癌と化学療法
Volume 49, Issue 4, 2022
Volumes & issues:
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総説
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インシリコ創薬支援―現状と課題―
49巻4号(2022);View Description Hide Description現在,創薬分野において標的分子の枯渇などによる新薬創出の低迷や開発費の高騰が問題となっている。インシリコ創薬は,新規創薬標的分子・作用点の創出や開発プロセスの効率化につながる創薬支援技術として期待されている。インシリコ創薬は,大きく化合物情報に指南される手法(ligand‒based drug design: LBDD)と標的タンパク質の立体構造に基づく手法(structure‒based drug design: SBDD)に分類される。LBDD は機能既知の活性化合物情報を手掛かりに,全体構造の類似性,部分構造の有無,ファルマコフォアを介して新規リガンドを探索・設計する手法で,標的タンパク質の立体構造が未知の場合でも適用できる長所をもっている。一方,SBDD は標的タンパク質が特異的な化学物質を選択して結合する「鍵と鍵穴」理論に基づき,標的タンパク質の立体構造に指南された化合物を計算機で探索・設計する手法で,新規性の高い化合物の発見につながる長所をもっている。本稿では,LBDD,SBDD それぞれの基礎,そしてAI や大規模シミュレーションなどを用いた最新のトピックスについて概説する。さらにインシリコ創薬支援の実施例として,初期肺腺癌を標的としたタンパク質‒タンパク質相互作用阻害剤の探索へのインシリコ創薬支援研究についても紹介する。
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特集
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- 癌臨床試験の統計解析―最新の動向と今後の展開―
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がん用量探索試験デザインの紹介
49巻4号(2022);View Description Hide Descriptionがん用量探索試験の主な目的は,安全面で許容される最大耐用量(maximum tolerated dose: MTD)を推定し,新薬の薬物動態学および薬力学の評価,治療効果の観察および予測マーカーの探索を通じて後続の臨床試験での最適用量(optimaldose: OD)を決定することにある。がん用量探索試験デザインはその統計的基盤と実施方法から,アルゴリズム型,モデル型,モデル支援型の三つのタイプに分類される。本稿ではこれらの分類に基づき,現在提案されている種々のがん用量探索試験デザインの特徴を紹介する。始めにMTD 探索を目的とする毒性に基づくがん用量探索試験デザインについて述べ,次にOD 探索を指向する毒性と有効性に基づくがん用量探索試験デザインについて言及する。また,逐次登録型デザイン,併用療法デザイン,毒性重症度評価デザイン,ヒストリカルデータを利用するデザインについても簡単に紹介する。 -
がんの臨床試験における多重エンドポイントの解析
49巻4号(2022);View Description Hide Descriptionがんは遺伝,環境,生活様式などの複数の要因の組み合わせが原因で引き起こされる複雑な疾患であり,その症状・経過・転帰は多岐にわたる。複雑な疾患の臨床試験では一般に,多重エンドポイントにより新規治療の治療効果を多面的に評価することが望ましいと考えられている。ほとんどのがんの臨床試験で,全生存期間,腫瘍サイズの形態的な測定に基づくエンドポイント(無病生存期間,無イベント生存期間,客観的奏効率,無増悪期間,無増悪生存期間など),症状評価に基づくエンドポイントなどから複数個を主要エンドポイントあるいは副次エンドポイントとして選択し,治療効果を評価している。多重エンドポイントによる評価は治療の疾患に対する多面的効果を特徴付けることに役立つ一方で,多重エンドポイントから生じる検定の多重性に伴う第1 種の過誤をどのように制御すべきかという問題に直面する。本稿では,がんの臨床試験における多重エンドポイントの統計解析,特に第1 種の過誤を制御するための多重比較法を実際のがんの臨床試験を俎上に上げて概観する。多重エンドポイントと臨床試験における中間解析と群逐次デザインの問題点についても簡単に触れる。 -
