癌と化学療法
Volume 48, Issue 4, 2021
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投稿規定
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総説
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がん免疫力をアップさせる目から鱗の腸内ケア―特に胚中心を伴うTertiaryLymphoid Structure 誘導の役割について―
48巻4号(2021);View Description Hide Description癌患者は,程度の差こそあれ腸内環境がすでにdysbiosis 状態に陥っている。そのような患者に抗癌剤を投与すると,その副作用で腸粘膜バリア機能が障害される。その結果,bacterial translocation が起こって肝臓類洞内に好中球細胞外トラップと活性化血小板からなる免疫血栓が形成され,そこで腸内細菌を捕捉・殺傷する自然免疫応答が働く。しかしこの免疫血栓が必要以上に過剰に発生すると,そこからHMGB1・S100A8/S100A9・VEGF‒A などのalarmin が細胞外に放出される。これらのalarmin は癌巣部からも放出されており,ともにmyeloid‒derived suppressor cell(MDSC)などの免疫抑制性細胞を肝臓や癌巣部内に数多くリクルートするので,肝臓内にpre‒metastatic niche が形成され,癌巣部の免疫抑制性環境も増強する。したがって,抗癌剤治療時には肝臓や癌巣部にMDSC などがこれ以上増加しないように腸粘膜バリア機能を強化する腸内ケアを行う必要がある。われわれは,独自に考案したプロバイオティクスとL‒グルタミン含有サプリメントからなる腸内ケアを膵癌の術前化学療法施行時に行ったところ,免疫チェックポイント阻害剤の治療効果予測バイオマーカーとして今にわかに注目され始めた“胚中心を伴うmature tertiary lymphoid structure 誘導”を介した驚きの癌免疫応答症例を経験した。そこで,その貴重な病理組織像を紹介するとともに,その液性免疫誘導の詳細な機序について腸内ケアを伴う抗癌剤治療の視点から概説する。
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特集
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- 小細胞肺癌治療の最前線
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小細胞肺癌の病理分類・分子生物学的分類
48巻4号(2021);View Description Hide Description肺癌を除く他の多くのがん種では小細胞癌の名称は神経内分泌癌に統一されつつあり,その流れを受けて2015 WHO肺癌分類では小細胞癌は神経内分泌癌の一型となった。しかしながら,小細胞癌の名称は維持され,2021 WHO 肺癌分類においても一つのエンティティとして存在する。本稿では小細胞肺癌における分類の歴史と現在の考え方を紹介するとともに,2019 年に提唱された四つの決定的分子,ASCL1,NEUROD1,YAP1,POU2F3 を軸とした小細胞肺癌についての分子生物学的分類を紹介する。 -
小細胞肺癌の網羅的ゲノム解析
48巻4号(2021);View Description Hide Description小細胞肺癌は肺癌のなかでも最も予後不良な組織型であり,発見時にすでに手術不能な進行期であることが多い。近年の研究では小細胞肺癌の網羅的ゲノム解析が行われ,TP53 やRB1 などの腫瘍抑制遺伝子の失活変異,MYC ファミリー遺伝子の増幅などが癌の発生,増殖に関与していることが示されているが,治療標的となるような遺伝子異常は少なく,小細胞肺癌における標的治療薬の開発は大きな進展がみられていない。本稿では,全国規模での肺癌ゲノムスクリーニングプロジェクトであるLC-SCRUM-Japan を基盤として実施した,日本人の小細胞肺癌患者を対象とした大規模ゲノムスクリーニングの結果と,検出されたPI3K/AKT/mTOR 経路の遺伝子異常に対する標的治療の有効性を検証したEAGLE-PAT 試験の概要,およびこれまで研究された小細胞肺癌における遺伝子異常や標的治療について概説する。 -
小細胞肺癌におけるQOL 維持への取り組み―脳転移・骨転移治療の最前線
