癌と化学療法
Volume 50, Issue 3, 2023
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総説
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地方圏域拠点病院における腫瘍内科医の役割
50巻3号(2023);View Description Hide Description腫瘍内科医は,施設内のがん診療チームの司令塔として各領域の医師,医療スタッフと協力して個々のがん患者に合った治療の提案・実施が求められる。一方,地方圏の拠点病院にあっては,腫瘍内科医はもとより,各専門領域の医師,スタッフが限られており大都市圏の拠点病院のように全領域を網羅できるとは限らない。したがって,限られた人員と設備を地方圏域の各施設が協力して地域全体で対応する必要がある。この使命のために,地域ぐるみの専門医や専門スタッフの養成,研究・実践活動,行政と協力した啓蒙活動,がん情報,がん教育,がんアドボカシー活動などの企画・運営が望まれる。この役割を円滑に果たすために,腫瘍内科医が率先してソーシャル・スキルを発揮したい。
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特集
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- 骨転移の診療
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骨転移の病態と診断
50巻3号(2023);View Description Hide Description骨転移はすべての進行がんに発生する可能性がある。正確な実数は把握されていないが,日本では年間数万人の患者が存在すると見積もられる。前立腺がん,乳がん,肺がんでは30~90% に骨転移が好発する。骨転移はがん細胞の血行性転移によって生じるが,骨破壊の主役はがん細胞によって刺激された破骨細胞である。骨転移の発生に関与する因子のうち,現在治療標的となっているのは破骨細胞の分化・成熟に関与するreceptor activator of nuclear factor kappa‒B ligand である。症状は疼痛,骨折,麻痺であるが,身体症状に加えてADL やQOL の低下など様々な負のインパクトを患者の精神社会的状況に与える。診断はがん種別発生頻度,症状を基にCT,MRI,骨シンチグラフィ,PET‒CT などの画像診断で確定する。 -
骨転移の整形外科的治療
50巻3号(2023);View Description Hide Description本邦ではがん治療の進歩によりがん患者の生命予後は延長し,以前にも増してがん患者の日常生活動作(ADL)と生活の質(QOL)が問われるようになってきた。移動能力の低下や疼痛はADL だけでなくQOL をも低下させることから,がん患者の運動器管理は非常に重要である。2018 年に日本整形外科学会は,「運動器と健康」PR 事業のテーマとして「がんとロコモティブシンドローム(がんロコモ)」を選定した。骨転移はがんロコモの一つの大きな要因であり,その解決に整形外科手術は有用である。骨転移により生じる骨折や脊髄損傷の予防あるいは治療として,長管骨には内固定や関節置換が,脊椎には経皮的椎体形成や除圧,脊椎固定,脊椎骨全摘術などの手術が選択される。予想される生命予後を参考にして,生存期間中に骨転移が原因でADL やQOL が損なわれることがないように,術式が選択される必要がある。また,骨転移の病態は多様であり,がんの種類や病期によりがん治療自体が大きく異なり得る。幅広い整形外科の術式とがん治療の多様性を統合するには,がん治療の主治医と整形外科医の連携が必須である。 -
骨転移の放射線療法
50巻3号(2023);View Description Hide Description骨転移への放射線治療を上手に使うことで,症状緩和の質を高めることができる。ただ,有痛性骨転移へいつ適用するのが最適か,よい/悪い放射線治療の適応は何か,再照射をどう使うのがよいか,(切迫)脊髄圧迫へいつ介入するべきか,症状予防のための放射線治療適用の可否など診療で判断に迷うことも多い。本稿は,主に放射線治療の非専門家が放射線治療医へのコンサルトを上手に行うための知識を得ることをめざす。 -
骨転移の薬物療法
