癌と化学療法
Volume 48, Issue 3, 2021
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投稿規定
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総説
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末梢血からみた腫瘍免疫
48巻3号(2021);View Description Hide Descriptionがん免疫編集理論,がん免疫サイクル理論は腫瘍免疫を説明する二つの基本理論である。最新のテクノロジーを使った研究は腫瘍免疫にCD8+ T 細胞のみならず,CD4+ T 細胞が必須であることを証明し,その分化マーカー・機能分子発現によるphenotype,TCR レパトア解析によるclonotype を明らかにしている。また,抗腫瘍T 細胞免疫をつかさどるCD8+T 細胞,CD4+ T 細胞は,われわれが予想していたよりもはるかに広く全身性に分布していることも証明された。末梢血循環は二次リンパ臓器でプライミング→クローン増殖したT 細胞を全身に配置するための通り道であり,T 細胞遊走・浸潤という重要なステップを担うがん免疫サイクルの現場でもある。PD‒1 阻害薬,抗CTLA‒4 抗体の奏効メカニズムを考察しながら,腫瘍免疫の窓ともいえる末梢血から何がみえるのか論じてみたい。
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特集
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- 免疫染色を用いた癌研究
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免疫組織化学の基礎とマルチプレックス免疫組織化学
48巻3号(2021);View Description Hide Description免疫組織化学は,抗原抗体反応を利用して標的抗原のin situ での分布や発現量を解析する形態学の中心的なツールであり,基礎研究から診断の実務に至る様々な場面で活用されている。広く普及している手法ではあるものの,目的にかなった免疫組織化学を行うためには,その原理を十分に理解した上で適切な試料や抗体を準備して妥当な手法を選択する必要がある。免疫組織化学の結果は従来の多重標識法によるものも含めて画像として出力され,その解釈は研究者にゆだねられる。そのためフローサイトメトリー法など他の手法に比較して,免疫組織化学の再現性や検証性は不十分といえる。しかし近年開発され,実用化された高度の多重標識を行うマルチプレックス免疫組織化学の各種手法では,観察視野内に分泌している細胞の座標や標的抗原の発現量といった形態学的な情報が数値として出力され,形態を数理科学的に解析することが可能となっている。本稿では免疫組織化学を行う上で留意すべき基礎的な要点を再確認し,マルチプレックス免疫組織化学を含む多重標識法の手法について提示する。それらの特徴・利点とともに,未解決の課題も取り上げる。 -
大腸癌治癒切除後の予後予測マーカーとしての免疫関連因子
48巻3号(2021);View Description Hide Description背景: CD3 およびCD8 陽性T 細胞の腫瘍浸潤は,結腸直腸癌(CRC)患者の良好な予後予測マーカーとして報告されてきた。CRC におけるCD4 およびFOXP3 陽性T 細胞の腫瘍内浸潤の予後に与える意義を明らかにする。方法: 治癒切除を受けた342 人のCRC 患者の組織標本から,CD3,CD8,CD4 およびFOXP3 陽性T 細胞を免疫染色(IHC)し,1 mm2当たりの腫瘍内浸潤細胞数を定量化した。マイクロサテライト不安定性(MSI)も322 検体で評価し,臨床病理学的因子および生存率を解析した。結果: CD3,CD4 およびFOXP3 陽性T 細胞の高浸潤群は,無再発生存率(RFS)の改善と関連した。CD8,CD4 およびFOXP3 陽性T 細胞の高浸潤群は,疾患特異的生存率(DSS)の改善と関連した。深達度,脈管浸潤およびCD4 陽性T 細胞密度はDSS の独立した予後因子であった。CD4 およびFOXP3 陽性T 細胞浸潤は,CD3 およびCD8 陽性T 細胞浸潤とは対照的に高頻度マイクロサテライト不安定群と関連を認めなかった。結論: 腫瘍内CD4 陽性T 細胞浸潤とFOXP3 陽性T 細胞浸潤は,他の臨床病理学的因子と比較して強力な予後因子であった。これらの結果は,CRC の新しい予後予測マーカーとして治療戦略の確立の一助となる可能性がある。 -
胃癌におけるtopo Ⅰ-pS10 発現のイリノテカン効果予測バイオマーカーとしての有用性
48巻3号(2021);View Description Hide Description背景: 胃癌治療においてイリノテカンはよく用いられるが,現在のところ効果を予測するバイオマーカーは存在しない。イリノテカン耐性機構には投与後のtopoisomerase Ⅰ(topo Ⅰ)分解がかかわっていることがわかっている。われわれは,このtopo Ⅰ分解の指標となるリン酸化topo Ⅰ-S10(topo Ⅰ-pS10)抗体を作製した。目的: 免疫組織化学染色法によるtopo Ⅰ-pS10 核内発現の胃癌におけるイリノテカン効果予測としての有用性を検討する。方法: まず,topo Ⅰ-pS10 抗体を用いた免疫組織化学染色法の条件検討を行った。続いて,topo Ⅰ-pS10 発現とイリノテカン効果を比較するために,胃癌臨床検体を用いた二つのパートの試験を行った。