癌と化学療法
Volume 48, Issue 13, 2021
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特集
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- 【第43回 日本癌局所療法研究会】
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ロボット支援下手術で根治切除および尿路再建を施行した左尿管浸潤を伴う直腸癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 82 歳,男性。慢性腎障害以外に特記すべき既往歴を認めなかった。下痢,全身劵怠感を主訴に受診した。CT検査で左尿管浸潤を伴う局所進行直腸 S 状部癌を認めた。下部消化管内視鏡検査では肛門縁から 12 cm の位置に全周性 2 型病変を認めた。生検結果は中分化腺癌であった。明らかな遠隔転移を認めず,切除の方針とした。手術はロボット支援腹腔鏡下低位前方切除術(左尿管合併切除),左尿管膀胱新吻合,一時的回腸人工肛門造設を施行した。尿路再建部は泌尿器科医師に交代し,ロボット支援下に岬角レベルで切離した左尿管と膀胱を Lich⊖Gregoir 法で新吻合した。病理組織学的診断ではpT4b(左尿管)N1bM0,pStage Ⅲc であり,剝離面への露出を認めず,根治手術を達成していた。術後合併症は認めず,術後 22 日目に軽快退院した。術後 6 か月時点で無再発生存中である。 -
腹腔鏡補助下幽門輪温存胃切除術の栄養状態に関する検討
48巻13号(2021);View Description Hide Description対象と方法: 2010 年 1 月~2019年 12 月に当科で腹腔鏡手術を受けた胃癌患者のうち,幽門輪温存胃切除術(LAPPG群)と幽門側胃切除術(LADG 群)の治療成績を後ろ向きに比較検討した。結果: LAPPG 群 23 例と LADG 群 60 例の患者背景や手術因子に有意差を認めなかった。術後 1,₆,12,2₄ か月後の体重減少率・PNI は,LAPPG 群で 5.7%・45.7,6.6%・50.4,5.8%・50.5,5.2%・50.6,LADG 群で 7.1%・46.0,9.6%・48.0,10.1%・48.3,8.7%・48.6 であり,術後 6,12,24 か月後の体重減少は LAPPG 群で有意に少なかった(p=0.007,0.002,0.022)。両群とも術後 5 年以内の転移再発はなく,pStage Ⅰ症例(LAPPG 群 23 例,LADG 群 51 例)の 5 年全生存率は LAPPG 群が良好であった(LAPPG 群 100%,LADG 群 82.9%,p=0.027)。LADG 群では他病死を 6 例(肺炎 2 例,他癌死 2 例,術後出血 1 例,心不全 1 例)認めたが,LAPPG 群では認めなかった。結論: LAPPG は LADG より体重減少が有意に低く,肺炎などによる他病死を認めず長期予後も良好であった。 -
切除可能大腸癌同時性肝転移に対する原発切除前術前化学療法の意義
48巻13号(2021);View Description Hide Description背景: 当科の切除可能大腸癌同時性肝転移の長期成績から,術前化学療法の有用性について考察した。対象: 2000~2019 年までに当科で手術を行った切除可能大腸癌同時性肝転移 73 例。結果: 原発切除前化学療法群(原発切除前群)が 13例,肝切除前化学療法群(肝切除前群)が 24 例,化学療法を行わなかった群(化学療法なし群)が 36 例。肝転移 Grade A/B の 5 年生存率(5y OS)は,原発切除前群 77.8%/100%,肝切除前群 50.0%/42.4%,化学療法なし群で 45.6%/66.2% であった。Grade A/B の 3 年無増悪生存率(3y PFS)は,原発切除前群 51.9%/50.0%,肝切除前群 16.7%/40.4%,化学療法なし群で 46.5%/55.6% であった。原発切除前群の再発 6 例で局所再発またはリンパ節再発,腹膜播種を認めなかった。結語: 切除可能大腸癌同時性肝転移において,Grade A,B ともに原発切除前群で生存期間の延長が期待された。また,再発形式に関して原発切除前群では局所再発やリンパ節再発,腹膜播種を制御する可能性がある。 -
化学療法により長期間の完全奏効が得られている直腸がんの 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は診断時 40 歳代,女性。子宮・膀胱浸潤および多発リンパ節転移を伴う直腸がんと診断され,化学療法で治療開始後 1 年 2 か月目に臨床的完全奏効となった。その後も原発巣の摘出手術は受けずに化学療法を継続しており,8 年 11 か月経過した現在も完全奏効を維持している。 -
上行結腸癌術後遠隔リンパ節再発に対して化学療法が奏効し長期 CR を得た 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は74歳,女性。2013年 3 月に上行結腸癌に対し結腸右半切除術,D3 郭清を施行した。T4a,N2,M0,Stage Ⅲb にて術後補助療法として UFT+UZEL 療法を 6 か月間行った。2014 年 10月に左鎖骨上窩リンパ節腫大が出現し,穿刺吸引細胞診を行ったところ腺癌の転移の診断であった。CT 検査では左鎖骨上窩リンパ節および腹部大動脈周囲リンパ節の腫大を認めた。その他の臓器に転移を認めず,除外診断を行い上行結腸癌の多発遠隔リンパ節再発と診断した。2014 年 12月より化学療法(mFOLFOX6+bevacizumab)を開始し,2015 年 7 月の CT 検査で腫大リンパ節はすべて縮小,不明瞭化した。さらに同年 12 月の CT 検査でもリンパ節腫大や新規病変の出現はなく,complete response(CR)と判定した。また,末梢神経障害などの副作用が強くなったためレジメンを FOLFIRI+bevacizumab に変更した。2016 年 11 月で化学療法を終了したが,現在も再発はなく長期 CR を維持している。 -
腹腔鏡補助下腹会陰式直腸切断術後に骨盤内ヘルニアおよび上部空腸絞扼を来した 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 50 歳台,女性。直腸癌に対し腹腔鏡補助下腹会陰式直腸切断術を施行した。術後より腸閉塞所見を認め,増悪傾向のため術後 8 日目に開腹手術を行った。開腹すると骨盤底の後腹膜縫合部に小孔を認め,回腸が嵌頓し内ヘルニアとなっていた。他方,空腸起始部が屈曲捻転し虚血壊死に陥っていた。初回手術時に骨盤死腔に持続陰圧ドレーンを留置しており,後腹膜縫合の脆弱な部分が裂け内ヘルニア状態となったと考えられた。また,視野展開のため上腹部へ位置させていた小腸の整腸が終刀時に不十分であったため空腸起始部の屈曲が残り,内ヘルニア発症後の腹腔内圧上昇に伴って捻転した可能性が考えられた。現状では後腹膜縫合の必要性に一定の見解はないため,以後非縫合とし骨盤底に癒着防止剤の散布のみとしている。また,腹腔鏡下大腸手術においては小腸を移動させ術野を展開するが,終刀時には十分整腸することが重要と思われた。 -
Colostomy Simulation 3D‒CT を用いた結腸ストーマサイトマーキングの 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description背景と目的: ストーマサイトマーキングは体表の視触診で行われ,結腸ストーマの造設部位は,横行結腸は上腹部,S状結腸は左下腹部に想定する。結腸の正確な形態を考慮したストーマサイトマーキングを可能とする colostomy simulation3D-CT(Cs3D-CT)の作成を試みる。対象と方法: 症例は50 歳台,男性。切除不能多発肝転移を伴う進行直腸癌であった。原発巣の狭窄が強く通過障害を認めたため,colostomy 造設の方針となった。術前に一般的な造影 CT を施行し,3D-CT をWorkstation Ziostation2(ziosoft,Tokyo,Japan)を用いて作成した。体表 3D と腹直筋 3D を作成・合成して腹壁 3D を作成し,さらに作成した大腸 3D と合成して Cs3D-CT を作成した。結果: Cs3D-CT を用いてストーマサイトマーキングのsimulation を行った。下腹壁動脈(IEA)を同定し,損傷を回避して腹直筋経路で挙上しやすい結腸と挙上部位を simulationした。臍部から距離を 3D-CT 上で計測し,実際のストーマサイトマーキングに応用して最終的なマーキング部位を決定した。また,挙上結腸と腹壁との位置関係から手術の難易度も評価した。S 状結腸は腹直筋直下に位置するため挙上は比較的容易であることが予想された。直腸癌であることを考慮して sigmoidostomy の方針とし,実際に左下腹部のマーキング部位のみを開腹して(trephine colostomy),双孔式 S 状結腸ストーマを造設した。考察とまとめ: Cs3D-CT は大腸の正確な形態や腹壁との位置関係を考慮した colostomy の simulation を可能とした。また,腹直筋の正確な形態と IEA の位置を考慮したストーマサイトマーキングが可能であった。Cs3D-CT を用いることで従来法では困難であったより最適なストーマサイトマーキングが可能となると思われる。 -
Olaparib 投与により ADL の改善がみられた再発乳癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 67 歳,女性。1990 年に左乳癌,2003 年に右乳癌に対して手術を施行した。2013 年に右局所再発を認め,前胸部皮弁切除,腋窩リンパ節郭清,胸壁照射を施行した。2017 年 9 月に肺転移が出現し,内分泌治療,化学療法を行ったが,2020 年 5 月に骨転移,広範囲の胸腹部への皮膚転移が出現し,日常生活動作(ADL)は低下に伴い自力歩行も困難となった。BRCA1/2 遺伝子検査で BRCA1 変異を認めたため 2020 年 7 月に olaparib を開始した。転移巣は著明に縮小し,皮膚転移も痂皮化した。薬物治療継続が困難と思われた症例であるが,ADL の回復がみられた。olaparib をいつ用いるかは症例ごとの判断が必要であるが,終末期に相当する時点でも奏効する可能性があり,治療選択肢の一つとして検討は可能であると考えられる。 -
抗 HER2 療法中止後 1 年以上完全奏効を維持している Stage Ⅳ HER2 陽性乳癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 75 歳,女性。乳癌検診で左乳房腫瘤を指摘され,精査目的に当院を受診した。精査にて左乳癌,左腋窩・左傍胸骨・左鎖骨上窩・縦隔・左肺門リンパ節転移,多発肺転移の診断となった。針生検の結果,浸潤性乳管癌,硬性型,HER2陽性乳癌と診断された。cT2N3M1,Stage Ⅳ(HER2 陽性)の診断にて,trastuzumab,pertuzumab,docetaxel による治療を開始したが,初回 docetaxel 投与時に過敏症が出現した。そのため,2 コース目以降は trastuzumab,pertuzumab のみで治療を継続する方針とした。3 コース終了後に完全奏効を得,13 コース終了後に治療を中止した。治療中止後に定期検査を行っているが,中止後 1 年 6 か月現在,完全奏効を維持している。Stage Ⅳ HER2 陽性乳癌において,trastuzumab,pertuzumab 併用療法が著効し,中止後も完全奏効を維持できる可能性が示唆された。 -
腹腔鏡下の生検で診断した乳癌腸間膜転移の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description乳癌は全身の臓器に転移し得るが,腸間膜に転移することはまれである。症例は 72 歳,女性。63 歳時,右乳癌(浸潤性小葉癌)に対して Bt+Ax が施行されていた。5 年間の内分泌療法後,70 歳時,CEA の上昇を認めた。CT 上明らかな遠隔転移は認めなかったものの膵周囲の脂肪織濃度の上昇を認め,膵炎が疑われた。しかし背部痛,発熱などの症状がなく血液検査上も膵炎は否定的で,経過観察となった。その後も CEA はさらに上昇し,CT 上膵周囲だけでなく腸間膜の肥厚も出現した。各種精査で転移の診断が得られず,腹腔鏡下に腸間膜の生検を行い,浸潤性小葉癌の転移と診断された。血行性に後腹膜転移を来し,それが腸間膜に浸潤したものと考えられた。腹腔内組織の生検を行う場合,腹腔鏡は有用な手段と考えられる。 -
中結腸動脈周囲リンパ節転移を伴った胃癌に対して根治切除術を施行した 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 74 歳,男性。黒色便があり胃癌を指摘され当科に紹介となった。上部消化管内視鏡検査で幽門前庭部に 2 型腫瘍を認め,生検で中分化型管状腺癌であった。腹部造影 CT 検査では,胃前庭部に不整壁肥厚と前庭部から幽門部周囲に多発性リンパ節腫大を認め手術を行った。結腸間膜内の中結腸動脈根部に 2 cm 大の腫大リンパ節を認めたため摘出し,幽門側胃切除術,D2,Billroth Ⅰ法再建を施行した。病理組織像は,充実型低分化腺癌で 3 番に 2 個,8a 番に 1 個,223 番に 1個のリンパ節転移を認めた。最終診断は L,Less⊖Post⊖Ant,Type 2,6.0×5.5 cm,T3(SS),N2(5/19),M1(LYM),P0,H0,CY0,por1,Ly0,V1a,Stage Ⅳ,R0 であった。術後 S-1+oxaliplatin で化学療法を開始し,術後 18か月後に傍大動脈リンパ節再発を来し ramucirumab+nab⊖paclitaxel に変更して治療し,術後 20 か月経過し生存中である。胃癌の腸間膜リンパ節への転移はまれであるが,今後症例の集積によりリスク因子の同定,新たな治療開発が望まれる。 -
年齢調整チャールソン併存疾患指数を使用した胃癌術後合併症の予測
48巻13号(2021);View Description Hide Descriptionチャールソン併存疾患指数(CCI)は,年齢調整・併存疾患の分類に応じた重み付けをスコアリングする指数で,これまで多分野で長期予後予測因子とされているが,術後合併症予測に有用かは controversial である。目的: 胃癌術後合併症予測に CCI および年齢調整 CCI(aCCI)が有用かを検証する。対象: 当科で 2012~2020 年,胃癌に対し胃全摘/幽門側胃切除術を施行した 237 例である。方法: Clavien‒Dindo Grade 3 以上の合併症症例を complication(C)群,その他を normal(N)群とし,CCI および aCCI を含む各種臨床病理学的因子を 2 群間で比較し,C 群のリスク因子を後方視的に抽出する。なお,先行研究を参考に CCI≧3 および aCCI≧5 を各指数の high score とした。結果: C 群に 21 例,N 群に 216 例が該当した。単変量解析では開腹既往,PS,CCI,aCCI,出血量,壁深達度で有意差を認め,多変量解析は CCI を含む解析(ⅰ)と aCCIを含む解析(ⅱ)で施行の結果,両解析で開腹既往(52.4% vs 24.1%)と深達度 T4 以深(52.4% vs 20.8%)と出血量(556.0 gvs 250.6 g)が独立リスク因子に選択された他,(ⅰ)で CCI‒high(p=0.009,感度 42.9%,特異度 83.3%),(ⅱ)で aCCI‒high(p=0.020,感度 81.0%,特異度 51.9%)が独立リスク因子となった。考察: 当科の胃癌術後合併症予測に CCI/aCCI はともに有用であることが示唆された。両指数の感度/特異度から aCCI は危険性,CCI は安全性の指標となる可能性を考慮し,aCCI≧5 かつ CCI≧3 を high risk(H),aCCI≦4 かつ CCI≦2 を low risk(L),その他を middle risk(M)と分類でき,各 risk の合併症率は H:M:L=20.0:10.5:3.5(%)と段階的な差を示した。術前に両指数を算出し,周術期ケアと治療プランをより慎重に考案することで,胃癌症例の術後合併症を予防すべきと考えられた。 -
化学療法後に根治切除を施行し得た下大静脈に近接した大腸癌肝転移の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 78 歳,男性。S 状結腸癌の診断で,腹腔鏡下 S 状結腸切除術を施行した。進行度の病理分類は T3,N1,M0,Stage ⅢB(UICC 第 8 版),RAS 遺伝子野生型であった。術後 3 か月の CT 検査で肝 S8 および S7 に肝転移巣が認められた。肝 S8 腫瘍は下大静脈,右肝静脈,中肝静脈より分枝した segment Ⅷ hepatic vein(V8)に近接していた。cetuximab+modified FOLFOX6 療法を施行し,6 コース後に肝 S8 および S7 腫瘍は縮小し PR であった。肝 S8+4+1 および S7 部分切除術を行い,R0 切除を施行し得た。右肝静脈および V8 を切離し,right superficial vein および中肝静脈を温存した。下大静脈への浸潤所見は認められなかった。術後補助化学療法として modified FOLFOX6 療法を 12 コース施行した。肝部分切除後 1 年 6 か月,無再発生存中である。 -
腸重積を来した小腸発生の骨髄性肉腫の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 60 歳代,男性。20XX 年 Y 月初旬より下腹部痛が出現し,当院内科外来を受診した。腹部 CT 検査にて左股関節周囲に軟部腫瘤を認め,骨盤内から腹部の腸間膜内に多数のリンパ節腫大を認めた。右下腹部に小腸の重積を認め,悪性リンパ腫が疑われた。左股関節の軟部腫瘤に対して CT ガイド下生検を施行し,小腸の重積に対して手術を施行した。術中所見では回腸末端から約 60 cm の位置で約 30 cm の回腸が重積していた。その近傍の腸間膜にリンパ節腫大を認めた。重積を来した回腸を切除した。病理診断では骨髄性肉腫と診断された。左股関節の軟部腫瘤も同様に骨髄性肉腫と診断された。血液内科にて骨髄生検を施行し,急性骨髄性白血病 M2 と診断された。その後寛解導入療法,地固め療法を行い,Y+5 月の時点で寛解と診断された。小腸に重積を来す悪性腫瘍として急性骨髄性白血病の一亜型として腸管に発生した骨髄肉腫も念頭に置く必要がある。 -
陰部神経知覚枝機能からみた下部直腸癌低位前方切除術後での便失禁の検討
48巻13号(2021);View Description Hide Description便失禁(fecal incontinence: FI)を伴う下部直腸癌低位前方切除術(LAR)後 6 か月経過症例での陰部神経知覚枝(PSN)機能を検討した。対象は,LAR 術後 36 例[男性 23 例,女性 13 例,42.0~79.0(平均 62.0)歳]を A 群(n=12,FI 症例)と B 群(n=24,非 FI 症例)の 2 群に分類した。これら 2 群を対照例 C 群[n=32,男性 18 例,女性 14 例,40.0~76.0(平均 61.8)歳]と PSN 機能を検討した。方法は肛門管粘膜電気刺激法(anal mucosal electric sensitivity: AMES)を用い,肛門管歯状線から 1 cm 口側(a),歯状線部(b),1 cm 肛門側(c)の 3 か所で肛門管電流感覚閾値を測定し比較検討した。FI は Wexner score(WS)で算出した。すべての LAR 症例は Stage Ⅰ(n=25: T1,N0,M0; n=11: T2,N0,M0)であった。A 群は B 群より男性が女性より多く認められ(p<0.05),肛門縁から吻合部までの距離は,A 群(2.4±1.8 cm)は B 群(4.4±0.9 cm)より有意に短かった(p<0.001)。A 群の WS は 8 以上であり,WS 6~10 は 25.0%,11~15 は50.0%,16~20 は 25.0% であった。なお,術前,B,C 群は WS 0 で排便は良好であった。肛門管電流感覚閾値は(a),(b),(c)の各部位で,A 群(6.4±1.1,5.1±0.5,4.9±0.6 mA)は B 群(2.6±0.5,2.4±0.4,2.5±0.6 mA),C 群(2.3±0.4,2.1±0.4,2.3±0.5 mA)より有意に高値を示した(それぞれ p<0.001)。LAR 後 FI 症例は男性に多く,明らかに吻合部位は肛門縁に近く,手術操作による PSN の損傷によりその機能低下を来すと思われた。 -
腹腔鏡下追加切除を施行した虫垂杯細胞カルチノイドの 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 56 歳,女性。2020 年 5 月 X 日右下腹部痛を自覚し近医を受診し,急性虫垂炎の疑いにて同日当院へ紹介となった。右下腹部に圧痛・反跳痛を呈しており,腹部造影 CT にて虫垂腫脹を認めることから急性虫垂炎の診断の下,同日腹腔鏡下虫垂切除術を施行した。腹腔内所見は虫垂先端が肥厚しており,後腹膜に軽度癒着していたが腫瘤は指摘できなかった。術後病理組織学的検査にて虫垂杯細胞カルチノイド(goblet cell carcinoid: GCC)・深達度 T3 と診断されたため,X+26 日目に腹腔鏡補助下回盲部切除術+D3 郭清を追加した。術後病理結果では appendix, goblet cell adenocarcinoma, pT3,pN0,pM0,low grade,pStage ⅡA で,補助化学療法は施行せずに経過観察中である。虫垂 GCC を含む虫垂腫瘍は急性虫垂炎を発症することも多く,虫垂切除後病理診断されリンパ節郭清を含む追加切除が必要な症例もある。 -
島根県西部における口腔がん集団検診を契機に治療を行えた舌扁平上皮癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description口腔がんは外科的根治手術が基本治療となるが,切除部位や切除範囲によって術後の口腔機能は大きな影響を受ける。そのため,十分な切除安全域を付与した根治的腫瘍切除と各種骨や皮弁,人工材料を用いた切除後再建が重要である。したがって,進展進行症例であるほど術後の顎口腔組織欠損により,顎口腔機能障害と形態審美障害を来すため早期発見ならびに治療が望まれる。これまで島根大学医学部歯科口腔外科学講座では,島根県東部において県民への口腔がんの周知と早期発見を目的に,口腔外科医による口腔擦過細胞診を活用した口腔がん集団検診を行ってきた。今回,島根県西部においても行政などの協力の下,基幹病院主催にて開催することができたため,その概要と検診を契機に治療が行えた舌癌症例について報告する。 -
進行肝細胞癌にレンバチニブを使用した 12 例の検討
48巻13号(2021);View Description Hide Descriptionレンバチニブは強力な血管新生阻害作用をもつが,有害事象により減量,休薬を要する場合が多い。進行肝細胞癌についてレンバチニブ休薬による急激な再増大を来した症例を経験したため,当院での12例のレンバチニブを使用経験と合わせて報告する。12 例について肝予備能は Child‒Pugh A 5 点が 8 例,6 点が 4 例であった。減量して開始した 2 例を除いて全例でレンバチニブの休薬を要した。遠隔転移を制御して 2 例で根治切除を行った。2 週間以上の休薬を要した症例は 3 例あり,2 例で病勢制御が不良となった。レンバチニブは肝細胞癌において腫瘍縮小,制御が期待できるが注意して使用する必要がある。 -
遺伝カウンセリングが有用であった遺伝性乳癌の 2 症例
48巻13号(2021);View Description Hide Descriptionはじめに: 今日の遺伝性乳癌発見の増加に伴い,遺伝カウンセリングの重要性が指摘されている。われわれは,同時期に 2 例の 32 歳,未婚女性,BRCA 遺伝子変異陽性症例を経験したので,個々の対応につき報告する。症例 1: 主訴は右乳房腫瘤を自覚した。乳癌の家族歴 3 人あり。BRACAnalysis 検査にて BRCA2 変異陽性であった。手術は乳房切除術+腋窩郭清術を施行した。術前遺伝カウンセリングを受診し,卵子を凍結保存した。症例 2: 主訴は検診時石灰化を指摘された。乳癌家族歴 3 人あり。BRACAnalysis 検査にて BRCA1 変異陽性であった。手術は皮下乳腺全摘+センチネルリンパ節生検を施行し,病理診断は DCIS であった。遺伝カウンセリングの結果,卵子の凍結保存は希望されなかった。考察: 本症例では,組織型,病期,サブタイプ,BRCA 変異部位などが異なり,遺伝カウンセリングや多職種チームの介入により個々の病状に即して細やかな対応が行われた。 -
乳癌術後 15 年に骨転移を来し集学的治療で比較的長期生存を得た播種性骨髄癌症の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 62 歳,女性。2003 年 8 月,右乳癌に対して乳房扇状切除術を施行した。その後残存乳房に対する放射線治療に加え,全身化学療法とホルモン療法を行った。術後 10 年無再発で経過し,以後は 1 年ごとのサーベイランスとしていた。2016 年より腫瘍マーカーの上昇を認めたが,2016,2017 年と 2 年連続で PET-CT で集積を認めなかった。以後も腫瘍マーカーは上昇を続け,2018 年の PET-CT で肋骨に集積を認め,術後 15 年目の晩期骨転移再発と診断した。ホルモン療法を開始したが,腫瘍マーカーは上昇を続け,2019 年の MRI ではびまん性骨転移と診断した。その後 abemaciclib を開始し,放射線治療の効果もあり PS は 0~1 に保たれて,かつ腫瘍マーカーは減少し,病変自体も SD の状態が継続された。2020 年 6 月の胸腹部造影 CT で多発肝転移が出現した。化学療法は希望せず,BSC の方針となった。その直後より急激な溶血性貧血を認め,徐々に PS も低下し,術後 17 年 1 か月後の 2020 年 9 月に死亡した。 -
脳室‒腹腔短絡術が QOL の改善に寄与した胃癌癌性髄膜炎の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description癌性髄膜炎で頭蓋内圧亢進症状が増悪した場合,急激に増悪する疼痛や進行する神経学的症状を呈する。固形癌に伴う癌性髄膜炎の標準治療は確立されておらず,放射線治療・薬物治療・外科的治療などの集学的治療が報告されているが,奏効はまれである。一方,頭蓋内減圧は症状改善に一時的ではあるが有効である。生命予後は短いため外科的処置に及ぶことは少ないが,脳室-腹腔短絡術が QOL 改善に寄与する可能性がある。適応を慎重に考慮すれば,個々の患者の意向に合わせて実施してもよいと考えられた。 -
Ramucirumab+Paclitaxel 療法中に小腸穿孔を来した胃癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 54 歳,男性。胃癌に対して腹腔鏡下幽門側胃切除術,D2 郭清,結腸前 Roux⊖en⊖Y 再建を施行した。病理組織学的診断は pT2N3aM₀,pStage ⅢA,HER2 陰性であった。術後補助化学療法として SOX 療法を計 8 コース施行後,腹膜播種再発を来し,second-line として ramucirumab(RAM)+paclitaxel 療法を開始した。第 10 コース 12 日目に腹痛を主訴に受診した。CT にて消化管穿孔と診断し,緊急手術を施行した。胃空腸吻合部近傍の挙上空腸前面に 5 mm 大の穿孔を認めた。穿孔部を含めて吻合部を切除し,残胃と挙上空腸を再吻合した。胃壁および腸壁が非常に脆弱で,創傷治癒遅延を来す RAM を投与中であったため縫合不全が危惧されたが,問題なく術後 33 日目に退院した。third-line として nivolumabを計 24 コース施行し,腹膜播種は消失した。以降約 1 年間無再発生存中である。 -
術前化学療法無効で多臓器合併切除を施行した多形細胞型退形成性膵管癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 62 歳,男性。他疾患の経過観察目的の胸腹部 CT で膵腫瘍を指摘され,超音波内視鏡下吸引生検で膵癌と診断された。切除可能膵癌に対する術前化学療法として gemcitabine(GEM)+nab⊖paclitaxel(PTX)を開始したが,腫瘍増大および胃浸潤が出現したため,術前化学療法を中止し手術を施行した。術中所見で胃体上部と横行結腸への腫瘍浸潤を認め,膵体尾部切除,脾臓摘出,胃全摘,横行結腸部分切除,領域リンパ節郭清術を施行した。病理組織学的診断は多形細胞型退形成性膵管癌で,進行度は pT3N1aM0,Stage ⅡB,術前治療の組織学的効果判定は Grade 1a であった。S-1 による術後補助化学療法中に多発肝転移が出現し,GEM+nab⊖PTX,modified FOLFIRINOX を施行したが治療効果に乏しく,術後 9 か月目に原病死した。退形成性膵管癌は化学療法が無効であることが多く,自験例のように術前化学療法に対して治療抵抗性を示すもののなかに退形成性膵管癌が含まれている可能性に留意し治療を行う必要がある。 -
ロボット支援手術を施行した Persistent Descending Mesocolon を伴う直腸癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Descriptionpersistent descending mesocolon(PDM)は,下行結腸間膜が後方および外側の壁側腹膜と癒合しない固定異常と定義される。症例は 67 歳,男性。便潜血陽性にて下部消化管内視鏡検査を行い,上部直腸に 2 型進行癌を認めた。腹部造影CT 検査では下行結腸が内側に変位しており,PDM を伴う直腸癌と診断しロボット支援下低位前方切除術を施行した。術中,下行結腸は内側に変位し,S 状結腸は骨盤内右側に位置し盲腸および小腸間膜と癒着していた。ロボット支援下に安定した視野で,精緻確実な癒着剝離を伴う手術が可能であった。PDM の頻度は 1.2~2.4% と比較的まれな病態である。PDMを有する症例では,S 状結腸が内側へ変位することで小腸間膜や対側骨盤に癒着したり,下腸間膜動脈の放射状分枝を特徴とする血管走行異常を認めることがある。PDM の解剖学的特徴を理解し,注意深い手術操作で癒着剝離を的確に行うことで,PDM を有する症例においてもロボット支援下に安全な手術を行うことが可能となる。 -
化学療法が奏効し Conversion Surgery を行った HER2 陽性高度進行胃癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 73 歳,女性。近医で貧血を指摘され当院消化器内科を紹介された。CA19‒9 が 1,392 U/mL と上昇しており,上部消化管内視鏡では胃体下部小弯前壁に 2 型胃癌が認められた。生検では高分化管状腺癌で HER2 陽性であった。CT では胃小弯側リンパ節は数個(最大径 16 mm)と腫大し,また肝 S5 に辺縁に造影効果を伴う径 10 mm 大の低吸収結節が認められ肝転移が示唆された。cT3cN2M1,HEP,cStage ⅣBであり切除不能と診断され,capecitabine+cisplatin+trastuzumabによる化学療法が開始された。7 コース終了後 CA19‒9 は正常化し,内視鏡では原発巣は瘢痕化し,生検では癌陰性であった。CT では小弯リンパ節は著明に縮小し肝転移は消失した。conversion surgery 目的に当科を紹介され,初診 7 か月目に幽門側胃切除+D2 リンパ節郭清を施行した。病理組織学的に癌は粘膜固有層に限局しリンパ節転移はなく,ypT1aN0M0,ypStage ⅠA であった。術後 13 日目に退院,補助化学療法は施行していないが,術後 7 か月の現在,再発の徴候なく健在である。 -
術前経口栄養補助剤投与によるサポートで術前状態は改善・維持できるか ?