50巻3号(2023);View Description Hide Descriptionビスホスホネート製剤は1990 年代後半に転移性骨疾患患者の骨関連事象(SRE)の頻度を低下させる目的で導入され,2010 年代になり別種類の骨修飾薬として抗RANKL 抗体も登場した。いずれも破骨細胞のアポトーシスを誘導し,本邦では骨転移を伴った固形がんと多発性骨髄腫に対して使用されている。骨微小環境構成細胞には破骨細胞以外にも骨芽細胞,血管内皮細胞,免疫細胞など多岐にわたる細胞が含まれ,がん細胞と時空間的にダイナミックで密接な相互作用をすることで骨転移巣が形成されていくことが明らかにされている。がん細胞がどのような経路や微小環境因子を用いて骨コロニー形成を促進するように進化してくるかを理解することで,個々の症例における治療戦略立案が最適化され,正確な分子ドライバーのさらなる解明と創薬へとつながっていくことを期待したい。
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Current Organ Topics:Musculoskeletal Tumor 骨・軟部腫瘍 骨・軟部腫瘍におけるがん遺伝子プロファイリング検査
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原著
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頭皮冷却装置RV2101を用いた乳癌の薬物療法誘発性脱毛抑制に関する有効性と安全性について
50巻3号(2023);View Description Hide Description化学療法時の脱毛抑制として,頭皮冷却装置RV2101の有効性および安全性を評価した。アントラサイクリン系あるいはタキサン系薬剤の化学療法を受けた乳癌患者39 例を頭皮冷却群27 例と脱毛観察群12 例に割り付け,NCI 脱毛毒性基準グレードでの評価および量的脱毛毒性グレードスケールを用いた評価を行った。NCI 脱毛毒性基準グレードを用いた脱毛率でも量的脱毛毒性グレードスケールでも,それぞれ51.9%(14/27 例)および100%(12/12 例)であった。また,安全性としては頭皮冷却群および脱毛観察群ともすべての被験者に有害事象が認められたが,重度の有害事象は各群で化学療法に起因する1 例に認められたのみで,いずれの群でも半数例以上は軽度の有害事象であった。治験期間中,死亡例は認められなかった。RV2101を用いた頭皮冷却治療は,乳癌の標準的化学療法を受ける患者に認められる脱毛の軽減に明らかな効果を示した。また,頭皮冷却治療に関連して認められた有害事象は軽度で,軽快したことから許容できるものと考えられた。
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症例
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トラスツズマブ デルクステカンにより片側に病理学的完全奏効が得られた両側HER2 陽性浸潤性乳管癌の1 例
50巻3号(2023);View Description Hide Description症例は52 歳,女性。両側HER2 陽性乳癌,両側腋窩リンパ節(LN)転移,両側肺転移,stage Ⅳ。標準的化学療法としてトラスツズマブ+ペルツズマブ+ドセタキセル療法を施行,右乳癌,右腋窩LN 転移,両側肺転移は縮小したが左乳癌,左腋窩LN 転移は増大となった。その後トラスツズマブ エムタンシンを施行,左腋窩LN 転移は縮小したが左乳癌は増大し左乳房は著しく緊満した。トラスツズマブ デルクステカン(TDXd)を施行したところ,治療開始後初めて左乳癌が縮小し乳房の炎症所見も消失した。他病変の再燃はなかった。TDXdを7 回施行し経過中最も縮小となった段階で左乳腺全切除,左腋窩LN 郭清術を施行した。病理にて左乳腺,左腋窩LN とも腫瘍細胞の完全消失が確認された。難渋したHER2陽性乳癌の局所治療にTDXdが極めて有効であった症例を経験したので報告する。 -
Gemcitabine+S‒1 併用術前化学放射線療法と,その後のGemcitabine+S‒1 療法によりpCR を得たBorderline Resectable 膵癌の1 例
