癌と化学療法

Volume 47, Issue 6, 2020
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総説
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RAS,BRAF 遺伝子変異,MSI検査で変わる大腸がん治療
47巻6号(2020);View Description
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KRAS 変異の測定が切除不能進行再発大腸がんのコンパニオン診断薬として保険適応となり10 年が経過した。そして現在,KRAS exon 2 だけでなく,KRAS exon 3,4 やNRAS exon 2~4 変異,BRAF 変異(V600E),microsatellite instability(MSI)statusの測定が新たにコンパニオン診断薬として保険承認され,実臨床で使用可能となっている。これらRAS,BRAF遺伝子変異,MSI検査は,あくまでも特定の薬剤投与の可否を決定するために測定されるという一面をもつ以上,その測定結果は適切に治療に反映させなければならない。本稿では,大腸がんに認められる体細胞変異とその臨床的特徴の概説を行い,「RAS,BRAF 遺伝子変異,MSI検査」で大腸がん治療がどのように変わるのかを考察する。
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特集
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- Oncology Emergency
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上大静脈症候群
47巻6号(2020);View Description
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上大静脈症候群(superior vena cava syndrome)は,上大静脈の狭窄による上半身の静脈還流障害に伴う症候群である。腫瘍(非小細胞肺癌,小細胞肺癌,悪性リンパ腫など)による症例が多く,肺癌が原因として最も多い。上大静脈の外部からの圧迫,直接浸潤,血栓・塞栓形成が原因である。静脈圧の上昇により他覚所見として顔面,頸部の浮腫,上肢の浮腫,側副血行路形成に伴う前胸部表在静脈怒張,嗄声,自覚症状として咳嗽,呼吸困難,失神,頭痛,めまいなどを呈して患者のquality of life(QOL)を損なう。自然軽快する症例がある一方で,まれながら脳浮腫や喉頭浮腫を来す症例では致死的になり得,緊急対応を要するためoncologic emergency の一つとなっている。治療は癌種に応じた標準治療と症状緩和治療に分けられ,重症度,組織型,組織型による標準治療とその感受性などを総合的に判断し,放射線治療,化学療法,ステント留置,手術などが選択肢となる。病理組織学的な確定診断を迅速に実施し,他科との連携を行って適切な治療選択を早急にすることが必要である。 -
脊髄圧迫症候群
47巻6号(2020);View Description
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悪性腫瘍による脊髄圧迫(malignant spinal cord compression: MSCC)とは,腫瘍の椎体への進展に伴い生じる神経障害を伴う脊髄もしくは馬尾の圧迫である。背部痛,頸部痛,筋力低下,感覚障害,膀胱直腸障害などの症状を呈し,肺がんや乳がん,前立腺がんでMSCCのリスクが比較的高い。MSCCは,神経機能の保護や改善のため迅速な診断・治療が求められるがん緊急症(oncologic emergency)の一つである。診断にはMRIやCT の画像評価が有用である。診断時点において推定予後が限られている症例も多く,MSCCの程度だけではなく患者の予後や生活背景を考慮し治療方針を検討することが重要である。内科的な薬物治療,手術,放射線療法が治療選択肢であり,腫瘍内科,整形外科,放射線科など複数の領域にかかわる病態であることから多角的に症例を検討する必要がある。また,治療後の支持療法や骨関連事象を予防するための介入も重要である。各診療科医師や関連する医療従事者が定期的に集まり,キャンサーボードで症例の検討を行うことが望まれる。 -
腫瘍循環器救急疾患としての心タンポナーデ
47巻6号(2020);View Description
