癌と化学療法

Volume 48, Issue 8, 2021
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総説
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がん悪液質の薬物療法
48巻8号(2021);View Description
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がん悪液質は癌の進行とともに生じ,食欲不振や骨格筋減少を主症状とする多因子性の症候群である。悪液質を合併するとがん薬物療法の有効性・忍容性が低下し予後の悪化につながると認識されながらも,有効な介入方法は確立していなかった。アナモレリンは2021 年1 月に本邦で承認されたグレリン様作用薬としては世界で初めての抗悪液質薬である。食欲増進に関与するホルモン,グレリン様の作用をもち,内服によりがん悪液質患者の食欲の回復と除脂肪体重量の増加が期待される。一方で,6 分間歩行距離の増加や非利き手握力の回復は得られなかった。機能改善を目的に非薬物療法として栄養療法と運動療法を組み合わせた介入プログラムの開発が進んでいる。薬物療法および非薬物療法を組み合わせることでより高い効果が期待される。抗悪液質薬はアナモレリン以外にも開発が進められており,抗悪液質治療が進行癌治療の新たな治療選択肢となると期待される。
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特集
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- コロナ時代のがん薬物療法を考える
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国内外の学会の声明,取り組みとがん薬物療法のあり方
48巻8号(2021);View Description
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がん患者においてCOVID‒19 の感染リスクは一般市民と比べてやや高く,重症化,死亡リスクもやや高くなるとの報告がある。ただ,COVID‒19 禍であってもがん治療は緊急を要する場合,延期すると命にかかわってくる場合があるので,むやみにがんの治療を中止したり,延期したりすべきではない。本稿では,COVID‒19 禍におけるがん薬物療法について解説する。 -
新型コロナウイルス診療の最前線で起きていること
48巻8号(2021);View Description
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当院はダイヤモンド・プリンセス号で発症した患者の受け入れから始まり,現在まで延べ470 名以上の新型コロナウイルス感染患者の中等症患者までを受け入れる,日本における新型コロナウイルス感染症診療の最前線にある病院である。現在も感染患者専用病床を拡大して診療に臨んでいるが,これまでに診療体制,治療,地域医療構造など,様々な場面で生じる問題に相対してきている。本稿では,患者受け入れ初期から1 年余りを経て,3 回の感染増加局面を経験するまでに最前線で生じていた出来事を振り返り,それによって癌診療を含む一般診療にどのような影響が生じてきたかを可能な限り客観的にまとめる。 -
新型コロナウイルス感染症蔓延時の消化器がん薬物療法医の取り組み
48巻8号(2021);View Description
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2019 年末に中国で最初のSARS‒CoV‒2 感染者が発生して以来,瞬く間に世界中にCOVID‒19 の感染が拡大し,その収束は一向に見通せない状況である。本邦においても2020 年3 月末からの第一波では,がん患者は治療の開始の延期や中断の危機にさらされることとなった。しかしながら幸運にも現在までのところ,われわれは通常とほぼ同質のがん薬物療法を継続することが可能である。一方で,これから来たるべきCOVID‒19 パンデミックに備えて,治療の目的,がん患者の抱える潜在的なリスク因子,エビデンスを総合的に評価して個々の患者に当てはめることががん薬物療法の実践に必要である。さらに医療従事者,患者とその家族らを含めたアドバンスド・ケア・プランニングについてのディスカッションも重要な役割を果たすだろう。本稿では,COVID‒19 パンデミック下における消化器がん患者のトータルケアを含めたがん治療のポイントを概説する。 -
新型コロナウイルス感染症蔓延時の肺がん薬物療法医の取り組み
48巻8号(2021);View Description
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新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease: COVID‒19)は2019 年12 月に初めて特定されて以来,世界中で急速に広がり,医療提供体制はCOVID‒19 の入院病床の確保,オンライン診療への切り替え,外来通院期間の延長,予定手術の延期など様々な対応が必要となった。COVID‒19 における肺がん患者の死亡率は他がん患者と比べて有意に高いとされており,COVID‒19 蔓延期においては肺がん患者の通院や治療に伴うCOVID‒19 のリスクを念頭に診療を行うべきである。本稿ではCOVID‒19 蔓延時の肺がん薬物療法医の取り組みについて,現時点でのエビデンスおよび国内外の専門学会,団体からのステートメントに基づいて概説する。
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Current Organ Topics:Thorax/Lung and Mediastinum, Pleura: Cancer 肺癌