50巻3号(2023);View Description Hide Description症例は69 歳,男性。右背部痛を主訴に当院を受診した。精査にて膵頭部癌,TS(30 mm),cT3,cCH1,cDU0,cS1,cRP1,cPV1(PVp),cA1(Ach),cPL1(PL phⅠ),cOO0,cN0,cM0(P0,H0),CYX,cStage ⅡA,borderline resectable 膵癌(BRA)と診断した。gemcitabine+S1(GS)併用化学放射線療法を施行した。その後GS 療法を6 コース追加した。腫瘍マーカーはほぼ正常化し,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した。病理組織検査では,線維化が高度な萎縮性の膵組織で明らかな悪性所見はなく,pathological complete response(pCR)と診断された。術後は36 か月無再発生存中である。GS 併用化学放射線療法とその後のGS 療法にてpCR となった膵癌の報告例は少なく,文献的考察を加えて報告する。 -
肛門管に伸展する早期直腸癌に対し内視鏡的粘膜下層剝離術と経肛門的腫瘍切除術を併用した1 例
50巻3号(2023);View Description Hide Description症例は77 歳,女性。排便時の出血を主訴に当院を受診した。下部消化管内視鏡検査で肛門管に伸展するcTis の直腸腫瘍を認めたため,経肛門的腫瘍切除術を行った。病理組織学的検査では一部水平断端陽性であった。そのため追加切除を計画し,内視鏡的粘膜下層剝離術を併用した経肛門的腫瘍切除術を施行し,遺残癌組織の完全切除を行った。現在,術後1年経過しているが,再発所見はみられていない。
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特別寄稿
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- 第44回 日本癌局所療法研究会
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ニボルマブ完全奏効による投与中断後に腫瘍再燃を認め再投与を施行した進行胃癌の1 例
50巻3号(2023);View Description Hide Description症例は61 歳,男性。切除不能進行胃癌,cT4b(SI; 膵臓),N+,M0,cStage ⅣA と診断し,一次治療としてSOX療法,二次治療としてRAM+PTX 療法を実施した。しかし原発巣の増大を認めPD と判断し,三次治療としてニボルマブ投与を開始した。ニボルマブ開始後,原発巣・リンパ節ともに縮小を認め,以後24 コース施行した。24 コース施行後にPET‒CT 検査で原発巣・リンパ節にFDG 集積を認めなかったためCR と判断した。患者本人よりニボルマブ中断の希望あり,ニボルマブ投与を中止し外来にて経過観察を行った。しかしニボルマブ投与終了後1 年8 か月のCT 検査で原発巣の再増大を認め,PET‒CT 検査で原発巣のFDG 集積を認め,腫瘍再燃と判断しニボルマブ投与を再開した。再開後はSD を維持し22 コース,10 か月投与を行っている。 -
カスタムメイド型切除ガイドと再建用プレートを用いて治療した放射線性顎骨壊死の1 例
50巻3号(2023);View Description Hide Description口腔がん治療では,手術治療,放射線治療,化学療法を併用した集学的治療がなされる。今回,舌癌に対する集学的治療後に生じた広範な下顎骨放射線性顎骨壊死に対し,コンピュータアシスト下による患者カスタムメイド型カッティングガイドと下顎再建用プレート(TruMatch®,本システム)を用いて顎顔面形態および顎口腔機能の改善が得られた症例を経験したので報告する。症例は70 歳,男性。前医にて,左側舌扁平上皮癌(cT3N2bM0,cStage ⅣA)に対して集学的治療がなされた。術後7 年経過し,両側下顎骨に及ぶ広範な放射線性顎骨壊死を認め,加療目的に当科に紹介初診となった。当院形成外科と連携し,本システムを応用した下顎亜全摘出術および即時下顎骨再建術を計画した。手術は術前の計画どおり精密正確な病変の切除と再建がなされた。術後経過は良好で,本システムを用いることで良好な顎顔面形態と顎口腔機能の再建が可能であった。 -
肝動脈破格を有する局所進行膵癌に対してDP‒CAR を施行し得た1 例
50巻3号(2023);View Description Hide Description肝動脈に解剖学的破格を有する膵癌症例においては個々の症例ごとに血行動態を評価し,切除可能性を検討することが重要となる。今回,上腸間膜動脈から分岐する右肝動脈(SMARHA)を有することで,DPCARを施行し得た1 例を経験したので報告する。症例は68 歳,男性。腹部違和感を契機に膵体部癌を指摘された。CT では総肝動脈(CHA)から胃十二指腸動脈にかけての腫瘍浸潤を認め,局所進行膵癌の診断で化学放射線療法を行い,腫瘍の縮小が得られた後に手術の方針となった。手術は胃十二指腸動脈と固有肝動脈を含めた腹腔動脈幹合併膵体尾部切除,門脈再建を施行した。術後は胃排出遅延を認めたが,術後第36 病日に退院となった。 -
