癌と化学療法

Volume 48, Issue 2, 2021
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投稿規定
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総説
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がん関連静脈血栓塞栓症の基礎と臨床
48巻2号(2021);View Description
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がん患者,特に活動性がん患者は静脈血栓塞栓症(VTE)発症リスクが高い。凝固能の亢進,内皮細胞障害,血流のうっ滞といったVirchow の三徴ががんの進行・治療経過に伴い重なりやすいためである。がん細胞表面の組織因子による凝固活性化に加え,血小板の活性化や局所の炎症の影響による抗血栓性の低下などが原因といわれている。がん自体の凝固活性化に加え,手術や化学療法などの治療介入がさらにリスクを上げる。治療は抗凝固療法が主体となるが,ワルファリンは薬物相互作用や消化器症状のためコントロールが難しく,海外では低分子量ヘパリンが標準治療となっている。がん患者の抗凝固療法は再発リスク・出血リスクが非常に高い。最近は新規経口抗凝固薬(DOAC)による治療が行われている。DOACの特徴として消化管出血が増加することを認識し,抗がん剤・鎮痛薬などとの薬物相互作用に関して十分安全性を考慮して投与することが重要である。
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特集
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- 蛍光イメージングと癌治療
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蛍光イメージングによる抗体医薬の創薬支援および薬効予測診断
48巻2号(2021);View Description
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蛍光イメージングは分子や細胞の可視化においてとても有用な方法であるが,組織を計測対象とした場合,「組織厚に比例した光の散乱・吸収の増加による分解能低下(課題1)」や「組織自家蛍光による陽性信号のS/N 比の低下(課題2)」が解決すべき問題となっている。本稿では,創薬の前臨床試験における薬効機序の解析精度を高める技術開発を目的として,課題1 を解決しつつ,生きた腫瘍組織のイメージングによる抗体薬物複合体の創薬支援技術開発を行った。この技術は創薬成功率の改善につながることが期待される。次に抗体医薬を用いた乳がんの術前薬物療法の奏効性を投薬前に予測する診断法開発を目的として,課題2 を解決しつつ,超高輝度蛍光ナノ粒子を用いた病理組織の蛍光イメージング技術の開発を行った。この診断技術は,薬物の標的蛋白質の発現量を高い定量性と広い検出感度で評価することを可能としている。これにより薬効予測の確度が向上するため,抗体医薬の効果が低いと予想された患者は異なる作用機序をもつ抗がん剤を選択することが可能となる。以上のように,本研究成果は薬剤開発精度の改善による創薬コストの削減や個別化医療の向上につながり,プレシジョン・メディシンの発展に大きく貢献できると考えられる。 -
Activatable 型蛍光プローブによるがん迅速蛍光イメージング
48巻2号(2021);View Description
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本稿では,筆者らが確立した独自の蛍光プローブ精密設計法を活用して開発した,がん部位を見分けて蛍光特性が大きく変化するactivatable 型蛍光プローブによる新規がん迅速イメージング技術を紹介する。がん部位でその活性が亢進していることが報告されている酵素をターゲットとするプローブを開発する,あるいは開発したプローブ群のなかから実際の臨床検体を活用して最適なプローブをスクリーニングによって見いだす戦略で,がんが疑われる部位に散布するだけで数分以内にがん部位が選択的に検出可能とさせる医療技術がこれまでに多数誕生した。さらにごく最近,複数のターゲット酵素活性の同時イメージングにより病変部位の可視化だけでなく,病変部位の悪性,良性を区別することも可能であることも明らかとなり,術者が治療すべきがん部位を明確に判断し,的確な内視鏡下・外科手術が可能となる日も近いことが大いに期待される。 -
肝癌手術における蛍光イメージング
48巻2号(2021);View Description
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肝胆道外科領域では,indocyanine green(ICG)の蛍光特性と胆汁排泄性を利用して術中蛍光イメージングで肝外胆管の解剖や肝癌の位置,肝区域境界を描出することができる。これらの技術の多くは本邦で開発され,開腹および腹腔鏡下手術用イメージング装置の性能向上と普及に伴って国内外で広く活用されるようになった。今後,蛍光プローブが肝癌に集積する性質を術中診断だけでなく,直接的な治療に応用する新技術が開発されることが期待される。 -
脳腫瘍の術中蛍光イメージング
48巻2号(2021);View Description