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オンコロジーエマージェンシーの一つとして担癌患者に心タンポナーデ(cardiac tamponade)の発症を認めることがあるが,癌性心膜炎の他に放射線性,薬剤性,免疫抑制に伴う感染性など鑑別が多岐にわたる可能性があることに留意しなくてはならない。癌性心膜炎はこれまでの報告では予後が悪く,心嚢ドレナージによる救命後長期予後が得られることは非常にまれであった。しかし昨今の癌治療の発展,治療選択肢の増加に伴い,心膜液コントロールさえ付けば新規治療を導入でき,全生存期間の延長を期待できる症例も増えてくることが予想される。本稿では今一度,悪性腫瘍の治療経過中に発症し得る心タンポナーデについてのこれまでのエビデンスをまとめ,どのような点に留意しながら診療に当たるべきかについての概説を行いたい。 -
下垂体機能低下症
47巻6号(2020);View Description
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がん治療に対する免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitors: ICIs)の発展は目覚ましい。一方で,その副作用は免疫関連有害事象(immune-related adverse events: irAEs)と呼ばれ,多彩な臓器に影響を及ぼすことが知られている。そのうち症状が非特異的で診断が難しく,治療の遅れが致死的な結果につながる疾患として,下垂体炎とそれにより生じる下垂体機能低下症をがん緊急症(oncologic emergency)として認識することが重要である。診断には,一般検査,ホルモン値測定,下垂体造影MRIが必要となるが,ICIsの種類により症状や好発時期,ホルモン分泌低下のパターンは異なる。治療の基本は不足ホルモンの補充である。adrenocorticotropic hormone(ACTH)低下症ではホルモン補充が永続的に必要となるため,sick day の対応を患者,家族と共有することが必要不可欠である。下垂体炎の発症予測マーカーとして確立したものはなく,早期に症状の発見を行い,迅速な介入を行うためにチーム一丸となった診療が重要である。
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Current Organ Topics:Central Nervous System Tumor 脳腫瘍 脳腫瘍患者(がん患者)における高次脳機能障害
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原著
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結腸・直腸癌患者におけるラムシルマブ投与後の蛋白尿の発現に関する検討―医療情報データベースを用いたコホート研究―
47巻6号(2020);View Description
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進行結腸・直腸癌患者へのラムシルマブ投与後の蛋白尿の発現に関して,医療情報データベースを用いて検討した。解析対象患者1,706例のうち蛋白尿の発現割合は21.8%,発現率(/100 人年)は75.3 であった。蛋白尿の既往歴やベバシズマブ前治療歴あり群では発現率が高く,ラムシルマブ処方開始早期に蛋白尿の発現が多い傾向が認められた。ラムシルマブ処方開始早期からの定期的なモニタリングにより適切な管理を実施していくことが重要と考えられる。 -
胃癌患者のニボルマブ投与症例におけるNLR の有用性
47巻6号(2020);View Description
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背景: 免疫チェックポイント阻害剤(ニボルマブ)は切除不能進行・再発胃癌の三次化学療法として胃癌治療ガイドライン(第5 版)に記載され,日常診療に使用されはじめた。また,末血好中球/リンパ球比(NLR)は,癌患者における予後との関連が報告されている。対象と方法: 2018年1 月~2019年11 月に当院で進行・再発胃癌に対してニボルマブを投与した20 例を後方視的に検討した。結果:性別は男性/女性=18/2 例,年齢中央値70(55~84)歳,切除不能進行胃癌9 例,再発胃癌が11 例であった。ニボルマブの治療ラインは二次/三次/四次/五次以降がそれぞれ1/11/7/1 例であった。最良総合効果はPR 1 例,SD 7例,PDが10 例であった。全生存期間(OS)中央値は10 か月,無増悪生存期間(PFS)中央値は3 か月であった。重篤な有害事象は認めなかった。NLR≦2.0群はNLR>2.0群に比してOSが有意に延長し(21.9 か月vs 2.2 か月),PFSは延長する傾向があった(6.2 か月vs 1.4 か月)。結語: NLR はニボルマブ投与を受ける胃癌患者の予後予測因子として有用であることが示唆された。 -
がん疼痛に対するミロガバリンの有用性の検討