48巻4号(2021);View Description Hide Description小細胞肺癌は増殖速度が速く,比較的早期に多臓器に転移を起こし得る。特に脳転移と骨転移は生じる頻度が高く,進行すると生活の質(quality of life: QOL)を著しく低下させるため,脳転移・骨転移の管理を適切に行うことが重要である。限局型小細胞肺癌の化学放射線治療後,治療効果が良好な場合には脳転移の再発を予防するための予防的全脳照射(prophylacticcranial irradiation: PCI)が標準治療である。小細胞肺癌の脳転移では,単発であったとしても早期に多発の脳転移を来す可能性が高いために全脳照射(whole brain radiation therapy: WBRT)を行うことがある。しかしながら,PCI およびWBRT は晩期の有害事象として神経認知障害のリスクがあり,QOL 低下の可能性がある。限局型小細胞肺癌に関してはPCI を行わない場合,magnetic resonance imaging(MRI)による定期的なフォローアップを行い,脳転移出現時に定位照射(stereotactic radiosurgery: SRS)もしくはWBRT を行うことが代替案となる。小細胞肺癌の脳転移においても一律にWBRT を選択するのではなく,症例に応じてSRS を行う選択肢もある。骨転移は疼痛,病的骨折,脊髄圧迫や高カルシウム血症などの原因となり,放射線治療や外科的治療が必要となる骨関連有害事象(skeletal‒related event: SRE)を来すリスクがある。SRE はQOL を著しく低下させるために適切かつ迅速な対処が求められる。骨転移の治療としては,鎮痛薬,放射線治療,外科的治療,骨修飾薬(bone modifying agent: BMA)などがあるが,いずれの治療も症例に応じて適切に選択することが肝心である。脳転移・骨転移ともに局所の制御を適切に行うことがQOL 維持に重要であり,集学的アプローチが必要となる。 -
進展型小細胞肺癌に対する免疫チェックポイント阻害剤
48巻4号(2021);View Description Hide Description様々な癌腫に対する治療戦略として,免疫チェックポイント阻害剤(immune checkpoint inhibitor: ICI)はICI 単剤治療,ICI どうしの併用療法または化学療法とICI の併用療法で,従来からの化学療法に比し全生存期間を延長できることが複数の臨床試験で検証されており,癌治療におけるキードラッグとして認識されている。長らく治療進歩が停滞していた進展型小細胞肺癌に対しても二つの大規模な第Ⅲ相試験(IMpower133 試験,CASPIAN 試験)が行われ,標準治療とされる化学療法群に比較して化学療法に抗PD‒L1 抗体(atezolizumab,durvalumab)を上乗せすることにより全生存期間を延長することが示された。免疫関連有害事象には注意が必要であるが,両試験とも有害事象での治療中止割合は両群で同等と考えられ,治療の忍容性も示された。現在,進展型小細胞肺癌に対する一次治療としてcarboplatin+etoposide+atezolizumab併用療法,またはプラチナ製剤(carboplatin またはcisplatin)+etoposide+durvalumab 併用療法が,肺癌診療ガイドライン2020 年版でも推奨グレード1A とされている。本稿では,それぞれの臨床試験の概要説明とクリニカルクエスチョンを提示する。
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Current Organ Topics:Melanoma and Non‒Melanoma Skin Cancers メラノーマ・皮膚癌
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原著
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当院における悪性胸膜中皮腫の治療法の変遷
48巻4号(2021);View Description Hide Description当院にて悪性胸膜中皮腫の化学療法に分子標的治療薬が使用されるようになった2014 年以降に診断・治療した61 例の治療方法に関して検討した。化学療法37 例,手術療法12 例,BSC が12 例であった。化学療法の一次治療では14 例に,二次治療では22 例に分子標的治療薬が使用されていた。手術療法では全例に胸膜剝皮術が行われたが,2 例が胸膜肺全摘術に移行した。化学療法と手術療法の臨床病理学的比較では,化学療法ではPS≧2,非上皮型,進行例,バイオマーカーのLMR<2.74 が多かった。生存期間中央値は全例23 か月,化学療法31 か月,手術療法が未達であった。化学療法の病期別ではⅠA/ⅠB/ⅢA/ⅢB 期が23/14/32/12 か月で,ⅢA 期の予後の改善が認められた。治療群における臨床病理学的因子による多変量解析では非肉腫のみが予後良好因子であり,手術は予後良好因子ではなかった。
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症例
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Palbociclib 抵抗性となった乳癌肝転移再発に対してAbemaciclib が奏効した1 例
48巻4号(2021);View Description Hide Description症例は72 歳,女性。乳癌肝転移再発の進行があり肝針生検を実施し,ER(+),PgR(+),HER2(-)を確認した。二次内分泌療法としてpalbociclib(125 mg/日 内服3 週投与1 週休薬)とfulvestrant(500 mg 筋注1,15,29 日目投与し以降4 週毎投与)を開始した。いったん肝転移病変は縮小し,腫瘍マーカーCA15‒3 の低下を認めた。しかし7 か月後に再増悪のためpalbociclib を中止し,三次内分泌療法としてabemaciclib(150 mg×2/日内服)とfulvestrant に変更したところ,肝転移病変の再縮小とCA15‒3 の再低下を認め,12 か月間治療を続けている。以上から,選択的CDK4/6 阻害剤のabemaciclib は,palbociclib 無効または耐性となった場合でも有用性があるのではないかと示唆された。 -
