癌と化学療法
Volume 47, Issue 9, 2020
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投稿規定
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総説
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加齢と発がん
47巻9号(2020);View Description Hide Descriptionシーケンス技術の進歩により,正常組織において加齢に伴ってがんのドライバー変異が非常に小さなクローンサイズで認められることが報告された。正常食道では,発がんに先立って年少期のうちにNOTCH1 変異を主体とした食道がんのドライバー変異を獲得したクローンが多中心性に出現し,加齢に伴ってドライバー変異の数が増加するとともにクローン拡大を来し,高齢者では正常食道の大半がドライバー変異を有するクローンに置き換わっていた。その一方で,正常大腸では50歳台でも約1%の大腸陰窩にドライバー変異が存在している程度であり,正常肝細胞に至っては老化に伴う変異検出はまれであった。このように正常組織のドライバー変異のクローン拡大は組織間で大きく異なっており,加齢とがん化の全貌は未だベールに包まれたままである。
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特集
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- がん免疫療法のバイオマーカー探索
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肺癌における腫瘍浸潤リンパ球の末梢血によるモニタリング
47巻9号(2020);View Description Hide Description癌組織へ浸潤するリンパ球と予後との関係については,これまでに多くの報告がなされている。腫瘍浸潤リンパ球のなかにも,抗腫瘍免疫応答に直接かかわらない細胞や免疫抑制性に作用する細胞が存在することが知られている。ただし,腫瘍浸潤リンパ球解析の多くはCD3 T 細胞やCD8 T 細胞を対象としており,一般的には腫瘍浸潤リンパ球が多い場合には予後がよいと考えられている。腫瘍浸潤リンパ球の多くは抗腫瘍免疫応答の中心的役割を果たす細胞傷害性T 細胞と考えられ,腫瘍浸潤リンパ球が多い場合には免疫チェックポイント阻害薬が奏効しやすいことも報告されている。また,近年は免疫チェックポイント阻害薬による治療前後で,腫瘍浸潤リンパ球のT 細胞受容体レパトアのクローナリティが大きく変化することが報告されている。さらにその変化は末梢血にも生じていることがわかってきた。肺癌の治療においては抗PD‒1/PD‒L1 抗体だけでなく化学療法との複合療法も標準治療となり,それぞれの患者に最良の治療法を選択するためには癌局所の微小免疫環境を把握する必要があると考えられる。しかし実際の臨床においては十分な検体が採取できないことも多く,末梢血を用いて癌局所の微小免疫環境を探索することが期待される。このため腫瘍浸潤リンパ球だけでなく末梢血においても治療効果との関係やその変化を解析することは,今後の肺癌に対する末梢血でのバイオマーカーを研究開発するに当たり重要であると考えられる。 -
胃癌局所の微小環境からみた免疫治療のバイオマーカーの探索
47巻9号(2020);View Description Hide Description現在,胃癌に対して保険承認を得ている免疫療法は免疫チェックポイント阻害治療(immune checkpoint blockadetherapy)である。免疫チェックポイント阻害剤(immune checkpoint blockade: ICB)の効果は,癌局所において惹起されるT 細胞を中心とした免疫応答に左右される。これまでの臨床試験の結果から,癌局所に対する免疫反応が増強されれば予後を改善することは明白である。つまり癌局所の免疫応答を予測するバイオマーカーの開発が,今後の胃癌に対する免疫治療の意義を高めるであろう。バイオマーカー研究は,遺伝子解析技術の急速な発展に伴い臨床試験のデータ解析が可能になり,明らかに進んできた。本稿では,ICB のバイオマーカーについてこれまでにわかっている分子的バイオマーカーに加え,ICB 治療に影響を及ぼす細胞についても概説する。 -
免疫チェックポイント阻害剤使用におけるバイオマーカーの検討
