癌と化学療法

Volume 50, Issue 1, 2023
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寄稿
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総説
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がんの表現型可塑性と治療抵抗性
50巻1号(2023);View Description
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がんゲノム医療やがん免疫療法など,がん研究の飛躍的な発展により現代がん治療は今,正にパラダイムシフトを迎えようとしている。かねてより期待されていた患者一人一人の情報を基にしたオーダーメイド医療が実現し,ファーストラインの抗がん剤効果が乏しくなっても別の治療選択肢を取ることが可能になってきた。しかしながら,ほとんどの治療に対してがん細胞は最終的に耐性化してしまうことから,依然として「治療と耐性化」という終わりのないサイクルからは抜けだせずにいる。そのため,治療抵抗性難治がんの本態解明,とりわけ治療抵抗性の克服に資する新たな治療法開発が社会的にも強く望まれている。がん耐性化の要因には,新たに獲得される遺伝子変異や表現型可塑性による形質転換があげられる。特に,近年発展の目覚ましい1 細胞解析技術を利用した研究からは表現型レベルの可塑性を利用して休眠し,その後の薬剤耐性化変異獲得に備える「パーシスター細胞」の存在が明らかとなってきた。パーシスター細胞はゲノムレベルの変異をもたないため,その分子機構を解明するには表現型レベルで形質転換を追跡・単離する技術が必要とされている。パーシスター細胞はその特徴から薬剤耐性化の源泉と考えられ,その発生・維持をつかさどるパイオニア分子を標的とした新たな治療法を開発することができれば,薬剤耐性化によるがん再発・転移の克服に近づくものと考えられる。
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特集
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- 国際共同試験への課題―がん化学療法におけるアジアと欧米の違い―
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がん化学療法におけるアジアと欧米の違い―肺癌―
50巻1号(2023);View Description
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Ⅳ期非小細胞肺癌の一次治療において,ドライバー遺伝子変異/転座の結果を基に,分子標的治療薬,免疫チェックポイント阻害薬を含む化学療法が使用されている。アジアにおいてはEGFR 遺伝子変異陽性患者の割合が高く,EGFR 阻害薬の試験が多く行われてきた。また,細胞傷害性抗がん剤による好中球数減少などの骨髄抑制の頻度が高く,分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬による間質性肺疾患の頻度が高い可能性も示されている。日本においては,70 歳もしくは75歳以上を高齢者として異なるレジメンが標準治療とされてきたが,最近二つの第Ⅲ相試験の結果が報告され,日本においても75歳以上の高齢者であってもプラチナ製剤併用療法が標準治療となり,ますます国際共同試験への参加がしやすい状況になった。また,日本では保険診療でがん遺伝子パネル検査が可能になっており,遺伝子プロファイルの明らかな患者が多いことを活かして今まで以上に多くの薬剤にアクセス可能になることが期待される。 -
食道がん化学療法における本邦と欧米の違い―国際共同試験に向けて―
50巻1号(2023);View Description
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食道がんの組織型には,扁平上皮癌と腺癌の二つが主に存在し90% は扁平上皮癌であるが,欧米においては腺癌が多くを占めている。また,欧米と本邦では特に周術期の標準治療が異なり,本邦においてはJCOG1109 試験の結果から術前化学療法が標準治療となっている。一方,欧米においてはCROSS 試験に準じた術前化学放射線療法と,CheckMate 577 試験の結果から術後のニボルマブの投与が標準治療となっている。また,手術療法においても本邦では3 領域郭清が標準となっているが,腺癌を主体とした下部食道を対象とすることの多い欧米では中下縦隔の2 領域郭清が標準となっている。このようにこれまでに構築されてきたエビデンスの違いにより,海外の臨床試験の結果を国内に外挿できない場合もある。そのため今後,特に食道扁平上皮癌の発生頻度の高い東アジアをはじめとする各国の標準治療の違いを理解し,各国とのエキスパートとの交流を深めることで国際的な臨床試験の立案と標準治療の確立が不可欠となってくる。 -