48巻13号(2021);View Description Hide Descriptionはじめに: 当院では消化器外科術前患者の体組成を測定し,骨格筋量(SMM)が理想重量より 90% 未満の患者を対象に経口栄養補助剤(ONS)投与と運動療法を指導し,術前状態を改善・維持して手術を行っている。今回われわれは,胃切除術予定の患者に栄養・運動療法を行い,体重や SMM,体脂肪量(FM)に影響があるか解析し比較検討した。対象および方法: 2017 年 1 月~2020 年 12 月までの胃癌に対する胃切除術症例で,初診時および術直前に体組成変化を測定し得た 64 例について retrospective に解析した。初診時・入院時に栄養士が体組成を測定(BIA 法)し,自宅運動療法はリハビリテーション科で指導した。結果: 全 64 例は ONS を内服した群(ONS 群 36 例)と ONS を内服しなかった群(非 ONS 群 28 例)の 2 群に分かれた。ONS 群の術前 ONS 内服本数中央値は 1₅ 本であった。初診時と術直前を比較した体重変化率は ONS 群+0.73%,非 ONS 群-0.91%(p<0.01)で,両群に有意差を認めた。SMM 変化率は ONS 群+1.18%,非 ONS 群+0.64%,FM 変化率は ONS 群-1.08%,非 ONS 群-3.50% で,SMM,FM では両群で有意差を認めなかった。結語: 術前に SMM の低下した胃癌患者において,術前 ONS 投与によるサポートは SMM や FM を維持しつつ,体重を増加させる可能性が示唆された。 -
幽門狭窄症状で発症した異所性膵を原発とした腺癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 37歳,男性。嘔気,上腹部痛を主訴に近医を受診,胃拡張を認め当院紹介となった。CT では胃内容貯留と幽門部に造影効果を伴う限局性の壁肥厚を認めた。上部消化管内視鏡検査では幽門部に全周性狭窄を認めたが,数回の生検でも悪性所見を認めなかった。四度の拡張術施行も狭窄症状の改善が得られず,外科紹介となった。悪性疾患も否定できなかったため,腹腔鏡下幽門側胃切除術(D2)を施行した。病理組織学的検査では,幽門部の固有筋層内に異所性膵組織が存在し,同異所性粘膜を取り囲むように浸潤・増生する腺癌を認め,異所性膵原発腺癌と診断した。粘膜下腫瘍様の病変による幽門狭窄では異所性膵癌の可能性を念頭に置く必要があると思われた。 -
所属リンパ節にサルコイド反応を呈した早期胃癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 73 歳,男性。胃小弯リンパ節腫大を指摘され精査目的に紹介となった。上部消化管内視鏡検査で胃体中部大弯に 0-Ⅱc 病変を認め病変部周囲は進展不良であった。CT 検査にてリンパ節の腫大を認めたが,PET-CT 検査では病変部以外に異常な集積を認めなかった。cT2N0M0,Stage Ⅰの診断にて開腹胃全摘術,D2+No. 10 郭清を施行した。病理組織学的診断は早期胃癌,pT1b(SM)N0M0,Stage ⅠA であった。リンパ節に癌の転移は認めなかったが,すべてのリンパ節に非乾酪性類上皮肉芽腫の増生を認めた。肺などの他の部位に肉芽腫性病変を認めず,サルコイド反応と診断した。サルコイド反応とはサルコイドーシスとしての全身状態や徴候なしに,非乾酪性類上皮肉芽腫が外来性の異物に反応し局所や悪性腫瘍の領域リンパ節に形成されること示す。早期胃癌に伴うサルコイド反応はまれである。今回われわれは,所属リンパ節にサルコイド反応を呈した早期胃癌の 1 例を経験したので文献的考察を加え報告する。 -
80 歳以上の切除不能進行・再発胃癌に対する化学療法初回減量の経験
48巻13号(2021);View Description Hide Description高齢患者を対象とした化学療法はリスクが高く,治療マネジメントに工夫が必要である。今回われわれは,80 歳以上の切除不能進行・再発胃癌患者に対する化学療法の初回減量効果について検討した。2020 年 1 月~2021 年 1 月の間に教室にて 80 歳以上の切除不能進行・再発胃癌患者に S‒1+L‒OHP 療法(SOX)を施行した 6 例を対象とした。初回減量群(U 群:4 例)のうち Grade 3 以上の有害事象を来した症例は認めなかったが,通常量群(N 群: 2 例)では 1 例に認めた。U 群では全例が 4 コース以上を継続し得たが,N 群は 2 例とも 1 コースで終了となっていた。治療効果として PR を得たのは 3 例であり,すべて U 群であった。second‒line に移行した症例は U 群/N 群=2 例/0 例であり,second‒line 治療を行った 2 例とも third‒line まで移行し得た。80 歳以上の高齢患者でも初回より減量することで有害事象の発生率を低減でき,長期の化学療法の継続が可能となることが示唆された。 -
イレウスを契機に原発性空腸癌と診断し腹腔鏡手術を施行した 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 83 歳,男性。嘔吐を主訴に救急外来を受診した。胸腹部造影 CT でトライツ靱帯から約 15 cm の空腸に内部が造影される腫瘤を指摘され,腫瘤口側腸管の拡張を認めたためイレウスの診断で入院となった。上部消化管内視鏡検査では,CT で腫瘤を指摘された部位に全周性の 3 型腫瘍を認めた。腫瘍の生検で tub1 と診断され,空腸癌による閉塞性イレウスと診断した。胸腹部 CT では明らかな遠隔転移は認めず,腹腔鏡補助下空腸部分切除術を施行した。術後は経過観察していたが,術後 6 か月の胸腹部 CT で多発の肺転移および肝転移を認めた。また,右前胸部に腫瘤性病変を認め,生検で皮膚転移と診断した。術後 10 か月の現在,肝転移,肺転移,皮膚転移病変の増悪はなく,外来で経過観察中である。 -
播種性血管内凝固症候群を合併した進行直腸癌に対して緊急化学療法が奏効した 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 70 歳台,女性。持続する排便時出血を主訴に近医を受診し,下部消化管内視鏡検査で直腸 Rb に 3 型腫瘍を認め,直腸癌の疑いとして当科へ紹介された。初診時に腎機能障害を認めており,同日精査目的に入院となった。胸腹部 CT・骨盤 MRI・骨シンチグラフィでは多発リンパ節転移・骨転移・腹膜播種を認めたが,経過中 FDP,D‒dimer 値の上昇と血小板低下を認め,播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation: DIC)を併発したと考えられた。DICの原因は播種性骨髄癌腫症が疑われ,緊急で mFOLFOX6 による化学療法を導入した。ヘパリン持続静注も併施したところ,速やかに DIC が改善した。DIC 発症から約 5 か月経過した現在も外来で化学療法を継続している。固形癌に伴う DICは非常に予後不良として知られているが,迅速な化学療法導入により救命できたと考えられた。 -
直腸膀胱瘻・肝転移を伴う直腸癌に対し術前化学療法後に膀胱温存・R0 切除し得た 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 75 歳,男性。膀胱浸潤,肝転移を伴う直腸 S 状部癌に対し,人工肛門造設後,術前化学療法 cetuximab(Cmab)+mFOLFOX6 を 8 コース施行した。総合効果は PR と判定し,5 か月後に腹腔鏡下肝部分切除,開腹低位前方切除術,回腸人工肛門造設を行い,R0 切除,膀胱温存をし得た。術後化学療法も行い,術後 10 か月無再発生存を確認している。膀胱浸潤を伴う大腸癌では膀胱合併切除が必要になる可能性があり,ダブルストーマが必要となれば QOL 低下が懸念される。遠隔転移を伴う局所進行直腸癌に対して術前化学療法を行うことで QOL 低下を回避し,R0 切除を施行できた症例を経験した。 -
内視鏡的粘膜切除術後早期に遠隔転移を認めた S 状結腸 SM 癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Descriptionはじめに: 内視鏡的粘膜切除術(EMR)後,早期に遠隔転移を来した S 状結腸粘膜下層(SM)浸潤癌の 1 例を経験したので報告する。症例: 患者は 54 歳,男性。検診にて便潜血陽性にて下部消化管内視鏡検査を施行し,S 状結腸に 18 mm のⅠsp 病変を認めた。EMR で一括切除し,病理組織学的検査にて adenocarcinoma(tub>por>sig),pT1b,Ly1c,V1a,pHM0,pVM1 であった。外科的追加切除の適応と判断し,腹腔鏡下 S 状結腸切除術(D2 郭清)を施行した。術後の病理組織学的検査で pT1b,pN2b(10/11),PN1b,pPM0,pDM0,pStage Ⅲb と診断した。EMR 施行後 3 か月の CT で遠隔リンパ節転移を認めた。first⊖line mFOLFOX6+panitumumab 18 コース,second⊖line FOLFIRI+bevacizumab 4 コースを施行したが,EMR から 21 か月後に多発肝転移に伴う肝不全により原病死した。結語: 術後早期に遠隔転移を来した大腸 SM 癌の 1 例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。 -
整復不能な腸重積を伴う S 状結腸癌の待機的腹腔鏡手術例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 85 歳,男性。右大転子部骨折で当院に入院した。画像上直腸内に重積腸管を認めていたが,消化器症状は軽微のため放置されていた。粘液便が続くため精査したところ,S 状結腸癌による重積と診断された。注腸造影時の整復は不能であったが待機的に腹腔鏡手術が可能で,術後経過は良好であった。成人腸重積のなかには症状の乏しい緊急性を要さない症例があり,このような症例は待機的手術が可能である。また,従来腸重積に対しては開腹手術を基本とする施設が多いが,最近の鏡視下手術の技術向上により腹腔鏡手術も選択肢の一つとして検討できると考えられた。 -
肝浸潤を伴う胆囊腺扁平上皮癌の 1 切除例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 70 歳,女性。左膝の手術施行後に不明熱が続くために腹部単純 CT 検査を施行し,胆囊炎・肝膿瘍の診断で抗菌剤を開始したが不明熱は軽快しなかった。腹部造影 CT 検査および MRI 検査を施行したところ,S4a/S5 の範囲内での肝浸潤・肝転移を伴う胆囊癌が疑われた。病変は比較的限局しており不明熱による体力喪失も危惧されたため,胆囊摘出術,肝 S4a+S5 切除術,肝外胆管切除術を施行した。病理組織診断で胆囊壁のほぼ全域に扁平上皮への分化を伴う中~低分化型腺癌の像を呈し,肝浸潤および肝転移も認めており,腺扁平上皮癌[pT3a(SI)(H-inf),int,INF-β,ly1,v3,pn1,pN1,pM1,pStage ⅣB]と診断した。術後 1 か月で残肝再発を来し,7 か月で死亡した。胆囊腺扁平上皮癌は予後不良であるが,局所浸潤傾向が強く腫瘍熱を伴うため,治癒切除の可能性があり症状改善が期待できれば積極的切除を行うべきであると思われた。 -
側方浸潤直腸癌に対する術前治療後ロボット支援下手術の治療
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 40 歳,男性。血便を主訴に近医を受診し,精査の結果,直腸癌と診断されたため当科に紹介となった。術前画像診断では精囊レベルの直腸癌が認められ,左側方領域への浸潤が疑われた。また,左内腸骨血管領域リンパ節転移,左閉鎖領域リンパ節転移が疑われた。術前化学療法を施行後にロボット支援下低位前方切除+両側側方リンパ節郭清+予防的回腸ストーマ造設術を行った。手術時間 495 分,出血量は 50g であった。病理組織診断では pT3,N3(#263),M0,pStage Ⅲc,PM0,DM0,RM0,R0,Cur A と診断された。われわれは,直腸癌に対するロボット支援下手術の最大のメリットは側方郭清にあり,確実な側方郭清を行うことで内腸骨血管周囲の血管や神経の走行とそれに伴う骨盤内臓器の解剖の理解が深まったことにあると考えている。比較的難易度が高いとされる側方浸潤直腸癌に対してロボット支援下に安全に根治切除した症例を経験したので報告する。 -
非浸潤性乳腺アポクリン癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Descriptionまれな非浸潤性乳腺アポクリン癌について文献的考察を加えて報告する。症例は 60 歳台,女性。1 年前から時々左乳頭分泌液を自覚していたが放置していた。1 か月前から左乳房の違和感を伴ってきたため近医を受診,精査目的で当科に紹介となった。左乳房 AB 境界に 9 時方向に延びる比較的柔らかい境界不明瞭な腫瘤を触知した。マンモグラフィで FAD を認めカテゴリー 3,乳房超音波検査では乳管の拡張と地図状低エコー域を認めた。造影 MRI で区域性に造影効果を認めた。針生検で非浸潤性乳管癌(apocrine carcinoma in situ)の診断が付いた。胸筋温存左乳房切除+センチネルリンパ節生検を施行した。病理組織学的検査の結果で非浸潤性乳管癌(apocrine carcinoma in situ)の確定診断が付き,ER(-),PgR(-)であった。 -
五次治療での Trastuzumab 単剤療法が奏効した HER2 陽性切除不能再発胃癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 76 歳,男性。胃癌に対して 2017 年に幽門側胃切除術を施行し,pT4a,N3a,M1,H0,P0,CY1,Stage Ⅳ,HER2 3+であった。R1 切除となり S‒1+oxaliplatin(SOX)+trastuzumab を施行した。効果を認めていたものの,S‒1 による皮膚障害のため継続困難となった。その後は ramucirumab+paclitaxel 療法,nivolumab 療法および irinotecan 単剤療法を施行したが,肺転移と左副腎転移が出現した。五次治療として trastuzumab 単剤療法を施行したところ肺転移は不明瞭化し,左副腎転移は縮小した。高値を示していた CEA および CA19‒9 は劇的に減少し,Response Evaluation Criteria in Solid Tumors で partial response と判断した。残念ながら 10 コース施行したところで,病状の進行を認めた。 -
術前 Docetaxel+Oxaliplatin+S‒1 療法が著効した進行胃癌の 2 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例 1 は 67 歳,男性。胃噴門部に 1 型腫瘍と胃小弯側に 50 mm 大のリンパ節腫大を認め,cT4aN(+)M0,cStage Ⅲと診断した。術前 docetaxel+oxaliplatin+S-1(DOS)療法を 3 コース施行後,腹腔鏡下胃全摘術を施行した。最終診断は ypT3N1(1/38)M0,ypStage ⅡB,R0,組織学的効果判定は Grade 2b であった。症例 2 は 64 歳,男性。食道胃接合部に 3 型腫瘍と胃小弯側に 15 mm 大のリンパ節腫大を認め,cT3N(+)M0,cStage Ⅲと診断した。術前 DOS 療法を 3 コース施行後,胸腔鏡下食道亜全摘術を施行した。最終診断は ypT0N0(0/30)M0,ypStage 0,R0,組織学的効果判定は Grade3 であった。術前化学療法のレジメンとして DOS 療法は有望な候補であると考えられた。 -
乳癌術後腹直筋皮弁再建後の胃癌に対し腹腔鏡下胃全摘術を施行した 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 60 歳,女性。胃癌に対し腹腔鏡下胃全摘術を施行した。45 歳時に左乳癌に対し皮膚温存乳房全切除術,センチネルリンパ節生検,右腹直筋皮弁再建を施行した。腹直筋皮弁再建後は腹直筋の欠損に伴い腹壁ヘルニアが生じやすく,腹部手術の際は開腹手術と比較し腹壁損傷の少ない腹腔鏡手術が有用である。同再建では臍をくり抜き頭側皮膚の小孔と縫合するが,既報含め 3 例で臍にポートを挿入し有害事象はなかった。再建直後は腹部皮下組織が治癒過程で線維化するが,上記 3 例は再建後 2 年以上経過後の腹部手術であり,通常気腹圧で十分な working space が確保された。腹直筋皮弁再建症例における腹腔鏡手術では,心窩部に存在する皮弁血管茎を損傷しないよう注意を要する。 -
胃切除術後に特発性細菌性腹膜炎と診断した原発性胆汁性胆管炎合併胃癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 81 歳,女性。2016 年より原発性胆汁性胆管炎に対して当院に通院中されていた。フォローアップの上部消化管内視鏡検査にて胃体部に胃癌を認め,腹腔鏡下幽門側胃切除,D1+郭清を施行した。病理組織学的検査では pT1a,Ly0,V0,pN0(0/14),M0,Stage ⅠA と診断した。術後経過は良好で術後 11 日目に退院したが,術後 14 日目に腹痛と腹部膨満を主訴に再入院した。精査の結果,術前になかった腹水貯留を認めた。腹水細菌培養検査にて腹水性状は混濁のない黄色調であり,腹水中の好中球数 9.973/μL と増加を認めたことから特発性細菌性腹膜炎(SBP)と考えた。一方で腹水細菌培養検査では発育を認めなかったことから,SBP の一亜型である culture negative neutrocytic ascites(CNNA)と診断した。抗菌剤および利尿薬を開始したところ腹水貯留と腹痛の改善を認め,術後 57 日目に退院した。胃癌術後に腹水を認め SBPと診断した肝硬変症例はまれであり,若干の文献的考察を加えて報告する。 -
胃内分泌癌の 1 切除例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 80 歳,男性。食思不振,ふらつき,黒色便で入院となった。上部消化管内視鏡検査を施行し,胃噴門部に潰瘍性病変を認め,生検結果は tub2 であった。腫瘍マーカー(CEA,CA19‒9)は正常で,術前の造影 CT 検査ではリンパ節転移を含め明らかな遠隔転移を認めなかった。胃癌の診断で,開腹噴門側胃切除(D1 郭清)を施行した。術後経過は良好で第10 日目に退院となった。切除した手術標本の病理結果は synaptophysin 陽性で 95% が小細胞型であり,小細胞型胃内分泌癌と診断された。胃内分泌癌は早期から高度な脈管侵襲および遠隔転移を来すため進行癌で発見されることが多いとされる。病態,治療に関してまだ確立されていない部分も多く,症例の蓄積が期待される。今回,胃内分泌癌の 1 切除例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。 -
胃原発 MANEC に対して外科的切除を施行した 2 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例 1 は 78 歳,女性。鼠径ヘルニアの術前 CT で胃に腫瘍を認めた。穹窿部後壁の進行胃癌と診断され,胃全摘術と脾臓摘出術を施行した。術後の病理組織学的診断で胃 mixed adenoneuroendocrine carcinoma(MANEC),T1b2,N1,M0,Stage ⅠB と診断された。術後補助化学療法は施行せずに 3 年間無再発生存中である。症例 2 は 78 歳,男性。急性膵炎で入院した際の CT で胃前庭部小弯の壁肥厚を認めた。進行胃癌と診断され,幽門側胃切除術,D2 郭清を施行した。術後の病理組織学的診断で胃 MANEC,T1b2,N1,M0,Stage ⅠB と診断された。術後補助化学療法として S-1 の内服を開始したが,劵怠感が強く本人の希望により 1 コースで終了となった。術後 6 か月の CT で多発肝転移を認め,本人の希望で best supportive care へ移行した。術後 1 年で死亡した。胃 MANEC の貴重な 2 例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。 -
肥満患者における腹腔鏡下小腸腫瘍摘出術の工夫
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 67 歳,女性。下腹部痛と貧血を主訴に受診した。小腸内視鏡検査にて小腸腫瘍の診断に至り,切除の方針となった。単孔式腹腔鏡下小腸部分切除術を検討していたが,BMI 36.3,腹壁 6 cm の肥満患者であったため臍創部が大きくなり,術後の腹壁瘢痕ヘルニアのリスクが高いと判断した。15 mm ポートを含むマルチポートで手術を行い,15 mm ポートから検体を摘出することとした。体腔内で小腸部分切除,機能的端々吻合を行った。また,閉創アシスト機能付きトロカーを用いてポート創部を確実に全層閉鎖した。病理組織学的診断で神経内分泌腫瘍の診断であった。術後は再発なく,腹壁瘢痕ヘルニアを生じることなく経過観察中である。肥満症例の腹腔鏡下小腸腫瘍摘出術において,検体摘出創部を最小化するために 15 mm ポートを用いることは選択肢の一つとしてあげられると思われた。 -
von Recklinghausen 病に合併した多発小腸 GIST の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 55 歳,女性。以前より von Recklinghausen 病を指摘されていた。近医より腹腔内に多発する腫瘤陰影と高度の貧血を認め当院紹介となった。造影 CT 検査で von Recklinghausen 病に合併した多発間葉系腫瘍による腫瘍内出血と診断し,開腹下に腫瘍切除を行った。大網内の腫瘍,小腸を 2 か所,さらに肝弯曲部の大腸を腫瘤とともに切除した。骨盤内の腫瘍は子宮・右尿管と合併切除した。術後は合併症なく経過し第 15 病日に退院した。病理組織学的には CD34,c‒kit,DOG1に陽性,Ki‒67 陽性細胞 18% で,小腸原発の高リスク GIST と診断された。 -
四次治療の Regorafenib が奏効し長期生存を得た切除不能再発大腸癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description化学療法により大腸癌術後再発から 5 年 6 か月間生存中で,特に四次治療の regorafenib で 2 年 6 か月間の stable disease(SD)を得ている症例を経験したので報告する。症例は 70 歳代,男性。下行結腸癌に対する結腸左半切除術から 4年 4 か月後の腹部 CT で大動脈周囲リンパ節転移を認めた。一次治療として SOX+bevacizumab を施行したところ partial response(PR)が得られ,以降長期間 PR が維持された。progressive disease(PD)後,二次治療として IRIS を施行したが効果は得られなかった。三次治療として panitumumab を開始し,一時的に PR を認めたが再び PD となったため,四次治療として regorafenib を導入した。regorafenib 投与後,大動脈周囲リンパ節の縮小,CEA の下降が認められ long SD を維持できている。本症例は切除不能大腸癌に対するサルベージラインとして,regorafenib の有用性が示された 1 例といえる。 -
術前補助化学放射線療法後 pCR と診断されたが癌性髄膜症から予後不良となった直腸癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 48 歳,男性。腹痛,便秘,粘血便を主訴に当院を受診した。遠隔転移は認めないが高度な隣接臓器浸潤を伴う直腸癌(組織型: 低分化型腺癌+印環細胞癌)と診断された。術前補助化学放射線療法(45 Gy/30 Fr,S-1 100 mg/日,2 週投与 1 週休薬)後,腹会陰式直腸切断術を施行した。切除標本には癌細胞を認めず pathologic complete response(pCR)と診断された。この時点で血清 CEA 値は 35.1 ng/mL から 5.9 ng/mL と低下した。CapeOX による術後補助化学療法中に腹膜転移が疑われたため FOLFIRI+Pmab にレジメン変更したが,血清 CEA 値が 766 ng/mL まで持続的に上昇した。その後ふらつきや頭痛の症状が出現したが,頭部 CT,MRI 検査で異常所見は認められなかった。そこで腰椎穿刺を施行し,髄液細胞診にて class Ⅴ,髄膜転移の診断となった。その後病状は急速に悪化し,頭痛発症から 2.5 か月で死亡した。CEA は2992.6 ng/mL まで上昇していた。本症例は pCR と診断後,早期より血清 CEA 値の持続的上昇を認め,その後癌性髄膜症の症状発現から急速に病状が増悪した。大腸癌,特に低分化型の術後に画像上異常所見がなくとも神経症状の出現を認めた場合,まれではあるが癌性髄膜症の可能性もあり,その診断には髄液細胞診が有用である。 -
血液透析中の mFOLFOX6 療法にて高アンモニア血症による意識障害を来した 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は慢性腎不全で血液透析中の69 歳,男性。上行結腸癌術後の多発肝転移に対し,mFOLFOX6 療法を 50% 量で施行した。治療開始 6 日目に重度の意識障害[Japan Coma Scale(JCS)Ⅲ-300]を来した。器質的異常を認めず,血中アンモニア異常高値(435μg/dL)を認めたことから,高アンモニア血症による意識障害と診断した。連日の血液透析に加え,分岐鎖アミノ酸製剤,lactulose,rifaximin の投与を継続し,治療 9 日目に意識障害の改善を認めた。維持透析患者に対し化学療法を施行する場合は高アンモニア血症を来す可能性を考え,慎重に投与すべきである。 -
二期的に大腸全摘出術を行った Colitic Cancer の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 70 歳,女性。27 年前から全大腸炎型潰瘍性大腸炎(UC)の診断で大学病院に 18 年間通院していたが,症状が安定し通院を自己中断した。4 年後に下血が出現し UC 再燃の診断で,近医で 5-ASA の内服を再開した。その 2 年後,下部内視鏡検査で下行結腸に腫瘍を認め生検で腺癌の診断であった。大腸全摘出術が望ましいと考えたが患者が温存手術を強く希望したこと,直腸と右半結腸に異型細胞を認めなかったことから腹腔鏡下左半結腸切除術(D2 郭清,SST 吻合)とした。病理組織学的診断は pT3, pN2, pM0,pStage Ⅲc で,術後補助化学療法(mFOLFOX6)を 6 か月間施行した。また,6 か月ごとの下部内視鏡検査で厳重フォローとした。しかし初回手術後 3 年 9 か月より UC が再燃し,下部内視鏡検査で横行結腸に腺癌を認めた。二度目の発癌であり大腸全摘出術+回腸囊肛門管吻合術を選択した。術後 6 か月が経過し,止痢剤を要するが高度な排便機能障害なく経過している。 -
盲腸癌に対し腹腔鏡下回盲部切除術後に臍部ポートサイトおよび吻合部近傍小腸に再発した 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 62 歳,女性。盲腸癌の診断にて腹腔鏡下回盲部切除術+D3 リンパ節郭清術を施行した。病理組織学的診断はT3N0M0,Stage Ⅱa であった。術後 6 か月の CT で吻合部付近の小腸に小結節があり,慎重に経過観察を行った。術後 1 年6 か月の CT で小腸結節増大,臍部にも結節が出現し PET-CT を施行した。FDG の集積を認め再発と診断した。化学療法(CAPOX+Bmab)を施行し,PR にて切除可能と判断し臍部腫瘤切除術+吻合部切除術を施行した。術後化学療法は施行せず,術後 10 か月無再発生存中である。盲腸癌に対し腹腔鏡下回盲部切除術後に,臍部ポートサイト再発と吻合部近傍小腸漿膜面に転移を来した症例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する。 -
メッシュ感染を契機に発見された横行結腸癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 69 歳,女性。64 歳時に幽門側胃切除術を,65 歳時に腹壁瘢痕ヘルニアに対してメッシュを用いた修復術を施行された。腹痛および発熱を主訴に前医を受診し,腹部 CT 検査でメッシュ感染と診断され当院を紹介受診した。入院同日にメッシュ除去術を施行した。術後に貧血が持続し,精査の結果,横行結腸癌,cT4aN0M0,cStage Ⅱb と診断した。手術加療の方針とし結腸右半切除術,D2 郭清を施行し,病理診断は pT4aN0M0,pStage Ⅱb でありメッシュ感染は癌の漿膜外浸潤が原因と考えられた。術後は創感染を認めたが他に合併症はなく POD 27 に退院し,capecitabine 単剤による補助化学療法を施行した。術後 9 か月時点で無再発で経過している。 -
直腸癌術後異時性孤立性脾転移の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 50 歳,女性。20XX 年 6 月に直腸癌同時性卵巣腹膜転移に対して開腹下直腸切除 D3 郭清,両側付属器および子宮全摘を行った。病理組織学的診断は[2 型,3.9×4.5 cm,pT4a(SE),N1a,M1c2(卵巣,腹膜),H0,P1,PUL0,stage Ⅳc,tub2>por,Cur B]であった。外来通院 2 年 11 か月後 5 月の腹部造影 CT 検査で脾臓に腫瘍を認めた。他臓器に明らかな遠隔転移は認めず,直腸癌脾転移を疑い同年 7 月腹腔鏡下脾摘出術を施行した。摘出標本では腫瘍の病理組織学的所見で直腸癌の転移として矛盾しなかった。現在まで再発の兆候なく観察中である。直腸癌の異時性孤立性脾転移腫瘍の報告は少ないが,手術療法により予後延長が期待される報告もあるので,若干の文献的考察を加えて報告する。 -
