Volume 48,
Issue 10,
2021
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投稿規定
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癌と化学療法 48巻10号, 1314-1315 (2021);
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総説
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癌と化学療法 48巻10号, 1185-1190 (2021);
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腫瘍の免疫微小環境を理解し,免疫チェックポイント阻害剤(ICI)などの免疫療法を適切に行うためには,腫瘍細胞の主要組織適合性複合体(MHC)クラスⅠによる抗原提示機能が一つの重要な評価項目となる。マイクロサテライト高度不安定性(MSI‒H)大腸がんでは腫瘍浸潤リンパ球が豊富に存在し,ICI が非常に有効であるが,MHC クラスⅠの発現低下の頻度も多く,発現低下をもたらすゲノム・エピゲノム異常の理解が必要である。次世代シーケンサーによる解析が進んでいるが,ロングリードシーケンサーを用いることで,より精度の高い解析が可能となる。ICI 治療の最適化をめざして,併用療法が必要な症例の選別,適切な治療中止のタイミングの決定,重篤な合併症のリスクが高い症例の判別などのためのバイオマーカー探索が求められている。MSI‒H 大腸がんを中心として,MHC クラスⅠの異常とバイオマーカー探索の最近の研究動向を概説する。
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特集
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リキッドバイオプシーの診断と治療への応用
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癌と化学療法 48巻10号, 1191-1196 (2021);
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遺伝子異常に基づき治療を選択するがんの個別化医療(precision medicine)の実現のため,本邦でも2019 年から次世代シークエンサー(next generation sequencing: NGS)を用いた腫瘍組織の遺伝子パネル検査が保険償還され,日常診療で複数のバイオマーカーや遺伝子異常の同時測定が可能になった。しかし腫瘍組織によるNGS 解析には,結果返却までの期間が長いこと,がんの不均一性をとらえることや経時的な遺伝子検査が難しいことなどの問題がある。近年,腫瘍組織を用いることなく腫瘍の状態を診断する検査法として,血液や尿などの体液サンプルを用いるリキッドバイオプシーという検査手法が注目されはじめている。なかでも血液循環腫瘍DNA(circulating tumor DNA: ctDNA)の解析は,最も開発が盛んなリキッドバイオプシーの一つである。われわれの研究から,進行消化器がん患者においてctDNA 解析は腫瘍組織と比較してより早く結果を返却し,より多くの患者が治験に登録されたことが明らかになっている。今後の消化器がんゲノム医療においては腫瘍組織とctDNA 解析の長所と短所を理解した上で,これらを使い分けていく必要がある。
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癌と化学療法 48巻10号, 1197-1202 (2021);
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がん生物学,がん治療の発展とともに,治療方針を決定する際に組織型などの基本的な情報のみならず,腫瘍の特徴を表すバイオマーカーを検索することが重要になっている。血液中には,腫瘍細胞や腫瘍から遊離したDNA(cell free tumorDNA),エクソソームやmicroRNA などが存在し,腫瘍の状態をリアルタイムに反映していると考えられる。リキッドバイオプシーは侵襲が少なく採取が簡便であることから,診断のみならずリアルタイムでの治療抵抗性獲得などのモニタリングへの応用がほぼ実用化しつつある。循環腫瘍細胞(CTCs)の個数はそれ自体が予後因子となることが示されている。ctDNAは組織検体の全ゲノムシーケンスを行って,患者ごとの個別化ctDNA による再発モニタリングが可能となってきている。さらにはctDNA を用いたがんゲノムプロファイリング検査も実用化され,保険診療として実施が可能になった。血液中microRNA を使った早期診断はその可能性がすでに報告されているが,現在検診コホートを用いた前向き研究で感度,特異度の検証を実施している。今後の乳がん診療において,リキッドバイオプシーは必要不可欠なものである。
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癌と化学療法 48巻10号, 1203-1208 (2021);