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原著
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Prediction of Severe Cisplatin‒Induced Neutropenia Using Serum Albumin Concentration―A Retrospective Study
48巻8号(2021);View Description
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背景: 胃癌の治療に使用されるcisplatin は,消化器系の副作用があるだけでなく血清蛋白質結合率も高い。血清アルブミン濃度の低下は,cisplatin 誘発性好中球減少症のリスクを高める可能性がある。したがって,血清アルブミン濃度の変化は癌化学療法中における大きな安全性の問題を提起する。方法: 胃癌に対してcisplatin+S‒1 療法を受けた患者について,好中球数が最下点に達した治療過程におけるcisplatin 投与前の血清アルブミン濃度とcisplatin 投与後の好中球数変動との関係を調査した。結果: grade 3~4 およびgrade 0~2 の好中球減少症発現患者におけるcisplatin 投与前の平均血清アルブミン濃度は,それぞれ3.39±0.60 および3.85±0.59 g/dL であった。前者のグループは後者のグループよりも有意に低かった(p=0.006)。cisplatin 投与前の血清アルブミン濃度の低下は,cisplatin 投与後の好中球数の減少と有意な相関が認められた(r=0.463,p<0.001)。ROC 解析により,cisplatin 投与前の血清アルブミン濃度が3.25 g/dL 未満の患者ではgrade 3~4の好中球減少症の発現率が有意に高かった(odds 比: 4.33)。結論: 血清アルブミン濃度の低下は,重度の好中球減少症の発現の予測と強く関連していることが明らかとなった。本研究結果はcisplatin の各投与前に血清アルブミン濃度を評価する必要があることを強調するものである。 -
乳癌原発巣におけるKlotho 発現と予後に関する検討
48巻8号(2021);View Description
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目的: 今回われわれは,乳癌原発巣におけるKlotho の発現とその臨床的意義について検討した。方法: 手術を行い,術前未治療で予後の明らかな乳癌病巣142 例を対象とし,Klotho の発現の有無を判定した。結果: 年齢,閉経の有無,組織型,ホルモン受容体,HER2 発現,遠隔転移の有無についてKlotho 発現程度に差を認めなかったが,Klotho 陽性群において非浸潤癌の割合が高かった(p<0.05)。Klotho 陽性群は陰性群に比べてリンパ節転移個数が少なく,腫瘍径は小さかった(p<0.05)。また,Klotho 陽性群は陰性群に比べてKi-67-PI が低かった(p<0.05)。Klotho 発現程度による累積生存率に差を認めなかったが,陽性群は陰性群と比較して無再発生存率が良好であった(p<0.05)。 -
当院における超高齢者(85 歳以上)乳癌の検討
48巻8号(2021);View Description
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現在わが国における高齢化率は28.1% を超え,今後もさらに高齢化は進んでいくと見込まれている。このような状況下で,超高齢者乳癌を診療する機会が増加している。今回,2010 年1 月~2020 年12 月までの約10 年間に当院にて乳癌と診断された85 歳以上の症例をまとめ検討した。症例は29 例(30 乳房),全例が女性で,平均年齢は89.6 歳であった。17 例に認知症の併存を認め,多くは増大した腫瘤が発見の契機であった。超高齢者乳癌においては過不足ない治療が必要であり,認知症の有無や併存疾患を考慮し,家族や介護施設など周囲と十分に相談し治療方針を決定すべきであると考えられた。
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症例
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肺癌術後再発のPS 不良超高齢者患者に対しアレクチニブが奏効維持している1 例
48巻8号(2021);View Description
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症例は89 歳,女性。原発性肺癌のため右上葉切除ND2a‒2 を行い,術後病理診断で腺癌,pT1bN1M0,stage ⅡA であった(EGFR 変異陰性)。術後1 年7 か月に縦隔リンパ節再発に対して放射線治療,術後3 年2 か月に新規の肺門縦隔リンパ節再発を認め,一次治療としてペメトレキセド単剤(500 mg/m2,3 週毎)×10 コース施行した。完全奏効を維持され,嘔気が強く投与中止となり,その後10 か月間に新規病変は認めずフォロー終了となった。術後7 年9 か月に胸部異常陰影で紹介され,精査の結果,胸膜播種および肺内・肺門縦隔リンパ節・副腎・骨転移を認めた。全身状態(performance status: PS)は不良であったが(PS 4),ALK 融合遺伝子陽性であったため再発二次治療としてアレクチニブ(600 mg/日)を開始した。現在,1 年2 か月(術後9 年,初回再発後7 年5 か月)経過し,完全奏効を維持したままPS 2 程度で投与継続中である。PS不良な超高齢者に対してアレクチニブが奏効した症例を経験したので報告する。 -
