癌と化学療法
Volume 48, Issue 5, 2021
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投稿規定
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総説
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がん患者家族・遺族が抱える諸問題
48巻5号(2021);View Description Hide Descriptionがん患者の家族は,愛する家族の罹患によって日常の大きな変化を経験する。そのストレスは身体・精神・心理・社会のあらゆる方向へと波及し身体疾患や精神疾患のリスクとなるため,第二の患者と呼ばれている。がん医療の進歩に伴い患者の意思決定の様々な場面に家族の参加が求められるようになり,家族は看病だけでなく多くの課題に対応しなければならない。患者の死後,その家族は遺族へと移行する。がんで家族を亡くした遺族には「後悔」,「役に立たない言葉かけ」,「記念日反応」など特徴的な苦悩があり,家族同様に身体疾患や精神疾患のリスクに注意しながら適切な対応を取る必要がある。また,身体・精神的問題だけでなく,そこに生じる法律問題についても知識をもち,必要時には専門家へ依頼することも患者・家族・遺族への支援として大切である。
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特集
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- がん患者に対する医薬品の適正使用―避妊と妊孕性温存に関する情報提供の現状と将来像―
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小児・AYA 世代がん患者に対するプレコンセプションケアの一助となる医薬品の生殖毒性に関する欧米のガイダンスについて
48巻5号(2021);View Description Hide Descriptionがん・生殖医療において妊孕性温存療法を実施するに当たり,本医療の対象が一般不妊患者ではなくがん患者となるため,がん治療医は何よりもがん治療を優先とすべきである。がん治療医は,がん患者に対してがん治療による性腺機能障害の可能性に関する情報を伝え,生殖医療を専門とする医師との密な連携の下,妊孕性温存療法の施行に関する患者の意思決定を促す場を早期に提供すべきである。近年,がん・生殖医療の発展に伴い,がん治療開始前に妊孕性を温存できるがん患者が増えつつある。小児・AYA 世代がん患者は,がん治療終了後,がんの状態によっては早期に挙児を得ることが可能な場合がある。その際,抗がん薬による治療や放射線治療の配偶子に対する影響を排除した後に,がん治療後いつから妊娠をトライすることが可能になるのかが問題となる。生殖可能な患者らへの医薬品使用が胚・胎児または次世代に及ぼす影響を回避するために,米国食品医薬品局(FDA)は2019 年5 月に“Oncology Pharmaceuticals: Reproductive Toxicity Testingand Labeling Recommendations Guidance for Industry”を公表し,2020 年2 月には欧州医薬品庁(EMA)が“Responsefrom SWP to CMDh questions regarding Genotoxicity and Contraception”を公表した。本邦には,これらのガイダンスや指針に該当するものはない。現在,医薬品等規制調和・評価研究事業「生殖能を有する者に対する医薬品の適正使用に関する情報提供のあり方の研究班2019‒2020(日本医療研究開発機構)」では,生殖医療,毒性学および医薬品の安全対策に精通した専門家の意見を集約して医薬品使用時の避妊に対する考え方に係るガイダンスを作成し,適正使用に対する意識向上に資することを目標とした研究を進めてきた。本稿では,FDA のガイダンス(2019 年)とEMA の指針(2020 年)に関する解説を行う。 -
医薬品の生殖発生毒性―サリドマイド誕生の背景―
48巻5号(2021);View Description Hide Descriptionはじめに: サリドマイドはあってはならない悲惨な薬害であったが,40 年以上経過し再び市場に復活した。悲劇を起こした時代背景を理解すると,現在はその教訓を生かした薬物の安全対策が構築されている。「神と悪魔の薬サリドマイド」からこの世に誕生した経緯を知り,現在に生かしたい。 -
医薬品の避妊にかかわる臨床情報の国際比較