粘膜内癌との診断に至ったリンパ節転移を伴う直腸癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 62 歳,男性。便潜血検査陽性の精査のために行った下部消化管内視鏡検査にて発見された多発大腸ポリープの経過観察中に直腸 Rs に 0-Ⅱa+Ⅱc 病変を認めた。CT ではリンパ節腫大や他臓器への遠隔転移は認めなかった。臨床病期stage Ⅰと診断して,腹腔鏡下直腸高位前方切除術を行った。病理組織学的検索では明らかな粘膜下層浸潤所見を認めない高~中分化型管状腺癌であったが,近傍リンパ節に 1 個転移を認めた。そのため術後に補助化学療法を 6 か月行い,5 年経過しているが再発などは認めなかった。今回われわれは,粘膜内癌との判断に至りながら壁在リンパ節転移を認めたものの,術後 5 年の無再発生存を得られている症例を経験したため報告する。 -
レンバチニブを含む集学的治療を行った混合型肝癌の 1 切除例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 49 歳,男性。肝腫瘤の精査目的に当科を受診した。血液検査で CA19-9,CA125 は上昇し,AFP,PIVKA-Ⅱは正常範囲内であった。造影 CT で肝左葉の大部分に早期リング状濃染を認める大小不同の結節を多数認め,門脈左枝に腫瘍栓を認めた。腫瘍部の生検で adenocarcinoma であった。門脈腫瘍栓・リンパ節転移を伴う肝内胆管癌(r/o 混合型肝癌)に対して gemcitabine+cisplatin+S-1 療法を 5 コース行ったところ,CA19-9,PIVKA-Ⅱの著明な上昇と門脈腫瘍栓の増大を認めた。肝細胞癌成分も混在すると判断し,化学療法をレンバチニブに変更した。2 か月後,CA19-9,PIVKA-Ⅱの減少と門脈腫瘍栓の縮小を認めた。病勢コントロール目的に拡大肝左葉切除術を行った。病理組織学的検査で肝内胆管癌に一部肝細胞癌成分を認め,混合型肝癌と診断された。また,腫瘍栓は硝子化・変性・壊死を来していた。術後は残存病変に対してレンバチニブの投与を継続しているが,6 か月現在,著明な腫瘍の増大は認めず経過している。 -
ICG 蛍光法を使用して腹腔鏡下に切除した肝細胞癌腹膜播種の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 71 歳,男性。67 歳時に肝細胞癌(HCC)に対し経皮ラジオ波焼灼療法(RFA)を受け,68 歳時に RFA 部の局所再発に対し腹腔鏡下 S4 部分切除を施行した。71 歳時に CT にて肝円索内に 2 cm 大の播種疑い病変があり,術前にindocyanine green(ICG)0.5 mg/kg を投与した。腹腔鏡観察にて肝円索内の白色の結節は ICG 蛍光法にて集積を認め HCCの腹膜播種と判断し,腹腔鏡下に播種結節切除を施行した。その他腹腔内に播種結節は認めなかった。結節は組織学的にHCC の腹膜播種と診断された。術後第 7 病日に退院した。術後播種再発は認めなかったが,播種切除後から 25 か月後に肝内多発再発により死亡した。ICG 蛍光法は HCC の腫瘍同定において蛍光の組織透過性(5~10 mm まで)に課題があるが,腹膜播種では病変が腹膜表層に形成されるため,その検出に有用である可能性がある。HCC 腹膜播種症例において ICG 蛍光法を使用することで結節の同定,過不足のない切除により治療成績向上に寄与する可能性がある。 -
腎細胞癌肝転移に対する 4 切除例
48巻13号(2021);View Description Hide Description今回われわれは,腎細胞癌肝転移の 4 切除例を経験したので報告する。症例 1: 72 歳,女性。左腎細胞癌切除 7 年後に膵転移を切除し,その 2 年後に多発肝転移に対し肝後区域切除を行った。その後,多臓器転移が出現し原病死した。症例 2:72 歳,男性。左腎細胞癌切除の 16 年後に肝転移と右腎細胞癌が出現し,肝後区域切除と右腎部分切除を行い,その 9 か月後に肝転移再発し肝部分切除を行った。症例 3: 55 歳,男性。右房内腫瘍栓を伴う右腎細胞癌術後,多発肺肝転移が出現したが,化学療法後に肝中央 2 区域切除を行った。症例 4: 60 歳,男性。左腎細胞癌切除の 10 年後に多発膵肺転移が出現し,化学療法で大部分は縮小・消失したが,膵体尾部と肝右葉に増大傾向の転移が出現し,1 年 4 か月後に肝 S6 亜区域切除と膵体尾部切除を行った。腎細胞癌の肝転移に対し,積極的な化学療法や切除などの集学的治療により予後改善が期待される。 -
狭窄性左側結腸癌に対するステント非依存治療戦略の妥当性
48巻13号(2021);View Description Hide Description近年,閉塞性左側結腸癌に対する bridge to surgery としてのステント留置およびストーマ造設が注目されている。当院では治癒切除が期待される症例に対してはステント非依存の方針としており,特に cT4 の R1 切除が懸念される症例に対しては,ストーマ造設と術前治療後に原発切除を行っている。本研究ではその有用性と問題点を検討した。2015 年 11 月~2020 年 9 月に手術を施行したスコープ通過不能左側結腸癌 65 例を対象とした。占拠部位は下行 S 状結腸 49 例,直腸 S 状部16 例,cStage Ⅱ~Ⅲ(Ⅱ~Ⅲ群)42 例,Stage Ⅳ(Ⅳ群)23 例,術式は Hartmann 手術 12 例,切除吻合 53 例で,9 例にストーマ造設後術前治療を行った。Ⅱ~Ⅲ群およびⅣ群ごとに短期および長期成績を検討した。術前治療非施行例の手術待機期間中央値 6/8 日,Grade Ⅲ以上の術後合併症 9.5/17.4%,縫合不全 4.8/17.4%,術後死亡は両群ともになし,永久ストーマ造設状態は 11 例(26.2%)/5 例(21.7%)であったが,Ⅱ~Ⅲ群 11 例中 4 例は骨盤状態不良であった。Ⅱ~Ⅲ群において,3 年全生存割合 77.0%,3 年無再発生存割合 72.7%,Ⅳ群において 3 年全生存割合 36.0% であった。直腸 S 状部癌のcT3‒4N+の術前治療非施行 12 例中 2 例(16.7%)に局所再発が認められた。狭窄性左側結腸癌に対するステント非依存治療戦略は低い合併症発生率で安全に施行でき,永久ストーマ造設率も妥当と考えられた。 -
穿孔直腸癌に対し二期的 Transanal Total Mesenteric Excision で根治切除をし得た 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 57 歳,男性。尾骨筋浸潤を伴う高度進行直腸癌に対し化学療法後に根治切除を行う方針とした。環状側切除断端確保を目的に S-1+L-OHP+bevacizumab による化学療法を開始した。2 コース目終了後に S 状結腸穿孔を生じた。緊急開腹手術を行い,腫瘍口側約 5 cm の穿孔部を含めた腸管切除と S 状結腸ストーマ造設を施行した。CT で腫瘍の縮小が認められたため,S-1+L-OHP を 2 コース追加した後,根治切除を目的として transanal total mesenteric excision(taTME)を行った。病理組織学的に R0 切除と判断された。局所進行直腸癌に対し腹腔側と会陰側から協調した TME を行うことで,腹膜炎の影響を最小限にした根治切除をし得たので報告する。 -
両側卵巣転移を伴う高度進行胃癌に対しコンバージョン手術を行った 1 例の文献的考察
48巻13号(2021);View Description Hide Description化学療法可能な Stage Ⅳ胃癌患者に対する標準治療は全身化学療法である。しかし近年,化学療法奏効後に移行胃切除手術,すなわちコンバージョン手術を施行した群は非切除群と比べて予後良好と報告されている。今回,両側卵巣転移を伴う Stage Ⅳ胃癌患者に化学療法を行い,化学療法奏効後にコンバージョン手術を施行した症例を経験した。症例は 69 歳,女性。腹部膨隆の精査で高度進行胃癌,両側卵巣転移,腹膜播種を指摘された。first‒lineにSOX療法,second‒lineにPTX+RAM 療法を施行し,原発巣・卵巣転移の著しい縮小が認められ,腹水・腹膜播種の消失が得られた。審査腹腔鏡で腹膜播種が病理組織学的に瘢痕化していることを確認した後に,両側卵巣切除を伴うコンバージョン胃切除手術を施行した。治療開始後 2 年 6 か月現在生存中で,外来化学療法を継続中である。 -
切除可能膵癌に対する術前化学放射線療法の意義
48巻13号(2021);View Description Hide Description膵癌に対する化学放射線療法(CRT)の効果と切除可能膵癌に対する術前化学放射線療法(NACRT)の意義について検討した。対象は過去 12 年間に当科で経験した局所進行膵癌に対して CRT を施行した 36 例である。(1)CRT の抗腫瘍効果では,腫瘍径,腫瘍マーカー,PET 検査の FDG は各々 72%,81%,96% の症例で低下した。また,CRT 後切除した 16例中 10 例に Grade 1b+2 の効果を認めた(奏効率 63%)。これら奏効例は 40 Gy 以上の照射と,この間に S‒1 1,500 mg 以上の内服できた症例であった。また,NACRT+S 群(16 例)は同時期の cStage ⅡA までの SF 群(20 例)と比較して生存率は変わらず,50% 生存がより長い結果であり,局所再発も少なかった。以上より,切除可能膵癌における S‒1 併用 NACRTは今後有望な術前治療になる可能性が考えられた。 -
高齢者結腸癌の予後因子に関する検討
48巻13号(2021);View Description Hide Description高齢者は全身状態不良の傾向にあり,併存疾患を多く有している。これらのことが術後再発や死亡率の上昇と関連している可能性が報告されている。今回,高齢者に特有である併存疾患・免疫能も評価するために,Charlson comorbidity index(CCI)・performance status(PS)・免疫栄養学的因子も共変量に含めて再発,予後を解析した。2000 年 1 月~2014 年12 月までに当科で施行した 75 歳以上の結腸癌根治切除症例 175 例を後方視的に検討した。患者背景は男性 101 人,女性 74人。PS は 0,1,2,3 がそれぞれ 133 人,29 人,11 人,2 人であった。CCI は中央値 4.0(範囲: 1~11)であった。overall survival(OS)に関しての多変量解析では,PS・BMI・N 因子・静脈侵襲・stage・neutrophil‒to‒lymphocyte rate(NLR)・lymphocyte‒to‒monocyte rate(LMR)・modified Glasgow prognostic scale(mGPS)に有意差を認めた。relapse‒free sur_x0002_vival(RFS)に関しての多変量解析においては性別・T 因子・N 因子・stage・採取リンパ節・NLR・LMR・mGPS に有意差を認めた。高齢者結腸癌の治療において OS を伸ばすためには,癌関連因子以外に術前の全身状態・免疫栄養状態が関与していることが示唆された。 -
大学病院における進行再発大腸癌患者に対する“共有テンプレート”の部門横断的導入の試み
48巻13号(2021);View Description Hide Description癌患者の終末期においては患者の意思を十分に確認,議論した上で治療方針を決定することが非常に重要であるが,日常臨床でそれが十分でないケースが散見される。以上の背景から当大学病院では mFOLFOX6/FOLFIRI 療法がともに不応となった,あるいは予後 1 年程度と見込まれた進行再発大腸癌患者を対象とし,患者の意思を確認し社会/医療資源による介入をスムーズに行い看取りまでの患者・家族の支援を目的とした患者情報共有ツール(以下,共有テンプレート)を 2019年 11 月から導入した。本研究では,共有テンプレートが終末期大腸癌患者に及ぼす影響について共有テンプレートの導入前後の患者を比較することで,その有用性について検討を行った。do not attempt resuscitation(DNAR)から死亡までの日数は,中央値で導入前 6 日,導入後 43 日であった(p=0.025)。共有テンプレートの導入により患者が意思決定できる状況下で希望や意向を聴取できる機会が増え,残された時間を患者が望んだ看取りの場所でより長く過ごすことができるようになる可能性が示唆された。 -
両側頸部郭清術と術後放射線化学療法後に生じた下唇浮腫に対し 形成術により口唇機能の改善を図った 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description今回われわれは,一側の内頸静脈を温存した両側全頸部郭清術と術後放射線化学療法後に生じた著しい下唇浮腫に対して形成術を行い,口唇機能の改善が得られた症例を経験したので概要を報告する。症例は 81 歳,女性。2013 年 4 月に上顎歯肉扁平上皮癌(cT1N0M0,Stage Ⅰ)と診断し,上顎部分切除術を施行した。同年 7 月に両側頸部リンパ節に後発転移(rN3b)を認め,両側全頸部郭清術(左側根治的,右側内頸静脈を温存),節外浸潤を伴うリンパ節転移に対して術後放射線化学療法(CDDP 75 mg/m2×3 コース,全頸部外照射 total 66 Gy)を施行した。治療後は再発や転移なく経過したが,下唇に強い浮腫を生じ口唇機能障害を認めた。今回,局所麻酔下に下唇形成術を行った。下唇粘膜面におよそ 160×14 mm の切除範囲を設定し,鋼刃メスにて切除を行った。術後 1 週間で口唇閉鎖が可能となった。現在術後 7 か月が経過するが,口唇機能が改善し患者の高い満足が得られた。 -
HER2 陽性再発乳癌と GIST 肝転移に対し抗 HER2 療法とイマチニブを併用した 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 70 歳,女性。胃 GIST 術後 3 か月目に左乳癌,腋窩リンパ節転移,GIST 肝転移を認め,左乳癌に対し手術を施行した。病理組織学的結果は HER2 陽性乳癌,pT1miN1M0,pStage ⅡA であった。予後規定因子は GIST 肝転移と考え,イマチニブを開始した。乳癌術後 4 か月目に乳癌左鎖骨下リンパ節再発を認めた。GIST 肝転移の病勢は安定していたためイマチニブをいったん休薬し,パクリタキセル,抗 HER2 療法を開始した。忍容性を確認した後,慎重にイマチニブを併用した。リンパ節は著明に縮小し肝転移も増大を認めず,パクリタキセルを 7 コースで終了した。現在は抗 HER2 療法,イマチニブを継続中である。転移性の重複癌において両者に対する薬物療法を同時併用した報告は少なく,若干の考察を加えて報告する。 -
完全型虫垂重積症を来した早期虫垂癌を先進部とした成人腸重積症の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 76 歳,女性。心窩部痛を主訴に受診した。腹部 CT にて回結腸型の腸重積症の所見と先進部に腫瘤性病変を認めた。内視鏡的整復を試みたところ,盲腸腫瘤と思われる腫瘤が先進していたが送気にて容易に整復され,整復後 6 日目に腹腔鏡下回盲部切除術(D3)を施行した。摘出標本で虫垂が完全に内翻しており,虫垂粘膜を覆うように腫瘤性病変を認めた。病理診断は早期虫垂癌であった。完全型虫垂重積症を来した早期虫垂癌はまれであり,結腸重積症を合併した極めてまれな症例を経験した。 -
Modified FOLFIRINOX 療法と放射線治療の併用で良好な局所制御を 得た遠隔転移を有する切除不能浸潤性膵管癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 70 歳,男性。膵体部を主座とする長径 65 mm の原発巣と遠隔リンパ節転移,腹膜播種を認めた。cT4N1bM1(PER,LYM),cStage Ⅳと診断し,modified FOLFIRINOX による全身化学療法を施行した。Grade 2 以上の有害事象を認めなかったため,生存期間の延長と疼痛の緩和を目的として 6 サイクル目から計 43.2 Gy の原発巣に対する放射線治療(RT)を併用した。6 か月までの相対用量強度はオキサリプラチン 77.6%,イリノテカン 84.0%,フルオロウラシルが 88.3% であった。治療開始後 10 か月で播種の増大と同部位の疼痛を,15 か月で肺に新病変を認め,それぞれ次の薬剤へ変更したが原発巣は縮小を維持した。17 か月までオピオイドを必要とせず,modified FOLFIRINOX 療法と RT の併用が生存期間の延長と疼痛の緩和に寄与した可能性があるものと考えられた。 -
乳腺吸引式組織生検における BD EleVationTM の使用経験
48巻13号(2021);View Description Hide Description乳腺腫瘤に対する質的診断では針生検(CNB)や穿刺吸引細胞診(FNAC)などが広く行われている。海外では吸引式乳腺組織生検(VAB)を質的診断の第一選択とする場合も多く,その使い分けは臨床的課題となっている。VAB による組織生検の利点は,治療前の組織情報を獲得するために十分な組織量を採取することで,正確な確定診断が可能となることである。一方で,穿刺後の血腫形成や太い穿刺針による侵襲など,患者ストレスが生じることも懸念される。昨今,本邦においても VAB における新たなデバイスとして,BD EleVationTM が使用可能となり注目されている。このデバイスは単回穿刺での複数の検体採取や,鋭利なニードルチップによるスムーズな穿刺が得られるだけでなく,軽量化され安定した把持が得られる。本デバイスの新たな技術革新は患者ストレスの軽減に寄与する可能性もあり,今後の使用成績が期待される。当施設における VAB における BD EleVationTM の使用経験を概説する。 -
腸閉塞で発症した乳癌小腸転移の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 69 歳,女性。右乳癌術後,局所再発術後の肝転移疑いで内分泌治療中であった。腹痛を主訴に腸閉塞の診断で入院となった。骨盤内に閉塞起点が疑われ,卵巣腫瘍術後であることから癒着性腸閉塞が疑われた。絶食のみの保存治療で速やかに改善した。その後数か月で 2 回腸閉塞を発症し,3 回目発症時の CT 検査で小腸に腫瘍性病変が疑われた。小腸腫瘍の診断で腹腔鏡下手術を施行した。腸閉塞の原因となるような癒着は認めなかった。回腸に腫瘍性病変を認め,閉塞起点と考えられた。また,近傍の腸間膜内のリンパ節腫大を認めた。同部分を含め小腸切除を行った。術後経過良好で退院した。病理結果は浸潤性乳管癌小腸転移の診断であった。上記診断の下,術後化学療法を開始している。乳癌の消化管転移は比較的まれであり,臨床的に問題となることは少ない。乳癌小腸転移について文献的考察を含めて報告する。 -
超高齢者の多発胃癌に対し内視鏡的治療と腹腔鏡下胃切除術を併用して胃全摘を回避した 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description多発胃癌は診断技術の向上により近年増加傾向にある。今回われわれは,6 病変を有する高齢者の多発胃癌症例に対し,内視鏡的治療と腹腔鏡下胃切除術と組み合わせて,胃全摘を回避した症例を経験したので報告する。症例は 85 歳,男性。貧血の精査で行った上部消化管内視鏡検査で 6 病変を有する多発胃癌と診断された。85 歳と超高齢であり,胃全摘術を回避するため噴門部病変のみ内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)で切除し,残りの 5 病変は腹腔鏡下幽門側胃切除術(極小残胃の胃亜全摘)で切除した。術後病理診断で,pStage ⅠA と診断された。術後合併症なく退院した。その後の栄養状態は良好で,再発なく経過中である。多発胃癌では,残胃癌発生の可能性やマージンの確実な確保を考えると胃全摘を選択せざるを得ないことが多いが,超高齢者多発胃癌では内視鏡的治療と組み合わせて胃全摘を回避することも選択肢の一つとなり得ると考えらえた。 -
Adachi Ⅵ型動脈破格併存胃癌に対し腹腔鏡下胃切除術を施行した 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide DescriptionAdachi 分類Ⅵ型 24 群の動脈破格を併存した胃癌に対し腹腔鏡下胃切除術を行った 1 例を経験した。症例は 81 歳,男性。精査の結果,cT1bN0M0,cStage Ⅰの胃癌と診断され,腹腔鏡下幽門側胃切除術の方針となった。また,造影 CT 検査で肝動脈の分岐異常はないものの,総肝動脈が上腸間膜動脈より分岐し門脈背側を走行していることより,Adachi 分類Ⅵ型24 群の動脈破格を伴うと診断された。手術の際には,通常膵上縁リンパ節郭清の指標となる部位に総肝動脈が存在せず,門脈が露出された。門脈前面には,通常総肝動脈周囲に存在すると思われる神経が肝十二指腸間膜に向けて連続していた。門脈を総肝動脈に見立て,膵上縁リンパ節郭清を行った。Adachi 分類Ⅵ型は約 2% の頻度とされており,比較的まれな動脈破格であるが,術前に診断することで安全で過不足ないリンパ節郭清が可能であった。 -
胃切除後の十二指腸断端縫合不全に対する経皮経肝的十二指腸ドレナージが著効した 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 79 歳,男性。胃癌検診にて胃体下部大弯側に早期胃癌 0-Ⅱc 病変を認め,腹腔鏡下幽門側胃切除術を施行した。術後 10 日目に腹痛,発熱を認め,CT 検査にて縫合不全,腹腔内膿瘍を認めた。緊急手術にて胃部分切除,Roux-en-Y再建術を施行したが再手術 3 日目に十二指腸断端縫合不全を認めた。十二指腸断端縫合不全に対して,percutaneous tran_x0002_shepatic cholangiodrainage(PTCD)の技術を応用してカテーテルを十二指腸に留置し,胆管および十二指腸内容のドレナージを施行,保存的治癒に成功した。胃切除後の Roux-en-Y 再建術後の十二指腸断端の縫合不全は難治性であり,時に重症感染症や腹腔内出血を合併して死亡することもある。今回われわれは,経皮経肝的十二指腸ドレナージにより保存的に十二指腸断端縫合不全が完治した症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。 -
イマチニブによる術前補助化学療法後に根治切除術を施行し pCR を得た巨大胃 GIST の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 54 歳,女性。検診にて腹部腫瘤を指摘され,前医で施行した CT にて左上腹部に最大径 22 cm の内部不均一な巨大腫瘤を認めたため精査加療目的に当院紹介となり,生検にて c-kit,CD34 陽性で胃 GIST の診断となった。画像上遠隔転移は認めないものの膵浸潤も否定できず,イマチニブ投与による術前化学療法の方針とした。約 4 か月間のイマチニブ内服にて腫瘍の縮小を認め,根治切除術を行った。術中所見にて膵浸潤を否定できず,胃全摘・膵脾合併切除術を施行した。標本上は浸潤を伴う最大径 17 cm 大の胃粘膜下腫瘤として観察されたが,病理組織学的検査所見は腫瘍内に硝子化を伴う線維化が広がり,腫瘍が消失したと考えられる変化を伴っており pCR と診断された。術後は補助化学療法としてイマチニブ投与を継続し,術後約 8 か月経過時点で無再発生存中である。 -
イマチニブによる術前化学療法が奏効し腹腔鏡下に切除した大型胃 GIST の 2 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例 1 は 51 歳,男性。胃穹窿部後壁に delle を伴う粘膜下腫瘍が存在し,生検で GIST の診断を得た。腹部 CT 検査では,腫瘍径は 130×110×90 mm であった。イマチニブ 400 mg/日投与 6 か月後に最大径 55 mm まで縮小し,腹腔鏡下胃部分切除術を施行した。術後はイマチニブ投与を 3 年間施行し,術後 4 年無再発生存中である。症例 2 は 68 歳,男性。腹部CT 検査にて胃後壁側に 160×120×85 mm の腫瘍を認めた。上部消化管内視鏡検査では粘膜下腫瘍を同定できなかったが,胃 GIST を疑いイマチニブ 400 mg/日投与を開始した。Grade 3 の全身皮疹を認め,イマチニブ休薬,減量にて対応したが軽減せず,イマチニブ継続困難となった。治療開始から 9 か月後,最大径 90 mm まで縮小した時点で腹腔鏡下胃部分切除術を施行した。術後イマチニブは投与せず,術後 1 年 6 か月無再発生存中である。大型胃 GIST に対してイマチニブによる術前化学療法を施行し,腫瘍縮小を得たことにより腹腔鏡下で安全に完全切除可能であった 2 例を経験したので報告する。 -
十二指腸下行脚に発生した神経内分泌腫瘍の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 69 歳,女性。前医で上腹部不快感の精査目的に施行した上部消化管内視鏡検査にて十二指腸腫瘍を指摘され,当院へ紹介となった。上部消化管内視鏡検査では,十二指腸下行脚に中心陥凹を伴う粘膜下腫瘍を認めた。腹部造影 CT 検査では,ファーター乳頭対側の十二指腸下行脚に造影効果を伴う 23 mm 大の腫瘍を認めた。十二指腸 GIST を疑い,十二指腸局所切除術予定の方針とした。術中所見では腫瘍はファーター乳頭対側の下行脚に局在し,周囲への浸潤所見はなかった。十二指腸局所切除術を行い,術中迅速病理組織診に提出し adenocarcinoma の疑いと判定されたため,膵頭十二指腸切除術に術式を変更して手術を施行した。最終病理報告で NET G2 の診断となった。リンパ節転移は認めなかった。術後 7 か月現在,無再発生存中である。 -
消化器癌化学療法中に発症した Pneumocystis Jirovecii Pneumonia の 2 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description背景: 近年,非 HIV 患者における Pneumocystis jirovecci pneumonia(PCP)は増加傾向にあるが,消化器癌化学療法中に発症した PCP の報告例は少ない。胃癌・大腸癌に対して化学療法中に発症した PCP を経験した。症例 1: 72 歳,男性。切除不能進行胃癌に対して化学療法中,肺炎治療のため入院した。β‒D‒グルカン高値と喀痰 Pneumocystis PCR 陽性であった。ST 合剤開始後も呼吸状態が悪化し,挿管管理となったが改善なく死亡した。症例 2: 75 歳,男性。盲腸癌術後再発に対し化学療法中,視神経炎の有害事象に対しステロイドパルスを施行した。その後,呼吸状態の悪化と肺空洞病変を認め,喀痰 Pneumocystis PCR 陽性であったが,ST 合剤を含めた集中治療を行い改善に至った。考察: 非 HIV の PCP の問題点は,HIV の PCP と比較して発症が急激で予後不良であること,担癌患者の PS がおおむね良好でないこと,ST 合剤による予防基準がないことがあげられる。化学療法やステロイド治療を行っている担癌患者において,比較的急激に進む呼吸器症状,肺炎像を認めた際には PCP を鑑別にあげる必要がある。 -
化学療法にて病理学的完全奏効が得られた局所進行大腸癌の 2 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例 1: 患者は 71 歳,男性。造影 CT で膀胱浸潤が疑われた直腸癌(Ra‒Rb)で,cT4b,N2b,M0,Stage Ⅲc であった。SOX+bevacizumab(Bev)療法を 10 コース,IRIS+Bev 療法を 8 コース施行した。化学療法の前後で CEA 110.1→5.5 ng/mL,CA19‒9 992.9→11.7 U/mL と著明に減少した。CT で病変は不明瞭化し,治療効果は Response Eval_x0002_uation Criteria in Solid Tumors(RECIST)で clinical complete response(cCR)であった。腹腔鏡下直腸切断術を施行し,病理学的完全奏効(pCR)であった。術後 11 か月無再発生存中である。症例 2: 患者は 54 歳,女性。S 状結腸癌穿孔に対し,横行結腸人工肛門造設術を行った。cT3,N0,M0,Stage Ⅱa であったが,穿孔による腹膜播種の可能性を考慮し,SOX+Bev 療法を 14 コース施行した。化学療法の前後で CEA 2.2→1.6 ng/mL,CA19‒9 20.9→9.7 U/mL と増悪なく経過した。病変は CT で不明瞭化し,治療効果は RECIST で cCR であった。S 状結腸切除術を施行し pCR であった。術後 10 か月無再発生存中である。 -
術前化学療法が奏効し根治切除が可能であった膀胱浸潤巨大 S 状結腸癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 56 歳,男性。膀胱浸潤を疑う巨大な S 状結腸癌に対する集学的治療目的で近医より当院に紹介となった。根治切除の可能性を高めるために,回腸人工肛門造設術後に mFOLFOX6+panitumumab 療法を計 8 コース施行した。化学療法により腫瘍の縮小を認めた。術前画像・術中所見にて膀胱三角を含む膀胱への浸潤が疑われたため,膀胱全摘術・回腸導管造設術を併施する直腸低位前方切除術を施行した。病理組織学的診断は ypT4b,N0,M0,ypStage Ⅱc,剝離面はいずれも陰性であり,根治切除を施行し得た。術後は補助化学療法として mFOLFOX6 療法を 4 コース行い,術後 8 か月現在無再発生存中である。局所進行結腸癌に対する術前化学療法は,根治切除の可能性を高めるための有効な手段と考えられる。 -
