癌と化学療法
Volume 48, Issue 9, 2021
Volumes & issues:
-
投稿規定
-
-
-
総説
-
-
腫瘍崩壊症候群Up to Date
48巻9号(2021);View Description Hide Description腫瘍崩壊症候群(TLS)は,化学療法により腫瘍細胞が一時期に崩壊することで発症するがん緊急症である。TLS は発症してしまうと時に致死的になるため,発症予防がTLS 対策の大原則である。従来からの化学療法によるがん種別のTLS発症リスクは2010 年にCairo らにより報告されているが,近年の新規薬物療法は従来のがん種別TLS 発症リスクの見直しを要するほど劇的な変化をもたらしている。今回の総説では,新規薬物療法を踏まえたがん種別TLS 発症リスクの更新,予防・治療法の概論を紹介する。
-
-
特集
-
- 腸内細菌とがん微小環境のかかわり
-
大腸癌腫瘍微小環境における腸内細菌と腫瘍浸潤免疫担当細胞の関連について
48巻9号(2021);View Description Hide Description第四の癌治療として注目を集めているがん免疫療法は,自らがもつ免疫システムを介して癌細胞を排除する。そのため,がん免疫療法が効果を発揮するためには体内の腫瘍免疫応答の状態が重要となる。近年,ある特定の腸内細菌と免疫チェックポイント阻害剤を用いたがん免疫療法の治療効果に関連があると報告された。すなわち,ある特定の腸内細菌が腫瘍免疫応答を制御している可能性があり,われわれも進行大腸癌の腫瘍微小環境におけるeffector Tregの浸潤頻度が高い症例では,Bifidobacterium,Bacteroides,Faecalibacterium(genus level)などの腸内細菌が増えていることを報告した。本稿では,進行大腸癌における腸内細菌と腫瘍微小環境に浸潤している免疫担当細胞の相関関係についてわれわれの研究成果を中心に解説し,腸内細菌の臨床応用の可能性について紹介する。 -
免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1 抗体)による免疫療法と腸内細菌叢の関係
48巻9号(2021);View Description Hide Descriptionがん治療における免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の役割は非常に大きくなっており,肺癌領域においては進行非小細胞肺癌に対する一次治療から放射線化学療法後の維持療法まで幅広く投与されている。しかしながら,そのバイオマーカーについては未だ明らかにされておらず,PD-L1 のtumor proportion score(TPS)以外で臨床使用が可能なものは報告されていない。数多くのバイオマーカーが検索されるなか,免疫状態を反映していると考えられるパラメータとして腸内細菌叢の解析が注目されている。ICI と腸内細菌叢についての関係性に関する研究は,2015年のScience での報告を機に広く行われるようになった。当初は特定の菌種の存在が注目を集めたが,その後の検討では菌種の多様性がより治療効果を反映している可能性が報告されるようになった。ICI 治療を受けた患者の腸内細菌叢を無菌マウスに移植した研究では,奏効群の腸内細菌叢を移植された群で抗腫瘍効果の増強が認められ,便移植の可能性が示唆された。同時に非奏効群の腸内細菌叢を移植されたマウスにムチン分解菌であるAkkermansia muciniphila を摂取させると腫瘍浸潤T 細胞の一部が増加し,これによって腸内細菌叢の変化による腫瘍局所への効果が明らかとなった。さらに腸内細菌叢そのものよりも,代謝産物が血中で免疫細胞に作用することによって抗腫瘍効果を高める可能性があり,細菌による代謝産物の解析にも注目が集まっている。当科でも抗PD-1 抗体を投与した非小細胞肺癌25 例での腸内細菌叢の解析を行っている。多様性や特定菌種の同定には至ったものの,腸内細菌叢が免疫細胞に与える影響を考える上では今後は細菌による代謝産物の解析,すなわちメタボロミクス解析が重要となるであろう。腸内細菌叢は単にICI 治療のバイオマーカーとなるばかりではなく,腸内環境や代謝産物を変化させることでICI の効果を得られやすい免疫状態を作ることができる可能性を秘めている。 -
大腸癌における線維化の意義と腸内細菌の関与
