癌と化学療法
Volume 49, Issue 7, 2022
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投稿規程
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総説
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がん全ゲノム解析プロジェクトの展望
49巻7号(2022);View Description Hide Description全ゲノム解析によって,非コード領域も含めたドライバー遺伝子異常や染色体構造異常,変異シグネチャー,病原体ゲノム挿入など,がんゲノム異常の包括的解析が可能である。その臨床的有用性として,従来よりも効率的な分子診断,新規性の高い創薬開発,ゲノム情報に基づくがん予防などがあげられる。全ゲノム解析を医療に実装するには持続可能なシステムとして構築し,どういった症例において臨床的有用性や費用対効果があるのかといった実証的な評価が重要である。また,リキッドバイオプシー全ゲノム解析やロングリードシークエンス,解析結果の解釈における人工知能の活用といった新技術導入も必要であろう。全ゲノム解析はまだ研究段階や試験的に医療への応用が検討されている段階であるが,その潜在性は高く,今後のゲノム医療において主流となることが期待される。
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特集
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- がん悪液質の新たな展開
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がん悪液質診療の将来展望
49巻7号(2022);View Description Hide Descriptionがん悪液質は食欲不振と骨格筋量の持続的な減少(脂肪量減少の有無にかかわらず)を伴う多因子性の症候群である。2011年に診断基準が確立し,2021年に抗がん悪液質作用を示すアナモレリンが発売となり,治療介入可能な病態としてがん悪液質診療は新たなステージに進んだ。ただ,アナモレリン単剤では食欲亢進と除脂肪体重の増加は示せたものの骨格筋の機能回復は認められず,そのためには栄養・運動介入を合わせた複合介入療法が必要とされる。非薬物療法は未確立であり,現在日本および欧州諸国で臨床試験が進んでいる。さらにがん悪液質のメカニズムの解明やバイオマーカーの確立,それらの因子をターゲットにしたアナモレリンに次ぐ薬物療法の開発,がん悪液質の新たな診断や病態評価の手法の確立,アナモレリンの効果予測因子の確立などが進められている。 -
がん悪液質の集学的治療の開発
49巻7号(2022);View Description Hide Descriptionがん悪液質は,悪性腫瘍に伴う代謝異常に摂食行動や身体活動を阻害する症状が合併して体重減少を生じる。安全性と有効性を兼ね備えた集学的治療は未だ確立していない。しかし,アナモレリン塩酸塩の承認を機に,薬物療法と非薬物療法を併用する臨床研究が進んでいる。栄養士,理学療法士,医師,看護師,心理療法士など,それぞれの役割を明確にした多職種チームを構築することが重要である。そのためには医療従事者のみならず,患者や家族に対するがん悪液質の教育も必要とされる。 -
膵がん悪液質への取り組み
49巻7号(2022);View Description Hide Descriptionがん悪液質は著しい筋組織の減少と進行性の機能障害を引き起こす代謝障害症候群であり,進行膵がん患者の半数以上に発症する。予後不良,有害事象の重症化,治療コンプライアンス低下,治療有効性の低下が関連すると考えられている。グレリン受容体作動薬は,骨格筋増加,体重増加,食欲上昇作用を示し,抗悪液質治療薬として保険承認された。体重減少のみならず,食欲低下などの悪液質症状を呈するがん悪液質患者が適応となるが,進行膵がん患者でのエビデンスは限られており今後の研究が必要である。インターロイキン1α阻害剤などの炎症性サイトカイン阻害療法,栄養・運動療法も期待されており開発中である。 -
がん悪液質に対する運動療法
49巻7号(2022);View Description Hide Descriptionがん悪液質の治療は薬物療法だけでなく,栄養療法や運動療法,心理社会的介入を含めた集学的な治療が求められるようになってきている。そのなかでも,近年,運動療法はがん悪液質に対する非薬物的治療の一つとして期待されている。しかしながら,がん悪液質に対する運動療法のエビデンスは乏しく,標準的な運動療法は確立していない。われわれは,がん悪液質に対する標準的な運動療法の確立に向けた取り組みの一環として,悪液質リスクの高い高齢進行がん患者に対して初回化学療法導入時より栄養と運動を組み合わせたマルチモーダルな介入プログラム(The Nutrition and Exercise Treatmentfor Advanced Cancer program: NEXTAC program)の開発に着手した。本稿ではNEXTAC program における運動療法プログラムの概要を紹介し,現時点におけるがん悪液質に対する運動療法のベストプラクティスを考察する。
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Current Organ Topics:Head and Neck Tumor 頭頸部腫瘍 高齢者頭頸部癌の治療戦略
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特別寄稿
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高頻度マイクロサテライト不安定性大腸癌に対する免疫チェックポイント阻害薬による治療戦略と遺伝子検査の概要
49巻7号(2022);View Description Hide Description近年,免疫チェックポイント阻害薬であるペムブロリズマブが高頻度マイクロサテライト不安定性進行固形癌に対して,またニボルマブおよびイピリムマブ(ニボルマブとの併用)が高頻度マイクロサテライト不安定性大腸癌に対して承認され,その有用性が注目されている。一方,進行性大腸癌の分子標的薬の選択には遺伝子検査が必須であるが,検査の種類や測定時期が複雑化している。そこで,本稿では進行性大腸癌の遺伝子変異検査方法,高頻度マイクロサテライト不安定性大腸癌の分子メカニズム,免疫チェックポイント阻害薬の臨床開発状況および将来の治療戦略の展望を概説する。