肛門管癌直腸切断術術後局所再発に対して腹腔鏡下子宮,膣合併切除を行った1 例
50巻3号(2023);View Description Hide Description症例は80 歳台,女性。現病歴は下血を主訴に当院を受診し,下部消化管内視鏡検査で肛門管癌と診断した。初回手術はロボット支援下腹会陰式直腸切断術(D3 郭清),両側側方リンパ節郭清を施行した。病理診断は,肛門管癌,muc>por1>tub2,pT3N1bM0,pStage Ⅲb であった。術後1 年目のCT 検査で会陰部の軟部組織に腫瘤を認め,PET‒CT 検査にて異常集積を伴っており,局所再発と診断した。同時に上行結腸にも異常集積を伴う腫瘤を認め,下部消化管内視鏡検査で上行結腸癌と診断した。どちらも根治切除が可能と判断し,手術の方針とした。まず,腹腔鏡下に回盲部切除術を施行した。会陰部の内診で局所再発病変は会陰部の軟部組織から膣後壁,子宮頸部へ浸潤し一塊となっていたため,腹腔鏡下に子宮および膣後壁を合併切除することで局所再発巣を摘出した。病理結果にて上行結腸癌,tub1,pT1bN1aM0,pStage Ⅲa,肛門管癌再発と診断した。術後経過は良好で,術後6 か月で再発の兆候は認めない。肛門管癌の他臓器浸潤を認める局所再発に対して,腹腔鏡下に切除可能であった1 例を経験した。 -
繰り返す外科的切除を行った後腹膜平滑筋肉腫の1 例
50巻3号(2023);View Description Hide Description症例は55 歳,男性。超音波検査にて下腹部に径5 cm の腫瘤が発見された。精査にて後腹膜の悪性軟部腫瘍を疑い,診断的治療目的に外科的切除とした。摘出標本から後腹膜平滑筋肉腫と診断された。術後1 年以内に二度の再発に対し摘出術を行った。初回手術1 年後に肺転移を認め化学療法開始としたが,発見時より2 年以上の生存を得た。予後不良とされる後腹膜平滑筋肉腫であるが,早期発見と繰り返す外科的切除が予後延長に寄与したと考えられる1 例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。 -
内視鏡的粘膜切除施行後の局所再発が疑われた直腸癌の1 例
50巻3号(2023);View Description Hide Description症例は73 歳,男性。17 年前に他院で早期直腸癌(粘膜内癌)に対して内視鏡的粘膜切除(EMR)を施行された。10年後のがん検診による下部消化管内視鏡検査では粘膜には病変を認めなかった。12 年後に仙骨前面に石灰化を伴う腫瘤が偶然発見されたが,画像的に良性腫瘍と診断された。17 年後に便秘と下痢の症状を認め,下部消化管内視鏡検査で直腸に亜全周性の隆起性病変を認め,生検で直腸癌と診断された。この時点のCT では肝外側区域に転移を疑う腫瘤を認めた。直腸癌の診断に対して腹腔鏡下超低位前方切除術を施行し,病理診断はpT4a,N3,M1(H),Stage Ⅳa であった。術後1 か月で肝転移に対して腹腔鏡下肝切除を施行したが,6 か月のCT で多発肺転移を認め化学療法を行っている。本症例は粘膜内癌に対するEMR 後であるが,経過や病理所見から局所再発の可能性があると考えられた。 -
Conversion Surgery により根治し得たStage Ⅳ胃癌の1 例
50巻3号(2023);View Description Hide Description症例は78 歳,男性。心窩部不快感が出現し,他院の上部消化管内視鏡検査で胃に高分化腺癌を指摘され,当院へ治療目的に紹介された。CT 検査では,腹部大動脈周囲リンパ節(No. 16)の腫大と原発巣の膵臓への直接浸潤を認めた。cStageⅣB の胃癌と診断し,SOX 療法を3 コース施行した。化学療法後のCT 検査では,原発巣の膵浸潤とNo. 16 リンパ節が消失し,ycStage ⅢA の胃癌と診断した。R0 切除可能と判断し,胃全摘術,胆囊摘出術を施行した。組織学的治療効果判定はGrade 1a であり,ypStage ⅡB の胃癌と最終診断した。補助化学療法としてS‒1 内服を12 か月間施行し,術後5 年9 か月無再発生存中である。 -
臍転移・腹膜播種を伴ったDe Novo Stage Ⅳ乳癌の1 例