腹腔鏡下直腸癌切除後補助化学療法(CAPOX)中に発見された門脈血栓症の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 60 歳台,男性。直腸 S 状部癌に対して腹腔鏡下高位前方切除術を施行した。術後合併症なく術後 10 日で退院となった。術後補助化学療法(CAPOX)開始前日(術後 6 週)には,AST 42 IU/L,ALT 59 IU/L と軽度高値であった。術後 26 週には AST 71 IU/L,ALT 80 IU/L と上昇していたが,化学療法によるものと判断していた。術後 27 週の CT で,門脈本幹から右枝,後枝にかけての血栓,門脈左枝の狭細化と外側区域萎縮を認めた。ドップラーエコーにて壁在血栓で血流は保持されており,術後 30 週に残りの化学療法の中止とワーファリン内服を開始した。術後 32 週の CT で門脈血栓はほぼ消失し,38 週に肝機能は正常化した。血液検査の動向から,腹腔鏡手術を契機に緩徐に門脈血栓を形成してきていた可能性がある。また,抗がん剤投与中止および抗凝固療法にて門脈血栓の消失を得た。アジュバント中の肝機能異常は薬剤による肝障害だけではなく,術後無症候性門脈血栓の可能性も念頭に置く必要がある。 -
High Risk Stage Ⅱ大腸癌における Glasgow Prognostic Score の意義と治療戦略
48巻13号(2021);View Description Hide Descriptionはじめに: 本研究では Stage Ⅱ大腸癌の再発予後予測マーカーとしての GPS の有用性と術後補助化学療法の個別化戦略について検討した。対象と方法: 根治手術を施行した Stage Ⅱ原発大腸癌 86 例を対象とした。予後予測因子の解析を目的に臨床病理学的因子および inflammatory⊖based marker(IBM)として Glasgow prognostic score(GPS),好中球リンパ球比(NLR),血小板リンパ球比(PLR),リンパ球単球比(LMR)を用いて評価した。結果: Stage Ⅱ全体の 5 年 OS 92.5%,RFS は 86% であった。また,再発率は 12.8% であった。多変量解析では GPS(p=0.005)が独立した再発予後不良因子であった。GPS 0,1 群と GPS 2 群の RFS は 95.2%,43.8%,OS は 95.2%,73.1% と GPS 2 は有意に予後不良であった(p<0.01)。結語: GPS 2 は Stage Ⅱ大腸癌の独立した再発高リスク因子である。Stage Ⅱ大腸癌の予後改善のために,術後補助化学療法の個別化とともに術前の栄養状態の改善や炎症の抑制が課題である。 -
直腸 GIST の術後側方リンパ節再発に対してイマチニブの 短期間の減量投与で長期の抑制効果が認められた 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 83 歳,女性。82 歳時に下血を主訴に受診した。肛門縁から 30 mm に認められた 35 mm 大の直腸 GIST に対して会陰操作先行の腹腔鏡下超低位直腸切除・経肛門吻合を行った。約 1 年後,20 mm 大の右側方リンパ節の腫瘍が確認され,GIST の再発と診断した。有症状はなかった。手術の希望はなく,イマチニブの減量投与(200 mg/日)を開始した。7 週間服用後に増量したところ顔面と下肢の浮腫,胸水と心囊液の貯留(grade 2)がみられ入院した。退院後,本人の希望により早期に投薬は終了となった。1 年後,リンパ節は 7.5 mm に縮小しており PR と判断した。その後,無治療のまま 5 年を経過した 89 歳時もリンパ節の増大は認められず,臨床的に完治と判断した。短期間のイマチニブの減量投与で長期の抑制効果を認めたまれな 1 例を経験したので報告する。 -
リンパ節転移を伴った長径 10.7 mm の直腸内分泌腫瘍の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 50 歳,女性。便潜血陽性の精査目的に近医で行った大腸内視鏡検査にて下部直腸に 15 mm の腫瘍を認め,生検にてクロモグラニン陽性,シナプトフィジン陽性,Ki-67 index<1% にて神経内分泌腫瘍(NET),G1 と診断され紹介された。大腸内視鏡検査にて肛門縁から 30 mm,歯状線から 20 mm に下縁を有する表面平滑な類円形半球状の腫瘍を認め,EUS では第 2 層から第 3 層に 10.7×5.2 mm の境界明瞭な低エコー腫瘍として描出された。造影 CT 検査では造影効果を認める 12×5 mm の腫瘤として描出されリンパ節腫大や遠隔転移を認めず,造影 MRI 検査にても骨盤内リンパ節転移を疑う所見はなかった。以上より,10 mm を超える NET,G1,粘膜下層までの浸潤と診断された。診断的治療としての内視鏡的切除も選択肢として上がったが外科的切除の方針となり,腹腔鏡下括約筋間直腸切除術,上方 D2 郭清が施行された。病理組織学的所見では,粘膜下層に浸潤(5000μm)する 11×8 mm の腫瘍で直腸傍リンパ節に転移を認め,pT1b,pN1,Ki-67 index 3%,Ly1,V1a,NET G2,pStage ⅢB と診断された。術後経過は順調で 6 か月後に人工肛門閉鎖術を施行,術後 1 年経過時点で頻便はあるものの便漏れなく,無再発生存中である。腫瘍径 10 mm 以上の直腸 NET に対しては,リンパ節転移高リスクのため郭清を伴う根治術が推奨されている。本症例ではこれに従い外科的切除を行った結果リンパ節転移を認めたが,術前には大きさが 10 mm をわずか 0.7 mm 超える以外は内視鏡的一括切除も選択できる状況に加えて,肛門からの距離が近かったため方針決定には一考を要した。 -
直腸神経内分泌腫瘍と上行結腸癌の同時性多発大腸がんの 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 43 歳,男性。既往や家族歴はなく,便潜血陽性を認め近医を受診した。下部消化管内視鏡検査にて上行結腸に2/3 周性の 2 型腫瘍と下部直腸に黄白色調の表面平滑な 10 mm 大の粘膜下腫瘍を認め,生検でそれぞれ中分化管状腺癌,直腸神経内分泌腫瘍の診断となり,加療目的に当院へ紹介受診となった。CT ではリンパ節腫大や遠隔転移所見はなく,まずは直腸病変を内視鏡的に切除した。病理組織学的には粘膜下層に限局した病変であり,Ly0,V0,断端陰性であった。追加切除はせず,2週間後に上行結腸癌に対し腹腔鏡下結腸右半切除術を施行した。病理組織学的検査所見は,pT3,pN1(1/74),pM0,pStage Ⅲb,Cur A であった。術後補助化学療法を行い,18 か月経過した現在無再発生存中である。直腸神経内分泌腫瘍に対し内視鏡的切除を行い,上行結腸癌が併存した症例は本邦で報告がなく,まれな症例を経験したので報告する。 -
浅大腿静脈グラフトを用いて門脈・上腸間膜静脈再建を施行した膵頭部癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 62 歳,男性。心窩部痛,尿黄染を契機に前医を受診し,膵頭部癌と診断され,精査加療目的に当院を紹介された。腹部造影 CT 検査で膵頭部に約 30 mm の腫瘍を認め上腸間膜動脈(SMA)にほぼ全周接し,門脈(PV)本幹から上腸間膜静脈(SMV)の分枝にかけて広範囲に浸潤を認め局所進行切除不能膵頭部癌と診断された。ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法を 3 コース施行したが,薬剤性肺障害を発症したため S-1 併用化学放射線療法を行った。腫瘍は 14 mm に縮小したが,SMA への接触範囲には変化はみられなかった。初診から 8 か月後に膵全摘術,PV/SMV 合併切除術を施行した。PV/SMV は約 70 mm 切除し,左浅大腿静脈グラフトを用いて再建した。術後胃内容排出遅延を合併したが,第 39 病日に退院し,S-1 による術後補助化学療法を行った。術後 14 か月無再発生存中であり,門脈再建部の血流は良好に保たれている。 -
残膵癌術後に仮性膵囊胞内に再発を来した 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 72 歳,男性。膵癌および IPMA に対して,脾合併膵体尾部切除術を施行した既往がある。S-1 による術後補助化学療法を施行後無再発であったが,術後 6 年目に肝細胞癌治療後の検診 MRI で残膵に 1 cm 大の腫瘤が指摘され,残膵癌の診断で残膵部分切除術を施行した。病理組織学的診断は膵管癌で断端陰性は得られていたが,再手術後 6 か月目に心窩部痛が出現し,CT 検査で 10 cm 大の仮性膵囊胞を認め,穿刺ドレナージを施行したところ細胞診陽性であり,局所再発と診断された。囊胞性病変に対してドレナージおよび癒着療法を繰り返しながら化学療法を施行して,細胞診の陰転化および囊胞性病変の消失は得られたが,腹膜播種転移も出現し,初回手術から 7 年 8 か月,残膵切除から 1 年 11 か月目に原病死となった。膵癌術後の仮性膵囊胞という形式での局所再発の報告はなく,文献的考察を交えて報告する。 -
膵癌との鑑別に苦慮した大腸癌膵転移の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 50 代,男性。肝転移を伴う S 状結腸癌,cT4aN1M1a(H1),cStage Ⅳa(大腸癌取扱い規約第 9 版)に対して腹腔鏡下 S 状結腸切除術,その後二期的に肝 S4/S6 部分切除を施行した。初回手術後 1 年 6 か月で CEA,CA19-9 の上昇を認めた。造影 CT・MRI では膵体部に尾側主膵管の拡張を伴う乏血性腫瘤を認め,ERCP による膵管擦過細胞診,膵液吸引細胞診で腺癌が検出され,膵体部癌の術前診断で膵体尾部切除を施行した。膵術後フォローの CT で縦隔に腫大リンパ節を指摘されたが,大腸癌,膵癌いずれの転移再発かは鑑別困難であった。リンパ節組織を採取した場合の対比を想定し,大腸および膵臓の摘出検体の腫瘍組織の免疫染色を施行したところ,両組織とも CK7(-)/CK20(+)であり,原発性膵癌と考えていた病変は大腸癌膵転移であることが判明した。同時期の PET-CT で骨転移病変も認め,大腸癌に対する全身化学療法導入となった。初回手術から 4 年 6 か月経過した現在も通院治療中である。 -
術前 EUS‒FNA による Needle Tract Seeding が原因と考えられた膵体部癌術後胃壁内転移の 1 切除例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 67 歳,女性。EUS-FNA で診断した膵体部癌に対して,膵体尾部切除術を施行した。術後 2 年 10 か月の CT検査にて胃体下部後壁に腫瘍を指摘された。上部消化管内視鏡にて胃角部後壁に粘膜下腫瘍を認め,生検で管状腺癌と診断された。膵癌手術施行時の組織に類似しており,EUS-FNA 穿刺経路上の播種による膵癌胃壁転移再発と診断した。術前化学療法として gemcitabine+nab-paclitaxel を 5 コース施行し,胃壁転移の縮小を認めた。初回手術より 3 年 7 か月後に幽門側胃切除,横行結腸間膜合併切除,Billroth Ⅰ法再建を施行した。病理組織学的診断では粘膜下層を中心とした管状腺癌の増殖を認め,臨床経過と合わせて膵癌胃壁内転移と診断した。術後 6 か月現在,補助化学療法を継続しながら再発なく経過中である。胃壁への needle tract seeding は腹膜播種の一亜型でありながら,早期発見により切除を検討することができる再発形式であり,EUS-FNA の穿刺経路が切除範囲に含まれない膵体尾部切除術では needle tract seeding のリスクを考慮するべきである。 -
肝細胞癌との鑑別に苦慮し腹腔鏡下切除を行った腎細胞癌術後孤立性肝転移の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Descriptionわれわれは,腎癌術後に発症した孤立性肝腫瘍に対して術前に肝細胞癌を疑い手術を施行し,その後腎癌肝転移と最終診断した 1 例を経験した。症例は 81 歳,男性。2017 年 1 月に左腎癌で後腹膜鏡下腎摘除術を施行した。その後再発なく経過していたが,術後 1 年時のフォロー CT 検査で肝 S6 に 42 mm 大の腫瘤を指摘された。診断のため肝生検術を施行したが,病理組織学的所見では診断が困難であった。総合的に肝細胞癌と診断し,2018 年 6 月に腹腔鏡下肝部分切除術を施行し,摘出標本の病理組織学的所見で腎癌肝転移と最終診断した。一般的に肝転移を併発する腎癌の予後は不良であるが,腎癌診療ガイドラインでは転移巣切除は完全切除が可能な場合には推奨されている。近年,肝切除に対して低侵襲な腹腔鏡手術が増加し,安全性も向上しているため,今回のように孤立性肝腫瘍に対して術前診断が困難な症例には,診断的治療として腹腔鏡下での肝切除は有効な治療戦略の一つになり得ると考えられた。 -
直腸 S 状結腸部癌の吻合部再発に対してロボット支援腹腔鏡下低位前方切除術を実施した 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 80 歳,女性。直腸 S 状結腸部癌に対して腹腔鏡下高位前方切除術,D3 郭清が施行された。病理組織学的診断は pStage Ⅲa であったが,補助化学療法は行っていなかった。術後 1 年の大腸内視鏡検査で,吻合部に一致して 10 mm 大の粘膜下からの隆起を疑う腫瘤を認め,生検結果は adenocarcinoma(tub1),Group 5 であった。PET‒CT 検査では,同部位に集積を認めた以外は遠隔転移を示唆する所見はなかった。直腸吻合部再発と診断し,吻合部切除を行うためにロボット支援腹腔鏡下低位前方切除術,AN3rt(左下腹神経合併切除)が施行された。病理組織学的診断は R0,tub2>tub1,rpT2(MP),Ly0,V0,BD1 であり,根治切除が施行されていた。術後経過は良好で退院となり,現在無再発で経過観察中である。直腸 S 状結腸部癌術後の吻合部再発に対してロボット支援下吻合部切除を行い,R0 根治切除が可能であった症例を経験したので報告する。 -
乳頭部に限局した高齢者乳癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 89 歳,女性。左乳頭部の異常を主訴に受診した。皮膚生検にて腺癌と診断された。マンモグラフィ検査,乳腺超音波検査,CT 検査では左乳頭直下に腫瘤を認めたが,皮膚生検で確定診断が付かなかった。診断と治療目的に乳輪乳頭を含む乳房部分切除術とセンチネルリンパ節生検を行った。切除標本の病理組織学的診断は浸潤性乳管癌(硬性型)の皮膚浸潤,腋窩リンパ節に転移があった。術後放射線照射とホルモン療法を行い,現在術後 5 か月再発なく生存中である。乳頭部に限局する乳癌はまれであり,若干の文献的考察を加え報告する。 -
根治切除不能の直腸癌肝転移に対して Conversion Therapy を施行し得た 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 40 歳台,女性。便潜血陽性を指摘され,精査で肝転移を有する直腸癌と診断された。原発巣の直腸癌に対しては腹腔鏡下高位前方切除術を施行した。肝転移巣は根治切除不能で conversion surgery をめざし mFOLFOX6+panitu_x0002_mumab 療法を開始した。5 コース施行時点で,肝転移巣の著明な縮小と残肝容量の増加を認めた。経皮経肝門脈塞栓術(PTPE)を行い,最終的に 42% の残肝容量を確保し得た。肝予備能は良好で,肝転移巣に対して根治切除を行うことができた。術後補助化学療法として CAPOX 療法を施行し,肝切除術後 11 か月現在無再発生存中である。根治切除不能の直腸癌肝転移に対して conversion therapy を施行し得た 1 例を経験したので報告する。 -
ADPKD 合併直腸癌に対して腹腔鏡下高位前方切除術を施行し得た 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 61 歳,女性。38 歳時に常染色体優性多発性囊胞腎(autosomal dominant polycystic kidney disease: ADPKD)と診断され,42 歳より血液透析開始となった。61 歳時に直腸癌(RS)を指摘され,腹腔鏡下高位前方切除術・D3 郭清を施行した。術中,巨大な左右腎囊胞により腹腔内スペースは限定されるものの,ポート配置や利用法・体位などを工夫することで安全に腹腔鏡手術が可能であった。ADPKD 合併大腸癌に対する腹腔鏡手術は有用なアプローチ方法と考えられた。今回,直腸癌を合併し腹腔鏡下に切除し得た ADPKD の症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。 -
移動盲腸に合併した盲腸癌十二指腸浸潤の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 70 歳,男性。便潜血陽性を認めたため近医を受診し,十二指腸癌および盲腸癌の重複癌が疑われ,当院を紹介受診した。精査の結果,盲腸癌の十二指腸浸潤と診断し,手術を施行した。術中所見では移動盲腸のため盲腸癌が十二指腸に直接浸潤しており,一括切除を施行した。今回,移動盲腸であったため十二指腸に直接浸潤を来した盲腸癌の 1 切除例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。 -
Carboplatin+Etoposide 併用療法が有効であった膵神経内分泌癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description今回われわれは,膵神経内分泌癌術後再発に対し carboplatin+etoposide(CE)療法を施行し,long SD を得た症例を経験したので報告する。症例は 70 歳,男性。下腹部違和感にて精査され,腹部 CT にて膵頭部近傍に造影効果を伴う 2.6cm の腫瘤を指摘された。生検にて膵神経内分泌癌と診断された。膵頭十二指腸切除+門脈合併切除+横行結腸部分切除が施行され,病理組織学的検査にて neuroendocrine carcinoma,pT3,pN1b,M0,pStage ⅡB との結果であった。術後補助化学療法として CDDP+CPT-11 療法を 6 サイクル施行した。術後 15 か月目の CT 検査にて腸間膜リンパ節再発および大腸内視鏡では横行結腸吻合部に再発病変を指摘された。術後 16 か月目より CE 療法を開始した。術後 23 か月目の CT にてリンパ節の再増大傾向を認めたが,27 か月目に骨転移を指摘されるまで計 10 サイクルを施行した。横行結腸吻合部の病変は,画像上指摘できないほどの縮小を維持できていた。その後,GEM+nab-PTX,nal-IRI+5-FU/LV の投与を行ったが画像上縮小は認めず,しだいに増悪した。術後 37 か月目に死亡した。 -
NAFLD の進行により化学療法不耐を生じた十二指腸乳頭部癌術後再発の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 60 代,男性。十二指腸乳頭部癌,pT3,N1,M0,pStage ⅡB に対し膵頭十二指腸切除の施行歴あり。手術から約 1 年でリンパ節再発を認め gemcitabine+cisplatin 療法を導入し,いったん病勢のコントロールを得たが,6 コース目前後より高度の食思不振,全身倦怠感などにより化学療法の忍容性が悪化し化学療法の中断を余儀なくされた。外来にて経過観察を行っていたが経時的に performance status の著しい低下を認め,経口摂取不良となり精査加療目的に入院となった。入院時血液検査では Alb 1.9 g/dL,T‒Bil 2.0 mg/dL,PT 36.2%,NH3 159μg/dL と肝不全徴候を示し,CT で著明な脂肪肝の悪化と新規の腹水貯留を認めた。Child‒Pugh 分類 C(12 点)の著明な肝予備能の低下を認め,膵切除後の膵外分泌機能低下に起因する NAFLD と判断し,パンクレリパーゼ 1,800 mg/day の投与を開始した。その後,経時的に肝機能は改善し,入院後 17 日目に退院となった。退院後 1 か月の CT では脂肪肝は著明に改善を認め腹水も消失し,化学療法再開が可能となった。 -
FOLFOXIRI+Bevacizumab(BEV)により長期生存が得られた同時性肝転移を有した下部直腸癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 30 代,女性。下血を主訴に来院し,大腸内視鏡検査で AV 2 cm に 1 型腫瘍を認め腺癌と診断された。造影 CTで肝左葉にびまん性に広がる肝転移と右葉に孤立性肝転移を認め,切除不能と判断した。FOLFOXIRI+bevacizumab(BEV)を開始し,著明な縮小を確認し肝切除術を行った。その後,腹腔鏡下 ISR 手術で原発巣を切除した。1 年後,肝転移を再発したが FOLFOXIRI+BEV を再導入し再肝切除を実施,さらに 1 年後肝再々発を認めたが,現在治療開始から 7 年,担癌生存中である。 -
HER2 陽性乳癌に対する Pertuzumab 併用術前化学療法の有効性
48巻13号(2021);View Description Hide DescriptionHER2 陽性乳癌の術前化学療法(NAC)における pertuzumab の併用は,NeoSphere 試験で病理学的完全奏効(pCR)率の有意な改善が示されている。今回,自験例での HER2 陽性乳癌に対する pertuzumab 併用 NAC の有効性を,pCR 率を含め後方視的に検討する。化学療法後に根治的手術を施行した HER2 陽性乳癌患者 11 例を対象とした。サブタイプは,ホルモン受容体陽性・HER2 陽性 4 例,ホルモン受容体陰性・HER2 陽性が 7 例であった。10 例で 5‒fluorouracil,epirubicin,cyclophosphamide(FEC)療法 4 コース後に docetaxel,trastuzumab,pertuzumab(HPD)療法を 4 コース施行し,1 例で HPD 療法のみ 4 コース実施した。pCR(ypT0/is かつ ypN0)率は 81.8% で,NeoSphere 試験および TRYPHAENA 試験より良好な結果であった。この結果は,4 コースの FEC 療法の後に 4 コースの HPD 療法を実施する上乗せ効果を示唆していると考える。 -
小腸穿孔を来した節外性 NK 細胞リンパ腫の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 92 歳,男性。意識レベル低下を主訴に当院に救急搬送された。腹腔内膿瘍と診断,抗生剤・ドレナージ治療を開始した。治療開始 2 日目にドレーン排液が腸液様に変化したため腸管穿孔を疑い,緊急手術を施行した。術中,回腸に 1cm の穿孔部位を認め小腸穿孔と診断し,小腸部分切除術を施行した。術後発熱継続のため,抗生剤治療を継続するも改善は認めなかった。術後 18 日,病理組織学的検査で悪性リンパ腫の診断に至るも,全身状態不良のため積極的治療は施行できず,術後 24 日に原病死した。病理解剖で全身リンパ節へ extranodal NK/T⊖cell lymphoma(ENKL)の転移を認め,原病死と診断した。小腸穿孔を来した ENKL の 1 例を経験したので報告する。 -
根治切除不能進行胃癌に対する二次化学療法からの Conversion Surgery の検討
48巻13号(2021);View Description Hide Description2013 年 4 月~2020 年 12 月までに,一次化学療法が奏効せず二次化学療法を施行した根治切除不能進行胃癌 56 例中conversion surgery を施行した 8 例を対象とし,臨床病理組織学的因子,治療内容,生存期間について検討した。二次化学療法からの conversion surgery は 8 例であった。年齢は中央値 69(64~76)歳,男性 7 例,女性 1 例。切除不能因子は 1 因子 5 例,2 因子 2 例,3 因子が 1 例であり,全例 R0 手術が行われた。一次化学療法からの conversion surgery(n=37)と二次化学療法からの conversion surgery(n=8),化学療法単独(n=95)とで生存期間を比較してみると,一次化学療法群では中央値 22.9 か月,二次化学療法群では中央値 73.4 か月,化学療法単独群では 12.3 か月であり,一次・二次化学療法からでも conversion surgery が行えれば,化学療法単独群と比較して生存期間の有意な延長が認められた。 -
医療用ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)を利用した 経口抗がん剤の服薬支援,副作用モニタリングシステム
48巻13号(2021);View Description Hide Description目的: 医療用ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)を利用した服薬支援,副作用モニタリングの取り組みを報告する。対象と方法: 経口抗がん剤を含む化学療法を導入する胃がん患者で,情報通信技術(ICT)端末が利用可能な患者 32例を対象とした。患者・家族は毎日,服薬状況と有害事象の状況を ICT 端末に入力し,薬剤師は PC 端末で入力内容を確認した。重篤な有害事象があれば当該科看護師が有害事象の状況確認を電話で行う手順を構築した。結果: 32 例の登録例のうち,治療途中 2 か月未満で入力を中止したのは 3 例(9.3%)であった。長期休暇中でも有害事象の対応ができた症例や,訪問看護ステーションとの情報共有で治療を継続できた症例を経験した。アンケート調査では,不安軽減や安心感につながるといった高評価が多かった。結語: 医療用 SNS を利用した経口抗がん剤の服薬支援システムは,安全・有用なツールとなり得る。 -
集学的治療により長期予後が得られた胃癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 55 歳,男性。腹膜播種を伴う胃癌,幽門狭窄に対し胃空腸吻合術を施行後,S‒1+paclitaxel 併用療法を開始した。CT 検査で腫瘍縮小を認めたため 1 年 7 か月後に審査腹腔鏡で P0CY0 を確認後,幽門側胃切除術を施行した。術後はpaclitaxel 療法を 1 年間行い無治療で経過観察したが,胃切除後 1 年 8 か月で CA19‒9 値が上昇したため,ramucirumab+paclitaxel 療法および S‒1+oxaliplatin 療法を実施した。胃切除後 2 年 6 か月で傍門脈リンパ節の孤立性腫大を認め,放射線治療を導入した。その 1 年後に左総腸骨動脈近傍リンパ節の腫大が指摘され,nivolumab 療法を開始した。肝機能障害により休薬中であったが,胃切除術後 7 年経過した現在,腫瘍マーカーは正常で再発所見なく生存中である。血液検査や画像診断を基に病勢増悪を適切に判断し,治療をつなぐことの重要性が示唆された。 -
メトトレキセート関連リンパ増殖性疾患との鑑別に難渋した甲状腺悪性リンパ腫の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 60 歳台,女性。関節リウマチ(RA)に対して生物学的製剤使用の可能性を考え,悪性疾患スクリーニング目的の CT を撮影したところ甲状腺左葉に腫瘤影を認めた。超音波検査で小範囲に低エコー域を認めたが,悪性を示唆する所見を認めず経過観察とした。RA に対してはメトトレキセート(MTX)による治療を開始した。4 か月後の超音波検査では大きな変化を認めなかった。1 年後の CT で甲状腺腫瘤は増大し,超音波検査では低エコー域が拡大していた。穿刺吸引細胞診で悪性リンパ腫と診断が付き,治療方針決定のため組織生検を施行して濾胞性リンパ腫と診断した。メトトレキセート関連リンパ増殖性疾患(methotrexate‒associated lymphoproliferative disorders: MTX‒LPD)の可能性も否定できなかったが,RA の活動性が高く MTX の休薬は困難であったため MTX は継続して,リンパ腫に対しては rituximab による治療を行った。甲状腺の腫瘍は 3 か月後に消退し,4 年後の現在も再燃の徴候は認めない。 -
乳房再建,出産後に多臓器転移を来した BRCA1 遺伝子変異陽性再発乳癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 31 歳,女性。主訴は左乳房腫瘤。既往歴,家族歴ともに特記事項なし。上記主訴のため精査加療目的に当科を紹介受診し,左乳癌(cT1cN0M0,cStage Ⅰ,triple negative type)の診断となり,Lt. Bp+SN を施行した。最終病期は術前と同様であったが,BRCA 遺伝子検査で BRCA1 遺伝子変異陽性が認められた。術後補助化学療法(epirubicin,cyclo_x0002_phosphamide,paclitaxel)投与,温存乳房切除,tissue expander 挿入,silicone implant による乳房再建術がそれぞれ施行された。初回手術の 1 年 10 か月後に自然妊娠が判明し,2 年 6 か月で自然分娩となった。初回手術より 2 年 11 か月後に頭痛,めまい,食事摂取困難を訴え,造影 CT にて脳転移,肺転移,肝転移,骨転移が発覚した。グリセオール,ステロイド投与,全脳照射により脳浮腫症状改善を得て,その後 olaparib 開始となった。現在も PR を保持したまま加療継続している。 -
若年発症遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)の治療経験