胃がん化学療法におけるアジアと欧米の違い
50巻1号(2023);View Description
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胃がんは,人種差・地域差によって頻度,病態,治療内容,治療成績が大きく異なる。本邦は早期胃がんの頻度が高く,欧米と比較して手術成績が良好である。一方で,欧米は胃がんそのものの罹患率が低く,geographical region(地理的地域)で胃がんを取り巻く様々な背景に違いがある。本稿では,近年,新規薬剤が相次いで導入されている胃がん化学療法領域におけるアジアと欧米の化学療法戦略の違いについて,頻度や病態といった背景の違いを含め現状の実態と今後の展望を解説する。 -
国際共同試験と承認格差への課題
50巻1号(2023);View Description
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乳がんに対する薬物療法の国際共同試験により,標準治療は日々変化している。日本は世界と同様の標準治療が行われているが,日本での開発が大きく遅れている新規薬剤もある。開発・承認格差の原因に,国際共同試験に不参加であった例としてsacituzumab‒govitecan,試験には参加したが人種差や開発企業の問題で開発が遅れている例としてalpelisib,neratinib などがある。一方で,POSITIVE 試験やCREATE‒X 試験,PATHWAY 試験などのように,日本からの参加が実現あるいは日本が主導している国際共同試験もある。日本が欧米あるいはアジアとの国際共同試験に参加,あるいは主導する上では多くの課題がある。国内外の施設や臨床試験グループ間の連携および国際共同試験のためのネットワーク,基盤の構築が必要である。 -
婦人科癌領域における国際共同試験への取り組みSince 1997
50巻1号(2023);View Description
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婦人科癌領域の臨床試験における国際共同の歴史は長い。その理由は,婦人科癌患者数が中途半端に少ないために,一国のみでエビデンス創出のための第Ⅲ相比較試験が困難であるためである。わが国においても,この流れに乗り遅れないようにするために米国との共同試験から始まり,全世界的ネットワークの下で試験参加をしてきた。本稿では,その経験を紹介するとともに,そのなかから発見された興味深い事象についても紹介する。
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Current Organ Topics:Urological Cancer 泌尿器系癌 わが国の泌尿器系腫瘍における薬物療法Update 2022
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Current Organ Topics: Urological Cancer 泌尿器系癌 わが国の泌尿器系腫瘍における薬物療法Update 2022
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薬事
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免疫関連有害事象(irAEs)早期発見に向けた副作用自己申告型問診システム(ISRIS)の運用とその有用性
50巻1号(2023);View Description
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免疫チェックポイント阻害薬使用時には多彩な免疫関連有害事象(immune-related adverse events: irAEs)が生じ,発見の遅滞は治療継続を困難とする場合がある。われわれは,すべての外来患者に対しタブレット端末を用いた患者参画の副作用自己申告型問診システム(irAEs self-reported interview system: ISRIS)を運用し,irAEs の早期発見を心掛けている。今回,ISRIS の運用までの経緯を報告するとともに,この独自の問診システムの有用性について検討した。2019 年6 月~2020 年5 月までにペムブロリズマブ,ニボルマブ,アテゾリズマブ,イピリムマブ,デュルバルマブを投与し,ISRIS を施行した外来患者を対象とし後方視的に調査を行った。調査項目は,原疾患とirAEs 初期症状,検出されたirAEs とした。患者総数は140 名,問診総数1︐095 件,irAEs 発症は42 件であった。ISRIS の検出(n=20)は,急性ぶどう膜炎,劇症1 型糖尿病,重症筋無力症が各1 件(100 %),大腸炎2 件(100 %),次いで皮膚障害11 件(65%),間質性肺炎および副腎機能障害が各1 件(50 %),甲状腺機能障害2 件(15%),肝機能障害,腎機能障害,心筋炎が各0 件であった。ISRIS は,自覚症状がでやすい皮膚障害の検出に有用である。一方,甲状腺,肝腎機能障害,心筋炎の検出率は低く改善の余地がある。早期に在宅でirAEs を検出できるよう,感度を維持し特異度を高めたISRIS アプリを現在開発中である。