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転移性前立腺癌(mPC)に対する治療選択肢が増加し,プレシジョン医療の基盤となる侵襲性の少ないバイオマーカーとして循環腫瘍細胞(CTC)や循環腫瘍DNA(ctDNA)が注目されている。CTC 数やctDNA 量は予後因子としての有用性が報告されている。さらに薬剤治療中のこれらの量の変化は効果予測因子として有用な可能性がある。アンドロゲン受容体遺伝子の異常(遺伝子増幅,変異,構造異常など)は多くの去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)症例で認められ,ARPI の効果と関連がある。BRCA2,ATM,CDK12,ミスマッチ修復遺伝子などのDNA 修復遺伝子異常には,PARP 阻害剤または免疫チェックポイント阻害剤といった標的治療が有効である。PI3K 経路の異常活性化は主にPTEN の異常によって起こり,現在Akt 阻害剤などの標的治療の有効性について臨床試験が行われている。CTC やctDNA を用いた治療戦略を日常診療で普及させるためには,今後バイオマーカー主導の前向きな臨床試験,遺伝子異常に対する新たな標的治療の開発,エピゲノムなどの新たな解析の開発が必要である。
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癌と化学療法 48巻10号, 1209-1213 (2021);
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近年,悪性リンパ腫領域においても末梢血中の循環腫瘍DNA(ctDNA)解析は,診断,ゲノム異常解析,リスク層別化,奏効のモニタリング,介入可能な変異の検出のための有望な非侵襲的アプローチとして注目されている。解析プラットフォームとしては,PCR ベースの方法と次世代シーケンス解析がある。一塩基置換や短い挿入/欠失,構造変異,コピー数異常を対象にし,なかでも免疫グロブリン重鎖遺伝子/T 細胞受容体遺伝子再構成は悪性リンパ腫に特異的である。悪性リンパ腫の初期診断においては,やはり組織学的構造の情報が得られる従来の組織生検が重要であり,ctDNA 解析はこれに取って代わるものではない。しかし血管内大細胞型B 細胞リンパ腫(IVLBCL)や中枢神経原発びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫(PCNSL)など,特定の節外性リンパ腫においては有効な手段となる可能性がある。IVLBCL では腫瘍細胞は小血管の内腔で増殖し,通常は腫瘤を形成せず,生検すべき部位が不明瞭である。両リンパ腫には,MYD88 L265P,CD79B などの遺伝子変異や免疫回避に関連した遺伝子異常が存在する。したがって,ctDNA 解析によってこれらの変異を検出することは,IVLBCL およびPCNSL の迅速な診断に役立つ可能性がある。また,ctDNA 解析は組織生検による変異解析と比較して空間的な腫瘍の不均一性をよりよく反映する可能性が指摘されており,経時的に実施することも容易であり,より正確な予後予測,治療抵抗性クローンの追跡が可能かもしれない。造血器腫瘍で頻繁に観察されるゲノム異常は固形がんのそれとは異なるため,独自の遺伝子パネル検査を開発する必要がある。本邦においても造血器腫瘍のゲノム医療の体制を整えるべく,準備が進んでいる。
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特別寄稿
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癌と化学療法 48巻10号, 1233-1239 (2021);
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昨今,外来化学療法に対する需要が高まっている一方で,患者の負担は通院による物理的・身体的負担のみならず,就労への影響による精神的・経済的負担まで多様化している。また,医療従事者にとってはマンパワー不足や設備・体制の問題など,外来化学療法のマネジメントに多くの課題を抱えている現状である。そこで,2₀2₀ 年₉ 月22 日(火),「外来化学療法における患者および医療従事者の負担を把握する」と題し,著者ら(司会: 坂東裕子)によるリモート会議が開催された。本稿はその会議録であり,患者と医療従事者の負担を可視化し,その負担の改善や効率化の必要性,負担軽減に向けての取り組みなどを考察する。
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原著
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癌と化学療法 48巻10号, 1241-1246 (2021);