48巻13号(2021);View Description Hide Description若年発症遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)の症例を経験したので報告する。症例は 31 歳,女性。家族歴に叔母の卵巣癌の既往があった。超音波検査で左乳房 D 区域に 16 mm の不整形腫瘤を認め,針生検にて浸潤性乳管癌の診断となった。左腋窩および左内胸に臨床的リンパ節転移を認めたが,明らかな臓器転移はなく手術を先行し,Bt+Ax(Ⅱ)を施行した。組織型は硬性型,腫瘍径は 16 mm,腋窩リンパ節転移 3 個陽性,病理組織学的病期分類は pT1cN3bM0,stage ⅢC,ER 陽性,PgR 陽性,HER2 陰性,Ki-67 45% であった。術後化学療法および放射線療法を施行し,現在内分泌療法施行中である。若年発症かつ卵巣癌の家族歴があり,遺伝学的検査の結果,HBOC の診断となった。推奨されるサーベイランスに加え,予防的臓器切除の将来的実施も視野に入れている。 -
術後 43 年目に胸壁再発を認めた乳癌晩期再発の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 85 歳,女性。既往として 42 歳時,右乳癌に対し乳房切除術を受けていた。2020 年 9 月,胸壁腫瘍を主訴に当院を受診した。身体所見は胸壁中央右側に 3×3 cm の潰瘍性病変を認めた。局所麻酔下で腫瘍より皮膚生検を施行し,右乳癌の再発(ER 陽性,PR 陽性,HER2 陰性)と診断した。PET-CT では胸骨右側に限局性の皮膚肥厚と同部位の FDG の集積を認め,他に遠隔転移を疑う所見は認めなかった。治療はアナストロゾールを開始し,現在も継続中である。今回われわれは,術後 43 年目での再発という極めてまれな症例を経験したので報告する。 -
腋窩リンパ節腫大を契機に発見された潜在性乳癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 56 歳,女性。左腋窩に腫瘤を自覚し,近医を受診した。精査目的に当院に紹介受診となった。視触診,マンモグラフィ,乳房超音波検査では乳房には異常所見を認めなかったが,左腋窩に 29 mm の腫大リンパ節を 1 個認めた。細胞診では悪性リンパ腫を疑う所見であったため,腋窩リンパ節の摘出生検を施行したところ,乳癌の腋窩リンパ節転移の診断を得た。原発巣検索目的に乳腺造影 MRI 検査と PET-CT 検査を行ったが,いずれも異常所見を認めなかった。以上より,潜在性乳癌,cT0N1M0,Stage ⅡA と診断し,乳房照射を前提とした乳房非切除+レベルⅡまでの腋窩リンパ節郭清を行った。転移陽性は摘出生検したリンパ節のみであった。潜在性乳癌の治療方針は未だ確立されておらず,文献的考察を加え報告する。 -
男性乳癌を疑い診断に難渋した乳管内乳頭腫(囊胞内乳頭腫)の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description男性乳癌の頻度は乳癌全体の 1% 程度とされるが,左乳頭下に乳癌を疑う約 6 cm 大の腫瘤を形成,多彩な病理組織学的所見を示すまれな男性囊胞型乳管内乳頭腫の 1 例を経験した。症例は 73 歳,男性。5 年前に左乳頭下に数 mm の腫瘤を自覚していたが放置,3 か月前から乳頭を中心に発赤・疼痛の出現と腫瘤増大があり受診した。触診で乳頭陥凹を伴う 6 cm 大の表面平滑な腫瘤を認め,画像診断で内部充実構造のある囊胞型腫瘍を認めた。穿刺吸引細胞診(FNA)や針生検(CNB)では確定診断に至らず,乳癌の術前診断で左乳房切除術とセンチネルリンパ節生検を行った。病理診断では梗塞による出血壊死像,間質と上皮の増殖,アポクリン化生,扁平上皮化生など多彩な病理組織学的所見を伴う乳管内乳頭腫(囊胞内乳頭腫)の診断であった。男性に発生する乳管内乳頭腫で乳癌を疑わせる腫瘍径の大きな乳管内乳頭腫の報告例はまれで,外科的切除による腫瘍全体の詳細な検討が必要であった。 -
食道神経内分泌癌 2 例の治療経験
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例 1 は 74 歳,男性。精査にて食道神経内分泌癌(cT3N4M0,cStage Ⅳa)と診断された。放射線療法併用 etopo_x0002_side+cisplatin 療法を計 6 コース行い完全奏効(CR)となり,治療開始後 1 年が経過した現在も CR を維持している。症例2 は 78 歳,男性。精査にて食道神経内分泌癌(cT3N0M0,cStage Ⅱ)と診断された。右開胸開腹胸部食道亜全摘+3 領域リンパ節郭清を施行した。術後補助化学療法として irinotecan+cisplatin 療法を計 2 コース行い,術後 1 年が経過した現在も無再発生存中である。 -
頸部食道癌根治的化学放射線療法後のリンパ節再発に対し集学的治療を施行した 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 56 歳,男性。検診で食道に病変を指摘され精査の結果,頸部食道癌(cT3N2M0,cStage Ⅲ)の診断で根治的化学放射線療法を行った。治療から 1 年 3 か月後に左頸部と左腋窩リンパ節に再発を認め,R0 手術と術後化学療法を施行し,治療後は complete response(CR)となり経過観察を行っていた。初回治療より 3 年 10 か月後に左腋窩部のリンパ節に2 回目の再発を認め,化学放射線療法を施行した。再び CR になり経過観察をしていたが,初回治療より 6 年後に左腋窩部リンパ節に 3 回目の再発を認め化学療法を 6 か月間施行し CR と判定した。その後は経過観察しているが,現在も無再発生存中である。 -
ロボット支援下食道亜全摘術後に発症した乳び胸に対しリンパ管造影が有用であった 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description食道癌術後の乳び胸はまれな合併症であり,治療法は確立されていない。今回われわれは,ロボット支援下食道亜全摘術後に乳び胸を発症した症例を経験したため報告する。症例は 50 歳,女性。進行食道癌のため術前化学療法を施行後,ロボット支援下食道亜全摘術を行った。術後経過は良好であったが,術後 15 日目に突然の呼吸苦が出現,CT 検査で右胸水を認めた。右胸腔穿刺を施行し,乳び胸と診断した。完全中心静脈栄養管理・ソマトスタチンの投与を行ったが改善なく,術後 20 日目に右鼠径部よりリピオドールによるリンパ管造影検査を施行した。明らかな造影剤の漏出は認めなかったが,胸水は徐々に減少し術後 28 日目に胸腔ドレーンを抜去した。リピオドールによるリンパ管造影は,術後乳び胸に対する診断のみならず治療的観点からも有用な手技の一つと考えられた。 -
進行胃癌術後 9 年で皮膚転移再発,10 年後に腹膜播種による直腸狭窄を呈した胃癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 70 歳,男性。2010 年に胃癌に対し腹腔鏡下胃全摘術を施行し,pT4a,pN3,M0,pStage ⅢC の病理診断であった。術後補助化学療法は嘔気のため4コースしか継続できなかったが,その後明らかな再発所見なく経過していた。2019年に左鼠径部から陰囊部にかけての腫脹が出現した。生検は adenocarcinoma の所見で胃癌の皮膚転移再発と診断した。全身化学療法として CapeOX 療法を開始し病変の縮小を認めたが,副作用のため SOX 療法へ変更後,病変は消失し S‒1 単剤で治療を継続していた。2020 年 11 月に排便量減少・排便回数増加が出現,CT 検査で直腸に造影効果を伴う全周性の壁肥厚を認めた。下部消化管内視鏡検査で直腸狭窄を認めたが,生検では悪性所見は認めなかった。胃癌腹膜播種による直腸狭窄を疑い,人工肛門造設術を施行した。術中所見では直腸壁は著明に肥厚し,漿膜面は発赤を伴っていた。腹水細胞診は癌細胞陽性であった。その後,nab‒paclitaxel+ramucirumab 療法を開始したが,右腹壁結節の増大を認めたため現在はnivolumab による加療を行っている。 -
胃癌術後リンパ節再発に対して Nivolumab が長期奏効した 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 78 歳,男性。貧血の精査目的に前医を受診し,進行胃癌が疑われ当院へ紹介となった。上部消化管内視鏡検査を施行したところ,胃体下部に亜全周性の 2 型腫瘍を認め,生検で poorly differentiated adenocarcinoma を認めた。CT 検査ではリンパ節転移,肝転移を認めた。cT4bcN2cM1(HEP),cStage Ⅳに対して XP 療法を開始した。5 コース施行後,原発巣,肝転移ともに縮小を認め,効果判定 PR と診断した。幽門側胃切除術,肝部分切除術を施行した。病理結果は ypT4b(横行結腸間膜),ypN0,ypM1(HEP),ypStage Ⅳであった。術後は S‒1 を開始したが,6 か月後の CT 検査にて傍大動脈リンパ節,左総腸骨~外腸骨周囲リンパ節の再発を認め,XP 療法を再開した。しかし XP 療法 2 コース施行後もさらなるリンパ節増大を認め,効果判定 PD のため PTX+RAM 療法に変更した。7 コース施行後,リンパ節増大を認め CPT‒11 を開始した。しかしながらリンパ節はさらに増大を認め,効果判定 PD で nivolumab に変更した。nivolumab 開始後にリンパ節は縮小を認めた。経過中に骨転移を認めたため,nivolumab と denosumab を併用しているが,これまで PS の低下や免疫関連有害事象もなく,3 年間以上奏効を維持している。 -
高齢者大腸癌手術症例の短期・長期成績
48巻13号(2021);View Description Hide Description目的: 80 歳以上の大腸癌手術成績について検討した。対象と方法: 2013 年 1 月~2018 年 12 月までに原発巣切除を施行した 80 歳以上の大腸癌患者 200 例を対象とし,患者背景と手術の短期・長期手術成績への影響について検討した。患者背景因子は performance status(PS),geriatric nutritional risk index(GNRI),併存症,抗血栓剤の内服,悪性疾患既往とし,術式およびリンパ節郭清範囲を手術因子とした。結果: Clavien‒Dindo(CD)分類Ⅱ以上の合併症は PS 2 以上の症例,抗血栓剤内服例で有意に多く,腹腔鏡手術例では有意に少なかった。全体の 5 年全生存率は 62.8% であり,D3 リンパ節郭清施行例と GNRI 正常例で予後良好であった。まとめ: 高齢者大腸癌のなかでも抗血栓剤内服例と PS 不良例は慎重な周術期管理が必要である。D3 リンパ節郭清を伴う腹腔鏡手術は短期・長期成績の改善に有用であり,GNRI が予後予測因子の可能性が示唆された。 -
婦人科悪性疾患手術における消化器外科医介入による合同手術
48巻13号(2021);View Description Hide Description婦人科悪性疾患に対する腫瘍減量手術は予後を改善できる可能性がある。しかし再発病変は腸管浸潤や腹膜播種を併発していることもあり,婦人科医だけではなく消化器外科医と合同に手術することで安全に管理することができる。その際の連絡方法や周術期管理などの運用には,綿密な連携が必要不可欠である。当院では,産婦人科医が術前精査にて他臓器浸潤が疑われた時は事前に消化器外科医に連絡し,術前検査で他臓器浸潤が明らかでなかった時や手術中の腸管損傷時には,緊急に消化器外科医へ連絡を行っている。円滑な連携方法の一つとしては,定期的な合同カンファレンスを行うことが有用ある。事前に情報共有を行い,各科の専門分野を組み合わせることで根治性が高く,かつ安全な手術を行うことができ得る。 -
口蓋に生じた Polymorphous Low‒Grade Adenocarcinoma の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description多形低悪性度腺癌(polymorphous low‒grade adenocarcinoma: PLGA)は,小唾液腺由来の低悪性度腺癌で比較的まれな腫瘍である。根治的切除が行われれば予後は良好である。今回,口蓋に発生した PLGA を経験したので報告する。症例は 62 歳,女性。2019 年 4 月に口蓋の腫瘤を自覚し,受診した。口腔内所見で右側硬口蓋から軟口蓋にかけて 10 mm 大の境界明瞭,圧痛を伴わない腫瘤を認めた。臨床診断にて硬軟口蓋移行部良性腫瘍を疑い,全切除生検手術を施行し PLGA と診断された。同年 5 月に全身麻酔下に腫瘍摘出術を行った。術後は,軟口蓋挙上装置(PLP)を装着した。その後,再発・転移所見なく,軟口蓋欠損部の二期的再建として 2020 年 7 月に遊離尺側前腕皮弁再建術を施行したが,皮弁全壊死がみられた。そこで有茎頬筋粘膜弁による再々建を施行した。現在,初回手術から約 2 年を経過し,再発なく良好である。 -
下顎インプラント周囲に再発した下顎歯肉扁平上皮癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description口腔癌切除後の形態および機能再建には,広範囲顎骨支持型装置(以下,歯科インプラント)が有用である。しかし,まれにインプラント周囲炎を契機に腫瘍が再発することが報告されている。今回,下顎インプラント周囲に扁平上皮癌(SqCC)の再発を認め,手術加療を行った症例を報告する。患者は 80 歳,女性。2013 年に左舌縁部から左下臼歯部歯肉に及ぶ SqCC に対して,腫瘍切除術を施行した。その後経過は良好であり,2014 年に両側下顎犬歯相当部に歯科インプラントを 2 本埋入し,可綴式補綴装置(インプラント義歯)を装着した。今回,原発腫瘍切除後 6 年経過時に,左側下顎犬歯部インプラント周囲炎部に腫瘤性病変を認めた。精査にて SqCC 再発と診断し,腫瘍切除術およびオトガイ下皮弁と下顎骨再建用プレートによる即時再建術を施行した。同時に,残存骨に歯科インプラントの追加埋入を行った。現在,再発所見なく経過観察を行っている。 -
浸潤性乳管癌術後に子宮転移を認めた 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description浸潤性乳管癌術後に子宮転移を認めた1例を経験したので報告する。症例は浸潤性乳管癌の診断で右乳房部分切除術,センチネルリンパ節生検を施行され,術後治療としてタモキシフェン内服を開始し,経過観察していた。術後 4 年目に不正性器出血を契機に近医を受診し,細胞診で子宮体癌の疑いにて当院に紹介となり,PET-MRI で子宮体癌と診断され同時に骨転移も認めた。手術を施行し,病理組織学的所見で乳癌の子宮転移を認め,治療方針としては乳癌再発に対してアロマターゼ阻害薬と分子標的治療薬である CDK4/6 阻害薬の投薬を行うことになった。現時点まで 5 か月経過し,無増悪無再発にて経過している。 -
内視鏡的バルーン拡張抵抗性の食道癌術後難治性吻合部狭窄に対して Radial Incision and Cutting(RIC)法が有効であった 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description近年,食道癌術後の難治性吻合部狭窄に対する治療として radial incision and cutting(RIC)法が開発され,その有用性が注目されている。今回われわれは,内視鏡的バルーン拡張抵抗性の吻合部狭窄に対し RIC 法が有効であった 1 例を経験した。症例は 69 歳,女性。胸部中部食道癌に対して右開胸食道亜全摘術,胸壁前経路細径胃管再建,3 領域郭清を施行した。術後 Grade Ⅲa の吻合部縫合不全を認めたが,軽快し退院となった。退院後に吻合部狭窄を発症し,頻回の内視鏡的バルーン拡張術を要したため RIC 法を施行した。RIC 施行前には拡張術を要する間隔が約 2 週間であったものが徐々に延長し,RIC 後 1 年の現在では約 4 週間となっており,経口摂取量や体重も増加した。RIC 法は食道癌術後の難治性吻合部狭窄に対し有用である可能性があり,今後の症例集積が期待される。 -
胃癌による DIC に対して SOX 療法を行い改善が認められた 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description癌性の播種性血管内凝固症候群(DIC)合併胃癌は極めて予後不良である。症例は 78 歳,男性。胃癌,腹膜播種,Stage Ⅳと診断した。化学療法開始前に血小板減少と D‒ダイマーの上昇を認め,急性期 DIC スコア 7 点で癌性 DIC と診断した。SOX 療法(S‒1 80 mg/m2,L‒OHP 70 mg/m2)を開始し,DIC 発症から 10 日目に DIC を離脱した。しかし 21 日目に再度 DIC を発症し,2 コース目(S‒1 80 mg/m2,L‒OHP 85 mg/m2)を開始したが,DIC は改善することなく 32 日目に死亡した。フッ化ピリミジン+プラチナ製剤併用療法は DIC 合併胃癌に対して,DIC 治療の選択肢となり得ることが示唆された。 -
高度進行胃癌術後再発に対し Nivolumab で長期生存を得た 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 75 歳,男性。胃体上部小弯の 3 型病変と大動脈周囲リンパ節腫大を認め,化学療法施行後,切除可能と判断し,手術方針となった。審査腹腔鏡,開腹胃全摘術を施行し,治癒切除後 S‒1 療法を 4 コース施行したが,左鎖骨上窩リンパ節~総腸骨動脈分岐部の多発リンパ節転移が出現し,Cape+CDDP+T‒mab を施行した。急性腎不全のため,Cape+L‒OHP+T‒mab へ変更するも効果判定は PD であり,PTX+RAM を 4 コース施行した。その後 Nivolumab 投与へと至った。6 コース後 PR 判定となり 24 コース時点で SD であったが,irAE Grade 2 の間質性肺炎を発症しステロイドパルス療法,アジスロマイシンにて加療後,HOT 導入となった。現在,術後 47 か月と長期生存が得られている。 -
切除不能胃癌に対して SP 療法後に Conversion Surgery を施行し長期生存が得られた 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 60 歳台,男性。食欲不振を主訴に来院し,精査にて前庭部を中心に全周性の3 型病変を認め,生検にて低分化型腺癌と診断した。CT 検査では,腫瘍は肝左葉・横行結腸へ浸潤し,傍大動脈リンパ節の腫大や多発する播種結節を認め,胃癌,cT4bN2M1,cStage Ⅳの診断とした。切除不能進行胃癌と判断し,S-1+cisplatin(SP)療法を 6 コース施行した。化学療法後,腫瘍は著明に縮小しリンパ節の腫大や小結節の消失を認め,conversion surgery の方針とした。手術は幽門側胃切除,肝部分切除,D2 郭清,Roux-en-Y 再建を施行した。病理組織学的検査の結果,R0 切除となった。術後 S-1 を 1 年間内服し,現在術後 6 年 6 か月経過し,再発・転移を認めていない。今回,切除不能胃癌に対して SP 療法が奏効し,con_x0002_version surgery にて長期生存が得られた貴重な症例を経験したので報告する。 -
胃癌同時性多発肝転移に対して Conversion Surgery を施行した 3 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description胃癌同時性多発肝転移に対し,化学療法後,肝切除を含む R0 切除が可能であった 3 例を経験したので報告する。年齢 68~74 歳,男性:女性=2:1,化学療法のレジメンは S-1/cisplatin 療法 1 例,SOX 療法 2 例であった。術後,各々 49,47,5 か月生存中である。 -
【訂正論文】米国で FOLFOX を施行した後,本邦で胃切除と補助化学療法を導入した胃癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description※著者からの申し出により訂正いたしました。症例は1985 年から米国在住の73 歳,男性。2019 年12 月上腹部痛を主訴にミネソタ大学を受診した。胃U 領域に陥凹性病変を認め,生検でpor/sig の診断となり,精査の結果cStage Ⅱ/Ⅲの胃癌と診断された。術前化学療法(NAC)を施行してから胃切除術の方針となった。mFOLFOX6 を1 コース施行後,日本での治療を希望した。2 月に帰国し,当院を受診した。3月胃全摘+D2 郭清+Roux-en-Y 再建術を施行した。最終診断は,U,Less,ypType 2,ypT3(ss),ypN1,sM0,yfStage ⅡB,治療効果判定はGrade 2 であった。4月より補助化学療法としてDS 療法を開始した。8コース施行後,渡米した。渡米後はS-1 を個人輸入し,ミネソタ大学で治療を継続した。本邦ではガイドラインで推奨されるNAC はない。1 コースでもGrade 2 を得られたことを考えると,FOLFOX 療法も切除可能進行胃癌に対するNAC として有用である可能性があると考える。
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食道胃接合部癌術前に W‒ED Tube により食道減圧と経腸栄養を同時に行った 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 67 歳,男性。食道胃接合部腺癌と診断されたが,食道は著明に拡張し,誤嚥性肺炎を合併していた。そこで栄養用ルーメン先端が胃内,ドレーン用ルーメンが食道内となるよう W‒ED tube を留置し,約 2 週間の食道減圧,抗菌剤投与と経腸栄養を行った。栄養状態を維持しつつ,食道拡張と肺炎が改善したため手術を施行した。手術は噴門側胃・下部食道切除(膵体尾部・脾・左横隔膜脚合併切除),空腸間置再建を行った。侵襲の大きな手術であったが,肺炎,縫合不全,膵液漏,腸炎をはじめとする感染性合併症は認めず,術後 16 日目に軽快退院した。通過障害を伴う食道胃接合部癌では,食道減圧と栄養療法が同時に必要となる。術前に W‒ED tube を用いて食道減圧と経腸栄養を同時に行うことは,誤嚥性肺炎の予防と治療,食道浮腫改善による縫合不全リスクの軽減,小腸絨毛の廃用性萎縮の防止という点で非常に有用と考えられる。 -
術前増血療法後に腹腔鏡下胃全摘術を施行したエホバの証人の食道胃接合部癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は80歳,女性。食道胃接合部癌の診断で,宗教上の理由から無輸血治療目的で紹介となった。病期はcT4aN2M0,stage ⅢA であった。初診時採血で Hb 7.5 g/dL であったため全身精査とともに増血療法を開始,内視鏡検査では胃噴門部に Borrmann Ⅲ型の胃癌を認めたが出血を認めなかった。増血療法は酸化第二鉄の静注と葉酸,vitamin C,vitamin B6,vitamin B12の処方より開始したが,10 日後の Hb 値の増加が 1 g/dL 未満であったため,エリスロポエチン 24,000 単位の皮下注を計 2 回行った。治療開始 34 日目で Hb 11.6 g/dL となり,腹腔鏡下胃全摘術+D2 郭清を行った。手術時間 415 分,術中出血量は 190 mL で終了した。術後 16 日目に Hb 値 10.1 g/dL にて軽快退院した。病期は pT4bN2M0,stage ⅢB であった。悪性腫瘍に伴う貧血の原因は主腫瘍からの出血による鉄欠乏性貧血と担癌状態や炎症,感染に伴う機能性貧血が併存した病態を呈する場合が多く,手術を見据えた貧血の治療に際しエリスロポエチンの投与はこうした病態に有効であった。術前貧血を有するエホバの証人の胃癌患者に対しエリスロポエチンを併用した増血療法後,安全な胃切除術を施行した症例を経験したので報告する。 -
腹腔鏡下胃切除術の肝圧排における肋弓に左右されないペンローズ法―y‒Shape+1 法―
48巻13号(2021);View Description Hide Description肋弓の位置に左右されない肝圧排法である y‒shape+1 法を報告する。併せて肝圧排法の違いによる肝酵素の変化について報告する。6 cm に切った No. 6 ペンローズドレーンを 3 本用意する。端に糸を付けたペンローズ 1 と,ペンローズ 2を y 状に固定する。針付き編糸を用意し,糸の端に輪を作っておく。針糸を腹壁にかけペンローズ 2 に通す。針糸を横隔膜脚にかけ,ペンローズ 3 に通す。腹壁,横隔膜脚とかけた糸とペンローズ 1 の端に固定した糸を体外に引きだし,肝臓を圧排する。肝酵素の術前からの変化率を Penrose 群,Nathanson 群に分けて検討したところ,術後 1 日目では Nathanson 群で高い傾向にあった。y‒shape+1 法では,体腔内の縫合結紮は必要ではあるが,肋弓の位置にかかわらず肝圧排を行うことが可能である。肋弓の位置によって,従来のペンローズ法が不適当な場合には有用である。 -
術前診断に難渋した胃リンパ球浸潤癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 71 歳,男性。検診で胃粘膜下腫瘍を指摘され当院を受診した。胃前庭部 GIST の診断となり,胃局所切除術を実施した。この際に上部消化管内視鏡検査で胃穹窿部後壁にも 5 mm 程度の胃粘膜下腫瘍を指摘されたが,経過観察となった。同病変部は 2 年後の内視鏡検査で 10 mm 程度まで増大しており生検を行った。病理検査から胃 MALT リンパ腫の診断となり,ヘリコバクター・ピロリの除菌療法を施行した。治療後の内視鏡検査で同病変は 20 mm 程度までさらに増大し,潰瘍形成もみられた。再度生検をして低分化腺癌の診断となり,腹腔鏡下噴門側胃切除術を実施した。術後の病理検査でリンパ球浸潤癌,pT3N0M0,pStage ⅡA の診断に至った。胃リンパ球浸潤癌は胃癌全体の約 1~4% の頻度とまれな疾患であり,術前診断は困難である。形態や組織像から粘膜下腫瘍やリンパ腫との鑑別が問題となってくる。 -
十二指腸非乳頭部腫瘍における手術成績および臨床病理学的検討
48巻13号(2021);View Description Hide Description十二指腸非乳頭部腫瘍は比較的まれな腫瘍であるが,近年遭遇する機会が増えてきた。2011 年 1 月~2021 年 4 月の間に当施設にて十二指腸非乳頭部腫瘍の術前診断に基づき,外科的手術を施行した 20 例を対象とし,その手術成績および臨床病理学的検討を行った。平均年齢 64.3 歳,男女比 17:3,GIST 3 例,腺腫 4 例,腺癌 13 例に対して外科的手術を施行した。腫瘍の局在は球部 5 例,上十二指腸角 2 例,下行脚 9 例,水平脚 3 例,上行部 1 例であった。術式は十二指腸局所切除術から膵頭十二指腸切除術に至るまで様々で,根治切除不能例においては胃空腸吻合術を施行した。平均腫瘍径は31.4 mm,腺癌の組織型は早期癌では全例 tub1 であったのに対し,進行癌では tub1 以外の組織を含む症例が多かった。十二指腸非乳頭部腫瘍は,局在やリンパ節郭清の有無によって多様な術式が選択される。根治性と侵襲性を勘案した治療方針の確立が必要である。 -
術直前に血管塞栓術を施行し切除し得た巨大小腸 GIST の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 42 歳,女性。貧血,発熱を主訴に来院した。下腹部の膨隆と筋性防御を認め,CT 所見で長径 25 cm 大の骨盤内から下腹部を占拠する分葉状の腫瘍を認めた。充実部分と囊胞部分が混在し,腸管または腸間膜由来の腫瘍と考えられた。切除時の大量出血が予想されたため術直前に動脈塞栓後,開腹手術を施行した。腫瘍背側の下腸間膜動静脈への血管流入を処理し剝離していくと,回腸末端と腫瘍が連続しており合併切除した。手術時間 4 時間 18 分,出血量は 2,585 mL で濃厚赤血球 6 単位の輸血を施行した。病理組織学的所見では腫瘍細胞は免疫染色で c-kit と DOG-1 が陽性で GIST と診断した。術後は 3 年間のイマチニブ内服を継続し,現在術後 6 年間無再発生存中である。 -
大腸全摘,回腸双孔式人工肛門造設術後における腎機能と 大腸癌術後補助化学療法の忍容性についての検討
48巻13号(2021);View Description Hide Descriptionrestorative proctocolectomy with ileal pouch⊖anal anastomosis(IPAA),diverting ileostomy(DI)を行った大腸癌11 例(家族性大腸腺腫症 6 例,潰瘍性大腸炎 5 例)の腎機能(estimated glomerular filtration rate: eGFR)の推移,adjuvant chemotherapy(ACT)を施行した 4 例の feasibility について検討した。IPAA 後に eGFR は有意に低下し(p=0.02),人工肛門閉鎖後も IPAA 前と同等レベルには戻っていなかった(p<0.01)。ACT 後の eGFR に有意な低下は認められなかった。regimen は全例 mFOLFOX6 が選択され,oxaliplatin の relative dose intensity は 91.7%,Grade 3 以上の消化器症状の有害事象は認めなかった。少数例の検討ではあるが,IPAA,DI 後において mFOLFOX6 による ACT は施行可能と考えられる。 -