Estimand とは何か―がんの臨床試験で最も重要で評価すべき臨床的リサーチクエスチョン―
49巻4号(2022);View Description Hide Description年齢や性別を問わず,だれもが生涯において様々な病気を経験する。病気の原因は多種多様で,病気の症状,経過や転帰は患者で一様でない。がんのような複雑な疾患の治療を目的として実施される医薬品や医療機器の臨床試験では,このような多様性を考慮しながら試験を計画・デザインし,計画書に沿って試験を実施し,収集されたデータを解析し,結果を解釈し報告することが求められる。特に,試験立案者は試験の開始後に現出し,試験治療の評価に影響を及ぼす可能性がある事象(中間事象)としてどのようなものがあるかをあらかじめ十分に吟味することは必要不可欠な作業である。その上で,当該試験をとおして回答されるべき最も重要な臨床的リサーチクエスチョンを具体的に記述した主要目的に沿って中間事象への対処の仕方と絡め,治療効果をどのようにとらえるかを定義し,そして治療効果をどのように定量化し測定するかといった方策を試験開始前に決定せねばならない。本稿では,最近,医薬品規制調和国際会議(The International Council forHarmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use: ICH)で議論・提示されたestimand(推定目標)の概念と枠組みを概観しながら,例示をとおしてがんの臨床試験における患者の経過・転帰とこれらに関連した治療効果の定義と評価・定量化と測定の仕方を考える。推定目標の概念と枠組みを導入することにより,臨床試験の目的,デザイン,実施,統計解析,結果の解釈と報告の要素の対応関係がより明確に構造化され,臨床試験の最初から最後までの首尾一貫性の向上が期待される。 -
境界内平均生存時間(RMST)の解釈と活用
49巻4号(2022);View Description Hide Description生存時間データを評価する多くの臨床研究・臨床試験では,まず生存曲線を示し,さらに群間比較を行う際の多くの場合で治療効果の大きさを表すためにハザード比が報告されている。しかしながら,比例ハザード性の仮定が成り立たない場合,臨床的および統計的なハザード比の解釈が困難なことがある。医学系雑誌で最近報告されたいくつかの論文では,生存時間データの評価指標の一つとして境界内平均生存時間(restricted mean survival time: RMST もしくはt‒year meansurvival time)の利用が議論されている。RMST は,ある評価期間内での生存時間の平均値と定義され,該当する評価時点までの生存曲線の曲線下面積に対応する。本論文ではRMST の解釈と活用に必要な情報を整理する。これにはRMST の定義と統計的特性に加えて,適用例を通じてその他の生存時間データの評価指標と対比させながら臨床的および統計的な意味と解釈までが含まれる。 -
ネットワークメタアナリシスの活用と注意点
49巻4号(2022);View Description Hide Description近年,ネットワークメタアナリシスを用いたエビデンスの統合が盛んに行われている。ネットワークメタアナリシスは,直接比較(direct comparison)したエビデンスを統合する従来のメタアナリシスとは異なり,治療群間の直接比較から構成されるネットワークを介して間接比較(indirect comparison)を可能にする方法論である。本稿では,肺癌における免疫チェックポイント阻害剤に起因する免疫関連肺臓炎発生を比較したネットワークメタアナリシス論文を題材に結果のアウトプットの解釈法と注意点を述べる。特に,異質性(heterogeneity),類似性(similarity),一致性(consistency),出版バイアス(publication bias)について,それぞれの意義と評価方法を紹介し,なぜそれらに注意することが重要なのかを解説する。適用のためのソフトウェアや学習のためのテキスト,ガイドラインについても紹介する。 -