試験パートとしてSDI 法によりイリノテカン感受性が予測された₇₉ 例の胃癌検体を用い,免疫組織化学染色法にてtopo Ⅰ-pS10 の発現を検討した。検証パートとして実際に二次治療以降でイリノテカンが使用された27 例の胃癌検体を用いた。結果: topo Ⅰ-pS10 発現は核に認めた。各種条件検討の結果,topo Ⅰ-pS10 免疫染色条件は抗原賦活85℃,抗体濃度を1:100 と定めた。試験パートではROC 曲線を作成し,カットオフ値を核染色陽性細胞率35% とした。79 例中63 例がtopo Ⅰ-pS10 陽性であった。イリノテカンのSDI の結果と比べると感度は76.6% であり,陽性的中率は92.5% であった。すなわちtopo Ⅰ-pS10 陽性症例では,イリノテカンに耐性であることを示した。検証パートでは,感度82.4%,陽性的中率は82.4% であった。結論: topo Ⅰ-pS10 発現はイリノテカン効果と相関が認められ,イリノテカン効果を予測するバイオマーカーとなり得ることが示唆された。 -
多重蛍光免疫染色法を用いた食道癌化学療法の効果予測
48巻3号(2021);View Description Hide Description癌患者における化学療法の効果には,癌細胞に対する直接的な細胞傷害性に加え,腫瘍免疫を介する機序の存在が明らかとなっている。今回,食道癌の化学療法奏効にかかわる免疫環境の解明を目的とし,86 例より投与前生検組織を採取,蛍光標識チラミドを用いた多重染色を行い,波長可変フィルター蛍光顕微鏡にてリンパ球およびマクロファージを解析した。化学療法非奏効と種々のT 細胞分画には相関は認めなかったが,CD163 あるいはCD206 陽性のM2 マクロファージ(TAM)高値とは有意な関連を示した。TAM を標的とした免疫療法の臨床試験が世界で進行中であり,今回の結果は食道癌においてもTAM 阻害剤併用が化学療法耐性の克服に有用である可能性を示している。
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Current Organ Topics:Musculoskeletal Tumor 骨・軟部腫瘍 骨軟部腫瘍に対する薬物療法―最近の話題―
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原著
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切除不能進行・再発大腸癌における二次治療としてのCAPOX+ベバシズマブ療法に関する有効性の検討
48巻3号(2021);View Description Hide Description目的: 切除不能進行・再発大腸癌に対する二次治療でのCAPOX+ベバシズマブ(BEV)療法の有効性・安全性を評価する。方法: 主要評価項目は奏効率,目標症例数48例の多施設共同第Ⅱ相試験で,症例集積不良で登録中止となるまでの20例で検討した。結果: 一次治療はイリノテカン併用14例,BEV 併用が12 例。二次治療コース数は中央値7コース,治療期間の中央値は203日。治療中止理由は増悪13 例,有害事象4例,その他3 例。最良総合効果はCR 0例,PR 5 例,SD 8例,PD 3 例,評価不能4例。奏効率25%,病勢コントロール率は65%。PFS は中央値7.2 か月,OS は中央値18.6 か月。Grade3 以上の有害事象は,好中球減少3 例,下痢・末梢神経障害が各2 例などで治療関連死はなかった。結論: 切除不能進行・再発大腸癌に対する二次治療CAPOX+BEV 療法は有効かつ安全な治療選択肢であることが示された。
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症例
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重度貧血(ヘモグロビン1.8 g/dL)を来した胃癌の1 例
48巻3号(2021);View Description Hide Description患者は61 歳,女性。主訴は心窩部痛,嘔気,食欲不振,動悸,息切れ。1 か月前から主訴を自覚し近医を受診し,精査加療目的で当院に紹介された。受診時はヘモグロビン1.8 g/dL の重度貧血,低栄養状態であった。精査の結果,胃癌,cStage Ⅲと診断された。心不全およびrefeeding 症候群に留意しつつ輸血,鉄剤静注,栄養療法を行い,第17 病日に幽門側胃切除術を施行した。病理組織学的検査所見ではtub₂>por1>muc,pT4a,pN3a,pStage ⅢB であった。術後経過は良好で術後22 日目より術後補助化学療法を開始したが,術後1 年3 か月後に胃癌リンパ節転移再発の進行により死亡した。 -
Disseminated Intravascular Coagulation を伴う胃癌同時性播種性骨髄癌症に対する化学療法施行の1 例
48巻3号(2021);View Description Hide Description症例は72 歳,女性。血尿,紫斑などの出血傾向症状の精査加療目的で当院に紹介された。血液検査でdisseminatedintravascular coagulation(DIC)を認めた。上部消化管内視鏡検査で進行胃癌を,骨髄穿刺細胞診にて大型異形細胞の散在性増生を認め,免疫組織学的検索では上皮系腫瘍の転移が疑われた。胃癌同時性播種性骨髄癌症の診断となった。methotrexate100 mg/m2+5-fluorouracil 600 mg/m2療法を4 コース施行し,DIC から離脱した。その後はtegafur/gimeracil/oteracil(S-1)内服へ移行し外来治療としたが,初回化学療法後126 日目に骨髄癌症増悪によるDIC が再発し,5-fluorouracil+cisplatin 療法を開始した。1 コースを施行したが改善なく,初回化学療法後166 日目に死亡した。胃癌骨髄癌症はDICを伴うなど,その予後は極めて不良であるが,化学療法によりDIC の離脱および予後の改善をもたらし得る症例があり,治療選択の一つになると考えられた。 -