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悪性神経膠腫は極めて浸潤性の強い腫瘍であり,重要な神経機能の障害を来すことなく可及的に腫瘍を摘出するためには正確な腫瘍組織の同定が必要である。そのための手段の一つが術中蛍光イメージングであり,白色光下での通常の手術用顕微鏡では識別できない腫瘍と正常脳との境界をreal time に示してくれる。脳腫瘍に対する術中蛍光イメージング目的で多くの蛍光色素が報告されているが,国内で薬事承認されているのは5-aminolevulinic acid(5-ALA)だけである。内服投与により,5-ALA が腫瘍細胞内で代謝されて生じるprotoporphyrin Ⅸの蛍光(励起光は405 nm 中心,635 nm ピークの赤色蛍光を発する)を観察する。腫瘍細胞密度,増殖率,血管密度などと相関するとされ,ドイツでの多施設ランダム化比較試験では,5-ALA を使用した場合は白色光に比較して腫瘍摘出率は上昇し6 か月での無増悪生存期間は有意に延長したが,全生存期間には有意差がなかった。その他の蛍光物質として,fluorescein sodium,indocyanine green,talaporfinsodium などについても概説する。
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Current Organ Topics:Gynecologic Cancer 婦人科癌2021
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原著
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Survey of the Time‒Onset Profiles of Nedaplatin‒Induced Adverse Events in Head and Neck Cancer Therapy
48巻2号(2021);View Description
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目的: シスプラチン(CDDP)は頭頸部癌患者におけるキードラッグであるが,腎不全を含む重篤な有害事象を発症することが知られている。一方,ネダプラチン(CDGP)は本邦で開発された白金系の抗がん剤であり,ハイドレーションを必要としないというメリットを有する。しかしながら,類薬であるCDDP と比べ諸外国における使用実績が少なく,安全性に関する情報が十分とはいえない。そこで本研究ではCDGP が含まれる頭頸部癌治療において有害事象の発現時期を明らかにし,安全性に配慮した治療を行うため調査した。方法: 2012 年4 月~2015 年3 月に昭和大学病院でテガフール・ギメラシル・オテラシル(S‒1),CDGP および放射線の併用療法を受けた患者38 名(男性32 名/女性6 名)を対象として検査値異常(WBC,Hb,Plt,SCr,Alb)および口腔粘膜炎に関して診療録などを用いて後ろ向きに評価した。有害事象のgrade はCTCAE v5.0 を用いて評価し,最も重篤となった時期までの日数および回復までの期間を中央値(範囲)で示した。結果:対象患者38 名では,Plt は放射線照射量として中央値40(30~70)Gy に最低値を示し,WBC も同様の経過であった。一方で,Hb は中央値60(40~70)Gy に最低値を示し,同時化学放射線療法(CCRT)開始から一貫して低下する傾向を認めた。Alb およびSCr 値への影響はCCRT との間に特徴的な傾向は認められなかった。口腔粘膜炎のgrade の最低値は,中央値50(10~70)Gy あった。考察: 本研究では,S‒1,CDGP,放射線併用療法の開始後のおおよそ3 週間程度(40 Gy)で口腔粘膜炎の増悪とWBC およびPlt の減少を認めた。医療スタッフは重篤な有害事象が重なる時期に患者を注意深くモニタリングし,副作用発現の予防に努める必要があると考える。
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症例
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既治療の肺扁平上皮癌においてニボルマブ投与後のドセタキセル+ラムシルマブ併用療法が奏効した1 例
48巻2号(2021);View Description
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ニボルマブ投与後のドセタキセル+ラムシルマブ併用療法で良好な結果が得られたため報告する。症例は62 歳,男性。原発性肺扁平上皮癌のため右上葉切除ND2a-2 を施行,術後病理病期はpT1bN₀M₀,stage IA2 であった(PDL-1 陰性)。術後1 年8 か月後に右側孤立性胸膜転移巣に外科治療を行った。術後2 年後に右胸膜播種を認め,シスプラチン+ナベルビンを4 コース投与したが病勢増悪となった。二次治療としてニボルマブを5 コース投与したが,病勢増悪および有害事象(破壊性甲状腺炎)のため中止となった。三次治療としてドセタキセル+ラムシルマブ投与を開始し完全奏効が得られたため,計1₂ コース投与したが(術後3 年5 か月/再発2 年5 か月)急性肺臓炎を発症し,現在ステロイド維持療法および在宅酸素管理下で緩和医療となっている。 -
ソラフェニブ治療と肝動注化学療法の逐次療法が奏効したと考えられた術後再発多発性肝細胞癌の1 例
48巻2号(2021);View Description