47巻6号(2020);View Description
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ミロガバリンは,2019年4 月から使用できるようになった新規の末梢性神経障害性疼痛治療薬である。しかしながら,がん疼痛に対する有効性と安全性についての報告はない。本研究の目的は,がん疼痛をもつ患者に対するミロガバリンの有効性と安全性を調査し検討することである。2019 年4~8 月の5 か月間に当施設の緩和ケアチームにおいて,オピオイドをタイトレーションしても十分な鎮痛が得られないがん疼痛に対してミロガバリンを使用した患者34 例を対象とした。有効の定義を,①持続痛のNRS が50%以上軽減した場合,または②突出痛に対するレスキュー薬の使用回数が50%以上減少した場合とした。その結果,ミロガバリンの有効率は88.2%であった。軽度の中枢神経系の副作用が2 例でみられたが,中止には至らなかった。本研究の結果から,ミロガバリンはがん疼痛に対して有効かつ安全に使用できることが示された。 -
Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Phase Ⅱ Study on the Efficacy and Safety of Vitamin K1 Ointment for Cetuximab or Panitumumab-Induced Acneiform Eruptions―VIKTORIA Study
47巻6号(2020);View Description
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目的: セツキシマブやパニツムマブなどの上皮成長因子受容体(EGFR)阻害剤に関連する皮膚障害は,治療の継続に大きな影響を及ぼす。今回,抗EGFR 抗体療法関連の座瘡様皮疹に対するビタミンK1(VK1)軟膏の有効性と安全性を評価した。方法: 本研究はVK1 軟膏とプラセボを比較したランダム化二重盲検第Ⅱ相試験である。患部の半分にVK1 軟膏を塗布し,対側にプラセボ軟膏を塗布した。1 日2 回8週間塗布し,2 週間ごとに写真と担当医による臨床評価を実施した。主要評価項目は,座瘡様皮疹の治療期間中に患部の写真を本研究参加者の治療に直接かかわらない皮膚科医によって数えられた座瘡様皮疹数のVK1/プラセボ比の変化で示した。結果:合計 30 人の患者が登録され,年齢の中央値は64(範囲31~78)歳であった。主要評価項目である座瘡様皮疹治療開始時と終了時の座瘡様皮疹の VK1 軟膏/プラセボ比の平均は,それぞれ-0.158±0.680,0.146±0.575であり,統計学的有意差を認めなかった(p=0.069)。VK1 軟膏またはプラセボ軟膏の塗布による副作用は認められなかった。結論: VK1 軟膏は,セツキシマブまたはパニツムマブでの治療関連の座瘡様皮疹に対する有効性を確認することはできなかった。今後,皮膚障害の治療法について検討するに当たって,VK1 濃度と皮疹の評価方法の再検討が必要と考える。 -
PER1 rs3027188 Polymorphism and its Association with the Risk of Colorectal Cancer in the Japanese Population
47巻6号(2020);View Description
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大腸がん(CRC)は多因子によって引き起こされるとされ,近年時計遺伝子多型と発がんとの関係が指摘されてきた。時計遺伝子の一つであるperiod gene(PER)は細胞周期をコントロールし,発癌プロセスにも影響を与えるとされることから,本研究ではperiod 1(PER1)の1 多型であるrs3027188多型とCRC との関連を検討した。121 人のCRC 患者と197 人の非CRC 患者を対象とし,末v血からdeoxyribonucleic acid(DNA)を抽出後,PCR-RFLP 法を用いてPER1(rs3027188)遺伝子多型を決定した。女性において G/G 多型の対象には C/C 多型の対象と比較して,有意な発症リスクの低下が示された[調整OR: 0.19(95%CI: 0.04-0.95)]。一方,喫煙状況で層化した場合,CRC とPER1(rs3027188)多型とに有意な関連は認められなかった。GアレルはCRC 発症リスク因子であることが示唆された。
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医事
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がん悪液質に関するWebアンケート調査 Japanese Evidence for Patients Of Cancer Cachexia(J-EPOCC) ① 食欲不振・体重減少に対する問題意識