47巻9号(2020);View Description Hide Description免疫チェックポイント阻害剤の登場により,がんの三大治療にパラダイムシフトを起こして,がん免疫療法が一躍がん治療の中心となった。一方で,大半のがん種において治療患者の約10~30%にしかその恩恵が得られないことが判明してきた。現在,さらなる治療効果の向上を期待して,免疫チェックポイント阻害剤を中心とした併用療法の臨床試験が2,000以上の数で行われている。今後は数多くの併用療法が臨床で使用できるようになり,幅広い選択肢が得られることになる。今後の治療選択において必ずしも相互の直接比較データが得られないことが予測されるため,その機序および患者状態に基づいた治療判断がよりいっそう強く求められる。また,治療効果を予測できるバイオマーカーの同定が期待される。本稿では,免疫チェックポイント阻害剤使用におけるバイオマーカー開発の現状と展望について述べた。 -
肝細胞癌の微小環境における腫瘍免疫と免疫チェックポイント阻害薬
47巻9号(2020);View Description Hide Description近年,免疫チェックポイント阻害薬の臨床試験が著しく進み,悪性黒色腫,肺癌,腎癌などですでに承認され,将来的に多くの癌での免疫チェックポイント阻害薬の使用が期待される。したがって,免疫療法の治療効果を予測するバイオマーカーの探索は急務であると考えられる。肝細胞癌においては,IMbrave 1₅₀ 試験でアテゾリズマブ+ベバシズマブ治療群がソラフェニブ治療群と比較して全生存率,無再発生存率で上回る成績が示され,切除不能な肝細胞癌治療のパラダイムシフトが起ころうとしている。本稿では,肝細胞癌の微小環境における腫瘍免疫の意義とバイオマーカーに関して概説する。
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Current Organ Topics: Upper G.I. Cancer 食道・胃癌
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原著
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オキサリプラチンを含む化学療法におけるアプレピタント,パロノセトロン,デキサメタゾンを用いた制吐療法の効果
47巻9号(2020);View Description Hide Description制吐薬適正使用ガイドラインにおいて,中等度催吐性レジメンに対するアプレピタント,パロノセトロン,デキサメタゾンを用いた制吐療法(3 剤併用制吐療法)が推奨されている。しかし本邦では,オキサリプラチン含有レジメンに対する有効性についてのprospective study は少ない。我々の研究では大腸癌初回がん化学療法患者₅2 名を登録し,3 剤併用制吐療法を適用して有効性と安全性を評価した。主要評価項目はCR 率およびCP 率とし,全期間,急性期,遅発期におけるCR 率はそれぞれ92.3%,98.1%,92.3%,全期間,急性期,遅発期におけるCP 率は73.1%,85.5%,73.1%であった。Grade 3 およびGrade 4 の非血液毒性は確認されなかった。これらの結果から,3 剤併用制吐療法はオキサリプラチン含有レジメンに対して有効かつ安全であると考えられた。 -
切除不能膵癌に対する集学的治療の経験
47巻9号(2020);View Description Hide Description切除不能膵癌(URPC)の一次療法としてgemcitabine+nab‒paclitaxel(GnP)療法やFOLFIRINOX 療法の出現により,URPC の治療成績は向上している。また,化学療法または化学放射線療法により奏効し,外科切除(conversion surgery:CS)により長期生存するURPC の報告が増えてきている。当科におけるURPC の治療成績とCS の適応について検討した。対象は2015 年1 月~2018 年10 月までに一次治療としてGnP 療法またはFOLFIRINOX 療法を施行されたURPC 36例を対象とした。レジメンはGnP 療法35 例,FOLFIRINOX 療法1 例であった。年齢中央値68.0 歳,男性17 例/女性19例,腫瘍局在は頭部28 例/体尾部8 例であった。切除不能因子はUR‒LA 21 例/UR‒M 15 例であった。36 例中9 例(25.0%)にCS が施行された。CS 施行例の2 年生存率は53.3%で,CS 非施行例の2 年生存率は34.1%であり,CS 施行例の予後がよい傾向にあったが有意差は認めなかった(p=0.141)。当科のCS 症例では術前化学療法の期間が短い症例,腫瘍マーカーが正常化していない症例で早期再発例が存在した。治療効果を認めている場合は,術前治療期間を延長することでよりCSに適した症例を選別できると考えられた。
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薬事
