度および中程度でしびれが改善したことを示した。軽度および中程度の STAS-J 1/2と,重度の STAS-J 3/4 のグループで統計解析を行ったところ,年齢,BMI,薬の種類,リンパ節郭清,乳がん発病経年とは相関がなかったが,しびれ発症経年はSTAS-J 1/2 で 1 年以上しびれを感じる人数が有意に高いことが明らかとなった。しびれの部位は近位指節間関節から指先が多く,しびれの性状は正座後のような強いしびれ感を訴える人数が多かった。以上のことから,タキサン系抗がん剤を使用し軽度から中程度のしびれを感じる患者にハンドセラピー施術はしびれ改善に有効であることが示唆された。 -
Efficacy of VRD(Bortezomib, Lenalidomide, and Dexamethasone) Consolidation Therapy and Maintenance Therapy with Immunomodulatory Drugs(Thalidomide or Lenalidomide) after Autologous Peripheral Blood Stem Cell Transplantation in the Era of Bortezomib-Containing Induction Therapy―A Single Institution Experience
47巻5号(2020);View Description
Hide Description
未治療多発性骨髄腫に対する自家造血幹細胞移植の成績は,導入療法や移植後療法へ新規薬剤を組み込むことで改善してきている。ボルテゾミブが多発性骨髄腫の初発治療に適応拡大してから,当科では導入療法としてボルテゾミブ,デキサメサゾン(BD)療法を行い,自家移植後に地固め療法としてボルテゾミブ,レナリドミド,デキサメサゾン(VRD)療法を,維持療法として免疫調節薬(IMIDs)単剤療法(レナリドミドまたはサリドマイド)を行ったので,ボルテゾミブ適応拡大以前に自施設で行ったビンクリスチン,アドリアマイシン,デキサメサゾン(VAD)療法による導入療法をヒストリカル・コントロールとして比較検討した。BD 療法で導入した症例は33 例(BD 群),VAD療法で導入した症例は92 例(VAD群)であった。BD 群の33 例中31 例が自家移植まで進み,23 例がVRD 地固め療法を施行し,17 例がIMIDs維持療法を施行した。BD 群での完全奏効(complete response)率/最良部分奏効(very good partial response)率は,自家移植後,地固め療法後,維持療法でそれぞれ43%/61%,76%/90%,87%/93%であった。BD 群と VAD群の導入療法後と自家移植後の奏効に差を認めなかった。無増悪生存期間中央値(PFS)は,BD 群がVAD群より有意に長く[46.2か月vs 30.6 か月,HR 0.48(0.27-0.85),p=0.0106],全生存期間中央値(OS)もBD 群が有意に改善した[未到達vs 90.6 か月,HR 0.21(0.05-0.87),p=0.0172]。これらの結果より,VRD 地固め療法やIMIDs 維持療法などの移植後療法は多発性骨髄腫への自家移植の成績を改善する可能性が示唆された。 -
在宅療養中の進行がん患者でオキシコドン,モルヒネを使用して疼痛とともに和らいだ諸症状の検討
47巻5号(2020);View Description
Hide Description
在宅療養中の進行がんの患者で160例中,がん扁痛を認めた131 例に対しオキシコドン,モルヒネの導入やフェンタニル貼付剤からモルヒネへスイッチングを行った。そのうち70 例は扁痛の他,悪心・嘔吐,呼吸困難,腹部膨満感,全身'怠感,咳,尿意切迫感などの症状も同時に楽になったと表現された。国際扁痛学会は,痛みを「実際の組織損傷あるいは組織損傷の可能性,またはそのような損傷の際に表現される不快な感覚および情動体験」と定義し多くの成書で引用されているが,組織損傷による不快な感覚に対する詳細な報告を筆者は渉猟することができなかったので調査し報告する。
-
-
医事
-
-
タッチパネル式患者参画型問診票共有システムを用いた化学療法有害事象の把握と評価
47巻5号(2020);View Description
Hide Description