Non‒Islet Cell Tumor Hypoglycemia を発症したIGF‒Ⅱ産生胃癌の1 剖検例
48巻4号(2021);View Description Hide Description症例は72 歳,男性。食欲不振を主訴に前医を受診し,多発肝転移を伴う進行胃癌と診断され,化学療法目的に当科を紹介受診した。入院時より著明な低血糖およびふらつきがみられた。インスリンは低値であり,その他の内分泌学的検査でも異常はみられなかった。生検組織の免疫組織化学染色で腫瘍細胞にinsulin-like growth factor(IGF)-Ⅱ蛋白の発現を認め,非膵島細胞腫瘍性低血糖(non-islet cell tumor hypoglycemia: NICTH)と診断した。S-1+シスプラチン併用療法の開始とともにステロイド投与も行い,低血糖は是正された。しかし敗血症性ショックを併発し,第35病日に死亡した。剖検にて,原発巣に加え肝転移巣でもIGF-Ⅱ蛋白の発現が確認された。 -
骨髄異形成症候群に対してアザシチジン療法を導入後,早期多発胃癌ESD を施行した1 例
48巻4号(2021);View Description Hide Description症例は76 歳,男性。201X 年11 月にめまいを自覚し,近医を受診した。貧血の原因検索目的に施行した上部消化管内視鏡で早期胃癌を疑われて当科紹介となった。胃体上部小弯に0‒Ⅱa+Ⅰ病変,胃体中部小弯後壁寄りに0‒Ⅱa+Ⅱc 病変の2 病変と診断した。どちらもT1a 病変でありESD の方針としたが,血中ヘモグロビン値が6.8 g/dL,血中血小板数が2.6×104/μg,血液検査所見に異常があり骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome: MDS)が疑われたため,専門施設へ治療を依頼した。high risk の骨髄異形成症候群と診断され,アザシチジン療法を導入された。2 サイクル施行した後にHb 11.3g/dL,Plt 25.4×104/μg と血液異常が改善した。当科にて201X+1 年7 月,2 病変に対してESD を施行した。病理所見では両病変ともに高分化腺癌,T1a,ly0/v0,HM(-),VM(-)であった。今回われわれは,high risk MDS の治療後,胃癌内視鏡治療を安全に施行できた症例を経験した。 -
肝細胞癌の治療経過中にS 状結腸癌肝転移を合併した1 例
48巻4号(2021);View Description Hide Description患者は72 歳,男性。肝細胞癌に対して経カテーテル的肝動脈化学塞栓術(transarterial chemoembolization: TACE)および人工胸水下経皮的肝癌ラジオ波焼灼術(radiofrequency ablation: RFA)を施行した。6か月後のgadolinium ethoxybenzyldiethylenetriamine pentaacetic acid⊖enhanced magnetic resonance image(EOB MRI)で肝内に多発結節を認めた。RFA 後の肝細胞癌多発再発と診断しTACE を施行したが,その後のEOB MRI では肝内病変は増大し,リング状造影効果を認めた。大腸内視鏡検査を行った結果,S 状結腸癌の所見を認めた。肝腫瘍生検の結果から,S 状結腸癌肝転移の診断となった。今回,肝細胞癌を治療していく上で教訓的な症例を経験したため若干の文献的考察を含め報告する。 -
再発ラブドイド腫瘍に対するGemcitabine/Docetaxel 療法
48巻4号(2021);View Description Hide DescriptionGemcitabine/Docetaxel 療法(GT 療法)は軟部肉腫の治療法として知られているが,悪性ラブドイド腫瘍(malignantrhabdoid tumors: MRTs)に対する報告はない。われわれは,悪性腎ラブドイド腫瘍(malignant rhabdoid tumor of kidney:MRTK)2 例と非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍(atypical teratoid rhabdoid tumor: ATRT)2 例に対し,再発後治療としてGT 療法を実施した。MRTK の2 例の最良総合効果はpartial response(PR)であり,ATRT はPR とstable disease(SD)が各1 例であった。MRTK とATRT のそれぞれ1 例で放射線照射部位を中心とした限局性の浮腫を認め,うち1 例では非腫瘍性の胸水貯留を合併した。GT 療法はMRTs の再発後治療として有効である可能性が示唆された。一方,特有の副作用に対して注意が必要である。
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特別寄稿