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目的: 切除不能進行・再発大腸癌(mCRC)に対する後方ライン治療においてレゴラフェニブ(Rego)は標準治療の一つであるが,手足症候群などの毒性が懸念される。一方,われわれは第Ⅱ相試験として後方ライン治療におけるS-1+ベバシズマブ(Bev)併用療法(SB 療法)の有効性と安全性について検討を行い,比較的良好な結果が示された。そこでRegoとSB 療法の有効性と安全性を比較検討する目的で無作為化第Ⅱ相試験を行った。対象と方法: 三次治療以降のmCRC を対象とし,無作為に1:1 にRego 群とSB 群に割り付けを行った。Rego は28 日間を1 サイクルとし160 mg/body をday 1~21 に1 日1 回内服,SB は42 日間を1 サイクルとしS-1 を体表面積に応じてday 1~28 に1 日2 回内服し,Bev 5 mg/kg をday 1,15,29 に静脈注射,または21 日間を1 サイクルとしS-1 をday 1~14 に1 日2 回内服し,Bev 7.5 mg/kg をday 1に静脈注射とした。主要評価項目は全生存期間(OS)で,予定登録症例数は86 例とした。結果: 集積不良のため2013 年10月~2015 年3 月までの間,当院を含む6 施設から8 例のみが登録された。両群とも4 例ずつ割り付けされたが,うちRego群の1 例は有効性解析から除外された。OS 中央値(Rego vs SB)は30.2 か月vs 6.6 か月[hazard ratio(HR): 0.205,p=0.123],無増悪生存期間中央値(Rego vs SB)は3.7 か月vs 1.6 か月,病勢制御割合(Rego vs SB)は100% vs 75% であった。Grade 3/4 の有害事象についてRego 群はAST/ALT 上昇1 例(25%),低ナトリウム血症1 例(25%),手足症候群1 例(25%),高血圧1 例(25%),蛋白尿1 例(25%),SB 群は腸炎1 例(25%)であり,有害事象により中止となった。結論: 少数例の検討であるが,SB 療法はmCRC に対する後方ライン治療として推奨されないレジメンと考えられた。
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症例
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癌と化学療法 48巻10号, 1247-1249 (2021);
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症例は70歳,男性。定期健診の腹部超音波検査で下腹部に10cm 大の囊胞性腫瘍を認めた。腹部造影CT 検査では虫垂は130mm×44mm 大に腫大していた。その他悪性を示唆する検査所見はなく,虫垂粘液産生腫瘍の術前診断の下,腹腔鏡下回盲部切除術,リンパ節D2 郭清を行った。腹腔鏡手術は術中の治療方針の決定から愛護的操作,体外への腫瘍摘出,腸管の切除吻合まで施行可能で整容性にも優れていた。病理診断は低異型度虫垂粘液性腫瘍であった。現在,術後2 年経過しているが再発はなく経過している。
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癌と化学療法 48巻10号, 1251-1254 (2021);
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今回われわれは,急速に病状進行した生命を脅かす乳癌多発骨転移に対してCDK4/6 阻害薬であるフルベストラントおよびパルボシクリブの併用療法が著効した1 例を経験したため報告する。症例は58 歳,閉経後,女性。43 歳時に左乳癌の診断となり,手術を施行した。術後内分泌療法および放射線治療を完遂後,定期経過観察となった。術後11 年目,多発骨転移,多発リンパ節転移が出現し,転移一次内分泌療法としてレトロゾールを施行した。本治療は2 年10 か月効果を認めていたが,肝転移新規出現および既存の転移巣の急速な進行により全身状態が増悪し,救急外来を受診された。著明な高カルシウム血症,赤血球および血小板の高度減少を認め,全身状態増悪の原因と考えられた。performance status(PS)4 であったため緩和治療も考慮されたが,高カルシウム血症に対する治療と赤血球輸血の後,再発二次治療としてフルベストラントおよびパルボシクリブの併用療法を開始した。本治療は著効し全身状態はPS 1 まで改善し,重篤な有害事象なく良好なquality of life(QOL)が2 年11 か月間維持されている。以上より,フルベストラントとパルボシクリブの併用療法は重篤な有害事象のリスクが低く,急速に病状進行した生命を脅かす乳癌多発骨転移に対して,行うに値する治療法と考えられた。
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癌と化学療法 48巻10号, 1255-1257 (2021);