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症例
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食道悪性黒色腫に対して胸腔鏡下食道亜全摘術を施行した1 例
50巻1号(2023);View Description
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症例は77 歳,女性。つかえ感を主訴に近医を受診し,上部消化管内視鏡検査を施行したところ胸部下部食道に20 mm大の潰瘍浸潤型病変を認め,病理組織学的検査で食道悪性黒色腫と診断された。造影CT 検査所見では胸部下部食道に25 mm 大の腫瘤影を認め,明らかな隣接臓器浸潤やリンパ節腫大,遠隔転移所見を認めず外科的切除可能と考えられ,胸腔鏡下胸部食道亜全摘術,2 領域リンパ節郭清を施行した。病理組織学的検査では食道原発悪性黒色腫と考えられ,pT1b(SM3)N2M0,pStage Ⅱとの診断となった。術後2 か月の造影CT 検査にて多発肝・肺転移を認め,nivolumab,ipilimumab併用療法開始となったが急速に全身状態は悪化し,術後4か月には緩和の方針となった。切除可能食道原発悪性黒色腫に対しては現状では手術療法が第一選択であるが,術前補助化学療法を含めた集学的治療戦略を再構築すべきと考えられた。 -
シリコンブレストインプラントによる豊胸術後に発生した乳癌5 例
50巻1号(2023);View Description
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シリコンブレストインプラント(silicone breast implant: SBI)後に発生したまれな乳癌5 例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。SBI から乳癌発症までは10 ~31 年で平均21 年,乳癌発症時年齢は41~63 歳で平均56 歳であった。主訴は,乳房腫瘤33 例,乳房発赤1 例,乳頭出血1 例で,4 例が浸潤性乳管癌,乳頭出血の1 例がPaget 病であった。subtypeはLuminal A 3 例,Luminal-HER2 が2 例であった。術式は乳房切除1 例,温存手術4 例で,SBI 破損はPaget 病の1 例のみであった。pTNM Stage は0,Ⅰ,ⅡA,ⅢB,Ⅳ期がそれぞれ1 例ずつであった。術後平均5.1(1.8~14)年を経過し,ⅡA 期の1 例が再発,Ⅳ期の1 例が化学療法後pCR となるも肺転移などにて再燃した。豊胸術後乳癌は進行例が多いとされているが,異物注入例が多く,SBI 後発症乳癌での実態は明らかではない。SBI による豊胸手術と乳癌発症との関連については,海外ではいくつかのmeta-analysis によりSBI と乳癌発症とに関連がないとされている。一方,本邦における乳癌症例中,SBI の既往をもつ症例の割合に関する統計はない。当院でのこの15 年間におけるSBI 後乳癌の頻度は,2020 年12 月までの原発切除乳癌1︐851 例中5 例(0.27%)である。本邦におけるSBI 後乳癌の報告は少なく,SBI の歴史が浅いことを考慮しても乳癌症例におけるSBI 後症例の割合はかなり低いと思われる。 -
レンバチニブの先行投与と引き続いてのラジオ波焼灼療法によりCR が得られた肝細胞癌の1 例
50巻1号(2023);View Description
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症例は74 歳,男性。健診の腹部超音波検査で肝S7 に3.3 cm の腫瘍を指摘された。dynamic CT 検査およびGd-EOB-DTPA 造影MRI 検査では,腫瘍は動脈相で濃染,門脈相でwash out され,肝細胞癌と診断した。諸事情から最小限の入院かつ低侵襲治療を優先することとなり,腫瘍の減量を目的にレンバチニブを先行投与した後に縮小がみられれば穿刺局所療法を行う方針とした。6 か月後の治療効果度は壊死効果でTE4b と考えたが,腫瘍消失には至らなかったため当初の方針どおり根治的治療として腹腔鏡補助下にラジオ波焼灼療法を追加した。術後1 か月での評価では腫瘍濃染はみられず,病変部を含めての不染低濃度域は維持されており,overall TE4 で総合評価はCR と判定した。
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特別寄稿
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- 第44回 日本癌局所療法研究会