リアルワールドデータを利用した群間比較分析
49巻4号(2022);View Description Hide Descriptionランダム化による治療法群間比較は臨床試験デザインとして最上のものであることは間違いないだろう。しかしながら,ランダム化比較試験だけで患者治療に必要なすべての臨床的疑問が果たして解決されるのだろうか。本稿では,ランダム化比較試験における群間比較を復習した上で,臨床現場(通常診療の下)で得られるデータ,すなわちリアルワールドデータを用いた治療法群間比較を考える。具体的には,最近その適用事例が急速に増えている「プロペンシティ(傾向性)スコア」を用いた解析方法を解説する。
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Current Organ Topics:Melanoma and Non‒Melanoma Skin Cancers メラノーマ・皮膚癌
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原著
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抗EGFR 抗体薬使用進行再発大腸癌患者に対する看護師・薬剤師主導のスキンケア介入の試み
49巻4号(2022);View Description Hide Description抗EGFR 抗体薬使用中の進行再発大腸癌患者に対して,看護師・薬剤師によるスキンケア介入を外来で開始した。外来スキンケア指導の介入前後で皮膚関連有害事象の発現割合,保湿剤・ステロイド使用量および抗EGFR 抗体薬の使用コース数について後ろ向きに比較検討を行った。2017 年1 月以降で抗EGFR 抗体薬を初回に使用した進行再発大腸癌患者のうち,評価可能であったスキンケア介入前(2017 年1 月~2019 年12 月)の34 例と介入後(2020 年1~12 月)の23 例で比較検討を行った。治療開始後6週時点のGrade 2 以上皮膚関連有害事象発現割合はそれぞれ介入前群23.5%,介入後群8.7%(p=0.18),治療開始後12 週時点では介入前群67.7%,介入後群30.4%(p=0.0076)と介入後群で有意な改善を認めた。治療開始後6週までの保湿剤の使用量については中央値で介入前群275 g,介入後群550g(p=0.036)であり,治療開始後7~12 週についても中央値で介入前群575 g,介入後群1︐175 g と介入後群で有意に多かった(p=0.013)。一方,治療開始後6週までのステロイドの使用量は中央値で介入前群65 g,介入後50 g 群(p=0.37)であり,治療開始後7~12 週では中央値で介入前群155 g,介入後群90 g(p=0.29)と介入前後で差はなかった。保湿を中心とした看護師・薬剤師による外来での入念なスキンケア指導により,皮膚関連有害事象を有意に減少させる可能性が示唆された。
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薬事
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腫瘍内科外来におけるePRO-CTCAE を用いた薬物療法に関連した有害事象の実態把握―単施設の実現可能性調査―
49巻4号(2022);View Description Hide Description腫瘍内科外来薬物療法における有害事象の把握を目的としたelectronically provided patient-reported outcomes(ePRO)導入の実現可能性調査として,単施設の前向き観察研究を行った。伊那中央病院腫瘍内科にて薬物療法を受ける成人患者を対象とし,身体面,精神面,治療状況などから主治医が不適格と判断した症例は除外され,スマートフォンもしくはタブレット操作可能な症例が説明同意の上,登録された。PRO-CTCAE から抜粋された71 項目について,参加者は7日間(±1 日)に1 回の連続した計8回(8週)のスケジュールで回答し,外来受診時に腫瘍内科外来専属看護師が対応するCTCAE 項目について評価した。