50巻3号(2023);View Description Hide Description症例は48 歳,女性。受診時,右乳房A 区域に30 mm 大の硬い腫瘤を触知し,臍部に10 mm 程度の硬い腫瘤を認めた。乳房腫瘤の組織診はinvasive ductal carcinoma であった。PETCT検査では右乳房に集積を認めた他に,臍転移・腹膜播種の疑い,子宮体部腫瘤,左卵巣癌疑いの所見を得た。浸潤性乳管癌の転移巣としては非典型であり,婦人科癌合併による腹膜播種の可能性を否定できないため,臍腫瘤切除,審査腹腔鏡検査を行った。審査腹腔鏡の結果,子宮体部および左卵巣に原発性癌を疑う所見を認めず,左卵巣周囲の腹膜に播種を疑う白色結節性病変を認めた。臍腫瘤,左卵巣周囲結節の組織像および免疫染色結果はともに乳癌原発巣と類似の腺腔構造を呈し,左卵巣周囲結節はER 陽性,GATA3 陽性,PAX8 陰性であり,乳癌由来の臍転移・腹膜播種の診断に至った。内臓悪性腫瘍による臍転移はSister Mary Josephʼs nodule と呼ばれ,腹膜播種を合併していることが多く,臍部背側の腹膜播種病変の浸潤性転移により起こることが多いとされている。本症例では臍標本の組織診で腹膜側に播種病変が認められなかったため,腹膜播種からの浸潤により形成された臍転移ではないと考えられた。 -
当院の膵癌術後の初発肺転移症例に関する検討
50巻3号(2023);View Description Hide Description膵癌は術後早期より再発を来し極めて予後不良であるが,肺転移単独再発の症例は比較的予後良好であるという報告もある。当院の膵癌根治切除術後症例255 例のなかで,肺転移単独再発症例6 例について検討した。年齢は72(62~82)歳,男性5 人,女性1 人であった。膵頭十二指腸切除術4 人,膵体尾部切除術が2 人で,4 例が術後補助化学療法を受けており,S‒1 3 例,GEM が1 例であった。再発までの期間は中央値351 日であった。肺転移再発に対して外科的切除を受けた症例は認めず,全例抗癌剤治療となり,初回治療はGEM+nab‒PTX 併用療法3 例,S‒1 が3 例であった。再発後の全生存期間は中央値1,979 日で,再発後1 年,3 年全生存率は100%,100% であった。当院の膵癌術後肺転移単独再発症例の予後は,既報と同様に比較的良好であった。 -
集学的治療を行い二期的に根治切除し得た同時性肝転移を伴う局所進行直腸癌の1 例
50巻3号(2023);View Description Hide Description近年,術前化学療法と化学放射線療法(CRT)を組み合わせたtotal neoadjuvant therapy(TNT)が普及しつつある。今回われわれは,同時性肝転移を伴う局所進行直腸癌に対してTNT を行い根治切除し得た1 例を経験した。症例は61歳,女性。肝転移,子宮,膣,膀胱,左尿管浸潤を伴う最大径18 cm の巨大な直腸癌を認めた。FOLFOX+bevacizumab 療法を計8 コース施行後に,放射線療法(40 Gy/20 回)を行い,骨盤内臓全摘術を行った。術後に肝転移の増大を認め,FOLFIRI+panitumumab 療法を計6 コース施行した後に肝切除術を施行した。肝切除術後20 か月が経過し,無再発生存中である。 -
胃管癌術後乳び胸に対する複数の治療後に肺炎・膿胸を発症しその後治癒した1 例
50巻3号(2023);View Description Hide Description症例は74 歳,男性。食道癌に対し,食道亜全摘,胸腔内高位胃管吻合後,下咽頭癌CRT 後で経過観察中であった。フォローの内視鏡検査で胃管下部に潰瘍性病変を認め,生検でgroup 5,tub1 を認めた。内視鏡的切除は困難であり,手術の方針となった。右開胸胃管切除,皮下有茎空腸再建を行った。術後乳び胸水を認めた。経腸栄養を中止,TPN 管理とし,オクトレオチド持続皮下注,エチレフリン持続点滴を開始した。保存的治療開始後も右胸腔ドレーンから2,000 mL/日ほどの胸水を認めた。術後14 日目に左鼠径リンパ節からリピオドールリンパ管造影を行った。一時的に胸水500 mL/日以下まで減少を認めたが,再度1,000 mL/日の排液を認めるようになった。術後30 日目に肺炎・膿胸が原因と思われる炎症上昇あり,その後に排液が徐々に減少した。乳び胸が治癒したと判断し,術後41 日目にドレーン抜去した。術後72 日目に自宅退院した。 -
側方発育型早期十二指腸癌に対する1 切除例