放射線療法を行った乳癌眼窩転移の3 例
48巻3号(2021);View Description Hide Description乳癌の眼窩転移はまれな病態であるが,複視,視力障害,眼球突出など様々な症状を呈しQOL を損なう場合がある。乳癌眼窩転移に対して放射線療法を施行した3 例を経験したので報告する。いずれも眼窩転移診断時には多臓器転移を有する状態であったが,放射線療法は特段の副作用なく施行でき,3 例中2 例で病変の縮小に伴う自覚症状の改善が確認できた。 -
卵巣明細胞癌に対するGemcitabine+Cisplatin+Bevacizumab併用療法の試み
48巻3号(2021);View Description Hide Description化学療法抵抗性とされる卵巣明細胞癌に対し,gemcitabine 1,000 mg/m2とcisplatin 40 mg/m2をday 1,15 に,bevacizumab15 mg/kg をday 1 に静脈内点滴投与し,4 週を1 サイクルとするgemcitabine+cisplatin+bevacizumab 併用療法を6 例に実施した。評価可能病変を有した2 例で部分奏効(PR)が確認された。有害事象は軽微で,血液毒性としてはGrade3 の貧血,白血球減少,好中球減少が,それぞれ67%,33%,17% 発現した。血液毒性,非血液毒性を含めてGrade 4 は認めなかった。本療法は有効かつ安全に実施できる可能性が示唆され,現在臨床第Ⅱ相試験を実施中である。 -
尾骨前面に発生したTailgut Cyst に対して後方アプローチでEn Bloc に切除し得た1 例
48巻3号(2021);View Description Hide Description症例は40 歳,男性。会陰部の違和感の精査加療目的で当院を受診し,MRI 検査にて尾骨前面にT1 強調画像で低信号,T2 強調画像で高信号を示す20 mm 大の多房性囊胞性病変を認め,Tailgut cyst の診断となった。手術はJack knife 位にて後方アプローチを選択した。腫瘍が尾骨に隣接していたため第5 仙骨下縁で尾骨とともに囊胞性病変をen bloc に切除した。組織学的にはTailgut cyst と診断され,悪性所見を認めず断端陰性であった。術後経過は良好で第3 病日に退院となり現在術後20 か月経過しているが,無再発生存中である。先天性囊胞性病変であるTailgut cyst は悪性化する可能性があり,本症例のようにen bloc な切除を行うため適切なアプローチの選択が重要である。
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特別寄稿
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- 第42回 日本癌局所療法研究会
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術前イマチニブ療法により腹腔鏡下での肛門温存手術が可能となった巨大直腸GIST の1 例
48巻3号(2021);View Description Hide Description症例は50 代,女性。主訴は肛門痛で,画像検査にて9.8 cm の骨盤内巨大腫瘤を指摘された。生検ではgastrointestinalstromal tumor(GIST)と診断された。腫瘍が大きく肛門温存は困難と判断し,メチル酸イマチニブ(IM)での術前療法を開始した。治療開始6 か月後のMRI 検査で75% の腫瘍縮小を得た。腫瘍縮小に伴い肛門温存可能と判断し,腹腔鏡下超低位前方切除術を施行した。術後はIM による補助治療を2 年6 か月行い,切除5 年目の現在,無再発生存中である。術前療法としてのIM 投与は巨大直腸GIST における肛門温存に対して有用であり,安全な切除を可能にすると考えられた。 -
Neoadjuvant Hyperthermia and Chemoradiotherapy for Borderline Resectable Pancreatic Cancer
48巻3号(2021);View Description Hide Description膵臓癌はR0 切除率が低く,予後不良な疾患である。現在,手術先行で行った膵臓癌症例のうち,長期生存の可能性がある症例は15~20%のみである。近年,切除可能境界膵癌(BR‒PC)に対する治療戦略として,術前化学(放射線)療法によるR0 切除率の向上が予後向上につながる可能性があり,その効果が注目されている。膵臓癌は腫瘍内低酸素微小循環下にあり,化学療法や放射線療法の治療抵抗性を伴う。温熱療法は膵臓癌に対する化学療法および放射線療法の効果を高める可能性がある。症例は84 歳,男性。脂肪便を主訴に受診された。腹部造影CT 検査で膵頭部に境界不明瞭な径37 mm 大の乏血性腫瘤を認め,膵頭部癌が最も疑われた。SMA 周囲神経叢の右半周に腫瘍の直接浸潤を認めたが,リンパ節転移および遠隔転移は認めなかった。術前補助療法前の診断はBR‒PC,cT3,N0,M0,cStage ⅡA であった。術前補助療法として温熱療法,S‒1 および放射線療法を施行した。術前補助療法後,腫瘍径は37 mm から15 mm に縮小し,SMA 周囲神経叢への浸潤も縮小した。SMV 切除再建を伴う亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した。病理組織学的所見は浸潤性膵管癌,R0 切除であった。術後18 か月無再発生存中である。温熱療法と化学(放射線)療法の併用療法はBR‒PC の術前補助療法として有効な一選択肢となり得る。 -