研究期間中,当科外来にて薬物療法中の患者は85名であり,40名が研究に参加した。不参加45名のうち主治医が不適格と判断した11 名の他は,34名全例の非登録理由がデバイスをもたないことであった。非登録症例は登録症例と比較して有意に高齢で,男性の割合が多かった。各症例全8回のePRO 回答率は全体で77% であった。8回の評価期間中,陽性(Grade 1 以上)とされた症状の項目数はePRO が26項目(0~48)であった一方,医療者評価は6項目(1~15)であった(p<0.01)。ePRO と医療者評価が同一日に得られた延べ121 回の評価において,ePRO で有症状とされた症例数を分母,ePRO で有症状かつ医療者評価で有症状とされた症例数を分子とした一致率はおおむね低かった(中央値4%,0~67%)。一致率が比較的高かった症状は,脱毛症(67%),食欲不振(38%),錯感覚(36%),下痢(28%),劵怠感(27%),口腔粘膜炎(25%),便秘(24%),四肢浮腫(24%),疼痛(22%),味覚不全(21%)であり,医療従事者が症状緩和の対象として留意しがちな項目があがった。今回の結果から,ePRO を導入することで薬物療法における有害事象をより正確に速やかに把握できる可能性が示唆された。
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症例
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妊娠期乳癌に対し妊娠中の手術と出産後の薬物療法により治療した1例
49巻4号(2022);View Description Hide Description症例は37歳,女性。病歴: 2018 年6月,検診マンモグラフィで左乳房に異常影があり前医を受診した。諸検査で左C領域の乳癌の診断となったが,同時期に経膣エコーで胞体を認め妊娠成立の診断となった。妊娠期乳癌の治療目的に当院を紹介受診(妊娠5週)した。針生検で浸潤性乳管癌(invasive ductal carcinoma: IDC),Luminal A-Like,cT1bN0M0,cStage Ⅰの診断を得た。妊娠継続下で妊娠12週に局所麻酔下腫瘍摘出術+センチネルリンパ節生検を施行し,産後より術後療法導入としたが,切除検体ではHER2(3+)と術前診断とは異なる診断となった。妊娠38週に帝王切開で出産,翌月(術後30 週)よりweekly paclitaxel+trastuzumab 療法を開始,化学療法後にtamoxifen 内服を開始し,現在無再発生存中である。考察: 本邦での40歳未満の乳癌罹患率は4~6% と少ないが,晩婚化による高年出産の増加に伴い,妊娠合併乳癌症例は増加傾向にある。本症例の治療においては推奨治療と妊娠継続との選択や,開始推奨時期から外れた術後療法の受容など,様々な局面で方針の決定に難渋する場面があると考えられる。 -
GC 療法後に下大静脈合併拡大左葉・尾状葉切除にてR0切除を得た局所進行肝門部領域胆管癌の1 例
49巻4号(2022);View Description Hide Description症例は65歳,女性。肝S1 領域腫瘤を指摘され紹介受診,生検にて腺癌を検出,肝門部領域胆管癌と診断された。精査にて門脈左枝と接し,中・左肝静脈に加え肝部下大静脈に広範囲に浸潤があり,gemcitabine/cisplatin 併用療法を開始した。12 コース,24回終了時腫瘍の縮小を認めるが,下大静脈浸潤は残存した。grade3の骨髄抑制を認め,以後隔週投与に変更,計32 回投与後腫瘍増大の傾向がないことを確認し,拡大左葉・尾状葉切除,下大静脈合併縫合閉鎖を施行した。病理では下大静脈への浸潤は認めず,切除断端陰性,#12 リンパ節陰性でR0切除であった。術後化学療法は行わず,術後18か月後明らかな再発は認めていない。術前治療が奏効し,conversion surgery にてR0切除を得た下大静脈浸潤肝門部領域胆管癌の症例であり,文献的考察を踏まえ報告する。 -
腹腔鏡下に切除したS 状結腸癌同時性孤立性脾転移の1例