48巻5号(2021);View Description Hide Description医薬品使用時の避妊期間の注意喚起について,その多くが添付文書で「一定期間」と記載されており,医療従事者にとって避妊が必要な医薬品使用の際に具体的な避妊期間に関する情報提供に苦慮する場面が少なくない。さらに国内外において同一薬剤間であるにもかかわらず避妊を必要とする記載の有無や避妊期間が異なり,パクリタキセル注射剤(アルブミン懸濁型)を一例としてあげると,本邦の添付文書においては,女性および男性ともに,一定期間の適切な避妊期間を求めていることに対して,欧州では女性に対し投与後1 か月,男性に対して₆ か月の避妊,米国では女性への投与後₆ か月に加え男性に対して₃ か月の避妊を行うよう異なる注意喚起がされている。本邦の添付文書における避妊期間の記載は具体的な期間を明示した上で記載される必要があり,避妊方法も含め詳細な情報はインタビューフォームなどの資材へ記載を行う必要があると考える。 -
女性がん患者に対する治療時の避妊と妊孕性温存に関する情報提供の現状と課題
48巻5号(2021);View Description Hide Description抗がん剤などがん患者に対して用いられる医薬品では,卵巣毒性や遺伝毒性を有するものが少なくない。加齢によって卵巣予備能(卵巣中の卵子数)は徐々に低下するが,卵巣毒性物質に曝露されると卵巣予備能が急激に低下する。このため,化学療法前に卵子・卵巣を採取して凍結保存する妊孕性温存治療が近年普及しつつある。また,加齢に伴い卵子の質が低下することを「卵子老化」というが,卵子のDNA 修復能が加齢に伴い低下することが知られている。米国食品医薬品局や欧州医薬品庁と同様にわが国の添付文書ガイダンスでもマウスの実験結果に基づき,遺伝毒性を有する医薬品の中止後は「血中半減期の5 倍+6 か月」の避妊が望ましいとされる。しかしながら,一般に医薬品の胎児に対する催奇形性が問題となるのは受精後2~8(妊娠4~10)週の器官形成期であり,化学療法直後に採取・凍結された卵子・卵巣からも健児が得られているため,避妊期間中に妊娠した女性やそのパートナーには慎重な情報提供が必要である。 -
男性がん患者に対する治療時の避妊と妊孕性温存に関する情報提供の現状と将来像
48巻5号(2021);View Description Hide Description男性がん患者に対する妊孕性温存や精子凍結保存については周知されつつあり,その診療体制のネットワーク作りが進み,治療前精子凍結保存に対する経済的補助を行う地方自治体の数も増加してきている。がん治療などによって精巣における精子形成能が低下し無精子症になるリスクだけではなく,精子のDNA 損傷による遺伝毒性や発生毒性のリスクも否定できないことから治療前に精子凍結保存を行うことが推奨されている。一方,このようなリスクを有する医薬品を使用する際に避妊が必要なのか,その適切な期間はどのくらいなのか,医薬品の作用機序によって違いはあるのかなど確固たるエビデンスに乏しく,臨床医の間においてもコンセンサスが得られていないのが現状である。本稿では,男性がん患者に対する治療時の避妊と妊孕性温存についての知識を整理し,情報提供の現状からその将来像について考えてみたい。
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Current Organ Topics:Hematologic Malignancies/Pediatric Malignancies 血液・リンパ系腫瘍造血器腫瘍領域におけるOnco‒Cardiology の最前線
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医事
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ゲノム解析における二次的所見の開示に影響する要素の探索―文献の内容分析による質的研究―
48巻5号(2021);View Description Hide Description網羅的遺伝学的検査の普及により,二次的所見(secondary findings: SF)が検出されることが増加している。SF 開示の同意には患者側だけでなく医療者側の要素も影響していると考えられ,インフォームド・コンセントの過程においてその違いを把握することが重要である。ゲノム解析におけるSF 開示に影響する患者側と医療者側における要素と,それらの研究対象者による違いを明らかにすることを目的に文献レビューを行った。PubMed と医学中央雑誌Web を用い,臨床的なゲノム解析を対象としている質的研究の原著論文6 件と,その引用からさかのぼり得られた6 件の計12 文献を分析対象とした。研究対象者は医療者・患者・一般人であった。