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若年男性に発生した腹腔内巨大デスモイド腫瘍の1 例
50巻1号(2023);View Description
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デスモイド腫瘍はまれな軟部腫瘍であり,その発生頻度は人口100 万人当たり年間2.4~4.3 例と非常にまれな疾患である。今回われわれは,腸間膜原発と考えられる巨大な腹腔内デスモイド腫瘍を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する。症例は20 歳台,男性。腹部膨満感,腹痛を主訴に近医を受診した。腹部造影CT で右上腹部~骨盤に及ぶ35×25cm 大の境界明瞭な巨大な腹部腫瘤を認めたため,当院外科を紹介受診した。腹腔内腫瘤の診断で手術加療の方針となり,開腹腫瘍摘出術とした。十二指腸,横行結腸,膵への浸潤を認めたため,結腸右半切除術,十二指腸合併切除術を施行した。病理組織学的診断でデスモイド腫瘍の診断であった。 -
膵癌結腸浸潤からの消化管出血に対し緊急手術を施行した膵尾部癌の1 例
50巻1号(2023);View Description
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症例は81 歳,女性。頻回の下血にて救急受診となり,血圧低下と貧血を認めた。腹部造影CT で膵尾部に60 mm 大の腫瘍を認め,横行結腸および脾臓,胃大弯との境界が不明瞭であり,浸潤が疑われた。膵尾部癌の結腸浸潤と腫瘍内出血が下血の原因であると考えられた。入院後,下血が持続したため緊急手術の方針となった。膵尾部腫瘍は胃大弯,横行結腸に浸潤しており,胃部分切除,横行結腸合併切除を伴う脾合併尾側膵切除術,横行結腸人工肛門造設を施行した。病理組織診断では膵尾部を主座とし,広範囲に脾臓,左副腎,横行結腸への直接浸潤を認める中分化腺癌であった。横行結腸は粘膜面に露出する進展を認めた。術後,第49 病日にリハビリ目的に退院となった。膵尾部癌の結腸浸潤による消化管出血のために出血性ショックを呈し,手術を施行し救命し得た1 例を経験したので文献学的考察を加えて報告する。 -
腹膜播種を有する膵体部癌に対して長期の化学療法後にConversion Surgery を施行した1 例
50巻1号(2023);View Description
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症例は66 歳,女性。乳癌の術後フォロー中に腫瘍マーカーの上昇を認め,腹部造影CT で膵体部に16 mm 大の乏血性腫瘍を認めた。EUS‒FNA により膵体部癌の診断となった。切除可能と判断し開腹手術を施行したが,腹膜播種を認め非切除の方針とした。gemcitabine(GEM)+nab‒paclitaxel(PTX)療法9 コースとmFOLFIRINOX 療法30 コースを施行したところ治療効果は良好で,腫瘍マーカーの低下と腫瘍の縮小を認めた。conversion surgery として膵体尾部切除を行い,術後病理検査では原発巣に腫瘍の遺残を認めず,病理学的完全奏効の診断となった。術後補助化学療法として6 か月のS‒1内服を行い,術後8 か月経過した現在も無再発生存中である。 -
膵癌術後5 年経過後に出現した二度の肺転移に対し切除により長期生存が得られている1 例
50巻1号(2023);View Description
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症例は70 歳台,女性。白色便を主訴に近医を受診し精査の結果,膵頭部癌の診断で亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行された。病理組織検査では中分化型腺癌,膵周囲剝離面陽性でR1 切除であった。術後補助化学療法を施行し再発なく経過していたが,術後5 年6 か月に左肺S3 末梢に16×9 mm の単結節が出現した。原発性肺癌の疑いで,胸腔鏡下左肺上葉切除術を施行した。病理組織検査では,膵癌転移に矛盾しない腺癌と診断された。術後に化学療法の希望はなく経過観察を続けたが,左肺切除術より1 年1 か月後に右肺S9 末梢に11×10 mm の単結節が再度出現した。原発性か転移性かの診断は困難であったが切除の方針とし,胸腔鏡下肺部分切除術を施行した。病理組織検査では,前回の肺病巣と類似した組織像で膵癌転移に矛盾しないとの診断であった。その後も化学療法の希望はなく経過観察中であるが,新規に明らかな再発所見は認めず,初回膵癌手術後より7 年7 か月間生存中である。 -
腎癌術後の膵転移に対して膵体尾部切除術,残膵再発に対して膵全摘術を施行した1 例
50巻1号(2023);View Description