49巻4号(2022);View Description Hide Description症例は82歳,女性。下腹部痛,嘔気を主訴に当院に救急搬送された。造影CT にてS 状結腸癌イレウス,孤立性脾腫瘍を認めた。原発巣に対して金属ステントを留置した。FDG-PET にて孤立性脾腫瘍にFDG 高集積を認め,同時性孤立性脾転移と診断した。同時切除の方針とし,腹腔鏡下S 状結腸切除術,腹腔鏡下脾臓摘出術を施行した。術中体位,ポート配置は変更せずに施行した。術後経過は良好であり,術後9日目に退院した。術後4か月無再発生存中である。大腸癌同時性孤立性脾転移は非常にまれであり,腹腔鏡下に同時切除を施行した症例の報告はこれまでにない。低侵襲手術に寄与する術式と考えられ,若干の文献的考察を加えて報告する。
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特別寄稿
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- 第43 回 日本癌局所療法研究会
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進行胃癌に対しFOLFOX 療法が奏効した1 例―大腸癌治療経験を活かして―
49巻4号(2022);View Description Hide Description進行胃癌に対する化学療法first-line として胃癌治療ガイドライン第5版にFOLFOX が追加された。同レジメンは静脈内投与で完結するため,経口摂取の安定しない進行胃癌において有用と考えられる。本稿ではFOLFOX が著効した進行胃癌症例を報告する。多発肝転移,傍大動脈リンパ節転移を伴うStage ⅣB の75歳,男性。S-1+CDDP 導入後早期に重篤な有害事象を認めFOLFOX へ変更した。oxaliplatin によるアレルギーを来すまで継続投与しPR を維持した。経口摂取不良や内服コンプライアンス不良の進行胃癌症例において,FOLFOX は有用な選択肢である。 -
胃癌穿孔症例の治療戦略
49巻4号(2022);View Description Hide Description胃癌穿孔の発生頻度は胃癌全体の0.08~3.6% を占め,胃穿孔に占める癌の割合は26~32% と報告されている。胃癌穿孔の治療では腹膜炎からの救命と胃癌の診断および癌の根治性が同時に要求され,治療方針の決定は容易ではない。そこで,治療戦略を考える目的で当院における過去12 年間の胃癌穿孔22 例のうち,内視鏡的治療中と化学療法中の穿孔を除いた19 例の臨床病理学的検討を行った。穿孔例であってもR0 手術群は予後がよい傾向にあった。穿孔の手術時に一期的胃切除を行った症例で手術関連死があったことから,胃癌穿孔では腹膜炎の治療を優先し,全身状態の安定後に胃癌の根治術を施行することが望ましいと考えられた。 -
前立腺浸潤を伴う局所進行直腸癌に対するロボット支援下骨盤内臓全摘術を施行した1 例
49巻4号(2022);View Description Hide Description症例は60 歳台,男性。下血,体重減少を主訴に当院を受診し,精査にてRb 直腸癌を認めた。病変は前立腺に浸潤し,左閉鎖リンパ節転移を認めた。cT4b(前立腺)N3M0,Stage Ⅲc の診断にてCAPOX+BEV を4 コース行った。原発巣,リンパ節は著明に縮小し治療効果はPR であったが,依然として前立腺浸潤を認めた。ycT4bN1bM0,Stage Ⅲc の診断にてロボット支援下骨盤内臓全摘術を施行した。術後5 か月が経過し無再発である。 -
Infrared Illumination System(IRIS)を用いて腹腔鏡下骨盤内臓器合併切除術を施行した1 例
49巻4号(2022);View Description Hide Description症例は80 歳台,女性。発熱,腹痛を主訴に当院を受診し,精査にてS 状結腸癌を認めた。病変は子宮に穿通し,子宮瘤膿腫を形成していた。cT4b(子宮,腹壁)N0M0,cStage Ⅱc の診断にて,腹腔鏡下S 状結腸切除術,子宮,両側付属器合併切除術を施行した。術中infrared illumination system(IRIS)を用いることで近赤外光により尿管の識別をサポートし,安全に骨盤内臓器合併切除術を施行できた症例を報告する。 -