内容分析の結果,27 個のサブカテゴリーから11 個のカテゴリーと,【検査受検時】,【結果開示時】,【結果開示後】の3 個のテーマが生成された。対象者ごとに解析した結果,一般人は研究に参加することをきっかけに遺伝学的検査受検そしてSF 開示を検討した集団であり,患者/家族と共通点が多くみられた。具体的には,「小児の遺伝情報は成長してから患者自身で決定すべき」,「情報の渇望」,「人生の計画を立てられる」といった要素が共通して抽出された。患者自身からは「価値と信条」,「好奇心」,「検査受検にかかる費用」,「薬剤応答」,そして「親としての責任」が抽出された。医療者では,「十分なインフォームド・コンセント」,「SF の検出率の低さ」,「医療資源不足」があげられた。また,【結果開示後】の要素はすべて患者からであった。以上より,SF 開示の同意促進には結果開示時や,その後に起こり得ることへの十分な検討ができていることも影響しているのが明らかとなった。SF 開示を検討する患者に対して,結果開示後の継続的支援の存在を提示することが重要であると考えられる。
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特別寄稿
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EGFR 遺伝子変異を有する非小細胞肺癌のExon 19 欠失変異とExon 21 L858R 点突然変異について
48巻5号(2021);View Description Hide Descriptionヒト上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor: EGFR)は膜貫通型受容体チロシンキナーゼで,がんの増殖,進展にかかわるシグナル伝達に重要な役割を果たす。exon 19 欠失変異(ex19del)およびexon 21 L858R 点突然変異(ex21.L858R)は,非小細胞肺癌患者のEGFR 遺伝子変異のサブタイプのなかで高頻度に認められる遺伝子異常である。本稿では,EGFR 遺伝子変異に関する疫学,非臨床および臨床データについて,ex19del およびex21.L858R の相違点に着目して考察した。
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症例
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多発脳腫瘍に対し血漿検査で診断しオシメルチニブによる治療効果が得られた1 例
48巻5号(2021);View Description Hide Description患者は70 歳,男性。左上肢の筋力低下,歩行障害を主訴に当院を受診した。画像上多発脳腫瘍を認め,全脳照射を開始したが意識障害の進行により照射を中止した。PS 不良で組織生検が困難であったが,血漿検査で上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異陽性が判明し,オシメルチニブを投与したところ奏効が得られた。PS 不良な多発脳腫瘍症例において,EGFR 遺伝子変異陽性肺癌と診断されればオシメルチニブによって良好な治療効果が得られるため血漿検査を行うことが重要である。 -
高齢者の肺Combined Large⊖Cell Neuroendocrine Carcinoma 術後再発にアムルビシン単独投与の有効性が認められた1 例
48巻5号(2021);View Description Hide Description症例は86 歳,男性。performance status 1。左肺下葉原発combined large⊖cell neuroendocrine carcinoma with adenocarcinoma(pT2aN1M₀,stage ⅡB)。術後₅ か月に肝・骨・縦隔リンパ節転移再発を来した。高齢かつ腎機能低下のためプラチナ併用療法は困難と判断しアムルビシン単独投与(32 mg/m2,3 日間投与)9 コース後,腫瘍マーカーは正常化し,画像上肝・骨・縦隔リンパ節転移巣は完全消失した。有害事象は好中球数減少の他は軽微であった。再発後12 か月に肝臓と左肺門部リンパ節に再々発を認め,アムルビシン投与中止1₄ か月後(再発後22 か月)に死亡したが,比較的長期間良好なQOL を維持できていた。アムルビシン単独投与は高齢者肺combined large-cell neuroendocrine carcinoma with adenocarcinoma術後再発に対して有用な治療法の一つとなる可能性がある。 -
術後19 年目に再発したROS1 融合遺伝子陽性肺腺癌の1 例