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大気中に浮遊する抗がん薬の微粒子を検出するためのフィルター抽出法の検討
47巻9号(2020);View Description Hide Description抗がん薬曝露調査の新たな手法として,施設内の空調設備である排気ダクトの排気口にフィルターを設置し,そのフィルターに吸着した微粒子から抗がん薬を回収・測定する方法(フィルター抽出法)の有用性を評価した。外来化学療法室内の3 か所において,約5 か月間フィルター抽出法を実施した。その結果,シクロホスファミドおよび5‒フルオロウラシルが3 か所で検出された。各調査場所では,調製・投与・排泄や薬剤の性状などの要因が関与したことが考えられ,検出量・検出薬剤比率にも違いがみられた。フィルター抽出法は,空気をサンプルとした抗がん薬汚染調査として簡便に実施可能な手法である。また,吸入を介した医療従事者の抗がん薬の職業性曝露について調査できる。したがって,フィルター抽出法は新たな環境モニタリングの一つとして有用であることが示唆された。 -
胃癌におけるトラスツズマブバイオ後続品の有効性と副作用の評価
47巻9号(2020);View Description Hide Descriptionバイオ後続品は製造工程の違いにより糖鎖付加の翻訳後修飾が異なるため,市販後の評価が重要である。本研究では,トラスツズマブ併用がん薬物療法を投与した胃癌患者1₅ 例を後方視的に調査した。併用がん薬物療法はS⊖1+oxaliplatin が最も多く,有効性と有害事象の評価レジメンとした。先行バイオ医薬品投与群とバイオ後続品投与群において無増悪生存期間の統計学的有意差は認められなかった。有害事象は,先行バイオ医薬品投与群,バイオ後続品投与群ともに同様であった。トラスツズマブ先行バイオ医薬品からバイオ後続品に切り替えた₆ 例では,切り替え前後の有害事象に変化は認められなかった。本報告は少数例での後方視的調査であるが,有効性と有害事象において先行バイオ医薬品とバイオ後続品に違いは認められなかった。 -
パルボシクリブの重篤な好中球減少に対して投与量調節によるRDI の維持が治療期間に及ぼす影響
47巻9号(2020);View Description Hide Description手術不能または再発乳がんに対してパルボシクリブ+内分泌療法剤併用療法が開始された₅₄ 例を対象とし,1 コース目におけるGrade ₃ 以上の重篤な好中球減少の発現状況を調査し,様々なリスク因子が治療継続性へ及ぼす影響を検討した。その結果,Grade ₃ 以上好中球減少群は,Grade ₂ 以下好中球減少群と比較して1 コース目における相対用量強度(RDI)が有意に低かった。また,Grade ₃ 以上好中球減少群の治療成功期間は,Grade ₂ 以下好中球減少群よりも有意に長かった。1コース目での好中球減少の重症度が治療継続性に寄与する可能性があること,またGrade ₃ 以上の好中球減少が発現した場合においても適切なRDI を維持し,パルボシクリブを継続投与することが治療効果向上に重要であることが示唆された。
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症例
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Olaparib 投与により間質性肺炎を発症した1 例
47巻9号(2020);View Description Hide DescriptionPoly(adenosine diphosphate‒ribose)polymerase(PARP)阻害剤であるolaparib の有害事象として嘔気や嘔吐,貧血は知られているが,間質性肺炎の報告はほとんどない。今回,olaparib 投与後に間質性肺炎を発症した1 例を報告する。症例は34 歳,女性。2018 年3 月に右乳癌(T2N1M1,Stage Ⅳ,多発肺転移)の診断でepirubicin/cyclophosphamide 療法,paclitaxel 療法を行った。2018 年11 月に多発脳転移,脊髄転移の診断となり,全脳照射,脊髄照射を行った。遺伝子検査でBRCA1 病的変異が明らかとなり,2018 年12 月よりolaparib を開始した。olaparib 開始6 週間後に貧血が出現,さらに間質性肺炎を認めた。入院の上,ステロイドを含んだ集学的治療を行い軽快退院した。現在は外来でCMF 療法を行っている。乳癌に対するolaparib の有害事象として,まれではあるが間質性肺炎も考慮する必要がある。 -
感染性肺囊胞の治療後に発症した肺多形癌の1 例