術前確定診断された肺癌胃転移に対して腹腔鏡下切除術を施行した1 例
48巻8号(2021);View Description
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症例は66 歳,男性。肺癌および単発性脳転移に対する手術歴があり,PET-CT で胃に集積を認めた。上部消化管内視鏡検査にて胃体上部大弯側に20 mm 大の2 型腫瘍を認め,生検で肺腺癌胃転移の病理診断に至った。出血および穿孔を来す可能性も考慮して,予防的に腹腔鏡下・内視鏡合同手術(LECS)を施行した。低侵襲下に転移巣を切除し得た。免疫療法を含め化学療法の発展は今日目覚ましいことから,手術による予防的切除は予後改善・症状緩和の選択肢に十分あがり得るものと考えられる。若干の文献的考察を踏まえて報告する。 -
乳癌膵転移に対しBevacizumab+Paclitaxel 療法施行中に巨大仮性膵囊胞を発症した1 例
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症例は70 歳代,女性。HER2 陰性乳癌の膵転移に対し,bevacizumab+paclitaxel(Bev+PTX)療法が施行された。治療開始後,腫瘍マーカーは改善し8 か月が経過したころ,腹痛,腹部膨満と食欲低下を認めた。CT にて腹部に25 cm 大の巨大な囊胞性病変を認める一方で,膵転移病変は消失を認めていた。仮性膵囊胞の診断となり,超音波内視鏡下に経胃膵囊胞ドレナージ術が施行され,AXIOS stent が留置された。仮性膵囊胞は消失し,腹部症状は改善された。他剤にて治療が再開でき,膵炎の再燃もなく4 か月後にAXIOS stent は抜去された。Bev+PTX 療法はHER2 陰性転移・再発乳癌に対する治療としてその有用性が評価されている。Bev は血管内皮増殖因子に対する分子標的療法であり,抗腫瘍効果の機序も従来のものと異なり,副作用も特異的である。また,PTX は膵炎の報告がまれにみられる。本症例における仮性膵囊胞形成の原因として乳癌膵転移病変に対するBev+PTX 療法の奏効の機序もしくは薬剤性膵炎が考えられた。 -
内分泌療法と化学療法で治療を行った長期に奏効が得られた乳腺粘液癌膀胱転移の1 例
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症例は57 歳,女性。2005 年7 月右乳癌に対して右乳房部分切除,右腋窩センチネルリンパ節生検を行い,粘液癌,断端陰性,リンパ節転移も認めなかった(pT1cN0M0,pStage ⅠA)。術後温存乳房に対する放射線療法と5 年間のanastrozole内服を行った。2015 年12 月に左鎖骨上リンパ節腫大を認め,針生検の結果乳癌のリンパ節転移と診断し,同月からtoremifene 内服を開始した。2016 年11 月に頻尿が出現し,近医を受診した。画像検査で膀胱腫瘍を認めた。経尿道的膀胱粘膜生検で粘液産生を伴う腺癌の像であり,乳癌の膀胱転移と診断した。化学療法(UFT,eribulin),内分泌療法(fulvestrant),分子標的薬(palbociclib)を開始し泌尿器系症状は改善したが,膀胱転移診断から2 年8 か月後に膀胱転移巣を含めprogressive disease となり,緩和ケア中心の治療に移行した。粘液癌が膀胱に転移したまれな症例を経験したので若干の考察を加えて報告する。 -
子宮頸癌合併妊娠中に化学療法を施行し生児の発達を観察した1 例
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症例は36 歳,未産婦。妊娠19 週0 日に子宮頸部腺癌,ⅠB1 期と診断された。本人・家族ともに妊娠継続の強い希望があった。当院の倫理委員会の承認の上,妊娠中にpaclitaxel+carboplatin 療法を施行した。妊娠32 週3 日に帝王切開および広汎子宮全摘術を施行した。女児,1,518 g,Apgar score 3 点(1 分)/5 点(5 分),明らかな外表奇形を認めなかった。新版K 式発達検査2001 を用いて発達評価が実施された。生後1 歳8 か月時点では,言語・社会領域の発達指数は65 と遅滞を指摘されたが,生後3 歳5 か月時点では自然経過にて98 へと上昇した。現在6 歳2 か月,発達遅滞の指摘なく外来フォロー中である。妊娠中に抗癌剤治療を受けた患者における児の発達経過を示した報告は本邦ではほとんどないため,本症例は貴重な報告である。 -
泌尿生殖器系臓器への浸潤を伴う局所進行直腸癌に対する腹腔鏡下骨盤内臓器全摘術
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近年,腹腔鏡下手術(laparoscopic surgery: Lap)の進歩により骨盤内臓器全摘術(total pelvic exenteration: TPE)にもLap を導入する施設が増えてきている。当科でもこれまでにLap TPE を3 例,後方骨盤内臓器全摘術(posterior pelvicexenteration: PPE)を3 例に施行してきた。今回,当科でのLap TPE の手術手技とLap TPE,PPE 症例の術後短期成績について報告する。Lap TPE 3 例,Lap PPE を3 例に施行した。手術時間562 分,術中出血量は310 mL,Clavien-Dindo 分類Grade Ⅲ以上の合併症は認めなかった。Lap PPE 症例の2 例に肝転移と腹膜播種を認めたが,Lap TPE 症例は再発なく経過している(観察期間中央値24.5 か月)。Lap TPE,PPE は手術難易度が高く手術時間も長くなるが,開腹手術より術中出血量の減少や術後在院日数に短縮をもたらす可能性があると示唆された。
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