48巻5号(2021);View Description Hide Description症例は73 歳,女性。他院で54 歳時に右肺下葉切除術を施行され,原発性肺腺癌(pT1N0M0,Stage ⅠA)と診断された。その後は再発なく経過していたが,術後19 年目に呼吸困難を自覚して当科へ紹介された。画像上,両側鎖骨上・縦隔・肺門リンパ節腫大を認め組織診で再発肺腺癌と診断し,ROS1 陽性であった。crizotinib を開始したところ腫瘍は消失,完全奏効となった。非小細胞肺癌術後5 年以降の無再発例は一般的に予後良好とされている。しかしながらROS1 融合遺伝子陽性肺癌はまれで,その臨床像は不明な部分も多く術後遠隔期再発に留意した経過観察が必要であることが示唆された。 -
膵癌術後肺転移再発に対して肺切除を施行し長期予後が得られた2 例
48巻5号(2021);View Description Hide Descriptionわれわれは,膵癌術後肺転移再発に対して肺切除を施行し,初回手術から5 年以上の長期予後が得られた2 例を経験したので報告する。症例1 は₇₃ 歳,男性。径₅₀ mm の膵体部癌に対し尾側膵切除術を行った(T₃N1M₀,Stage ⅡB)。₆か月間のS⊖1 内服による補助化学療法を施行した。術後₃ 年で右肺上葉に限局する径₅ mm と径1₀ mm の腫瘍を認めた。胸腔鏡下右肺上葉切除術を施行し,膵癌肺転移の診断であった。膵癌術後から5 年9 か月間生存中である。症例2 は81 歳,女性。径34 mm の膵頭部癌に対し幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を行った(T3N1M0,Stage ⅡB)。4 か月間のS-1 内服による補助化学療法を施行した。術後1 年9 か月で左肺上葉に限局する径20 mm の腫瘍を認めた。胸腔鏡下左肺上葉切除術を施行し,膵癌肺転移の診断であった。膵癌術後から4 年6 か月で骨転移を認め,放射線治療を行った。膵癌術後から5 年1か月間生存中である。転移個数の少ない膵癌術後肺転移再発は切除により長期生存の可能性がある。 -
乳癌化学療法中に発症した化膿性股関節炎の1 例
48巻5号(2021);View Description Hide Description症例は67 歳,女性。乳癌再発に対して16 年間化学療法を受けていた。左変形性股関節症の診断で人工股関節置換術予定となったが,前もって抜去した中心静脈ポート・カテーテルの培養で黄色ブドウ球菌を検出した。手術時,関節滑膜の塗抹でグラム陽性球菌を検出し人工関節置換は断念,洗浄デブリドマンを行った。抗生剤使用の上,2 か月後人工股関節置換術を施行し独歩退院した。1 年6 か月後に癌死した。長期の化学療法患者において,カテーテル感染に続発し得る化膿性関節炎は注意すべき病態であると考えた。 -
Abemaciclib 治療が反応したPalbociclib 治療中止1.5 年後のホルモン受容体陽性HER2 陰性進行・再発乳癌の1 例
48巻5号(2021);View Description Hide Description症例は58 歳,閉経後女性。ホルモン受容体陽性HER2 陰性進行・再発乳癌に対する後方ライン治療において,阻害活性プロファイルの異なるCDK4/6 阻害薬導入について,一つ目のCDK₄/₆ 阻害薬(palbociclib)中止後,他の薬物療法や放射線治療により1.5 年間の病勢制御後,二つ目のCDK4/6 阻害薬(abemaciclib)治療に反応が得られた症例を経験した。CDK4/6 阻害薬休薬により,その阻害シグナルにかかわる感受性が回復する可能性について報告されている。CDK4/6 阻害薬併用内分泌療法を逐次投与するのではなく,病勢制御目的に細胞障害性抗がん薬での治療継続後,改めてCDK4/6 阻害薬を再導入する治療戦略は考慮すべき選択肢と考えられた。 -
Trastuzumab+Anastrozole 投与中に間質性肺炎を来した高齢者炎症性乳癌の1 例
48巻5号(2021);View Description Hide Description症例は83 歳,女性。左炎症性乳癌に対してtrastuzumab+anastrozole で治療を開始した。乳房の硬結および発赤所見は徐々に改善を認めたが,5 コース投与後2 日目に呼吸苦を主訴に救急外来を受診した。SpO2は88%,胸部CT では両肺野のすりガラス陰影を認め,KL‒6 は2,613 U/mL と高値であった。以上の所見から間質性肺炎と診断し,ステロイドパルス療法を開始した。ステロイド投与後に呼吸苦症状は速やかに改善し,入院治療後20 日目に合併症なく退院となった。ステロイド投与量を5 mg/day まで漸減しながら継続し,胸部CT ですりガラス陰影の改善を確認したところで終了とした。しかし再び間質性肺炎で入院となり,ステロイドパルス療法を行った。trastuzumab に関連した間質性肺炎は非常にまれではあるが,呼吸苦症状が出現した際には心毒性と同様に肺合併症も念頭に置くことが必要である。 -