Capecitabine による大腸癌術後化学療法中に重篤な副作用を来し DPD 欠損症が疑われた 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 76 歳,女性。上行結腸癌に対して腹腔鏡下結腸右半切除術を施行した。術後病理診断は pT3(SS),pN2a,cM0,pStage Ⅲb であり,術後 24 日目より capecitabine による術後補助化学療法を開始した。内服開始 14 日目より食欲不振(grade 3),口腔粘膜炎(grade 3),下痢(grade 3)を認め,さらに内服開始 18 日目には好中球減少(grade 4)も認めたため入院加療を開始した。入院後,発熱性好中球減少症(grade 3),血小板減少症(grade 4)が出現し,感染性腸炎からの敗血症,DIC も来した。G‒CSF や広域抗生剤の投与など支持療法を行い軽快した。診断的検査は施行できていないが,臨床経過から DPD 欠損症が強く疑われ,また早期治療介入により救命できた。 -
Ramucirumab による Treitz 靱帯直下の空腸穿孔に Primary Suture で対応可能であった 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Descriptionはじめに: ramucirumab(RAM)は血管内皮増殖因子受容体 2(VEGFR‒2)に対する完全ヒト型 IgG1 モノクローナル抗体である。RAISE 試験において,FOLFIRI+RAM はプラセボ群と比較し,有意な全生存期間(OS)の延長が示された。しかし RAM には有害事象として消化管穿孔が報告されている。今回,大腸癌術後再発に対して投与された RAM の有害事象により Treitz 靱帯直下の空腸に生じた腸管穿孔に対して,primary suture で対応した症例を経験したため報告する。症例: 患者は 74 歳,男性。主訴: 腹痛。S 状結腸癌,cT4a,N1,H1,PUL1,M1,cStage Ⅳに対して,腹腔鏡下 S 状結腸切除術が先行して施行された。術後化学療法として CapeOX+bevacizumab(BEV)を 3 コース,FOLFOX+BEV を 20 コース施行し部分奏効(PR)であった。肝転移・肺転移に対して手術を施行され,その後無治療で経過していたが,骨盤内再発と肺転移を指摘され,FOLFIRI+RAM を開始した。2 コース目投与後 7 日目に腹痛を自覚し,救急搬送された。腸管穿孔が疑われ,同日緊急手術を施行した。Treitz 靱帯直下の空腸に径 5 mm 程度の穿孔とその付近に微小な虚血性変化を疑う所見を認めた。他の腸管に問題なく,RAM による腸管穿孔が疑われた。吻合は困難な状況であったため,primary suture と減圧で対応した。術後経過は問題なく,POD 18 に退院となった。現在は RAM を中止し,FOLFIRI で化学療法を継続している。まとめ: RAMの有害事象で起こった回腸穿孔に対し腸管切除することなくprimary sutureで対応できる症例があることが示された。 -
横行結腸癌術後の縫合不全後に発生した上腸間膜動脈症候群の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 63 歳,男性。4 か月前に横行結腸癌に対して腹腔鏡下結腸左半切除術,手縫い吻合を施行した(pStage Ⅲa)。術後縫合不全を認め,保存的加療後に軽快退院となった。退院後の経口摂取量は一定せず,腸閉塞症状が続くため,内視鏡検査と造影 CT 検査を施行した。吻合部狭窄を認め,バルーン拡張術を 2 回施行した。2 回目の拡張同日に吻合部穿孔を認め,緊急吻合部切除術を施行した。再手術後 2 日目に胆汁様嘔吐を認め,胃管挿入と高カロリー輸液を開始した。この時点で術前と比べ体重は 15 kg の減少を認めていた。その後も経口摂取が進まず検査を施行したところ,上腸間膜動脈症候群を認めた。保存的加療後 10 日目に濃厚流動食を開始し,22 日目に軽快退院となった。今回われわれは,横行結腸癌術後の縫合不全が原因で経口摂取が安定せず,急激な体重減少を来したことにより発生した上腸間膜動脈症候群の 1 例を報告する。 -
pStage Ⅱ大腸癌における再発リスク因子の検討
48巻13号(2021);View Description Hide Description背景: Stage Ⅱ大腸癌の再発リスク因子に関しては統一した見解が得られていない。今回,当センターにおけるpStage Ⅱ大腸癌の再発リスク因子を検討した。対象・方法: 2014 年 1 月~2019 年 12 月に,当センターにて根治切除を施行した大腸癌のうち術前(放射線)化学療法の施行例を除く,病理組織学的に Stage Ⅱと診断された症例を対象に,臨床病理学的因子について後方視的に集積し解析した。結果: 対象症例は 311 例で,再発を 32 例(10.3%)に認めた。pStage Ⅱ大腸癌の 3 年/5 年無再発生存率は 88.4%/87.6% であった。無再発生存期間に対する多変量解析では,深達度 pT4(HR: 4.06,95%CI:1.60‒10.29,p=0.003)のみが独立した再発リスク因子であった。結語: 当センターにおける pStage Ⅱ大腸癌の術後の再発リスク因子は深達度 pT4 であった。 -
ICG 修飾リポソームを用いた光線力学的療法における至適照射時期―自験例 4 例の考察―
48巻13号(2021);View Description Hide Description背景: liposomal ICG を用いた光線力学的療法(photodynamic therapy: PDT)に関しては実臨床におけるデータが少なく,その腫瘍集積や照射時期を含めた最適な治療法に関しては不明な点も多い。目的: PDT を実施する乳癌患者においてliposomal ICG の経時的な腫瘍集積を評価すること。方法と結果: 対象は 2020 年 8~10 月にかけて TACE に加え PDT を実施した乳癌患者 4 名とした。光照射 24 時間前に liposomal ICG を計 300 mg 投与し(TACE の際に腫瘍栄養血管より 120 mg,静脈内投与で 180 mg),近赤外光カメラシステム(LIGHTVISION®,株式会社島津製作所)を用いて腫瘍集積の評価を実施した。3 例では 24 時間後に腫瘍内における liposomal ICG の局所集積が観察された。一方で,1 例においては 6 時間後に腫瘍内局所集積を認めたものの 24 時間後の時点ですでに腫瘍内局所集積が消失していた。結語: 乳癌患者に対する liposomal ICG を用いた PDT において,近赤外光カメラシステムは腫瘍内集積の確認と至適照射時期を判断する一助となる可能性が示唆された。 -
肛門管腺癌における鼠径リンパ節転移例の検討
48巻13号(2021);View Description Hide Description鼠径リンパ節郭清を施行した肛門管腺癌のうち,鼠径リンパ節転移(鼠径転移)陽性 11 例と陰性 62 例の治療成績を比較した。鼠径転移陽性例は陰性例に比して高齢で,術前血清 CEA および CA19‒9 が高値で,非分化型腺癌,T4b,高度リンパ管侵襲例が多く,間膜内の転移リンパ節数および側方の転移リンパ節数が有意に多かった。鼠径転移陽性例の根治度 A手術の施行率は 63.6%(7 例)と陰性例(93.5%)に比べて有意に低率であるが,Stage Ⅲ症例では鼠径転移陽性例と陰性例で再発率,予後に差を認めなかった。鼠径転移陽性例では初再発部位として鼠径リンパ節(2 例),全再発部位では骨盤内再発(4 例)が陰性例に比べて有意に高率であった。Stage Ⅲ肛門管腺癌では鼠径転移陽性の治療成績は鼠径転移陰性と同等だが,鼠径リンパ節および骨盤内再発に注意した術後フォローアップが必要と考えられた。 -
肝細胞癌に対する TACE 前後での NLR 変動の意義
48巻13号(2021);View Description Hide DescriptionHCC に対する TACE の前後での好中球/リンパ球比(NLR)の変動の意義につき検討した。対象は 2010 年 1 月~2019年 12 月に施行した初回の TACE 108 例で,TACE 前と 1 か月後に NLR を算出し,治療効果,予後との関連性を検討した。TACE 前後の NLR の推移を cut‒off 値 5.0 で 3 群に分類すると,A 群(TACE 後に 5.0 未満)52 例(48.1%),B 群(TACE後に 5.0 以上)33 例(30.6%),C 群(TACE 前後とも 5.0 以上)23 例(21.3%)で,MST は A 群 25.0 か月,B 群 18.5 か月,C 群 12.7 か月であった(p=0.0005)。また,多変量解析では治療効果度,血清アルブミン値,NLR 推移,AFP 値の 4因子が TACE 後の HCC の予後因子であった。TACE 前後の NLR の推移は治療効果を反映し,より詳細な予後予測の一助となる可能性がある。 -
乳癌局所療法後のサルコペニア回避のための四肢骨格筋の評価
48巻13号(2021);View Description Hide Descriptionサルコペニアは,骨格筋量の減少と筋力および筋機能の低下した状態とされ,乳癌において手術後の予後因子として報告されている。本研究では当院で初回手術治療が行われた乳癌 41 症例について,骨格筋量,筋力,筋機能を個別に測定し,周術期に各因子の変化を検討した。また,手術時の年齢,術式により症例群を分類し,各症例群の術後サルコペニア化の潜在リスクを検討した。全症例の傾向では,患側上肢の筋力低下と下肢の骨格筋量減少を認めた。また,75 歳以上の高齢者と乳房全切除術の症例群には,筋肉量や筋力の低下が認められた。高齢者や乳房全切除術の症例には,手術後にサルコペニア化を来す潜在リスクがあると思われた。サルコペニアの潜在リスクを適切に評価するためには,骨格筋量,筋力,筋機能を正確に測定する必要性が示唆された。また,高齢者や乳房全切除術の症例には,全身の筋機能維持のための個別のリハビリテーションの導入が重要と思われた。 -
幽門輪温存幽門側胃切除術後症例の空腹期強収縮帯からみた残胃内食物残渣停滞について
48巻13号(2021);View Description Hide Description早期胃癌機能温存術式の幽門輪温存幽門側胃切除術(pylorus‒preserving gastrectomy: PPG)は,術後に残胃内食物残渣停滞(gastric stasis in the remnant stomach: GSRS)による食後腹部膨満感(postprandial abdominal fullness: PAF)を来すことが多い。今回,GSRS の有無および臨床症状と空腹時強収縮帯(interdigestive migrating motor complex: IMMC)出現率の関連について検討した。対象は術後 1.5~3 年経過している早期胃癌における迷走神経温存 PPG 症例[粘膜癌,リンパ節転移なし,遠隔転移なし; Stage ⅠA(TNM 分類)]30 例(男性 17 例,女性 13 例,38~78 歳,平均 62.3 歳)である。これら症例を A 群(18 例: GSRS 陽性例)と B 群(12 例: GSRS 陰性例)の 2 群に分け,GSRS の有無と臨床所見およびIMMC との関連を検討した。IMMC 測定については,経鼻的に micro‒tip force transducer 付き catheter を挿入し,残胃と十二指腸の IMMC を測定した。なお,残胃の大きさは術前の 1/3 である。残存幽門洞長は,A 群(1.5±0.2 cm)が B 群(3.2±0.3 cm)より有意に短かった(p=0.0004)。食欲は A 群が B 群より有意に不良で,PAF は A 群が B 群より有意に多く認めた(それぞれ p=0.0067,p=0.0001)。逆流性食道炎は A 群が B 群より多く認められ,早期ダンピング症候群は両群とも認めなかった。残胃内視鏡所見は A 群は B 群より有意に残胃炎を伴う GSRS を多く認めた(p=0.0001)。IMMC 出現率は,A 群が B 群より有意に低率であった(p<0.0001)。GSRS による PAF は IMMC の出現率不良に起因すると思われた。 -
腎癌多発膵転移に対する膵全摘の臨床的意義
48巻13号(2021);View Description Hide Description膵内分泌,外分泌機能の補充療法の進歩により膵全摘の適応は広がり,腎癌多発膵転移に対しても報告例が増えつつある。本研究では腎癌多発膵転移に対する膵全摘の有用性を検討した。対象は 2012~2021 年までに当科で腎癌多発膵転移に膵全摘を施行した 8 例とした。膵全摘後の観察期間の中央値は 31(3~92)か月で,8 例中 6 例は非担癌生存しており,1 例は化学療法(pazopanib+axitinib)+放射線療法を施行し担癌生存(SD 維持),1 例は低血糖関連で死亡した。8 例中 4 例は2 年以上生存しており,うち 2 例は 5 年以上の生存が確認できた。術後は内分泌・外分泌機能のサポートが必要だが,腎癌多発膵転移に対する膵全摘は長期予後が望めるため,有力な選択肢と考えられる。 -
胃癌術後 S‒1 内服中に再建小腸粘膜傷害,吻合孔狭窄を来した 1 症例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 83 歳,女性。胃体部癌に対して腹腔鏡下幽門側胃切除術,Billroth Ⅱ再建を施行した。pStage ⅢA であり,術後 7 週目に術後補助化学療法として S-1 を開始した。内服後 17 日目より食思不振,嘔気が出現し,19 日目に緊急入院となった。入院時腹痛や下痢は認めなかった。上部消化管内視鏡検査では再建小腸の粘膜が脱落しており,吻合孔は開存しているものの吻合孔に再建小腸の対側の筋層が癒合し,輸入脚,輸出脚が狭窄していた。短期的な保存的加療で改善がなく,手術や内視鏡的拡張術も検討されたが小腸粘膜が再生しておらず,リスクが高いと判断し,保存的加療が継続された。入院後 50 日目に腸管粘膜の再生を確認し,78 日目より輸出脚のバルーン拡張術を開始した。その後も拡張術を 7 回繰り返し,入院後 151 日目に自宅退院となった。本症例は S-1 による粘膜傷害に起因する輸出脚の狭窄が考えられるが,文献的考察を加えて報告する。 -
化学療法施行後に左尿管温存腹腔鏡下高位前方切除術を施行した左水腎症合併直腸癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 47 歳,女性。5 か月前からの体重減少,下血,下腹部痛を主訴に当院を紹介受診となった。精査の結果,直腸S 状部癌,cT4b(尿管),N3M1c2(LYM1P1),cStage Ⅳc と診断した。尿管浸潤による左水腎症および腫瘍による亜閉塞に対して左腎瘻,横行結腸双孔式人工肛門を造設後に capecitabine,oxaliplatin+bevacizumab(CAPOX+Bmab)を計 8コース施行した。原発巣および転移巣の縮小を認め,治療効果は PR と判定し腹腔鏡下高位前方切除術を施行した。左尿管は剝離可能であったため温存し,原発巣は遺残なしと判断した。術後も肝転移・遠隔リンパ節転移に対して CAPOX+Bmab療法を計 4 コース施行し,その後は oxaliplatin を除いたメンテナンス療法を継続している。術後 8 か月現在,局所再発は認めず肝転移,リンパ節転移も縮小を維持している。 -
腹部大動脈,下大静脈間に発生した異所性褐色細胞腫の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description今回われわれは,比較的まれな異所性褐色細胞腫の 1 例を経験した。症例は 50 歳,男性。検診で腹部腫瘤を指摘され,CT にて腹部大動脈,下大静脈の間に後腹膜腫瘤を認めた。精査した結果,異所性褐色細胞腫が考えられた。無症状で大血管浸潤が疑われたが,増大傾向で悪性の可能性があるため切除する方針とした。後腹膜腫瘍摘出術を施行し,腹部大動脈,下大静脈への腫瘍浸潤が危惧されたが,浸潤を認めず剝離可能であった。慎重に剝離操作を行い,術中血圧変動を認めなかった。病理組織学的結果は異所性褐色細胞腫の診断であった。考察: 褐色細胞腫は WHO 分類 2017 では「全ての症例において転移の可能性がある悪性のポテンシャルを有する腫瘍」と定義されている。本症例は GAPP score から中悪性度が示唆され,今後注意深い経過観察が必要と考えられた。 -
単独脳転移を来した胃癌の 3 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description脳単独転移を来した進行胃癌 3 例を経験した。3 例ともに胃上部進行癌で,小脳に単発転移,経過中他臓器に転移なしと類似する所見であった。小脳転移はヘルニアのリスクがあることから,3 例とも切除した。術後に放射線治療を併用し,うち 1 例は 2 年を超える生存が得られた。 -
術前 3D‒CT により脾動脈から分岐する副中結腸動脈を指摘した腹腔鏡下結腸左半切除術
48巻13号(2021);View Description Hide Description横行結腸領域における血管走行は多岐にわたる。そのなかでも脾動脈から分岐する副中結腸動脈(A‒MCA)の報告は非常にまれである。今回われわれは,術前に 3D‒CT で脾動脈から分岐する A‒MCA が支配血管であることを確認できた横行結腸癌に対して腹腔鏡下結腸左半切除術を施行した。術前 3D‒CT を参考にして,脾動脈から分岐する A‒MCA を処理することで安全に郭清することができたので報告する。症例は 70 代,男性。脾弯曲付近の横行結腸癌(cT1bN0M0,Stage Ⅰ)で,術前 CT で血管と膵と病変部領域の結腸の 3D 構築を行ったところ,病変の支配血管は脾動脈から分岐する A‒MCAであった。腹腔鏡下結腸左半切除術を施行し,郭清は D2 相当とした。術前 3D‒CT で血管走行を把握することで,安全に血管処理と郭清を行うことができ,術前 3D‒CT は安全な手術のために有用であると思われる。 -
Controlling Nutritional Status(CONUT)Score による大腸癌患者の予後予測
48巻13号(2021);View Description Hide Description大腸癌手術症例について controlling nutritional status(CONUT)score と長期予後に関して検討した。2013 年 1 月~2015 年 12 月に手術加療を行った大腸癌患者で CONUT score を算出可能であった 449 例を対象とし,後方視的に検討を行った。術前に行った採血で算出した CONUT score による栄養状態が正常の症例(1 点以下)が 266 例(59.2%),軽度不良以上の症例(2 点以上)が 183 例(40 .8%)であった。それぞれを low 群,high 群として周術期成績,生存期間との関係について検討した。全生存期間は high 群で有意に短く,他病死による生存期間も high 群で有意に短かった。術前採血から求められた CONUT score で栄養不良群では全生存期間が短く,特に他病死による予後の指標として用いることができる可能性が示唆された。 -
上行結腸癌初回手術から 20 年目に局所再発を来した 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 67 歳,男性。47 歳時に上行結腸癌に対して結腸右半切除術+D3 郭清を施行し,tub1>tub2,T3,N0,M0,ly1,v1,Stage Ⅱa の診断であった。初回手術から 20 年後,間欠的腹痛,腹部膨満症状を自覚し当院を受診した。腹部 CTで回腸結腸吻合部に狭窄と壁肥厚を認めた。上部・下部消化管内視鏡検査,PET‒CT 検査による結果と併せて,異時性結腸癌,十二指腸浸潤の診断となり,回腸‒横行結腸部分切除術+十二指腸合併切除を施行した。病理結果は吻合部局所再発の診断であった。術後は補助化学療法を実施したが,食欲不振のため中止となった。現在,術後 7 か月で無再発生存中である。大腸癌術後 5 年を超えてからの再発はまれで,局所再発の報告はさらにまれである。早期発見,治療を行えば長期予後を得られる可能性があり,術後 5 年を超えた症例でも再発を念頭に検査,治療を行う必要がある。 -
虫垂炎術後 1 年後に腹水貯留を契機に診断された虫垂癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 68 歳,男性。201X 年 10 月に腹部膨満を主訴に当院を受診した。McBurney 点の圧痛を認め,採血で WBC 高値,CT で虫垂の腫大を認めて急性虫垂炎の診断となり,同日緊急で腹腔鏡下虫垂切除術を施行した。経過良好で術後 4 日目に退院となった。病理組織学的検査では急性壊疽性虫垂炎の診断で終診となった。翌年 8 月に CT で腹水貯留を認め,精査のため当院消化器内科を紹介受診した。下部内視鏡で虫垂入口部の腫大を認め,生検で adenocarcinoma の診断となった。CT では大網の顆粒状濃度上昇を認めた。虫垂癌・腹膜播種の診断にて 10 月に審査腹腔鏡を施行した。小腸間膜,大網に結節が散在し,術中迅速診断で腹膜播種の疑いとなり,審査腹腔鏡のみで手術終了とした。虫垂癌・腹膜播種の診断にて,mFOLFOX6+bevacizumab 導入となった。原発性虫垂癌は比較的まれな疾患であり,虫垂炎手術後に診断されることが多いとされ,0.03~0.5% 程度に認めたとも報告されている。今回,若干の文献的考察を加えて報告する。 -
特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH)を合併した下行結腸癌に対し 腹腔鏡下結腸左半切除術を施行した 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description特発性肺動脈性肺高血圧症(idiopathic pulmonary arterial hypertension: IPAH)を合併した下行結腸癌に対し腹腔鏡下結腸左半切除術を施行した 1 例を経験した。症例は 39 歳,女性。201X 年 11 月に下血,便通異常を自覚し近医を受診した。精査の結果,下行結腸癌を指摘され,手術加療の方針となった。合併する IPAH のため,術中循環動態維持困難が予測されたが,操作開始前に気腹下で循環動態の維持が可能であることを確認し,術中はノルアドレナリン(NAD)およびフェニレフリンを適宜併用することで腹腔鏡下結腸左半切除術を術中トラブルなく遂行し得た。術後病理組織学的所見は以下のとおりであった。Type 2,tub1>tub2,pT4a(SE),pN1a(1/65),int,INF b,ly1,v1,Pn1b,pPM0,pDM0,pStage Ⅲb(大腸癌取扱い規約第 9 版)。術後は PGI2 製剤の副作用と思われる Grade 2 の下痢症状以外には合併症などなく順調に経過し,術後 18 日目に退院した。 -
腹腔鏡下結腸右半切除術後に腎盂尿管移行部狭窄症が診断された 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 50 歳台,女性。腹痛,血便を主訴に前医を受診し,2020 年 7 月に消化管内視鏡検査を施行され,上行結腸下部に 2 型進行癌,胃体上部小弯前壁に頂部に潰瘍を伴う腫瘍を認めた。検査結果を総合し,上行結腸癌(cT4aN1bM0,cStage Ⅲb,UICC),食道胃接合部癌(cT1bN0M0,cStage ⅠA,UICC)と診断された。術前 CT で両腎盂の軽度拡張を認めた。上行結腸癌に対し同年 8 月に腹腔鏡補助下結腸右半切除術(Lap‒RHC),D3 郭清を施行し,また同年 9 月ロボット支援下噴門側胃切除術(RAPG)を予定し手術 2 日前に腹部 CT を撮影したところ,右水腎症を認めた。Lap‒RHC 中に明らかな尿管損傷を疑う所見はなく,逆行性腎盂尿管造影術で右腎盂尿管移行部に強い狭窄を認めた。Lap‒RHC の術後炎症性変化により尿管が圧排され,右水腎症として腎盂尿管移行部狭窄症(UPJO)の所見が顕著になったものと考えられた。2020 年 9 月予定どおり RAPG を施行し,2 か月後に腎瘻を造設,今後腎盂形成術を施行予定である。 -
家族性大腸腺腫症に合併した回腸人工肛門部癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 65 歳,女性。40 歳ごろに家族性大腸腺腫症(FAP)と診断され,大腸全摘・永久回腸人工肛門造設術を受けた。当科では 59 歳時に十二指腸ポリポーシス/粘膜内癌に対し,膵温存全十二指腸切除術を受けた。63 歳以降,当科への通院を自己中断していた。回腸人工肛門部の腫瘤の増大(最大径 10 cm)と,人工肛門管理困難のため当科を再受診した。生検では悪性所見を認めなかったが CA19-9 が高値であり,回腸人工肛門部癌の疑いで人工肛門部を含めた回腸部分切除・回腸人工肛門再造設術を施行した。病理組織学的診断では Stage ⅡA の回腸癌であった。術後 7 か月の現在,再発の兆候を認めていない。本症例は,大腸癌・十二指腸癌が制御された FAP 患者のサーベイランスに関し,回腸癌の存在を考慮する点において貴重な症例であり,若干の文献的考察も加えて報告する。 -
S 状結腸 Gastrointestinal Stromal Tumor(GIST)に S 状結腸早期癌を合併した 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 67 歳,男性。2019 年 3 月に便潜血陽性にて当院を紹介受診した。4 月下部消化管内視鏡検査にて,S 状結腸に25 mm 大の有茎型ポリープを認め,内視鏡的粘膜切除術を施行した。病理診断では tub1-tub2,深達度(pT1b 3000μm),脈管侵襲は ly0,v1 であった。腫瘍マーカーは CEA 1.1 ng/mL,CA19-9 13.9 U/mL と正常であった。追加切除のため,6月腹腔鏡下低位前方切除術,D2 郭清を施行した。病理組織学的検査所見では内視鏡的粘膜切除術後瘢痕部の固有筋層に,紡錘形細胞が束状に錯綜して密に増生する像がみられた。リンパ節転移は認めなかった。免疫染色では,c-kit 陽性,CD34 陽性,DOG1 陽性,desmin 陰性,SMA 陰性,S-100 陰性,MIB-1 index(2%)であり,超低リスク GIST と診断した。S 状結腸 GIST に S 状結腸早期癌を合併したまれな症例を経験した。 -
EMR 後の 5 mm の直腸神経内分泌腫瘍(NET)G1 に対して追加切除にてリンパ節転移を認めた 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description今回われわれは,内視鏡的切除後の腫瘍径 5 mm の直腸神経内分泌腫瘍(NET)G1 に対して外科的追加切除を施行し,リンパ節転移を認めた症例を経験したので報告する。症例は 33 歳,女性。血便精査のため下部消化管内視鏡検査を施行したところ直腸 Ra に 5 mm の粘膜下腫瘍を認め,内視鏡的粘膜切除術を施行した。切除組織の病理検査にて NET G1 の診断となった。HE 染色にて切除断端陰性で脈管侵襲像は明らかには認めなかったが,追加免疫染色にてリンパ管侵襲像を認めた(Ly1a)。外科的追加切除の方針となり,腹腔鏡補助下低位前方切除,D3 郭清を施行した。手術切除標本にて直腸本体には残存 NET 成分を認めないものの,1 群リンパ節に 1 個の転移所見を認めた。術後経過は問題なく手術から 6 か月経過した現在,再発なく経過中である。NET G1 において,小さな病変であっても免疫染色による詳細な脈管侵襲像の検索が重要であり,また脈管侵襲を認めた場合は外科的追加切除を考慮する必要があると考えられた。 -
局所進行切除不能膵癌 CRT 後に Conversion Surgery を施行し長期無再発生存中の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description動脈浸潤を伴う局所進行切除不能膵癌は,膵癌診療ガイドライン(2019 年版)では化学放射線療法(CRT)または化学療法が推奨されている。しかしその予後は極めて不良である。今回,局所進行切除不能膵癌に対して CRT が奏効し,conversion surgery で根治切除し得て長期間無再発生存中の 1 例を経験したので報告する。 -
大動脈周囲リンパ節転移を伴う膵頭部癌に対し集学的治療により長期生存を得た 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 64 歳,男性。慢性腎臓病で当院通院中に腹部 CT で膵頭部癌と診断された。腹部 CT および MRI では遠隔転移や大動脈周囲リンパ節(PALN)転移は認めなかった。手術の方針とし術中に PALN サンプリングを行ったところ,迅速病理診断にてリンパ節 4 個中 2 個に転移を認めた。非切除とした場合,腎機能障害のため標準的な化学療法を施行できないと考え,PALN 郭清を伴う亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した。病理診断は浸潤性膵管癌であり,S‒1 による術後補助化学療法を減量して行った。術後 1 年 10 か月で腸間膜内リンパ節再発および肺転移再発を認めた。さらに,術後 2 年で腹腔内再発による上腸間膜動静脈狭窄を認めた。腹腔内再発に対し放射線療法を行い,引き続き gemcitabine 単独療法を行った。肝外門脈狭窄による腹水貯留や消化管出血は治療により軽快した。結果,術後 5 年 7 か月の長期生存を得た。 -
骨・軟骨化生を伴う乳癌と膵体部癌の重複癌に対して術前化学療法後に同時切除した 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 78 歳,女性。左乳房腫瘤を主訴に当院を受診した。超音波検査で左乳腺 C 区域に 48 mm の乳腺腫瘤と腋窩リンパ節腫大を指摘され,針生検で浸潤性乳管癌とリンパ節転移の診断であった。造影 CT 検査で門脈浸潤を伴う 30 mm の膵体部腫瘤が指摘され,EUS-FNA で腺癌を認めた。左乳癌および切除可能境界膵体部癌の同時性重複癌と診断し,術前化学療法として gemcitabine+nab-paclitaxel 療法を施行した。効果判定は乳癌が SD,膵癌が PR で治癒切除可能と判断し,脾合併膵体尾部切除術,門脈・胃十二指腸動脈合併切除再建術,左乳房全摘術および左腋窩リンパ節郭清術を行った。病理組織検査で骨・軟骨化生を伴う乳癌および膵中分化型腺癌の診断であった。術後補助療法として fluorouracil+epirubicin+cyclophosphamide 療法を施行,現在無再発で経過している。 -