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- 第42回 日本癌局所療法研究会
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RFA 後,HCC 再発との鑑別に苦慮したICC の1 例
48巻4号(2021);View Description Hide Description胆管細胞癌(intrahepatic cholangiocarcinoma: ICC)は乏血性を示すことが多いが,症例によっては多血性を示すこともあり肝細胞癌(hepatocellular carcinoma: HCC)との鑑別が困難なことがある。右尾状葉原発のHCC と診断された症例に対しラジオ波焼灼療法(radiofrequency ablation: RFA)施行後,局所再発の診断にて手術施行したICC の1 例を経験した。症例は79歳,女性。右尾状葉原発の2cm 大HCC に対しRFA を施行した。2年後の造影MRI にて治療部近傍に乏血性の紡錘形腫瘤を認めた。後区域胆管拡張と後区域肝実質の萎縮を伴い,後区域門脈枝は根部で途絶していた。胆管内腫瘍栓を伴うHCC 再発の疑いにて手術を施行した。術中所見では,後区域は区域性に萎縮し硬化性変化を認めた。術中超音波検査では肝実質に腫瘍の同定はできず,後区域胆管内から総肝管に至る腫瘍栓を認め,門脈後区域枝は途絶を認めるも門脈内に腫瘍栓は同定できなかった。肝拡大後区域切除,尾状葉切除,胆管内腫瘍栓摘出術を施行した。病理組織学的所見では変性した後区域はRFA 後の反応性変化で,腫瘍性病変は認めなかった。拡張した胆管内に肝細胞と連続のない中分化腺癌を認め,ICC と診断した。門脈周囲に閉塞の原因となる所見を認めなかった。HCC 再発との鑑別に苦慮したICC の1 例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。 -
胃切除時の郭清リンパ節から偶発的に診断された悪性リンパ腫の1 例
48巻4号(2021);View Description Hide Description症例は65 歳,男性。血液検査で貧血を指摘され,精査で胃癌と診断され,手術目的に入院となった。腹腔鏡補助下幽門側胃切除,D1+郭清,Billroth Ⅰ法再建を施行,術後経過は良好で術後8 日目で退院となった。病理組織学的検査でT1aN0M0,pStage ⅠA と診断された。一方,郭清されたNo. 3,No. 4d,No. 8a リンパ節中に悪性リンパ腫が認められた。血液内科で大細胞型B 細胞性リンパ腫,Stage Ⅲと診断され,R‒CHOP を施行中である。胃癌については術後2 年であるが,再発を認めていない。胃癌手術時の郭清されたリンパ節から悪性リンパ腫と診断された重複癌についての報告例はなく,若干の文献的考察を加え報告する。 -
悪性サイクルによる縮小を認めた巨大潰瘍を伴う胃体上部低分化型腺癌
48巻4号(2021);View Description Hide Description症例は84 歳,女性。上部消化管内視鏡検査で胃体上部小弯側の辺縁不整な巨大潰瘍性病変を認めた。腹部造影CT では一部膵体部と接する胃壁の著明な肥厚および所属リンパ節の腫大を認め,cT4aN1M0,cStage Ⅲと診断した。患者希望により手術を施行せず,S‒1 による化学療法およびPPI 内服を開始した。S‒1 内服2 コース終了後に全身倦怠感が強く化学療法を中止し,best supportive care の方針とした。初診時より8 か月後の上部消化管内視鏡検査で潰瘍性病変は瘢痕化し,非腫瘍性粘膜に覆われていた。腹部造影CT では胃壁肥厚所見は改善し,腫大したリンパ節は縮小していた。現在,1 年8 か月無増悪で経過し,外来通院中である。高齢者に対する胃全摘出術は周術期の合併症に加え,術後の食欲不振などによるQOL 低下が懸念される。巨大潰瘍を呈する胃癌症例は悪性サイクルや穿通合併などを考慮し,慎重に手術適応を検討する必要がある。 -
血液透析患者の大腸癌肝転移に対し大腸切除後化学療法を行い肝切除を行った1 例
48巻4号(2021);View Description Hide Description症例は60 歳台,男性。糖尿病性腎症による慢性腎不全のため血液透析中であった。S 状結腸癌と多発肝転移(S2,S6)を認め,原発病変制御目的として,まず腹腔鏡下S 状結腸切除術を施行した。病期はpT3N2aH1,stage Ⅳであり,病理組織学的検査で腫瘍は高分化から中分化型腺癌,RAS,BRAF はともに変異陰性であった。術後4 週後よりmFOLFOX4+panitumumab 療法[oxaliplatin 60mg/m₂(30% 減量),持続静注fluorouracil 600 mg/m₂(標準量),急速静注fluorouracil 400mg/m₂(標準量),Leucovorin 100 mg/m₂(標準量),panitumumab 6mg/kg(標準量)]を4コース行った。肝転移は2病変ともにpartial response が得られたため,S6病変に対してラジオ波焼灼術,S2病変に対して腹腔鏡下肝部分切除術を行った。初診時から₈ か月の時点で再発所見を認めていない。腎臓は多くの薬剤の代謝臓器であり,抗癌薬化学療法においても薬剤用量の調整や投与のタイミングを検討する必要がある。今回,血液透析中の大腸癌化学療法を経験したため文献的考察を交えて報告する。 -