進行大腸癌症例に対する腹腔鏡下人工肛門造設術の有用性
48巻3号(2021);View Description Hide Description目的: 化学療法導入が考慮される局所進行大腸癌および治癒切除不能な閉塞性直腸癌症例に対し,当科では腹腔鏡下に人工肛門を造設している。当科における腹腔鏡下人工肛門造設術の短期成績から,その有用性について検討した。対象と方法: 2019 年4 月~12 月までの間で腹腔鏡下人工肛門造設術を施行した7 例において,手術時間,出血量,術後合併症などについて検討した。術式: 人工肛門造設部位はいずれも横行結腸で造設した。まず,人工肛門造設予定部に小切開法で12mm first port を留置し,腹腔内を観察した。次いで人工肛門造設部位の対側腹部に5 mm ポートを3 か所留置し,同ポートより5 mm 径のスコープを用いて観察・操作を行った。癒着剝離と腸管授動を行い腸管の可動性を十分確保し,人工肛門を造設した。結果: 全7 例中開腹既往のあった2 例は広範囲の癒着のため開腹移行となった。腹腔鏡下完遂例の手術時間97(42~130 )分,出血量は5(2~40 )mL であった。いずれも術後合併症やストーマトラブルは認めていない。結語: 腹腔鏡下人工肛門造設術は良好な視野の下,原発巣や腹腔内観察が可能であり十分な腸管授動の結果,管理に難渋しない良質なストーマを造設することができた。術後合併症も少なく速やかに化学療法に移行することが可能であり,有用な術式であると考えられた。 -
集学的治療により長期生存を得ている膵神経内分泌腫瘍(p‒NET)の1 例
48巻3号(2021);View Description Hide Description膵神経内分泌腫瘍(p‒NET)は比較的まれな疾患で,治療は切除,局所療法,放射線療法,薬物療法などを駆使した集学的治療となる。今回,集学的治療により長期生存を得ている症例を経験したので報告する。症例は47 歳,男性。膵体尾部腫瘍の診断にて当院紹介となり,2008 年5 月膵体尾部切除,脾臓・左副腎合併切除術を施行,病理結果にてp‒NET G1 と診断された。その後,肝転移再発に対してTACE を3 回,肝部分切除術を1 回施行するも,2014 年8 月多発肝転移および傍大動脈リンパ節転移を認めた。エベロリムスを開始したところ,リンパ節への効果判定はCR,肝病変はTACE を追加しCR となった。2017 年7 月多発肝転移と右上腕骨転移を認めたため,骨転移に対し放射線療法を施行して現在までCR を維持している。同年11 月にTACE を施行後,ランレオチドを9 回投与したところ肝転移はCR となった。2018 年12 月再度肝転移および傍大動脈リンパ節再発を認めたためエベロリムスを再開し,現在SD にて外来通院加療中である。 -
集学的治療により長期生存が得られた肛門管神経内分泌細胞癌の1 例
48巻3号(2021);View Description Hide Description症例は75 歳,男性。肛門痛のため近医を受診した。直腸指診にて肛門に腫瘍を触知した。腰椎麻酔下の生検にて神経内分泌細胞癌と診断,加療目的に当科紹介受診となった。CT 検査で肛門管の腫瘍以外に右鼠径リンパ節腫大も認め,PET-CT 検査にて異常集積を示した。肛門管癌のリンパ節転移と診断し,強い痛みも伴っていたため腹会陰式直腸切断術を行った。切除標本では肛門管の腫瘍は27×18 mm の大きさであった。病理検査にて,核が腫大し明瞭な核小体を呈する淡明な腫瘍細胞が胞巣状に増殖していた。免疫組織化学検査ではsynaptophysin 陽性,chromogranin A 局所陽性で,Ki-67 陽性率は70% であった。肛門管原発の神経内分泌細胞癌と診断した。術後化学療法としてCDDP+CPT-11 を4 コース施行した。術後12 か月で鼠径,骨盤リンパ節再発を認めたためCDDP+CPT-11 を再開した。11 コース施行し,リンパ節の増大,肺転移の出現,局所再発を認めた。セカンドラインとして肺小細胞癌治療に準じて選択したAMR 単剤による化学療法を6 コース施行した。術後38 か月で死亡した。 -
化学療法が著効し長期生存が得られている腹膜播種を伴う胃癌の1 例
48巻3号(2021);View Description Hide Description症例は58 歳,男性。22 歳時に胃潰瘍に対し,広範囲胃切除術の既往あり。吻合部大弯の3 型腫瘍に対して手術を施行した。術中に播種結節を認め,腫瘍からの出血のため姑息切除を施行した。術後診断はM,Gre,B-33-A,type 3,35×32 mm,tub1,pT4b(SI,腹壁),int,INF c,ly1,v1,pN0(0/2),pPM0,pDM0,pStage Ⅳであった。術後SP 療法を9 コース施行した。全身劵怠感のため,S-1 単剤で加療した。術後4 年8 か月目に腫瘍マーカーの上昇,膀胱左背側に播種結節を認めたため,PTX+Rmab 療法にレジメンを変更した。16 コースを施行し,再度腫瘍マーカーの上昇,播種結節の増大を認めたため三次治療としてnivolumab を開始した。4 コース施行した時点で腫瘍マーカーは正常化し,播種結節の不明瞭化を認めた。胃癌,腹膜播種の予後は不良とされているが,nivolumab を含む集学的治療により長期生存の可能性があると考えられた。 -
ヘッドマウントモニターを使用した腹腔鏡手術と乳癌手術の同時施行が有用であった2 例