がん診療を行う病院においては,有害事象を含めた苦痛のスクリーニングと医療従事者間での情報共有が求められている。われわれは,診療前待ち時間に有害事象共通用語規準ver4.0を参考にしたタッチパネル式患者参画型問診票(iPadを使用し無線で電子カルテに反映)を導入し,外来がん化学療法施行患者の患者報告アウトカム評価を行っている。本研究では,この取り組みが多職種との情報共有や有害事象の早期発見ならびに効果的な患者介入に有益であるかを導入前後で評価した。2015年4〜8月にタッチパネル式患者参画型問診票を記入(使用累積数: n=215)した患者のデータを分析した。そのうち治療に伴う有害事象に介入した事例(n=40)を電子カルテから抽出し,多職種に介入を依頼した時期とその有害事象,職種別の介入件数を集計し,タッチパネル型問診票導入前後で後方視的に比較した。その結果,タッチパネル型問診票導入後患者介入件数は増加[導入前介入件数:導入後介入件数;42/282(14.9%):45/215(20.9%)]した。頻度の高い介入事象は,食欲不振,悪心・嘔吐,扁痛があげられた。患者介入時期は,導入前と比較して導入後は外来初回治療時の介入件数が増加[導入前介入件数:導入後介入件数;9/40(22.5%):14/40(35%)]した。以上より,タッチパネル式患者参画型問診票は主要な有害事象に対して短時間で漏れなくアセスメントを行い,多職種による効果的かつ早期の患者介入につながると考える。 -
在宅療養中の臨終期がん患者の論理的病状説明―自験145例の後ろ向き調査の分析―
47巻5号(2020);View Description
Hide Description
死亡10 日以内の臨終期がん患者では扁痛などの様々な症状が出現する他,予期せぬ意識障害や呼吸停止を経験することがある。在宅療養中の臨終期がん患者で家族や看護師でも見つけることができる項部硬直,意識消失,無表情,尿閉,痙攣,無呼吸発作,嚥下障害,頭部回旋,神経障害性扁痛,過高熱,瞳孔散大に留意して診察した。いずれかの神経兆候が出現したほぼ全員の患者家族に意識消失や呼吸停止となる前に多焦点性の神経兆候が出現し,呼吸が停止していく病態を論理的に説明することができたので報告する。
-
-
症例
-
-
Nilotinib 加療中にパートナーが妊娠し正常新生児を出産した慢性骨髄性白血病の1 例
47巻5号(2020);View Description
Hide Description
症例は40 歳台,男性。2016年12 月に慢性骨髄性白血病(chronic myelogenous leukemia: CML)と診断した。加療開始前に本人,パートナーより挙児希望があったため,加療および妊娠計画に関してチロシンキナーゼ阻害薬(tyrosine kinaseinhibitor: TKI)加療を行いながら妊娠を計画するか,CMLの分子遺伝学的大寛解(MMR)を確認するまで待ちTKI を休薬後に妊娠を計画するかを提案した。本人よりTKI 加療の希望があり,nilotinib 600 mg/bodyにて加療を開始した。TKI開始後3 か月に末¥血(FISH法)で細胞遺伝学的完全寛解(CCyR),8 か月でMMR,12 か月で分子遺伝学的完全寛解(CMR,MR4.5)をそれぞれ確認し,現在も加療を継続中である。加療開始後,約15 か月目でパートナーの妊娠がわかり,22 か月目で正常新生児を出産した。4 か月検診でも特に成長遅延などの問題なく経過している。CMLはTKIの登場により,多くの患者が長期生存可能となった。それに伴いquality of lifeの重要性がますます高まってきている。CML患者における50 歳未満の割合は約30%と決して少なくなく,挙児希望は非常に重要な問題である。TKIが妊娠および胎児に与える影響の情報は乏しく,患者の希望と加療の優先性や胎児のリスクへの対応の狭間で苦慮している現状がある。nilotinib 内服中の男性患者のパートナーの妊娠・出産報告については数例しかないが,いずれも正常出産でありすべての子供で奇形や成長遅延はみられていない。今回われわれも,nilotinib加療中にパートナーが妊娠し,正常新生児を出産したCMLの1例を経験した。 -
オラパリブの投与により著効が得られたBRCA2 遺伝子変異陽性再発乳癌の1 例
47巻5号(2020);View Description
Hide Description
症例は70 歳,女性。左乳癌,cT2N2M0,triple negativeの診断で術前化学療法を施行していた。術後約30 か月目に癌性心膜炎による心タンポナーデの発症を機に,癌性胸膜炎,甲状腺転移も明らかとなり,同時にBRCA2 遺伝子変異陽性が認められたためオラパリブを開始した。開始から1.5 か月の評価CT でPR(RECIST v1.1)を確認した。現在,使用から約1 年が経過するが副作用は軽微でQOLを維持し著効している。 -
術後再発にNab-Paclitaxel(Nab-PTX)+Carboplatin(CBDCA)+Pembrolizumabが奏効したPD-L1低発現の高齢者扁平上皮肺癌の1 例
47巻5号(2020);View Description
Hide Description