腹腔鏡下S 状結腸癌・直腸癌手術における腸管クリップに対する工夫
48巻4号(2021);View Description Hide DescriptionS 状結腸癌,直腸癌の腹腔鏡手術において,腸管内への癌細胞の播種や吻合部の清浄性を確保するため一時的な腸管閉鎖を行い,残存腸管内の洗浄後,腸管切離が行われる。この際,一時的腸管閉鎖目的に腹腔鏡下に腸管クリップが使用される。当院ではビー・ブラウンエースクラップ株式会社製,無外傷性腸管クリップを用いている。われわれは,地元企業の協力を得て,強度に問題のないことを確認した上で腸管クリップ先端に小孔を作製した。小孔を通した糸で作った輪を鉗子で把持操作する工夫により,比較的容易にクリップを適正位置に留置することが可能であった。 -
腹部症状を呈する巨大卵巣奇形腫の切除によりQOL の改善が得られたStage Ⅳ胆管癌の1 例
48巻4号(2021);View Description Hide Description症例は82 歳,女性。腹部膨満感・食欲不振を主訴に紹介となった。腹部CT にて,肝転移,多発リンパ節転移を伴う肝門部胆管癌(Stage Ⅳ)を認めた。また,腹腔内の大部分を占拠する長径33 cm の左卵巣奇形腫も認められた。胆管癌に対する積極的な治療は希望されず,オピオイドを導入したが腹部症状の改善は得られなかった。腹部膨満感により患者のquality of life(QOL)が著しく低下していたため,症状軽減を目的に左卵巣摘出術を施行した。摘出標本の重量10,600 g,手術時間155 分,出血は少量であった。術後合併症は認めず,腹部症状は軽快し,第12 病日に退院が可能であった。退院後35 日目に全身倦怠感を主訴に再入院となり,再入院後21 日目(術後第66 病日)に胆管癌の進行により死亡した。末期癌患者において,併存する有症状の良性腫瘍に対して切除を行うことで,QOL の改善が得られる可能性が示唆された。 -
Imatinib が長期奏効している多発肝転移・腹膜播種・骨転移を認めた原発不明GIST の1 例
48巻4号(2021);View Description Hide Description症例は61 歳,女性。約1 か月前より下腿浮腫を自覚し,全身劵怠感も伴うようになった。CT で腹腔内に多数の結節と多発肝腫瘤を認めた。試験開腹術では腹腔内全体に播種を認め,検索できた消化管に明らかな原発巣は指摘できなかった。播種の生検にてGIST と診断し,術後13 日目よりimatinib を開始した。下肢浮腫は治療開始2 か月後には消失した。CT では肝転移・腹膜播種は縮小し,骨シンチグラフィの異常集積も消失した。多発肝転移・腹膜播種・骨転移を有する原発不明GIST に対しimatinib が長期に奏効し,治療開始₅ 年が経過した現在も新病変の出現なく生存中である。 -
腹腔鏡下S 状結腸切除術後乳糜腹水の1 例
48巻4号(2021);View Description Hide Description症例は70 歳台,女性。S 状結腸癌に対し,腹腔鏡下S 状結腸切除術D3 郭清を行った。術後3 日目に経口摂取の開始とともにドレーン排液の白濁を認め,排液のトリグリセリド(TG)が高値であり乳糜腹水と診断した。脂肪制限食へと変更し,乳糜腹水は速やかに改善した。大腸癌術後の乳糜腹水は比較的まれであるが,軽症の場合には脂肪制限食のみで軽快することが多い。細かなリンパ管損傷の予防のために,術中の注意深い観察と慎重な鉗子およびデバイスの操作に努めることが必要である。 -
直腸癌術後の肝・肺・大動脈周囲リンパ節転移に対して集学的治療が奏効し長期生存が得られた1 例
48巻4号(2021);View Description Hide Description症例は59 歳,女性。2005 年,直腸癌(pT4aN2aM0,pStage Ⅲb)に対し低位前方切除術+D2 郭清を施行した。2007年,肝転移に対し肝S8 亜区域切除術を施行した。その後,右肺上葉・大動脈周囲リンパ節(PALN)再発に対しFOLFIRI療法を施行し,PALN・肺ともにいったんcomplete response(CR)が得られたが,2009 年にPALN の再増大と左卵巣腫大を認めたためPALN 切除+左卵巣摘出術を施行した。病理組織学的所見ではPALN は転移性病変,卵巣は良性であった。術後11 年経過し無再発経過中である。他臓器転移を伴うPALN 転移例で,切除後長期生存の報告は極めてまれである。今回われわれは,異時性に他臓器転移を伴うPALN 転移に対し集学的治療を行い,長期生存を得られた1 例を経験したので報告する。 -
急速増大を来した肉腫成分を伴うS 状結腸間膜原発粘液性囊胞腺癌の1 例
48巻4号(2021);View Description Hide Description粘液性囊胞腫瘍は膵臓,卵巣および虫垂に好発し,腸間膜原発はまれである。われわれは,本邦で報告のないS 状結腸間膜原発の肉腫成分を伴う粘液性囊胞腺癌を経験した。症例は53 歳,女性。10 年以上前から左下腹部に囊胞性腫瘤を指摘されていた。CA19-9 の高値と腹部造影CT で左下腹部に60 mm 大の囊胞性腫瘤を認め,リンパ囊胞が疑われたため経過観察となった。しかし経過観察中に腹痛を認め,腹部造影CT では腫瘍の増大と造影効果を伴う充実成分の出現およびCA19-9 の急上昇を認め,悪性腫瘍を疑い手術を施行した。手術所見ではS 状結腸間膜内に80 mm 大の腫瘍を認め,多数の腹膜播種結節がみられた。腫瘍はS 状結腸との癒着が高度であり,合併切除し摘出した。病理組織学的所見では,肉腫成分を伴う粘液性囊胞腺癌の診断であった。肉腫成分を伴う粘液性囊胞腫瘍は極めてまれで予後不良であるため,症例の蓄積や治療法の確立が待たれる。 -