48巻3号(2021);View Description Hide Description緒言: SONY 製頭部装着型ヘッドマウントモニター(HMS‒3000MT)を使用し,腹腔鏡手術と乳癌手術を同時進行することで手術時間短縮を図ることができたため報告する。症例1: 60 歳台,女性。胸部中部食道に5.5 cm 大の平滑筋腫および左乳腺C 領域に1 cm 大の乳癌を認めた。食道亜全摘+胸骨後経路胃管再建,左乳房部分切除術を施行した。腹部操作はHMS‒3000MT を使用し,用手補助腹腔鏡下で行った。左乳房部分切除を同時施行した。手術時間367 分(同時手術時間56分)。最終病理組織学的所見: <食道>leiomyoma,50×45 mm,<乳腺>16×15 mm,pTis(DCIS),pN0(sn),cM0,pStage 0。症例2: 70 歳台,女性。胃体中部後壁に3 cm 大のGIST を認め,右乳腺B 領域に乳癌1.3 cm 大も認めた。HMS‒3000MT を使用し,腹腔鏡下胃局所切除,右乳房全切除術を同時施行した。手術時間114 分(同時手術時間58 分)。最終病理組織学的所見: <胃>GIST,25×22 mm,modified Flecher 分類; 低リスク,<乳腺>invasive ductal carcinoma,15×15mm,pT1c,pN0(sn),cM0,pStage Ⅰ。結語: 2 領域の手術において,HMS‒3000MT を使用した同時手術は手術時間を短縮し得る有用な方法と考えられた。 -
直腸癌に対する術前化学療法施行例のロボット支援下手術の短期成績
48巻3号(2021);View Description Hide Description直腸癌手術に対するロボット支援下手術は,多関節,手振れ防止,モーションスケールによる精密な操作性や安定した展開,三次元画像による視認性により有用とされている。直腸癌に対する術前化学療法(NAC)は局所制御や早期からの全身制御に優れているが,周術期の有害事象が懸念されロボット支援下手術に対する安全性は明らかではない。当科でロボット支援下手術を施行した76 症例を対象とし,NAC 群と非NAC 群の術後短期成績を後ろ向きに比較検討した。NAC 群は27 例(35.5%)であった。NAC 群,非NAC 群間で手術時間(523.5 vs 317.5 分,p<0.01)は有意差を認めた。出血量(59 vs 20 g,p=0.22),術後在院日数(14 vs 13 日,p=0.07),Clavien‒Dindo 分類Grade Ⅲa 以上の合併症例(2 vs 1 例,p=0.82)は有意差を認めなかった。直腸癌に対するNAC 後のロボット支援下手術は安全に施行可能であり,非常に有用であると考えられた。 -
幽門側胃切除術後のS‒1/CDDP 療法により長期CR が得られたAFP 産生胃癌・肝転移の1 例
48巻3号(2021);View Description Hide Description症例は67 歳,男性。嘔気・食欲不振,黒色便を主訴に近医を受診し,精査加療目的で当科紹介受診となった。血液検査では血清α‒fetoprotein(AFP)1,650 ng/mL と高値であり,上部消化管内視鏡検査では胃体下部~前庭部小弯に亜全周性2 型腫瘍を認めた。また,腹部造影CT 検査では肝S4 に30×24 mm 大のやや造影効果に乏しい境界明瞭な腫瘤性病変を認め,AFP 産生胃癌・肝転移の診断となった。通過障害による嘔気・食欲不振を強く認めたため,幽門側胃切除術を施行した。術後第30 病日からS‒1/CDDP(SP)療法を導入した。病理組織学的診断は充実性の低分化腺癌で,高度の静脈侵襲(v3)を認めたが所属リンパ節転移は認めなかった(pN0)。免疫染色で腫瘍細胞はAFP 陽性であった。術後13 か月(SP 療法8 コース後)のCT 検査で肝転移巣は著明な縮小を認めた(RECIST: CR)。有害事象により術後23 か月でS‒1 単剤療法に変更後も肝転移の再燃は認めず,術後66 か月無再発生存中である。 -
腹膜転移,肝転移を有する切除不能大腸癌に対し薬物療法継続を目的とした緩和手術を施行し完全緩解継続中の1 例
48巻3号(2021);View Description Hide Description症例は50 歳台,男性。腹痛と嘔吐を主訴に当院に救急搬送となった。CT ではS 状結腸の壁肥厚とその口側腸管の著明な拡張と,肝左葉外側区域に30 mm 大の腫瘍を認め,肝転移を伴うS 状結腸癌による閉塞性大腸癌と診断した。大腸ステント留置困難であったため,盲腸を用いた人工肛門造設術を施行した。腸管減圧後の腹腔鏡手術で腹膜転移が判明し,切除不能と判断した。その後,化学療法および分子標的治療を行った。人工肛門周囲の皮膚障害(Grade 2)のために分子標的治療継続が困難と判断した。そこで薬物療法継続を目的とした原発巣切除術および人工肛門閉鎖術を行った。術後化学療法および分子標的治療を再開したが,皮膚障害を発症することなく経過した。現在はメンテナンス療法中であるが,全治療開始から3 年CR 継続中である。本症例では集学的治療の一環として手術を行ったが,薬物療法継続を目的とした緩和手術の選択も有用であると考えた。 -
全身化学療法後にLiver‒First Approach でR0 切除が得られた直腸癌同時性肝肺転移の1 切除例