膵癌に対する亜全胃温存膵頭十二指腸切除術後の挙上空腸間膜内再発に切除を施行した 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 73 歳,女性。71 歳時に切除可能膵頭部癌に対して亜全胃温存膵頭十二指腸切除術,門脈楔状切除,横行結腸部分切除,child 変法再建を施行し,pT3,pN0,Stage ⅡA であった。術後 18 か月の腹部造影 CT 検査で挙上空腸間膜内に8 mm の結節を指摘,さらに術後 24 か月目の腹部造影 CT 検査で結節の増大(20 mm),FDG‒PET 検査で FDG の集積亢進を認めた。以上より,孤立性の挙上空腸間膜内再発と診断し切除術を行った。病理結果は小腸漿膜側に癒合傾向のある中分化型腺癌であり,腫瘍辺縁にリンパ節組織を認めず,膵癌の挙上空腸間膜内再発として矛盾しない所見であった。また,近傍のリンパ節に転移を認めた。術後 1 年 6 か月間無再発生存中である。膵癌術後挙上空腸間膜内再発は極めてまれである。挙上空腸間膜内再発は遠隔転移再発ではあるが,他部位に遠隔転移がなく根治切除が可能と判断すれば,手術が選択肢の一つになると考える。 -
腹腔鏡下膵体尾部切除後,Needle Tract Seeding による胃壁再発を来した膵癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 80 歳台,女性。膵尾部腫瘤に対し経胃的に endoscopic ultrasound‒guided fine needle aspiration(EUS‒FNA)で膵尾部癌と診断し,腹腔鏡下膵体尾部切除を施行した。術後補助化学療法を完遂し経過観察中であったが,術後 1 年の造影 CT で胃体中部後壁に 15 mm 大の腫瘤を認めた。EUS では第 4 層を主座とする低エコー腫瘤として描出され,FNA で腺癌と診断された。EUS‒FNA 後の needle tract seeding(NTS)による胃壁再発を疑い,胃部分切除術を施行した。病理組織検査で膵癌の胃壁再発と診断された。EUS‒FNA 後の NTS はほとんどが孤立性胃壁再発として診断されるが,腹膜播種再発を含む実際の頻度は不明で,リスクが過小評価されている可能性がある。術前の画像診断で切除可能膵癌が強く疑われる膵体尾部腫瘍では,確定診断のベネフィットと NTS のリスクを考慮して,EUS‒FNA の適応を慎重に判断すべきである。 -
Lynch 症候群に伴う胆管細胞癌に対して免疫チェックポイント阻害剤を使用した 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Descriptionはじめに: Lynch 症候群を背景とする高頻度マイクロサテライト不安定(MSI-H)を有する胆管細胞癌再発に対して,免疫チェックポイント阻害剤を含む集学的治療を行った 1 例を経験したので報告する。症例: 患者は 74 歳,男性。既往歴はLynch 症候群を背景に,Vater 乳頭部癌,横行結腸癌。発熱を主訴に受診し,精査の結果,肝左葉の胆管細胞癌と診断された。肝左葉,左尾状葉切除術を行った。術後 2 年 5 か月ごろより胆管炎を認め,胆管擦過細胞診,胆汁細胞診の結果で胆管細胞癌再発と診断した。ゲムシタビン・シスプラチン療法を開始したが,癌進行に伴う胆管閉塞増悪を認めた。MSI‒H を有する固形癌としてペムブロリズマブを開始した結果,腫瘍マーカーの改善,胆管炎の改善を認めた。結語: 今回われわれは,Lynch 症候群を背景とした胆管細胞癌再発に対して,免疫チェックポイント阻害剤を含む集学的治療を行った症例を経験した。 -
5 年無再発生存を得た胆囊未分化癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 60 代,女性。動悸を主訴に近医を受診し,貧血を指摘された。原因精査目的のための腹部 CT で胆囊腫瘍を疑う所見を認め,当院紹介となった。当院での造影 CT では胆囊を主座とし,内部不均一な造影効果を有し肝床部に進展する径約 7 cm の腫瘤を認めた。明らかなリンパ節転移,遠隔転移は指摘されず,胆囊癌,cT3a,N0,M0,cStage ⅢA(胆道癌取扱い規約第 6 版)の術前診断の下,肝 S4a+S5 切除,D2 リンパ節郭清を施行した。病理組織学的検査では大型の核・多核を有する細胞接合性に乏しい高度異形細胞を認め,免疫染色の結果も交えて未分化癌と診断され,胆囊未分化癌,pT3a,N0,M0,pStage ⅢA の最終診断となった。術後補助化学療法として TS-1 内服を 6 か月間施行後,定期的な画像フォローアップを継続しているが,手術から 5 年 6 か月経過した現在も無再発生存中である。 -
細胆管細胞癌(CoCC)に対する腹腔鏡下肝切除術
48巻13号(2021);View Description Hide Descriptionはじめに: 細胆管細胞癌(cholangiolocellular carcinoma: CoCC)は 1959 年に Steiner らにより提唱されたまれな疾患で,胆管細胞癌(cholangiocellular carcinoma: CCC)に類似し術前診断が困難なことが多い。当施設における CoCC に対する腹腔鏡下肝切除術の成績を報告する。対象: 2010~2020 年までに当施設で施行した肝切除 845 例(腹腔鏡下肝切除 678 例,開腹肝切除 167 例)中 CoCC は 13 例であった。血行再建とリンパ節郭清を必要とした 5 例を除く 8 例に腹腔鏡下肝切除術を施行した。年齢中央値 71(55~77)歳,性別は男性/女性が 7/1,Stage はⅠ/Ⅱ/Ⅲ/ⅣA が 3/3/1/1,肝機能は Child-Pugh A/B/Cが7/1/0,肝障害度 A/B/Cが6/2/0 であった。結果: 術前診断は CoCC/CCC/HCC その他が各々 1/3/4 であった。術式は Hr 0/1/2が3/3/2 であった。手術時間中央値 342(168~488)分,出血量中央値は 51.3(0~400)g,術後在院日数中央値は 14(5~53)日であった。再発は 1 例で,5 年無再発生存率 83.3%,5 年全生存率 85.7% であった。考察: CoCC 治癒切除後の 5 年生存率は CCC が 28~36% であるのに対して 73~83% と報告されている。当施設での CoCC に対する腹腔鏡下肝切除術は周術期成績が良好で,長期成績も開腹肝切除の報告と同等であった。結語: CoCC の術前診断は困難であった。CoCC に対する腹腔鏡下肝切除術は周術期・長期成績ともに良好であり,適切な術式と考えられた。 -
胆道造影のわずかな変化で診断した Endoscopic Sphincterotomy(EST)後乳頭の十二指腸乳頭部癌
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 79 歳,女性。悪寒,嘔気を主訴に当院を受診した。CT では総胆管に積み上げ結石および十二指腸球部に憩室を認めた。総胆管結石性胆管炎の診断で,内視鏡的結石除去を行った。その後も明らかな胆道閉塞がないにもかかわらず,胆管炎を繰り返した。慎重に endoscopic retrograde cholangiopancreatography(ERCP)でフォローアップし,乳頭直上の遠位胆管にわずかな辺縁不整像を認めた。癌を疑い,擦過診を施行し,腺癌の所見であった。遠位胆管癌の診断で手術となった。病理の結果,遠位胆管への浸潤を認める十二指腸乳頭部癌,pStage Ⅰの診断となった。画像を後方視すると初回 ERCP時の乳頭に不整粘膜を認めていた。結石除去の際に endoscopic sphincterotomy(EST)を行っており,その後の ERCP では乳頭粘膜の不整に気付くことができなかった。十二指腸乳頭部癌の早期発見には初回乳頭の注意深い観察と,明らかな閉塞のない胆管炎の慎重な画像フォロー,胆道造影での胆管のわずかな変化を見逃さないことが重要である。 -
肝細胞癌腹膜播種再発に対してアテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法が著効した 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Descriptionアテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法は,がん免疫療法として初めて肝細胞癌に有効性を示した治療法である。今回,肝細胞癌術後腹膜播種再発に対してアテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法が著効した症例を経験したため報告する。症例は 63 歳,男性。2019 年 1 月に肝細胞癌(S3 単発 2 cm)の破裂にて TAE を施行した。2019 年 7 月肝 S3 尾側に播種を伴う腫瘤を認め,2019 年 9 月腹腔鏡下肝外側切除+播種切除(2 か所)+胆囊摘出術を施行した。しかし 2019 年 11 月多発腹膜播種再発を認め,レンバチニブ内服治療を開始した。2020 年 5 月 PD となり,ソラフェニブ内服治療に変更するも,2020年 10 月腫瘍のさらなる増大および腫瘍マーカーの急激な上昇(AFP 25,668 ng/mL,PIVKA‒Ⅱ 64,960 mAU/mL)を認め,PD と判断した。同月よりアテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法を開始した。その後,2021 年 1 月の CT にて腫瘍は著明に減少および縮小を認め PR と判断した。腫瘍マーカーは正常化(AFP 5 ng/mL,PIVKA‒Ⅱ 28 mAU/mL)しており,現在も外来にて継続加療中である。 -
16 歳女性の乳房原発横紋筋肉腫の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 16 歳,女性。右乳房腫瘤を自覚し近医を受診した。針生検にて乳房原発肉腫が疑われ,精査加療目的に当院紹介となった。初診時,右乳房に緊満感を伴う腫瘤を認め,乳房超音波検査では右乳房全体に内部不均一な腫瘤を認めた。胸部 CT 検査により腋窩リンパ節への転移が疑われたが,他臓器への転移は認められなかった。針生検の免疫染色で desmin 陽性,myogenic differentiation 1(MyoD1)陽性,myogenin 陽性と,横紋筋分化を示していた。融合遺伝子解析の結果,t(12;13)(q35;q14)の相互転座による PAX3-FKHR 融合遺伝子を有しており,胞巣型横紋筋肉腫の診断となった。腫瘍は著明に増大傾向であり,右乳房切除術・腋窩リンパ節郭清術を施行した。術後,全身 MRI にて仙骨・左下肢に転移を疑う所見を認め,全身化学療法を施行中である。 -
乳腺原発腺様囊胞癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 53 歳,女性。右乳腺腫瘤触知を主訴に当科を受診した。超音波検査では右 C 区域に 12.5×10.3×8.4 mm の低エコー腫瘤を認めた。針生検による組織診断では充実性および篩状構造を形成する異型細胞を認め,浸潤性乳管癌または腺様囊胞癌が疑われた。CT では明らかなリンパ節転移や遠隔転移を認めなかった。cT1cN0M0,Stage ⅠA のトリプルネガティブ乳癌と診断し,右乳腺部分切除術およびセンチネルリンパ節生検を施行した。摘出標本の病理検査では,いわゆる腺様囊胞パターンを示す異型細胞が認められ腺様囊胞癌と診断した。センチネルリンパ節転移は認められなかった(pT1cN0M0,Stage ⅠA,ER/PgR/HER2=-/-/1+)。術後補助療法は行わず,術後 1 年間無再発生存中である。 -
術後胸水コントロールに苦慮した肝硬変併存胸部食道癌の 1 切除例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 61 歳,男性。貧血の精査で胸部中部食道癌(Stage Ⅰ)を指摘された。術前精査にてアルコール多飲による肝硬変(Child-Pugh A 6 点/肝障害度 B)の併存があり,禁酒指導後肝予備能改善傾向にあることから,胸腔鏡下食道切除術(胸管温存),2 領域郭清,用手補助下胸骨後胃管再建を施行した。術後より両側滲出性胸水が多く乳び成分も認めなかったため胸腔ドレーンを留置し,フロセミド・スピロノラクトンの投与を開始した。その後も排液が継続したためトルバプタンを追加導入,胸腔ドレーンを抜去し術後 35 病日に自宅退院した。退院後外来でも頻回の穿刺を要したため,術後 56 日後に胸水濾過濃縮再静注療法を施行した。再膨張性肺水腫を認めたが保存的加療で改善した。現在,利尿薬 1 剤のみで胸水コントロールは良好である。肝硬変併存胸部食道癌切除例における難治性胸水に対して,胸水濾過濃縮再静注療法は有効な治療の一つであると思われた。 -
縦隔鏡下食道亜全摘術を施行した食道 Gastrointestinal Stromal Tumor の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description食道 gastrointestinal stromal tumor(GIST)は比較的まれな疾患であり,治療は外科的切除が原則であるが,その術式やアプローチ方法は未だ一定の見解が得られていない。今回,食道 GIST に対して縦隔鏡下手術を施行した 1 例を経験したため報告する。症例は 71 歳,女性。検診の上部消化管内視鏡検査で切歯より 35 cm に 40×25 mm の潰瘍形成を伴う粘膜下腫瘍を認め,超音波内視鏡下穿刺吸引組織診で GIST と診断され切除の方針となった。手術は縦隔鏡下食道亜全摘術・胸骨後経路胃管再建を行った。手術時間 219 分,出血量は 84 g であり,手術当日に抜管可能で術後第 21 病日に合併症なく退院した。病理検査は modified‒Fletcher 分類中リスクの GIST であった。縦隔鏡下手術は胸部操作や片肺換気,体位変換を要さないことから,手術時間短縮や呼吸器合併症予防の面からも有用である。また,核出術で問題視される切除断端の確保も可能となり,縦隔鏡アプローチによる鏡視下食道亜全摘術は術式選択肢の一つとなり得ると考えられた。 -
遠隔リンパ節転移を伴う高度進行胃癌に対し化学療法 6 コースにて CR が維持できている 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 66 歳,女性。腹痛を主訴に受診し,内視鏡検査にて胃体部小弯に 3 型病変を認め,組織生検にて低分化腺癌と診断された。CT にて胃壁の肥厚および大動脈周囲リンパ節,左鎖骨上窩リンパ節,左腸骨リンパ節に腫大したリンパ節を認め,FDG‒PET/CT 検査にて同部位に異常集積を認め,切除不能高度進行胃癌,cT4aN2H0P0M1(LYM),Stage Ⅳと診断した。S‒1+CDDP(SP)療法を開始し,3 コース終了後に腫瘍マーカーが正常化(CA19‒9 11,158→20 U/mL)し,病変の著明な縮小を認めた。5 コース終了後さらに縮小を認め,組織生検にて癌陰性となり CR と判断した。下痢,食欲不振の副作用が強く,6 コースにて化学療法を中止し経過観察としたが,5 年経過し CR を維持できている。切除不能進行胃癌に対して SP 療法 6 コースのみで長期無再発生存が得られているまれな症例を経験した。 -
二次治療奏効中に導入した Nivolumab により長期病勢制御中の切除不能進行胃癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 65 歳,男性。来院 1 か月前より全身倦怠感が出現したため,当院を受診した。胸腹部 CT 検査で鎖骨上窩,気管分岐下,腹部大動脈周囲リンパ節腫大を認めた。上部消化管内視鏡検査では噴門直下に 1 型腫瘍を認め,生検は Group 5,pap,tub1,tub2 であった。以上より,噴門部胃癌,cT3N3M1(LYM),cStage Ⅳと診断した。一次化学療法として capecit_x0002_abine+oxaliplatin(CapeOX),二次治療では weekly paclitaxel(wPTX)+ramucirumab(Ram)を施行した。二次治療は奏効し PR の効果が得られ,計 7 コース施行した。治療効果が得られているうちに三次治療 nivolumab に移行し,1 年 3 か月にわたり PR を維持でき,免疫関連有害事象(irAE)の発症も認めず良好な QOL が得られた。しかし計 32 コースで腫瘍マーカーの上昇とリンパ節増大を認めたため PD と判定し,四次治療 nabPTX+Ram に移行した。四次治療施行により腫瘍マーカーは低下,リンパ節も縮小し,再び PR が得られた。診断から 2 年 8 か月が経過した現在も治療を継続している。 -
化学療法と大動脈周囲リンパ節郭清が奏効した No. 16 リンパ節転移陽性胃癌の 3 例
48巻13号(2021);View Description Hide DescriptionNo. 16 リンパ節転移陽性の Stage Ⅳ胃癌に対する標準治療は化学療法であるが,conversion surgery の意義はまだ確立されていない。S-1+CDDP 療法(SP 療法)と原発巣切除+転移陽性に対する大動脈周囲リンパ節郭清を行い,現在も術後無再発生存例を報告する。症例 1 は 70 歳,女性。貧血精査にて近医で前庭部に Type 3 病変(tub1)を認め,当院紹介受診となった。造影 CT/PET-CT にて転移を認め,H0,P0,cT3N2M1(No. 16 のみ陽性),cStage Ⅳと診断し,SP 療法+trastuzumab を 4 コース施行した。PR の判定にて幽門側胃切除術(D2+No. 16 郭清)を施行した。術後病理組織学的検査は No. 16 リンパ節に転移を認め,組織学的効果 Grade 2 と判定した。術後 S-1 を 12 か月内服,術後 4 年経過し無再発生存中である。症例 2 は 80 歳,男性。つかえ感にて近医より紹介受診となった。上部消化管内視鏡検査にて噴門部に全周性のType 3 病変(por)を認めた。造影 CT/PET-CT にて H0,P0,cT3N2M1(No. 16 のみ陽性),cStage Ⅳと診断し,SP 療法を 4 コース施行し PR が得られた。これ以上の化学療法は希望せず手術の方針となり,胃全摘術(D2+No. 16 郭清)を施行した。術後病理組織学的検査は No. 16 リンパ節に転移を認めず,組織学的効果 Grade 3 の判定で pCR を得られた。本人の希望により術後補助化学療法は施行せず,術後 3 年経過し無再発生存中である。症例 3 は 50 歳,女性。心窩部痛,貧血を主訴に近医より紹介受診となった。上部消化管内視鏡検査にて胃角前壁に Type 2 病変(tub2)を認めた。造影 CT を施行し,H0,P0,cT3N3M1(No. 16 のみ陽性),cStage Ⅳと診断した。進行性貧血,通過障害もあり手術先行の方針となった。術前画像にて大動脈周囲リンパ節以外に遠隔転移はないため,幽門側胃切除術(D2+No. 16 郭清)を施行した。術後病理組織学的検査にて No. 16 リンパ節に陽性を認め,SP 療法を選択し 10 コース施行した。術後 5 年経過し無再発生存中である。No. 16 リンパ節転移による Stage Ⅳ胃癌では,選択的 No. 16 リンパ節郭清と化学療法を組み合わせることにより長期生存が得られる可能性が示唆された。 -
短期間のニボルマブ投与が著効した再発胃癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Descriptionわずか 3 コースという短期間のニボルマブ投与で CR となり,維持している再発胃癌症例を経験したので報告する。症例は 76 歳,女性。切除不能進行胃癌[T4b(panc),N+,M0,cStage ⅣA]の診断で化学療法(SOX,7 コース)を施行後 PR となり,根治手術を施行した。術後,weekly nab‒PTX による補助化学療法を施行したが腹腔内に再発し,手術を施行したが完全切除は困難であった。術後,化学療法を継続したが CEA の急上昇があり,二次治療として RAM+PTX を行った。SD を維持したが PD となり,三次治療としてニボルマブを開始した。しかし腎機能の急激な悪化があり,ニボルマブは 3 コースで中止することになった。中止後,腫瘍マーカーは正常化,画像上も CR となった。その後,約 1 年 6 か月経過するが無治療で再発はない。ニボルマブは切除不能進行・再発胃癌に対する三次治療薬として有用とされているが CR の報告は少なく,短期間投与で CR を維持している報告はない。また,CR に至った後にニボルマブを継続投与する必要性については明らかにされていない。本症例ではニボルマブの短期間投与だけで CR が維持されており,CR となれば継続せずに投与を終了させることも可能ではないかと思われた。 -
胃粘膜内に発生した紡錘形細胞腫瘍に対して腹腔鏡下胃局所切除術を施行した 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 43 歳,男性。検診の上部消化管内視鏡検査で胃体上部大弯に 8 mm 大の胃粘膜下腫瘍(submucosal tumor:SMT)様隆起病変を認めた。生検で spindle cell tumor と診断され GIST を疑ったが確定診断に至らず,確定診断および手術加療目的に当科紹介となった。術中胃内視鏡を併用し腹腔鏡下胃局所切除術を施行した。切除標本病理所見は,粘膜層に紡錘形細胞が増生していた。免疫染色の結果は c-kit(-),DOG1(-),CD34(-),Ki-67(MIB-1)low,EMA(-),keratin(pan)(-),SMA(-),desmin(N)(-),vimentin(+),S-100(-),β-catenin(+),Bcl-2(+)であり,GIST,solitary fibrous tumor,平滑筋腫瘍,平滑筋肉腫,desmoid tumor,紡錘形細胞癌,滑膜肉腫が否定された。分類不能の胃粘膜内に発生した紡錘形細胞腫瘍と診断した。現在注意深く外来経過観察中で,術後 1 年 8 か月無再発生存中である。 -
硝子血管型キャッスルマン病の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 29 歳,女性。一過性の右側腹部痛のため当院を受診した。CT 検査で右腎門部前面に 4 cm の辺縁平滑,均一に造影される腫瘍あり。腫瘍は MRI で造影効果があり,腹部血管造影検査で右結腸動脈の近位分枝を栄養血管として濃染された。PET では中等度の集積がみられた。上行結腸を含め腫瘍切除を行うと,病理組織学的所見は結腸間膜原発の硝子血管型(hyaline vascular-type)キャッスルマン病であった。 -
切除不能肝転移を伴う閉塞性 S 状結腸癌に対し大腸ステントを留置し化学療法を施行した 2 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description切除不能肝転移を伴った閉塞性大腸癌患者の治療は,早急な閉塞解除と化学療法の導入が重要である。今回,切除不能な肝転移を伴った閉塞性 S 状結腸癌の 2 例に対し大腸ステント(SEMS)を留置し化学療法を行った。2 例とも腫瘍縮小により SEMS が自然逸脱したが,その後再狭窄を来さずステント再挿入が不要となった。ステント留置下の化学療法は安全に行い得るものと考えられ,腫瘍縮小によりステント逸脱した際には VEGF 阻害剤の使用も可能となり,有用な治療選択の一つと考えられる。 -
根治切除境界の高度進行直腸癌に対して術前化学放射線療法が著効し切除し得た 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description高度進行直腸癌患者において,術前化学放射線療法(chemoradiotherapy: CRT)を施行後に手術を行い根治切除が可能であった 1 例を報告する。症例は 55 歳,男性。下部消化管内視鏡検査にて下部直腸に 3 型進行癌を認め,手術目的に当院へ紹介となった。明らかな遠隔転移はなかったが,直腸左側に 34×30 mm 大のリンパ節転移を疑う腫瘤あり,壁側筋膜への浸潤を認めた。確実な surgical margin を確保するために CRT を行った後,ロボット支援下直腸切断術,両側側方郭清を経会陰的鏡視下アプローチを併用して行った。病理組織学的所見では最短部で 3 mm の margin を保っており剝離面は陰性であった。また,直腸左側のリンパ節は線維化しており腫瘍成分はほぼ消失していた。 -
進行下部直腸癌に対し FOLFOXIRI+Cetuximab 療法による術前化学療法を施行した 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description本邦における下部直腸癌に対する標準治療は直腸間膜全切除+側方リンパ節郭清とされているが,術後の局所および遠隔再発率は高く,予後改善には集学的治療が重要である。症例は 30 歳台,男性。血便を契機に下部直腸癌と診断され当科へ紹介された。画像診断で右閉鎖リンパ節転移を認め,cT3N3M0,cStage Ⅲc と診断された。術前化学療法(neoadjuvant chemotherapy: NAC)として FOLFOXIRI+cetuximab 療法を 4 コース施行した。1 コース目で Grade 3 の好中球減少を認めたため 2 コース目以降はペグフィルグラスチムを併用し,減量は行わずに NAC を完遂した。腹腔鏡補助下括約筋間直腸切除術,D3+rtLD2 郭清を施行した。病理組織学的にも切除断端,剝離面ともに陰性であり R0 切除であった。リンパ節転移は No. 263d-rt のみに認められ,病理診断は ypT3N3M0,pStage Ⅲc であった。組織学的治療効果判定は Grade 2 であった。術後経過は良好で術後 15 日目に退院した。術後 7 週目から術後補助化学療法として mFOLFOX6 療法を 8 コース施行し,術後 6 か月経過した現在無再発生存中である。 -
直腸癌術後大動脈周囲リンパ節再発に対して集学的治療により完治した 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 54 歳,男性。RS 直腸癌に対し腹腔鏡下高位前方切除術・D3 郭清を施行した。病理組織診断は pT2pN3M0,pStage Ⅲb であった。術後補助化学療法は CapeOX を 8 コース施行した。初回術後から 1 年 6 か月後の CT にて 216LN に14 mm 大の腫大あり,PET‒CT では SUVmax 3.2 の異常集積を認めた。216LN 転移再発と診断したが単発で切除可能と判断し,術前化学療法の後に外科的切除,術後化学療法の方針とした。術前補助化学療法として FOLFIRI+BEV を 6 コース施行後に大動脈周囲リンパ節郭清術を施行した。病理学的リンパ節転移状況は 216LN b1 3/9,b2 1/7 で,化学療法の組織学的効果は Grade 1b であった。術後補助化学療法として FOLFIRI を 6 コース施行した。原発巣切除術後 7 年 8 か月,216LN再発巣に対する郭清術後 5 年 9 か月現在無再発であり,初回の直腸癌は完治したと考える。直腸癌術後 216LN 転移再発に対して,R0 切除の手術治療を含めた集学的治療が有効な 1 例であった。 -
mFOLFOX6+Panitumumab 療法中に高アンモニア血症を来した直腸癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 80 歳,男性。直腸 S 状部癌および腹膜播種に対し腹腔鏡下直腸高位前方切除術を施行した。直腸 S 状部癌,muc,pT4a,N3(14/15),M1c,P1,pStage Ⅳc,RAS/BRAF 野生型の診断にて,入院の上 mFOLFOX6+panitumumab(Pmab)療法を開始した。化学療法開始時の血液検査では Cr 1.45 mg/dL と軽度腎機能障害を認めた。化学療法開始 3 日目朝より徐々に意識レベルの低下を認めた(JCSⅢ-200 )。血液検査にて血漿アンモニア濃度 338μg/dL と高値を認め,5-FUに伴う高アンモニア血症と診断し,5-FU 持続静注の中止および分枝鎖アミノ酸製剤の投与を行った。意識レベルは翌朝には改善を認め,血漿アンモニア濃度も 78μg/dL まで低下し,その後も意識障害は認めず退院となった。second-line としてCPT-11+Pmab 療法へ変更し化学療法を開始したが,患者希望にて 1 コースで投与終了とし化学療法を終了とした。今回われわれは,5-FU に起因する高アンモニア血症というまれな症例を経験したため若干の文献的考察を加えて報告する。 -
直腸癌手術により大量下血を来した直腸動静脈奇形を治癒し得た 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 52 歳,男性。大量下血精査の下部消化管内視鏡にて下部直腸にポリープを認め,内視鏡的粘膜切除術(endo_x0002_scopic mucosal resection: EMR)が施行された。その他,下血の原因となる病変は確認できなかった。EMR の病理組織結果は adenocarcinoma in adenoma で追加手術の適応となった。術前造影 CT にて,下部直腸癌の肛門側で 5 cm 程度の範囲の直腸壁に動静脈奇形(arteriovenous malformation: AVM)を認めた。大量下血の原因は AVM と考えられたため,AVM の可及的切除・流入血管である上直腸動脈の遮断を併施した腹腔鏡下低位前方切除を施行した。術後の造影 CT では AVM の消失が確認された。AVM の完全切除を行わず塞栓療法の治療理論に準じた流入血管の遮断により AVM の治療が可能であった 1 例を経験した。今後の下部直腸 AVM 症例治療の参考になると考える。 -