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症例は70 代,男性。肝S₆ 領域の肝細胞癌に対する肝右葉切除術施行後11 か月目に多発性肝細胞癌が再発した。肝動注化学療法を行うも不応となり再発1₀ か月後から11 か月間,ソラフェニブ治療(400 mg/日,経口投与)と肝動注化学療法(low-dose FP: 5-FU 250 mg+CDDP 5 mg/body/日,週5 日投与・4 週施行)の逐次療法を二度繰り返したところ有効であったが,再発24 か月目に呼吸不全で死亡した。剖検の結果,肝細胞癌の大部分は壊死を呈し,同療法が奏効したと考えられた。 -
Paclitaxel‒Ramucirumab 療法による化学療法中に特発性脊髄硬膜外血腫を来した胃癌の1 例
48巻2号(2021);View Description
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症例は68 歳,女性。胃癌の診断で当院に紹介となった。胸腹部CT 検査で所属リンパ節のbulky 腫大により術前S‒1+oxaliplatin(SOX)療法を4 コース施行したが,リンパ節の縮小は認めなかった。幽門側胃切除,D2 リンパ節郭清を行いRoux‒en‒Y 法で再建した。病理結果はpor2,ypT4a,INF c,Ly1c,V1b,ypN3b(35/58),HER2(-)でypStageⅢc であった。退院後paclitaxel‒ramucirumab 療法を開始した。3 コース施行後,自宅にて突然後頸部痛と四肢の脱力を自覚し,当院に救急搬送となった。頸部MRI 検査で頸髄C2~C5 に硬膜外血腫を認め,脊髄硬膜外血腫の診断で入院となった。搬送時,四肢の軽度の麻痺症状を認めたが,入院後徐々に改善した。MRI で血腫の縮小を認め退院となった。ramucirumabのような血管新生阻害剤の使用中は,特発性脊髄硬膜外血腫などの有害事象も考慮に入れる必要がある。 -
高齢フレイル患者の切除不能進行大腸癌に対し一次治療としてベバシズマブ併用トリフルリジン・チピラシル塩酸塩療法を行った1 例
48巻2号(2021);View Description
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既存の標準治療に抵抗性となった切除不能進行大腸癌に対するベバシズマブ併用トリフルリジン・チピラシル塩酸塩(TFTD)療法の安全性と有用性が報告されているが,一次治療で高齢フレイル患者に使用した報告はない。症例は85 歳,女性。X 年1 月中旬より食欲不振が出現し,多発遠隔転移と腹水を伴うS 状結腸癌と診断された。全身状態の低下を認め,ECOG performance status(PS)4 であった。人工肛門造設術後にTFTD を開始し,2 コース目以降はベバシズマブ療法を併用し,外来で化学療法を継続した。9 コース投与後に肝転移の増悪を認めたが,9 か月間にわたって病勢コントロールが可能であった。現在はPS 0 まで改善し,ベバシズマブ併用mFOLFOX6 療法(80% dose)を投与中である。本治療法は高齢フレイル患者の切除不能進行大腸癌に対する一次治療として有用と思われた。 -
大腸癌治療に対して皮下埋め込み型中心静脈ポート挿入後に重力によるカテーテル逸脱が原因で内頸静脈血栓を来した1 例
48巻2号(2021);View Description
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症例は66 歳,女性。S 状結腸癌,Stage Ⅲa に対する術後補助化学療法のため皮下埋め込み型中心静脈ポートを挿入した。2 サイクル目開始時に頸部違和感を認めCT 検査を施行したところ,カテーテル逸脱と内頸静脈に血栓を認めた。乳房の重力により変位したことがカテーテル逸脱を来し,カテーテル先端の位置が静脈弁の直上まで逸脱したことが血栓形成の原因になったと考えられた。カテーテル逸脱の原因となり得る要因について検討した。
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特別寄稿
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- 第42回 日本癌局所療法研究会
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Conversion Therapy を施行した多発肝肺骨転移を伴う進行胃癌の1 例
48巻2号(2021);View Description
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近年,胃癌に対するconversion therapy を施行した報告が散見され,R0 切除が可能であった場合,生存期間の延長が認められるとの報告がある。今回,多発肝肺骨転移を来した進行胃癌に対しconversion therapy を施行した1 例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する。症例は70 歳台,男性。腹痛を主訴に近医を受診し,精査の結果,胃癌,傍大動脈リンパ節転移,多発肝肺骨転移の診断を得た。cT4aN3bM1(HEP,LYM,PUL,OSS),cStage ⅣB(DISH 法でHER2/CEN17 比=9.5 にてHER2 陽性)であり,切除不能胃癌の診断にて初診から3 か月後よりcapecitabine+cisplatin+trastuzumab療法を開始した。計6 コース施行後の画像検査では傍大動脈リンパ節,肝肺骨転移は不明瞭化しており,手術について検討する目的で当科を受診した。化学療法後の病期は,ycT3N2M0,ycStage Ⅲと考えられ治癒切除可能と判断し胃全摘術,胆囊摘出術を施行した。病理組織学的検査所見にてpT2N1M0,pStage ⅡB の診断であり,化学療法の効果判定はGrade2b であった。Clavien‒Dindo 分類Grade Ⅱの創感染を認めたが,軽快し術後14 日目に退院した。退院後紹介医で術後補助化学療法を施行し,術後11 か月無再発生存を得ている。 -