48巻3号(2021);View Description Hide Description化学療法の普及によって,肝転移を伴う切除不能大腸癌に対してconversion surgery が行われている。また,高度肝転移に対して肝切除を原発巣切除に先行するliver⊖first approach(LFA)の有用性の報告も散見される。われわれは,両葉多発肝肺転移を伴う進行直腸癌に対して化学療法後にLFA を行い,R₀ 切除し得た1 例につき報告する。症例は₃₆ 歳,女性。初診時に狭窄および多発肝肺転移を伴う直腸癌を認めた。切除不能進行大腸癌,cT₄aN2aM1b,cStage Ⅳb と診断し,人工肛門造設術を行った。化学療法を₉ か月間行い原発巣と肝転移はPR,肺転移はCR を得た。conversion surgery が可能と判断したが,肝転移は残肝容積から耐術下限であり,再度増大すれば切除困難となる可能性もあり肝切除を先行することとした。まず,肝右葉切除+肝S₃ 部分切除術を施行し,その1 か月後,腹腔鏡下直腸高位前方切除術を行った。その後に再増大を来した肺転移に対し肺部分切除術を施行しR₀ 切除を達成した。切除不能進行大腸癌肝転移のconversion surgeryにおいてLFA が有用であった症例を経験した。 -
進行再発大腸癌Late‒Line としてのTAS‒102+Bevacizumab の使用経験
48巻3号(2021);View Description Hide DescriptionTAS-102 は大腸癌化学療法third-line 以降で単剤使用が推奨されている。bevacizumab(BEV)併用で無増悪生存期間,全生存期間の延長が報告されており,2 例に使用した。血液毒性以外にGrade 3 以上の有害事象はなく,6 か月以上治療を継続しSD が得られていた。症例1: 60 代,男性。直腸癌に対し低位前方切除術,両側側方リンパ節郭清,人工肛門造設術を施行した。pT2,pN1,pStage ⅢA。術後補助化学療法を行ったが局所再発と仙骨へ転移し,化学放射線療法,FOLFIRI+BEV を投与した。治療中に消化管穿孔を来したためTAS-102 +BEV へ変更し,10 コース施行した。症例2:70 代,男性。直腸癌多発肝転移に対し人工肛門を造設し,化学療法後に低位前方切除術を行った。pT3,N0,M1a,pStage Ⅳ。術後FOLFIRI+BEV,panitumumab(PANI)を施行し,肝切除した。術後残肝再発しirinotecan+PANI,regorafenib を投与したが肺転移が出現し,TAS-102 +BEV へ変更し8 コース施行した。 -
腹腔鏡下胃局所切除術を施行した胃内発育型粘膜下腫瘍の1 例
48巻3号(2021);View Description Hide Description今回われわれは,噴門直下の胃内発育型粘膜下腫瘍に対し腹腔鏡下胃局所切除術(胃内手術)を施行した症例を経験した。症例は₆2 歳,男性。黒色便精査の上部消化管内視鏡検査で胃噴門直下に胃内発育型の腫瘍を認めた。生検でc⊖kit(+),CD₃₄(+)であり,gastrointestinal stromal tumor(GIST)と診断した。本症例では,胃内から腫瘍基部を自動縫合器で切除することで腫瘍遺残なく狭窄を回避できると判断し,腹腔鏡下胃内手術の方針とした。臍から上方₅ cm 開腹後,胃体中部前壁を切開し皮膚と固定後,単孔式手術を開始した。上部消化管内視鏡を併用しながら,自動縫合器を用いて切除した。最終病理結果でmodified Fletcher 分類の高リスクであり,イマチニブによる術後補助化学療法を開始した。術後通過障害を含め,合併症なく局所再発,遠隔転移再発を認めず良好な経過が得られた。 -
悪性腫瘍患者の終末期せん妄の検討
48巻3号(2021);View Description Hide Description背景: せん妄は悪性腫瘍患者において様々な悪影響をもたらすため,原因を除去することが重要である。今回,悪性腫瘍患者のせん妄に関して検討を行った。対象と方法: 2015 年5 月~2016 年3 月までに当院緩和ケア病棟に入院し,死亡退院した悪性腫瘍患者77 例を対象とし,せん妄に関して後方視的解析を行った。結果: せん妄は入院時には17 例(22.1%),退院前には38 例(49.4%)に認められた。入院後,5 例(29%)で再燃なくせん妄が改善し,34 例(57%)でせん妄の出現を回避できた。入院時の因子では嘔気,昼夜逆転が,退院時の因子では認知症,疼痛,昼夜逆転が抽出された。結論: 今回,悪性腫瘍患者のせん妄に関してせん妄の原因と経過に関して検討を行った。 -
大腸癌術前Simulation CTC を用いたRiolan 弓温存IMA 切離リンパ節郭清の検討
48巻3号(2021);View Description Hide Description背景と目的: CT colonography(CTC)と血管₃D を合成した手術支援画像(simulation CTC: sCTC)が大腸癌手術において普及している。また,まれにRiolan 弓(arc of Riolan: aR)を経験するが,その定義や詳細ははっきりしていない。sCTC を用いてaR を同定し,aR を温存した下腸間膜動脈(IMA)切離リンパ節郭清を検討する。対象と方法: 対象は大腸癌術前sCTC を施行した369 例のうち,aR を認めたS 状結腸・直腸癌3 例とした。sCTC を作成し,aR の走行形態を同定した。さらに脾曲の辺縁動脈が,虚血のリスクが懸念される狭小・網状であるものをGriffith 点あり(presence: P),明瞭な辺縁動脈であるものをGriffith 点なし(absence: A)と分類した。sCTC を用いてaR を温存したリンパ節郭清をsimulation した。結果: 症例1: 患者は60 歳,男性。直腸癌,cT4aN1M0,Stage Ⅲa。aR は中結腸動脈左枝(MCA lt)-LCA 間。Griffith点はP。aR を温存したIMA 切離D3 郭清をsimulation した。病理所見はpT3N1M0,Stage Ⅲa。症例2: 患者は65 歳,女性。S 状結腸癌,cT3N2M0,Stage Ⅲb。aR はMCA lt-IMA 間。Griffith 点はP。aR を温存したIMA 切離D₃ 郭清をsimulationした。病理所見はpT3N2M0,Stage Ⅲb。症例3: 患者は75 歳,女性。S 状結腸癌,cT1bN0M0,Stage Ⅰ。aR は第1 空腸動脈(1st JA)-IMA 間。Griffith 点はA。simulation はaR を温存したIMA 切離D3 郭清を施行した。病理所見はpT1bN0M0,Stage Ⅰ。結語: sCTC によりaR の様々な走行形態を同定でき,IMA 切離リンパ節郭清においてaR を温存した血流温存手術のsimulation が可能であった。 -