50巻3号(2023);View Description Hide Description症例: 症例は76 歳,男性。検診で異常を指摘され,精査目的に当院紹介受診となった。上部消化管内視鏡検査で,十二指腸下行脚~水平脚に凹凸不整を伴う全周性の平坦な病変を認めた。生検で乳頭腺癌と診断された。腹部造影CT ではリンパ節腫大や遠隔転移を認めなかった。内視鏡的深達度はM 癌と推定されたが,大きさは約60 mm で全周性,Vater 乳頭近傍に位置していた。そのため,内視鏡的切除は困難と判断した。亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した。術後病理診断で0Ⅱ a 型,tub1>pap,pTis,Ly0,V0,80×50 mm,BD1,Ex0,Pn0,pPM0,pDM0,pN0,pStage 0 であった。その後,再発なく経過している。側方発育型の十二指腸癌はまれな疾患であり,内視鏡的切除や縮小手術,膵頭十二指腸切除などが報告されている。広範な側方発育型十二指腸癌の1 切除例を経験したため,文献的考察を加えて報告する。 -
導入後5 年を経過した当科での早期子宮体癌に対するロボット支援下手術の安全性と成績
50巻3号(2023);View Description Hide Description腹腔鏡による悪性腫瘍手術の実施経験のない当科において,2017 年9 月にロボット支援下子宮悪性腫瘍手術を導入した。これまでに経験した早期子宮体癌症例を対象に,ロボット支援下手術の安全性と有効性を開腹手術と比較したので結果を報告する。ロボット支援下手術は手術時間は有意に延長するものの,術中出血量,入院期間は開腹手術に比べて有意に少なく,周術期合併症は認めなかった。また,ロボット支援下手術では再発症例を認めなかった。ロボット支援下子宮全摘術は一般病院においても安全に導入可能であり,早期子宮体癌に対する有効かつ安全な治療法と考えられた。 -
直腸癌に対する腹腔鏡下ハルトマン手術後に絞扼性腸閉塞を合併した1 例
50巻3号(2023);View Description Hide Description症例は98 歳,女性。血便精査のため当院を紹介受診した。下部消化管内視鏡検査にて,直腸Rb に全周性の2 型腫瘍を指摘された。進行直腸癌と診断し,D2 郭清を伴う腹腔鏡下ハルトマン手術を施行した。腹腔内経路でストーマを造設した。術後,絞扼性腸閉塞を合併し緊急手術を行った。挙上結腸の外側から骨盤底に落ち込んだ小腸が,挙上結腸に締め付けられる形となって絞扼していた。腸閉塞解除術,小腸部分切除術を行った。術後は併存疾患の大動脈弁狭窄症が増悪したため術後32 日目に死亡した。ハルトマン手術や直腸切断術において腹腔鏡下にストーマを造設する際,腹腔内経路でのストーマ造設後に挙上結腸に起因した内ヘルニア(internal hernia associated with colostomy: IHAC)はまれに起こり得る合併症だが,絞扼性腸閉塞に至った報告例は少ない。ストーマ造設の際には,各症例に応じた造設経路の選択が肝要と考えられた。 -
食道平滑筋腫に対して胸腔鏡下腫瘍核出術を施行した1 例
50巻3号(2023);View Description Hide Description症例は39 歳,女性。健診の胸部X 線で縦隔に異常陰影を指摘された。精査目的に施行した胸部CT で,胸部中部食道から下部食道にかけて62×33 mm 大の腫瘤像を認めた。上部消化管内視鏡検査で,切歯列から27~37 cm の胸部中下部食道に左側半周性の弾性軟な粘膜下隆起した腫瘤を認めた。超音波内視鏡下穿刺吸引細胞診(EUS‒FNA)を施行し,免疫染色では筋系マーカーのSMA は陽性を示したが,CD34,c‒kit,S‒100 はいずれも陰性であり,食道平滑筋腫と診断した。このため,胸腔鏡補助下腫瘍核出術を施行した。術後免疫組織学的検査でSMA,Desmin は陽性を示し平滑筋腫と診断した。今回,食道平滑筋腫に対して胸腔鏡補助下腫瘍核出術の1 例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。 -
膵尾部癌によるSister Mary Joseph’s Nodule に対する局所緩和療法として外科的切除が有効であった1 例