甲状腺乳頭癌を合併した若年女性家族性大腸腺腫症の1 例
48巻2号(2021);View Description
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家族性大腸腺腫症(familial adenomatous polyposis: FAP)は常染色体優性遺伝性疾患であり,大腸以外の他臓器に様々な随伴病変を発生する。若年女性では甲状腺乳頭癌のリスクが一般集団に比べ高いことが知られている。しかし血縁者など母子間での発症についてはほとんど報告されていない。今回,母親と同様に甲状腺乳頭癌を発症した若年女性FAP の1例を経験したので報告する。症例は15 歳,女性。頸部の超音波およびCT 検査で最大径1₇ mm,右葉に4 か所,左葉に1か所の腫瘤性病変を認めた。穿刺吸引細胞診の結果,乳頭癌と診断された。下部消化管内視鏡検査では多発するポリープを認め,FAP の診断となった。甲状腺亜全摘術を施行し,組織学的にはcribriform⊖morular variant of papillary thyroid carcinomaであった。本症例はFAP に合併した甲状腺乳頭癌の若年発症でかつ母子発生症例であり,貴重な症例と考えられたので報告する。 -
内・外肛門括約筋への照射を回避した上下部直腸癌に対する治療法の工夫
48巻2号(2021);View Description
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背景: 当科では内・外肛門括約筋への照射が不要な症例に対し,内・外肛門括約筋への照射を回避した術前CRT+手術治療が計画的に施行できるかについて前向きに検討した。対象と方法: 2013~2017 年の間に研究に対して同意の得られた腫瘍下縁が肛門管上縁から2 cm 以上口側にあり,内・外肛門括約筋への照射が回避可能なT3T4N0-2 の直腸癌に対し術前CRT+TME を施行した12 例を対象とした。腫瘍下縁から2 cm 離れた直腸粘膜に全周性にクリッピングし,放射線照射野の下縁とした。手術は照射終了後₆~₈ 週目に施行した。primary endpoint は内・外肛門括約筋温存根治術の遂行率とした。結果: Grade 3 以上の有害事象は認めず,全例でプロトコールどおりの治療が完遂できた。内・外肛門括約筋温存は全例可能で,5 年無再発生存率46.7%,5 年局所無再発生存率75%,5 年全生存率は90.9%であった。結語: 内・外肛門括約筋への照射を回避する方法は選択された直腸癌に対し,計画的に施行できることが確認できた。 -
術前化学放射線療法後に腹腔鏡補助下骨盤内臓全摘術を完遂した直腸癌吻合部再発の1 例
48巻2号(2021);View Description
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症例は69 歳,男性。Ra 直腸癌に対し他院にて腹腔鏡補助下高位前方切除術を施行後,術後14 か月で吻合部再発と診断された。骨盤部MRI 検査で前立腺,精囊への浸潤が疑われ,外科的剝離面の担保を目的としてNACRT(50.4 Gy/28 Fr,SOX: oxaliplatin 60 mg/m2 day 1,8+S-180 mg/m2併用)を施行後,腹腔鏡補助下骨盤内臓全摘術を施行した。前立腺浸潤,精囊浸潤は残存していたが腫瘍は縮小を認め,肛門挙筋および膀胱も合併切除することにより外科的剝離面の確保が可能であった。術前診断はycT4b,N0,M0,ycStage Ⅱ,病理組織学的所見ではpT4b(前立腺,精囊),INF b,Ly2,v2,Pn1b,pPM0,pDM0,pRM0,pN0 であった。術後補助化学療法を施行後,術後6 か月で肺肝転移が出現したが局所再発は認めず,化学療法にて転移巣は制御されており,術後17 か月生存中である。 -
単孔式腹腔鏡下結腸部分切除・体腔内吻合術で切除し得た下行結腸癌術後吻合部再発の1 例
48巻2号(2021);View Description
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症例は60 代,男性。8 年前に他院で下行結腸癌に対して左結腸動脈切離を伴う腹腔鏡補助下結腸部分切除術を施行され5 年間無再発で終診となったが,便潜血反応陽性の精査から亜全周性吻合部再発の診断となり当科に紹介受診となった。臍部3 cm の正中切開を置いて単孔式腹腔鏡下で手術を開始し,癒着剝離に続いて中結腸・下腸間膜動静脈を温存しつつ吻合部周囲腸管を体腔内で切離し体腔外に回収し,体腔内吻合に移行した。切離腸管腸間膜付着部対側断端直下の壁に小孔を設け,支持糸で腸管を横に並べて断端から自動縫合器を腸管内に挿入し切離,挿入孔に支持糸を追加し挙上し,同部位を縫合器で切離,切離線を漿膜筋層縫合で補強した。手術時間390 分,推定出血量は60 g であった。術後経過は良好で術後8 日目に退院となった。腸管長や血管による張力が律速段階となり得る手術において,単孔式腹腔鏡下結腸部分切除・体腔内吻合術は有効な方法となり得ると考えられた。 -
早期胃癌に対するESD 後に追加胃切除術を行った81 症例の臨床病理学的検討
48巻2号(2021);View Description