腹腔動脈狭窄を有する乳頭部癌に対して亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した1 例
48巻4号(2021);View Description Hide Description症例は74 歳,男性。十二指腸乳頭部腺腫の経過観察中,上腹部痛を主訴に当院を受診し,閉塞性黄疸による急性胆管炎と診断された。腺腫による胆汁うっ滞が原因と考察していたが,EUS 検査で胆管壁の不整像が認められたことから胆管進展を伴う乳頭部癌の可能性が高いと考えられた。術前CT 検査で腹腔動脈(CA)起始部に狭窄を認め,肝血流は上腸間膜動脈(SMA)からの膵頭部アーケードを介して供給されていると考えられたため,胃十二指腸動脈(GDA)断端と下膵十二指腸動脈(IPDA)を吻合して亜全胃温存膵頭十二指腸切除術(SSPPD)を施行した。病理診断の結果は乳頭部の粘膜内癌であった。術後に仮性動脈瘤破裂などを合併したが,67 日目に退院した。本症例は術前に悪性の診断が付かずCA 狭窄も認めていたが,胆管進展が疑われたため内視鏡治療ではなく手術を選択した。文献的考察を加えて報告する。 -
Nivolumab が著効した胃癌傍大動脈リンパ節転移・術後再発の2 例
48巻4号(2021);View Description Hide Description傍大動脈リンパ節転移・術後再発を伴う進行胃癌に対し,nivolumab が著効した2 例を経験したので報告する。症例1 は74 歳,男性。傍大動脈リンパ節転移を伴う切除不能進行胃癌と診断された。一次治療S‒1+oxaliplatin,二次治療paclitaxel+ramucirumab,三次治療CPT‒11 を施行したが,いずれも効果は一時的であり,経過中に左副腎転移が出現した。四次治療としてnivolumab を開始したところ投与開始2 か月後に傍大動脈リンパ節,左副腎転移は著明に縮小した。症例2 は79 歳,女性。胃体上部の進行胃癌に対し噴門側胃切除術を施行した。術後補助化学療法としてS‒1 療法を開始したが,術後4 か月に腫瘍マーカーの上昇と傍大動脈リンパ節再発を認めた。一次治療のramucirumab は不応であったが,二次治療としてnivolumab を開始したところ傍大動脈リンパ節は有意サイズ以下に縮小し,腫瘍マーカーは陰性化した。 -
術前化学療法で原発巣pCR となるも狭窄症状が出現した高度リンパ節転移を伴う胃癌の1 例
48巻4号(2021);View Description Hide Description症例は65 歳,男性。上部消化管内視鏡検査で胃前庭部に全周性の2 型腫瘍を認め,生検では低分化腺癌,HER2 陰性の結果であった。画像検査と審査腹腔鏡でcT4a(SE)N3M0,cStage Ⅲの診断となり,bulky N の所見を認めていたため術前補助化学療法(SOX 療法)を実施した。2 コース行ったところで胃原発巣と転移リンパ節の著明な縮小を認めたが,胃腫瘍部での狭窄症状が出現した。W‒ED チューブで胃内の減圧と栄養管理を行い,良好な全身状態で手術ができた。手術は幽門側胃切除術(D2 郭清),胆囊摘出術を施行した。病理組織学的検査では胃原発巣には明らかな癌細胞の残存は認めず,組織学的効果判定はGrade 3 であった。郭清リンパ節には2 個の転移を認めたが,いずれもわずかに癌細胞が残存するのみであった。術前化学療法で狭窄症状が出現したが,原発巣でpCR が得られた胃癌の1 例を経験したので報告する。 -
胃癌の癌性腹水に対する腹腔静脈シャント留置術後に無症候性の凝固能異常を認めた1 例
48巻4号(2021);View Description Hide Description症例は61 歳,男性。腹膜播種を伴う切除不能進行胃癌に対し化学療法を施行し,原発巣の縮小を認めたため胃全摘術を施行した。術中所見で播種結節の消失を認めた。術後補助化学療法を施行するも術後5 か月で腹水貯留を認め,腹水細胞診は陰性であったが腹膜播種再発と診断した。血管透過性亢進を抑制するためramucirumab を使用したが,腹水は改善しなかった。複数回のCART も施行したが腹水のコントロールは不良であり,デンバーシャントを留置した。術後にFDP‒DD,TAT の異常高値を認めDIC・血栓症などが懸念されたが,術前からのDOAC を継続し経過観察したところ腹水貯留減少に伴うシャント使用低下により凝固能異常はしだいに改善した。癌性腹水に対するデンバーシャント留置後に無症候性の凝固能異常を認め,その経過をTAT にて評価した1 例を経験した。 -
術前CT Colonography で診断し得た大腸多発癌の1 例