両側鼠径リンパ節に転移を認めた横行結腸癌の1 例
48巻3号(2021);View Description Hide Description症例: 60 歳台,女性。現病歴: 便潜血検査陽性で当院紹介となる。大腸内視鏡検査では横行結腸中ほどに10 mm 大の隆起性病変を認め,生検結果はadenocarcinoma,tub1 であった。画像検査では遠隔転移はなく,術前診断はcT2N0M0 であったため腹腔鏡下結腸左半切除術,D3 リンパ節郭清を施行した。病理組織診断はadenocarcinoma(tub1>tub2>muc),pT1b,pN2,fStage Ⅲb であった。術後補助化学療法を施行し経過観察していたが,術後8 か月目に両側の鼠径リンパ節腫大を主訴に受診した。身体所見: 両側の鼠径リンパ節に母指等大の腫瘤を複数個触知した。弾性は軟で,可動性は良好であった。画像検査: 造影CT 検査では左右の鼠径部に複数のリンパ節腫大を認めた。肺,肝臓に再発を疑う病変を認めず。大動脈周囲リンパ節,骨盤内のリンパ節に転移を疑うリンパ節腫大を認めなかった。治療経過: 原因精査目的に左右のリンパ節生検を施行した。病理組織所見は左右のリンパ節とも粘液貯留湖がみられ,そのなかに癌細胞が認められ,横行結腸癌のmuc 成分の転移として矛盾しないものであった。現在,化学療法を施行している。 -
急性腹症を呈した腹腔内デスモイドの1 例
48巻3号(2021);View Description Hide Description症例は70 歳,男性。突然発症した強い腹痛を主訴に当院へ救急搬送された。腹部造影CT 検査にて十二指腸水平脚に接する径6 cm 大の腫瘤を認め,十二指腸GIST が疑われた。腹部症状が強く切迫破裂も考えられたがバイタルサインは安定していたため,さらなる精査後に待機的手術を行う方針とした。しかし入院後も腹痛のコントロールに難渋したため,第6病日に診断的治療目的に手術を施行した。腫瘤は十二指腸水平側を引き込むように存在しており,十二指腸由来GIST の可能性が高いと判断した。周囲への浸潤傾向が強く,周囲臓器である右側結腸合併切除も施行した。病理学的診断にて腹腔内デスモイドと診断され,切除断端は陰性であった。術後経過は良好であり第20 病日に退院し,術後1 年経過した現在,無再発生存中である。今回われわれは,急性腹症として手術を要した腹腔内デスモイドの症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。 -
リンパ節転移を来した乳房悪性葉状腫瘍の1 例
48巻3号(2021);View Description Hide Description症例は52 歳,女性。6 か月前より右乳房痛と乳腺腫瘤を自覚していたが放置していた。徐々に増大を認めたため近医を受診した。針生検にて境界悪性も否定できない葉状腫瘍と診断されたため,加療目的に当科に紹介となった。初診時,約15 cm の右乳腺腫瘤を認め,乳房全体にうっ血は認めるものの明らかな皮膚浸潤は認めなかった。乳腺超音波検査ではプローブを越える内部不均質で血流シグナル豊富な腫瘤を認めた。また,腋窩リンパ節は中心高エコーを認めるものの皮質の肥厚した類円形であった。腋窩リンパ節に対する細胞診では異型細胞を認めた。胸腹部CT 検査にて遠隔転移はないものの,超音波検査と同様に右腋窩に腫大したリンパ節を認めリンパ節転移が疑われた。全身麻酔下に乳房切除と腫大したリンパ節をサンプリングした。病理組織診断の結果,悪性葉状腫瘍と診断され,リンパ節転移と診断された。術後1 か月で皮下腫瘤を認め,胸部CT 検査で多発皮下腫瘤と肺に結節を指摘された。皮下腫瘤を含む胸壁照射(45 Gy)施行し,その後ドキソルビシンを2 コース施行するも肺結節の増大と胸水貯留を認め,皮下腫瘤の増大も認めた。エリブリンメシル酸塩に変更して治療するも奏効せず,術後5 か月で死亡した。非常にまれなリンパ節転移を伴い,集学的治療を行うも急速な増悪を来した悪性葉状腫瘍を経験したため,若干の文献を加えて報告する。 -
術前化学療法でpCR を得たTriple Negative 乳癌の1 例―乳頭側ハイドロマーク留置の有用性―
48巻3号(2021);View Description Hide Description予後不良であるtriple negative 乳癌は術前化学療法にて約10~30% の病理学的完全奏効(pathological completeresponse: pCR)が得られ,pCR を得られた場合には予後良好とされる。原発巣が消失した場合の乳房温存術の際,切除部位の同定が困難なことがある。今回,術前化学療法前にハイドロマークを留置し,手術の際に有用であったので報告する。症例は51 歳,女性。2018 年12 月,左乳腺腫瘤を主訴に初診した。T1N0M,Stage Ⅰの乳癌[invasive ductal carcinoma,ER(-),PgR(-),HER2(-)]と診断された。2019 年2 月,エコー下にハイドロマークを留置した。術前化学療法としてEC 療法4 コース+ドセタキセル療法(3 週おき)4 コースを施行した。同年8 月,画像上原発巣は消失しており,その乳頭側に留置してあったハイドロマークを指標に乳房温存術を行った。病理結果はpCR であった。 -