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がんに伴う食欲不振・体重減少は,がん患者のQOL や全生存期間に悪影響を与えるため問題視されている。今回,「がんに伴う食欲不振・体重減少に対する問題意識」の明確化を目的に,医療従事者(医師・メディカルスタッフ)ならびに患者・家族を対象としたWebアンケート調査を実施した。結果,患者より家族のほうが食欲不振・体重減少を意識していることや,患者の半数近くがその症状を医療従事者に相談しておらず,医学的介入を受ける機会を逸していることが明らかとなった。また,医療従事者が食欲不振・体重減少への介入に積極的姿勢を示す一方で,その介入によって症状が改善したと回答した患者・家族の割合は低かった。今後,患者・家族に対して症状管理の重要性を啓発するだけでなく,医療従事者もその症状の変動に気を配っていくことが求められる。
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特別寄稿
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転移性膵癌に対する二次化学療法の新たな選択肢―ナノリポソーム型イリノテカン+フルオロウラシル/フォリン酸療法―
47巻6号(2020);View Description
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2019年現在,本邦における膵癌の死亡数は肝癌を上回る第4 位である。また,他の癌種と異なり疫学的に国内患者数は増加傾向を示していることや診断時の切除不能率が70%を占めることから,患者の予後改善やQOL 維持・改善のための化学療法の開発は重要な課題となっている。そのようななか,2015 年本邦に先行して欧州にてナノリポソーム型イリノテカン(nal-IRI)はゲムシタビン治療後に増悪した転移性膵癌に対し,フルオロウラシル+フォリン酸(FF)との併用で有効性を示すことが確認された。本療法の海外第Ⅲ相臨床試験NAPOLI-1では,FF 群と比して全生存期間の有意な改善が示された(中央値: nal-IRI+FF 群6.1か月vs FF 群4.2 か月,p=0.012)。このことから本試験は世界的に膵癌二次治療における重要なエビデンスとなった。一方,国内においては本療法の有効性・安全性を確認するため,第Ⅱ相臨床試験によりFF 群と比して本療法の無増悪生存期間(治験担当医師評価)の有意な延長が認められた(中央値: nal-IRI+FF 群2.7 か月vs FF 群1.5 か月,p=0.039)。本邦では2019 年7 月に膵癌診療ガイドラインの最新版が発行され,ゲムシタビン関連レジメン後の選択肢としてnal-IRI+FF 療法がステートメントに記載されることとなった。本稿では,この新しいnal-IRI+FF 療法の開発と関連情報について概説する。さらに,現在国内で開発されている膵癌の薬物療法とともに,本邦の膵癌薬物療法における本療法の位置付けと実臨床においてどのような期待がもたれているかについて述べる。
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症例
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小細胞肺癌に自己免疫性肝炎を合併した1 例
47巻6号(2020);View Description
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背景: 自己免疫性肝炎(autoimmune hepatitis: AIH)は自己免疫的機序により肝機能障害を呈する疾患で,肝細胞癌の合併が知られている。小細胞肺癌にAIHを合併した1 例を経験したため報告する。症例:患者は64 歳,女性。慢性咳嗽を主訴に受診し,小細胞肺癌と診断した。治療目的に入院したところ肝機能障害の増悪を認め精査の結果,AIHと診断した。ステロイドにより肝機能障害は改善したため,化学放射線療法(CDDP+ETP)を開始した。結論:小細胞肺癌とAIHを合併した症例の報告は検索した限りない。合併の意義は明らかではないが,腫瘍随伴症候群の可能性がある。 -
抗Hu抗体陽性の傍腫瘍神経症候群を伴った小細胞肺癌の3 症例
47巻6号(2020);View Description