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当科では原則として内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection: ESD)非治癒切除症例に対し,リンパ節郭清を伴う胃切除術(radical surgery: RS)を行ってきた。今回,ESD 術後胃癌症例に対して2009 年5 月~2019 年4月までの10 年間にRS を行った81 症例に対して臨床病理学的に検討した。リンパ節転移(lymph node metastasis: LNM)を5 例に認め,癌遺残(local cancer residue: LCR)を8 例に認めた。LNM およびLCR の有無を病理学的因子[組織型,腫瘍径,脈管侵襲,断端因子,潰瘍(瘢痕),壁深達度]ごとに検討すると,LNM について有意差があったリスク因子はなかったが,LCR については腫瘍径と水平断端が有意差を認めたリスク因子であった。eCura system とLNM を伴う割合との関係は,当科でも原著と同様の傾向がみられた。予後については再発を1 例に認めたが,原病死はなかった。 -
当院における原発性十二指腸癌16 例についての検討
48巻2号(2021);View Description
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原発性十二指腸癌は消化管悪性腫瘍のなかで比較的まれな疾患であり,エビデンスに乏しい。今回我々は,2010~2019 年に当院で施行された原発性十二指腸癌16 例の治療状況を検討した。年齢の中央値は72(58~88 )歳で,男女比は1.7:1,進行度はStage 0 4 例,Stage Ⅰ 1 例,Stage ⅢA 2 例,Stage ⅢB 3 例,Stage Ⅳ 6 例(UICC 第8 版)であった。内視鏡的治療症例3 例,手術症例10 例,化学療法症例1 例,best supportive care 症例は2 例で,2 年生存率51.3%,MSTは25.4 か月であったが,Stage 0,Stage Ⅰ症例は全例無再発生存が得られていた一方で,Stage ⅢA 以上の11 症例の2 年生存率は33.8%,MST は20.0 か月で予後不良であった。また,化学療法のレジメンは主にXELOX が選択されていた。 -
腹腔鏡下に高度癒着していたS 状結腸を合併切除した小腸原発悪性リンパ腫の1 例
48巻2号(2021);View Description
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症例は85 歳,男性。意識消失を主訴に当院救急外来を受診し,貧血および便潜血陽性を指摘された。精査を行ったところ,下部消化管内視鏡検査で回盲弁より10~14 cm 口側の回腸に不整な潰瘍性病変を指摘された。生検でびまん性大細胞性B 細胞リンパ腫(diffuse large B‒cell lymphoma: DLBCL)と診断,腹腔鏡下小腸切除術を行った。術中に腫瘍はS 状結腸と高度に癒着しており,S 状結腸部分切除も併せて行った。消化管原発悪性リンパ腫は時に穿孔を来す可能性があることから,一般的に手術適応となる。しかし本症例のように腫瘍の浸潤・癒着により,近傍の腸管を巻き込むことはまれである。そのような場合でも腹腔鏡手術で切除することは有用である。 -
術後30 年以上後に再発を来し切除し得たGIST の1 例
48巻2号(2021);View Description
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症例は77 歳,女性。40 歳時に5 cm 大の胃壁外突出型腫瘍に対して,胃部分切除術を施行された。75 歳時に4 cm 大の横行結腸腸間膜付着部腫瘤を認め,腹腔鏡下横行結腸部分切除術を施行しcarcinoid と診断された。その後の経過観察のCT 検査で,膵尾部と肝S1・S6・S7・S8 に腫瘤を認め,精査加療目的に当院紹介となった。画像精査の結果,膵尾部腫瘤は結腸carcinoma の膵転移または膵neuroendocrine tumor(NET),肝腫瘤は結腸carcinoma または膵NET の多発肝転移と診断し,膵体尾部切除,肝後区域切除,肝S1・S8 部分切除を施行した。術後病理組織学的診断で,膵尾部腫瘤は副脾で,肝腫瘍は組織学的には均一な類上皮細胞が充実性に増殖していた。細胞は核が偏在し細胞質は好酸性であり,DOG1+,c-kit-,PDGFRA+,CD34+,caldesmon-であることから,類上皮型gastrointestinal stromal tumor(GIST)と診断した。前医標本を再検し,c-kit-,PDGFRA+を確認した。類上皮型GIST はPDGFRA 遺伝子変異を伴っており,胃原発が多いことが知られており,臨床経過から40 歳時の胃GIST 術後30 年以上後の再発と診断した。 -
直腸RS 癌D2 リンパ節郭清術後S 状結腸リンパ節転移に対して腹腔鏡下リンパ節摘出術を施行した1 例
48巻2号(2021);View Description
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症例は58 歳,男性。BMI 27。糖尿病による慢性腎不全のため透析施行中に便潜血陽性で精査され,肛門縁より10 cmの直腸RS に2 型進行癌(tub1)を認めた。腫大リンパ節を認めず,透析中であったことより左結腸動脈温存し,腹腔鏡下低位前方切除術+D2 リンパ節郭清術を施行した。病理診断で直腸傍リンパ節に転移を認め,pT3(SS),pN1(1/9)/pStageⅢa(大腸癌取扱い規約第8 版)であった。患者本人と相談の上,外来にて経過観察していたが,術後1 年3 か月目にCEAの上昇(6.3 ng/mL)を認めたため造影CT 検査,PET-CT 検査を施行した。SUVmax 11.1 の集積を伴ったS 状結腸リンパ節再発を認めた。同部位にのみ再発を認めていることより十分に説明の上,初回手術後1 年7 か月目に腹腔鏡下リンパ節摘出術を施行した。術後経過は良好で退院となった。今回われわれは,S 状結腸リンパ節再発に対して腹腔鏡下リンパ節摘出術を施行した1 例を経験したので報告する。 -