乳癌脊髄髄内転移に対し緊急放射線療法が著効した進行乳癌の1 例
48巻5号(2021);View Description Hide Description転移性脊髄髄内腫瘍はまれな病態であるが,画像診断の進歩に伴い発見頻度は増加している。乳癌の脊髄髄内転移に対し緊急放射線療法が著効した1 例を経験した。症例は₅₆ 歳,女性。急激に進行する下肢運動麻痺,膀胱直腸障害を呈し,造影MRI にて脊髄髄内転移と診断された。緊急放射線療法とステロイド投与が奏効し,神経症状が改善した。脊髄髄内転移は極めて予後不良な病態だが,緊急放射線療法はQOL 改善に有効であった。 -
ニボルマブ投与により重度の血小板減少を来した進行胃癌の1 例
48巻5号(2021);View Description Hide Description症例は70 歳,女性。切除不能進行胃癌に対してニボルマブを2 コース投与したところ,発熱,皮疹およびgrade 4 の血小板減少を認め,免疫関連有害事象(irAE)と診断した。プレドニゾロン(PSL)が有効であったが,PSL 減量中にirAEの再燃を認めた。PSL の再増量を要し,化学療法を再開できないまま胃癌の増悪により死亡した。ニボルマブによる免疫関連血小板減少に対してはPSL が有効であるが,PSL の減量方法や化学療法再開のタイミングを慎重に判断する必要がある。 -
ニボルマブが奏効した進行胃癌脳転移の1 例
48巻5号(2021);View Description Hide Description症例は68 歳,男性。嘔吐,ふらつきで当院紹介となった。高度リンパ節転移を伴う進行胃癌と診断し,S-1+オキサリプラチン(SOX) を開始した。部分奏効 (partial response: PR) が得られ,5 コース後に胃全摘術を施行した。病理診断はypT3,N3b,M1(CY1),ypStage Ⅳであった。術後リンパ節増大を来し,二次治療としてラムシルマブ+ナブパクリタキセル(RAM+nab-PAC)に変更し再度PR となったが,6 コース施行後に病勢進行(progressive disease: PD)のためニボルマブを開始した。その後3 コース施行後に突然の痙攣発作を起こし,径6 mm の脳転移が判明した。CEA 値が減少し,高感受性と考えられたことと小病変であることを考慮し放射線療法は施行せず,ニボルマブ単独での治療継続とした。5 コース後に脳転移および脳外病変ともにPR を得た。17 コース後,PD となりイリノテカンに変更したが2 コース経過(初診から2 年3 か月)後,原因不明で突然死した。渉猟するかぎり本症例は胃癌脳転移に対してニボルマブが奏効した初例である。 -
切除不能進行胃癌に対するSOX+HER2 療法が奏効後根治切除を行った1 例
48巻5号(2021);View Description Hide Description症例は71 歳,男性。心窩部痛を主訴に近医を受診した。精査にて,胃体下部を中心とした大動脈周囲リンパ節転移を伴う3 型胃癌と診断された。HER2 強陽性であり,S‒1+oxaliplatin+trastuzumab 療法を開始した。6 コース後,リンパ節転移は縮小し原発巣も消失した。Grade 3 の好中球減少を認め,S‒1 隔日投与+trastuzumab 療法に変更後5 コースを施行した。胃体下部に0‒Ⅱc 病変の再燃を来したため,conversion therapy として幽門側胃切除術+D2 リンパ節郭清術を行った。経過は良好で,術後12 日目に療養転院した。術後1 年3 か月経過し,明らかな再発は認めていない。大動脈周囲リンパ節転移陽性胃癌に対するconversion therapy は予後延長を認めた報告が散見され,有効な治療選択肢の一つである。 -
直腸癌術後にサルコイド反応による多発リンパ節腫脹を認めた1 例
48巻5号(2021);View Description Hide Descriptionわれわれは,直腸癌術後にサルコイド反応によるリンパ節腫脹を認めた1 例を経験したので報告する。症例は66 歳,女性。直腸癌(pT1bpN0M0,pStage Ⅰ)に対して2018 年4 月に腹腔鏡下高位前方切除術(D3 郭清)を施行し,外来経過観察としていた。同年7 月より右鼠径部に無痛性の腫瘤が生じ,腹部造影CT 検査にて右鼠径部・外腸骨動脈周囲のリンパ節腫脹を認めた。腫瘍マーカーは,CEA 2.3 ng/mL,CA19‒9 <2 U/mL と基準値内であった。同月に鼠径リンパ節生検を行ったが,病理組織学的検査では癌細胞は認めず,巨細胞を伴う類上皮肉芽腫の形成を認めた。検査結果・臨床所見から全身性サルコイドーシスを疑うものはなく,腫瘍によるサルコイド反応と診断し,追加の手術や治療は行わず外来経過観察とした。生検2 か月後の腹部造影CT 検査ではリンパ節の縮小を認め,2 年後もリンパ節腫脹は認めず再発なく経過している。 -