48巻4号(2021);View Description Hide Description症例は66 歳,男性。検診で貧血および便潜血陽性を指摘され,当院紹介となった。下部消化管内視鏡検査を施行したところ,S 状結腸に全周性狭窄を伴う2 型進行癌を認めた。スコープは通過せず,口側腸管の観察は不能であった。口側腸管の検索のためCT colonography を施行したところ,横行結腸脾弯部にapple core sign を認め横行結腸癌との多発癌が疑われた。腹腔鏡下結腸左半切除・S 状結腸切除術を行い,病理組織学的に横行結腸癌とS 状結腸癌の多発癌と診断された。閉塞性大腸癌における口側病変の検出は,術前の注腸造影や大腸ステント留置後の内視鏡検査などが行われるが,いずれも侵襲を伴う検査である。CT colonography は低侵襲であり,今回一期的に多発癌の根治切除を施行できた。狭窄を伴う大腸癌術前に有用な検査であると考えられた。 -
リンパ節転移を伴った分化型粘膜内胃癌に対し腹腔鏡下幽門側胃切除術を施行した1 例
48巻4号(2021);View Description Hide Description症例は78 歳,男性。6 か月で5 kg の体重減少を認め,当院を受診した。上部消化管内視鏡検査を施行したところ胃前庭部後壁に0-Ⅱa 病変を認め,生検にて高分化型腺癌と診断した。超音波内視鏡検査では,明らかな粘膜下層への浸潤は認めなかった。腹部造影CT 検査では約30 mm の#11p 領域リンパ節の腫大を認め,PET⊖CT 検査にて同リンパ節に集積を認めた。その他明らかな遠隔転移を認めず,腹腔鏡下幽門側胃切除術,D2 郭清術を施行した。術後病理結果から,L,7×8mm,0-Ⅱa,tub1,pT1a,ly0,v0,pPM0(73 mm),pDM0(35 mm),N2,pStage ⅡA と診断した。本症例はリンパ節転移を伴った分化型粘膜内胃癌に対し,腹腔鏡下幽門側胃切除術を施行したまれな症例と考えられ報告する。 -
ICG 蛍光観察による腸管血流評価を併用した腹腔鏡下結腸切除術における体腔内吻合
48巻4号(2021);View Description Hide Description腹腔鏡下結腸切除術における体腔内吻合時のインドシアニングリーン(ICG)蛍光観察による腸管血流評価の意義を検証することを目的に,2019 年7 月~2019 年12 月までに施行した腹腔鏡下結腸切除術における体腔内吻合症例11 例について,患者背景,手術時間・出血量などの手術成績,術中ICG 血流評価,周術期合併症などについて検証した。全例で体腔内での腸間膜処理の後,腸管切離の前にICG 蛍光観察による切離・吻合予定部腸管の血流評価を行ったが,血流不良と判断され腸管切離線の変更を要した症例は認めなかった。手術時間は平均240 分,出血量の平均は10 mL であった。縫合不全,吻合部狭窄・出血,創部感染などの周術期合併症は認めなかった。腹腔鏡下結腸切除術における体腔内吻合時の術中ICG 血流評価は,縫合不全などの合併症の抑制に寄与する可能性が示唆された。 -
根治切除不能なHER2 陽性胃癌に対し化学療法後にConversion Surgery を施行した1 例
48巻4号(2021);View Description Hide Description症例は72 歳,男性。心窩部不快感を主訴に前医を受診した。上部消化管内視鏡検査で胃体上部に3 型病変を認め,精査加療目的で当院に紹介となった。CT 上,膵体尾部浸潤・多発肝転移・大動脈周囲リンパ節転移を認めた。HER2 陽性であったためcapecitabine+cisplatin+trastuzumab による化学療法を施行したところ原発巣は消失したが,20 コース終了後の上部消化管内視鏡検査で再発を認めた。conversion surgery の方針とし,化学療法開始後1 年10 か月で胃全摘・尾側膵脾合併切除・肝部分切除を施行した。術後は経口摂取が安定せず,経過観察とした。術後1 年6 か月で腹腔動脈リンパ節に再発が出現し,capecitabine+trastuzumab を10 コース施行した。その後,ramucirumab+paclitaxel,irinotecan,nivolumabを施行したが全身状態が悪化し,当院初診後5 年11 か月で死亡した。長期生存した要因としてHER2 陽性で,化学療法で病勢がコントロールし得たことと,conversion surgery が可能であったことが考えられた。 -
cStage ⅣのS 状結腸癌に対してBevacizumab 投与中にクモ膜下出血を来した1 例
48巻4号(2021);View Description Hide Description症例は59 歳,女性。便潜血陽性の精査で,cT3N1M1b(肝臓H2,肝門部および腹腔動脈リンパ節)のcStage ⅣのS状結腸癌と診断した。原発巣切除後,化学療法を行う方針とした。遺伝子検査はRAS 遺伝子変異陰性,EGFR 陽性であり,一次治療としてmFOLFOX6+panitumumab(pani)を開始した。13 コース施行後,手のしびれ症状(Grade 2)を認めたことからFOLFIRI+pani へ変更し,1₃ コース終了時の画像検査では肝転移巣は最大径54 mm から16 mm に縮小し,CEAも正常化した。しかし肝門部リンパ節の転移は残存していたため,肝切除の適応はないと判断し肝転移巣に対しラジオ波焼灼療法を施行した。5 か月後のCT で転移性肝腫瘍の再燃を認めたためFOLFIRI+pani を再開した。6 コース施行後には劵怠感が強いため,TAS-102+bevacizumab へ変更した。3 コース施行中に突然の頭痛と嘔吐が出現し,頭部CT でクモ膜下出血と診断した。精査で原因として脳転移および脳動脈瘤や狭窄病変など器質的病変は認められず,最終的にbevacizumabとの関連性が強く疑われた。 -