47巻9号(2020);View Description Hide Description症例は喫煙歴のある54 歳,男性。左肺尖部の感染性肺囊胞に対して長期間の抗菌薬治療が行われた。囊胞は徐々に縮小し,胸膜肥厚を残すのみとなった。約1 年後に左背部痛が再燃し,胸膜肥厚の急速な増大を認めた。左上葉切除術によって多形癌と診断された。感染症による慢性炎症は発癌に関連し得るため,炎症後変化に対しては慎重な経過観察を要する。 -
集学的治療を行った食道胃接合部癌と濾胞性リンパ腫の同時性重複癌の1 例
47巻9号(2020);View Description Hide Description症例は59 歳,女性。検診の上部消化管造影検査にて胃噴門部の異常を指摘された。近医にて上部消化管内視鏡検査を施行したところ食道胃接合部癌が疑われ,当院精査加療目的に紹介となった。局所診断はMP 以深で,全身検索ではCT およびPET 検査にて小腸間膜リンパ節の腫大および異常集積を認めた。食道胃接合部癌および腹膜播種も考え審査腹腔鏡から開始した。術中所見で小腸間膜のリンパ節腫大を認めた。術中迅速病理診断ではリンパ腫が示唆されたため,予定どおり胃全摘術を施行した。最終病理組織学的診断は食道胃接合部癌と濾胞性リンパ腫となり,術後補助化学療法として胃癌に準じてS-1 を開始した。 -
術後再発に対するペムブロリズマブ投与後,遠隔期に急性肺臓炎を発症した1 例
47巻9号(2020);View Description Hide Description術後再発に対してペムブロリズマブ投与21 か月後に遠隔期に急性肺臓炎を発症した比較的まれな1 例を経験したので報告する。症例は80 歳,男性。原発性肺癌のため右下葉切除(ND2a‒2)を施行し,扁平上皮癌,pT2bN2M0,stage ⅢA,完全切除であった。術後6 か月後に縦隔リンパ節(#2R),両側多発肺内転移,多発肝転移を認め,PD‒L1 発現は70%であったためペムブロリズマブ単剤(3 週毎投与)を開始した。3 コース目投与後効果判定で部分奏効維持となっていたが,28 コース目(投与開始21 か月後)に急性肺臓炎(Grade 3)を発症したため,ペムブロリズマブを中止しプレドニゾロン50 mg/日を投与開始した。間質性陰影は消失傾向を示したため,プレドニゾロンを約2 か月かけて漸減させた。現在,経過観察中でペムブロリズマブ中止後6 か月経過しているが,病勢進行を認めていない。 -
術後早期に肺転移を来したAFP 産生食道胃接合部癌の1 例
47巻9号(2020);View Description Hide Description症例は51 歳,男性。肝機能障害の精査で指摘された食道胃接合部癌に対し,開腹胃全摘術を施行した。術後病理診断でalpha⊖fetoprotein(AFP)産生腫瘍と診断された。術後1 か月のCT で肺転移を認め,血清AFP 値の軽度上昇を認めた。全身化学療法を開始したが,肝機能障害増悪による著明な腹水貯留,発熱性好中球減少症と吐血,下血などの有害事象のため継続が困難となり,術後₄ か月で死亡した。AFP 産生食道胃接合部癌は予後不良であり,術後早期に転移再発を来す場合もある。 -
ペムブロリズマブ単剤療法が奏効した超高齢者切除不能進行胃癌の1 例
47巻9号(2020);View Description Hide Description症例は96 歳,男性。食後のつかえ感を主訴に近医を受診し前庭部の進行胃癌の診断であったが,二つの病院で手術不能とされた。数か月後,食事摂取不能となり精査加療目的に紹介となった。上部消化管内視鏡検査(gastrointestinal fiberscopy:GF)では前庭部から幽門輪にかけて全周性の3 型病変が認められ,十二指腸球部に浸潤を認めた。手術所見では胃前庭部から十二指腸球部・肝門部は一塊となり,骨盤底に播種結節も認められたため,切除不能と判断し開腹胃空腸吻合術を施行した。高頻度マイクロサテライト不安定性(microsatellite instability‒high: MSI‒High)を有する症例であり,術後ペムブロリズマブ単剤療法を施行し,腫瘍は著明に縮小した。近年,平均寿命の延長とともに超高齢者のがん患者も増加してきているが,高齢者切除不能進行胃癌に対する標準治療は未だ確立されていない。今回われわれは,ペムブロリズマブ単剤療法が奏効した超高齢者切除不能進行胃癌の1 例を経験したため,文献的考察を加えて報告する。 -
集学的治療により長期生存を得られた肝転移を伴う膵頭部癌の1 例