48巻9号(2021);View Description Hide Description腸内細菌は,間質や血管とともに癌微小環境における重要な構成要素の一つである。技術の進歩に伴い培養に依存することなく多様な細菌叢を網羅的に解析することが可能となった。腸内細菌は大腸に最も多く存在し,Fusobacteriumnucleatumなど様々な細菌が大腸癌の進展・転移,化学療法に対する抵抗性など様々な機序に関与している。細胞外マトリックスにより構成される間質も癌の進展に大きく関与しており,原発巣の先進部や転移リンパ節における線維化は大腸癌での予後不良因子となる。腸内細菌は癌細胞だけでなく線維化など様々な因子に影響を与えており,大腸癌の治療には腸内細菌を含めた癌微小環境を考慮した治療戦略を立てることが重要である。 -
腸内細菌とがん免疫微小環境
48巻9号(2021);View Description Hide Description免疫チェックポイント分子の発見は,がん治療に大きなインパクトを残しノーベル医学・生理学賞がその発見者に贈られたことは記憶に新しいが,その翌年の同賞は虚血というがん微小環境の研究に対しての貢献者に贈られた。このがん微小環境に,腸内細菌は大きく関与している。最近の腸内細菌の研究の発展は,次世代シークエンサーによる技術革新の恩恵を受け,爆発的に進んだ。腸内細菌は個人を同定できるほど特異的であり,簡単には変化しないこともわかってきた。さらに種々の疾患との関連についても精力的に解析が進んでいる。免疫チェックポイント阻害剤の使用は,抗PD-1/PD-L1 抗体単独療法に加え化学/分子標的療法との併用や抗PD-1/CTLA-4 抗体の併用療法も多用されるようになった。つまり化学/分子標的療法との併用や抗CTLA-4 抗体との併用は,抗PD-1/PD-L1 抗体単独療法よりも頻度や多様性の面で副作用のマネージメントに注意を要する。そこで抗腫瘍効果や有害事象を予測できるバイオマーカーとしても腸内細菌は期待されている。本稿では腸内細菌とこれに関係する免疫機構についても考察した。
-
Current Organ Topics:Upper G. I. Cancer 食道・胃癌
-
-
-
原著
-
-
乳房造影MRI で乳房内病変が存在しなかった潜在性乳癌の治療成績
48巻9号(2021);View Description Hide Description潜在性乳癌は,乳房内病変を認めず腋窩リンパ節に乳癌の転移を認めるまれな疾患である。今回われわれは,乳房以外の原発巣はなく,乳房造影MRI で乳房内病変が認められず潜在性乳癌と診断された5例の治療成績について検討した。潜在性乳癌の割合は原発性乳癌の0.11% で,平均年齢54歳,サブタイプ別でLuminal 2 例,non-Luminal 3 例,Ki-67labelingindex は未実施1 例を除き30% 以上であった。4例に術前化学療法施行,全例に乳房非切除+放射線療法を行った。再発はLuminal,HER2 タイプそれぞれ1 例に認め,いずれも40歳未満であった。5例の累積5年無再発生存率,累積5年全生存率の推定値は,それぞれ40.0%,66.7% であった。再発のうち1 例は経過観察中に乳房内乳癌病変が顕在化した症例で,ER陰性,HER2 陽性のサブタイプであった。術前化学療法施行+抗HER2 療法後,乳房非切除+腋窩リンパ節郭清+放射線療法を行い,4年経過した時点で乳房内病変が出現したまれな症例であった。当院で経験した潜在性乳癌はサブタイプに偏りはないが,Ki-67が高値の症例が多く予後不良であった。 -
皮下埋め込み式静脈ポートにより化学療法を受けた乳癌患者の満足度・生活上の困難点―患者アンケート調査より―
48巻9号(2021);View Description Hide Description皮下埋め込み式静脈ポートを留置した上で,乳癌化学療法を受けた患者のポートに対する満足度や生活上の困難点を調査する目的でアンケート調査を行った。2016~2018年に乳癌化学療法目的にポートを留置した患者130名より回答を得た。総合的な満足度は78.5% であり高かったが,全体の63.1% の患者で生活上の困難点があり,「痛み・違和感」,「シートベルトが当たる」,「鞄を掛けることができない」が多かった。また,10.8% はそれらによる社会的役割遂行の困難があると回答した。ポート留置前に受けた説明への理解度は80.0% で「理解できた」と回答され,それらの患者では満足度が高い傾向にあった(85.6%)。
-
-
薬事
-
-
Drug Vial Optimization 導入のための使用期限設定に関する考察
48巻9号(2021);View Description Hide Descriptiondrug vial optimization(DVO)の導入により,分割使用の使用期限内に使い切れない場合は廃棄薬剤費の負担が生じる。確実にバイアル残液を使用期限内に使い切ることを前提にした使用期限は何日である必要があるのかを調査した。抗がん薬の処方データから廃棄薬剤費および各液剤の抗がん薬ごとに使用期限を0,1,2,7,8,14,28日とした場合の廃棄量を算出した。使用期限は1~2 日では必ず廃棄が発生し,その廃棄金額相当は医療施設側が負担しなければならない。使用期限7日以上で,大部分の廃棄がなくなることが示された。経済的損失を伴わない条件で医療施設でDVO を導入するためには,使用期限延長の検討が望まれる。 -