びまん性大細胞型B 細胞性リンパ腫の再燃を疑い切除した脾SclerosingAngiomatoid Nodular Transformation(SANT)の1 例
49巻4号(2022);View Description Hide Description症例は64 歳,女性。びまん性大細胞型B 細胞性リンパ腫(DLBCL)に対して化学療法施行後,寛解し経過観察中であった。寛解後5 年目に撮像した造影CT 検査で,脾下極に境界明瞭な経時的増大傾向を呈する結節性腫瘤を指摘された。画像診断上DLBCL の再発の可能性が懸念されたため,診断治療目的に腹腔鏡下脾摘術を施行した。切除標本では肉眼的に境界明瞭な白色調腫瘍を呈しており,免疫組織学的検査では異なる3 種類の血管成分が認められ,sclerosing angiomatoidnodular transformation(SANT)と診断した。SANT は他の脾腫瘍や悪性疾患との画像上鑑別が困難なことが多く,本症例においてもDLBCL との鑑別を要したため診断治療目的の腹腔鏡下脾摘術を施行した。 -
胃癌化学療法施行時の悪心・嘔吐の検討
49巻4号(2022);View Description Hide Description背景: 化学療法誘発性の悪心・嘔吐(CINV)は,がん化学療法の代表的な副作用である。今回,胃癌一次化学療法施行時のCINV に関する検討を行った。対象と方法: 2014 年から胃癌に対して一次化学療法を施行した31 症例を対象とし,CINV の評価と完全制御について後方視的検討を行った。結果: 年齢中央値は70 歳,性別(男性/女性)は23/8 例であった。制吐剤としてNK1 受容体拮抗薬,5‒HT3 受容体拮抗薬およびデキサメタゾンの3 剤を29 例(94%)で併用した。Grade 1 以上の悪心16 例(52%),Grade 1 以上の嘔吐が6 例(19%)で認められ,CINV を完全制御できたのは21 例(68%)であった。肝転移を有する症例で有意に悪心の出現が多かったが(p=0.0008),嘔吐に関して有意差は認めなかった(p=1.0000)。化学療法のレジメンやオランザピン併用の有無ではCINV の出現に有意差を認めなかった。結論: 胃癌一次化学療法施行時94% の症例で3 種類の制吐剤が併用されており,CINV の完全制御率は67.8% であった。 -
腹腔鏡下幽門側胃切除を施行したAdachi Ⅵ型血管破格を伴う胃癌の1 例
49巻4号(2022);View Description Hide DescriptionAdachi Ⅵ型血管破格を伴う胃癌に対し腹腔鏡下幽門側胃切除を施行した1 例を報告する。症例は81 歳,女性。食欲不振を主訴に当院を受診され,精査にて早期胃癌と診断された。術前のMDCT で肝動脈が膵臓の上縁に存在しないAdachiⅥ型血管破格を認めた。腹腔鏡下幽門側胃切除,D1+リンパ節郭清を施行した。術中,門脈を確認した後,No. 8a リンパ節の郭清を行い,合併症なく手術を行うことができた。術後経過良好で,第10 病日に退院した。最終的な病理結果は,胃癌,M,Less,Type 0‒Ⅱc+Ⅲ,58×50 mm,tub1>pap,pT1a(M),Ly0,V0,pN0(0/40),H0,P0,M0,pStage ⅠA であった。術前のMDCT で血管走行を把握し,合併症なく腹腔鏡下胃切除術を施行することができた。 -
短期間内に異時性大腸癌を繰り返したLynch 症候群の1 例
49巻4号(2022);View Description Hide Description症例は73 歳,女性。70 歳時に上行結腸癌に対して右結腸切除術を施行した。既往歴に子宮体癌,下行結腸癌,膀胱癌および左尿管癌があった。家族歴は弟と甥が大腸癌でありアムステルダム基準Ⅱを満たしており,遺伝学的検査でMSH2遺伝子変異を認めリンチ症候群と診断した。1 年後にS 状結腸癌を認め,左結腸部分切除術を施行した。その6 か月後のサーベイランスにて直腸に0‒Ⅱa 病変を認め内視鏡的粘膜下腫瘍切除術を施行したところ,SM 深部浸潤,リンパ管侵襲陽性の粘液腺癌であったため直腸切断術および回腸人工肛門造設術を行った。本症例では適切なサーベイランスを行ったが,短期間内で頻回に進行大腸癌の再発を認めた。リンチ症候群における大腸癌散発症例の危険因子および予防的大腸全摘術の適応について,文献的考察を加えて報告する。 -