五次治療でPaclitaxel+Trastuzumab+Pertuzumab 併用療法を行いCR となったHER2 陽性転移乳癌の1 例
48巻2号(2021);View Description
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症例は69 歳,女性。左乳癌の診断で,2011 年1 月に左乳房全切除術(Bt)+センチネルリンパ節生検(SN)を施行した。病理結果は浸潤性乳管癌(乳頭腺管癌),ER 0%,PgR 0%,HER2(3+),Ki‒67 67% であった。術後薬物治療としてdocetaxel(DTX)+cyclophosphamide 4 コース,trastuzumab(HER)を1 年間投与した。2013 年1 月,CT で両肺に多発肺転移を認め,HER2 陽性転移乳癌として薬物治療を開始した。四次治療まではいずれもPD であった。五次治療でweeklypaclitaxel(PTX)+HER+pertuzumab(PER)を投与したところ,2 か月後のCT で肺転移巣は著明に縮小した。PET‒CTを行い,FDG 異常集積がなかったためCR と判定した。患者の希望もあり44 コースで薬物治療を中止したが,病勢の増悪はなくCR を継続している。 -
胃癌術前の栄養療法中に末梢挿入型中心静脈カテーテルが血管穿破を来した1 例
48巻2号(2021);View Description
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症例は90 歳台,女性。胃角部から胃前庭部に進行胃癌を認め,cT4aN2M0,cStage ⅢA と診断された。幽門狭窄による食事摂取不良により低栄養状態を来していたため左上腕から末梢挿入型中心静脈カテーテル(PICC)を挿入し,中心静脈栄養(TPN)を行った。PICC 挿入4 日後,呼吸困難,胸水貯留を来した。精査の結果,PICC 先端が血管穿破を来し,縦隔内に迷入していた。胸腔ドレナージ後透視下にPICC を抜去したが,明らかな出血は認めなかった。左側血管からのPICC挿入は先端位置異常および血管穿破のリスクと考えられ,発症時には速やかな対応が必要である。 -
メシル酸イマチニブの術前投与により低侵襲根治手術を施行し得た直腸GIST の1 例
48巻2号(2021);View Description
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症例は67 歳,女性。排便時出血の精査目的に施行した下部消化管内視鏡検査でヘルマン氏線上縁から口側10 mm の部位に腫瘍下縁が位置する50 mm 大の粘膜下腫瘍を認めた。EUS-FNA で直腸GIST と診断された。腫瘍縮小を期待するとともに患者の強い希望もあり,術前化学療法としてメシル酸イマチニブを開始し,投与3 か月後のCT 検査では35 mm 大に縮小した。腫瘍の局在を勘案して経肛門的内視鏡手術を行った。摘出標本の割面は乳白色の35 mm 大の充実性腫瘍であり,modified-Fletcher 分類で低リスク,Miettinen 分類で低リスクであった。術後補助療法は行わず,現在術後8 か月時点で無再発生存中である。本症例は術前化学療法としてメシル酸イマチニブを投与することで腫瘍縮小が得られたため括約筋切除を回避でき,経肛門的な内視鏡手術を併用することで良好な視野を得て,過不足なくまた被膜損傷も起こさずに腫瘍を切除することが可能であった。術前化学療法としてのメシル酸イマチニブが低侵襲根治手術に寄与したと考えられた。 -
治癒切除し得た異時性・同時性,S 状結腸癌,胃癌,食道癌,肝細胞癌の四重複癌の1 例
48巻2号(2021);View Description
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症例は80 歳台,男性。血便を主訴に近医を受診し,下部消化管内視鏡検査でS 状結腸に隆起性病変を認め当科を紹介受診した。2011 年8 月に腹腔鏡下S 状結腸切除術(D2 郭清)を行い,pT2N1M0,pStage Ⅲa の診断であった。術後補助化学療法としてmFOLFOX 療法を12 コース施行した。その後再発なく経過していたが,2015 年1 月に食後の心窩部不快感を自覚し,上部消化管内視鏡検査で進行胃癌,表在食道癌を認めた。食道癌はcStage 0‒Ⅱa の診断で内視鏡的粘膜下層剝離術を施行した。胃癌は腹腔鏡下幽門側胃切除術(D2 郭清,Billroth Ⅰ法再建)を施行し,pT1bN0M0,pStage ⅠA の診断であった。その後いずれも再発なく経過していたが,2016 年10 月に撮影したCT,MRI にてS4/S5 に転移性肝癌を疑う所見を認め,腹腔鏡下肝部分切除術,胆囊摘出術を施行した。術後の病理診断は肝細胞癌,pT1N0M0,pStage Ⅰであった。S 状結腸癌は術後5 年で経過観察を終了し,胃癌・食道癌は術後1 年に一度の外来受診と上部消化管内視鏡による検査,肝細胞癌は術後3 か月に一度の外来受診で経過観察としているが,再発を認めていない。 -
上行結腸癌術後に感染して発症した創離開に対し局所陰圧洗浄療法が奏効した1 例