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膵転移は比較的まれであるが,腎細胞癌の転移例は散見される。今回,腎細胞癌から24 年後の膵転移に対し膵体尾部切除術(DP)を行い,さらに4 年後に残膵再発に対し残膵全摘術を施行した症例について報告する。症例は72 歳,男性。1991 年に右腎細胞癌に対し右腎摘出術を施行した。その後のフォロー中,膵体尾部に腫瘤性病変を指摘されNET 疑いでDPを施行した。病理検査は腎細胞癌の転移であった。その4 年後,残膵に腫瘤性病変を指摘され残膵全摘術を施行した。病理検査にて腎細胞癌の転移と診断した。腎癌の膵転移に対する膵切除後に再度膵切除を施行した症例は本邦では自験例を含めて5 例と少なく,初回の膵転移指摘まで平均11.8 年,膵再発までも平均9.4 年と長期経過であった。腎癌の膵転移は異時性で多発転移を来すため,長期経過観察が必要である。再発時の膵切除範囲決定の際には,患者の年齢,背景も考慮し残膵温存を考慮した積極的な切除が長期予後につながる可能性が示唆された。 -
肝細胞癌術後多発再発に対してアテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法が著効した1 例
50巻1号(2023);View Description
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はじめに: 肝細胞癌術後多発再発に対してアテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法が有用であった症例を経験したので報告する。症例: 患者は73 歳,男性。腹部膨満感を主訴に受診し腹部造影CT にて外側区域から肝外に発育する90 mm 大の腫瘤を認めた。肝細胞癌の疑いに対して腹腔鏡下肝外側区域切除術を施行し,肝細胞癌pStage Ⅱの診断であった。術後6 か月目に肝内多発再発病変およびリンパ節再発あるいは腹膜播種の疑いを認め,腫瘍マーカー著明高値を認めた。肝細胞癌術後肝内肝外多発再発と診断し,アテゾリズマブ(1,200 mg/body)+ベバシズマブ(15 mg/kg)併用療法を開始した。開始後,腫瘍サイズ縮小および腫瘍マーカーの正常化を認め,術後17 か月の時点で腫瘍縮小を維持し,腫瘍マーカーも正常範囲で経過している。結語: 肝細胞癌術後の肝内肝外多発再発に対して,アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法を施行し著効した症例を経験した。 -
下大静脈腫瘍栓を伴う肝細胞癌に対し肝動注療法後体外循環を用いて肝切除し得た1 例
50巻1号(2023);View Description
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症例は59 歳,男性。C 型慢性肝炎を背景とした肝機能異常の精査目的に前医を受診された。腹部造影CT で肝右葉に多発する腫瘍を認め,S7 を占拠する8 cm 大の腫瘍と連続して右肝静脈より進展し下大静脈に達する腫瘍栓と門脈右枝にも腫瘍栓を認めた。肝細胞癌,cT4N0M0,cStage ⅣA と診断し肝動注化学療法を施行し,腫瘍縮小を図ってから切除の方針とした。肝動注化学療法を5 コース施行後,肝内病変は著明に縮小したが微小肺転移が出現し,下大静脈内腫瘍栓が胸部下大静脈,三尖弁直下まで増大を認めた。肝外病変を有するが,下大静脈腫瘍栓の急速な増大による突然死のリスクが高まっていると判断し,切除の方針とした。心囊内下大静脈での血流遮断が困難であり,人工心肺補助下で右肝切除,下大静脈腫瘍栓摘除,下大静脈合併切除,牛心膜パッチ再建を施行した。術後経過は良好で,術後23 日目に退院した。その後,肺転移に対し分子標的薬を投与しながら術後16 か月現在,外来経過観察中である。 -
門脈下大静脈シャント塞栓術により術後肝性脳症を治療し得た肝門部領域胆管癌の1 例
50巻1号(2023);View Description
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症例は83 歳,女性。早期胃癌術後経過観察中に閉塞性黄疸が出現した。精査の結果,Bismuth type Ⅲa の肝門部領域胆管癌と診断した。腹部造影CT では,門脈下大静脈シャントの併存を認めたが,血中アンモニア値は正常であった。右肝・尾状葉切除,肝外胆管切除,門脈合併切除再建術を施行した。術後から保存的治療抵抗性の高アンモニア血症を認め,第20 病日には180μg/dL まで上昇し,Ⅲ度の肝性脳症を認めた。造影CT では,門脈下大静脈シャント径の増大を認める一方,残肝体積の増大はわずかであった。以上より,シャント血流増加および門脈血流低下による肝性脳症と考えられ,経皮経肝的門脈下大静脈シャント塞栓術を施行した。その後速やかに症状,高アンモニア血症は改善した。本例の血行動態の変化および門脈下大静脈シャント併存例に対する治療介入の是非について考察し,報告する。 -