Persistent Descending Mesocolon を伴った直腸癌に対して腹腔鏡下切除を施行した 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 66 歳,男性。血便を主訴に受診,直腸 S 状部癌の診断に対して腹腔鏡下高位前方切除術を施行した。術中所見では,下行結腸は後腹膜との癒合はみられず内側に大きく偏位し,下行結腸~S 状結腸が内側の小腸間膜に広範囲に強固に癒着しており,術前の予測どおり persistent descending mesocolon(PDM)と診断した。左結腸動脈から第一 S 状結腸動脈が分岐していたが,PDM による間膜の短縮により辺縁動脈損傷のリスクを有していたため,第一 S 状結腸動脈,下腸間膜静脈の処理は臍創より直視下に行った。術後合併症は特に認めず,術後 9 日目に退院となった。PDM の定まった定義はないものの,下行結腸と左腎との位置関係などにより術前予測が可能との報告がなされている。本症例においても術前にPDM と予測可能で,その解剖学的特徴を念頭に置くことで,より安全な腹腔鏡手術を施行することが可能であった。 -
腸重積を来した大腸未分化癌の 1 切除例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 89 歳,女性。洞不全症候群,狭心症のため当院循環器内科に通院中であった。定期診察時の採血で貧血の進行が認められたため精査目的に消化器内科に紹介入院した。下部消化管内視鏡検査では横行結腸に 1 型腫瘍が認められ,口側へのファイバーの通過は困難であった。同時に施行したガストログラフィンによる注腸検査では,横行結腸肝弯曲部にカニ爪様の陰影欠損像が認められた。注腸後に施行した CT では横行結腸肝弯曲寄りに pseudokidney sign を伴う径 5 cm 大の腫瘤が認められた。腫瘍の生検結果は低分化腺癌であり,横行結腸癌による腸重積と診断し,結腸部分切除を施行した。腫瘍は病理組織学的には未分化癌であり,pT3pN0cM0,pStage Ⅱa であった。術後経過は良好で術後 13 日目に退院した。補助化学療法は施行せず,術後 7 か月の現在,再発の徴候なく健在である。 -
術前化学療法により治癒切除し得た高齢者の進行肝内胆管癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 80 歳,女性。食欲不振・黄疸を主訴に,造影 CT にて肝右葉に 8 cm 大の腫瘍と肝十二指腸間膜内にリンパ節腫大を指摘され,PET-CT では原発巣・腫大リンパ節に FDG 集積を認めた。以上より,腫瘤形成型肝内胆管癌,リンパ節転移,総肝管レベルでの胆道狭窄,閉塞性黄疸と診断した。ADL と主要臓器機能は保たれ,治療可能と判断し減黄処置後にNAC として gemcitabine, cisplatin+ S-1(GCS)療法を計 6 コース施行した。一段階減量で開始したが血小板減少(Grade 4)を認め,さらに減量,以降は Grade 3 以上の有害事象は認めなかった。NAC 後,原発巣およびリンパ節は縮小し,PR 判定(RECIST v2.0)された。PET-CT では原発巣の FDG 集積は低下し,リンパ節では消失した。拡大右葉切除術,胆道再建を施行し根治手術(R0)が施行でき,最終診断は pT2,N0,M0,Stage Ⅱであった。食欲不振・ADL 低下にて術後長期入院を要したが,現在無再発にて外来通院中である。 -
四度目肝細胞癌再発右副腎転移,下大静脈腫瘍塞栓完全閉塞例に対する集学的治療の経験
48巻13号(2021);View Description Hide Description肝細胞癌肝外転移に対しては分子標的治療薬が第一選択であり,外科的治療にコンセンサスは得られていない。しかしながら,肝外転移巣が下大静脈に浸潤し腫瘍塞栓を伴った場合,腫瘍栓や付着血栓の飛散による肺塞栓での突然死のリスクのため生命予後は極端に悪い。今回われわれは,肝細胞癌切除後に副腎転移再発,右腎浸潤,胸椎転移,下大静脈腫瘍塞栓完全閉塞を示した 77 歳の女性に対し,分子標的治療薬,胸椎転移に放射線治療,動脈化学塞栓術後,体外循環下に右副腎,右腎臓,下大静脈腫瘍塞栓を摘出し,下大静脈人工血管置換術を行った。下大静脈腫瘍塞栓による肺塞栓の突然死のリスクを防ぐため,放射線治療,血管内治療,外科手術による集学的治療を行い術後免疫化学療法へつなぐことができた。下大静脈腫瘍塞栓完全閉塞例に対して体外循環下での下大静脈合併切除,人工血管置換術は有用であった。 -
当院における術前治療後の直腸癌に対するロボット支援手術の術後短期成績
48巻13号(2021);View Description Hide Description2018 年 6 月~2020 年 12 月に当センターで直腸癌に対してロボット支援手術を行った 95 例のうち,術前化学療法(NAC)もしくは術前化学放射線療法(NACRT)を施行した 14 例の術後短期成績を検討した。性別は男性 10 例,女性 4例,年齢中央値 66 歳,術式は ISR 2 例,LAR 8 例,APR 4 例,手術時間中央値 397 分,出血量中央値は 73 mL であった。組織学的効果はGrade 3: 1例,2: 7例,1b: 3例,1a: 3例であった。外科的剝離断端は全例陰性であった。Clavien‒Dindo Grade Ⅲ以上の術後合併症は1例に腸閉塞で再手術を要したが,その他はおおむね経過良好であった。全例,排尿障害は認めなかった。結論: 予後や機能温存など長期成績の検討を要するが,NAC および NACRT 後のロボット支援直腸切除の短期成績はおおむね良好であった。 -
島根県東部における過去 5 年間の液状化検体細胞診を用いた口腔がん集団検診について
48巻13号(2021);View Description Hide Description島根大学医学部歯科口腔外科学講座では,島根県東部において県民への口腔がんの周知と早期発見を目的に,口腔外科医による口腔擦過細胞診を活用した無料口腔がん集団検診を行ってきた。2015~2019 年の間に,出雲市・松江市の県下 2地区で行った口腔がん集団検診(全 9 回)の受検者を対象とし,受検者の内訳と液状化検体細胞診の診断結果と施行率を検討した結果,3 例(0.09%)の口腔がんが明らかとなった。① 患者は 69 歳,男性。2016 年松江市検診を受検し,口底部高分化型扁平上皮癌(pT1N0M0,Stage Ⅰ)と診断した。② 患者は 64 歳,女性。2018 年出雲市検診を受検し,舌背部疣贅癌(pT1N0M0,Stage Ⅰ)と診断した。③ 患者は 73 歳,女性。2019 年の出雲市検診を受検し,口蓋部高分化型扁平上皮癌(pT1N0M0,Stage Ⅰ)と診断した。いずれの症例も早期発見が得られており,口腔がんの周知啓発は重要で,細胞診を併用した口腔外科医が行うがん検診は有用性が高く,今後も継続していく必要があると考えられた。 -
口腔癌切除後の顎口腔欠損をオトガイ下皮弁変法術式で再建した症例に関する臨床的検討
48巻13号(2021);View Description Hide Description顎口腔の再建では高齢者や基礎疾患がある場合,有茎皮弁が選択される。オトガイ下皮弁(SIF)は頸部有茎皮弁の一つで,顎舌骨筋を含めたオトガイ下皮弁変法術式(MSIF)は,より簡便で安全性の高い皮弁である。口腔癌切除後の顎口腔欠損を MSIF で再建した症例に関し,臨床的検討を行った。2019 年 1 月~2020 年 12 月までに,口腔扁平上皮癌の診断にて MSIF で再建した 10 例で後方視的に検討した。対象は,男性 7 名,女性 3 名で,平均年齢 76.0(66~88)歳であった。原発部位は下顎歯肉 5 例,舌 3 例,頬粘膜 2 例で,手術方法は下顎骨辺縁切除 3 例,区域切除 1 例,舌部分切除 2 例,舌半側切除 1 例,頬粘膜切除 2 例,舌部分・下顎骨区域合併切除 1 例であった。皮島は平均 61.4×36.0 mm で,皮弁挙上時間は平均 32.4(23~50)分であった。再建は,原発部位の隣接臓器も含めて可能で,全例で術後合併症は認めなかった。MSIFは高齢者や基礎疾患のある症例に対し有用であった。 -
幽門狭窄症状を呈した乳癌胃転移の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 67 歳,女性。2010 年 8 月左乳癌にて乳房切除(BT)+腋窩リンパ節郭清(AX)を施行された。病理所見はER(-),PgR(-),HER2(-)の硬癌(T4N1M0,Stage ⅢA)。術後 TC 療法と胸壁照射を施行した。2 年後に局所再発し,放射線照射とカペシタビン療法を施行した。2018 年 7 月,経口摂取不能となり入院した。上部消化管内視鏡検査(GS)では幽門狭窄を伴う 4 型進行胃癌の所見を示し,生検では乳癌胃転移の所見で ER(+)に変化していた。EC 療法を施行し,同年 11 月アナストロゾールを開始し退院した。2019 年 5 月,幽門狭窄が再燃し再入院となった。パクリタキセル+ベバシズマブ療法を施行した。フルベストラントを投与し,同年 11 月退院した。ホルモン療法を行っていたが,2020 年 11 月閉塞性黄疸のため入院した。癌浸潤に伴う胆管狭窄のため,内視鏡的胆管ステント挿入術を施行した。2021 年 1 月,死亡した。乳癌胃転移の頻度は約 4% と少ないが,有症状時には GS を考慮すべきである。 -
窒息を契機に発見された気管支・内頸動脈浸潤を来した食道癌に化学療法を施行した 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 51 歳,男性。上気道閉塞による呼吸困難にて救急搬送され,経口気管挿管困難であり緊急輪状甲状間膜靱帯切開にて気道を確保した。CT で右頸部を中心に一塊となった腫瘍による気道閉塞と診断した。また,腫瘍内に内頸動脈が走行していた。上部消化管内視鏡検査にて食道癌,stage Ⅳ,cT4N4M0 と診断した。一次療法として FOLFOX を開始し,4コース投与後に下部食道周囲に新規のリンパ節転移が出現し PD となった。二次療法として nivolumab 投与後より気道閉塞の頻度の増加と上大静脈症候群による頭部・右上肢の浮腫が増悪し,1 コースのみで臨床的 PD と判断した。三次療法として docetaxel 開始後より気道閉塞の頻度の低下と頭部・右上肢の浮腫は著明に改善したが,第 136 病日に突然挿管チューブより大量出血を来し死亡した。腫瘍による気道閉塞があり,抗腫瘍効果が乏しいと気道確保が困難であるが,一方で効果が強すぎると動脈穿破による大量出血を来す化学療法の継続に難渋した 1 例を経験したため報告する。 -
高度肺機能障害を合併した食道癌に対して安全に縦隔鏡下食道切除術を施行した 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description高度肺機能障害患者に安全に縦隔鏡下食道切除術による根治術を行った症例を経験したので報告する。症例は 67 歳,女性。胸部中部食道癌(cT1bN0M0)の診断で紹介となる。関節リウマチ治療による免疫抑制,非結核性抗酸菌症,慢性の緑膿菌気管支肺炎を併発し,術前呼吸機能検査では 1 秒量 80% 未満,また低栄養状態と周術期ハイリスク症例であった。縦隔鏡下食道切除術,経腸栄養チューブ留置術を施行した。合併症はなく,術後 20 日目に退院した。病理結果で,縦隔内に 1個のリンパ節転移を認めたが治癒切除の結果であった。術後 3 か月間の夜間在宅経腸栄養療法の工夫も行い,体重減少なく安定して経過した。術後 2 年現在,再発なく通院中である。縦隔鏡下手術は開胸・経胸腔操作がなく,高度肺機能障害患者に有用な手術アプローチであると考える。 -
G‒CSF 産生型食道癌肉腫症例に対する二期的食道切除・再建術とニボルマブ治療の経験
48巻13号(2021);View Description Hide DescriptionG‒CSF 産生型の食道癌あるいは食道肉腫の報告は極めて少なく,標準治療法は未だ確立していない。今回 G‒CSF 産生型食道癌肉腫症例に対して二期的に安全に食道切除・再建術を施行し,術後再発にニボルマブ投与が有効であった症例を経験した。症例は 69 歳,女性。嚥下困難の精査で G‒CSF 産生型食道癌肉腫を指摘された(G‒CSF 265 pg/mL)。高度の貧血,低栄養,炎症,持続発熱を認め,準緊急的に縦隔鏡下食道切除術を行い二期的に胸骨後経路胃管再建を施行した。術後経過は良好で自宅退院となった。退院 8 か月後に左反回神経周囲リンパ節再発を認め,CDDP+5‒FU ベースの化学放射線療法を施行したが効果を認めなかった。二次治療としてニボルマブ投与したところ縮小効果を認め,約 7 か月(ニボルマブ開始後)の長期 PR を維持している。 -
長期生存が得られた多発肺・肝転移を伴う HER2 陽性胃癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 70 代,男性。黒色便の精査で胃噴門部癌[pap,tub1,HER2(3+)]多発肺転移,多発肝転移の診断となった。capecitabine+cisplatin+trastuzumab(Tmab)療法 4 コース施行後に weekly paclitaxel(wPTX)+3w‒Tmab 療法を行い,診断より 8 か月後に CR を得た。その後は Tmab 単剤にて治療を継続していたが,24 か月目に原発巣での局所再発を認め,PTX および Tmab での治療を再開した。診断より 68 か月の時点で再発腫瘤の増大を認めたため,nab‒PTX+ramu_x0002_cirumab 療法に変更した。その後は SD を維持していたが,診断より 6 年 5 か月後に他病死となった。切除不能進行胃癌に対する化学療法は高い抗腫瘍効果が得られる場合があるが,化学療法のみでの完全治癒は困難であり,外科的治療や放射線治療などを含めた集学的治療を行うことが重要である。 -
空腸間膜内リンパ節転移を来した残胃吻合部癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 62 歳,男性。空腸間膜リンパ節転移を伴う残胃癌に対して根治的残胃全摘術を施行した。病理診断は B‒35‒A,type 3,tub2>tub1,pT3(SS),pN3a(10/37),cM0,CY0,pStage ⅢB。転移リンパ節はすべて小腸間膜内であった。術後 4 週より,術後補助化学療法として S‒1+docetaxel 併用療法を開始した。術後 1 年経過し無再発生存中である。小腸間膜リンパ節転移を伴う残胃癌に対し,積極的な郭清を伴う根治的手術で良好な予後が得られた 1 例を経験した。 -
Nivolumab 奏効後に Conversion Surgery を施行した食道胃接合部癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide DescriptionATTRACTION‒2 試験において示されたように,進行再発胃癌および食道胃接合部癌に対する三次治療として,nivolumab は一定の効果を示す。今回われわれは,切除不能食道胃接合部癌に対する三次治療として nivolumab が奏効し,conversion surgery を施行し得た 1 例を経験したので報告する。症例は 72 歳,女性。上部消化管内視鏡検査で,Siewert type Ⅱの進行食道胃接合部癌と診断した。同時に多発肝転移,多発肺転移を認めたため,cT3N1M1,cStage Ⅳb の切除不能例と診断し,標準的一次化学療法(SP),二次化学療法(weekly PTX/RAM)を施行するも PD であった。三次治療として nivolumab を投与すると肝肺転移巣と原発巣の著明な縮小を認め,新規病変が出現しないことから初療より 38 か月でconversion surgery を行った。切除検体の病理学的診断は ypT1b2(SM2),ypN0 で,退院後も外来にて nivolumab を投与しており,1 年間病状の進行を認めていない。 -
切除不能進行胃癌に対し SOX/T‒mab 療法後に Conversion Surgery を施行し pCR を得た 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 72 歳,男性。上腹部痛の主訴で救急外来を受診した。精査にて胃癌による胃穿孔疑いで緊急手術を行った。腹腔鏡下大網充塡術を行い,術中に CT で腫大を認めた #4d リンパ節を採取した。病理診断で胃癌リンパ節転移と診断された。CT 所見で Bulky N と判断し,術前化学療法(SOX 療法)を 3 コース施行し,審査腹腔鏡を行った。術中所見で腹壁・胃壁・肝表面の広範な播種結節様の所見を認めた。腹水細胞診も陽性であり,原発巣切除は行わなかった。播種結節は病理学的に腫瘍細胞を認めなかったが,CY1 で切除不能胃癌と診断した。また HER2 3+であったため,術後より SOX/trastu_x0002_zumab 療法を行う方針とした。16 コース施行後,画像的にリンパ節の縮小を認めたため審査腹腔鏡を行い,腹水・播種様結節から腫瘍細胞を認めなかったため腹腔鏡下胃全摘術を施行した。病理所見は原発巣・リンパ節からも腫瘍細胞は認めずpCR と診断された。現在,術後 6 か月無再発生存中である。 -
SM 深部浸潤が疑われたが悪性サイクルを経て ESD で切除し得た早期胃癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 79 歳,男性。健診で貧血が指摘され,前医で上部消化管内視鏡検査を行った。胃体上部に 15 mm 大の潰瘍性病変を認め,生検結果は高分化型腺癌であった。伸展不良や潰瘍の深さから粘膜下層深部への浸潤が疑われ手術適応と考えられ,当院紹介となった。内視鏡を再検したところ潰瘍は瘢痕化し平坦化,粘膜癌を疑い endoscopic submucosal dissection(ESD)を行った。病理結果は 10×6 mm,tub1,pT1a,ly0,v0,pUL1,pHM0,pVM0 であり,治癒切除が得られた。陥凹型早期胃癌のなかに形成される潰瘍も良性消化性胃潰瘍と似たような経過を示し,悪性サイクルと呼ばれる。特に活動性潰瘍を有する時期では,正確な深達度診断が困難になる。活動性潰瘍を有する小病変の場合には,悪性サイクルの一部をみている可能性も考慮し,再度内視鏡を行うことで正しい深達度診断,治療の選択ができる可能性がある。 -
術前診断に苦慮した肝外発育型巨大肝細胞癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 75 歳,男性。呼吸苦を主訴に当院を受診し,腹部造影 CT で胃腹側に境界明瞭で内部が不均一に造影される径20 cm 大の腫瘤を認めた。画像所見上,胃粘膜下腫瘍を強く疑った。腫瘤は胃,肝臓,横隔膜と接しており切除によるリスクは高かったことから,イマチニブ内服による治療を先行した。イマチニブ投与 2 か月後に高度貧血のため入院となった。CT では腫瘤は縮小傾向を認めたものの内部不均一な低吸収域の拡大を認め,腫瘍内出血と診断し手術を選択した。腫瘤は肝外側区域および胃小弯側と浸潤していた。腫瘤は壁外突出型胃粘膜下腫瘍と判断し,胃部分切除および肝部分切除術を行った。病理学的所見は肝外発育型肝細胞癌(HCC,pT3N0M0,pStage Ⅲ)の診断であった。術後経過は良好であり,術後 6 日目で退院となった。術前の残血から検出した PIVKA-Ⅱは異常高値を示していたが,術後は正常値内まで低下し術後9 か月の現在,無治療で無再発生存中である。 -
肛門管扁平上皮癌に対して化学放射線療法が著効した 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description肛門管扁平上皮癌(squamous cell anal cancer: SCAC)に対する標準治療は,欧米では化学放射線療法(chemoradio_x0002_therapy: CRT)であるが本邦では確立されていない。今回 SCAC に対して,CRT が著効した 1 例を経験したので報告する。症例は 80 代,女性。肛門部腫瘤からの出血と疼痛を主訴に当科を紹介受診した。腹部造影 CT で肛門部に造影効果を伴う壁肥厚と両側鼠径リンパ節腫大を認めた。下部消化管内視鏡検査による生検で扁平上皮癌と診断された。臨床病期はcStage Ⅲc,cT3,cN1a,cM0 であった。腹会陰式直腸切断術による根治手術も考慮したが,高齢であること,永久人工肛門を回避する目的で CRT の方針とした。レジメンは S-1+MMC,RT は 1.8 Gy/day(total 59.4 Gy: 骨盤部)とした。CRT終了 14 週後の CT で,原発巣および両側鼠径リンパ節の著明な縮小を認め,CRT 終了 9 週後の PET-CT では有意な FDG集積を認めなかった。下部消化管内視鏡検査でも腫瘍は著明に縮小し,生検でも悪性所見を認めなかった。以上より,完全奏効と判定した。CRT 終了後 14 か月現在,無再発生存中である。 -
局所療法により病勢を制御し得た直腸 S 状部 T1b 癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description大腸 ESD/EMR ガイドラインでは,摘除後の病理組織検査上非治癒切除要因を有する T1 癌に対しては,予測リンパ節転移率と患者の背景を総合的に評価し追加腸切除を考慮するとしている。今回,ESD 後のサーベイランスで肺転移を認め,局所切除で病勢を制御し得た直腸 S 状部 T1b 癌の 1 例を経験したので報告する。症例は 74 歳,男性。肺結核の既往と慢性閉塞性肺疾患で内科に通院していた。2018 年 9 月に血便を認め下部消化管内視鏡検査を施行,直腸 S 状部に 0-Isp 型早期癌を指摘され同年11月ESDを施行した。病理組織学的所見では深達度のみが非治癒切除要因のため経過観察していたが,2020 年 4 月の CT 検査および FDG-PET/CT 検査で右下肺野に単発の転移再発と診断され,胸腔鏡下右肺部分切除術を施行した。原発巣切除術後 30 か月,肺転移切除後 11 か月を経過した現在,無再発生存中である。 -
大腸 T1b がんの予後に対する内視鏡切除の影響
48巻13号(2021);View Description Hide Description大腸がんの内視鏡切除(endoscopic resection: ER)の進歩により,ER 後の追加切除としての外科的切除が増加している。2008 年 1 月~2018 年 12 月までの期間において,当院で手術を行った T1b 大腸がん 239 例について,手術先行(S 群)142 例と ER 後手術(ER 群)97 例において短期・長期成績の比較検討を行った。短期成績(手術時間,出血量,合併症)の有意差を認めず,長期成績として 5 年全生存率は S 群 94.3%,ER 群 95.2%,p=0.7391,5 年無再発生存率は S 群 92.7%,ER 群 92.3%,p=0.6757 と有意差を認めなかった。ER を行うことでの成績の変化は認めず,安全に施行可能な施設では積極的に行うべきと考えられる。 -
盲腸癌卵巣転移による Pseudo‒Meigs 症候群の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 60 代,女性。盲腸癌,多発肺転移,両側卵巣転移,腹膜播種の診断で化学療法中であった。治療開始から 18か月後,卵巣転移増大と著明な腹水貯留により,経口摂取や体動が困難となったため緊急入院した。腹水細胞診は陰性であり,腹水貯留の原因として Pseudo-Meigs 症候群が疑われた。腹水貯留により ADL が著しく低下していたことから,緩和手術として両側付属器切除を行った。卵巣転移の切除後,腹水は消失し,ADL も改善,化学療法の再導入が可能となった。付属器切除から 10 か月が経過した現在も生存中である。大量腹水を伴う卵巣転移をみた際は,本疾患を念頭に切除を考慮することも重要である。 -
Lynch 症候群が疑われた腸重積で発症した若年性大腸癌の 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 20 歳,男性。3 か月前より腹痛,腹部膨満感が出現し改善しないため下部消化管内視鏡検査を施行したところ横行結腸に 1 型腫瘍を認め,生検で中分化型腺癌の診断となった。造影 CT 検査で腫瘍を先進とする腸重積を認め,非観血的に整復した後に待機的に手術を行う方針とした。全身精査では遠隔転移や他の Lynch 症候群関連腫瘍を示唆する所見を認めず,腹腔鏡下結腸右半切除術,D3 郭清を施行した。改訂ベセスダガイドラインを満たす家族歴を有し,mismatch repair(MMR)蛋白免疫染色で MSH2 と MSH6 の消失,MSI 検査で MSI⊖High を認め,Lynch 症候群が疑われたが,遺伝子検査は費用の面から拒否された。若年者に慢性的な腹部症状が出現し,遺伝性大腸癌を疑う家族歴を有する場合,大腸癌が原因である可能性を考慮して時期を逸することのないよう早期に精査を行うことが肝要と考えられた。 -
胆囊癌に対する腹腔鏡下手術の治療成績
48巻13号(2021);View Description Hide Descriptionはじめに: 本邦において保険診療可能な胆囊癌に対する腹腔鏡下手術は,腹腔鏡下胆囊摘出術(LC),腹腔鏡下肝切除とリンパ節郭清である。当院での結果を報告する。対象: 2012 年 5 月~2020 年 12 月までに胆囊癌に対して LC 28 例,腹腔鏡下胆管切除胆道再建 2 例,腹腔鏡下胆囊床切除リンパ節郭清 6 例,腹腔鏡下肝 S4a/S5 切除リンパ節郭清 7 例を施行した。2010~2019 年に開腹手術を施行した症例 13 例と比較検討した。結果: Stage は腹腔鏡下手術,開腹手術で各々,0/Ⅰ/Ⅱ/ⅢA/ⅢB/ⅣA/ⅣB が各々 4/17/13/4/2/1/2と0/1/2/3/1/1/5(p=0.0100)であり腹腔鏡下手術で早期の症例が多かった。腹腔鏡下手術で胆囊摘出術とリンパ節郭清を伴う胆囊床切除または肝 S4a/S5 切除が多く,区域切除,葉切除は開腹手術でのみ施行されていた(p=0.0004)。手術時間は腹腔鏡下手術,開腹手術で各々 223.3 分と 514.5 分(p<0.0001),出血量は18.7 g と 1,274.3 g(p<0.0001),術後在院日数は 8.5 日と 33.9 日(p<0.0001)であった。LC の出血量は 25.2 g(p=0.0054)と少なく,術後在院日数は 7.4 日であった。郭清を伴う肝切除の手術時間は腹腔鏡下手術,開腹手術で各々 351.5分と 577.4 分(p=0.0044),出血量は 7.7 g と 1,471.3 g(p<0.0001),術後在院日数は 9.4 日と 37.4 日(p=0.0020)であった。LC 後の 5 年無病生存期間(DFS)は Stage 0/Ⅰ 100%,Stage Ⅱ 64.8%,Stage Ⅲ/Ⅳが 0% であった。5 年全生存期間(OS)は Stage 0/Ⅰ 100%,Stage Ⅱ 66.7%,Stage Ⅲ/Ⅳでは 1 年 OS が 50% であった。リンパ節郭清を伴う腹腔鏡下胆囊床切除または肝 S4a/S5 切除の 5 年 DFS は Stage Ⅰ/Ⅱ 100%,Stage Ⅲ/Ⅳが 66.7% であった。5 年 OS は Stage Ⅰ/Ⅱ100%,Stage Ⅲ/Ⅳが 62.5% であった。結語: Stage 0,Ⅰに対する LC とリンパ節郭清を伴う腹腔鏡下胆囊床切除または肝S4a/S5 切除の成績は安全かつ良好で適切な手術術式と考えられた。 -
腹腔鏡下回盲部切除術後に腸間膜欠損部の内ヘルニア陥頓が生じた 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description症例は 75 歳,男性。盲腸癌に対して腹腔鏡下回盲部切除術,小腸部分切除術を施行した。病理診断は盲腸癌[T4b(回腸,腹壁),N0(0/13),M0,pStage Ⅱc]であった。術後 4 か月経過後,突然の腹痛・嘔吐が出現し,当院救急外来を受診された。腸閉塞と診断し,経鼻イレウスチューブを留置して保存的加療を開始したが改善に乏しく,第 18 病日に試験開腹術を行った。腹腔内を観察すると,回盲部切除時の腸間膜欠損部をヘルニア門とし,小腸が内ヘルニアを来していた。ヘルニアを解除し,腸間膜欠損部を閉鎖し手術を終えた。術後経過は良好で術後 10 日目に軽快し退院した。術後 1 年 6 か月経過するが,現在まで腸閉塞の再燃は認めていない。腹腔鏡下大腸切除術において腸間膜欠損部の閉鎖は一般的には行われていないが,自験例のように手術加療を要する腸閉塞を発症する可能性もあり,腸間膜欠損部の閉鎖も検討に値すると考えられた。 -
著明な腸間膜浸潤を伴う S 状結腸低分化粘液癌術後の多発肝転移に対して化学療法が奏効した 1 例
48巻13号(2021);View Description Hide Description大腸粘液癌は,その発生様式より粘膜下層から増生するものもあるため発見時に進行している場合が多く,予後不良な癌種として知られている。症例は 59 歳,女性。1 か月前から排便時に腹痛を自覚していた。下腹部に腫瘤が触知された。CT では S 状結腸に壁外性腫瘤像を認め,下部消化管内視鏡検査では壁外から他臓器腫瘍浸潤が疑われる所見であった。腫瘍マーカーは CEA 40.8 ng/mL と高値を認めた。生検検査で悪性所見は認められず,大腸癌の疑いで S 状結腸切除術を施行した。病理組織学的検査では,HE 染色は大腸原発性の所見に乏しいものの,CDX2 強陽性という所見から腸型の腺癌と考えられ,大腸低分化型粘液癌として最終的な臨床診断とした。術後 4 か月に多発肝転移が出現したが,XELOX+BV 療法,FOLFIRI+BV 療法を行い,術後 24 か月の CT 評価にて画像的 CR となった。化学療法が奏効し,術後約 5 年 2 か月の長期生存を得ている大腸粘液癌の 1 例を経験したので文献的考察を加え報告する。