47巻9号(2020);View Description Hide Description症例は71歳,女性。肝機能障害にて当院を紹介受診した。膵頭部腫瘤による下部胆管狭窄と胆汁細胞診陽性から膵頭部癌と診断した。開腹時,肝に₂ 個の小結節を認め,迅速病理にて肝転移と診断した。術後S⊖1 を開始した。CT 上,膵頭部腫瘍の増大や遠隔転移を認めず,PET⊖CT 検査にて膵頭部腫瘍への集積を認めなかったためS⊖1 を中止し経過観察した。膵頭部腫瘍の増大を認めたが遠隔転移は認められず,初回手術₂ 年₅ か月後に膵頭十二指腸切除術を施行した。初回手術後₄ 年₉ か月,無再発生存中である。集学的治療により長期生存が得られた肝転移合併膵頭部癌はまれであり報告する。 -
腹腔鏡下肝切除術中の混合性アシドーシスによりDIC を来した1 例
47巻9号(2020);View Description Hide Description症例は81 歳,男性。結腸癌[S,type 2,pT3(SS),INF a,Ly0,V0,BD1,Pn0,pPM0,pDM0,RM0,pN0,pM0,pStage Ⅲa,R0,Cur A]に対して腹腔鏡下S 状結腸切除術を施行した。1 年後に施行した血液検査にてCEA 68.9 ng/mL と高値を認め,腹部造影CT 検査で肝S4 に30×30 mm 大の辺縁造影効果を示す腫瘤を認めた。PET‒CT 検査で同部位にSUVmax 19.0 の集積を認め転移性肝腫瘍の術前診断となり,腹腔鏡下肝内側区域切除術を施行した。手術開始から高乳酸血症による代謝性アシドーシスが進行していた。肝切離終了後より肝切離面からの出血が徐々に増加した。顔面から体幹部,大腿に広がる皮下気腫を認め,血液検査でpH 7.172,PaCO2 71.0 mmHg,乳酸67 mg/dL と混合性アシドーシスであると同時にD‒ダイマーが118 μg/mL と播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation: DIC)を来していた。腹腔鏡下では止血困難と判断し開腹移行し,ガーゼパッキングにて手術終了とした。腹腔鏡下肝内側区域切除術中に高二酸化炭素血症に伴いアシドーシスが増悪し,DIC へ進展した1 例を経験した。 -
多発進行直腸癌に対し術前化学療法施行後,完全奏効となった1 例
47巻9号(2020);View Description Hide Description症例は70 歳,男性。排便困難を主訴に当院を受診した。下部消化管内視鏡検査,胸腹部造影CT 検査にて多発直腸癌(RS,Rb),多発肺転移,T3N1bM1a,cStage Ⅳa と診断した。全身化学療法(CapeOX+BV 療法: ₆ コース)施行後の評価にて直腸病変の著明な縮小を認め,肺病変は陳旧性結核であった。腹腔鏡補助下低位前方切除術+回腸人工肛門造設術を施行した。病理組織学的検査において直腸両病変ともに腫瘍の残存およびリンパ節転移を認めず,組織学的効果判定はGrade3 であり,病理学的完全奏効と診断した。現在,術後1 年が経過し無再発生存中である。CapeOX+BV 療法による術前化学療法は,局所進行直腸癌に対して有効な治療法となる可能性がある。 -
対側リスク低減乳房切除術を行い非浸潤性乳管癌が発見された遺伝性乳癌卵巣癌症候群の1 例
47巻9号(2020);View Description Hide Description症例は30 歳台,女性。第1 子出産後,右乳腺腫瘤を主訴に当院を受診した。右浸潤性乳管癌,Luminal⊖B type,T3N3cM₀,stage Ⅲc と診断した。術前化学療法施行中に遺伝カウンセリングおよび遺伝学的検査を施行し,BRCA1 およびBRCA2 の病的変異が判明した。化学療法後,右乳房全摘,腋窩リンパ節郭清術を施行した。術後2 年,左乳房の対側リスク低減乳房切除術(CRRM)を希望されたため全身CT,乳房MRI にて対側病変や遠隔転移がないことを確認し,CRRMを施行した。術後病理結果で,非浸潤性乳管癌を₅ か所に認めた。本症例のように遺伝性乳癌卵巣癌症候群では,リスク低減乳房切除術を行うことで初期病変が発見されることも考慮すべきと考えられた。 -
終末期のVasoactive Intestinal Peptide 産生腫瘍による難治性水様性下痢にアヘンチンキが奏効し点滴が中止となって在宅復帰可能となった1 例
47巻9号(2020);View Description Hide Description症例は77 歳,女性。血管作動性腸管ポリペプチド(vasoactive intestinal peptide: VIP)産生腫瘍による難治性下痢と繰り返す意識障害のため,点滴加療の継続が必要で当院に転院となった。アヘンチンキの内服によって,点滴,カリウム補正,オクトレオチドの持続静注,ロペラミドは中止することができた。アヘンチンキ内服中止後も止痢作用は持続し,在宅復帰が可能となった。アヘンチンキは終末期の難治性下痢の症状緩和に有効な手段の一つと考えられた。
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