症例は81 歳,男性。呼吸困難にて当医療センターに入院した。5 年前に右上葉扁平上皮肺癌にて右上葉切除術を施行されていた。胸部CT では右主気管支の狭窄を認め,病理組織学的診断は扁平上皮癌であった。PD-L1発現はTPS 1%で低発現であった。患者はPS 1 であったため,nab-PTX+CBDCA+pembrolizumab 化学療法を4 コース施行し,その後pembrolizumab による維持療法を行った。化学療法後,右主気管支の狭窄は消失し,呼吸困難も改善した。nab-PTX+CBDCA+pembrolizumab化学療法は,PD-L1 低発現である高齢者扁平上皮肺癌術後再発に対して治療方法の選択肢の一つとなる可能性がある。 -
食道癌化学療法中に発症した門脈ガス血症の4 例
47巻5号(2020);View Description
Hide Description
症例1 は70 代,男性。食道癌に対しDCF 療法中に胃潰瘍性出血を認めたため,内視鏡的止血術を施行した。3 日後に腹痛,嘔吐が出現し,腹部CT 検査で門脈ガスを認めた。造影CT 検査では腸管壊死は認めず,保存的加療による軽快を得た。症例2 は70 代,男性。食道癌に対しDCF 療法中に頻回の下痢が出現した。症例3 は80 代,男性。食道癌に対しDCF療法中に嘔気と腹痛が出現した。症例2,3 ともに腹部エコー検査で門脈ガス血症と診断し,症状軽度のため保存的加療を選択し軽快を得た。症例4 は60 代,男性。食道癌に対しDGS 療法中に突然の強い腹痛が出現した。腹部単純CT 検査にて門脈ガスおよび小腸の腸管気腫を認めた。腹膜刺激徴候を伴う門脈ガス血症であり,小腸壊死を疑い緊急小腸部分切除術を施行した。われわれは,食道癌化学療法中の門脈ガス血症の4 例を経験した。門脈ガス血症は腸管壊死を示唆する予後不良な徴候とされてきたが,近年保存的加療による改善を得られた報告も散見する。文献的考察を加え報告する。 -
胃癌縦隔リンパ節転移による食道通過障害に対してヘパスフィアTMを用いた動注塞栓術が奏効した1 例
47巻5号(2020);View Description
Hide Description
症例は50 歳台,男性。食道胃接合部癌および縦隔リンパ節転移と診断された。SOX 療法4 コースが施行されたが,PD にて根治手術不能となった。2 か月後に食道通過障害が発症した。食道を圧排する縦隔リンパ節と噴門部原発巣が通過障害の原因とされ,動注塞栓術が選択された。薬剤はシスプラチン20 mg,ドセタキセル20 mg,5-FU 250 mgを用いて,右気管支動脈,左胃動脈,左下横隔動脈から注入し,ヘパスフィアTMを用いて塞栓術を行った。2 回の治療で縦隔リンパ節は著明に縮小し,通過障害は改善し,6 回の治療で原発巣の縮小を認めた。現在,初回治療から16 か月(9 回の治療)が経過し,縦隔リンパ節の再増大は認めず,原発巣の制御も得られている。 -
HER2 陽性胃癌同時性肝転移に対してS-1+Trastuzumabを施行し臨床的CR となった1 例
47巻5号(2020);View Description
Hide Description
症例は74 歳,男性。2013年12 月,心窩部不快感・食思不振を主訴に当院を受診した。上部消化管内視鏡検査にて胃幽門部に2 型腫瘍,同部位からの生検で中分化腺癌を検出した。腹部造影CT 検査にて多発肝転移を認め,cT3N2M1,cStage Ⅳの診断であったが,高度の幽門狭窄を認め2013 年12 月中旬,幽門側胃切除術を施行した。術後病理組織学的検査にてHER2 強陽性を認め,2014年1 月下旬より肝転移巣に対してS-1+trastuzumabを開始したところ2 コース後にPR,4コース後に臨床的CR(clinical CR: cCR)となった。S-1 による手足症候群が遷延したため11 コースで投与を終了した。以降は化学療法を施行せず経過観察しているが,術後4 年6 か月経過した現在,無再発生存中である。HER2 陽性切除不能胃癌に対するtrastuzumab の有効性はToGA 試験にて有意な延命効果が認められたが,trastuzumab 投与後にcCR となり予後良好であった報告例は少ない。今回の症例は貴重な1 例であり,HER2 陽性胃癌同時性肝転移に対してS-1+trastuzumabは有効な治療選択肢の一つと考えられた。 -
術前に診断し得た胃神経梢腫の1 例
47巻5号(2020);View Description
Hide Description
症例は52 歳,女性。主訴はなく,検診の上部消化管造影検査にて異常を指摘された。CT で胃前庭部に100 mm 大の腫瘤を認め,超音波内視鏡下穿刺吸引細胞診(EUS-FNA)にて胃神経梢腫の診断を得た。また,前庭部周囲にリンパ節腫脹を認め,リンパ節転移も疑われた。手術は腹腔鏡下に腫脹した幽門下リンパ節を術中迅速に提出し,術中迅速の結果リンパ節転移は認めなかったため胃局所切除を施行した。 -