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3 症例はいずれも60 代,男性。上肢や下肢のしびれを主訴に当院を受診した。診断に時間を要したが,抗Hu抗体陽性の傍腫瘍神経症候群(paraneoplastic neurological syndrome: PNS)を伴う小細胞肺癌(small-cell lung cancer: SCLC)と最終的に診断された。2 症例は初診時の胸部X 線写真で異常がなかった。また,2 症例は肺原発巣が小さいがゆえに通常の気管支鏡検査で診断が付かず,超音波気管支鏡下経気管支リンパ節穿刺法を他院に依頼し診断した。2 症例は化学放射線療法で腫瘍縮小効果を認めた。しかしステロイドや免疫グロブリンの投与,抗腫瘍治療を施行しても神経症状は3 症例いずれも改善しなかった。PNS の可能性がある神経症状を呈する症例では,抗Hu抗体検査や胸部computed tomography(CT),超音波気管支鏡検査などを積極的に施行することが,SCLCの早期診断と早期治療のために大切であると考えられた。 -
同時性両側男性乳癌の1 例
47巻6号(2020);View Description
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症例は71 歳,男性。増大する両側乳房腫瘤を自覚し,当院を受診された。精査の結果,ER(+),PgR(+),HER2(1+)の両側乳癌と診断し,両側乳房切除術+腋窩郭清術を施行した。術後は女性乳癌に準じて術後化学療法,放射線照射とホルモン療法を行った。男性乳癌は全乳癌の1%以下の頻度と報告され,さらに男性乳癌の同時性両側乳癌は文献検索でも数例しか報告を認めなかった。今回われわれは,同時性両側男性乳癌のまれな1 例を経験したので報告する。 -
胸腔内リンパ節転移を伴うHER2 陽性転移性乳癌に対して集学的治療を行い完全奏効となった1 切除例
47巻6号(2020);View Description
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症例は42 歳,女性。右乳房腫瘤と右乳房痛を主訴に当科紹介となった。針生検で硬癌,ER(+),PgR(+),HER2score 3+と診断され,PET-CT(FDG)にて右胸腔内リンパ節への集積を認め,cT2N1M1(LYM),Stage Ⅳの診断に至った。pertuzumab+trastuzumab+docetaxelを8 コース施行したところ臨床的CR(cCR)となり,右胸筋温存乳房切除術+腋窩郭清(level Ⅱ)を施行した。組織学的効果判定はGrade 3(病理学的CR: pCR)であった。その後放射線療法を行い,pertuzumab+trastuzumabを18 コース継続した後,trastuzumabの投与継続中であるが,術後23か月経過した現在,無再発生存中である。"oligometastasis"を伴うStage Ⅳ乳癌に対して,原発巣切除を含めた効果的な集学的治療を行うことで高い治療効果を得たものと考えられた。 -
食道胃接合部癌術後再発に対しRamucirumab+Nab-Paclitaxel療法施行中に胸部大動脈解離を発症した1 例
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症例は59 歳,男性。食道胃接合部癌に対して噴門側胃切除施行後(pT1b,pN0,pM0,pStage ⅠA),6 年目に局所再発,腹部大動脈周囲リンパ節転移,左副腎転移と多発骨転移を認めた。一次化学療法としてS-1+L-OHP 療法を12 コース施行したが,Th2-3 骨転移による下肢のしびれと麻痺が出現し,緊急放射線照射を施行した。二次化学療法としてramucirumab(RAM)+nab-paclitaxel(nab-PTX)療法を開始したが,3 コース目day 9 に頸部痛のため当院に搬送された。CTではStanford A 型の胸部大動脈解離を認め手術の方針となったが,手術室入室前に心筋梗塞を発症し死亡した。RAM使用中に胸部大動脈解離を発症した症例報告は,検索し得る限り認めなかった。一方,RAMと同様に血管新生阻害作用を有する分子標的治療薬であるbevacizumab(BEV)は,大動脈解離の報告が散見される。本症例は,RAMの投与が胸部大動脈解離発症に関与した可能性が否定できないと考えられた。 -
術後12年後に発症した残胃癌に対して化学放射線療法が著効した1 例
47巻6号(2020);View Description