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局所陰圧洗浄療法(negative pressure wound therapy with instillation and dwelling: NPWTi‒d)は局所陰圧閉鎖療法(NPWT)に比べて感染巣に対し使用でき,治療効果も良好といわれている。今回われわれは,上行結腸癌術後に感染して発症した創離開に対しNPWTi‒d が奏効した1 例を経験したので報告する。症例は72 歳,男性。右下腹部に10×7 cm 大の皮膚壊死と同部から便汁の排出を認め,CT にて上行結腸癌の腹壁浸潤と皮下膿瘍の形成を認めた。第2 病日に開腹右半結腸切除術,腹壁膿瘍部デブリードマンを施行した。膿瘍部の腹壁は縫合閉鎖し,皮膚欠損部は開放創とした。再建は回腸横行結腸機能的端々吻合を施行した。しかし第5 病日に縫合不全を発症し,吻合部切除術と回腸人工肛門造設術を施行した。第8 病日にデブリードマン部が感染し,筋膜が離開し小腸が露出したためNPWTi‒d を第10 病日より導入した。第35 病日には露出腸管を良性肉芽が被覆し,第38 病日にNPWTi‒d を終了した。第68 病日より化学療法を導入し,1 年間無増悪で経過している。腹壁再発は認められず,NPWTi‒d は有用と考えられた。 -
低位前方切除術の予防的回腸ストーマ閉鎖術後に虚血性大腸炎を生じた透析患者の1 例
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症例は77 歳,維持透析中の男性。14 年前にS 状結腸癌に対して施行された高位前方切除術の吻合部に2 型腫瘍を認め大腸癌と診断された。前回手術の吻合部を含めて切除した後,横行結腸直腸吻合による低位前方切除術と予防的回腸ストーマ造設術を施行した。術後7 か月で人工肛門閉鎖術を施行したところ,腸閉塞と敗血症性ショックを生じた。CT 検査では吻合部口側の再建結腸に炎症所見を認め,虚血性大腸炎と診断された。保存的治療で改善せず,再度回腸ストーマ造設術を施行したが,DIC による多臓器不全が進行し死亡した。透析患者は虚血性大腸炎の危険因子を有することが多く,不可逆的な虚血性大腸炎を生じる可能性が高い。重篤な基礎疾患を有する透析患者に対しては最初からHartmann 手術を行うか,予防的人工肛門閉鎖後に虚血性大腸炎を認めた場合は速やかに病変部を切除し,再度人工肛門造設術を行うべきと考えられた。 -
下腸間膜静脈‒左卵巣静脈シャントを有する直腸癌に対して腹腔鏡下ハルトマン手術を行った1 例
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症例は77 歳,女性。血便の精査で下部直腸癌と診断された。cT3N2aM0,cStage Ⅲb の診断で手術の方針となった。術前腹部造影CT 検査で下腸間膜静脈と左卵巣静脈のシャントを認めた。腹腔鏡下ハルトマン手術を行い,左卵巣静脈からS 状結腸間膜内の下腸間膜静脈に流入するシャントを認め切離した。手術時間253 分,出血量は140 g であった。術後肝機能障害は認めず,術後36 日目で転院となった。門脈‒大循環シャントの原因は門脈圧亢進によるもの,先天性,腹部手術の癒着によるものがある。本症例では肝硬変は認めず,上腸間膜動脈によって左腎静脈の還流が阻害され,うっ滞が生じ,左卵巣静脈が拡張・蛇行し,卵巣摘出後の癒着が原因となり,下腸間膜静脈とシャントを形成した可能性がある。術前検査で静脈系の拡張や蛇行を認める場合は,本症例のようなシャントがあることを念頭に置き,手術に望むことが重要である。 -
小腸転移による消化管穿孔から肺扁平上皮癌の診断に至った1 例
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症例: 80 代,男性。既往歴: 高血圧,高尿酸血症,心房細動。現病歴: 2017 年8 月に嘔吐,下痢を主訴に当院救急外来を受診した。検査所見: 採血で炎症反応の高値を認め,腹部単純CT で小腸に接する液体貯留と腹腔内遊離ガスを認めた。治療経過: 小腸穿孔の診断で緊急手術を施行した。小腸が穿孔し横行結腸間膜と小腸間膜で膿瘍腔が形成されていたため,膿瘍を開放し排膿した後,穿孔部を含む小腸を約30 cm 切除し再建した。切除標本では小腸穿孔部に扁平上皮癌を認め,後に追加した胸部CT 検査,免疫染色の結果より肺扁平上皮癌と診断された。カルボプラチンとアルブミン懸濁型パクリタキセル併用による化学療法を3 コース施行し部分奏効を認めていたが,薬剤性と考えられる間質性肺炎を発症し,術後195 日目に死亡した。小腸転移による消化管穿孔を契機に診断された肺癌症例を経験したため報告する。 -
腹腔鏡下結腸切除を行った横行結腸髄様癌の1 例
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症例は59 歳,女性。家族歴として父と父方祖母に大腸癌があり,父方伯父に膵癌があった。便潜血陽性のため大腸内視鏡検査を行ったところ,横行結腸にSM 深部浸潤を疑うtype 0‒Ⅱa+Ⅱc 病変を認め,生検結果は低分化腺癌であった。造影CT では領域リンパ節腫大や遠隔転移を認めず,T1N0M0,cStage Ⅰと診断し,腹腔鏡下結腸部分切除術,D2 リンパ節郭清を施行した。病理組織学的検査で髄様癌,pT2(MP),Ly1a,V0,BD1,Pn1a,pPM0,pDM0,pN0 と診断された。改訂ベセスダガイドライン2 項目に該当し,リンチ症候群が疑われた。マイクロサテライト不安定性(MSI)検査や遺伝学的検査は希望がなく行っていないため確定診断に至っていないが,大腸癌の再発のみならずリンチ症候群関連腫瘍の発生も含めてサーベイランスを行う必要がある。 -
十二指腸部分切除術を施行した原発性十二指腸水平部癌の1 例