Bevacizumab+mFOLFOX6 療法を行い長期の病勢制御が得られた虫垂杯細胞カルチノイドの1 例
47巻5号(2020);View Description
Hide Description
症例は67 歳,男性。腹部膨満感と嘔吐を主訴に当院を受診した。画像検査の結果,盲腸腫瘍に伴う腫瘍性腸閉塞と診断した。腸管減圧後,腹腔鏡下回盲部切除術を行った。術中所見として,盲腸腫瘍と回腸末端から小腸間膜にかけて複数の播種結節を認めた。病理組織学的検査では,虫垂から盲腸にかけて異型上皮細胞が索状構造を形成しながら増殖し,印環細胞の集簇も散在性にみられ,低分化な上皮系悪性腫瘍の像を呈していた。免疫染色で神経内分泌マーカーが陽性であり,杯細胞カルチノイドと診断した。bevacizumab+mFOLFOX6 療法を開始し1 年8 か月間の病勢制御が得られた。虫垂杯細胞カルチノイドに対する標準的な化学療法は確立していないが,大腸癌に準じた本レジメンが有効な可能性が示唆された。 -
Virchowリンパ節転移に対する化学放射線療法により完全奏効が得られた直腸癌の1 例
47巻5号(2020);View Description
Hide Description
症例は43 歳,男性。傍大動脈リンパ節転移を伴うStage Ⅳの上部直腸癌に対して直腸低位前方切除術,両側側方リンパ節郭清術,傍大動脈リンパ節サンプリング術を施行した。術後補助化学療法(CapeOX)を施行するも,術後4 か月で傍大動脈リンパ節転移を認め,化学放射線療法(Cape+Bev,70 Gy/28 Fr)を施行した。FDG の集積は消失したが,術後 13 か月でVirchowリンパ節に転移を認めIRIS+Bev を投与した後,化学放射線療法(S-1+Bev,66 Gy/33 Fr),化学療法(S-1+Bev,S-1)を施行し完全奏効を得た。しかし術後35 か月にVirchowリンパ節転移の再発を認め,再度化学放射線療法(S-1,60 Gy/30 Fr)を施行し,腫大したリンパ節は縮小した。また,術後 40 か月で縦隔リンパ節に転移を認め化学療法(panitumumab)を施行し,完全奏効を得た。以降,現在まで術後101 か月経過しているが,完全奏効を維持し長期生存中である。大腸癌でVirchowリンパ節に転移巣が限局している場合に,化学放射線療法は有効な治療の一つと考えられた。 -
術後11年の長期生存が得られているS 状結腸癌異時性膵転移の1 例
47巻5号(2020);View Description
Hide Description
症例は44 歳,女性。2002 年2 月に腹痛を主訴に来院し,下部消化管内視鏡でS 状結腸に全周性の2 型腫瘍を認め,CT では多発肝転移を認めた。同年3 月にS 状結腸切除術を施行した。以後術後5 年目までに二度の肝切除術,ラジオ波焼灼術,二度の吻合部切除術,肺切除術を行った。2008 年1 月,CTで膵体尾部に腫瘤が出現したため膵体尾部切除術を施行した。術後病理組織学的診断はS 状結腸癌の膵転移であった。2010 年9 月のCTで左総腸骨動脈リンパ節転移が出現したが,化学療法が奏効しリンパ節腫大は消失した。初回手術より17 年,膵切除術より11 年が経過した現在も再発なく外来通院中である。大腸癌の膵転移は比較的まれであり,切除可能例はさらにまれであると考えられるが,手術を含めた集学的治療を積極的に行うことにより良好な予後が得られた症例を経験したため報告する。 -
膵癌化学療法中に顆粒球コロニー刺激因子製剤による大動脈炎を発症した1 例
47巻5号(2020);View Description
Hide Description
背景:発熱性好中球減少症には予防のため顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)製剤の投与が推奨されている。今回,modified FOLFIRINOX(mFOLFIRINOX)療法中に持続型のG-CSF製剤であるpegfilgrastimによる大動脈炎を経験したため報告する。症例: 65 歳,女性。膵尾部癌に対して膵体尾部切除術を行った。術後2 年で肝転移を認め,mFOLFIRINOX療法を開始した。予防的なG-CSF 製剤の初回投与8 日後と8 コース目の投与6 日後に発熱,炎症反応の上昇があり,造影CT でそれぞれ大動脈に軟部影を認め,大動脈炎と診断した。抗生剤治療のみで症状は改善した。臨床経過,検査結果からpegfilgrastimによる大動脈炎と診断した。結語: G-CSF製剤使用時の発熱,炎症反応時は大動脈炎を念頭に置く必要がある。
-