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症例は59 歳,女性。前庭部小弯の0-Ⅱc 型胃癌に対して,200X年5 月に幽門側胃切除術,D2郭清が施行された。術後,病理組織学的結果は低分化腺癌,T2(SS),N2,H0,P0,CY0,M0,pStage ⅢAであった。術後補助化学療法としてS-1 内服を1 年間,計8 コース施行した。その後は無再発にて経過観察を行っていた。200X+12 年4 月に上部消化管内視鏡検査(EGD)にて吻合部に再発を疑う所見を認め,生検にて腺癌が検出され残胃癌と診断された。遠隔転移を認めず,根治的切除を試みたが術中所見で固有肝動脈への強固な浸潤を認め断念,吻合部狭窄もあったことから胃空腸バイパス術を施行した。その後,局所進行切除不能残胃癌として化学療法を開始した。一次治療としてS-1+oxaliplatin(SOX)療法を計3コース施行したが,画像上の縮小は得られなかった。局所治療としてcapecitabine(Cape)を併用した化学放射線療法(CRT)に変更した。結果,完全奏効(complete response: CR)が得られ,再発から約16 か月間経過したが,無再発生存中である。CRT 中,grade 3以上の有害事象は認めなかった。また,現時点で明らかな晩期有害事象も認めていない。本症例は局所進行切除不能残胃癌に対する治療としてCRT にて寛解が得られ,良好な経過が得られた。局所進行切除不能残胃癌に対する標準治療は存在せず,CRTは根治的治療オプションの一つとして示唆される貴重な症例と思われる。 -
進行大腸癌に対してCapeOX+Bevacizumab初回投与時に重篤な大動脈血栓症を発症した1 例
47巻6号(2020);View Description
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症例は61 歳,男性。上行結腸癌,腹膜播種[cT4a,N2,M1a(P),Stage Ⅳ]によるイレウスの診断にて右半結腸切除術を施行した。術後1 か月しCapeOX+bevacizumab 1 コース目を開始した。開始後7 日目に突然の腹痛・嘔気を自覚し,精査にて上行大動脈血栓,上腸間膜動脈(SMA)塞栓を認めた。bevacizumab投与を中止し,ヘパリン,ウロキナーゼにて血栓溶解療法を施行した。開始後15 日目,左中大脳動脈M1領域に脳梗塞を発症し,血栓回収術を施行した。ヘパリン,バイアスピリン,エドキサバントシル酸塩水和物で加療を行った。上行大動脈血栓,SMA 塞栓は消失し化学療法を再開したが,腹膜播種は増大し死亡した。bevacizumab初回投与後に予期せぬ重篤な大動脈血栓症を発症することもあり,注意すべきである。 -
大腸がん薬物療法であるmFOLFOX6 療法からFOLFIRI 療法へ変更後に末梢神経障害が増強したと考えられる3 例
47巻6号(2020);View Description
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大腸がん薬物療法であるmFOLFOX6 からFOLFIRI に変更後,末^神経障害が増強した症例を経験したため,状況や推移を比較・検討した。患者背景や末^神経障害の増強時期,薬剤の投与量などに共通点はなく,化学療法の変更自体が影響したと考えられた。化学療法における変更点はオキサリプラチンからイリノテカンに薬剤が切り替わった点であり,原因は不明であるがこの2 薬剤による何らかの影響が示唆された。今後,遺伝子変異を含めた検証が必要である。 -
Palbociclibが原因と考えられた薬剤性肺障害の1 例
47巻6号(2020);View Description
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症例は89 歳,女性。ホルモン受容体陽性HER2 陰性再発乳癌に対しfulvestrant+palbociclib 療法を開始した。約3か月後に呼吸苦が出現し,進行する呼吸不全のため入院した。palbociclib を原因とするびまん性肺胞傷害型薬剤性肺障害と診断した。ステロイド療法を開始し当初は改善を認めたが,ステロイド減量に伴い再燃し,ステロイド増量するも反応は乏しく,呼吸不全が進行し死亡した。palbociclib による肺障害はあまり知られていなかったが,致死的経過をとる危険のある副作用であり,今後注意が必要である。 -
クランベリージュースと経腸栄養剤の反応によるカード化について
47巻6号(2020);View Description
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多系統萎縮症(オリーブ橋小脳萎縮症)患者において,経鼻胃管による経腸栄養で半消化態栄養剤およびクランベリージュースを投与していたところ,食道内に多量の白色固形物を認めた。クランベリージュースと経腸栄養剤の反応で沈殿物が生じたため,栄養剤の蛋白含有量や成分,pH などの条件を設定し検証した。その結果,蛋白含有量やpHの低下により沈殿物が生じた。中性栄養剤では,原液の2 倍希釈までのクランベリージュースや酢との混合によりカード化し,胃・食道内に沈殿物を生じる可能性があり,投与後の物性変化を考慮することが重要である。
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