GEM+Nab‒PTX が奏効した膵体部癌の1 切除例
49巻4号(2022);View Description Hide Description症例は72 歳,男性。2009 年より慢性膵炎にて薬物治療中,腹部US にて膵管拡張を指摘され当院紹介となった。採血上,腫瘍マーカーは正常範囲内であった。造影CT では,膵体部に尾側膵管の拡張を伴う直径30 mm の乏血性腫瘍を認めた。同腫瘍は総肝動脈・脾動脈・腹腔動脈に浸潤が疑われた。EUS では直径29×24 mm の低エコー腫瘍を認めた。ERCPでは膵体部主膵管の途絶を認め,膵液細胞診では腺癌を疑う結果であった。局所進行切除不能膵体部癌と診断し,GnP を施行した。GnP 6 コース施行後のCT にて腫瘍は縮小傾向を認めた。PET‒CT では,同腫瘍にSUV の軽度集積亢進を認めるも,血管周囲には集積を認めなかった。以上より,根治切除可能と判断し手術を施行した。手術は腫瘍周囲の軟部組織の迅速病理検査を行い,悪性所見のないことを確認した上で脾臓合併膵体尾部切除術を行った。病理組織学的にtubular adenocarcinomaの所見で,腫瘍は全体の約30% 程度の残存で,組織学的効果判定はGrade 2 であった。 -
手術単独で長期生存中の胆囊原発小細胞型神経内分泌癌の1 例
49巻4号(2022);View Description Hide Description症例は60歳,女性。40歳台に胆囊結石を指摘されていた。前医で胆囊内の小結石の充満を認め,結石の精査加療目的で当院に紹介された。血液検査でCA19-9,Span-1 の上昇とCT で胆囊体部の造影効果を伴う壁肥厚を認めたため胆囊腫瘍が疑われ,画像検査による精査を行った。FDG-PET/CT では胆囊体部に異常集積を認めた。胆囊癌の診断で,拡大胆囊摘出術,胆囊床肝切除術,領域リンパ節郭清を施行した。切除標本の割面に白色充実性の腫瘤を認め,組織学的には小型異型細胞が充実性の胞巣を形成していた。免疫組織化学では,chromogranin A,synaptophysin が陽性であった。腺癌の成分は30% 未満であり,核分裂像,Ki-57index から胆囊神経内分泌癌(小細胞型)と診断した。術後8年が経過した現在,無再発生存中である。胆囊原発小細胞型神経内分泌癌は,R0切除とリンパ節転移が陰性であれば長期生存が見込める可能性がある。 -
肝動脈分岐形態に留意した肝動脈合併(非再建)膵頭十二指腸切除(PD)の有用性
49巻4号(2022);View Description Hide Description今回,術前から肝動脈分岐形態と膵頭部領域腫瘍との位置関係に留意しながら肝動脈合併切除(非再建)PD を施行し,根治術が可能であった2 症例を報告する。症例1: 患者は73 歳,男性。黄疸を主訴に来院し,術前精査にて遠位胆管癌と診断された。術前造影CT にて右肝動脈は通常どおり胆管後面を走行しており,胆管腫瘍と周囲リンパ節内を貫通しており浸潤が示唆された。左肝動脈は肝十二指腸間膜左縁を走行しておりintact であった。術中所見では右肝動脈は腫瘍と周囲リンパ節に一塊となって巻き込まれており,右肝動脈温存は不可能であった。右肝動脈をクランプ後,エコーにて肝右葉内の動脈血流が左肝動脈から肝門板を介して流入していることを確認し,右肝動脈合併切除非再建PD を施行した。術後,肝動脈血流に問題なく,また病理組織からもR0 切除可能であった。症例2: 患者は65 歳,男性。黄疸を主訴に来院し,術前精査で総肝動脈にencasement を認める膵頭部癌(BR)と診断された。自験例では右肝動脈はSMA から,左肝動脈は左胃動脈から分岐しており,総肝動脈を切離しても肝動脈血流は十分保持されると判断し,総肝動脈門脈合併亜全胃温存膵頭十二指腸切除術(SSPPD)を施行した。術中所見では総肝動脈,胃十二指腸動脈をテストクランプ後も肝動脈血流は問題なく総肝動脈は非再建とした。術後肝酵素の上昇や肝梗塞は認めず,病理学的にもR0 切除が可能であった。 -
胆管内乳頭状腫瘍の術前診断で外科的切除後に良好な経過となった1 症例