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症例は85 歳,男性。嘔吐を主訴に当院を受診した。CT 検査では胃,十二指腸に著明な拡張がみられ,十二指腸水平部に狭窄像を認めた。上部消化管内視鏡検査では十二指腸水平部に全周性の腫瘍を認め,生検にて管状腺癌と診断された。以上より,十二指腸水平部癌と診断し,手術を施行した。肝転移,腹膜播種,明らかなリンパ節腫大は認めなかった。腫瘍は十二指腸水平部に存在し,膵温存十二指腸部分切除術を行った。再建は十二指腸下行部と挙上空腸を側側吻合した。病理組織学的診断では高分化型管状腺癌,深達度SS,ly1,v1 であった。原発性十二指腸癌は比較的まれな疾患であり,そのなかでも水平部原発の症例は少ない。手術術式は約半数の症例に膵頭十二指腸切除術が行われているが,本症例のように膵浸潤,リンパ節転移を認めない場合は十二指腸部分切除術の適応を検討する必要がある。 -
胃術後の閉塞性イレウスを契機に発見され腹腔鏡下手術を施行した原発性回腸癌の1 例
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症例は69 歳,男性。初診日の未明から心窩部痛と嘔吐を自覚していた。改善なく,当院に救急搬送され,胃術後の腸閉塞と診断され当科に入院となった。CT にて終末回腸に腫瘤を認め,閉塞性イレウスが疑われた。下部消化管内視鏡検査にてBauhin 弁から10 cm の部位に1 型腫瘍を認め,生検にて原発性回腸癌と診断された。腹腔鏡下回盲部切除術を施行し,術後創部感染を認めた以外は問題なく経過し,術後11 日目に退院となった。病理組織学的診断は,中分化型腺癌,T3(SS),N1(3/16),M0,Stage ⅢA であった。大腸癌に準じて術後補助療法を提案したが,患者希望にて施行せずに経過観察となった。現在,術後1 年9 か月無再発生存中である。原発性小腸癌は特有の臨床症状に乏しく,診断に苦慮することも多い。本症例のように,他疾患の精査中のCT にて偶然発見されることもあるので注意を要する。 -
肺性肥大性骨関節症を合併した肺腺癌の1 例
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背景: 肥大性骨関節症(hypertrophic osteoarthropathy: HOA)は,ばち状指,長管骨の骨膜新生,関節炎を三症状とする症候群である。そのなかで肺疾患に合併し二次的に発生するものを肺性肥大性骨関節症(pulmonary hypertrophicosteoarthropathy: PHO)と呼ぶ。基礎疾患としては原発性肺癌に伴うものが比較的多いと報告されるが,本邦においては0.2~5.0% 程度とまれな病態である。症例: 患者は68 歳,男性。関節痛にて膠原病内科通院中であったが,スクリーニングのための胸部CT で右肺下葉に径6.5 cm の腫瘤像を指摘され,精査加療目的で外科に紹介となった。血液検査ではCEA21.8 ng/mL と腫瘍マーカーの上昇が認められ,また,ゴナドトロピンの軽度上昇も認められた。骨シンチグラフィ検査では,両側大腿骨および下腿骨に左右対象な集積増加が認められた。PHO を伴う右下葉肺癌(Stage ⅢA)として,胸腔鏡補助下右肺下葉切除を行った。術後病理組織学的所見はadenocarcinoma,G2,pT3,pN1,pm0,pl1,Ly1,V1,stage ⅢAであった。手術翌日には関節痛は軽快し,経過は問題なく術後8 日目に退院となった。術後化学療法を行い,現在再発なく経過している。 -
肝細胞癌の孤立性肝十二指腸間膜リンパ節転移切除後14 か月無再発の1 例
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症例は77 歳,男性。2015 年から肝細胞癌に対して肝動脈化学塞栓療法およびラジオ波焼灼療法をそれぞれ5 度施行されていた。2019 年2 月にAFP 19,800 ng/mL,PIVKA‒Ⅱ 1,490 mAU/mL と著明に上昇を認めた。造影CT で肝十二指腸肝膜内に径40 mm 大の腫大したリンパ節を認めた。造影CT およびEOB‒MRI で肝内病変はコントロールされており,FDG‒PET では指摘されたリンパ節にSUVmax 10.1 の集積を認める以外には明らかな異常集積を認めなかった。以上の結果より,肝細胞癌の孤立性肝十二指腸間膜リンパ節転移と診断し,4 月中旬にリンパ節摘出術を行った。術後経過は良好で,術後8日目に退院した。病理組織学的結果は肝細胞癌の転移の所見であった。術後14か月現在,明らかな再発所見なく経過している。 -
精巣原発びまん性大細胞型B 細胞性リンパ腫切除後,直腸にも発症し切除した1 例
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患者は65 歳,男性。精巣原発のびまん性大細胞型B 細胞性リンパ腫(DLBCL)に対して11 か月前に右精巣高位精巣摘除術を施行された。術後化学療法目的で他院を紹介されたが,自己判断で放置していた。1 か月前より下血と肛門痛を自覚し,XX 年₆ 月当科に初診となった。直腸触診で亜全周性腫瘍を肛門縁より触知し一部は肛門外に脱出していた。CT で直腸Ra から肛門に亜全周性壁肥厚と壁在リンパ節腫脹,他臓器に転移は認めなかった。全身ガリウムシンチグラフィは,直腸に強い集積を認めた。下部内視鏡検査はRb に全周性₂ 型腫瘍を認め,生検でDLBCL と診断した。精巣原発DLBCL の直腸転移と臨床的に判断し,XX 年₇ 月腹腔鏡補助下直腸切断術を施行した。sT3N1b,cM0。術後経過は良好で当科退院後,他院で化学療法を行い,術後4 年0 か月時点で健在,再発なく経過している。消化管DLBCL は穿孔すると化学療法の開始が遅れ,原疾患が増悪するため手術療法を先行した。このような症例では転移か新病変か慎重に判断すべきである。