Effects of Tyrosine Kinase Inhibitors on Blood Pressure in Patients with Unresectable or Advanced Recurrent Renal Cell Carcinoma―Bayes‒Mixed Treatment Comparison Meta‒Analysis
48巻9号(2021);View Description Hide Description腎細胞がんの薬物療法は,1980 年代から開始されたサイトカイン療法が長らく一般的であったが,その根拠となるエビデンスはレベルの低いものであった。現在では分子標的薬7 剤(sorafenib,sunitinib,axitinib,pazopanib,cabozantinib,everolimus,temsirolimus)が本邦で使用可能となっている。これらの分子標的薬のうちチロシンキナーゼ阻害薬に属するsorafenib,sunitinib,axitinib,pazopanib および新規薬剤cabozantinib の5 剤の血圧への影響力の強さと奏効率を,Bayes‒mixed treatment comparison meta‒analysis(Bayes‒MTC 解析)により,臨床評価を行うことで最適な治療選択の意思決定を行った。最も血圧への影響が高いのは,cabozantinib,axitinib でsunitinib の1.7 倍から2 倍の確率であった。チロシンキナーゼ阻害薬5 剤のなかで血圧への影響が少ないのは,sunitinib,sorafenib であった。日本での臨床試験の結果では,sorafenib 27.5%,sunitinib 51.0%,axitinib 75.7% に高血圧を認めている。今回の解析でも,同様の結果が認められている。Bayes‒MTC 解析では,直接的評価だけでなく間接的評価についても解析が可能であり有用なツールであることが今回の解析で示された。
-
-
症例
-
-
Late Line でのOlaparib が奏効した転移再発乳癌の1 例
48巻9号(2021);View Description Hide Description症例は44 歳,女性。両側乳癌術後に腋窩リンパ節・多発肝転移再発が指摘され,他院にて化学療法を継続していたが,olaparib のコンパニオン診断としてBRCA1/2 検査を目的に当院に紹介となった。BRCA2 の病的変異を認め,四次治療としてolaparib 投与を開始したところ,肝転移巣の著明な縮小を認めた。OlympiAD 試験の対象者は一次,二次または三次治療としてolaparib を投与されており,late line でのolaparib 投与の有効性に関するデータは乏しい。今回,転移再発乳癌治療の四次治療としてolaparib を使用し,晩期1 年のQOL を保ちながら高い治療効果が得られた症例を経験したため報告する。 -
化学療法の奏効により小腸穿孔を来した小腸・子宮頸部原発悪性リンパ腫の1 例
48巻9号(2021);View Description Hide Description症例は77 歳,女性。右下腹部痛にて当院を受診,CT では小腸2 か所と子宮頸部に腫瘍を認め,悪性リンパ腫が疑われた。子宮腫瘍を生検,びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫,Stage Ⅳと診断,化学療法R‒THPCOP が開始された。1 コース投与8 日目に腹痛が増悪,CT で小腸腫瘍穿孔による腹膜炎と判断し緊急手術を施行した。口側腫瘍に穿孔を認めたが2か所とも切除した。病理組織学的所見では2 病変とも腫瘍細胞を認めず,化学療法の奏効により小腸壁が壊死したと考えられた。術後21 日目より化学療法を再開し,術後8 か月で寛解を維持している。消化管原発悪性リンパ腫においては化学療法の奏効により外科的介入が必要になることがあり,血液内科医と外科医の情報共有が重要である。 -
四次治療としてNivolumab の初回投与が著効した局所進行胃癌の1 例