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症例は61 歳,女性。貧血と血小板減少を主訴に受診した。左乳房に腫瘤を認め,針生検から浸潤性乳管癌,HR 陽性HER2 陰性と診断した。PET 検査で全身の多発骨転移,骨髄生検で乳癌細胞の転移が確認され,骨髄癌腫症と診断された。全身状態は良好なため,アロマターゼ阻害剤(AI)を選択した。速やかに貧血と血小板数の改善を認めた。治療開始後19か月の時点で左乳房切除,左腋窩リンパ節郭清を施行できた。組織学的治療効果判定はGrade 2a,高度のリンパ節転移を認めた。術後もAI の投与を続けている。治療開始後32 か月,画像・臨床上癌の存在を認めていない。本症例のように骨髄癌腫症で発症すること自体まれであるが,一貫したAI で長期寛解状態が続いている点も貴重な症例と思われる。
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癌と化学療法 48巻10号, 1259-1263 (2021);
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症例は73歳,女性。21 年前に他医にてstage Ⅲb 右乳癌の根治術と術後5年間のanastrozole 服用歴,13年前に右大腿骨頸部骨折の既往がある。今回,右外踝部皮膚潰瘍の治療中,胸部異常陰影の精査にて両側多発肺転移と右悪性胸水,癌性胸膜炎,鎖骨上窩・気管周囲リンパ節転移,右鎖骨・第1 肋骨・胸骨・頸椎に無症候性多発骨転移を確認し,転移・再発乳癌と診断した。腫瘍マーカーはCA15-3 291 U/mL と高値であった。HR 陽性,HER2 陰性の晩期進行再発例であるが呼吸困難や癌性疼痛も認めないため,abemaciclib とanastrozole によるCDK4/6阻害薬併用内分泌療法を選択した。骨転移にはデノスマブの投与を併用し,悪性胸水には胸腔ドレナージ後OK-432 注入による胸膜癒着療法を施行した。abemaciclib(100mg bid)で開始し,服用3か月で肺転移縮小傾向と腫瘍マーカー低下を,服用1 年後には肺転移消失と骨溶解部の骨硬化像を認めた。有害事象として,服用13か月後に体重減少と食欲不振が増悪(Grade3)したためabemaciclib の服用は中止し,anastrozole のみ継続とした。現在,6か月後で再発なく外来通院中である。今後,増加が見込まれる高齢者HR 陽性晩期進行再発症例に対し,CDK4/6阻害薬併用内分泌療法は初回治療として有用であると思われる。
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癌と化学療法 48巻10号, 1265-1267 (2021);
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症例は69 歳,男性。肺腺癌,stage ⅣB,PDL‒1 発現95% に対し,ペムブロリズマブ単剤を開始した。12 コース目(投与開始36 週後)に易疲労感が出現した。胸部CT で両上葉に散在性すりガラス陰影を認め,間質性肺疾患と診断した。ペムブロリズマブ休薬後も易疲労感が続き,内分泌検査で下垂体機能障害と診断した。投与開始40 週後にはさらに両下腿発疹を認め,薬剤性皮膚障害と診断した。ヒドロコルチゾンですべての有害事象が改善した。ペムブロリズマブによる免疫関連有害事象は同時期に複数臓器に起こり得る。
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癌と化学療法 48巻10号, 1269-1271 (2021);
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カボザンチニブの臨床試験では開始用量60 mg と設定されているため,実臨床における開始用量40 mg での減量レベルや安全性は不明確である。40 mg で開始したにもかかわらず,投与初期に蛋白尿(Grade 2),手足症候群(Grade 2),高血圧(Grade 3)を認め,減量や休薬により改善した。したがって,減量による開始は忍容性の観点から選択肢の一つと考える。
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特別寄稿
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第42回 癌免疫外科研究会
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癌と化学療法 48巻10号, 1275-1277 (2021);
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Tn 抗原は,最も主要な腫瘍関連糖鎖抗原であり,腫瘍微小環境において樹状細胞・マクロファージ上のレクチンMGL に認識され,腫瘍免疫抑制を誘導するとされる。ミスマッチ修復機構欠損(deficient mismatch repair: dMMR)を示す大腸癌は,高い免疫原性・免疫細胞浸潤と同時に免疫チェックポイント分子高発現と免疫逃避を示す。われわれは最近,Tn 抗原高発現とdMMR の強い関連を報告した。特にTn 抗原高発現を示すdMMR 大腸癌では,CD8+腫瘍浸潤リンパ球数および腫瘍細胞上のPD-L1 発現が抑制されていた。Tn 抗原高発現dMMR 大腸癌に対して,Tn 抗原を標的とした免疫チェックポイント阻害,細胞免疫療法が新たな治療戦略となる可能性がある。