食道癌術後の膵頭十二指腸切除術においてICG 蛍光法による胃管血流評価が有用であった2 例
50巻1号(2023);View Description
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症例1 は73 歳,男性。食道癌に対する食道亜全摘,後縦隔経路胃管再建術5 年後に,膵鉤部の膵管内乳頭粘液腺癌もしくは切除可能膵癌と診断され,幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(pylorus preserving pancreaticoduodenectomy: PPPD)を施行した。症例2 は68 歳,男性。食道癌に対する食道亜全摘,後縦隔経路胃管再建術施行3 年後,膵鉤部の切除可能膵癌と診断され,術前化学療法施行後にPPPD を施行した。両症例において,胃管血流を温存するため,右胃大網動静脈を温存し,術中にindocyanine green(ICG)蛍光法を用いて胃管血流が十分であることを確認した。術後,胃管壊死や消化管通過障害の合併症なく経過した。食道癌術後症例に対するPPPD において,術中のICG 蛍光法は残存胃管血流の評価に有用であると考えられた。 -
当院にて腹腔鏡下膵頭温存十二指腸切除を施行した症例の手術成績
50巻1号(2023);View Description
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背景: 膵頭温存十二指腸切除は膵頭十二指腸切除に比較して膵機能温存のみならず術後膵液瘻を含めた術後合併症は少ないとされ,リンパ節郭清を必要としない良性あるいは低悪性腫瘍に対する手術術式として報告される。今回,当院で腹腔鏡下膵頭温存十二指腸切除を施行した症例について検討を行ったので報告する。方法: 2019 年10 月~2022 年1 月の期間に当院で腹腔鏡下膵頭温存十二指腸切除を3 例に施行した。同術式については,当院の倫理審査委員会の承認を得て施行した。結果: 3 例の出血中央値は少量,手術時間中央値は430 分,術後在院日数中央値は13 日であった。1 例でHALS への移行が必要であった。病理組織診断は2 例が十二指腸腺腫,1 例は十二指腸GIST であった。いずれの症例でも術後合併症は認めなかった。結論: 今回,当院で腹腔鏡下膵頭温存十二指腸切除を行った症例を経験した。術式の適応,安全性について今後さらなる症例の蓄積が必要である。 -
大腸癌肝転移に対する全身化学療法が遂行困難となり肝動注療法が奏効している1 例
50巻1号(2023);View Description
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症例は70 歳,男性。精査の結果,高CEA 血症(1︐110.6 ng/mL)を呈するS 状結腸癌および肝右葉の大部分を占める同時性肝転移と診断した。S 状結腸部分切除を施行後に,全身化学療法(SOX+BEV)を施行した。7 コース目には画像上PR を得て,CEA も5.0 ng/mL と基準値内にまで低下した。化学療法を重ねるにつれて血液毒性や有害事象が頻発し,減量や化学療法スケジュールを度々変更せざるを得なくなった。術後約2 年目(SOX+BEV を19 コース施行)の画像検査では肝転移巣が若干増大傾向となり,CEA も上昇傾向となった。患者から全身化学療法継続を希望されず,副作用や有害事象の比較的少ない肝動注療法を希望された。肝動注療法は,フッ化ピリミジン単独による肝動注療法は22 コース継続中であるが,画像上PR で腫瘍マーカーも再び低下した。肝動注治療中の約1 年間は,血液毒性や有害事象なくperformance statusも良好である。肝動注療法は大腸癌治療ガイドライン上で弱い推奨となった治療法であるが,副作用の比較的少ない有意義な治療法の一つと考えられる。 -
切除不能進行再発大腸癌における後方ラインでのFOLFIRI+Ramucirumab 療法の使用経験
50巻1号(2023);View Description
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FOLFIRI+ramucirumab(RAM)は,切除不能進行再発大腸癌に対する二次治療として本邦のガイドラインに収載されている。RAM は,同じ血管新生阻害剤であるbevacizumab(Bev)とは作用機序が異なるため,FOLFIRI+Bev でPDとなった症例にも有効である可能性があると推測される。2017 年1 月~2021 年12 月までに当院で一次治療または二次治療として5‒FU,oxaliplatin,irinotecan,Bev を用いてPD となった症例で,三次治療後にFOLFIRI+RAM を投与した6 名を対象に後方視的に検討を行った。6 例の内訳は,三次治療3 例,四次治療1 例,六次治療が2 例であった。三次治療と四次治療では全例で抗腫瘍効果はPD であったが,六次治療の2 例はPR とSD であった。