Low‒Risk Essential Thrombocythemia Who Presented with Recurrent Episodes of Cerebral Hemorrhage during Pregnancy and Developed Cerebral Infarction during Puerperium
48巻5号(2021);View Description Hide Description症例は42 歳,女性。妊娠27 週時に右前頭葉皮質下出血を認めたため開頭血腫除去術を施行した。Plt 29.7×104/μL。妊娠34 週時に硬膜下血腫と左前頭葉皮質下出血が出現した。Plt 42.9×104/μL。妊娠35 週,脳室内穿破と脳室拡大が進行したため脳室ドレナージ術と緊急帝王切開術を施行した。児や胎盤に異常はなし。Plt 68.7×104/μL。出産の2 日後に右側頭葉に出血が出現した。Plt 81.5×104/μL。出産の6 日後に左大脳半球に梗塞が出現した。Plt 91.5×104/μL。MRI では動脈瘤,動静脈奇形,腫瘍を疑う所見なし。出産の10 日後にPlt 117.3×104/μL と上昇した。骨髄検査を施行して本態性血小板血症(ET)と診断した。JAK2,CARL,MPL は陰性。IPSET‒thrombosis は低リスク,revised IPSET‒thrombosis は超低リスクであった。VWF 活性は247% と上昇,出血時間と血小板凝集能は異常なし,播種性血管内凝固症候群(DIC)はなし。妊娠中毒症はなし。出産の26 日後に死亡した。妊娠中に発症した低リスクのET と考えられたが,脳出血と脳梗塞で死亡した。 -
SOX 療法にて骨髄癌腫症に伴う播種性血管内凝固から離脱し長期生存を得た胃癌の1 例
48巻5号(2021);View Description Hide Description症例は36 歳,男性。前医で診断された胃体部の4 型切除不能進行胃癌の治療目的に当院を受診した。初診時にすでに癌性リンパ管症ならびに播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation: DIC)を発症した播種性骨髄癌腫症と診断した。即日入院し,組換えヒト可溶型トロンボモジュリン(rTM)製剤を併用しながらS-1+oxaliplatin(SOX)療法を施行したところ1 コースの投薬にてDIC を離脱し,上昇していた腫瘍マーカーもその後正常化した。現在に至るまで14 か月の生存期間を得られている。切除不能進行胃癌に対する化学療法にてDIC を離脱した症例報告は散見されるが,oxaliplatin を使用したレジメンでの報告はなく,本薬剤を用いたレジメンは播種性骨髄癌腫症,DIC を併発した胃癌の予後改善に寄与する可能性が示唆された。 -
PS 不良症例にがん化学療法を導入する時に緩和ケアが果たす役割―3 症例の報告―
48巻5号(2021);View Description Hide Descriptionperformance status(PS)が不良な症例に対する化学療法は死亡リスクを高め,治療後の生存期間が短いことから推奨されていない。今回われわれは,緩和ケアによってPS が改善し化学療法の実施が可能となり年単位の生存期間が得られた症例を経験したので報告する。症例1: 患者は57 歳,女性。乳癌の多発肺転移,多発肝転移,多発骨転移。PS は3。疼痛コントロール療法によりPS は2 に改善し,パクリタキセル,トラスツズマブ療法を開始した。861 病日に死亡した。症例2:患者は53 歳,女性。原発不明癌,多発リンパ節転移。PS は4。疼痛コントロールおよびロキソプロフェン,デキサメタゾンによりPS は3 に改善したことから骨髄生検を実施し,DLBCL の診断を得てR‒CHOP を実施,6 年10 か月経過したが生存中である。症例3: 患者は57 歳,男性。小細胞肺癌,多発骨転移。PS は4。ロキソプロフェン,ベタメタゾンによりPS は3 に改善,エトポシド,カルボプラチン療法を実施,692 病日に死亡した。緩和ケアを導入することで化学療法の実施が可能となることがあり,結果として生命予後を改善する可能性がある。
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