49巻4号(2022);View Description Hide Description背景: 胆管内乳頭状腫瘍(intraductal papillary neoplasm of bile duct: IPNB)は肝内外の胆管内に発生する乳頭状腫瘍で,胆管癌の前癌・早期癌病変として認知された比較的新しい疾患概念である。症例: 患者は74 歳,女性。近医より健診にて肝機能異常の指摘があり,精査目的に紹介となった。自覚症状は認めなかった。採血検査では腫瘍マーカーなどの上昇はなかった。腹部CT,MRI 検査,腹部超音波検査では左肝内胆管内起始部より複数の結節と左側優位の肝内胆管拡張を認めた。PET‒CT 検査を含め,その他の転移を示す所見は認めなかった。内視鏡的逆行性胆管造影検査ではB3 領域に造影不良領域あり,管腔内超音波検査にて同造影不良域に一致し乳頭状に発育する腫瘤を確認した。他の分枝や総胆管には腫瘤の進展は認めなかったが,いずれの管内は粘液と考えられる浮遊物が充満していた。腫瘤生検の病理組織検査結果は乳頭状構造を呈する異型上皮であり,中等度の核異型をみる所見であった。胆管内乳頭状腫瘍の診断にて,肝左葉切除を行った。術後病理組織検査結果は,膵管・胆管上皮に類似する高度異形成の粘液産生上皮が複雑に乳頭状増殖する像を認め,明らかな浸潤性増殖は認めなかった。術後経過は良好であり,術後16 日目に退院となった。現在,術後6 か月であるが再発なく外来通院中である。今回われわれは,胆管内乳頭状腫瘍の術前診断で外科的切除後に良好な経過となった1 症例を経験したため,若干の文献的考察を加え報告する。 -
非B 非C 型Vp4 肝内胆管癌とStage Ⅰ肝細胞癌の同時性重複癌の1 切除例
49巻4号(2022);View Description Hide Description症例は78歳,男性。肝後区域肝門部の門脈腫瘍栓を伴う5cm 大の腫瘍および肝S5の1.5cm 大の腫瘍に対して,肝右葉切除術およびリンパ節郭清を施行した。前者は肝内胆管癌(ICC),低分化型腺癌,後者は中分化型肝細胞癌(HCC)と病理組織診断された。術5か月後に肝内再発とリンパ節腫大を認め,S-1 を3か月間内服後gemcitabine+cisplatin(GC)療法を5か月間施行し,肝内転移巣の消失と転移リンパ節の縮小を認めた。初回手術1 年7か月後には肝S2 に3cm 大の腫瘍を認め,同部の肝切除術を施行しHCC と病理組織診断された。その2 年後に肝S3およびS4に再発を認め,cisplatin の肝動脈内注入療法(HAIC)および肝動脈化学塞栓療法(TACE)を施行し,7か月間GC 療法を施行した。S3腫瘍に対してはHAIC 9か月後および26か月後にTACE を,またHAIC 17か月後に肝S1 に再発を認めTACE を施行した。初回手術6年2 か月後に,肝内に1 cm 以下の結節を5個認めソラフェニブ内服治療を開始したが,その5か月後にCOVID-19感染症により死亡した。 -
大腸癌術後の骨盤内腹膜転移に対して腹腔鏡手術を繰り返し施行した1 例
49巻4号(2022);View Description Hide Description症例は70歳,女性。上行結腸癌に対して2013年に腹腔鏡下結腸右半切除術を施行した。病理診断はpT4aN1M0,Stage Ⅲb であった。補助化学療法としてUFT/UZEL を1 年間施行した。術後25か月のCT 検査で骨盤内再発を認め,腹腔鏡下Hartmann 術を施行した。術後FOLFOX+bevacizumab を11 コース,5-FU+levofolinate を6コース施行した。1回目の再発手術後37か月のPET-CT 検査で骨盤再発を認め,腹腔鏡手術を施行した。腹腔鏡で右卵巣近傍に腫瘤を認め摘出した。転移に矛盾しない所見であったため,左付属器切除も施行した。術後S-1+bevacizumab を11 コース施行したところで有害事象が出現し中止となった。初回手術より7年7か月を経過しているが,長期生存を得られている。大腸癌術後の骨盤内再発に対しては,症例に応じて腹腔鏡手術も外科治療の選択肢の一つとなり得ると考えられた。
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追悼
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