大腸癌同時性肝転移例に対するCV ポートを長期留置後にカテーテル断裂を来した1 例
48巻3号(2021);View Description Hide Description症例は72 歳,男性。2014 年に直腸癌,虫垂癌の多発大腸癌と肝S3 同時性肝転移を認め,二期的に切除を施行した。2017 年肝S8 に単発再発を認め,肝S8 亜区域切除術を施行した。術後化学療法のためCV ポート造設予定となった。造設時にはカテーテルが鎖骨と第一肋骨の間で潰されるピンチオフ症候群を避けるために,エコーガイド下に左鎖骨下静脈の外側から穿刺し留置した。FOLFOX 療法を開始したが,3 コース目にアレルギー症状が出現したため中止した。CV ポート造設後2 年目の定期受診の際に施行した胸部X 線にてカテーテル断裂を認めた。断裂したカテーテルは静脈内への脱落は認めないため,透視下でポート抜去可能であった。エコーガイド下に留置した場合であっても,カテーテル断裂の可能性を常に念頭に置いて早期発見・対応することが重要であると考えられた。 -
乳癌胃転移5 例の治療経験
48巻3号(2021);View Description Hide Description比較的まれな5 例の乳癌胃転移を経験した。原発巣の組織型は浸潤性乳管癌4 例,浸潤性小葉癌1 例であった。発見契機としては,CEA 高値精査の上部消化管内視鏡で発見した症例1 例,狭窄症状2 例,出血症状1 例,心窩部痛が1 例であった。胃転移診断後の治療としては化学療法2 例,ホルモン療法1 例,緩和治療の方針となったのが2 例であり,その緩和の方針となったうちの1 例にはステントを留置したが,出血症状が出現し,全身治療を再開することなく死亡した。狭窄,出血などの症状を認めた場合の予後は短いことから,胃転移は予後不良病態であることを認識し治療に当たる必要があると考えられる。 -
放射線性腸炎に対し外科的治療を施行した4 例
48巻3号(2021);View Description Hide Description骨盤部悪性腫瘍に対する放射線療法は治療成績の向上に大きく寄与するが,放射線性腸炎を発症することがある。放射線性腸炎は早期障害と晩期障害に分類されるが,晩期障害は腸管粘膜の虚血性変化により引き起こされる進行性で不可逆的な変化である。難治例は手術適応となるが,高度癒着や縫合不全のリスクがあるなど手術に難渋することがあり,また術後経過でも苦労することがある。今回,放射線性腸炎を発症した4 例に対し手術を施行したが,そのうち2 例では残存小腸の吸収障害や腸管麻痺により術後経過に難渋した。退院後も経口摂取に制限が加わるなど患者のQOL を著しく低下させる結果となったため,放射線療法を施行する際はメリットとデメリットについて十分に説明し,理解を得た上で行う必要があると考えられた。 -
当院での乳がん再発症例に対するCDK4/6 阻害剤治療後の治療成績
48巻3号(2021);View Description Hide DescriptionパルボシクリブはCDK4/6 を選択的に阻害する新規の経口分子標的薬であり,その効果から化学療法開始を遅らせることが期待され,2017 年9 月HR 陽性HER2 陰性の切除不能または再発乳がんに対する適応承認を取得した。その後のパルボシクリブの臨床試験の解析ではPFS は有意な延長を認めたが,OS が改善されなかったことやパルボシクリブ後の治療において奏効期間が短くなることが報告されている。今回,当院乳腺外科と関連病院で継続的に治療できたパルボシクリブPD 後,エリブリンもしくはカペシタビンを投与した10 例に対し有効性と安全性を検討した。エリブリンを投与した5 例の年齢中央値56.0(43~65)歳,カペシタビンを投与した5 例の年齢中央値49.4(39~71)歳,ホルモン受容体は全例で陽性であった。両群ともに内臓転移(主に肺,肝臓)を認めた。前治療であるパルボシクリブ投与line 数中央値はエリブリン投与群で2(2~3),カペシタビン投与群で1(1~2)であった。さらにパルボシクリブ投与期間の平均値はエリブリン投与群で7.0(3~13)か月,カペシタビン投与群で7.4(4~15)か月であった。PFS はエリブリン投与群で5.8(4~7)か月,カペシタビン投与群で6.4(3~10)か月であった。治療効果は両群ともにPR 2 例(40%),SD が3 例(60₀%)であった。よって今回の検討では,パルボシクリブ投与後でも有効性を認めた。 -
乳がん再発症例に対してオラパリブを使用した1 例
48巻3号(2021);View Description Hide Description右乳がん[invasive ductal carcinoma,ER(+),PgR(+),HER2(3+),Ki-67 30%]と診断にて術前化学療法FEC(100)-DTX(75)+トラスツズマブ×4 回施行した。200 X+1 年乳房切除,センチネルリンパ節生検を行った。最終病理結果,pT1(10 mm),N0,M0,ER(+),PgR(+),HER2(-),Ki-67 10% であった。200 X+2 年肝転移が出現した。生検でIDC,ER(+),PgR(+),HER2(-),Ki-67 20% であり,当院紹介となった。HER2 が陰転化していたため,パルボシクリブ+AI を開始した。全身劵怠感と骨髄抑制がG2 となり,化学療法は継続困難となった。200 X+3 年,BRCA 陽性と判明したためオラパリブを開始した。食欲不振,嘔気Grade 1 を認めるも骨髄抑制は改善した。約2 か月後,PET-CT では肝転移は劇的に縮小,現在PR 継続中である。