50巻3号(2023);View Description Hide Description症例は70 歳,女性。下腹部痛を主訴に前医を受診し,膵尾部癌が疑われたため当院受診となり,膵尾部癌と診断した。脾臓への直接浸潤,肝両葉の多発転移,腹部大動脈周囲リンパ節転移を認めたため切除不能と判断し,化学療法を二次療法まで施行したが病状は進行した。そのため緩和的治療のみの終末期医療を行う方針となった。診断確定から12 か月後にSMJN を来した。体動時に腫瘍からの出血があったためADL が低下し,通院と訪問診療での止血処置を繰り返したが制御困難であり,重度の貧血に対して頻回の輸血が必要であった。そのため出血制御,症状緩和を目的にSMJN に対する摘出術を施行した。術後経過は良好で術後5 日目に退院となった。全身状態悪化のため術後59 日目に死亡したが,術後は出血や苦痛症状なく在宅での生活が可能であった。SMJN における摘出術は,外科的緩和治療として有用と考えられた。 -
噴門側胃切除ダブルトラクト再建術後のcStage Ⅳ残胃癌に対しConversion Surgery を行った1 例
50巻3号(2023);View Description Hide Description症例は70 歳台,男性。2013 年に早期胃癌に対し噴門側胃切除・ダブルトラクト再建術を受けていた。2021 年に傍大動脈リンパ節転移を伴う根治切除困難なcStage Ⅳ残胃癌を認めた。SOX 療法を5 コース行い著効が得られ,転移リンパ節の縮小を認めたため,根治切除可能と判断しconversion surgery を行った。挙上空腸が温存できたため再吻合を行うことなく,R0 切除が施行できた。S‒1 による術後補助療法を開始し術後6 か月,無再発生存中である。 -
集学的治療により長期生存が得られている同時性肝転移を有する進行胃癌の1 例
50巻3号(2023);View Description Hide Description同時性肝転移を有する進行胃癌に対し,集学的治療により長期生存が得られている1 例を経験したので報告する。症例は75 歳,男性。食欲低下を主訴に近医を受診し,胃癌の疑いで当院に紹介となった。上部消化管内視鏡検査では,胃角部大弯~後壁に2 型進行癌を認めた。CT では同部位の胃壁肥厚を認め,肝S2 に単発20 mm の腫瘤を認めた。生検病理では,高分化型腺癌(tub1,HER2 3+)であった。進行胃癌,cT4aN0M1HEP,Stage Ⅳと診断した。全身化学療法カペシタビン/シスプラチン/トラスツズマブ2 コース施行した後,腹腔鏡下幽門側胃切除,B‒Ⅰ再建,腹腔鏡下肝S2 部分切除を施行した。手術時間474 分,出血量は437 mL であった。病理学的には,tub1,ypT4aN0M1HEP,ypStage Ⅳであった。病理学的効果判定は,原発巣grade 1a,肝転移巣grade 1b であった。術後S‒1 8 コース施行後,術後13 か月で肝S1/2 に10 mm単発の再発を認めた。カペシタビン/オキサリプラチン/トラスツズマブ3 コース施行後,腹腔鏡下肝S1/2 部分切除を施行した。手術時間310 分,出血量は少量であった。病理学的効果判定は,腫瘍の遺残はなくgrade 3 であった。術後カペシタビン/オキサリプラチン/トラスツズマブ8 コース施行し,初診から4 年7 か月,最終肝切除から3 年経過し,現在無再発経過観察中である。 -
アブスコパル効果を示唆する腫瘍縮小を示した再発胃癌症例の検討
50巻3号(2023);View Description Hide Description癌治療において放射線治療は,局所での高い治療効果を示す治療法の一つとして知られている。さらに放射線照射はサイトカイン放出,樹状細胞での抗原提示,腫瘍特異的細胞傷害性T 細胞の増殖を促進するという報告がある。また,放射線の照射野のみならず非照射野でも腫瘍縮小が認められたという報告も散見され,アブスコパル効果として知られている。今回われわれは,再発胃癌症例において放射線照射によりアブスコパル効果と思われる腫瘍縮小を認めた1 例を経験した。症例は59 歳,男性。残胃癌に対し残胃全摘,膵体尾部切除術を施行された。術後3 か月目に局所再発と大動脈周囲リンパ節再発を認めた。化学療法が導入され,S1+シスプラチン+トラスツズマブ療法を開始した。腫瘍の増大を認めたため,二次治療としてパクリタキセル+ラムシルマブ,三次治療にニボルマブ,四次治療としてイリノテカンを使用したが,腫瘍は増大し門脈浸潤を併発した。そこで,局所へ50 Gy の放射線照射を併用したところ,局所の腫瘍縮小を認めた。さらに非照射野である大動脈周囲リンパ節も縮小を認めた。放射線治療と化学療法の併用により,アブスコパル効果と思われる抗腫瘍効果を認めた。癌治療において,アブスコパル効果の治療効果が示唆された。 -
FAP 術後のデスモイド腫瘍に対し腫瘍切除とDOX+DTIC 療法にて長期生存を得た1 例