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原著
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Oxaliplatin 過敏症予防における累積投与量を考慮したDexamethasone 増量レジメンの効果
49巻7号(2022);View Description Hide Descriptionoxaliplatin は白金錯体系抗悪性腫瘍薬であり,結腸・直腸癌に対する化学療法に広く普及している薬剤である。しかし副作用の一つに過敏症があり,累積投与量の増加に伴い過敏症発現率が増加するためoxaliplatin が継続困難になる理由の一つになっている。当院では2009年8月と2012年9月の2 回にわたり前投薬変更を行っており,今回その有用性をレトロスペクティブに調査した。その結果,予防対策前(12.1%)とH1,H2-blocker を追加した群(12.3%)では,過敏症発現率に有意差は認められなかったが,コース数に応じてdexamethasone 増量を行った群(2.7%)では有意に過敏症発現率が減少していた。以上より,oxaliplatin による過敏症予防に当院のレジメンが有効な手段であることが示唆された。 -
外来がん化学療法での脱水症のスクリーニング―血清浸透圧とかくれ脱水チェックシートの活用―
49巻7号(2022);View Description Hide Description目的: がん化学療法時の体重減少は治療継続に影響を及ぼすとの報告があり,栄養状態の維持・改善は重要である。同様に,水分・電解質の適切な補給も生命維持には不可欠である。しかし,がん化学療法時において水分・電解質補給を含めた脱水症状に関する報告はほとんどみられない。対象・方法: 2021 年4 月に外来がん化学療法を行った100人を対象とした。脱水症の程度を血清浸透圧で評価し,かくれ脱水チェックシートでのスクリーニングが可能か検討した。結果: かくれ脱水38人,脱水は6人に認めた。膵がんは肺がんに比べて有意に低値であった。かくれ脱水チェックシートでは,51 人がかくれ脱水の可能性が高い,医療従事者への相談が必要との判定であった。それぞれの判定結果の血清浸透圧は有意差を認めなかった。考察・結語: 外来がん化学療法においてかくれ脱水の患者は一定割合存在する。早い段階で抽出するために積極的に血清浸透圧を測定し,食事・水分摂取量の確認を含めた継続的な栄養指導の実施が求められる。
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症例
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切除不能膵癌のGemcitabine+Nab⊖Paclitaxel(GnP)併用療法中に縦隔気腫を契機に診断された薬剤性間質性肺炎の1 例
49巻7号(2022);View Description Hide Description症例は肺疾患既往のない70歳,男性。心室性不整脈の精査時に局所進行切除不能膵癌と診断され,一次化学療法としてGnP 療法を開始した。2 コース後に縦隔気腫を発症し薬剤性間質性肺炎を認めた。約3か月に及ぶ肺炎治療の間に膵原発巣は増悪し多発肝転移が出現,重篤な不整脈も再燃し膵癌の治療再開には至らなかった。化学療法施行時には抗悪性腫瘍薬が薬剤性間質性肺炎の主要因であることを念頭に,使用薬剤の肺障害好発時期に留意した経過観察が必要である。また,化学療法中に縦隔気腫を認めた場合は緊急疾患を鑑別し間質性肺炎の発症を疑い,迅速に対処することが重要であると思われた。 -
卵巣癌肉腫を生じたCowden 症候群の1 例
49巻7号(2022);View Description Hide DescriptionCowden 症候群(Cowden syndrome: CS)は三胚葉すべてに由来する組織に過誤腫性,過形成性病変を生じる常染色体顕性遺伝疾患である。顔面,四肢の角化性丘疹,口腔粘膜の乳頭腫をはじめとし,消化管ポリポーシスや乳腺,甲状腺,腎臓,子宮体部癌の発生リスクが増加する。今回われわれは,卵巣癌肉腫を生じた乳癌,甲状腺腫既往のある女性でPTENの病的バリアントを認め,CS と診断した症例を経験したので報告する。症例は55 歳,女性。腹部膨満感で近医を受診しCTで骨盤内腫瘤を認め当院に紹介となった。33 歳時に乳癌,51 歳時に左耳下腺腫・舌腫瘍,53 歳時に腺腫様甲状腺腫の既往がある。卵巣癌を疑い腫瘍減量術を施行したが播種病変が残存した。病理組織学的診断は卵巣癌肉腫であった。巨頭症,口腔粘膜の乳頭腫がみられ,既往歴からCS を疑い遺伝学的検査を実施し,PTEN の病的バリアントが判明した。術後にpaclitaxel/carboplatin による化学療法を施行したが奏効せず原病死した。本症例はCS で卵巣癌肉腫を併発した初の報告であり,CS では卵巣悪性腫瘍も発生し得ることを念頭に置く必要がある。 -
人参養栄湯が化学療法中の骨髄機能改善に有効であった3 例
49巻7号(2022);View Description Hide Description消化器がん化学療法中に出現する骨髄機能抑制に対し,人参養栄湯の支持療法が有効であったと思われる3 例を経験したので報告する。症例1: 76 歳,女性。直腸がんに対して直腸前方切除術を施行,pT3N1bM0,pStage Ⅲb であった。術6 週後よりmFOLFOX6 による術後補助化学療法を導入したが,白血球数や赤血球数が低下した。そのため導入9 日目より人参養栄湯を投与開始し,複数回の化学療法継続が可能であった。症例2: 65 歳,女性。上行結腸がんに対して結腸右半切除術を施行,pT3N0M0,pStage Ⅱであった。二度目のS8 肝転移のため肝部分切除術を施行し,mFOLFOX6 を導入時に人参養栄湯を投薬した症例である。症例3: 83 歳,女性。胃がんに対して胃全摘術を施行,pT4a(SE)N3aM0,pStage Ⅲb であった。paclitaxel+ramucirumab による二次治療移行時に同時に人参養栄湯を投薬した症例である。いずれも人参養栄湯投与後は休薬や減量することなく化学療法が継続可能であった。人参養栄湯投与が化学療法の継続性改善に有効である可能性が期待される。
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