急性骨髄性白血病を伴う同時性下行結腸癌・直腸癌に対しロボット支援下Hartmann 手術を施行した1 例
48巻4号(2021);View Description Hide Description症例は68 歳,男性。2019 年7 月に狭窄性下行結腸癌,直腸癌の術前精査で急性骨髄性白血病(AML)と診断され,当科へ紹介された。人工肛門造設後に同年8 月よりAML に対しシタラビン,アクラルビシン,G‒CSF 併用療法(CAG 療法)が開始された。1 コース終了後に白血球数が回復したため,同年10 月にロボット支援下Hartmann 手術が施行された。術後第15 病日よりCAG 療法2 コース目が施行された。同年11 月にAML が増悪し,寛解導入療法が開始された。同年12月に発熱,腹痛が出現し,CT で直腸切断部周囲に膿瘍形成が認められた。ドレナージと抗菌薬による加療をされたがAMLによる骨髄抑制により敗血症が遷延し,2020 年1 月に敗血症,全身循環不全のため死亡した。 -
腫瘍性DIC を疑い摘出術を施行したが術後播種性骨髄癌腫症にて急速な転帰をたどった1 例
48巻4号(2021);View Description Hide Description症例は77 歳,男性。腹痛および排便困難にて受診し,腹部CT にて上行結腸に腫瘍性病変を認め,精査加療目的に入院となった。第3 病日血液検査にてD‒dimer 51.8μg/mL,Plt 63×103/μL であり,急性期DIC スコア7 点にてDIC の診断基準を満たした。感染性疾患を疑う所見も認めず腫瘍性DIC と判断し,DIC 離脱目的に緊急手術となった。しかし腫瘍切除後も血小板値の改善を認めず白血球減少も出現したため骨髄生検を施行したところ,大腸癌による播種性骨髄癌腫症の診断となった。その後の状態改善が乏しく,第42 病日に死亡した。病理解剖にて全身の臓器に微小転移を認めた。以上,腫瘍性DIC を疑い摘出術を施行後,播種性骨髄癌腫症にて急速な転帰をたどり死亡した1 例を経験した。 -
早期再発を来した原発不明腹部脱分化型脂肪肉腫の1 例
48巻4号(2021);View Description Hide Description症例は70 代,男性。健診目的で施行された腹部超音波検査で,腹腔内に8.7 cm 大の腫瘤を指摘された。胃原発粘膜下腫瘍の術前診断で腫瘍切除術を施行した。病理組織診の結果,脱分化型脂肪肉腫と診断した。術後2 か月で再発を来したため再度切除を試みたが,術中所見で多発する転移巣を認め根治切除は不能であった。化学療法としてドキソルビシン,エリブリンを投与したが腫瘍は急速に増大し,初回手術から8 か月後に原病死した。脱分化型脂肪肉腫は脂肪肉腫のなかでも予後不良の組織型である。切除が標準治療であるが後腹膜に発生しやすいという特徴があり,四肢発生の病変と比較して自覚症状が乏しいためにしばしば進行した状態で発見される。また,周囲への浸潤傾向を示すことや転移しやすいことも根治切除を困難にする要因である。今回われわれは,無症状で発見されるも急速な転帰をたどった脱分化型脂肪肉腫の1 例を経験したので報告する。 -
胃癌,直腸癌,結腸多重癌,肝細胞癌,前立腺癌の異時性五重複癌の1 例
48巻4号(2021);View Description Hide Description重複癌症例は初発癌治療に対する治療成績の向上や診断技術の向上に伴い増加しているが,五重複癌は極めてまれである。症例は80 歳台,男性。第1 癌は胃癌で胃体上部小弯後壁に長径約3 cm の2 型病変を認め,2005 年5 月に幽門側胃切除を施行しpT2N1M0,pStage ⅡA であった。第2 癌は直腸癌で直腸RS に亜全周性2 型病変を認め,2006 年8 月に直腸前方切除術を施行しpT3N0M0,pStage Ⅱa であった。第3 癌は結腸多重癌で上行結腸にIsp ポリープを認め,2007 年9 月にESD を施行しpTisN0M0,pStage 0 であった。さらに盲腸にLST-NG を認め,2016 年6 月に腹腔鏡下回盲部切除を施行しpT3N0M0,pStage Ⅱa であった。第4 癌は肝細胞癌で肝S4 に約2 cm の腫瘤を認め,2010 年10 月に肝S4 部分切除,胆囊摘出術を施行しpT2N0M0,pStage Ⅱであった。第5 癌は前立腺癌で,cT2aN0M0 の診断で2018 年2 月よりビカルタミド,リュープロレリンを投与した。MSI⊖high frequency であったがhMLH1 遺伝子,hMSH2 遺伝子の変異は認めず,リンチ症候群とは診断されなかった。胃癌,直腸癌,結腸多重癌,肝細胞癌,前立腺癌の異時性五重複癌の症例を経験したので文献的考察を加えて報告する。
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訂正とお詫び
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掲載論文の削除(癌と化学療法第47 巻第13 号(2068‒2070 頁)2020 年12 月20 日発行)
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