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癌と化学療法 48巻10号, 1278-1280 (2021);
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症例は65歳,男性。横行結腸癌による腸閉塞とリンパ節転移の診断で結腸右半切除術を施行した。腹腔内全域に腹膜播種を認め,治癒切除は不可能であった。術後診断はpT4bN2M1c(P3),Stage Ⅳc,RAS 変異陽性であった。術後1 か月からmFOLFOX6+bevacizumab 療法を25コースまで開始した。Second-line としてFOLFIRI+bevacizumab 療法を13コースまで施行した。Third-line としてregorafenib を80mg/day から開始し,160mg/day まで漸増,大きな有害事象なく約13か月,14コースまで施行した。その後,fourth-line でFTD/TPI+bevacizumab 療法を5コースまで施行するも病勢が悪化し,化学療法開始後3 年8か月(regorafenib 開始後1 年8か月)で死亡した。転移性大腸癌に対してサルベージラインとして承認されているregorafenib は,有害事象が多発し承認用量が投与できる症例が少ない。自験例では低用量から開始し有害事象が少なく,病勢コントロール,長期投与できた。
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癌と化学療法 48巻10号, 1281-1283 (2021);
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症例は77歳,男性。既往は高血圧症,脂質異常症,狭心症,両側内頸動脈狭窄。2020年,貧血を契機に発見された胃前庭部の胃癌に対し,腹腔鏡下幽門側胃切除,D2 郭清,Billroth Ⅰ法再建を行った。術後2 日目に高度貧血を認め,腹部造影CT 検査で残胃内に造影剤の漏出を認めた。緊急の上部消化管内視鏡検査で胃体上部大弯に広範な粘膜壊死性変化とその周囲の潰瘍を認めた。縫合不全の所見はなかったため保存的治療を行い,術後18日目に退院した。退院後は潰瘍瘢痕による軽度の吻合部狭窄を認め,内視鏡的バルーン拡張術を一度要したが,その後は再燃なく外来にて補助化学療法を行った。胃は壁内の血流網に富み比較的虚血に強い臓器であるため,残胃壊死はまれな合併症である。しかし本症例のように動脈硬化性疾患の既往を有する患者では胃壁内の血流網が乏しい可能性があり,胃切除範囲や再建法について十分に検討する必要がある。
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癌と化学療法 48巻10号, 1284-1286 (2021);
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症例は81 歳,男性。肝浸潤を伴う胃前庭部癌に対して2019年7月に開腹幽門側胃切除,D2郭清,肝部分切除術を施行した。病理組織学的検査の結果,pT4b(HEP)N1M0,Stage ⅢB であった。術後補助化学療法は本人の希望で行わなかった。術後7か月の腹部造影CT で右腎上極に20mm 大のhypovascular な腫瘤性病変が出現した。術後11 か月後のCT では35mm 大と増大傾向で腎盂に浸潤しており,また傍大動脈リンパ節転移が出現した。右腎腫瘤の診断目的に2020年8月に後腹膜鏡下右腎部分切除術を施行し,胃癌腎転移と診断した。その後,右側腹部の疼痛の増悪があり,症状緩和目的に腎腫瘍および右腎門部から腹部傍大動脈リンパ節転移に対して50Gy/25回照射を施行したところ疼痛は改善した。今回われわれは,診断に苦慮した胃癌腎転移の1 例を経験し,また放射線治療が疼痛緩和に有用であったため文献的考察を加えて報告する。
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癌と化学療法 48巻10号, 1287-1289 (2021);
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大腸癌の閉塞の程度が周術期に及ぼす影響を栄養・免疫状態の視点から明らかにすることを目的に,待機的大腸癌切除207例を検討した。初診時の閉塞の程度をColoRectal Obstruction Scoring System(CROSS)を用いて評価し,さらにCROSS score 0-2とscore 3・4の2群に分類し,臨床病理学的因子,栄養・免疫状態,術後経過との関連を検討した。CROSSscore 0-2群は42例(20.3%)であった。Score0-2群は病巣数2個以上でT4症例が多く,進行度とCEA 値が高い傾向にあった。また,score 3・4群と比較し,PNI,CONUT score,mGPS,体重減少率,MNA®-SF score,NLR に有意差を認め,術後合併症が高率で術後在院日数も延長していた(p<0.05)。大腸癌の閉塞の程度と進行度は相関しており,診断時の栄養・免疫状態の低下が術後経過に影響している可能性が示唆された。