50巻3号(2023);View Description Hide Description症例は22 歳,女性。家族性大腸腺腫症(FAP)の家族歴があり,18 歳時にFAP に対して予防的大腸全摘を施行している。発熱と腹部膨満感で受診し,右下腹部に圧痛を伴う腫瘤を触知した。腹部造影CT 検査で,右下腹部に辺縁に不均一な造影効果を伴う17 cm 大の腫瘍を認めた。腹腔内デスモイド腫瘍の診断で,腫瘍とともに十二指腸部分切除,小腸大量切除,右卵管切除を行い,空腸で人工肛門を造設した。デスモイド腫瘍切除後16 か月の腹部造影CT 検査で,腸間膜内に長径6.5 cm のデスモイド腫瘍再発を認めた。ドキソルビシン(DOX)+ダガルバジン(DTIC)療法を5 コース施行し,その後はNSAIDs の投与を継続している。術後7 年の現在,再発腫瘍の縮小を維持できており,現在も投薬を継続中である。今後はその他の随伴病変が出現する可能性もあり,長期的なサーベイランスが必要である。 -
Bevacizumab 投与中に急性下肢動脈閉塞症を発症した再発直腸癌の1 例
50巻3号(2023);View Description Hide Description症例は40 代,男性。直腸癌に対して腹腔鏡下低位前方切除術D3 郭清が施行された。最終病理結果は,Ra,55×50 mm,tub2,Type 2,pT3(SS),N0,P0,H0,M0,fStage Ⅱa であった。術後補助療法は行わず経過観察されていた。術後6 か月に,腫瘍マーカーの上昇およびMRI にて多発肝転移を認めた。FOLFOXIRI+bevacizumab を用いた化学療法を施行3 コース目に,下肢の痛みが出現し急性下肢動脈閉塞症と診断された。数時間で,末梢に血栓が移動することで血流が再開となり,薬物療法にて保存的加療となった。その後,DOAC を併用下でbevacizumab を除いた化学療法を再開し,腫瘍の縮小効果を得られたため肝転移巣の切除を行うことができた。 -
SEMS 留置1 年3 か月後に根治切除が可能であった閉塞性直腸癌の1 例
50巻3号(2023);View Description Hide Descriptionはじめに: SEMS 留置後のbridge to surgery は通常数週間以内に行われる。SEMS 留置の1 年3 か月後に切除を行った直腸癌の1 例を経験したため報告する。症例: 患者は89 歳,男性。他院でS 状結腸癌を指摘,手術を希望せず。3 年7 か月後に他院でSEMS を留置した。4 年10 か月後に当院で腸閉塞と診断,大腸内視鏡でSEMS は閉塞しておらず,弛緩性便秘も疑われた。原発巣を切除し,下行結腸で人工肛門を造設した。考察: 閉塞性大腸癌に対するbridge to surgery はSEMS留置後,数週間程度で行われる。自験例では長期間経過後に切除を行った。その間,閉塞や穿孔などの合併症を認めなかった。また,癌組織の圧排による脈管侵襲の増加などが危惧されるが,自験例では脈管侵襲軽度であり,遠隔転移や他臓器浸潤を認めなかった。結語: SEMS は長期留置が可能である場合もあり,癌の進行を必ずしも来さない。 -
大腸癌腹膜播種症例に対するCRS+HIPEC における術前予後予測因子の検討
50巻3号(2023);View Description Hide Description大腸癌腹膜播種は転移部位のなかで最も予後が悪く,全生存期間の平均は6 か月未満と報告されている。これらに対し,近年腫瘍減量手術(cytoreductive surgery: CRS)+腹腔内温熱化学療法(hyperthermic intraperitoneal chemotherapy:HIPEC)の有用性を示す報告が散見されるが,エビデンスは限定的である。今回われわれは,CRS+HIPEC を行った症例を後方視的に検討した。2014 年8 月~2017 年12 月に東京医科医大学病院および戸田中央総合病院にてCRS+HIPEC が施行された21 例を対象とした。長期生存群と短期生存群に分けて解析を行い,術前治療効果予測因子について検討した。手術方法はopen 16 例/Lap 5 例であった。これらのうち10 例に完全切除が得られた。術後90 日以内の死亡はなく,全生存期間の中央値は17.0 か月,1 年生存率は65% であった。無増悪生存期間は11.0 か月であった。長期生存群と短期生存群を予測する多変量解析において,性別,局在,P が独立した治療効果予測因子となった。CRS+HIPEC 療法は有効な治療選択肢の一つであると考えられた。