48巻9号(2021);View Description Hide Description局所進行胃癌に対してnivolumab の初回投与が著効した1 例を経験したので報告する。症例は75 歳,女性。幽門狭窄および膵浸潤を伴う局所進行胃癌に対して胃空腸バイパス術を施行後,化学療法を開始した。一次治療から三次治療はいずれもprogressive disease(PD)で,腫瘍は増大して内部壊死を認め,腹壁に穿破していた。performance status(PS)は1 で安定していたためnivolumab の初回投与を行ったところ,その9 日後に腹痛が増悪し,全身倦怠感も著明でCT 検査では著明な腫瘍壊死を認め,皮膚直下まで達していた。PD と判定して化学療法を中止したが,その後PS が徐々に改善していき,nivolumab 初回投与から4 か月後に画像検査を行ったところ腫瘍は著明に縮小していた。nivolumab 投与を再開し,化学療法開始後2 年10 か月が経過したが,病勢増悪なく治療継続中である。nivolumab の初回投与により腫瘍が著明に縮小し得ることが示された。 -
Nivolumab が著効した切除不能進行胃癌の1 例
48巻9号(2021);View Description Hide Description症例は74歳,男性。食欲不振を主訴に受診し,上部消化管内視鏡検査を実施したところ3 型胃癌を認めた。さらなる精査で胃周囲リンパ節転移,肝転移が新たに判明したことから,切除不能進行胃癌,cT4N2H1P0M0,cStage Ⅳと診断した。一次化学療法はS-1+oxaliplatin(S-1 80mg/body/day 2 週間投与,1 週間休薬,oxaliplatin 100mg/m2/回day 1)で行い,合計4 コース施行した。新たな腹部リンパ節転移および肝転移の増大が判明しPD となった。二次化学療法としてweekly nab-paclitaxel(nab-PTX)+ramucirumab(RAM)(それぞれ100mg/m2/回をday 1,8,15,8 mg/kg/回をday1,15,4 週間毎)を10コース施行したところ,一時的に治療前からの胃周囲リンパ節転移と肝転移の縮小を認めたものの,新たな腹部リンパ節転移が出現しPD となった。三次化学療法としてnivolumab 静注(240mg/body/回,3 週間毎)を選択し,13 か月間で合計30コースを施行した。治療は著効し,CR に近い状態まで改善した。現在も外来で経過観察中である。 -
胃癌二次化学療法としてラムシルマブ単剤療法を実施した4 例
48巻9号(2021);View Description Hide Descriptionラムシルマブ単剤療法は胃癌二次化学療法において条件付きで推奨されるレジメンの一つであるが,日本人における本療法のデータは限られている。今回われわれは,本療法を行った4 例を経験したので報告する。65~81 歳の男性3 例・女性1 例で,performance status 2 であるが臓器機能は保たれており,二次化学療法を希望されたことから本療法を選択した。1 例で病勢制御が得られ,無増悪生存期間は3~16(中央値5)週であった。有害事象は1 例にGrade 2 の高血圧を認めるのみであった。本療法は全身状態不良例においても忍容性があり,ある程度の病勢制御効果も期待できると考える。 -
残胃癌肝転移に対してCapeOX,S‒1 治療および手術にて長期生存を得ている1 例
48巻9号(2021);View Description Hide Description症例は70 歳,男性。63 歳時に早期胃癌にて幽門側胃切除術後であったが,残胃癌による多発肝転移,cT3(SS),N0,M1,cStage Ⅳの診断となった。CapeOX 8 コースとS‒1 2 コースにて原発巣および肝転移巣はcCR と判断された。副作用と患者希望により化学療法は約10 か月で中止した。脳梗塞の発症により抗凝固剤投与を継続していたが経過中に吐血があり,吻合部口側小弯後壁に潰瘍が存在していた。後日,低分化腺癌が判明した。PET‒CT 検査にて肝臓に集積がないことより,残胃全摘を施行した。化学療法開始後4 年10 か月,中止後3 年10 か月と長期にわたり無再発生存中である。 -
術後4年目に内腸骨静脈内腫瘍塞栓を来した直腸癌の1 例
48巻9号(2021);View Description Hide Description症例は60歳台,男性。下血を主訴に近医を受診した。下部消化管内視鏡検査にて直腸Rb 前壁に2型腫瘍を認めたため,当院当科に紹介受診となった。直腸癌Rb,cT2,N0,M0 の診断にて腹会陰式直腸切断術,D3郭清,右側方郭清を施行した。病理診断はtub2,pT2,N0,Ly0,V0,pDM0(30mm),pPM0(160mm),pR0,pStage Ⅰであり,術後補助化学療法は行わなかった。以後定期的に経過フォロー施行し無再発を確認していたが,術後4年目に腫瘍マーカーCEA 59.2ng/mL,CA19-9 75.5U/mL と高値を認め,CT にて多発肺転移,内腸骨静脈内に腫瘍塞栓を認めた。IVC フィルター留置後,化学放射線療法を施行し腫瘍塞栓は消失したが多発肺転移は増大を認め,術後6年で脳転移を認めた。以後BSC の方針とし,術後7年目に死亡した。
-