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癌と化学療法 48巻10号, 1290-1292 (2021);
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症例は83 歳,女性。腹痛,嘔吐を主訴に当院救急外来を受診した。来院時の腹部CT 検査では右中腹部の小腸に壁肥厚を認め,同部を閉塞機転として口側小腸の著明な拡張と液体貯留を認めた。癒着性イレウスと診断し入院して保存的治療を行ったが改善が得られず,腸閉塞解除術を施行した。術中閉塞部の肥厚および硬化を認め,腹腔鏡補助下小腸部分切除を行った。病理組織学的検査では大型異型リンパ球のびまん性浸潤を認め,免疫化学染色の結果からびまん性大細胞型B 細胞リンパ腫と診断された。術後は合併症なく経過し,現在再発は認めていない。小腸悪性リンパ腫は,腸重積に伴う腸閉塞での発症例は散見されるが,腸閉塞のみで発症することはまれであり,文献的考察を加えて報告する。
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癌と化学療法 48巻10号, 1293-1295 (2021);
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症例は65歳,女性。進行胃癌に対し2016年11 月に幽門側胃切除術,D2 郭清,Billroth Ⅰ法再建術を施行した。病理組織学的検査の結果はL,Circ,Type4,40×25mm,por2>por1>sig,T3(SS),INF c,Ly0,V0,pPM0,pDM0,pN0,CY0,HER2(-),pStage ⅡA であり外来経過観察としていたが,2019年8月に腹膜播種再発による横行結腸狭窄を来し,小腸横行結腸吻合術を施行した。退院後S-1+oxaliplatin 療法を開始した。6コース施行後のCT で腹水増加,播種結節増大を認めPD と判定し,ramucirumab+nab-paclitaxel 療法へレジメンを変更した。5コース目,day 20に突然の強い腹痛を主訴に来院した。CT でfree air を認め,消化管穿孔による急性汎発性腹膜炎と診断した。手術所見では虫垂末端の穿孔と軽度混濁した腹水を認めたが膿瘍は認めず,虫垂切除術および洗浄ドレナージ術を施行した。病理組織学的検査の結果,穿孔の原因はramucirumab との関連が強く疑われた。頻度は少ないが血管新生阻害剤の有害事象となる消化管穿孔は致死的となる可能性があり,十分に注意すべきと考えられた。
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癌と化学療法 48巻10号, 1296-1298 (2021);
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食道癌術後乳び胸は比較的まれな術後合併症とされるが,発症すると治療に難渋することがある。今回われわれは,食道癌術後難治性乳び胸に対し鼠径リンパ節穿刺によるリンパ管リピオドール造影を行い,胸管の走行を確認した後,胸管結紮術を施行した1 例を経験したので報告する。症例は71 歳,女性。胸部中部食道癌,cT3N0M0に対して胸腔鏡補助下食道亜全摘,2 領域リンパ節郭清,胸腔内経路胃管再建,腸瘻造設を施行した。術後1 日目より経腸栄養を開始し,乳び様胸水が出現した。1 日2,000mL 以上の胸水を認め,著明な脱水となり全身状態の管理をしつつ,6日目よりオクトレオチド300μg/day の持続皮下注,8日目よりエチレフリン80mg/day の持続静注を開始したが改善しなかった。11 日目に両側鼠径リンパ節穿刺によるリピオドールリンパ管造影を行い,胸管本幹からの造影剤流出を確認した。15日目に開胸胸管結紮術を行い,その後胸水は著明に減少,再手術後12 日目に右胸腔ドレーンを抜去し,以後胸水貯留を認めなかった。
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癌と化学療法 48巻10号, 1299-1301 (2021);
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2017年から本邦で胃癌に対してFOLFOX 療法が使用可能となった。今回われわれは,mFOLFOX6療法が奏効した進行胃癌の1 例を経験したので報告する。症例は78歳,男性。体重減少を主訴に近医を受診され,胃癌が疑われ当院に紹介受診された。上部消化管内視鏡検査にて胃噴門直下に3 型腫瘍を指摘,生検にてmoderately differentiated adenocarcinoma(tub2),HER2 score 1と診断した。CT検査では多発遠隔リンパ節転移,腹膜播種を認めた。腎機能障害を認めたため,5‒FU,レボホリナートカルシウム,オキサリプラチン(mFOLFOX6)療法を開始した。化学療法後の上部消化管内視鏡検査,CT検査で原発巣,転移巣ともに縮小した。7コース終了後,血小板数減少を認めたため5‒FU,レボホリナートカルシウム(5‒FU/l‒LV)療法に変更した。治療開始後10か月以上,病変増悪なく継続治療中である。